(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240327BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240327BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240327BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240327BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240327BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2018146466
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-07-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】茂出木 暁宏
(72)【発明者】
【氏名】丹上 雄児
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】岩間 直純
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-54462(JP,A)
【文献】特開2009-135103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と正極集電箔とを含む正極と、負極活物質層と負極集電箔とを含む負極とを、セパレータを介して積層した電極積層体と、
電解液と、
を含む発電要素を、外装体内部に封止したリチウムイオン二次電池であって、
該負極活物質
層が
、黒鉛
と、スチレンブタジエンラバー及びカルボキシメチルセルロースを含むバインダとを含み、
該負極集電箔が、銅箔であり、
該負極の引張強度が、18.8N/mm
2以上19.6N/mm
2以下である、前記リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
該負極集電箔の厚みが4~10μmであり
、
該バインダの含有量が、該負極活物質層の重量に対し、0.3~3%であり、
該負極集電箔の引張強度が、200N/mm
2以上500N/mm
2以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に関する。さらに本発明はリチウムイオン二次電池用負極の製造方法ならびにその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、出力特性、エネルギー密度、容量、寿命、高温安定性等の種々の特性を併せ持つことが要求されている。特に電池の安定性や寿命を向上させるために、電極や電解液を含む電池構成に様々な改良が図られている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極、負極およびセパレータを積層して巻回したものを、電解液と共に缶などの容器に封入した巻回型電池と、正極、負極およびセパレータを積層したシート状の発電素子を、電解液と共に、比較的柔軟な外装体内部に封じ込めた積層型電池(以下、「ラミネート型電池」とも称する。)がある。巻回型電池は、外装体として電池缶を使用しているため、高い強度を有する。一方積層型電池は、重量エネルギー密度が高く、形状の自由度も高いため、車載電源用電池としての使用に適している。
【0004】
特許文献1には、巻回型電池が開示されている。特許文献1では、負極活物質として炭素系材料、正極活物質としてニッケル、コバルト、マンガン等を含有する層状酸化物を用いた非水電解質二次電池の高容量化を図るために、炭素質材料よりも高容量が得られるアルミニウム、シリコン、ゲルマニウム等の単体金属を用いると、集電体として用いる銅箔が激しく変形して初回充放電時に内部短絡が起こりやすいことが開示されている、そこで、特許文献1は、負極活物質としてシリコン、シリコン含有酸化物、スズ含有酸化物を用いること、さらに実施例では負極集電体としてステンレス箔を用いることを提案し、さらに負極の引張強さが400N/mm2以上1200N/mm2以下であり、負極集電体と負極活物質層との剥離強度が1.5N/cm以上4N/cm以下であることを提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように特許文献1では、負極活物質と負極集電箔とを変更して負極の高容量化ならびに非水電解質二次電池のサイクル特性の向上を図っている。一方、負極活物質として炭素系材料を用い、負極集電箔として銅箔を用いた、ラミネート型電池に使用される従来の負極においても、電池の充放電を経るうちに負極活物質と負極集電体とが剥離し、電池のサイクル特性に影響を及ぼしうることは問題である。
【0007】
そこで本発明は、従来の負極材料を用いた上で、電池のサイクル特性を向上させることができる負極を製造し、さらに寿命の長いリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、正極活物質層と正極集電箔とを含む正極と、負極活物質層と負極集電箔とを含む負極とを、セパレータを介して積層した電極積層体と、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に封止したリチウムイオン二次電池である。ここで負極集電箔は、銅箔であり、負極の引張強度は、17.6N/mm2以上20.0N/mm2以下であることを特徴とする。
さらに本発明の実施形態は、負極集電箔に負極活物質混合物スラリーを塗布し、130~150℃の雰囲気下で乾燥し、次いで80~150℃の雰囲気下で乾燥して、負極活物質層を形成する工程を含む、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法である。
本発明の別の実施形態は、炭素材料を含む負極活物質層と、銅箔である負極集電箔とを含むリチウムイオン二次電池用負極の引張強度を測定し、引張強度が、所定の範囲内にある場合に、リチウムイオン二次電池用負極を合格品と判断し、引張強度が、所定の範囲内にない場合に、リチウムイオン二次電池用負極を不合格品と判断する工程を含む、リチウムイオン二次電池用負極の検査方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法により、剥離強度に優れたリチウムイオン二次電池用負極を得ることができる。このリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れ、長い寿命を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態のリチウムイオン二次電池を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を以下に説明する。実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極活物質層と正極集電箔とを含む正極と、負極活物質層と負極集電箔とを含む負極とを、セパレータを介して積層した電極積層体と、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に封止したリチウムイオン二次電池である。実施形態において正極とは、正極活物質と、バインダと、導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電箔の少なくとも一の面に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を正極集電箔表面上に形成した、薄板状あるいはシート状の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダと、導電助剤との混合物を負極集電箔の少なくとも一の面に塗布して負極活物質層を負極集電箔表面上に形成した、薄板状あるいはシート状の電池部材である。セパレータとは、上記の正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、本実施形態においては特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータとが積層されたものが電極積層体である。電極積層体と、電解液とを含む発電要素は、電池の主構成部材の一単位であり、通常、複数の正極と複数の負極とが複数のセパレータを介して積層されて、この電極積層体が電解液に浸漬されている。
【0012】
実施形態のリチウムイオン二次電池は、外装体の内部に該発電要素が含まれて成り、好ましくは、発電要素は該外装体内部に封止されている。封止されているとは、発電要素の少なくとも一部が外気に触れないように、比較的柔軟な外装体材料により包まれていることを意味する。実施形態のリチウムイオン二次電池の外装体は、ガスバリア性を有し、発電要素を封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。外装体として、金属ラミネートシート、好ましくはアルミニウム箔とポリプロピレン等を積層したアルミニウムラミネートシートを好適に使用することができる。この場合、実施形態のリチウムイオン二次電池はラミネート型電池となる。このほか、リチウムイオン二次電池は、コイン型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【0013】
実施形態のリチウムイオン二次電池において、負極集電箔は、銅箔であり、負極の引張強度は、17.6N/mm2以上20.0N/mm2以下である。負極集電箔として銅箔を用いる。銅箔は、金属銅を箔状に延展もしくは電析したものである。負極集電箔として用いることができる銅箔は、好ましくは4~20μm、さらに好ましくは4~10μmの厚さを有する。ここで引張強度とは、所定の板状の細長い試験片を両側から挟んで反対方向に引張ることにより試験片の強度を測定する引張試験により得られる値である。引張試験は、通常JIS C6515(プリント配線板用銅はく)、JIS Z2241(金属材料引張試験方法)等に規定された方法により行うことができる。負極の引張強度とは、所定の引張試験において負極が破断した点での単位断面積あたりの応力(単位:N/mm2)のことである。実施形態のリチウムイオン二次電池において、負極の引張強度が17.6N/mm2以上20.0N/mm2以下であることが好ましい。本発明者らは、負極が所定の範囲内の引張強度を有すると、負極を構成する負極活物質層と負極集電箔との間の剥離強度が高く維持できることを見出した。負極の剥離強度は負極ならびに当該負極を含むリチウムイオン二次電池のサイクル特性に大きな影響を及ぼす特性値であり、一般的に負極の剥離強度が大きいほどそれを用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0014】
続いて、リチウムイオン二次電池を構成する部材をさらに詳細に説明する。すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電箔表面上に配置された正極を含む。好ましくは、正極は、正極活物質、バインダおよび導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電箔に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、正極活物質層は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式LixNiyMe(1-y)O2(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。
【0015】
正極活物質層は、さらにリチウム・マンガン系複合酸化物を正極活物質として含むことができる。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等を挙げることができる。リチウム・マンガン系複合酸化物を併用することで、より安価に正極を作製することができる。特に、過充電状態での結晶構造の安定度の点で優れるスピネル型のマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を用いることが好ましい。リチウム・マンガン系正極活物質を含む場合、正極活物質の重量に対して70重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。混合正極を使用する場合は、正極活物質中に含まれるリチウム・マンガン系複合酸化物の量が多すぎると、電池内に混入しうる金属異物由来の析出物と混合正極との間に部分電池が形成されやすくなり、短絡電流が流れやすくなる。
【0016】
正極活物質層は、特に、一般式LixNiyCozMn(1-y-z)O2で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1-y-z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、z<y、z<1-y-zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。たとえば、一般式LixNiyCozMn(1.0-y-z)O2において、x=1、y=0.4、z=0.3の複合酸化物を「NCM433」と称し、x=1/3、y=1/3、z=1/3の複合酸化物を「NCM111」と称する。
【0017】
正極活物質層に用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。正極活物質層に用いられる導電助剤の割合は、正極活物質、導電助剤、バインダの固形分合計質量に対して3~6%であることが好ましく、3.5~5%であることがさらに好ましい。
【0018】
正極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、正極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0019】
上記の正極活物質、バインダ、導電助剤、さらに必要な添加剤を混合し、この混合物を適切な溶剤に分散させたスラリーを金属箔等の正極集電箔に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成し、正極を製造することができる。
【0020】
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質を含む負極活物質層が負極集電箔に配置された負極を含む。好ましくは、負極は、負極活物質、バインダおよび導電助剤の混合物を金属箔(好ましくは銅箔)からなる負極集電箔に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。負極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。
【0021】
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体などの不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における炭素材料として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。
【0022】
非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。
【0023】
これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とをともに含む混合炭素材料を負極活物質として用いると、電池の回生性能が向上する。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛粒子、または非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を負極活物質の炭素材料として用いると、電解液の分解が抑制され、負極の耐久性が向上する。
【0024】
人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d002)が0.337nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有していることが条件となる。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d002)で見積もることができ、d値が0.337nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。
【0025】
負極活物質層に用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。
【0026】
負極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。負極活物質層に用いられるバインダとして、特にスチレンブタジエンラバー(SBR)が好ましい。負極活物質層のバインダの含有量は、負極活物質層全体の重量に対して0.3~3%であることが好ましい。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0027】
上記の負極活物質、バインダ、導電助剤、さらに必要な添加剤を混合し、この混合物と溶媒とを含む負極活物質混合物スラリーを形成し、これを負極集電箔に塗布または圧延し、130℃~150℃の雰囲気下で乾燥し、次いで80℃~150℃の雰囲気下で乾燥して負極活物質層を形成することができる。負極製造の際に、上記のように2段階で乾燥することにより、スラリーの溶媒と負極に残る水分とを完全に除去することができる。このようにして、引張強度を適切な範囲に保つことで、剥離強度が高く、より信頼性の高い負極を得ることができる。なお、負極活物質層の形成のための乾燥は、窒素や希ガス等の不活性気体雰囲気下で行うこともできる。
【0028】
上記の通り、実施形態で使用する負極集電箔は銅箔である。そして負極の引張強度は、17.6N/mm2以上20.0N/mm2以下、好ましくは18.8N/mm2以上19.6N/mm2以下であることが好ましい。負極の引張強度は、用いる負極活物質やバインダの種類や量により適宜変更できる。負極集電箔として4~20μm、好ましくは4~10μm程度の銅箔を用い、負極活物質として黒鉛を用いた場合、適切な引張強度を有する銅箔と、適切な量のバインダを使用することで、負極の引張強度を調整することができる。負極集電箔として用いる銅箔自体の引張強度は200N/mm2以上500N/mm2以下であることが好ましい。そして、上記の通り、バインダの含有量は、負極活物質層全体の重量に対して0.3~3%であることが好ましい。このように適切な負極集電箔とバインダとを用いることで、負極の引張強度を適正な範囲にすることができる。
【0029】
すべての実施形態において用いられるセパレータは、オレフィン系樹脂層から構成される。オレフィン系樹脂層は、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させたポリオレフィンから構成される層である。実施形態において、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンから構成される層であることが好ましい。オレフィン系樹脂層がこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。セパレータは、場合により耐熱性微粒子層を有していてよい。この際、電池の過熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、耐熱層を有するセパレータ(セラミックセパレータ)を用いることもできる。
【0030】
本明細書のすべての実施形態において用いる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0031】
電解液は、このほか、添加剤として上記の環状カーボネートとは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0032】
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,3-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,3-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)は特に好ましく用いられる。
【0033】
上記の正極ならびに負極をセパレータを介して積層して電極積層体を作り、これを上記の電解液と共に外装体内部に封入してラミネート型リチウムイオン二次電池を形成することができる。外装体として、電解液を外部に浸出させない材料であればいかなるものを使用してもよい。外装体の最外層にポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリマーなどの耐熱性の保護層を有し、最内層にポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PETとPENのブレンド、PETとPEIのブレンド、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂とPETのブレンド、キシリレン基含有ポリアミドとPETのブレンドなどからなる熱可塑性樹脂から構成されたシーラント層を有するラミネートフィルムを用いることができる。外装体は、これらのラミネートフィルムを1枚または複数枚組み合わせて接着または溶着し、さらに多層化したものを用いて形成してもよい。ガスバリア性金属層としてアルミニウム、スズ、銅、ニッケル、ステンレス鋼を用いることができる。金属層の厚みは30~50μmであることが好ましい。特に好適には、アルミニウム箔と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーとの積層体であるアルミニウムラミネートを使用することができる。
【0034】
実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は従来の方法に従うことができ、特に限定されるものではない。たとえば、正極、セパレータ、負極の積層体に正極および負極タブリードを超音波溶接等の方法によって接続し、これを矩形に切り出した外装体材料の所定の位置に配置し、まず正極および負極タブリードと重なる部分(つば部)を熱融着する。そして外装体材料のタブリード引き出し部ではない側辺のうち1辺を熱融着して袋状とする。次いで袋の内部に電解液を注入する。最後に、残った一辺を減圧状態で熱融着する。なおここで用いる各電極のタブリードは、電池内の正極または負極と外部との電気の出し入れを行う端子のことである。リチウムイオン二次電池の負極タブリードとしてニッケルまたはニッケルめっきを施した銅導体を、正極タブリードとしてアルミニウム導体をそれぞれ用いることができる。
【0035】
本発明の他の実施形態は、炭素材料を含む負極活物質層と、銅箔である負極集電箔とを含むリチウムイオン二次電池用負極の引張強度を測定し、引張強度が、所定の範囲内にある場合に、負極を合格品と判断し、引張強度が、所定の範囲内にない場合に、負極を不合格品と判断する工程を含む、リチウムイオン二次電池用負極の検査方法である。実施形態において、炭素材料を含む負極活物質層と、銅箔である負極集電箔とを含むリチウムイオン二次電池用負極の引張強度は、負極活物質層と負極集電箔との間の剥離強度と相関性がある。リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させる観点から、リチウムイオン二次電池用負極の引張強度と、負極活物質層と負極集電箔との間の剥離強度とに最適範囲が存在することについては、以下のように考察することができる:リチウムイオン二次電池用負極の引張強度が小さいということは、当該負極の伸びによる変位が大きいことを意味する。すなわち引張履歴による変位は、そのまま負極活物質層と負極集電箔との間の歪みとなる。これが負極活物質層と負極集電箔との間の結着の損傷を引き起こし、ひいては剥離を生じると考えられる。反対にリチウムイオン二次電池用負極の引張強度が大きいということは、当該負極の伸びによる変位が小さいことを意味する。すなわち引張履歴による変位は、負極活物質層と負極集電箔との間の歪みを生じにくいと云える。しかしながら引張強度が大きいことは当該負極が硬く脆いことをも意味し、少ない歪みであっても負極活物質層と負極集電箔との間の結着の損傷を引き起こすことがある。このように、リチウムイオン二次電池用負極の引張強度は、大きければ大きいほど良いものではなく、適切な範囲に保つことが重要であると考えられる。
【0036】
一方、負極活物質層と負極集電箔との間の剥離強度は、負極のサイクル特性に相関していることが知られており、負極のサイクル特性がリチウムイオン二次電池自体の寿命やサイクル特性にも大きく影響することも知られている。たとえば、負極活物質として炭素材料を用い、負極集電箔として銅箔を用いた負極の場合、負極活物質層と負極集電箔との間の剥離強度がおよそ40mN/mm以上であれば、リチウムイオン二次電池に充分なサイクル特性を提供できると考えられる。そこで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を簡易的に見積もるために、負極の剥離強度を測定することができる。しかしながら剥離強度の測定法よりもより簡便で手軽な方法で測定できる引張試験を行うことにより、負極の剥離強度およびリチウムイオン二次電池のサイクル特性を大まかに見積もることができる。炭素材料を含む負極活物質層と、銅箔である負極集電箔とを含むリチウムイオン二次電池用負極の引張強度を測定し、引張強度が所定の範囲内にある場合は、当該負極の剥離強度も充分高いものであると予測できるので、これを合格品と判断する。反対に引張強度が所定の範囲内にない場合は、当該負極の剥離強度は充分な値が得られないものであると予測できるので、これを不合格品と判断する。製造したリチウムイオン二次電池用負極の引張試験を行うことにより、合格品と不合格品を直ちに判別することができるので、当該負極を用いてリチウムイオン二次電池を組み立てた上でサイクル試験を行わなくても、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を予測することが可能となる。なお、引張試験による合格品負極を見極めるための所定の範囲は、用いる負極活物質や負極集電箔等により異なる。たとえば、黒鉛を含む負極活物質層と、銅箔である負極集電箔とを含むリチウムイオン二次電池用負極について、引張試験により合格品を見極めるための所定の範囲は、17.6N/mm2以上20.0N/mm2以下、好ましくは18.8N/mm2以上19.6N/mm2以下である。
【0037】
ここで、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。
図1はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電箔11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電箔12、正極活物質層15を含む。
図1では、負極集電箔11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電箔12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電箔の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電箔11、正極集電箔12、負極活物質層13、正極活物質層15、およびセパレータ17が一つの電池の構成単位である(図中、単電池19)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層し、電極積層体を形成する。各負極集電箔11から延びる延出部を負極タブリード25上に一括して接合し、各正極集電箔12から延びる延出部を正極タブリード27上に一括して接合してある。なお正極タブリードとしてアルミニウム板、負極タブリードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極タブリードおよび負極タブリードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極タブリード25および正極タブリード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、周縁部が熱融着した形状をしている。
【実施例】
【0038】
<負極の作製、実施例>
負極活物質として、黒鉛粉末を用いた。黒鉛粉末と、導電助剤であるカーボンブラック粉末(CB)と、バインダ樹脂であるスチレンブタジエンラバー(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、黒鉛粉末:CB:SBR:CMC=95:2:2:1の割合となるように均一に混合し、溶媒であるイオン交換水に添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電箔となる厚み8μmの銅箔(銅箔A、銅箔Bの2種類)の両面上にドクターブレード法にて塗布し、140℃にて10分間当該電極を加熱し、水を乾燥した。次いで窒素雰囲気下、140℃でさらに乾燥してプレスし、負極活物質層を負極集電箔の両面に有する負極を得た(実施例1および実施例2)。
【0039】
<負極の作成、比較例>
負極活物質として、黒鉛粉末を用いた。黒鉛粉末と、導電助剤であるカーボンブラック粉末(CB)と、バインダ樹脂であるスチレンブタジエンラバー(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、黒鉛粉末:CB:SBR:CMC=95:2:2:1の割合となるように均一に混合し、溶媒であるイオン交換水に添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電箔となる厚み8μmの銅箔(銅箔C、銅箔Aの2種類)の両面上にドクターブレード法にて塗布し、160℃にて10分間当該電極を加熱し、水を乾燥した。次いで窒素雰囲気下、160℃でさらに乾燥してプレスし、負極活物質層を負極集電箔の両面に有する負極を得た(比較例1および比較例2)。
【0040】
<引張強度の測定>
負極の引張強度の測定法は、原則としてJIS C6515にしたがって行った。実施例、比較例の各負極を10mm×100mmの大きさに切り出し、引張試験片を作成した。引張試験機(株式会社イマダ、ZP-200N)に試験片を取り付け、引張速度50mm/分で試験片を引張り、破断したときに加えていた応力から引張強度(単位はN/mm2)を算出した。
なお、負極集電箔として用いた各銅箔(厚み8μm)についても同様に引張試験を行い、それぞれ、銅箔A:333N/mm2、銅箔B:332N/mm2、銅箔C:352N/mm2であった。
【0041】
<剥離強度の測定>
負極の90°剥離試験は、原則としてJIS K6854-1(はく離接着強さ試験方法)にしたがって行った。実施例、比較例の各負極を10mm×100mmの大きさに切り出し、剥離試験片を作成した。試験片を一度上記の引張試験で用いた引張試験機(株式会社イマダ、ZP-200N)に取り付け、電極断面積あたりの引張強度が約15N/mm2となるまで引張り、試験片を引張試験機から取り外した。引張試験機から取り外した試験片を剥離試験機(株式会社イマダ、ZP-5N)に取り付け、引き上げ速度50mm/分で負極活物質層を90°の方向に剥離していき、剥離強度(単位はmN/mm)を測定した。
【0042】
【0043】
表1の実施例および比較例の負極の引張強度と剥離強度とを比較すると、引張強度が大きければ剥離強度が大きいという相関関係を有しているのではないことがわかる。負極に適切な剥離強度を持たせるためには、所定の適切な範囲の引張強度を有していなければならない。本発明で規定する範囲内の引張強度を有する実施例1および実施例2の負極は、適切な範囲内の剥離強度を有しているので、これらを用いて作成したリチウムイオン二次電池のサイクル特性は高いものと見積もることができる。一方、本発明で規定する範囲内の引張強度を有していない比較例1および比較例2の負極は、適切な範囲内の剥離強度を有していないので、これらを用いて作成したリチウムイオン二次電池のサイクル特性は比較的低いものと見積もることができる。
【0044】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0045】
10 リチウムイオン二次電池
11 負極集電箔
12 正極集電箔
13 負極活物質層
15 正極活物質層
17 セパレータ
25 負極タブリード
27 正極タブリード
29 外装体
31 電解液