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特許7461037睡眠障害を判定するためのバイオマーカー
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  • 特許-睡眠障害を判定するためのバイオマーカー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】睡眠障害を判定するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240327BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G01N33/53 S
C12M1/34 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020124843
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021363
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】515262155
【氏名又は名称】株式会社RESVO
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100180563
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 晃
(72)【発明者】
【氏名】大西 新
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085762(JP,A)
【文献】特開2010-156639(JP,A)
【文献】特開2007-218593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0003723(US,A1)
【文献】久保千春,心身一如と統合医療,日本統合医療学会誌,日本,2020年05月20日,vol. 13, no. 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオピリンを含む、不眠症を判定するためのバイオマーカー。
【請求項2】
クレアチニンをさらに含む、請求項1記載のバイオマーカー。
【請求項3】
バイオピリンに結合することができる物質を含む、不眠症の判定用キット。
【請求項4】
クレアチニンに結合することができる物質をさらに含む、請求項3記載のキット。
【請求項5】
前記物質が抗体又は有機化合物である、請求項3又は4記載のキット。
【請求項6】
前記物質が固体支持体上に固定されている、請求項3~5のいずれか一項記載のキット。
【請求項7】
生体試料中のバイオピリンの量を指標として用いる、不眠症の判定方法。
【請求項8】
生体試料中のクレアチニンの量をさらに指標として用いる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
生体試料中のクレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値を指標として用いる、不眠症の判定方法。
【請求項10】
(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、及び(b)工程(a)において測定されたバイオピリンの量を対照のものと比較する工程を含む、対象の不眠症の判定方法。
【請求項11】
(c)前記対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、及び(d)工程(c)において測定されたクレアチニンの量を、対照のものと比較する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(b)該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、(c)工程(b)において測定されたクレアチニンの量に対する工程(a)において測定されたバイオピリンの量の比の値を算出する工程、及び(d)工程(c)で算出された比の値を、対照のものと比較する工程を含む、対象の不眠症の判定方法。
【請求項13】
前記生体試料が尿である、請求項7~12のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠障害を判定するためのバイオマーカー、該バイオマーカーに結合することができる物質を含む睡眠障害の判定用キット、及び該バイオマーカーの量を測定する工程を含む睡眠障害の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不眠とは眠ろうとしても眠れない状態を言い、誰しも不眠を経験するが通常数日から数週間で改善する。しかし、この不眠状態が一ヶ月以上続く場合、倦怠感、意欲低下、集中力低下、抑うつ、頭重、めまい、及び食欲不振などの症状が現れる。日本国内では5人に1人が何らかの不眠をうったえており、20人に1人は通院している。
【0003】
不眠の検査には様々な方法が知られているが、多くの場合、当該検査は問診によって行われ、その判定基準には、世界保健機関(WHO)によるアテネ不眠尺度(AIS)や米国精神医学会によるDSM-5が用いられている(非特許文献1~3)。生物学的根拠に基づいた検査方法として、睡眠そのものを診断する睡眠ポリグラフィー検査(脳波、呼吸運動、心電図、筋電図、眼球運動、睡眠の深さやいびき、及び無呼吸の程度などを探る)や、生体リズムを測るため体温変化を測定する方法などもある。また、客観的かつ機械的に検査する方法も検討されている(特許文献1及び2)。しかしながら、これらの方法は非常に時間とコストがかかることから、簡便な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-038759号公報
【文献】特開2019-047982号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Patel et al., "Insomnia in the Elderly: A Review", Journal of Clinical Sleep Medicine, Vol. 14, No. 6, June 15, 2018, 1017-1024.
【文献】RIEMANN et al., "European guideline for the diagnosis and treatment of insomnia", J Sleep Res. (2017) 26, 675-700.
【文献】Zambotti et al., "Insomnia disorder in adolescence: diagnosis, impact, and treatment", Sleep Med Rev. 2018 June; 39: 12-24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、睡眠障害を判定するための新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、研究を行った。その結果、本発明者らは、アテネ不眠尺度と尿中バイオピリン濃度との間に正の相関があることを発見した。すなわち、生体試料中のバイオピリンの量は、睡眠障害を判定するためのバイオマーカーとして利用することができる。生体試料中のバイオピリンの量を測定することにより、睡眠障害を判定することができる。
【0008】
したがって、本発明は、バイオピリンを含む、睡眠障害を判定するためのバイオマーカーを提供する。該バイオマーカーは、クレアチニンをさらに含むことができる。幾つかの実施態様において、該睡眠障害は不眠症である。
【0009】
また、本発明は、バイオピリンに結合することができる物質を含む、睡眠障害の判定用キットを提供する。該キットは、クレアチニンに結合することができる物質をさらに含むことができる。幾つかの実施態様において、該物質は抗体又は有機化合物である。幾つかの実施態様において、該物質は固体支持体上に固定されている。幾つかの実施態様において、該睡眠障害は不眠症である。幾つかの実施態様において、該睡眠障害は不眠症である。
【0010】
また、本発明は、生体試料中のバイオピリンの量を指標として用いる、睡眠障害の判定方法を提供する。該方法は、生体試料中のクレアチニンの量をさらに指標として用いることができる。さらに、本発明は、生体試料中のクレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値を指標として用いる、睡眠障害の判定方法を提供する。さらにまた、本発明は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、及び(b)工程(a)において測定されたバイオピリンの量を対照のものと比較する工程を含む、対象の睡眠障害の判定方法を提供する。該方法は、(c)該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、及び(d)工程(c)において測定されたクレアチニンの量を、対照のものと比較する工程をさらに含むことができる。さらにまた、本発明は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(b)該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、(c)工程(b)において測定されたクレアチニンの量に対する工程(a)において測定されたバイオピリンの量の比の値を算出する工程、及び(d)工程(c)で算出された比の値を、対照のものと比較する工程を含む、対象の睡眠障害の判定方法を提供する。幾つかの実施態様において、該睡眠障害は不眠症である。幾つかの実施態様において、該生体試料は尿である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバイオマーカーを用いて、睡眠障害を、迅速、容易かつ客観的に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】尿中バイオピリン濃度とアテネ不眠スコア(尺度)との相関図を示す。縦軸:バイオピリン/クレアチニン比(unit/g)。横軸:アテネ不眠スコア(点数)。相関係数:R=0.28。有意確率**P=0.005。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.定義)
本明細書において、用語「睡眠障害」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有し、睡眠に何らかの障害を有することを意味する。睡眠障害の例を挙げると、不眠症、適応障害性不眠症、精神生理性不眠症、逆説性不眠症、突発性不眠症、精神疾患による不眠症、不適切な睡眠衛生、小児期の行動性不眠症、薬剤または物質による不眠症、身体疾患による不眠症、非器質性不眠症、非器質性睡眠障害、特定不能な器質性不眠症、睡眠関連呼吸症候群、中枢性睡眠時無呼吸症候群、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、睡眠関連低換気/低酸素血症候群、身体疾患による睡眠関連低換気/低酸素血症候群)、中枢性過眠症候群、概日リズム睡眠症候群、睡眠時随伴症、睡眠関連運動障害、弧発性の諸症状、睡眠関連運動障害群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害、過眠症、及びその他の睡眠障害がある。睡眠障害は、うつ病、不安障害、統合失調症、アルツハイマー型認知症、脳血管障害や脳腫瘍、生活習慣病、又は呼吸器疾患などの併発症状でもあり得る。また、不眠症は、入眠障害、熟眠障害、中途覚醒、及び早朝覚醒の4つに大別することができる。
【0014】
本明細書において、用語「判定」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。例えば、「睡眠障害を判定」又は「睡眠障害の判定」は、対象が睡眠障害を有するか否か、睡眠障害を有する可能性があるか否か(例えば、睡眠障害の可能性が高いか否か)、睡眠障害の疑いがあるか否か(例えば、睡眠障害の疑いが少しあるか否か)、若しくは睡眠をとれているか否か;又は対象の睡眠障害の程度(重症、中程度若しくは軽症)若しくは進行度を判別若しくは判断することを意味する。
【0015】
本明細書において、用語「睡眠障害を判定するためのバイオマーカー」は、睡眠障害の判定の指標となり得るもの、例えば、睡眠障害の判定の指標となり得る生体物質を意味する。対象から得られた生体試料中の該バイオマーカーの量を測定し、該対象の睡眠障害を判定することができる。バイオマーカーは、1つであっても複数(例えば、2つ以上)であってもよい。例えば、健常者と比較して、睡眠障害患者においてある2つ以上の生体物質の量が増加又は減少している場合、その2つ以上の生体物質を組み合わせたものは、睡眠障害を判定するためのバイオマーカーになり得る。また例えば、健常者と比較して、睡眠障害患者以外の患者においてある2つ以上の生体物質の量が増加又は減少するが、睡眠障害患者においては、健常者と比較して、そのうちの1つ以上の生体物質の量が増加又は減少し、他のものに変化がない場合も、その2つ以上の生体物質を組み合わせたものは、睡眠障害を判定するためのバイオマーカーになり得る。睡眠障害を判定するためのバイオマーカーが複数である場合、睡眠障害の判定の信頼性が向上し得る。
【0016】
本明細書中において、用語「生体物質」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有し、例えば、対象の体内に存在する又は対象から得られた生体試料中に存在する化学物質を意味する。用語「生体物質」は、生体試料中に存在する小分子、大分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、又は抗体若しくはその断片などの化学物質を含む。バイオピリン及びクレアチニンは、生体物質である。
【0017】
用語「バイオピリン」は、本発明の技術分野において公知の物質であり、生体内において、ビリルビンが活性酸素と反応した際に生じる最終酸化産物である。用語「バイオピリン」は、尿中の酸化ストレスマーカーとしても知られている。本明細書中において、用語「バイオピリン」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものなどを含む。
【0018】
用語「クレアチニン」は、本発明の技術分野において公知の物質である。用語「クレアチニン」は、腎機能検査に用いられる物質としても知られている。本明細書中において、用語「クレアチニン」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものなどを含む。
【0019】
本願明細書中において、用語「対象」とは、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。用語「対象」は、ヒト又は非ヒト動物を包含する。非ヒト動物は、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、又はミニブタなどの非ヒト哺乳動物を含む。対象がヒトである場合、該対象は、「被験者」又は「患者」とも呼ばれる場合がある。対象がヒトである場合、該対象は、男性であっても女性であってもよい。対象がヒトである場合、該対象の年齢は、特に制限されないが、例えば、新生児、乳児、幼児、児童(少年)、青年、壮年、中年、又は老年である。
【0020】
本明細書中において、用語「生体試料」とは、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。例えば、用語「生体試料」は、血液又は尿などの体液、或いは細胞である。用語「血液」は、血清、血漿、及び全血を含む。
【0021】
本明細書中において、用語「測定」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有し、一般に、ある量の大きさをはかることを意味する。本明細書中において、用語「測定」は、定量又は半定量を含む。測定される量の単位は、制限されないが、例えば、g、mg、μg、ng、mmol、μmol又はnmolなどである。測定される量は、濃度であってもよい。濃度の単位は、制限されないが、例えば、mg/ml、μg/ml、ng/ml、mmol/ml、μmol/ml、又はnmol/mlなどである。測定される量は、ある特定の物質、例えば、内部標準物質の量に対する比の値であってもよい。比の値の単位は、制限されないが、u/g(unit/g)、mg/g、μg/g、ng/g、mmol/g、μmol/g、又はnmol/gなどである。ここで、1 u(1 unit)は、特定のエピトープ、例えば、抗ビリルビンモノクローナル抗体24G7エピトープ1 μmol相当量を指す。幾つかの実施態様において、測定される量は、本発明のバイオマーカーに直接的に結合した標識体、又は間接的に結合した標識体(二次抗体など)の放射線強度、蛍光強度、又は吸光度などである。幾つかの実施態様において、測定される量は、本発明のバイオマーカーに結合した一次抗体に結合した二次抗体の量である。測定される量は、絶対量又は相対量であってもよい。測定される量は、ある特定の物質の量で補正されたものであってもよい。補正は、例えば、ある基準値又は内部標準物質の量で、加算すること、減算すること、乗算すること、又は除算すること(比の値を算出すること)である。内部標準物質は、例えば、クレアチニンなどの生体試料中の物質である。
【0022】
本明細書中において、用語「対照」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有し、例えば、用語「対照」は、本発明のバイオマーカーを利用して、本発明のキットを用いて、又は本発明の方法に従って、睡眠障害の判定が行われる対象と比較される対象又は対象群を意味する。対照も、本発明のキットを用いて又は本発明の方法に従って、本発明のバイオマーカーの量が測定され得る。用語「対照」は、例えば、正常な対象、健常者、睡眠障害と判定されていない対象、以前に睡眠障害と判定されたが現在睡眠障害が治癒若しくは寛解されている対象、アテネ不眠スコアが3点以下の対象、又は過去の自分自身などである。用語「対照」は、対象と同一人であってもよいし、他人であってもよい。また、用語「対照」は、複数の対象から得られたデータ群であってもよい。
【0023】
本明細書中において、用語「約」は、当業者が許容できる範囲の変動があり得ることを意味し、例えば、±0.1~20%、±0.1~10%、±0.1~5%、±0.1~1.0%、又は±0.1~0.5%の変動があることをいう。
【0024】
(2.本発明の睡眠障害を判定するためのバイオマーカー)
本発明者らは、生体試料中のバイオピリンの量が、アテネ不眠スコアの点数と正の相関があること、すなわち、アテネ不眠スコアの点数が高いほど(睡眠障害が重症であるほど)、生体試料中のバイオピリンの量が増加していることを発見した。したがって、本発明の睡眠障害を判定するためのバイオマーカー(本明細書中において、「本発明のバイオマーカー」ともいう)は、バイオピリンを含む。幾つかの実施態様において、本発明のバイオマーカーは、バイオピリンからなる。バイオピリンは、生体内で修飾、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化などにより修飾されていてもよい。
【0025】
バイオピリンの構造は公知である。生体試料中のバイオピリンは、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のバイオピリンは、バイオピリンELISAキット(Metallogenics Co., Ltd社)を用いて検出、測定又は比較することができる。また例えば、生体試料中のバイオピリンは、本発明の睡眠障害の判定用キットを用いて又は本発明の睡眠障害の判定方法に従って、検出、測定又は比較することができる。睡眠障害患者において、生体試料中のバイオピリンの量は増加する。
【0026】
対象から得られる尿は、日内変動で濃縮又は希釈されることがある。この日内変動により、バイオピリンの濃度が変化する場合がある。この変化による影響を補正するために、クレアチニンを、内部標準物質として用いることができる。生体試料中のバイオピリンの量を、生体試料中のクレアチニンの量で補正することができる。好ましくは、対象から得られた生体試料中のバイオピリンの濃度は、該生体試料中のクレアチニンの濃度で補正される。
【0027】
また、対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を、該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量で補正することにより、対象の腎臓機能を反映させた値を得ることができる。その補正された値を、対照のものと比較することにより、より高い精度で、睡眠障害を判定することができる。補正することは、除算すること、すなわち、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値を算出することを含み得る。本明細書中において、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比を、バイオピリン/クレアチニン比ともいう。
【0028】
また、クレアチニンは、腎臓機能に異常があるか否かを判断するために使用することができる。腎臓機能に異常がある場合、睡眠障害がなくとも、生体試料中のバイオピリンの量が変化する場合がある。例えば、腎臓機能に異常がある対象は、バイオピリンの量の増加を示すとともに、クレアチニンの量の変化(増加又は減少)も示し得る。一方で、腎臓機能が正常である睡眠障害患者は、バイオピリンの量の増加を示すが、クレアチニンの量は変化し得ない。したがって、バイオピリンとクレアチニンとの組合せは、睡眠障害を判定するためのバイオマーカーとして使用することができる。したがって、本発明のバイオマーカーは、バイオピリンに加え、クレアチニンをさらに含むことができる。幾つかの実施態様において、本発明のバイオマーカーは、バイオピリンとクレアチニンとからなる。
【0029】
クレアチニンの構造は公知である。生体試料中のクレアチニンは、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のクレアチニンは、DetectX Creatinine detection Kit(ARBOR ASSAYS社)を用いて検出、測定又は比較することができる。生体試料中のクレアチニンは、本発明の睡眠障害の判定用キットを用いて又は本発明の睡眠障害の判定方法に従って、検出、測定又は比較することができる。
【0030】
生体試料は、好ましくは、血液又は尿などの体液、より好ましくは、尿である。睡眠障害は、好ましくは、不眠症である。
【0031】
本発明のバイオマーカーを利用して、具体的には、対象から得られた生体試料中の本発明のバイオマーカーの量を測定することにより、睡眠障害を判定することができる。本発明のバイオマーカーを利用して、具体的には、対象から得られた生体試料中の本発明のバイオマーカーの量を測定することにより、睡眠障害を判定するためのデータを取得することができる。本発明のバイオマーカーを利用して、具体的には、対象から得られた生体試料中の本発明のバイオマーカーの量を測定することにより、睡眠障害を検査若しくは診断することができる。本発明のバイオマーカーを利用して、具体的には、対象から得られた生体試料中の本発明のバイオマーカーの量を測定することにより、睡眠障害を検査若しくは診断するためのデータを取得することができる。睡眠障害の判定、検査若しくは診断、又は検査若しくは診断するためのデータの取得は、本明細書中に記載の、本発明の睡眠障害の判定用キットを用いて又は本発明の睡眠障害の判定方法に従って行うことができる。さらに、本発明のバイオマーカーを利用して、本発明のバイオマーカーに特異的に結合することができる物質又は試薬(例えば、抗体)を作製することができる。そのような物質又は試薬を用いて、本発明のバイオマーカーを検出又は測定することができる。
【0032】
本発明のバイオマーカーによる睡眠障害の判定を介して、睡眠障害患者のスクリーニング、睡眠障害の効率的な治療法の確立、睡眠障害の効率的な予防法の確立、睡眠障害に有用な候補薬剤のスクリーニング、及び睡眠障害のモデル動物の開発などを行うことができる。
【0033】
(3.本発明の睡眠障害の判定用キット)
本発明の睡眠障害の判定用キット(本明細書中において、「本発明のキット」ともいう)は、生体試料中の本発明のバイオマーカーの量を測定するための物質を含む。具体的な実施態様において、本発明のキットは、バイオピリンに結合することができる物質を含む。該物質は、生体試料中のバイオピリンを測定するための物質であり得る。該物質は、生体試料中のバイオピリンに結合し、それによって、生体試料中のバイオピリンを検出することができる物質であり得る。本発明のキットに含まれる該物質は、複数種であってもよい。該物質は、試薬であり得る。
【0034】
幾つかの実施態様において、本発明のキットは、バイオピリンに結合することができる物質に加え、クレアチニンに結合することができる物質を含む。該物質は、生体試料中のクレアチニンを測定するための物質であり得る。該物質は、生体試料中のクレアチニンに結合し、それによって、生体試料中のクレアチニンを検出することができる物質であり得る。本発明のキットに含まれる該物質は、複数種であってもよい。該物質は、試薬であり得る。
【0035】
バイオピリンに結合することができる物質及びクレアチニンに結合することができる物質に関して、用語「結合」は、制限されないが、例えば、イオン結合、共有結合、又は非共有結合(水素結合など)などの化学結合である。幾つかの実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質及び/又はクレアチニンに結合することができる物質は、標識体により標識されている。該標識体を検出し、その量を測定することにより、バイオピリンの量又はクレアチニンの量を測定することができる。
【0036】
幾つかの実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質は、抗体又は有機化合物である。幾つかの実施態様において、クレアチニンに結合することができる物質は、抗体又は有機化合物である。抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を含み得る。幾つかの実施態様において、抗体は、一次抗体と該一次抗体に結合する二次抗体との組合せである。二次抗体は、標識体により標識され得る。有機化合物は、バイオピリン又はクレアチニンに結合することができる、炭素原子が共有結合で結びついた骨格を有する全ての化合物を含み得る。有機化合物は、低分子又は高分子であり得る。有機化合物の例を挙げると、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は標識体により標識された化合物などがある。呈色試薬は、バイオピリンに対して呈色反応を示す化合物、又はクレアチニンに対して呈色反応を示す化合物を含む。標識体の例を挙げると、制限されないが、無機物質、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は放射性同位体などがある。
【0037】
幾つかの実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質は、固体支持体上に固定されている。幾つかの実施態様において、クレアチニンに結合することができる物質は、固体支持体上に固定されている。固体支持体は、例えば、紙、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、又はポリプロピレン樹脂などのプラスチック、或いはガラスなど任意の適切な材質から作成されているものである。また、固体支持体は、ディッシュ、ウェル、ストリップ又はチップなどの任意の形状の基板であってもよい。基板の表面は、任意に被覆修飾されていてもよい。
【0038】
バイオピリンに結合することができる物質は、商業的に入手可能である。バイオピリンに結合することができる物質の例を挙げると、抗バイオピリン抗体、例えば、バイオピリンELISAキット(Metallogenics Co., Ltd社)に含まれる抗体などがある。また、当業者であれば、従来技術により、抗バイオピリン抗体を容易に作製することができる。抗バイオピリン抗体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はヒツジ由来であり得る。
【0039】
本発明のキットに含まれるバイオピリンに結合することができる物質の量は、特に制限されないが、少なくとも1回の測定において、生体試料中のバイオピリンの量が測定可能な量である。本発明のキットに含まれるバイオピリンに結合することができる物質の量は、例えば、少なくとも約1回、約2回、約4回、約8回、約16回、約32回、約48回、約96回又はそれ以上の測定が可能な量である。
【0040】
クレアチニンに結合することができる物質は、商業的に入手可能である。クレアチニンに結合することができる物質の例を挙げると、クレアチニンに対して呈色反応を示す化合物、例えば、DetectX Creatinine detection Kit(ARBOR ASSAYS社)に含まれる化合物などがある。
【0041】
本発明のキットに含まれるクレアチニンに結合することができる物質の量は、特に制限されないが、少なくとも1回の測定において、生体試料中のクレアチニンの量が測定可能な量である。本発明のキットに含まれるクレアチニンに結合することができる物質の量は、例えば、少なくとも約1回、約2回、約4回、約8回、約16回、約32回、約48回、約96回又はそれ以上の測定が可能な量である。
【0042】
本発明のキットは、さらに、本発明のバイオマーカーの検出、測定、及び/又は比較を行うためのアッセイに使用される物質又は試薬を含むことができる。該アッセイの例を挙げると、制限されないが、免疫学的アッセイ(ドットブロットアッセイなど)、ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、サンドイッチELISA、免疫電気泳動法、一元放射免疫拡散法(SRID)、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、ラテックス免疫測定法(LIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、呈色反応、及び比色法などがある。本発明のキットは、さらに、該アッセイに使用される一次抗体又は二次抗体を含むことができる。一次抗体及び/又は二次抗体は、無機物質、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は放射性同位体などの任意の標識体で標識され得る。
【0043】
本発明のキットは、さらに、本発明のバイオマーカーの量を測定するための指示書、及び/又は健常者における本発明のバイオマーカーの量と睡眠障害との関係(例えば、対象が睡眠障害を有するか否か、睡眠障害を有する可能性があるか否か(例えば、睡眠障害の可能性が高いか否か)、睡眠障害の疑いがあるか否か(例えば、睡眠障害の疑いが少しあるか否か)、若しくは睡眠をとれているか否か;又は対象の睡眠障害の程度(重症、中程度若しくは軽症)、若しくは進行度など)についてのデータを記載した資料などを含むことができる。本発明のキットは、さらに、対象から生体試料を得るための機器(例えば、検尿コップなどの容器又は注射器)を含むことができる。
【0044】
本発明のキットを用いて、本発明のバイオマーカーの量の測定、及び/又は本発明のバイオマーカーの量の比較を行うことができる。本発明のキットを用いて、睡眠障害の判定をすることができる。本発明のキットを用いて、睡眠障害を判定するためのデータを取得することができる。本発明のキットを用いて、睡眠障害を検査若しくは診断することができる。本発明のキットを用いて、睡眠障害を検査若しくは診断するためのデータを取得することができる。睡眠障害の判定、検査若しくは診断、又は判定、検査若しくは診断するためのデータの取得は、本明細書中に記載の、本発明の睡眠障害の判定方法に従って行うことができる。
【0045】
(4.本発明の睡眠障害の判定方法)
本発明の睡眠障害の判定方法(本明細書中において、「本発明の判定方法」ともいう)は、生体試料中の本発明のバイオマーカーの量を指標として用いる。幾つかの実施態様において、本発明の判定方法は、生体試料中のバイオピリンの量を指標として用いる。幾つかの実施態様において、本発明の判定方法は、生体試料中のバイオピリンの量と生体試料中のクレアチニンの量とを指標として用いる。多くの実施態様において、バイオピリンの量が測定される生体試料とクレアチニンの量が測定される生体試料とは同じものである。幾つかの実施態様において、本発明の判定方法は、生体試料中のクレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比(バイオピリン/クレアチニン比)の値を指標として用いる。
【0046】
本発明の判定方法は、対象が睡眠障害を有するか否か、睡眠障害を有する可能性があるか否か(例えば、睡眠障害の可能性が高いか否か)、睡眠障害の疑いがあるか否か(例えば、睡眠障害の疑いが少しあるか否か)、若しくは睡眠をとれているか否か;又は対象の睡眠障害の程度(重症、中程度若しくは軽症)、若しくは進行度を判定するのに必要なデータ又は有用な情報を提供することができる。また、本発明の判定方法は、睡眠障害の発症、発症の疑い、発症の可能性、若しくは発症後の予後予測;又は睡眠障害の治療、予防、診断、鑑別、又は予後推定に必要なデータ又は有用な情報を提供することができる。さらに、本発明の判定方法により得られた結果から、睡眠障害の治療方法又は治療計画を決定することができる。さらに、本発明の判定方法により得られた結果から、睡眠障害を治療するための候補薬剤の有効性などの評価、及び睡眠障害の治療薬をスクリーニング又は決定することができる。そのような治療薬を用いて、睡眠障害を治療、予防、又は管理することができる。本発明の判定方法は、迅速、容易かつ客観的であり、医師等の必要なく、睡眠障害を自己判定することができる。
【0047】
幾つかの実施態様において、本発明の判定方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程を含む。本発明の判定方法は、(b)工程(a)において測定されたバイオピリンの量を対照のものと比較する工程をさらに含み得る。幾つかの実施態様において、本発明の判定方法は、(c)対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程をさらに含む。本発明の判定方法は、(d)工程(c)において測定されたクレアチニンの量を、対照のものと比較する工程をさらに含み得る。多くの実施態様において、バイオピリンの量が測定される生体試料とクレアチニンの量が測定される生体試料とは同じものである。前記工程の順序は特に制限されない。
【0048】
幾つかの具体的な実施態様において、本発明の判定方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(b)該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、及び(c)工程(a)において測定されたバイオピリンの量及び工程(b)において測定されたクレアチニンの量を対照のものと比較する工程を含む。ここで、前記工程(a)及び(b)の順序は特に制限されない。多くの実施態様において、バイオピリンの量が測定される生体試料とクレアチニンの量が測定される生体試料とは同じものである。
【0049】
幾つかの具体的な実施態様において、本発明の判定方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量及びクレアチニンの量を測定する工程、及び(b)工程(a)において測定されたバイオピリンの量及びクレアチニンの量を対照のものと比較する工程を含む。
【0050】
幾つかの実施態様において、本発明の判定方法は、対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を、該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量で補正する工程をさらに含む。クレアチニンの量で補正することにより、対象の腎臓機能を反映させた値を得ることができる。その補正された値を、対照のものと比較することにより、より高い精度で、睡眠障害を判定することができる。幾つかの実施態様において、該補正することは、除算すること、すなわち、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比(バイオピリン/クレアチニン比)の値を算出することである。該補正により、対象の腎臓機能を反映させた値を得ることができる。本発明の判定方法は、さらに、該補正された値を、対照のものと比較する工程を含むことができる。
【0051】
幾つかの具体的な実施態様において、本発明の判定方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(b)該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、及び(c)工程(b)において測定されたクレアチニンの量に対する、工程(a)において測定されたバイオピリンの量の比の値を算出する工程を含む。多くの実施態様において、バイオピリンの量が測定される生体試料とクレアチニンの量が測定される生体試料とは同じものである。幾つかの具体的な実施態様において、本発明の判定方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量及びクレアチニンの量を測定する工程、及び(b)工程(a)において測定された該クレアチニンの量に対する該バイオピリンの量の比の値を算出する工程を含む。本発明の判定方法は、さらに、該クレアチニンの量に対する該バイオピリンの量の比の値を、対照のものと比較する工程を含むことができる。
【0052】
バイオピリンの量の測定、及びクレアチニンの量の測定は、当業者に公知の一般的方法で行うことができる。当業者に公知の一般的方法の例を挙げると、制限されないが、免疫学的アッセイ(ドットブロットアッセイなど)、ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、サンドイッチELISA、免疫電気泳動法、一元放射免疫拡散法(SRID)、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、ラテックス免疫測定法(LIA)、及び蛍光免疫測定法(FIA)などがある。あるいは、バイオピリンの量の測定及びクレアチニンの量の測定は、市販の抗体又は測定キットを用いて行うことができる。市販の抗体又は測定キットの例を挙げると、バイオピリンELISAキット(Metallogenics Co., Ltd社)、及びDetectX Creatinine detection Kit(ARBOR ASSAYS社)などがある。また、バイオピリンの量の測定、及びクレアチニンの量の測定は、本発明のキットを用いて行うことができる。
【0053】
幾つかの実施態様において、バイオピリンの量を測定する工程は、(i)対象から得られた生体試料を、バイオピリンに結合することができる物質と接触させる工程を含む。具体的な実施態様において、バイオピリンの量を測定する工程は、(i)対象から得られた生体試料を、バイオピリンに結合することができる物質と接触させる工程、及び(ii)該バイオピリンに結合した物質を検出し、その量を測定する工程を含む。
【0054】
幾つかの実施態様において、クレアチニンの量を測定する工程は、(i)対象から得られた生体試料を、クレアチニンに結合することができる物質と接触させる工程を含む。具体的な実施態様において、クレアチニンの量を測定する工程は、(i)対象から得られた生体試料を、クレアチニンに結合することができる物質と接触させる工程、及び(ii)該クレアチニンに結合した物質を検出し、その量を測定する工程を含む。多くの実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質と接触させる生体試料とクレアチニンに結合することができる物質と接触させる生体試料とは同じものである。
【0055】
バイオピリンに結合することができる物質、及びクレアチニンに結合することができる物質は、本発明の睡眠障害の判定用キットに含まれるものと同一のものを用いることができる。
【0056】
具体的な実施態様において、生体試料をバイオピリンに結合することができる物質と接触させる工程は、生体試料に、バイオピリンに結合することができる物質を添加する工程、及び任意に、該バイオピリンに結合することができる物質が添加された生体試料を撹拌及び/又は混合する工程を含む。バイオピリンに結合することができる物質の添加量は、特に制限されないが、生体試料中のバイオピリンの量を測定できるのに十分な量である。混合は、バイオピリンに結合することができる物質が、生体試料中のバイオピリンに結合するのに十分な条件下(例えば、温度)及び時間で行われ得る。
【0057】
具体的な実施態様において、生体試料をクレアチニンに結合することができる物質と接触させる工程は、生体試料に、クレアチニンに結合することができる物質を添加する工程、及び任意に、該クレアチニンに結合することができる物質が添加された溶液を混合する工程を含む。クレアチニンに結合することができる物質の添加量は、特に制限されないが、生体試料中のクレアチニンの量を測定できるのに十分な量である。混合は、クレアチニンに結合することができる物質が、生体試料中のクレアチニンに結合するのに十分な時間及び温度で行われ得る。
【0058】
本発明の判定方法は、バイオピリンの量を測定する前、及び/又はクレアチニンの量を測定する前に、対象から生体試料を得る工程をさらに含むことができる。また、本発明の判定方法は、バイオピリンの量を測定する前、及び/又はクレアチニンの量を測定する前に、得られた生体試料を分注する工程をさらに含んでもよい。生体試料を得る工程は、当業者に公知の方法で行うことができ、特に制限されない。例えば、生体試料が尿であれば、該工程は、検尿コップなどの容器を用いて行うことができる。例えば、生体試料が血液であれば、該工程は、注射器などを用いて行うことができる。生体試料が血液である場合、本発明の判定方法は、該血液から血清又は血漿を得る工程をさらに含むことができる。得られた生体試料は、濃縮又は分離操作に供されてもよい。得られた生体試料に、バイオピリンの分解防止剤などを添加してもよい。
【0059】
本発明の判定方法において、比較工程は、対象の生体試料中のバイオピリンの量を、対照群から得られた生体試料中のバイオピリンの量に関するデータ群と照らし合わせることを含むことができる。比較により、対象が、睡眠障害を有するか否か、睡眠障害を有する可能性があるか否か(例えば、睡眠障害の可能性が高いか否か)、睡眠障害の疑いがあるか否か(例えば、睡眠障害の疑いが少しあるか否か)、若しくは睡眠をとれているか否か;又は対象の睡眠障害の程度(重症、中程度若しくは軽症)、若しくは進行度などを判定することができる。
【0060】
生体試料は、好ましくは、血液又は尿であり、より好ましくは、尿である。本発明の方法において、対象及び対照は、好ましくはヒトである。
【0061】
本発明の判定方法により、対象の睡眠障害を判定することができる。幾つかの実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が、対照のものよりも増加している場合又は対照群の中央値よりも大きい場合、該対象が睡眠障害を有する、睡眠障害を有する可能性がある(例えば、睡眠障害の可能性が高い)、睡眠障害の疑いがある(例えば、睡眠障害の疑いが少しある)と判定することができる。バイオピリンの量が増加すればするほど又は大きければ大きいほど、対象の睡眠障害の重症度は大きいと判定することができる。
【0062】
腎臓機能に異常がある対象は、バイオピリンの量の増加を示すとともに、クレアチニンの量の変化(増加又は減少)も示す場合がある。一方で、腎臓機能が正常である対象は、クレアチニンの量に変化がないであろう。したがって、幾つかの実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が、対照のものよりも増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合に、該対象が睡眠障害を有する、睡眠障害を有する可能性がある(例えば、睡眠障害の可能性が高い)、又は睡眠障害の疑いがある(例えば、睡眠障害の疑いが少しある)と判定することができる。
【0063】
対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定することにより、対象の腎臓機能が正常であるか否かを判定してもよい。例えば、対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、対象の腎臓機能が正常であると判定することができる。また、対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定することにより、バイオピリンの量の変化が、対象の腎臓機能の異常に起因したものか否かを判定するのに用いることができる。例えば、該対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、バイオピリンの量の変化が対象の腎臓機能の異常に起因したものではないと判定することができる。
【0064】
幾つかの実施態様において、該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量は、該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量で除算された値、すなわち、クレアチニンの量に対する比の値である。幾つかの実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比(バイオピリン/クレアチニン比)の値が、対照のものと比較して増加している場合又は対照群の中央値よりも大きい場合、該対象が睡眠障害を有する、睡眠障害を有する可能性がある(例えば、睡眠障害の可能性が高い)、睡眠障害の疑いがある(例えば、睡眠障害の疑いが少しある))と判定することができる。クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比(バイオピリン/クレアチニン比)の値が増加すればするほど又は対照群の中央値よりも大きければ大きいほど、対象の睡眠障害の重症度は大きいと判定することができる。
【0065】
本発明者らは、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値が、アテネ不眠尺度(アテネ不眠スコア)と相関することを見出した。アテネ不眠尺度(AIS)とは、世界保健機関(WHO)が中心となって作られた世界標準の睡眠評価法である。当該評価法は、以下の表1に示す8項目において、過去1か月以内に少なくとも週3回以上経験したものを選び、最後に、各選択肢に付いている点数を合計することにより行われる。本明細書中において、該合計点を、アテネ不眠スコアとも呼ぶ。合計点が3点以下の場合は睡眠が取れていること、4~5点の場合は不眠症の疑いが少しあること、6点以上の場合は不眠症の可能性が高いことを示す。
【表1】
【0066】
幾つかの実施態様において、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値が、約1.0 unit/g未満、約1.3 unit/g未満、約1.5 unit/g未満、約1.75 unit/g未満、又は約2.0 unit/gの場合に対象は睡眠がとれている(アテネ不眠スコア3点以下程度)と判定することができる。幾つかの実施態様において、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値が、約1.0 unit/g~約3.5 unit/g、約1.3 unit/g~約3.2 unit/g、約1.5 unit/g~約3.0 unit/g、約1.75 unit/g~約2.8 unit/g、又は約2.0 unit/g以上~約2.5 unit/gの場合に、対象は睡眠障害の疑いが少しある(アテネ不眠スコア4点~5点程度)と判定することができる。幾つかの実施態様において、クレアチニンの量に対するバイオピリンの量の比の値が、約2.5 unit/g超、約2.8 unit/g超、約3.0 unit/g超、約3.2 unit/g超、又は約3.5 unit/g超えの場合に、対象は睡眠障害の可能性が高い(アテネ不眠スコア6点以上程度)と判定することができる。ここで、1 unitは,抗ビリルビンモノクローナル抗体24G7エピトープ1 μmol相当量を指す。上記数値は実施例の結果をベースとする。さらにサンプル数を増やすことにより、上記数値を修正することができる。
【0067】
本発明は、さらに、睡眠障害の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法を提供することができる。幾つかの実施態様において、睡眠障害の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(b)該対象に睡眠障害の治療薬又は予防薬の候補物質を投与する工程、(c)該候補物質が投与された後に該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、及び(d)工程(c)において測定されたバイオピリンの量を、工程(a)において測定されたバイオピリンの量と比較する工程を含む。工程(c)において測定されたバイオピリンの量が、工程(a)において測定されたバイオピリンの量よりも減少している場合、該候補物質は、睡眠障害の治療薬又は予防薬になり得る。工程(a)の前、及び工程(c)の前に、該対象から生体試料を得る工程を含むことができる。その他の態様は、本発明の判定方法において説明したとおりである。
【0068】
幾つかの実施態様において、睡眠障害の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(b)該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、(c)工程(b)において測定されたクレアチニンの量に対する工程(a)において測定されたバイオピリンの量の比の値を算出する工程、(d)該対象に睡眠障害の治療薬又は予防薬の候補物質を投与する工程、(e)該候補物質が投与された後に該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程、(f)該候補物質が投与された後に該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程、(g)工程(f)において測定されたクレアチニンの量に対する工程(e)において測定されたバイオピリンの量の比の値を算出する工程、及び(h)工程(g)において算出された比の値を、工程(c)において算出された比の値と比較する工程を含む。工程(a)及び工程(b)の順序は特に制限されない。工程(e)及び工程(f)の順序は特に制限されない。多くの実施態様において、工程(a)におけるバイオピリンの量が測定される生体試料と、工程(b)におけるクレアチニンの量が測定される生体試料とは、同じものである。多くの実施態様において、工程(e)におけるバイオピリンの量が測定される生体試料と、工程(f)におけるクレアチニンの量が測定される生体試料とは、同じものである。工程(g)において算出された比の値が、工程(c)において算出された比の値よりも減少している場合、該候補物質は、睡眠障害の治療薬又は予防薬になり得る。工程(a)の前及び/又は工程(b)の前、及び工程(e)及び/又は工程(f)の前に、該対象から生体試料を得る工程を含むことができる。その他の態様は、本発明の判定方法において説明したとおりである。
【0069】
幾つかの実施態様において、睡眠障害の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量及びクレアチニンの量を測定する工程、(b)工程(a)において測定された該クレアチニンの量に対する該バイオピリンの量の比の値を算出する工程、(c)該対象に睡眠障害の治療薬又は予防薬の候補物質を投与する工程、(d)該候補物質が投与された後に該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量及びクレアチニンの量を測定する工程、(e)工程(d)において測定された該クレアチニンの量に対する該バイオピリンの量の比の値を算出する工程、及び(f)工程(e)において算出された比の値を、工程(b)において算出された比の値と比較する工程を含む。工程(e)において算出された比の値が、工程(b)において算出された比の値よりも減少している場合、該候補物質は、睡眠障害の治療薬又は予防薬になり得る。工程(a)の前及び/又は工程(d)の前に、該対象から生体試料を得る工程を含むことができる。その他の態様は、本発明の判定方法において説明したとおりである。
【0070】
本発明は、さらに、睡眠障害の治療方法又は予防方法を提供することができる。幾つかの実施態様において、睡眠障害の治療方法又は予防方法は、本発明の睡眠障害の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法により得られた睡眠障害の治療薬又は予防薬を、睡眠障害の治療又は予防を必要とする対象に投与する工程を含む。その他の具体的な態様は、本発明の判定方法において説明したとおりである。
【0071】
本明細書中において、「増加」とは、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上、増加していることであり得る。本明細書中において、「対照群の中央値よりも大きい」とは、対照群の中央値よりも、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上大きいことであり得る。対象群の中央値は、既知の中央値を用いても、さらなる実験において測定した対照群から算出された中央値でもよい。
【0072】
本明細書中において、「減少」とは、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上、減少していることであり得る。
【0073】
本明細書中において、「変化がない」は、完全同一を意味するものではない。当業者に許容可能な変化、例えば、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、又は約1%以下程度の変化があってもよい。
【実施例
【0074】
(5.実施例)
以下に本発明の実施例を記載する。下記実施例は、本発明の特許請求の範囲に関する理解を深めるために記載しているものであり、本発明の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0075】
(実施例1)
被験者94人(男性:46人、女性:48人、平均年齢±標準偏差:36.1±7.1歳(22歳~49歳))にアテネ不眠尺度(問診:表1参照)を記入してもらい、その後、尿を採取した。レドックスアッセイ バイオピリンELISAキット96測定用(メタロジェニクス株式会社)を用いて、各尿中のバイオピリン濃度を測定した。また、LabAssay(TM)Creatinine(富士フイルム和光純薬(株))を用いて、各尿中のクレアチニン濃度を測定した。バイオピリン濃度をクレアチニン濃度で補正した(バイオピリン/クレアチニン比(unit/g)を算出した。)。ここで、1 unitは,抗ビリルビンモノクローナル抗体24G7エピトープ1 μmol相当量を指す。
尿中のバイオピリン濃度とアテネ不眠スコアとの相関関係について評価した結果、これらの間に正の相関があることが分かった(図1)。したがって、バイオピリン濃度の増減は、睡眠障害の指標として使用することができる。
【0076】
標準線アッセイ(用量反応線アッセイ)により評価したところ、バイオピリン/クレアチニン比とアテネ不眠スコアとは、yをバイオピリン/クレアチニン比(unit/g)、xをアテネ不眠スコア(点数)とした際に、以下の相関関係があることが分かった。
y = ax + b
(95%信頼区間)
a:0.5~2.74(推定値1.62)
b:-1.34~3.02(推定値0.84)
【0077】
上記から算出された式y = 1.62 x + 0.84より、アテネ不眠スコアとバイオピリン/クレアチニン比に、おおよそ以下の表2に示すような相関関係があることが分かった。
【表2】
図1