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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】農業機械用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 145/14 20060101AFI20240326BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240326BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240326BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C10M145/14
C10N30:02
C10N30:00 Z
C10N20:04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022514902
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016442
(87)【国際公開番号】W WO2021210068
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】浅見 直紀
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-172165(JP,A)
【文献】特開2018-177986(JP,A)
【文献】特開2009-096925(JP,A)
【文献】特開2006-117851(JP,A)
【文献】特開2014-177605(JP,A)
【文献】特開2008-179662(JP,A)
【文献】特表2010-540717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物油系基油及び合成油系基油からなる群より選択される少なくとも1種の基油と、
重量平均分子量が20,000~80,000であるポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤と、を含有し、
前記ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤の含有量が、組成物全量に対して、10質量%~18質量%であり、
100℃における動粘度が8.00mm/s~10.00mm/sであり、
40℃における動粘度が40.0mm /s~50.0mm /sであり、
超音波せん断安定性試験による100℃における動粘度低下率が10.0%以下であり、
-40℃におけるBrookfield粘度が20,000mPa・s以下である、
農業機械用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤が、下記の式(Ia)で表される構成単位及び下記式(Ib)で表される構成単位を有するポリアルキルメタクリレートである、請求項1に記載の農業機械用潤滑油組成物。
【化1】



(式(Ia)及び(Ib)中、Rは水素原子又は炭素数1~24のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアミノ基で置換された炭素数1~24のアルキル基を表し、m及びnは各々独立に1以上の整数である。)
【請求項3】
粘度指数が180以上である、請求項1又は請求項に記載の農業機械用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、農業機械用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
農業機械には、整地用作業機としてのトラクター、育成管理用作業機としての田植え機、収穫用作業機としてのバインダー又はコンバイン等があり、トラクターは最も広く用いられている。
【0003】
農業機械は、潤滑油組成物が適用される金属同士の接触箇所が多い。例えば、トラクターは、油圧ポンプ部、変速装置部、パワー・テイク・オフ(PTO)クラッチ部、差動歯車装置部、湿式ブレーキ部等の金属同士の接触箇所を多く備えている。しかし、これらの多様な接触箇所に対して、1種類の潤滑油組成物が使用されている場合が多い。このため、農業機械用の潤滑油組成物には、摩擦特性、耐摩耗性、酸化安定性、さび止め性、有機材料適合性等の多機能な役割が要求されている。
【0004】
このような農業機械用途に要求される性能を確保し、さらに性能を高める為に、現在のところ、選定された基油に所望とする性能に応じた種々の添加剤を配合してなる潤滑油組成物が供給されている。例えば、特開平3-20396号公報には、基油に過塩基性スルホネートとエトキシリン酸エステルを所定量含有させた潤滑油組成物が開示されている。
また、ブレーキ能力とクラッチ能力とを改善する方法に用いられる機能液として、特開2004-59930号公報には、特定のポリアルキレンスルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を添加した機能液が開示されている。
【0005】
農業機械は冬季の寒冷地においても使用されることから、低温条件下での使用にも着目した潤滑油組成物として、粘度指数を高め、低温下の粘性抵抗を軽減し、低温始動性を向上させる技術が開示されている。
例えば、国際公開第2007/001000号、特開2008-308697号公報、特開2006-274209号公報、及び特開2015-172165号公報には、所定の構成を有する基油に、ポリ(メタ)アクリレート系添加剤等の添加剤を含有させることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、トラクター等の農業機械の高出力化に伴い、ギヤ部等における負荷が増している。このため、このような農業機械に適用する潤滑油組成物には、極圧性に加えて、高いせん断安定性を有することが望まれている。
【0007】
潤滑油組成物において、低温下での粘性抵抗を軽減させる方策の一つとして、従来、重量平均分子量の高いポリ(メタ)アクリレート系添加剤が用いられている。しかし、重量平均分子量の高いポリ(メタ)アクリレート系添加剤を含有させた潤滑油組成物は、せん断安定性に欠けており、実機での使用においては、ギヤによるせん断を受けた際に生じる粘度低下の増加、及び、低温下での粘性抵抗の増加が懸念される。そのため、適用箇所が多種多様であり、かつ、寒冷地などでの使用も要求される農業機械用潤滑油組成物においては、更なる改良が求められているのが実情である。
【0008】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、低温下(例えば、-40℃~0℃)での粘性抵抗が軽減でき、かつ、せん断安定性に優れた農業機械用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の農業機械用潤滑油組成物は、以下の実施態様を含む。
<1> 鉱物油系基油及び合成油系基油からなる群より選択される少なくとも1種の基油と、重量平均分子量が20,000~80,000であるポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤と、を含有し、100℃における動粘度が8.00mm/s~10.00mm/sであり、超音波せん断安定性試験による100℃における動粘度低下率が10.0%以下であり、-40℃におけるBrookfield粘度が20,000mPa・s以下である、農業機械用潤滑油組成物。
【0010】
<2> ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤の含有量が、組成物全量に対して、10質量%~18質量%である、<1>に記載の農業機械用潤滑油組成物。
【0011】
<3> ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤が、下記の式(Ia)で表される構成単位及び下記式(Ib)で表される構成単位を有するポリアルキルメタクリレートである、<1>又は<2>に記載の農業機械用潤滑油組成物。
【0012】
【化1】
【0013】
式(Ia)及び(Ib)中、Rは水素原子又は炭素数1~24のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアミノ基で置換された炭素数1~24のアルキル基を表し、m及びnは各々独立に1以上の整数である。
【0014】
<4> 粘度指数が180以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の農業機械用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、低温下(例えば-40℃~0℃)での粘性抵抗が軽減され、かつ、せん断安定性に優れた農業機械用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本開示に係るに農業機械用潤滑油組成物について詳細に説明する。以下に記載する説明は、代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示に係る農業機械用潤滑油組成物は、そのような実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0018】
本開示において「ポリアルキルメタクリレート系」とは、メタクリル酸のアルキルエステルに由来する構成単位を含むことを意味する。
【0019】
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
本開示において、「JPI」は、日本石油学会(Japan Petroleum Institute)が制定した規格の略称として用いる。
【0020】
本発明者らは、特定の基油に、特定の重量平均分子量を有するポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤を特定の割合で含有させ、かつ、100℃における動粘度、100℃における動粘度低下率、及び、-40℃におけるBF粘度を、所定の範囲とすることにより、低温下での粘性抵抗が軽減でき、かつ、せん断安定性に優れた農業機械用潤滑油組成物が提供されることを見出した。
【0021】
すなわち、本開示の農業機械用潤滑油組成物は、鉱物油系基油及び合成油系基油からなる群より選択される少なくとも1種の基油と、重量平均分子量が20,000~80,000であるポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤と、を含有し、100℃における動粘度が8.00mm/s~10.00mm/sであり、超音波せん断安定性試験による100℃における動粘度低下率が10.0%以下であり、-40℃におけるBrookfield粘度(以下、「BF粘度」と称する。)が20,000mPa・s以下である、農業機械用潤滑油組成物である。
【0022】
本開示の農業機械用潤滑油組成物が、低温下での粘性抵抗が軽減でき、かつ、せん断安定性に優れることの理由は、以下のように推察される。
すなわち、本開示の農業機械用潤滑油組成物においては、基油として、各種の添加剤成分との相溶性が良好な鉱物油系基油及び合成油系基油からなる群より選択される少なくとも1種を選択し、当該基油に対して、せん断安定性に優れかつ比較的低分子量である特定のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤を含有させている。これにより、特定のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤に起因する所望とするせん断安定性が得られながらも、当該ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤が、相溶性が良好な上記基油中に均一に混合されることで、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤自体による低温下での流動性低下が抑制されるためと推察している。
【0023】
以下、本開示に係る農業機械用潤滑油組成物(適宜「潤滑油組成物」とも称する。)について詳細に説明する。
【0024】
<基油>
本開示に係る潤滑油組成物は、鉱物油系基油及び合成油系基油からなる群から選択される少なくとも1種の基油(以下、「特定基油」とも称する)を含有する。
本開示に係る潤滑油組成物においては、添加剤溶解性の観点から、特定基油の少なくとも1種を含有する。
【0025】
本開示に係る潤滑油組成物は、特定基油として、鉱物油系基油又は合成油系基油から選択された1種を単独で含有してもよく、鉱物油系基油及び合成油系基油から選択された2種以上を組み合わせた混合油を含有してもよい。
【0026】
特定基油は、鉱物油系基油及び合成油系基油のいずれかに包含されるものであれば特に制限はなく、様々な製造方法により得られた鉱物油系基油及び合成油系基油から選択することができる。添加剤溶解性の観点から、特定基油は、鉱物油系基油から選択した1種又は2種以上であることが好ましい。
【0027】
鉱物油系基油としては、様々な製造法により得られたものが挙げられる。
例えば、水素化精製油、触媒異性化油等に溶剤脱蝋又は水素化脱蝋等の処理を施して高度に精製されたパラフィン系鉱油などが好ましく挙げられる。
【0028】
水素化精製油としては、例えば、基油の原料を、フェノール、フルフラール等の芳香族抽出溶剤を用いた溶剤精製により得られるラフィネート、シリカ-アルミナを担体とするコバルト、モリブデン等の水素化処理触媒を用いた水素化処理により得られる水素化処理油等が挙げられる。特に、本開示における鉱物油系基油としては、水素化分解工程又は異性化工程によって得られ、高粘度指数(具体的には、110以上)を示す水素化精製油が好適な基油として挙げられる。
【0029】
合成油系基油としては、例えば、メタン等のガスを原料としてフィッシャー・トロプシュ反応により合成される基油、ポリ-α-オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリグリコールエステル、ポリエチレンプロピレン類、ヒンダードエステル類、二塩基酸エステルなどが挙げられる。
【0030】
本開示に係る潤滑油組成物は、基油として、特定基油のみを含有することが好ましい。
【0031】
特定基油の含有量は、基油として機能する量であれば特に制限されない。例えば、潤滑油組成物の全量に対して、30質量%~99.9質量%とすることができる。
【0032】
基油の100℃での動粘度は、2.00mm/s~8.00mm/sであることが好ましく、3.00mm/s~7.00mm/sであることがより好ましく、4.00mm/s~7.00mm/sであることが更に好ましい。
【0033】
基油の粘度指数は110以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましい。
【0034】
本開示において、基油の動粘度は、JIS K2283(2000年)により測定される値である。
基油が混合油である場合も、100℃での動粘度は、JIS K2283(2000年)にて確認する。
本開示において、基油の粘度指数は、JIS K2283(2000年)により測定される値である。基油が混合油である場合も、粘度指数は、JIS K2283(2000年)にて確認する。
基油の動粘度及び/又は粘度指数についてカタログ値が確認できる場合には、カタログ値を採用する。
【0035】
基油の100℃動粘度及び粘度指数が上記範囲にあることにより、低温下での粘性抵抗が軽減する傾向となる。
【0036】
<粘度指数向上剤>
本開示に係る潤滑油組成物は、重量平均分子量(ポリスチレン換算:Mw)が20,000~80,000であるポリアルキルメタクリレート(PMA)系粘度指数向上剤(以下、「特定PMA系粘度指数向上剤」とも称する。)を含有する。
【0037】
本開示において重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定された分子量算定用標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0038】
特定PMA系粘度指数向上剤は、重量平均分子量(ポリスチレン換算:Mw)が20,000~80,000であり、好ましくは25,000~75,000、より好ましくは30,000~70,000である。
【0039】
特定PMA系粘度指数向上剤の重量平均分子量(ポリスチレン換算:Mw)を20,000以上とすることで、農業機械用潤滑油組成物に必要な粘度指数向上効果が得られる。また、重量平均分子量(ポリスチレン換算:Mw)を80,000以下とすることで、機械から受けるせん断に対して初期及び長期的に安定となる。
【0040】
特定PMA系粘度指数向上剤は、分散型のPMA系粘度指数向上剤であっても、非分散型のPMA系粘度指数向上剤であってもよい。
本開示において、粘度指数向上剤が、「分散型」であるとは、アミノ基、アミド基等の極性基を有すること(好ましくは側鎖に有すること)を意味し、「非分散型」であるとは、極性基を有しないことを意味する。
ここで、主鎖とは、ポリマー中の鎖状部分のうち相対的に最も長く幹となる結合鎖を意味する。側鎖とは、ポリマーの主鎖に結合する鎖を意味する。
【0041】
特定PMA系粘度指数向上剤の好適な態様の一つは、下記の式(Ia)で表される構成単位及び下記の式(Ib)で表される構成単位を有するポリアルキルメタクリレート(以下、「ポリアルキルメタクリレート(1)」とも称する。)である。
ポリアルキルメタリクレート(1)は、重量平均分子量(ポリスチレン換算:Mw)が20,000~80,000の範囲にあり、かつ、分散型の特定PMA系粘度指数向上剤の一態様である。
【0042】
【化2】
【0043】
式(Ia)及び(Ib)中、Rは水素原子又は炭素数1~24のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアミノ基で置換された炭素数1~24のアルキル基を表し、m及びnは各々独立に1以上の整数である。
【0044】
ポリアルキルメタクリレート(1)は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0045】
式(Ib)中、Rにおいて、炭素数1~24のアルキル基に置換するアミノ基は、特に限定されず、1級アミノ基、2級アミノ基、及び3級アミノ基のいずれであってもよい。アミノ基の好適な例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の3級アミノ基が挙げられる。
【0046】
特定PMA系粘度指数向上剤の好適な態様の一つは、下記の式(Ic)で表される構成単位を有し、かつ、極性基を有さないポリアルキルメタクリレート(以下、ポリアルキルメタクリレート(2)とも称する。)である。ポリアルキルメタリクレート(2)は、重量平均分子量(ポリスチレン換算:Mw)が20,000~80,000の範囲にあり、かつ、非分散型の特定PMA系粘度指数向上剤の一態様である。
【0047】
【化3】
【0048】
式(Ic)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~24のアルキル基を表し、oは1以上の整数である。
【0049】
本開示に係る潤滑油組成物は、特定PMA系粘度指数向上剤の含有量が、組成物全量に対して10質量%~18質量%が好ましく、より好ましくは11質量%~16質量%、更に好ましくは12.5質量%~15質量%である。
特定PMA系粘度指数向上剤の含有量が、上記範囲内にあることにより、低温下での粘性抵抗がより軽減され、かつ、せん断安定性により優れる傾向となる。
【0050】
特定PMA系粘度指数向上剤は、合成品であってもよいし、市販品であってもよい。
【0051】
本開示に係る農業機械用潤滑油組成物は、特定PMA系粘度指数向上剤を1種のみ含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。
【0052】
特定PMA系粘度指数向上剤は、基油と混合するに際して、そのまま混合してもよいし、希釈油に含有させた希釈物として混合してもよい。
【0053】
ある実施形態において、本開示に係る潤滑油組成物は、鉱物油系基油である水素化精製油と、分散型ポリアルキルメタクリレート(1)とを含有することが好ましく、100℃での動粘度が2.00mm/s~8.00mm/s(好ましくは3.00mm/s~7.00mm/s、より好ましくは4.00mm/s~7.00mm/s)であり、かつ粘度指数が110以上(好ましくは120以上)である水素化精製油と、ポリアルキルメタクリレート(1)と、を含有することがより好ましい。
水素化精製油とポリアルキルメタクリレート(1)とを含有することで、低温下(例えば-40℃~0℃)での粘性抵抗が軽減できることから好ましい。
【0054】
<金属型清浄剤>
本開示に係る潤滑油組成物は、金属型清浄剤を更に含有していてもよい。
金属型清浄剤を含むと、農業機械が有する構成部材(例えば湿式クラッチ)における摩擦特性がより良好となる。
【0055】
金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0056】
農業機械が有する構成部材(例えば湿式クラッチ)に求められる摩擦特性を付与する観点から、金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネートが好適に挙げられる。
【0057】
金属型清浄剤中に含まれるアルカリ土類金属としては、特に制限はなく、カルシウム、ナトリウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属としては、カルシウムが好適である。金属型清浄剤としては、炭酸又はホウ酸で過塩基化されたアルカリ土類金属塩であることが好ましい。
【0058】
金属型清浄剤の塩基価としては、JIS K2501(2003)の過塩素酸法による塩基価で、好ましくは150mgKOH/g~500mgKOH/gであり、より好ましくは200mgKOH/g~450mgKOH/gであり、更に好ましくは250mgKOH/g~450mgKOH/gである。
【0059】
金属型清浄剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
金属型清浄剤の含有量は、金属の量(具体的には、アルカリ土類金属の量)として、組成物全量に対して0.05質量%~0.50質量%が好ましく、より好ましくは0.15質量%~0.45質量%である。
金属型清浄剤の含有量が、組成物全量に対して上記範囲であると、良好な摩擦特性が得られる傾向となる。
【0060】
<その他の添加剤>
本開示に係る潤滑油組成物は、上記した成分の他に必要に応じて公知の添加剤を含有してもよい。公知の添加剤としては、例えば、摩擦調整剤、摩耗防止剤、油性剤、極圧剤、錆止め剤、無灰型分散剤、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤、着色剤、農機用作動油パッケージ添加剤、又は、これらの添加剤を少なくとも1種を含有する各種潤滑油用パッケージ添加剤などが挙げられる。
また、一つの添加剤が、2以上の機能を奏するものであってもよい。
なお、パッケージ添加剤とは、2種以上の添加剤の混合物を指す。
【0061】
摩擦調整剤としては、有機モリブテン化合物、多価アルコール部分エステル化合物、アミン化合物、アミド化合物、エーテル化合物、硫化エステル、リン酸エステル、ジオール化合物などが挙げられる。
【0062】
摩耗防止剤としては、ジチオリン酸金属塩、チオリン酸金属塩、硫黄化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルやそのアミン塩などが挙げられる。
【0063】
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸、高級アルコール、アミン化合物、アミド化合物、硫化油脂、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0064】
極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニルなどが挙げられる。
【0065】
錆止め剤としては、カルボン酸やそのアミン塩、エステル化合物、スルホン酸塩、ホウ素化合物などが挙げられる。
【0066】
無灰型分散剤としては、ポリアルケニル基を有するコハク酸イミド及び、そのホウ素誘導体が挙げられる。
【0067】
酸化防止剤としては、アミン化合物、フェノール化合物、硫黄化合物などが挙げられる。
【0068】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、アルケニルコハク酸エステルなどが挙げられる。
【0069】
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、アルキル化ポリスチレンなどが挙げられる。
【0070】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン化合物、フルオロシリコーン化合物、エステル化合物などが挙げられる。
【0071】
<潤滑油組成物の物性>
本開示に係る潤滑油組成物は、100℃における動粘度が、8.00mm/s~10.00mm/sであり、超音波せん断安定性試験による100℃における動粘度低下率が10.0%以下であり、-40℃におけるBF粘度が20,000mPa・s以下である。
本開示に係る潤滑油組成物は、上記の動粘度、動粘度低下率及びBF粘度の全てを満たすことにより、低温下(例えば-40℃~0℃)での粘性抵抗の軽減及びせん断安定性の両方に優れる。
【0072】
また、本開示に係る潤滑油組成物は、低温下(例えば-40℃~0℃)での粘性抵抗の軽減の観点から、粘度指数が180以上であることが好ましい。
【0073】
以下、本開示に係る潤滑油組成物が示す、動粘度、動粘度低下率、-40℃におけるBF粘度、及び、粘度指数について説明する。
【0074】
[動粘度]
本開示に係る潤滑油組成物は、極圧性能及び油圧作動油として適切に稼働させる観点から、100℃における動粘度が、8.00mm/s~10.00mm/sであり、8.50mm/s~9.70mm/sであることがより好ましく、9.00mm/s~9.50mm/sであることが更に好ましい。
【0075】
本開示に係る潤滑油組成物は、40℃における動粘度が、30.0mm/s~60.0mm/sであることが好ましく、35.0mm/s~55.0mm/sであることがより好ましく、40.0mm/s~50.0mm/sであることが更に好ましい。
【0076】
本開示において、潤滑油組成物の100℃における動粘度は、JIS K2283(2000年)に準拠して測定する。
【0077】
潤滑油組成物における動粘度の調整は、基油の選択、特定PMA系粘度指数向上剤の種類及び含有量、等により行うことができる。
【0078】
[動粘度低下率]
本開示に係る潤滑油組成物は、超音波せん断安定性試験による100℃における動粘度低下率(以下、単に「動粘度低下率」とも称する。)が10.0%以下であり、9.5%以下であることがより好ましく、9.0%以下であることが更に好ましい。
動粘度低下率の値が小さいことは、せん断安定性により優れることを意味する。
動粘度低下率の下限は、特に限定されず0%であってもよい。本開示に係る潤滑油組成物の動粘度低下率は、1.0%~10.0%であることが現実的であるが、この範囲に限定されない。
【0079】
本開示において、潤滑油組成物の100℃における動粘度低下率は、JPI-5S-29-88に準拠し、以下の方法により測定する。
【0080】
標準油30mLに超音波を10分間照射した後、40℃における動粘度低下率が15%となる出力電圧を求める。
測定対象の試料30mLについて、超音波照射前(即ち試験前)の100℃の動粘度を測定する。
上記で得られた出力電圧の条件下で、測定対象の試料30mLに超音波を150分間照射し、超音波照射後(即ち試験後)の試料について100℃動粘度を測定する。
試験前後の試料における100℃動粘度の測定値を、下記式Xに当てはめた算出値を小数点以下第2位で四捨五入して動粘度低下率(%)とする。
式(X):
動粘度低下率(%)=[試験前の100℃動粘度-試験後の100℃動粘度]/試験前の100℃動粘度×100
【0081】
[-40℃におけるBF粘度]
本開示に係る潤滑油組成物は、BF粘度が20,000mPa・s以下であり、19,000mPa・s以下であることがより好ましく、18,000mPa・s以下であることが更に好ましい。
【0082】
本開示において、-40℃におけるBF粘度は、JPI-5S-26-2010に準拠して、-40℃にて測定する。
【0083】
[粘度指数]
本開示に係る潤滑油組成物の粘度指数は180以上であることが好ましく、190以上であることがより好ましく、200以上であることがより好ましい。
【0084】
本開示において、潤滑油組成物の粘度指数は、JIS K2283(2000年)に準拠して測定する。
【0085】
~潤滑油組成物の調製~
本開示に係る潤滑油組成物の調製方法としては、特定基油、及び、特定PMA系粘度指数向上剤、並びに必要に応じて各種添加剤を適宜混合すればよい。これらの各成分の混合順序は特に制限されるものではなく、基油に順次混合してもよいし、予め各種添加剤を基油に予め添加しておいてもよい。
【0086】
~用途~
本開示に係る潤滑油組成物は、農業機械に用いられる。
農業機械としては、整地用作業機としてのトラクター、育成管理用作業機としての田植え機、収穫用作業機としてのバインダー又はコンバイン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例
【0087】
次に、本開示の農業機械用潤滑油組成物について、実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示の農業機械用潤滑油組成物は、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0088】
実施例及び比較例では、基油、粘度指数向上剤、及び、その他の添加剤を、表1及び表2に記載の配合量で混合して潤滑油組成物を調製した。さらに、得られた潤滑油組成物をそれぞれ用いて下記の物性測定評価を行った。
【0089】
実施例及び比較例において、潤滑油組成物の調製に用いた含有成分(すなわち、基油、粘度指数向上剤、及び、その他の添加剤)の詳細は、下記の(A1)~(A4)に示す通りである。
【0090】
更に、得られた潤滑油組成物の各物性(すなわち、動粘度、動粘度低下率、BF粘度及び粘度指数)は下記の(B1)~(B4)に示す試験方法で求めた。
得られた結果を、下記の表1及び表2に示す。
【0091】
〔含有成分〕
(A1)基油
・基油A: 100℃の動粘度が5.60mm/sで、粘度指数が109の水素化精製油(鉱物油系基油)
・基油B: 100℃の動粘度が10.80mm/sで、粘度指数が97の水素化精製油(鉱物油系基油)
・基油C: 100℃の動粘度が11.90mm/sで、粘度指数が108の水素化精製油(鉱物油系基油)
・基油D: 100℃の動粘度が4.20mm/sで、粘度指数が122の水素化精製油(鉱物油系基油)
・基油E: 100℃の動粘度が4.20mm/sで、粘度指数が134の水素化精製油(鉱物油系基油)
・基油F: 100℃の動粘度が6.50mm/sで、粘度指数が131の水素化精製油(鉱物油系基油)
・基油G: 100℃の動粘度が3.10mm/sで、粘度指数が102の水素化精製油(鉱物油系基油)
【0092】
(A2)粘度指数向上剤
・粘度指数向上剤A:非分散型ポリアルキルメタクリレート(重量平均分子量(Mw):14万、希釈油を除く有効成分量:50質量%、製品名:アクルーブ517(三洋化成工業株式会社))
・粘度指数向上剤B:分散型ポリアルキルメタクリレート(重量平均分子量(Mw):
4.7万、希釈油を除く有効成分量:65質量%)
粘度指数向上剤Bは、特定PMA系粘度指数向上剤である分散型のポリアルキルメタクリレート(1)に包含される粘度指数向上剤である。
・粘度指数向上剤C:非分散型のポリアルキルメタクリレート(重量平均分子量(Mw):3.5万、希釈油を除く有効成分量:66質量%)
粘度指数向上剤Cは、特定PMA系粘度指数向上剤である非分散型のポリアルキルメタクリレート(2)に包含される粘度指数向上剤である。
【0093】
(A3)パッケージ添加剤
本実施例に用いたパッケージ添加剤は、下記添加剤の混合物である。
・金属型清浄剤(過塩基化されたカルシウムスルホネート)
・摩擦調整剤
また、パッケージ添加剤の主要元素量は次の通りである。
カルシウム:6.8質量%、硫黄:3.9質量%、窒素:0.02質量%
【0094】
(A4)摩耗防止剤
・ジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン濃度:8.3質量%)
【0095】
〔試験方法〕
(B1)40℃および100℃における動粘度
JIS K2283(2000年)に準拠して、40℃及び100℃における動粘度(単位:mm/s)を測定した。
【0096】
(B2)粘度指数
JIS K2283(2000年)に準拠して、粘度指数を算出した。
【0097】
(B3)BF粘度(-40℃)
JPI-5S-26-2010に準拠して、-40℃における粘度(mPa・s)を測定した。
【0098】
(B4)動粘度低下率(100℃)
せん断安定性試験(超音波せん断安定性試験)を、JPI-5S-29-88に準拠して、下記の方法に行い、100℃における動粘度動粘度より算出した。
標準油30mLに超音波を10分間照射した後、40℃における動粘度低下率が15%となる出力電圧を求めた。
測定対象の試料30mLについて、超音波照射前(即ち試験前)の100℃の動粘度を測定した。
上記で得られた出力電圧の条件下で、測定対象の試料30mLに超音波を150分間照射し、超音波照射後(即ち試験後)の試料について100℃動粘度を測定した。
なお、照射の際は装置の安全性の関係上、75分間照射を2回実施にて150分間照射とした。
試験前後の試料における100℃動粘度の測定値を、下記式Xに当てはめた算出値を小数点以下第2位で四捨五入して動粘度低下率(%)とした。
式(X):
動粘度低下率(%)=[試験前の100℃動粘度-試験後の100℃動粘度]/試験前の100℃動粘度×100
【0099】
下記の表1及び表2において、組成欄中の「-」は、該当する成分を含有しないことを意味する。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】

【0102】
表1及び表2から以下のことが分かる。
実施例1~実施例5の潤滑油組成物は、いずれも特定基油と特定PMA系粘度指数向上剤(粘度指数向上剤B又は粘度指数向上剤C)とを含有し、-40℃でのBF粘度が20,000mPa・s以下でありながら、せん断安定性試験後の100℃動粘度低下率が10.0%以下であり、低温流動性と高いせん断安定性とが両立していることが分かる。潤滑油組成物が低温流動性を有することは、即ち、低温下での粘性抵抗が軽減できることを意味する。
【0103】
一方、比較例1~比較例5は、粘度指数向上剤A(Mw:14万)を含有し、いずれも低温流動性と高いせん断安定性とが両立しないことが分かる。
即ち、比較例1~比較例3は、せん断安定性試験後の100℃動粘度低下率は10.0%を超え、かつ、-40℃でのBF粘度についても20,000mPa/sを超えており、低温流動性及びせん断安定性の双方において劣っていることが分かる。また、比較例4及び比較例5は、-40℃でのBF粘度が20,000mPa・s以下であるが、せん断安定性試験後の100℃動粘度低下率が19.0%を超えており、せん断安定性が劣っていることが分かる。
【0104】
比較例6は、粘度指数向上剤B(特定PMA系粘度指数向上剤)を含有し、せん断安定性には優れるが、-40℃でのBF粘度が大幅に増加し、低温流動性に劣っており、低温下での粘性抵抗が軽減しえないことが分かる。
【0105】
比較例7は、粘度指数向上剤B(特定PMA系粘度指数向上剤)を含有し、-40℃でのBF粘度が20,000mPa・s以下であり低温流動性を示すが、100℃動粘度低下率が10.0%を超えており、せん断安定性が劣っていることがわかる。
【0106】
以上より、実施例の農業機械用潤滑油組成物は、低温下での粘性抵抗が軽減でき、かつ、せん断安定性に優れることが確認された。よって、実施例の農業機械用潤滑油組成物は、トラクター、コンバイン等の農業機械に好適に用いることができる。
【0107】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。