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  • 特許-合金材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】合金材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240326BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240326BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C22C38/00 302R
C22C38/60
C21D8/02 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022518048
(86)(22)【出願日】2021-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2021016573
(87)【国際公開番号】W WO2021221003
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020079036
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】柘植 信二
(72)【発明者】
【氏名】川 真知
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸男
(72)【発明者】
【氏名】楠 献一郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸寛
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188690(JP,A)
【文献】特開平10-060528(JP,A)
【文献】矢萩慎一郎 他,Fe-Ni-Nb-C系インバー合金の強度および熱膨張係数に及ぼすNb,Cの影響,電気製鋼,1982年,第53巻第2号,第122-129頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00-38/60
C21D6/00
C21D8/02
B21B1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.10%、
Si:0.10%を超え0.50%以下、
Mn:0.05~0.50%、
P:0.015%以下、
S:0.0015%以下、
Cr:0.005~0.50%、
Ni:34.5~37.0%、
Cu:0.005~1.0%、
Co:0.005~0.50%、
Mo:0.001~0.50%、
Al:0.0001~0.050%、
Nb:0.001~1.0%、
N:0.010%以下、
O:0.0060%以下、
Ti:0.0200%以下、
Zr:0.0200%以下、
Hf:0.0200%以下、
V:0.500%以下、
W:1.000%以下、
Sn:0.050%以下、
Zn:0.0020%以下、
Pb:0.0010%以下、
Ta:0~1.0%、
B:0~0.010%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0030%、
REM:0~0.050%、
残部:Feおよび不可避的不純物であり、
下記の(1)式、(2)式、(3)式および(4)式を満たし、
降伏応力が240MPa以上であり、
板厚が3.0mm以上である、合金材。
≦T-2 (1)
C-Nb/7.7-Ta/15≦0.045 (2)
Nb-7.7C≦0.30 (3)
Ta-15C≦0.30 (4)
ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)であり、Tは前記合金材のキュリー温度(℃)であり、Tは前記合金材を900℃で1分均熱した後、600~300℃の温度域における平均冷却速度が0.2℃/sとなる条件で冷却した後の合金材のキュリー温度(℃)である。
【請求項2】
請求項1に記載の合金材の製造方法であって、
前記合金材に行う熱処理における冷却工程が、
合金材の板厚をt(mm)とするとき、35℃以下である冷却水の水量密度(m/m・分)が[0.11ln(t)+0.02]以上となるように前記合金材に噴射する、
合金材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の合金材の製造方法であって、
前記合金材を熱間加工した後の冷却工程が、
合金材の板厚をt(mm)とするとき、35℃以下である冷却水の水量密度(m/m・分)が[0.11ln(t)+0.02]以上となるように前記合金材に噴射する、
合金材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の合金材の製造方法であって、
請求項2または3の工程後、常温の降伏応力の上昇が3MPa以上、50MPa以下の値となる条件でレベラー矯正を行う、
合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低膨張合金は、その熱膨張係数が鉄またはニッケルに対して1/10以下と著しく小さいことを特徴とする。低膨張合金には、インバー合金、スーパーインバー合金、ステンレスインバー合金、Fe-Pd合金などがあり、その中でも、Feに約36質量%のNiを含有させたFe-Ni系インバー合金が代表的である。以下、Fe-Ni系インバー合金を略してインバー合金とも称する。
【0003】
これらの合金の低膨張特性は、温度低下による体積収縮と自発体積磁歪による体積膨張との相殺に起因している。例えば、インバー合金においては、200~300℃付近にあるキュリー点以下では、小さな膨張特性を示し、キュリー点直上で膨張率が急増することが知られている。
【0004】
低膨張合金の用途としては、標準尺、計測機器、ガラス封着材料、シャドーマスク、IC用フレーム合金、金型、極低温環境の構造物などがある。極低温構造物の具体的な用途としては、インバー合金の場合には液化天然ガス(LNG)貯蔵容器および配管などが挙げられる。
【0005】
インバー合金を極低温構造物に適用する場合、溶接して用いられる。厚肉のインバー合金材は、溶接割れ感受性が高いため、溶接金属の凝固割れおよび再熱割れを抑制する必要がある。このため、溶接施工は、高濃度のCおよびNbを含有する特殊な溶接材料を用いて行われることがある。
【0006】
例えば、非特許文献1には、LNG配管用として、板厚9.5mmのインバー合金板を溶接する場合、Nb含有量の異なる2種類の溶接材料(ワイヤ)を用いて、ワイヤ送給速度と溶接入熱を管理しながら割れの無い溶接部を得る技術が開示されている。このような溶接施工によれば、化学組成の異なる母材と複数の溶接材料の混合比率(母材希釈)を一定範囲に制御して、溶接金属の化学組成を所望の範囲に調整することができる。
【0007】
例えば、特許文献1~5に記載されるように、従来、熱間加工性、強度、弾性定数、低熱膨張特性の改善を目的として、インバー合金材の母材自体の化学組成を調整する取り組みがなされてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-102345号公報
【文献】特開平4-72037号公報
【文献】特開平10-17997号公報
【文献】特開平10-60528号公報
【文献】特開2003-27188号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】本郷進ら、インバー合金を用いたLNG配管の開発(第3報)-厚板インバー合金の多層盛GTAW施工法に関する研究-、圧力技術第41巻第4号、p.160-167、2003年 一般社団法人 日本高圧力技術協会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1の溶接技術によれば、厚肉のインバー合金を母材(以下、単に「合金材」という)として用いた溶接構造物を製造することができるが、溶接施工性の自由度が低いという問題がある。また、特許文献1~5には、厚肉の合金材を用いた溶接構造物を製造する際の溶接施工性の自由度について考慮されていない。
【0011】
ここで、合金材は、通常、熱間圧延により製造され、熱間圧延後の合金材は空冷されるか、例えば、製造時間を短縮する目的などにより、水冷されることもあった。つまり、従来技術において、熱間圧延後の冷却を水冷により行うことまでは考慮されているが、溶接施工性の自由度を向上させるために、厚肉の合金材でどのような条件で冷却すればよいかについて考慮されていない。
【0012】
本発明は、低い熱膨張特性を維持しつつ、合金材を用いた溶接構造物を製造する際の溶接施工性の自由度を向上することができる、合金材およびその製造方法を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、合金材と溶接材料の化学組成の違いを小さくする、すなわち、母材のCおよびNbの含有量を高めることを考えた。
【0014】
合金材のCおよびNbの含有量を増加させると、熱間加工性が劣化する。合金材の熱間加工性を低下させる不純物元素の中で最も影響が大きい元素がSである。このため、熱間加工性を改善するためには、S含有量を低減すること、さらには、Sを固定して無害化するMnを十分含有させることが重要である。すなわち、合金材の化学組成において、CおよびNbの含有量を増加させ、S含有量を低下させ、Mnを必須元素として、適量含有させることが重要である。
【0015】
一方で、CおよびNbを多量に含有させると合金材の線膨張係数が増加する。本発明合金材では、CとNbとの双方を含有させることを成分的特徴としている。これらの元素は、合金材中でNbC(Nb炭化物)を形成する。そして、この際、線膨張係数は、余剰C(ΔC)もしくは余剰Nb(ΔNb)とともに増加するため、ΔC、ΔNbそれぞれの値を上限値以下に規制する。TaはNbの同族元素であり、本合金材ではNbの一部を置換するようにTaが添加されることがあり、同様の理由で余剰Ta(ΔTa)の上限値を規制することが重要である。
ここに、ΔC、ΔNb、ΔTaの式を明示する。なお、Taを含まない場合には、Taの項に0を代入する。
ΔC=C-Nb/7.7-Ta/15
ΔNb=Nb-7.7C
ΔTa=Ta-15C
【0016】
一方、Fe-Ni系インバー合金を用いた合金材においては、FeおよびNi以外の合金元素のほどんとが、膨張係数を高める作用を有する。膨張係数を増加させる作用は、元素毎に異なる。そこで、不純物として混入する元素の含有量が極力低減されるように原料を選別して溶解・精錬する必要がある。しかし、合金材を工業的に量産する場合には、通常のステンレス鋼の溶解・精錬設備が用いられ、そのステンレス鋼起因の不純物元素の混入が発生する。
【0017】
FeおよびNiを除くと、ステンレス鋼の主要成分の中で、Cr、Mo、Cu、Coなどが、インバー合金における主要な不純物元素となるので、これらの元素の混入量が小さくなるようにする必要がある。例えば、インバー合金の溶解・精錬のために原料として高純度の合金鉄、合金を用いること、新しく築炉された鍋(溶解のための容器)を用いることなどを要する。このような製造方法の制約は、すべてインバー合金の製造コスト上昇に反映される。
【0018】
そこで、本発明者らは、上記のような製造コストを上昇させずに、厚肉(板厚が3mm~80mm)の合金材の低熱膨張率を達成することができる製造方法について検討した。この結果、熱間圧延の冷却工程、または、熱処理後の冷却工程において、600~300℃の温度域における平均冷却速度を2.0℃/s以上となるように冷却することが有効であることを明らかにした。これにより、線膨張係数を増加させる磁性相の発達を抑制し、低い熱膨張を発現させることを見出した。
【0019】
ここで、特段の定めがない限り、板温は、通常、表面温度を意味する。このため、通常であれば、冷却速度の管理も合金材の板温の変化を管理することになる。例えば、板厚が3mm未満の薄板の場合には、板厚中心部と表面とで温度履歴の差異は小さいが、板厚が3mm以上、さらには6mm以上という厚板の合金材の場合には、通常通り、表面の温度変化を管理したのでは、十分な性能を確保することができないことが判明した。
【0020】
そして、本発明者らは、板厚中心部の温度について検討したところ、厚肉の合金材においては、その製造工程において熱間圧延または熱処理後の冷却速度が小さくなってしまいがちであり、その冷却過程で合金材中に、線膨張係数を増加させる磁性相が発達していることを知見した。
【0021】
この磁性相はFe-Ni合金に現れる一般的な強磁性の相であるが、FeとNiの原子配列がわずかに規則化する方向に変化した磁性相である。本発明者らは、板厚中心部における冷却速度の違いによるこの磁性相の発達の程度を、特定の磁化力のもとでのキュリー温度:Tcを捉えることで把握することができること、Tcが小さくなるように冷却速度を制御することで線膨張係数を低く保つことができることを知見した。
【0022】
具体的には、熱間圧延の冷却工程、または、熱処理後の冷却工程において、600~300℃の温度域における、合金材の板厚中心部の平均冷却速度が2.0℃/s以上となるように冷却することが重要であることを知見した。
【0023】
しかしながら、ラボでの実験用試験片であれば、板厚中心部の温度を測定することは可能であるが、実操業の製造工程において板厚中心部の温度を測定することは容易ではない。このため、本発明者らは、冷却工程における水量密度に着目して検討を重ねた結果、合金材の板厚をt(mm)とするとき、35℃以下の冷却水の水量密度(m/m・分)が[0.11ln(t)+0.02]以上となるように上記合金材に噴射することにより、600~300℃の温度域における、合金材の板厚中心部の平均冷却速度を2.0℃/s以上とすることができ、ひいては線膨張係数を低く保つことができることを知見した。
【0024】
これによって、不純物の混入に起因する膨張係数の増加を相殺できるので、原料中の不純物元素濃度規制を緩和できる。たとえば、本発明合金材で添加されるC、Nb、Si、Mnはいずれも合金材の線膨張係数を増加させる。Cr、Cu、Moは合金材を溶製する時にステンレス鋼を溶製した前鍋から混入する可能性がある元素であり、同様に合金材の線膨張係数を増加させる元素である。これら元素の混入を抑制する対策として、新鍋による溶製が行われるが、合金材の溶製チャンス制約の増大、コストの増大を招く。このため、板厚中心部の冷却速度を管理することにより、磁性相の発達を抑制することができるため、合金元素濃度規制を緩和することが可能となる。なお、合金材において、上記の熱処理が行われたか否かは、下記式を満たすかどうかによって判別可能である。
≦T-2
ただし、Tは前記合金材のキュリー温度(℃)であり、Tは前記合金材を900℃で1分均熱した後、600~300℃の温度域における平均冷却速度が0.2℃/sとなる条件で冷却した後の合金材のキュリー温度(℃)である。
【0025】
なお、平均冷却速度が0.2℃/sは、80mm厚の合金材を空冷した時の冷却速度に相当する。
【0026】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、下記の合金材を要旨とする。
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.10%、
Si:0.10%を超え0.50%以下、
Mn:0.05~0.50%、
P:0.015%以下、
S:0.0015%以下、
Cr:0.005~0.50%、
Ni:34.5~37.0%、
Cu:0.005~1.0%、
Co:0.005~0.50%、
Mo:0.001~0.50%、
Al:0.0001~0.050%、
Nb:0.001~1.0%、
N:0.010%以下、
O:0.0060%以下、
Ti:0.0200%以下、
Zr:0.0200%以下、
Hf:0.0200%以下、
V:0.500%以下、
W:1.000%以下、
Sn:0.050%以下、
Zn:0.0020%以下、
Pb:0.0010%以下、
Ta:0~1.0%、
B:0~0.010%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0030%、
REM:0~0.050%、
残部:Feおよび不可避的不純物であり、
下記の(1)式、(2)式、(3)式および(4)式を満たし、
降伏応力が240MPa以上であり、
板厚が3.0mm以上である、合金材。
≦T-2 (1)
C-Nb/7.7-Ta/15≦0.045 (2)
Nb-7.7C≦0.30 (3)
Ta-15C≦0.30 (4)
ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)であり、Tは前記合金材のキュリー温度(℃)であり、Tは前記合金材を900℃で1分均熱した後、600~300℃の温度域における平均冷却速度が0.2℃/sとなる条件で冷却した後の合金材のキュリー温度(℃)である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低い熱膨張特性(具体的には、室温から-170℃までの平均線膨張係数が1.5×10-6/K以下)を維持しつつ、合金材を用いた溶接構造物を製造する際の溶接施工性の自由度を向上することができる、合金材およびその製造方法を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、熱延合金板の板厚と、熱延合金板の板厚中心部における冷却速度を2.0℃/s以上にするための水量密度(m/m・分)との関係を示す図である。
図2図2は、合金番号1の合金材における磁化の温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の合金材およびその製造方法について説明する。以下の説明において、各元素の含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
【0030】
(合金材の化学組成)
C:0.010~0.10%
Cは、高強度化に有効である。このため、C含有量は、0.010%以上とする。C含有量は、0.015%以上とするのが好ましく、0.020%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Cの過剰な含有は、熱間加工性を劣化させ、また、熱膨張特性に悪影響を及ぼす。このため、C含有量は、0.10%以下とする。C含有量は、0.08%以下とするのが好ましく、0.06%以下とするのがより好ましい。
【0031】
Si:0.10%を超え0.50%以下
Siは、後述するMnと同様、合金溶製時の脱酸剤として必要な元素である。このため、Si含有量は、0.10%超とする。Si含有量は、0.15%以上とするのが好ましく、0.20%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、膨張特性に悪影響が生じる。このため、Si含有量は、0.50%以下とする。Si含有量は、0.40%以下とするのが好ましく、0.30%以下とするのがより好ましい。
【0032】
Mn:0.05~0.50%
Mnは、上述したSiと同様、合金溶製時の脱酸剤として必要な元素である。また、Mnは、熱間加工性を劣化させるSをMnSとして固定する効果も有する。このため、Mn含有量は、0.05%以上とする。Mn含有量は、0.10%以上とするのが好ましく、0.15%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、膨張特性に悪影響が生じる。このため、Mn含有量は、0.50%以下とする。Mn含有量は、0.40%以下とするのが好ましく、0.30%以下とするのがより好ましい。
【0033】
P:0.015%以下
Pは、凝固割れ感受性、溶接割れ感受性を著しく高める不純物元素である。このため、P含有量は、0.015%以下とする。P含有量は、極力低減するのが好ましいが、Pの極端な制限は製造コストを増加させる。このため、P含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0034】
S:0.0015%以下
Sは、熱間加工性を劣化させる不純物元素である。このため、S含有量は、0.0015%以下とする。S含有量は、極力低減するのが好ましいが、Sの極端な制限は製造コストを増加させる。このため、S含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0035】
Cr:0.005~0.50%
Crは、ステンレス鋼の溶製設備または原料より混入する元素であり、熱膨張特性に悪影響を生じさせる。このため、Cr含有量は、0.50%以下とする。Cr含有量は、0.40%以下とするのが好ましい。一方、Crを過剰に低減しようとすると、溶製コストが増加する。このため、Cr含有量は、0.005%以上とする。
【0036】
Ni:34.5~37.0%
Niは、合金の自発体積磁歪を高めて、熱膨張係数を低下するのに有効な元素である。このため、Ni含有量は、34.5%以上とする。Ni含有量は、35.0%以上とするのが好ましい。しかしながら、Niを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Ni含有量は、37.0%以下とする。
【0037】
Cu:0.005~1.0%
Cuは、ステンレス鋼の溶製設備または原料より混入する元素であり、熱膨張特性に悪影響を生じさせる。このため、Cu含有量は、1.0%以下とする。Cu含有量は、0.7%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、Cuを過剰に低減しようとすると、溶製コストが増加する。このため、Cu含有量は、0.005%以上とする。
【0038】
Co:0.005~0.50%
Coは、ステンレス鋼の溶製設備または原料より混入する元素である。また、過剰に含有させると、合金コストが増加する。このため、Co含有量は、0.50%以下とする。Co含有量は、0.40%以下とするのが好ましく、0.30%以下とするのがより好ましい。一方、Coを過剰に低減しようとすると、溶製コストが増加する。このため、Co含有量は、0.005%以上とする。
【0039】
Mo:0.001~0.50%
Moは、ステンレス鋼の溶製設備または原料より混入する元素であり、熱膨張特性に悪影響を生じさせる。このため、Mo含有量は、0.50%以下とする。Mo含有量は、0.40%以下とするのが好ましく、0.30%以下とするのがより好ましい。一方、Moを過剰に低減しようとすると、溶製コストが増加する。このため、Mo含有量は、0.001%以上とする。
【0040】
Al:0.0001~0.050%
Alは、脱酸のために有効な元素である。このため、Al含有量は、0.0001%以上含有とする。Al含有量は、0.0003%以上とするのが好ましく、0.0005%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Alを過剰に含有させると、熱膨張特性に悪影響が生じる。このため、Al含有量は、0.050%以下とし、0.040%以下とするのが好ましい。
【0041】
Nb:0.001~1.0%
Nbは、強度を向上させる元素であるとともに、溶接時の溶接金属の割れを防止して、溶接施工性を向上させる元素である。このため、Nb含有量は、0.001%以上とする。Nb含有量は、0.010%以上とするのが好ましく、0.015%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、熱間加工性が低下し、熱膨張特性に悪影響が生じる。このため、Nb含有量は、1.0%以下とする。Nb含有量は、0.7%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。
【0042】
N:0.010%以下
Nは、熱間加工性を劣化させる不純物元素である。このため、N含有量は、0.010%以下とする。N含有量は、極力低減するのが好ましいが、Nの極端な制限は溶製コストを増加させる。このため、N含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0043】
O:0.0060%以下
Oは、熱膨張特性に悪影響を及ぼす不純物元素である。このため、O含有量は、0.0060%以下とする。O含有量は、極力低減するのが好ましいが、Oの極端な制限は溶製コストを増加させる。このため、O含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。
【0044】
Ti:0.0200%以下
Zr:0.0200%以下
Hf:0.0200%以下
V:0.500%以下
W:1.000%以下
Sn:0.050%以下
Zn:0.0020%以下
Pb:0.0010%以下
Ti、Zr、Hf、V、W、Sn、Zn、およびPbは、熱膨張特性に悪影響を及ぼす不純物元素であるので、その含有量は低いことが好ましい。このため、Ti含有量は、0.0200%以下とする。Zr含有量は、0.0200%以下とする。Hf含有量は、0.0200%以下とする。V含有量は、0.500%以下とする。W含有量は、1.000%以下とする。Sn含有量は、0.050%以下とする。Zn含有量は、0.0020%以下とする。Pb含有量は、0.0010%以下とする。なお、これらの元素は、含有されないこともある。
【0045】
Ta:0~1.0%
Taは、Nbと同様に、強度を向上させる元素であるとともに、溶接時の溶接金属の割れを防止して、溶接施工性を向上させる元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taを過剰に含有させると、熱間加工性が低下し、熱膨張特性に悪影響が生じる。このため、Ta含有量は、1.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0046】
B:0~0.010%
Bは、熱間加工性を向上させる元素であるので、含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、熱膨張特性に悪影響が生じる。このため、B含有量は、0.010%以下とする。C、Nb含有量が、それぞれ0.04%以下、0.15%以下の場合は、Bを含有させなくてもよい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。B含有量は、0.0003~0.0030%の範囲とするのが好ましい。
【0047】
Ca:0~0.0050%
Mg:0~0.0030%
REM:0~0.050%
Ca、MgおよびREMは、いずれも合金材の熱間加工性を向上させるので、含有させてもよい。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させると、却って熱間加工性を低下させ、合金の清浄性を低下させる場合がある。このため、Ca含有量は、0.0050%以下とする。Mg含有量は、0.0030%以下とする。REM含有量は、0.050%以下とする。一方、上記効果を発現するためには、Ca含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。Mg含有量は、0.0003%以上とするのが好ましい。REM含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0048】
合金材の化学組成は、上記の各元素を、それぞれ規定される範囲で含有するとともに、下記の(2)式および(3)式を満足する必要がある。また、合金材の化学組成が、Taを含む場合には、さらに(4)を満足する必要がある。本発明合金材では、CおよびNbの双方を含有させることを成分的特徴としており、合金材中でNbC(Nb炭化物)を形成させる。この合金材の線膨張係数は、ΔC(=C-Nb/7.7-Ta/15)もしくはΔNb(=Nb-7.7C)とともに増加するため、ΔC、ΔNbそれぞれの値を上限値以下に規制する。TaはNbの同族元素であり、本合金材ではNbの一部を置換するようにTaが添加されることがあり、同様の理由でΔTa(=Ta-15C)の上限値を規制する。
ΔC≦0.045 (2)
ΔNb≦0.30 (3)
ΔTa≦0.30 (4)
ただし、上記式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)である。
【0049】
合金材の化学組成は、上記の各元素を含み、残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物とは、合金を工業的に製造する際に、原料、製造設備などの要因により混入する成分を意味する。
【0050】
(合金材のキュリー温度)
合金材は、下記の(1)式を満たす必要がある。
≦T-2 (1)
ただし、Tは前記合金材のキュリー温度(℃)であり、Tは前記合金材を900℃で1分均熱した後、600~300℃の温度域における平均冷却速度が0.2℃/sとなる条件で冷却した後の合金材のキュリー温度(℃)である。
【0051】
上記(1)式は、600~300℃の温度域における、合金材の板厚中心部の平均冷却速度が2.0℃/s以上となる条件で冷却されたことを示す指標である。すなわち、このような熱処理が施された合金材であれば、不純物の混入に起因する膨張係数の増加を相殺できるので、原料中の不純物元素濃度規制を緩和しつつ、熱膨張率を低く抑えることができる。
【0052】
なお、TおよびTの測定については、例えば、以下の手順で行えばよい。具体的には、熱延合金材から機械加工により板厚3mm×幅5mm×長さ1mmの寸法の合金片を切り出し、表面をエメリー湿式#600仕上げにより表面加工層を除去して試験片Aとする。
【0053】
同様に、熱延合金材から機械加工により板厚3mm×幅8mm×長さ12mmの寸法の試験片を切り出し、表面に熱電対を溶着して、900℃で1分均熱後に、600~300℃の区間の冷却速度が0.2℃/sとなる条件の熱サイクルを加える。熱サイクルを加えた試験片から機械加工により板厚3mm×幅5mm×長さ1mmの寸法の試験片を切り出し、表面をエメリー湿式#600にて研磨して表面加工層を除去して、試験片Bを得る。
【0054】
得られた試験片Aおよび試験片Bを用いて、試料温度を上昇させることができる振動式磁力計(VSM)により各試験片の板厚方向を磁場印加方向、長さ方向を試料振動方向に設定し、40000A/m(500 Oe)の磁場の中で、磁化の温度変化を測定する。昇温速度を3℃/分とし、室温から300℃まで昇温しながら試料の磁化の温度依存性を測定し、磁化が消失する温度を対室温相対磁化の曲線から外挿してTおよびTを求める。
【0055】
(合金材のミクロ組織)
本合金材では、CおよびNbを含有させており、合金中に微細なNbCが析出する。粗大なNbCは、共晶融解による溶接割れ感受性を助長するおそれがあるので、合金材中に析出するNbCの平均直径(円相当直径)は、1μm以下であることが好ましい。なお、本合金材では、微細なNbCの分散が合金板の強度を上昇させる作用を有する。このため、NbCは微細なほど好ましい。しかしながら、NbCの平均直径が0.002μm未満になると合金板の強度向上効果が十分に得られない。このため、NbCの平均直径は、0.002μm以上とするのが好ましい。NbCの平均直径は、合金のNb、C含有量、鋳造時の冷却速度、熱間圧延の加熱温度、圧延温度、板厚およびその後の冷却速度や、熱処理の昇温速度、均熱温度、均熱時間などにより変化し、一般的にはCとNbの含有量が多いほど、熱間圧延の加熱温度が低いほど、熱処理の均熱時間が長いほど、その平均直径が大きくなる傾向にある。NbCの平均直径は、抽出レプリカ法や薄膜による透過電子顕微鏡による組織観察を行い、測定することができる。
【0056】
(降伏応力)
本合金材では、降伏応力は、240MPa以上とする。降伏応力が、240MPa未満であると、溶接構造物として十分な強度が得られず、溶接施工の際に、十分な自由度を得にくくなる。このため、本合金材の降伏応力は、240MPa以上とする。降伏応力は、260MPa以上とするのがより好ましい。なお、降伏応力の上限は、特に限定しないが、本合金材の場合、通常、450MPa以下となることが多い。なお、本合金材において降伏応力は、JIS Z 2241:2011に準拠して、引張試験を行った際の0.2%耐力とする。
【0057】
(板厚)
本合金材では、板厚は、3.0mm以上とする。板厚が、3.0mm未満であると、溶接施工の際に、十分な自由度を得にくくなる。このため、板厚は、3.0mm以上とする。板厚は、4.0mm以上とするのが好ましく、6.0mm以上とするのがより好ましい。なお、板厚の上限は、特に限定しないが、溶接施工性を考慮し、80mm以下とするのが好ましい。
【0058】
(合金材の製造方法)
合金材を得るための製造方法については、以下記載の条件で製造するのが好ましい。滅間圧延の際の条件については、特に、限定しない。通常の溶製条件により得た鋳塊を通常の熱延条件により圧延して製造することができる。熱延条件としては、例えば、Nb、Cが固溶する1050~1250℃に加熱後、合金材の再結晶温度である900~1100℃の温度域、もしくは900~700℃の未再結晶温度域にかけて圧延することが挙げられる。圧下率は、目的とする強度その他の条件に応じて決めればよい。
【0059】
ただし、熱間圧延後の冷却条件、または、熱処理後の冷却条件については、低熱膨張率を発現するために重要である。すなわち、600~300℃の温度域における、合金材の板厚中心部の平均冷却速度が2.0℃/s以上となる条件で行う必要がある。600~300℃の温度域における、合金材の板厚中心部の平均冷却速度が2.0℃/s未満では、原料中の不純物元素濃度を十分に規制しなければ、熱膨張率を低く抑えることができなくなる。
【0060】
合金材に行う熱処理における冷却工程は、合金材の板厚をt(mm)とするとき、35℃以下である冷却水の水量密度(m/m・分)が[0.11ln(t)+0.02]以上となるように合金材に冷却水を噴射する必要がある。これは、対象である合金材の厚さが3~80mmであり、十分な水量密度での冷却でなければ、上記の冷却速度を実現できないからである。
【0061】
また、熱間圧延後に冷却し、熱処理を行わず製造される場合には、同様に、合金材の板厚をt(mm)とするとき、35℃以下である冷却水の水量密度(m/m・分)が[0.11ln(t)+0.02]以上となるように合金材に噴射する必要がある。
【0062】
なお、本発明の合金材は、基本的に、熱間圧延直後に水冷して製造されるか、熱間圧延後に、再加熱し、保持する熱処理を実施して製造されるが、熱間圧延直後に水冷した後、再加熱し、保持する熱処理を実施することを妨げない。熱間圧延後および熱処理後の双方に水冷を行う場合には、少なくとも熱処理後の水冷が、上記の冷却条件を満足しておれば足りる。また、本発明の合金材は溶接構造物等に用いられることから、上述したように、降伏応力を240MPa以上と高める必要がある。この観点から、熱間圧延後に熱処理を実施する場合は、均熱温度を950℃以下にすることが好ましい。
【0063】
この後、すなわち、熱間加工後の冷却工程の後、または、熱処理における冷却工程の後、合金材の反り等を強制するため、レベラー矯正を行ってもよい。レベラー矯正は、合金材の特性を大幅に変えない範囲で行うのが好ましく、例えば、常温の降伏応力(0.2%耐力)の上昇が3MPa以上、50MPa以下と値となるような条件で、行うのが好ましい。
【実施例1】
【0064】
表1および2に示す化学組成を有する合金を真空溶解炉により溶製し、最終製品(合金材)の板厚に応じて、肉厚48mmの17kg扁平鋼塊または肉厚110mmの50kg角鋼塊を得た。
【0065】
最終製品の板厚が20mm以下の例については、肉厚48mmの17kg扁平鋼塊の表面を切削して、44mm厚の圧延素材とし、この圧延素材を熱間圧延して、板厚4mm~20mmの熱延合金板を作製した。一方、最終製品の板厚40mmと板厚80mmの例については、肉厚110mmの50kg角鋼塊を熱間鍛造して、板厚100mmまたは板厚160mmの圧延素材とし、これらの圧延素材を熱間圧延して、それぞれ板厚40mmまたは板厚80mmの熱延合金板を作製した。得られた熱延合金板の一部は、一旦、室温まで放冷し、その後、種々の温度で保持する熱処理を行い、種々の条件で水スプレー冷却した。また、得られた熱延合金板の残部は、そのまま水スプレー等により冷却した。
【0066】
熱処理を行った例について、熱延合金板の側面から板厚中央に向けて穴を形成し、熱電対をその穴に挿入した状態で熱処理を行い、その後、熱延合金板の板厚中心部の温度測定しながら、300℃以下になるまで冷却した。なお、スプレー冷却に用いた冷却水の水温は20~25℃の範囲にあった。熱延合金板に噴射する水量密度は、冷却水供給装置の圧力を操作することで冷却水量を種々変更して、単位時間(分)、単位面積あたりの水量密度を調整した。
【0067】
図1には、熱延合金板の板厚と、熱延合金板の板厚中心部における冷却速度を2.0℃/s以上にするための水量密度(m/m・分)との関係を示す。図1に示すように、熱延合金板の板厚をt(mm)とするとき、熱延合金板の板厚中心部における冷却速度を2.0℃/s以上にするためには、35℃以下である冷却水の水量密度(m/m・分)が[0.11ln(t)+0.02]以上となるように前記合金材に噴射する必要がある。また、一部の熱延合金材については、矯正を行った。各種製造条件を表3に示す。なお、表3中の板厚は、熱延合金板の板厚である。なお、水量密度が0.00の場合は、水冷しなかったことを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
得られた鋼塊または熱延合金材に下記の各種試験を行った結果を表4に示す。なお、得られた本発明例の3、10、13および23の合金材について、NbCの平均直径を測定したところ、全て、1μm以下であった。
【0072】
(絞り)
肉厚48mmの17kg扁平鋼塊または肉厚110mmの50kg角鋼塊の表層部より8mmφ×110mmLの平滑高温引張試験片を採取した。高周波加熱により試験片中央部の14mmL部分を1180℃で30秒加熱し、900℃まで降温して10秒保持した後、20mm/sの速度で引張破断させ、断面収縮率:絞り(%)を測定した。その結果を表1に示す。絞りは、60%以上という条件を満たす場合を良好として評価した 。
【0073】
(キュリー温度の測定)
得られた熱延合金材から機械加工により板厚3mm×幅5mm×長さ1mmの寸法の合金片を切り出し、表面をエメリー湿式#600仕上げにより表面加工層を除去して試験片Aとした。
【0074】
一方、得られた熱延合金材から機械加工により板厚3mm×幅8mm×長さ12mmの寸法の試験片を切り出し、表面に熱電対を溶着して、900℃で1分均熱後に、600~300℃の区間の冷却速度が0.2℃/sとなる条件の熱サイクルを加えた。熱サイクルを加えた試験片から機械加工により板厚3mm×幅5mm×長さ1mmの寸法の試験片を切り出し、表面をエメリー湿式#600にて研磨して表面加工層を除去して、試験片Bを得た。
【0075】
得られた試験片Aおよび試験片Bを用いて、試料温度を上昇させることができる振動式磁力計(VSM)により各試験片の板厚方向を磁場印加方向、長さ方向を試料振動方向に設定し、40000A/m(500 Oe)の磁場の中で、磁化の温度変化を測定した。昇温速度を3℃/分とし、室温から300℃まで昇温しながら試料の磁化の温度依存性を測定し、磁化が消失する温度よりキュリー温度TおよびTを求めた。なお、Tは各種合金材のキュリー温度(℃)であり、Tは各種合金材を900℃で1分均熱した後、600~300℃の温度域における、合金材の板厚中心部の平均冷却速度が0.2℃/sとなる条件で冷却した後の合金材のキュリー温度(℃)である。
【0076】
図2には、合金番号1の合金材における磁化(対室温相対磁化および磁化の逆数)の温度変化を示す図である。図2に示すように、キュリー温度TおよびTは、磁化が消失する温度を対室温相対磁化の曲線から外挿して求めた。すなわち、この例においては、温度上昇に伴い直線的に減少する部分の延長線と、対室温相対磁化がゼロである直線との交点から、キュリー温度(図2中ではTcと記載する。)は244℃とする。表には、キュリー温度TおよびTならびにこれらの差を示す。
【0077】
(機械的強度)
JIS Z 2241:2011に準拠して、常温(20℃±15℃)、大気中にて引張試験を実施して、引張強さTS(MPa)および降伏応力YS(MPa)を求めた。YSが240MPa以上である場合を良好として評価した。なお、降伏応力は、0.2%耐力とした。
【0078】
(熱膨張率)
得られた熱延合金板の板厚中心部から径3mm×長さ15mmの形状の試験片を採取し、押棒式熱膨張計を用いて室温から-170℃までの平均線膨張係数を求めた。平均線膨張係数は、1.5x10-6/K以下である場合を良好として評価した。
【0079】
【表4】
【0080】
表4に示すように、本発明の条件をすべて満たす例1~37では、絞り、強度および線膨張係数のいずれにおいても良好であった。一方、本発明の条件を満たさない例38~52では、少なくとも線膨張係数の性能に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、低い熱膨張特性を維持しつつ、合金材を用いた溶接構造物を製造する際の溶接施工性の自由度を向上することができる、合金材およびその製造方法を安価に提供することができる。本発明の合金材は、例えば、極低温環境の構造物などでの室温から極低温への温度変化に起因した変形を抑制することができ、また、配管類、構造物として製造する時の溶接作業性を向上することができる。
図1
図2