(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの多形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20240326BHJP
C07C 41/40 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C07C43/23 D CSP
C07C41/40
(21)【出願番号】P 2022210736
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2021047621の分割
【原出願日】2016-02-09
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】川口 絵理
(72)【発明者】
【氏名】西山 侑太郎
(72)【発明者】
【氏名】緒方 和幸
(72)【発明者】
【氏名】鞍谷 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256342(JP,A)
【文献】特開平10-045655(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143556(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/016357(WO,A1)
【文献】特開2015-098458(JP,A)
【文献】国際公開第2008/099765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体であって、
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=7.1±0.2°、14.3±0.2°、
15.1±0.2°、15.8±0.2°、17.0±0.2°、
20.1±0.2°、22.3±0.2°に回折ピークを有し、
前記回折角度2θ=22.3±0.2°でのピーク強度I
7を「100」としたとき、前記回折角度2θ=7.1±0.2°でのピーク強度I
1が22~52であ
り、
溶媒の含有量が0.2重量%以下である、結晶多形体。
【請求項2】
融点が145±2℃である、請求項1記載の結晶多形体。
【請求項3】
窒素ガス雰囲気下、280℃で2時間保持した色相(APHA)が、40~125である、請求項1又は2記載の結晶多形体。
【請求項4】
回折角度2θ=22.3±0.2°でのピーク強度I
7が最も大きく、
前記回折角度2θ=22.3±0.2°でのピーク強度I
7を「100」としたとき、前記回折角度2θ=14.3±0.2°でのピーク強度I
2が8~35であり、前記回折角度2θ=15.8±0.2°でのピーク強度I
4が21~50である、請求項1~
3のいずれかに記載の結晶多形体。
【請求項5】
純度が99%以上である請求項1~
4のいずれかに記載の結晶多形体。
【請求項6】
樹脂原料又は樹脂硬化剤である請求項1~
5のいずれかに記載の結晶多形体。
【請求項7】
結晶多形体の溶融温度又は融点以上の温度で調製される樹脂の原料である請求項
6記載の結晶多形体。
【請求項8】
水溶性ケトン及び水溶性アルコールの混合溶媒から9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを晶析させて、請求項1~
7のいずれかに記載の結晶多形体を製造する方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の結晶多形体の溶融冷却物である9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの非晶質体であって、
粉末X線回折パターンにおいて、非晶質に特有のハローピークを示し、
融点を示さず、
窒素ガス雰囲気下、280℃で2時間保持した色相(APHA)が、70~200である、非晶質体。
【請求項10】
樹脂原料又は樹脂硬化剤である請求項
9記載の非晶質体。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の結晶多形体を溶融して冷却し、請求項
9又は
10記載の非晶質体を製造する方法。
【請求項12】
請求項
6若しくは
7記載の結晶多形体、及び/又は、請求項
10記載の非晶質体を樹脂原料とする樹脂。
【請求項13】
請求項
6若しくは
7記載の結晶多形体、及び/又は、請求項
10記載の非晶質体を樹脂原料として用い、樹脂を製造する方法。
【請求項14】
結晶多形体又は非晶質体の溶融温度又は融点以上の温度で樹脂を製造する請求項
13記載の製造方法。
【請求項15】
請求項
6若しくは
7記載の結晶多形体、及び/又は、請求項
10記載の非晶質体を樹脂原料として用い、得られる樹脂の着色を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性などに優れた9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3
-フェニルフェニル]フルオレンの新規な多形体(結晶多形及び非晶質多形)及びその製
造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などのフルオレン骨格を有する化合
物は、高屈折率、高耐熱性などの優れた特性を有していることが知られている。例えば、
特開2009-256342号公報(特許文献1)には、9,9-ビス[4-(2-ヒド
ロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(以下、単にフルオレン化合物と
いう場合がある)が開示され、キシレンを溶媒とし、β-メルカプトプロピオン酸及び硫
酸の存在下、9-フルオレノンと、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エ
ーテルとを反応させ、反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液で中和して蒸留水で洗浄し、
冷却することにより結晶を析出させ、濾過して乾燥し、乾燥した結晶を得たこと、アセト
ンに10重量%の濃度で結晶を溶解した溶液の色相(APHA)が26であり、極めて着
色が少ないことが記載されている。また、キシレンに代えてトルエンを用いても着色の少
ない結晶が得られたこと、中和した後、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを添加し
、水相のpHが7になるまで水で洗浄した後、冷却しても、着色の少ない結晶が得られた
ことが記載されている。
【0003】
これらのフルオレン化合物の結晶は、比較的着色が小さく、樹脂の添加剤、樹脂の原料
などとして利用でき、ビフェニル単位を有するため、樹脂の耐熱性及び屈折率を向上させ
るのに有用である。
【0004】
しかし、前記フルオレン化合物の結晶は、初期の着色は少ないものの、保存安定性が低
く、長期間にわたり保存すると着色が大きくなる。特に熱安定性が低く、加熱下で保存す
ると著しく着色する。そのため、前記フルオレン化合物の結晶が溶融する条件下(又は融
点以上の温度)で、(メタ)アクリル酸でエステル化した(メタ)アクリレートを調製し
たり、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂などを調製すると、熱安
定性が低いためか、着色した樹脂が生成する。従って、前記フルオレン化合物の用途が大
きく制限される。
【0005】
さらに、前記フルオレン化合物の純度を高めることも要望されているとともに、前記フ
ルオレン化合物が溶媒との包接化合物を形成するためか、1~6重量%程度の溶媒を含有
しており、減圧乾燥しても溶媒を除去することが困難である。そのため、安全性、残存溶
媒の観点からも用途が制約される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-256342号公報(特許請求の範囲、実施例1~4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、保存安定性の高い9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエト
キシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの新規な多形体(結晶多形体、非晶質多形体
)及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、純度が高く、溶媒の残存量が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒ
ドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの新規な多形体及びその製造方
法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、熱安定性が高く、加熱下で保存しても、着色を著しく抑制
できる9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオ
レンの新規な多形体及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、溶融温度又は融点以上の温度であっても、着色を有効に抑制でき
る9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン
の新規な多形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビス[4-(2-
ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(フルオレン化合物)には結
晶多形体が存在し、特定の晶析溶媒から前記フルオレン化合物を晶析すると、熱安定性が
高く、加熱下(例えば、融点以上の温度)であっても着色を有効に防止でき、しかも純度
が高く、残存溶媒量の少ない結晶形態の多形体Aが得られること、この多形体Aを溶融し
て冷却すると、非晶質形態の多形体Bが生成することを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニル
フェニル]フルオレン(フルオレン化合物又はBOPPEFという場合がある)の結晶形
態の多形体(以下、単に多形体Aという場合がある)と、非晶質の多形体(以下、単に多
形体Bという場合がある)とを包含する。結晶多形体Aは、前記フルオレン化合物の結晶
多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=7.1±0.2°、1
4.3±0.2°、17.0±0.2°、22.3±0.2°に回折ピークを有している
。これらの回折ピーク強度は特に制限されないが、回折角度2θ=7.1±0.2°での
ピーク強度をI1、14.3±0.2°でのピーク強度をI2、17.0±0.2°での
ピーク強度をI5、22.3±0.2°でのピーク強度をI7としたとき、これらのピー
ク強度の中で、通常、ピーク強度I7又はI1が最も大きく、ピーク強度I5及びI2が
小さい。これらのピーク強度の中で、回折角度2θ=14.3±0.2°でのピーク強度
I2が最も小さくてもよい。
【0013】
結晶多形体Aは、さらに、回折角度2θ=15.1±0.2°、15.8±0.2°、
20.1±0.2°から選択された少なくとも1つの回折角2θにピークを有していても
よい。結晶多形体Aの融点は、145±2℃であってもよい。結晶多形体Aの結晶形態は
特に制限されず、例えば、針状晶であってもよい。さらに、結晶多形体Aの純度は99%
以上であってもよく、結晶多形体Aは、溶媒との包接化合物を形成しないためか、溶媒の
含有量(残存溶媒量)が極めて少なく、例えば、0.2重量%以下であってもよい。
【0014】
このような結晶多形体Aは、例えば、水溶性ケトン及び水溶性アルコールの混合溶媒か
ら9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン
を晶析させることにより調製できる。
【0015】
結晶多形体Aは、保存安定性、特に熱安定性が高く、200℃以上の溶融温度に加熱し
ても着色を著しく抑制でき、純度の低下がなく、残存溶媒の含有量も極めて少ない。
【0016】
本発明は9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フ
ルオレンの非晶質の多形体Bも包含する。この多形体Bは、粉末X線回折パターンにおい
て、非晶質に特有のハローピークを示し、融点を示さない。このような非晶質の多形体B
は、前記結晶多形体Aを溶融して冷却することにより調製できる。
【0017】
非晶質の多形体Bも、結晶多形体Aと同様に純度が高く残存溶媒の含有量が極めて少な
い。さらに、溶解性が高く、溶媒を用いる反応系での仕込みを円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の結晶多形体Aは、保存安定性、特に熱安定性(例えば、高温での保存安定性)
が高く、加熱下で保存しても、着色を著しく抑制できる。例えば、溶融温度又は融点以上
の温度であっても、着色を有効に抑制できる。そのため、長期間にわたり保存しても、純
度が低下することもない。さらに、結晶多形体A及び非晶質多形体Bは、いずれも、純度
が高く、溶媒の残存量が少ない。従って、結晶多形体A及び非晶質多形体Bは、安全性も
高く、工業製品、有機化合物、樹脂の原料、樹脂の硬化剤などとして広い範囲に使用でき
る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は比較例1で得られた結晶Cの顕微鏡写真(倍率250倍)である。
【
図2】
図2は比較例1で得られた結晶Cの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は比較例2で得られた結晶Dの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図4】
図4は実施例1で得られた結晶多形体Aの顕微鏡写真(倍率250倍)である。
【
図5】
図5は実施例1で得られた結晶多形体Aの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図6】
図6は実施例2で得られた結晶多形体Aの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図7】
図7は実施例3で得られた多形体Bの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[多形体]
本発明の結晶形態の多形体Aは、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3
-フェニルフェニル]フルオレン(BOPPEF)の結晶多形体であって、粉末X線回折
パターン(XRD)において、回折角度2θ=7.1±0.2°、14.3±0.2°、
17.0±0.2°、22.3±0.2°に特徴的な回折ピークを有する。
【0021】
また、回折角度2θ=7.1±0.2°、22.3±0.2°でのピーク強度よりもピ
ーク強度が小さいものの、結晶多形体Aは、さらに、回折角度2θ=15.1±0.2°
、15.8±0.2°、20.1±0.2°から選択された少なくとも1つの回折角2θ
にピークを示す場合が多い。
【0022】
回折角度2θ=7.1±0.2°での強度をI1、14.3±0.2°での強度をI2
、17.0±0.2°での強度をI5、22.3±0.2°での強度をI7としたとき、
通常、I7又はI1のピーク強度が最も大きく、I5及びI2は小さく、I5及びI2の
強度は、I2≦I5の順序である場合が多い(すなわち、これらのピーク強度のうちI2
が最も低い場合が多い)。また、結晶多形体Aの純度が高くなると、強度I7に対して相
対的に強度I1のピーク強度が大きくなる傾向にあるようである。そのため、ピーク強度
I1とピーク強度I7とは、互いに同等の強度を有していてもよく、一方のピーク強度が
他方のピーク強度よりも大きくてもよく小さくてもよい。
【0023】
さらに、回折角度2θ=15.1±0.2°での強度をI
3、15.8±0.2°での
強度をI
4、20.1±0.2°での強度をI
6とし、回折角度2θ=22.3±0.2
°でのピーク強度(ピーク高さ)及び積分強度を「100」としたとき、各ピーク強度(
ピーク高さ)及び積分強度は、下表1に示すことができ、
図5及び
図6の粉末X線回折パ
ターンを有していてもよい。なお、晶析操作を繰り返すと(又は純度を高めると)、I
1
、I
2、I
4でのピーク強度(ピーク高さ)及び積分強度が増大するようである。そのた
め、結晶多形体Aは、純度を余り考慮せずに1回の晶析操作で得られた一次結晶(例えば
、純度98~99.5%程度の結晶多形体A)と、晶析と晶析操作を2回以上繰り返して
得られた高純度の二次結晶(例えば、純度99.3~100%程度の結晶多形体A)では
、粉末X線回折パターン(XRD)において、ピーク位置(回折角度位置)は変わらない
ものの、ピーク強度(ピーク高さ)及び積分強度が変化する場合がある。一次結晶と二次
結晶のピーク強度(ピーク高さ)及び積分強度を、参考までに、下表1に示す(なお、上
段は一次結晶、中段は二次結晶、下段は一次結晶及び二次結晶全体のピーク強度(ピーク
高さ)及び積分強度を示す)。
【0024】
【0025】
上記粉末X線回折パターンは、慣用の粉末X線回折装置を用いて測定できる。なお、ピ
ークを示す回折角2θは、測定条件などに応じて、±0.2°(例えば、±0.1°)程
度変化する場合がある。
【0026】
本発明の結晶多形体Aは純度も高く、例えば、97%以上(例えば、98~99.99
%)、好ましくは98%以上(例えば、98.5~99.95%)、さらに好ましくは9
9%以上(例えば、99~99.9%)程度であってもよく、結晶多形体Aの純度は、9
9~100%(例えば、99.3~99.9%、好ましくは99.5~99.8%)程度
であってもよい。なお、純度はHPLC分析により算出できる。
【0027】
前記結晶多形体Aの融点は、示差走査熱量計(DSC)で測定したとき、例えば、14
5±2℃、好ましくは145±1℃、さらに好ましくは145±0.5℃程度であっても
よい。融点は、示差走査熱分析(DSC)での吸熱ピーク(又は融点)に基づいて測定で
きる。
【0028】
前記結晶多形体Aの結晶形態は、
図4に示すように、針状晶であってもよい。
【0029】
このような結晶多形体Aは溶媒の含有量(残存量)が少なく、残存溶媒量は、例えば、
0.2重量%以下、好ましくは0.15重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下
であってもよい。
【0030】
本発明の結晶多形体Aは、高温下で保存しても着色を有効に抑制でき、例えば、実施例
に記載のように、窒素ガス雰囲気下、280℃で2時間保持しても、色相(APHA)は
、例えば、50~150(例えば、75~125)程度であってもよい。
【0031】
なお、前記特許文献1の方法で得られた結晶(以下、単に結晶Cという場合がある)は
、
図2及び
図3に示すように、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=7.6±
0.2°、10.9±0.2°、15.6±0.2°、16.4±0.2°、18.7±
0.2°、19.0±0.2°、20.5±0.2°に特徴的なピークを示す。また、2
θ=7.6±0.2°及び20.5±0.2°に大きなピークを示し、次いで2θ=15
.6±0.2°、19.0±0.2°に大きなピークを示す。
【0032】
前記結晶多形体Aは、水溶性ケトン及び水溶性アルコールの混合溶媒(晶析溶媒)から
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(
フルオレン化合物)を晶析させることにより調製できる。前記混合溶媒の水溶性ケトンと
しては、アセトンなどが例示でき、水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール
、プロパノール、イソプロパノールなどが例示できる。好ましい水溶性アルコールは、メ
タノール及びエタノールであり、通常、メタノールを使用する場合が多い。
【0033】
水溶性ケトン(アセトンなど)と水溶性アルコール(メタノールなど)との重量割合は
、例えば、前者/後者=90/10~10/90(例えば、80/20~20/80)、
好ましくは70/30~30/70(例えば、60/40~30/70)程度であっても
よく、50/50~30/70(例えば、45/55~35/65)程度であってもよい
。なお、良溶媒の水溶性ケトン(アセトンなど)と貧溶媒の水溶性アルコール(メタノー
ルなど)との割合を調整することにより、高い収率で高品質の結晶多形体Aを得ることが
できる。
【0034】
晶析溶媒の割合(又は使用量)は、特に限定されず、フルオレン化合物BOPPEF(
固形分換算)1重量部に対して、0.1~20重量部、好ましくは0.5~15重量部、
さらに好ましくは1~10重量部(例えば、3~8重量部)程度であってもよい。
【0035】
前記結晶多形体Aは、前記晶析溶媒に前記フルオレン化合物(BOPPEF)を過飽和
状態に溶解し、冷却することにより析出させることができる。通常、前記フルオレン化合
物を前記晶析溶媒に、加熱して溶解し、室温に冷却することにより結晶多形体Aを析出又
は晶析させることができる。前記フルオレン化合物(BOPPEF)を前記晶析溶媒に溶
解する温度は、溶媒の沸点未満の温度、例えば、50~100℃、好ましくは55~80
℃程度であってもよい。冷却温度は特に制限されず、到達冷却温度は、例えば、-10℃
~30℃、好ましくは1~20℃(例えば、5~15℃)程度であってもよい。なお、急
冷してもよいが、通常、放冷又は徐冷する場合が多い。
【0036】
さらに、結晶形態(例えば、従来の方法で調製された結晶C)であるか非晶質形態であ
るかを問わず、単離されたフルオレン化合物を前記晶析溶媒に溶解して晶析してもよく、
前記フルオレン化合物(BOPPEF)の合成反応において、反応終了後、反応混合物の
溶媒を前記晶析溶媒に置換して結晶多形体Aを晶析してもよく、例えば、反応混合物から
溶媒を除去し、残渣を前記晶析溶媒に溶解して結晶多形体Aを晶析してもよい。
【0037】
なお、晶析操作において、必要であれば、種晶を添加してもよく、晶析操作は、一回の
み行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。特に、晶析操作を複数回(例えば、2
回)繰り返すと、高純度の結晶多形体Aを生成できる。さらに、晶析操作を繰り返すこと
により、ピーク強度が変動し、特に、I1、I2、I4でのピーク強度(ピーク高さ)及
び積分強度が大きく増大するようである。このような高純度の結晶多形体Aは、従来の方
法で調製された結晶C、本発明の方法で調製された前記多形体A、非晶質の多形体Bなど
の一次精製物をさらに晶析することにより調製してもよい。
【0038】
生成した結晶は、通常、濾過、遠心分離などの分離手段により濾別し、乾燥することに
より、残存溶媒の少ない結晶多形体Aを得ることができる。
【0039】
本発明の非晶質の多形体Bは、粉末X線回折パターンにおいて、非晶質に特有のハロー
ピークを示し、融点を示さない。このような非晶質の多形体Bも、結晶多形体Aと同様に
保存安定性、特に熱安定性が高く、高温で保存しても、着色するのを抑制できる。さらに
、多形体Bも残存溶媒の含有量が少ない。さらには、非晶質の形態を有しているため、溶
媒に対する溶解性が高い。そのため、溶媒を用いる溶液反応系に迅速に溶解でき、原料の
仕込みを円滑に行うことができる。
【0040】
このような多形体Bは、下記のように、溶融工程を経て製造しても、多形体Aと同様に
、純度が高く、例えば、97%以上(例えば、98~99.99%)、好ましくは98%
以上(例えば、98.5~99.95%)、さらに好ましくは99%以上(例えば、99
~99.9%)程度であってもよい。
【0041】
多形体Bは、多形体Aと同様に、溶媒の含有量(残存量)が少なく、残存溶媒量は、例
えば、0.2重量%以下、好ましくは0.15重量%以下、さらに好ましくは0.1重量
%以下であってもよい。
【0042】
本発明の多形体Bは、多形体Aと同様に、高温下で保存しても着色を有効に抑制でき、
例えば、実施例に記載のように、窒素ガス雰囲気下、280℃で2時間保持しても、色相
(APHA)は、例えば、70~200(例えば、80~170)、好ましくは100~
150(例えば、105~130)程度であってもよい。
【0043】
このような非晶質の多形体Bは、前記結晶多形体Aを溶融して冷却することにより調製
できる。例えば、結晶多形体Aを融点以上の温度(例えば、150~200℃程度)に加
熱して溶融し、冷却(急冷、放冷、徐冷)することにより調製できる。生成した塊状体は
、必要により、粉砕・分級などにより所定のサイズの粉粒体としてもよい。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に
よって限定されるものではない。なお、実施例、比較例及び参考例における各評価方法は
以下の通りである。
【0045】
(多形体試料の形態)
顕微鏡(倍率250倍)で試料の形態を観察した。
【0046】
(X線回折(XRD))
粉末X線回折装置(「全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab」、リガク(株)製
)を用いて、出力3kW、線源(Cu管球)、測定角5~70°の条件で測定した。
【0047】
(融点)
示差走査熱量計(「EXSTAR DSC6200」、エスアイアイ・ナノテクノロジ
ー(株)製)を用い、窒素雰囲気下、測定温度30~300℃、昇温速度10℃/分の条
件で測定した。
【0048】
(色相APHA)
試料20gを試験管に入れ、窒素雰囲気下280℃に加熱して2時間保持したサンプル
(加温状態)について、JIS K0071に準拠して、色差濁度計(「COH-300
A」、日本電色(株)製)を用いて試料の色相を測定した。
【0049】
(残存溶媒量)
試料を120℃で一晩減圧乾燥後、テトラヒドロフランに溶解し、ガスクロマトグラフ
ィGC装置((株)島津製作所製「GC-2014」、カラム:CBP-1、検出器:F
ID)を用い、測定温度範囲50~290℃の条件で残存溶媒量を測定した。
【0050】
(純度)
高性能液体クロマトグラフィHPLC装置((株)島津製作所製「LC-2010A HT」、カ
ラム(東ソー(株)製「TSKgel ODS-80TM」))を用い、下記の条件で測定した。
【0051】
検出方法:UV、検出波長254nm
カラム温度:室温
溶離液(容量比):アセトニトリル/0.1重量%リン酸水溶液=55/45→95
/5(グラディエント)
流量:1.0ml/分
定量法:面積百分率法。
【0052】
比較例1
1000mLのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン36重量部(0.2モル、大
阪ガスケミカル(株)製)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル
128.6重量部(0.6モル、明成化学(株)製)、3-メルカプトプロピオン酸1重
量部および溶媒としてキシレン104重量部を投入し、60℃まで加温して完全に溶解さ
せた。その後、42重量部の硫酸を徐々に添加し、60℃で維持して6時間攪拌した。得
られた反応混合液に、48%水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した後、蒸留水にて
数回洗浄した。洗浄後、冷却することで結晶を析出させた。さらに、ろ過して120℃で
乾燥させたところ、103重量部(収率87%)の結晶C(白色)が得られた。得られた
結晶Cの1H-NMRを測定した結果、目的とする9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシ
エトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンであることを確認した。
【0053】
得られた結晶Cは、
図1に示すように、板状結晶であった。得られた結晶Cの粉末X線
回折パターンを
図2に示す。
【0054】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps]を示す):回折角度2θ=7.60°(245
5)、10.88°(999)、8.22°(1251)、10.88°(999)、1
5.61°(2654)、16.32°(2148)、17.15°(2639)、18
.72°(2564)、18.92°(2397)、20.51°(4027)、20.
92°(1233)、21.44°(1166)、23.62°(1694)
【0055】
得られた結晶Cの融点は155℃、純度は、95.1%であり、加熱溶融後の試料(黄
色)の色相(APHA)は500以上であり、残存する溶媒キシレンの量は1.1重量%
であった。
【0056】
比較例2
比較例1において、キシレンに代えてトルエンを用いる以外、比較例1と同様にして、
110重量部(収率93%)の結晶D(白色)が得られた。得られた結晶Dの粉末X線回
折パターンを
図3に示す。
【0057】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps]を示す):回折角度2θ=7.66°(443
6)、10.88°(1176)、8.24°(1002)、10.88°(1176)
、15.61°(2954)、16.37°(2197)、17.24°(2259)、
18.73°(1922)、19.03°(2437)、20.55°(4463)、2
0.88°(1192)、21.47°(958)、23.66°(1450)
【0058】
得られた結晶Dの融点は148℃、純度は98.3%であり、加熱溶融後の試料(黄色
)の色相(APHA)は500以上であり、残存する溶媒トルエンの量は5.5重量%で
あった。
【0059】
実施例1
比較例2において、反応混合液を、48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、蒸留水で
洗浄した後、トルエンを減圧留去し、残渣を600重量部の混合溶媒(アセトン/メタノ
ール=40/60(重量比))に60℃で加熱して溶解して、冷却することにより結晶を
析出させ、生成した結晶をろ過し、120℃にて乾燥させたところ、97重量部(収率8
2%)の結晶(白色の結晶多形体A)が得られた。得られた結晶は、
図4に示すように、
針状結晶であった。
【0060】
【0061】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps];積分強度[cps・deg]を示す):2θ
=7.14°(1247;372)、14.28°(685;337)、15.11°(
1140;515)、15.81°(1182;370)、17.04°(2296;9
17)、20.12°(465;148)、22.27°(3315;1539)
【0062】
得られた結晶の融点は145℃、純度は99.4%であり、加熱溶融後の試料(無色透
明)の色相(APHA)は100であり、残存する溶媒量は、0.1重量%以下であった
。
【0063】
実施例2
比較例2で得られた結晶100重量部を、実施例1で用いたアセトン/メタノール混合
溶媒600重量部に60℃で加熱して溶解して、冷却することにより結晶を析出させる以
外、実施例1と同様にして、結晶(白色の結晶多形体A)を得た。
【0064】
得られた結晶も
図4に示すのと同様に、針状結晶であった。得られた結晶の粉末X線回
折パターンを
図6に示す。
【0065】
得られた結晶の融点は146℃、純度は99.7%であり、加熱溶融後の試料(無色透
明)の色相(APHA)は40であり、残存する溶媒量は、0.1重量%以下であった。
【0066】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps];積分強度[cps・deg]を示す):2θ
=7.17°(5104;1421)、14.31°(3163;1056)、15.1
6°(1778;509)、15.85°(3107;996)、17.11°(320
4;1240)、20.13°(987;266)、22.30°(3714;1594
)
【0067】
参考例
比較例1と同様にして得られた結晶を、1000mLの三口フラスコに入れ、減圧下1
60℃に加熱し、溶融したところ、塊状体(淡黄色)が得られた。
【0068】
得られた固体試料は融点を示さなかった。固体試料の純度は97.7%であり、加熱溶
融後の試料(黄色)の色相(APHA)は500以上であり、残存する溶媒の量は0.1
重量%以下であった。
【0069】
実施例3
実施例1と同様にして得られた結晶を、1000mLの三口フラスコに入れ、減圧下1
60℃に加熱し、溶融したところ、塊状体(無色)が得られた。得られた塊状体の粉末X
線回折パターンを
図7に示す。
図7から明らかなように、非晶質に特有のハローピークが
回折角度2θ=19~23°で認められ、試料は融点を示さなかった。
【0070】
得られた固体の純度は99.4%であり、加熱溶融後の試料(無色透明)の色相(AP
HA)は117であり、残存溶媒量は0.1%重量以下であった。
【0071】
実施例及び比較例で得られた多形体の特性を表2に示す。なお、表中、CH3COCH3はアセ
トン、MeOHはメタノールを示し、1回は1回晶析、2回は2回晶析を示す。なお、前記の
ように、2回晶析は、溶媒としてトルエンを用いて晶析したあと、生成した結晶(比較例
2の結晶D)を、さらにアセトン/メタノール混合溶媒から結晶化させたものである。
【0072】
【0073】
表2から明らかなように、実施例1の結晶多形体A及び実施例3の非晶質多形体Bは、
比較例1の結晶C及び比較例2の結晶Dに比較して、熱安定性が高く、溶融状態としても
、着色が著しく小さい。しかも、純度が高く、残存溶媒量が少ない。特に、晶析操作を繰
り返して精製すると、着色のない高純度の結晶が生成する。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の多形体は、保存安定性及び熱安定性だけでなく、純度も高く、残存する溶媒量
も少ない。そのため、工業製品、有機合成、樹脂合成の原料などとして好適に使用できる
。また、本発明の多形体は、ビス(ヒドロキシビフェニル)フルオレン骨格を有するため
、種々の特性(光学特性、耐熱性、耐水性、耐湿性、耐薬品性、電気特性、機械特性、寸
法安定性など)に優れている。そのため、本発明の多形体は、樹脂原料や樹脂硬化剤など
として好適に用いることができる。特に、本発明の多形体を、熱硬化性樹脂[エポキシ樹
脂(又はその硬化剤)や、アクリル系樹脂(多官能性(メタ)アクリレートなど)など]
に適用すると、高耐熱性、高架橋性、高屈折率、高透明性、低線膨張率などの優れた特性
を効率よく付与できる。前記エポキシ樹脂は、上記のような特性が要求される用途、例え
ば、半導体封止剤、電装基板などとして好適である。また、前記アクリル系樹脂は、光学
材料用途、例えば、光学用オーバーコート剤、ハードコート剤、反射防止膜、眼鏡レンズ
、光ファイバー、光導波路、ホログラムなどに有用である。