(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】多重標的化組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/869 20060101AFI20240326BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240326BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20240326BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N15/869 Z ZNA
C12N7/01
A61K35/763
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2023509359
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 KR2021002155
(87)【国際公開番号】W WO2021251589
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0072979
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0071873
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522418495
【氏名又は名称】ジェンセルメッド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、ヒチョン
(72)【発明者】
【氏名】ベク、ヒョンジョン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0233758(US,A1)
【文献】国際公開第2020/113151(WO,A1)
【文献】Viruses,2018年,Vol.10, No.7:352,pp.1-29
【文献】Molecular Therapy,2011年,Vol.19, No.3,pp.507-514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルペスシン
プレックスウイルスの増殖を阻害することなくそのゲノムに、癌細胞標的分子に特異的に結合する標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質が多重に発現可能にその融合タンパク質の
アダプター発現カセットが
二つ以上挿入されている、多重標的化組換えヘルペスシン
プレックスウイルス
であって、
前記融合タンパク質のアダプター発現カセットが、前記ウイルスのゲノム中のUL3とUL4遺伝子の間、UL26とUL27遺伝子の間、UL48とUL49遺伝子の間、UL53とUL54遺伝子の間、又はUS1とUS2遺伝子の間に挿入されている、上記多重標的化組換えヘルペスシンプレックスウイルス。
【請求項2】
前記融合タンパク質の
アダプター発現カセットは、2個以上の融合タンパク質遺伝子を含み、これらの遺伝子の間にIRES(Internal Ribosome Entry Site)又は2Aペプチドを暗号化する核酸配列が位置するポリシストロン(polycistron)構成を有する、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項3】
前記融合タンパク質の
アダプター発現カセットは、モノシトロン(monocistron)構成を有し、2個以上
の発現カセットが前記ウイルスゲノムに挿入されている、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項4】
前記多重に発現する融合タンパク質は、(i)いずれも同一の標的分子に特異的に結合する標的化領域を有するか、(ii)互いに異なる標的分子に特異的に結合する互いに異なる標的化領域を有することを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項5】
前記HVEMの細胞外ドメインは、配列番号8又は9のアミノ酸配列
を含むHveA82、配列番号10又は11のアミノ酸配列
を含むHveA87、配列番号12又は13のアミノ酸配列
を含むHveA102、又は配列番号14又は15のアミノ酸配列
を含むHveA107であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項6】
前記融合タンパク質は、その癌細胞標的化領域とそのHVEM(HveA)の細胞外ドメインが、1~30個
のアミノ酸
を含むリンカーペプチドによって連結されている融合タンパク質であり、
前記リンカーペプチドのアミノ酸は、Ser、Gly、Ala及びThrのうち一つ以上のアミノ酸
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項7】
前記標的分子は、癌細胞でのみ発現する或いは正常細胞に比べて癌細胞で過発現する癌細胞表面の抗原又は受容体であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項8】
前記抗原又は受容体は、EGFRvIII、EGFR、メタスチン受容体(Metastin receptor)、受容体チロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinases)、HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)、チロシンキナーゼ-18-受容体(c-Kit)、HGF受容体c-Met、CXCR4、CCR7、エンドテリン-A受容体、PPAR-δ(peroxisome proliferator activated receptor δ)、PDGFR-α(Platelet-derived growth factor receptor α)、CD133、CEA(carcinoembryonic antigen)、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、MSLN(Mesothelin)、GD2(disialoganglioside)、GPC3(Glypican 3)、PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、TAG-72(tumor-associated glycoprotein 72)、GD3(disialoganglioside)、HLA-DR(human leukocyte antigen-DR)、MUC1(Mucin 1)、NY-ESO-1(New York esophageal squamous cell carcinoma 1)、LMP1(Latent membrane protein 1)、TRAILR2(tumor-necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand receptor)、VEGFR2(vascular endothelial growth factor receptor 2)、HGFR(hepatocyte growth factor receptor)、CD44又はCD166であることを特徴とする、請求項
7に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項9】
前記標的分子は、HER2であり、
前記標的化領域は、配列番号4のVHと配列番号5のVLがリンカーペプチドを媒介にしてVH、リンカーペプチド、VLの順に連結されたscFvであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項10】
前記標的分子は、EpCAMであり、
前記標的化領域は、配列番号6のVLと配列番号7のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に連結されたscFvであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項11】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスは、配列番号16のgD(glycoprotein D)
のアミノ酸配列
の222番位置のアルギニン
(R)と223番位置のフェニルアラニン
(F)がそれぞれアスパラギン
(N)とイソロイシン
(I)に置換されたことを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項12】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスは、組換えHSV-1ウイルス、組換えHSV-2ウイルス、又はHSV-1及びHSV-2キメラウイルスであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項13】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスは、HSV-1KOS菌株に由来する組換えHSV-1であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項14】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスにはヘルペスシン
プレックスウイルスの増殖を阻害することなくそのゲノムに、(i)サイトカイン、(ii)ケモカイン、(iii)免疫関門(immune checkpoint)に対する拮抗剤、(iv)免疫細胞の活性化を誘導可能な補助刺激因子(co-stimulatory factor)、(v)癌細胞に対する免疫反応を抑制するTGFβに対する拮抗剤、(vi)固形癌腫瘍微細環境を構成するヘパランサルフェートプロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)を分解可能なヘパラナーゼ(heparanase)、(vii)血管新生因子受容体であるVEGFR-2(VEGF receptor-2)の機能を阻害可能な拮抗剤、及び(viii)プロドラッグ(prodrug)を癌細胞に毒性を示す薬物(drug)に転換させるプロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)から選ばれるものを発現する
アダプター発現カセットがさらに挿入されていることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項15】
前記サイトカインは、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、IL-24などのインターロイキン、IFNα、IFNβ、IFNγなどのインターフェロン、TNFαなどの腫瘍壊死因子、GM-CSF、G-CSF及びFLT3Lのうち一つ以上であり、
前記ケモカインは、CCL2、RANTES、CCL7、CCL9、CCL10、CCL12、CCL15、CCL19、CCL21、CCL20及びXCL-1のうち一つ以上であり、
前記免疫関門は、PD-1(programmed cell death-1)、PD-L1(programmed cell death ligand 1)、PD-L2(programmed cell death-ligand 2)、CD27(cluster of differentiation 27)、CD28(cluster of differentiation 28)、CD70(cluster of differentiation 70)、CD80(cluster of differentiation 80)、CD86(cluster of differentiation 86)、CD137(cluster of differentiation 137)、CD276(cluster of differentiation 276)、KIR(killer-cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(lymphocyte-activation gene 3)、GITR(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)、GITRL(glucocorticoid-induced TNFR-related protein ligand)及びCTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antign-4)のうち一つ以上であり、
前記補助刺激因子は、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、LFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)、ICOS(誘導性T細胞共同刺激因子)、CD3γ、CD3δ及びCD3εのうち一つ以上であり、
前記プロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)は、シトシンデアミナーゼ(Cytosine deaminase)、ラットシトクロムP450(rat cytochrome P450,CYP2B1)、カルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)、細菌ニトロリダクターゼ(bacterial nitroreductase)及び大腸菌から分離されたPNP(purine nucleoside phosphorylase)のうち一つ以上であることを特徴とする、請求項14に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項16】
二つ以上のアダプター発現カセットの挿入位置が異なることを特徴とする、請求項14に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項17】
前記融合タンパク質は、NH
2-癌細胞標的化
領域-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である或いはその逆順であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項18】
前記融合タンパク質は癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインがリンカーペプチドを媒介にして連結され、前記融合タンパク質は、NH
2-癌細胞標的化領域-リンカーペプチド-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である或いはその逆順であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項19】
ヘルペスシン
プレックスウイルスの増殖を阻害することなく(i)そのゲノムに、癌細胞標的分子に特異的に結合する標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質であるアダプターを発現可能な発現カセットが一つ以上挿入されており、また(ii)その糖タンパク質に、癌細胞標的分子に特異的に結合する標的化領域が挿入されて融合して
おり、
前記糖タンパク質はgHであり、
前記糖タンパク質に挿入されて融合している標的化領域は、N末端から29番アミノ酸の次の位置に挿入されて融合しており、
前記融合タンパク質のアダプター発現カセットが、前記ウイルスのゲノム中のUL3とUL4遺伝子の間、UL26とUL27遺伝子の間、UL48とUL49遺伝子の間、UL53とUL54遺伝子の間、又はUS1とUS2遺伝子の間に挿入されている、多重標的化組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項20】
前記融合タンパク質の標的化領域と前記挿入されて融合している標的化領域は、(i)いずれも同一の標的分子に特異的に結合する標的化領域を有するか、(ii)互いに異なる標的分子に特異的に結合する互いに異なる標的化領域を有することを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項21】
前記HVEMの細胞外ドメインは、配列番号8又は9のアミノ酸配列
を含むHveA82、配列番号10又は11のアミノ酸配列
を含むHveA87、配列番号12又は13のアミノ酸配列
を含むHveA102、又は配列番号14又は15のアミノ酸配列
を含むHveA107であることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項22】
前記融合タンパク質は、その癌細胞標的化領域とそのHVEM(HveA)の細胞外ドメインが1~30個アミノ酸
を含むリンカーペプチドによって連結されている融合タンパク質であり、
前記リンカーペプチドのアミノ酸は、Ser、Gly、Ala及びThrのうち一つ以上のアミノ酸
を含むことを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項23】
前記標的分子は、癌細胞でのみ発現する或いは正常細胞に比べて癌細胞で過発現する癌細胞表面の抗原又は受容体であることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項24】
前記抗原又は受容体は、EGFRvIII、EGFR、メタスチン受容体(Metastin receptor)、受容体チロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinases)、HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)、チロシンキナーゼ-18-受容体(c-Kit)、HGF受容体c-Met、CXCR4、CCR7、エンドテリン-A受容体、PPAR-δ(peroxisome proliferator activated receptor δ)、PDGFR-α(Platelet-derived growth factor receptor α)、CD133、CEA(carcinoembryonic antigen)、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、MSLN(Mesothelin)、GD2(disialoganglioside)、GPC3(Glypican 3)、PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、TAG-72(tumor-associated glycoprotein 72)、GD3(disialoganglioside)、HLA-DR(human leukocyte antigen-DR)、MUC1(Mucin 1)、NY-ESO-1(New York esophageal squamous cell carcinoma 1)、LMP1(Latent membrane protein 1)、TRAILR2(tumor-necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand receptor)、VEGFR2(vascular endothelial growth factor receptor 2)、HGFR(hepatocyte growth factor receptor)、CD44又はCD166であることを特徴とする、請求項
23に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項25】
前記糖タンパク質に挿入されて融合する標的化領域が特異的に結合する標的分子は、HER2であり、
前記糖タンパク質に挿入されて融合する標的化領域は、配列番号4のVHと配列番号5のVLがリンカーペプチドを媒介にしてVH、リンカーペプチド、VLの順に連結されたscFvであることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項26】
前記糖タンパク質に挿入されて融合する標的化領域が特異的に結合する標的分子は、EpCAMであり、
前記標的化領域は、配列番号6のVLと配列番号7のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に連結されたscFvであることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項27】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスは、配列番号16のgD(glycoprotein D)
のアミノ酸配列
の222番位置のアルギニン
(R)と223番位置のフェニルアラニン
(F)がそれぞれアスパラギン
(N)とイソロイシン
(I)に置換されたことを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項28】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスは、組換えHSV-1ウイルス、組換えHSV-2ウイルス、又はHSV-1及びHSV-2キメラウイルスであることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項29】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスは、HSV-1KOS菌株に由来する組換えHSV-1であることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項30】
前記組換えヘルペスシン
プレックスウイルスにはヘルペスシン
プレックスウイルスの増殖を阻害することなくそのゲノムに、(i)サイトカイン、(ii)ケモカイン、(iii)免疫関門(immune checkpoint)に対する拮抗剤、(iv)免疫細胞の活性化を誘導可能な補助刺激因子(co-stimulatory factor)、(v)癌細胞に対する免疫反応を抑制するTGFβに対する拮抗剤、(vi)固形癌腫瘍微細環境を構成するヘパランサルフェートプロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)を分解可能なヘパラナーゼ(heparanase)、(vii)血管新生因子受容体であるVEGFR-2(VEGF receptor-2)の機能を阻害可能な拮抗剤、及び(viii)プロドラッグ(prodrug)を癌細胞に毒性を示す薬物(drug)に転換させるプロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)から選ばれるものを発現する発現カセットがさらに挿入されていることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項31】
前記サイトカインは、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、IL-24などのインターロイキン、IFNα、IFNβ、IFNγなどのインターフェロン、TNFαなどの腫瘍壊死因子、GM-CSF、G-CSF及びFLT3Lのうち一つ以上であり、
前記ケモカインは、CCL2、RANTES、CCL7、CCL9、CCL10、CCL12、CCL15、CCL19、CCL21、CCL20及びXCL-1のうち一つ以上であり、
前記免疫関門は、PD-1(programmed cell death-1)、PD-L1(programmed cell death ligand 1)、PD-L2(programmed cell death-ligand 2)、CD27(cluster of differentiation 27)、CD28(cluster of differentiation 28)、CD70(cluster of differentiation 70)、CD80(cluster of differentiation 80)、CD86(cluster of differentiation 86)、CD137(cluster of differentiation 137)、CD276(cluster of differentiation 276)、KIR(killer-cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(lymphocyte-activation gene 3)、GITR(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)、GITRL(glucocorticoid-induced TNFR-related protein ligand)及びCTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antign-4)のうち一つ以上であり、
前記補助刺激因子は、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、LFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)、ICOS(誘導性T細胞共同刺激因子)、CD3γ、CD3δ及びCD3εのうち一つ以上であり、
前記プロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)は、シトシンデアミナーゼ(Cytosine deaminase)、ラットシトクロムP450(rat cytochrome P450,CYP2B1)、カルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)、細菌ニトロリダクターゼ(bacterial nitroreductase)及び大腸菌から分離されたPNP(purine nucleoside phosphorylase)のうち一つ以上であることを特徴とする、請求項
30に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項32】
前記融合タンパク質の発現カセットは、前記ウイルスゲノムに、UL3とUL4遺伝子の間、UL26とUL27遺伝子の間、UL37とUL38遺伝子の間、UL48とUL49遺伝子の間、UL53とUL54遺伝子の間、US1とUS2遺伝子の間に挿入されていることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項33】
前記融合タンパク質は、NH
2-癌細胞標的化
領域-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である或いはその逆順であることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項34】
前記融合タンパク質は、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインがリンカーペプチドを媒介にして連結され、前記融合タンパク質はNH
2-癌細胞標的化領域-リンカーペプチド-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である或いはその逆順であることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項35】
前記融合タンパク質の発現カセットは、2個以上の融合タンパク質遺伝子を含み、これらの遺伝子の間にIRES(Internal Ribosome Entry Site)又は2Aペプチド
を暗号化する核酸配列が位置するポリシストロン(polycistron)構成を有し、1個
の発現カセットが挿入されていることを特徴とする、請求項
19に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルス。
【請求項36】
請求項1~
35のいずれか一項に記載の組換えヘルペスシン
プレックスウイルスを有効成分として含む
癌を治療するための医薬組成物。
【請求項37】
癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとが融合した組換えアダプター分子をさらに含む、請求項
36に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重標的化組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療には、現在まで、手術療法、抗癌化学療法、放射線療法などが広く用いられているが、その大部分が副作用を伴い、不完全な治療効果、癌の再発及び転移などの問題点を抱えている。このため、新しくて効果的な癌治療法の開発への要求が続いており、ここ数年、抗癌ウイルス、CAR-T細胞治療法(chimeric antigen receptor T cell therapy)などの抗癌免疫療法において急速な発展があった。
【0003】
抗癌免疫療法のうち、抗癌ウイルスは、生きているウイルスの遺伝子を操作して癌細胞で選択的に増殖して癌細胞を溶解する特性を有するウイルスであり、正常細胞での増殖は制限的である。癌細胞を溶解して放出されたウイルスは、周辺の癌細胞を継続して感染させるので、持続的で相乗的な治療効果を奏することができる。また、抗癌ウイルスは、癌細胞を溶解する過程で免疫原性を持つ腫瘍抗原が放出され、人体の免疫反応を刺激して抗癌効果を高めることができ、また、このような抗癌効果は、サイトカイン、ケモカインなどを発現するように人為的に操作することによって増進してもよい。
【0004】
現在、開発されている抗癌ウイルスは、アデノウイルスとヘルペスシンプルレックスウイルス(Herpes Simplex Virus,HSV)、ワクシニアウイルスを含めて10種以上に分類され、このうち、HSVは、152kbサイズの線状の二本鎖DNAを含む多面体性ウイルス(enveloped icosahedral virion)であり、HSV-1型とHSV-2型に分けられる。HSVは、多くの非必須遺伝子(non-essential genes)を有しており、ゲノムのサイズが大きいので、外部遺伝子の操作や運搬が容易であり、複製周期が短く、感染効率が高く、細胞付着と感染に関与する糖タンパク質の操作が容易であることにより、癌細胞に対する標的化を改善させることができる。
【0005】
2015年10月米国FDAの承認を受けたT-VEC(Talimogene Laherparepvec、製品名:イムリジック)は、HSV-1を用いた悪性黒色腫に対する抗癌ウイルス治療剤である。T-VECは病原性を弱化させるためにICP34.5とICP47遺伝子が欠失しており、人体免疫反応を促進させるためのGM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor)を発現する弱化した(attenuated)HSV-1型ウイルスである。しかし、T-VECは、一の部遺伝子が消失することによってウイルス増殖が制限され、治療効能が低いという限界点を有する。
【0006】
HSVは、外皮(envelope)を持つウイルスであり、HSVの細胞進入は、外皮に存在する糖タンパク質gD、gB、gH/gL及びgCの複雑な相互作用によってなされる。まず、gBとgCが細胞表面の3-O-S HS(3-O-sulfated heparan sulfate)に付着すると、gDが細胞受容体であるHVEM(herpesvirus entry mediator,HveA)、ネクチン-1(nectin-1,HveC)、ネクチン-2(nectin-2,HveB)のうち少なくとも一つの受容体に結合してウイルスと細胞膜間の融合を誘導することによってHSVが細胞に進入する(Hiroaki Uchida et al.,Generation of Herpesvirus Entry Mediator(HVEM)-restricted Herpes Simplex Virus Type 1 Mutant Viruses:Resistance of HVEM-expressing Cells and Identification of Mutations That Rescue nectin-1 Recognition.J Virol.2009 Apr;83(7):2951-61)。
【0007】
2015年10月に米国FDAの承認を受けたT-VEC(Talimogene Laherparepvec,製品名:イムリジック)は、HSV-1を用いた悪性黒色腫に対する抗癌ウイルス治療剤である。T-VECは、病原性を弱化させるためにICP34.5とICP47遺伝子が欠失しており、人体免疫反応を促進させるためのGM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor)を発現する弱化した(attenuated)HSV-1型ウイルスである。しかし、T-VECは、一部の遺伝子が消失することにより、ウイルス増殖が制限され、治療効能が低いという限界点がある。
【0008】
このような限界を克服するために、ウイルスを弱化させることなくHSVの細胞進入に関与する外皮糖タンパク質gD、gB、gH、gCを操作して癌細胞を特異的に標的化するための再標的化(retargeting)が試みられた。このような再標的化は、癌細胞標的分子に対する標的化ドメインを暗号化する外因性配列を糖タンパク質gD、gB、gH、gC配列に導入することであり、野生型糖タンパク質に代えて、糖タンパク質に外因性配列の標的化ドメイン(リガンドともいう。)が挿入されているキメラ糖タンパク質を有する組換えウイルスを用いる方法である。このような組換えウイルスは、標的化領域が特異的に認識して結合する標的分子を有する癌細胞への進入が可能である。このような標的化領域は、一般に、scFv(single-chain variable fragment)が使用され、現在、再標的化が試みられた標的分子は、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)などであり、糖タンパク質としてgB、gH、gCなどの修飾がなされた。
【0009】
一方、HSVの細胞受容体のうちHVEMは、腫瘍壊死因子受容体タンパク質ファミリー(tumor necrosis factor receptor protein family,TNFR family)に属し、主にT、Bリンパ球、マクロファージDC細胞、感覚神経細胞(sensory neuron)、粘膜上皮細胞(mucosal epithelial cell)で発現するが(Shui JW,Kronenberg M.2013.Gut Microbes 4(2):146-151)、B、Tリンパ腫、黒色腫、直膓癌(colorectal cancer)、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、乳癌(breast cancer)、卵巣の腸液腺癌種(ovarian serous adenocarcinoma)、透明腎細胞癌(clear renal cell carcinoma)、膠芽細胞腫(glioblastoma)のような様々な腫瘍組織でも多く発現することが知られている(Pasero C et al.,Curr Opin Pharmacol.2012.2(4):478-85,Malissen N et al.,ONCOIMMUNOLOGY 2019,VOL.8(12):e1665976)HVEMは、TNFRファミリーの特徴である4個のCRD(cystein-rich domain)を有し、このうち2個のCRDがHSVのgDと結合してHSV-1とHSV-2の細胞進入を誘導するとされている(Sarah A Connolly et al.,Structure-based Analysis of the Herpes Simplex Virus Glycoprotein D Binding Site Present on Herpesvirus Entry Mediator HveA(HVEM)。J Virol.2002 Nov;76(21):10894-904.)。
【0010】
本発明者らは、CEA(carcinoembryonal antigen)に対するscFv(single-chain variable fragment)とHSV細胞表面受容体の一つであるHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質(CEAscFv-HveA)を作製し、その融合タンパク質をHSVと共にCEAを発現する細胞株に処理する場合、その融合タンパク質がアダプター(adapter)として作用し、HSVが当該細胞株を標的して感染させるように誘導することを既に報告したことがある(韓国登録特許第10-0937774号及び米国登録特許第8318662号参照)。
【0011】
本発明者らは、HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)又はEpCAMを標的化できるアダプターである融合タンパク質(HER2scFv-HveA、EpCAM2scFv-HveA)を暗号化する遺伝子をHSVのゲノムに発現可能に挿入して、その融合タンパク質がHSVに感染された細胞内で発現するようにする場合に、その融合タンパク質がHSVを、HER2又はEpCAMを発現する細胞株を標的して感染させるように誘導することを確認し、さらに、アダプターによる多重標的化が可能なように、HER2に対する標的化機能を有するアダプターである融合タンパク質(HER2scFv-HveA)を発現できるその発現カセットとEpCAMに対する標的化機能を有するアダプターである融合タンパク質(EpCAM-HveA)を発現できるその発現カセットをHSVのゲノムに多重(dual)に挿入して、これらの融合タンパク質がHSVに感染された細胞内で発現するようにする場合に、これらの融合タンパク質がHSVビリオンを、HER2及び/又はEpCAMを発現する細胞株に対して多重に標的して感染させるように誘導することを確認する一方で、このようなアダプターの発現カセットをHSVのゲノムに挿入し、さらに糖タンパク質を修飾してHER2及び/又はEpCAMに対する再標的化を可能にした組換えHSVが、HER2及び/又はEpCAMを発現する細胞株に対して多重に標的して感染させることを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質であるアダプターを多重に発現することによって多重標的化が可能な組換えHSVを提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質であるアダプターを発現できる他にも再標的化が可能なように修飾された糖タンパク質を有することによって多重標的化が可能な組換えHSVを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、前記組換えHSVを有効成分として含む抗癌治療用薬剤学的組成物を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記薬剤学的組成物を有効量で患者などの対象体に投与する癌予防又は治療方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的又は具体的な目的は、以下に提示されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、多重標的化が可能な組換えHSVに関し、本発明の多重標的化が可能な組換えHSVは、一側面において、ヘルペスシンプルレックスウイルスの増殖を阻害することなくそのゲノムに、癌細胞標的化領域(すなわち、癌細胞表面の標的分子に特異的に結合するドメインである。)とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質(すなわち、アダプター)を2個以上多重に発現させ得るようにその融合タンパク質発現カセットが1個以上挿入された構成を有することによって多重標的化が可能な組換えHSVと把握できる。
【0018】
このような本発明の多重標的化組換えHSVから2個以上、すなわち多重に融合タンパク質が発現することにより、その多重に発現した融合タンパク質は、その標的化領域が同一標的分子を多重に標的化する或いは互いに異なる標的分子を多重に標的化するものであってよい。前記標的分子は、融合タンパク質の標的化領域が特異的に認識して結合する癌細胞の表面に存在する任意の抗原又は任意の受容体のことを指すが、本発明の組換えHSVは、一つの標的分子として、例えばHER2を標的化できる融合タンパク質を多重に発現できる発現カセットが1個以上そのゲノムに挿入されたものであるか、或いは互いに異なる標的分子として、例えばHER2とEpCAMをそれぞれ標的化できる融合タンパク質を発現できる発現カセットが1個以上そのゲノムに挿入されたものであってよい。
【0019】
本発明の組換えHSVが、癌細胞である標的細胞を感染させて標的細胞内に入ると、HSVが増殖されると共に2個以上の多重の融合タンパク質であるアダプターが細胞内で発現し、細胞溶解によって増殖されたHSVビリオンと共に細胞外部に放出されるか、アダプターがリーダ配列を有する場合には細胞溶解によるビリオン放出前にも放出されるが、その場合、この細胞外部に放出された多重のアダプターはHSVビリオンを、アダプターの癌細胞標的化領域が認識する標的分子を発現する周辺癌細胞に感染を多重に誘導することによって、単一標的化組換えHSV(すなわち、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質を発現できる発現カセットを一つのみ含む組換えHSV)に比べてその感染効率をより高め、周辺癌細胞への持続した拡散効率をより高める働きをする。これは、結果的に、より効果的な癌細胞の死滅につながる。
【0020】
他の側面において、本発明の多重標的化が可能な組換えHSVは、(i)ヘルペスシンプルレックスウイルスの増殖を阻害することなくそのゲノムに、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質であるアダプターを発現できる発現カセットが1個以上挿入されており、また(ii)その糖タンパク質に癌細胞標的化領域が挿入されて融合することによって多重標的化が可能な組換えHSVと把握されてよい。
【0021】
このような本発明の多重標的化組換えHSVは、癌細胞標的化領域が挿入されて融合することによって再標的化が可能な修飾された糖タンパク質を有することにより、アダプターによる標的化の他にも、糖タンパク質によって追加の標的化が可能になる。このような多重標的化組換えHSVも、前述した多重のアダプター発現カセットを有する組換えHSVど同様に、ビリオンの癌細胞の感染効率やビリオンの周辺癌細胞への持続した拡散効率、癌細胞死滅効率においてより効果的である。
【0022】
一般に、組換えHSVは、野生型HSVウイルスと比較して、人為的な突然変異が導入されることによって(すなわち、一部の核酸配列が欠失、置換又は挿入されることによって)一定機能が喪失又は変更されるか或いは意図した目的タンパク質を発現できるように遺伝的に操作されたHSVを意味するが、本発明において組換えHSVは、HSVゲノムに、HSVの増殖を阻害することなく、アダプターの発現カセット(adapter expressionl cassette)(すなわち、アダプター遺伝子がその発現を可能にするプロモーター配列及びポリアデニル化シグナル配列と作動可能に連結された構成体)を導入(すなわち、挿入)することにより、その組換えHSVが感染された癌細胞内でアダプターを発現させることができ、また再標的化のために修飾された糖タンパク質を有するHSVを意味する。
【0023】
このようなウイルスの遺伝子操作とビリオンの生産などの組換えウイルス製造技術は、当業界によく公知されており、具体的には、文献[Sandri-Goldin RM et al,Alpha Herpesviruses:Molecular and Cellular Biology,Caister Academic Press,2006]、文献[Robin H Lachmann,Herpes simplex virus-based vectors,Int J Exp Pathol.2004 Aug;85(4):177-190]などを参照できる。当該文献を含めて本明細書で引用される文献はいずれも本明細書の一部として見なされる。
【0024】
本発明の組換えHSVは、特に、このようなアダプターを発現するように操作される他に、進入受容体(entry receptor)としてネクチン-1(nectin-1)を通して細胞内に進入できず、単にHVEM受容体を通してのみ細胞内に進入するようにさらに操作されてよい。本発明は、下の実施例においてHSV糖タンパク質(envelope glycoprotein)gDの配列を操作して、HVEM受容体を通してのみHSVが細胞内に進入するようにした。具体的には、gDの222番位置のアルギニン(arginine,R)と223番位置のフェニルアラニン(phenylalanime,F)をそれぞれアスパラギン(asparagine,N)とイソロイシン(isoleucine,I)に置換させてgDの機能が変更されるように操作し、このようなgD機能が変更された組換えHSVは、単にHVEM(HveA)受容体を通してのみ宿主細胞内に入ることができる(Hiroaki Uchida et al.Generation of Herpesvirus Entry Mediator(HVEM)-restricted Herpes Simplex Virus Type1Mutant Viruses:Resistance of HVEM-expressing Cells and Identification of Mutations That Rescue nectin-1Recognition.J Virol.2009 Apr;83(7):2951-61)。HVEM(HveA)受容体は、正常細胞にはほとんど存在しなく、リンパ腫などにのみ存在するのに対し、ネクチン-1は大部分が正常細胞に存在するので、HVEM受容体を通してのみ細胞進入が可能で、ネクチン-1受容体を通しては細胞進入が不可能な、前記gD機能が変更された組換えHSVは、正常細胞を感染させることができず、安全性側面で有利な特性を有する。
【0025】
また、本発明の組換えHSVは、アダプターによる標的化の他にも、糖タンパク質への癌細胞標的化領域の挿入及び融合によって追加の標的化が可能なように操作されるが、追加の標的化に使用可能な糖タンパク質としては、gB、gC、gHなどが使用されてよく、糖タンパク質への癌細胞標的化領域が挿入・融合されたHSVは、その糖タンパク質遺伝子が一部欠失する又は欠失しなく、癌細胞の標的化領域に対する遺伝子がオープンリーディングフレーム(open reading frame)に挿入されることによって製造されてよい。このような糖タンパク質遺伝子に癌細胞標的化領域の遺伝子が挿入される場合に、癌細胞標的化領域は、糖タンパク質に融合した形態で組換えHSVが細胞内で生産される際にビリオンの外皮に統合される。
【0026】
癌細胞標的化領域の糖タンパク質への挿入と融合は、gB、gC、gD、gHなどの糖タンパク質に、その糖タンパク質のアミノ酸配列が欠失することなくそのアミノ酸配列の任意の位置でなされる、一部の長さ(特に、1個のアミノ酸~40個の連続したアミノ酸)のアミノ酸配列が欠失してその欠失した位置でなされる、或いは一部の長さのアミノ酸配列が欠失、置換されるが、欠失、置換されていないアミノ酸配列の任意の位置でなされてよい。ここで、一部の長さのアミノ酸の欠失、置換は、糖タンパク質の特定細胞受容体、例えば、HVEM、ネクチン-1などとの結合部位を不活性化させるためになされてよい。
【0027】
gB糖タンパク質に癌細胞標的化領域が挿入されて融合する場合に、N末端(N-terminus)を含む任意の位置であってよく、HSV-1において好ましい位置は、gBのアミノ酸配列(配列番号1,GenBank Accession No.ASM47779)において、アミノ酸9番~896番領域内の任意の位置であってよい。また、好ましい位置は、アミノ酸31番~78番領域内の任意の位置、アミノ酸80番~363番領域内の任意の位置、又はアミノ酸408番~896番領域内の任意の位置であってよい。また、好ましい位置は、gBの43番アミノ酸の次の位置、52番アミノ酸の次の位置、70番アミノ酸の次の位置、76番アミノ酸の次の位置、80番アミノ酸の次の位置、81番アミノ酸の次の位置、95番アミノ酸の次の位置、100番アミノ酸の次の位置、137番アミノ酸の次の位置、185番アミノ酸の次の位置、187番アミノ酸の次の位置、241番アミノ酸の次の位置、261番アミノ酸の次の位置、265番アミノ酸の次の位置、304番アミノ酸の次の位置、334番アミノ酸の次の位置、361番アミノ酸の次の位置、408番アミノ酸の次の位置、419番アミノ酸の次の位置、430番アミノ酸の次の位置、458番アミノ酸の次の位置、470番アミノ酸の次の位置、481番アミノ酸の次の位置、495番アミノ酸の次の位置、497番アミノ酸の次の位置、546番アミノ酸の次の位置、608番アミノ酸の次の位置、630番アミノ酸の次の位置、663番アミノ酸の次の位置、664番アミノ酸の次の位置、665番アミノ酸の次の位置、671番アミノ酸の次の位置、673番アミノ酸の次の位置、690番アミノ酸の次の位置、725番アミノ酸の次の位置、730番アミノ酸の次の位置、732番アミノ酸の次の位置、742番アミノ酸の次の位置、772番アミノ酸の次の位置、868番アミノ酸の次の位置、869番アミノ酸の次の位置、886番アミノ酸の次の位置、893番アミノ酸の次の位置、894番アミノ酸の次の位置、895番アミノ酸の次の位置であってよい。前記位置はgBの配列番号1のアミノ酸配列を基準にしたが、gBの配列において一部相違がある変異菌株においてはそれに相応する相同配列(homologous sequence)を基準にする。
【0028】
gC糖タンパク質に細胞標的化領域がさらに挿入されて融合する場合も、そのN末端(N-terminus)を含む任意の位置であってよく、HSV-1において好ましい位置は、gCのアミノ酸配列(配列番号2,GenBank Accession No.ASM47796)において、アミノ酸1番~442番領域内の任意の位置、より好ましい位置は、アミノ酸33番~154番領域内の任意の位置であってよい。さらに好ましい位置は、、gCの33番アミノ酸の次の位置、82番アミノ酸の次の位置、148番アミノ酸の次の位置、149番アミノ酸の次の位置、153番アミノ酸の次の位置であってよい。前記位置は、gCの配列番号3のアミノ酸配列を基準にしたが、gCの配列において一部相違がある変異菌株においてはそれに相応する相同配列(homologous sequence)を基準にする。
【0029】
gH糖タンパク質に癌細胞標的化領域が挿入されて融合する場合に、N末端(N-terminus)、H1AドメインのN末端などを含む任意の位置であってよく、HSV-1において好ましい位置は、gHのアミノ酸配列(配列番号3,GenBank Accession No.ASM47773)において、アミノ酸12番~88番領域内の位置、アミノ酸116番~137番領域内の位置、又はアミノ酸209番~839番領域内の位置であってよい。また、好ましい位置は、アミノ酸12番~49番領域内の位置又はアミノ酸116番~137番領域内の位置であってよい。また、好ましい位置は、12番アミノ酸の次の位置、22番アミノ酸の次の位置、23番アミノ酸の次の位置、29番アミノ酸の次の位置、83番アミノ酸の次の位置、116番アミノ酸の次の位置、209番アミノ酸の次の位置、215番アミノ酸の次の位置、225番アミノ酸の次の位置、277番アミノ酸の次の位置、386番アミノ酸の次の位置、437番アミノ酸の次の位置、447番アミノ酸の次の位置、472番アミノ酸の次の位置、636番アミノ酸の次の位置、637番アミノ酸の次の位置、666番アミノ酸の次の位置、731番アミノ酸の次の位置、763番アミノ酸の次の位置、764番アミノ酸の次の位置、775番アミノ酸の次の位置、806番アミノ酸の次の位置、824番アミノ酸の次の位置、838番アミノ酸の次の位置であってよい。前記位置はgHの配列番号3のアミノ酸配列を基準にしたが、gHの配列において一部相違がある変異菌株においてはそれに相応する相同配列(homologous sequence)を基準にする。
【0030】
糖タンパク質の好ましい挿入位置に関連するより詳細は、文献[JOHN R.GALLAGHER et al.,Functional Fluorescent Protein Insertions in Herpes Simplex Virus gB Report on gB Conformation before and after Execution of Membrane Fusion,PLoS Pathog,2014,Sep 18,10(9):e1004373]、文献[Gatta V et al,The Engineering of a Novel Ligand in gH Confers to HSV an Expanded Tropism Independent of gD Activation by Its Receptors,PLoS Pathog.2015 May 21;11(5):e1004907]、文献[Tina M.Cairns et al.,Structure-Function Analysis of Herpes Simplex Virus Type 1 gD and gH-gL:Clues from gDgH Chimeras,JOURNAL OF VIROLOGY,June 2003,p.6731-6742]、文献[E.U.Lorentzen et al.,Replication-Competent Herpes simplex Virus Type 1 Mutant Expressing an Autofluorescent Glycoprotein H Fusion Protein,Intervirology 2001;44:232-242]、文献[Qing Fan et al.,Differential Effects on Cell Fusion Activity of Mutations in Herpes Simplex Virus 1 Glycoprotein B(gB)Dependent on Whether a gD Receptor or a gB Receptor Is Overexpressed,JOURNAL OF VIROLOGY,Aug.2009,83(15):7384-7390]、文献[Erick Lin et al.,Random linker-insertion mutagenesis to identify functional domains of herpes simplex virus type 1 glycoprotein B,Proc Natl Acad Sci U S A.Aug.2007,104(32):13140-13145]、文献[Julia O.Jackson et al.,Insertion Mutations in Herpes Simplex Virus 1 Glycoprotein H Reduce Cell Surface Expression,Slow the Rate of Cell Fusion,or Abrogate Functions in Cell Fusion and Viral Entry,JOURNAL OF VIROLOGY,Feb.2010,84(4):2038-2046]、文献[Guoying Zhou et al.,Engineered herpes simplex virus 1 is dependent on IL13R*2 receptor for cell entry and independent of glycoprotein D receptor interaction,Proc Natl Acad Sci U S A.Nov.2002,99(23):15124-15129]、文献[AR Frampton Jr et al.,HSV trafficking and development of gene therapy vectors with applications in the nervous system,Gene Therapy,2005,12:891-901]、文献[Paola Grandi et al.,HSV-1Virions Engineered for Specific Binding to Cell Surface Receptors,MOLECULAR THERAPY,Mar.2004,9(3):419-427]、文献[William F Goins et al.,Retargeting of Herpes Simplex Virus(HSV)Vectors,Curr Opin Virol,2016Dec,21:93-101]、文献[Xiaodan Wang et al.,Targeted gene transfer to nigrostriatal neurons in the rat brain by helper virus-free HSV-1 vector particles that contain either a chimeric HSV-1 glycoprotein C-GDNF or a gC-BDNF protein,Brain Res Mol Brain Res.2005 Sep,139(1):88-102]などを参照できる。
【0031】
糖タンパク質に癌細胞標的化領域が挿入されて融合する場合にその癌細胞標的化領域のN末端とC末端にはリンカーペプチドが存在してよい。このようなリンカーペプチドは、糖タンパク質に融合する癌細胞標的化領域が糖タンパク質と融合することによってその固有3次元構造を形成する上で妨害を受けないように、癌細胞標的化領域と糖タンパク質との間に距離を置くためのものであり、それの標的分子との特異的な結合能力を有させる限り、任意の長さ、任意の配列のリンカーペプチドであってよい。リンカーは、柔軟性(flexibility)、溶解性(solubility)、蛋白分解に対する抵抗性などの側面で、Ser、Gly、Ala、Thrなどのアミノ酸のうち1種以上のアミノ酸からなることが好ましく、長さは、1~30個アミノ酸、好ましくは3~25個アミノ酸、より好ましくは8~20個アミノ酸であってよい。
【0032】
本発明の組換えHSVは、HSVの増殖(すなわち、生存と複製)に不要な非必須遺伝子(non-essential genes)が欠失する或いは機能を発揮しないように(すなわち、転写や翻訳が妨害を受けるように)突然変異(mutation)されてもよい。具体的には、そのような非必須遺伝子は、UL3遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62830.1参照)、UL4遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62831.1参照)、UL14遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62841.1)、UL16遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62843.1参照)、UL21遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62848.1参照)、UL24遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62851.1参照)、UL31遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62859.1参照)、UL32遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62860.1参照)、US3遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62891.1参照)、UL51遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62880.1参照)、UL55遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62884.1参照)、UL56遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62885.1参照)、US2遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62890.1)、US12遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62901.1;すなわち、ICP47遺伝子参照)、LAT遺伝子(例えば、Genbank Accession No.JQ673480.1参照)、gB遺伝子(例えば、Genbank Accession No.GU734771.1の52996と55710との間の配列)、gL遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62828.1参照)、gH遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62849.1参照)、gD遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62894.1参照)などを挙げることができる。
【0033】
HSVウイルスの非必須遺伝子に関連するより詳細は、文献[DM Knipe and PM Howley(ed.)Fields virology(vol.2)Lippincot Williams & Wilkins,Philadelphia,Pa.2001.p.2399-2460)]、文献[Subak-Sharpe J H,Dargan D J HSV molecular biology:general aspects of herpes simplex virus molecular biology Virus Genes,1998,16(3):239-251]、文献[Travis J.Taylor and David M.Knipe,Proteomics of Herpes Simplex Virus Replication Compartments:Association of Cellular DNA Replication,Repair,Recombination,and Chromatin Remodeling Proteins with ICP8,J Virol.2004 Jun;78(11):5856-5866]などを参照できる。
【0034】
本発明の組換えHSVは、組換えHSV-1ウイルス、組換えHSV-2ウイルス、又はHSV-1/HSV-2キメラウイルス(すなわち、ゲノムがHSV-1に由来するDNA及びHSV-2に由来するDNAの両方を含む組換えHSVウイルス)であってよく、好ましくは組換えHSV-1ウイルス、より好ましくはHSV-1KOS菌株に由来する組換えHSV-1である。HSV-1KOS菌株はATCC(Cat No VR-1493TM)から購入可能であり、その菌株のゲノム配列は全体配列分析が完了してGenBank Accession No.JQ673480.1に提示されている(Stuart J Macdonald et al.Genome Sequence of Herpes Simplex Virus 1 Strain KOS.J Virol.2012 Jun;86(11):6371-2)。
【0035】
HSV-1ウイルスのゲノムは、総84個の遺伝子を暗号化する152kbの二本鎖の線形DNAで構成されており、これは、互いに連結された2つの断片、すなわち、長い断片(L領域)と短い断片(S領域)で構成される。長い断片(L領域)はゲノムの約82%を占め、短い断片(S領域)はゲノムの約18%を占め、長い断片と短い断片は、接合領域である2個のIRL((intermediate inverted repeat sequence)によって結合し、各断片の末端にはTRL(terminal inverted repeat segment)が存在する。L領域(UL)には、56個のUL1~UL56遺伝子と10個の遺伝子(UL8.5、9.5、10.5、12.5、15.5、20.5、26.5、27.5、43.5、49.5)が存在し、S領域(US)には、12個のUS1~US12遺伝子と2個の遺伝子(US1.5、8.5)が存在し、接合領域である2個のIRLに4個の遺伝子(ICP4、ICP34.5、ICP0及びLAT)が含まれている。
【0036】
本発明において、アダプター発現カセットは、アダプター遺伝子がそれの発現を可能にするためのプロモーター配列と転写終結信号配列であるポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)配列と作動可能に連結されて構成される。ここで、“作動可能に連結される”とは、発現するアダプター遺伝子の転写及び/又は翻訳が可能なように連結されるという意味である。例えば、あるプロモーターがそれに連結されたアダプター遺伝子の転写に影響を与えるとすれば、そのプロモーターはそのアダプター遺伝子に作動可能に連結されたものである。
【0037】
一般に、プロモーターは、ある遺伝子の転写開始点を基準に上位(5’側)に位置し、DNA依存RNA重合酵素に対する結合部位、転写開始点、転写因子結合部位などを含む、一つ以上の遺伝子の転写を制御する機能を有する核酸配列を意味する。このようなプロモーターは、真核生物由来の場合は、転写開始点上位にあるTATAボックス(通常、転写開始点(+1)-20~-30位置に存在)、CAATボックス(通常、転写開始部位と比較して略-75位置に存在)、エンハンサー、転写因子結合部位などを含む。
【0038】
プロモーターはそれに連結された目的遺伝子を発現し得るプロモーターであれば、構成的プロモーター(常時的に遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、誘導性プロモーター(特定外部刺激に反応して目的遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、組織特異性プロモーター(特徴組織や細胞で遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、組織非特異的プロモーター(全ての組織や細胞で遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、内人性プロモーター(ウイルスが感染される細胞に由来するプロモーター)、外因性プロモーター(ウイルスが感染される細胞以外の細胞に由来するプロモーター)のいずれも使用可能である。このようなプロモーターは、当業界に多数が公知されており、公知のものからいずれかを適切に選択して使用することができる。例えば、CMV(cytomegalovirus)プロモーター、RauSE肉腫ウイルス(RSV,rous sarcoma virus)プロモーター、HSV(herpes simplex virus)TK(thymidine kinase)プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス75Kプロモーター、SV40プロモーター、メタロチオニン(metallothionein)プロモーター、CD45プロモーター(造血母細胞特異的プロモーター)、CD14プロモーター(単核球細胞特異的プロモーター)、サバイビン(Survivin)、ミドカイン(Midkine)、TERT、CXCR4などの癌細胞特異的プロモーター(tumor specific promoter)などを使用することができる。特に、癌細胞特異的プロモーターを使用する場合に、癌細胞でのみアダプターの発現を誘導することによって、アダプターが正常細胞で発現することを抑制し、本発明の組換えHSVの安全性を高めることができる。
【0039】
前記アダプター発現カセットは、プロモーターの他にも転写終結信号配列を含んで構成されるが、転写終結信号配列は、poly(A)添加信号(polyadenylation signal)として作用する配列であり、転写の完結性及び効率性を高めるためのものである。多くの転写終結信号配列が当業界に公知されており、この中から適切なもの、一例えば、SV40転写終結信号配列、HSV TK(Herpes simplex virus thymidine kinase)の転写終結信号配列などを選択して使用することができる。
【0040】
前記アダプター発現カセットは、HSVの増殖を阻害することなくHSVゲノムに発現可能なように挿入されるが、そのような挿入は、HSVゲノムの欠失無しで挿入されるか、又はHSVゲノムのうち非必須遺伝子が一部又は全部欠失してその欠失した位置に挿入されてよい。アダプター発現カセットがHSVゲノムの欠失無しで挿入される場合に、各遺伝子間に挿入されてよいが、挿入される位置として好ましい位置は、例えば、UL3とUL4遺伝子の間、UL26とUL27遺伝子の間、UL37とUL38遺伝子の間、UL48とUL49遺伝子の間、UL53とUL54遺伝子の間、US1とUS2遺伝子の間などを挙げることができる。
【0041】
アダプター発現カセットが、HSVゲノムに非必須遺伝子が一部又は全部欠失してその欠失した位置に挿入される場合に、欠失する非必須遺伝子は、先に例示した任意の非必須遺伝子であってよい。
【0042】
アダプターを多重に発現するために、ポリシストロン(polycistron)構成を有するアダプター発現カセットが1個以上HSVゲノムに挿入されるか、モノシストロン(monocistron)構成を有するアダプター発現カセットが2個以上HSVゲノムに挿入されてよい。
【0043】
ポリシストロン構成を有するアダプター発現カセットは、プロモーターと転写終結信号配列の他にもその間に2個以上のアダプター遺伝子を含み、それら遺伝子の間にはそれぞれタンパク質が発現し得るようにIRES(Internal Ribosome Entry Site、内部リボソーム流入部位)や2Aペプチド暗号化する核酸配列が位置する。ここで、2Aペプチドは、ピコルナウイルス(Picornavirus)、昆虫ウイルス、類型Cロタウイルス(Type C rotavirus)から確認されたものであり、好ましい2Aペプチドは、トセアアシグナウイルス(Thoseaasigna virus)の2A(T2A)、ブタテスコウイルス-1(Pocine Teschovirus-1)の2A(P2A)、ERAV(Equine Rhinitis A Virus)の2A(E2A)、FMDV(Foot-and-mouth disease virus)の2A(F2A)などが例示されてよい。IRESや2Aペプチドに対してのより詳細は、文献[Edith Renaud-Gabardos et al.,Internal ribosome entry site-based vectors for combined gene therapy,World J Exp Med.2015Feb20;5(1):11-20]、文献[Szymczak et al.,Development of 2A peptide-based strategies in the design of multicistronic vectors,(2005)Expert Opin Biol Ther 5:627-638]、文献[Kim et al.,High Cleavage Efficiency of a 2A Peptide Derived from Porcine Teschovirus-1in Human Cell Lines,Zebrafish and Mice,(2011)PLosONE6(4):e18556]などを参照できる。
【0044】
アダプターを多重に発現するために、アダプター発現カセットがモノシストロン構成を有する場合に、そのようなアダプター発現カセットはHSVゲノムに2個以上挿入されるが、この場合2個以上のアダプター発現カセットは、HSVゲノムで同一位置に連続して挿入されるか、それぞれ異なる位置に挿入されてよい。例えば、HER2を標的分子とするアダプター発現カセットとEpCAMを標的分子とするアダプター発現カセットが両方とも、同一位置であるUL3とUL4遺伝子の間に挿入されるか、或いは互いに異なる位置として、HER2を標的分子とするアダプターはUL3とUL4遺伝子の間に挿入され、EpCAMを標的分子とするアダプターはUL26とUL27遺伝子の間に挿入されてよい。2個以上挿入されるアダプター発現カセットが同一位置に連続して挿入される場合に、発現カセット間には非暗号領域が介在されてよい。このような非暗号領域は、2個以上の発現カセットが互いその発現(転写及び/又は翻訳)に妨害を受けないようにするためのものであり、このような非暗号領域は3~60個ヌクレオチドからなってよい。
【0045】
本発明において、3種類の以上のアダプターを多重に発現する必要があるとき、2種類のアダプターを発現できるポリシストロン(polycistron)構成を有するアダプター発現カセットと、残りのアダプターを発現できるモノシストロン(monocistron)構成を有するアダプター発現カセットが共にHSVのゲノムの同一位置又は異なる位置に挿入されてよい。
【0046】
本発明の組換えHSVにおいて、アダプターの癌細胞標的化領域は、標的細胞である癌細胞の標的分子を特異的に認識して結合する部分であり、このような癌細胞標的化領域が認識する標的分子は、癌細胞の表面に存在する任意の抗原又は任意の受容体である。
【0047】
このような抗原又は受容体は、好ましくは癌細胞でのみ発現する或いは正常細胞に比べて癌細胞で過発現する抗原又は受容体のことを指す。例えば、膠芽細胞腫(glioblastoma)で発現するEGFRvIII(epidermal growth factor receptor variantIII)、未分化甲状腺癌や乳癌、肺癌、神経膠腫(glioma)などに過発現するEGFR(Epidermal growth factor receptor)、乳頭性甲状腺癌(papillary thyroid cancer)などで過発現するタスチン受容体(Metastin receptor)、乳癌などで過発現するErbB系列の受容体チロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinases)、乳癌、膀胱癌、胆嚢癌(Gallbladder cancers)、胆管癌(Cholangiocarcinomas)、胃食道接合部癌(esophagogastric junction cancers)などで過発現するHER2(Human epidermal growth factor receptor 2)、肉腫様腎癌などで過発現するチロシンキナーゼ-18-受容体(c-Kit)、食道腺癌などで過発現するHGF受容体c-Met、乳癌などで過発現するCXCR4又はCCR7、前立腺癌で過発現するエンドテリン-A受容体、直膓癌などで過発現するPPAR-δ(peroxisome proliferator activated receptor δ)、卵巣癌などで過発現するPDGFR-α(Platelet-derived growth factor receptor α)、肝癌、多発性骨髄腫などで過発現するCD133、肺癌、大腸癌、胃癌、膵癌、乳癌、直膓癌、結腸癌、甲状腺髄質癌などで過発現するCEA(carcinoembryonic antigen)、肝癌、胃癌、大腸癌、膵癌、乳癌などで過発現するEpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、肺癌、乳癌、膵癌、卵巣癌などで過発現するMSLN(Mesothelin)、神経芽細胞腫などで過発現するGD2(disialoganglioside)、肝細胞癌などで過発現するGPC3(Glypican 3)、前立腺癌などで過発現するPSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、卵巣癌、乳癌、結腸癌、肺癌、膵癌などで過発現するTAG-72(tumor-associated glycoprotein 72)、黒色腫などで過発現するGD3(disialoganglioside)、血液癌、固形癌などで過発現するHLA-DR(human leukocyte antigen-DR)、進行性固形癌などで過発現するMUC1(Mucin 1)、進行性肺癌(advanced non-small-cell lung cancer)などで過発現するNY-ESO-1(New York esophageal squamous cell carcinoma 1)、鼻咽頭腫瘍(Nasopharyngeal neoplasms)などで過発現するLMP1(Latent membrane protein 1)、肺癌、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、結腸癌、大腸癌、膵癌などで過発現するTRAILR2(tumor-necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand receptor)、血管新生因子受容体であるVEGFR2(vascular endothelial growth factor receptor 2)、肝細胞癌などで過発現するHGFR(hepatocyte growth factor receptor)などが標的分子であってよく、また、癌幹細胞の表面抗原であるCD44、CD166なども標的分子であってよい。当業界には正常細胞に比べて癌細胞で過発現する多くの標的分子が知られており、前記例示された標的分子以外のものに関連するより詳細は、文献[Anne T Collins et al.Prospective Identification of Tumorigenic Prostate Cancer Stem Cells.Cancer Res.2005 Dec 1;65(23):10946-51]、文献[Chenwei Li et al.Identification of Pancreatic Cancer Stem Cells.Cancer Res.2007 Feb 1;67(3):1030-7]、文献[Shuo Ma et al.Current Progress in CAR-T Cell Therapy for Solid Tumors.Int J Biol Sci.2019 Sep 7;15(12):2548-2560]、文献[Dhaval S Sanchala et al.Oncolytic Herpes Simplex Viral Therapy:A Stride Toward Selective Targeting of Cancer Cells.Front Pharmacol.2017 May 16;8:270]などを参照できる。
【0048】
特に、本発明において、標的分子は、好ましくはHER2又はEpCAMである。
【0049】
本発明の組換えHSVがアダプターによって標的化する標的細胞は、本発明におけるアダプターの癌細胞標的化領域が標的できる標的分子を有する任意の癌細胞である。癌細胞であれば、食道癌、胃癌、大腸癌、直膓癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜体癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、黒色腫、膀胱癌、腎臓癌、肝癌、膵癌、骨癌、結合組織癌、皮膚癌、脳癌、甲状腺癌、白血病、ホジキン(Hodgkin)疾患、リンパ腫、多発性骨髄腫、血液癌など、癌腫を問わない。
【0050】
本発明において、アダプターの細胞標的化領域は、標的分子と特異的結合能を有する完全な抗体の他にも、抗体誘導体、抗体類似体であってよい。抗体誘導体は、標的分子と特異的結合能を有する抗体可変領域を少なくとも一つ含む完全な抗体の断片又は修飾抗体を意味する。このような抗体誘導体としては、Fab、scFv、Fv、VhH、VH、VLなどの抗体断片、Fab2、Fab3、ミニボディ、ジアボディ、トリボディ、テトラボディ、ビス-scFvなどの多価性又は多重特異的修飾抗体などを挙げることができる。抗体類似体は、抗体と同様に、標的分子と特異的結合能を有するが、構造上抗体とは違っており、一般的に抗体に比べて低い分子量を有する人為的ペプチド又はポリペプチドを意味する。このような抗体類似体として、ABD、アディロン(adhiron)、アフィボディ(affibody)、アフィリン(affilin)、アフィマー(affimer)、アルファボディ(alphabody)、アンチカリン(anticalin)、アルマジロ(armadillo)反復タンパク質、センチリン(centyrin)、ダルピン(DARPin)、フィノマー(fynomer)、Kunitz領域、プロネクチン(pronectin)、リピボディ(repebody)などを挙げることができる。
【0051】
このような抗体、抗体誘導体、抗体類似体、その製造と関連しては当業界に相当多い文献が蓄積されており、それらの文献としては、例えば、文献[Renate Kunert & David Reinhart,Advances in recombinant antibody manufacturing.Appl Microbiol Biotechnol.2016 Apr;100(8):3451-61]、文献[Holliger P1,Hudson PJ.,Engineered antibody fragments and the rise of single domains,Nat Biotechnol.2005 Sep;23(9):1126-36]、文献[Xiaowen Yu et al.,Beyond Antibodies as Binding Partners:The Role of Antibody Mimetics in Bioanalysis,Annual Review of Analytical Chemistry,2017,10:293-320]、文献[Abdul Rasheed Baloch et al.,Antibody mimetics:promising complementary agents to animal-sourced antibodies,Critical Reviews in Biotechnology,2016,36:268-275]などを挙げることができる。
【0052】
本発明において、アダプターの細胞標的化領域は、好ましくはscFv(Single-chain variable fragment)である。scFvは、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変領域と軽鎖(VL)の可変領域の短いリンカーペプチドを媒介にして連結された一本鎖抗体のことを指す。scFvでVHのC末端は、VLのN末端と連結されるか、又はVLのC末端はVHのN末端と連結される。scFvでリンカーペプチドは重鎖と軽鎖の固有3次元構造を妨害しないとともにそれら重鎖と軽鎖が空間的に隣接して標的分子との特異的な結合能力を有させる限り、任意の長さ、任意の配列のリンカーペプチドであってよい。好ましくは、リンカーは柔軟性(flexibility)、溶解性(solubility)、蛋白分解に対する抵抗性などの側面で、Ser、Gly、Ala、Thrなどのアミノ酸のうち1種以上のアミノ酸からなることが好ましく、長さは1~30個アミノ酸、好ましくは3~25個アミノ酸、より好ましくは8~20個アミノ酸であってよい。
【0053】
本発明において、特に、scFvは、標的分子をHER2又はEpCAMとし、HER2に対するscFvは配列番号4のVHと配列番号5のVLがリンカーペプチドを媒介にしてVH、リンカーペプチドVLの順に連結されたこと(すなわち、VHのC末端がVLのN末端とリンカーペプチドを媒介にして連結されたこと)が好ましく、EpCAMに対するscFvは、配列番号6のVLと配列番号7のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に結合したこと(すなわち、VLのC末端がVHのN末端とリンカーペプチドを媒介にして連結されたこと)が好ましい。
【0054】
本発明において、HVEMの細胞外ドメインは、下の実施例で用いられた、配列番号8のHveA82(リーダ配列まで含まれたHveA82配列は配列番号9に開示されている。)の他に、韓国登録特許第10-0937774号及び米国登録特許第8318662号(本文献は本明細書の一部として見なされる。)が開示する配列番号10のHveA87(リーダ配列まで含まれたHveA87配列は配列番号11に開示されている。)、配列番号12のHveA102(リーダ配列まで含まれたHveA102配列は配列番号13に開示されている。)又は配列番号14のHveA107(リーダ配列まで含まれたHveA107配列は配列番号15に開示されている。)であってもよい。配列番号9、11、13及び15の配列に含まれたリーダ配列は、HveAの信号ペプチド配列である。HveA87、HveA102、HveA107はそれぞれ、HveA82に比べて5、20、25個アミノ酸をさらに含んでおり、前記韓国登録特許及び米国登録特許でいずれもアダプターのHSVレセプターとして使用可能であることを確認したことがある。
【0055】
また、本発明において、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの間にリンカー配列が介在されてよいが、このリンカー配列は、それらのアダプターの各ドメインの機能を阻害しない限り、任意の長さ、任意の配列のリンカーであってよい。好ましくは、リンカーは、Ser、Gly、Ala、Thrの4つのアミノ酸のうち1種以上のアミノ酸からなってよく、長さは1~30個アミノ酸、好ましくは3~25個アミノ酸、より好ましくは8~20個アミノ酸であってよい。
【0056】
また、本発明のアダプターは、NH2-癌細胞標的化ドメイン-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である或いはその逆順の構成を有することができる。リンカーペプチドが媒介される場合は、NH2-癌細胞標的化領域-リンカーペプチド-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である或いはその逆順の構成であってよい。
【0057】
本発明のアダプターは、そのN末端に、具体的には、アダプターの構成がNH2-癌細胞標的化領域-リンカーペプチド-HVEM細胞外ドメイン-COOHの順である場合は癌細胞標的化ドメインのN末端(scFvが使用される場合にVHやVLのN末端)に、アダプターの構成がNH2-HVEM細胞外ドメイン-リンカーペプチド-癌細胞標的化ドメイン-COOHの順である場合にはHVEM細胞外ドメインのN末端にリーダ配列(すなわち、分泌誘導信号配列)がさらに含まれてよい。リーダ配列は、細胞質で発現されたタンパク質が細胞膜を透過して細胞外部に分泌されるように誘導する機能を有する配列であり、通常、約15~30個の連続した疎水性アミノ酸残基を含む。使用可能なリーダ配列は、特に限定されないが、HveAのリーダ配列、抗体可変部VL(kaapa)のリーダ配列、t-PA(tissue plasminogen activator)のリーダ配列、血清アルブミンのリーダ配列、ラクトフェリンのリーダ配列、α-カゼインのリーダ配列、ヒト成長ホルモンを含む様々なホルモンのリーダ配列、酵母や細菌から分泌されるポリペプチドのリーダ配列など、細胞膜外部に分泌されるタンパク質のN末端に存在する任意の配列であってよい。
【0058】
このようなリーダ配列は、標的細胞でアダプターが発現されて細胞外にアダプターが流出されるように誘導する作用をする配列であり、標的細胞が溶解されてHSVウイルスが放出された後になってこそ、アダプターがHSVウイルスを隣接標的細胞に感染されるように誘導する作用をするので、省略されてもよい。
【0059】
また、本発明において、細胞標的化領域に標的分子に対するscFvを使用する場合にはVHとVLの間に、VHとVLの間にリンカーペプチドが媒介される場合にはVH又はVLとリンカーペプチドの間、scFvとHVEMの間に、scFvとHVEMの間にリンカーペプチドが媒介される場合にはscFvとリンカーの間、リンカーとHVEMの間に、クローニングを容易にするために任意の制限酵素作用部位に該当するアミノ酸が介在されてよい。例えば、制限酵素EcoRIが作用するEF(塩基配列:GAATTC)、BamHIが作用するGS((塩基配列:GGATCC)、XhoIが作用するLEEL(塩基配列:CTCGAGGAGCTC)などが介在されてよい。
【0060】
本発明において、組換えHSVは、癌細胞に対する免疫反応を誘導又は増進させるための因子を単独で又は任意の組合せで発現するように当該因子に対する遺伝子がHSVゲノムに挿入されてよい。それらの因子は、サイトカイン、ケモカイン、免疫関門(immune checkpoint)に対する拮抗剤(例えば、抗体、抗体誘導体又は抗体類似体、特に、scFv)、免疫細胞(T細胞又はNK細胞)の活性化を誘導できる補助刺激因子(co-stimulatory factor)、癌細胞に対する免疫反応を抑制するTGFβの機能を阻害できる拮抗剤(例えば、抗体、抗体誘導体又は抗体類似体、特にscFv)、固形癌腫瘍微細環境を構成するヘパランサルフェートプロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)を分解できるヘパラナーゼ(heparanase)、血管新生因子受容体であるVEGFR-2(VEGF receptor-2)の機能を阻害できる拮抗剤(例えば、抗体、抗体誘導体又は抗体類似体、特にscFv)などを発現するように操作されてよい。
【0061】
サイトカインは、例えば、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、IL-24などのインターロイキン、IFNα、IFNβ、IFNγなどのインターフェロン、TNFαなどの腫瘍壊死因子、GM-CSF、G-CSF、FLT3Lなどのコロニー刺激因子などが単独で又は2以上の任意の組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0062】
ケモカインは、例えば、CCL2(C-C Motif Chemokine Ligand 2)、CCL5(RANTES)、CCL7、CCL9、CCL10、CCL12、CCL15、CCL19、CCL21、CCL20、XCL-1((X-C Motif Chemokine Ligand1))などが単独で又は組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0063】
免疫関門に対する抗体は、PD-1(programmed cell death-1)、PD-L1(programmed cell deathligand 1)、PD-L2(programmed cell death-ligand 2)、CD27(cluster of differentiation 27)、CD28(cluster of differentiation 28)、CD70(cluster of differentiation 70)、CD80(cluster of differentiation 80)、CD86(cluster of differentiation 86)、CD137(cluster of differentiation 137)、CD276(cluster of differentiation 276)、KIRs(killer-cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(lymphocyte-activation gene 3)、GITR(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)、GITRL(glucocorticoid-induced TNFR-related protein ligand)、CTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antign-4)などに対する拮抗剤が単独で又は組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0064】
補助刺激因子は、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、LFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)、ICOS(誘導性T細胞共同刺激因子)、CD3γ、CD3δ、CD3εなどが単独で又は組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0065】
本発明において、組換えHSVは、プロドラッグ(prodrug)を癌細胞に毒性を示す薬物(drug)に転換させるプロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)を発現するように操作されてよい。このようなプロドラッグ活性化酵素としては、プロドラッグである5-FC(5-fluorocytosine)を5-FU(5-fluorouracil)である薬物に転換させるシトシンデアミナーゼ(Cytosine deaminase)、プロドラッグであるCPA(cyclophosphamide)をPM(phosphoramide mustard)である薬物に転換させるラットシトクロムP450(rat cytochrome P450,CYP2B1)、プロドラッグであるイリノテカン(irinotecan,SN-38150)をSN-38である薬物に転換させるカルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)、プロドラッグであるBC1954をDNA交差結合剤である4-ヒドロキシアミン151(4-hydroxylamine 151)に転換させる細菌ニトロリダクターゼ(bacterial nitroreductase)、プロドラッグである6-メチルプリン-2’-デオキシリボシド(6-methypurine-2’-deoxyriboside)を6-メチルプリン(6-methylpurine)に転換させる大腸菌から分離されたPNP(purine nucleoside phosphorylase)などを挙げることができる。
【0066】
また、本発明において、組換えHSVは、TRAIL(TNF-Related Apoptosis Inducing Ligand)を発現するように操作されてよい。TRAILは、癌細胞で過発現するそれの受容体に結合して癌細胞の死滅を誘導すると知られている(Kaoru Tamura et al.Multimechanistic Tumor Targeted Oncolytic Virus Overcomes Resistance in Brain Tumors.Mol Ther.20 13 Jan;21(1):68-77)。
【0067】
このような免疫反応を誘導又は増進させるための因子やプロドラッグ活性化酵素の使用に関連するより詳細は、文献[Michele Ardolino et al.,Cytokine treatment in cancer immunotherapy,J.Oncotarget,Oncotarget.2015 Aug 14;6(23):]、文献Bernhard Homey et al.Chemokines:Agents for the Immunotherapy of Cancer.Nat Rev Immunol.2002 Mar;2(3):175-84]、文献[Marianela Candolfi et al,Evaluation of proapototic transgenes to use in combination with Flt3L in an immune-stimulatory gene therapy approach for Glioblastoma multiforme(GBM)、J.FASEB J,2008,22:107713]、文献[Danny N Khalil et al.The Future of Cancer Treatment:Immunomodulation,CARs and Combination Immunotherapy.Nat Rev Clin Oncol.2016 May;13(5):273-90]、文献[Paul E Hughes et al.Targeted Therapy and Checkpoint Immunotherapy Combinations for the Treatment of Cancer.Trends Immunol.2016 Jul;37(7):462-476]、文献[Cole Peters 1,Samuel D Rabkin,Designing herpes viruses as oncolytics,Mol Ther Oncolytics.2015;2:15010]などを参照できる。
【0068】
本発明において、免疫反応を誘導又は増進させるための因子やプロドラッグ活性化酵素は、前述したアダプターにおけると同様に、その遺伝子の発現カセット(すなわち、その遺伝子がその発現を可能にするプロモーター配列及びポリアデニル化シグナル配列と作動可能に連結された構成体)がHSVの増殖を阻害しないでHSVゲノムに挿入されるが、そのような挿入は、HSVゲノムの欠失無しで、又はHSVゲノムのうち非必須遺伝子が一部又は全部欠失し、その欠失した位置に挿入されてよい。このとき、HSVゲノムの欠失無しで挿入される場合に、各遺伝子間に挿入されてよく、好ましい挿入位置は、例えば、UL3とUL4遺伝子の間、UL26とUL27遺伝子の間、UL37とUL38遺伝子の間、UL48とUL49遺伝子の間、UL53とUL54遺伝子の間、US1とUS2の間などを挙げることができる。非必須遺伝子が欠失し、その欠失した位置に挿入されるか或いは非必須遺伝子の欠失無しでその遺伝子中に挿入される場合に、そのような非必須遺伝子は、前述した任意の非必須遺伝子から選択されてよい。
【0069】
他の側面において、本発明は、前述した組換えHSVを有効成分として含む抗癌用薬剤学的組成物に関する。
【0070】
本発明の薬剤学的組成物は、組換えHSVが発現するアダプターの標的化領域が標的する標的分子を発現する癌腫に対して抗癌用途を有する。このような癌腫は、先に標的分子と関連して説明した通りである。
【0071】
特に、本発明の組成物は、HER2又はEpCAMを発現する腫瘍細胞を有する癌腫に対して抗癌用途を有することが好ましい。例えば、HER2を発現する腫瘍細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形成神経膠芽腫細胞(glioblastoma multiforme)、唾液腺腫瘍(salivary gland tumor)細胞などを挙げることができる。また、例えば、EpCAMを発現する腫瘍細胞は、肝癌細胞、前立腺癌細胞、乳癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、胆嚢癌細胞、膵癌細胞、胃癌細胞などを挙げることができる。
【0072】
本発明において、抗癌は、癌細胞の死滅、癌細胞の生存能低下、癌細胞の増殖抑制による癌が有する病理的症状の抑制や遅延、そのような病理的症状の発病抑制や遅延、癌転移抑制、癌再発抑制を含む意味である。
【0073】
本発明の薬剤学的組成物は、有効成分である前述した組換えHSVの他に、組換えアダプター分子をさらに含むことができる。組換えアダプター分子は、前述した組換えHSVが発現するアダプター、すなわち、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質と同一に癌細胞標的化領域を有する融合タンパク質が組換え方法で製造されたものを指す。ここで、組換えHSVが発現するアダプターと同一に癌細胞標的化領域を有するということは、HSVが発現するアダプターの癌細胞標的化領域がHER2を標的分子とする場合に、アダプター分子の癌細胞標的化領域もHER2を標的分子とするということを意味する。組換え方法によって意図する目的タンパク質の製造方法は、一般に、目的タンパク質を発現できる発現ベクトルを製造し、大腸菌、酵母、動物細胞(CHO細胞、NSO細胞、BHK細胞、Sp2細胞、HEK-293細胞)などの宿主細胞に形質転換させ、培養後に目的タンパク質を分離する段階などからなるが、このような組換え方法による目的タンパク質の製造方法は当業界によく公知されており(Sambrook et al,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,(2001))、特に、本発明に用いられる組換えアダプター分子の製造と関連しては韓国登録特許第10-0937774号及び米国登録特許第8318662号を参照できる。本発明の薬剤学的組成物にこのような組換えアダプター分子をさらに含む場合に、本発明の有効成分である組換えHSVと組換えアダプター分子が共に患者に投与されると、組換えHSVの癌細胞初期感染効率が増加する効果がある。
【0074】
また、本発明の薬剤学的組成物は、許可された抗癌剤と併用又は混合して使用されてよい。そのような抗癌剤には、代謝拮抗剤、アルキル化剤、トポイソメラーゼ拮抗剤、微小管拮抗剤、植物由来アルカロイドなど、癌細胞に細胞毒性を示す任意の抗癌剤、任意のサイトカイン医薬品、任意の抗体医薬品、任意の免疫関門抑制剤医薬品、任意の細胞治療剤(car-T cell therarpy,car-NK cell therapy)医薬品などを含む。具体的には、タキソール、ナイトロジェンマスタード、イマチニブ、オキサリプラチン、ゼピチニブ、ボルテゾミブ、スニチニブ、カルボプラチン、シスプラチン、リツキシマブ、エロチニブ、ソラフェニブ、IL-2医薬品、INF-α医薬品、INF-γ医薬品、トラスツズマブ、ブリナツモマブ、イフィリムマブ、ペプブロリズマブ、ニボリズマブ、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、ベバシズマブ、セツキシマブ、チサゲンレクロイセル(Tisagenlecleucel,キムリア)、アキシカブタゲンシロルユーセル(Tisagenlecleucel Axicabtagene Ciloleucel,イエスカルタ)などが例示されてよく、これらの例示された抗癌剤の他にも当業界に公知のいかなる抗癌剤も本発明の薬剤学的組成物と混合又は併用で使用されてよい。
【0075】
本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体又は賦形剤を含み、投与経路によって、当業界に公知の通常の方法で経口用剤形又は非経口用剤形とすることができる。
【0076】
そのような薬剤学的に許容可能な担体又は賦形剤は、人体に特に毒性を有しないと共に、薬物の活性や特性を阻害しないものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水(例えば、、食塩水及び滅菌水)、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、リンゲル液、緩衝剤、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、デキストラン、アルブミン、又はこれらの任意の組合せであってよい。特に、本発明の薬剤学的組成物が液状溶液として製剤化される場合に、適切な担体又は賦形剤としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールなどの成分から一つ以上の成分を単独又は混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の医薬品添加剤などを添加して使用することもできる。
【0077】
本発明の薬剤学的組成物が経口投与剤として製剤される場合には、錠剤、トローチ、カプセル、エリクサー、サスペンション、シロップ、ウエハーなどの形態で製造でき、非経口投与剤、特に注射剤として製剤化する場合には、単位投薬アンプル又は多回投薬の形態で製造できる。本発明の薬剤学的組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤などの形態にも製造化可能である。
【0078】
本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的分野において通常の方法によって患者の身体内投与に適合な単位投与型の製剤形態に剤形化させ、当業界で通常使用する投与方法を用いて経口投与経路、又は、皮膚、病変内(intralesional)、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔、心室内、肺、経皮、皮下、腹内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内、直腸経路などの非経口投与経路によって投与されてよい。
【0079】
本発明の薬剤学的組成物の投与量(有効量)は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々に処方されてよく、当業者であれば、これらの要因を考慮して投与量を適切に決定できる。好ましい態様において、本発明の薬剤学的組成物は、単位容量形態の注射剤として製造され、単位容量形態の注射剤として製造される場合に、本発明の薬剤学的組成物の単位容量当たりに含まれる組換えHSVウイルスの量は、102~1014pfuの範囲、特に104~1011pfuの範囲であってよい。
【0080】
他の態様において、本発明は、前述した組換えHSVを含む薬剤学的組成物を有効量で患者などの対象体に投与する段階を含む癌治療又は予防方法(すなわち、腫瘍治療又は予防方法)に関する。
【0081】
このような癌治療方法は、組換えHSVがそのアダプターの癌細胞標的化領域が標的する標的分子を持つ癌細胞を溶解して死滅させることによって可能になる。したがって、本発明の治療方法は、そのような標的分子を持つ任意の癌腫に対して適用可能である。特に、本発明の治療方法は、HER2又はEpCAMを発現する癌腫に適用されることが好ましい。
【0082】
本発明の治療方法は、前記他の癌治療法と制限なく併用されてよい。例えば、先に例示された細胞毒性抗癌剤、サイトカイン医薬品、抗体医薬品、免疫関門抑制剤医薬品、細胞治療剤(car-T cell therarpy,car-NK cell therapy)医薬品、放射線治療療法、手術療法などが、本発明の薬剤学的組成物の投与前後や同時投与方式で併用されてよい。
【0083】
本発明の治療方法において、有効量は、その適用対象である患者などに医療専門家などの提言による投与期間に本発明の薬剤学的組成物が投与されるとき、癌治療又は予防効果などの意図した医学的効果を示し得る、本発明の薬剤学的組成物が投与される量のことを指す。このような有効量は、前述したように、患者の年齢、体重、性別、病的状態などによって医療専門家などの当業者が適切に決定できる。
【0084】
本発明の治療方法において、その薬剤学的組成物は、好ましくは、患者などに注射剤で、非経口投与経路によって、例えば病変内(intralesional、腫瘍内)、静脈内、筋肉内、動脈内などに投与されてよい。
【発明の効果】
【0085】
前述したように、本発明によれば、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質であるアダプターを多重に発現することによって多重標的化が可能な組換えHSVを提供でき、また、癌細胞標的化領域とHVEMの細胞外ドメインとの融合タンパク質であるアダプターを発現できる他にも再標的化が可能なように修飾された糖タンパク質を有することによって多重標的化が可能な組換えHSVを提供できる。
【0086】
また、本発明によれば、前記多重標的化が可能な組換えHSVを有効成分として含む抗癌治療又は予防用薬剤学的組成物、及び当該薬剤学的組成物を有効量で患者などの対象体に投与する癌予防又は治療方法を提供できる。
【0087】
本発明の多重標的化が可能な組換えHSVは、単一標的化HSVに比べて癌細胞に対して高い感染効率と高い死滅機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】KOS-37BACゲノム構造の概要図である。
【0089】
【
図2】HVEM-制限HSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0090】
【
図3】EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0091】
【
図4】EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1ウイルスの蛍光発現及びHVEM受容体を有する細胞への特異点感染を示す結果である。
【0092】
【
図5】HER2標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルス、EpCAM標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルス、及びHER2及びEpCAM二重(dual)標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0093】
【
図6】HER2scFv-HveAアダプターとEpCAMscFv-HveAアダプターの全体配列及び当該配列の構成を示す図である。
【0094】
【
図7】(i)HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有する単一標的化ウイルスと(ii)HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、且つHER2標的化アダプターを発現するHER2二重標的化HSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0095】
【
図8】gHに挿入・融合されたHER2scFvリガンドの全体アミノ酸配列及び当該配列の構成を示す図である。
【0096】
【
図9】(i)EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有する単一標的化ウイルスと(ii)EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、且つEpCAM標的化アダプターを発現するEpCAM二重標的化HSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0097】
【
図10】gHに挿入・融合されたEpCAMscFvリガンドの全体アミノ酸配列及び当該配列の構成を示す図である。
【0098】
【
図11】Vero-HVEM細胞とSK-OV-3細胞において、蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、HER2scFv-HveAアダプターを発現するウイルス(HADa-S)、gHにHER2scFvリガンドを有するウイルス(HgH-S)、gHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)の拡散を測定した結果である。
【0099】
【
図12】Vero-HVEM細胞において、蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、HER2scFv-HveAアダプターを発現するウイルス(HADa-S)、gHにHER2scFvリガンドを有するウイルス(HgH-S)、gHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)の増幅を測定した結果である。
【0100】
【
図13】Vero-HVEM細胞とSK-OV-3細胞において、蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、HER2scFv-HveAアダプターを発現するウイルス(HADa-S)、gHにHER2scFvリガンドを有するウイルス(HgH-S)、gHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)のHER2scFv-HveAアダプター発現程度を測定した結果である。
【0101】
【
図14】蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、HER2scFv-HveAアダプターを発現するウイルス(HADa-S)、gHにHER2scFvリガンドを有するウイルス(HgH-S)、gHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)の、SK-OV-3細胞などでのHER2の発現有無による特異的感染を示す結果である。
【0102】
【
図15】蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、HER2scFv-HveAアダプターを発現するウイルス(HADa-S)、gHにHER2scFvリガンドを有するウイルス(HgH-S)、gHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)の、SK-OV-3細胞などでのHER2の発現有無による特異的細胞死滅を示す結果である。
【0103】
【
図16】動物実験におい、gHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)による腫瘍抑制を示す結果である。
【0104】
【
図17】蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、EpCAMscFv-HveAアダプターを発現するウイルス(EADa-S)、gHにEpCAMscFvリガンドを有するウイルス(EgH-S)、gHにEpCAMscFvリガンドを有し、EpCAMscFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(EADa-EgH-D)の、BT-474細胞などでのEpCAMの発現有無による特異的感染を示す結果である。
【0105】
【
図18】蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルス(gDm)、EpCAMscFv-HveAアダプターを発現するウイルス(EADa-S)、gHにEpCAMscFvリガンドを有するウイルス(EgH-S)、gHにEpCAMscFvリガンドを有し、EpCAMscFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルス(EADa-EgH-D)の、BT-474細胞などでのEpCAMの発現有無による特異的細胞死滅を示す結果である。
【0106】
【
図19】HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、EpCAM標的化アダプターを発現する二重(dual)標的化HSV-1ウイルス(EADa-HgH-D)のゲノム構造の概要図である。
【0107】
【
図20】HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、EpCAM標的化アダプターを発現する二重(dual)標的化HSV-1ウイルス(EADa-HgH-D)がCHO-K1細胞などでHER2とEpCAMの発現有無によって二重標的化が可能であることを示す結果である。
【0108】
【
図21】HER2及びEpCAM二重(dual)標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルス(EADa-HADa-D)がCHO-K1細胞などでHER2とEpCAMの発現有無によって二重標的化が可能であるを示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下、本発明を実施例を参照して説明する。
【0110】
ただし、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0111】
<実施例1>HVEM制限HSV-1(HVEM-restricted HSV-1)ウイルス作製
【0112】
HSV-1遺伝子は約152kbにも至る大きな遺伝子で構成されており、外来遺伝子を挿入する又は特定位置での変異を挿入するためにKOS-37/BAC(Genbank Accession No.MF156583)(Gierasch WW et al.J.Virol Methods.2006.135:197~206)を使用した。HSV-1KOSストレイン(HSV-1KOS strain)はその特性がよく知られており、遺伝子の機能及び病因調査に有用で、実験室で主に使用されるHSV-1ストレインの一種である(Smith KO.Proc.Soc.Exp.Biol.Med.1964.115:814-816)。KOSゲノムにBACプラスミド挿入によって作製されたKOS-37/BACは、DH10Bバクテリア(Invitrogen)に形質転換(transformation)によってバクテリアレベルでクローニングを可能にする(Gierasch WW et al.,J.Virol Methods.2006.135:197~206)。KOS-37/BACは、HSV-1KOSゲノムのUL37とUL38間の位置にBAC(bacterial artificial chromosomes)が両側にLoxPサイトと一緒に挿入されている。将来、Cre-Loxシステムを用いてBAC遺伝子を除去できるように作製された。その概要図を
図1に示す。
【0113】
HVEM細胞受容体を通してのみ細胞進入するHVEM制限HSV-1を作製するために、HSV-1gDアミノ酸配列(GenBank Accession No.ASM47818、配列番号16)の222番位置のアルギニン(arginine,R)と223番位置のフェニルアラニン(phenylalanime,F)をそれぞれアスパラギン(asparagine,N)とイソロイシン(isoleucine,I)に置換したgD-R222N/F223I HSV-1ウイルスを作製した。
【0114】
このような突然変異によって作られたgD-R222N/F223I HSV-1ウイルスは、細胞感染受容体(entry receptor)としてネクチン-1(nectin-1)を使用できず、単にHVEM(HveA)を通してのみ宿主細胞内に感染が可能なので(Uchida H et al.,J Virol.2009.83(7):2951-2961)、ネクチン-1(nectin-1)受容体を有する正常細胞を感染させることがなく、安全性においても有利である。
【0115】
HVEM制限KOS-gD-R222N/F223Iウイルスのゲノム構造の概要図を
図2に示す。
【0116】
KOS-gD-R222N/F223I HSV-1ウイルスをの作製のために、カウンターセレクションBAC修飾キット(Counter selection BAC modification kit;GeneBridges,Inc.)を用いてメーカーのプロトコルにしたがってKOS-37/BACのgD部分にR222N/F223I突然変異を導入した。
【0117】
具体的には、KOS-37/BACが入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を果たし得るRecEとRecTを発現できるpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。gDに突然変異を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーgD-rpsL For:配列番号17、逆方向プライマーgD-rpsL Rev:配列番号18)を用いてgD-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。gD-rpsL-neo/kanカセットは、挿入する位置のgD相同領域とストレプトマイシン(streptomycin)に敏感性を有させる選別マーカー(selective marker)であるrpsL遺伝子と、カナマイシン(kanamycin)抵抗性を有させるneo/kan遺伝子で構成される。gD-rpsL-neo/kanカセットが挿入されると、rpsL遺伝子によってストレプトマイシン抗生剤に敏感になり、neo/kan遺伝子によってカナマイシン抵抗性を有するE.coliが作られる。KOS-37/BACとpRed/ETが入っているE.coliクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加してpRed/ETの機能を活性化させ、相同組換えが可能なようにRecEとRecTの発現を誘導した後(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)、作製したgD-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換(transformation)した。相同組換えによってgD-rpsL-neo/kanカセットがKOS-37/BACのgD位置に挿入される。KOS-37/BACにgD-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断された状態である。カナマイシン培地から選別されたE.coliはgD-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最終的な遺伝子を挿入する段階に進行した。KOS37-BAC gD-rpsL-neo/kanクローンがあるE.coliにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加してpRed/ETの機能を活性化させ、相同組換えが可能なようにRecEとRecTの発現を誘導した後、gDにおいて222番位置のR及び223番位置のFでそれぞれN及びIを置換したオリゴヌクレオチドであるR222N_F223I_mutant(配列番号19)を100pmol入れて形質転換した。既存gD-rpsL-neo/kanカセットと挿入されたオリゴヌクレオチドが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann R et al.,Microb Cell Fact 2008.14:.doi:10.1186)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Methods enzymol.1999.306:337-352)、gDにおいて222番位置及び223番位置でそれぞれN及びIが導入されたか否かをPCR(ploymerase chain recation)とDNAシーケンシングによって確認した。
【0118】
次に、ウイルス作製は、前記完成されたKOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAをラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、2×105のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてDNA 1ugを形質注入(transfection)した。DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Welgene)に100U/mlペニシリン(penicillin)/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum,Wellgen)を用いて細胞培養をした。前記Cre-Vero-HVEM細胞株は、Cre-Vero細胞株(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)にHVEM遺伝子を挿入させてHVEMタンパク質発現を誘導した細胞株である。Cre-Vero-HVEMを使用した理由は、細胞のCre組換え酵素(recombinase)を用いてKOS-37/BAC-gD-R222N/F223IのBAC遺伝子を除去することができ、またHVEM過発現によるKOS-gD-R222N/F223Iウイルスの感染が効果的である点から、将来、ウイルス大量生産がしやすいためである。遺伝子導入3~4日経過後に、プラーク(plaque)の形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)によって最終的にKOS-gD-R222N/F223Iウイルスを獲得した。
【0119】
<実施例2>EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1ウイルス作製
【0120】
EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1の作製のために、前記実施例1で作製されたKOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAのUL26/UL27位置に、EmGFP(Emerald Green Fluorescent Protein)を発現できる発現カセット(expression cassette)を挿入した(Tiffany A et al.,J Virol Methods.2015.231:18-25)。これは、マーカーとしてEmGFPを用いてウイルスの生産と感染程度の観察を容易にするためである。EmGFPカセット作製には、pCDNA6.2-GW/EmGFP-miRプラスミド(Invitrogen)を用いた。
【0121】
EmGFPを発現するKOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iのゲノム概要図は
図3に示した。
【0122】
EmGFP発現のために、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)の遺伝子プロモーターであるpCMVとHSV TK(Herpes simplex virus thymidine kinase)のポリアデニレーションシグナル(polyadenylation signal)であるtkpAを用いてpCMV-EmGFP-tkpAをKOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAに挿入した。
【0123】
全ての挿入方法は、前記実施例1のように、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0124】
具体的には、KOS-37/BAC-gD-R222N/F223Iが入っているクローンに相同組換え(homologous recombination)機能を果たし得るRecEとRecTを発現できるpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。UL26とUL27間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーUL26/27-rpsL_For:配列番号20、逆方向プライマーUL26/27-rpsL_Rev:配列番号21)を用いてUL26/27-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。KOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAとpRed/ETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、作製したUL26/27-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換した。このような相同組換えによってUL26/27-rpsL-neo/kanカセットがKOS-37/BACのUL26/27位置に挿入される。UL26/27-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断された状態である。カナマイシン培地から選別されたE.coliはUL26/27-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0125】
UL26/27-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliにpRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導し、その後、UL26/27-tkpA-EmGFP-pCMVカセット200ngを形質転換した。UL26/27-tkpA-EmGFP-pCMVカセットはpCDNA6.2-GW/EmGFP-miRプラスミド(Invitrogen)を鋳型(Template)として使用し、正方向プライマーUL26/27-tkpA_For(配列番号22)と逆方向プライマーUL26/27-pCMV_Rev(配列番号23)を用いて作製したものである。
【0126】
既存UL26/27-rpsL-neo/kanカセットと挿入されたUL26/27-tkpA-EmGFP-pCMVが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann R et al.,Microb Cell Fact.2008 14:.doi:10.1186)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Methods enzymol.1999.306:337-352)、UL26/27でtkpA-EmGFP-pCMVの導入されたか否かを、制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0127】
蛍光タンパク質の正常な発現とウイルスの生産のために実験を行った。完成されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAをラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、Cre組換え酵素(recombinase)を用いてBAC遺伝子を除去するために2×105のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてDNA 1ugを形質注入した。形質注入3日後、EmGFPタンパク質の発現を蛍光顕微鏡を用いて観察し、Cre-Vero-HVEM細胞のプラーク(plaqe)形成によってウイルス生産を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いてKOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gDm)獲得した。
【0128】
KOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルスの感染と蛍光発現は、HVEMがない細胞株(J1及びJ-Nectin)とHVEMが発現する細胞株(J-HVEM)を使用した。J1細胞は、仔ハムスター腎臓細胞株であり、ウイルスHSV-1レセプターであるHVEMとNectin-1が欠乏している細胞株である(Petrovic B et al.,2017.PLoS Pathog.19;13(4):e1006352)。J-Nectin、J-HVEM細胞株は、J1細胞にそれぞれNectin-1とHVEMを過発現する細胞株である(Petrovic B et al.,2017.PLoS Pathog.19;13(4):e1006352)。各細胞株は、DMEM培地(Welgene)に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum)を用いて培養した。1×104の細胞に、前記得られたKOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルスを10MOI(multiplicity of infection)で感染させ、24時間後に、蛍光タンパク質発現及びウイルス感染程度を蛍光顕微鏡を用いて観察した(BaeK HJ et al.,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。
【0129】
その結果として、
図4に、蛍光顕微鏡モードで撮影した写真と光学顕微鏡モードで撮影した写真をそれぞれ上下に示した。
図4の上の蛍光顕微鏡写真を参照すると、JI細胞株とJ-Nectin細胞株は感染されず、J-HVEM細胞株のみが感染されたことが分かる。
【0130】
このような結果から、意図した通り、KOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gDm)が蛍光タンパク質の発現によってウイルス増殖の観察が容易であり、進入経路としてNectin-1を使用できず、HVEMを通してのみ進入することを確認した。
【0131】
<実施例3>HER2標的化アダプターを発現するHSV-1、EpCAM標的化アダプターを発現するHSV-1、及びHER2及びEpCAM二重(dual)標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルスの作製
【0132】
前記実施例2で作製された、EmGFP発現カセット(pCMV-EmGFP-tkpA)が挿入されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAのUL3/UL4位置に、HER2scFv-HveAアダプター発現カセット、EpCAM-HveAアダプター発現カセット、及びHER2scFv-HveAとEpCAM-HveAを共に発現するアダプター発現カセット挿入した。
【0133】
HER2scFv-HveAアダプター発現カセットであるpCMV-HER2scFv-HveA-bGHpAが挿入されたKOS-UL3/4-HER2scFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルスゲノム概要図、EpCAMscFv-HveAアダプター発現カセットであるpCMV-EpCAMscFv-HveA-bGHpAが挿入されたKOS-UL3/4-EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルスゲノム概要図、及びEpCAM-HveAとHER2scFv-HveAを共に発現するアダプター発現カセットpCMV-EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-bGHpAが挿入されたKOS-UL3/4-EpCAMscFv-HveA-HER2scFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルスゲノム概要図を
図5に示し、また、
図6に、HER2scFv-HveAアダプターとEpCAMscFv-HveAアダプターの全体配列と当該配列の構成を示した。
【0134】
ここで、HER2に対するscFvは、配列番号4のVHと配列番号5のVLが配列番号24のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、EpCAMに対するscFvは、配列番号6のVLと配列番号7のVHが配列番号25のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、HveAは、HER2scFv-HveAアダプター及びEpCAMscFv-HveAアダプターにおいて配列番号8のHveA82が使用された。また、HER2scFv-HveAアダプター及びEpCAMscFv-HveAアダプターにおいてはそのN末端、すなわちHER2scFvのVHの前部とEpCAMscFvのVL前部に配列番号26のリーダ配列が含まれている。
【0135】
HER2又はEpCAMに対するscFv配列とHveA配列のリンカー配列であるNH2-GGGGS配列の次には、クローニングを容易にするための制限酵素EcoRI作用部位であるEF(塩基配列:GAATTC)が追加されている。そして、pCMVは、前記サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)の遺伝子プロモーターであり、bGH-pAは、bGH-PolyA(bovine growth hormone polyadenylation)シグナル配列であり、HER2scFv-HveAとEpCAM-HveAを共に発現するアダプター発現カセットpCMV-HER2scFv-HveA-P2A-EpCAMscFv-HveA-bGHpAにおいてP2Aはブタテスコウイルス-1(Pocine Teschovirus-1)の2A(P2A)である。
【0136】
本実施例で使用された、リーダ配列まで含むHER2scFv-HveAアダプター全長のアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号27と配列番号28に開示されており、また、リーダ配列まで含むEpCAMscFv-HveAアダプター全長のアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号29と配列番号30に開示されている。
【0137】
HER2scFv-HveAアダプター発現カセット、EpCAMscFv-HveAアダプター発現カセット及びEpCAM-HveA-HER2scFv-HveAデュアル(dual)アダプター発現カセットの挿入は、前記実施例1及び2と同様に、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0138】
具体的には、前記実施例2で作製されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I誘電体が入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を行うRecEとRecTを発現するpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。UL3とUL4との間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーUL3/4-rpsL-neo_for:配列番号31、逆方向プライマーUL3/4-rpsL-neo_rev:配列番号32)を用いてUL3/4-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。KOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223IとpRedETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、前記作製したUL3/4-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換する。このような相同組換えによってUL3/4-rpsL-neo/kanカセットがKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223IのUL3/4位置に挿入される。UL3/4-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断される。カナマイシン培地から選別されたE.coliはUL3/4-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0139】
UL3/4-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliにpRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、UL3/4-pCMV-HER2scFv-HveA-bGHpAカセット、UL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-bGHpAカセット及びUL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-bGHpAカセット200ngを形質転換させた。前記UL3/4-pCMV-HER2scFv-HveA-bGHpAカセット、UL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-bGHpAカセット及びUL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-bGHpAは、pCDNA3.1-HER2scFv-HveAプラスミド、pCDNA3.1-EpCAMscFv-HveAプラスミド及びpCDNA3.1-pCMV-EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA(BaeK HJ et al.,Mol Ther.2011.19(3):507-514;Carter.p et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.1992,15;89(10):4285-9,Willuda J et al.,Cancer Res.1999,15;59(22):5758-67)を鋳型とし、正方向プライマーUL3/4_pCMV_For(配列番号33)と逆方向プライマーUL3/4_bGH_poly_R(配列番号34)を用いて作製した。
【0140】
既存挿入されたUL3/4-rpsL-neo/kanカセット、先に挿入されたUL3/4-pCMV-HER2scFv-HveA-bGHpA、UL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-bGHpA及びUL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-bGHpAが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann R et al.,Microb Cell Fact.2008.14:.doi:10.1186)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Methods enzymol.1999.306:337-352)、UL3/4においてUL3/4-pCMV-HER2scFv-HveA-bGHpA、UL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-bGHpA及びUL3/4-pCMV-EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-bGHpAの導入されたか否かを、制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0141】
完成されたKOS-37/BAC-UL3/4_HER2scFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I、KOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223I及びKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223I DNAを、ラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、Creリコンビナーゼを用いてBAC遺伝子を除去するために2×105のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてDNA 1ugを形質注入した。形質注入3日後、蛍光顕微鏡を用いてEmGFPタンパク質の蛍光発現と細胞のプラーク(plaque)形成を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いて、HER2標的化アダプターを発現するKOS-UL3/4_HER2scFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(HADa-S)、EpCAM標的化アダプターを発現するKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス(EADa-S)及びHER2及びEpCAM二重(dual)標的化アダプターを発現するKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-P2A-HER2scFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス(EADa-HADa-D)を獲得した。
【0142】
<実施例4>HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1と、HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、HER2標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルス作製
【0143】
特定癌で発現する標的分子を標的化できる再標的化HSVの作製のために、HSV-1の糖タンパク質であるgHアミノ酸配列(GenBank Accession No.ASM47773、配列番号3)の29番と30番のアミノ酸の間に、癌細胞に特異的に発現するHER2を認知するリガンド(HER2scFv)を挿入した。前記実施例2、3で作製された、KOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_HER2scFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223I DNAにある糖タンパク質gHのアミノ酸29番と30番の間に、HER2scFvを発現できる遺伝子を挿入した。
【0144】
HSV-1のgHにHER2scFvリガンドが挿入されたKOS-gH/HER2scFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス(HgH-S)とKOS-UL3/4_HER2scFv-HveA-gH/HER2scFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス(HADa-HgH-D)ゲノム概要図を
図7に示し、また、
図8に、gH-HER2scFvリガンドの全体配列と当該配列の構成を示した。ここで、HER2に対するscFvは、配列番号4のVHと配列番号5のVLが配列番号24のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、このscFvのN末端に配列番号35のリンカーペプチドが連結されており、またC末端に配列番号36のリンカーペプチドが連結されている。
【0145】
本実施例で使用された全長のHER2scFvのアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号37と配列番号38に開示されている。
【0146】
gH-HER2scFvリガンドの挿入は、前記実施例1、2、3と同様に、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0147】
具体的には、前記実施例2、3で作製されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_HER2scFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAが入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を行うRecEとRecTを発現するpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。gHのアミノ酸29番と30番の間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_for:配列番号39、逆方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_rev:配列番号40)を用いてgH29/30-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。それぞれのKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_HER2scFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAにpRed/ETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、前記作製したgH29/30-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換する。このような相同組換えによってgH29/30-rpsL-neo/kanカセットがgHのアミノ酸29番と30番の間の位置に挿入される。gH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断される。カナマイシン培地から選別されたE.coliはgH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0148】
gH29/30-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliにpRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、gH29/30-HER2scFvリガンド200ngを形質転換した。前記gH29/30-HER2scFvリガンドはpCAGGSMCS-gH-HER2scFvプラスミドを鋳型とし、正方向プライマーgH29/30-scFv_For(配列番号41)と逆方向プライマーgH29/30-scFv_Rev(配列番号42)を用いて作製した。前記pCAGGSMCS-gH-HER2scFvプラスミドは、pCAGGSMCSプラスミド(Atanasiu D,et al.,J.Virol.2013,Nov.87(21):11332-11345)にHER2scFvを挿入して作製したものであり、具体的には、pCAGGSMCSプラスミドとPCRで増幅したHER2scFv(Carter.p et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.1992,15;89(10):4285-9)にNotI制限酵素(NEB,R3189)を処理し、NotIで切られたpCAGGSMCSプラスミドとHER2scFvをT4DNAリガーゼ(NEB,M0202)を用いて結合させて作製した。
【0149】
既存挿入されたgH29/30-rpsL-neo/kanカセットと先に挿入されたgH29/30-HER2scFvが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann R et al.,Microb Cell Fact.2008.14:.doi:10.1186)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Methods enzymol.1999.306:337-352)、gH29/30においてHER2scFvの導入されたか否かを、制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0150】
完成されたKOS-37/BAC-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_HER2scFv-HveA-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAを、ラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、Cre組換え酵素(recombinase)を用いてBAC遺伝子を除去するために、2×105のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてそれぞれのDNA 1ugを形質注入した。形質注入3日後、蛍光顕微鏡を用いてEmGFPタンパク質の蛍光発現と細胞のプラーク(plaque)形成を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いてKOS-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(HgH-S)とKOS-UL3/4_HER2scFv-HveA-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(HADa-HgH-D)を獲得した。
【0151】
<実施例5>EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1と、EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、EpCAM標的化アダプターを発現するHSV-1ウイルス作製
【0152】
特定癌で発現する標的分子を標的化できる再標的化HSVの作製のために、HSV-1の糖タンパク質であるgHアミノ酸配列(GenBank Accession No.ASM47773、配列番号35)の29番と30番のアミノ酸の間に、癌細胞に特異的に発現するEpCAMを認知するリガンド(EpCAM scFv)を挿入した。前記実施例2と3で作製された、KOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223I(EADa-S)DNAにある糖タンパク質gHのアミノ酸29番と30番の間に、EpCAMscFvを発現できる遺伝子を挿入した。
【0153】
HSV-1のgHにEpCAMscFvリガンドが挿入されたKOS-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス(EgH-S)とKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス(EADa-EgH-D)ゲノム概要図を
図9に示し、また、
図10に、gH-EpCAMscFvリガンドの全体配列と当該配列の構成を示した。ここで、EpCAMに対するscFvは、配列番号6のVLと配列番号7のVHが配列番号25のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、このscFvのN末端に配列番号43のリンカーペプチドとC末端に配列番号44のリンカーペプチドが連結されている。
【0154】
本実施例で使用されたHER2scFvのアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号45と配列番号46に開示されている。
【0155】
gH-EpCAMscFvリガンドの挿入は、前記実施例4と同様に、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0156】
具体的には、前記実施例2と3で作製されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAが入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を行うRecEとRecTを発現するpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。gHのアミノ酸29番と30番の間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_for:配列番号40、逆方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_rev:配列番号41)を用いてgH29/30-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。それぞれのKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAにpRed/ETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、前記作製したgH29/30-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換する。このような相同組換えによってgH29/30-rpsL-neo/kanカセットがgHのアミノ酸29番と30番の間に挿入される。gH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断される。カナマイシン培地から選別されたE.coliはgH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0157】
gH29/30-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliにpRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、gH29/30-EpCAMscFvリガンド200ngを形質転換した。前記gH29/30-EpCAMscFvリガンドは、pCAGGSMCS-gH-EpCAMscFvプラスミドを鋳型とし、正方向プライマーgH29/30-scFv_For(配列番号41)と逆方向プライマーgH29/30_scFv_Rev(配列番号42)を用いて作製した。前記pCAGGSMCS-gH-EpCAMscFvプラスミドは、pCAGGSMCSプラスミド(Atanasiu D,et al.,J.Virol.2013,Nov.87(21):11332-11345)にEpCAMscFvを挿入して作製したものであり、具体的には、pCAGGSMCSプラスミドとPCRで増幅したEpCAMscFv(Willuda J et al.,Cancer Res.1999,15;59(22):5758-67)にNotI制限酵素(NEB,R3189)を処理し、NotIで切られたpCAGGSMCSプラスミドとEpCAMscFvをT4DNAリガーゼ(NEB,M0202)を用いて結合させて作製した。
【0158】
既存挿入されたgH29/30-rpsL-neo/kanカセットと先に挿入されたgH29/30-EpCAMscFvが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann R et al.,Microb Cell Fact.2008.14:.doi:10.1186)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Methods enzymol.1999.306:337-352)、gH29/30においてEpCAMscFvの導入されたか否かを、制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0159】
完成されたKOS-37/BAC-gH_EpCAMscFv-EmGFP-gD-R222N/F223IとKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAをラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、Cre組換え酵素(recombinase)を用いてBAC遺伝子を除去するために、2×105のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてそれぞれのDNA 1ugを形質注入した。形質注入2日後、蛍光顕微鏡を用いてEmGFPタンパク質の蛍光発現と細胞のプラーク(plaque)形成を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いてKOS-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(EgH-S)とKOS-gH/EpCAMscFv-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(EADa-EgH-D)を獲得した。
【0160】
<実施例6>HER2二重標的化抗癌ウイルスの活性測定
【0161】
前記実施例3,4で作製されたHER2scFv-HveAアダプターを発現するKOS-UL3/4_HER2scFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(HADa-S)、gHにHER2scFvを発現するKOS-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(HgH-S)、及びHER2scFv-HveAアダプターとgHにHER2scFvを発現するKOS-UL3/4_HER2scFv-HveA-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223I(HADa-HgH-D)二重標的化(double-targeting)ウイルスのウイルス拡散及び増幅、HER2scFv-HveAアダプター発現量を確認するために、次のように実験を行った。
【0162】
ウイルス拡散実験を行うために、Vero-HVEM細胞とSK-OV-3細胞を2.0×105で12ウェルプレートに敷いた。
【0163】
HSV-1野生型ウイルス(KOS)と、実施例2で製造された蛍光タンパク質EmGFPを発現し、細胞受容体としてHVEMのみを使用して進入するウイルスgDm、実施例3で製造されたHER2scFv-HveAアダプターを発現するウイルスHADa-S、実施例4で製造されたgHにHER2scFvリガンドを有するウイルスHgH-S、実施例4で製造されたgHにHER2scFvリガンドを有し、HER2scFv-HveAアダプターを発現する二重標的化ウイルスHADa-HgH-Dを、一つのウェルに20~50個になるようにウイルスを希釈して感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去し、ウイルスの拡散を防止するために、0.2%メチルセルロース(methylcellulose)が入っている培地に交替した。3日後、蛍光顕微鏡を用いてウイルスプラーク(plaque)のサイズからウイルス拡散を測定した。
【0164】
結果を
図11に示した。
図11から確認されるように、Vero-HVEM細胞株では野生型ウイルス(KOS)に比べて、gDm、HgH-S、HADa-S及びHADa-HgH-Dのプラーク(plaque)サイズがそれぞれ18%、49%、4%、29%小さく形成された。HER2発現細胞株であるSK-OV-3細胞では、野生型ウイルス(KOS)に比べてHgH-Sのプラーク(plaque)サイズが53%減少したが、HADa-SとHADa-HgH-Dウイルスはそれぞれ20%、19%増加したことを観察した。HgH-Sのプラーク(plaque)サイズが減少したことは、gDが進入受容体(entry receptor)に結合すれば、gHがこのような結合によって活性シグナルをgBに伝達して細胞融合を誘導する働きをし、また、インテグリン(integrins)と結合してエンドシトシス(endocytosis)を誘導するが、gHにscFvが挿入されながら構造的な変化によるこのようなシグナル伝達又はエンドシトシスに影響を与え、ウイルス拡散や複製が阻害されるものと判断される。
【0165】
ウイルス複製実験を行うために、Vero-HVEM細胞を1.0×104で96ウェルプレートに敷いた。gDm、gHに、HER2scFvをリガンド発現するHgH-S、HER2scFv-HveAアダプターを発現するHADa-S、及び二重標的化HADa-HgH-Dウイルス0.1MOIを感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために新しい培地に交替した。感染後、3、24、48時間にウイルス培養液を獲得し、培養液にあるウイルスの数を測定した。
【0166】
結果を
図12に示した。
図12から確認されるように、Vero-HVEM細胞株に対するgDm、HADa-S及びHADa-HgH-Dのウイルス増殖活性は類似しているが、
図11の結果のように、ウイルス拡散能力の減少によってHgH-Sでウイルスの増殖活性が減少することを確認した。
【0167】
アダプターの発現量を測定する実験を行うために、Vero-HVEMとSK-OV-3細胞を2.0×105で12ウェルプレートに敷いた。gDm、gHにHER2scFvリガンドを発現するHgH-S、HER2scFv-HveAアダプターを発現するHADa-S、及び二重標的化ウイルスであるHADa-HgH-Dウイルス0.1MOIを感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために、FBSがない新しい培地に交替した。感染48時間後、ウイルス培養液を獲得し、培養液にあるアダプターを測定するために、ウェスタンブロット(Western blot)によってタンパク質発現量を測定した。
【0168】
結果を
図13に示した。
図13から確認されるように、Vero-HVEM細胞株では、HADa-HgH-D二重標的化ウイルスがアダプターのみ発現するHADa-Sウイルスに比べて3倍以上のアダプターを発現した。しかし、アダプターがないgDmとHgH-Sウイルス培養液では、アダプターが測定されなかった。HER2を発現するSK-OV-3細胞ではHADa-HgH-D二重標的化ウイルスのアダプターのみが検出された。このような理由は、HADa-Sウイルスに比べてHADa-HgH-D二重標的化ウイルスが、HER2を発現する細胞株への感染率が高いので、比例してアダプターの発現が高いためである。
【0169】
要するに、HADa-HgH-D二重標的化ウイルスは、ウイルス拡散及び増幅とアダプター発現量において他のウイルスと比較して相対的に向上した能力を確認した。
【0170】
<実施例7>HER2二重標的化抗癌ウイルスを用いたHER2発現癌細胞の感染及び細胞毒性
【0171】
前記実施例2、3、4で作製されたgDm、gHにHER2scFvリガンドを発現するHgH-S、HER2scFv-HveAアダプターを発現するHADa-S、及びHER2scFv-HveAアダプターとgHにHER2scFvリガンドを全て発現する二重標的化HADa-HgH-Dウイルスを、HER2を発現する癌細胞株で実験を行った。それぞれのウイルスが糖タンパク質gHで発現するHER2scFvリガンド又はアダプターによって周辺の癌細胞へのウイルスの感染を誘導するか否か、感染後細胞毒性を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0172】
実験に使用された細胞株は、HER2を発現しない細胞株(MDA-MB-231)とHER2を発現する細胞株(SK-OV-3、MCF-7、MDA-MB-453、BT-474)である。乳癌細胞株であるMDA-MB-231(ATCC,HTB-26)、MCF-7(ATCC,HTB-22)、BT-474(ATCC,HTB-20)、卵巣癌細胞株であるSK-OV-3(ATCC,HTB-77)は、DMEM培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBSを用いて培養し、乳癌細胞株であるMDA-MB-453(ATCC,HTB-131)RPMI1640培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBSを用いて培養した。
【0173】
HER2特異的ウイルス感染実験のために、8×103のSK-OV-3とMDA-MB-231、4.0×104のMCF-7、8.0×104のMDA-MB-453、7.0×104のBT-474細胞株は2MOIで、gHにHER2scFvリガンドを発現するHgH-S、HER2scFv-HveAアダプターを発現するHADa-S、二重標的化HADa-HgH-Dウイルス、及び対照群として、HER2標的化されないgDmウイルスを感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために、新しい培地に交替した。感染2日後、各細胞株でウイルス感染をEmGFP蛍光発現によって確認した(BaeK HJ et al.,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。また、感染後、4日間細胞毒性を測定するために、EZ-Cytox(DoGenBio)試薬を使用し、生きている細胞でのみ形成される発色物質であるホルマザン(formazan)の発色程度を、ELISAリーダ機を用いて吸光度450nmで測定した。吸光度を数値化してそれぞれのウイルスによる癌細胞株の細胞毒性を測定した。
【0174】
結果を
図14に示した。
図14から確認されるように、アダプターを発現するHADa-Sウイルスは、SK-OV-3とMCF7細胞で感染率が高いが、MDA-MB-453とBT-474で低い感染率を観察した。gHにHER2scFvリガンドを発現するHgH-Sウイルスは、SK-OV-3とMCF7及びMDA-MB-453細胞で感染率が高いが、BT-474で低い感染率を観察した。リガンドとアダプターをそれぞれ一つずつ発現するウイルスとは違い、二重標的化HADa-HgH-Dウイルスは、HER2を発現する全ての細胞で高い感染率を観察した。しかし、gDmウイルスは、HER2標的化されないため、癌細胞株に感染されなかったし、対照群であるHER2が発現しないMDA-MB-231細胞ではいずれのウイルスの感染も観察されなかった。前記MDA-MB-453とBT-474での低い感染率は、MDA-MB-453とBT-474の細胞形態及び特性とそれによるHADa-Sウイルスの低い初期感染に起因するものと判断される。
【0175】
また、
図15には、感染後、4日間ウイルスによる癌細胞の細胞毒性を観察した結果を示した。HgH-S、HAD-S HADa-HgH-Dウイルスは、SK-OV-3で41%、27%、25%の細胞生存率を、MCF-7では61%、52%、39%の細胞生存率を、MDA-MB-453では49%、100%、23%の細胞生存率が観察された。HER2を発現する3つの細胞株で二重標的化HADa-HgH-Dウイルス感染による細胞毒性が最も高いことを観察した。しかし、gDmウイルスはHER2標的化されないので、細胞毒性が観察できず、HER2が発現しないMDA-MB-231でも感染されないので、3つのウイルスが細胞毒性に関与しないことを観察した。MDA-MB-453細胞の生存率に影響がなかった理由は、HADa-Sウイルスが初期感染が他のウイルスに比べて顕著に低かったためと見られる。
【0176】
<実施例8>マウスにおいてHER2二重標的化抗癌ウイルスによる腫瘍細胞の生長抑制
【0177】
前記実施例4で作製された二重標的化HADa-HgH-DウイルスがマウスにおいてHER2を発現する癌細胞成長の抑制を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0178】
5週齢Balb/cヌードマウス(オリエントバイオ)の皮下に5×106cells/mouseのSK-OV-3を注入した後、腫瘍のサイズが100mm3になるまで観察した。腫瘍が生成されたマウス5匹に、HER2ダブルターゲッティングHADa-HgH-Dウイルスを2×107pfu/mouseで腫瘍内注入(Intratumoral injection)し、対照群も同様、5匹のマウスにPBSを注入した。ウイルス注入後、28日間マウスに生成された腫瘍のサイズを観察した。
【0179】
図16に、28日間腫瘍のサイズをグラフで示した。PBSを入れた対照群は、初期116.46±11.21mm
3から815.28±141.36mm
3へと腫瘍が成長したが、HER2ダブルターゲッティングHADa-HgH-Dウイルスを注入したマウスでは、初期108.85±15.54mm
3から110.02±55.44mm
3へと腫瘍が成長し、対照群と比較して抑制されることを観察した。
【0180】
<実施例9>EpCAM二重標的化抗癌ウイルスを用いたEpCAM発現癌細胞の感染及び細胞毒性
【0181】
前記実施例3、5で作製されたEpCAMscFv-HveAアダプターを発現するEADa-Sウイルス、gHにEpCAMscFvリガンドを発現するEgH-Sウイルス、及びEpCAMscFv-HveAアダプターとgHの両方にEpCAMscFvリガンドを発現する二重標的化EADa-EgH-Dウイルスを用いて、癌細胞株で実験を行った。
【0182】
各ウイルスが糖タンパク質gHに発現するEpCAMscFvリガンド又はアダプターによって周辺の癌細胞にウイルスの感染を誘導するか否か、感染後に細胞毒性を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0183】
実験に使用された細胞株は、EpCAMを発現しない細胞株(Mia-PaCa-2)とEpCAMを発現する細胞株(MCF-7、MDA-MB-453、BT-474)である。乳癌細胞株であるMCF-7(ATCC,HTB-22)、BT-474(ATCC,HTB-20)、膵癌細胞株であるMia-PaCa-2(ATCC,CRL-1420)は、DMEM培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene))と10% FBSを用いて培養し、乳癌細胞株であるMDA-MB-453(ATCC,HTB-131)は、RPMI培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBSを用いて培養した。
【0184】
EpCAM特異的ウイルス感染実験のために、4.0×104のMCF-7、8.0×104のMDA-MB-453、7.0×104のBT-474細胞株は1MOIで、前記実施例3で作製されたEpCAMscFv-HveAアダプターを発現するEADa-S、実施例4で作製されたgHにEpCAMscFvリガンドを発現するEgH-Sウイルス、アダプターとリガンドが共に発現する二重標的化EADa-EgH-Dウイルス、及び対照群として、実施例2で作製されたEpCAM標的化されないgDmウイルスを感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために新しい培地に交替した。感染2日後、各細胞株でウイルス感染をEmGFP蛍光発現によって確認した(BaeK HJ et al.,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。また、感染後、5日間細胞毒性を測定するために、EZ-Cytox(DoGenBio)試薬を使用し、生きている細胞でのみ形成される発色物質であるホルマザン(formazan)の発色程度を、ELISAリーダ機を用いて吸光度450nmで測定した。吸光度を数値化してそれぞれのウイルスによる癌細胞株の細胞毒性を測定した。
【0185】
結果を
図17に示した。
図17から確認されるように、BT-474、MDA-MB-453及びMCF7細胞でEpCAM-HveAアダプターのみが発現するEADa-Sウイルス、gHにEpCAMscFvリガンドが発現するEgH-Sウイルス、アダプターとリガンドが共に発現する二重標的化EADa-EgH-Dウイルスがいずれも細胞を感染させることを蛍光で観察したが、二重標的化EADa-EgH-DウイルスにおいてEADa-S、EgH-Sウイルスと比較して高い感染率を観察した。gDmウイルスはEpCAM標的化されないため、癌細胞株に感染されなかったし、EpCAMを発現しないMia-PaCa-2細胞ではウイルスが感染されないことを観察した。
【0186】
また、
図18に、感染後、5日間ウイルスによる癌細胞の細胞毒性を観察した結果を示した。EgH-S、EAD-S EADa-EgH-Dウイルスは、BT-474で35%、34%、26%の細胞生存率を、MDA-MB-453では22%、19%、17%の細胞生存率を、MCF-7では36%、31%、20%の細胞生存率を観察した。EpCAMを発現する3つの細胞株においてEADa-EgH-Dダブルターゲッティングウイルス感染による細胞毒性が最も高いことを観察した。しかし、gDmウイルスはEpCAM標的化されないため、細胞毒性が観察できず、EpCAMを発現しないMia-PaCa-2でも感染されないため、両ウイルスとも細胞毒性に関与しないことを観察した。
【0187】
<実施例10>HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、EpCAM標的化アダプターを発現するHSV-1作製
【0188】
特定癌で発現する2種の標的分子(HER2/EpCAM)を二重で標的化できるHSVの作製のために、EpCAMscFv-HveAアダプターを発現するKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I(EADa-S)ウイルス糖タンパク質であるgHアミノ酸配列(GenBank Accession No.ASM47773、配列番号35)の29番と30番のアミノ酸の間に、癌細胞に特異的に発現するHER2を認知するリガンド(HER2scFv)を挿入した。
【0189】
前記実施例3で作製されたKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD/R222N/F223I(EADa-S)DNAにある糖タンパク質gHのアミノ酸29番と30番の間に、HER2scFvを発現できる遺伝子を挿入した。
【0190】
HSV-1のgHにHER2scFvリガンドが挿入されたKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-gH/HER2scFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルスゲノム概要図を
図19に示し、また、gH-HER2scFvリガンドの全体配列と当該配列の構成は
図8に示されている。ここで、HER2に対するscFvは、配列番号4のVHと配列番号5のVLが配列番号24のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、このscFvのN末端に配列番号36のリンカーペプチドが連結されており、また、C末端に配列番号37のリンカーペプチドが連結されている。
【0191】
本実施例で使用された全長のHER2scFvのアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号38と配列番号39に開示されている。
【0192】
gH-HER2scFvリガンドの挿入は、前記実施例4と同様に、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0193】
具体的には、前記実施例3で作製されたKOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAが入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を行うRecEとRecTを発現するpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.;Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。gHのアミノ酸29番と30番の間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_for:配列番号40、逆方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_rev:配列番号41)を用いてgH29/30-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。
【0194】
KOS-37/BAC-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとpRed/ETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、前記作製したgH29/30-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換した。このような相同組換えによってgH29/30-rpsL-neo/kanカセットがgHのアミノ酸29番と30番の間に挿入される。gH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断される。カナマイシン培地から選別されたE.coliはgH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0195】
gH29/30-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliにpRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、gH29/30-HER2scFvリガンド200ngを形質転換した。前記gH29/30-HER2scFvリガンドはpCAGGSMCS-gH-HER2scFvプラスミドを鋳型とし、正方向プライマーgH29/30-scFv_For(配列番号42)と逆方向プライマーgH29/30scFv_Rev(配列番号43)を用いて作製した。
【0196】
既存挿入されたgH29/30-rpsL-neo/kanカセットと先に挿入されたgH29/30-HER2scFvが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann R et al.,Microb Cell Fact.2008.14:.doi:10.1186)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Methods enzymol.1999.306:337-352)、gH29/30においてHER2scFvの導入されたか否かを、制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0197】
完成されたKOS-37/BAC-gH/HER2scFv-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAをラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、Creリコンビナーゼを用いてBAC遺伝子を除去するために、2×105のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてそれぞれのDNA 1ugを形質注入した。形質注入3日後、蛍光顕微鏡を用いてEmGFPタンパク質の蛍光発現と細胞のプラーク(plaque)形成を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.;J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いて、EpCAMscFv-HveAアダプターとgHにHER2scFvリガンドを発現するKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-gH_HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223I二重(dual)標的化ウイルス(EADa-HgH-D)を獲得した。
【0198】
<実施例11>HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有し、EpCAM標的化アダプターを発現するHSV-1の二重標的化効果実験
【0199】
前記実施例10で作製されたEpCAMscFv-HveAアダプターとgHにHER2scFvリガンドを発現するKOS-UL3/4_EpCAMscFv-HveA-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iデュアルターゲッティングウイルス(EADa-HgH-D)が、HER2とEpCAMタンパク質を発現する細胞に感染を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0200】
実験に使用された細胞株は、HER2とEpCAMを発現しない細胞株(CHO-K1)、HER2を発現する細胞株(CHO-HER2)及びEpCAMを発現する細胞株(CHO-EpCAM)である。中国ハムスター卵巣細胞株であるCHO-K1、CHO-HER2、CHO-EpCAM(Kuroki M et al.,J Biol Chem.1991.74:10132-10141)は、HaM’s F-12K培地(Welgene))に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum)を用いて培養した。
【0201】
特異的ウイルス感染のために2.5×104のCHO-K1、CHO-HER2、CHO-EpCAM細胞株を96ウェルプレートに敷いた。24時間が過ぎた後、前記実施例4で作製されたHER2二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)、前記実施例5で作製されたEpCAM二重標的化ウイルス(EADa-EgH-D)及び前記実施例10で作製されたHER2/EpCAM二重(dual)標的化ウイルス(EADa-HgH-D)をそれぞれ5MOIで感染させた。90分後、残留する初期ウイルス及びアダプターを除去するために新しい培地に交替した。感染2日後、蛍光発現によって、各細胞株のウイルス感染を蛍光顕微鏡で観察した(BaeK HJ et al.,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。
【0202】
結果を
図20に示した。
図20に、それぞれのウイルスが細胞株に感染された現象を蛍光顕微鏡で撮影した写真で示した。HER2とEpCAMが発現しないCHO-K1細胞株にはいずれのウイルスも感染されていないことを観察した。HER2二重標的化ウイルス(HADa-HgH-D)は、CHO-HER2にのみ感染され、EpCAM二重標的化ウイルス(EADa-EgH-D)はCHO-EpCAMでのみ感染された。しかし、HER2/EpCAM二重(dual)標的化ウイルス(EADa-HgH-D)は、CHO-HER2とCHO-EpCAM細胞の両方で感染を確認した。この結果から、2種の標的分子を共に標的化できるウイルスによる2種以上の標的分子を標的化する戦略の可能性を確認することができた。
【0203】
<実施例12>HER2及びEpCAM二重(dual)標的化アダプターを発現するHSV-1の二重標的化効果実験
【0204】
前記実施例3で作製されたEpCAMscFv-HveAアダプターとHER2scFv-HveAアダプターを共に発現するHER2及びEpCAM二重(dual)標的化ウイルス(EADa-HADa-D)が、HER2とEpCAMタンパク質を発現する細胞に感染を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0205】
実験に使用された細胞株は、HER2とEpCAMを発現しない細胞株(CHO-K1)、HER2を発現する細胞株(CHO-HER2)及びEpCAMを発現する細胞株(CHO-EpCAM)である。中国ハムスター卵巣細胞株であるCHO-K1、CHO-HER2、CHO-EpCAM(Kuroki M et al.,J Biol Chem.1991.74:10132-10141)は、HaM’s F-12K培地(Welgene))に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum)を用いて培養した。
【0206】
特異的ウイルス感染のために、2.5×104のCHO-K1、CHO-HER2、CHO-EpCAM細胞株を96ウェルプレートに敷いた。24時間が過ぎた後、前記実施例3で作製されたHER2scFv-HveAアダプターのみを発現するウイルス(HADa-S)、EpCAMscFv-HveAアダプターのみを発現するウイルス(EADa-S)、及びEpCAMscFv-HveAアダプターとHER2scFv-HveAアダプターを共に発現する二重標的化ウイルス(EADa-HADa-D)をそれぞれ、5MOIで感染させた。90分後、残留する初期ウイルス及びアダプターを除去するために新しい培地に交替した。感染2日後、蛍光発現によって、各細胞株のウイルス感染を蛍光顕微鏡で観察した(BaeK HJ et al.,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。
【0207】
その結果として、
図21に、それぞれのウイルスが細胞株に感染された現象を蛍光顕微鏡で撮影した写真を示した。HER2とEpCAMが発現しないCHO-K1細胞株にはいずれのウイルスも感染されないことを観察した。HER2scFv-HveAアダプターのみを発現するウイルス(HADa-S)は、CHO-HER2にのみ感染され、EpCAMscFv-HveAアダプターのみを発現するウイルス(EADa-S)はCHO-EpCAMでのみ感染された。しかし、EpCAMscFv-HveAアダプターとHER2scFv-HveAアダプターを共に発現する二重標的化ウイルス(EADa-HADa-D)は、CHO-HER2とCHO-EpCAM細胞の両方で感染を確認した。
【0208】
この結果から、2種の標的分子を共に標的化できるアダプターを発現するウイルスによる2種の以上の標的分子を標的化する戦略の可能性を確認することができた。
【配列表】