(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】プラスチック材料の、テレフタル酸(TPA)、エチレングリコール、及び/又はそのプラスチック材料を形成する他のモノマーへの分解
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20240327BHJP
C07C 63/26 20060101ALI20240327BHJP
C07C 27/02 20060101ALI20240327BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C07C63/26 H
C07C27/02
C07C31/20 A
(21)【出願番号】P 2021548141
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020054942
(87)【国際公開番号】W WO2020173961
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-08
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン サマンサ リン
(72)【発明者】
【氏名】アイルランド クリストファー パトリック
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ベレント
(72)【発明者】
【氏名】スティリアノー キリアコス
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/033129(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/066446(WO,A1)
【文献】特開2002-363337(JP,A)
【文献】特開平09-194625(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101066904(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
C07C 27/02、31/20、63/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のプラスチックポリマーを、テレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)及び/又は前記1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーにアルカリ加水分解する方法であって、
a)前記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、
前記溶液中に溶解した塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下
で、前記反応混合物を撹拌する工程と、
c)前記反応混合物からテレフタル酸、エチレングリコール及び/又は前記他のモノマーを回収する工程と
を含
み、
前記1種以上のプラスチックポリマーが、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタレート(PEIT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、又は他のポリエステルから選択され、
前記溶液がアルコール及び/又は水を含み、前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール又はこれらの組み合わせを含む群から選択される、方法。
【請求項2】
前記1種以上のプラスチックポリマーの前記アルカリ加水分解が、テレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)へのアルカリ加水分解であり、前記方法が、
a)前記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、
前記溶液中に溶解した塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下
で、前記反応混合物を撹拌する工程と、
c)前記反応混合物からテレフタル酸及び/又はエチレングリコールを回収する工程と
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上のプラスチックポリマーの前記アルカリ加水分解が、テレフタル酸(TPA)へのアルカリ加水分解であり、前記方法が、
a)前記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、
前記溶液中に溶解した塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下
で、前記反応混合物を撹拌する工程と、
c)前記反応混合物からテレフタル酸を回収する工程と
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上のプラスチックポリマーがポリエチレンテレフタレート(PET)である請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属酸化物が、TiO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、CrO
3、Mn
2O
3、FeO、Fe
2O
3、Fe
3O
4、Co
2O
3、NiO、CuO、Cu
2O、ZnO、ZrO
2、Nb
2O
5、Mo
2O
3、RuO、RuO
2、RuO
4、RhO
2、Rh
2O
3、PdO、Ag
2O、Ag
2O
2、CdO、In
2O
3、Al
2O
3、La
2O
3、CeO
2、Ce
2O
3、HfO
2、Ta
2O
5、WO
3、ReO
2、ReO
3、Re
2O
3、OsO
2、OsO
4、IrO
2、PtO
2、Au
2O
3、Li
2O、Na
2O、K
2O、MgO、CaO、SrO、BaO、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属酸化物が、TiO
2、ZnO、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、RuO、Fe
2O
3、WOを含む群から選択される請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液がエタノール又は90:10~10:90のエタノール:水
に前記塩基を溶解させた溶液である請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が、NaOH、NaOMe、NaOEt、NaO
iPr、NaO
tBu、KOH、KOMe、KOEt、KO
iPr、KO
tBu、LiOH、LiOMe、LiOEt、LiO
iPr、LiO
tBu、Rb(OH)、RbOMe、RbOEt、RbO
iPr、RbO
tBu、CsOH、CeOMe、CsOEt、CsO
iPr、CsO
tBu、Fr(OH)、FrOMe、FrOEt、FrO
iPr、FrO
tBu、Be(OH)
2、Be(OMe)
2、Be(OEt)
2、Be(O
iPr)
2、Be(O
tBu)
2、Mg(OH)
2、Mg(OMe)
2、Mg(OEt)
2、Mg(O
iPr)
2、Mg(
O
t
Bu)
2、Ca(OH)
2、Ca(OMe)
2、Ca(OEt)
2、Ca(O
iPr)
2、Ca(
O
t
Bu)
2、Sr(OH)
2、Sr(OMe)
2、Sr(OEt)
2、Sr(O
iPr)
2、Sr(
O
t
Bu)
2、Ba(OH)
2、Ba(OMe)
2、Ba(OEt)
2、Ba(O
iPr)
2、Ba(
O
t
Bu)
2、Ra(OH)
2、Ra(OMe)
2、Ra(OEt)
2、Ra(O
iPr)
2、Ra(
O
t
Bu)
2、NH
4(OH)、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、NaOH、NaO
tBu、KOHを含む群から選択される請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料をテレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール及び/又はそのプラスチック材料を形成する他のモノマーに分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PETとして広く知られているポリ(エチレンテレフタレート)は、半結晶性の熱可塑性ポリエステルであり、繊維、シート、フィルム及びボトル等の形で様々な産業分野で使用されている。PETは、安定性があり、機械的強度が高く、大気由来物質及び生物由来物質に対する耐性があり、美観に優れていることから、商業及び工業の両分野で普及している。近年、世界のPET消費量は約2,000万トン/年と報告されており、年率3.6%で増加し、2021年までに2,000万トン/年を超えると予測されている。PETは我々の生活に欠かせないものとなったが、その一方で、海や埋め立て地での汚染に関して環境上の懸念が高まっている。2015年現在、プラスチックのわずか9%しかリサイクルされておらず、12%が焼却されており、79%が埋立地や自然環境に蓄積されていると推定されている。さらには、環境中でのマイクロプラスチックの混入、ひいては海洋無脊椎動物及び他の哺乳動物への汚染も、その摂取に伴う生殖への影響、神経機能の低下、道徳性の低下等の悪影響から、近年、深刻な問題として浮上している。
【0003】
PET製造による環境への影響は、使用後のPETが埋立地を汚染することに限られているわけではない。他の産業分野は二酸化炭素排出量を減らすことができるが、PETを生産する石油化学産業は、PET生産量の増加に伴い、最終的に温室効果ガスの排出量が増加し、これにより気候便益を受けられなくなることも報告されている。PETの最も一般的な工業的合成ルートは、エチレングリコール(EG)とテレフタル酸ジメチル(DMT)又は高純度テレフタル酸(TPA)との重縮合によるものであり、約280℃の温度で連続的な溶融相重合プロセスを使用する。このプロセスのベースとなる化学物質(EG、DMT、TPA)は、石油化学産業が石油ナフサからパラキシレンへの接触改質によって得る典型的なバルク化学物質である。それゆえ、リサイクルループを閉じることは、使用後の廃棄物を環境から取り除くことから、TPAの市場での供給を増やして石油産業からのTPAへの依存度を下げることで温室効果ガスの排出を抑えることまでにつながる連鎖的な効果がある。
【0004】
商業的又は工業的にPETが消費された後、ユーザは通常、リサイクル製品の品質に応じて一次リサイクルから四次リサイクルまでと呼ばれる4つの異なる方法で製品をリサイクルする。一次リサイクルが産業用PETのスクラップや回収(サルベージ)のみを対象としているのに対し、二次リサイクルは消費者のPETを研削(磨りつぶし)、洗浄、乾燥及び再処理を通して物理的に再処理する。しかしながら、二次リサイクルで得られるPETの品質はバージンと同等ではなく、それゆえその多くは焼却されてエネルギーが回収されることになる(四次リサイクル)。最終的には、三次リサイクル、すなわちPETを出発モノマーへと解重合することがリサイクルのループを閉じる理想的な方法である。というのも、このモノマーはバージンPET又は他の製品を生成するために化学産業に再販売できるからである。
【0005】
三次リサイクル、つまりPETを有用なベース製品に化学的に変換することは、(i)加水分解、(ii)アミノ分解(アミノリシス)、(iii)加アンモニア分解(アンモノリシス)、(iv)加メタノール分解(メタノリシス)、(v)解糖(グリコリシス)に分けられる加溶媒分解(ソルボリシス)によって行うことができる。工業的には、加水分解は、生成される成分であるTPA及びEGがPETを製造するために使用される原料であるので、理想的なプロセスである。しかしながら、現在の方法は、高温(200~350℃)と高圧(1.1MPa超)を使用するということが大きな欠点である。PETは水及びエタノール等の溶媒に全く溶けないため、室温でのPETの中性加水分解は、一般的な分析方法ではほとんど感知できないことが報告されている。しかしながら、これらの溶媒を酸又は塩基と組み合わせると、十分な時間をかければ解重合が始まる。PETの酸性/中性又はアルカリ性での加水分解のメカニズムは、H+又はOH-を介して主鎖のエステル結合が切断され、1つのカルボキシル末端基及び1つのヒドロキシル末端基(TPA及びEG)が生成することを含む。PETのアルカリ加水分解は、一般的にNaOH又はKOH水溶液(4~20重量%)で行われ、PET:NaOHの重量比を1:20にして、約100℃で2時間で行うと最も良い結果が得られる。
【0006】
アミノ分解/加アンモニア分解、加メタノール分解、及び解糖等の他の方法はすべて、通常、TPA以外の生成物、それぞれビス(2-ヒドロキシエチレン)テレフタルアミド、DMT、及びビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート等を与える。それぞれの方法には独自の利点があるが、それらに関連する欠点は、高圧及び/又は高温、珍しい/高価な触媒の使用、付随生成物のTPAへの変換、並びに生成物の分離及び精製のための高いコストである。1950年代以降、PETの化学分解又は解重合は長い道のりを歩んできたが、それはまだ完全ではなく、それぞれのプロセスについて、長い反応時間、低い収率、厳しい条件、及び汚染に関する問題を克服する方法が研究によって示されてきた。これらのプロセスはいずれもPETのリサイクルに成功しているとはいえ、これらの問題のすべてを同時に解決する特定の方法はないというのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、PET材料等のプラスチック廃棄物を分解し、同時にテレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)及び/又は1種以上のプラスチック材料を形成する他のモノマーを製造するための、効果的で、安価で、堅牢で、実用的な技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、1種以上のプラスチックポリマーを、テレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)及び/又はその1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーにアルカリ加水分解する方法であって、
a)上記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下で適切な時間、上記反応混合物を撹拌する工程と、
c)上記反応混合物からテレフタル酸、エチレングリコール及び/又は上記他のモノマーを回収する工程と
を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、PET等のプラスチックポリマーをラジカルを用いて室温で解重合するために開発されたリサイクル構成を示す。
【
図2】
図2は、後で得られたTPAの前と後の、反応器で使用されたいくつかのPET片を示す(左)。洗浄前に得られた粗TPAの
1H及び
13C-DEPT135(挿入図)NMR。この図では、TPA(δ8.03/129.91)及びEG(δ3.39/63.26)の両方が反応の生成物であることが認められる。
【
図3】
図3は、TGAによって確立された9時間後のTPAの純度が、NaOH/TiO
2粒子の存在がないことを示し、TPAの融点(300℃)とよく一致することを示す。
【
図4】
図4は、各反応後に単離したTPAのIRを示す。色スキーム:黒色、Sigma Aldrich(シグマ・アルドリッチ)から購入したTPA;緑色、洗浄前の9時間;茶色、洗浄後の9時間;赤色、TiO
2なし、青色、NaOHのみ(UV/TiO
2なし)、ピンク色、1:3 PET:NaOH;明青色、1:1 PET:NaOH。
【
図5A】
図5Aは、反応後に得られるTPAの収率に関するPET(切断)の分解の時間の最適化を示す。
【
図5B】
図5Bは、切断したPETと粉末のPETとの必要な反応時間の比較を示す。
【
図5C】
図5Cは、NaOHの量を一定に保ちながら使用するPETの量を変化させたときのPET:NaOHの比率に対する時間の最適化を示す。
【
図5D】
図5Dは、PETの室温アルカリ加水分解に必要なTiO
2の最適化を示す。特段の記載がない限り、条件は、PET 8g、NaOH 60g、TiO
2 120mg、及び80:20のEtOH:H
2O溶液300mLであった。
【
図6】
図6は、TiO
2及び紫外ブラックライトを使用しないアルカリ加水分解による室温加水分解前(A)及び加水分解後(B)のPETのSEM画像を示す。A及びBの上側の図は、切断されたPET(前)の端部又は変形したPET(後)の端部、及び表面の全体的な変化を示す。
【
図7】
図7は、異なる合成方法で得られたTiO
2相のPXRDを示す。この図では、R=ルチル、A=アナターゼ、R/A=ルチルとアナターゼの混合物である。色スキーム:黒色、R(理論)、赤色、A(理論)、青色、水熱R、ピンク色、水熱R/A;緑色、水熱A;濃青色、ゾルゲルR;紫色、ゾルゲルR/A;暗紫色、ゾルゲルA;暗赤色、MOF由来R;からし色、MOF由来R/A;空色、MOF由来A;シーフォームグリーン、析出物R;茶色、析出物R/A;明緑色、析出物A。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書で取り上げた刊行物及び出願は、本出願の出願日前の開示のみを目的として提供されている。本明細書のいかなる部分も、本発明が先行発明のおかげでそのような公開に先立つ権利を有していないことを認めるものとは解釈されない。加えて、材料、方法、及び実施例は例示に過ぎず、限定することを意図したものではない。
【0011】
矛盾が生じた場合は、定義を含めて本明細書が優先される。
【0012】
特段の定義がない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者が一般的に理解しているのと同じ意味を持つ。本明細書では、本発明の理解を容易にするために、以下の定義を提供する。
【0013】
用語「comprise(含む)」は、一般的に、include(含む)という意味で、すなわち、1つ以上の特徴又は構成要素の存在を許可するという意味で使用される。加えて、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「comprising(含む)」という言葉は、「consisting of(…からなる)」及び/又は「consisting essentially of(実質的に…からなる)」の用語で記述される類似の実施形態を含むことができる。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、本明細書の「A及び/又はB」等の語句で使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、及び「B」を含むことが意図される。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて、複数の指示対象を含む。
【0016】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「その(上記、前記)1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマー」で使用される用語「モノマー」は、プラスチックポリマー鎖を形成するために一緒に連結されるモノマーを指す。ポリマーは、天然ポリマーでも合成ポリマーでも、モノマーの重合を介して作られる。
【0017】
本発明者らは、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)等のプラスチックポリマーを、ラジカルを用いて短時間でアルカリ加水分解速度を高めて、常温でリサイクルすることができる方法を開発した。低温かつ短い反応時間にもかかわらず、テレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)及び/又は上記1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーの定量的収率を達成することができる。分解プロセスの向上は、紫外ブラックライト等の紫外光の使用と、TiO2等の金属酸化物の添加によって達成された。TiO2は市販されており、汚染物質を光触媒で分解するための光触媒として、及び半導体として広く利用されている。本発明の方法は室温で動作するため、PET等のプラスチックポリマーをその主成分にリサイクルする際のエネルギーペナルティが大幅に軽減される。さらには、構成の性質上、本発明の方法では、テレフタル酸(TPA)をエチレングリコール(EG)又は他のモノマー、及び反応の最後に存在する他の塩から容易に分離することができる。
【0018】
典型的には、本発明の方法は根本的に強化されたアルカリ加水分解であり、PET等のプラスチックポリマーの容器及び/又は繊維を、事前の処理(すなわち洗浄又は研削)なしに、約4時間で、TPAの高い収率(>99%)で、室温及び大気圧で分解することができる。この反応は、ラジカルの添加によって加水分解の速度の上昇をもたらすために、TiO2等の金属酸化物を用いた紫外ブラックライト等の紫外線反応器を用いて、結果としてPET容器等の様々な使用後のプラスチックポリマー容器廃棄物を解重合する。
【0019】
従って、本発明の一態様は、1種以上のプラスチックポリマーを、テレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)及び/又はその1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーにアルカリ加水分解する方法であって、
a)上記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下で適切な時間、好ましくは少なくとも1分間、上記反応混合物を撹拌する工程と、
c)上記反応混合物からテレフタル酸、エチレングリコール及び/又は上記他のモノマーを回収する工程と
を含む方法を提供する。
【0020】
本発明の一実施形態は、1種以上のプラスチックポリマーをテレフタル酸(TPA)及び/又はエチレングリコール(EG)にアルカリ加水分解する方法であって、
a)上記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下で適切な時間、好ましくは少なくとも1分間、又は30分~72時間、より好ましくは2~72時間、上記反応混合物を撹拌する工程と、
c)上記反応混合物からテレフタル酸及び/又はエチレングリコールを回収する工程と
を含む方法提供する。
【0021】
本発明の一実施形態は、1種以上のプラスチックポリマーをテレフタル酸(TPA)にアルカリ加水分解する方法であって、
a)上記1種以上のプラスチックポリマーを溶液中で、塩基の存在下で金属酸化物と接触させて、反応混合物を提供する工程と、
b)紫外光照射下で適切な時間、好ましくは少なくとも1分間、より好ましくは30分~72時間又は2~72時間、上記反応混合物を撹拌する工程と、
c)上記反応混合物からテレフタル酸を回収する工程と
を含む方法を提供する。
【0022】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記1種以上のプラスチックポリマーは、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタレート(PEIT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、1種以上のプラスチックポリマーは、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタレート(PEIT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、1種以上のプラスチックポリマーは、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタレート(PEIT)又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。最も好ましくは、1種以上のプラスチックポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0023】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーは、乳酸、ブチレングリコール、1,3-プロピレン、フランジカルボン酸、塩化ビニル、1,1-ジクロロエタン、プロピレン、スチレン、エチレン、アクリロニトリル、ポリブタジエンを含む群から選択される。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーは、乳酸、ブチレングリコール、1,3-プロピレン、フランジカルボン酸を含む群から選択される。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、1種以上のプラスチックポリマーを形成する他のモノマーは、乳酸、ブチレングリコール、1,3-プロピレンを含む群から選択される。
【0024】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記金属酸化物は、TiO2、V2O5、Cr2O3、CrO3、Mn2O3、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Co2O3、NiO、CuO、Cu2O、ZnO、ZrO2、Nb2O5、Mo2O3、RuO、RuO2、RuO4、RhO2、Rh2O3、PdO、Ag2O、Ag2O2、CdO、In2O3、Al2O3、La2O3、CeO2、Ce2O3、HfO2、Ta2O5、WO3、ReO2、ReO3、Re2O3、OsO2、OsO4、IrO2、PtO2、Au2O3、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。好ましくは、金属酸化物はTiO2又はP25である。本発明の方法のいくつかの実施形態では、上に開示された金属酸化物又はそれらの組み合わせは単独で使用される。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、上に開示された金属酸化物又はその組み合わせは、TiO2、P25、又は上に開示された金属酸化物の他の物理的若しくは化学的混合物を含む群から選択される表面に結合している。本発明の方法のいくつかのさらなる実施形態では、上に開示された群からの金属酸化物又は化学的若しくは物理的に混合された金属酸化物の組み合わせは、Pt、Rh、Pd、Ag、Au、Zn、Ni、Irを含む群から選択される金属にその表面で結合している。
【0025】
本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、上記金属酸化物は、TiO2、ZnO、ZrO2、Nb2O5、Ta2O5、RuO、Fe2O3、WOを含む群から選択される。最も好ましくは、金属酸化物はTiO2である。
【0026】
P25、若しくはTiO2、若しくは金属酸化物、又はあるいはP25等の表面に結合されたP25、若しくはTiO2、若しくは金属酸化物の役割は、紫外ブラックライトと相互作用し、この相互作用からラジカルを生成することであり、このラジカルが反応の速度を上げる。
【0027】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記溶液は、アルコール及び/若しくは水を含有する溶液であるか、又はその溶液はアルコール水溶液である。アルコール及び水は、異なる比率で存在することができ、例えば、アルコール:水が100:0~0:100、又は90:10~10:90、又は80:20~20:80、又は50:50~90:10、好ましくは50:50又は80:20である。このアルコールは、1~5個の炭素原子を含み、かつ/又は、アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。好ましくは、アルコールはエタノールである。より好ましくは、上記アルコール水溶液は、80:20のエタノール:水溶液である。最も好ましくは、上記溶液は、エタノール又は90:10~10:90のエタノール:水溶液である。
【0028】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記水は、脱イオン水、廃水、海塩水、水道水、河川水、湖沼水を含む群から選択される。最も好ましくは、上記水は脱イオン水である。
【0029】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記塩基は、NaOH、NaOMe、NaOEt、NaOiPr、NaOtBu、KOH、KOMe、KOEt、KOiPr、KOtBu、LiOH、LiOMe、LiOEt、LiOiPr、LiOtBu、Rb(OH)、RbOMe、RbOEt、RbOiPr、RbOtBu、CsOH、CeOMe、CsOEt、CsOiPr、CsOtBu、Fr(OH)、FrOMe、FrOEt、FrOiPr、FrOtBu、Be(OH)2、Be(OMe)2、Be(OEt)2、Be(OiPr)2、Be(OtBu)2、Mg(OH)2、Mg(OMe)2、Mg(OEt)2、Mg(OiPr)2、Mg(O
t
Bu)2、Ca(OH)2、Ca(OMe)2、Ca(OEt)2、Ca(OiPr)2、Ca(O
t
Bu)2、Sr(OH)2、Sr(OMe)2、Sr(OEt)2、Sr(OiPr)2、Sr(O
t
Bu)2、Ba(OH)2、Ba(OMe)2、Ba(OEt)2、Ba(OiPr)2、Ba(O
t
Bu)2、Ra(OH)2、Ra(OMe)2、Ra(OEt)2、Ra(OiPr)2、Ra(O
t
Bu)2、NH4(OH)、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0030】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記塩基は、NaOH、NaOtBu、KOHを含む群から選択される。最も好ましくは、塩基はNaOHである。
【0031】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、上記アルカリ加水分解は、pH 7~14、又は8~13、又は9~12、又は7~12、又は7~10、又は7~9、又は8~14、又は8~12、又は8~10、又は9~14、又は9~12、又は9~10で実施される。
【0032】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、プラスチックポリマー:塩基の比は、1:1~1:20又は1:1~1:10である。好ましい実施形態では、プラスチックポリマー:塩基の比は、1:20、1:7.5、1:1又は1:3である。他の好ましい実施形態では、プラスチックポリマー:塩基の比は、2:1~3:1、好ましくは2:1又は3:1である。
【0033】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、プラスチックポリマー:金属酸化物の比は、1:0.0375~1:0.00125である。好ましい実施形態では、プラスチックポリマー:金属酸化物の比は、1:0.0375、1:0.015、1:0.0075、又は1:0.00125である。
【0034】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、撹拌工程における適切な時間は、少なくとも30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、15時間、16時間、又は18時間である。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、撹拌工程における適切な時間は、少なくとも1分である。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、撹拌工程における適切な時間は、1分~1ヶ月である。本発明の方法のいくつかの他の実施形態では、撹拌工程における適切な時間は、30分間~72時間、30分間~48時間、30分間~24時間、1~72時間、1~48時間、1~24時間、2~72時間、2~48時間、2~24時間、2~15時間、2~9時間、2~6時間、2~4時間、4~72時間、4~48時間、4~24時間、4~15時間、4~9時間、4~6時間、6~72時間、6~48時間、6~24時間、6~15時間、6~9時間、9~72時間、9~48時間、9~24時間、9~15時間を含む群から選択される。最も好ましくは、撹拌工程における適切な時間は、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、9時間、15時間、24時間、48時間又は72時間である。
【0035】
本発明の方法は、室温(20℃~25℃)で、通常の大気圧(約1013.25mbar)下で実施される。圧力及び/又は温度の制御は必要ない。
【0036】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、UV光(紫外光)は、100~400nmの範囲の、好ましくは315~400nmの範囲の波長を有する。本発明の方法の他の実施形態では、光の強度は、1~150mW/cm2、例えば10~150mW/cm2、例えば50~150mW/cm2、例えば90~150mW/cm2、例えば130~145mW/cm2の範囲であってもよい。光の強度は100mW/cm2程度であってもよい。
【0037】
本発明の方法では、反応混合物からテレフタル酸を回収する工程は、
・上記反応混合物が透明になるまで、反応混合物に水を加えること、
・その反応混合物を第1の固相及び第1の液相に分離すること、
・テレフタル酸沈殿物が形成されるまで、上記第1の液相を(例えば濃HClを用いて)酸性化すること、
・テレフタル酸沈殿物を濾過し、テレフタル酸沈殿物を水及びアルコール(例えば、EtOH)で洗浄すること
のような任意の適切な方法で実施することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、反応混合物を第1の固相及び第1の液相に分離することは、反応混合物を濾過することを含んでもよい。
【0039】
本発明の方法では、反応混合物からエチレングリコールを回収する工程は、
・上記液相中の溶解したエチレングリコールを集めること、
・エチレングリコールが集められるまで上記液相を蒸留すること
のような任意の適切な方法で実施することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、上記反応混合物から金属酸化物を回収する工程をさらに含んでもよい。反応混合物から金属酸化物を回収することは、
・上記反応混合物が透明になるまで、反応混合物に水を加えること、
・上記反応混合物を第1の固相及び第1の液相に分離すること、
・上記金属酸化物を上記第1の液相から(例えば、濾過によって)分離すること、又はテレフタル酸を水とアルコールで洗浄することで金属酸化物を分離すること
のような任意の適切な方法によって実施することができる。
【0041】
本発明の方法で使用される1種以上のプラスチックポリマーは、任意の適切な供給源から得られてもよく、この供給源には、限定されないが、使用後の商品、例えば、飲料ボトル、非飲料容器、食品容器、包装材、カーペット、衣類、テキスタイルの繊維、プラスチックチューブ、プラスチックフィルム、プラスチックシート、ラッピング材料、及び合成繊維が含まれる。いくつかの実施形態では、上記1種以上のプラスチックポリマーは前処理されていない(前処理及び/又は洗浄を必要とせず、そのままのプラスチックポリマーを、塩基の存在下で、アルコール水溶液等の溶液の中で金属酸化物と接触させ、紫外光照射下で撹拌する)。他の実施形態では、1種以上のプラスチックポリマーは、フレーク又は他の断片への切断、破砕、研削又は粉砕等の前処理を受けることができる。他の実施形態では、以下のプロセスの1つ以上で使用後の商品を処理することが必要な場合がある:予備洗浄、粗切断、フィルム及び/又は紙ラベル及び/又はキャップ材料の除去、湿式及び/又は乾式研削、熱洗浄、苛性洗浄、すすぎ、清水洗浄、及びフレーク選別。上述のプロセスは、アルカリ加水分解及び/又は解重合反応のためにプラスチックポリマーを準備するために、単独で又は組み合わせて、任意の順序で使用されてもよい。
【0042】
当業者であれば、本明細書に記載された発明は、具体的に記載されたもの以外の変形や改変が可能であることを理解するであろう。本発明は、その趣旨又は本質的な特性から逸脱しない範囲で、そのようなすべての変形及び改変を含むことを理解されたい。また、本発明は、本明細書で言及又は示されているすべての工程、特徴、組成物及び化合物も、個別に又はまとめて含み、そして、上記工程若しくは特徴の任意及びすべての組み合わせ又は任意の2つ以上も含む。それゆえ、本開示は、すべての態様において、例示されたものであり制限的なものではないと解釈されるべきであり、本発明の範囲は添付の請求項によって示され、趣旨及び均等物の範囲内に入るすべての変更が本発明に包含されることが意図されている。
【0043】
上述の説明は、以下の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、このような実施例は、本発明を実施する方法を例示するものであり、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0044】
材料及び特性評価方法
試薬及び溶媒はSigma-Aldrich、TCI、Carl Roth(カール・ロス)から購入し、さらに精製することなく使用した。赤外スペクトルは、Perkin Elmer(パーキンエルマー) FT-IR/FIR Frontier Spectrometerで、400~4000cm-1の範囲で収集した。熱重量分析(TGA)は、TA instrument(ティー・エイ・インスツルメント) SDT Q600を用いて空気雰囲気下で行った。乾燥した試料を5℃/分の速度で1,000℃まで加熱した後、10℃/分の速度で室温まで冷却した。粉末X線回折データは、Bruker(ブルカー) D8 AdvancedでCu Kα線(λ=1.5418Å、50kW/40mA)を用いて収集した。1H-13C NMRスペクトルは、400MHz Bruker NMRで収集した。元素分析(EA)は、Thermo EA1112 Flash CHNS-O Analyzerを用いて得た。
【0045】
実験の詳細
一般的な考慮事項。実験で使用したプラスチック類(プラスチックポリマー)はすべて未洗浄であった。ペットのソフトドリンク、水のボトル、容器は、研究室のオフィスのリサイクルボックスや家庭のリサイクルボックスにあったもので、可能であれば蓋及びラベルを外してから、手で様々なサイズの仕分け物にカットした。衣類、布地、及びマイクロファイバークロスは、穏やかに使用されたものであり、最終消費者から得た。
【0046】
TiO
2を用いたPETの化学分解。PETのアルカリ加水分解を調べるために、
図1に示す構成を開発した。この実験では、PETボトルから蓋及びラベルを取り外し、PETボトルをランダムな大きさの断片に切断してから、それらを反応器に入れた。ブラックライトUV LED(12W)を装着した500mLのパイレックス(登録商標)製反応器の中で、NaOH(10~60g)、PET(8~30g)、及び(10~720mg)のP25 TiO
2を、100~400mLのEtOH:H
2O(80:20)溶液の中で撹拌する。完了後、溶液が透明になるまでH
2Oを加え、その後濾過する。金色の液体を、オフホワイト/ベージュの沈殿物が形成するまで濃HClで酸性にし、濾過する。すべてのPETが解重合したことを確認するために、最初に紫外ブラックライト照射下で72時間、室温で反応器を撹拌した。沈殿物であるTPAを300mLのH
2O、200mLのEtOHで洗浄し、乾燥させた後、
1H及び
13C NMR、IR、TGA及びEAで特性評価を行う。
【0047】
完了後、89%のTPAが得られ、これは、PETの繰り返し単位の平均分子量(192.2g/mol)に基づいて計算されている。NMRによる粗生成物の分析(
図2)から、ワークアップ後にTPA及びEGの両方が反応混合物の中に存在することが示される。この2つの生成物の分離は、水及びEtOHでの洗浄によって達成された。EGは、溶媒を蒸留することで単離したが、しかしながら定量的な収率は得られなかった。その理由をさらに調べるために、ガラス瓶の中にEGとTiO
2だけを入れたブランク反応を48時間行い、粗反応混合物を、H
2及びギ酸の存在についてNMR及びガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。GC分析は、この反応では0.2μmol/g・hのH
2が生成され、
1H及び
13C-DEPT135 NMRの両方は、ギ酸塩がそれぞれδ(ppm)8.02及び170.09に存在することを示す。それゆえ、上記反応におけるEGの一部はギ酸中間体を経由して光触媒的にCO
2に変換されているが、洗浄前の最初の反応後にもEGが見られ、粗混合物の洗浄前にはギ酸が出現しないことから、この反応は定量的ではない。これに続いて、TPAの純度を熱重量分析(TGA)、元素分析(EA)、赤外(IR)、NMRで確認した(
図3及び
図4)。この分析結果を、市販品を購入したTPA(Sigma Aldrich)と比較したが、よく一致している(
図3及び
図4、表1)。
【0048】
【0049】
時間
この反応の効率と限界を分析するために、最適化実験を行った。特に、この最適化実験は、反応が行われる最短の時間と、NaOH:PETの最適な比率を決定するために検討した。それゆえ、PET:NaOHの比が1:7.5、TiO2が120mg、EtOH:H2O(80:20)が300mLという確立された反応条件を用いて、初期試験を開始した。
【0050】
図5aは、最初の4時間でTPAが生成されたことを示すが、しかしながら反応は完了し、残留PETが回収される。6~9時間後には、収率が急速に上昇し、PETからのTPAの変換率が最大となり、99%超のTPAの変換率に相当したが、72時間反応を続けた場合には、より低い変換率(89%)が得られる(表2)。この収率の低下は、同様の条件で報告されているTiO
2によるTPAの光触媒分解によるものと考えられる。TPAのH
2への変換を確認するために、25mLのガラス製バイアルに10mLのヘッドスペースを設け、UVA照射下で反応を行った。反応を48時間行い、ヘッドスペースをGCで分析したところ、0.5μmol/g・hのH
2が生成したことが示された(表3)。
【0051】
【0052】
【0053】
研削/切断
PETプラスチックを機械的にやすり掛けして粉末にすることで、反応速度を上げることができた(
図5b、表4)。この実験では、最初の2時間で収率が約1.5倍の48%まで高まり、わずか4時間で反応が完了した。これらの結果は、PETプラスチックの表面積の量の増加が、実際に反応速度に関与していることを示唆する。これらの結果と比較して、反応時間を短縮するために温度を大幅に上げると、PETからTPAへの変換率は同等かそれ以下になることが報告されている。しかしながら、追加のエネルギーを必要とすることは、この結果の利点を上回るものである。
【0054】
【0055】
PET:NaOH比
PET:NaOHの比は、理想的な比率は1:20であるとこれまでに報告されているため、この後、PET:NaOHの比を最適化した。確立された反応条件とともに用いる初期の比は1:7.5で始め、これは8g:60gのPET:NaOHである(表5)。この条件の限界に挑戦するために、NaOHの量はそのままで、PETの量を変化させながら、上述と同じ条件を用いた。PETの量を20g(1:3)、60g(1:1)、120g(2:1)と増やすと、収率はそれぞれ87%、95%、90%となった(
図5c)。比率を上げると、溶液の粘度が固まりかけたところまで上昇し、その結果、収率が若干低下した。これは、溶液中のTPAの飽和点に起因しており、これによって、溶液の混合が不適切になり、UV光がTiO
2を活性化して解重合プロセスを助けることができなくなる。比率が高くなりすぎると(PET:NaOHが3:1)、収率が67%と大幅に低下する。この場合は、反応後に大量の未反応のPETが回収され、特に最も厚い部分(例えばボトルのトップ)には、トップの薄い部分に沿ってギザギザの縁が見られる(
図5c、右)。
【0056】
【0057】
塩基
塩基をNaOHからNaOtBu又はKOHに変更したところ、反応の収率が大きく低下するか、又は同程度となった(表6)。
【0058】
【0059】
金属酸化物及び紫外光
PETの解重合プロセスに対するTiO2及び紫外光の効果を理解するために、紫外ブラックライトなしで、TiO2の濃度を変化させた実験をいくつか行った。これらの条件は、上記反応におけるラジカルの役割についての洞察を得るために用いた。全体的に見て、仮説的な反応メカニズムは、すでに確立されているアルカリ加水分解メカニズムに、紫外線ブラックライトからTiO2によって生成されるラジカル種が加わったものだと考えられる。この場合、O2-、HOO・、HOOH、HOO-、HO・及びOH-等の種は、塩基性水溶液中のTiO2から生成することができる。その後、これらのラジカルは、反応速度を高めることでPETの解重合に重要な役割を果たす。
【0060】
最初の実験は、NaOHの役割を理解するために、TiO
2及び紫外光がない状態で行った。これらの実験は、500mLのガラスビーカーに入れたNaOHを用いて、室温で行った。PETの添加後、反応物を24時間撹拌し、濾過すると44%のPETが回収され、未反応のプラスチックの大部分はボトルのスクリュートップの最も厚い部分で構成されていた。走査型電子顕微鏡法(SEM)を使用して残留プラスチックをさらに詳しく調べたところ(
図6)、表面が滑らかだったのが、ほとんどあばた状態になる等、劇的な変化が示された。これらの結果は、アルカリ溶液を用いたPETの分解が、プラスチック片の表面と端部の両方で起こることを示す。
【0061】
反応速度を高めるためには、TiO2及び紫外ブラックライトが必要であることを確認した後、0~300mgのTiO2を用いて、反応に必要なTiO2の量を調べた(表7)。
【0062】
【0063】
図5dに見られるように、すべての反応でTPAが得られ、最も低い収率の44%はTiO
2がないことに起因する。この場合、この収率は、TiO
2及び紫外ブラックライトの両方を使用しなかった場合に認められた収率と一致しており、これは、紫外光のみを反応に加えても収率の向上にはつながらないことを明らかにする。TiO
2の量を増やすと、収率の変化は最初は劇的で、その後安定し、120mgで最も高い収率となった(>99%)。TiO
2の量を300mgに増やすと、収率が63%と大幅に低下するが、これはTiO
2によるTPAの光触媒分解によるものである。
【0064】
この反応におけるTiO
2の役割を分析するために、異なる種類のTiO
2を調達して合成し、粒子サイズ、アナターゼ:ルチルの比、アナターゼ/ルチルの相互作用の度合い、及びバンドギャップがメカニズムに果たす役割を調べた(表8、
図7)。電子正孔の分離を最適化できるかどうかを理解するために、複合材も調製した。いずれの場合も、TiO
2複合材のアナターゼ型は、混合相又はルチル相に比べて性能が劣っていた。これは、アナターゼ型及びルチル型の混合物において認められる電子/正孔の分離と効率がより良好であること、並びにルチル型で認められるより小さいバンドギャップ(アナターゼ型の3.2eVに対して3.0eV)に起因する。それゆえ、ルチル相はアナターゼよりもUVA領域の光を多く吸収し、その結果、反応中のラジカルの量を増加させ、高い収率をもたらす。
【0065】
【0066】
Pt、Zn、Ru及びPd等の別の金属をP25(TiO2)表面に添加すると興味深い結果が得られ、Pt、Pd及びRuO2-P25(TiO2)は、その還元能力のために市販のP25とRu-P25を下回った(表9)。この反応ではPETは残らなかったが、TPAの収率が低かったのは、TPAをH2等のガスに分解する競合する副反応を光触媒する上記触媒の能力による。Ruは白金族金属であるが、還元反応の助触媒としてはあまり使われないため、副反応の影響が少なく、収率はP25(TiO2)と同等になる。さらに、TiO2の役割を確認するために、ZnOを反応に代えたところ、収率が62%に低下することが認められた。どちらの半導体金属酸化物も同様の光触媒作用を持つことが報告されているが、しかしながらZnOはわずかに大きいバンドギャップを有する(3.4対3.0ev)。これが要因である可能性はあるが、収率の差は、この反応に使用されたTiO2が、アナターゼ型とルチル型の混合物であり、電子/正孔分離に優れ、全体的な効率が高いことで知られているP25であることに起因する可能性がある。これらの結果は、この反応には紫外ブラックライトで活性化されたTiO2が必要であることを明らかにする。
【0067】
【0068】
続いて、ラジカルを介したPETの解重合にはTiO2が必要であるため、ラジカル捕捉剤(ラジカルスカベンジャー)を反応に導入した。ここでは、(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)オキシル(TEMPO)を、TEMPO:TiO2(120mg)の2:1の比で用い、同じ最適化された条件を使用した。解重合反応は抑制され、9時間後にはわずか55%のTPAしか回収することができず、アルカリ加水分解のメカニズムにおけるラジカルの役割が確認された。しかしながら、どのようなラジカル(1種又は複数種)が存在するのか、及びラジカルが解重合プロセスの速度論にどのように影響するのかを明らかにするには、さらなる研究が必要である。紫外線若しくはTiO2が存在しない場合、又は溶液の粘性が高くなりすぎる場合、TPAの収率は大幅に低下する。また、溶液中のラジカル濃度が高くなりすぎると、TPAの光触媒分解のような競合反応や副反応のメカニズムが起こり始める。
【0069】
着色PET及び/又は混入PETプラスチック材料
反応条件を拡張することで、異なる色のPETボトルのリサイクルにも適用できることが明らかになった(表10、表11、表12)。使用した条件は、特段の記載がない限り、プラスチック400mg、NaOH 3g、80:20のEtOH:H2O溶液300~400mL、紫外ブラックライト使用、及び触媒としてのTiO2 100~140mgであった。反応時間は、混入物がこのプロセスを妨害しないことを示すために、切断したPETを用いて9時間とした。実験は、着色したPETボトル(緑、茶、黒、及び白)は予想通りの挙動をするが、しかしながら添加剤の存在により、それぞれ72%、67%、27%、及び78%と低い収率となることを示す。緑:茶:黒:白:透明なプラスチックの1:1:1:1の混合物を試験したところ、純粋なTPAの収率は97%であり、異なる添加剤/色素の存在がPETを解重合する反応の能力に影響を与えないことが明らかになった。
【0070】
PETの解重合に関する文献にある研究の多くは、洗浄済み又は化学グレードのPETペレットを使用する。しかしながら、実際の産業シナリオにこれらの構成を適用する場合、一般家庭のゴミから得られる未洗浄又は汚れたPETのような問題を考慮していない。このような廃棄物には、界面活性剤、化粧水、タンパク質、糖分、食品粒子等の化合物が含まれている可能性があり、これらはシステムの挙動を変化させる可能性がある。本発明者らの条件が幅広い消費者製品に適用できることを実証するために、汚れた切断PETの破片を9時間反応させた(表10)。粉末ではなく切断したPETプラスチック片を選んだのは、混入物質がそのまま残り、機械的なやすり掛けで除去されないようにするためである。当然のことながら、ソフトドリンクボトルの収率が最も高く、その他の混入試料(ピーナッツバター、フェイスローション、ミルクシェイクボトル等)の収率よりも高かった。これは、TiO2が生成したラジカルが、プラスチックではなく他の有機化合物と相互作用したためと考えられる。この問題に対処するため、TiO2の量を3倍(360mg)に増やしたところ、収率が増加することが判明した。
【0071】
異なるプラスチック材料
エステル系ポリマーの解重合をさらに追求し、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリ乳酸(PLA)の両方について、本発明の方法の条件に対する感受性を調べた。いずれの場合も、反応終了後にポリマーは見られなかったが、しかしながら収率は予想よりも低かった。これは、TiO2によってモノマーがさらに分解されてH2になったためと考えられる。しかしながら、これを確認し、その後に条件を最適化するためにはさらなる研究が必要である。
【0072】
【0073】
使用後のPET廃棄物は、一般には、プラスチックボトル及び食品容器に関連するが、衣類や布地もこの範疇に入る。それゆえ、ポリエステルベースの布地の選択的解重合も試験した。この試験では、ポリエステル/ポリアミドマイクロファイバークロス(TPA67%)及び綿混紡シャツ(TPA92%)の両方が成功裏に解重合され、残留ポリアミド及び綿の成分が残った。この残留ポリマー及び布地は、その後、出発成分に戻すか、再利用することができる。
【0074】
【0075】
混合プラスチック、衣類、繊維の解重合
エステル系ポリマーの解重合をさらに検討し、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリ乳酸(PLA)の両方について、本発明の方法の条件に対する感受性を調べた。いずれの場合も、反応終了後にポリマーは見られなかったが、しかしながら収率は予想よりも低かった。これは、TiO2によってモノマーがさらに分解されてH2になったためと考えられる。しかしながら、これを確認し、その後に条件を最適化するためにはさらなる研究が必要である。
【0076】
使用後のPET廃棄物は、一般には、プラスチックボトル及び食品容器に関連するが、衣類や布地もこの範疇に入る。それゆえ、ポリエステルベースの布地の選択的解重合も試験した。この試験では、ポリエステル/ポリアミドマイクロファイバークロス(TPA67%)及び綿混紡シャツ(TPA92%)の両方が成功裏に解重合され、残留ポリアミド及び綿の成分が残った。この残留ポリマー及び布地は、その後、出発成分に戻すか、再利用することができる。
【0077】
【0078】
PETの解重合条件
1. 上記と同様の手順に従って、1ヶ月間反応を放置した。結果:TPAの収率:89%。
2. 表13に見られるように、TiO2の添加量を変更して、上記と同じ手順に従った。720mgのTiO2を使用して、反応時間を30分に短縮することができる。
【0079】
【0080】
TiO2ゾル-ゲル合成
TiO2ゾル-ゲルの合成は、文献から引用した方法を用いて行った。次いで、ゾル-ゲルを顕微鏡用スライドグラスに広げ、500~650℃の炉に2時間入れ、その後室温まで冷却した。その後、スライドを水及びエタノールで洗浄し、余分なTiO2を除去した。次いで、このTiO2スライドグラスを、8gのPETプラスチック、60gのNaOH、及び300mLのEtOH:H2O(80:20)溶液とともにUVA光反応器の中に入れた。8時間反応させた後、先ほどと同じ手順で回収作業を行った。
【0081】
複数回塗布する場合は、ゾルゲルをガラス瓶に塗布した後、これを炉で加熱し、別のコートを塗布した後に再度加熱を行った。洗浄工程は、最終コートの冷却後にのみ行った。
【0082】
表14に見られるように、TPAの収率は、ゾル-ゲル合成されたTiO2から得られたものと同程度であった。各実行において、TiO2-スライドグラスを水及びエタノールで洗浄し、反応器に戻した。4回実行した後、収率の低下が認められたため、このTiO2ガラスを500℃のオーブンで2時間再生した。再生後、収量の増加が認められ、TiO2が再び活性化したことが示された。興味深いことに、スライドグラスのみを使用した場合でも、TPAの中程度の収率が認められた。
【0083】
【0084】
ゾル-ゲルTiO2ガラスと同様の手順に従って、ゾル-ゲルTiO2を25mLのDuran(デュラン)(登録商標)ガラス瓶の内側に1回コーティングし、500~650℃の炉に入れ、冷却及び洗浄後に解重合反応を進行させた。この実験では、反応は典型的なPETの解重合条件に従ったが、TiO2は追加しなかった。2回目の実行ではTPA収率の低下が認められたが、TiO2ガラス瓶を再生すると収率の上昇が認められた。これに続いて、TPAの収率を高く保つために、各実行後にTiO2ガラス瓶を再生した(表15)。TiO2ゾルゲルを2回コーティングした場合、反応時間は3時間に短縮され(表16)、4回コーティングした場合、反応時間は2時間に短縮された(TPA収率80%)。
【0085】
【0086】
【0087】
異なる反応条件
さらに反応を最適化すると、EtOHのみ(水なし)の存在下で反応を行うことができるということが示される。
【0088】