(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】マイクロプレート用フィルタプレート
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
G01N1/10 B
(21)【出願番号】P 2024501977
(86)(22)【出願日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2023026264
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022144791
(32)【優先日】2022-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501278065
【氏名又は名称】シーエステック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 義隆
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-227032(JP,A)
【文献】特開平04-158779(JP,A)
【文献】実開昭60-124619(JP,U)
【文献】国際公開第2007/123100(WO,A1)
【文献】特開2007-292629(JP,A)
【文献】特開昭60-043377(JP,A)
【文献】特表2002-520154(JP,A)
【文献】特開2005-152887(JP,A)
【文献】特表2001-517789(JP,A)
【文献】米国特許第5961926(US,A)
【文献】米国特許第5047215(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0089615(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0056576(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0042212(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0329163(US,A1)
【文献】中国実用新案第216712120(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) マイクロプレートの複数のウェルのそれぞれに対応する位置に設けられ
た貫通孔を備える板状の基部と、
b) 前記基部の一方の面の外周縁に立設された、該面を取り囲む囲み壁と、
c) 前
記貫通孔に設けられたフィルタと、
d) 前記基部の一方の面
の、前
記貫通孔
を除く部分の全体に設けられた、柔軟性を有する板状のパッキン材と
を備えることを特徴とするマイクロプレート用フィルタプレート。
【請求項2】
前記基部が有する複数の前
記貫通孔の全てを覆うような1枚のフィルタが前記基部の一方の面と前記パッキン材との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロプレート用フィルタプレート。
【請求項3】
前記基部
が、その一方の面の前記マイクロプレートの複数のウェルのそれぞれに対応する位置に設けられた、前記貫通孔
の一部を構成する筒体を備えることを特徴とする請求項1に記載のマイクロプレート用フィルタプレート。
【請求項4】
前記基部が、板状の第1基部と、
該第1基部の一方の面に
重ね合わせられた前記筒体を有する
板状の第2基部と
から成り、
前記フィルタが前記第1基部と前記第2基部との間に設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載のマイクロプレート用フィルタプレート。
【請求項5】
前記パッキン材の材料がシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロプレート用フィルタプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプレートのウェルに試料液を注入する際に該試料液を濾過するために用いられるフィルタプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロプレートのウェルに生体由来等の試料液を注入する際に、試料液に含まれる不純物を除去するためのフィルタが用いられている。通常はフィルタの目が小さいため、単に試料液をフィルタ上に滴下しただけでは、表面張力により試料液がフィルタを通過しない。そのため、従来はピペットをフィルタの表面に押しつけたうえで試料液をピペットから押し出すという操作が行われていた。最近ではその代わりに、各ウェルに対応して設けられたフィルタに試料液を滴下した後に、遠心機を用いて遠心力を付与することにより試料液をウェル内に引き込むという操作も行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、板状部材にマイクロプレートの各ウェルの位置に対応してそれぞれ貫通孔が設けられると共に、各貫通孔の下部に1つずつフィルタが設けられたマイクロプレート用フィルタプレートが記載されている。板状部材の下面には、貫通孔の周囲から下方に延びる案内壁が設けられている。このフィルタプレートは、マイクロプレートの上に重ねて各案内壁をそれに対応する位置のウェル内に挿入した状態で用いられ、この状態で各貫通孔のフィルタ上に試料液を滴下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、マイクロプレートは、そのフィルタに滴下された試料液が貫通孔からこぼれ落ちない程度に鉛直方向近くまで傾けた状態(つまり貫通孔が水平方向近くまで傾いた状態)で遠心機の保持具にセットされる。この状態で遠心機を駆動すると、前記保持具が鉛直方向の軸を中心に高速で回転し、遠心力によってフィルタ上の試料液がウェルにひき込まれる。このとき、案内壁の外面とウェルの縁との間に隙間があると、そこから試料液が漏れ出し、他のウェルに流入してしまうおそれがある。そうすると、異なる試料液同士が混合してしまい、正確な分析を行うことができない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、試料液をフィルタで濾過する際に試料液の混合が生じることを防ぐことができるマイクロプレート用フィルタプレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係るマイクロプレート用フィルタプレートは、
a) マイクロプレートの複数のウェルのそれぞれに対応する位置に設けられた第1貫通孔を備える板状の基部と、
b) 前記第1貫通孔に設けられたフィルタと、
c) 前記基部の一方の面に設けられた、前記第1貫通孔に対応する位置に第2貫通孔を有する、柔軟性を有する板状のパッキン材と
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るマイクロプレート用フィルタプレート(以下、「フィルタプレート」という。)は、マイクロプレートの上に重ねて使用される。具体的には、基部を、そのパッキン材が設けられた側がマイクロプレートの上面を向けて、該マイクロプレートの複数のウェルのそれぞれと第2貫通孔を一致させた状態で、マイクロプレートの上に重ねる。この状態で、第1貫通孔からフィルタ上に試料液を滴下し、その後、フィルタプレートをマイクロプレート側に強く押しつけてパッキン材をマイクロプレートの上面に当接させた状態で遠心機にセットする。遠心機を駆動すると、フィルタ上に滴下された試料液が遠心力によりフィルタを通過し、ウェルに引き込まれる。フィルタプレートとマイクロプレートの間に柔軟性を有するパッキン材が介在するため、両者の間が液密になる。これにより、フィルタを通過した試料液が各ウェルに引き込まれるときに、該試料液がフィルタプレートとマイクロプレートの間から漏れ出して他のウェルに流入することが阻止され、異なる試料液同士が混合してしまうことを防ぐことができる。
【0009】
フィルタは互いに分離したものを個々の第1貫通孔に1つずつ設けてもよいが、前記基部が有する複数の前記第1貫通孔の全てを覆うような1枚の(一体の)フィルタが前記基部の一方の面と前記パッキン材との間に設けられていることが好ましい。このような1枚のフィルタを用いることにより、フィルタを取りつける手間を抑えることができる。
【0010】
本発明に係るフィルタプレートは、さらに、前記基部の第1貫通孔の周囲から前記パッキン材側に延び、前記第2貫通孔を通過する筒体を備えるようにすることができる。
【0011】
このような筒体を備えるフィルタプレートを使用する際には、マイクロプレートの複数のウェルのそれぞれに筒体を挿入したうえで、パッキン材をマイクロプレートの上面に当接させる。遠心機にセットする際にはパッキン材をマイクロプレートの上面に押しつける。これにより、試料液は遠心力でフィルタを通過した後に筒体内を通過してウェルに導入される。このような筒体を備える場合にも、パッキン材を設けることにより、試料液が他のウェルに流入することを阻止し、異なる試料液同士が混合してしまうことを防ぐことができる。
【0012】
このような筒体を備えるフィルタプレートにおいて、
前記基部が、板状の第1基部と、板状の部材の一方の面に前記筒体を有する第2基部とを重ねたものであって、
前記フィルタが前記第1基部と前記第2基部との間に設けられている
という構成を取ることができる。
【0013】
このように第1基部と第2基部との間にフィルタを設けることにより、フィルタを取りつける手間を抑えることができる。なお、フィルタは互いに分離したものを個々の第1貫通孔に1つずつ設けてもよいが、複数の第1貫通孔に亘る1枚のフィルタを用いる方が、取りつけの手間をより抑えることができる。また、第2基部は互いに別体である板状の部材と筒体を組み立てたものであってもよいが、板状の部材と筒体を一体成形で形成する方が組み立ての手間を省くことができるため好ましい。
【0014】
パッキン材の材料には、例えばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(エチレンとプロピレンの共重合体であるEPM(EPRとも言う)、又は、エチレン及びプロピレンに少量の第三成分を添加した三元重合体であるEPDM(EPTとも言う))、ウレタンゴム等のエラストマーを好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るマイクロプレート用フィルタプレートにより、試料液をフィルタで濾過する際に試料液の混合が生じることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るマイクロプレート用フィルタプレートの第1実施形態を示す上面図(a)、a-a縦断面図(b)、及び下面図(c)。
【
図2】第1実施形態のフィルタプレートの製造時に基部に貼付する、フィルタ及びパッキン材を含むフィルタ・パッキン材付きシールを示す縦断面図。
【
図3】第1実施形態におけるフィルタ・パッキン材付きシールの分解斜視図。
【
図4】第1実施形態のフィルタプレートをマイクロプレートに装着した状態を示す縦断面図。
【
図5】マイクロプレート及び第1実施形態のフィルタプレートを遠心機に装着した状態を示す模式図。
【
図6】本発明に係るフィルタプレートの第2実施形態を示す上面図(a)、b-b縦断面図(b)、及び下面図(c)。
【
図7】第2実施形態のフィルタプレートの縦断面部分拡大図(a)、及び下面部分拡大図(b)。
【
図8】第2実施形態のフィルタプレートをマイクロプレートに装着した状態を示す縦断面部分拡大図。
【
図9】第1実施形態の変形例のフィルタプレートを示す部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1~
図9を用いて、本発明に係るマイクロプレート用フィルタプレート(以下、「フィルタプレート」とする)の実施形態を説明する。
【0018】
(1) 第1実施形態
図1に、第1実施形態のフィルタプレート10を示す。このフィルタプレート10は、基部11と、フィルタシート12と、パッキン材13とを有する。
【0019】
基部11は、平面形状が長方形であるプラスチック製の板状部材111と、該板状部材111に設けられた複数の平面形状が円形の第1貫通孔112とを有する。第1貫通孔112は、前記長方形の長辺に平行に12個、短辺に平行に8個、それぞれ並ぶように、合計96個設けられている。この第1貫通孔112の配置は、フィルタプレート10が装着される96穴マイクロプレートのウェルの配置に対応している。基部11の上面のうち、長辺側の端部には第1貫通孔112が並ぶ列に合わせて1~12の数字が記載されていると共に、短辺側の端部には第1貫通孔112が並ぶ行に合わせてA~Hの8個のアルファベットが記載されている。これらの数字及びアルファベットは、各第1貫通孔112を特定するための記号である。
【0020】
基部11(板状部材111)の長方形の4個の角のうち一方の短辺を介して隣り合う2つの角には、該短辺に対して45°の角度で切り落とされたC面113が形成されている。C面113を設けたことにより、フィルタプレート10の向きを容易に認識することができる。
【0021】
基部11の下面には、該下面の外周縁から下方に向けて、基部11と同じ材料から成る矩形枠状の垂直壁114が延びている。該下面の下方であって垂直壁114で囲まれた部分は、96穴マイクロプレートが挿入されるマイクロプレート挿入空間115となる。マイクロプレート挿入空間115は基本的には直方体であるが、当該直方体のうち基部11がC面113で切り落とされた部分の直下には垂直壁114と同じ材料から成るコーナー部116(
図1(c)参照)が設けられている。つまり、マイクロプレート挿入空間115の平面形状と基部11の上面の平面形状は、ほぼ同じである。
【0022】
フィルタシート12は、ナイロン66製の目開き(ろ過粒度)が30μmのフィルタ材からなる。1枚のフィルタシート12は、基部11の下面のうち垂直壁114で囲まれた領域とほぼ同じ形状であり、その領域を覆うように基部11の下面に取り付けられている。この1枚のフィルタシート12のうち第1貫通孔112に面する部分が、本発明のフィルタとして機能する。
【0023】
パッキン材13は、基部11の第1貫通孔112に対応する第2貫通孔132が形成された、フィルタシート12よりも厚さの大きい板状部材131からなる。パッキン材13はフィルタシート12とほぼ同じ平面形状を有しており、フィルタシート12を間に挟むようにして基部11の下面に設けられている。パッキン材13の板状部材131はシリコーンゴム製であり、柔軟性を有する。
【0024】
図2及び
図3に示すように、フィルタシート12とパッキン材13は、パッキン材13の第2貫通孔132に対応する位置に孔が設けられた第1両面接着フィルム14により互いに接着されている(
図1では第1両面接着フィルム14の図示を省略している)。なお、
図2では各構成要素を明瞭に表示するために横方向と縦方向の縮尺を異ならせて(縦方向に長くなるように)描いている。また、フィルタシート12と基部11は、基部11の第1貫通孔112に対応する位置に孔が設けられた第2両面接着フィルム16(
図1では第2両面接着フィルム16の図示を省略している。)により互いに接着されている。第1両面接着フィルム14及び第2両面接着フィルム16はいずれもフィルタシート12又はパッキン材13と同じ平面形状である。そのため、フィルタシート12、パッキン材13、第1両面接着フィルム14及び第2両面接着フィルム16の基部11の2個のC面に対応する2箇所には、それぞれ2個の切り欠き123、133、143及び163が設けられている(
図3参照)。
【0025】
フィルタプレート10を製造する際は、まずは、パッキン材13、第1両面接着フィルム14、フィルタシート12及び第2両面接着フィルム16を、下から順に、それぞれの切り欠き133、143、123及び163の位置を合わせて重ね、貼り合わせて一体化する。つぎに、この一体化物(これを「フィルタ・パッキン材付きシール20」と呼ぶ。)を、その切り欠きと基部11のコーナー部116の位置を合わせて、基部11の下面の垂直壁114で囲まれた空間(マイクロプレート挿入空間115)に嵌め込み、第2両面接着フィルム16によって基部11の下面に貼付する。これにより、フィルタプレート10が完成する。
【0026】
なお、パッキン材13の一方の表面に剥離紙を取り付けておき、フィルタ・パッキン材付きシール20の製造時、フィルタプレート10の製造時は剥離紙をパッキン材13に付けたままの状態にし、該フィルタプレート10をマイクロプレートに装着する直前にパッキン材1から剥離紙を剥がすようにしてもよい。剥離紙でパッキン材13の表面を覆っておくことにより、フィルタ・パッキン材付きシール20の製造、フィルタプレート10の製造時にパッキン材13の表面にゴミが付着することが防止され、さらには、マイクロプレートのウェル内にゴミが混入することを防止できる。
【0027】
以下、
図4及び
図5を参照しつつ、第1実施形態のフィルタプレート10の使用方法を説明する。
【0028】
まず、フィルタプレート10のマイクロプレート挿入空間115に対応する形状の96穴のマイクロプレート90を準備する。そして、このマイクロプレート90のC面とフィルタプレート10のコーナー部116の位置を合わせて、マイクロプレート90をその上面からフィルタプレート10のマイクロプレート挿入空間115に挿入する(
図4)。次に、マイクロプレート90とフィルタプレート10を互いに相手側に押しつける。このとき、マイクロプレート90と基部11の間に位置するパッキン材13は柔軟性を有することから、マイクロプレート90とフィルタプレート10が互いに相手側に押しつけられることにより両者が隙間無く、液密状態で連結される。
【0029】
続いて、マイクロプレート90とフィルタプレート10を連結した状態で、マイクロピペット(図示せず)を使って、基部11の各第1貫通孔112に所定量の試料液80を滴下する。このとき、滴下した試料液80がフィルタの上に載ればよく、マイクロピペットのノズルに装着されたチップの先端をフィルタの表面に強く押しあてる必要がない。そのため、前記チップを第1貫通孔112に深く進入させなくてもよく、例えば複数のノズルを有するマルチチャンネルマイクロピペットを使用して複数の第1貫通孔112に対して同時に試料液80を滴下する作業を容易に行うことができる。
【0030】
フィルタプレート10の第1貫通孔112に試料液80を滴下した後、マイクロプレート90及びフィルタプレート10を鉛直方向近くまで傾斜させた状態で、遠心機70の保持具701にセットする(
図5)。遠心機70の保持具701にセットされたマイクロプレート90とフィルタプレート10の密着状態を維持するために、ゴムバンドやクリップ等で両者を締結するようにしてもよい。その後、遠心機70を駆動して、保持具701を鉛直方向に延びる回転軸71を中心に高速で回転させる。これにより、フィルタプレート10の第1貫通孔112内の試料液80がマイクロプレート90のウェル91内に引き込まれ、フィルタシート12を通過する際に濾過される。
【0031】
このとき、フィルタプレート10とマイクロプレート90が、柔軟性を有するパッキン材13によって液密状態で連結されているため、第1貫通孔112内の試料液80が遠心力でウェル91に引き込まれる際に該試料液が他のウェル91に流入することが阻止される。そのため、異なる試料液同士が混ざりあった状態でウェル91に供給されることを防ぐことができる。
【0032】
(2) 第2実施形態
図6及び
図7に、第2実施形態のフィルタプレート30を示す。このフィルタプレート30は、基部31と、フィルタシート32と、パッキン材33と、筒体37とを有する。
【0033】
基部31は、平面形状が長方形であるプラスチック製の板状部材から成り、その長辺に平行に24個、短辺に平行に16個、それぞれ並ぶように配置された、合計384個の平面形状が円形の第1貫通孔312を有している。第1貫通孔312の配置は、フィルタプレート30が装着される384穴マイクロプレートのウェルの配置に対応している。
【0034】
基部31は、第1基部3111と、該第1基部3111の下部に取り付けられた第2基部3112から成る。第1基部3111の下面には、その外周縁から下方に向けて矩形枠状の垂直壁3114が延びており、第1基部3111の下面の垂直壁3114で囲まれた部分にフィルタシート32及び第2基部3112が第1基部3111側から順に取り付けられている。垂直壁3114の長さはフィルタシート32及び第2基部3112を合わせた厚さよりも大きく、第2基部3112よりも下方であって垂直壁3114で囲まれた空間がマイクロプレート挿入空間315となる。第1基部3111と第2基部3112は、それぞれ384個の貫通孔3121、3122を有しており、第1基部3111と第2基部3112を上下に重ねたときに対応して位置する貫通孔3121、3122から第1貫通孔312が構成されている。貫通孔3121は、その内径が深さ方向(
図7(a)における上下方向)で一様な円筒状であるのに対して、貫通孔3122は、その内径が上部よりも下部の方が小さい、先細形状になっている。
【0035】
第2基部3112の下面には、第1貫通孔312の周囲から下側に延びるように筒体37が設けられている。筒体37は第2基部3112と同じプラスチックから成り、該第2基部3112と一体成形されている。筒体37の外径は384穴マイクロプレートのウェルの内径よりも僅かに小さく、筒体37の内径は第2基部3112の下面における貫通孔3122の内径と等しい。筒体37の長さは384穴マイクロプレートのウェルの深さよりも短い。
【0036】
上述したようにフィルタシート32は第1基部3111と第2基部3112の間に介装されている。フィルタシート32の材料及び目開きの大きさは第1実施形態のフィルタシート12と同じである。また、第1実施形態と同様、フィルタシート32は第2基部3112の上面の全体を覆っており、フィルタシート32のうち第1貫通孔312内に位置する部分が本発明のフィルタとして機能する。
【0037】
パッキン材33は、シリコーンゴム製の板状部材から成り、第2基部3112の下面のうち筒体37以外の部分を覆うように該第2基部3112に取り付けられている。そのため、パッキン材33は、筒体37に対応する第2貫通孔332を有している。
【0038】
詳しい説明及び図示は省略するが、第1基部3111とフィルタ32、フィルタ32と第2基部3112、及び第2基部3112とパッキン材33は、それぞれ接着剤、又は両面に接着剤が塗布された接着シートにより貼り合わされている。
【0039】
フィルタプレート30は次のように使用される。まず、384個のウェル91Aを有する(384穴の)マイクロプレート90Aを用意する。そして、
図8に示すように、マイクロプレート90Aをその上面からフィルタプレート30のマイクロプレート挿入空間315に挿入する。その際、マイクロプレート90Aの各ウェル91Aに、その位置に対応する筒体37が挿入されるようにする。次に、マイクロプレート90Aとフィルタプレート30を互いに相手側に押しつける。このようにマイクロプレート90Aとフィルタプレート30を押しつけることにより、柔軟性を有するパッキン材33がマイクロプレート90Aの上面に隙間無く密着し、これにより、フィルタプレート30とマイクロプレート90Aが液密状態で連結される。第1貫通孔312への試料液80の滴下から遠心力の付与によるウェル91Aへの試料液80の供給までの動作は、第1実施形態の場合と同様である。
【0040】
第2実施形態によれば、フィルタプレート30が、柔軟性を有するパッキン材33によってマイクロプレート90Aと液密状態で連結されるため、第1貫通孔312内に滴下した試料液80を遠心力でマイクロプレート90Aの引き込む際に該試料液が漏れ出して他のウェル91Aに流入することが阻止される。また、フィルタプレート30の基部31の下面に筒体37を設けたため、フィルタを通過した液体試料をマイクロプレート90Aのウェル91Aの底部付近まで導くことができる。
【0041】
第2実施形態のフィルタプレート30は、フィルタシート32が第1基部3111と第2基部3112に挟まれて固定されており、第1貫通孔312のそれぞれにフィルタが強く張られた状態にある。そこで、試料液のろ過以外に、例えば血液や細胞培養液に含まれる細胞内の核酸やエクソソームなどの細胞内物質を回収するために用いることができる。
【0042】
試料液に含まれる細胞から細胞内物質を回収するときは、試料液をろ過するときよりも遠心機70の保持具701を高速で回転させる。これにより、大きな遠心力が発生し、試料液中の細胞がフィルタに強く押しつけられる。フィルタプレート30は、各第1貫通孔312にフィルタが強く張られた状態にあるので、該フィルタに強く押しつけられた細胞にはフィルタから大きな垂直抗力が働き、遠心力と該垂直抗力とによって該細胞を破壊することができる。破壊された細胞と細胞内物質は、フィルタの目開きを適切に設定することによって分離することができる。
【0043】
(3) 変形例
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記各実施形態で示した基部11、31、フィルタシート12、32及びパッキン材13、33の材料は一例であって、他の材料を用いてもよい。例えばパッキン材13、33の材料には、シリコーンゴムの代わりに、エチレンプロピレンゴム(EPM(EPR)又はEPDM(EPT))、ウレタンゴム等を用いてもよい。また、フィルタシート12、32の材料には、ナイロン66の代わりに、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子材料を用いてもよいし、金属等、高分子材料以外の材料を用いてもよい。
【0044】
フィルタシート12、32の目開きは、フィルタプレートの使用目的に応じた適宜の大きさにすることができる。例えば、目開きは1μm、10μm、40μm、70μm、100μm等とすることができる。あるいは、目開きが1μm未満(いわゆるサブミクロン)である精密濾過フィルタ(メンブレンフィルタ)を用いてもよい。例えば細胞内物質としてエクソソームを回収する場合は、フィルタシートの目開きを0.1μm~5μmとするとよい。
【0045】
第1実施形態では96穴マイクロプレートのウェルに対応する数及び位置の第1貫通孔及び第2貫通孔を有するフィルタプレートを、第2実施形態では384穴マイクロプレートのウェルに対応する数及び位置の第1貫通孔及び第2貫通孔を有するフィルタプレートをそれぞれ示したが、第1実施形態のフィルタプレート及び第2実施形態のフィルタプレートは、マイクロプレートのウェルに対応する数及び位置に第1貫通孔及び第2貫通孔を設けることにより、種々のマイクロプレートに適用可能である。
【0046】
第1実施形態のフィルタプレートでは基部11のマイクロプレート挿入空間115にコーナー部116を設けたが、コーナー部116は省略してもよい。コーナー部116を省略することにより、C面を有しないマイクロプレートにもフィルタプレートを使用することができる。
【0047】
第1及び第2実施形態では全ての第1貫通孔に対応するフィルタを1枚のフィルタシート12、32から構成したが、
図9に示すフィルタプレート10Aのように、複数の第1貫通孔112それぞれに、個別のフィルタ12Aを設けるようにしてもよい。
【0048】
上記実施形態では、第1貫通孔112、312の平面形状は円形としたが、正方形等の四角形、正六角形等の六角形、あるいはその他の形状としてもよい。また、第1貫通孔112、312の縦断面の形状も上記の例には限定されない。
【0049】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0050】
(第1項)本発明の一態様に係るマイクロプレート用フィルタプレート(フィルタプレート)は、
a) マイクロプレートの複数のウェルのそれぞれに対応する位置に設けられた第1貫通孔を備える板状の基部と、
b) 前記第1貫通孔に設けられたフィルタと、
c) 前記基部の一方の面に設けられた、前記第1貫通孔に対応する位置に第2貫通孔を有する、柔軟性を有する板状のパッキン材と
を備えることを特徴とする。
【0051】
(第2項)第2項に係るフィルタプレートは、第1項に係るフィルタプレートにおいて、前記基部が有する複数の前記第1貫通孔の全てを覆うような大きさの1枚のフィルタシートが前記基部の一方の面と前記パッキン材との間に設けられていることを特徴とする。
【0052】
第2項に係るフィルタプレートでは、フィルタシートのうち第1貫通孔に対応する部分がフィルタとなる。
【0053】
(第3項)第3項に係るフィルタプレートは、第1項に係るフィルタプレートにおいて、さらに、前記基部の第1貫通孔の周囲から前記パッキン材側に延び、前記第2貫通孔を通過する筒体を備えることを特徴とする。
【0054】
(第4項)第4項に係るフィルタプレートは、第3項に係るフィルタプレートにおいて、
前記基部が、板状の第1基部と、板状の部材の一方の面に前記筒体を有する第2基部とを重ねたものであって、
前記フィルタが前記第1基部と前記第2基部との間に設けられている
ことを特徴とする。
【0055】
(第5項)第5項に係るフィルタプレートは、第1項~第4項のいずれか1項に係るフィルタプレートにおいて、前記パッキン材の材料がシリコーンゴムであることを特徴とする。
【符号の説明】
【0056】
10、10A、30…フィルタプレート
11、31…基部
111…基部の板状部材
112、312…第1貫通孔
113…C面
114…垂直壁
115、315…マイクロプレート挿入空間
116…コーナー部
12、12A、32…フィルタシート
123、133、143、153、163…切り欠き
13、13A、33…パッキン材
131…パッキン材の板状部材
132、332…第2貫通孔
14…第1両面接着フィルム
16…第2両面接着フィルム
20…フィルタ・パッキン材付きシール
3111…第1基部
3112…第2基部
3121…第2基部内の第1貫通孔
37…筒体
70…遠心機
71…遠心機の回転軸
80…試料液
90、90A…マイクロプレート
91、91A…ウェル
【要約】
マイクロプレート用フィルタプレート10は、マイクロプレート90の複数のウェル91のそれぞれに対応する位置に設けられた第1貫通孔112を備える板状の基部11と、第1貫通孔112に設けられたフィルタ12と、基部11の一方の面に設けられた、第1貫通孔112に対応する位置に第2貫通孔132を有する、柔軟性を有する板状のパッキン材13とを備える。