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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】機械学習装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/391 20150101AFI20240327BHJP
   H04B 17/309 20150101ALI20240327BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H04B17/391
H04B17/309
H04Q9/00 301C
H04Q9/00 311Q
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020021199
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2020174343
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019076604
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】陳 傳欣
(72)【発明者】
【氏名】西村 忠史
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘純
(72)【発明者】
【氏名】東野 輝夫
【審査官】大野 友輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-036901(JP,A)
【文献】国際公開第2012/104983(WO,A1)
【文献】中林 寛暁 et al.,代表的な伝搬モデルを効果的に融合した伝搬損失推定,電子情報通信学会2019年総合大会講演論文集,一般社団法人電子情報通信学会,2019年03月05日,通信1,S-9,S-10
【文献】荒木 雅弘,フリーソフトではじめる機械学習入門 (第2版),日本,森北出版株式会社,2018年04月20日,pp.100-117
【文献】佐藤 光哉 et al.,ニューラルネットワークおよび空間内挿に基づく電波環境マップ構築に関する一考察,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2010年01月17日,Vol.118, No.421,pp.63-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/391
H04B 17/309
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線機器(M1)と他の無線機器(M2)との間の電波伝搬状態を学習して、前記無線機器および他の前記無線機器のマッピング作業を支援する機械学習装置(10)であって、
前記無線機器と他の前記無線機器との間に関する第1情報(21,22)を、状態変数を得るための情報として取得する、取得部(20)と、
前記状態変数と前記電波伝搬状態とを関連付けて学習する、学習部(30)と、
を備える、
機械学習装置。
【請求項2】
前記第1情報は、前記無線機器と他の前記無線機器との距離の情報(21)を含み、
前記無線機器と他の前記無線機器との距離は、前記状態変数の少なくとも1つである、
請求項1に記載の機械学習装置。
【請求項3】
前記第1情報は、前記無線機器と他の前記無線機器との間に位置する所定の物品に関する物品情報(21,22)を含む、
請求項1又は2に記載の機械学習装置。
【請求項4】
前記物品情報は、前記所定の物品の数の情報を含む、
請求項3に記載の機械学習装置。
【請求項5】
前記所定の物品は、天井の上の空間に配置されている空気調和装置(A)及び/又は梁(B)である、
請求項3又は4に記載の機械学習装置。
【請求項6】
前記物品情報は、前記所定の物品の大きさに関する情報を含む、
請求項3から5のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項7】
前記物品情報は、前記所定の物品の位置に関する情報を含む、
請求項3から6のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項8】
前記物品情報は、前記所定の物品の向きに関する情報を含む、
請求項3から7のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項9】
前記学習部は、
前記電波伝搬状態の実測を行った結果(55)、及び、前記電波伝搬状態の実測のときの前記状態変数、から成る学習用データセット、
に基づいて、前記状態変数と前記電波伝搬状態とを関連付けて学習する、
請求項1又は2に記載の機械学習装置。
【請求項10】
前記学習部は、
前記電波伝搬状態の実測を行った結果(55)、及び、前記電波伝搬状態の実測のときの前記物品情報から得られる前記状態変数、から成る学習用データセット、
に基づいて、前記状態変数と前記電波伝搬状態とを関連付けて学習する、
請求項3から8のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項11】
前記学習部は、次の式1の線形モデル(35)の係数を調整することによって、前記状態変数と前記電波伝搬状態とを関連付けて学習する、
請求項1,2,9のいずれかに記載の機械学習装置。
式1:
【請求項12】
前記学習部は、次の式2の線形モデル(35)の係数を調整することによって、前記状態変数と前記電波伝搬状態とを関連付けて学習する、
請求項3から8のいずれか、又は、請求項10、に記載の機械学習装置。
式2:
【請求項13】
前記電波伝搬状態の推定結果を出力する出力部(40)と、
前記学習部の学習状態を更新する更新部(60)と、
をさらに備え、
前記更新部は、前記電波伝搬状態の推定結果(45)と、前記電波伝搬状態の実測を行った結果(55)との差を評価することによって、前記学習部の学習状態を更新する、
請求項1から12のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項14】
前記電波伝搬状態の推定結果を出力する出力部(40)と、
前記学習部の学習状態を更新する更新部(60)と、
をさらに備え、
前記更新部は、
以下の評価関数1が小さくなるように、前記式1における
を更新することによって、
前記学習部の学習状態を更新する、
請求項11に記載の機械学習装置。
評価関数1:
【請求項15】
前記電波伝搬状態の推定結果を出力する出力部(40)と、
前記学習部の学習状態を更新する更新部(60)と、
をさらに備え、
前記更新部は、
以下の評価関数2が小さくなるように、前記式2における
を更新することによって、
前記学習部の学習状態を更新する、
請求項12に記載の機械学習装置。
評価関数2:
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無線機器と他の無線機器との間の電波伝搬状態を学習する機械学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
暖房、換気、空気調和などを行う機器(以下、HVAC機器と呼ぶ。)をネットワークに接続して遠隔から管理するシステムが従来から存在している。このシステムでは、ネットワークアドレスと、各HVAC機器の建物内における物理的な配置の情報とを、対応付けて記憶しておく必要がある。この対応付けの作業は、建物において手作業で行われていることが多く、作業に多大な時間とコストがかかっている。
【0003】
この問題に対し、近年、各HVAC機器に電波送受信機(無線機器)を設け、それらの電波送受信機から電波強度の情報を得て、それを基に各HVAC機器の配置を推定する、という取り組みが為されている。電波伝搬状態のシミュレーションに関しては、例えば、特許文献1(特開2016-208265号公報)に1つの方法が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の方法によって電波伝搬状態のシミュレーションを行うことは可能であるが、これまでの方法とは異なる、より簡易な、あるいは、より精度の高いものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の機械学習装置は、無線機器と他の無線機器との間の電波伝搬状態を学習する機械学習装置である。機械学習装置は、取得部と、学習部とを備えている。取得部は、状態変数を得るための情報として、第1情報を取得する。第1情報は、無線機器と他の無線機器との間に関する情報である。例えば、第1情報として、無線機器と他の無線機器との間の距離に関する情報、無線機器と他の無線機器との間にある物品に関する情報、などが挙げられる。学習部は、状態変数と、無線機器と他の無線機器との間の電波伝搬状態とを、関連付けて学習する。
【0006】
ここでは、取得部が無線機器と他の無線機器との間に関する第1情報を取得するため、第1情報から必要な状態変数を得ることができる。学習部が状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習するため、この機械学習装置によれば、無線機器と他の無線機器との間の電波伝搬状態を得ることができる。
【0007】
なお、無線機器と他の無線機器との間の電波伝搬状態は、無線機器と他の無線機器との間の電波の減衰量、他の無線機器が受信可能な最小の送信電波強度、所定の送信電波強度での無線機器からの発信に対する他の無線機器の受信電波強度、などの何れかによって表すことができる。
【0008】
第2観点の機械学習装置は、第1観点の機械学習装置であって、第1情報は、無線機器と他の無線機器との距離の情報を含む。無線機器と他の無線機器との距離は、状態変数の少なくとも1つである。
【0009】
ここでは、状態変数として2つの無線機器間の距離を採用しているので、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0010】
第3観点の機械学習装置は、第1観点又は第2観点の機械学習装置であって、第1情報は、無線機器と他の無線機器との間に位置する所定の物品に関する物品情報を含む。
【0011】
ここでは、電波伝搬状態に影響を与える両無線機器の間にある物品の情報から、状態変数を得ることができる。これにより、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0012】
第4観点の機械学習装置は、第3観点の機械学習装置であって、物品情報は、所定の物品の数の情報を含む。
【0013】
ここでは、比較的簡易な情報である、所定の物品の数の情報から、状態変数を得ている。このため、より簡易に、電波伝搬状態を得ることができる。
【0014】
第5観点の機械学習装置は、第3観点又は第4観点の機械学習装置であって、所定の物品は、天井の上の空間に配置されている空気調和装置及び/又は梁である。
【0015】
ここでは、既存の電波伝搬シミュレーション装置では精度良い結果を得ることが難しい、天井の上の狭い空間において、学習部によって比較的精度の良い電波伝搬状態を得ることができる。
【0016】
第6観点の機械学習装置は、第3観点から第5観点のいずれかの機械学習装置であって、物品情報は、所定の物品の大きさに関する情報を含む。
【0017】
ここでは、無線機器と他の無線機器との間に位置する所定の物品の大きさに関する情報が、第1情報として取得される。これにより、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0018】
第7観点の機械学習装置は、第3観点から第6観点のいずれかの機械学習装置であって、物品情報は、所定の物品の位置に関する情報を含む。
【0019】
ここでは、無線機器と他の無線機器との間に位置する所定の物品の位置に関する情報が、第1情報として取得される。これにより、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0020】
第8観点の機械学習装置は、第3観点から第7観点のいずれかの機械学習装置であって、物品情報は、所定の物品の向きに関する情報を含む。
【0021】
ここでは、無線機器と他の無線機器との間に位置する所定の物品の向きに関する情報が、第1情報として取得される。これにより、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0022】
第9観点の機械学習装置は、第1観点又は第2観点の機械学習装置であって、学習部は、学習用データセットに基づいて、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習する。学習用データセットは、電波伝搬状態の実測を行った結果、及び、電波伝搬状態の実測のときの状態変数、から成る。
【0023】
ここでは、電波伝搬状態の実測を行い、そのときの状態変数や結果から成る学習用データセットを利用して、学習部が学習する。これにより、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0024】
第10観点の機械学習装置は、第3観点から第8観点のいずれかの機械学習装置であって、学習部は、学習用データセットに基づいて、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習する。学習用データセットは、電波伝搬状態の実測を行った結果、及び、電波伝搬状態の実測のときの物品情報から得られる状態変数、から成る。
【0025】
ここでは、電波伝搬状態の実測を行い、そのときの状態変数や結果から成る学習用データセットを利用して、学習部が学習する。これにより、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0026】
第11観点の機械学習装置は、第1観点,第2観点,あるいは第9観点の機械学習装置であって、学習部は、次の式1の線形モデルの係数を調整することによって、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習する。
式1:
【0027】
第12観点の機械学習装置は、第3観点から第8観点のいずれか、又は、第10観点の機械学習装置であって、学習部は、次の式2の線形モデルの係数を調整することによって、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習する。
式2:
【0028】
第13観点の機械学習装置は、第1観点から第12観点のいずれかの機械学習装置であって、出力部と、更新部と、をさらに備える。出力部は、電波伝搬状態の推定結果を出力する。更新部は、電波伝搬状態の推定結果と電波伝搬状態の実測を行った結果との差、を評価することによって、学習部の学習状態を更新する。
【0029】
ここでは、学習部の学習状態が向上し、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0030】
第14観点の機械学習装置は、第11観点の機械学習装置であって、出力部と、更新部と、をさらに備える。出力部は、電波伝搬状態の推定結果を出力する。更新部は、以下の評価関数1が小さくなるように、上記の式1における
を更新することによって、学習部の学習状態を更新する。
評価関数1:
【0031】
ここでは、学習部の学習状態が向上し、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【0032】
第15観点の機械学習装置は、第12観点の機械学習装置であって、出力部と、更新部と、をさらに備える。出力部は、電波伝搬状態の推定結果を出力する。更新部は、以下の評価関数2が小さくなるように、上記の式2における
を更新することによって、学習部の学習状態を更新する。
評価関数2:
【0033】
ここでは、学習部の学習状態が向上し、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】機械学習装置が電波伝搬状態を学習する複数のBLEモジュールが配置される建物と、その部屋の天井の上の空間に存在する梁及び空気調和機を示す、簡易縦断面図。
図2】天井の上の空間に存在する梁及び空気調和機の配置を含む、建物の1階部分の平面図。
図3】機械学習装置を含むHVAC管理システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(1)HVAC管理システムの概要
(1-1)HVAC管理システムが必要とされる背景
建物(オフィスビルや商業施設など)の省エネルギーおよびインテリジェント制御技術の急速な発展に対する需要の高まりと共に、空調や換気のインテリジェントシステムが建物に設置されつつある。このシステムは、温度、湿度、CO2濃度、部屋の占有率などを監視することで、部屋の人数に基づいて空気調和機の設定温度を調整するなど、需要に応じたフィードバック制御を提供できる。
【0036】
特定の地域において、このようなフィードバック制御を実現するには、換気や空気調和を行うHVAC機器やセンサーをネットワークに接続し、HVAC機器等のネットワークアドレスを、HVAC機器等の物理的な配置場所にマッピングする必要がある。アドレス設定とも呼ばれるマッピング作業は、これまで、手作業で行われている。作業者が現場で行う作業には、HVAC機器を一度に1つずつ作動させるために制御装置を使用して行う作業や、制御装置のディスプレイ上に表示されたHVAC機器等のアドレスをレイアウトマップ上に書き留める作業が含まれる。
【0037】
これらの作業には時間がかかり、人的ミスによる手直し作業が生じる。また、作業者によって現場で行われる作業に係る人件費は、大きなコストになっている。例えば、50000平方メートルの床面積を持つ大規模な建物の場合、2人の作業員が作業しても、アドレス設定に3ヶ月を要する。
【0038】
(1-2)HVAC管理システムのマッピング作業軽減に関する基本的な考え方
このマッピング(アドレス設定)作業の負担を抑制するために、本実施形態では、自動マッピングを行うためのHVAC管理システムについて説明する。このHVAC管理システムでは、図1に示すように、HVAC機器である空気調和機AにBLE(Bluetooth Low Energy)モジュールMを装備させ、BLEモジュールMのRSSI(受信信号強度インジケータ)を利用する。ここでは、空気調和機Aに装備させたBLEモジュールMの設置位置を推定し、BLEモジュールM間の電波伝搬状態を推定する。それぞれのBLEモジュールM間の電波伝搬状態が推定されると、それらの推定値からマッピングを容易に行うことができる。
【0039】
具体的には、空気調和機AそれぞれにBLEモジュールMを装備させ、互いにパケット通信をさせることで、送信側のBLEモジュールMから受信側のBLEモジュールMに送信されたパケットの実際の受信信号強度を測定する。一方、建物の設計者などから提供された設計図面(図3参照)から抽出した各空気調和機Aのレイアウト図面から、各空気調和機Aの物理的な配置や空気調和機A間の距離、電波(信号)の伝搬に影響を与える可能性がある障害物の配置などを、自動的に読み取る。BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間の電波伝搬状態、例えば、両モジュールM間における電波減衰量、送信側のBLEモジュールMの発信信号強度に対する受信側のBLEモジュールMにおける受信信号強度の比率、などは、学習部30の線形モデル35(図3参照)を用いることで推定ができる。各空気調和機Aのレイアウト図面から読み取られた各空気調和機Aや障害物の配置の情報と、様々な建物において過去にサンプリングされた膨大な学習データセットによってトレーニングされた学習部30の線形モデル35を使えば、BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間の電波伝搬状態を精度良く推定することが可能になる。
【0040】
この結果、最終的には、建物の天井の上の空間に設置される空気調和機Aに対して、ネットワークアドレスを自動的にマッピングすることが可能になる。これにより、建物における空調や換気のインテリジェントシステム(HVAC管理システム)の初期設定作業に要する時間の短縮及び人件費の削減を図ることができる。
【0041】
(2)HVAC管理システムの構成
HVAC管理システムは、暖房、換気、空気調和などを行うHVAC機器を管理するシステムであるが、ここではHVAC機器である空気調和機Aを例にとって、図1から図3を参照しながら説明を行う。
【0042】
(2-1)HVAC機器である空気調和機の設置場所
空気調和機Aは、図1に示すように、建物81の内部空間に設置される空調室内機である。複数の空気調和機Aは、建物81の各フロア(部屋)の天井の上の空間に配置されている。図1では、建物81の1階の天井の上の空間Sに設置された3つの空気調和機A1,A2,A3を示している。これらの空気調和機A1,A2,A3は、1階の天井の上の空間Sを含む平面図である図2で示す空気調和機A1,A2,A3である。1階の天井の上の空間Sの空間には、多数の梁Bが水平方向に延びている。図1及び図2に示すように、空気調和機A2と空気調和機A3との間には、梁B1が存在している。
【0043】
(2-2)BLEモジュール
空気調和機Aは、それぞれ、BLEモジュールMを内蔵している。BLEモジュールMは、RSSIを有しており、電波の発信に加えて、受信した電波の強度(受信信号強度)を測定することができる。
【0044】
図1に示すように、空気調和機A1がBLEモジュールM1を内蔵しており、空気調和機A2がBLEモジュールM2を内蔵しており、空気調和機A3がBLEモジュールM3を内蔵している。
【0045】
(2-3)機械学習装置としてのコンピュータ
機械学習装置として機能するコンピュータ10は、1又は複数のコンピュータから成り、インターネット等の通信ネットワーク80を介して各建物81の空気調和機A等のHVAC機器と接続される。コンピュータ10は、HVAC管理システムのサービス提供者が、各種サービスを提供するために構築したクラウドコンピューティングサービスを実行する。コンピュータ10のハードウェア構成は、1つの筐体に収納されていたり、ひとまとまりの装置として備えられていたりする必要はない。
【0046】
コンピュータ10は、図3に示すように、主として、取得部20と、学習部30と、出力部40と、入力部50と、更新部60とを有している。コンピュータ10は、制御演算装置と記憶装置とを備える。制御演算装置には、CPU又はGPUといったプロセッサを使用できる。制御演算装置は、記憶装置に記憶されているプログラムを読み出し、このプログラムに従って所定の画像処理や演算処理を行う。さらに、制御演算装置は、プログラムに従って、演算結果を記憶装置に書き込んだり、記憶装置に記憶されている情報を読み出したりすることができる。図3に示す取得部20、学習部30、出力部40、入力部50及び更新部60は、制御演算装置により実現される各種の機能ブロックである。これらの機能ブロックは、制御演算装置がモデル作成プログラムを実行させることで出現する。
【0047】
(2-3-1)取得部
取得部20は、状態変数を得るための情報として、空気調和機配置情報(第1情報)21と、天井裏空間の梁配置情報(第1情報)22とを、外部の設計図面データベース70から取得する。設計図面データベース70には、建物81の各フロアの設計図面等が記憶されている。空気調和機配置情報21は、図1図2に示すような、空気調和機Aが配置されている場所に関する情報である。空気調和機配置情報21は、各空気調和機Aの平面図におけるX座標、Y座標のデータや、空気調和機A同士の距離などの情報を含んでいる。梁配置情報22は、各梁Bの両端のX座標、Y座標のデータや、どの2つの空気調和機Aの間に位置しているのかを示す情報などを含んでいる。
【0048】
これらの空気調和機配置情報21及び梁配置情報22は、言い換えると、あるBLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間に関する情報である。空気調和機A同士の距離の情報は、それらの2つの空気調和機Aに内蔵されるBLEモジュールM同士の距離の情報となる。また、各空気調和機Aの平面図におけるX座標、Y座標のデータと、各梁Bの両端のX座標、Y座標のデータとから、あるBLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間に位置する梁Bや空気調和機Aの数の情報を算出することができる。
【0049】
ここでは、設計図面から抽出した空気調和機Aや梁Bのレイアウトマップから、
を取得部20が状態変数として取得する。
【0050】
例えば、図1及び図2に示すBLEモジュールM1と他のBLEモジュールM2との間には、梁B1が1つ存在し、空気調和機A3が1つ存在する。BLEモジュールM2と他のBLEモジュールM3との間には、梁B1が1つ存在し、空気調和機Aは存在しない。BLEモジュールM1と他のBLEモジュールM3との間には、梁B1も空気調和機Aも存在しない。
【0051】
(2-3-2)学習部
学習部30は、状態変数と、BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間の電波伝搬状態とを、関連付けて学習する。学習部30は、学習用データセットに基づいて、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習する。学習用データセットは、電波伝搬状態の実測を行った結果である電波伝搬状態の実測結果55と、電波伝搬状態の実測のときの状態変数とから成る。
【0052】
電波伝搬状態の実測結果55は、図3に示すように、後述する入力部50によって建物81に設置された各空気調和機AのBLEモジュールMから収集される情報である。電波伝搬状態の実測のときの状態変数は、具体的には、建物81に設置された各空気調和機Aや梁Bの情報から得られる値である。ここでは、設計図面から抽出した空気調和機Aや梁Bのレイアウトマップから、任意の2つのBLEモジュールM間の距離と、2つのBLEモジュールMを結ぶ線分上にある梁Bと空気調和機Aの数とが、電波伝搬状態の実測のときの状態変数として用いられる。
【0053】
更に詳しく説明すると、学習部30は、次の式12の線形モデル35の係数を調整することによって、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習する。
式12:
【0054】
(2-3-3)出力部
出力部40は、学習部30の線形モデル35によって得られた電波伝搬状態の推定結果45を出力する。
【0055】
(2-3-4)入力部
入力部50は、電波伝搬状態の実測結果55を、通信ネットワーク80を介して、建物81に設置された各空気調和機AのBLEモジュールMから収集する。また、入力部50は、電波伝搬状態の実測結果55を、通信ネットワーク80を介して、ユーザ端末90から収集することも可能である。
【0056】
(2-3-5)更新部
更新部60は、出力部40が出力する電波伝搬状態の推定結果45と、入力部50に入力された電波伝搬状態の実測結果55と、の差を求める。そして、更新部60は、その差を評価することによって、学習部30の学習状態を更新する。
【0057】
具体的には、更新部60は、以下の評価関数12が小さくなるように、上記の式12における
を更新することにより、学習部30の学習状態を更新する。
評価関数12:
【0058】
(3)HVAC管理システムのコンピュータ(機械学習装置)の特徴
(3-1)
一般に、送信機と受信機との間の距離が伝搬路損失の主要因である場合、自由空間における電波伝搬は、フリスの伝達公式(Friis Transmission Equation)によって記述することができる。しかし、建物の天井の上の空間は、通常0.5mあるいは1.5mといった高さであり、非常に制限された空間である。また、天井の上の空間には、建物の強度を保つための梁やHVAC機器が存在している。このような複雑な空間では、距離のほかに、電波伝播経路上の障害物も、反射や屈折による伝搬路損失に大きな影響を及ぼす可能性がある。このため、障害物もモデルの変数として考慮する必要がある。特に、金属製で比較的体積の大きい2種類の障害物、梁(beam)とHVAC機器は、線形モデルの変数として考慮すべきである。
【0059】
これに鑑み、本実施形態に係る機械学習装置としてのコンピュータ10では、BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの距離と、BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間にある梁Bと空気調和機Aの数とに焦点を当てている。
【0060】
本実施形態のHVAC管理システムのコンピュータ10は、取得部20が、BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間に関する空気調和機配置情報(第1情報)21や天井裏空間の梁配置情報(第1情報)22を取得する。このため、コンピュータ10は、これらの情報から学習部30で必要な状態変数を得ることができる。そして、学習部30が状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習するため、このコンピュータ10によれば、BLEモジュールMと他のBLEモジュールMとの間の電波伝搬状態を得ることができる。
【0061】
また、状態変数として、
を採用しているので、精度の高い電波伝搬状態を得ることができている。
【0062】
このように、コンピュータ10によれば、既存の電波伝搬シミュレーション装置では精度良い結果を得ることが難しい、天井の上の狭い空間Sにおいて、学習部30によって比較的精度の良い電波伝搬状態を得ることができている。
【0063】
(3-2)
本実施形態に係る機械学習装置としてのコンピュータ10では、さらに、状態変数として、
を採用している。このため、コンピュータ10では、より精度の高い電波伝搬状態を得ることができている。
【0064】
(3-3)
本実施形態に係る機械学習装置としてのコンピュータ10では、建物81において各BLEモジュールMによって電波伝搬状態の実測を行い、そのときの状態変数や電波伝搬状態の実測結果55から成る学習用データセットを利用して、学習部30が学習する。具体的には、更新部60が、電波伝搬状態の推定結果45と電波伝搬状態の実測結果55との差を評価することによって、学習部30の学習状態を更新する。これにより、
が、その建物81の天井の上の空間の梁Bや空気調和機Aの配置に合った適切な数値になる。
【0065】
(4)変数が1つのモデルと変数が3つのモデルとの比較の一例
【実施例
【0066】
上述のコンピュータ(機械学習装置)10は、金属製で比較的体積の大きい2種類の障害物、梁と空気調和機に焦点を当てている。まず、設計図面から抽出したレイアウトマップから、任意の2つのBLEモジュール間の距離(distance)と、2つのBLEモジュールを結ぶ線分上にある梁と空気調和機の数(#beamおよび#machine)とを取得している。そして、次に、(distance、#beam、#machine)の3つの変数からなる予測変数セットを作成している。
【0067】
ここで、#beamと#machineとの影響を評価するために、
1変数(1-feature;distance)と、
3変数(3-feature;distance、#beam、#machine)と、
の両方を使用して、学習部が線形モデルを構築し、それらの違いを比較した。
【0068】
1変数モデルに対しては、多項式を持つOLS回帰(Ordinary Linear Regression;通常の最小二乗法)を選択した。線形回帰は、データセット内の観測された応答と線形近似によって予測された応答との間の残差平方和を最小にするための係数で、線形モデルを近似する。数学的には、モデルは次のように表すことができる。
【0069】
残差二乗和(損失関数と呼ばれることもある)は、次の式で表される。
【0070】
一方、3つの変数[distance、#beam、#machine]を持つモデルに対しては、多項式を用いたリッジ回帰(Ridge Regression)を選択した。リッジ回帰も、一般化線形回帰の1つである。OLS回帰と比較すると、リッジ回帰には、追加のペナルティ項を伴う損失関数がある。
【0071】
モデルのトレーニングの最初の試行では、それぞれの3つの(distance、#beam、#machine)変数を持つモデルに、
【0072】
OLS回帰とリッジ回帰の両方について、多項式の次数を1から4まで変更し、回帰前に各変数にスケーリングを適用した。機械学習ライブラリの機能を使用することによって、変数は最初に正規分布に変換され、次に各変数の最大絶対値が1.0にスケーリングされる。
【0073】
線形モデル予測の精度は、主として、RMSE(Root Mean Square Error;平均平方二乗誤差)と、R2(決定係数)によって評価される。ここでは、RMSEを採用した。RMSEは、推定されたRSSIと測定されたRSSIとの間の絶対差を使って計算される。
【0074】
ここでは、次の2つの方法で、RMSE計算を行った。
1)モデルトレーニングとテストの両方(RMSE計算)を、全データセット(100%データセット)に対して実行した。
2)K-分割交差検証(K=10)セットは、ランダムに10セットに分割し、モデルは9セットで訓練し、残りの1セットでテストした。テストセットを繰り返してモデルをテストし、RMSEを10回計算した。そして、10個のRMSEの平均値を、評価指標とした。
【0075】
実験では、すべての梁が金属製である、典型的な鉄骨構造の建物(オフィスビル)において、データサンプリングを行った。
【0076】
天井の上の空間(石膏ボードの下から上のスラブまで)の高さは、0.85m、
梁の最大高さは、0.7m、
空気調和機の平均の高さは、0.3m、
である。
【0077】
各階は、18m×18mの平らな天井である。26個のBLEモジュールが、1階と2階とに配置されている。2つのBLEモジュール間の距離は、1.3mから20mである。
【0078】
データサンプリングプロセスを1週間行い、その間、BLEモジュールは、通信パケットを交換し、パケットレコードが収集された。パケットレコードには、タイムスタンプ、トランスミッタID、レシーバID、送信電力(各BLEモジュールに対して、常に8dBmに設定されている)、および、RSSIが含まれる。建物内のWi-Fiによる無線干渉は、作業時間によって深刻になる。これを考慮して、夜間(22時から7時)およびモデルトレーニングのための週末のRSSIを選んだ。RSSIは、BLEモジュールの各対について、5分の時間間隔で更に再サンプリングされ、各時間間隔におけるRSSIの平均値が上述の100%データセットとして使用された。
【0079】
モデル評価結果を、表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
ここでは、2種類のRMSEが計算されている。K-分割交差検証(K-fold cross-validation)では、100%データセットよりも大きいRMSEを示した。どちらのRMSEも、同じ傾向を示した。
【0082】
同じ機能を持つ多くのモデルでは、次数が高いモデルほどRMSEが低くなる。このモデルは、距離の他に、梁の数と空気調和機の数を変数として追加することで、天井の上の空間における電波伝搬モデルの精度が向上している。
【0083】
次に、モデルが示すRSSIと、実際のBLEモジュールのRSSIとの比較を、表2に示す。8組のモデルのうち、3変数の4次のモデルが最良の推定精度を示した。表2では、「102A」というBLEモジュールが絡む全てのBLEモジュールのペア(図示は省略)について、その違いを示している。
【0084】
【表2】
【0085】
HVAC機器のネットワークアドレス設定のプロセスを改善するために、上記のBLEモジュールのRSSIを利用することは有用である。実験によって、RSSI予測のRMSEには、次の傾向があることを発見した。
1)梁の数や、空気調和機などのHVAC機器の台数といった、障害物に関する情報を加味することによって、RMSEが減少する。
2)多項式の次数の増加とともに、RMSEが減少する。
【0086】
(5)変形例
(5-1)
上記のコンピュータ(機械学習装置)10では、2つのBLEモジュールMを結ぶ線分上にある障害物(梁Bと空気調和機A)に関する状態変数として、それらの障害物の数を採用している。しかし、これに代えて、あるいは、これに加えて、障害物の大きさを状態変数としてもよい。
【0087】
(5-2)
上記のコンピュータ(機械学習装置)10では、2つのBLEモジュールMを結ぶ線分上にある障害物(梁Bと空気調和機A)に関する状態変数として、それらの障害物の数を採用している。しかし、これに代えて、あるいは、これに加えて、障害物の位置を状態変数としてもよい。
【0088】
(5-3)
上記のコンピュータ(機械学習装置)10では、2つのBLEモジュールMを結ぶ線分上にある障害物(梁Bと空気調和機A)に関する状態変数として、それらの障害物の数を採用している。しかし、これに代えて、あるいは、これに加えて、障害物の向きを状態変数としてもよい。
【0089】
(5-4)
上記のコンピュータ(機械学習装置)10では、学習部30が、上記の式12の線形モデル35の係数を調整することによって、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習している。これに代えて、学習部30は、次の式11の線形モデルの係数を調整することによって、状態変数と電波伝搬状態とを関連付けて学習してもよい。
式11:
【0090】
そして、更新部60は、上記の評価関数12ではなく、以下の評価関数11が小さくなるように、上記の式11における
を更新することによって、学習部30の学習状態を更新してもよい。
評価関数11:
【0091】
このように式11の線形モデルの
を更新することによって学習部30の学習状態を更新する場合にも、精度の高い電波伝搬状態を得ることができるようになる。
【0092】
(5-5)
上記のHVAC管理システムでは、HVAC機器である空気調和機AにBLEモジュールMを装備させているが、BLEモジュールに代えて、他の無線機器を装備させてもよい。例えば、ZigBeeモジュールを採用してもよい。
【0093】
(6)機械学習装置を用いた電波強度の推定値と、従来のシミュレーションを用いた電波強度の推定値との比較
(6-1)
上記のように、HVAC機器等のネットワークアドレスを、HVAC機器等の物理的な配置場所にマッピングする作業(アドレス設定作業)を軽減するために、機械学習装置としてのコンピュータ10によるBLEモジュールM間の電波伝搬状態の推定は有用である。各空気調和機の設置位置を検知し、アドレス設定を自動化できれば、フィードバック制御、さらには、建物の省エネルギーおよびインテリジェント制御技術の発展が期待できる。
【0094】
そこで、空気調和機それぞれにBLEモジュールを装備させ、上記の機械学習装置では、BLEモジュールから出力される電波の受信強度を用いている。電波の受信強度(電波強度)は、電波伝搬状態を表す指標の1つである。
【0095】
2地点間の電波強度は、距離による電波の減衰により距離が遠いほど弱くなる傾向がある。しかし、その2地点間に電波の伝搬を阻害するものがあると、その影響で電波強度の減衰が大きくなる。従来、電波伝搬強度の推定には、物理モデルをベースとしたシミュレーションが用いられてきたが、入力条件(入力内容)が多く煩雑である。従来の物理モデルを使ったアドレス設定において、定常業務として活用可能な程度まで入力条件を絞ると、精度が大幅に悪化するという課題があった。
【0096】
これに鑑み、上記の機械学習装置では、2つのBLEモジュール間の距離、および、2つのBLEモジュール間にある電波伝搬を阻害する障害物、を基に計測される電波強度を予測する電波伝搬モデルを、機械学習を用いて構築している。
【0097】
以下に、機械学習を用いたモデルの有効性を検証する為に、シミュレーションによる従来の物理モデルとの比較結果を示す。
【0098】
(6-2)比較評価
まず、機械学習の予測では、BLEモジュールの電波強度を被説明変数としている。また、BLEモジュール間の距離と、空気調和機や梁の数を、説明変数(状態変数)としている。あるビルの天井裏に実装したBLEモジュールの電波強度実測値を入れて電波伝搬モデルを学習した後、学習モデルを使って電波強度を推定した。機械学習の予測精度評価では、ビルの天井裏に設置した15個のBLEモジュール間の電波強度を用いて、精度評価を行った。
【0099】
シミュレーションの予測では、あるビルの天井裏実環境の3Dモデル(空気調和機および梁が含まれるモデル)を作成して、材料パラメーターに参考値を入力し、電波伝搬シミュレーションを実施して、電波強度を推定した。シミュレーションのソフトウェアは、市販の離散事象シミュレータに、高精細な電波伝搬を行うための拡張モジュールを組み合わせたものを用いた。このソフトウェアによるシミュレーションでは、建物などによる電波の反射、遮蔽、回析の影響を考慮した、精細な電波伝搬環境におけるシミュレーションの実行が可能である。シミュレーションによる予測精度評価では、3Dモデルを構築した建物部分に含まれる5個のBLEモジュール間の電波強度を、評価対象とした。
【0100】
なお、シミュレーションの予測では、材料パラメーターを入力すること以外に、BIMモデル(3Dの建物のデジタルモデル)が無い場合、そのモデルの作成も必要となるので、学習モデルを使うよりも煩雑な作業が必要となる。
【0101】
上記の手順に従って精度評価を実施した結果を、以下の表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
シミュレーションの方は、電波強度実測値の標準誤差が小さいにも関わらず、推定誤差が大きいことがわかる。
【0104】
以上の結果から、機械学習を用いた手法の方がシミュレーションを用いるよりも良い精度で電波強度が予測可能であることがわかる。ここでは、シミュレーションの入力条件よりも少ない状態変数を用いて学習を行ったけれども、学習モデルを使った方が高い精度が得られている。
【0105】
(7)各空気調和機の設置位置とBLEモジュールのマッチング
上記の機械学習装置によって得られる電波伝搬状態としての電波強度は、次のステップで、BLEモジュールの位置を特定するための、機器設置位置とBLEモジュールとのマッチングアルゴリズム、において用いられる。機器設置位置とBLEモジュールとのマッチングでは、まず、上記の機械学習の手法によって得られた推定受信電波強度を辺の値とし、空気調和機の位置IDを頂点とした無向グラフGEを得る。次に、対象の物件である建物(現場)の空気調和機に内蔵されたBLEモジュールが、互いに送信する。BLEモジュールの実測受信電波強度を収集し、実測受信強度を辺の値とし、頂点を送信BLEモジュールと受信BLEモジュールのIDとする無向グラフGMを作成する。但し、電波強度の推定値と実測値には必ず誤差が存在する。そこで、誤差許容値(slack value)を設定することで、誤差が許容値以下になっている無向グラフGMでの辺と無向グラフGEでの辺が同一である可能性がある、と判断される。その上で、無向グラフGMの無向グラフGEへのマッチングアルゴリズムを行うことで、空気調和機の設置位置ごとにマッチング候補となるBLEモジュール(複数)を決定する。
【0106】
もしも、以上のマッチングを行う際に、シミュレーションを用いた推定電波強度値を用いると、同じアルゴリズムと同じ誤差許容値を使って設置位置ごとにBLEモジュールの候補を決定した場合、決定されたBLEモジュールの候補の中に正解が含まれないことが多くなる。また、逆に正解が含まれるように、より大きい誤差許容値を使った場合、決定されたBLEモジュールの候補の数が増えてしまい、正解の絞り込みが難しくなる。
【0107】
(8)
以上、機械学習装置としてのコンピュータ10を有するHVAC管理システムの実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0108】
10 コンピュータ(機械学習装置)
20 取得部
21 空気調和機配置情報(第1情報;物品情報)
22 天井裏空間の梁配置情報(第1情報;物品情報)
30 学習部
35 線形モデル
40 出力部
45 電波伝搬状態の推定結果
55 電波伝搬状態の実測結果
60 更新部
A(A1,A2,A3) 空気調和機(所定の物品)
B(B1) 梁(所定の物品)
M(M1,M2,M3) BLEモジュール(無線機器)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0109】
【文献】特開2016-208265号公報
図1
図2
図3