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特許7460895W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20240327BHJP
   A23L 27/60 20160101ALI20240327BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23L27/60 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020058113
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021153512
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】山下 純平
(72)【発明者】
【氏名】小野田 章人
(72)【発明者】
【氏名】瀧 次郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昌悟
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-086748(JP,A)
【文献】特開2016-086747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
A23L 27/60
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、及び外水相(W2)からなるW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法であって;
当該製造方法は、内水相(W1)形成用液と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製すること、及び、当該W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製することを含み;
外水相(W2)形成用液が、卵黄を含有し;
内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧を、それぞれXmOsmol/kg及びYmOsmol/kgとし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の全重量を、a重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の全重量を、b重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量を、c重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の水分量を、d重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の水分量を、e重量部とし、かつ
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算)を、f重量部とするとき、
(i)X/Yが、1超過5以下であり、
(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり、かつ
(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下であり、
前記cが、20以下である、製造方法。
【請求項2】
W1/O/W2型乳化物を含む食品が、マヨネーズ様食品である、請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法に関する。詳細には、本発明は、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乳化ドレッシング、マヨネーズ等の乳化状の調味料や食品において、低カロリー化等の目的で、W1/O/W2型(水中油中水型ともいう)の乳化物が利用されている。
【0003】
W1/O/W2型の乳化物は、O/W型のものに比べて一般に低油脂含量であることから、油脂由来のコクが十分に感じられない傾向がある。W1/O/W2型の乳化物の油脂含量を低く維持しつつ、コクを向上するためには、外水相(W2)中に分散している油中水型乳化物(W1/O型乳化物)において、内水相(W1)の比率を上げることが効果的である。しかし、内水相(W1)の比率を上げると、W1/O型乳化物の粘度が上昇し、W1/O型乳化物の混合及び移送が困難となり、W1/O/W2型乳化物の製造が困難となるという問題がある。
【0004】
また、W1/O/W2型の乳化物の水相間で、浸透圧差により水分が移行することが報告されており(特許文献1)、W1/O/W2型乳化物の製造に用いられる、内水相(W1)形成用液と外水相(W2)形成用液との間に浸透圧差をつけることにより、製造後のW1/O/W2型乳化物において、外水相(W2)から内水相(W1)へ水を移行させることが可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-307037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、W1/O/W2型乳化物の製造に用いられる、内水相(W1)形成用液と外水相(W2)形成用液との間に浸透圧差をつけ、製造後のW1/O/W2型乳化物において、外水相(W2)から内水相(W1)へ過度の水が流入すると、油滴粒子径が大きくなり、結果として油分離や離水が発生しやすくなるため、W1/O/W2型乳化物の安定性に問題を生じることが考えられる。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討し、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各浸透圧、並びに、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各水分量等が、所定の関係を充足するよう調整することによって、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を製造し得ることを見出し、更に研究を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、及び外水相(W2)からなるW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法であって;
当該製造方法は、内水相(W1)形成用液と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製すること、及び、当該W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製することを含み;
外水相(W2)形成用液が、卵黄を含有し;
内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧を、それぞれXmOsmol/kg及びYmOsmol/kgとし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の全重量を、a重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の全重量を、b重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量を、c重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の水分量を、d重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の水分量を、e重量部とし、かつ
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算)を、f重量部とするとき、
(i)X/Yが、1超過5以下であり、
(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり、かつ
(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下である、製造方法。
[2]W1/O/W2型乳化物を含む食品が、マヨネーズ様食品である、[1]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法は、内水相(W1)形成用液と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製する工程、及び、当該W1/O型乳化物と、卵黄を含有する外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製する工程を少なくとも含み、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各浸透圧、内水相(W1)形成用液、外水相(W2)形成用液及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の各重量、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各水分量、並びに、外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量が、所定の関係を充足することを、主たる特徴とする。
本明細書において「本発明のW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法」を、「本発明の食品の製造方法」と称する場合があり、また、「本発明のW1/O/W2型乳化物を含む食品」を、「本発明の食品」と称する場合がある。
【0011】
本発明において「W1/O/W2型乳化物」とは、内水相(W1)、油相(O)及び外水相(W2)から構成される乳化構造を有する組成物を意味する。より詳細には、油相中に水滴粒子が分散した油中水型乳化物(W/O型乳化物)が、更に水相(外水相)に分散しているという二重の乳化構造を有する組成物を意味する。
また、本発明において「食品」とは、経口的に摂取され得るものを広く包含する概念であり、特に断りのない限り、いわゆる食べ物の他、飲料や調味料等も包含される。
【0012】
本発明の食品(W1/O/W2型乳化物を含む食品)は、例えば、日本農林規格(JAS規格)で定義される半固体状ドレッシング(例、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング等)、乳化液状ドレッシング等のドレッシング等として提供され得るが、これらに制限されず、JAS規格に適合しないドレッシング、調味料(例、ソース、たれ等)、食品(飲料を含む)等であってもよい。
【0013】
一態様として、本発明の食品は、マヨネーズ様食品であってよい。ここで「マヨネーズ様食品」とは、JAS規格のマヨネーズの規格には適合しないが、JAS規格に適合するマヨネーズと同等乃至類似の食味、食感、性状を有する食品(調味料等を含む)をいい、例えば、マヨネーズタイプ等を包含する概念である。
【0014】
本発明は、
内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧を、それぞれXmOsmol/kg及びYmOsmol/kgとし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の全重量を、a重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の全重量を、b重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量を、c重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の水分量を、d重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の水分量を、e重量部とし、かつ
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算)を、f重量部とするとき、
これらのX、Y及びa~fが、所定の関係を充足することが重要である。X、Y及びa~fが、所定の関係を充足することにより、十分なコクを有し、かつ安定性の高いW1/O/W2型乳化物を得ることができる。
【0015】
具体的には、(i)X/Y(本明細書において「(i)の値」と称する場合がある)は、好ましくは1超過であり、より好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.4以上である。また、当該(i)の値は、好ましくは5以下であり、より好ましくは4.8以下であり、特に好ましくは4.5以下である。
(i)の値は、内水相(W1)形成用液と外水相(W2)形成用液との浸透圧比を示し、当該(i)の値が所定の範囲内であることにより、安定性の高いW1/O/W2型乳化物を得ることができる。
【0016】
(ii)d/(d+c)×100(本明細書において「(ii)の値」と称する場合がある)は、好ましくは72以下であり、より好ましくは71.7以下であり、特に好ましくは71.3以下である。当該(ii)の値の下限は特に制限されない。
(ii)の値は、W1/O/W2型乳化物の製造時の、W/O型乳化物(油滴)中の、内水相(W1)の割合を示し、当該(ii)の値が高くなると、W/O型乳化物の粘度が上昇し(固くなり)、W1/O/W2型乳化物を製造しづらくなる、すなわち製造適性が損なわれる傾向がある。
【0017】
(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335(本明細書において「(iii)の値」と称する場合がある)は、好ましくは70以上であり、より好ましくは70.5以上であり、特に好ましくは71.1以上である。また、当該(iii)の値は、好ましくは87以下であり、より好ましくは86以下であり、特に好ましくは85以下である。
(iii)の値は、製造後のW1/O/W2型乳化物において、外水相(W2)から内水相(W1)へ水が移行して、外水相(W2)及び内水相の浸透圧が釣り合った時(平衡時)の、W1/O/W2型乳化物におけるW/O型乳化物(油滴)の割合を示し、当該(iii)の値が所定の範囲内であることにより、十分なコクを有するW1/O/W2型乳化物を得ることができる。
【0018】
本発明において、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の10重量倍希釈時の浸透圧(すなわちX及びY、単位:mOsmol/kg)は、氷点降下法により測定される。具体的には、W1/O/W2型乳化物の調製に用いられる内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液を、それぞれ水で10重量倍希釈した後、Gonotec社(ドイツ)製の浸透圧計「OSMOMAT 030-D」を用いて、機器の校正後に氷点降下法により浸透圧を測定することにより求められる。
【0019】
X(内水相(W1)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧)は、好ましくは225mOsmol/kg以上であり、より好ましくは250mOsmol/kg以上であり、特に好ましくは280mOsmol/kg以上である。また、Xは、好ましくは710mOsmol/kg以下であり、より好ましくは600mOsmol/kg以下であり、特に好ましくは550mOsmol/kg以下である。
【0020】
Y(外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧)は、好ましくは92mOsmol/kg以上であり、より好ましくは93mOsmol/kg以上であり、特に好ましくは94mOsmol/kg以上である。また、Yは、好ましくは225mOsmol/kg以下であり、より好ましくは220mOsmol/kg以下であり、特に好ましくは210mOsmol/kg以下である。
【0021】
内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の浸透圧(すなわちX及びY)は、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で調整すればよく、調整方法は特に制限されないが、例えば、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の溶質量を調節すること、水分量を調節すること等によって調整し得る。
【0022】
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、内水相(W1)形成用液の全重量、外水相(W2)形成用液の全重量、及び、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量(すなわちa、b及びc、単位:重量部)は、内水相(W1)形成用液、外水相(W2)形成用液、及び、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の調製に用いられる原材料の重量をそれぞれ合計して求められ、あるいは、内水相(W1)形成用液、外水相(W2)形成用液、及び、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油を調製した後、それらの重量を測定することによっても求められる。
尚、W1/O/W2型乳化物は、内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、及び外水相(W2)からなるものであるから、a、b及びcの合計(a+b+c)は、100(重量部)である。
【0023】
a(W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の全重量)は、好ましくは16重量部以上であり、より好ましくは22重量部以上であり、特に好ましくは25重量部以上である。また、aは、好ましくは60重量部以下であり、より好ましくは55重量部以下であり、特に好ましくは53重量部以下である。
【0024】
b(W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の全重量)は、好ましくは13重量部以上であり、より好ましくは20重量部以上であり、特に好ましくは30重量部以上である。また、bは、好ましくは60重量部以下であり、より好ましくは58重量部以下であり、特に好ましくは54重量部以下である。
【0025】
c(W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量)は、好ましくは11重量部以上であり、より好ましくは11.5重量部以上であり、特に好ましくは12重量部以上である。また、cは、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは25重量部以下であり、特に好ましくは20重量部以下である。
【0026】
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、内水相(W1)形成用液の水分量、及び、外水相(W2)形成用液の水分量(すなわちd及びe、単位:重量部)は、内水相(W1)形成用液、及び、外水相(W2)形成用液の調製に用いられる原材料の水分量をそれぞれ合計して求められる。本発明において、内水相(W1)形成用液等の調製に用いられる原材料の水分量は、特に断りのない限り、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編)に記載されている測定法又はそれに準ずる方法によって測定し得る。例えば、試料を、恒温乾燥器を用いて乾燥した後の蒸発減量を測定する等の方法によって測定し得る。天然の原材料については、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に記載されている成分値を用いて算出してよい。例えば、本発明において、卵黄(生)の水分、油脂分は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に記載されている卵黄(生)の成分値(可食部100g当たり、水分48.2g、脂質33.5g)に基づき、水分:卵黄(生)に対して48.2重量%、油脂分:卵黄(生)に対して33.5重量%とし、また、卵白(生)の水分、油脂分は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に記載されている卵白(生)の成分値(可食部100g当たり、水分88.4g、脂質Tr(微量、トレース))に基づき、水分:卵白(生)に対して88.4重量%、油脂分:卵白(生)に対して0重量%とする。内水相(W1)形成用液等の調製に用いられる原材料が、水分を含むものであっても、水分が当該原材料の内部から外部に移行せず、他の原材料の水分と混合し得ない場合、当該原材料に含まれる水分量は、d及びeの計算に算入しない。
【0027】
d(W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の水分量)は、好ましくは8重量部以上であり、より好ましくは14重量部以上であり、特に好ましくは18重量部以上である。また、dは、好ましくは52重量部以下であり、より好ましくは49重量部以下であり、特に好ましくは45重量部以下である。
【0028】
e(W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の水分量)は、好ましくは3重量部以上であり、より好ましくは10重量部以上であり、特に好ましくは20重量部以上である。また、eは、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは48重量部以下であり、特に好ましくは46重量部以下である。
【0029】
f(W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算))は、ドレッシング等において通常使用される量であれば特に制限されないが、好ましくは1重量部以上であり、より好ましくは2重量部以上であり、特に好ましくは2.5重量部以上である。卵黄の量が多くても乳化に悪影響はなく、fの上限は特に制限されないが、通常20重量部以下であり、好ましくは15重量部以下であり、より好ましくは12重量部以下であり、特に好ましくは10重量部以下である。
【0030】
本発明の食品の製造方法において用いられる内水相(W1)形成用液は、水に、製造する食品の種類等に応じたその他の水相原料を、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で溶解、分散させること等によって調製できる。
【0031】
内水相(W1)形成用液の調製に用い得る水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の精製水、水道水等が挙げられるが、これらに制限されず、食品製造用水として適合するものを用い得る。
【0032】
内水相(W1)形成用液の調製に用い得る水相原料は、マヨネーズ又はマヨネーズ様食品等の水相原料として通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、砂糖類、食塩、食酢、かんきつ類の果汁、醤油、味噌、酸味料、調味料、香辛料、香辛料抽出物、増粘剤、でん粉、香料、着色料等が挙げられる。
【0033】
砂糖類としては、例えば、砂糖(例、グラニュー糖等)、ぶどう糖、果糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖、砂糖混合果糖ぶどう糖液糖、砂糖混合高果糖液糖、水あめ等が挙げられる。これらの砂糖類は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0034】
食酢は、醸造酢及び合成酢のいずれであってもよく、醸造酢としては、例えば、米酢(純米酢、玄米酢等)、米黒酢、麦芽酢、コーン酢、ハトムギ酢等の穀物酢、ぶどう酢、りんご酢、柿酢等の果実酢等が挙げられる。合成酢としては、例えば、蒸留酢、濃縮酢等が挙げられる。これらの食酢は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明において食酢が用いられる場合、食酢の水分量(g)は、食酢の酸度(酢酸換算酸度)から、下記式により算出できる。
[食酢の水分量(g)]=[食酢の重量]×(100-[食酢の酸度(%)])
【0036】
本発明において食酢の酸度(酢酸換算酸度)は、下記の方法で算出できる。
食酢1gを試料として正確に計量し、炭酸ガスを含まない水を加えて50倍に希釈した後、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を約2滴加え、力価既知の0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液で、30秒間、微紅色の消失しない点を終点として滴定し、その滴定量から、次式により、酸度を算出する。
酸度(%)=0.03×(A-B)×F/W×100
[式中、0.03:0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液1mLに相当する酢酸の重量(g)、
A:試料における0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)、
B:空試験における0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)、
F:0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価、
W:試料採取量(mL)]
【0037】
酸味料としては、例えば、有機酸(例、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等)、無機酸(例、リン酸等)及びそれら塩(例、ナトリウム塩等)等が挙げられる。これらの酸味料は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0038】
調味料としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸系調味料;イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸系調味料;たん白加水分解物等が挙げられる。これらの調味料は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0039】
増粘剤としては、例えば、ぺクチン(例、ハイメトキシルペクチン等)、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ウェランガム、モナトウガム、アラビアガム、トラガントガム、カードラン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の増粘多糖類等が挙げられる。これらの増粘剤は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の食品の製造方法において用いられる外水相(W2)形成用液は、水に、卵黄、及び、製造する食品の種類等に応じたその他の水相原料を、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で溶解、分散させること等によって調製できる。
【0041】
外水相(W2)形成用液の調製に用い得る水は、内水相(W1)形成用液の調製に用い得る水(上述)と同様のものを用い得る。
【0042】
本発明において用いられる卵黄は、食品に一般的に用いられ得るものであれば特に制限されず、例えば、家禽類(例、ニワトリ)の殻付卵(例、鶏卵等)を割卵して卵殻を取り除いた卵内容物(全卵)から、卵白を分離して得られる生卵黄、当該生卵黄に自体公知の加工処理(例、殺菌処理、冷凍処理、濾過処理、乾燥処理、酵素処理、脱糖処理、脱コレステロール処理、加糖処理、加塩処理等)又はそれに準ずる処理を施して得られる加工卵黄等が挙げられる。また、全卵や、全卵に上述の自体公知の加工処理又はそれに準ずる処理を施して得られる加工全卵等を用いてもよい。
【0043】
外水相(W2)形成用液の調製に用い得る水相原料は、マヨネーズ様食品等の水相原料として通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、卵、砂糖類、食塩、食酢、かんきつ類の果汁、醤油、味噌、酸味料、調味料、乳化剤、香辛料、香辛料抽出物、増粘剤、でん粉、香料、着色料等が挙げられる。
【0044】
本発明の食品の製造方法において用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油は、油に、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で溶解させること等によって調製できる。
本明細書において「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」を、単に「PGPR」と称する場合がある。
【0045】
本発明において用いられる油は、食品に通常使用できる親油性の物質であれば特に制限されず、例えば、食用油脂、親油性のある着香料、香味油等が挙げられる。
【0046】
食用油脂としては、例えば、キャノーラ油、菜種油、コーン油、大豆油、ごま油、米油、糠油、べに花油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、えごま油、アマニ油、オリーブ油、グレープシード油等の食用植物油脂;牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油等の食用動物油脂等が挙げられるが、好ましくは食用植物油脂である。また、上述の食用油脂をエステル交換したエステル交換油、上述の食用油脂に水素添加した硬化油等も用いることができる。食用油脂は精製されたもの(例、サラダ油等)であってよい。これらの食用油脂は、単独で用いても二種以上を併用してもよいが、二種以上を併用することが好ましく、二種以上の食用植物油脂(例、キャノーラ油、菜種油、コーン油、大豆油、ごま油、米油、糠油、べに花油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、えごま油、アマニ油、オリーブ油、グレープシード油等)を併用することが特に好ましい。
【0047】
本発明において用いられるPGPRのグリセリン重合度は、好ましくは4~10、より好ましくは6~10である。
ここで「PGPRのグリセリン重合度」とは、グリセリン分子が結合している割合をいい、重合度(n)は、〔水酸基価=56110(n+2)/(74n+18)〕という計算式を用いた末端基分析法により求められる。また、「水酸基価」とは、試料1gを完全にアセチル化するのに要する酢酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数をいう。
【0048】
本発明において用いられるPGPRのエステル化度の下限は、通常10%であり、好ましくは15%である。また、当該エステル化度の上限は、通常30%であり、好ましくは25%である。
ここで「PGPRのエステル化度」とは、ポリグリセリン部分への縮合リシノレイン酸の結合している割合をいう。ポリグリセリンは、平均重合度をnとすると、分子内に平均(n+2)個の水酸基を有し、ポリグリセリン1分子に対し、1~(n+2)分子までの縮合リシノレイン酸をエステル結合することが可能である。縮合リシノレイン酸がエステル結合されていない場合をエステル化度0%といい、全ての水酸基に縮合リシノレイン酸がエステル結合されている場合をエステル化度100%という。PGPRには種々のエステル化度のものが含まれているが、本明細書においては、それらの平均エステル化度をPGPRのエステル化度とする。
【0049】
本発明において用いられるPGPRのリシノレイン酸縮合度の下限は、通常5であり、好ましくは5.5である。上限は、通常8であり、好ましくは7であり、さらに好ましくは6.5である。リシノレイン酸縮合度が8を越えるPGPRは一般的に製造されていない。
ここで「PGPRのリシノレイン酸縮合度」とは、リシノレイン酸が脱水縮合している割合をいう。例えば、リシノレイン酸のカルボキシル基と他のリシノレイン酸の水酸基がエステル化し、2分子のリシノレイン酸が縮合している場合を縮合度2といい、6分子のリシノレイン酸が縮合している場合を縮合度6という。PGPRには種々の縮合度のリシノレイン酸が含まれているが、本明細書においては、それらの平均縮合度をPGPRのリシノレイン酸縮合度とする。
【0050】
本発明において用いられるPGPRの製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で製造し得る。また、市販品を用いてよい。
【0051】
本発明の食品におけるPGPRの含有量は、油に対して、好ましくは0.01~5重量%であり、より好ましくは0.3~4重量%である。
【0052】
本発明の食品の製造方法において、内水相(W1)形成用液と、PGPRを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製する工程は、乳化物の製造に通常使用される装置を用いて、自体公知の手法又はそれに準ずる手法を適宜組み合わせて行えばよいが、例えば、PGPRを含有する油に、内水相(W1)形成用液を注加しながら、ホモミキサー等の乳化機で撹拌すること等によって行い得る。撹拌条件(例、撹拌速度、撹拌時間等)は、撹拌に使用する乳化機の種類等によって異なり、W1/O型乳化物が調製されれば特に制限されないが、一例として、T.KホモミキサーMARK2(特殊機化工業株式会社製)を用いる場合、撹拌速度は通常3000~15000rpmであり、撹拌時間は通常0.5~5分間である。尚、後述する通り、本発明の食品の製造方法には、乳化物の製造に通常使用される装置を制限なく用いることができる。
【0053】
W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製する工程は、乳化物の製造に通常使用される装置を用いて、自体公知の手法又はそれに準ずる手法を適宜組み合わせて行えばよいが、例えば、外水相(W2)形成用液に、W1/O型乳化物を注加しながら、ホバートミキサー等で撹拌し、予備乳化物を得た後、コロイドミル等の乳化機で乳化すること等によって行い得る。撹拌条件は、撹拌に使用する乳化機の種類等によって異なり、W1/O/W2型乳化物が調製されれば特に制限されないが、一例として、コロイドミルを用いる場合、ローター回転数を1500~4000rpm、クリアランス幅を5/1000~30/1000inchに設定し得る。尚、後述する通り、本発明の食品の製造方法には、乳化物の製造に通常使用される装置を制限なく用いることができる。
【0054】
本発明の食品の製造方法には、乳化物の製造に通常使用される装置を制限なく用いることができる。例えば、内水相(W1)形成用液と、PGPRを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製する工程、W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製する工程においては、回転式の乳化機等を用いることができる。乳化機の具体例としては、ホモミキサー、コロイドミル、ホバートミキサー、スティックミキサー、ディスパーミキサー、ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー等が挙げられる。
【0055】
本発明の食品の製造方法において、W1/O/W2型乳化物の粘度は特に制限されないが、製造後10分において、通常1~300Pa・sであり、好ましくは20~200Pa・sであり、より好ましくは30~150Pa・sである。
本発明においてW1/O/W2型乳化物の粘度は、B型粘度計等の公知の装置を用いて、23~25℃で測定される。
【0056】
本発明の食品の製造方法は、調製したW1/O/W2型乳化物を、そのまま本発明の食品(例、調味料等)として提供してよく、又は、本発明の目的を損なわない限り、乳化食品の製造において通常行われ得る処理、操作等を更に行ってもよい。
【0057】
本発明の食品のpHは、通常3以上であり、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは3.8以上である。本発明の食品のpHは、通常5以下である。
【0058】
本発明の食品は、分岐デキストリンを含有するものであってよい。本発明において「分岐デキストリン」とは、分子内のα-1,6グルコシド結合からなる分岐構造の割合が、通常のデキストリンと比べて高いデキストリンをいい、例えば、でん粉を自体公知の方法又はそれに準ずる方法で加水分解すること等により得られる。分岐デキストリンを含有することにより、W1/O/W2型乳化物は、表面にツヤのある好ましい外観となり得る。分岐デキストリンは、W1/O/W2型乳化物の内水相(W1)及び外水相(W2)のいずれに含有されてもよいが、外水相(W2)に含有されることが好ましい。
【0059】
本発明によれば、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を製造でき、したがって、本発明の食品の製造方法によれば、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品を製造し得る。
【0060】
本発明において、W1/O/W2型乳化物のコクの有無や程度(強さ)は、例えば、後述の実施例に示されるように、専門パネルによる官能評価等によって評価できる。本発明において、W1/O/W2型乳化物の「コク」とは、油脂由来の濃厚な味わい、風味をいう。
【0061】
本発明において、W1/O/W2型乳化物の安定性は、例えば、乳化物の油滴(O)の粒子径(体積基準累積粒度分布における25%径、50%径及び75%径)、標準偏差を、経時で確認すること等により評価でき、例えば、粒子径が経時的に大きくなり、バラつきが大きくなる(標準偏差が大きくなる)ものは、安定性が悪いと判定される。油滴(O)の粒子径、標準偏差の測定、算出は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例、株式会社島津製作所製「SALD-3100」等)を用いて行い得る。
【0062】
本発明によれば、W1/O/W2型乳化物を含む食品のコク改善方法、W1/O/W2型乳化物を含む食品の安定性改善方法も提供される。これらの方法は、いずれも本発明の食品の製造方法と同様に実施し得、好ましい態様も同様である。
【0063】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0064】
<実施例1~6、比較例1~4の乳化物の作製>
内水相の原材料(グラニュー糖、食塩、醸造酢(酸度20%)及び水)、並びに、外水相の原材料(グラニュー糖、食塩、醸造酢(酸度20%)、ペクチン、卵黄(生)、卵白(生)及び水)を、表1に示す量(単位:g)で、それぞれ混合し、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液を調製した後、T.KホモミキサーMARK2(特殊機化工業株式会社製)を用いて、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(グリセリン重合度:6、エステル化度:25%、リシノレイン酸縮合度:6)を含有する油(菜種油)に、内水相(W1)形成用液を徐々に注加しながら(注加中は5,000rpmで撹拌し続けた)、10,000rpmで1分間撹拌して、各W1/O型乳化物を得た。次いで、外水相(W2)形成溶液をホバートミキサー(ホバート(HOBART)社製)に移し、そこにW1/O型乳化物を徐々に注加した(注加中も150rpmで撹拌し続けた)。注加完了後に150rpmで3分間撹拌し、W1/O/W2型の予備乳化物を得た。その後、得られた予備乳化物をコロイドミルで乳化し、実施例1~6及び比較例1、2のW1/O/W2型乳化物をそれぞれ作製した。コロイドミルは、ローター回転数を2,100rpm、クリアランス幅を5/1000inchと設定した。尚、実施例1~6及び比較例1、2は全て同一条件にて乳化しており、これらの乳化物の乳化後10分の粒子径は、後述の安定性確認試験において示される表7に記載の通りであった。
一方、各原材料を表1に示す量で用いたこと以外は、実施例1~6及び比較例1、2と同様の手順で、比較例3及び4のW1/O/W2型乳化物の作製を試みたが、比較例3についてはW1/O型乳化物が外水相(W2)中に分散できず、W/O型乳化物になってしまい、また比較例4についてはW1/O型乳化物の製造時に水相(W1)の一部が油相(O)中に分散できず、いずれもW1/O/W2型乳化物を作製できなかった。
実施例1~6及び比較例1~4の乳化物の作製に用いた原材料は、水を除いて、いずれも食品用として市販されているものであり、水は、水道水を浄水器に通したものを用いた。
尚、表1中、「PGPR」は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
<内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の浸透圧の測定>
内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液を、水で10重量倍希釈した後、Gonotec社(ドイツ)製の浸透圧計「OSMOMAT 030-D」を用いて、氷点降下法により各浸透圧(単位:mOsmol/kg)を測定した。
【0067】
<内水相(W1)形成用液の水分量の算出>
内水相(W1)形成用液の水分量(g)は、醸造酢の水分量及び水の重量を合計して算出した。
ここで、醸造酢の水分量(g)は、下記式により算出した。
[醸造酢の水分量(g)]=[醸造酢の重量]×(100-[醸造酢の酸度(%)])
【0068】
<外水相(W2)形成用液の水分量の算出>
外水相(W2)形成用液の水分量(g)は、醸造酢の水分量、卵黄(生)の水分量、卵白(生)の水分量及び水の重量を合計して算出した。
ここで、醸造酢の水分量(g)は、上記<内水相(W1)形成用液の水分量の算出>と同様に算出した。
また、卵黄(生)及び卵白(生)の水分量(g)は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に基づき、卵黄(生)の水分を48.2重量%とし、卵白(生)の水分を88.4重量%として、それぞれ算出した。
【0069】
実施例1~6及び比較例1~4の乳化物の、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の浸透圧(X、Y)、並びに、当該乳化物100重量部の調製に用いられる、内水相(W1)形成用液の全重量(a)、外水相(W2)形成用液の全重量(b)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量(c)、内水相(W1)形成用液の水分量(d)、外水相(W2)形成用液の水分量(e)、及び外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算)(f)を、それぞれ下表2に示す。
また当該X、Y及びa~fから算出した、実施例1~6及び比較例1~4の(i)の値(=X/Y)、(ii)の値(=d/(d+c)×100)、並びに、(iii)の値(=d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335)を、それぞれ下表3に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
<コクの味覚評価>
実施例1~6及び比較例1、2の乳化物について、6名の専門パネルにより、コクの味覚評価を実施した。コクの味覚評価は、各専門パネルが、調製直後(具体的には調製後10分)の各乳化物を食し、油の配合量が多くコクのある乳化物をコントロールとする下記の評価基準(1~10点)に基づいて、0.1点刻みで評点付けし、6名の評点の平均点を算出することにより行った。当該平均点が5.0点以上である場合、十分なコクがある乳化物(評価:〇)とし、当該平均点が5.0点未満である場合、十分なコクがない乳化物(評価:×)と評価した。
尚、6名の専門パネルは、評点が0.1点変動するには、コクがどの程度変動すればよいのか等がパネル間で共通となるよう予め訓練を行った。
【0073】
[評価基準]
1点:コントロールの乳化物と比較しコクがない
3点:コントロールの乳化物してコクがやや弱い
5点:コントロールの乳化物と同等のコクがある
7点:コントロールの乳化物と比較してコクが強い
10点:コントロールの乳化物と比較してコクがとても強い
【0074】
上記の評価基準で用いたコントロールの乳化物は、下記の通り作製した。
<コントロールの乳化物の作製>
内水相の原材料(グラニュー糖、食塩、醸造酢(酸度20%)及び水)、並びに、外水相の原材料(グラニュー糖、食塩、醸造酢(酸度20%)、ペクチン、卵黄(生)、卵白(生)及び水)を、表4に示す量(単位:g)で混合し、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液を調製した後、T.KホモミキサーMARK2(特殊機化工業株式会社製)を用いて、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(グリセリン重合度:6、エステル化度:25%、リシノレイン酸縮合度:25)を含有する油(菜種油)に、内水相(W1)形成用液を徐々に注加しながら(注加中は5,000rpmで撹拌し続けた)、10,000rpmで1分間撹拌して、W1/O型乳化物を得た。次いで、外水相(W2)形成溶液をホバートミキサー(ホバート社製)に移し、撹拌しながらW1/O型乳化物を徐々に注加した(注加中も150rpmで撹拌し続けた)。注加完了後に150rpmで3分間撹拌し、W1/O/W2型の予備乳化物を得た。その後、得られた予備乳化物をコロイドミルで乳化し、コントロールのW1/O/W2型乳化物を作製した。コロイドミルは、ローター回転数を2,100rpm、クリアランス幅を5/1000inchと設定した。
尚、コントロールの乳化物の、内水相(W1)形成用液の浸透圧(10重量倍希釈時)は295mOsmol/kgであり、外水相(W2)形成用液の浸透圧(10重量倍希釈時)は309mOsmol/kgであった。これらの浸透圧の測定は、実施例1~6及び比較例1~4の乳化物と同様に、Gonotec社(ドイツ)製の浸透圧計「OSMOMAT 030-D」を用いて、氷点降下法により行った。
【0075】
【表4】
【0076】
実施例1~6及び比較例1、2の乳化物コクの味覚評価の結果を、下表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
<安定性確認試験>
実施例1~6及び比較例1、2の乳化物の安定性の評価は、油滴(W/O型乳化物)の粒子径及び標準偏差を測定、算出し、その経時的変化を確認することにより行った。一般的に、乳化物系では、油滴の粒子径が小さく、かつサイズが同程度に揃っているものの方が、そうでないものに比べて安定性が良く、一方、油滴の粒子径が大きく、サイズがばらついているものは、油が分離する等のリスクも高くなるため、不安定なものといえる。
具体的には、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD-3100)を用いて、実施例1~6及び比較例1、2の乳化物の(1)製造後10分、(2)24℃で1週間保管後、並びに(3)34℃で1か月間保管後における、油滴の粒子径(体積基準累積粒度分布における25%径、50%径及び75%径)及び標準偏差を、それぞれ測定、算出した。測定条件を、下表6に示す。
尚、本明細書において、「体積基準累積粒度分布における25%径」等を、「D25%径」等と称する場合がある。
【0079】
【表6】
【0080】
本試験において、油滴の分散用液には、測定中に油滴が崩壊したり、油滴の粒子径が著しく変化したりしないよう、各実施例及び比較例の乳化物の水相と浸透圧を合わせた溶液を調製して使用した。具体的には、分散用液は、各実施例及び比較例の乳化物の原材料から、油相原料(菜種油、PGPR)、卵黄(生)、卵白(生)及びペクチンを除外した上で、残りの原材料に、除外した卵黄(生)及び卵白(生)の水分量に相当する水を加えた配合で、調製した。ここで、卵黄(生)及び卵白(生)の各水分量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に基づいて算出した。
【0081】
<安定性の評価基準>
34℃で1か月間保管した後の、油滴の粒子径の標準偏差が0.4を超える場合、安定性の低い乳化物(評価:×)とし、当該標準偏差が0.4以下である場合、安定性の高い乳化物(評価:〇)と評価した。油滴粒子の合一が発生すると標準偏差が大きくなり、その結果、油分離の発生リスクも高くなるため、そのような乳化物は不安定化しているといえる。
【0082】
[粘度の測定]
実施例1~6及び比較例1、2の乳化物の製造後10分における粘度を、B型粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて、23~25℃で測定した(スピンドル:T-C、回転数:5rpm)。
【0083】
[油滴の粒子径及び標準偏差の測定、算出]
実施例1~6及び比較例1、2の乳化物の(1)製造後10分、(2)24℃で1週間保管後、並びに(3)34℃で1か月間保管後における、油滴の粒子径(D25%径、D50%径及びD75%径)及び標準偏差の測定、算出結果を、下表7~9に示す。また製造後10分における、粘度の測定結果を表10に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】
【0088】
表7~9に示される結果から明らかなように、(1)製造後10分の結果においては、実施例及び比較例のいずれも油滴の粒子径(D25%径、D50%径及びD75%径)に大きな差異はみられず、また、標準偏差についても全ての実施例及び比較例で同程度であった。
一方、W1/O/W2型乳化物として安定化していると考えられる(2)24℃で1週間保管後の結果において、比較例1の乳化物は、D75%径が大きかったことから、外水相(W2)から内水相(W1)へ過度の水が流入し、一部の粒子径が過度に大きくなる等により粒度分布が不均一になった結果、乳化物が不安定化していると考えられた。
更に(3)34℃で1か月間保管後の結果において、比較例1の乳化物は、D75%径が大きくなっており、標準偏差も顕著に大きくなっていたことから、不安定化した粒子が合一していると考えられた。
【0089】
<まとめ>
下表11に、実施例1~6及び比較例1~4の乳化物の、(i)の値(=X/Y)、(ii)の値(=d/(d+c)×100)、(iii)の値(=d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335)、コクの味覚評価の結果、並びに、安定性確認試験の結果を、それぞれ示す。
また、表11において、実施例1~6及び比較例1~4の乳化物の「製造適性」は、W1/O/W2型乳化物を製造できなかった比較例3及び4を「×」と評価し、それ以外は「〇」(W1/O/W2型乳化物を製造できた)と評価した。
【0090】
【表11】
【0091】
表11に示されるように、(iii)の値が「92.3」である比較例3及び(ii)の値が「73.5」である比較例4では、W1/O/W2型乳化物を製造できなかった。
また(iii)の値が「69.6」である比較例2の乳化物は、コクの味覚評価において、十分なコクを感じられなかった。
(i)の値が「6.6」である比較例1の乳化物は、安定性確認試験において、安定性に問題があると考えられた。
一方、(i)~(iii)の値が所定の範囲内である実施例1~6の乳化物は、十分なコクを有し、かつ安定性の高いものであった。
これらの結果から、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各浸透圧、内水相(W1)形成用液、外水相(W2)形成用液及びPGPRを含有する油の各重量、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各水分量、並びに、外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量が、所定の関係を充足すること、すなわち(i)~(iii)の値が所定の範囲内であることにより、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を製造し得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法を提供できる。