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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】伝送路監視装置及び伝送路監視方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/079 20130101AFI20240327BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240327BHJP
   H04B 10/2507 20130101ALN20240327BHJP
【FI】
H04B10/079 150
G06N20/00 130
H04B10/2507
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020040870
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021145171
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/高スループット・高稼動な通信を提供する順応型光ネットワーク技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】谷村 崇仁
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133725(JP,A)
【文献】Takahito Tanimura et al.,Experimental Demonstration of a Coherent Receiver that Visualizes Longitudinal Signal Power Profile over Multiple Spans out of Its Incoming Signal,45th European Conference on Optical Communication (ECOC 2019),2019年,DOI: 10.1049/cp.2019.1031
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/07 - 10/079
H04B 10/2507
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償する第1補償部と、
前記第1補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する第2補償部と、
前記第2補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償する第3補償部と、
前記第3補償部による補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出する算出部と、
前記第1補償部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記第1補償部の補償量ごとに前記第2補償部の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記第1補償部の補償量と前記第2補償部の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得する取得部と、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定する推定部とを有し、
前記推定部は、ランダムに変動するパラメータを用いて前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成された前記電界信号に基づいて、前記パラメータの変動の影響が抑制されるように、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視装置。
【請求項2】
伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償する第1補償部と、
前記第1補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する第2補償部と、
前記第2補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償する第3補償部と、
前記第3補償部による補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出する算出部と、
前記第1補償部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記第1補償部の補償量ごとに前記第2補償部の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記第1補償部の補償量と前記第2補償部の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得する取得部と、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定する推定部と、
前記電界信号の波形を、前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成される前記電界信号の波形に近づけるように変換する変換部とを有し、
前記推定部は、前記シミュレーションにより生成される前記電界信号に基づいて、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記電界信号の波形、及び前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形の対応関係を学習することを特徴とする請求項2に記載の伝送路監視装置。
【請求項4】
伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償し、
前記波長分散の一部の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償し、
前記非線形光学効果による劣化の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償し、
前記残りの波長分散の補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出し、
前記波長分散の一部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記波長分散の一部の補償量ごとに、前記非線形光学効果による劣化の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記波長分散の一部の補償量と前記非線形光学効果による劣化の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得し、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定し、
該推定のため、ランダムに変動するパラメータを用いて前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成された前記電界信号に基づいて、前記パラメータの変動の影響が抑制されるように、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視方法。
【請求項5】
伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償し、
前記波長分散の一部の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償し、
前記非線形光学効果による劣化の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償し、
前記残りの波長分散の補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出し、
前記波長分散の一部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記波長分散の一部の補償量ごとに、前記非線形光学効果による劣化の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記波長分散の一部の補償量と前記非線形光学効果による劣化の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得し、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定し、
前記電界信号の波形を、前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成される前記電界信号の波形に近づけるように変換し、
該推定のため、前記シミュレーションにより生成される前記電界信号に基づいて、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、伝送路監視装置及び伝送路監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量のデータ伝送の需要の増加に応じ、例えば、1つの波長光で100(Gbps)以上の伝送を可能とするデジタルコヒーレント光伝送方式の研究開発が行われている。デジタルコヒーレント光伝送方式では、強度変調方式とは異なり、信号の変調に、光の強度だけでなく、光の位相も用いられる。このような変調方式としては、例えば16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)が挙げられる。
【0003】
デジタルコヒーレント光伝送方式の受信装置は、伝送路から光信号をデジタルコヒーレント受信し、光信号の偏波成分ごとの電界信号に変換し、各電界信号に対し、例えば、伝送路の波長分散と伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する。
【0004】
送信装置と受信装置の間には、伝送路として、例えば数十kmから数千kmの光ファイバが延びている。このような伝送路を保守管理するにあたり、作業者が伝送路全体の状態を確認することは困難であるため、受信装置が受信した光信号から取得された電界信号から伝送路の状態を監視するための手段が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-133725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によると、ディープニューラルネットワークを用いて伝送路の状態の監視結果のデータを、容易に解析可能な形式に変換する。ディープニューラルネットワークは、事前に教師データに基づいて監視結果のデータと変換後のデータの対応関係を学習する。
【0007】
ディープニューラルネットワークの学習において、実際の光伝送システムを用いて十分な教師データを生成するには多くのコストだけでなく、多くの時間も必要となる。これに対し、コンピュータシミュレーションを用いて教師データを生成すれば、コスト及び所要時間を低減することが可能である。
【0008】
しかし、コンピュータシミュレーションでは、各種の設定値が典型的な値に設定された一般的な光伝送システムのモデルが用いられるため、実際の光伝送システムの挙動を高精度に再現することは難しい。たとえば、実際の光伝送システムにおける送信器及び受信器の不完全性、光信号の偏波角の変動、及び電気配線長の違いによるスキューなどは、コンピュータシミュレーションによる再現が困難である。
【0009】
したがって、コンピュータシミュレーションによる教師データと実際の光伝送システムによる教師データの間の差分のため、ニューラルネットワークの学習が不十分となり、伝送路の状態を高精度に監視することができないおそれがある。
【0010】
そこで本件は、伝送路の状態を高精度に監視することができる伝送路監視装置及び伝送路監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、伝送路監視装置は、伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償する第1補償部と、前記第1補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する第2補償部と、前記第2補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償する第3補償部と、前記第3補償部による補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出する算出部と、前記第1補償部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記第1補償部の補償量ごとに前記第2補償部の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記第1補償部の補償量と前記第2補償部の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得する取得部と、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定する推定部とを有し、前記推定部は、ランダムに変動するパラメータを用いて前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成された前記電界信号に基づいて、前記パラメータの変動の影響が抑制されるように、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習する。
【0012】
1つの態様では、伝送路監視装置は、伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償する第1補償部と、前記第1補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する第2補償部と、前記第2補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償する第3補償部と、前記第3補償部による補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出する算出部と、前記第1補償部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記第1補償部の補償量ごとに前記第2補償部の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記第1補償部の補償量と前記第2補償部の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得する取得部と、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定する推定部と、前記電界信号の波形を、前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成される前記電界信号の波形に近づけるように変換する変換部とを有し、前記推定部は、前記シミュレーションにより生成される前記電界信号に基づいて、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習する。
【0013】
1つの態様では、伝送路監視方法は、伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償し、前記波長分散の一部の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償し、前記非線形光学効果による劣化の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償し、前記残りの波長分散の補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出し、前記波長分散の一部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記波長分散の一部の補償量ごとに、前記非線形光学効果による劣化の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記波長分散の一部の補償量と前記非線形光学効果による劣化の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得し、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定し、該推定のため、ランダムに変動するパラメータを用いて前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成された前記電界信号に基づいて、前記パラメータの変動の影響が抑制されるように、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習する方法である。
【0014】
1つの態様では、伝送路監視方法は、伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償し、前記波長分散の一部の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償し、前記非線形光学効果による劣化の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償し、前記残りの波長分散の補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出し、前記波長分散の一部の補償量を前記伝送路の波長分散量の所定の範囲内で変化させ、前記波長分散の一部の補償量ごとに、前記非線形光学効果による劣化の補償量を変化させつつ前記指標値を取得することにより、前記指標値が所定条件を満たすときの前記波長分散の一部の補償量と前記非線形光学効果による劣化の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得し、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定し、前記電界信号の波形を、前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成される前記電界信号の波形に近づけるように変換し、該推定のため、前記シミュレーションにより生成される前記電界信号に基づいて、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習する方法である。
【発明の効果】
【0015】
1つの側面として、伝送路の状態を高精度に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】デジタルコヒーレント光伝送方式の伝送システムの一例を示す構成図である。
図2】伝送路監視装置の一例を示す構成図である。
図3】伝送路監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4】伝送路の特性と等価伝送路を示す図である。
図5】特徴抽出部の一例を示す構成図である。
図6】特徴抽出部の動作の一例を示すフローチャートである。
図7】特徴マップ情報の例を示す図である。
図8】情報生成部の一例を示す構成図である。
図9】情報生成部の学習処理の一例を示す図である。
図10】情報生成部の他の例を示す構成図である。
図11】正準化部の学習処理の一例を示す図である。
図12】正準化部の変換処理の一例を示す図である。
図13】ニューラルネットワークの一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、デジタルコヒーレント光伝送方式の伝送システムの一例を示す構成図である。伝送システムは、デジタルコヒーレント光伝送方式に従って伝送路9に光信号Soを送信する送信装置1と、伝送路9を介して光信号Soを受信する受信装置2と、伝送路9の状態を監視する伝送路監視装置3とを有する。
【0018】
送信装置1は、送信信号処理部18及び光送信部19を有する。送信信号処理部18は、他の装置から入力されたデータ信号Sから、送信光Lsを変調するための電気的なアナログ信号を生成する。光送信部19は、送信信号処理部18から入力されたアナログ信号に基づき送信光Lsを変調することにより光信号Soを生成する。
【0019】
送信信号処理部18は、送信処理回路10と、デジタルアナログ変換器(Digital-to-Analog Converter)12a~12dとを有する。光送信部19は、光源11と、光変調器13a~13dと、偏波ビームスプリッタ(PBS: Polarization Beam Splitter)14と、偏波ビームコンバイナ(PBC: Polarization Beam Combiner)15とを有する。
【0020】
送信処理回路10は、データ信号Sを複数のデータ列に分けて、各データ列の値の組み合わせに応じて多値変調のシンボルをデータ信号Sに割り当てる(シンボルマッピング処理)。多値変調方式としては、例えば16QAMが挙げられるが、これに限定されない。送信処理回路10は、データ信号Sを、シンボルを含むデジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqにそれぞれ分離して、DAC12a~12dに出力する。
【0021】
デジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqは光信号Soの光電界成分を示す電界信号の一例である。デジタル信号HiはH偏波の同相成分であり、デジタル信号HqはH偏波の直交位相成分である。また、デジタル信号ViはV偏波の同相成分であり、デジタル信号VqはV偏波の直交位相成分である。なお、送信処理回路10としては、例えばDSP(Digital Signal Processor)が挙げられるが、これに限定されず、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)であってもよい。
【0022】
DAC12a~12dは、デジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqをそれぞれアナログ信号に変換する。アナログ信号は、光変調器13a~13dに入力される。なお、DAC12a~12dは、送信処理回路10内に構成されてもよい。
【0023】
光源11は、例えばLD(Laser Diode)であり、所定の周波数の送信光LsをPBS14に出力する。PBS14は、送信光LsをH偏波成分及びV偏波成分に分離する。送信光LsのH偏波成分は光変調器13a,13bにそれぞれ入力され、送信光LsのV偏波成分は光変調器13c,13dにそれぞれ入力される
【0024】
光変調器13a~13dは、DAC12a~12dからのアナログ信号に基づき送信光Lsを光変調する。より具体的には、光変調器13a,13bは、送信光LsのH偏波成分をDAC12a,12bからのアナログ信号に基づき光変調し、光変調器13c,13dは、送信光LsのV偏波成分をDAC12c,12dからのアナログ信号に基づき光変調する。変調済みのH偏波成分及びV偏波成分はPBC15に入力される。PBC15は、H偏波成分及びV偏波成分を偏波合成して光信号Soを生成し伝送路9に出力する。
【0025】
受信装置2は、受信信号処理部28及び光受信部29を有する。受信信号処理部28は、受信処理回路20と、ADC(Analog-to-Digital Convertor)22a~22dとを有する。光受信部29は、光源21と、PD(PhotoDiode)23a~23dと、90度光ハイブリッド回路240,241と、PBS25,26とを有する。
【0026】
光受信部29は、光信号Soを受信して送信装置1側のアナログ信号を復元する。受信信号処理部28は、アナログ信号をデジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqに変換して、伝送路9上で生じた光信号Soの劣化を補償することにより元のデータ信号Sを復元する。
【0027】
光信号Soは、送信装置1から伝送路9を介してPBS26に入力される。PBS26は、光信号SoをH偏波成分及びV偏波成分に分離する。光信号SoのH偏波成分及びV偏波成分は90度光ハイブリッド回路240,241にそれぞれ入力される。
【0028】
また、光源21は、例えばLDであり、局発光LrをPBS25に出力する。局発光Lrの中心周波数は、送信光Lsの中心周波数に応じた値に設定されている。PBS25は、局発光LrをH偏波成分及びV偏波成分に分離する。局発光LrのH偏波成分及びV偏波成分は90度光ハイブリッド回路240,241にそれぞれ入力される。
【0029】
90度光ハイブリッド回路240は、光信号SoのH偏波成分及び局発光LOrのH軸成分を干渉させるための導波路を有し、光信号SoのH偏波成分を検波する。90度光ハイブリッド回路240は、検波結果として、Iチャネル及びQチャネルの振幅及び位相に応じた光電界成分をPD23a,23bにそれぞれ出力する。
【0030】
90度光ハイブリッド回路241は、光信号SoのV偏波成分及び局発光LOrのV偏波成分を干渉させるための導波路を有し、光信号SoのV偏波成分を検波する。90度光ハイブリッド回路241は、検波結果として、Iチャネル及びQチャネルの振幅及び位相に応じた光電界成分をPD23c,23dにそれぞれ出力する。
【0031】
PD23a~23dは、90度光ハイブリッド回路240,241から入力された光電界成分を電気的なアナログ信号に変換して、アナログ信号をADC22a~22dにそれぞれ出力する。ADC22a~22dは、PD23a~23dから入力されたアナログ信号をデジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqにそれぞれ変換する。デジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqは受信処理回路20に入力される。
【0032】
受信処理回路20は、デジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqに対して、伝送路9上で光信号Soに生じた波長分散及び位相回転などの補償を行う。受信処理回路20は、デジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqをシンボルに応じた複数のデータ列に変換し、(デマッピング処理)、複数のデータ列を合成することによりデータ信号Sを復元する。なお、受信処理回路20としては、例えばDSPが挙げられるが、これに限定されず、例えばFPGAまたはASICであってもよい。
【0033】
伝送路監視装置3は、例えばLAN(Local Area Network)などを介して送信装置1及び受信装置2に接続され、伝送路9の物理的な状態を監視する。伝送路監視装置3の監視結果は、例えば不図示のネットワーク管理装置に送信され、送信装置1及び受信装置2の制御に用いられる。
【0034】
伝送路監視装置3は、送信装置1及び受信装置2からデジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqをそれぞれ取得する。なお、以降の説明では、送信装置1のデジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqを「電界信号Es」と表記し、受信装置2のデジタル信号Hi,Hq,Vi,Vqを「電界信号Er」と表記する。伝送路監視装置3は、受信側の電界信号Erから伝送路9の物理的な状態を推測する。このとき、伝送路監視装置3は、送信側の電界信号Esを受信側の電界信号Erと比較することにより受信側の電界信号Erの品質を判定する。
【0035】
図2は、伝送路監視装置3の一例を示す構成図である。伝送路監視装置3は、制御部30と、書き込み処理部31と、メモリ32と、正準化部33、特徴抽出部34と、情報生成部35とを有する。
【0036】
書き込み処理部31は、例えばFPGAなどのハードウェアにより構成される。制御部30、正準化部33、特徴抽出部34、及び情報生成部35は、例えば、FPGAまたはASICなどのハードウェア、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを駆動するソフトウェアの機能、またはハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成される。
【0037】
書き込み処理部31及びメモリ32は、受信装置2から電界信号Erを取得して保持する。より具体的には、書き込み処理部31には、ADC22a~22dから電界信号Erが入力される。書き込み処理部31は電界信号Erをメモリ32に書き込む。このとき、書き込み処理部31は、伝送路9の状態の監視に必要な時間分の電界信号Erを書き込む。メモリ32には電界信号Erの信号値が記憶される。なお、電界信号Erの記憶手段は、メモリ32に限定されず、ハードディスクドライブなどの他の記憶手段が用いられてもよい。
【0038】
正準化部33は、メモリ32から電界信号Erを読み出して正準化処理を行う。正準化部33は、変換部の一例であり、事前の学習結果に基づき電界信号Erの波形を、コンピュータシミュレーションにより生成される電界信号の波形に近づけるように変換する。正準化部33は、例えばローパスフィルタのように電界信号Erの波形を平滑化することにより、情報生成部35の学習処理においてコンピュータシミュレーションの電界信号の波形を利用可能とする。正準化部33は、正準化された電界信号E0を特徴抽出部34に出力する。
【0039】
特徴抽出部34は、解析部の一例であり、電界信号E0に基づき、伝送路9上の位置と光信号Soの状態の関係を解析する。例えば特徴抽出部34は、電界信号E0に対し、伝送路9の波長分散と伝送路9の非線形光学効果による劣化を補償する。なお、以下の説明では、波長分散の補償量を「分散補償量」と表記し、非線形光学効果による劣化の補償量を「非線形補償量γ」と表記する。
【0040】
また、特徴抽出部34は、補償後の電界信号E0の波形と送信側の電界信号Esの波形の類似性の指標値の一例として類似度Crを算出する。特徴抽出部34は、例えば各電界信号Es,Erに付与された所定の識別コードを基準として各電界信号Es,E0の波形同士を比較することにより類似度Crを算出する。類似度は、波形同士が類似するほど、高い値を示す。このため、類似度Crが高いほど、電界信号E0の補償が有効であることになるため、補償後の電界信号E0の品質が良いことになる。
【0041】
特徴抽出部34は、類似度Crが最大となるときの波長分散量Vcd及び非線形補償量γと類似度Crを記録する。ここで、波長分散量Vcdは伝送路9上の光信号Soの位置に応じて変化し、非線形補償量γは光信号Soのパワーに応じて変化する。このため、波長分散量Vcdと非線形補償量γの関係は、伝送路9上の位置とパワーの関係に相当する。なお、光信号Soのパワーは光信号Soの状態の一例である。
【0042】
特徴抽出部34は、記録した波長分散量Vcd、非線形補償量γ、及び類似度Crを情報生成部35に出力する。ここで、波長分散量Vcd、非線形補償量γ、及び類似度Crの組み合わせを以降の説明では「特徴マップ情報」と表記する。なお、特徴マップ情報は、伝送路9上の位置と光信号Soの状態の関係を示す情報の一例である。
【0043】
情報生成部35は、推定部の一例であり、学習済みのニューラルネットワークを用いることにより伝送路9上の位置と光信号Soの状態の関係に基づき伝送路9の物理的な状態を推定する。情報生成部35は、伝送路9上の位置と光信号Soの状態の関係として、波長分散量Vcd及び非線形補償量γを特徴抽出部34から取得する。
【0044】
また、情報生成部35は、伝送路9の物理的な状態として、例えば伝送路9のスパン数、スパンごとの距離、及びスパンごとのファイバ種を推定する。情報生成部35は、伝送路9の物理的な状態を示す伝送路情報DTを生成して例えばネットワーク管理装置などに出力する。
【0045】
制御部30は、書き込み処理部31、正準化部33、特徴抽出部34、及び情報生成部35に対し、所定のアルゴリズムに従って制御を行う。例えば、制御部30は、書き込み処理部31、正準化部33、特徴抽出部34、及び情報生成部35に各種の設定及び動作指示などを行う。
【0046】
図3は、伝送路監視装置3の動作の一例を示すフローチャートである。本動作は、制御部30から書き込み処理部31、正準化部33、特徴抽出部34、及び情報生成部35に対する指示により順次に実行される。
【0047】
書き込み処理部31は、光受信部29から電界信号Erをそれぞれ取得する(ステップSt1)。次に、書き込み処理部31は、電界信号Erをメモリ32に書き込む(ステップSt2)。
【0048】
次に正準化部33は、メモリ32から電界信号Erを読み出す(ステップSt3)。次に正準化部33は、電界信号Erを正準化された電界信号E0に変換する(ステップSt4)。次に、特徴抽出部34は、電界信号E0と、送信信号処理部18から受信した電界信号Esから特徴マップ情報を生成する(ステップSt5)。
【0049】
次に情報生成部35は、特徴マップ情報から伝送路情報DTを生成する(ステップSt6)。このようにして伝送路監視装置3は動作する。
【0050】
次に送信装置1と受信装置2を結ぶ伝送路9の特性について述べる。
【0051】
図4は、伝送路9の特性と等価伝送路を示す図である。伝送路9の途中には、一例として、光信号Soを増幅する光アンプ91~94がそれぞれ接続されている。光アンプ91~94としては、例えばEDFA(Erbium Doped optical Fiber Amplifier)が挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
伝送路9は、光アンプ91~94により複数の区間、つまりスパン#0~#Nに分けられる。スパン#0は、送信装置1と光アンプ91の出力端の間の区間であり、スパン#1は、光アンプ91の出力端と光アンプ92の出力端の間の区間である。スパン#2は、光アンプ92の出力端と光アンプ93の出力端の間の区間であり、スパン#3は、光アンプ93の出力端と光アンプ94の出力端の間の区間である。スパン#Nは、直前のスパン#(N-1)の光アンプの出力端と受信装置2の間の区間である。なお、スパン#4~#(N-1)の図示は省略されている。
【0053】
符号G1は、伝送路9の送信装置1からの距離に対する光信号Soのパワーの変化の一例を示す。光信号Soのパワーは光アンプ91~94により増幅される。このため、スパン#0では光アンプ91の出力端の位置においてパワーが最も高くなり、スパン#1では光アンプ92の出力端の位置においてパワーが最も高くなる。また、スパン#2では光アンプ93の出力端の位置においてパワーが最も高くなる。
【0054】
伝送路9上のパワーの高い範囲では、光信号Soに対して非線形光学効果が顕著に作用する。例えば、上記の光アンプ91~94の出力端から所定範囲内では、非線形光学効果による光信号Soの劣化が無視できない程度となる。
【0055】
非線形光学効果としては、例えばカー効果が挙げられる。カー効果が生ずると、伝送路9の光ファイバの屈折率が光信号Soのパワーの二乗に比例して変化する。その結果、光信号Soに自己位相変調(SPM: Self Phase Modulation)が生じて、光の位相速度の変化によりパルス幅が細くなり、信号エラーが生ずる原因となる。
【0056】
符号G2は、伝送路9の送信装置1からの距離に対する累積の波長分散量の一例を示す。波長分散(ps/ns/km)は、光ファイバ中における光波の伝搬速度の波長依存性であり、例えば光ファイバの種類(例えばSMF(Single Mode Fiber))などにより決まる。波長分散は、光信号Soの波形を歪ませるため、信号エラーが生ずる原因となる。
【0057】
波長分散量は、送信装置1からの距離に比例して増加する。なお、受信装置2側の伝送路9の端部における累積の波長分散量をVcd_maxとする。
【0058】
符号G3は、伝送路9を数学的に等価な等価伝送路で表したモデルを示す。等価伝送路は、伝送路9上の位置Pに着目して、光信号Soに非線形光学効果を付与する非線形光学効果付加部902と、その非線形光学効果付加部902の前後で光信号Soに波長分散を付与する波長分散付加部901,903とにより表わされる。
【0059】
したがって、特徴抽出部34は、波長分散付加部901,903の波長分散、及び非線形光学効果付加部902に対応する非線形補償量γを用いて伝送路9上の位置Pのパワーに関連する情報を検出することができる。
【0060】
図5は、特徴抽出部34の一例を示す構成図である。特徴抽出部34は、パラメータ調整部40と、波長分散補償部(CDC: Chromatic Dispersion Compensator)41,43と、非線形効果補償部(NLC: Nonlinear Compensator)42と、類似度算出部44と、記憶部45と、パラメータ記録部46と、出力処理部47とを有する。
【0061】
CDC41は、第1補償部の一例であり、電界信号E0に対し伝送路9の波長分散の一部を補償する。CDC41は、等価伝送路において受信装置2側の波長分散付加部903の波長分散量Vcd分の補償を行う。
【0062】
CDC41は、高速フーリエ変換(FFT: Fast Fourier Transform)部410、周波数領域フィルタ411、及び逆高速フーリエ変換(IFFT: Inverse FFT)部412を有する。FFT部410は、電界信号E0を時間領域の信号から周波数領域の信号に変換する。
【0063】
G=exp(j・(2π・fn)・C・Kcd/(2π・Fs)/2)・・・(1)
【0064】
周波数領域フィルタ411は、FFT部410から出力される電界信号E0の周波数fnの成分に対する波長分散係数Kcdを電界信号E0に乗算する。ここで、周波数領域フィルタ411の伝達関数Gは上記の式(1)で表される。式(1)において、jは虚数単位を示し、Cは光速(299,792,458(m/s))を示し、Fsは光源11のレーザの周波数を示す。
【0065】
波長分散係数Kcdは、パラメータ調整部40により分散補償量に応じて調整される。これにより、周波数領域フィルタ411は、電界信号E0に対し波長分散量Vcd分の波長分散を補償する。
【0066】
IFFT部412は、周波数領域フィルタ411から出力される電界信号E0を周波数領域の信号から時間領域の電界信号E1に変換する。CDC41による補償後の電界信号E1はNLC42に入力される。
【0067】
NLC42は、第2補償部の一例であり、電界信号E1に対し、伝送路9の非線形光学効果による劣化を補償する。NLC42は、等価伝送路の非線形光学効果付加部902に対応する非線形補償量γの補償を行う。
【0068】
NLC42は、位相調整部420と、強度検出部421と、係数保持部422と、乗算器423とを有する。強度検出部421は、電界信号E1から光信号Soの強度、つまりパワーを検出する。強度検出部421は、パワーの二乗を示す検出信号Spwを乗算器423に出力する。
【0069】
係数保持部422は、非線形係数として非線形補償量γを保持している。非線形補償量γは、パラメータ調整部40により調整される。係数保持部422は、非線形補償量γを乗算器423に出力する。乗算器423は、検出信号Spwが示す値と非線形補償量γを乗算し、その算出値を位相調整部420に出力する。
【0070】
H=exp(-j・γ・Pw) ・・・(2)
【0071】
位相調整部420は、乗算器423からの入力値に応じて電界信号E1の位相を調整する。これにより、電界信号E1は、非線形光学効果による自己位相変調で生じた位相変化量が、非線形補償量γに応じた位相分だけ調整される。位相の調整量Hは、光信号SoのパワーをPwとすると、上記の式(2)により表される。位相調整部420は、電界信号E1の位相調整により電界信号E2を生成し、CDC43に出力する。
【0072】
CDC43は、第3補償部の一例であり、NLC42による補償後の電界信号E2に対し、伝送路9の全体の波長分散から、CDC41が補償した波長分散の分を除いた残りの波長分散を補償する。CDC43は、等価伝送路において送信装置1側の波長分散付加部901に対応する波長分散量(Vcd_max-Vcd)分の補償を行う。
【0073】
つまり、CDC43は、伝送路9の全体の波長分散量Vcd_maxのうち、CDC41の波長分散量Vcdを除いた残りの波長分散量(Vcd_max-Vcd)を補償する。このため、CDC41,43の各補償量の合計は伝送路9の全体の波長分散量Vcd_maxの補償量に等しくなる。なお、CDC43はCDC41と同様の構成を有する。
【0074】
類似度算出部44は、補償後の電界信号E3の波形と送信側の電界信号Esの波形の類似度Crを算出する。類似度算出部44は類似度Crをパラメータ調整部40に出力する。
【0075】
パラメータ調整部40は、CDC41の波長分散量Vcd分の分散補償量、NLC42の非線形補償量γ、及びCDC43の波長分散量(Vcd_max-Vcd)分の分散補償量をそれぞれ調整する。これにより、パラメータ調整部40は、電界信号E3,Esが所定条件を満たすときのCDC41の波長分散量VcdとNLC42の非線形補償量γの関係を取得する。なお、パラメータ調整部40は取得部の一例である。伝送路9の累積の波長分散量Vcdは、図4の符号G2で示されるように、送信装置1からの距離に比例するため、波長分散量Vcdは、受信装置2からの距離とみなすことができる。
【0076】
また、非線形光学効果は、上述したように、光信号Soのパワーの高い位置、つまり光アンプ91~94の出力端から所定範囲内で顕著となる。このため、パラメータ調整部40が、分散補償量を伝送路9上の位置Pの波長分散量Vcdに応じて調整し、電界信号E3,Esの類似度Crが最大となるように非線形補償量γを調整した場合、その非線形補償量γは、位置Pにおける光信号Soのパワーとみなすことができる。なお、特徴抽出部34は、類似度Crが最大となることを必ずしも条件とする必要がなく、例えば類似度Crが一定値以上となることを条件としてもよい。
【0077】
例えば図4に示されたスパン#0について、分散補償量が、光アンプ91の出力端から受信装置2までの累積の波長分散量Vcdに一致する場合、電界信号E3,Esの類似度Crが最大になるときの非線形補償量γは、光アンプ91の出力端における光信号Soのパワーに該当する。なお、これは他のスパン#1~#Nについても同様である。
【0078】
このように、電界信号E3,Esの類似度Crが所定条件を満たすときの波長分散量Vcdと非線形補償量γの組み合わせから、伝送路9上の位置と光信号Soのパワーの関係を得ることが可能である。
【0079】
例えばパラメータ調整部40は、CDC41が補償する波長分散量Vcdを所定量ΔVcdごとに変化させ、波長分散量Vcdの変化のたびに類似度Crが最大となるようにNLC42の非線形補償量γを調整することにより波長分散量Vcdと非線形補償量γの関係を取得する。このため、パラメータ調整部40は、波長分散量Vcdに該当する伝送路9上の位置Pを受信装置2から送信装置1または送信装置1から受信装置2に向かうように変化させながら、その位置ごとに、類似度Crが最大となるときの非線形補償量γを効率的に探索することができる。
【0080】
また、パラメータ調整部40は、非線形補償量γごとの類似度Crを一時的に記憶部45に記憶させる。パラメータ調整部40は、類似度Crが最大となる非線形補償量γを記憶部45から検索する。パラメータ調整部40は、類似度Crが最大となるときの波長分散量Vcd、非線形補償量γ、及び類似度Crをパラメータ記録部46に記録する。パラメータ記録部46には、波長分散量Vcd、非線形補償量γ、及び類似度Crの組み合わせが特徴マップ情報として記録されている。
【0081】
パラメータ調整部40は、特徴マップ情報の記録が完了すると、出力処理部47に特徴マップ情報の出力を指示する。出力処理部47は特徴マップ情報をパラメータ記録部46から読み出して情報生成部35に出力する。
【0082】
図6は、特徴抽出部34の動作の一例を示すフローチャートである。本動作は、図3のステップSt4において実行される。
【0083】
パラメータ調整部40は、CDC41の波長分散量Vcdを0に設定する(ステップSt11)。このとき、CDC42の波長分散量はVcd_maxとなる。
【0084】
次にパラメータ調整部40は、波長分散量Vcdを伝送路9の全体の波長分散量Vcd_maxと比較する(ステップSt12)。ここで波長分散量Vcd_maxは、例えば事前に設定値としてパラメータ調整部40に設定されている。パラメータ調整部40は、Vcd≦Vcd_maxが成立する場合(ステップSt12のYes)、CDC41に、波長分散量Vcdに応じた分散補償量で電界信号E0に対する波長分散の補償を実行させる(ステップSt13)。次に、CDC41は、補償後の電界信号E1をNLC42に出力する(ステップSt14)。
【0085】
次にパラメータ調整部40は、非線形補償量γに0を設定する(ステップSt15)。次にパラメータ調整部40は、非線形補償量γと所定値γ_maxと比較する(ステップSt16)。ここで所定値γ_maxは、例えば事前に設定値としてパラメータ調整部40に設定されている。パラメータ調整部40は、γ≦γ_maxが成立する場合(ステップSt16のYes)、NLC42に、非線形補償量γで電界信号E1に対する非線形光学効果による劣化の補償を実行させる(ステップSt17)。次に、NLC42は、補償後の電界信号E2をCDC43に出力する(ステップSt18)。
【0086】
次にパラメータ調整部40は、CDC43に、波長分散量(Vcd_max-Vcd)に応じた分散補償量で電界信号E3に対する波長分散の補償を実行させる(ステップSt19)。次にCDC43は、補償後の電界信号E3を類似度算出部44に出力する(ステップSt20)。
【0087】
次に、類似度算出部44は、電界信号E3の波形と送信側の電界信号Esの波形の類似度Crを算出してパラメータ調整部40に出力する(ステップSt21)。次にパラメータ調整部40は、非線形補償量γと類似度Crを記憶部45に記憶させる(ステップSt22)。次にパラメータ調整部40は、非線形補償量γに所定量Δγ(>0)を加算する(ステップSt23)。その後、ステップSt16の処理が再び実行される。
【0088】
パラメータ調整部40は、γ>γ_maxが成立する場合(ステップSt16のNo)、記憶部45から、類似度Crが最大となる非線形補償量γを検索する(ステップSt24)。次にパラメータ調整部40は、その非線形補償量γ、波長分散量Vcd、及び類似度Crの組み合わせ(Vcd,γ,Cr)をパラメータ記録部46に記録する(ステップSt25)。
【0089】
次に、パラメータ調整部40は、波長分散量Vcdに所定量ΔVcd(>0)を加算し(ステップSt26)、ステップSt12以降の処理を再び実行する。パラメータ調整部40は、Vcd>Vcd_maxが成立する場合(ステップSt12のNo)、出力処理部47に(Vcd,γ,Cr)の組み合わせを特徴マップ情報として出力させる(ステップSt27)。
【0090】
このように、パラメータ調整部40は、波長分散量Vcdを0からVcd_maxまで増加させ、その波長分散量に応じた分散補償量ごとに非線形補償量γを0からγ_maxまで増加させることにより、類似度Crが最大となる非線形補償量γを探索する。
【0091】
また、本実施例のパラメータ調整部40は、波長分散量Vcdを0からVcd_maxまで増加させるが、これに限定されず、波長分散量VcdをVcd_maxから0まで減少させてもよい。さらに、パラメータ調整部40は、非線形補償量γを0からγ_maxまで増加させるが、これに限定されず、非線形補償量γをγ_maxから0まで減少させてもよい。
【0092】
上述したように、特徴抽出部34は、類似度Crが所定条件を満たすときのCDC41が補償した波長分散量VcdとNLC42の補償量の関係を、伝送路9上の位置Pと光信号Soのパワーの関係として取得する。このため、特徴抽出部34は、伝送路9上の計測器などを用いることなく、電界信号Es,Erから伝送路9上の位置Pと光信号Soのパワーの関係を取得することができる。
【0093】
次に特徴マップ情報の例を挙げて説明する。
【0094】
図7は、特徴マップ情報の例を示す図である。符号G11~G13は、3つの異なる構成の伝送路9に応じた特徴マップ情報であり、横軸は波長分散量を示し、縦軸は非線形補償量γを示す。なお、本例では、光信号Soの多値変調方式を16QAMとし、変調のボーレートを64(GBaud)とする。
【0095】
光アンプ91~94が設けられた伝送路9上の位置では光信号Soのパワーが増加するため、非線形光学効果による光信号Soの劣化の度合いが増加し、劣化を補償するために非線形補償量γが増加する。
【0096】
符号G11の場合の伝送路9は、100(km)のSMFの5つのスパンを有する。波長分散量Vcdがスパン同士の境界の光アンプ近傍の位置範囲に該当するとき、非線形補償量γが凸状に増加する増加領域Maが生ずる。このため、情報生成部35は、特徴マップ情報において、増加領域Maを有した同一のパタンを計数することによりスパン数を5つと推定する。また、情報生成部35は、特徴マップ情報において増加領域Maを有した各パタンの波長分散量の幅から各スパンの長さを100(km)と推定する。
【0097】
符号G12の場合の伝送路9は、互いに異なる距離(40(km)、100(km)、120(km)、40(km)、100(km)、80(km))のSMFの6つのスパンを有する。波長分散量Vcdがスパン同士の境界の光アンプ近傍の位置範囲に該当するとき、非線形補償量γが凸状に増加する増加領域Mbが生ずる。このため、情報生成部35は、特徴マップ情報において、増加領域Mbを有した同一のパタンを計数することによりスパン数を6つと推定する。また、情報生成部35は、特徴マップ情報において増加領域Mbを有した各パタンの波長分散量の幅から各スパンの長さを推定する。
【0098】
符号G13の場合の伝送路9は、100(km)のSMF及びNZ-DSF(Non-Zero Dispersion Shifted Fiber)の6つのスパンを有する。波長分散量Vcdがスパン同士の境界の光アンプ近傍の位置範囲に該当するとき、非線形補償量γが凸状に増加する増加領域Mcが生ずる。NZ-DSFはSMFより非線形光学効果が小さいため、増加領域Mcにおける非線形補償量γの増加率(傾き)は、他の場合の増加領域Ma,Mbより小さい。このため、情報生成部35は、増加領域Ma~Mcの形状などから伝送路9のスパンごとの光ファイバの種類を検出する。
【0099】
図8は、情報生成部35の一例を示す構成図である。情報生成部35は、学習機能部350及び人工知能部351を有する。人工知能部351はニューラルネットワーク(NN: Neural Network)351a~351cを有する。
【0100】
人工知能部351は特徴マップ情報及び受光パワー情報を分析することにより伝送路9の物理的な状態を推定する。本例では伝送路9の物理的な状態として、伝送路9のスパン数、スパンごとの光ファイバの種類(ファイバ種)、スパンごとの光ファイバの長さ(スパン長)、及びスパンごとの光信号Soの入力パワー(入力光パワー)を挙げるが、これに限定されない。情報生成部35は、推定した情報を伝送路情報DTとして外部に出力する。
【0101】
ニューラルネットワーク351aは、特徴マップ情報に基づきスパン数を推定して外部及びニューラルネットワーク351bに出力する。ニューラルネットワーク351bは、スパン数及び特徴マップ情報に基づきファイバ種及びスパン長を推定し外部に出力する。ニューラルネットワーク351cは特徴マップ情報及び受光パワー情報に基づき入力光パワーを推定し外部に出力する。なお、受光パワー情報は、受信装置2における光信号Soのパワーを示し、例えば制御部30が予め情報生成部35に通知する。
【0102】
学習機能部350は、各ニューラルネットワーク351a~351cの学習処理を行う。例えば学習機能部350は、各ニューラルネットワーク351a~351cの動作モードを学習モードまたは推論モードに切り替える。
【0103】
ニューラルネットワーク351a~351cは、学習モードにおいて特徴マップ情報と伝送路情報DTの対応関係を学習する。また、ニューラルネットワーク351a~351cは、推論モードにおいて、学習結果に基づきスパン数、ファイバ種、スパン長、及び入力光パワーを推定する。
【0104】
例えばニューラルネットワーク351a~351cは、上述したように、特徴マップ情報の非線形補償量γの増加領域Ma~Mcに基づきスパン数、ファイバ種、スパン長、及び入力光パワーを推定する。このため、ニューラルネットワーク351a~351cは、特徴マップ情報と、スパン数などの伝送路情報DTとの対応関係(相関関係)を学習する。
【0105】
ニューラルネットワーク351a~351cは、上記の伝送システムの電界信号Erに基づく特徴マップ情報を教師データとして学習することもできるが、実際の伝送システムを用いると多くのコストだけでなく、多くの時間も必要となる。これに対し、以下のようにコンピュータシミュレーションを用いて教師データを生成すれば、コスト及び所要時間を低減することが可能である。
【0106】
図9は、情報生成部35の学習処理の一例を示す図である。シミュレータ6は、例えばコンピュータであり、光信号Soを送信装置1から伝送路9を経て受信装置2まで伝送するコンピュータシミュレーションを実行する。なお、コンピュータシミュレーションはシミュレーションの一例である。
【0107】
シミュレータ6は、例えばCPUなどのプロセッサが実行するソフトウェアの機能として、送信信号処理部60、光送信部61、伝送路部62、光受信部63、及び受信信号処理部64を有する。送信信号処理部60、光送信部61、伝送路部62、光受信部63、及び受信信号処理部64は、実施の伝送システムにおける送信信号処理部18、光送信部19、伝送路9、光受信部29、及び受信信号処理部28の機能をそれぞれ模擬した動作を行う。
【0108】
送信信号処理部60から光送信部61に入力される疑似的な電界信号Es_simは、電界信号Esに該当する。また、光受信部63から受信信号処理部64に入力される疑似的な電界信号Er_simは、電界信号Erに該当する。シミュレータ6は疑似的な電界信号Es_sim,Er_simを、LANなどの通信回線を介して特徴抽出部34に出力する。
【0109】
また、光送信部61は、光送信部19のパラメータK1を用いて電界信号Es_simから疑似的な光信号So_simを生成する。パラメータK1としては、例えば光源11の位相雑音、光変調器13a~13dの消光比、及び増幅器(不図示)の帯域などが挙げられる。
【0110】
伝送路部62は、伝送路9のパラメータK2を用いて疑似的な光信号So_simに波長分散及び非線形光学効果による劣化などを与える。パラメータK2としては、例えば光ファイバの損失、波長分散、コア径、及び非線形応答の数値や、光アンプ91~94などが挙げられる。
【0111】
光受信部63は、光受信部29のパラメータK3を用いて電界信号Er_simから疑似的な光信号So_simを生成する。パラメータK3としては、例えば光源21の位相雑音などが挙げられる。
【0112】
シミュレータ6はパラメータK1~K3を、LANなどの通信回線を介して特徴抽出部34に出力する。
【0113】
特徴抽出部34は、疑似的な電界信号Es_sim,Er_simを実際の電界信号Es,Erとみなして電界信号Es_sim,Er_simから上記の手法により特徴マップ情報を生成する。特徴抽出部34は、特徴マップ情報を学習用の入力データXとして人工知能部351に出力する。
【0114】
学習機能部350は、シミュレータ6からパラメータK1~K3を受信する。学習機能部350は、パラメータK1~K3から伝送路情報DTを生成する。学習機能部350は、伝送路情報DTを学習用の出力データYとして人工知能部351に出力する。このとき、学習機能部350は、人工知能部351の各ニューラルネットワーク351a~351cの動作モードを学習モードに切り替える。
【0115】
人工知能部351は、教師データである入力データX及び出力データYの対応関係を学習する。仮にコンピュータシミュレーションにおいて、パラメータK1~K3が光伝送システムの典型的な値に設定された場合、実際の光伝送システムの挙動をコンピュータシミュレーションで高精度に再現することは難しい。この場合、コンピュータシミュレーションによる教師データと実際の光伝送システムによる教師データの間の差分のため、ニューラルネットワーク351a~351cの学習が不十分となり、伝送路情報DTの精度が低下して伝送路9の状態を高精度に監視することができないおそれがある。
【0116】
このため、シミュレータ6は、電界信号Er_simの生成に用いられるパラメータK1~K3を時間的にランダムに変動させる。これにより、電界信号Er_simは、パラメータK1~K3の変動の影響を受ける。
【0117】
K1’=K1+δ1・K1 ・・・(3)
K2’=K2+δ2・K2 ・・・(4)
K3’=K3+δ3・K3 ・・・(5)
【0118】
例えば光送信部61は、上記の式(3)に従って典型値のパラメータK1を変動させてパラメータK1’とする。式(3)において、変数δ1は時間的にランダムに変化する値である。光送信部61は、変動するパラメータK1’に基づき光信号So_simを生成する。また、光送信部61は、学習処理の正解データである出力データYを変動させないように、変動のないパラメータK1を学習機能部350に出力する。
【0119】
例えば伝送路部62は、上記の式(4)に従って典型値のパラメータK2を変動させてパラメータK2’とする。式(4)において、変数δ2は時間的にランダムに変化する値である。伝送路部62は、変動するパラメータK2’に基づき光信号So_simを変化させる。また、伝送路部62は、学習処理の正解データである出力データYを変動させないように、変動のないパラメータK2を学習機能部350に出力する。
【0120】
例えば光受信部63は、上記の式(5)に従って典型値のパラメータK3を変動させてパラメータK3’とする。式(5)において、変数δ3は時間的にランダムに変化する値である。光受信部63は、変動するパラメータK3’に基づき電界信号Er_simを生成する。また、光受信部63は、学習処理の正解データである出力データYを変動させないように、変動のないパラメータK3を学習機能部350に出力する。
【0121】
したがって、人工知能部351には、変動するパラメータK1’~K3’から生成された電界信号Er_simの入力データXが入力される。人工知能部351は、パラメータK1’~K3’の変動の影響が抑制されるように、入力データXと出力データYの対応関係を学習する。
【0122】
符号G21は、人工知能部351の学習のイメージを示す。横軸は入力データXを示し、縦軸は出力データYを示す。点線は、パラメータK1’~K3’の変動を抑制せずに学習した結果の例であり、実線は、パラメータK1’~K3’の変動を抑制して学習した結果の例である。このような学習処理によると、人工知能部351は、コンピュータシミュレーションの伝送システムと実際の伝送システムの間に差異に対して高いロバスト性を備えたモデルを構築することができる。
【0123】
このように、情報生成部35は、ランダムに変動するパラメータK1’~K3’を用いたコンピュータシミュレーションにより生成された電界信号Er_simに基づいて、パラメータK1’~K3’の変動の影響が抑制されるように、特徴マップ情報及び伝送路情報DTの対応関係を学習する。このため、情報生成部35は、コンピュータシミュレーションの伝送システムと実際の伝送システムの間に差異に対して高いロバスト性を備えたモデルを構築し、伝送路9の状態を高精度に監視することを可能とする。
【0124】
なお、人工知能部351の構成は上記に限定されない。
【0125】
図10は、情報生成部35の他の例を示す構成図である。図10において、図8と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。情報生成部35は、人工知能部351に代えて他の構成の人工知能部352を有する。
【0126】
人工知能部352は、ニューラルネットワーク353a,353b,355,357a~357d、結合部354、及び分配部356を有する。ニューラルネットワーク353aは特徴マップ情報を解析して結合部354に出力する。ニューラルネットワーク353bは受光パワー情報を解析して結合部354に出力する。
【0127】
結合部354は、ニューラルネットワーク353a,353bの解析結果を結合してニューラルネットワーク355に出力する。ニューラルネットワーク355は、結合された解析結果を解析して分配部356に出力する。分配部356は、解析結果をニューラルネットワーク357a~357dに分配する。
【0128】
ニューラルネットワーク357aは解析結果からスパン数を推測する。ニューラルネットワーク357bは解析結果からファイバ種を推測する。ニューラルネットワーク357cは解析結果からスパン長を推測する。ニューラルネットワーク357dは解析結果から入力光パワーを推測する。
【0129】
本例の人工知能部352によっても、上記の人工知能部351と同様の機能を実行することができる。
【0130】
次に正準化部33の学習処理について述べる。正準化部33は、上記のコンピュータシミュレーションにより生成された疑似的な電界信号Er_simと実際の伝送システムの電界信号Erの差異を抑制するため、事前の学習結果に基づき電界信号Erの波形を疑似的な電界信号Er_simの波形に近づけるように変換する。
【0131】
図11は、正準化部33の学習処理の一例を示す図である。正準化部33は、学習機能部330及びニューラルネットワーク331を有する。学習機能部330は、ニューラルネットワーク331の動作モードを、上記の学習機能部350と同様に学習モードまたは推論モードに切り替える。ニューラルネットワーク331は、推論モードにおいて、学習結果に基づき電界信号Erを正準化した電界信号E0に変換する。
【0132】
ニューラルネットワーク331の学習には、実際の送信装置1及び受信装置2が用いられる。ここで、送信装置1及び受信装置2は、伝送路9を介さずに、例えば短距離(例えば数m)の光ファイバを介して直接的に互いに接続されている。このため、伝送路9を介して接続された送信装置1及び受信装置2を用いる場合よりコスト及び所要時間が低減される。
【0133】
送信信号処理部18が出力した電界信号Es、及び光受信部29が出力した電界信号Erは、正準化部33に入力される。ニューラルネットワーク331には、送信側の電界信号Esが入力データX’として入力される。また、学習機能部330には、受信側の電界信号Erが入力される。学習機能部330は、電界信号Erを出力データY’としてニューラルネットワーク331に出力する。
【0134】
ニューラルネットワーク331は、入力データX’及び出力データY’の対応関係を学習する。学習機能部330は、ニューラルネットワーク331が出力データY’から入力データX’を再現するように学習を制御する。このため、正準化部33は、電界信号Erの波形をコンピュータシミュレーションの疑似的な電界信号Er_simに高精度に近づけることができる。
【0135】
図12は、正準化部33の変換処理の一例を示す図である。符号Gaは変換前の電界信号Erの信号値の時間的な変化を示し、符号Gbは変換後の電界信号E0の信号値の時間的な変化を示す。なお、符号Ga,Gbのグラフには、コンピュータシミュレーションによる疑似的な電界信号Er_simの波形が点線で示されている。
【0136】
変換後の電界信号E0の波形は、変換前の電界信号Erの波形と比べると、高周波成分が除去されてコンピュータシミュレーションによる疑似的な電界信号Er_simの波形に近い。このため、特徴抽出部34は、変換後の電界信号E0に基づいて高精度な特徴マップ情報を生成することができる。
【0137】
このように、正準化部33は、電界信号Erの波形を、コンピュータシミュレーションにより生成される電界信号Er_simの波形に近づけるように変換する。したがって、伝送路監視装置3は、伝送路9の状態を高精度に監視することができる。
【0138】
正準化部33による変換は、例えば以下のように表すことができる。
【0139】
Sr=Had・Hrx・Htr・Htx・Hda・Ss ・・・(6)
【0140】
送信側の電界信号Esに該当する光電場をSsとし、受信側の電界信号Erに該当する光電場をSrとすると、光電場Ss,Srの関係は上記の式(6)で表される。式(6)において、HadはDAC12a~12dの波形応答を示し、Hrxは光送信部19の波形応答を示し、Htrは伝送路9の波形応答を示す。また、Htxは光受信部29の波形応答を示し、HdaはADC22a~22dの波形応答を示す。
【0141】
また、特徴抽出部34における波形変換は、例えばHf(Vcd,γ)で表されるとする。
【0142】
Sr=Htr・Ss ・・・(7)
【0143】
コンピュータシミュレーションにおける光送信部61、光受信部63、DAC12a~12d(送信信号処理部60)、及びADC22a~22d(受信信号処理部64)は理想的な動作を行うため、Had、Hrx、Htx、及びHdaは恒等変換となる。したがって、受信側の光電場Srは、式(6)から上記の式(7)として表すことができる。
【0144】
また、特徴マップ情報の類似度Crを、送信側の光電場Srと受信側の光電場Ssの関数としてCr(Ss,Hf・Sr)とすると、式(7)から、類似度CrはCr(Ss,Hf・Htr・Ss)となる。
【0145】
一方、実際の送信装置1及び受信装置2を用いる場合、Had、Hrx、Htx、及びHdaは恒等変換とはならないため、類似度CrはCr(Ss,Hf・Had・Hrx・Htr・Htx・Hda・Ss)となる。ここで、正準化部33の波形応答であるHcnを追加すると、類似度CrはCr(Ss,Hf・Hcn・Had・Hrx・Htr・Htx・Hda・Ss)となる。
【0146】
正準化部33は、光送信部61、光受信部63、DAC12a~12d、及びADC22a~22dの波形変換を打ち消すため、Hcn=Hda-1・Htx-1・Hrx-1・Had-1となる。このため、演算順序の入れ替えが可能であるとすれば、類似度CrはCr(Ss,Hf・Hda-1・Htx-1・Hrx-1・Had-1・Had・Hrx・Htr・Htx・Hda・Ss)=Cr(Ss,Hf・Htr・Ss)となる。
【0147】
このように、正準化部33によると、実際の送信装置1及び受信装置2を用いる場合でも、コンピュータシミュレーションの場合と同様の類似度Crが得られる。このため、情報生成部35は、何れの場合でも電界信号Er,Er_simに差分がほとんどないため、同様の動作を行えばよい。
【0148】
次にニューラルネットワーク351a~351c,353a,353b,355,357a~357d,331の構成を述べる。
【0149】
図13は、ニューラルネットワーク351a~351c,353a,353b,355,357a~357d,331の一例を示す構成図である。ニューラルネットワーク351a~351c,353a,353b,355,357a~357d,331は、人間の脳機能を数学的にモデル化したものであり、深層学習機能を備えるネットワークである。
【0150】
ニューラルネットワーク351a~351c,353a,353b,355,357a~357d,331は、入力層Lin、第1~第m隠れ層L1~Lm(m:2以上の整数)、及び出力層Loutを有する。入力層Lin、第1~第m隠れ層L1~Lm、及び出力層Loutには、ニューロンに該当する複数の入出力ユニットUが設けられている。なお、各層Lin,L1~Lm,Loutの入出力ユニットUの数は同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0151】
【数1】
【0152】
入出力ユニットUは、符号G31で示されるように、変数x~x(n:2以上の整数)の入力に対して変数yを出力する。変数yは、変数x~xの活性化関数fを用いて上記の式(8)で表される。ここで、変数x~xの重み係数w~wnと定数wは学習により決定される。活性化関数fは、例えばシグモイド関数、ReLU関数、及びMaxout関数が挙げられるが、これに限定されない。重み係数w~wn、定数w、及び活性化関数fは、不図の中央解析装置から入出力ユニットUに予め設定される。
【0153】
入力データDinは、Nin列(Nin:2以上の整数)で入力層Linに入力され、第1~第m隠れ層L1~Lmにおいて演算処理されることにより出力データDoutに変換されて出力層LoutからNout列(Nout:2以上の整数)で出力される。ここで、データの変換規則は、重み係数w~wn及び定数wに応じて決定される。重み係数w~wn及び定数wは、例えば、上述した学習処理によりニューラルネットワーク351a~351c,353a,353b,355,357a~357d,331に学習させることにより最適な値とすることができる。
【0154】
なお、伝送路監視装置3は、パラメータK1~K3が変動するコンピュータシミュレーションの電界信号Er_simを用いて学習処理を行い、また、受信装置2から入力された電界信号Erを正準化部33により変換するが、これに限定されない。
【0155】
伝送路監視装置3は、パラメータK1~K3が変動しないコンピュータシミュレーションの電界信号Er_simを用いて学習処理を行っても、正準化部33による変換処理を行えば、伝送路9の状態を高精度に監視することができる。また、伝送路監視装置3は、正準化部33による変換処理を行わなくても、パラメータK1~K3が変動するコンピュータシミュレーションの電界信号Er_simを用いて学習処理を行えば、伝送路9の状態を高精度に監視することができる。
【0156】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能である。
【0157】
なお、以上の説明に関して更に以下の付記を開示する。
(付記1) 伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償する第1補償部と、
前記第1補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する第2補償部と、
前記第2補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償する第3補償部と、
前記第3補償部による補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出する算出部と、
前記指標値が所定条件を満たすときの前記第1補償部が補償した波長分散の量と前記第2補償部の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得する取得部と、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定する推定部とを有し、
前記推定部は、ランダムに変動するパラメータを用いて前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成された前記電界信号に基づいて、前記パラメータの変動の影響が抑制されるように、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視装置。
(付記2) 伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償する第1補償部と、
前記第1補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償する第2補償部と、
前記第2補償部による補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償する第3補償部と、
前記第3補償部による補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出する算出部と、
前記指標値が所定条件を満たすときの前記第1補償部が補償した波長分散の量と前記第2補償部の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得する取得部と、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定する推定部と、
前記電界信号の波形を、前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成される前記電界信号の波形に近づけるように変換する変換部とを有し、
前記推定部は、前記シミュレーションにより生成される前記電界信号に基づいて、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視装置。
(付記3) 前記推定部は、前記電界信号の波形、及び前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形の対応関係を学習することを特徴とする付記2に記載の伝送路監視装置。
(付記4) 伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償し、
前記波長分散の一部の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償し、
前記非線形光学効果による劣化の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償し、
前記残りの波長分散の補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出し、
前記指標値が所定条件を満たすときの前記波長分散の一部の補償量と前記非線形光学効果による劣化の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得し、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定し、
該推定のため、ランダムに変動するパラメータを用いて前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成された前記電界信号に基づいて、前記パラメータの変動の影響が抑制されるように、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視方法。
(付記5) 伝送路から受信された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路の波長分散の一部を補償し、
前記波長分散の一部の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の非線形光学効果による劣化を補償し、
前記非線形光学効果による劣化の補償後の前記電界信号に対し、前記伝送路の波長分散から前記一部を除いた残りの波長分散を補償し、
前記残りの波長分散の補償後の前記電界信号の波形と、前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形との類似性の指標値を算出し、
前記指標値が所定条件を満たすときの前記波長分散の一部の補償量と前記非線形光学効果による劣化の補償量の関係を、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係として取得し、
前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係に基づき前記伝送路の物理的な状態を推定し、
前記電界信号の波形を、前記伝送路に前記光信号を伝送するシミュレーションにより生成される前記電界信号の波形に近づけるように変換し、
該推定のため、前記シミュレーションにより生成される前記電界信号に基づいて、前記伝送路上の位置と前記光信号の状態の関係を示す情報、及び前記伝送路の物理的な状態の対応関係を学習することを特徴とする伝送路監視方法。
(付記6) 前記電界信号の波形、及び前記伝送路に送信される前記光信号の光電界成分を示す送信側電界信号の波形の対応関係を学習することを特徴とする付記5に記載の伝送路監視方法。
【符号の説明】
【0158】
1 送信装置
2 受信装置
3 伝送路監視装置
6 シミュレータ
33 正準化部
34 特徴抽出部
35 情報生成部
41,43 波長分散補償部
42 非線形効果補償部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13