(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】蒸米のほぐし機
(51)【国際特許分類】
C12G 3/022 20190101AFI20240327BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20240327BHJP
【FI】
C12G3/022 119B
A23L7/10 E
(21)【出願番号】P 2020181189
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】397020641
【氏名又は名称】有限会社塚本鑛吉商店
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】塚本 正義
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-015480(JP,A)
【文献】特開平04-330255(JP,A)
【文献】特開2004-141009(JP,A)
【文献】特開2007-074979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00 - 3/08
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基枠の上部に支持されたホッパーと、このホッパーからの蒸米を受けて斜め下方にガイドすべく前記基枠に支持された傾斜プレートと、この傾斜プレートの下半部に形成された開口部に左右方向に往復
動可能に取り付けられた篩部材と、前記傾斜プレートとの間に上方の間隔が広く下方に向かって徐々に間隔が狭くなるほぐしスペースを形成すべく前記基枠に取り付けられたコンベア装置とからなる蒸米ほぐし機。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸米ほぐし機において、前記コンベア装置はエンボス加工で凹凸が形成されたコンベアベルトを備えることを特徴とする蒸米ほぐし機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蒸米ほぐし機において、前記コンベア装置は一端側を軸に開閉可能とされていることを特徴とする蒸米ほぐし機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸米の塊を米粒ひと粒に近い状態まで細かく解すほぐし機に関する。
【背景技術】
【0002】
日本酒は、玄米を精米して白米とし、白米から蒸米を製造し、蒸米、麹、水に酵母を加えて酒母を製造し、酒母に更に蒸米、麹、水を加え、糖化とアルコール発酵を同時に進行させて醪(もろみ)を製造し、更に熟成醪をしぼり、滓その後引き、火入れなどを経て日本酒となる。
【0003】
特に、麹を製造する工程では、蒸米を麹室に入れ(引き込み)、蒸米に種麹を散布(床もみ)し、その後蒸米の塊を崩してほぐし(切り返し)、製麹機や製麹箱に移す。
【0004】
特許文献1には、蒸米に種麹をふる床もみから、でき上がった麹を麹室から出す出麹までの製麹工程で種麹をふった蒸米に赤色光を照射することで、盛以降の製麹工程において、種麹をふった蒸米に赤色光を照射すると、GA(グルコアミラーゼ)/ACP(酸性カルボキシペプチダーゼ)値の高い麹が得られることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、製麹工程の説明として、以下の内容が記載されている。
(1)麹用の蒸米を室温30℃の「麹室」の「床」に引き込み、蒸米を薄く広げ予定の室温(32~34℃)で種麹菌を散布し、布に包み保温する。
(2)約8時間後に保温していた蒸米をほぐし、余分な水分の発散と酸素の補給、予定の温度(30.5~32℃)になるよう再び布に包み保温する。
(3)翌朝、固まっている蒸米をパラパラにほぐし、準備していた麹蓋に一定量入れ、麹の状態を見ながら3回~4回の「手入れ」を繰り返して、翌朝の出麹を待つ。
【0006】
特許文献3には、麹の品温と水分とをバランス良く調節するために、麹の生育状態に応じて麹堆積層の厚み、堆積表面積を自動的に調節する製麹方法及が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-136696号公報
【文献】特開2011-234651号公報
【文献】特開平9-56373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3では、製麹工程において蒸米(麹米)の塊をほぐすことは記載されているが、どのようにして解すかは具体的に記載されていない。特許文献2のように蒸米をパラパラにほぐすには、手のひらで蒸米を押し捻る手もみ法が一般的であるが、この方法では、作業者は蒸し暑い室内で作業を行うため重労働となる。
【0009】
また機械的には、モータに直結した棒に角がついた手入れ機によって、蒸米の塊を砕く方法がとられているが、この方法では、米粒に大きなダメージを与えてしまう。
このため、機械的に蒸米の塊を米粒ひと粒に近い状態まで細かく解す機械が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る蒸米のほぐし機は、基枠の上部に蒸米を投入するホッパーを支持し、このホッパーからの蒸米を受けて斜め下方にガイドする傾斜プレートを前記基枠に支持し、この傾斜プレートの下半部に形成された開口部に左右方向に往復同可能に篩部材を取り付け、更に前記傾斜プレートとの間に上方の間隔が広く下方に向かって徐々に間隔が狭くなるほぐしスペースを形成するコンベア装置を前記基枠に取り付けた構成とした。
【0011】
前記コンベア装置に設けるコンベアベルトは、例えばエンボス加工を施した樹脂ベルトなどを用いる。更に掃除を簡単に行えるようにするため、コンベア装置は左右または上下の端を軸に回動可能に構成することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る蒸米のほぐし機によれば、従来の手もみ法での重労働から作業者を解放でき、更に手もみ法と同等に蒸米の塊を米粒ひと粒ひと粒程度までほぐすことができる。
【0013】
蒸米の塊を米粒ひと粒ひと粒程度まで破壊することなく解すことで、麹菌の繁殖がムラなく行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】篩部材を往復動させるカム機構を説明した
図2のB方向矢示図
【発明を実施するための形態】
【0015】
基枠1にはキャスター2付きの足3が設けられ、移動可能とされている。基枠1の上部には蒸米を投入するホッパー4が支持され、また基枠1には傾斜プレート5が支持され、前記ホッパー4の下端開口から落とされた蒸米は約45°の傾斜プレート5によって斜め下方にガイドされる。
【0016】
前記傾斜プレート5の下半部には解された蒸米を下方に落とす開口6が形成され、この開口6には篩部材7が設けられる。篩部材7はサポートプレート8と網9からなり、網9はサポートプレート8の段部に置くだけの構造であり、ほぐす蒸米に応じた目の粗さにするため簡単に交換可能となっている。
【0017】
サポートプレート8を往復動させる機構は、
図4に示すように、基枠1側にギヤモータ10が取付けられ、このギヤモータ10の回転動は駆動軸11、チェーン12を介して被動軸13に伝達され、駆動軸11と被動軸13に取付けたカム14、14が回転する。
【0018】
一方、サポートプレート8の一端側には、前記カム14、14を挟むように一対のカム受け15、15が上下に設けられ、カム14とカム受け15が当接することでカム受け15が取付けられたサポートプレート8が基枠1に設けたガイド部16に沿って左右に往復動を行い、サポートプレート8にセットした網9も往復動を行う。
【0019】
サポートプレート8を往復動させる機構は、上記のカム機構に限らず、クランク機構、シリンダユニットを組み込んだ機構など任意である。
【0020】
前記基枠1には傾斜プレート5の上面との間にほぐしスペースSを形成するコンベア装置17が支持されている。コンベア装置17の設置角度を傾斜プレート5の角度より大きく設定することで、ほぐしスペースSは上端の間隔が最も大きく、下端に向かって徐々に狭くなる。尚、下端における間隔は10mm程度にするのが好ましい。
【0021】
図3に示すように、コンベア装置17は基枠1に設けたガイドローラ17a、17bに当てながら基枠1にセットされる。
【0022】
コンベア装置17の本体下面の上端部及び下端部には間隔調整ボルト18が設けられ、この間隔調整ボルト18の先端を基枠1に設けたフランジ19に乗せることでコンベア装置17は基枠1にセットされる。また調整ボルト18を操作することでほぐしスペースSの間隔を微調整することができる。
【0023】
また、コンベア装置17の本体上面は基枠1に設けた弾発部材(スプリング)20によって下方に押圧されている。ほぐしスペースS内の蒸米の量が多くなり過ぎたり、大きな蒸米の塊がほぐしスペースS内に入った場合には、弾発部材20に抗してコンベア装置17が上方に逃げ、蒸米が潰されるのを防止する。
【0024】
図5に示すように、コンベア装置17の一端は軸21に支持され、この軸21を中心に回動可能とされている。このようにコンベア装置17を回動可能とすることで、掃除およびメンテナンスが容易に行えるようにしてる。
【0025】
コンベア装置17の本体には駆動プーリ22と被動プーリ23が取付けられ、これら駆動プーリ22と被動プーリ23間にコンベアベルト24が掛け渡されている。コンベアベルト24は樹脂製で表面にエンボス加工により凹凸が形成されている。
【0026】
前記コンベアベルト24の表面に形成した凹凸は、ほぐしスペースS内の蒸米を斜め下方にスムーズに送るためのものであり、凹凸の形成はエンボス加工に限らない。また、コンベアベルト24の材質も樹脂に限らず金属製、布製であってもよい
【0027】
コンベアベルト24の回転機構は、
図1に示すように、基枠1の足3に取付けたモータ25の回転をタイミングベルト26を介してコンベア装置17の本体に取付けたプーリ27に伝達し、このプーリ27の回転をタイミングベルト28を介して前記駆動プーリ22に伝達する。
【0028】
また、コンベアベルト24の表面を適切な強さで蒸米に押し付けるために、コンベア装置17の本体には、幾つかのガイドプーリ29を設けている。
【0029】
以上において、ホッパー4に投入した蒸米はホッパー4の下端からほぐしスペースSの上部に送り出され、コンベアベルト24の移動に伴って傾斜プレート5に沿って下方に移動し、下方に移動した蒸米の塊は徐々にスペースSが狭くなることによる圧力と往復動する網9に接することで、ほぼ米粒一つ毎に分離し網目を通して下方に落下し、落下した蒸米は製麹箱などに送られる。
【0030】
上記において、コンベアベルト24による下方への圧力、スペースSが徐々に狭くなることによる捻りに似た動き、及び網9の往復動の合成動により、手による揉み解しと同じように蒸米の塊を解すことができる。
【0031】
また、本発明においては、インバータの変更によって網9の往復動とコンベアベルト24の速度を任意に調整できるため、蒸米の状態に応じてこれらを調整することで、最適なほぐし環境を作ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る蒸米のほぐし機は日本酒の製造工程以外にも適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…基枠、2…キャスター、3…足、4…ホッパー、5…傾斜プレート、6…
開口、7…篩部材、8…サポートプレート、9…網、10…ギヤモータ、11…駆動軸、12…チェーン、13…被動軸、14…カム、15…カム受け、16…ガイド部、17…コンベア装置、17a、17b…ガイドローラ、18…間隔調整ボルト、19…フランジ、20…弾発部材、21…軸、22…駆動プーリ、23…被動プーリ、24…コンベアベルト、25…モータ、26、28…タイミングベルト、27…プーリ、29…ガイドプーリ、S…ほぐしスペース。