(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】波長変換部材及び発光デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240327BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20240327BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240327BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240327BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20240327BHJP
C03C 3/076 20060101ALI20240327BHJP
C03C 14/00 20060101ALI20240327BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/00 D
C09K11/80
H01L33/50
C03C3/062
C03C3/076
C03C14/00
C03C3/095
(21)【出願番号】P 2021504919
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008261
(87)【国際公開番号】W WO2020184216
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019042162
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
(72)【発明者】
【氏名】浅野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 直輝
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003454(WO,A1)
【文献】特開2001-089185(JP,A)
【文献】特開平06-056467(JP,A)
【文献】特開2019-020198(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159268(WO,A1)
【文献】特開2017-130707(JP,A)
【文献】特開2015-199640(JP,A)
【文献】特開2007-023267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/00
C09K 11/80
H01L 33/50
C03C 3/062
C03C 3/076
C03C 14/00
C03C 3/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長250~280nmの励起光を可視光に変換するために使用される波長変換部材であって、
ガラスマトリクスと前記ガラスマトリクス中に分散してなる蛍光体を含有し、
前記ガラスマトリクスが、モル%で、SiO
2
30~62.5%、B
2
O
3
1~7%、Al
2
O
3
1.5~10%、Li
2
O+Na
2
O+K
2
O 0~7%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~30%を含有することを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
波長250~280nmの励起光を可視光に変換するために使用される波長変換部材であって、
ガラスマトリクスと前記ガラスマトリクス中に分散してなる蛍光体を含有し、
前記ガラスマトリクスが、モル%で、SiO
2
30~70%、B
2
O
3
1~7%、Al
2
O
3
1.5~8%、Li
2
O+Na
2
O+K
2
O 0~7%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~30%を含有することを特徴とする波長変換部材。
【請求項3】
波長250~280nmにおける厚み1mmでの前記ガラスマトリクスの全光線透過率が0.1~
30%であることを特徴とする
請求項1または2に波長変換部材。
【請求項4】
前記ガラスマトリクスが、モル%で、CeO
2 0.001~10%を含有することを特徴とする請求項1
~3のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記蛍光体がガーネット系蛍光体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記蛍光体がLu
3Al
5O
12:Ceであることを特徴とする請求項5に記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記蛍光体の含有量が0.01~70体積%であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記ガラスマトリクスの原料であるガラス粉末と、前記蛍光体とを含有する焼結体からなることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の波長変換部材、及び、前記波長変換部材に波長250~280nmの励起光を照射する光源を備えることを特徴とする発光デバイス。
【請求項10】
前記波長変換部材から発せられる出射光のスペクトルにおいて、前記励起光に由来するピーク強度I
1、及び、前記蛍光体から発せられる蛍光に由来するピーク強度I
2が、0≦I
1/I
2≦0.2の関係を満たすことを特徴とする請求項9に記載の発光デバイス。
【請求項11】
I
1/I
2=0であることを特徴とする請求項10に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の光源の発する光の波長を別の波長に変換するための波長変換部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の発光デバイスとして、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLDを用いた発光デバイスに対する注目が高まってきている。そのような発光デバイスの一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された発光デバイスが開示されている。この発光デバイスは、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
LEDやLDを用いた発光デバイスとして、一般照明用途以外にもセンサー用途として使用される発光デバイスも提案されている。例えば、特許文献2には、紫外光及び/または可視光を発する発光素子と、該発光素子上に設けられた蛍光体層とを具備するメタンガスセンサー用光源が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-208815号公報
【文献】特開2013-170205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光とともに励起光が外部に漏出するとセンサーとしての機能に悪影響を及ぼす場合がある。特に紫外光は、その波長が小さい場合は特に人体も悪影響を及ぼしやすい。そのため、特許文献2に記載の発光デバイスでは、蛍光体層の表面に励起光を透過せず、蛍光のみを透過するフィルターを形成している。しかしながら、このようなフィルターを蛍光体層の表面に形成すると、製造工程が煩雑になりコストアップに繋がるという問題がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、紫外域の励起光が外部に漏出することを容易に抑制することができる波長変換部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波長変換部材は、波長250~280nmの励起光を可視光に変換するために使用される波長変換部材であって、ガラスマトリクスとガラスマトリクス中に分散してなる蛍光体を含有し、波長250~280nmにおける厚み1mmでのガラスマトリクスの全光線透過率が0.1~80%であることを特徴とする。波長変換部材におけるガラスマトリクスの全光線透過率を80%以下と低く限定することにより、波長変換されなかった紫外励起光が外部に漏出することを抑制できる。一方で、波長変換部材におけるガラスマトリクスの全光線透過率を0.1%以上に限定することで、紫外励起光がガラスマトリクスに過度に吸収されることを抑制し、所望の発光効率を達成することが可能となる。
【0008】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクスが、モル%で、SiO2 30~85%、B2O3 0~35%、Al2O3 0~25%、Li2O+Na2O+K2O 0~7%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~45%を含有することが好ましい。ガラスマトリクスの組成をこのように限定することにより、上述したような所望の全光線透過率を達成しやすくなる。なお、本明細書において、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0009】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクスが、モル%で、CeO2 0.001~10%を含有することが好ましい。このようにすれば、紫外励起光が波長変換部材の外部へ漏出することを抑制できる。
【0010】
本発明の波長変換部材は、波長250~280nmの励起光を可視光に変換するために使用される波長変換部材であって、ガラスマトリクスとガラスマトリクス中に分散してなる蛍光体を含有し、ガラスマトリクスが、モル%で、SiO2 30~85%、B2O3 0~35%、Al2O3 0~25%、Li2O+Na2O+K2O 0~7%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~45%を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の波長変換部材は、蛍光体がガーネット系蛍光体であることが好ましい。
【0012】
本発明の波長変換部材は、蛍光体がLu3Al5O12:Ceであることが好ましい。
【0013】
本発明の波長変換部材は、蛍光体の含有量が0.01~70体積%であることが好ましい。
【0014】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクスの原料であるガラス粉末と、蛍光体とを含有する焼結体からなることが好ましい。このようにすれば、蛍光体が均一に分散した波長変換部材を容易に作製することが可能となる。
【0015】
本発明の発光デバイスは、上記の波長変換部材、及び、波長変換部材に波長250~280nmの励起光を照射する光源を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の発光デバイスは、波長変換部材から発せられる出射光のスペクトルにおいて、励起光に由来するピーク強度I1、及び、蛍光体から発せられる蛍光に由来するピーク強度I2が、0≦I1/I2≦0.2の関係を満たすことが好ましい。このようにすれば、所望の発光強度を有するとともに、紫外励起光の外部への漏出が低減された発光デバイスとすることができる。
【0017】
本発明の発光デバイスは、I1/I2=0であることが好ましい。このようにすれば、紫外励起光の外部への漏出のない、安全性に優れた発光デバイスとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、紫外域の励起光が外部に漏出することを容易に抑制することができる波長変換部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る発光デバイスの模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の波長変換部材は、波長250~280nmの励起光を可視光に変換するために使用される波長変換部材であって、ガラスマトリクスとガラスマトリクス中に分散してなる蛍光体を含有するものである。
【0021】
波長250~280nmにおける厚み1mmでのガラスマトリクスの全光線透過率は0.1~80%であり、0.5~80%、0.6~50%、0.8~30%、1~20%、特に1.2~12%であることが好ましい。ガラスマトリクスの全光線透過率が低すぎると、励起光がガラスマトリクスに過度に吸収されるため、所望の発光効率を達成しにくくなる。一方、ガラスマトリクスの全光線透過率が高すぎると、波長変換されなかった紫外励起光が外部に漏出しやすくなる。
【0022】
ガラスマトリクスとしては、例えばモル%で、SiO2 30~85%、B2O3 0~35%、Al2O3 0~25%、Li2O+Na2O+K2O 0~7%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~45%を含有するものが挙げられる。このようにガラス組成を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。
【0023】
SiO2はガラスネットワークを形成する成分であり、紫外線透過率と耐失透性を向上させる効果を有する。また、耐候性や機械的強度を向上させる効果も有する。SiO2の含有量は30~85%、40~80%、50~75%、特に55~70%であることが好ましい。SiO2の含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、SiO2の含有量が多すぎると、焼結温度が高温になるため、波長変換部材製造時に蛍光体が劣化しやすくなる。また、焼成時におけるガラス粉末の流動性に劣り、焼成後のガラスマトリクス中に気泡が残存しやすくなる。さらに、紫外線透過率が高くなりすぎる恐れがある。
【0024】
B2O3は溶融温度を低下させて溶融性を著しく改善する成分である。また、B2O3は紫外線透過率をあまり低下させず、かつ、アルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分による紫外線吸収を抑制する効果がある。B2O3の含有量は0~35%、0~20%、1~15%、2~10%、3~8%、特に4~7%であることが好ましい。B2O3の含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。また、紫外線透過率が高くなりすぎる恐れがある。
【0025】
Al2O3は耐候性や機械的強度を向上させる成分である。またB2O3と同様に、アルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分による紫外線吸収を抑制する効果がある。Al2O3の含有量は0~25%、0.1~20%、1~10%、特に2~8%であることが好ましい。Al2O3の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。また、紫外線透過率が高くなりすぎる恐れがある。
【0026】
Li2O、Na2O及びK2Oは溶融温度を低下させて溶融性を改善するとともに、軟化点を低下させる成分である。しかしながら、これらの成分の含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなり、かつ、励起光の照射により発光強度が経時的に低下しやすくなる。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は0~7%、0~5%、0~3%、0~2%、特に0~1%であることが好ましく、含有しないことが最も好ましい。また、Li2O、Na2O及びK2Oの各成分の含有量は各々0~7%、0~5%、0~3%、0~2%、特に0~1%であることが好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0027】
なお後述するように、ガラス組成中にCeO2を含有させる場合は、Li2O、Na2OまたはK2Oを含有させても、励起光の照射による発光強度の経時的な低下を抑制することができる。よって、ガラス組成中にCeO2を含有させる場合は、Li2O、Na2OまたはK2Oを積極的に含有させてもかまわない。この場合、Li2O、Na2O及びK2Oの含有量(合量)は0.1~7%であることが好ましく、1~6.5%であることがより好ましく、2~6%であることがさらに好ましい。また、Li2O、Na2O及びK2Oの含有量は各々0~7%、0.1~5%、0.5~4%、特に1~3%であることがより好ましい。Li2O、Na2O及びK2Oは、2種以上、特に3種を混合して用いることが好ましい。具体的には、Li2O、Na2O及びK2Oをそれぞれ0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上含有することが好ましい。このようにすれば、混合アルカリ効果により、軟化点を効率良く低下させることが可能になる。また、各アルカリ酸化物の含有量を等量にすると、混合アルカリ効果が得られやすい。
【0028】
MgO、CaO、SrO及びBaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善し、軟化点を低下させる成分である。なお、これらの成分はアルカリ金属成分と異なり、波長変換部材における発光強度の経時的な低下に影響を与えない。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0~45%、1~45%、5~40%、10~35%、特に20~33%であることが好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少なすぎると、軟化点が低下しにくくなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの各成分の含有量は各々0~35%であり、0.1~33%、特に1~30%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、耐候性が低下する傾向がある。
【0029】
ZnOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量は0~15%、0~10%、0~5%、0.1~4.5%、特に1~4%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、耐候性が低下する傾向がある。また分相して透過率が低下し、結果として発光強度が低下する傾向がある。
【0030】
CeO2はガラスマトリクスの紫外線透過率を低下させる成分である。CeO2を含有させることにより、紫外励起光が波長変換部材の外部へ漏出することを抑制できる。また、CeO2はLi2O、Na2OまたはK2Oによる発光強度の経時的な低下を抑制する効果を有する。CeO2の含有量は0~10%、0.001~10%、0.001~5%、0.01~3%、0.05~1%、特に0.1~0.5%であることが好ましい。CeO2の含有量が多すぎると、ガラスマトリクスの可視光透過率が低下して、発光強度が低下する傾向がある。
【0031】
また、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で種々の成分を含有させることができる。例えば、P2O5、La2O3、Ta2O5、TeO2、TiO2、Nb2O5、Gd2O3、Y2O3、Sb2O3、SnO2、Bi2O3、As2O3及びZrO2等を各々15%以下、さらには10%以下、特に5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。またFを含有させることもできる。Fは軟化点を低減する効果があるため、着色中心形成の原因の1つであるアルカリ金属成分の代わりに含有させることにより、低軟化点を維持したまま、発光強度の経時的な低下を抑制することができる。Fの含有量はアニオン%で0~10%、0~8%、特に0.1~5%であることが好ましい。
【0032】
ガラスマトリクスの軟化点は600~1100℃、630~1050℃、特に650~1000℃であることが好ましい。ガラスマトリクスの軟化点が低すぎると、機械的強度及び耐候性が低下しやすくなる。一方、軟化点が高すぎると焼結温度も高くなるため、製造時の焼成工程において蛍光体が劣化しやすくなる。
【0033】
なお、ガラスマトリクスの原料であるガラス粉末の平均粒子径D50は100μm以下、50μm以下、20μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、得られる波長変換部材において、焼成後のガラスマトリクス中に気泡が残存しやすくなり、波長変換部材の光取出し効率が低下するおそれがある。ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、生産コストや取扱い性を考慮し、0.1μm以上、1μm以上、特に2μm以上であることが好ましい。なお本発明において、平均粒子径D50はレーザー回折法により測定した値を指す。
【0034】
蛍光体としては、波長250~280nmの励起光を照射した場合に可視域(例えば波長500~600nm)の蛍光を発するものであれば特に限定されず、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体等が挙げられる。なかでもガーネット蛍光体、特にLu3Al5O12:Ceや、サイアロン蛍光体、特にSi6-zAlzOzN8-z:Eu(0<z<4.2)(β-SiAlON:Eu)等であれば、波長250~280nmの励起光を効率よく可視域の蛍光に変換することができるため好ましい。
【0035】
波長変換部材の発光効率(lm/W)は、蛍光体の種類や含有量、さらには波長変換部材の厚み等によって変化する。蛍光体の含有量と波長変換部材の厚みは、発光効率や蛍光強度が最適になるように適宜調整すればよい。例えば、波長変換部材の厚みが小さい場合は、所望の発光効率や蛍光強度が得られるよう蛍光体の含有量を多くすればよい。ただし、蛍光体の含有量が多くなりすぎると、焼結しにくくなったり、気孔率が大きくなって、励起光が効率良く蛍光体に照射されにくくなったり、波長変換部材の機械的強度が低下する等の問題が生じるおそれがある。一方、蛍光体の含有量が少なすぎると、所望の蛍光強度を得ることが困難になる。このような観点から、本発明の波長変換部材における蛍光体の含有量は、0.01~70体積%であることが好ましく、0.05~50体積%であることがより好ましく、0.08~30体積%であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の波長変換部材は、例えばガラスマトリクスの原料であるガラス粉末と、蛍光体(蛍光体粉末)とを含有する焼結体からなる。ガラス粉末と蛍光体の混合粉末の焼成温度は、ガラス粉末の軟化点±150℃以内、特にガラス粉末の軟化点±100℃以内であることが好ましい。焼成温度が低すぎると、ガラス粉末が十分に流動せず、緻密な焼結体が得にくい。一方、焼成温度が高すぎると、蛍光体成分が熱劣化して発光強度が低下するおそれがある。
【0037】
焼成は減圧雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、焼成中の雰囲気は1.013×105Pa未満、1000Pa以下、特に400Pa以下であることが好ましい。それにより、波長変換部材中に残存する気泡の量を少なくすることができ、上述の理由から、発光強度を向上させることができる。なお、焼成工程全体を減圧雰囲気中で行ってもよいし、例えば焼成工程のみを減圧雰囲気中で行い、その前後の昇温工程や降温工程を、減圧雰囲気ではない雰囲気(例えば大気圧下)で行ってもよい。
【0038】
本発明の波長変換部材の形状は特に制限されず、例えば、板状、柱状、半球状、半球ドーム状等、それ自身が特定の形状を有する部材だけでなく、ガラス基板やセラミック基板等の基材表面に形成された被膜状の焼結体等も含まれる。
【0039】
なお、波長変換部材表面に反射防止膜や微細凹凸構造層が設けられていてもよい。このようにすれば、波長変換部材表面での光反射率が低減して、光取出し効率が改善し、発光強度を向上させることができる。
【0040】
反射防止膜としては酸化物、窒化物、フッ化物等からなる単層膜または多層膜(誘電体多層膜)が挙げられ、スパッタ法、蒸着法、コーティング法等により形成することができる。反射防止膜の光反射率は、波長380~780nmにおいて5%以下、4%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0041】
なお、蛍光体を含有する波長変換層と、蛍光体を含有しないガラス層との積層体であってもよい。このようにすれば、ガラス層が反射防止膜の役割を果たすため、光取出し効率を向上させることができる。ここで、ガラス層としては、ガラス粉末焼結体やバルク状ガラスを使用することができる。使用するガラスは波長変換層に使用するガラスと同一組成であることが好ましく、それにより波長変換層とガラス層との界面での光反射ロスを低減することができる。
【0042】
微細凹凸構造層としては、可視光の波長以下のサイズからなるモスアイ構造等が挙げられる。微細凹凸構造層の作製方法としては、ナノインプリント法やフォトリソグラフィ法が挙げられる。あるいは、サンドブラスト、エッチング、研磨等により波長変換部材表面を粗面化することにより微細凹凸構造層を形成することもできる。凹凸構造層の表面粗さRaは0.001~0.3μm、0.003~0.2μm、特に0.005~0.15μmであることが好ましい。表面粗さRaが小さすぎると、所望の反射防止効果が得られにくくなる。一方、表面粗さRaが大きすぎると、光散乱が大きくなって、発光強度が低下しやすくなる。
【0043】
図1に、本発明の発光デバイスの実施形態の一例を示す。
図1に示すように、発光デバイス1は波長変換部材2及び光源3を備えてなる。光源3は、波長変換部材2に対して励起光L1を照射する。波長変換部材2に入射した波長250~280nmの励起光L1は、可視域の蛍光L2に変換され、光源3とは反対側から出射する。
【0044】
ここで励起光L1に由来するピーク強度I1、及び、蛍光L2に由来するピーク強度I2が、0≦I1/I2≦0.2の関係を満たすことが好ましい。このようにすれば、所望の発光強度を有するとともに、紫外励起光の外部への漏出が低減された発光デバイスとすることができる。紫外励起光の外部への漏出を抑制する観点からは、I1/I2の値は0.15以下、特に0.1以下であることが好ましく、0であることが最も好ましい。なお、蛍光L2の発光強度を最大化する観点からは、励起光L1の一部が波長変換せずにそのまま波長変換部材2を透過したほうが好ましい。具体的には、I1/I2の値は0超~0.1、特に0.01~0.05であることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
表1及び2は、本発明の実施例(No.1~9、11、12)及び比較例(No.10)を示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表に記載のガラス組成となるように原料を調合し、白金坩堝を用いて1200~1700℃で1~2時間溶融してガラス化した。溶融ガラスを一対の冷却ローラー間に流し出すことによりフィルム状に成形した。得られたフィルム状ガラス成形体をボールミルで粉砕した後、分級して平均粒子径D50が2.5μmのガラス粉末を得た。
【0050】
ガラスの軟化点はファイバーエロンゲーション法を用い、粘度が107.6dPa・sとなる温度を採用した。
【0051】
ガラスの全光線透過率は、溶融ガラスを成形して厚さ1mmの試料を作製し、JIS K7105に準拠した方法で測定した。
【0052】
得られたガラス粉末に対し、Lu3Al5O12:Ce蛍光体粉末(蛍光ピーク波長560nm)を混合して、ガラスの軟化点+50℃の温度で焼成することにより焼結体を得た。なお、蛍光体粉末は波長変換部材における含有量が10体積%となるように混合した。焼結体に加工を施すことにより厚さ1mmの波長変換部材を得た。
【0053】
波長変換部材に対して水銀ランプ(波長254nm)を照射し、波長変換部材の出射面側から発せられる光のエネルギー分布スペクトルを、汎用の発光スペクトル測定装置を用いて測定した。得られたスペクトルから、励起光ピーク強度I1と蛍光ピーク強度I2の比I1/I2を求めた。結果を表1及び2に示す。
【0054】
表1及び2に示すように、実施例であるNo.1~9、11、12では、I1/I2の値が0~0.18となり、紫外線の外部への漏出が抑制できていた。一方、比較例であるNo.10ではI1/I2の値が0.25となり、紫外線の外部への漏出が大きかった。
【符号の説明】
【0055】
1 発光デバイス
2 波長変換部材
3 光源