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特許7460947結晶化ガラス、結晶性ガラス及び結晶化ガラスの製造方法
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  • 特許-結晶化ガラス、結晶性ガラス及び結晶化ガラスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】結晶化ガラス、結晶性ガラス及び結晶化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20240327BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C03C10/12
C03B32/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019224530
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021091583
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】此下 聡子
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-009462(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042985(WO,A1)
【文献】特開2011-073935(JP,A)
【文献】特開昭49-128011(JP,A)
【文献】米国特許第03926602(US,A)
【文献】特開昭58-199749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 32/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 50~80%、Al 10~25%、Li O 0.1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~10%、TiO 0.1~5%、ZrO 0.1~5%を含有し、
外掛けの質量%で、第4族を除く第一遷移金属酸化物を1超~10%含有し、
前記第一遷移金属酸化物が、Fe、CoO、NiO、CuOから選択される一種類以上であり、結晶化度が70%以上であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項2】
アルミノシリケートガラスであることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
主結晶が、βクォーツであることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
金属光沢を有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
表面抵抗率が、8Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
結晶化ガラスが、ガラス本体とその表面に形成された金属光沢層を有し、金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率と異なることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率に比べて0.5Ω・cm以上低いことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の結晶化ガラスの前駆体であって、外掛けの質量%で、第4族を除く第一遷移金属酸化物を1超~10%含有する結晶性ガラス。
【請求項9】
請求項に記載の結晶性ガラスを700~1000℃の熱処理に供することにより結晶化させる結晶化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス、特に表面に金属光沢を有する結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属光沢などの意匠性を有するガラス物品を得る方法としては、例えば、特許文献1及び2に記載のように、スパッタを用いてガラスに金属膜を被覆する方法が知られている。
【0003】
しかし、大面積のガラス板にスパッタ方式で金属膜を被覆する場合は、ムラや膜剥がれなどが生じやすい。また、スパッタのための大型装置が必要となり製造コストが高くなりやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-026508号公報
【文献】特許第3057785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、金属膜を被覆させずとも金属光沢を有し、優れた意匠性を有する結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、結晶化ガラスに第一遷移金属酸化物を所定量含有させ、更に、結晶化度を規制することにより、結晶化ガラスの表面に金属光沢を発現させることができることを突き止め、本発明を提案するに至った。
【0007】
本発明者が見出した機構は以下の通りである。第一遷移金属酸化物を所定量含んだ結晶性ガラスを、一定結晶化度以上に結晶化させると、結晶化ガラス中の結晶に固溶しにくい第一遷移金属イオンは、結晶化ガラス中のガラスマトリックス中に濃縮されると考えられる。そして、濃縮された第一遷移金属イオンは、ガラスマトリックスとともに結晶化ガラスの表面に移行し、その結果、金属リッチな表面層が形成され、結晶化ガラスの表面に金属光沢が発現すると考えられる。
【0008】
なお、一般的に遷移金属元素とは、周期表で第3~11族元素の間に存在する元素の総称のことであり、第4周期に存在する遷移金属元素を第一遷移金属元素という。また遷移金属元素の中でも第4族元素については、結晶に固溶したりして表面の金属光沢に寄与しにくい。そのため、本発明では、遷移金属元素として、これらの元素(具体的には、Ti、Zr、Hf、Rf)を除いた元素を対象とする。
【0009】
すなわち、本発明の結晶化ガラスは、外掛けの質量%で、第4族を除く第一遷移金属酸化物を1超~10%含有し、結晶化度が70%以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の結晶化ガラスは、アルミノシリケートガラスであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の結晶化ガラスは、質量%で、SiO 50~80%、Al 10~25%、LiO 0.1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~10%であることが好ましい。
【0012】
更に、本発明の結晶化ガラスは、質量%で、TiO 0.1~5%、ZrO 0.1~5%含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の結晶化ガラスは、前記第一遷移金属酸化物が、Fe、CoO、NiO、CuOから選択される一種類以上であることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、金属光沢を有する結晶化ガラスを得やすくなる。
【0015】
また、本発明の結晶化ガラスは、主結晶が、βクォーツであることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、結晶化ガラス本体に透光性を付与することができる。その結果、金属光沢を有し且つガラスの透光性を併せ持つ意匠性の高いガラス物品を得ることが可能になる。
【0017】
また、本発明の結晶化ガラスは、金属光沢を有することが好ましい。
【0018】
また、本発明の結晶化ガラスは、表面抵抗率が、8Ω・cm以下であることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、膜抵抗器として使用することができる。
【0020】
本発明の結晶化ガラスは、結晶化ガラスが、ガラス本体とその表面に形成された金属光沢層を有し、金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率と異なることが好ましい。なお、本発明においてガラス本体とは、少なくとも金属光沢層を完全に取り除いたガラスのことを指し、より具体的には、研磨等により表面から500μm(0.5mm)以上の厚みの層を除去したガラスを指す。
【0021】
本発明の結晶化ガラスは、金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率に比べて0.5Ω・cm以上低いことが好ましい。
【0022】
本発明の結晶性ガラスは、前記結晶化ガラスの前駆体であって、外掛けの質量%で、第4族を除く第一遷移金属酸化物を1超~10%含有することが好ましい。
【0023】
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、前記結晶性ガラスを700~1000℃の熱処理に供することにより結晶化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スパッタ方式等で金属膜を被覆させずとも金属光沢を有し、優れた意匠性を有する結晶化ガラスを得ることが可能になる。また、スパッタ方式を用いないので、ムラや膜剥がれなどが生じにくい。更に、スパッタのために大型装置が必要ないため、製造コストや手間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例における試料No.4の結晶化ガラスの外観写真である。
図2】実施例における試料No.4の結晶化前の結晶性ガラスの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の結晶化ガラスは、第4族を除く第一遷移金属酸化物を含有する。本発明において、第4族、すなわちTiOを除く第一遷移金属酸化物(以降、第一遷移金属酸化物と称する)の含有量は、ベースガラスに対して、外掛けの質量%で、1超~10%であり、1.2~9%、1.4~8.5%、1.6~8%、1.8~7.5%、1.9~7%、2~6%、特に2.2~5%が好ましい。第一遷移金属酸化物の含有量が少なすぎると、結晶化ガラスの表面に金属光沢を発現させにくくなる。一方、第一遷移金属酸化物の含有量が多すぎると、結晶化ガラスの前駆体である結晶性ガラスが不均質になったり、ガラス化が困難になったりして、生産性が低下する虞がある。
【0027】
ところで、本発明の結晶化ガラスにおいて、第二~四遷移金属元素は表面の金属光沢に影響しにくいため、第4族を除く第二~四遷移金属酸化物(以降、第二~四遷移金属酸化物と称する)の含有量は限定されない。ただし、遷移金属元素はガラスを着色し易い成分であるため、ガラスの着色を低減する観点では、第二~四遷移金属酸化物の含有量を規制してもよい。その場合、第二~四遷移金属酸化物の含有量は、ベースガラスに対して、外掛けの質量%で、好ましくは0~10%であり、好ましくは0.1~8%、より好ましくは0.5~5%である。
【0028】
また、本発明に係る第一遷移金属酸化物は、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuOから選択される一種類以上であることが好ましい。またこの場合、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuOの含有量の合量は、好ましくは1超~10%であり、1.2~9%、1.4~8.5%、1.6~8%、1.8~7.5%、1.9~7%、2~6%、特に2.2%~5%が好ましい。このようにすると、更に本発明の効果を得やすい。
【0029】
また、本発明に係る第一遷移金属酸化物は、Fe、CoO、NiO、CuOから選択される一種類以上であることがより好ましい。これらを第一遷移金属酸化物として用いると、本発明の効果を得やすい。またこの場合、Fe、CoO、NiO、CuOの含有量の合量は、好ましくは1超~10%であり、1.2~9%、1.4~8.5%、1.6~8%、1.8~7.5%、1.9~7%、2~6%、特に2.2~5%が好ましい。このようにすると、特に本発明の効果を得やすい。
【0030】
また、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuOの各々の含有量は、好ましくは0~10%であり、0超~10%、0.1~9.6%、0.1超~9.4%、0.2~9%、0.5~8.6%、0.8~8.4%、1~7.8%、1.2~7.5%、1.4~7%、1.7~6.5%、1.8~6%、1.9~5.5%、特に2~5%が好ましい。なお、上記した第一遷移金属酸化物は、それぞれ単独で使用しても良いし、任意の割合で混合して使用してもよい。なお、環境負荷や毒性の観点からは、CoOの含有量は、好ましくは0.04%以下であり、0.035%以下、0.03%以下、0.02%以下、0.01%以下、特に含有しないことが好ましい。
【0031】
また、上記したように、遷移金属酸化物は、一般的に結晶化ガラスにおいて着色を強める成分であるが、Ndについては、ガラスの透明度を低下させる一方、着色を低減する効果を有する成分でもある。そのため、Ndの含有量としては、好ましくは0~0.2%、より好ましくは0~0.1%、特に実質的に含有しない(具体的には、100ppm以下)ことが好ましいが、透明感の高さよりも着色の少なさを優先させる場合には、例えばNdを500ppm程度添加しても構わない。
【0032】
また、本発明に係る遷移金属元素は、上記したとおり第4族を除いた、すなわち第3及び第5~11族の遷移金属元素のことを指すが、遷移金属元素は、好ましくは第5~11族、より好ましくは第6~11族、更に好ましくは第7~11族、特に好ましくは第8~11族である。このようにすれば、遷移金属元素がイオン化しやすくなるため、金属光沢を有する結晶化ガラスを得やすくできる。
【0033】
本発明の結晶化ガラスは、結晶化度が70%以上であり、より好ましくは72%以上、更に好ましくは73%以上、75%以上、77%以上、特に好ましくは79%以上である。結晶化度が低すぎると、結晶化ガラス中のガラスマトリックスに遷移金属イオンが濃縮しにくくなるため、結晶化ガラスの表面に金属光沢を発現させにくくなる。一方、結晶化度の上限は特に限定されず、100%であっても良いが、現実的には、99%以下、95%以下、90%以下、特に89%以下が好ましい。
【0034】
本発明の結晶化ガラスは、第一遷移金属酸化物を所定量含有し且つ結晶化度が70%以上のものであれば、ガラス組成を問わない。結晶化ガラスのガラス組成としては、例えば、アルミノシリケートガラスであることが好ましく、特にリチウムアルミノシリケートガラスであることが好ましい。
【0035】
本発明の結晶化ガラスは、結晶としてβクォーツ、βスポジュメンから選択される一種類以上を含むことが好ましく、特に、主結晶がβクォーツであることが好ましい。特に、主結晶がβクォーツの固溶体を含む結晶化ガラスは、透光性を有する。そのため、主結晶がβクォーツの固溶体を含む結晶性ガラスに第一遷移金属酸化物を所定量含有させると、金属光沢を有し且つガラスの透光性を併せ持つ意匠性の高いガラス物品を得ることができる。
【0036】
本発明の結晶化ガラスは、表面抵抗率(logρ)が、好ましくは8Ω・cm以下であり、より好ましくは7.5Ω・cm以下、更に好ましくは7Ω・cm以下である。このようにすると、電荷移動速度を大きくでき、導電性を向上させやすくできる。
【0037】
また、本発明の結晶化ガラスは、ガラス本体とその表面に形成された金属光沢層を有し、金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率と異なることが好ましい。また、金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率よりも低いことが好ましい。更に、金属光沢層の表面抵抗率が、ガラス本体の表面抵抗率に比べて、好ましくは0.5Ω・cm以上低く、より好ましくは1Ω・cm以上低く、更に好ましくは1.5Ω・cm以上低いことが好ましい。金属光沢層の表面抵抗率とガラス本体の表面抵抗率の差が大きいほど、膜抵抗器として用いた際に性能が高くなる。
【0038】
また、本発明の結晶化ガラスにおいて、金属光沢層の厚みは、好ましくは10~500μmであり、30~300μm、50~100μmである。金属光沢層の厚みが薄いほど、精密な部品を作製しやすい。一方、金属光沢層の厚みが厚いほど、膜抵抗器として用いた際に性能が安定しやすい。
【0039】
以下に、本発明の結晶化ガラスのベースガラスのガラス組成について詳述する。以下の説明において、特段の断りがない限り、「%」は質量%を示す。また、「含有する」という用語に関し、「0~」と規定された成分については、「0%」、すなわち、全く含まない場合もあり得ることを意味する。
【0040】
本発明の結晶化ガラスは、上述したとおりガラス組成を問わないが、例えば、質量%で、SiO 50~80%、Al 10~25%、LiO 0.1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~10%を含有することが好ましい。このようにすると、結晶化ガラスを容易に得ることができる。本発明の結晶化ガラスは、結晶化工程において、結晶化ガラス中のガラスマトリックスに遷移金属イオンが濃縮することで金属光沢が発現すると考えられる。そのため、前駆体である結晶性ガラスを容易に結晶化ガラスにできることが重要である。
【0041】
SiOはガラスの骨格成分であり、結晶化ガラス中の結晶を構成する成分である。SiOの含有量は、好ましくは50~80%であり、より好ましくは55~73%、更に好ましくは63~70%である。SiOの含有量が少なすぎると、結晶析出量が少なくなり、金属光沢を有する結晶化ガラスを得にくくなる。一方、多すぎるとガラスの溶融性が低下したり、成形が困難になったりする。
【0042】
Alはガラスの骨格成分であり、結晶化ガラス中の結晶を構成する成分でもある。Alの含有量は、好ましくは10~25%であり、より好ましくは17~24%、更に好ましくは18~22.5%である。Alの含有量が少なすぎると、結晶析出量が少なくなり、金属光沢を有する結晶化ガラスを得にくくなる。一方、多すぎるとガラスの溶融性が低下したり、成形が困難になったりする。
【0043】
LiOはガラスの結晶性に大きな影響を与える。LiOは、結晶化ガラスの結晶を構成する成分である。LiOの含有量は、好ましくは0.1~20%であり、より好ましくは2~10%、更に好ましくは3~5%である。LiOの含有量が少なすぎると結晶析出量が少なくなり、金属光沢を有する結晶化ガラスを得にくくなる。一方、多すぎると結晶性が過剰に強くなり、ガラスの成形が困難になりやすい。
【0044】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、LiOの替わりにβクォーツに固溶する成分である。また、ガラスの粘性を低下させて溶融性及び成形性を向上させる成分でもある。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量は、好ましくは0~10%であり、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~2%である。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量が多すぎると結晶性が過剰に強くなり失透する傾向にあり、ガラスの成形が困難になりやすい。また、ガラスが破損しやすくなる。なお、「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO」とは、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの含有量の合量を指す。
【0045】
また、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの各々の含有量は、好ましくは0~2%であり、より好ましくは0~1.5%、更に好ましくは0.1~1.2%である。MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの各々の含有量が多すぎると結晶性が過剰に強くなり失透する傾向にあり、ガラスの成形が困難になりやすい。また、ガラスが破損しやすくなる。
【0046】
また、上記成分以外にも、ベースガラスの成分として、TiO、ZrOを含有させることができる。
【0047】
TiOは結晶化工程で結晶を析出させるための核形成成分である。TiOの含有量は、好ましくは0.1~5%であり、より好ましくは0.1~4%、0.2~3.5%、0.5~3%、0.8~2.8%、1~2.6%、1超~2.5%、特に好ましくは1.2~2.3%である。TiOの含有量が多すぎると、ガラスが失透する傾向にあり、破損しやすくなる。一方、少なすぎると、結晶核が十分に形成されず、粗大な結晶が析出して破損するおそれがある。
【0048】
ZrOはTiOと同様に、結晶化工程で結晶を析出させるための結晶核を構成する成分である。ZrOの含有量は、好ましくは0.1~5%であり、より好ましくは0.1~4%、更に好ましくは0.5~3%である。ZrOの含有量が多すぎると、ガラスを溶融する際に失透する傾向にあり、ガラスの成形が困難になりやすい。一方、少なすぎると、結晶核が十分に形成されず、粗大な結晶が析出して破損するおそれがある。
【0049】
さらに、上記成分以外にも要求される特性を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。
【0050】
はガラスの分相を促進し、結晶核を形成しやすくする成分である。Pの含有量は、好ましくは0~5%であり、より好ましくは0~3%、更に好ましくは0.1~2%である。Pの含有量が多すぎると、溶融工程においてガラスが過剰に分相し、所望の組成を有するガラスが得にくくなるとともに、不透明となる傾向がある。
【0051】
NaOやKOはガラスの粘性を低下させて、ガラスの溶融及び成形性を向上させる成分である。NaOの含有量は、好ましくは0~3%であり、より好ましくは0~2%、更に好ましくは0.3~0.7%である。また、KOの含有量は、好ましくは0~3%であり、より好ましくは0~2%、更に好ましくは0.3~0.7%である。NaOやKOの含有量が多すぎると、ガラスが失透しやすくなる。
【0052】
はβ-スポジュメンの析出を抑制する効果がある成分である。また、ガラス溶融工程においてSiO原料の溶解を促進する効果もある。Bの含有量は、好ましくは0.05~1.5%であり、より好ましくは0.1~1%である。Bの含有量が少なすぎると、前述した効果が得にくくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、ガラスが白濁しやすくなり、透明感の高いガラスが得にくくなる。また、Bは結晶化により残存ガラス相に濃縮され、残存ガラス相の粘性を低下させる。そのため、結晶化ガラスを高温で使用した際に軟化変形しやすくなる。
【0053】
SnOはガラスを清澄し、均質なガラスを得るために有効な成分である。SnOの含有量は、好ましくは0.1~2%であり、より好ましくは0.1~1%、さらに好ましくは0.2~0.8%である。SnOの含有量が少なすぎると、清澄剤としての効果が得にくくなる。一方、SnOの含有量が多すぎると、結晶化ガラスが黄色味を帯びやすくなる。また、メカニズムの詳細は不明であるが、SnOはβ-スポジュメンの失透速度を上げる働きがあるため、添加量が多すぎると失透が生じやすくなる。
【0054】
また、清澄剤として、SOやClを必要に応じて単独で又は組み合わせて添加してもよい。これらの成分の合量は0.5%以下とすることが望ましい。なおSbも清澄成分であり、含有させることができるが、環境負荷が大きく含有しないことが好ましい。
【0055】
また、本発明においては、環境負荷が大きい酸化ヒ素、酸化鉛を実質的に含まないことが好ましい。なお、本発明において、「実質的に含まない」とは、意図的にガラスに添加しないという意味であり、不可避不純物まで完全に排除するものではない。より客観的には、不純物を含めた含有量が0.01%以下であるということを意味する。
【0056】
また、本発明の結晶性ガラスは、上記した結晶化ガラスの前駆体、すなわち結晶化前のガラスであることが好ましい。なお、結晶性ガラスのガラス組成等については、上記した結晶化ガラスと同じであり、具体的な好ましい範囲については、説明を割愛する。
【0057】
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、前記した結晶性ガラスを結晶化させることにより製造することができる。例えば、前述した結晶性ガラスを700~1000℃の熱処理に供することにより結晶化させることが好ましい。熱処理温度の下限を上記の通り規制すると、結晶化度が70%以上であり金属光沢を有する結晶化ガラスを得やすくなる。一方、熱処理温度の上限を上記の通り規制すると、βクォーツ及び/又はβスポジュメン結晶のみを析出させることができる。
【0058】
なお、結晶化方法の一例としては、成形した結晶性ガラスを、例えば600~800℃で1~5時間熱処理して結晶核を形成した後、更に700~1000℃で数分~数時間熱処理を行い、主結晶としてβクォーツ及び/又はβスポジュメン結晶を析出させる方法が挙げられる。
【0059】
本発明の結晶化ガラスは、内部(ガラス本体)において、CIE規格のL*a*b*表示のL*値が、4mm厚で、好ましくは45以上、50以上、55以上、特に60以上であることが好ましい。このようにすると外観が明るくなり、意匠性の高い結晶化ガラスを得ることができる。また、本発明の結晶化ガラスは、CIE規格のL*a*b*表示のb*値が、4mm厚で、好ましくは4.5以下、4以下、3以下、2以下、特に1.4以下であることが好ましい。このようにすると、黄色着色が少なくなり、意匠性に優れる。また、430nmの透過率が、4mm厚で、好ましくは7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、82.5%以上、特に83%以上であることが好ましい。このようにすると、結晶化ガラスが透光性を有するため、意匠性の高い結晶化ガラスを得ることができる。
【0060】
また、本発明の結晶化ガラスは、30~380℃の温度範囲での熱膨張係数が、好ましくは-2.5×10-7~2.5×10-7/℃であり、より好ましくは-1.5×10-7/℃~1.5×10-7/℃である。熱膨張係数が小さくなりすぎる又は大きくなりすぎると、破損のリスクが高くなりやすい。
【0061】
本発明の結晶化ガラスは、切断、研磨、曲げ加工、強化等の加工を施してもよい。但し、金属光沢面が必要な部分には研磨を行わないことが好ましい。また、金属光沢が損なわれる虞がある場合には、熱強化や化学強化等の強化処理を行わないことが好ましい。
【実施例
【0062】
以下、実施例に基づいて実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0063】
表1及び表2は、ベースガラスと、本発明の実施例(No.1~8)及び比較例(No.9~13)を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
各試料は次のようにして調整した。まず、表1に記載の組成となるように、ベースガラスバッチを作製した。更に、表2の割合になるように、外掛けの質量%で、表2に記載の遷移金属酸化物をベースガラスバッチに添加して、各バッチを作製した。次いで白金坩堝を用いて各バッチを1550~1650℃で20時間溶融し、カーボン板の上に5mm厚の2本のスペーサーを載置し、スペーサーの間に溶融ガラスを流し出すとともにローラーにて均一の厚みの板状に成形した。更に、板状試料を650~750℃に保持した電気炉に投入して、30分保持後に300℃まで約6時間かけて徐冷し、その後室温まで放冷して結晶性ガラスを作製した。
【0067】
その後、得られた結晶性ガラスを約30×30mmの板に切断し、研磨加工して鏡面研磨面を得た。
【0068】
次いで、約30×30mmの結晶性ガラスを電気炉で下記STEP通り熱処理することによって結晶化ガラスを得た。
STEP1: 室温から660~700℃の温度に昇温、20分~5時間保持
STEP2: 660~700℃から870~910℃に昇温、10分~2時間保持
STEP3: 870~910℃から室温まで約10時間かけて室温まで降温
【0069】
上記のようにして得た各試料について、外観観察、XRDにより、結晶化ガラス中の結晶の同定及び結晶化度の測定を行った。
【0070】
また、金属光沢層の有無は目視で判断し、金属光沢層の構成元素の同定はEDX(日立製S-3400N)で行った。
【0071】
更に、ガラスの表面抵抗率(Surface resistivity)は、JIS6911(1995)に従い、内部電極直径50mm、外部電極直径57.2mmの二重リング法で、印加電圧1000V、抵抗補正係数100、測定温度25℃、測定湿度35%の大気雰囲気下にて計測を行った。計測は5回行い、その算術平均値を採用した。また金属光沢層の抵抗を測定した後に表面から500~1000μm研磨して金属光沢層を完全に除去して結晶化ガラス本体を表面に露出させ、ガラス本体表面の表面抵抗率を測定した。なお、金属光沢層が形成されなかったガラスについては、研磨前のガラスの表面抵抗率と、研磨後のガラスの表面抵抗率をそれぞれ測定した。
【0072】
図1に、試料No.4の結晶化ガラスの外観写真を示し、図2に結晶化前の結晶性ガラスの外観写真を示す。図2より、結晶化前の結晶性ガラスは全体的に透光性を有していることが分かる。また、図1より、結晶化後の結晶化ガラス表面は金属光沢層を有していることが分かる。更に、図1の結晶化ガラスについて、金属光沢層を研磨除去して結晶化ガラス本体を確認したところ、ガラス本体は透光性を有していた。
【0073】
また、表2から明らかなように、実施例である試料No.1~8は結晶化ガラスの表面層に金属光沢を有していた。更に、試料No.2において、金属光沢層の表面抵抗率は、金属光沢層を除去した結晶化ガラス本体の表面抵抗率よりも低くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の結晶化ガラスは、光学部品のミラーや、意匠性に優れた調理器用のトッププレートとして使用可能である。また、本発明の結晶化ガラスの金属光沢層の表面抵抗率は、金属光沢層を除去した結晶化ガラス内部の表面抵抗率より低いことから、本発明の結晶化ガラスは、膜抵抗器としても利用可能である。
図1
図2