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特許7461080リチウム2次電池、及びアノードフリー電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】リチウム2次電池、及びアノードフリー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240327BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240327BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240327BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240327BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240327BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240327BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240327BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240327BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0565
H01M10/0566
H01M50/46
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022553320
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037201
(87)【国際公開番号】W WO2022070326
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0203757(US,A1)
【文献】特開2017-59367(JP,A)
【文献】特開2015-153481(JP,A)
【文献】特開2014-71965(JP,A)
【文献】特開2012-146553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 4/13
H01M 4/134
H01M 4/62
H01M 4/66
H01M 10/052
H01M 10/0565
H01M 10/0566
H01M 50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極集電体と前記負極の間に配置されているセパレータと、
前記正極集電体と前記セパレータの間に配置されている正極活物質を有する正極と、
電解液と、
を備える、リチウム2次電池であって、
前記正極集電体と前記セパレータの間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む、
リチウム2次電池。
【請求項2】
正極集電体と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極集電体と前記負極の間に配置されている固体電解質と、
前記正極集電体と前記固体電解質の間に配置されている正極活物質を有する正極と、
を備える、リチウム2次電池であって、
前記正極集電体と前記固体電解質の間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む、
リチウム2次電池。
【請求項3】
前記正極集電体と前記正極との間に、前記アニオン吸着性導電性高分子を含有する高分子層が配置されている、請求項1又は2に記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
前記正極の前記正極集電体とは反対側の面に、前記アニオン吸着性導電性高分子を含有する高分子層が配置されている、請求項1又は2に記載のリチウム2次電池。
【請求項5】
前記正極が、前記アニオン吸着性導電性高分子を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
前記リチウム2次電池における前記アニオン吸着性導電性高分子の含有量が、前記正極活物質及び前記アニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、1%以上15%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項7】
前記リチウム2次電池は、リチウム金属が前記負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが電解溶出することによって充放電が行われるリチウム2次電池である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項8】
前記負極は、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項9】
初期充電の前に、前記負極の表面にリチウム箔が形成されていない、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項10】
エネルギー密度が350Wh/kg以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項11】
正極集電体と、
負極と、
前記正極集電体と前記負極の間に配置されているセパレータと、
前記正極集電体と前記セパレータの間に配置されている正極活物質を有する正極と、
電解液と、
を備える、アノードフリー電池であって、
前記正極集電体と前記セパレータの間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む、
アノードフリー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池、及びアノードフリー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間を金属イオンが移動することで充放電を行う2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られており、典型的には、リチウムイオン2次電池が知られている。典型的なリチウムイオン2次電池としては、正極及び負極にリチウムを保持することのできる活物質を導入し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうものが挙げられる。また、負極に活物質を用いない2次電池として、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するリチウム金属2次電池が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を有する、高エネルギー密度、高出力リチウム金属アノード2次電池が開示されている。特許文献1は、そのようなリチウム金属アノード2次電池を実現するため、極薄リチウム金属アノードを用いることを開示している。
【0005】
また、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム二次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-537226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、正極活物質及び負極活物質の間での金属イオンの授受によって充放電をおこなう典型的な2次電池は、エネルギー密度及び容量が十分でない。また、従来の負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するアノードフリー型のリチウム2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすい。その結果、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、アノードフリー型のリチウム2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度及び容量が高く、サイクル特性に優れる、リチウム2次電池、及びアノードフリー電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極集電体と、負極活物質を有しない負極と、上記正極集電体と上記負極の間に配置されているセパレータと、上記正極集電体と上記セパレータの間に配置されている正極活物質を有する正極と、電解液と、を備え、上記正極集電体と上記セパレータの間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む。
【0012】
上記リチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極を備えることにより、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0013】
また、以下の理由から上記リチウム2次電池は、サイクル特性に優れ、エネルギー密度及び容量が一層高い。従来のアノードフリー型のリチウム2次電池では、サイクル特性を向上させるために電解液中のリチウムイオン濃度を高くする傾向にあるが、当該電解液中のリチウムイオンはリチウム金属の析出のためには消費されないため、そのような電解液中の高濃度のリチウムイオンは、エネルギー密度上昇の観点からは不利である。一方、上記リチウム2次電池は、充電時において、上記アニオン吸着性導電性高分子が電解液中に含まれるアニオンを吸着するため、正極に由来するリチウムイオンだけではなく、電解液中のアニオンの対イオンであるリチウムイオンを消費することよりリチウム金属を負極上に析出させることができ、高濃度のリチウムイオンを含む電解液を用いた場合でも、エネルギー密度及び容量を高くすることができる。更に、アニオン吸着性導電性高分子が電解液中に含まれるアニオンを吸着する反応は、正極からリチウムイオンが脱離する反応に比べて生じやすいため、上記リチウム2次電池では、充電の初期において、負極上へのリチウム金属析出反応の反応速度が緩やかになる。その結果、上記リチウム2次電池では、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、サイクル特性が優れたものとなる。
【0014】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極集電体と、負極活物質を有しない負極と、上記正極集電体と上記負極の間に配置されている固体電解質と、上記正極集電体と上記固体電解質の間に配置されている正極活物質を有する正極と、を備え、上記正極集電体と上記固体電解質の間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む。
【0015】
上記のような固体電解質を有するリチウム2次電池は、固体電解質中に含まれるアニオンが、上記アニオン吸着性導電性高分子に吸着することに起因して、固体電解質中に含まれるリチウムイオンが負極上へ析出するため、電解液を有していなくてもよい。そのような態様によれば、リチウム2次電池を固体電池とすることができるため、一層安全性の高いリチウム2次電池とすることができる。
【0016】
上記リチウム2次電池は、上記正極集電体と上記正極との間に、上記アニオン吸着性導電性高分子を含有する高分子層が配置されていてもよい。そのような態様によれば、正極集電体と高分子層とが直接接触しているため、アニオン吸着性導電性高分子においてアニオンの吸着が一層生じやすく、リチウム2次電池は、一層サイクル特性が向上する。
【0017】
上記リチウム2次電池は、上記正極の上記正極集電体とは反対側の面に、上記アニオン吸着性導電性高分子を含有する高分子層が配置されていてもよい。
【0018】
上記リチウム2次電池は、上記正極に、上記アニオン吸着性導電性高分子が含まれるものであってもよい。
【0019】
上記リチウム2次電池における上記アニオン吸着性導電性高分子の含有量は、好ましくは、上記正極活物質及び上記アニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、1%以上15%以下である。そのような態様によれば、エネルギー密度及び容量と、サイクル特性とのバランスに一層優れるようになる。
【0020】
上記リチウム2次電池は、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが溶解することによって充放電が行われるリチウム2次電池であってもよい。そのような態様によれば、エネルギー密度が一層高くなる。
【0021】
上記負極は、好ましくは、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。また、そのような負極は安定であるため、2次電池のサイクル特性は一層向上する。
【0022】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、初期充電の前に、上記負極の表面にリチウム箔が形成されていない。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。
【0023】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、エネルギー密度が350Wh/kg以上である。
【0024】
本発明の一実施形態に係るアノードフリー電池は、正極集電体と、負極と、上記正極集電体と上記負極の間に配置されているセパレータと、上記正極集電体と上記セパレータの間に配置されている正極活物質を有する正極と、電解液と、を備え、上記正極集電体と上記セパレータの間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む。
【0025】
上記電池は、アノードフリー電池であるため、エネルギー密度が高い。また、以下の理由から上記アノードフリー電池は、サイクル特性に優れ、エネルギー密度及び容量が一層高い。従来のアノードフリー型の電池では、サイクル特性を向上させるために電解液中の電解質の濃度を高くする傾向にあるが、当該電解液中の金属イオンは金属の析出のためには消費されないため、そのような電解液中の高濃度の電解質は、エネルギー密度上昇の観点からは不利である。一方、上記アノードフリー電池は、充電時において、上記アニオン吸着性導電性高分子が電解液中に含まれるアニオンを吸着するため、正極に由来する金属イオンだけではなく、電解液中のアニオンの対イオンである金属イオンを消費することより金属を負極上に析出させることができ、高濃度の金属イオンを含む電解液を用いた場合でも、エネルギー密度及び容量を高くすることができる。更に、アニオン吸着性導電性高分子が電解液中に含まれるアニオンを吸着する反応は、正極から金属イオンが脱離する反応に比べて生じやすいため、上記アノードフリー電池では、充電の初期において、負極上への金属析出反応の反応速度が緩やかになる。その結果、上記アノードフリー電池では、負極上にデンドライト状の金属が成長することが抑制され、サイクル特性が優れたものとなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、エネルギー密度及び容量が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池、及びアノードフリー電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図2】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
図3】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図4】第3の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図5】第4の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0029】
[第1の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図1に示すように、第1の本実施形態のリチウム2次電池100は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ130と、正極110とセパレータ130との間に配置されている高分子層120と、図1には図示されていない電解液とを備える。正極集電体150は、正極110の高分子層120に対向する面とは反対側に配置されている。
【0030】
(負極)
負極140は、負極活物質を有しないものである。負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の存在に起因して、エネルギー密度を高めることが困難である。一方、本実施形態のリチウム2次電池100は負極活物質を有しない負極140を備えるため、そのような問題が生じない。すなわち、本実施形態のリチウム2次電池100は、リチウム金属が負極140上に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0031】
なお、本実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、特に断りがない限りにおいて、負極の表面、及び負極の表面に形成された後述する固体電解質界面層(SEI層)の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、リチウム2次電池100において、リチウム金属は、例えば、負極140の表面(負極140とセパレータ130との界面)に析出してもよい。
【0032】
本明細書において、特に断りがない限りにおいて、「負極活物質」とは、リチウムイオン、又はリチウム金属を負極140に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的にはリチウム金属)のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0033】
そのような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属、及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0034】
負極140としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極140にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0035】
負極140は、好ましくはリチウムを含有しない電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、リチウム2次電池100は、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。同様の観点及び負極140の安定性向上の観点から、その中でも、負極140は、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。同様の観点から、負極140は、更に好ましくは、Cu、Ni、又はこれらからなる合金からなるものであり、特に好ましくはCu、又はNiからなるものである。
【0036】
本明細書において、「負極が負極活物質を有しない」とは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。なお、リチウム2次電池100が負極活物質を有しない負極を備えるということは、リチウム2次電池100が、一般的に用いられる意味でのアノードフリー2次電池、ゼロアノード2次電池、又はアノードレス2次電池であることを意味する。
【0037】
負極140の容量は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。したがって、負極140は、負極集電体と換言することもできる。なお、正極110、及び負極140の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0038】
負極140の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0039】
(正極)
正極110としては、正極活物質を有する限り、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。正極110は、正極活物質を有するため、安定性及び出力電圧が高い。
【0040】
本明細書において、「正極活物質」とは、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)を正極110に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質と換言してもよい。
【0041】
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO2、LiNixCoyMnzO(x+y+z=1)、LiNixMnyO(x+y=1)、LiNiO2、LiMn24、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiS2が挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0042】
正極110は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質が挙げられる。
【0043】
正極110における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0044】
正極110における、正極活物質の含有量は、正極110全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質の含有量の合計は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。
【0045】
(正極集電体)
正極110の片側には、正極集電体150が配置されている。正極集電体150は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0046】
正極集電体150の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体150の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0047】
(セパレータ)
セパレータ130は、正極110と負極140とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極110と負極140との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有さず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ130は当該電解液を保持する役割も担う。セパレータ130は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0048】
セパレータ130は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ130の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、イオン伝導性を有し、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ130と、セパレータ130に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ130は、セパレータ被覆層を有するセパレータを包含するものである。
【0049】
セパレータ130の平均厚さは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ130の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ130の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0050】
(高分子層)
高分子層120は、アニオン吸着性導電性高分子を含有する層であり、好ましくはアニオン吸着性導電性高分子からなる層である。高分子層120は、セパレータ130と正極110との間に配置されており、セパレータ130側に形成されていてもよく、正極110側に形成されていてもよい。リチウム2次電池100は、高分子層120が正極110に接触するように構成されていると好ましい。高分子層120が正極110に接触するように構成されていない場合、リチウム2次電池は、その使用時に、高分子層120が正極110に接触するように、電池の厚さ方向に圧力をかければよい。
【0051】
本明細書において、「アニオン吸着性導電性高分子」とは、電池の充電時にアニオンを吸着する、又は吸着することができる高分子であって、導電性を有する、又は当該アニオンの吸着により導電性を発現する高分子を意味する。高分子層120は、そのようなアニオン吸着性導電性高分子を有するため、リチウム2次電池100の充電時において、電解液中に含まれるアニオンを吸着すると共に、正極110及び正極集電体150を介して負極140に電子を供給する。ここで、リチウム2次電池100全体としては、電解液中の電気的中性を維持するために、吸着されたアニオンの対イオンであるリチウムイオンが負極140上で還元され、負極上にリチウム金属が析出する。このようなアニオンの吸着に起因する負極上へのリチウム金属の析出は、正極活物質からリチウムイオンが脱離することに起因する負極上へのリチウム金属の析出に比べて生じやすい(低電圧条件で生じる)ため、リチウム2次電池100では、充電の初期において、負極上へのリチウム金属析出反応の反応速度が緩やかとなる。その結果、リチウム2次電池100は、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。ただし、リチウム2次電池100がサイクル特性に優れる要因は上記に限られない。
【0052】
また、上記のとおりリチウム2次電池100は、充電時、特に充電の初期において、電解液中のリチウムイオンが消費されて負極上にリチウム金属が析出するため、下記の理由からエネルギー密度及び容量が高い。すなわち、従来のアノードフリー型のリチウム2次電池では、サイクル特性を向上させるために電解液中のリチウムイオン濃度を高くする傾向にあるが、当該電解液中のリチウムイオンはリチウム金属の析出のためには消費されないため、そのような高濃度のリチウムイオンは、エネルギー密度上昇の観点からは不利である。一方、電解液中のリチウムイオンが消費されて負極上にリチウム金属が析出することができるリチウム2次電池100は、電解液中のリチウムイオンをリチウム源に利用することができるため、電解液中の高濃度のリチウムイオンがエネルギー密度の観点からも不利にならず、優れたサイクル特性と、高いエネルギー密度及び容量を両立することができる。ただし、リチウム2次電池100が優れたサイクル特性と、高いエネルギー密度及び容量を両立することができる要因は上記に限られない。
【0053】
なお、「充電の初期」とは、電池の充電率(ステート・オブ・チャージ(SOC))が低い状況における充電段階を意味し、例えば、充電率が40%以下、25%以下、又は10%以下における充電段階を指す。ただし、上記の具体的な数値は、アニオン吸着性導電性高分子の含有量にも依存する。電池の充電率は、電池の開放電圧を測定することにより見積もることができる。
【0054】
アニオン吸着性導電性高分子としては、電池の充電時にアニオンを吸着する、又は吸着することができる高分子であって、導電性を有する、又は当該アニオンの吸着により導電性を発現する高分子であれば特に限定されない。リチウム2次電池100のサイクル特性を一層向上させる観点から、アニオン吸着性導電性高分子は、リチウム対極に対して、好ましくは3.0V以下、より好ましくは2.5V以下、更に好ましくは2.0V以下の電位でアニオンドーピングが生じ、すなわち、アニオンを吸着することができる。
【0055】
アニオン吸着性導電性高分子としては、例えば、高分子主鎖に共役系を有する高分子が挙げられる。そのような高分子は、電解液中、所定の電位を印加すると、電解液中のアニオンがドープされ、導電性を発現するものであり、すなわち、アニオンを吸着し、当該アニオンの吸着により導電性を発現する。アニオン吸着性導電性高分子の非限定的な例示としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリp-フェニレン、ポリフルオレン、ポリp-フェニレンビニレン、及びポリチエニレンビニレン、並びにこれらの誘導体(高分子主鎖に共役系を有するものに限る。)が挙げられる。なお、上記の高分子は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0056】
高分子層120は、アニオン吸着性導電性高分子以外の成分を含有していてもよい。アニオン吸着性導電性高分子以外の成分としては、例えば、アニオン吸着性導電性高分子以外の高分子、セパレータ被覆層が含み得る無機粒子、並びに、正極110が含み得る公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質等が挙げられる。
【0057】
高分子層120の厚さは特に限定されないが、好ましくは100nm以上50μm以下であり、より好ましくは500nm以上10μm以下であり、更に好ましくは1.0μm以上5.0μm以下である。高分子層の厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100のエネルギー密度及び容量と、サイクル特性とのバランスを向上させることができる。
【0058】
リチウム2次電池100において、アニオン吸着性導電性高分子の含有量は、好ましくは、正極活物質及びアニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、1%以上15%以下であり、より好ましくは5%以上10%以下である。なお、正極活物質及びアニオン吸着性導電性高分子の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0059】
(電解液)
リチウム2次電池100において、電解液は、セパレータ130に浸潤させてもよく、正極110と、高分子層120と、セパレータ130と、負極140との積層体と共に、電解液を密閉容器に封入してもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、リチウム2次電池100は、内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0060】
電解液中の電解質としては、リチウム塩を含んでいればよいが、その他の塩、例えば、Na、K、Ca、及びMgの塩等を含んでいてもよい。電解質のアニオンとしては、特に限定されないが、例えば、I-、Cl-、Br-、F-、ClO4 -、BF4 -、PF6 -、AsF6 -、SO3CF3 -、N(SO2F)2 -、N(SO2CF32 -、N(SO2CF3CF32 -、B(O2242 -、B(O224)F2 -、B(OCOCF34 -、NO3 -、及びSO4 2-等が挙げられる。アニオン吸着性導電性高分子とアニオンとの相互作用を高める観点から、電解質のアニオンとしては、ClO4 -、BF4 -、PF6 -、AsF6 -、及びN(SO2F)2 -が好ましく、BF4 -、PF6 -、及びN(SO2F)2 -がより好ましい。
【0061】
リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF3CF32、LiB(O2242、LiB(O224)F2、LiB(OCOCF34、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。リチウム2次電池100のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性を一層向上させる観点から、リチウム塩は、LiN(SO2F)2が好ましい。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0062】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメトキシエタン、ジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート、トリフロロメチルプロピレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ノナフロロブチルメチルエーテル、ノナフロロブチルエチルーテル、テトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチルが挙げられる。上記の溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0063】
電解液における電解質の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5M以上であり、より好ましくは0.7M以上であり、更に好ましくは0.9M以上であり、更により好ましくは1.1M以上である。電解質の濃度が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100は、一層優れたサイクル特性と、一層高いエネルギー密度及び容量を両立することができる。電解質の濃度の上限は特に限定されず、電解質の濃度は10.0M以下であってもよく、5.0M以下であってもよく、2.0M以下であってもよい。
【0064】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、リチウム2次電池100において、正極集電体150及び負極140に、リチウム2次電池を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。
【0065】
正極端子220及び負極端子210の間に、負極端子210から外部回路を通り正極端子220へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200を充電することにより、負極上にリチウム金属の析出が生じる。リチウム2次電池200の充電時、特に充電の初期において、高分子層120のアニオン吸着性導電性高分子は、電解液中のアニオンを吸着し、それに起因したリチウム金属の析出が負極上で生じる。
【0066】
リチウム2次電池200は、電池の組み立て後の第1回目の充電(以下、「初期充電」という。)により、負極140の表面(負極140とセパレータ130との界面)に固体電解質界面層(SEI層)が形成されていてもよい。形成されるSEI層としては、特に限定されないが、例えば、リチウムを含む無機化合物、及びリチウムを含む有機化合物等を含んでいてもよい。SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。
【0067】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子220及び負極端子210を接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極上に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。また、アニオン吸着性導電性高分子からアニオンが放出される。
【0068】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0069】
まず、正極110を公知の製造方法により、又は市販のものを購入することにより準備する。正極110は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、例えば、上記正極混合物全体に対して、正極活物質が50質量%以上99質量%以下、導電助剤が0.5質量%30質量%以下、バインダーが0.5質量%30質量%以下であってもよい。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極集電体150上に形成された正極110を得る。
【0070】
次に、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極140を得る。
【0071】
次に、上述した構成を有するセパレータ130を準備する。セパレータ130は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0072】
高分子層120は、セパレータ130の片面(正極110に対向する面)に形成してもよく、正極110の片面(セパレータ130に対向する面)に形成してもよい。高分子層120は、上記のアニオン吸着性導電性高分子をm-クレゾール、水、又はキシレン等の溶媒に溶解させて得られる溶液を、セパレータ130又は正極110の片面に、ディップコート法やスピンコート法等の方法により塗布し、溶媒を乾燥、除去させることにより得ることができる。高分子溶液の塗布方法としては、コンマコーター、グラビアコーター、及びダイコーターのような装置を用いる方法を用いることもできる。なお、上記のアニオン吸着性導電性高分子を含む溶液に、アニオン吸着性導電性高分子以外の高分子、セパレータ被覆層が含み得る無機粒子、並びに、正極110が含み得る公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質等を添加してもよい。
【0073】
電解液は、上記の溶媒に上記の電解質(典型的には、リチウム塩)を溶解させることにより調製すればよい。
【0074】
以上のようにして得られた、正極110が形成された正極集電体150、セパレータ130、及び負極140を、この順に積層することで図1に示されるような積層体を得る。なお、上記のとおり、セパレータ130又は正極110の片面には、高分子層120が形成されている。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0075】
[第2の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図3は、第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図3に示すように、第2の本実施形態のリチウム2次電池300は、正極集電体150と、正極集電体150上に形成されている高分子層120と、高分子層120の正極集電体150とは反対側に配置されている正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ130と、図3には図示されていない電解液とを備える。
【0076】
電解液、正極110、高分子層120、セパレータ130、負極140、及び正極集電体150の構成、及び好ましい態様は第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100と同様の効果を奏するものである。
【0077】
リチウム2次電池300において、正極集電体150と高分子層120とが直接接触しているため、アニオン吸着性導電性高分子のアニオンドーピング、すなわち、アニオンの吸着が一層生じやすく、リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100に比べて一層サイクル特性が向上すると考えられる。
【0078】
リチウム2次電池300は、正極集電体150の片面に、第1の本実施形態における高分子層120の形成方法と同様の方法により高分子層120を形成し、更に高分子層120の正極集電体150とは反対の面に、第1の本実施形態における正極110の形成方法と同様の方法により正極110を形成すること以外は、第1の本実施形態におけるリチウム2次電池100の製造方法と同様の方法により製造することができる。
【0079】
[第3の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図4は、第3の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図4に示すように、第3の本実施形態のリチウム2次電池400は、正極410と、負極活物質を有しない負極140と、正極410と負極140との間に配置されているセパレータ130と、図4には図示されていない電解液とを備える。正極集電体150は、正極410のセパレータ130に対向する面とは反対側に配置されている。
【0080】
電解液、セパレータ130、負極140、及び正極集電体150の構成、及び好ましい態様は第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様である。
【0081】
正極410は、正極活物質に加えて、アニオン吸着性導電性高分子を含有する。すなわち、正極410は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100における正極110に、アニオン吸着性導電性高分子を添加したものである。このような態様によれば、リチウム2次電池400は、リチウム2次電池100が奏する効果と同様の効果を奏するだけでなく、一層簡便に製造することができ、生産性に優れる電池とすることができる。
【0082】
正極410に含まれる正極活物質、及び正極410に含まれていてもよい正極活物質以外の成分(具体的には、導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質)の種類、例示、好ましい態様、及び含有量は、正極110と同様である。
【0083】
正極410に含まれるアニオン吸着性導電性高分子の定義、例示、及び好ましい態様は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100における高分子層120と同様である。正極410において、アニオン吸着性導電性高分子の含有量は、正極活物質及びアニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、好ましくは1%以上15%以下、より好ましくは5%以上10%以下となるように調整される。アニオン吸着性導電性高分子の含有量は、正極410全体に対して、質量比で、1質量%以上25質量%以下であってもよく、3質量%以上20質量%以下であってもよく、5質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0084】
リチウム2次電池400は、正極110の形成時に、正極活物質に加えてアニオン吸着性導電性高分子を添加すること、及び高分子層120を形成しないこと以外は、リチウム2次電池100の製造方法と同様の方法により製造することができる。リチウム2次電池400の製造方法では、リチウム2次電池100の製造方法に比べて、高分子層120を形成する工程を省略することができるため、効率よくリチウム2次電池を製造することができる。
【0085】
[第4の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図5は、第4の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。図5に示すように、第4の本実施形態のリチウム2次電池500は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されている固体電解質510と、正極110と固体電解質510との間に配置されている高分子層120とを備える。正極集電体150は、正極110の高分子層120に対向する面とは反対側に配置されている。
【0086】
正極110、高分子層120、負極140、及び正極集電体150の構成、及びその好ましい態様は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、リチウム2次電池500は、リチウム2次電池100と同様の効果を奏するものである。リチウム2次電池500は、リチウム2次電池100が備えるような電解液を備えていてもよい。
【0087】
(固体電解質)
一般に、液体電解質を備える電池は、液体の揺らぎに起因して、電解質から負極表面に対してかかる物理的圧力が場所によって異なる傾向にある。一方、リチウム2次電池500は、固体電解質510を備えるため、固体電解質510から負極140の表面にかかる圧力が均一であり、負極140の表面に析出するリチウム金属の形状を一層均一にすることができる。すなわち、このような態様によれば、負極140の表面に析出するリチウム金属が、デンドライト状に成長することが一層抑制されるため、リチウム2次電池500のサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0088】
固体電解質510としては、一般的にリチウム固体2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池500の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質510は、好ましくはイオン伝導性を有し、電気伝導性を有しないものである。固体電解質510が、イオン伝導性を有し、電気伝導性を有しないことにより、リチウム2次電池500の内部抵抗が一層低下すると共に、リチウム2次電池500の内部で短絡することを一層抑制することができる。その結果、リチウム2次電池500のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0089】
固体電解質510としては、特に限定されないが、例えば、樹脂及びリチウム塩を含むものが挙げられる。そのような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリビニリデンフロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、及びポリテトラフロロエチレン等が挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0090】
固体電解質510に含まれるリチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、リチウム2次電池100の電解液が含み得るリチウム塩として例示した塩が挙げられる。上記のようなリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0091】
一般に、固体電解質における樹脂とリチウム塩との含有量比は、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子の比([Li]/[O])によって定められる。固体電解質510において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、好ましくは0.02以上0.20以下、より好ましくは0.03以上0.15以下、更に好ましくは0.04以上0.12以下になるように調整される。
【0092】
固体電解質510は、上記樹脂及びリチウム塩以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、溶媒及びリチウム塩以外の塩が挙げられる。リチウム塩以外の塩としては、特に限定されないが、例えば、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、リチウム2次電池100が含み得る電解液において例示したものが挙げられる。上記のような溶媒、及びリチウム塩以外の塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0093】
固体電解質510の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に、好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池500における固体電解質510の占める体積が減少するため、リチウム2次電池500のエネルギー密度が一層向上する。また、固体電解質510の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に、好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0094】
固体電解質510は、ゲル電解質を含むものとする。ゲル電解質としては、特に限定されないが、例えば、高分子と、有機溶媒と、リチウム塩とを含むものが挙げられる。ゲル電解質における高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン及び/又はポリエチレンオキシドの共重合体、ポリビニリデンフロライド、並びにポリビニリデンフロライド及びヘキサフロロプロピレンの共重合体等が挙げられる。
【0095】
(2次電池の製造方法)
リチウム2次電池500は、セパレータに代えて固体電解質を用いること以外は、上述した第1の本実施形態に係るリチウム2次電池100の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0096】
固体電解質510の製造方法としては、上述した固体電解質510を得られる方法であれば特に限定されないが、例えば、以下のようにすればよい。固体電解質に従来用いられる樹脂、及びリチウム塩(例えば、固体電解質510が含み得るものとして上述した樹脂及びリチウム塩。)を有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、アセトニトリル)に溶解する。得られた溶液を所定の厚みになるように成形用基板にキャストすることで、固体電解質510を得る。ここで、樹脂及びリチウム塩の配合比は、上記したように、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子との比([Li]/[O])によって定めてもよい。上記比([Li]/[O])は、例えば0.02以上0.20以下である。成形用基板としては、特に限定されないが、例えばPETフィルムやガラス基板を用いてもよい。
【0097】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0098】
例えば、第1の本実施形態のリチウム2次電池100において、負極140の両面にセパレータ130が形成されていてもよい。この場合、リチウム2次電池は、以下の順番:正極集電体/正極/高分子層/セパレータ/負極/セパレータ/高分子層/正極/正極集電体;で各構成が積層される。そのような態様によれば、リチウム2次電池の容量を一層向上させることができる。
【0099】
リチウム2次電池500は、リチウム固体2次電池であってもよい。そのような態様によれば、電解液を用いなくてもよいため、電解液漏洩の問題が生じず、電池の安全性が一層向上する。
【0100】
リチウム2次電池において、アニオン吸着性導電性高分子は正極集電体とセパレータの間に配置されている層に含まれていればよく、アニオン吸着性導電性高分子を含む当該層は、上記の高分子層、及び正極に限られず、どのような形態であってもよい。また、アニオン吸着性導電性高分子を含む高分子層は、正極集電体と正極との間、及び正極とセパレータとの間に、分離して2層配置されていてもよい。
【0101】
また、リチウム2次電池100、及びリチウム2次電池300において、正極110はアニオン吸着性導電性高分子を含んでいてもよい。すなわち、リチウム2次電池は、アニオン吸着性導電性高分子を含む高分子層と、アニオン吸着性導電性高分子を含む正極とを備えていてもよい。
【0102】
また、リチウム2次電池500において、高分子層120が正極集電体150と正極110との間に配置されていてもよく、正極110がアニオン吸着性導電性高分子を含んでいてもよい。
【0103】
アニオン吸着性導電性高分子が2以上の層に分かれてリチウム2次電池に含まれる場合、アニオン吸着性導電性高分子の含有量の合計は、正極活物質及びアニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、好ましくは1%以上15%以下、より好ましくは5%以上10%以下となるように調整される。
【0104】
また、リチウム2次電池において、セパレータと負極との間に、充放電の際に、リチウム金属が析出、及び/又は溶出することを補助する補助部材を配置してもよい。そのような補助部材としては、リチウム金属と合金化する金属を含有する部材が挙げられ、例えば、負極の表面に形成される金属層であってもよい。そのような金属層としては、例えば、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含有する層が挙げられる。金属層の平均厚さとしては、例えば、5nm以上500nm以下であってもよい。
【0105】
リチウム2次電池100が上記のような補助部材を有する態様によれば、負極と負極上に析出するリチウム金属との親和性が一層向上するため、負極上に析出したリチウム金属が剥がれ落ちることが一層抑制され、サイクル特性が一層向上する傾向にある。なお、補助部材は、リチウム金属と合金化する金属を含有しうるが、その容量は正極の容量に比べて十分小さいものである。典型的なリチウムイオン2次電池において、負極が有する負極活物質の容量は、正極の容量と同程度となるように設定されるが、当該補助部材の容量は正極の容量に比べて十分小さいため、そのような補助部材を備えるリチウム2次電池100は、「負極活物質を有しない負極を備える」ということができる。したがって、補助部材の容量は、正極の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下である。
【0106】
本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータ又は固体電解質と、負極との間にリチウム箔が形成されていても、されていなくてもよい。本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータ又は固体電解質と、負極との間にリチウム箔が形成されていない場合、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるリチウム2次電池となる。
【0107】
本実施形態のリチウム2次電池は、負極の表面において、当該負極に接触するように配置される集電体を有していてもよく、有していなくてもよい。そのような集電体としては、特に限定されないが、例えば、負極材料に用いることのできるものが挙げられる。なお、リチウム2次電池が負極集電体を有しない場合、負極自身が集電体として働く。
【0108】
本実施形態のリチウム2次電池は、正極集電体及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0109】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0110】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の放電容量とを比較した際に、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【0111】
[アノードフリー電池]
本実施形態のアノードフリー電池は、正極集電体と、負極と、正極集電体と負極の間に配置されているセパレータと、正極集電体とセパレータの間に配置されている正極活物質を有する正極と、電解液と、を備え、正極集電体とセパレータの間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む。本実施形態のアノードフリー電池は、上述したリチウム2次電池において、電荷キャリアとなる金属イオンがリチウムイオンに限られず、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及びアルミニウムイオン等であってもよいものである。
【0112】
本実施形態のアノードフリー電池は、電荷キャリアとなる金属イオンがリチウムイオンに限られず、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及びアルミニウムイオン等であってもよいこと以外は、上述したリチウム2次電池と同様の構成であり、上述したリチウム2次電池と同様の効果を奏する。したがって、本実施形態のアノードフリー電池によれば、エネルギー密度及び容量が高く、サイクル特性に優れるアノードフリー電池を提供することができる。
【0113】
なお、アノードフリー電池における負極活物質とは、電池において電荷キャリアとなる金属イオン、又はその金属を負極に保持するための物質を意味し、当該金属元素(典型的には当該金属)のホスト物質と換言してもよい。また、アノードフリー電池における正極活物質とは、電池において電荷キャリアとなる金属イオン、又はその金属を正極に保持するための物質を意味し、当該金属元素(典型的には当該金属の金属イオン)のホスト物質と換言してもよい。アノードフリー電池における負極活物質、及び正極活物質は、従来公知のものを用いることができる。
【実施例
【0114】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0115】
[実施例1]
以下のようにしてリチウム2次電池を作製した。
まず、10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させた。その後、Cu箔を脱脂し、純水で洗浄した後、Sbイオンを含むめっき浴に浸漬した。Cu箔を水平に静置したままCu箔表面を電解めっきすることにより、Cu箔の表面に金属層として100nm厚のSbをめっきした。Cu箔をめっき浴から取り出し、エタノールで洗浄、純水で洗浄した。Sb薄膜がコーティングされたCu箔を負極として用いた。
【0116】
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVdF)がコーティングされた、厚さ16μm、所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0117】
次に、導電性高分子として市販されているポリアニリンをm-キシレンに溶解させて、高分子溶液を得た。上記セパレータの片面に、ポリアニリンを含む高分子溶液を塗付し、乾燥させることにより、ポリアニリンからなる高分子層を形成した。高分子層の厚さは1.0μmであった。なお、アニオン吸着性導電性高分子の含有量は、正極活物質及びアニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、8.0%であった。
【0118】
正極は以下のようにして作製した。正極活物質としてLiNi0.85Co0.12Al0.032を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVdF)を2質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極集電体に形成された正極を得た。
【0119】
電解液は以下のように調製した。ジメトキシエタン(DME)と、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFEE)とを体積比10:90で混合させた溶液を溶媒とし、電解質としてLiN(SO2F)2(LiFSI)を溶解させることによって、1.25M LiFSI溶液を調製した。
【0120】
以上のようにして得られた正極集電体に形成された正極、高分子層が形成されたセパレータ、及び負極を、この順に積層することによって、図1に示すような積層体を得た。更に、正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記の電解液を外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0121】
[実施例2~5]
高分子層の形成の際に、ポリアニリンに代えて表1に記載の各アニオン吸着性導電性高分子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。なお、各アニオン吸着性導電性高分子は、市販のものを用い、高分子層の厚さは、実施例1と同じになるようにした。
【0122】
[実施例6~8]
負極の作製の際に、Sb金属層を形成せず、負極として10μmの電解Cu箔を用いたこと、及び高分子層の形成の際に、ポリアニリンに代えて表1に記載の各アニオン吸着性導電性高分子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。なお、各アニオン吸着性導電性高分子は、市販のものを用い、高分子層の厚さは、実施例1と同様になるようにした。
【0123】
[実施例9]
実施例1と同様にして、Sb薄膜がコーティングされたCu箔を負極として準備した。また、実施例1と同じセパレータ、及び電解液を準備した。
【0124】
正極は以下のようにして作製した。正極活物質としてLiNi0.85Co0.12Al0.032を85質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2.0質量部、バインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVdF)を3.0質量部、及びアニオン吸着性導電性高分子としてポリアニリンを10質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極集電体に形成された正極を得た。アニオン吸着性導電性高分子の含有量は、正極活物質及びアニオン吸着性導電性高分子の容量の合計に対して、容量比で、8.0%であった。
【0125】
以上のようにして得られた正極集電体に形成された正極、セパレータ、及び負極を、この順に積層することによって、図4に示すような積層体を得た。得られた積層体を用いて実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0126】
[比較例1]
高分子層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0127】
[エネルギー密度及びサイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池のエネルギー密度及びサイクル特性を評価した。
【0128】
作製したリチウム2次電池を、7mAで、電圧が4.2Vになるまで充電した(初期充電)後、7mAで、電圧が3.0Vになるまで放電した(以下、「初期放電」という。)。次いで、35mAで、電圧が4.2Vになるまで充電した後、35mAで、電圧が3.0Vになるまで放電するサイクルを、温度25℃の環境で繰り返した。各例について、初期放電から求められた容量(以下、「初期容量」という。)を表1に示す。また、各例について、その放電容量が初期容量の80%になったときのサイクル回数(表中、「80%サイクル回数」という。)を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1中、「PAn」はポリアニリンを、「Ppy」はポリピロールを、「PTp」はポリチオフェンを、「PEDOT」はポリエチレンジオキシチオフェンを、「PPP」はポリp-フェニレンを、「PF」はポリフルオレンを、「PPv」はポリp-フェニレンビニレンを、「PTv」はポリチエニレンビニレンを、「PE」はポリエチレン微多孔膜を、NCAはLiNi0.85Co0.12Al0.032を、それぞれ意味する。また、高分子層の欄における「-」は、高分子層を有しないことを意味する。
【0131】
表1から、正極集電体とセパレータの間にアニオン吸着性導電性高分子を含有する層を含む実施例1~9は、そうでない比較例1と比較して、初期容量、及び80%サイクル回数が高く、容量、及びサイクル特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度及び容量が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0133】
100,200,300,400,500…リチウム2次電池、110,410…正極、120…高分子層、130…セパレータ、140…負極、150…正極集電体、210…負極端子、220…正極端子、510…固体電解質。
図1
図2
図3
図4
図5