(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】菌類病原体を予防及び防除するための殺真菌剤
(51)【国際特許分類】
A01N 47/46 20060101AFI20240327BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20240327BHJP
A23B 7/154 20060101ALI20240327BHJP
A23L 2/44 20060101ALI20240327BHJP
A23L 3/3535 20060101ALI20240327BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20240327BHJP
A61K 31/26 20060101ALI20240327BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20240327BHJP
A61K 31/382 20060101ALI20240327BHJP
A61K 31/39 20060101ALI20240327BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20240327BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240327BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240327BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240327BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20240327BHJP
A61L 101/32 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
A01N47/46
A01N25/02
A23B7/154
A23L2/00 P
A23L3/3535
A61K8/46
A61K31/26
A61K31/381
A61K31/382
A61K31/39
A61L2/18
A01P3/00
A61P31/10
A61Q11/00
A61Q15/00
A61L101:32
(21)【出願番号】P 2020572855
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2019068336
(87)【国際公開番号】W WO2020011750
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-27
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520334410
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ローザンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ドゥベイ オルガ
(72)【発明者】
【氏名】ファルマー エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ナウラート クリスティアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジンドロ カティア
(72)【発明者】
【氏名】シュネー シルヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥベイ シルヴァイン
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-086414(JP,A)
【文献】特開平11-246319(JP,A)
【文献】特表2013-526604(JP,A)
【文献】特開2004-300143(JP,A)
【文献】特開2014-084297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 47/00-47/48
A01N 25/00-25/34
A23B 7/154
A23L 2/00
A23L 3/3535
A61K 8/46
A61K 31/26
A61K 31/381
A61K 31/382
A61K 31/39
A61L 2/18
A61L 101/32
A01P 3/00
A61P 31/10
A61Q 11/00
A61Q 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における菌類病原体の予防又は処置における、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン、1-(イソチオシアナトメチル)-3-(4-(メチルスルフィニル)ブチル)ベンゼン/1-(イソチオシアナトメチル)-3-(4-(メチルスルホニル)ブチル)ベンゼン
、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン/1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン
、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-7-(メチルスルフィニル)-ヘプタン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-6-(メチルスルフィニル)-ヘキサン、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-9-(メチルスルホニル)-ノナン、1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタン/1-イソチオシアナト-7-(メチルスルフィニル)-ヘプタン、1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタン/1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-7-(メチルスルフィニル)-ヘプタン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-9-(メチルスルフィニル)-ノナン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン、
又は、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン/1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタ
ンからなる群から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む組成物の使用。
【請求項2】
前記少なくとも2種の化合物の組み合わせが
、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン及び1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタンの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項3】
前記組成物が植物において対真菌毒性及び/又は静真菌性であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の組成物の使用。
【請求項4】
屋外での植物培養における、又は植物培養のインビトロでの実施のための請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項5】
食品又は飲料における抗カビ剤としての、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタンからなる2種の化合物の組み合わせを含む組成物の使用。
【請求項6】
経口衛生用品又はサニタリー用品における消毒薬組成物であって、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタンからなる2種の化合物の組み合わせを含む消毒薬組成物。
【請求項7】
前記経口衛生用品が、歯磨剤、トローチ剤、液体又は粉末の口腔洗浄薬、コーティング溶液、口臭予防剤、チューインガムの中から選択される請求項6に記載の消毒薬組成物。
【請求項8】
ヒト又は動物の患者において真菌症を予防又は治療する方法において使用するための、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタンからなる2種の化合物の組み合わせを含む、使用するための組成物。
【請求項9】
前記真菌症が、トリコフィトン・ルブルムの感染に起因する請求項8に記載の使用するための組成物。
【請求項10】
1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン、1-(イソチオシアナトメチル)-3-(4-(メチルスルフィニル)ブチル)ベンゼン/1-(イソチオシアナトメチル)-3-(4-(メチルスルホニル)ブチル)ベンゼン
、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン/1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン
、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-7-(メチルスルフィニル)-ヘプタン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-6-(メチルスルフィニル)-ヘキサン、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン/1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-9-(メチルスルホニル)-ノナン、1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタン/1-イソチオシアナト-7-(メチルスルフィニル)-ヘプタン、1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタン/1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-7-(メチルスルフィニル)-ヘプタン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-9-(メチルスルフィニル)-ノナン、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン/1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン、
又は、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン/1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタ
ンからなる群から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む殺真菌剤組成物。
【請求項11】
前記少なくとも2種の化合物の組み合わせが
、1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン及び1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタンの混合物であることを特徴とする請求項10に記載の殺真菌剤組成物。
【請求項12】
許容できる担体又は希釈剤と組み合わせた請求項10又は請求項11に記載の殺真菌剤組成物。
【請求項13】
前記殺真菌剤組成物が、担子菌門、接合菌門、卵菌門又は子嚢菌門を含む門から選択される植物菌類病原体に対して活性である請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の殺真菌剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブラナ目由来の植物抽出物又は類似の化学構造を明らかにする分子に由来する、幅広い範囲の抗真菌活性を有する生物殺真菌剤の分野に関する。特に、出願人らは、驚くべきことに、スルホニル及びスルフィニル含有脂肪族グルコシノレートの組み合わせ、それらの副生成物及び合成類似体の、広域の活性スペクトルを有する効率的な抗真菌性化合物としての新しい用途を提供した。
【背景技術】
【0002】
ヒトの人口は毎年増加し、2030年までに86億人に到達しようとしている。高いレベルの食物生産を維持するために、農業者は、1)高効率、手ごろなコストを有するが、環境及びヒトの健康に対する負の影響を示す化学殺虫剤;2)環境に対して有害な効果は有さないが低効率(既存の化学殺虫剤と比べて60%未満)及び高コストを示す生物殺虫剤、等の外的処理を使用する必要がある。このことは、多くの国々で生物殺虫剤を利用しやすくはないものにしており、高効率で手ごろなコストを示して環境にやさしい新規な有機処理を開発し市場に出す可能性を開く。
【0003】
過去数10年の間に、いくつかの生物学的アプローチ、例えばバチルス・スブチリス(枯草菌、Bacillus subtilis)及びトリコデルマ・ハルチアナム(Trichoderma harzanium)の適用が、実地でボトリティス・シネレア(B.cinerea)を予防するために開発されたが、それらは、その低効率に起因して農業であまり使われていない。
【0004】
西ヨーロッパの農業では、一般に使用される生物予防的な殺真菌剤は銅及び硫黄である。これらの殺真菌剤は、各沈殿後に再施用する必要があることに起因して、施用するのにコストがかかる。加えて、土壌中のこれらの金属の高い濃度は環境に対して負の影響を有する。
【0005】
結果として、環境に対してより配慮したものであることによるこれらの技術の代替方法、及び菌類病原体に対する非常に効率的な予防的処理を提供する必要がある。
【0006】
植物菌類病原体は、毎年深刻な食物喪失につながる農学的な処理のうちの1つである。菌類病原体の効率は、それらの簡単な自然界への分散、宿主表面への迅速な付着、及び植物への浸透を促す素早い発芽管発達が原因である。他方で、植物は、菌類病原体、例えば殺生菌に対するいくつかの防御機構を発達させた:a)病原体浸透の防止;b)活性酸素種のレベルの上昇;c)ジャスモン酸類、エチレン、サリチル酸及びアブサイシン酸等の防御ホルモンの誘導。さらには、いくつかの植物は、植物表面での真菌発育を防止し疾患形成を停止する対真菌毒性化合物を合成している。強い抗真菌活性を有する植物化合物の特定は、潜在的に、現存する化学処理を置き換えることができる新規な生物殺真菌剤の開発につながる可能性がある。
【0007】
アブラナ目は、広く分布し食物源として使用される経済的に重要な植物からなる。この植物の群は、独特の組の二次代謝産物 - グルコシノレートを有することが示された。過去数10年において、グルコシノレート類は、抗癌性、抗炎症性及び殺虫性を有することが示された。
【0008】
例えば特開平11-139949号公報(小川香料株式会社(OGAWA KORYO CO LTD))は、特定の[オメガ]-アルケニルイソチオシアネート化合物又は特定の[オメガ]-アルキルチオアルキルイソチオシアネート化合物を配合することにより、強い刺激臭がなく、高い閾値を有し、揮発性が低く、かつ優れた抗菌抗真菌活性を有する抗菌抗真菌剤を得る方法を開示する。式:CH2CH(CH2)mNCS[(m)=2~10]を有する[オメガ]-アルケニルイソチオシアネート化合物(例えば3-ブテニルイソチオシアネート)又は式:RS(CH2)n2NCS[(n)=1~10;Rは1~4Cアルキルである]を有する[オメガ]-アルキルチオアルキルイソチオシアネート化合物(例えばメチルチオメチルイソチオシアネート)が、食物の中に0.01~100ppm、好ましくは1~50ppmの量で、又は経口衛生剤の中に約0.01~100ppmの濃度で配合される。
【0009】
同様に、特開平11-246319号公報(小川香料株式会社(OGAWA KORYO CO LTD))は、特定の[オメガ]-アルキルスルフィニルアルキルイソチオシアネートを有効成分として使用することにより、刺激臭をほぼ緩和し、種々の飲料及び食品に応用することができる抗菌抗真菌剤を得る方法を開示する。この抗菌抗真菌剤は、式:R-S(O)-(CH2)n-NCS(nは1~10であり、Rは1~4Cアルキルである)によって表される[オメガ]-アルキルスルフィニルアルキルイソチオシアネートを含む。一実施形態では、このイソチオシアネートは、3-メチルスルフィニルプロピルイソチオシアネート、6-メチルスルフィニル-プロピルイソチオシアネート等である。nが7以下である式Iの化合物は、セイヨウワサビの香料成分の中に含まれるが、その含有量は低い。上記式の化合物は、式:CH3S-(CH2)n-NCSの[オメガ]-メチルチオアルキルイソチオシアネートを過酸化物で酸化することにより調製される。
【0010】
特開2000-086414号公報(金印わさび株式会社(KINJIRUSHI WASABI KK))は、セイヨウワサビの芳香成分を有効成分として含有する、とりわけ真菌から細菌までの広い範囲に及ぶ抗菌性スペクトルを示し、その芳香成分がごく微量であっても強い静菌作用及び抗菌作用を奏する抗菌剤を得る方法を開示する。この薬剤は、有効成分として、n-メチルスルホニルアルキルイソチオシアネートというセイヨウワサビの芳香成分と、n-メチルチオアルキルイソチオシアネート、n-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート、及びアリルイソチオシアネートからなる群から選択される1以上のセイヨウワサビの芳香成分とを含む。この薬剤は、有効成分として、n-メチルチオアルキルイソチオシアネート及びn-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートの両方というセイヨウワサビの芳香成分を含む。
【0011】
K.GILLIVER、「The Inhibitory Action of Antibiotics on Plant Pathogenic Bacteria and Fungi」、ANNALS OF BOTANY.、第10巻、第3号、1946年7月1日(1946-07-01)、271-282頁、XP55512767、GB ISSN:0305-7364、DOI:10.1093/oxfordjournals.aob.a083136は、土壌微生物と植物病原体との間の拮抗作用の例が長年認識されており、いくつかの例では、疾患防除の生物学的方法が作り上げられたと報告する。特定の抗生物質が真菌、細菌及び放線菌(アクチノマイセテス、Actinomycetes)の培養濾液から単離されており、そのうちのいくつかが植物病の原因生物に対して拮抗作用を有することが示されている。特に、ケイロリン(cheiroline)の抗真菌活性が開示されている。
【0012】
T Soteloらの「In vitro activity of glucosinolates and their degradation products against Brassica-Pathogenic bacteria and fungi」、Applied and Environmental Microbiology、2015年1月1日(2015-01-01)、432-440頁、XP55512754、DOI:10.1128/AEM.03142-14では、この研究の目的は、2種の細菌性(ザントモナス・カンペストリス・病原型カンペストリス(Xanthomonas campestris pv. campestris)及びシュードモナス・シリンゲ・病原型マキュリコラ(黒斑細菌病菌、Pseudomonas syringae pv. maculicola))のアブラナ属の病原体並びに2種の真菌性(アルテルナリア・ブラシカエ(Alternaria brassicae)及びスクレロティニア・スクレロティオラム(Sclerotinia scletoriorum))のアブラナ属の病原体のインビトロ増殖を抑制することに対する17種のグルコシノレート類(GSL)及びグルコシノレート加水分解生成物(GHP)及び異なるGSL富化アブラナ属作物の葉のメタノール抽出液の殺生物効果を評価することであった。GSL、GHP、及びメタノール性葉抽出物は、対照と比べて、試験した病原体の発達を阻害し、その効果は用量依存的であった。特に、この文献はスルフォラファン(sulorafane)の抗真菌活性を開示する。
【0013】
L DROBNICAらの「Antifungal activity of lsothiocyanates and related compounds」、APPLIED MICROBIOLOGY、第15巻、第4号、1967、701-709頁は、ビフェニル(群「A」)、スチルベン(「B」)、アゾベンゼン及びベンゼンアゾナフタレン(「C」)、ナフタレン(「D」)、並びにさらなる多環縮合芳香族炭化水素(「E」)のイソチオシアネート誘導体の抗真菌活性に関する研究の結果を提示する。全部で48種の検討された化合物から、A群及びD群の化合物においてのみ抗真菌活性が認められた。B、C、及びEの群の誘導体は、水に極めて不溶性であり、それらの分子は非常に大きく、結果として、それらは、おそらくは真菌の胞子又は菌糸体へ通過することができない。-NCS基はその反応性を示すことができないということを示唆された。特に、この文献は、グルコケイロリン(glucocheirolin)、グルコエリソリン(glucoerysolin)及びグルコベルテロイン(glucoberteroin)の抗真菌活性を開示する。
【0014】
独国特許出願公開第17 93 450 A1号明細書(PHILIPS NV)は、特定のチオシアネート、すなわちスルフィニル-メチレンチオシアネート又はスルホニル-メチレンチオシアネートを含有する殺真菌性組成物、及び植物をカビによる感染に対して準備し保護する方法に関する。
【0015】
しかしながら、環境に対して配慮したものであるが、より強い対真菌毒性効果を示し、かつより広い範囲の菌類病原体に対して活性である分子を提供するというニーズがまだ存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平11-139949号公報
【文献】特開平11-246319号公報
【文献】特開2000-086414号公報
【文献】独国特許出願公開第17 93 450 A1号明細書
【非特許文献】
【0017】
【文献】K.GILLIVER、「The Inhibitory Action of Antibiotics on Plant Pathogenic Bacteria and Fungi」、ANNALS OF BOTANY.、第10巻、第3号、1946年7月1日(1946-07-01)、271-282頁、XP55512767、GB ISSN:0305-7364、DOI:10.1093/oxfordjournals.aob.a083136
【文献】T Soteloら、「In vitro activity of glucosinolates and their degradation products against Brassica-Pathogenic bacteria and fungi」、Applied and Environmental Microbiology、2015年1月1日(2015-01-01)、432-440頁、XP55512754、DOI:10.1128/AEM.03142-14
【文献】L DROBNICAらの「Antifungal activity of lsothiocyanates and related compounds」、APPLIED MICROBIOLOGY、第15巻、第4号、1967、701-709頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、出願人らは、幅広い範囲の菌類病原体に対する強い対真菌毒性効果を顕すスルホニル含有脂肪族グルコシノレート及びスルフィニル含有脂肪族グルコシノレートの組み合わせを特定した。この物の組み合わせは、(微)生物殺真菌剤の新しいラインとして使用することができる。
【0019】
本発明の目的のうちの1つは、植物における菌類病原体の予防又は処置における、一般式Iから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む組成物の使用であって、
【化1】
式(I)中、
Zは、ニトリル(-CN)、チオシアネート(-SCN)又はイソチオシアネート(-N=C=S)を表し、
X、Yは、互いに独立に、孤立電子対又はOを表すが、ただしこの2つのX又はYのうちの少なくとも1つはOであり、
R
1、R
2は、互いに独立に、H、飽和の直鎖状、環状又は分枝状の(C
1~C
6)アルキルを表し、
A、Cは、互いに独立に、共有結合、飽和又は不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式若しくは分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表し、
Bは、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表すが、
ただし、A、B又はCのうちの少なくとも1つは共有結合とは異なり、かつ上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、
1)イソチオシアネートを表す少なくとも1つのZ基、及び/又は
2)上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は
3)少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ
を含むことを特徴とする組成物の使用を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、ヒト又は動物の患者において真菌症を予防又は治療する方法において使用するための、本発明の化合物の組み合わせを含む組成物を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、本発明の化合物の組み合わせを含む殺真菌剤組成物を提供することである。
【0022】
本発明は、上記の抗真菌剤、つまり当該殺真菌剤組成物を含有する食品、飲料又は経口衛生剤にも関する。
【0023】
本発明の他の目的及び利点は、以下の説明図を参照して進む以下の詳細な説明、及び添付の特許請求の範囲を概観すると当業者には明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、fad2-3子葉の表面上にある新しく特定された二次代謝産物を表す。(A)7-メチルスルホニル-ヘプチル-グルコシノレートの特性解析。分子式C
15H
29NO
11S
3(計算された質量494.0824、誤差0.1mDa)に対応するm/z 494.0823の(M-H)
-イオンが観察された。硫酸部分に典型的なm/z 96.9599の主要なフラグメントイオンも存在していた。分子式C
15H
29NO
11S
3に対して公知の化合物は報告されていないが、しかしながら得られたデータは、この代謝産物が、8-メチルスルホニル-オクチル-グルコシノレート(C
16H
31NO
11S
3)の15-炭素類似体であることになる、新しいグルコシノレートである7-メチルスルホニル-ヘプチル-グルコシノレートであることを強く示唆する。(B)WT及びfad2-3子葉及び最初の本葉の表面上に差次的に存在した新規なグルコシノレートの特定。7日齢の子葉及び14日齢の葉の表面からのイソプロパノール洗浄液の中の7-メチルスルホニル-ヘプチル-グルコシノレートの相対存在量。エラーバーは、各々約980本の実生苗のプールから得た4つの生物学的複製物の平均(±SD)を表す。対比較における統計的有意性はスチューデント(Student)検定によって評価された。
**p≧0.01;
***p≦0.001である。(C)7-メチルスルホニル-ヘプチル-グルコシノレートの化学構造。(D)7-メチルスルホニル-ヘプチル-イソチオシアネートの構造。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に記載される方法及び材料と類似又は等価な方法及び材料を本発明の実施又は試験で使用することができるが、好適な方法及び材料が以下に記載されている。本明細書中で言及されるすべての公開公報、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体を援用したものとする。本明細書で論じられる公開公報及び出願は、本願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中の記載には、本発明が、先行発明であるという理由からそのような刊行物に先行する権利がないということを認めるものと解釈されるものは何もない。加えて、それらの材料、方法及び例は、説明のためだけのものであり、限定することは意図されていない。
【0026】
矛盾する場合、定義を含めて本明細書が優先することになる。
【0027】
特段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の主題が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用する場合、本発明の理解を容易にするために、以下の定義が与えられる。
【0028】
用語「comprise(…を含む、備える)」は、include(…を含む、備える)の意味で一般に使用され、つまり1以上の特徴又は構成要素の存在を許容する。
【0029】
本明細書及び請求項で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて複数の指示対象を含む。
【0030】
いくつかの例における「1以上の」、「少なくとも」、「…が、これらに限定されない」又は他の類似の語句等の拡張する語及び語句の存在は、そのような拡張する語句が存在しなくてもよい場合により狭い場合が意図されているか又は必要とされるということを意味すると読まれるべきではない。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「被験体」又は「患者」は当該技術分野で十分に認識されており、本明細書中では、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、最も好ましくはヒトを含む哺乳動物を指すためにほとんど同義で使用される。いくつかの実施形態では、上記被験体は、処置(治療)の必要がある被験体又は疾患又は障害を抱える被験体である。しかしながら、他の実施形態では、上記被験体は、健康な被験体であることができる。この用語は、特定の年齢も性別も表さない。従って、雄であろうと雌であろうと、成人及び新生の被験体が包含されることが意図されている。
【0032】
用語「有効量」は、生理的な効果を得るために必要な量を指す。この生理的な効果は、1回の施用用量により、又は反復的な施用により成し遂げられてもよい。投与される投与量は、当然、公知の要因、例えば特定の組成物の生理学的な特徴、被験体の年齢、健康状態及び体重、症状の性質及び程度、併用療法の種類、処置の頻度、並びに望まれる効果によって変わってよく、当業者によって調整されることが可能である。
【0033】
「真菌」は、食物を外的に消化し、その細胞壁を通して栄養素を直接吸収する真核生物である。ほとんどの真菌は胞子によって繁殖し、菌糸と呼ばれる微視的な管状細胞からなる体(地衣体)を有する。真菌は従属栄養体であり、動物のように、自身の炭素及びエネルギーを他の生物から得る。いくつかの真菌は生きている宿主(植物又は動物)から自身の栄養素を得るので、生体栄養体(biotroph)と呼ばれる。他のものは死んだ植物又は動物から自身の栄養素を得るので、腐生生物(腐生菌)と呼ばれる。いくつかの真菌は生きている宿主に感染するが、自身の栄養素を得るために宿主細胞を殺す。これらは殺生菌と呼ばれる。
【0034】
本明細書中で「菌類病原体」とも呼ばれる「病原性真菌」は、植物、ヒト又は他の生物において疾患を引き起こす真菌である。およそ300種の真菌が、ヒトに対して病原性であることが知られている。ヒトに対して病原性である真菌の研究は、「医真菌学」と呼ばれる。真菌は真核生物であるが、多くの病原性真菌は微生物である。植物に対して病原性である真菌及び他の生物の研究は植物病理学と呼ばれる。
【0035】
全体ですべての公知の植物病の70%を占める植物病原性真菌には数千もの種がある。植物病原性真菌は寄生生物であるが、すべての植物寄生性真菌が病原体であるわけではない。植物寄生性真菌は、生きている植物宿主から栄養素を得るが、植物宿主は必ずしも何らかの症状を呈するわけではない。植物病原性真菌は、寄生生物であり、症状によって特徴づけられる疾患を引き起こす。
【0036】
「殺真菌剤」は、寄生性真菌又はそれらの胞子を死滅させる(本明細書中で、対真菌毒性と定義される)ために使用される殺生物性の化学的化合物又は生物有機体である。静真菌薬はそれらの増殖を阻害する。真菌は、農業において深刻な損害を引き起こし、収量、品質及び利益の重大な損失を生じる可能性がある。殺真菌剤は、動物又はヒトにおいて真菌症(真菌感染)と戦うために、農業及び医学の両方において使用される。卵菌は真菌ではないが、卵菌を防除するために使用される化学物質も殺真菌剤と呼ばれる。というのも、卵菌は植物に感染するために真菌と同じメカニズムを使用するからである。殺真菌剤は、接触性、層貫通性(translaminar)又は浸透性のいずれかであることができる。接触性殺真菌剤は、植物組織に取り込まれず、噴霧物が堆積した場所の植物だけを保護する。層貫通性殺真菌剤は、殺真菌剤を、上側の、噴霧された葉の表面から下側の噴霧されていない表面へ再分布する。浸透性殺真菌剤は、取り込まれて木部導管を通して再分布される。植物のすべての部分に移動する殺真菌剤はほとんどない。いくつかのものは局所的に浸透性であり、いくつかのものは上方向に移動する。
【0037】
「静真菌薬」は、(真菌を死滅させることなく)真菌の増殖を阻害する抗真菌剤である。fungistatic(静真菌薬、静真菌性の)との用語は、名詞及び形容詞の両方として使用されてもよい。静真菌薬は、農業、食品産業、塗料産業、及び医学で応用されている。
【0038】
植物における菌類病原体の予防又は処置における、一般式Iから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む組成物の使用であって、
【化2】
式(I)中、
Zは、ニトリル(-CN)、チオシアネート(-SCN)又はイソチオシアネート(-N=C=S)を表し、
X、Yは、互いに独立に、孤立電子対又はOを表すが、ただしこの2つのX又はYのうちの少なくとも1つはOであり、
R
1、R
2は、互いに独立に、H、飽和の直鎖状、環状又は分枝状の(C
1~C
6)アルキルを表し、
A、Cは、互いに独立に、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表し、
Bは、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表すが、
ただし、A、B又はCのうちの少なくとも1つは共有結合とは異なり、かつ上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、
1)イソチオシアネートを表す少なくとも1つのZ基、及び/又は
2)上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は
3)少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ
を含むことを特徴とする使用。
【0039】
好ましくは、芳香環は、オルト、メタ及びパラで置換されていてもよく、
シクロアルキル環は、種々の位置、及びその環に対してシス(cis)又はトランス(trans)の位置で置換されていてもよく、
脂肪族及び芳香族は、H、ハロゲン又はOMe基で置換されていてもよい。
【0040】
硫黄の一般的な酸化状態又は「酸化のレベル」は-2~+6にわたる。硫黄が還元も酸化もされていない場合、硫黄は6個の価電子を有する。当然、硫酸イオン、SO2-4、及び亜硫酸イオン、SO2-3では、硫黄原子はVI+及びIV+の形式酸化状態をとり、スルフィドでは-IIの形式酸化状態をとる。
【0041】
上記少なくとも2種の化合物の組み合わせ又は混合物については、上記炭素鎖残基-A-B-C-における長さが重要であるということが示唆される。この組み合わせは、1つの短鎖及び1つの長鎖、例えば最大6個の直鎖状の炭素原子を含む1つ及び最低7個の直鎖状の炭素原子を含む別の1つを含んでもよい。しかしながら、ある場合には、上記組み合わせは、同じ長さの炭素鎖残基-A-B-C-を有する少なくとも2種の化合物を含んでもよい。
【0042】
植物において菌類病原体を予防すること又は処置することに有効である本発明の組成物は、1)~3)に係る上記の基準のうちの1つを少なくとも満たすべきである。一般式Iから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせ又は混合物と、基準1)~3)を満たすこととは、単独で試験された単独の化合物と比べて予想外の相乗効果を示した。
【0043】
「相乗効果」は、2以上の因子の複合作用がそれらの個々の効果の和よりも大きいときに起こるということは通常受け入れられる。換言すれば、相乗効果は、2以上の因子の複合作用が、単独で使用される場合のそれらの因子の性能に基づいて予測されうるものよりも大きいときに起こると言われる。
【0044】
特に、本発明の組成物は、Zがニトリルを表す少なくとも1つの化合物とZがイソチオシアネートを表す1つの化合物との混合物である。
【0045】
あるいは、上記混合物は、Zがイソチオシアネートを表す少なくとも1つの化合物及びZがイソチオシアネートを表す1つの化合物に対応する。
【0046】
あるいは、上記混合物は、Zがイソチオシアネートを表す少なくとも1つの化合物及びZがチオシアネートを表す1つの化合物に対応する。
【0047】
あるいは、上記混合物は、Zがチオシアネートを表す少なくとも1つの化合物及びZがイソチオシアネートを表す1つの化合物に対応する。
【0048】
あるいは、上記混合物は、Xが孤立電子対を表しYが酸素を表す少なくとも1つの化合物並びにX及びYが酸素を表す少なくとも1つの化合物に対応する。
【0049】
あるいは、上記混合物は酸素を表すX及びYに対応する。
【0050】
あるいは、上記混合物は、Xが孤立電子対を表しYが酸素を表す少なくとも1つの化合物に対応する。
【0051】
あるいは、本発明の混合物では、Bが共有結合を表し、A及びCが互いに独立に、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C1~C8)アルキルを表す同じA/B/C式を有する少なくとも2種の化合物が選択される。
【0052】
好ましくは、本発明の混合物では、Bが共有結合を表し、A及びCが互いに独立に、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C1~C8)アルキルを表す異なるA/B/C式を有する少なくとも2種の化合物が選択される。
【0053】
用語「孤立電子対」は、別の原子とは共有されていない一対の価電子を指し、非結合対と呼ばれることがある。孤立電子対は原子の最外電子殻で見出される。孤立電子対はLewis構造を使用することにより特定することができる。それゆえ、2つの電子が対になっているが化学結合に使用されていない場合、電子対は孤立電子対と考えられる。従って、孤立電子対の電子の数+結合電子の数は、原子の周りの価電子の総数に等しい。単独の孤立電子対はアンモニアにおける窒素等の窒素基の中の原子に関して見出すことができ、2つの孤立電子対は水の中の酸素等のカルコゲン基の中の原子に関して見出すことができ、ハロゲンは、塩化水素におけるように3つの孤立電子対を持つことができる。
【0054】
「共有結合」は、分子結合とも呼ばれ、原子間の電子対の共有を伴う化学結合である。これらの電子対は共有対又は結合対として知られており、原子が電子を共有するとき、原子間での引力及び斥力の安定したバランスが共有結合として知られている。
【0055】
「イソチオシアネート」は、イソシアネート基の酸素を硫黄で置き換えることにより形成される化学基-N=C=Sである。植物由来の多くの天然のイソチオシアネートは、グルコシノレートと呼ばれる代謝産物の酵素による変換によって生成される。アリルイソチオシアネート等のこれらの天然のイソチオシアネートは、からし油としても知られる。人工イソチオシアネートであるフェニルイソチオシアネートは、アミノ酸配列決定のためにEdman分解において使用される。
【0056】
本明細書で使用する場合の用語「アルキル」は、飽和及び不飽和の脂肪族基を指し、1又は数個のハロゲンで置換されていてもよい直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基を含む。ある実施形態では、直鎖又は分岐鎖のアルキルは、その骨格に約30個以下の炭素原子(例えば、直鎖についてC1~C30、分岐鎖についてC3~C30)、又は約20個以下、例えば1~6個の炭素(低級アルキルと定義される)を有する。好ましくは、本発明のアルキルは、1~30個、より好ましくは1~20個、さらにより好ましくは1~12個、より好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、最も好ましくは1~4個の炭素原子を有し、直鎖状若しくは分枝状である。用語「C1~C6アルキル」は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル鎖を表す。例示的なC1~C6アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、neo-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられる。好ましくは、アルキルは、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-プロピル又はイソプロピル、エチル又はメチル等の低級アルキルである。
【0057】
低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル及び低級アルキニルにおける用語「低級」は、直鎖状又は分枝状に連結された6個以下の炭素原子の鎖を指す。
【0058】
用語「シクロアルキル」は、好ましくは5~14個の環炭素原子を有する、飽和若しくは部分飽和の、単環又は多環の炭素環式環を表す。例示的なシクロアルキルとしては、3~7個、好ましくは3~6個の炭素原子を有する単環式環、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等が挙げられる。例示的なシクロアルキルは、5~7個の炭素原子を含む飽和の炭化水素環構造である、C5~C7シクロアルキルである。
【0059】
用語「アルコキシル」は-O-アルキルを表す。アルコキシルの例は、酸素原子に結合した、1~6個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル鎖を表すC1~C6アルコキシルである。例示的なC1~C6アルコキシル基としては、メトキシル、エトキシル、プロポキシル、イソプロポキシル、ブトキシル、sec-ブトキシル、t-ブトキシル、ペントキシル、ヘキソキソル等が挙げられる。C1~C6アルコキシルは、その定義の中にC1~C4アルコキシルを含む。
【0060】
本明細書で使用する場合の用語「アリール」は、炭素環式若しくは複素環式の芳香族の5~14員の単環式又は多環式環を指す。例示的なアリールとしては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フリル、イソチアゾリル、フラザニル、イソオキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、ベンゾ[b]チエニル、ナフト[2,3-b]チアントレニル(thianthrenyl)、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、フェノキサチエニル、インドリジニル、イソインドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイミダゾリル、テトラヒドロキノリニル、シンノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、β-カルボリニル、フェナントリジニル、アクリジニル、ペリミジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、イソチアゾリル、フェノチアジニル、及びフェノキサジニルが挙げられる。
【0061】
用語「ハロゲン」は、塩素、フッ素、臭素又はヨウ素を表す。用語「ハロ」は、クロロ、フルオロ、ブロモ又はヨードを表す。
【0062】
用語「炭素環」は、芳香族若しくは飽和若しくは部分飽和の5~14員の単環式又は多環式環、例えば5員~7員の単環式又は7員~10員の二環式環であってすべての環員が炭素原子であるものを表す。
【0063】
用語「多環式」は、少なくとも2つの環が一緒に連結されている多環式環系を指す。本明細書で使用する場合、「多環式」は、任意の飽和度、芳香族、脂肪族であってもよく任意にヘテロ原子を含んでもよい任意の環系を指す。この系は、存在する環の数(例えば、2=二環式、3=三環式、4=四環式など)及び環が一緒に連結されている様式に従ってさらに分類されてもよい。
【0064】
(1)置換環系:これらの環系は共通の原子を有さない。これらの多環式系では、より小さい環をより大きい環の置換基とみなすことができる。例としてのみ示すと、ビフェニルは置換多環式環系である。
【0065】
(2)スピロ環系:スピロ環系は1つの共通の原子を共有する。従って、それらの環は1つの「点」で合わさる。連結する原子は、スピロ原子とも呼ばれ、最も多くは第四級炭素(「スピロ炭素」)である。例として、シクロヘキサン環及びシクロペンタン環からなるスピロ化合物は、スピロ[4.5]デカンと呼ばれる。
【0066】
(3)縮合環系:縮合環系は1つの共通の結合にある2つの共通の原子を共有し、従ってそれらの環は1つの辺を共有する。縮合多環式環系の例としては、ナフタレン、ベンゾフラン、インドール、ベンゾチオフェン、キノリン及びアントラセンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
(4)橋架け環系:橋架け環系は3つ以上の共通の原子を共有し、すなわち、橋架け環系は連結した環を含む。例として、アダマンタン、アマンタジン、ビペリデン、メマンチン、メテナミン、リマンタジン及びノルボルナンはすべて橋架け環系である。
【0068】
用語「スルホニル」は、-SO2-L5を表し、式中、L5は、好ましくはアルキル、アリール、シクロアルキル、複素環又はアミノである。このアルキル、アリール、シクロアルキル及び複素環は、すべて任意に置換されていてもよい。スルホニルの例は、スルホニル部分に結合した、1~4個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル鎖であるC1~C4アルキルスルホニルである。例示的なC1~C4アルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、sec-ブチルスルホニル、t-ブチルスルホニル等が挙げられる。
【0069】
上で示されたように、上記基の多くは置換されていてもよい。アルキル及びアリールについての置換基の例としては、メルカプト、チオエーテル、ニトロ(NO2)、アミノ、アリールオキシル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシル、及びアシル、並びにアリール、シクロアルキル、並びに飽和及び部分飽和の複素環が挙げられる。複素環及びシクロアルキルについての置換基の例としては、アルキル及びアリールについて上に列挙されたもの、並びにアリール及びアルキルが挙げられる。
【0070】
例示的な置換アリールとしては、独立にハロ、ヒドロキシ、モルホリノ(C1~C4)アルコキシカルボニル、ピリジル(C1~C4)アルコキシルカルボニル、ハロ(C1~C4)アルキル、C1~C4アルキル、C1~C4アルコキシ、カルボキシ、C1~C4アルコキシルカルボニル、カルバモイル、N-(C1~C4)アルキルカルバモイル、アミノ、C1~C4アルキルアミノ、ジ(C1~C4)アルキルアミノ、又は式-(CH2)a-R<7>の基(式中、aは1、2、3又は4であり、R<7>はヒドロキシ、C1~C4アルコキシ、カルボキシ、C1~C4アルコキシルカルボニル、アミノ、カルバモイル、C1~C4アルキルアミノ若しくはジ(Ci~C4)アルキルアミノである)から選択される1以上の置換基、好ましくは1~3個の置換基で置換されたフェニル環又はナフチル環が挙げられる。
【0071】
別の置換アルキルは、1~4個の炭素原子とそれに結合した1~3個のハロゲン原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル鎖を表すハロ(C1~C4)アルキルである。例示的なハロ(C1~C4)アルキル基としては、クロロメチル、2-ブロモエチル、1-クロロイソプロピル、3-フルオロプロピル、2,3-ジブロモブチル、3-クロロイソブチル、ヨード-t-ブチル、トリフルオロメチル等が挙げられる。
【0072】
別の置換アルキルは、1~4個の炭素原子とそれに結合したヒドロキシ基を有する直鎖状又は分枝状のアルキル鎖を表すヒドロキシ(C1~C4)アルキルである。例示的なヒドロキシ(C1~C4)アルキル基としては、ヒドロキシメチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシイソプロピル、4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0073】
さらに別の置換アルキルは、C1~C4アルキルチオ基が結合した直鎖状又は分枝状のC1~C4アルキル基であるC1~C4アルキルチオ(C1~C4)アルキルである。例示的なC1~C4アルキルチオ(C1~C4)アルキル基としては、メチルチオメチル、エチルチオメチル、プロピルチオプロピル、sec-ブチルチオメチル等が挙げられる。
【0074】
シクロアルキルは、独立にハロ、ハロ(C1~C4)アルキル、C1~C4アルキル、C1~C4アルコキシ、カルボキシ、C1~C4アルコキシルカルボニル、カルバモイル、N-(C1~C4)アルキルカルバモイル、アミノ、C1~C4アルキルアミノ、ジ(C1~C4)アルキルアミノ、又は構造-(CH2)a-R<7>を有する基(式中、aは1、2、3又は4であり、R<7>はヒドロキシ、C1~C4アルコキシ、カルボキシ、C1~C4アルコキシルカルボニル、アミノ、カルバモイル、C1~C4アルキルアミノ若しくはジ(C1~C4)アルキルアミノである)から選択される1、2又は3個の置換基で任意に置換されていてもよい。例示的な置換シクロアルキル基としては、3-メチルシクロペンチル、4-エトキシシクロヘキシル、5-カルボキシシクロ-ヘプチル、6-クロロシクロヘキシル等が挙げられる。
【0075】
二重結合は、原理上、E-配座又はZ-配座を有することができる。それゆえ、本発明の化合物は異性体混合物として、又は単一の異性体として存在してもよい。特定されていない場合、両方の異性体が意図されている。本発明の化合物が1つのキラル中心を含む場合、当該化合物は、単一の異性体(R若しくはS)として、又は異性体の混合物、例えばラセミ混合物として提供されてもよい。本発明の化合物が複数のキラル中心を含む場合、当該化合物は、鏡像異性体として純粋なジアステレオマーとして、又はジアステレオマーの混合物として提供されてもよい。
【0076】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも2種のイソチオシアネート化合物の組み合わせを含む組成物の使用を提供し、好ましくは、この少なくとも2種のイソチオシアネート化合物は、硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は、好ましくはC3~C9に含まれる、少なくとも炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さを有する。
【0077】
好ましくは、本発明は、植物における菌類病原体の処置の予防における、一般式I(上で定義されたとおり)から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む組成物の使用であって、
式(I)中、
Zは、イソチオシアネート(-N=C=S)を表し、
X、Yは、互いに独立にOを表し、
R1、R2は、互いに独立に、H、飽和の直鎖状又は環状の(C1~C6)アルキルを表し、
A、Cは、互いに独立に、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状又は環状の(C1~C8)アルキルを表すが、ただしA又はCのうちの少なくとも1つは共有結合とは異なり、
Bは、共有結合を表し、
炭素鎖残基-A-B-C-における長さはC3~C9である
使用を提供する。
【0078】
より好ましくは、本発明は、植物における菌類病原体の処置の予防における、以下の化合物を含む一覧から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む組成物の使用であって、
【化3】
【化4】
上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、
1)イソチオシアネートを表す少なくとも1つのZ基、及び/又は
2)上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は
3)少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ
を含み、
4)上記炭素鎖残基-A-B-C-における長さはC
3~C
9である
使用を提供する。
【0079】
好ましくは、植物における菌類病原体の予防又は処置において使用されるべき上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、8MSOH/8MSOOH;8ASOH/8ASOOH;8ESOH/8ESOOH;8CSOH/3MSOOH;8CSOH/7MSOH;8CSOH/3MSOH;8MSOOH/6MSOH;8MSOH/3MSOOH;8MSOH/7MSOH;8MSOH/6MSOH;8CSOH/8MSOH;8CSOH/3MSOOH;8MSOH/9MSOOH;8CSOH/7MSOH;8ESOH/7MSOH;8ESOH/3MSOH;8MSOOH/7MSOH;8MSOOH/9MSOH;8MSOOH/6MSOH;8CSOH/7MSOH;8MSOOH/3MSOH;8MSOOH/8MSOON又は8MSOOH/3MSOOHからなる群から選択される。
【0080】
さらにより好ましくは、植物における菌類病原体の予防又は処置において使用されるべき上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、7メチルスルホニルヘプチル及び(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2の混合物、又は8メチルスルホニルオクチルイソチオシアネート及び8メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートの混合物である。
【0081】
本発明の特定された化合物はいくつかの利点を提示し、それらは、環境的、植物的、保存的及び医学的な菌類病原体に対する対真菌毒性活性及び/又は静真菌活性を示す。
【0082】
さらに、本発明の特定された化合物は植物毒性を示さず、光の中で安定であり、植物に対して自由に施用することができる。
【0083】
本発明で使用される組成物は、菌類病原体に感染した果実、野菜及び切り花について、貯蔵設備の中で最低でも1週間、貯蔵寿命を延長することが示されている。使用される化合物(すなわち混合物)は、昆虫及びヒトに対しては毒性はないことが示された。本発明の組成物は、傷みやすい食品を追熟することに対して特定の影響を伴って容易に施用可能であり、追加の設置費用は必要ではない。本発明の組成物は、保管会社(すなわち、梱包のコストを低下させる)、木材産業、造園業者及び農業者にとって興味深い。
【0084】
従って、本発明の組成物は、植物における対真菌毒性剤として、及び/又は静真菌剤として使用されることができる。殺真菌剤として使用される本発明の組成物は、種々の植物又は植物科(宿主)を処置することにおいて大きな有効性を示した。実際、本発明の組成物は、ナス目、バラ目、ブドウ目、イネ目等を含む1400種を超える農学的に重要な作物又は植物を処置することに使用することができる。
【0085】
本発明の組成物は、植物のライフサイクルの任意の部分の間の植物の任意の部分とともに使用されてもよく、その例としては、種子、実生苗、植物細胞、植物、又は花が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明によれば、すべての植物及び植物部分を処置することができる。「植物」は、望ましい及び望ましくない野生植物、栽培品種及び植物品種(植物品種保護権又は育成者権によって保護されているか否かによらない)等のすべての植物及び植物個体群を意味する。栽培品種及び植物品種は、従来の繁殖及び育種の方法によって得ることができる植物であることができ、この従来の繁殖及び育種の方法は、倍加半数体、プロトプラスト融合、ランダム変異導入及び部位特異的変異導入、分子マーカー若しくは遺伝子マーカーの使用による等の1以上の生物工学的な方法によって、又は生体工学的及び遺伝子工学的方法によって支援又は補完されることができる。植物部分は、植物のすべての地上及び地中の部分及び器官、例えば新芽、葉、花及び根を意味し、これらとしては、例えば葉、針状葉、茎、枝、花、子実体、果実及び種子、並びに根、球茎及び地下茎が挙げられる。作物並びに栄養繁殖材料及び有性繁殖材料、例えば挿し穂、球茎、地下茎、匍匐茎及び種子も植物部分に属する。
【0087】
本発明の組成物によって保護されることが可能な植物のうち、以下のような主要な農作物が言及されてもよい:トウモロコシ、大豆、綿花、アブラナ属の油料種子、例えばセイヨウアブラナ(Brassica napus)(例えばキャノーラ)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)、カラシナ(B.juncea)(例えばカラシ(マスタード))及びアビシニアガラシ(Brassica carinata)、イネ、小麦、テンサイ、サトウキビ、エンバク、ライ麦、大麦、アワ(キビ)、ライ小麦、アマ(亜麻)、ブドウ、並びに種々の植物分類群の種々の果実及び野菜、例えばバラ科(Rosaceae)の各種(例えばリンゴ及びナシ等の仁果(pip fruit)、さらに核果、例えばアンズ、サクラ、アーモンド及びモモ、漿果、例えばオランダイチゴ)、リベシオイダエ科(Ribesioidae)の各種、クルミ科各種(Juglandaceae)の各種、カバノキ科(Betulaceae)の各種、ウルシ科(Anacardiaceae)の各種、ブナ科(Fagaceae)の各種、クワ科(Moraceae)の各種、モクセイ科(Oleaceae)の各種、マタタビ科(Actinidaceae)の各種、クスノキ科(Lauraceae)の各種、バショウ科(Musaceae)の各種(例えばバナナの木及びバナナ園(banana trees and plantings))、アカネ科(Rubiaceae)の各種(例えば、コーヒー)、ツバキ科(Theaceae)の各種、アオギリ科(Sterculiceae)の各種、ミカン科(Rutaceae)の各種(例えばレモン、オレンジ及びグレープフルーツ);ナス科(Solanaceae)の各種(例えばトマト、ジャガイモ、トウガラシ、ナス)、ユリ科(Liliaceae)の各種、キク科(Compositiae)の各種(例えば、レタス、チョウセンアザミ及びチコリー(これは、ルートチコリー(root chicory)、エンダイブ(キクヂシャ)又はキクニガナを包含する))、セリ科(Umbelliferae)の各種(例えば、ニンジン、パセリ、セロリ及びセルリアック)、ウリ科各種(Cucurbitaceae sp.)(例えば、キュウリ(これは、ピックルキュウリ(pickling cucumber)、カボチャ、スイカ、ヒョウタン及びメロンを包含する)、ネギ科(Alliaceae)の各種(例えばタマネギ及びリーキ)、アブラナ科(Cruciferae)の各種(例えば、白キャベツ、赤キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、タイサイ、コールラビ、ラディッシュ、セイヨウワサビ、クレソン、ハクサイ)、マメ科(Leguminosae)の各種(例えば、ラッカセイ、エンドウ及びインゲンマメ(例えば、クライミングビーン(climbing beans)及びソラマメ))、アカザ科(Chenopodiaceae)の各種(例えば、マンゴルド(mangold)、フダンソウ(spinach beet)、ホウレンソウ、ビートルート)、アオイ科(Malvaceae)(例えば、オクラ)、キジカクシ科(Asparagaceae)(例えば、アスパラガス);園芸作物及び森林作物(forest crops)、観賞用の植物及び花(切り花を含む);草、すなわちゴルフ場、芝地、並びにこれら作物の遺伝子組み換えが行われた相同物。
【0088】
例えば、本発明の組成物は、農作物、果樹及び野菜におけるうどんこ病、さび病、べと病、及び炭疸病等の一般の真菌病を防除するために使用することができる。
【0089】
加えて、本発明の組成物は、抵抗性の病気の処置のために、主に小麦うどんこ病、イネイモチ病、イネ黒穂病、メロンうどんこ病、トマトうどんこ病、リンゴさび病、スイカ炭疸病及び花のうどんこ病の防除のために使用することができる。さらに、当該組成物は、キュウリべと病、ブドウべと病、黒星病(赤カビ病)、炭疸病、及び斑点落葉病に対して非常に良好な防除効果を有する。
【0090】
本発明の特定の実施形態では、本発明の組成物は、菌類病原体によって引き起こされる樹木の病気、例えばバナナのパナマ病、トネリコ立ち枯れ病(ash dieback)の処置又は予防において使用することができる。
【0091】
さらに、本発明の組成物は、植物培養において屋外で直接使用することができるだけでなく、インビトロで例えば植物培養の実施のために使用することができる。
【0092】
驚くべきことに、殺真菌剤として使用される本発明に係る組成物は、4つの異なる門、8つの異なる綱及び14個の異なる目からの少なくとも43種の菌類病原体(下記リストを参照)に対して極めて活性であることが見出されている。
【0093】
【0094】
【0095】
特に、本発明の組成物は、担子菌門(Basidiomycota)、接合菌門(Zygomyceta)、卵菌門(Oomycota)又は子嚢菌門(Ascomycota)を含む門から選択される植物菌類病原体に対して有効であることが示されている。
【0096】
例えば、本発明の組成物は、以下の植物菌類病原体に対して特に有効であることが示されている:ボトリティス・シネレア、コレトトリカム・グラミニコーラ(Colletotrichum graminicola)、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、スクレロティニア・スクレロティオラム(Sclerotiana sclerotiorum)、バーティシリウム・ダーリエ(Verticillium dahlia)、ミコスファエレラ・グラミニコラ(Mycospharella gramincola)及びスファセロテカ・レリアナ(Sphacelotheca reliana)。
【0097】
別の実施形態では、本発明の組成物(上で定義された一般式Iに係る)は、食品又は飲料において抗カビ剤として使用することができる。本発明は、上記の抗真菌剤を含有する食品及び飲料並びに経口衛生剤にも関する。
【0098】
特に、本発明の抗真菌剤又は抗カビ剤(antimycotic agent)は、食品の腐敗及び真菌又は病原体による汚染を防止するために、食品又は飲料に添加することができる。
【0099】
本発明の特定の実施形態では、本発明の組成物は、有利なことに、植物菌類病原体の発育を予防することによる、果実及び野菜の貯蔵寿命の延長のために、食品小売店によって使用されることが可能である。例えば、本発明の組成物は、野菜、漿果、果実又は切り花の貯蔵寿命を少なくとも1週間延長することができる。
【0100】
好ましくは、添加量は、上記食品に対して0.01~100ppmの範囲である。より好ましくは1~50ppmである。
【0101】
本発明の抗真菌剤が配合されるべき食品及び飲料の例としては、魚加工品、魚類ソーセージ、ハム、魚肉ソーセージ及びハム、すり身製品、魚類及び甲殻類の乾燥品、くん製品、明太子等の塩魚、塩漬けの魚、エビ半固体海産物;ハム、ソーセージ、ベーコン及びひき肉製品等の畜肉製品;サラダ、ハンバーガー、肉入り蒸し団子、煮豆等の調理済み食品、白菜、キュウリ、キムチ等の野菜の漬け物、サツマイモ、タタミディッシュ(tatami dish)、及びロータスローズマリー(lotus rosemary);甘味料及びスープ等の調味液;みそ及びしょうゆ等の香辛料;生の又はゆでたそば麺、うどん、パスタ等の麺類、フルーツジュース、炭酸飲料、茶、乳飲料、乳酸菌飲料、コーヒー、ココア、豆乳等の種々の飲料;果実及び野菜、粉ミルク、発酵乳、バター、チーズ、アイスクリーム、クリーム等の乳製品、キャラメル、キャンディー、チューインガム、ジャム、マーガリン等が挙げられる。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明の抗カビ剤組成物は、8MSOH/8MSOOH;8ASOH/8ASOOH;8ESOH/8ESOOH;8CSOH/3MSOOH;8CSOH/7MSOH;8CSOH/3MSOH;8MSOOH/6MSOH;8MSOH/3MSOOH;8MSOH/7MSOH;8MSOH/6MSOH;8CSOH/8MSOH;8CSOH/3MSOOH;8MSOH/9MSOOH;8CSOH/7MSOH;8ESOH/7MSOH;8ESOH/3MSOH;8MSOOH/7MSOH;8MSOOH/9MSOH;8MSOOH/6MSOH;8CSOH/7MSOH;8MSOOH/3MSOH;8MSOOH/8MSOON又は8MSOOH/3MSOOHからなる群から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む。
【0103】
さらにより好ましくは、本発明の抗カビ剤組成物は、7メチルスルホニルヘプチル及び(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2の混合物又は8メチルスルホニルオクチルイソチオシアネート及び8メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートの混合物からなる少なくとも2種の組み合わされた化合物を含む。
【0104】
さらに別の実施形態では、本発明の組成物(上で定義された一般式Iに係る)は、経口衛生用品又はサニタリー用品における消毒薬として使用することができる。
【0105】
好ましくは、この経口衛生用品は、歯磨剤、トローチ剤、液体又は粉末の口腔洗浄薬、コーティング溶液、口臭予防剤、チューインガムの中から選択される。
【0106】
本発明の抗カビ剤が配合される経口衛生剤の剤形は、液体調製物、固体調製物、及び半固体の薬剤のいずれであってもよく、歯磨剤、トローチ剤、液体又は粉末の口腔洗浄薬、コーティング溶液、口臭予防剤、チューインガム等であってよい。
【0107】
さらには、本発明の消毒薬は、まな板等の台所用品、歯ブラシ等の洗浄用具、筆記具、消しゴム及びノート等の文房具、ハンドル及びシート等の自動車内装品等の下着製品等の衣類、ワードプロセッサや冷蔵庫等の家電製品、畳マット及び壁紙等の室内装飾材料等の、いわゆる抗真菌性の物品(グッズ)等の各種製品に使用することができる。すなわち、上記抗カビ剤は、上記商品の製造段階で原料に練り込まれて混合されるか、又は必要に応じて界面活性剤等の補助剤がこの溶媒とともに製品表面に添加される。塗布またはスプレーとして噴霧して施用する。液体製剤またはスプレー製剤は、公衆トイレ(sanitary shed)、便座、浴室タイル用消毒薬及び防カビ剤として施用することができる。さらには、紙または布などの液体吸収性支持体に液体配合剤を含浸させることによって、消毒用クリーナーまたはウェットティッシュなどのサニタリー用品として応用することもできる。
【0108】
好ましい実施形態では、本発明の消毒薬組成物は、8MSOH/8MSOOH;8ASOH/8ASOOH;8ESOH/8ESOOH;8CSOH/3MSOOH;8CSOH/7MSOH;8CSOH/3MSOH;8MSOOH/6MSOH;8MSOH/3MSOOH;8MSOH/7MSOH;8MSOH/6MSOH;8CSOH/8MSOH;8CSOH/3MSOOH;8MSOH/9MSOOH;8CSOH/7MSOH;8ESOH/7MSOH;8ESOH/3MSOH;8MSOOH/7MSOH;8MSOOH/9MSOH;8MSOOH/6MSOH;8CSOH/7MSOH;8MSOOH/3MSOH;8MSOOH/8MSOON又は8MSOOH/3MSOOHからなる群から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む。
【0109】
さらにより好ましくは、本発明の消毒薬組成物は、7メチルスルホニルヘプチル及び(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2の混合物、又は8メチルスルホニルオクチルイソチオシアネート及び8メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートの混合物からなる少なくとも2種の組み合わされた化合物を含む。
【0110】
有利なことに、本発明の組成物は、細菌感染、真菌感染、酵母感染及び/又はウイルス感染からなるリストから選択される微生物感染の処置(治療)又は予防のためにも使用することができる。
【0111】
本発明の一実施形態によれば、細菌感染はグラム陽性感染又はグラム陰性感染を含む。
【0112】
特に、細菌感染又は酵母感染は、シュードモナス・エルジノーサ(緑膿菌、Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、クレブシエラ肺炎桿菌、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、枯草菌、エンテロバクター・エロゲネス、シトロバクター・フロインディ(C.freundii)、ブドウ球菌の各種、連鎖球菌の各種、エンテロコッカス属(Enterococcus)の各種、プロテウス属(Proteus)の各種、カンジダ属(Candida)の各種、アポフィソマイセス属(Apophysomyces)の各種、アスペルギルス属(Aspergillus)、ケカビ属(Mucor)の各種、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphymonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)又はアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)の感染である。
【0113】
ヒト又は動物の患者において真菌症を予防又は治療する方法において使用するための、一般式Iから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む組成物であって、
【化5】
式(I)中、
Zは、ニトリル(-CN)、チオシアネート(-SCN)又はイソチオシアネート(-N=C=S)を表し、
X、Yは、互いに独立に、孤立電子対又はOを表すが、ただしこの2つのX又はYのうちの少なくとも1つはOであり、
R
1、R
2は、互いに独立に、H、飽和の直鎖状、環状又は分枝状の(C
1~C
6)アルキルを表し、
A、Cは、互いに独立に、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表し、
Bは、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表すが、
ただし、A、B又はCのうちの少なくとも1つは共有結合とは異なり、
上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、
1)イソチオシアネートを表す少なくとも1つのZ基、及び/又は
2)上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は
3)少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ
を含むことを特徴とする組成物を提供することが本発明の別の目的である。
【0114】
好ましくは、当該組成物は医薬組成物である。
【0115】
本発明に係る医薬組成物は、ヒト又は動物の真菌病、例えば、真菌症、ツボかび感染(Bd;Bs)、皮膚病、白癬菌性疾患及びカンジダ症又はアスペルギルス属の各種、例えばアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)によって引き起こされる疾患等を治療的に又は予防的に処置するために有用な医薬の調製のために使用することができる。
【0116】
本発明の一実施形態では、上記真菌症は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)又はトリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum)の感染に起因する。
【0117】
特に、本発明の抗真菌剤は、義歯性口内炎の原因となる酵母のうちの1つであると考えられるカンジダ・アルビカンスに対する優れた抗菌活性を有するため、本発明の抗真菌剤が従来の方法に従って経口衛生剤に配合されれば、カンジダ属感染は有効に予防され治療されることが可能である。
【0118】
さらに、本発明の抗真菌剤は、アルコール等の他の抗菌剤、セージ及びローズマリー等の香辛料材料、クエン酸、乳酸、酢酸等の有機酸などと組み合わせて使用することができる。
【0119】
好ましい実施形態では、ヒト又は動物の患者において真菌症を予防又は治療するための本発明の抗真菌剤は、8MSOH/8MSOOH;8ASOH/8ASOOH;8ESOH/8ESOOH;8CSOH/3MSOOH;8CSOH/7MSOH;8CSOH/3MSOH;8MSOOH/6MSOH;8MSOH/3MSOOH;8MSOH/7MSOH;8MSOH/6MSOH;8CSOH/8MSOH;8CSOH/3MSOOH;8MSOH/9MSOOH;8CSOH/7MSOH;8ESOH/7MSOH;8ESOH/3MSOH;8MSOOH/7MSOH;8MSOOH/9MSOH;8MSOOH/6MSOH;8CSOH/7MSOH;8MSOOH/3MSOH;8MSOOH/8MSOON又は8MSOOH/3MSOOHからなる群から選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む。
【0120】
より好ましくは、ヒト又は動物の患者において真菌症を予防又は治療するための上記方法において使用されるべき上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、7メチルスルホニルヘプチル及び(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2の混合物、又は8メチルスルホニルオクチルイソチオシアネート及び8メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートの混合物である。
【0121】
一般式Iから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む殺真菌剤組成物であって、
【化6】
式(I)中、
Zは、ニトリル(-CN)、チオシアネート(-SCN)又はイソチオシアネート(-N=C=S)を表し、
X、Yは、互いに独立に、孤立電子対又はOを表すが、ただしこの2つのX又はYのうちの少なくとも1つはOであり、
R
1、R
2は、互いに独立に、H、飽和の直鎖状、環状又は分枝状の(C
1~C
6)アルキルを表し、
A、Cは、互いに独立に、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表し、
Bは、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状、環状、スピロ環式、二環式、多環式又は分枝状の(C
1~C
8)アルキル、C
6-アリールを表すが、
ただし、A、B又はCのうちの少なくとも1つは共有結合とは異なり、
上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、
1)イソチオシアネートを表す少なくとも1つのZ基、及び/又は
2)上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は
3)少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ
を含むことを特徴とする組成物を提供することが本発明のさらに別の目的である。
【0122】
好ましくは、当該殺真菌剤組成物は、
Zは、イソチオシアネート(-N=C=S)を表し、
X、Yは、互いに独立にOを表し、
R1、R2は、互いに独立に、H、飽和の直鎖状又は環状の(C1~C6)アルキルを表し、
A、Cは、互いに独立に、共有結合、飽和若しくは不飽和の直鎖状又は環状の(C1~C8)アルキルを表すが、ただしA又はCのうちの少なくとも1つは共有結合とは異なり、
Bは、共有結合を表し、
上記炭素鎖残基-A-B-C-における長さはC3~C9である
一般式Iから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含む。
【0123】
特定の実施形態では、本発明の殺真菌剤組成物は、少なくとも2種のイソチオシアネート化合物の組み合わせを含み、好ましくは上記少なくとも2種のイソチオシアネート化合物は、上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ、好ましくはC3~C9に含まれる長さを有する。
【0124】
より好ましくは、本発明の殺真菌剤組成物は、以下の化合物を含む一覧から選択される少なくとも2種の化合物組み合わせを含み、
【化7】
【化8】
上記少なくとも2種の組み合わされた化合物は、
1)イソチオシアネートを表す少なくとも1つのZ基、及び/又は
2)上記硫黄原子の少なくとも2つの異なる酸化のレベル、及び/又は
3)少なくとも上記炭素鎖残基-A-B-C-における異なる長さ
を含み、
上記炭素鎖残基-A-B-C-における長さはC
3~C
9である。
【0125】
好ましくは、本発明に係る殺真菌剤組成物の少なくとも2種の組み合わされた化合物は、8MSOH/8MSOOH;8ASOH/8ASOOH;8ESOH/8ESOOH;8CSOH/3MSOOH;8CSOH/7MSOH;8CSOH/3MSOH;8MSOOH/6MSOH;8MSOH/3MSOOH;8MSOH/7MSOH;8MSOH/6MSOH;8CSOH/8MSOH;8CSOH/3MSOOH;8MSOH/9MSOOH;8CSOH/7MSOH;8ESOH/7MSOH;8ESOH/3MSOH;8MSOOH/7MSOH;8MSOOH/9MSOH;8MSOOH/6MSOH;8CSOH/7MSOH;8MSOOH/3MSOH;8MSOOH/8MSOON又は8MSOOH/3MSOOHからなる群から選択される。
【0126】
さらにより好ましくは、上記殺真菌剤組成物の少なくとも2種の組み合わされた化合物は、7メチルスルホニルヘプチル及び(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2の混合物、又は8メチルスルホニルオクチルイソチオシアネート及び8メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートの混合物である。
【0127】
特に、本発明の殺真菌剤組成物は、担子菌門、接合菌門、卵菌門、子嚢菌門を含む門から選択される植物菌類病原体に対して有効であることが示されている。
【0128】
例えば、本発明の殺真菌剤組成物は、以下の植物菌類病原体に対して特に有効であることが示されている:ボトリティス・シネレア、コレトトリカム・グラミニコーラ、フザリウム・オキシスポラム、スクレロティニア・スクレロティオラム、バーティシリウム・ダーリエ、ミコスファエレラ・グラミニコラ及びスファセロテカ・レリアナ。
【0129】
本発明の一実施形態では、本発明の殺真菌剤組成物は、許容できる担体又は希釈剤と組み合わせて、すなわち噴霧剤で施用される。
【0130】
本発明の殺真菌剤組成物は、施用のために水、又は別の液体で希釈することができる濃縮処方物であることが多いであろう。ある実施形態では、当該殺真菌剤組成物は、さらなる処理なしで噴霧又は施用される粒子又は粒剤へと処方されることも可能である。
【0131】
好ましくは、本発明で使用される担体又は希釈剤は植物学的に許容できるものである。
【0132】
本明細書で使用する場合、用語「植物学的に許容できる」処方物は、植物のライフサイクルの任意の部分の間の植物の任意の部分とともに使用するために一般に施用可能である組成物、希釈剤、賦形剤、及び/又は担体を指し、植物の任意の部分の例としては、種子、実生苗、植物細胞、植物、又は花が挙げられるが、これらに限定されない。この処方物は、農業分野で従来の手順、方法及びやり方に従って調製することができる。本発明の教示に従って、農学分野及び/又は化学分野の当業者は、所望の組成物を容易に調製することができる。最も一般的には、本発明の殺真菌剤組成物は、ニートで調製されるか若しくはその組成物の濃縮配合物から調製された水性若しくは非水性の懸濁液若しくはエマルションとして保存、及び/又は施用されるように処方されることが可能である。水溶性、水懸濁性又は乳化性の処方物は、固体(例えば、湿潤可能な粉末)に変換されるか又はそのような固体として処方されることも可能であり、この固体は、後で最終の処方物へと希釈されることが可能である。特定の処方物では、本発明の殺真菌剤組成物は、増殖培地、例えば、植物又は他の種類の細胞の増殖のためのインビトロ培地の中で、実験室の植物増殖培地の中で、土壌中で、又は種子、実生苗、根、茎、柄、葉、花若しくは植物全体に噴霧するために提供されることも可能である。
【0133】
これらの植物学的に許容できる処方物は、例えば、任意に乳化剤及び/又は分散剤、及び/又は泡形成剤である界面活性剤を使用して、本発明の殺真菌剤組成物を、液体溶媒、加圧下の液化ガス及び/又は固体担体である増量剤と混合することにより、公知の様式で製造される。使用される増量剤が水である場合、補助溶媒として、例えば有機溶媒を使用することも可能である。実質的に、好適な液体溶媒としては、キシレン、トルエン若しくはアルキルナフタレン等の芳香族、クロロベンゼン、クロロエチレン若しくは塩化メチレン等の塩素化芳香族炭化水素若しくは塩素化脂肪族炭化水素、シクロヘキサン又はパラフィン、例えば石油留分等の脂肪族炭化水素、ブタノール若しくはグリコール等のアルコール及びそれらのエーテル若しくはエステル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン若しくはシクロヘキサノン等のケトン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド等の強極性溶媒、又は他に水が挙げられる。液化ガス状の増量剤又は担体は、常温及び大気圧下でガス状である液体、例えばブタン、プロパン、窒素及び二酸化炭素等のエアロゾル噴霧剤を意味すると理解されるべきである。好適な固体担体は、例えば、カオリン、クレー、タルク、胡粉、石英、アタパルジャイト、モンモリロナイト又は珪藻土等の挽いた天然鉱物、及び微粉化されたシリカ、アルミナ及びケイ酸塩等の挽いた合成鉱物である。顆粒用の好適な固体担体は、例えば、方解石、大理石、軽石(粉)、セピオライト及び苦灰石(ドロマイト)等の粉砕して分画した天然石、又は無機物及び有機物他の合成顆粒、並びにおがくず、ヤシ殻、トウモロコシの穂軸及びタバコの柄等の有機材料の顆粒である。好適な乳化剤及び/又は泡形成剤は、例えば、非イオン性乳化剤及びアニオン性乳化剤、例えばポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、例えばアルキルアリールポリグリコールエーテル,アルキルスルホネート,アルキルスルフェート、アリールスルホネート、又はタンパク質加水分解生成物である。好適な分散剤は、例えば、リグニン-亜硫酸廃液及びメチルセルロースである。
【0134】
本発明に係る殺真菌剤組成物は、エアロゾルディスペンサー、カプセル懸濁液、冷煙霧剤(cold fogging concentrate)、散粉性粉剤(dustable powder)、乳剤、水中油型エマルション、油中水型エマルション、カプセル化粒剤(encapsulated granule)、細粒剤(fine granule)、種子処理用流動性濃厚剤(flowable concentrate)、ガス剤(加圧下)、ガス生成剤、粒剤、温煙霧剤(hot fogging concentrate)、大型粒剤、微粒剤、油分散性粉剤、油混和性流動性濃厚剤、油混和性液剤、ペースト剤、植物用棒状剤(plant rodlet)、乾燥種子処理用粉剤、農薬粉衣種子(seed coated with a pesticide)、可溶性濃厚剤、可溶性粉剤、種子処理用溶液剤、懸濁液剤(suspension concentrate)(流動性濃厚剤)、微量(ULV)散布用液剤、微量(ULV)散布用懸濁液剤、水分散性顆粒剤、水分散性錠剤、泥水処理用水分散性顆粒剤、水溶性顆粒剤、水溶性錠剤(water soluble tablet)、種子処理用水溶性粉剤(water soluble powder for seed treatment)、及び、水和性粉剤(wettable powder)等の種々の形態で使用することができる。これらの組成物には、処理対象の植物又は種子に対して噴霧装置又は散粉装置等の適切な装置により施用される状態にある組成物のみではなく、作物に対して施用する前に希釈することが必要な市販の濃厚組成物も包含される。
【0135】
本発明の好ましい実施形態では、当該組成物は、超音波噴霧器を有する貯蔵設備の中で果実及び野菜に具体的に施用することができる。超音波噴霧器は、水を非常に小さい液滴(<10um)へと砕くために超音波を使用しており、水を空気中へ濃い冷煙(すなわち、沸騰水から生じたものではない)として噴霧する装置である。超音波噴霧器及びシステムの例は、すなわち、以下の米国特許に記載されている:米国特許第4,042,016号明細書;米国特許第4,058,253号明細書;米国特許第4,118,945号明細書;米国特許第4,564,375号明細書;米国特許第4,667,465号明細書;米国特許第4,702,074号明細書;米国特許第4,731,990号明細書;米国特許第4,731,998号明細書;米国特許第4,773,846号明細書;米国特許第5,454,518号明細書;米国特許第6,854,661号明細書。通常は、超音波噴霧器は、前面に排出口を備える軸方向孔を有する略円筒形の本体と、上記孔に結合されたガス供給口及び液体供給口と、湾曲した凸状の輪郭を有する上記前面の少なくとも一部分であって、この前面は、上記孔の排出口を取り囲む平らな中央環状領域を有する一部分と、上記孔の排出口末端から離間しそれと反対側にある共振器とを備える。そのような装置は、温室内の湿度レベルを制御するため、気耕栽培において栄養素を植物に送達するため、又は室内で最適な湿度レベルを作り出すために一般に使用されている。
【0136】
出願人らは、この技術が、貯蔵施設における果物及び野菜の鮮度の延長のために使用される製品(例えば、天然の殺真菌剤)に適用するために使用することができるということを実証した。この技術は、果物及び野菜のパッケージのためにスプレー又は他の施用法によって適用される処理を用いることができない(すなわち、果物及び野菜が、例えば、容器に貯蔵されるため、又はスプレーが果物及び野菜を損傷する可能性があるため、容易に直接スプレーすることができない)それら果物及び野菜を、効率的に処理することを可能にする。
【0137】
興味深いことに、本出願人らは、平均5ミクロン(5μm)で1~10μmを含む大きさの液滴で構成された15kgの霧を1時間あたりに発生する工業用MHS15超音波加湿器(http://www.mainlandmart.com/humidify.html)を使用して、30m3の貯蔵設備において果物及び野菜について有効性試験を行った。粉末によって表される本発明の組成物を、試験した植物種に応じて、400~600μMの投与量で噴霧器の水容器に添加した。粉末を水に溶解し、冷蒸気の形態で果実に施用した。出願人らは、全ての処理された作物上での製品の均等な分布、及びパッケージの以前は接近不可能な部分への容易な接近を確認した。
【0138】
本発明に係る殺真菌剤組成物はまた、1種以上の殺虫剤、駆除薬、誘引剤、減菌剤、殺菌剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、他の殺菌剤、成長調節剤、除草剤、肥料、毒性緩和剤、情報物質、除香剤又は生物活性を有する他の化合物と混合することもできる。このようにして得られた混合物は、通常、広範な活性スペクトルを有する。他の殺真菌化合物との混合物は、特に有利である。
【0139】
殺菌性化合物との混合物を含む本発明に係る殺真菌剤組成物もまた、特に有利であり得る。適切な殺菌剤混合相手の例は、以下のリストで選択することができる:ブロノポール、ジクロロフェン、ニトラピリン、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル、カスガマイシン、オクチリノン、フランカルボン酸、オキシテトラサイクリン、プロベナゾール、ストレプトマイシン、テクロフタラム、硫酸銅及び他の銅調製物。
【0140】
本発明に係る処置(治療)において通常施用される当該殺真菌剤組成物の用量は、一般に、及び有利には、葉の処置における施用については10~800g/ha、好ましくは50~300g/haである。種子処置の場合には、施用される殺真菌剤組成物の用量は、一般に、及び有利には、種子100kgあたり2~200g、好ましくは種子100kgあたり3~150gである。
【0141】
本明細書に示される用量は、本発明に係る処置方法の具体例として与えられることが明らかに理解される。当業者は、特に、処置される植物又は作物の性質に従って、施用の用量をどのように適応させるかを知っているであろう。
【0142】
グルコシノレートは、農学的に重要なアブラナ科を含むフウチョウソウ目に存在する硫黄及び窒素を含有する二次代謝産物である。これまでにおよそ200種のグルコシノレートについて記載された。これらはすべて、そのアミノ酸前駆体に基づいて、3つの主要なグループ、すなわち脂肪族グルコシノレート、インドール系グルコシノレート及び芳香族グルコシノレートに細分化することができる。植物におけるこれらの代謝産物の役割は完全には理解されていないが、しかしながら、これらの代謝産物は、草食動物、いくつかの真菌病原体(Schreiner及びKoide、1993)及び細菌病原体(Dufourら、2015)に対する防御応答に関与することが示された。グルコシノレートは、そのまま(無傷)の形態では活性ではないが、しかしながら、組織損傷(例えば、草食動物の攻撃)の間、それらは、3つの主要な生物活性化合物、ニトリル、チオシアネート、及びイソチオシアネートにミロシナーゼ酵素によって分解される。3つの活性化合物はすべて、大きな群の植物病原体に対して毒性であることが示された(Lambrixら、2001)。本研究では、出願人らは驚くべきことに、真菌病原体に対する毒性において、脂肪族グルコシノレート、特に、メチルスルホニル及びメチルスルフィニル直鎖アルキル鎖化合物(CH3S(O)2(CH2)n)の新しい役割を明らかにした。
【0143】
この目的のために、本出願人らは、上皮組成において影響を受けたシロイヌナズナ(アラビドプシス・タリアナ、Arabidopsis thaliana)変異体を選択し、現在まで効率的な有機処理が存在しない第2の農学的に重要な菌類病原体であるボトリティス・シネレアを用いて真菌毒性アッセイを行った。得られた結果に基づくと、以下の変異体はボトリティス・シネレアに対する強い耐性を明らかにした:脂肪酸不飽和化酵素変異体(fad2;fad3-2 fad7-2 fad8)、CYP77ファミリーに属するチトクロームP450/上皮隆起において防御的(cyp77 dcr)、グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ/透過性上皮1(gpat6 pec1)、及びグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(gpat4 gpat8)ダブルノックアウト変異体。選択した変異体はすべて、子葉段階のみ(fad変異体)、又は実生苗と成体の段階の両方(cyp77 dcr;gpat6 pec1;gpat4 gpat8二重変異体)でボトリティス・シネレアに対して強い抵抗を示した。これらの植物における真菌耐性につながるものを理解するために、分子生物学、顕微鏡法及び生化学などの多様なアプローチを用いた。ボトリティス・シネレア耐性に関与する現在公知のメカニズム、すなわちホルモン変化、より高いROSレベル及び表面修飾、についての試験は、ボトリティス・シネレア耐性を完全に説明することができなかった。これらの結果は、出願人を、植物表面上の有望な抗真菌化合物を特定するための表面メタボロミクスアプローチの使用に導く。この技術の助けにより、出願人らは、異なる上皮変異体の表面に強く豊富に存在する2つの化合物を特定することができた:出願人の知るところではシロイヌナズナ植物においてこれまでに特定されていなかった7-メチルスルホニル-ヘプチルグルコシノレート(fad2変異体の子葉上)、及び8-メチルスルホニル-オクチルグルコシノレート(fad3-2 fad7-2 fad8の子葉上及びgpat6 pec1変異体の葉上)。最初に特定された化合物の一般構造に焦点を当てることにより、出願人は、脂肪族グルコシノレートの2つの主要な群及び真菌抵抗に強く関与するそれらの混合物の特定を導いた。
【0144】
当業者は、本明細書に記載された発明に対し、具体的に記載されたもの以外の変形及び変更が可能であるということはわかるであろう。本発明は、その趣旨又は本質的特徴から逸脱しないそのようなすべての変形及び修正を含むことが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において参照又は示される工程、特徴、組成物及び化合物のすべてを、個々に又は集合的に、並びに上記工程若しくは特徴の任意の及びすべての組み合わせ又は任意の2つ以上を含む。それゆえ、本開示は、例示された、限定的ではない全ての態様において考慮されるべきであり、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、均等の意味及び範囲内にある全ての変更は、本発明に包含されることが意図される。
【0145】
上述の説明は、以下の実施例を参照してより十分に理解される。しかしながら、そのような実施例は、本発明を実施する方法の例示であり、本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0146】
材料及び方法
野生型(WT)植物として、シロイヌナズナ系統Columbia-0(Col-0)を用いた。Col-0バックグラウンドにおける以下の対立遺伝子をArabidopsis Biological Resource Centre(ABRC)から受け取った:fad2-1(CS8041)、fad2-3(SK18137)、fad2-1 fad6及びfad2-3 fad6をこの研究における単一変異体の交配により得た。二重変異体gpat4 gpat8は、Frederic Beissonによって好意により提供され、fad3-2 fad7-2 fad8種子は、John Browseによって提供され、cyp77 dcr及びgpat6 pec1二重変異体は、Christiane Nawrath博士によって好意により提供された。植える前に、種子を40℃で2日間、土中で保存し、次いで、用途に応じた光期間(実生苗による実験:14時間明、10時間暗(長日);種子繁殖のための土壌上:24時間明、連続日中)を用いて100μE m-2s-1の光で21℃で成長させた。
【0147】
実験に使用した実生苗を、0.5g/LのMES水和物(Sigma(シグマ)、ブッフス(Buchs)、スイス)及び0.7%植物寒天(Sigma、ブッフス(Buchs)、スイス)を補充した半量(1/2)Murashige及びSkoog固形培地(0.5×MS、2.15g/L、pH5.7;Duchefa Biochemie(ドゥヒェファ・バイオヘミー)、ハーレム(Haarlem)、オランダ)で増殖させた。土中保存後、種子を、均一な苗発芽及び成長のための固体支持体を提供するためのナイロン(登録商標)メッシュ(孔径200μm;製品番号AH03444、Lanz-Anliker AG(ランツ・アンリカー)、ロールバッハ(Rohrbach)、スイス)上に置いた。全ての化学物質は、特記しない限り、Sigma-Aldrich(シグマアルドリッチ)から入手した。
【0148】
ボトリティス・シネレアを用いたインビボ真菌バイオアッセイ
本研究では、2株のボトリティス・シネレアを用いた:それぞれChristiane Nawrath博士及びMichael Hahn教授によって提供されたBMM及びB05.10。上記真菌をジャガイモデキストロース寒天(PDA)上で10日間増殖させた。分生子を濾過し、1/2量ジャガイモデキストロースブロス(PDB)中で5×105胞子/μlに希釈した。2μlのこの懸濁液をペトリ皿で生育した7日齢のシロイヌナズナの子葉に施用した。感染した実生苗を長日条件下で48時間インキュベーションした。
【0149】
インビトロ真菌バイオアッセイ
メチルスルホニル及びメチルスルフィニルニトリル及びチオシアネートを、SpiroChem(スピロケム)(バーゼル(Basel)、スイス)から、メチルスルホニル及びメチルスルフィニルイソチオシアネートをSpiroChem及びLKT LABS(エルケーティー・ラボ)(ミネソタ州、米国)から得た。得た化合物は全てジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。インビトロ真菌バイオアッセイのために使用した真菌株は、Agroscopeのmycotheca(マイコテカ)(www.mycoscope.bcis.ch)から得た。
【0150】
植物菌類病原体の種々の種の純粋培養物を、PDB中に種々の濃度(例えば10、100、250、400、550、700、850、1100、1400μM)に予めに溶解し、24穴プレート(VWR International(ブイダブリュウアール・インターナショナル)、ディーティコン(Dietikon)、スイス)上に置いた脂肪族グルコシノレートの副生成物を加えたPDAに接種した。対照はDMSO単独で同様の方法で処理した。真菌前培養の2mm寒天プラグ(Dufourら、2015)を各ウェルに置き、各濃度について3つの生物学的複製物を使用した。プレートをファイトトロン(80%相対湿度、23℃の恒温、交互に16時間の日中及び8時間の夜間のサイクル)中で1週間インキュベーションした。ImageJ(http://imagej.net/Welcome)を用いて7日後に菌糸体増殖を測定し、EC50はSchneeら、2013年に記載されているように評価した。
【0151】
メタボロミクス分析
Synapt G2四重極飛行時間型質量分析計質量分析計(QTOF;Waters(ウォーターズ))につないだAcquity超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)での超高性能液体クロマトグラフィー-四重極飛行時間型質量分析(UPLC/QTOF-MS)を使用してこの実験を実施した。Acquity UPLCエチレンブリッジハイブリッド(BEH) C18カラム(50×2.1mm、1.7μm;Waters)を400μL/分の流量で用い、25℃の温度に維持した。移動相Aとしての水の中の0.05% ギ酸及び移動相Bとしてのアセトニトリルの中の0.05% ギ酸を用いて以下の勾配を使用した:0.0~7.0分 2~100% B、7.0~9.0分 100% B、9.0~11.0分 2% B。注入量は2.5μLであった。QTOFは、MSE(フルスキャン及びすべてのフラグメントイオンの同時取得)モードを使用してエレクトロスプレーネガティブモードで動作した。質量分析のパラメータは以下のとおりであった:質量範囲85~1200Da、スキャン時間0.2s、ソース温度120℃、キャピラリー電圧-2.0kV、コーン電圧-25V、エクストラクションコーン(extraction cone)-4.5V、脱溶媒和ガスフロー及び温度、それぞれ800L/h及び400℃、コーンガスフロー 20L/h、衝突エネルギー4eV(低エネルギー取得機能)及び10~35eV(高エネルギー取得機能)、衝突ガス(アルゴン) 7×10-3mbars。正確な質量測定を確保するために、水:アセトニトリル:ギ酸(50:50:0.1)中の合成ペプチド、ロイシン-エンケファリンの400ng/mL溶液を、内部基準として質量分析計へ絶えず注入した。データをMasslynx v.4.1(Waters)によって記録した。以下のパラメータを用いてMarkerlynx XS(Waters)を使用してマーカー検出を実施した:初期保持時間及び最終保持時間 0.0及び9.0分、質量範囲85~1200Da、質量ウィンドウ 0.02Da、保持時間ウィンドウ 0.06分、強度閾値 500カウント、自動ピーク幅及びピーク・トゥ・ピークベースラインノイズ算出、同位体消去機能を適用。データは、主成分分析を適用する前に、平均中心処理し(mean-centered)、Paretoスケーリング処理をした。注目するマーカーを、その分子式決定及び衝突誘起解離によって得られたフラグメントに基づいて仮に特定した。
【0152】
実施例1:
7-メチルスルホニル-ヘプチルグルコシノレートは、子葉段階で殺生性菌類病原体ボトリティス・シネレアに対する強い耐性を明らかにした脂肪酸不飽和化酵素2(fad2-3)シロイヌナズナ変異体の表面で特定された(
図1)。ボトリティス・シネレア及び他の菌類病原体に対する7-メチルスルホニル-ヘプチルイソチオシアネート(7MSOOH、7-メチルスルホニル-ヘプチルグルコシノレートの唯一の市販の副生成物)の抗真菌活性の確認を、異なる投与量のジャガイモデキストロース寒天中のイソチオシアネートの直接施用によってインビトロで行った。得られた結果は、10~1500μMの用量範囲でボトリティス・シネレアに対するこの化合物の真菌毒性活性がないことを明らかにした。この化合物の潜在的な毒性効果のために、より高い投与量は適用しなかった。しかしながら、他の真菌病原体に対するバイオアッセイの性能は、7-メチルスルホニル-ヘプチルイソチオシアネートが、表1に示すように、いくつかの真菌種に対して真菌毒性であることを特定することを可能にした。
【0153】
【0154】
結論:7-メチルスルホニル-ヘプチルイソチオシアネートは、いくつかの植物菌類病原体に対する狭い範囲の対真菌毒性活性を表すが、ボトリティス・シネレア(灰色かび病)又はフザリウム・オキシスポラム等の広範に広がっている植物菌類病原体に対しては不活性であることを示す。しかしながら、出願人らは、驚くべきことに、グルコシノレートの副生成物の組み合わせが非常に多くの農学的に重要な菌類病原体(43種、種の一覧については23~24頁の表を参照)に対する強い対真菌毒性活性につながることを示した。
【0155】
実施例2:
グルコシノレートの他の天然の副生成物及びそれらの組み合わせを検討することにより、出願人らは、化合物の非常に効率的な抗真菌性混合物を特定した。出願人らは、分析した化合物の対真菌毒性活性を検討するために、1500μMの最大濃度で個体群の95%において定量的効果をもたらす有効用量(ED95)を使用した。出願人らは、毒性アッセイを実施するために、2種の最も広範に広がっている植物菌類病原体を選んだ:ボトリティス・シネレア(1400種の植物種の病原体)及びフザリウム・オキシスポラム(非常に多くの植物種、例えばトマト、バナナの病原体)。このような菌類病原体を選んだのは、市場において何らの効率的な有機的処理が存在しない(60%未満の効率)ことからであり、このことは、農業者の健康にとって及び環境にとってもリスクなしに農業者が使用することができる新しい効率的な生成物を特定する必要性を作り出している。
【0156】
最初に、出願人らは、8-メチルスルホニル-オクチル-(8MSOOH)イソチオシアネート及び8-メチルスルフィニル-オクチル-(8MSOH)イソチオシアネートの分子を単独で試験したが、これらはボトリティス・シネレア及びフザリウム・オキシスポラムに対して対真菌毒性効果を表さなかった。しかしながら、8-メチルスルホニル-オクチル-イソチオシアネート(8MSOOH)及び8-メチルスルフィニル-オクチル-イソチオシアネート(8MSOH)を一緒に組み合わせると、それらは、ボトリティス・シネレア(1400μM)及びフザリウム・オキシスポラム(923.64μM)に対して非常に毒性が高くなる。
【0157】
驚くべきことに、8-メチルスルホニル-オクチル-ニトリル(8MSOON)及び8-メチルスルホニル-オクチル-イソチオシアネート(8MSOOH)を用いた毒性活性は、2つの真菌種に対して異なる効果を明らかにした。ニトリル及びイソチオシアネートの組み合わせは、850μM(2種のイソチオシアネートの組み合わせよりも低い)の投与量でボトリティス・シネレアに対して毒性であった。しかしながら、この組み合わせは、フザリウム・オキシスポラムの発育に対しては中程度の効果を有していた。この菌類病原体については、対真菌毒性効果は、8MSOOH+8MSOHの組み合わせを用いて得られ、EC95は923.64μMであった。
【0158】
3種の分子の組み合わせ(イソチオシアネート及びニトリル)は、これらの分子の対真菌毒性活性の上昇にはつながらず、最も効率的な上記2種の分子の組み合わせのレベルと同程度のレベルに留まった。単独の分子及び分子の組み合わせの結果を表2に提示する。
【0159】
【0160】
結論:別々に使用したメチルスルホニル及びメチルスルフィニルグルコシノレートの副生成物は、試験した濃度では、最も広範に広がっている植物菌類病原体に対して対真菌毒性活性を示さない。しかしながら、メチルスルホニルイソチオシアネートとメチルスルホニルニトリル、チオシアネート又はメチルスルフィニルイソチオシアネートとの組み合わせを行うと、対真菌毒性活性につながることが可能である。
【0161】
実施例3:
他の脂肪族イソチオシアネートの検討により、出願人らは、6-メチルスルホニルヘキシルイソチオシアネート(6MSOOH)と、6-メチルスルフィニルヘキシル(6MSOH)イソチオシアネート、4-メチルスルフィニルブチル(4MSOH)イソチオシアネート、8-メチルスルフィニルオクチル(8MSOH)イソチオシアネート及び8-メチルスルホニルオクチル(8MSOOH)イソチオシアネートとの組み合わせを、フザリウム・グラミネウム(大麦及び小麦の病原体)及びフィトフトラ・カクトラム(Phytophthora cactorum)(200種の植物種の病原体)に対するそれらの対真菌毒性効果について試験した。
【0162】
出願人らは、活性が低い化合物との組み合わせを実施すると、驚くべきことに、非常に多くの菌類病原体に対する対真菌毒性活性の上昇につながりうるということを明らかにした。例えば、6MSOOH及び6MSOHはともに、1500μMの投与量ではフザリウム・グラミネウムに対して静真菌性ではない。しかしながら、混合物(6MSOOH及び6MSOHの組み合わせ)として施用すると、それらは非常に対真菌毒性となり、個体群の50%において定量的効果をもたらす有効用量(ED50)は116.8μMである。同様の効果は、両方の真菌種に対して他の組み合わせを用いても認められた。
【0163】
【0164】
結論:異なる炭素鎖長を有するメチルスルホニルイソチオシアネート及びメチルスルフィニルイソチオシアネートの組み合わせは、幅広い範囲の菌類病原体に対する強い対真菌毒性特性を表している。これらの結果は、農業において、例えば病原体感染の予防において使用することができる新規な天然の有機生成物の開発につながる。生成物の新しい組み合わせの開発は、化学殺虫剤の使用及び用量を低下させることにおいて特に有用である。さらに、その高効率に起因して、これらの新しい組み合わせはバイオ農業の発展を促進することに非常に役立つ。
【0165】
【0166】
【化10】
メチル(オクト-7-エン-1-イル)スルファン(2)。ジメチルホルムアミド(85ml)中のナトリウムチオメトキシド(3.23g、46.0mmol)の懸濁液に、ジメチルホルムアミド(195ml)中の8-ブロモオクト-1-エン(8g、41.9mmol)の溶液を0℃で加え、この反応混合物を室温で14時間撹拌した。この反応混合物を飽和塩化アンモニウム溶液で希釈し、次いでエーテルで(3回)抽出し、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、メチル(オクト-7-エン-1-イル)スルファン(7g、44mmol)を得て、これをさらに精製せずに次の工程に使用した。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 1.26-1.45(m,6H),1.50-1.67(m,2H),2.00-2.08(m,2H),2.09(s,3H),2.44-2.54(m,2H),4.84-5.06(m,2H),5.68-5.90(m,1H)。
【0167】
【化11】
7-(メチルスルホニル)ヘプタン酸(3)。アセトニトリル(139ml)及び酢酸エチル(139ml)中のメチル(オクト-7-エン-1-イル)スルファン(2)の氷冷した溶液に、三塩化ルテニウム三水和物(197mg、0.834mmol)を加え、続いて水(139ml)を加え、この混合物を、メカニカルスターラーを使用して撹拌した。この撹拌した溶液に、過ヨウ素酸ナトリウム(71.3g、334mmol)を10分間にわたって少しずつ加えた。(爆発の可能性があるので慎重に)。添加終了後、この混合物を室温で一晩撹拌した。層を分離し、洗液が塩基性のpHを示すまで、有機層を飽和NaHCO
3で洗浄した。集めたすべての水層を酢酸エチルで洗浄し、次いで6N HClを使用して酸性にし、続いて酢酸エチルを用いて抽出した(3回)。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、7-(メチルスルホニル)ヘプタン酸(3)(7.25g、34.8mmol)を83%収率で得た。粗製物をエーテル中で砕くことにより分析用試料を調製し、濾過し、風乾し、残りの材料をさらに精製することなく次の工程に供した。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 1.34-1.56(m,4H),1.66(m,2H),1.79-1.93(m,2H),2.37(t,J=7.3Hz,2H),2.90(s,3H),2.95-3.07(m,2H)。
【0168】
【化12】
7-(メチルスルホニル)ヘプタン-1-オール(4)。テトラヒドロフラン(60ml)中の7-(メチルスルホニル)ヘプタン酸(3)(1g、4.80mmol)の溶液に、不活性雰囲気下で、0℃でボラン・テトラヒドロフラン錯体の1M THF溶液(14.40ml、14.40mmol)を滴下し、この反応混合物を室温で3時間撹拌した。この反応混合物を飽和塩化アンモニウム溶液の添加によりクエンチし、次いで層を分離し、水層を酢酸エチルで抽出した(3回)。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。粗製物をFC(Biotage(バイオタージ)、KP Sil-25g、DCM、酢酸エチル、0~100%)によって精製し、7-(メチルスルホニル)ヘプタン-1-オール(4)(0.72g、3.71mmol、77%収率)を白色固体として得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 1.35-1.51(m,6H),1.57(m,2H),1.86(m,2H),2.90(s,3H),2.96-3.07(m,2H),3.65(td,J=6.5,1.0Hz,2H)。
【0169】
【化13】
メタンスルホン酸7-(メチルスルホニル)ヘプチル(5)。ジクロロメタン(36.0ml)中の7-(メチルスルホニル)ヘプタン-1-オール(4)(0.7g、3.60mmol)の溶液に、トリエチルアミン(1.023ml、7.21mmol)を加え、この混合物を0℃に冷却した。この混合物に、塩化メタンスルホニル(0.349ml、4.50mmol)を加え、次いでこの反応混合物を室温で14時間撹拌した。この反応混合物を1M HCl溶液で洗浄し、水層をDCMで抽出した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。得られた粗製物をFC(Biotage、KP Sil-25g、DCM酢酸エチル、0~40%)によって精製し、メタンスルホン酸7-(メチルスルホニル)ヘプチル(5)(940mg、3.45mmol、96%収率)を白色固体として得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 1.34-1.53(m,6H),1.68-1.94(m,4H),2.90(s,3H),2.96-3.06(m,5H),4.18-4.27(m,2H)。
【0170】
【化14】
1-(メチルスルホニル)-7-チオシアナトヘプタン(6)。アセトン(5ml)中のメタンスルホン酸7-(メチルスルホニル)ヘプチル(5)(0.2g、0.734mmol)の溶液に、チオシアン酸カリウム(0.714g、7.34mmol)を加え、この混合物を、密封チューブの中で、60℃で18時間撹拌した。次いで、冷却したこの反応混合物を硝子フィルタで濾過し、残渣をエーテルで数回洗浄した。合わせた濾液を乾固するまで濃縮し、次いでFC(Biotage、KP Sil-25g、DCM、酢酸エチル、0~40%)によって精製し、1-(メチルスルホニル)-7-チオシアナトヘプタン(6)(156mg、0.663mmol、90%収率)を無色の油状物として得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 1.35-1.55(m,6H),1.84(m,4H),2.91(s,3H),2.94(t,J=7.2Hz,2H),2.98-3.05(m,2H)。
【0171】
【化15】
8-(メチルスルホニル)オクタンニトリル(7)。ジメチルスルホキシド(5ml)中のメタンスルホン酸7-(メチルスルホニル)ヘプチル(5)(0.2g、0.734mmol)の溶液に、シアン化ナトリウム(0.180g、3.67mmol)を加え、この混合物を、密封チューブの中で、60℃で18時間撹拌した。冷却したこの反応混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和塩化アンモニウム溶液で洗浄した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。得られた粗製物をFC(Biotage、KP Sil-25g、DCM、酢酸エチル、0~40%)によって精製し、8-(メチルスルホニル)オクタンニトリル(7)(0.136g、0.669mmol、91%収率)を無色の油状物として得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 1.33-1.55(m,6H),1.60-1.74(m,2H),1.79-1.94(m,2H),2.35(td,J=7.0,0.6Hz,2H),2.90(s,3H),2.96-3.05(m,2H)。
【0172】
【0173】
2-(5-ブロモペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(SVB-18-025)
【化17】
アセトン(102ml)中のフタルイミド(3g、20.39mmol)の溶液に、N-ベンジル-N,N-ジエチルエタナミニウムクロリド(0.511g、2.243mmol)、K2CO3(8.45g、61.2mmol)、及び1,5-ジブロモペンタン(14.07g、61.2mmol)を加え、この反応混合物を室温で14時間撹拌した。この反応混合物を乾固するまで濃縮し、残渣を水に再懸濁し、DCMで抽出し(3回)、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、粗製物を得た。これを、FC(SiO2、ヘキサン、酢酸エチル、0~40%)を使用して精製し、2-(5-ブロモペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(2.3g、7.77mmol、38.1%収率)を無色の油状物として得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 7.89-7.80(m,2H),7.77-7.66(m,2H),3.75-3.63(m,2H),3.44-3.31(m,2H),1.99-1.84(m,2H),1.79-1.63(m,2H),1.60-1.42(m,2H)。
【0174】
2-(5-(メチルチオ)ペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(SVB-18-033)
【化18】
DMF(21.83ml)中のNaSMe(0.833g、11.89mmol)の懸濁液に、DMF(50.2ml)中の2-(5-ブロモペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(3.2g、10.80mmol)の溶液を0℃で加え、この反応混合物を室温で14時間撹拌した。この反応混合物をNH4Cl溶液で希釈し、次いでエーテルで(3回)抽出し、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、粗製物を得た。これを、さらに精製せずに次の工程に使用した。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 7.90-7.80(m,2H),7.78-7.66(m,2H),3.74-3.63(m,2H),2.54-2.42(m,2H),2.08(s,3H),1.80-1.57(m,5H),1.52-1.37(m,2H)。
【0175】
2-(5-(メチルスルホニル)ペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(SVB-18-038)
【化19】
0℃のDCM(53.2ml)中の2-(5-(メチルチオ)ペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(2.8g、10.63mmol)の溶液に、m-CPBA(6.55g、26.6mmol)を少しずつ添加し、この反応混合物を室温で14時間撹拌した。この反応物に、100mlの、飽和NaHCO3及び10%チオ硫酸ナトリウム溶液の1:1溶液を加え、これを1時間撹拌し、層を分離し、水層をDCMで抽出し(3回)、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、濃縮して、2-(5-(メチルスルホニル)-ペンチル)-イソインドリン-1,3-ジオン(3.1g、10.50mmol、99%収率)を白色固体として得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 7.89-7.82(m,2H),7.77-7.68(m,2H),3.71(t,J=7.0Hz,2H),3.07-2.95(m,3H),2.93-2.87(m,4H),1.99-1.86(m,2H),1.82-1.67(m,2H),1.61-1.43(m,2H)。
【0176】
5-(メチルスルホニル)ペンタン-1-アミン(SVB-18-042)
【化20】
室温のメタノール(52.5ml)中の2-(5-(メチルスルホニル)ペンチル)イソインドリン-1,3-ジオン(3.1g、10.50mmol)の溶液に、ヒドラジン水和物(1.020ml、20.99mmol)を加え、この反応混合物を室温で2時間撹拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮し、次いで残渣を1M KOH溶液に懸濁させ、酢酸エチルで抽出し(3回)、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、5-(メチルスルホニル)ペンタン-1-アミン(1.6g、9.68mmol、92%収率)を白色固体として得た。この材料は、次の反応に使用するのに十分きれいなものであった。
【0177】
1-イソチオシアナト-5-(メチルスルホニル)ペンタン(SVB-18-048)
【化21】
0℃のクロロホルム(7.56ml)中の5-(メチルスルホニル)ペンタン-1-アミン(0.25g、1.513mmol)の溶液に、チオホスゲン(0.150ml、1.967mmol)を加え、続いて5% NaOH水溶液を加え、この混合物を0℃で2時間撹拌した。この反応混合物を水で希釈し、次いで層を分離し、水層をDCMで抽出した(3回)。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、粗製物を得た。これを、FC(SiO2、ヘキサン、酢酸エチル、0~40%)を使用して精製し、1-イソチオシアナト-5-(メチルスルホニル)ペンタン(0.185g、0.892mmol、59.0%収率)を得た。
1H NMR(300MHz、クロロホルム-d) δ 3.56(t,J=6.3Hz,2H),3.10-3.00(m,2H),2.93(d,J=0.7Hz,3H),1.98-1.86(m,2H),1.83-1.70(m,2H),1.68-1.53(m,2H)。
【0178】
実施例5:
多様な炭素長を有するイソチオシアネートと、スルフィニル又はスルホニル基との自然の組み合わせの検討により、出願人らは、化合物の非常に効率的な抗真菌性混合物を特定した。出願人らは、分析する化合物の対真菌毒性活性を検討するために、1500μMの最大濃度で個体群の95%において定量的効果をもたらす有効用量(ED95)を使用した。出願人らは、毒性アッセイを実施するために、2番目に最も広範に広がっている植物菌類病原体であるボトリティス・シネレア(1400種の植物種の病原体)を選んだ。その理由は、それが全世界に分布していることと、この菌類病原体を処置するための十分な量の効率的な有機物が存在しないことであった。
【0179】
最初に、出願人らは、多くの数の菌類病原体、例えばフィトフトラ・インフェスタンス(疫病菌)、フザリウム・グラミネウムに対して対真菌毒性であることが示された4種の化合物を選んだ:5-メチルスルホニル-ペンチル-(5MSOOH)イソチオシアネート、5-メチルスルフィニル-ペンチル-(5MSOH)イソチオシアネート、8-メチルスルホニル-オクチル-(8MSOOH)イソチオシアネート及び8-メチルスルフィニル-オクチル-(8MSOH)イソチオシアネート。しかしながら、これらの単独の化合物のいずれも、ボトリティス・シネレアに対する対真菌毒性効果を表さなかった。抗ボトリティス特性を高めるために、出願人らは、5MSOOH、5MSOH、8MSOOH及び8MSOHの化合物との組み合わせを実施した。驚くべきことに、2つの組み合わせのみが抗真菌特性を表した:最初に、8MSOOHと8MSOH(1400μMのED95)及び2番目に、550μMの投与量でボトリティス・シネレアに対して非常に毒性が高くなった8MSOHと5MSOOH。単独の分子及びそれらの組み合わせの結果を表4に提示する。
【0180】
【0181】
結論:メチルスルホニルイソチオシアネート及びメチルスルフィニルイソチオシアネート等のグルコシノレートの副生成物は、別々に使用する場合には、最も広範に広がっている植物菌類病原体であるボトリティス・シネレアに対して、試験した濃度では強い対真菌毒性活性を表さない。しかしながら、多様な炭素長を有し、スルフィニル又はスルホニル基を提示する化合物の組み合わせを行うと、低い投与量で強い対真菌毒性活性につながり、従って、同じ炭素長を有し、官能基についての差異(すなわちスルフィニル及びスルホニル基)のみを提示する分子の組み合わせと比べて、対真菌毒性効果が高まる。
【0182】
実施例6:
単独及び組み合わせの脂肪族イソチオシアネートの対真菌毒性特性の検討により、出願人らは、8-メチルスルホニル-オクチル-(8MSOOH)イソチオシアネート及び8-メチルスルフィニル-オクチル-(8MSOH)イソチオシアネートの活性を深く検討した。出願人らは、フザリウム・グラミネウム(大麦及び小麦の病原体)、フィトフトラ・インフェスタンス(ナスの病原体)及びギグナルディア・ビドウェリイ(ブドウの病原体)を使用して対真菌毒性の研究を行った。
【0183】
出願人らは、真菌個体群の50%において8MSOOH及び8MSOHの単独及び組み合わせの分子によって引き起こされる対真菌毒性効果(ED50)を測定した。このアッセイの結果を表5に示す。
【0184】
【0185】
結論:同じ炭素鎖長を有するメチルスルホニルイソチオシアネート及びメチルスルフィニルイソチオシアネートの分子の組み合わせは、フザリウム・グラミネウム及びギグナルディア・ビドウェリイにおいては対真菌毒性特性を高めていないが、フィトフトラ・インフェスタンスについては効率的であることが判明した。
【0186】
実施例7:
3つの殺生性真菌種における組み合わされたイソチオシアネートの対真菌毒性活性
出願人らは、3種の殺生性真菌種、すなわちアルテルナリア・ラデキナ(綱:クロイボタケ綱;目:プレオスポラ目;宿主:ニンジン)、フザリウム・グラミネウム(綱:フンタマカビ綱;目:ボタンタケ目;宿主:穀草類)及びプレクトスファエレラ・ククメリナ(綱:フンタマカビ綱;目:グロメレラ目(Glomerellales);宿主:トマト及びウリ)における組み合わされたイソチオシアネートの対真菌毒性活性を検討した。全体としては、合計で133個の組み合わせをこれら3つの真菌種に対して試験した。
【0187】
イソチオシアネートは、SpiroChem(バーゼル、スイス)及びLKT LABS(ミネソタ州、米国)から得た。得た化合物は全てジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。インビトロ真菌バイオアッセイのために使用した真菌株は、Agroscopeのmycotheca(マイコテカ)(www.mycoscope.bcis.ch)から得た。
【0188】
対真菌毒性活性を48穴組織培養プレートで試験した。より詳細には、植物菌類病原体を、PDB中に種々の濃度(10、150、250、375、500、700、850μM)に予め溶解したイソチオシアネートを加えたPDAに接種した。真菌前培養の2mm寒天プラグ(Dufourら、2015)を各ウェルに置き、各濃度について3つの生物学的複製物を使用した。プレートをファイトトロン(80%相対湿度、23℃の恒温、交互に16時間の日中及び8時間の夜間のサイクル)中で1週間インキュベーションした。ImageJ(http://imagej.net/Welcome)を用いて7日後に菌糸体増殖を測定し、ED50はSchneeら、2013年に記載されているように評価した。次いで、相乗的な対真菌毒性活性をChou(2006)におけるようにして評価し、CompuSynソフトウェア(www.combosyn.com)を使用して、2種の分子の組み合わせについての併用効果(Combination Index、CI)及び相乗作用の存在(CI<1)を決定した。各真菌種について最良の組み合わせについて得られた結果を表6、表7及び表8にまとめる。これらの表は、上記2種の分子単独について、それらの組み合わせについて(常に、より小さい)得たED50(単位:μM)、及び10~850μMにわたる範囲の中の少なくとも1つの与えられた濃度に対するより小さい併用効果を示す。下記表の中に列挙したすべてのCIは0.26未満であり、これは、上記組み合わされた分子が強い相乗効果を有し、試験した真菌種に対して効率的であることを示す。
【0189】
これらの組み合わせで使用したさらなる分子は、1-(イソチオシアナトメチル)-3-(4-(メチルスルフィニル)ブチル)ベンゼン(8ASOH)、1-(イソチオシアナトメチル)-3-(4-(メチルスルホニル)ブチル)ベンゼン(8ASOOH)、(E)-1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)オクト-2-エン(8CSOH)、1-(エチルスルフィニル)-8-イソチオシアナトオクタン(8ESOH)、1-(エチルスルホニル)-イソチオシアナトオクタン(8ESOOH)、1-イソチオシアナト-3-(メチルスルフィニル)-プロパン(3MSOH)、1-イソチオシアナト-3-(メチルスルホニル)-プロパン(3MSOOH)、1-イソチオシアナト-9-(メチルスルフィニル)-ノナン(9MSOH)及び1-イソチオシアナト-9-(メチルスルホニル)-ノナン(9MSOOH)である。
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
実施例8:
プラスモパラ・ビチコラ(綱:卵菌綱;目:ツユカビ目;ブドウの生体栄養性病原体)を用いるインビボ真菌バイオアッセイ
1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン及び1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタンはSpiroChem(バーゼル、スイス)から得た。これらの化合物はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
【0194】
ヨーロッパブドウ(ヴィティス・ヴィニフェラ、Vitis vinifera)の栽培種、カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)の4番目及び5番目の葉から葉片を集め、予め水の中で洗浄した。各濃度(0、100、250、500、750及び1000μM)について、10枚の乾燥した葉片をペトリ皿の中で湿った濾紙の上に置いた。葉片に異なる濃度の活性分子を噴霧し、無菌フードの下で乾燥した。乾燥すると、それらの葉片にプラスモパラ・ビチコラ(105胞子/mL)の溶液を噴霧し、ペトリ皿に蓋をして暗条件下でインキュベーションした。1時間後、ペトリ皿を通常の日中/夜間条件下で作業台の上にランダムに置いた。感染百分率を、7日後にSchneeら(2013)におけるようにして算出した。
【0195】
【0196】
試験した組み合わせは、この生体栄養性菌類病原体に対して強い有効性を表した(EC50:94.2)。
【0197】
実施例9:
トリコフィトン・ルブルム(綱:ユーロチウム菌綱;目:ホネタケ目;ヒトの皮膚及び爪の病原体)
1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン及び1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタンはSpiroChem(バーゼル、スイス)から得た。これらの化合物はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
【0198】
対真菌毒性活性を48穴組織培養プレートで試験した。トリコフィトン・ルブルムを、PDB中に種々の濃度(10、150、250、375、500、700、850μM)に予め溶解したイソチオシアネートを加えたPDAに接種した。真菌前培養の2mm寒天プラグ(Dufourら、2015)を各ウェルに置き、各濃度について3つの生物学的複製物を使用した。プレートをファイトトロン(80%相対湿度、23℃の恒温、交互に16時間の日中及び8時間の夜間のサイクル)中で1週間インキュベーションした。ImageJ(http://imagej.net/Welcome)を用いて7日後に菌糸体増殖を測定し、EC50はSchneeら、2013年に記載されているように評価した。
【0199】
【表11】
試験した組み合わせは、このヒトの菌類病原体に対して強い有効性を表した(EC50:275.2)。
【0200】
実施例10:
サムニディウム・エレガンス(綱 接合菌綱(Zygomycetes);目 ムコール目;保存した食肉)
1-イソチオシアナト-8-(メチルスルホニル)-オクタン及び1-イソチオシアナト-8-(メチルスルフィニル)-オクタンはSpiroChem(バーゼル、スイス)から得た。これらの化合物はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
【0201】
対真菌毒性活性を48穴組織培養プレートで試験した。サムニディウム・エレガンスを、PDB中に種々の濃度(10、150、250、375、500、700、850μM)に予め溶解したイソチオシアネートを加えたPDAに接種した。真菌前培養の2mm寒天プラグ(Dufourら、2015)を各ウェルに置き、各濃度について3つの生物学的複製物を使用した。プレートをファイトトロン(80%相対湿度、23℃の恒温、交互に16時間の日中及び8時間の夜間のサイクル)中で1週間インキュベーションした。ImageJ(http://imagej.net/Welcome)を用いて7日後に菌糸体増殖を測定し、EC50はSchneeら、2013年に記載されているように評価した。
【0202】
【0203】
試験した組み合わせは、保存した食肉で発育するこの真菌種に対して効率的であることが明らかになった(EC50:395)。
【0204】
【0205】
参考文献
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4. Schnee S, Queiroz EF, Voinesco F, Marcourt L, Dubuis P-H, Wolfender J-L, Gindro K. 2013. Vitis vinifera canes, a new source of antifungal compounds against Plasmopora viticola, Erysiphe necator, and Botrytis cinerea. J.Agric.Food Chem. 61(23):5459-67.
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