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  • 特許-リンクプレート 図1
  • 特許-リンクプレート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】リンクプレート
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/06 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
F16G13/06 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019106842
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020200863
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅博
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0348755(US,A1)
【文献】特開2014-105717(JP,A)
【文献】特開2012-255523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に連結孔を備え、案内部材との摺接部と、前記摺接部を有する側のチェーン長手方向における前記前後の連結孔の中心を結ぶ範囲の一連の案内側端面とを有するリンクプレートであって、
前記案内側端面は、前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線と平行な平担面で構成され、前記摺接部の長手方向の中央を含む範囲に1か所のみ設けられたフラット部と、前記フラット部のチェーン長手方向の両側に設けられた両側端面部とで構成され、
前記両側端面部は、前記フラット部から遠ざかるにつれ前後の連結孔の中心を結ぶ直線に近づくように形成され、
前記フラット部のチェーン長手方向の長さ(L)が、前記前後の連結孔の中心間の長さ(P)の50%以下であることを特徴とするリンクプレート。
【請求項2】
前記フラット部から前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線までの距離(H/2)が、前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線上の連結孔の中心からリンクプレートの前後端までの距離(R)より長いことを特徴とする請求項1に記載のリンクプレート。
【請求項3】
前記両側端面部が所定の曲率半径(RT)の曲面からなり、
前記両側端面部の曲率半径(RT)が、前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線上における連結孔の中心からリンクプレートの前後端までの距離(R)より長いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリンクプレート。
【請求項4】
前記両側端面部は、前記フラット部との接続点において前記フラット部を接線として滑らかに連続していることを特徴とする請求項1乃至請求項3にいずれかに記載のリンクプレート。
【請求項5】
左右一対の内リンクプレートと、前記左右一対の内リンクプレートの両外側にそれぞれ配置する左右一対の外リンクプレートとを備え、前記内リンクプレートと外リンクプレートとを交互に連結ピンでチェーン長手方向に多数連結したチェーンであって、
前記左右一対の内リンクプレートが、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のリンクプレートで構成されていることを特徴とするチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後に連結孔を備え、案内部材との摺接部と、前記摺接部を有する側のチェーン長手方向における前記前後の連結孔の中心を結ぶ範囲の案内側端面とを有するリンクプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、産業用機械等の動力伝達機構に用いられるローラチェーン、ブシュチェーン、サイレントチェーン等で、前後に連結孔を備え、案内部材との摺接部とを有したリンクプレートは周知である。
一般的なチェーンでは、摺接部を有する側のチェーン長手方向における前後の連結孔の中心を結ぶ範囲(チェーンピッチ区間)の案内側端面は、全体が平坦面で形成されているため、摺接する案内部材が平坦面、あるいは、大きな曲率半径を有する場合、面圧は低くなるものの摩擦抵抗は大きくなる。
これに対し、案内側端面に凹状の湾曲部を設けたり、左右非対称等の異形状とし、潤滑油をコントロールすることで、摩擦抵抗の低減を図るものが公知である(例えば、特許文献1-4等参照。)。
また、案内側端面を凸状の曲面として、摩擦抵抗の低減を図りつつ、連結孔の周囲のプレート強度を確保する形状とすることで、引張りに対する強度を担保したものも公知である(例えば、特許文献5等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-019749号公報
【文献】特開平11-236949号公報
【文献】特開2010-249240号公報
【文献】特開2011-231822号公報
【文献】特開2012-255523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1-4等で公知のリンクプレートは、面圧や摩擦抵抗を最適化することは可能ではあるが、潤滑油の粘度、温度、案内部材の表面状態による変化が大きいため、使用環境に応じて異なる設計とする必要があり、また、設計通りに精度良く作製する必要があるため、汎用性が低く、製造コストが高くなるという問題があった。
特許文献5で公知のリンクプレートは、摩擦抵抗の低減効果は高いものの、案内部材に対する面圧が上昇し、摩耗痕や摩耗粉による悪影響を排除するために別途対策が必要であった。
また、連結孔の周囲のプレート強度を向上するために、リンクプレートの最大高さを必要以上に大きくしなければならないという問題があった。
【0005】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、汎用性が高く製造か容易であり、案内側端面の高さを低く保ちながら、摩擦抵抗を低減できるとともに、面圧を低く押さえ、かつ、引張りに対する強度を向上することが可能なリンクプレート及びチェーンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るリンクプレートは、前後に連結孔を備え、案内部材との摺接部と、前記摺接部を有する側のチェーン長手方向における前記前後の連結孔の中心を結ぶ範囲の一連の案内側端面とを有するリンクプレートであって、前記案内側端面は、前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線と平行な平担面で構成され、前記摺接部の長手方向の中央を含む範囲に1か所のみ設けられたフラット部と、前記フラット部のチェーン長手方向の両側に設けられた両側端面部とで構成され、前記両側端面部は、前記フラット部から遠ざかるにつれ前後の連結孔の中心を結ぶ直線に近づくように形成され、前記フラット部のチェーン長手方向の長さ(L)が、前記前後の連結孔の中心間の長さ(P)の50%以下であることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
本請求項1に係るリンクプレート及び本請求項5に係るチェーンによれば、案内側端面は、前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線と平行な平担面で構成され、前記摺接部の長手方向の中央を含む範囲に1か所のみ設けられたフラット部と、前記フラット部のチェーン長手方向の両側に設けられた両側端面部とで構成され、前記両側端面部は、前記フラット部から遠ざかるにつれ前後の連結孔の中心を結ぶ直線に近づくように形成されていることにより、案内側端面全体が凸状の曲面のものと同等の摩擦低減効果を維持しながら、面圧を低く抑えることができ、また、引張りに対する強度を確保しつつ、リンクプレートの最大高さを低く抑えることが可能となる。
さらに、単純な形状で設計の難易度も低く、汎用性が高く製造か容易となる。
また、フラット部のチェーン長手方向の長さ(L)が、前記前後の連結孔の中心間の長さ(P)の50%以下であることにより、案内側端面全体が凸状の曲面のものと同等の摩擦低減効果を確実に発揮できる。
【0008】
本請求項2に記載の構成によれば、フラット部から前後の連結孔の中心を結ぶ直線までの距離(H/2)が、前後の連結孔の中心を結ぶ直線上の連結孔の中心からリンクプレートの前後端までの距離(R)より長いことにより、連結孔の周囲のプレート幅を確保して確実に引張りに対する強度を向上することが可能となる。
本請求項3に記載の構成によれば、両側端面部が所定の曲率半径(RT)の曲面からなり、両側端面部の曲率半径(RT)が、前記前後の連結孔の中心を結ぶ直線上における連結孔の中心からリンクプレートの前後端までの距離(R)より大きいことにより、両側端面部からフラット部にかけて滑らかな面となり、チェーンの走行時に案内部材に対して円滑に進入することができ、衝撃や騒音を軽減することが可能となる。
【0009】
本請求項4に記載の構成によれば、両側端面部は、フラット部との接続点において前記フラット部を接線として滑らかに連続していることにより、リンクプレートが振動したり姿勢変化が発生しても、案内部材との摺動抵抗の変化が抑制され、安定した摺動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態であるチェーンの斜視図。
図2】本発明の第1実施形態であるリンクプレートの側面図。
図3】本発明のチェーンの試験グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態である内リンクプレート101を用いたチェーン100は、図1に示すように、左右一対の内リンクプレート101と、この内リンクプレート101の連結孔であるブシュ孔111に両端部を圧入嵌着する円筒状のブシュ103と、内リンクプレート101の両外側に配置する左右一対の外リンクプレート102と、ブシュ103に回転自在に嵌挿されて外リンクプレート102のピン孔に両端部を圧入嵌着する連結ピン104とを有し、内リンクプレート101と外リンクプレート102とを交互に連結ピン104でチェーン長手方向に多数連結して構成されている。
【0012】
内リンクプレート101は、図1図2に示すように、上下、左右対称の形状であり、案内側端面120は、前後の連結孔111の中心を結ぶ直線と平行な平担面で構成されたフラット部121と、フラット部121のチェーン長手方向の両側に設けられた両側端面部122とで構成され、両側端面部122は、フラット部121から遠ざかるにつれ前後の連結孔111の中心を結ぶ直線に近づくように形成されている。
また、本実施形態では、内リンクプレート101の長手方向の前後端面112は、図2に示すように、連結孔111の中心Cを中心とする曲率半径Rの円弧面で構成されている。
【0013】
両側端面部122及び両側端面延長部123は曲率半径RTの円弧面であり、両側端面部122のフラット部121との接続点における接線はフラット部121と一致し、両側端面延長部123と前後端面112は、その境界点Yにおいて同一接線を有している。
このことで、フラット部121から前後端面112まで、両側端面部122及び両側端面延長部123で角部を有さずに滑らかに接続されている。
フラット部121の長さLは、前後の連結孔111の中心C間の長さ、すなわち、チェーンピッチPの50%以下に設定される。
【0014】
両側端面部122及び両側端面延長部123の曲率半径RTは、前後の連結孔111の中心を結ぶ直線上における連結孔111の中心Cから内リンクプレート101の前後端までの距離、すなわち、前後端面112の曲率半径Rより大きい。
したがって、連結孔111の周囲のプレート幅は、境界点Yより両側端面延長部123側に向かって徐々に広くなり、連結孔111の中心Cの直上では、プレート幅W>R-r(連結孔111の半径)となる。
また、フラット部121から前後の連結孔111の中心を結ぶ直線までの距離、すなわち、内リンクプレート101の高さHの半分=H/2が、前後の連結孔111の中心を結ぶ直線上の連結孔111の中心から内リンクプレート101の前後端までの距離、すなわち、前後端面112の曲率半径Rより長い。
これらの寸法関係を有することでこのことで、引張りに対する強度を向上している。
【0015】
本実施形態の内リンクプレートの寸法関係をまとめると以下のとおりとなる。
LL=P+2R
L≦P/2
R<H/2
R<RT
R-r<W
LL:プレート前後長さ
P :チェーンピッチ(連結孔111の中心C間の長さ)
R :前後端面112の曲率半径(前後の連結孔111の中心Cを結ぶ直線上における連結孔111の中心Cから内リンクプレート101の前後端までの距離)
L :フラット部121の長さ
H :内リンクプレート101の高さ(フラット部121から前後の連結孔111の中心Cを結ぶ直線までの距離の2倍)
RT:両側端面部及び両側端面延長部の曲率半径
W :連結孔111の中心C直上のプレート幅
r :連結孔111の半径
なお、図2に示す実施形態は、前後端面112の曲率半径Rの中心を連結孔111の中心Cとするものであるが、プレート前後長さLLを一定として、フラット部121の長さLを変更した場合には、連動して前後端面112の曲率半径Rの大きさと中心位置も変更される。
その際は、上記条件の内、LL=P+2Rの条件以外を充足していればよい。
【0016】
このように構成された内リンクプレート101を使用したチェーン100を、エンジンのタイミングシステムに使用した際の燃費向上率(主に、フラット部121の長さによる摩擦抵抗に依存)と、強度向上率(主に連結孔111の中心C直上のプレート幅に依存)の実験データを、図3に示す。
全て、チェーンピッチ(連結孔111の中心C間の長さ)P、内リンクプレート101の高さH、プレート前後長さLLが同一で、フラット部121の長さLが異なるものである。
【0017】
チェーンピッチ(連結孔111の中心C間の長さ)Pに対するフラット部121の長さL、L/P=0%のものは、前述した特許文献5で公知の案内側端面を凸状の曲面としたリンクプレートを用いたチェーンであり、このL/P=0%のものを強度向上率100%としてプロットしている。
L/P=100%のものは、一般的な案内側端面の全体が平坦面であるリンクプレートを用いたチェーンであり、このL/P=100%のものを燃費向上率100%としてプロットしている。
【0018】
実験データから分かるように、強度向上率は、L/Pが大きくなるにつれ、ほぼリニアに向上する。
これは、内リンクプレート101の高さH、プレート前後長さLLが同一の場合、フラット部121の長さLが長いほど連結孔111の中心C直上のプレート幅Wが大きくなることによる。
一方、燃費向上率は、L/Pが大きくしてもL/P=50%付近までは高い状態を維持し、L/P=50%を超えると急激に減少する。
これは、潤滑油が存在すること、面圧の影響による案内部材の表面変形等があること等の一般的な使用環境では、ある程度までフラット部が存在しても、案内側端面を凸状の曲面としたリンクプレートと比較して燃費の悪化につながるような摩擦抵抗の増加がほとんどないことを示している。
【0019】
なお、上述した実施形態では、内リンクプレート101に利用されるものとしたが、外リンクプレート102も同様の構成として案内部材に摺接させてもよい。
また、図2の側面視で、上下、左右対称な形状としたが、例えばサイレントチェーンのリンクプレートとして利用する場合等、一方のみに案内部材との摺接部を有しることが限定される場合、上下非対称としてもよい。
さらに、走行方向が特定される場合や、走行方向によって特性が異なるようにするため、左右非対称としてもよい。
【0020】
また、両側端面部122及び両側端面延長部123を曲率半径RTの同一曲面としたが、異なる半径の曲面としてもよく、両側端面部122及び両側端面延長部123を傾斜平面、あるいは、半径が変化する曲面で構成してもよい。
また、前後端面112を曲率半径Rの曲面としたが、平面の組み合わせや半径が変化する曲面で構成してもよく、両側端面延長部123と連続して半径が変化する曲面で構成してもよい。
さらに、フラット部121、両側端面部122、両側端面延長部123、前後端面112の各境界は、滑らかに連続するのが望ましいが、凸または凹状の角度を有する角部(小さなアール部、コーナー部で接続されたものを含む)であってもよい。
【符号の説明】
【0021】
100 ・・・ チェーン
101 ・・・ 内リンクプレート
102 ・・・ 外リンクプレート
103 ・・・ ブシュ
104 ・・・ ピン
111 ・・・ ブシュ孔(連結孔)
112 ・・・ 前後端面
120 ・・・ 案内側端面
121 ・・・ フラット部
122 ・・・ 両側端面部
123 ・・・ 両側端面延長部
C ・・・ 連結孔の中心
H ・・・ プレート高さ
L ・・・ フラット部の長さ
P ・・・ 連結孔の中心間の長さ(チェーンピッチ)
RT ・・・ 両側端面部(両側端面延長部)の曲率半径
R ・・・ 前後端面の曲率半径(前後の連結孔の中心を結ぶ直線上における連結孔の中心からリンクプレートの前後端までの距離)
r ・・・ 連結孔の半径
W ・・・ 連結孔の中心直上のプレート幅
LL ・・・ プレート前後長さ
Y ・・・ 両側端面延長部と前後端面との境界点
図1
図2
図3