IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

特許7460763ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法
<>
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図1
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図2
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図3A
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図3B
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図4
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図5A
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図5B
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図6A
  • 特許-ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法 図6B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G05B19/4093 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022519625
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 JP2021017417
(87)【国際公開番号】W WO2021225148
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020082749
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佳之
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-34254(JP,A)
【文献】特開2017-204072(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157456(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置であって、
加工プログラムに基づいて加工装置に対する加工指令を行う主制御部と、
前記加工プログラムを先読みする加工プログラム読出部と、
前記内面加工の終了後の前記加工工具の移動経路を設定する工具移動経路設定部と、
を備え、
前記工具移動経路設定部は、
先読みした前記加工プログラムに基づいて、前記内面加工の終了後の前記加工工具の前記凹部に対する退避位置を設定する工具退避位置設定部と、
前記内面加工の終了時における前記加工工具に取り付けられた刃先の停止角度を、前記退避位置から前記加工工具が移動する移動方向に基づいて設定する刃先停止角度設定部と、
前記内面加工の終了時における前記加工工具の停止位置から前記退避位置までの退避経路を設定する工具退避経路設定部と、
を含み、
前記停止角度は、前記刃先の先端が向く方向が、前記移動方向と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲内となるように設定されている
数値制御装置。
【請求項2】
前記停止角度は、前記刃先の先端が向く方向が、前記移動方向と同一直線上で反対方向となる角度に設定されている
請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記退避経路は、前記停止位置から前記加工工具の回転軸を平行移動させる方向への第1退避経路と、前記退避位置に向かう第2退避経路と、をさらに含む
請求項1又は2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記平行移動の移動量は、加工された前記凹部の形状に対応して決定される
請求項3に記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記ワークには、予め複数の凹部が形成されており、前記移動方向は、前記内面加工が終了した凹部における退避点と次に加工される凹部の加工開始点とを結ぶ方向として設定される
請求項1~4のいずれか1項に記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記凹部は複数のワークに予め形成されており、前記移動方向は、前記内面加工が終了した凹部における退避点と次に加工される凹部の加工開始点とを結ぶ方向として設定される
請求項1~4のいずれか1項に記載の数値制御装置。
【請求項7】
ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法であって、
加工プログラムを先読みして、前記内面加工の終了後の前記加工工具の移動経路を設定する工具移動経路設定動作を含み、
前記工具移動経路設定動作は、
先読みした前記加工プログラムに基づいて、前記内面加工の終了後の前記加工工具の前記凹部に対する退避位置を設定するステップと、
前記内面加工の終了時における前記加工工具に取り付けられた刃先の停止角度を、前記退避位置から前記加工工具が移動する移動方向に基づいて設定するステップと、
前記内面加工の終了時における前記加工工具の停止位置から前記退避位置までの退避経路を設定するステップと、
をさらに含み、
前記停止角度は、前記刃先の先端が向く方向が、前記移動方向と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲内となるように設定されている
数値制御方法。
【請求項8】
前記停止角度は、前記刃先の先端が向く方向が、前記移動方向と同一直線上で反対方向となる角度に設定されている
請求項7に記載の数値制御方法。
【請求項9】
前記退避経路は、前記停止位置から前記加工工具の回転軸を平行移動させる方向への第1退避経路と、前記退避位置に向かう第2退避経路と、をさらに含む
請求項7又は8に記載の数値制御方法。
【請求項10】
前記平行移動の移動量は、加工された前記凹部の形状に対応して決定される
請求項9に記載の数値制御方法。
【請求項11】
前記ワークには、予め複数の凹部が形成されており、前記移動方向は、前記内面加工が終了した凹部における退避点と次に加工される凹部の加工開始点とを結ぶ方向として設定される
請求項7~10のいずれか1項に記載の数値制御方法。
【請求項12】
前記凹部は複数のワークに予め形成されており、前記移動方向は、前記内面加工が終了した凹部における退避点と次に加工される凹部の加工開始点とを結ぶ方向として設定される
請求項7~10のいずれか1項に記載の数値制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの機械加工において、当該ワークに予め形成された凹部(例えば、穴加工や溝加工のための下穴)の内面を所定の形状に加工する内面加工が行われることがある。このような内面加工としては、ボーリング加工(中ぐり加工)等の手法が知られている。
【0003】
このような凹部への内面加工を終了した工具を次の指令点に向けて移動させる制御を行う場合、加工装置の制御装置は、内面加工が終了した凹部から加工工具をいったん退避させた後、上記した指令点に向けた経路に沿って加工工具とワークとの相対移動を制御している。このような加工として、ワークの複数個所に形成された凹部を結ぶ連続的な加工経路に沿って加工工具とワークとの相対移動を制御するような場合が例示できるが、このとき、加工終了後の凹部から次に加工される凹部への加工プログラム上の指令点は、2つの凹部の中心あるいは重心を結ぶ直線的に構成されるのが一般的である。
【0004】
こうした内面加工の一例として、特許文献1には、ワークを切削する回転工具を保持した工具ヘッドと、ワークを支持するテーブルと、工具ヘッドに切削方向への送りを付与する送り手段と、ワークの基準面からの目標切り込み量を設定する手段と、工具ヘッドを目標切り込み量に達する手前の位置まで送るための仮切削位置を設定する手段と、一対のセンサを有し、ワークの基準面と回転工具によって仮切削された切削面とにそれぞれ接触してそれらの位置を検出し、両位置の差をもってワークの基準面からの切り込み量を測定する測定手段と、この測定手段により測定された仮切削による切り込み量を目標切り込み量から差し引いて残りの切り込み量を算出する算出手段と、工具ヘッドを仮切削位置まで送る仮切削を行わせるとともに、その後、工具ヘッドをこの仮切削により切削された切削面の位置に算出された残りの切り込み量を加えた最終切削位置まで送る最終切削を行わせるように送り手段を制御する制御手段とを備えた一定深さ加工装置及び加工方法が開示されている。これにより、ワークを基準面からの切り込み量の誤差がほとんど生じることなく高精度に切削することができるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、ワークに形成された穴に対して中ぐり加工を行うワーク加工方法であって、穴の内周面に対してバニッシュツールにより粗加工を行う第1のステップと、粗加工後の穴の内周面に対してバイトにより切削加工を行う第2のステップと、切削加工後の穴の内周面に対してバニッシュツールにより仕上加工を行う第3のステップと、を有することを特徴とするワーク加工方法及び当該加工を行う加工装置が開示されている。
これにより、ワークの穴の内周面に対して、第2のステップでの切削加工後、第3のステップでバニッシュ加工を行う際、切削抵抗による穴の変形を抑えつつ、該バニッシュ加工を行うことで、なだらかな表面を形成することが可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-174320号公報
【文献】特開2018-51738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、通常の数値制御装置によるワークに形成された凹部の内面加工においては、当該内面加工を行う加工装置にワークの保持及び加工工具の移動に対する加工原点及び基準軸(例えばXYZの3軸)が設定されており、ワークと加工工具との相対移動は、これらの加工原点や基準軸に基づいて実行される。このとき、内面加工の加工プログラムにおいて、加工指令の記述を簡略化するために、1つの凹部(下穴)に対する内面加工が終了する際の加工工具の停止位置あるいは停止方向を、常に同一方向(例えば、常にX方向あるいは常に加工工具のプログラム原点に向く方向等)となるように設定する場合がある。
【0008】
しかしながら、内面加工の終了後に加工工具を凹部から退避して所定の移動方向に移動する際に、加工工具の停止位置あるいは停止方向を常に同一方向とすると、加工工具が加工後の凹部から退避する「逃げ動作」において次の指示点への移動経路と同一のベクトル成分を含まない方向に加工工具を動かさなければならない事象が生じる。このため、凹部への内面加工を制御する場合、加工後の加工工具の移動経路が増加することにより、結果として加工プログラム全体での加工工具の移動経路が増大してしまうという問題があった。
【0009】
このような経緯から、ワークに予め形成された凹部の内面加工を実行する際に、当該内面加工の終了後の加工工具の移動経路が増大するのを避けることができる数値制御装置及び数値制御方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置は、加工プログラムに基づいて加工装置に対する加工指令を行う主制御部と、加工プログラムを先読みする加工プログラム読出部と、内面加工の終了後の加工工具の移動経路を設定する工具移動経路設定部と、を備え、当該工具移動経路設定部は、先読みした加工プログラムに基づいて、内面加工の終了後の加工工具の凹部に対する退避位置を設定する工具退避位置設定部と、内面加工の終了時における加工工具に取り付けられた刃先の停止角度を、上記退避位置から加工工具が移動する移動方向に基づいて設定する刃先停止角度設定部と、内面加工の終了時における加工工具の停止位置から退避位置までの退避経路を設定する工具退避経路設定部と、を含み、上記停止角度は、刃先の先端が向く方向が、加工工具の移動方向と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲内となるように設定されている。
【0011】
また、本発明の一態様による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法は、加工プログラムを先読みして、内面加工の終了後の加工工具の移動経路を設定する工具移動経路設定動作を含み、当該工具移動経路設定動作は、先読みした加工プログラムに基づいて、内面加工の終了後の加工工具の凹部に対する退避位置を設定するステップと、内面加工の終了時における加工工具に取り付けられた刃先の停止角度を、上記退避位置から加工工具が移動する移動方向に基づいて設定するステップと、内面加工の終了時における加工工具の停止位置から退避位置までの退避経路を設定するステップと、をさらに含み、上記停止角度は、刃先の先端が向く方向が、加工工具の移動方向と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲内となるように設定されている。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明の一態様によれば、先読みした加工プログラムに基づいて、内面加工の終了後の加工工具の凹部に対する退避位置を設定する動作と、内面加工の終了時における加工工具に取り付けられた刃先の停止角度を、上記退避位置から加工工具が移動する移動方向に基づいて設定する動作と、内面加工の終了時における加工工具の停止位置から退避位置までの退避経路を設定する動作と、を実行し、その際の停止角度として、刃先の先端が向く方向が、加工工具の移動方向と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲内となるように設定されていることにより、ワークに予め形成された凹部の内面加工を実行する際に、当該内面加工の終了後の加工工具の移動経路が増大するのを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置とその周辺装置との関連を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。
図3A図2のA1-A1断面による部分断面図である。
図3B図2のA1-A1断面による部分断面図である。
図4】第1の実施形態による、数値制御装置が実行する加工工具の凹部からの退避動作における工具停止角度と工具退避経路を特定するフローの一例を示すフローチャートである。
図5A】第2の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。
図5B】第2の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。
図6A】第3の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。
図6B】第3の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な一例による、複数の凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置及び数値制御方法の実施形態を図面と共に説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の代表的な一例である、第1の実施形態によるワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御装置とその周辺装置との関連を示すブロック図である。また、図2は、第1の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。さらに、図3A及び図3Bは、図2のA1-A1断面による部分断面図である。
【0016】
ここで、本願明細書における「内面加工」とは、ワークWに予め加工された穴又は溝(これらを単に「下穴」と称する)の内面をさらに切削あるいは仕上げ加工する技術を含むものであり、ボーリング加工等の上面視で回転する加工工具から周方向に突出した刃先が凹部の内面に接触しかつ回転主軸の中心が動かない加工技術が例示できる。また、本願明細書において、凹部への内面加工を行うための加工プログラムには、加工工具がその一連の加工の前後で加工装置10の加工原点あるいは所定の指定点(例えば、図2に示す開始点SP1と終了点SP2)に位置する(戻る)動作を含むものとする。
【0017】
図1に示すように、数値制御装置100は、その一例として、外部記憶装置20に蓄積されている加工プログラムに基づいて加工装置(制御対象物)10に対する加工指令を行う主制御部110と、外部記憶装置20から加工プログラムを先読みする加工プログラム読出部120と、ワークWに形成された凹部H1に対する加工前後での加工工具14の移動経路を設定する工具移動経路設定部130と、を備える。数値制御装置100は、加工装置10あるいは外部記憶装置20と有線又は通信回線等を介して相互に通信可能に接続され、加工装置10に各種の制御指令を発するとともに、当該加工装置10に取り付けられた各種センサ(図示せず)からの検出信号を受信可能に構成されている。なお、数値制御装置100は、図示しない各種の入力装置や表示装置等の付属機器と接続され、あるいはこれらを含む構成としても良い。
【0018】
ここで、加工装置10は、上記した「内面加工」を行うことができるものであれば、その構成を問うものではないが、その一例として、ワークWを保持する加工テーブルと、回転部材12を保持して回転させるスピンドル等の回転機構を備えた構成が適用できる。そして、加工装置10は、数値制御装置100からの制御指令信号に基づいて、加工テーブルあるいは回転機構の位置を数値制御することにより、内面加工の加工動作及び加工工具の退避動作を含む工具移動動作を実行する。
【0019】
また、図2に示すように、加工工具14は、略円柱状あるいは略円筒状の回転部材12の下端部に刃先14aが放射状に突出する態様で取り付けられており、当該回転部材12の回転に伴ってその外周を公転する。そして、回転部材12は加工装置10のスピンドル等の回転機構(図示せず)に取り付けられており、ワークWに対して3次元の相対移動を行うことができるように構成されている。これにより、回転する加工工具14の刃先14aがワークWに形成された凹部Hの内面Haに接触して内面加工を実施する。
【0020】
主制御部110は、制御対象物10に対して動作指令信号を発する手段であって、その一例として、後述する加工プログラム読出部120で読み出された加工プログラムのブロックと工具移動経路設定部130で生成された加工工具14の移動指令とを組み合わせて、加工装置10に発信される制御指令信号を生成する機能や、加工装置10に設けられた各種センサ(図示せず)からの検出信号を受信してその検出値に応じて制御指令信号を修正する機能等を含む。また、主制御部110は、必要に応じて外部記憶装置20に保存された制御プログラムを追加あるいは修正する機能を含んでもよい。
【0021】
加工プログラム読出部120は、その一例として、外部記憶装置20から加工プログラムのブロックを逐次先読みして解析することにより、当該先読みした加工プログラムのブロックにどのような制御指令が含まれているかを判別する機能と、先読みした加工プログラムのブロックを一時的に記憶・保存する機能と、を含む。そして、加工プログラム読出部120は、先読みした加工プログラムのブロックに加工終了指令が含まれない場合、そのブロックを主制御部110に送るとともに、加工終了指令が含まれる場合は、それ以降に読み出したブロックを主制御部110と並行して後述する工具移動経路設定部130に送る。
【0022】
工具移動経路設定部130は、加工プログラム読出部120から受け取った加工プログラムのブロックに基づいて、内面加工の終了後の加工工具14の凹部Hに対する退避位置P2(図3B参照)を設定する工具退避位置設定部132と、内面加工の終了時における加工工具14に取り付けられた刃先14aの停止角度を、上記退避位置P2から加工工具14が次に移動する移動方向MD2に基づいて設定する刃先停止角度設定部134と、内面加工の終了時における加工工具14の停止位置P1から退避位置P2までの退避経路ERを設定する工具退避経路設定部136と、を含む。また、工具移動経路設定部130は、加工プログラム読出部120で先読みされた加工プログラムのブロックが加工終了指令であると判別された場合に、当該加工終了指令以降のブロック群を受け取り、当該ブロック群を一時的に蓄積する機能を備えている。ここで、図2に示すように、移動方向MD2は、その一例として、上述したとおり加工プログラムに含まれている、加工の前後で加工工具14が加工装置10における加工工具のプログラム原点あるいは所定の指定点(図2の符号SP2参照)に位置する(戻る)動作による加工工具14の移動する方向を意味する。
【0023】
工具退避位置設定部132は、上記のとおり一時的に蓄積された加工プログラムのブロック群に含まれる制御指令を解析し、現在加工している凹部Hから加工後に加工工具14が指定点SP2に移動する際の移動開始位置(退避位置P2)を特定してその代表点を設定する。このとき、図2に示すように、退避位置P2を示す代表点としては、その一例として、例えば、加工工具14を取り付けた回転部材12の下端部における回転中心CPが位置する退避点EPを用いることができる。
【0024】
刃先停止角度設定部134は、加工プログラムに含まれる加工終了指令に伴って、例えば加工中の凹部H1で回転部材12の回転を停止して加工工具14の「逃げ動作」を実行する際に、当該加工工具14の先端に取り付けた刃先14aの停止時に向く角度(停止角度)を設定する機能を有する。ここで、刃先14aの「停止角度」は、その一例として、回転部材12の回転軸(図2における回転中心CPを通る軸)に直交する平面において、所定の軸方向(例えばワークWを保持するテーブルのX方向等)を基準軸とし、当該基準軸に対して0°~360°の間での絶対角度として定義できる。
【0025】
本願発明において、上記のように定義した刃先14aの停止角度は、例えば図2において、刃先14aの先端が向く方向TDが、凹部Hから上記した移動方向MD2と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲SR内となるように設定されている。その一例として、図2に示す具体例において、停止範囲SRは、移動方向MDに対して回転部材12の円周方向に直交する180°の範囲となるように設定される。これにより、図3Bに示すように、内面加工の終了後に回転部材12に取り付けられた加工工具14の刃先14aが凹部Hの内面Haから離れる際に、移動方向MD2と同一のベクトル成分を有する方向(すなわち、移動方向MD2と逆行しない方向)に常に退避動作することとなるため、加工工具14の移動経路が増大することがない。
【0026】
なお、図2に示すように、上記した停止角度は、刃先14aの先端が向く方向TDが、移動方向MD2と同一直線上で反対方向となる角度に設定されるのが好ましい。これにより、刃先14aの停止角度を、移動方向MD2を基準として平易に設定できるため、追加的な演算を必要とせず、またプログラム作成者の負担を軽減することも可能となる。
【0027】
工具退避経路設定部136は、図3Bに示すように、例えば凹部Hで内面加工が終了したときの加工工具14の停止位置P1から、工具退避位置設定部132で設定した退避位置P2に向けて回転部材12及び加工工具14を退避させる退避経路ERを作成して設定する機能を有する。その一例として、図3Bに示す具体例では、退避経路ERは、停止位置P1における回転中心CPと退避位置P2における退避点EPとを直線的に結ぶ線として設定される。
【0028】
これらの処理の後、工具移動経路設定部130は、工具退避経路設定部136で設定した退避経路ERによる退避動作を含む凹部Hから指定点(終了点)SP2までの移動経路を工具移動経路設定動作として決定し、その動作情報を主制御部110に送る。そして、当該動作情報を受けた主制御部110は、当該移動経路に対応する加工工具14の移動指令を生成し、加工装置10に発信することにより、加工装置10の制御を実行する。
【0029】
図4は、第1の実施形態による、数値制御装置が実行する加工工具の凹部からの退避動作における工具停止角度と工具退避経路を特定するフローの一例を示すフローチャートである。ここで、図4に示すフローチャートは、主制御部110における加工指令動作と並行して実施可能なものであって、その一例として、主制御部110が実行する加工装置10への加工制御指令において加工プログラム読出部120が加工終了指令のブロックを判別した場合に、凹部への内面加工指令と並行して実行されるものであってもよい。
【0030】
図4に示すように、第1の実施形態による加工工具14の工具退避経路を特定する動作では、工具移動経路設定部130は、加工プログラム読出部120で先読みされた加工プログラムのブロックを受け取り(ステップS1)、一時的に蓄積する(ステップS2)。
続いて、工具退避位置設定部132において、現時点で蓄積されている加工プログラムのブロック群から、現在内面加工している凹部から次に加工工具14が移動する指示点SP2への移動方向MD2を特定する(ステップS3)。
【0031】
ここで、工具退避位置設定部132において、移動方向MD2を特定できたかどうかを判別する(ステップS4)。そして、ステップS4で移動方向MD2が特定できたと判別された場合、当該特定された移動方向MD2に基づいて現在加工している凹部に対する工具退避位置P2(あるいは退避点EP)を特定する(ステップS5)。
【0032】
このとき、退避点EPは、その一例として、例えば、指定点への移動方向に対する同一直線上において、現在加工している凹部上(例えば凹部H)に加工工具14の形状を投影した際の回転中心CPが一致する位置から選択される。一方、ステップS4で移動方向MD2が特定できたと判別されなかった場合、ステップS1に戻って加工プログラムのブロックの先読みと蓄積を再実行する。
【0033】
次に、刃先停止角度設定部134が、現在内面加工している凹部の加工終了時点での、加工工具14の刃先14aの刃先停止角度を設定する(ステップS6)。このとき、刃先停止角度は、従来と同様に予め加工プログラムで規定しておいても良いし、あるいは各種加工条件を用いた演算式を用いて算出しても良い。
【0034】
続いて、刃先停止角度設定部134は、ステップS6で設定した刃先停止角度が、上記した所定の停止範囲(図2の符号SR)内にあるかどうかを判別する(ステップS7)。
ステップS7において、設定した刃先停止角度が停止範囲SR内にあると判別された場合、刃先停止角度は適正であるとして、以後のステップに進む。
【0035】
一方、ステップS7において、設定した刃先停止角度が停止範囲SR外であると判別された場合、刃先停止角度が適正ではないとして、ステップS6に戻り、刃先停止角度の再設定を行う。この一連の動作により、本願発明の特徴の1つである内面加工終了時の刃先停止角度を所定の停止範囲内に設定することができる。
【0036】
次に、工具退避経路設定部136が、図3Bに示した加工工具14の停止位置P1から退避位置P2に至る退避経路ERを特定し(ステップS8)、工具移動経路設定部130が、ステップS8で特定した退避経路ERによる退避動作を含む工具移動経路設定動作の動作情報を主制御部110に送り(ステップS9)、ルーチンを終了する。そして、主制御部110は、当該工具移動経路設定動作の動作情報に基づいて工具移動動作を実行する。
【0037】
上記した構成及び動作により、本願の第1の実施形態による数値制御装置及び数値制御方法は、先読みした加工プログラムに基づいて、内面加工の終了後の加工工具の凹部に対する退避位置を設定する動作と、内面加工の終了時における加工工具に取り付けられた刃先の停止角度を、上記退避位置から加工工具が移動する移動方向に基づいて設定する動作と、内面加工の終了時における加工工具の停止位置から退避位置までの退避経路を設定する動作と、を実行し、その際の停止角度として、刃先の先端が向く方向が、加工工具の移動方向と同一方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲内となるように設定されていることにより、ワークに予め形成された凹部の内面加工を実行する際に、当該内面加工終了後の加工工具の移動経路が増大するのを避けることができる。
【0038】
<第2の実施形態>
図5A及び図5Bは、本発明の別の一例である、第2の実施形態によるワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。なお、第2の実施形態においては、図1で示したブロック図や図4で示したフローチャート等において、第1の実施形態と同一あるいは共通の構成を採用し得るものについては、同一の符号を付してこれらの繰り返しの説明は省略する。
【0039】
第2の実施形態においては、ワークに予め複数個形成された凹部について、これらを連続的に内面加工する場合の加工工具の移動を制御する場合を例示する。なお、「複数の凹部」としては、1つのワークWに複数個の下穴が形成された場合、あるいは凹部H1が形成された複数のワークWが加工装置に配置された場合のいずれをも含み得るものとする。
【0040】
第2の実施形態において、工具移動経路設定部130は、図5BのA2-A2断面による部分断面図に示すように、1つの凹部H1に対する内面加工が終了した加工工具14の停止位置P1から次に加工される凹部H2の加工開始位置P3に至るまでの移動経路を設定する。このとき、第1の実施形態で示した「加工工具が次に移動する移動方向」は、例えば、内面加工が終了した凹部における退避点と次に加工される凹部の加工開始点とを結ぶ線の方向(図5A及び図5Bの符号MD)として与えられる。
【0041】
工具退避位置設定部132は、上記のとおり一時的に蓄積された加工プログラムのブロック群に含まれる制御指令を解析し、今まで加工していた凹部H1から次に加工される凹部H2に加工工具14を移動させる際の移動開始位置(退避位置P2)を特定してその代表点を設定する。このとき、図5Bに示すように、退避位置P2を示す代表点としては、その一例として、加工工具14を取り付けた回転部材12の下端部における回転中心CPが位置する退避点EPが用いられる。
【0042】
刃先停止角度設定部134は、加工プログラムに含まれる加工終了指令に伴って、第1の実施形態の場合と同様に、加工工具14の先端に取り付けた刃先14aの停止時に向く角度(停止角度)を設定する。ここで、第2の実施形態において、刃先14aの停止角度は、刃先14aの先端が向く方向TDが、凹部H1から次に加工される凹部H2に向かう移動方向MDと同軸方向への移動ベクトル成分を有しないように定義された停止範囲SR内となるように設定されている。
【0043】
これにより、図5Bに示すように、内面加工の終了後に回転部材12に取り付けられた加工工具14の刃先14aが凹部H1の内面H1aから離れる際に、移動方向MDと同一のベクトル成分を有する方向(すなわち、移動方向MDと逆行しない方向)に常に退避動作することとなるため、加工工具14の移動経路が増大することがない。なお、第1の実施形態の場合と同様に、上記した停止角度は、刃先14aの先端が向く方向TDが、移動方向MDと同一直線上で反対方向となる角度に設定されるのが好ましい。
【0044】
工具退避経路設定部136は、図5Bに示すように、例えば凹部H1で内面加工が終了したときの加工工具14の停止位置P1から、工具退避位置設定部132で設定した退避位置P2に向けて回転部材12及び加工工具14を退避させる退避経路ERを作成して設定する機能を有する。その一例として、図5Bに示す具体例では、退避経路ERは、停止位置P1における回転中心CPと退避位置P2における退避点EPとを直線的に結ぶ線として設定される。
【0045】
これらの処理の後、工具移動経路設定部130は、第1の実施形態の場合と同様に、工具退避経路設定部136で設定した退避経路ERによる退避動作を含む凹部H1から凹部H2までの移動経路を凹部間の工具移動経路設定動作として決定し、その動作情報を主制御部110に送る。そして、当該動作情報を受けた主制御部110は、当該工具移動経路設定動作に対応する加工工具14の移動指令を生成し、加工装置10に発信することにより、加工装置10の制御を実行する。
【0046】
このような動作を実行することにより、第2の実施形態においては、第1の実施形態による数値制御装置及び数値制御方法で得られた効果に加えて、複数の凹部の間を連続的に内面加工していくような一連の加工工具の移動動作を制御することが可能となる。なお、1つの凹部(例えば凹部H1)の内面加工後の加工工具の移動方向MDは、次に加工される凹部(例えばH2)に向かう方向としてその都度規定されることになるため、一連の加工プログラムによる加工制御を停止することなく、かつプログラム作成者の負荷を増加させることなく、加工工具の移動制御を実行することができる。
【0047】
<第3の実施形態>
図6A及び図6Bは、本発明のさらに別の一例である、第3の実施形態による、ワークに予め形成された凹部に内面加工する加工工具の移動を制御する数値制御方法におけるワークと加工工具との相対移動の概要を示す図である。なお、第3の実施形態においても、図1で示したブロック図や図4で示したフローチャート等において、第1の実施形態と同一あるいは共通の構成を採用し得るものについては、同一の符号を付してこれらの繰り返しの説明は省略する。
【0048】
第3の実施形態においては、工具退避経路設定部136が設定する退避経路ERが、内面加工終了時の停止位置P1aから加工工具14を取り付けた回転部材12の回転軸を所定距離Dだけ平行移動した離間位置P1bまでの第1退避経路ER1と、この離間位置P1bから退避位置P2に至る第2退避経路ER2と、からなるように構成される。このとき、所定距離Dは、現在実施している加工プログラムや過去の加工プログラムの引数を用いる場合、加工工具14の回転半径に応じて決定する場合、あるいは制御装置ごとに設定する既定値として決定する場合等が考えられる。また、加工工具14の平行移動は、刃先14aが回転中心CPに向かう方向に行われる。
【0049】
このような動作を実行することにより、第3の実施形態においては、第1の実施形態による数値制御装置及び数値制御方法で得られた効果に加えて、内面加工の終了後にまず加工工具14を第1退避経路ER1の経路で凹部Hの内面Haから逃がすことができるため、逃げ動作において加工後の凹部Hの内面Haに傷を付けてしまうのを確実に避けることが可能となる。なお、図6Bに示すように、第1退避経路ER1による平行移動は、加工工具が次に移動する移動方向MD2と同一のベクトル成分を含む方向となるように実行されるため、加工工具の移動経路の増大は避けられる。
【0050】
また、図6Aに示した具体例では、第1退避経路ER1による平行移動の移動量Dとして、停止位置P1aでの回転中心CPが退避位置P2の退避点EPの直下となる位置までの距離となるように例示されているが、第3の実施形態の変形例として、当該移動量Dを任意に選択できるように構成してもよい。これにより、例えば凹部Hの内面加工において、深さ方向に切込み量が変化することにより、内面Haに凹凸が存在するような場合に、当該凹凸の突出量より大きな平行移動量Dを設定して、退避動作時に凹部Hの内面Haと加工工具14との接触を避けることが可能となる。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。本発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 加工装置
20 外部記憶装置
100 数値制御装置
110 主制御部
120 加工プログラム読出部
130 工具移動経路設定部
132 工具退避位置設定部
134 刃先停止角度設定部
136 工具退避経路設定部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B