(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】結晶膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20240327BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240327BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20240327BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240327BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/18
C23C16/448
C23C16/40
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2022202780
(22)【出願日】2022-12-20
(62)【分割の表示】P 2018154237の分割
【原出願日】2018-08-20
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2017158307
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム α型酸化ガリウム高品質自立基板の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(72)【発明者】
【氏名】大島 祐一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】嘉数 誠
(72)【発明者】
【氏名】河原 克明
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 時宜
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100593(JP,A)
【文献】特開2016-155714(JP,A)
【文献】特開2016-157878(JP,A)
【文献】特開2016-175807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0073164(US,A1)
【文献】特開2016-166129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0069075(US,A1)
【文献】特開2013-049621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0148212(US,A1)
【文献】特開2006-225180(JP,A)
【文献】特開2016-036046(JP,A)
【文献】特開2016-013934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 25/18
C23C 16/448
C23C 16/40
H01L 21/205
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面にバッファ層をミストCVD法により形成する工程と、
前記バッファ層を有する基板上に、
主成分として酸化ガリウムを含む
結晶膜をHVPE法により形成する工程と、を備え
、
前記結晶膜をHVPE法により形成する工程において、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記反応性ガスの流通下で前記結晶膜の成膜を行い、
前記反応性ガスがエッチングガスである結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記バッファ層が、ガリウムを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記バッファ層が、前記結晶膜の結晶構造と同じ結晶構造を含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記バッファ層および前記結晶膜の格子定数差が20%以内である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応性ガスがハロゲン原子および/または水素原子を含む請求項
1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応性ガスがハロゲンガス、ハロゲン化水素ガスおよび/または水素ガスを含む請求項
1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応性ガスがハロゲン化水素ガスを含む請求項
1から
6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記基板がPSS基板である請求項1~
7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記基板が加熱されている請求項1~
8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
成膜温度が400℃~700℃である請求項1~
9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記結晶膜をHVPE法により形成する工程において、ガリウムを含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の前記基板上に供給する請求項1~
10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記のガス化を、金属源をハロゲン化することにより行う請求項
11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記酸素含有原料ガスが、O
2、H
2OおよびN
2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスである請求項
11または
12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記基板がコランダム構造を含み、前記結晶膜がコランダム構造を有する結晶成長膜である請求項1~
13のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造等に有用な結晶膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga2O3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。また、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての幅広い応用も期待されている。特に、酸化ガリウムの中でもコランダム構造を有するα―Ga2O3等は、非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInXAlYGaZO3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し(特許文献9等)、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
しかしながら、酸化ガリウムは、最安定相がβガリア構造であるので、特殊な成膜法を用いなければ、準安定相であるコランダム構造の結晶膜を成膜することが困難である。また、コランダム構造の結晶膜に限らず、成膜レートや結晶品質の向上、クラックや異常成長の抑制、ツイン抑制、反りによる基板の割れ等においてもまだまだ課題が数多く存在している。このような状況下、現在、コランダム構造を有する結晶性半導体の成膜について、いくつか検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、ガリウム又はインジウムの臭化物又はヨウ化物を用いて、ミストCVD法により、酸化物結晶薄膜を製造する方法が記載されている。特許文献2~4には、コランダム型結晶構造を有する下地基板上に、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とが積層された多層構造体が記載されている。また、特許文献5~7のように、ELO基板やボイド形成を用いて、ミストCVDによる成膜も検討されている。しかしながら、いずれの方法も成膜レートにおいてまだまだ満足のいくものではなく、成膜レートに優れた成膜方法が待ち望まれていた。
特許文献8には、少なくとも、ガリウム原料と酸素原料とを用いて、HVPE法により、コランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜することが記載されている。しかしながら、α―Ga2O3は準安定相であるので、β―Ga2O3のように成膜することが困難であり、工業的にはまだまだ多くの課題があった。
なお、特許文献1~8はいずれも本出願人らによる特許または特許出願に関する公報であり、現在も検討が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5397794号
【文献】特許第5343224号
【文献】特許第5397795号
【文献】特開2014-72533号公報
【文献】特開2016-100592号公報
【文献】特開2016-98166号公報
【文献】特開2016-100593号公報
【文献】特開2016-155714号公報
【文献】国際公開第2014/050793号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高品質な結晶膜を工業的有利に得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の加熱された基板上に供給して成膜する結晶膜の製造方法において、前記基板として、表面にバッファ層を有している基板を用いて、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うと、驚くべきことに、準安定相の結晶膜であっても、高い成膜レートを維持しつつ、クラック等が生じることなく、高品質な結晶性金属酸化膜を結晶成長することができることを知見し、このような方法によれば、上記した従来の問題を一挙に解決できることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の基板上に供給することにより金属酸化物の結晶膜を成膜する結晶膜の製造方法であって、前記基板が、表面にバッファ層を有しており、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うことを特徴とする結晶膜の製造方法。
[2] 前記バッファ層がミストCVD法により形成されている前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記バッファ層が、前記金属源の金属を含む前記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記バッファ層が、前記結晶膜の結晶構造と同じ結晶構造を含む前記[1]
~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記バッファ層および前記結晶膜の格子定数差が20%以内である前記[4]記載の製造方法。
[6] 前記反応性ガスがエッチングガスである前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記反応性ガスがハロゲン化水素、ハロゲンおよび水素からなる群から選ばれる1種または2種以上を含む前記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 前記反応性ガスがハロゲン化水素を含む前記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記基板がPSS基板である前記[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 前記基板が加熱されている前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 成膜温度が400℃~700℃である前記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 前記金属源がガリウム源であり、前記金属含有原料ガスが、ガリウム含有原料ガスである前記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 前記のガス化を、金属源をハロゲン化することにより行う前記[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] 前記酸素含有原料ガスが、O2、H2OおよびN2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスである前記[1]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15] 前記基板がコランダム構造を含み、前記結晶膜がコランダム構造を有する結晶成長膜である前記[1]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高品質な結晶膜を工業的有利に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明において好適に用いられるハライド気相成長(HVPE)装置を説明する図である。
【
図2】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図3】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の表面を模式的に示す図である。
【
図4】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図5】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の表面を模式的に示す図である。
【
図6】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。(a)は凹凸部の模式的斜視図であり、(b)は凹凸部の模式的表面図である。
【
図7】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。(a)は凹凸部の模式的斜視図であり、(b)は凹凸部の模式的表面図である。
【
図8】実施例で用いたミストCVD装置を説明する図である。
【
図9】実施例におけるφスキャンXRD測定結果を示す図である。
【
図10】実施例におけるSEM観察結果(鳥瞰図と断面図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の基板上に供給して成膜する際に、前記基板として、表面にバッファ層を有している基板を用いて、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うことを特長とする。
【0014】
(金属源)
前記金属源は、金属を含んでおり、ガス化が可能なものであれば、特に限定されず、金属単体であってもよいし、金属化合物であってもよい。前記金属としては、例えば、ガリウム、アルミニウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明においては、前記金属が、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる1種または2種以上の金属であるのが好ましく、ガリウムであるのがより好ましく、前記金属源が、ガリウム単体であるのが最も好ましい。また、前記金属源は、気体であってもよいし、液体であってもよいし、固体であってもよいが、本発明においては、例えば、前記金属としてガリウムを用いる場合には、前記金属源が液体であるのが好ましい。
【0015】
前記ガス化の手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の手段であってよい。本発明においては、前記ガス化の手段が、前記金属源をハロゲン化することにより行われるのが好ましい。前記ハロゲン化に用いるハロゲン化剤は、前記金属源をハロゲン化できさえすれば、特に限定されず、公知のハロゲン化剤であってよい。前記ハロゲン化剤としては、例えば、ハロゲンまたはハロゲン化水素等が挙げられる。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素等が挙げられる。また、前記ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。本発明においては、前記ハロゲン化に、ハロゲン化水素を用いるのが好ましく、塩化水素を用いるのがより好ましい。本発明においては、前記ガス化を、前記金属源に、ハロゲン化剤として、ハロゲンまたはハロゲン化水素を供給して、前記金属源とハロゲンまたはハロゲン化水素とをハロゲン化金属の気化温度以上で反応させてハロゲン化金属とすることにより行うのが好ましい。前記ハロゲン化反応温度は、特に限定されないが、本発明においては、例えば、前記金属源がガリウムであり、前記ハロゲン化剤が、HClである場合には、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。前記金属含有原料ガスは、前記金属源の金属を含むガスであれば、特に限定されない。前記金属含有原料ガスとしては、例えば、前記金属のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物など)等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとした後、前記金属含有原料ガスと、前記酸素含有原料ガスとを、前記反応室内の基板上に供給する。また、本発明においては、反応性ガスを前記基板上に供給する。前記酸素含有原料ガスとしては、例えば、O2ガス、CO2ガス、NOガス、N2Oガス、H2OガスまたはO3ガスから選ばれる1種または2種以上のガスである。本発明においては、前記酸素含有原料ガスが、O2、H2OおよびN2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスであるのが好ましく、O2を含むのがより好ましい。前記反応性ガスは、通常、金属含有原料ガスおよび酸素含有原料ガスとは異なる反応性のガスであり、不活性ガスは含まれない。前記反応性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、エッチングガス等が挙げられる。前記エッチングガスは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のエッチングガスであってよい。本発明においては、前記反応性ガスが、ハロゲンガス(例えば、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガスまたはヨウ素ガス等)、ハロゲン化水素ガス(例えば、フッ酸ガス、塩酸ガス、臭化水素ガス、ヨウ化水素ガス等)、水素ガスまたはこれら2種以上の混合ガス等であるのが好ましく、ハロゲン化水素ガスを含むのが好ましく、塩化水素を含むのが最も好ましい。なお、前記金属含有原料ガス、前記酸素含有原料ガスまたは前記反応性ガスは、キャリアガスを含んでいてもよい。前記キャリアガスとしては、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス等が挙げられる。また、前記金属含有原料ガスの分圧は特に限定されないが、本発明においては、0.5Pa~1kPaであるのが好ましく、5Pa~0.5kPaであるのがより好ましい。前記酸素含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明においては、前記金属含有原料ガスの分圧の0.5倍~100倍であるのが好ましく、1倍~20倍であるのがより好ましい。前記反応性ガスの分圧も、特に限定されないが、本発明においては、前記金属含有原料ガスの分圧の0.1倍~5倍であるのが好ましく、0.2倍~3倍であるのがより好ましい。
【0017】
本発明においては、さらに、ドーパント含有ガスを前記基板に供給するのも好ましい。前記ドーパント含有ガスは、ドーパントを含んでいれば、特に限定されない。前記ドーパントも、特に限定されないが、本発明においては、前記ドーパントが、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブおよびスズから選ばれる1種または2種以上の元素を含むのが好ましく、ゲルマニウム、ケイ素、またはスズを含むのがより好ましく、ゲルマニウムを含むのが最も好ましい。このようにドーパント含有ガスを用いることにより、得られる膜の導電率を容易に制御することができる。前記ドーパント含有ガスは、前記ドーパントを化合物(例えば、ハロゲン化物、酸化物等)の形態で有するのが好ましく、ハロゲン化物の形態で有するのがより好ましい。前記ドーパント含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明においては、前記金属含有原料ガスの分圧の1×10-7倍~0.1倍であるのが好ましく、2.5×10-6倍~7.5×10-2倍であるのがより好ましい。なお、本発明においては、前記ドーパント含有ガスを、前記反応性ガスとともに前記基板上に供給するのが好ましい。
【0018】
(基板)
前記基板は、板状であって、表面にバッファ層を有しており、前記結晶膜を支持することができるものであれば、特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。本発明においては、前記基板が、結晶基板であるのが好ましい。
【0019】
(結晶基板)
前記結晶基板は、結晶物を主成分として含む基板であれば特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。単結晶基板であってもよいし、多結晶基板であってもよい。前記結晶基板としては、例えば、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板、またはβ-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板、六方晶構造を有する基板などが挙げられる。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。
【0020】
前記コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板などが挙げられる。前記β-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、β-Ga2O3基板、またはβ-Ga2O3とAl2O3とを含む混晶体基板などが挙げられる。なお、β-Ga2O3とAl2O3とを含む混晶体基板としては、例えば、Al2O3が原子比で0%より多くかつ60%以下含まれる混晶体基板などが好適な例として挙げられる。また、前記六方晶構造を有する基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板などが挙げられる。その他の結晶基板の例示としては、例えば、Si基板などが挙げられる。
【0021】
本発明においては、前記結晶基板が、サファイア基板であるのが好ましい。前記サファイア基板としては、例えば、c面サファイア基板、m面サファイア基板、a面サファイア基板などが挙げられる。本発明においては、前記結晶基板がm面サファイア基板であることが好ましく、m面サファイア基板を用いる場合には、前記酸素含有原料ガスの流量を多く設定することが好ましく、より具体的には例えば、前記酸素含有原料ガスの流量を50sccm以上に設定するのが好ましく、80sccm以上とするのがより好ましく、100sccm以上とするのが最も好ましい。また、前記サファイア基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°~15°である。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。
【0022】
また、本発明においては、前記基板が、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されているのも、より効率的に、より高品質な前記結晶膜を得ることができるため、好ましい。前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。
【0023】
前記凸部の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってよい。絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよい。また、前記構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または炭化物、カーボン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO2、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性酸化物半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。なお、前記構成材料の含有量は、凸部中、組成比で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0024】
前記凸部の形成手段としては、公知の手段であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。本発明においては、前記凸部がストライプ状またはドット状であるのが好ましく、ドット状であるのがより好ましい。また、本発明においては、前記結晶基板が、PSS(Patterned Sapphire Substrate)基板であるのも好ましい。前記PSS基板のパターン形状は、特に限定されず、公知のパターン形状であってよい。前記パターン形状としては、例えば、円錐形、釣鐘形、ドーム形、半球形、正方形または三角形のピラミッド形等が挙げられるが、本発明においては、前記パターン形状が、円錐形であるのが好ましい。また、前記パターン形状のピッチ間隔も、特に限定されないが、本発明においては、5μm以下であるのが好ましく、1μm~3μmであるのがより好ましい。
【0025】
前記凹部は、特に限定されないが、上記凸部の構成材料と同様のものであってよいし、基板であってもよい。本発明においては、前記凹部が基板の表面上に設けられた空隙層であるのが好ましい。前記凹部の形成手段としては、前記の凸部の形成手段と同様の手段を用いることができる。前記空隙層は、公知の溝加工手段により、基板に溝を設けることで、前記基板の表面上に形成することができる。空隙層の溝幅、溝深さ、テラス幅等は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、適宜に設定することができる。また、空隙層には、空気が含まれていてもよいし、不活性ガス等が含まれていてもよい。
【0026】
以下、本発明の基板の好ましい態様を、図面を用いて説明する。
図2は、本発明における基板の表面上に設けられたドット状の凹凸部の一態様を示す。
図2の凹凸部は、基板本体1と、基板の表面1aに設けられた複数の凸部2aとから形成されている。
図3は、天頂方向から見た
図2に示す凹凸部の表面を示している。
図2および
図3からわかるように、前記凹凸部は、基板の表面1aの三角格子上に、円錐状の凸部2aが形成された構成となっている。前記凸部2aは、フォトリソグラフィー等の公知の加工手段により形成することができる。なお、前記三角格子の格子点は、それぞれ一定の周期aの間隔ごとに設けられている。周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましく、1μm~3μmであるのが最も好ましい。ここで、周期aは、隣接する凸部2aにおける高さのピーク位置(すなわち格子点)間の距離をいう。
【0027】
図4は、本発明における基板の表面上に設けられたドット状の凹凸部の一態様を示し、
図2とは別の態様を示している。
図4の凹凸部は、基板本体1と、基板の表面1a上に設けられた凸部2aとから形成されている。
図5は、天頂方向から見た
図4に示す凹凸部の表面を示している。
図4および
図5からわかるように、前記凹凸部は、基板の表面1aの三角格子上に、三角錐状の凸部2aが形成された構成となっている。前記凸部2aは、フォトリソグラフィー等の公知の加工手段により形成することができる。なお、前記三角格子の格子点は、それぞれ一定の周期aの間隔ごとに設けられている。周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましく、1μm~3μmであるのが最も好ましい。
【0028】
図6(a)は、本発明における基板の表面上に設けられた凹凸部の一態様を示し、
図6(b)は、
図6(a)に示す凹凸部の表面を模式的に示している。
図6の凹凸部は、基板本体1と、基板の表面1a上に設けられた三角形のパターン形状を有する凸部2aとから形成されている。なお、凸部2aは、前記基板の材料またはSiO
2等のシリコン含有化合物からなり、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いて形成することができる。なお、前記三角形のパターン形状の交点間の周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましい。
【0029】
図7(a)は、
図6(a)と同様、本発明における基板の表面上に設けられた凹凸部の一態様を示し、
図7(b)は、
図7(a)に示す凹凸部の表面を模式的に示している。
図7(a)の凹凸部は、基板本体1と三角形のパターン形状を有する空隙層とから形成されている。なお、凹部2bは、例えばレーザーダイシング等の公知の溝加工手段により形成することができる。なお、前記三角形のパターン形状の交点間の周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましい。
【0030】
凹凸部の凸部の幅および高さ、凹部の幅および深さ、間隔などが特に限定されないが、本発明においては、それぞれが例えば約10nm~約1mmの範囲内であり、好ましくは約10nm~約300μmであり、より好ましくは約10nm~約1μmであり、最も好ましくは約100nm~約1μmである。
【0031】
前記バッファ層は、特に限定されないが、本発明においては、金属酸化物を主成分として含んでいるのが好ましい。前記金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。本発明においては、前記金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、少なくともガリウムを含んでいるのが最も好ましい。また、本発明においては、前記バッファ層が、前記金属源の金属を含むのが好ましい。なお、本発明において、「主成分」とは、前記金属酸化物が、原子比で、前記バッファ層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記結晶性酸化物半導体の結晶構造は、特に限定されないが、本発明においては、コランダム構造またはβガリア構造であるのが好ましく、コランダム構造であるのがより好ましい。また、本発明においては、前記バッファ層が、前記結晶膜の結晶構造と同じ結晶構造を含むのが好ましく、前記バッファ層および前記結晶膜の格子定数差が20%以内であるのがより好ましい。
【0032】
前記バッファ層の形成手段は、特に限定されず、公知の手段であってよい。前記形成手段としては、例えば、スプレー法、ミストCVD法、HVPE法、MBE法、MOCVD法、スパッタリング法等が挙げられる。本発明においては、前記バッファ層が、ミストCVD法により形成されているのが、前記バッファ層上に形成される前記結晶膜の膜質をより優れたものとでき、特に、チルト等の結晶欠陥を抑制できるため、好ましい。以下、前記バッファ層をミストCVD法により形成する好適な態様を、より詳細に説明する。
【0033】
前記バッファ層は、好適には、例えば、原料溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴をキャリアガスを用いて前記基板まで搬送し(搬送工程)、ついで、前記基板の表面の一部または全部で、前記ミストまたは前記液滴を熱反応させる(バッファ層形成工程)ことにより形成することができる。
【0034】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程は、前記原料溶液を霧化または液滴化する。前記原料溶液の霧化手段または液滴化手段は、前記原料溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段または液滴化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0035】
(原料溶液)
前記原料溶液は、ミストCVDにより、前記バッファ層が得られる溶液であれば特に限定されない。前記原料溶液としては、例えば、霧化用金属の有機金属錯体(例えばアセチルアセトナート錯体等)やハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物等)の水溶液などが挙げられる。前記霧化用金属は、特に限定されず、このような霧化用金属としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明においては、前記霧化用金属が、ガリウム、インジウムまたはアルミニウムを少なくとも含むのが好ましく、ガリウムを少なくとも含むのがより好ましい。原料溶液中の霧化用金属の含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは、0.001モル%~50モル%であり、より好ましくは0.01モル%~50モル%である。
【0036】
また、原料溶液には、ドーパントが含まれているのも好ましい。原料溶液にドーパントを含ませることにより、イオン注入等を行わずに、結晶構造を壊すことなく、バッファ層の導電性を容易に制御することができる。本発明においては、前記ドーパントがスズ、ゲルマニウム、またはケイ素であるのが好ましく、スズ、またはゲルマニウムであるのがより好ましく、スズであるのが最も好ましい。前記ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm3以下の低濃度にしてもよいし、ドーパントを約1×1020/cm3以上の高濃度で含有させてもよい。本発明においては、ドーパントの濃度が1×1020/cm3以下であるのが好ましく、5×1019/cm3以下であるのがより好ましい。
【0037】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。
【0038】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記ミストまたは前記液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0039】
(バッファ層形成工程)
バッファ層形成工程では、成膜室内で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、基板上に、前記バッファ層を形成する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、400℃~650℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、バッファ層の厚みは、形成時間を調整することにより、設定することができる。
【0040】
上記のようにして、前記基板上の表面の一部または全部に、バッファ層を形成した後、該バッファ層上に、上記した本発明の成膜方法により、前記結晶膜を成膜することにより、前記結晶膜におけるチルト等の欠陥をより低減することができ、膜質をより優れたものとすることができる。
【0041】
本発明においては、表面に前記バッファ層を有している前記基板上に金属含有原料ガス、酸素含有原料ガス、反応性ガスおよび所望によりドーパント含有ガスを供給し、反応性ガスの流通下で成膜する。本発明においては、前記成膜が、加熱されている基板上で行われるのが好ましい。前記成膜温度は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。また、前記成膜は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非真空下、還元ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下および酸化ガス雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、常圧下、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、常圧下または大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0042】
前記結晶膜は、通常、結晶性金属酸化物を主成分として含む。前記結晶性金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。本発明においては、前記結晶性金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、ガリウムまたはその混晶であるのが最も好ましい。なお、本発明において、「主成分」とは、前記結晶性金属酸化物が、原子比で、前記結晶膜の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記結晶性金属酸化物の結晶構造は、特に限定されないが、本発明においては、コランダム構造またはβガリア構造であるのが好ましく、コランダム構造であるのがより好ましく、前記結晶膜が、コランダム構造を有する結晶成長膜であるのが最も好ましい。本発明においては、前記基板として、コランダム構造を含む基板を用いて、前記成膜を行うことにより、コランダム構造を有する結晶成長膜を得ることができる。前記結晶性金属酸化物は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよいが、本発明においては、単結晶であるのが好ましい。また、前記結晶膜の膜厚は、特に限定されないが、3μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましく、20μm以上であるのが最も好ましい。
【0043】
本発明の製造方法によって得られた結晶膜は、特に、半導体装置に好適に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。前記結晶膜を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体‐金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本発明においては、前記結晶膜をそのまま半導体装置等に用いてもよいし、前記基板等から剥離する等の公知の手段を用いた後に、半導体装置等に適用してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
1.バッファ層の形成
1-1.ミストCVD装置
図8を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板等の被成膜試料20を載置する試料台21と、キャリアガスを供給するキャリアガス源22aと、キャリアガス源22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給源22bと、キャリアガス源(希釈)22bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる成膜室27と、成膜室27の周辺部に設置されたヒータ28を備えている。試料台21は、石英からなり、被成膜試料20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより、被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0046】
1-2.原料溶液の作製
臭化ガリウムと臭化スズとを超純水に混合し、ガリウムに対するスズの原子比が1:0.08およびガリウム0.1mol/Lとなるように水溶液を調整し、この際、さらに臭化水素酸を体積比で20%となるように含有させ、これを原料溶液とした。
【0047】
1-3.成膜準備
上記1-2.で得られた原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、被成膜試料20として、基板表面の三角格子状に三角錐状の凸部が周期1μmでパターン形成されたPSS(Patterned Sapphire Substrate)基板(c面、オフ角0.2°)を試料台21上に設置させ、ヒータ28を作動させて成膜室27内の温度を460℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23aおよび23bを開いてキャリアガス源22aおよびキャリアガス(希釈)源22bからキャリアガスを成膜室27内に供給し、成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を2.0L/min、キャリアガス(希釈)の流量を0.1L/minにそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0048】
1-4.成膜
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを微粒子化させて原料微粒子を生成した。この原料微粒子が、キャリアガスによって成膜室27内に導入され、460℃にて、成膜室27内で反応して、被成膜試料20上にバッファ層を形成した。なお、成膜時間は5分であった。
【0049】
2.結晶膜の形成
2-1.HVPE装置
図1を用いて、本実施例で用いたハライド気相成長(HVPE)装置50を説明する。HVPE装置50は、反応室51と、金属源57を加熱するヒータ52aおよび基板ホルダ56に固定されている基板を加熱するヒータ52bとを備え、さらに、反応室51内に、酸素含有原料ガス供給管55bと、反応性ガス供給管54bと、基板を設置する基板ホルダ56とを備えている。そして、反応性ガス供給管54b内には、金属含有原料ガス供給管53bが備えられており、二重管構造を形成している。なお、酸素含有原料ガス供給管55bは、酸素含有原料ガス供給源55aと接続されており、酸素含有原料ガス供給源55aから酸素含有原料ガス供給管55bを介して、酸素含有原料ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給可能なように、酸素含有原料ガスの流路を構成している。また、反応性ガス供給管54bは、反応性ガス供給源54aと接続されており、反応性ガス供給源54aから反応性ガス供給管54bを介して、反応性ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給可能なように、反応性ガスの流路を構成している。金属含有原料ガス供給管53bは、ハロゲン含有原料ガス供給源53aと接続されており、ハロゲン含有原料ガスが金属源に供給されて金属含有原料ガスとなり金属含有原料ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給される。反応室51には、使用済みのガスを排気するガス排出部59が設けられており、さらに、反応室51の内壁には、反応物が析出するのを防ぐ保護シート58が備え付けられている。
【0050】
2-2.成膜準備
金属含有原料ガス供給管53b内部にガリウム(Ga)金属源57(純度99.99999%以上)を配置し、反応室51内の基板ホルダ56上に、基板として、上記1で得られたバッファ層付きのPSS基板を設置した。その後、ヒータ52aおよび52bを作動させて反応室51内の温度を510℃にまで昇温させた。
【0051】
3.成膜
金属含有原料ガス供給管53b内部に配置したガリウム(Ga)金属57に、ハロゲン含有原料ガス供給源53aから、塩化水素(HCl)ガス(純度99.999%以上)を供給した。Ga金属と塩化水素(HCl)ガスとの化学反応によって、塩化ガリウム(GaCl/GaCl3)を生成した。得られた塩化ガリウム(GaCl/GaCl3)と、酸素含有原料ガス供給源55aから供給されるO2ガス(純度99.99995%以上)とを、それぞれ金属含有原料供給管53bおよび酸素含有原料ガス供給管55bを通して前記基板上まで供給した。その際、反応性ガス供給源54aから、塩化水素(HCl)ガス(純度99.999%以上)を、反応性ガス供給管54bを通して、前記基板上に供給した。そして、前記反応性ガスまたはHClガスの流通下で、塩化ガリウム(GaCl/GaCl3)およびO2ガスを基板上で大気圧下、510℃にて反応させて、基板上に成膜した。なお、成膜時間は25分であった。ここで、ハロゲン含有原料ガス供給源53aから供給されるHClガスの流量を10sccm、反応性ガス供給源54aから供給されるHClガスの流量を5.0sccm、酸素含有原料ガス供給源55aから供給されるO2ガスの流量を20sccmに、それぞれ維持した。
【0052】
4.評価
上記3.にて得られた膜は、クラックや異常成長もなく、きれいな膜であった。得られた膜につき、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって、膜の同定を行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた膜は、α―Ga
2O
3であった。また、得られた膜につき、φスキャンXRD測定を行った結果を、
図9に示す。
図9から明らかなように、得られた膜は、ツインフリーの良質な結晶膜であった。なお、得られた結晶膜の膜厚は、10μmであった。上記3.にて得られた結晶膜は、転位密度が5×10
6cm
-2よりも低く、表面積が9μm
2以上であった。
【0053】
(比較例1)
反応性ガス(HClガス)を基板に供給しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、結晶膜を成膜した。その結果、実施例1と比較して成膜レートが1/10以下に低下し、また得られた膜は、表面平坦性等の膜質が悪化し、鏡面ではなくなった。
【0054】
(実施例2)
パターン化されていない平坦なm面のサファイア基板を用いたこと、バッファ層上にドット状の開口を有するシート状のSiO
2マスクを設け、マスクが設けられたバッファ層上に結晶膜を成膜したこと、ならびに成膜温度を540℃に、成膜時間を120分間に、およびO
2ガスの流量を100sccmに、それぞれ設定したこと以外は実施例1と同様にして結晶膜を得た。得られた膜につき、SEM観察を行った。SEM像(鳥瞰図と断面図)を
図10に示す。
図10から、m面のサファイア基板を用いると、結晶品質の優れた横方向結晶成長を容易に行うことができ、さらに、結晶会合をも容易に行うことができ、得られた結晶膜が20μm以上の優れたELO膜であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の製造方法は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、特に、半導体装置の製造等に有用である。
【符号の説明】
【0056】
a 周期
1 基板本体
1a 基板の表面
2a 凸部
2b 凹部
3 結晶膜
4 マスク層
5 バッファ層
19 ミストCVD装置
20 被成膜試料
21 試料台
22a キャリアガス源
22b キャリアガス(希釈)源
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 成膜室
28 ヒータ
50 ハライド気相成長(HVPE)装置
51 反応室
52a ヒータ
52b ヒータ
53a ハロゲン含有原料ガス供給源
53b 金属含有原料ガス供給管
54a 反応性ガス供給源
54b 反応性ガス供給管
55a 酸素含有原料ガス供給源
55b 酸素含有原料ガス供給管
56 基板ホルダ
57 金属源
58 保護シート
59 ガス排出部