(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ガスケット及びガスケット用板材、並びに当該ガスケットが組み付けられたエンジン
(51)【国際特許分類】
F16J 15/12 20060101AFI20240327BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F16J15/12 K
F02F11/00 B
(21)【出願番号】P 2020175789
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】391061831
【氏名又は名称】三和パッキング工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】赤松 幹弘
(72)【発明者】
【氏名】国政 但
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-281289(JP,A)
【文献】特開平8-200505(JP,A)
【文献】特開平11-181401(JP,A)
【文献】特表2017-537861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/12
F02F 11/00
F16L 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の両面に膨張黒鉛シートが貼合わされてガスケット本体を形成し、
上記ガスケット本体がエンジン本体を構成する構成部品同士の接合部、あるいは補機と前記エンジン本体との接合部に介設されるとともに、
当該ガスケット本体には、前記エンジン本体に設けられた内部空間に対応するメイン貫通孔と、導通する導通体を通過許容するサブ貫通孔とを少なくとも備えたガスケットであって、
上記ガスケット本体において、少なくとも上記メイン貫通孔及び上記サブ貫通孔の周縁部にはビードが形成され、
上記膨張黒鉛シートのカーボンの坪量を40~70g/m
2に設定し、
上記膨張黒鉛シートのカーボン密度を1.4~1.7g/cm
3に設定した
ガスケット。
【請求項2】
上記膨張黒鉛シートの厚さを30~50μmに設定した
請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
上記基板の板厚を0.10~0.25mmに設定した
請求項1または2に記載のガスケット。
【請求項4】
上記ビードは、
ビード幅が1.0~1.6mm、且つビード高さが0.1~0.5mmに設定したフルビードである
請求項1~3の何れか一項に記載のガスケット。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のガスケットが、
前記エンジン本体を構成する構成部品同士の接合部、あるいは補機と前記エンジン本体との接合部に介設された
エンジン。
【請求項6】
基板の両面に膨張黒鉛シートが貼合わされてガスケット本体を形成し、
上記ガスケット本体がエンジン本体を構成する構成部品同士の接合部、あるいは補機と前記エンジン本体との接合部に介設されるとともに、
当該ガスケット本体には、前記エンジン本体に設けられた内部空間に対応するメイン貫通孔と、固定ボルトが貫通されるボルト孔と、
導通する第1導通体を通過許容する第1サブ貫通孔と、導通する第2導通体を通過許容する第2サブ貫通孔とが設けられるガスケット用板材であって、
上記ガスケット本体において、少なくとも上記メイン貫通孔及び上記サブ貫通孔の周縁部にはビードが形成され、
上記膨張黒鉛シートのカーボンの坪量を40~70g/m
2に設定し、
上記膨張黒鉛シートのカーボン密度を1.4~1.7g/cm
3に設定した
ガスケット用板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板の両面に膨張黒鉛シートが貼合わされてガスケット本体を形成し、エンジン本体を構成するシリンダブロックやシリンダヘッドなどの構成部品同士の接合部や、オイルポンプなどの補機とエンジン本体との接合部に介設されるガスケット及びガスケット用板材、並びに当該ガスケットが組み付けられたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジン本体を構成するシリンダブロックやシリンダヘッドなどの構成部品同士の接合部や、オイルポンプなどの補機とエンジン本体との接合部には、ガスケットが介設される。ガスケットとしては、シリンダヘッドガスケット、クランクケースガスケット、ヘッドカバーガスケットなどのエンジンガスケットやエキゾーストマニホールドガスケット、ターボチャージャーガスケットなどの補機ガスケットがあり、それぞれの接合部をシールしている。
【0003】
例えば、シリンダヘッドガスケットは、エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドの間に介設されて、シリンダブロック側のシリンダボア上端周縁とシリンダヘッド側の燃焼室下端周縁との間、並びに、シリンダブロックとシリンダヘッドとの取付け面における冷却水通路や潤滑油通路の孔縁部、さらにはシリンダヘッドボルトの周縁部などの封止箇所を封止している。
【0004】
従来、エンジンは、オイルパン、シリンダブロック、シリンダヘッド、シリンダヘッドカバーが、それぞれ高剛性な鋳鉄により高剛性に形成されており、このような鋳鉄製エンジンにおいて、ガスケットは、バネ鋼板に膨張黒鉛シートを貼合わせて封止箇所に面圧発生用のビード加工が形成されたもので充分封止することができた(特許文献1参照)。
なお、従来、上述の如きガスケットにおいて、膨張黒鉛シートの厚さが100μmで、カーボンの坪量が115g/m2で、かつ、カーボン密度が1.15g/cm3のものが存在していた。
【0005】
近年、車両の軽量化を目的として、オイルパン、シリンダブロック、シリンダヘッド、シリンダヘッドカバーを、アルミダイカストにより構成するいわゆるアルミエンジンが開発されており、このアルミエンジンは鋳鉄製のエンジンに対して剛性が低いため、各接合部をシールするガスケットとしては高い復元力を有するビードを備えたガスケットが必要となる。
【0006】
なお、復元力の高いビードを有するガスケットを形成する場合、一般的には、その強度向上を図るために上記膨張黒鉛シートにおけるカーボンの坪量(カーボンの平方メートル当りの重量)を増加させ、カーボンを高密度化することが考えられる。
【0007】
しかしながら、カーボンの坪量を増加させて高密度化すると、カーボンが多い分、油膨潤量が多くなり、油浸漬後にカーボンの圧縮破壊強度が低下し、いわゆる耐油性が悪化する。そのうえ、カーボンの坪量を増加させて高密度化すると、膨張黒鉛シートが脆性化して、靭性が低下するため、ビード加工時に、膨張黒鉛シートが剥がれ、さらには、カーボンの坪量の増加に伴って、ガスケット本体を構成するバネ鋼板に対する接着性も悪化するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、膨張黒鉛シートの耐油性を確保し、シート強度の向上を図ることができるガスケット及びガスケット用板材、並びに当該ガスケットが組み付けられたエンジンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、基板の両面に膨張黒鉛シートが貼合わされてガスケット本体を形成し、上記ガスケット本体がエンジン本体を構成する構成部品同士の接合部、あるいは補機と前記エンジン本体との接合部に介設されるとともに、当該ガスケット本体には、前記エンジン本体に設けられた内部空間に対応するメイン貫通孔と、導通する導通体を通過許容するサブ貫通孔とを少なくとも備えたガスケットであって、上記ガスケット本体において、少なくとも上記メイン貫通孔及び上記サブ貫通孔の周縁部にはビードが形成され、上記膨張黒鉛シートのカーボンの坪量を40~70g/m2に設定し、上記膨張黒鉛シートのカーボン密度を1.4~1.7g/cm3に設定したことを特徴とする。
またこの発明は、上述のガスケットが、前記エンジン本体を構成する構成部品同士の接合部、あるいは補機と前記エンジン本体との接合部に介設されたエンジンであることを特徴とする。
【0011】
さらにこの発明は、基板の両面に膨張黒鉛シートが貼合わされてガスケット本体を形成し、上記ガスケット本体がエンジン本体を構成する構成部品同士の接合部、あるいは補機と前記エンジン本体との接合部に介設されるとともに、当該ガスケット本体には、前記エンジン本体に設けられた内部空間に対応するメイン貫通孔と、導通する導通体を通過許容するサブ貫通孔とが少なくとも備えられたガスケット用板材であって、上記ガスケット本体において、少なくとも上記メイン貫通孔及び上記サブ貫通孔の周縁部にはビードが形成され、上記膨張黒鉛シートのカーボンの坪量を40~70g/m2に設定し、上記膨張黒鉛シートのカーボン密度を1.4~1.7g/cm3に設定したことを特徴とする。
【0012】
この発明により、カーボンの坪量を40~70g/m2に低減させたため、膨張黒鉛シートの耐油性を確保し、油浸漬後にカーボン強度が低下するという弱点を克服して、カーボンの圧縮破壊強度が向上する。
また、カーボンの坪量を低減させることで、ビード加工性が向上し、ビード形状の反力向上を図ることができる。
【0013】
さらに、膨張黒鉛シートのカーボン密度を従来の1.15g/cm3程度から1.4~1.7g/cm3に高密度化したため、摩擦係数を低減でき、エンジンの摩擦力低減に有効となり、かつ、上記範囲の密度とすることで、膨張黒鉛シートの強度が向上する。さらに、膨張黒鉛シートのカーボン密度を高密度化したため、傷付き性(傷つきにくさ)を向上することができる。
【0014】
詳しくは、カーボンの坪量が70g/m2を超過すると、カーボン量が多くなり、加工性が低下するとともに、脆性化、靭性低下、接着性の悪化を招く。またカーボンの坪量が40g/m2未満の場合には、カーボン量が過小となって、シール性などの膨張黒鉛シートの効果を充分に発揮できないおそれがある。
【0015】
一方で、カーボン密度が1.7g/cm3を超過すると膨張黒鉛シートの加工性が低下し、また、カーボン密度が1.4g/cm3未満の場合には、密度の過小に起因して、膨張黒鉛シートと基板の貼り合わせの加工性が低下するおそれがある。
【0016】
この発明の態様として、上記膨張黒鉛シートの厚さを30~50μmに設定してもよい。
この発明により、膨張黒鉛シートの厚さを30~50μmに設定することで、当該膨張黒鉛シートの強度が向上し、ビード加工性がさらに向上する。
【0017】
詳しくは、膨張黒鉛シートの厚さが50μmを超過すると、シート厚さが過大となって、ビード加工性が悪化する。また、膨張黒鉛シートの厚さが30μm未満の場合には、シール性などの膨張黒鉛シートの効果を発揮することができない。
さらに、上記膨張黒鉛シートの厚さを30~50μmに設定することで、膨張黒鉛シートの粉落ち性が、従来の厚みの膨張黒鉛シートに比べて改善される。
【0018】
またこの発明の態様として、上記基板の板厚を0.10~0.25mmに設定してもよい。
この発明により、基板の板厚が0.10~0.25mmに設定されるため、ビード形成時に膨張黒鉛シートを基板に追従させることができる。
【0019】
詳しくは、基板の板厚が0.10mm未満の場合には、ビードの十分な反発力が確保できず、基板の板厚が0.25mmを超過する場合には、基板の曲げ変形時に基板変位によって膨張黒鉛シートが割れるおそれがある。
【0020】
またこの発明の態様として、上記ビードは、ビード幅が1.0~1.6mm、且つビード高さが0.1~0.5mmに設定したフルビードであってもよい。
この発明により、膨張黒鉛シートが割れることなく、上記フルビードを形成することができる。
【0021】
詳しくは、ビード幅が1.6mmを超過し、且つビード高さが0.1mm未満の場合には、反発力が不充分となり、シール性が得られない。逆に、ビード幅が1.0mm未満、且つビード高さが0.5mmを超過すると、ビード形成時に膨張黒鉛シートが割れるおそれがある。
【0022】
この発明により、カーボンの坪量を40~70g/m2に低減させたため、膨張黒鉛シートの耐油性を確保し、油浸漬後にカーボン強度が低下するという弱点を克服して、カーボンの圧縮破壊強度が向上する。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、膨張黒鉛シートの耐油性を確保し、シート強度の向上を図ることができるガスケット及びガスケット用板材、並びに当該ガスケットが組み付けられたエンジンを提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】シリンダヘッドガスケット及びシリンダヘッドガスケット用板材の斜視図。
【
図2】シリンダヘッドガスケットのボア孔周辺のフルビードを示す断面図。
【
図3】シリンダヘッドガスケットを介設した状態のシリンダボア周辺の拡大断面図。
【
図4】ボルト孔、冷却水孔、潤滑油孔周辺のハーフビードを示す断面図。
【
図5】シリンダヘッドガスケットを介設した状態のボルト孔、冷却水孔、潤滑油孔周辺の拡大断面図。
【
図6】カーボン密度に対する引張り強さの特性を示す特性図。
【
図7】膨張黒鉛シートのカーボンの坪量に対する引張り強さの特性を示す特性図。
【
図8】膨張黒鉛シートのカーボンの坪量に対する引張り力の特性を示す特性図。
【
図9】膨張黒鉛シートのカーボンの坪量に対するビード剥がれ率の特性を示す特性図。
【
図10】膨張黒鉛シートのカーボンの坪量に対する油浸漬後の破壊強度の特性を示す特性図。
【
図11】膨張黒鉛シートのカーボンの坪量に対する摩擦係数の特性を示す特性図。
【
図12】油浸漬を行なわない常態条件下における圧縮特性を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の一実施形態を以下図面とともに説明する。
図1はシリンダヘッドガスケット及びシリンダヘッドガスケット用板材の斜視図を示し、
図2はシリンダヘッドガスケットのボア孔周辺のフルビードを示す断面図であり、
図3はシリンダヘッドガスケットを介設した状態のエンジンのシリンダボア周辺の拡大断面図を示している。
【0026】
また、
図4はボルト孔、冷却水孔、潤滑油孔周辺のハーフビードを示す断面図であり、
図5はシリンダヘッドガスケットを介設した状態のボルト孔、冷却水孔、潤滑油孔周辺の拡大断面図を示している。
【0027】
図1に示すように、シリンダヘッドガスケット1およびシリンダヘッドガスケット用板材1Bは、薄板状の平面視略長方形形状に形成され、エンジン90(
図3、
図5参照)の気筒列方向に相当する長手方向に3つのボア孔2を隣接させて配置するとともに、その周囲に複数のボルト孔3、潤滑油孔4且つ、冷却水孔5を配置している。
【0028】
なお、以下において、ボア孔2以外のボルト孔3、潤滑油孔4且つ、冷却水孔5をまとめて各種孔3,4,5とする。また、シリンダヘッドガスケット1およびシリンダヘッドガスケット用板材1Bにおけるボア孔2、ボルト孔3、潤滑油孔4且つ、冷却水孔5の数や配置はこれに限定されず、所望の数や配置に設定されればよい。
【0029】
ボア孔2は、エンジン90を構成するシリンダブロック91およびシリンダヘッド92の内部に形成されたシリンダボア93および燃焼室94に対応する形状に形成されている。このように3つのシリンダボア93を備えたシリンダヘッドガスケット1およびシリンダヘッドガスケット用板材1Bは、3気筒のエンジン90のシリンダヘッドガスケットおよびシリンダヘッドガスケット用板材である。
【0030】
ボルト孔3は、シリンダヘッド92とシリンダブロック91とを固定するシリンダヘッドボルトの貫通を許容する貫通孔である。冷却水孔5は、シリンダヘッド92とシリンダブロック91との内部に形成されたウォータジャケット(図示省略)を連通させ、ウォータジャケット内を循環するエンジン冷却水の通過を許容する貫通孔である。同様に、潤滑油孔4は、潤滑油であるエンジンオイルの通過を許容する貫通孔である。
【0031】
なお、
図5においては、シリンダヘッドボルト(図示省略)を挿通させる挿通孔と、エンジン冷却水を通過させる冷却水通路と、エンジンオイルを通過させるオイル通路と、を総称してシリンダブロック側孔部95およびシリンダヘッド側孔部96としている。
【0032】
また、
図1に示すように、上述の各ボア孔2、及び各種孔3,4,5の外周側には、ビード6(6F,6H)を形成している。
詳しくは、ボア孔2の径外側にはフルビード6Fを形成し、各種孔3,4,5の外側にはハーフビード6Hを形成している。
【0033】
図2に示すように、上述のフルビード6Fは、ボア孔2の隣接部から当該ボア孔2より離れる方向に向けて上方に立上がる傾斜部6aと、傾斜部6aの上端である頂点部6bから上記ボア孔2よりさらに離れる方向に向けて下方に下がる傾斜部6cとを有する。
【0034】
図4に示すように、上述のハーフビード6Hは、各種孔3,4,5の周縁部から離れる方向に略水平に向けて延びる水平部6dと、この水平部6dの反周縁部側端部6eから上記周縁部に対してさらに遠ざかる方向に傾斜状に下がる傾斜部6fとを有する。
但し、シリンダヘッドガスケット1の要求性能に応じて、ボア孔2の径外側にハーフビード6Hを形成してもよく、各種孔3,4,5の外側にフルビード6Fを形成してもよい。
【0035】
図2、
図4に示すように、上述のボア孔2、及び各種孔3,4,5(
図1参照)を備えたシリンダヘッドガスケット1は、基板7の両面に熱硬化性の接着剤を用いて膨張黒鉛シート8が貼合わされてガスケット本体10を形成している。
【0036】
シリンダヘッドガスケット1を
図3、
図5に示すように、エンジン90のシリンダブロック91とシリンダヘッド92との間に介設し、シリンダヘッドボルト(図示せず)で、シリンダブロック91とシリンダヘッド92を締付ける。このとき、ボア孔2と対応する部位においては、
図3に示すように、フルビード6Fの反発力が作用して、シリンダブロック91とシリンダヘッド92との間をシールする。また、各種孔3,4,5と対応する部位においては、
図5に示すように、ハーフビード6Hの反発力が作用して、シリンダブロック91とシリンダヘッド92との間をシールする。
【0037】
詳しくは、
図3に示すように、フルビード6Fによりシリンダブロック91側のシリンダボア93の外周縁部とシリンダヘッド92側の燃焼室94の外周縁部との間をシールする。
また、
図5に示すように、ハーフビード6Hによりシリンダブロック側孔部95の外周縁部とシリンダヘッド側孔部96の外周縁部との間をシールする。
【0038】
以下において、ガスケット本体10を構成する基板7について説明する。
上記基板7としてはステンレスバネ鋼板が用いられている。
ステンレスバネ鋼板としては、ビッカース硬さHv350~500で、引張り強度が1320N/mm以上のSUS-301Hが好ましい。これよりも高硬度のものではビード加工が困難となり、逆に低硬度のものではビードの耐久性が劣る。
【0039】
また、上記基板7の板厚t2は、0.10~0.25mmに設定される。これにより、ビード6の形成時に膨張黒鉛シート8を基板7に追従させることができる。
詳しくは、基板7の板厚t2が0.10mm未満の場合には、ビードの十分な反発力が確保できず、ビード力、つまり反発力の確保も困難となる。逆に、基板7の板厚が0.25mmを超過する場合には、基板7の曲げ変形時に基板7の変位によって膨張黒鉛シート8が割れるだけでなく、板厚t2の過大に起因して適切なビード加工が困難となる。
【0040】
続いて、ガスケット本体10に形成されたフルビード6Fについて説明する。
基板7の両面に膨張黒鉛シート8が貼合わされたガスケット本体10において、上記ボア孔2の周縁部にはフルビード6Fが形成される。
【0041】
上記フルビード6Fは、
図2に示すように、ビード幅Wが1.0~1.6mmに設定されており、ビード高さHが0.1~0.5mmに設定されている。これにより、膨張黒鉛シート8が割れることなく、充分な反発力を備えたフルビード6Fを形成することができる。
【0042】
詳しくは、フルビード6Fのビード幅Wが1.6mmを超過すると、充分な反発力が得られず、シール性が低下する。逆に、フルビード6Fのビード幅Wが1.0mm未満の場合には、フルビード6Fの形成時に膨張黒鉛シート8が割れるおそれがある。
【0043】
また、フルビード6Fのビード高さHが0.5mmを超過すると、フルビード6Fの形成時に膨張黒鉛シート8が割れるおそれがある。逆に、フルビード6Fのビード高さHが0.1mm未満の場合には、反発力が不充分となり、シール性が確保できない。
【0044】
次に、ガスケット本体10に膨張黒鉛シート8を貼り合わせる接着剤について説明する。
基板7の両面には接着剤を用いて膨張黒鉛シート8が貼合わされる。基板7の両面に塗工される接着剤としては、フェノール樹脂、ニトリル変性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂、フラン樹脂などの耐熱性が高い熱硬化性樹脂が用いられる。
【0045】
上記接着剤の塗工量は0.5~3.0g/m2とする。これにより接着力の確保と接着剤層の剥離防止との両立を図ることができる。
詳しくは、接着剤の塗工量が0.5g/m2未満の場合には充分な接着力が確保できず、塗工量が3g/m2を超過する場合には、熱伝導率と応力緩和率の低下を招くとともに、ビード6の加工時に接着剤層が剥離しやすくなる。
【0046】
上記接着剤は溶剤で溶かしてコーティングしてもよく、あるいは、粉体形状に形成して塗装してもよいが、この実施形態では、VOC(volatile organic compoundsの略で、揮発性有機化合物)排出量低減の観点により、基板7の両面に粉体を塗装する。
【0047】
続いて、ガスケット本体10に接着剤によって貼合わせる膨張黒鉛シート8について説明する。
膨張黒鉛シート8としては次のシートを用いる。
【0048】
すなわち、天然黒鉛、キッシュ黒鉛などの高度に結晶が発達した黒鉛を、濃硫酸と硝酸、濃硫酸と過酸化水素水、濃硫酸と過マンガン酸カリ等の混溶液に浸漬処理し、黒鉛層間化合物を形成させ、水洗処理して、急速加熱処理して黒鉛結晶のC軸方向に膨張した虫状形の膨張黒鉛を冷間成形したシートを用いる。
【0049】
上記膨張黒鉛シート8のカーボンの坪量は、40~70g/m2に設定する。
カーボンの坪量を従来の115g/m2から40~70g/m2に低減させることで、膨張黒鉛シートの耐油性を確保し、油浸漬後にカーボン強度が低下するという弱点を克服して、カーボンの圧縮破壊強度が向上する。
【0050】
また、カーボンの坪量を低減させることで、ビード6の加工性が向上し、ビード形状の反力向上を図ることができる。
詳しくは、カーボンの坪量が70g/m2を超過すると、カーボン量が過多となり、加工性が低下するとともに、脆性化、靭性低下、接着性の悪化を招く。また、カーボンの坪量が40g/m2未満の場合には、カーボン量が過小となって、シール性などの膨張黒鉛シート8の効果が発揮できなくなる。
【0051】
上記膨張黒鉛シート8のカーボン密度は、1.4~1.7g/cm3に設定する。
膨張黒鉛シート8のカーボン密度を、従来の1.15g/cm3程度から1.4~1.7g/cm3に高密度化することで、摩擦係数を低減でき、エンジン90の摩擦力低減に有効となり、かつ、カーボン密度を上記範囲内とすることで、膨張黒鉛シート8のシート強度が向上する。
【0052】
詳しくは、カーボン密度が1.7g/cm3を超過すると加工性が低下し、逆に、カーボン密度が1.4g/cm3未満の場合には、カーボン密度の過小に起因して、膨張黒鉛シート8と基板7の貼り合わせの加工性が低下する。
さらに、膨張黒鉛シート8のカーボン密度を高密度化したため、傷付き性(傷つきにくさ)を向上することができる。
【0053】
上記膨張黒鉛シート8の厚さt1は、30~50μmに設定することで、当該膨張黒鉛シート8の強度が向上し、ビード6の加工性がさらに向上するとともに、従来のシート厚さ100μmに対して厚さt1を30~50μmと成すことで、圧延ロール方式の量産装置によりシリンダヘッドガスケット1を形成することができる。
【0054】
詳しくは、膨張黒鉛シート8の厚さt1が50μmを超過すると、シート厚さが過大となって、ビード加工性が悪化し、逆に、膨張黒鉛シート8の厚さt1が30μm未満の場合には、シール性などの膨張黒鉛シート8の効果を発揮することができなくなる。
さらに、膨張黒鉛シート8の厚さを30~50μmに設定することで、膨張黒鉛シート8の粉落ち性が、従来の厚みの膨張黒鉛シート8に比べて改善される。
【0055】
次に、ガスケット本体10に対する各種の測定結果について説明する。
図6はカーボン密度(g/cm
3)が異なる複数のサンプルに対して引張り強さ(MPa)を測定した結果を示している。なお、カーボン密度以外の各条件(カーボンの坪量、膨張黒鉛シートの厚さt1、基板の板厚t2)については同等とした。
【0056】
図6に示すように、カーボン密度の増加に伴って、引張り強さが強くなる。カーボン密度が1.4g/cm
3の時、引張り強さは3.93MPaとなり、このカーボン密度1.4g/cm
3以上で充分な引張り強さが確保できた。
【0057】
図7はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対して引張り強さ(MPa)を測定した結果を示している。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1)については同等とした。
図7に示すように、カーボンの坪量の増加に伴って、引張り強さは漸増するものの、大きな変化がないことが確認できる。
【0058】
図8はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対して引張り力(Kg)を測定した結果を示している。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1)については同等とした。
図8に示すように、カーボンの坪量が多い程、引張り力が強くなるが、カーボンの坪量が40g/m
2未満の場合には、充分な引張り力が確保できないことが確認できる。
【0059】
図9はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対してビード6の剥がれ率(%)を測定した結果を示している。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1、基板の板厚t2、フルビードのビード幅Wおよびビード高さH)については同等とした。
【0060】
カーボンの坪量が多い程、
図7、
図8で示したように、引張り強さ、および、引張り力が向上する反面、カーボンの坪量が過多の場合には、ビード剥がれ率(フルビード6F部における膨張黒鉛シート8の剥がれ率)が大きくなることが確認できる。
【0061】
すなわち、
図9に示すように、カーボンの坪量が117g/m
2の場合には、ビード剥がれ率が50%と大きいが、カーボンの坪量を62g/m
2に低減させると、ビード剥がれ率は12%に減少し、カーボンの坪量を50g/m
2にさらに低減させると、ビード剥がれ率は0%となることが確認できる。
【0062】
図10はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対して油浸漬後の破壊強度(MPa)を測定した結果を示している。測定に際しては、サンプルを150℃のエンジンオイルに5時間浸漬し、浸漬後のサンプルに対して破壊強度を測定した。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1、基板の板厚t2)については同等とした。
【0063】
図10に示すように、カーボンの坪量が117g/m
2と過多の場合には、油浸漬後の破壊強度は50MPaと低い値であった。これに対して、カーボンの坪量が62g/m
2の場合、並びに、カーボンの坪量が50g/m
2の場合には、200MPaで破壊せず、
図10において矢印で示すように、油浸漬後の破壊強度は何れも200MPa以上の充分高い値であることが確認できる。
【0064】
図11はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対して摩擦係数を測定した結果を示している。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1、基板の板厚t2)については同等とした。
【0065】
図11に示すように、カーボンの坪量が117g/m
2と過多の場合には、摩擦係数は0.28と高い値であった。これに対して、カーボンの坪量が62g/m
2の場合には、摩擦係数は0.25と低い値になり、カーボンの坪量を50g/m
2にすると、摩擦係数は0.23とさらに低い値になることが確認できる。
【0066】
このように、摩擦係数が低下すると、シリンダヘッドボルトで締結されたシリンダブロック91、シリンダヘッド92の応力が下がり、変形が小さくなって、ピストンやシリンダボア93の変形が小さくなり、フリクションロス(friction loss、摩擦損失)の低減を図ることができることが確認できる。
【0067】
図12はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対して常態時(サンプルをエンジンオイルに浸漬しない状態下)の圧縮特性を確認した結果を示している。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1、基板の板厚t2)については同等とした。
【0068】
同図の特性は、横軸を圧縮量(mm)に設定し、縦軸を面圧(MPa)に設定して、カーボン坪量が50g/m
2のもの(特性a)と、カーボン坪量が65g/m
2のもの(特性b)と、カーボン坪量が115g/m
2のもの(特性c)との圧縮特性を示している。
図12に示すように、カーボン坪量が50、65、115g/m
2の何れのシリンダヘッドガスケット1においても、特性上の差異はあるものの、特に、問題点はなかった。
【0069】
図13はカーボンの坪量(g/m
2)が異なる複数のサンプルに対して油浸漬後の圧縮特性を確認した結果を示している。なお、カーボンの坪量以外の各条件(カーボン密度、膨張黒鉛シートの厚さt1、基板の板厚t2)については同等とした。
【0070】
同図の特性は、横軸に圧縮量(mm)をとり、縦軸に面圧(MPa)をとって、カーボン坪量が50g/m2のもの(特性d)と、カーボン坪量が65g/m2のもの(特性e)と、カーボン坪量が115g/m2のもの(特性f)との圧縮特性を示している。
【0071】
油浸漬の条件は、サンプルを150℃のエンジンオイルに5時間浸漬する条件とした。
図13に示すように、カーボン坪量が115g/m
2のものは、特性fで示すように、面圧50MPa付近で材料の座屈破壊が発生した。これに対して、カーボン坪量が50g/m
2、65g/m
2のもの(特性d、e)は、何れも、面圧が200MPaを超えても、破壊の変曲点が確認されず、材料の座屈破壊が認められない好ましい結果となった。
【0072】
なお、膨張黒鉛シート8に用いるカーボンの粒径は従来の粒径(50メッシュ、297μm)に対して、60~65%の微小粒径に設定されており、これにより、膨張黒鉛シート8の厚さt1を、充分薄く形成して、カーボン坪量の低減を図るように構成している。
【0073】
ここで、カーボンの粒径が従来の粒径297μmに対して65%を超える場合には、膨張黒鉛シート8の厚さt1を充分薄くすることができず、カーボンの坪量の確実な低減が困難となる。
逆に、カーボンの粒径が従来の粒径297μmに対して60%未満の場合には、シール性などの膨張黒鉛シート8の効果を充分に発揮できないおそれがある。
【0074】
上記構成のシリンダヘッドガスケット1はエンジン90のシリンダブロック91とシリンダヘッド92との間に介設される。エンジン90の燃焼室94で、混合気が爆発し、高温に温度上昇するシリンダボア93付近においては、シリンダヘッドガスケット1のボア孔2の周縁部に、基板7と一体構成され、シリンダブロック91およびシリンダヘッド92の両方に当接する膨張黒鉛シート8を備えることで、シリンダブロック91の熱を、膨張黒鉛シート8を介してシリンダヘッド92に熱伝達するものである。
【0075】
このような、シリンダヘッドガスケット1及びシリンダヘッドガスケット用板材1Bの作用効果について詳述すると、シリンダヘッドガスケット1は、基板7の両面に膨張黒鉛シート8が貼合わされてガスケット本体10を形成し、上記ガスケット本体10がシリンダブロック91とシリンダヘッド92との間に介設されるとともに、当該ガスケット本体10には、シリンダボア93に対応するボア孔2と、シリンダヘッドボルトが貫通されるボルト孔3と、エンジン冷却水を通過許容する冷却水孔5と、導通する潤滑油を通過許容する潤滑油孔4とを備えている。
【0076】
上記ガスケット本体10の上記ボア孔2および、各種孔3,4,5の周縁部には、ビード6が形成され、上記膨張黒鉛シート8の坪量を40~70g/m2に設定し、上記膨張黒鉛シート8のカーボン密度を1.4~1.7g/cm3に設定している。
【0077】
上記シリンダヘッドガスケット用板材1Bは、基板7の両面に膨張黒鉛シート8が貼合わされてガスケット本体10を形成し、上記ガスケット本体10がシリンダブロック91とシリンダヘッド92との間に介設されるとともに、当該ガスケット本体10には、シリンダボア93に対応するボア孔2と、シリンダヘッドボルトが貫通されるボルト孔3と、エンジン冷却水を通過許容する冷却水孔5と、導通する潤滑油を通過許容する潤滑油孔4とが設けられる。
【0078】
またシリンダヘッドガスケット用板材1Bは、上記ガスケット本体10の上記ボア孔2、各種孔3,4,5の周縁部には、ビード6が形成され、上記膨張黒鉛シート8の坪量を40~70g/m2に設定し、上記膨張黒鉛シート8のカーボン密度を1.4~1.7g/cm3に設定している。
【0079】
上記構成により、カーボンの坪量を従来の115g/m2から40~70g/m2に低減させ、これにより、膨張黒鉛シート8の耐油性を確保し、油浸漬後にカーボン強度が低下するという弱点を克服して、カーボンの圧縮破壊強度が向上する。
【0080】
詳しくは、上記カーボンは油に弱く、カーボンの坪量が過多の場合には、カーボンが多くの油を吸うことで、油浸漬後にカーボン強度が低下し、カーボンの圧縮破壊強度が低下するが、カーボンの坪量を115g/m2から40~70g/m2に低減させることで、カーボンが多くの油を吸いにくくし、圧縮破壊強度を向上させることができる。
【0081】
また、カーボンの坪量を低減させることで、ビード6の加工性が向上し、ビード形状の反力向上を図ることができる。
さらに、膨張黒鉛シート8のカーボン密度を従来の1.15g/cm3程度から1.4~1.7g/cm3に高密度化したため、摩擦係数を低減でき、エンジン90の摩擦力低減に有効となり、かつ、上記範囲のカーボン密度とすることで、膨張黒鉛シート8の強度が向上する。
【0082】
詳しくは、カーボンの坪量が70g/m2を超過すると、カーボン量が多くなり、加工性が低下するとともに、脆性化、靭性低下、接着性の悪化を招く。またカーボンの坪量が40g/m2未満の場合には、カーボン量が過小となって、シール性などの膨張黒鉛シート8の効果を充分に発揮できないおそれがある。
【0083】
一方で、カーボン密度が1.7g/cm3を超過すると膨張黒鉛シート8の加工性が低下し、また、カーボン密度が1.4g/cm3未満の場合には、カーボン密度の過小に起因して、膨張黒鉛シート8と基板7の貼り合わせの加工性が低下するおそれがある。
【0084】
さらに、膨張黒鉛シート8のカーボン密度を高密度化したため、傷付き性(傷つきにくさ)を向上することができる。
【0085】
また、上記膨張黒鉛シート8の厚さt1を30~50μmに設定したことにより、当該膨張黒鉛シート8の強度が向上し、ビード6の加工性がさらに向上する。
詳しくは、膨張黒鉛シート8の厚さt1が50μmを超過すると、シート厚さが過大となって、ビード6の加工性が悪化する。また、膨張黒鉛シート8の厚さt1が30μm未満の場合には、シール性などの膨張黒鉛シート8の効果を発揮することができない。
さらに、膨張黒鉛シート8の厚さを30~50μmに設定することで、膨張黒鉛シート8の粉落ち性が、従来の厚みの膨張黒鉛シート8に比べて改善される。
【0086】
さらに、上記基板7の板厚t2を0.10~0.25mmに設定したことにより、ビード6の形成時に膨張黒鉛シート8を基板7に追従させることができる。
詳しくは、基板7の板厚t2が0.10mm未満の場合には、基板7の強度が確保できないため、充分な反発力を有するビード6が形成できず、基板7の板厚t2が0.25mmを超過する場合には、基板7の曲げ変形時に基板7の変位によって膨張黒鉛シート8が割れるおそれがある。
【0087】
さらにまた、上記ビード6はフルビード6Fであって、当該フルビード6Fのビード幅Wを1.0~1.6mmに設定し、ビード高さHを0.1~0.5mmに設定したことにより、膨張黒鉛シート8が割れることなく、上記フルビード6Fを形成することができる。
【0088】
詳しくは、ビード幅Wが1.6mmを超過し、且つビード高さHが0.1mm未満の場合には、反発力が不充分となり、シール性が得られない。逆に、ビード幅Wが1.0mm未満、且つビード高さHが0.5mmを超過すると、フルビード6Fの形成時に膨張黒鉛シート8が割れるおそれがある。
【0089】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、この発明のガスケットは、シリンダヘッドガスケット1に対応し、
以下同様に、
構成部品は、シリンダブロック91及びシリンダヘッド92に対応し、
内部空間は、シリンダボア93に対応し、
メイン貫通孔は、ボア孔2に対応し、
ボルト孔は、ボルト孔3に対応し、
サブ貫通孔あるいは第1サブ貫通孔は、潤滑油孔4に対応し、
第2サブ貫通孔は、冷却水孔5に対応し、
ビードは、フルビード6F,ハーフビード6Hに対応し、
基板は、基板7に対応し、
膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛シート8に対応し、
ガスケット本体は、ガスケット本体10に対応し、
固定ボルトはシリンダヘッドボルトに対応し、
膨張黒鉛シートの厚さは、厚さt1に対応し、
基板の板厚は、板厚t2に対応し、
フルビードの幅は、ビード幅Wに対応し、
フルビードの高さは、ビード高さHに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0090】
例えば、上述の説明では、シリンダブロック91とシリンダヘッド92との接合部に介在させるシリンダヘッドガスケット1について説明したが、ガスケットとして、シリンダヘッド92とシリンダヘッドカバー(図示省略)との接合部に介在させるヘッドカバーガスケットや、シリンダブロック91とクランクケース(図示省略)との接合部に介在させるクランクケースガスケットであってもよい。
【0091】
さらには、ガスケットとして、エンジン90に装着されるエキゾーストマニホールドとエンジン90との間に介在させるエキゾーストマニホールドガスケットや、エンジン90に装着されるターボチャージャーとエンジン90との間に介在させるターボチャージャーガスケット等の補機ガスケットとして用いてもよい。
【0092】
殊に、補機ガスケットはエンジンガスケットに比べて傷付き性(傷つきにくさ)や粉落ち性が重要視されるが、膨張黒鉛シート8のカーボン密度を1.4~1.7g/cm3に高密度化するとともに、膨張黒鉛シート8の厚さを30~50μmに設定したガスケットの場合、膨張黒鉛シート8の傷付き性及び粉落ち性が向上するため、より好ましい。
【符号の説明】
【0093】
1…シリンダヘッドガスケット
1B…シリンダヘッドガスケット用板材
2…ボア孔
3…ボルト孔
4…潤滑油孔
5…冷却水孔
6…ビード
6F…フルビード
6H…ハーフビード
7…基板
8…膨張黒鉛シート
10…ガスケット本体
91…シリンダブロック
92…シリンダヘッド
93…シリンダボア