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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20240327BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20240327BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240327BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20240327BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D13/80
A21D2/16
A23D7/01
A23D7/005
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019184820
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2020058348
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018191702
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】会田 渉
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-076270(JP,A)
【文献】特公昭40-024504(JP,B1)
【文献】特開2009-095246(JP,A)
【文献】特開2014-036630(JP,A)
【文献】特開2014-233242(JP,A)
【文献】特開2007-236348(JP,A)
【文献】特開2017-176139(JP,A)
【文献】特開2011-072270(JP,A)
【文献】特開2006-246800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 - 17/00
A23D 7/00 - 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A:飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール、
B:炭素数6以上の糖アルコール、
C:ショ糖脂肪酸エステル
D:水
I:ソルビタン脂肪酸エステル、
J:リン脂質、及び
K:低級アルコール
を含有し、前記成分Aにおける前記飽和脂肪酸がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸から選ばれる脂肪酸であり、前記成分Cを構成する脂肪酸がラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、及びエルカ酸から選ばれる脂肪酸であり、
前記成分Aの含有量が2.0~10質量%、前記成分Bの含有量が20~65質量%、前記成分Cの含有量が1.0~10質量%、前記成分Dの含有量が10~30質量%、前記成分Iの含有量が0.5~5.0質量%、前記成分Jの含有量が0.05~1.0質量%、前記成分Kの含有量が1.0~10質量%、前記成分Aの含有量に対する前記成分Cの含有量の比の値が質量比で0.45~1.5であり、油脂の含有量が.0質量%以下である、ケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【請求項2】
E:グリセリン
を含有し、前記成分Bの含有量と前記成分Eの含有量との合計が40~70質量%であり、前記Bの含有量に対する前記成分Eの含有量の比の値が質量比で0.1~1である、請求項1記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【請求項3】
G:プロピレングリコール脂肪酸エステル
を含有し、前記成分Gの含有量が1.5~5.5質量%である、請求項1又は2記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【請求項4】
H:脂肪酸
を含有し、前記成分Hの含有量が0.1~1.0質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【請求項5】
前記油脂の含有量が0.60質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の乳化組成物を生地に配合してケーキ生地を調製し、該ケーキ生地を焼成することを含む、ケーキの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ類は、小麦粉、卵、糖類、油脂等を原料としてケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成して製造される。ケーキ類は一般に、比容積が大きく、ふんわりとした食感のものが好まれる。この食感を達成するためには、ケーキ生地を十分に起泡させることが重要であり、通常、多量の空気を包み込むことができる卵がその役割を担っている。
一方、比容積及び食感の更なる向上のために、ケーキ生地に、さらに起泡性の乳化組成物を配合することも知られている。この乳化組成物として、グリセリン脂肪酸モノエステルを主な成分として含有するものが広く用いられている。
【0003】
グリセリン脂肪酸モノエステル(モノアシルグリセロール)は、α結晶(αゲル)の状態では起泡力及びこれを維持する力が高いものの、β結晶(βゲル)に転移した後には、起泡力等が大きく低下する。そこで、モノアシルグリセロールのαゲルの状態を維持するために、モノアシルグリセロールに加えてソルビトールを含有させた乳化組成物からなる起泡剤が提案されている(例えば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-22640号公報
【文献】特開2002-247952号公報
【文献】特開2004-329156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~3に開示されている気泡剤は含水量が多く、ケーキ生地を充分に起泡させるためには、より多量の気泡剤を添加する必要がある。また、これらの起泡剤は、添加した起泡剤が生地全体に広がり生地が充分に起泡するのに相応の時間を要する。
【0006】
乳化組成物は温度条件などが乳化安定性に影響し、保存中に構成成分の分離、相状態の変化、及び変色が起こりやすい傾向にある。乳化状態や相状態が崩れてしまうと起泡作用が大きく低下する。したがって、乳化組成物からなる起泡剤には長期に亘り起泡作用を安定に発現できる特性が求められる。
【0007】
本発明は、ケーキ生地に対する優れた起泡作用を長期に亘り安定に発現することでき、長期保管されても外観が変色せず乳化状態も安定であり、ケーキ生地の製造時に速やかに起泡し、焼き上がったケーキをバラケが良く、口溶け良好な食感とすることができるケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールを特定量含有し、かつ、油脂の含有量を抑えた油相を分散相とし、特定炭素数の糖アルコールとショ糖脂肪酸エステルと水とを特定量組合せて含有する水相を連続相として有する水中油型乳化組成物が、長期保存安定性に優れ、ケーキ生地に対する起泡作用を長期に亘り安定に発現でき、ケーキ生地の製造時に速やかに起泡し、かつ焼き上がったケーキはバラケが良く、口溶け良好な食感を有することを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明は、A:飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール(以下、「飽和モノアシルグリセロール」、「成分A」とも称す。)、B:炭素数6以上の糖アルコール(以下、「成分B」とも称す。)、C:ショ糖脂肪酸エステル(以下、「成分C」とも称す。)、D:水(以下、「成分D」とも称す。)を含有し、前記成分Bの含有量が20~65質量%、前記成分Dの含有量が10~30質量%、前記成分Aの含有量に対する前記成分Cの含有量の比の値が質量比で0.45~1.5であり、油脂の含有量が2.0質量%以下である、ケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物は、ケーキ生地に対する優れた起泡作用を長期に亘り安定に維持することができ、長期保管されても外観が変色せず乳化状態も安定であり、ケーキ生地の製造時に速やかに起泡し、得られるケーキをバラケが良く、口溶け良好な食感とすることができる。また、本発明のケーキは、バラケが良く、口溶け良好な食感を有している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物(以下、単に、本発明の乳化組成物と呼ぶことがある。)について、好ましい実施形態を以下に説明する。
【0012】
本発明の乳化組成物に含まれる成分A(飽和モノアシルグリセロール)は、グリセリンが有する3つのヒドロキシ基のいずれか1つと、飽和脂肪酸が有するカルボキシル基とがエステル結合した構造を有するモノエステル化合物である。飽和脂肪酸が結合するグリセリンのヒドロキシ基は、α-位であってもβ-位であってもよいが、α位であることが好ましい。
上記飽和脂肪酸の種類に特に制限はなく、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、及びアラキジン酸(C20:0)からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましく、パルミチン酸及びステアリン酸を含むことがより好ましい。成分Aの構成脂肪酸に占めるステアリン酸の割合は40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。成分Aとして、飽和モノアシルグリセロールの1種又は2種以上を用いることができる。
【0013】
本発明の乳化組成物中の成分Aの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、2.0~10質量%であることが好ましく、3.0~9.5質量%であることがより好ましく、5.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。
成分Aは、本発明の乳化組成物の油相を構成する。
【0014】
本発明の乳化組成物に含まれる成分B(炭素数6以上の糖アルコール)は、アルドース又はケトースのカルボニル基を還元して得られる糖を意味する。成分Bの具体例としては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、マンニトール、還元水飴、イソマルト、及びラクチトールが挙げられ、中でもソルビトール又はマルチトールが好ましく、ソルビトールがより好ましい。成分Bとして、炭素数6以上の糖アルコールの1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
本発明の乳化組成物中の成分Bの含有量は20~65質量%であり、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、20~55質量%であることが好ましく、22~50質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることがさらに好ましい。
成分Bは、本発明の乳化組成物の水相を構成する。
【0016】
本発明の乳化組成物に含まれる成分C(ショ糖脂肪酸エステル)は、水相を構成する成分である。成分Cの一分子が有する構成脂肪酸の数は、成分Cが水相成分として存在できれば特に制限されない。本発明の乳化組成物に含まれるすべての成分Cに占める、脂肪酸モノエステルの形態である成分Cの割合は、30~90質量%であることが好ましく、40~85質量%であることがより好ましく、50~80質量%であることがさらに好ましい。ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられ、これらのうち飽和脂肪酸がより好ましい。本発明に用いる成分Cは、ショ糖ステアリン酸エステルを含むこと(好ましくは成分Cに占めるショ糖ステアリン酸エステルの割合が50質量%以上)が好ましい。成分Cとして、ショ糖脂肪酸エステルの1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
本発明の乳化組成物中の成分Cの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、1.0~10質量%であることが好ましく、2.0~8.0質量%であることがより好ましく、4.0~6.0質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の乳化組成物に含まれる成分D(水)は、飲用水であれば特に制限はなく、例えば、水道水、精製水、イオン交換水、ミネラルウォーター等を用いることができる。また、成分D以外の成分を水溶液等の水を含む状態で配合した場合には、当該水溶液等に含まれる水は、成分Dを構成する。
【0019】
本発明の乳化組成物中の成分Dの含有量は、10~30質量%である。組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、本発明の乳化組成物中の成分Dの含有量は15~29質量%であることが好ましく、20~28質量%であることがより好ましい。
成分Dは、本発明の乳化組成物における水相成分の基剤となる。
本発明の乳化組成物は、成分Dの含有量を上記特定範囲に抑えても保存安定性が高められ、優れた起泡作用を長期に亘り安定に発現することができる。また、成分Dの含有量が上記特定範囲に抑えられ、他の成分の相対的な量が高められるため、ケーキ生地に対する乳化組成物の使用量を抑えることができる。また、成分Dの含有量を上記特定範囲に抑えることにより、乳化組成物がケーキ生地全体に素早く均一に広がることができ、ケーキ生地をより素早く、十分に起泡させることが可能となる。
【0020】
本発明の乳化組成物は、E:グリセリン(以下、「成分E」とも称す。)を含有してもよい。本発明の乳化組成物が成分Eを含有する場合、乳化組成物中の成分Eの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、0~40質量%であることが好ましく、3.0~35質量%であることがより好ましく、7.0~30質量%であることがさらに好ましい。
成分Eは、本発明の乳化組成物の水相を構成する。
【0021】
本発明の乳化組成物は、F:油脂(以下、「成分F」とも称す。)を含有してもよい。本発明の乳化組成物が成分Fを含有する場合でも、乳化組成物中の成分Fの含有量は2.0質量%以下である。成分Fは、例えば、食用の動物性油脂、及び食用の植物性油脂に含まれ、また、他の原料の製剤等に含まれていることがある。
本発明において、成分Fは、トリアシルグリセロール及びジアシルグリセロールを意味し、モノアシルグリセロールは上記「油脂」には含まれないものとする。
【0022】
本発明の乳化組成物が成分Fを含有する場合、乳化組成物中の成分Fの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、1.0質量%以下であることが好ましく、0.60質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以下であることがさらに好ましい。
成分Fは、本発明の乳化組成物の油相を構成する。
【0023】
本発明の乳化組成物中、上記成分Aの含有量に対する上記成分Cの含有量の比の値(成分Cの含有量/成分Aの含有量、質量比)は、0.45~1.5である。組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点、及び焼成後ケーキを食した時にバラケよく口溶けを良好とする観点から、上記成分Aの含有量に対する上記成分Cの含有量の比の値は、0.45~1.3であることが好ましく、0.50~1.0であることがより好ましく、0.55~0.80であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の乳化組成物中、上記成分Bの含有量と上記成分Eの含有量の合計は、40~70質量%であることが好ましく、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、上記成分Bの含有量と上記成分Eの含有量は合計で、42~65質量%であることがより好ましく、44~60質量%であることがさらに好ましく、46~55質量%であることが特に好ましい。
【0025】
また、本発明の乳化組成物が上記成分Eを含有する場合、乳化組成物中、上記成分Bの含有量に対する上記成分Eの含有量の比の値(成分Eの含有量/成分Bの含有量、質量比)は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、0.10~1.0であることが好ましく、0.15~0.95であることがより好ましく、0.20~0.90であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の乳化組成物はさらに、上記成分に加え、G:プロピレングリコール脂肪酸エステル(以下、「成分G」とも称す。)を含有することも好ましい。成分Gを構成する脂肪酸に特に制限はなく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸が挙げられ、これらのうち飽和脂肪酸がより好ましい。成分Gは、プロピレングリコール脂肪酸モノエステルを含むことが好ましく、なかでもプロピレングリコールベヘン酸エステルを含むことが好ましい。成分Gとして、プロピレングリコール脂肪酸エステルの1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
本発明の乳化組成物中の成分Gの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、1.5~5.5質量%であることが好ましく、2.0~5.5質量%であることがより好ましく、3.0~5.4質量%であることがさらに好ましい。
成分Gは、本発明の乳化組成物の油相を構成する。
【0028】
本発明の乳化組成物は、H:脂肪酸(以下、「成分H」とも称す。)を含有することも好ましい。成分Hは、油相の構成成分であることが好ましい。本発明に好ましく用いられる脂肪酸としては、飽和、不飽和のいずれでもよく、好ましくは炭素原子数16~24の脂肪酸であり、より好ましくは炭素原子数18~22の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素原子数20~22の脂肪酸である。成分Hはベヘン酸を含むことが好ましい。成分Hとして、脂肪酸の1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
本発明の乳化組成物中の成分Hの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、0.10~1.0質量%であることが好ましく、0.15~0.80質量%であることがより好ましく、0.20~0.60質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の乳化組成物は、I:ソルビタン脂肪酸エステル(以下、「成分I」とも称す。)を含有することも好ましい。成分Iを構成する脂肪酸に特に制限はなく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸が挙げられる。なかでも飽和脂肪酸を含むことが好ましい。成分Iを構成する脂肪酸は、より好ましくはステアリン酸を含む。成分Iは、ソルビタン脂肪酸モノエステル、ソルビタン脂肪酸ジエステル、又はソルビタン脂肪酸トリエステルの形態が好ましい。成分Iとして、ソルビタン脂肪酸エステルの1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
本発明の乳化組成物中の成分Iの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、0.5~5.0質量%であることが好ましく、1.0~4.0質量%であることがより好ましく、1.5~3.5質量%であることがさらに好ましい。
成分Iは、本発明の乳化組成物の油相を構成する。
【0032】
本発明の乳化組成物は、J:リン脂質(以下、「成分J」とも称す。)を含有することも好ましい。成分Jとして、例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸等又はこれらの酵素処理物が挙げられる。成分Jとして、大豆レシチンや卵黄レシチン等の天然レシチンやその酵素分解物を用いることもできる。また、成分Jとして、リン脂質複合体(例えば、リン脂質とタンパク質との複合体等)を用いることもできる。成分Jとして、リン脂質の1種又は2種以上を用いることができる。
【0033】
本発明の乳化組成物中の成分Jの含有量は、組成物の初期及び長期保存後の起泡性を良好とする観点から、0~1.0質量%であることが好ましく、0.05~0.80質量%であることがより好ましく、0.10~0.50質量%であることがさらに好ましい。
成分Jは、本発明の乳化組成物の油相を構成する。
【0034】
本発明の乳化組成物は、K:低級アルコール(以下、「成分K」とも称す。)を含有することも好ましい。成分Kとして、エタノールが好適である。
本発明の乳化組成物中の成分Kの含有量は、乳化物の製造を容易にする観点から、0~10質量%であることが好ましく、1.0~8.0質量%であることがより好ましく、2.0~7.0質量%であることがさらに好ましい。
成分Kは、本発明の乳化組成物の水相を構成する。
【0035】
本発明の乳化組成物は、上記成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤の例としては、液体担体、油性担体、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の乳化組成物は、例えば、油相成分を含有する油脂組成物と、水相成分を含有する水溶液とを、通常の方法で乳化混合することで得ることができる。例えば、油相の各構成成分を含有させた油脂組成物を、80℃程度まで加熱して攪拌し、これとは別に、水相の各構成成分を含有させた水溶液を80℃程度まで加熱して撹拌する。そして、上記水溶液中に上記油脂組成物を加えて攪拌し、水溶液中に油脂組成物を乳化分散することにより、目的の水中油型乳化組成物を得ることができる。本発明の乳化組成物の乳化安定性を高める観点から、上記水溶液は、上記油脂組成物に対して、質量比(水溶液/油脂組成物)で2.0以上であることが好ましく、4.0~15であることがより好ましい。
【0037】
本発明の水中油型乳化組成物は、ケーキ製品の製造に用いられる。ケーキ製品としては、スポンジケーキ、バターケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、スイスロール、ブッセ、バウムクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、蒸しケーキ等が挙げられる。
【0038】
本発明のケーキは、本発明の乳化組成物を含有させたケーキ生地を焼成することで製造される。このケーキ生地は、本発明の乳化組成物を添加すること以外は、通常の方法で調製することができる。例えば、少なくとも穀粉と、卵と、糖類と、本発明の乳化組成物とを混合して得ることができる。良好な食感と風味を得る観点から、本発明のケーキは、少なくとも穀粉と、該穀粉100質量部に対して、卵50~300質量部と、糖類20~250質量部と、本発明の乳化剤3~100質量部とを混合して抱気させたケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成して製造されることが好ましい。より好ましくは、穀粉100質量部に対して、卵を80~250質量部、糖類を50~180質量部、本発明の乳化組成物を5~50質量部の割合で混合し、抱気させたケーキ生地を焼成して製造される。
上記穀粉に特に制限はないが、例えば、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉等が挙げられ、中でも小麦粉が好適に用いられる。
上記卵として、鶏卵、ダチョウ卵、アヒル卵等が挙げられるが、中でも鶏卵が好適に用いられる。また、上記卵は、卵白及び/又は卵黄を意味する。
使用する卵の加工形態に特に制限はなく、生卵、凍結卵、粉末卵、加糖卵、殺菌卵等を用いることができるが、中でも殺菌卵が好適に用いられる。
上記ケーキ生地は、さらに粉乳、ベーキングパウダー、砂糖、食用油、香料等の、ケーキ生地に配合される慣用添加物等を含むことができる。
【0039】
上記焼成方法に特に制限はないが、通常には、ケーキ生地を所望の型(円筒、三角筒や四角筒等の角筒等)に入れ、オーブン等で焼き上げる(加熱する)ことで行われる。
【0040】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の水中油型乳化組成物、ケーキ、及びケーキの製造方法を開示する。
【0041】
<1>
A:飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール、
B:炭素数6以上の糖アルコール、
C:ショ糖脂肪酸エステル、及び
D:水
を含有し、
前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量が20~65質量%、好ましくは20~55質量%、より好ましくは22~50質量%、さらに好ましくは25~45質量%、であり、
前記水の含有量が10~30質量%、好ましくは15~29質量%、より好ましくは20~28質量%、であり、
前記飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールの含有量に対する前記ショ糖脂肪酸エステルの含有量の比の値が質量比で0.45~1.5、好ましくは0.45~1.3、より好ましくは0.50~1.0、さらに好ましくは0.55~0.80、であり、
油脂の含有量が2.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.60質量%以下、さらに好ましくは0.30質量%以下、である、
ケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【0042】
<2>
E:グリセリン
を含有し、前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量と前記グリセリンの含有量との合計が40質量%以上、好ましくは42質量%以上、より好ましくは44質量%以上、さらに好ましくは46質量%以上であり、前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量に対する前記グリセリンの含有量の比の値が質量比で0.1以上、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上である、前記<1>項記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<3>
E:グリセリン
を含有し、前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量と前記グリセリンの含有量との合計が70質量%以下、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下であり、前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量に対する前記グリセリンの含有量の比の値が質量比で1以下、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.90以下である、前記<1>又は<2>項記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<4>
E:グリセリン
を含有し、前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量と前記グリセリンの含有量との合計が40~70質量%、好ましくは42~65質量%、より好ましくは44~60質量%、さらに好ましくは46~55質量%であり、前記炭素数6以上の糖アルコールの含有量に対する前記グリセリンの含有量の比の値が質量比で0.1~1、好ましくは0.15~0.95、より好ましくは0.20~0.90である、前記<1>~<3>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<5>
前記モノアシルグリセロールの構成脂肪酸である飽和脂肪酸が、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはパルミチン酸及びステアリン酸であり、より好ましくはパルミチン酸又はステアリン酸、である、前記<1>~<4>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<6>
前記乳化組成物中の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールの含有量が、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上、である、前記<1>~<5>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<7>
前記乳化組成物中の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールの含有量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9.5質量%以下、さらに好ましくは9.0質量%以下、である、前記<1>~<6>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<8>
前記乳化組成物中の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールの含有量が、好ましくは2.0~10質量%、より好ましくは3.0~9.5質量%、さらに好ましくは5.0~9.0質量%、である、前記<1>~<7>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<9>
前記糖アルコールが、好ましくはソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、及びプロピレングリコールから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはソルビトール又はマルチトールであり、さらに好ましくはソルビトールである、前記<1>~<8>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<10>
前記ショ糖脂肪酸エステルが、好ましくはモノエステル含量が30~90質量%、より好ましくは40~85質量%、さらに好ましくは50~80質量%のショ糖脂肪酸エステルである、前記<1>~<9>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<11>
前記ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、又はエルカ酸であり、より好ましくはこれらのうち飽和脂肪酸であり、さらに好ましくはステアリン酸、である、前記<1>~<10>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<12>
前記乳化組成物中のショ糖脂肪酸エステルの含有量が、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは4.0質量%以上、である、前記<1>~<11>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<13>
前記乳化組成物中のショ糖脂肪酸エステルの含有量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下、である、前記<1>~<12>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<14>
前記乳化組成物中のショ糖脂肪酸エステルの含有量が、好ましくは1.0~10質量%、より好ましくは2.0~8.0質量%、さらに好ましくは4.0~6.0質量%、である、前記<1>~<13>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<15>
前記乳化組成物中のグリセリンの含有量が、好ましくは0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは7.0質量%以上、である、前記<1>~<14>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<16>
前記乳化組成物中のグリセリンの含有量が、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、である、前記<1>~<15>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<17>
前記乳化組成物中のグリセリンの含有量が、好ましくは0~40質量%、より好ましくは3.0~35質量%、さらに好ましくは7.0~30質量%、である、前記<1>~<16>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<18>
前記油脂が、食用の動物性油脂、食用の植物性油脂に含まれる油脂である、前記<1>~<17>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<19>
前記植物性油脂が、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、綿実油、これらの分別油、エステル交換油、硬化油から選ばれる1種又は2種以上の油脂である、前記<18>項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【0043】
<20>
前記乳化組成物が、
G:プロピレングリコール脂肪酸エステル
を含有し、該プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が1.5質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上である、前記<1>~<19>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<21>
前記乳化組成物が、
G:プロピレングリコール脂肪酸エステル
を含有し、該プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が5.5質量%以下、好ましくは5.4質量%以下である、前記<1>~<20>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<22>
前記乳化組成物が、
G:プロピレングリコール脂肪酸エステル
を含有し、該プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が1.5~5.5質量%、好ましくは2.0~5.5質量%、より好ましくは3.0~5.4質量%である、前記<1>~<21>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<23>
前記プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、又はエルカ酸であり、より好ましくは飽和脂肪酸であり、さらに好ましくはベヘン酸である、前記<20>~<22>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【0044】
<24>
前記乳化組成物が、
H:脂肪酸
を含有し、該脂肪酸の含有量が0.10質量%以上、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上である、前記<1>~<23>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<25>
前記乳化組成物が、
H:脂肪酸
を含有し、該脂肪酸の含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.60質量%以下である、前記<1>~<24>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<26>
前記乳化組成物が、
H:脂肪酸
を含有し、該脂肪酸の含有量が0.10~1.0質量%、好ましくは0.15~0.80質量%、より好ましくは0.20~0.60質量%である、前記<1>~<25>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<27>
前記脂肪酸が、好ましくは炭素原子数16~24の脂肪酸、より好ましくは炭素原子数18~22の脂肪酸、さらに好ましくは炭素原子数20~22の脂肪酸、である、前記<24>~<26>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【0045】
<28>
前記乳化組成物が、
I:ソルビタン脂肪酸エステル
を含有し、該ソルビタン脂肪酸エステルの含有量が0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である、前記<1>~<27>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<29>
前記乳化組成物が、
I:ソルビタン脂肪酸エステル
を含有し、該ソルビタン脂肪酸エステルの含有量が5.0質量%以下、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下である、前記<1>~<28>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<30>
前記乳化組成物が、
I:ソルビタン脂肪酸エステル
を含有し、該ソルビタン脂肪酸エステルの含有量が0.5~5.0質量%、好ましくは1.0~4.0質量%、より好ましくは1.5~3.5質量%である、前記<1>~<29>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<31>
前記ソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、又はエルカ酸であり、より好ましくは飽和脂肪酸であり、さらに好ましくはステアリン酸である、前記<28>~<30>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<32>
前記乳化組成物が、
J:リン脂質
を含有し、該リン脂質の含有量が0質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上である、前記<1>~<31>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<33>
前記乳化組成物が、
J:リン脂質
を含有し、該リン脂質の含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下である、前記<1>~<32>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<34>
前記乳化組成物が、
J:リン脂質
を含有し、該リン脂質の含有量が0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.80質量%、より好ましくは0.10~0.50質量%である、前記<1>~<33>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<35>
前記乳化組成物が、
K:低級アルコール
を含有し、該低級アルコールの含有量が0質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上である、前記<1>~<34>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<36>
前記乳化組成物が、
K:低級アルコール
を含有し、該低級アルコールの含有量が10質量%以下、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下である、前記<1>~<35>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<37>
前記乳化組成物が、
K:低級アルコール
を含有し、該低級アルコールの含有量が0~10質量%、好ましくは1.0~8.0質量%、より好ましくは2.0~7.0質量%である、前記<1>~<36>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
<38>
前記低級アルコールが、好ましくはエタノールである、前記<35>~<37>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物。
【0046】
<39>
前記<1>~<38>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物を含むケーキ生地を焼成して得られるケーキ。
<40>
前記<1>~<38>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物を生地に配合してケーキ生地を調製し、該ケーキ生地を焼成することを含む、ケーキの製造方法。
<41>
前記ケーキ生地が、少なくとも穀粉と、該穀粉100質量部に対して、卵50~300質量部と、糖類20~250質量部と、前記<1>~<38>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物3~100質量部とを配合するものであり、好ましくは穀粉100質量部に対して、卵80~250質量部、糖類50~180質量部、前記<1>~<38>のいずれか1項に記載のケーキ生地起泡用水中油型乳化組成物5~50質量部とを配合するものである、前記<40>項記載のケーキの製造方法。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[調製例1 水中油型乳化組成物の調製]
飽和モノアシルグリセロール(商品名:エキセルVS-95、グリセリンモノステアレート、花王株式会社製)、ソルビタン脂肪酸エステル(商品名:エマゾールS-10VHL、ソルビタンモノステアレート、花王株式会社製、又は商品名:エマゾールS-30V、ソルビタントリステアレート、花王株式会社製)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(商品名:グリンステッドPGMB、プロピレングリコールモノベヘネート、Danisco製)、脂肪酸(商品名:ルナックBA、ベヘン酸、花王株式会社製)、レシチン(商品名:Yelkin TS、大豆レシチン、ADM社製)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名:エマゾールS-120V、花王株式会社製)、及び菜種油(商品名:ナタネ白絞油、日清オイリオグループ株式会社製)を下記表1に示す割合で混合し、80℃に加熱して攪拌溶解することで油相を形成するための油脂組成物を調製した。
なお、表1の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
【0049】
ショ糖脂肪酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルS-1170S、ショ糖ステアリン酸エステル(モノエステル55%、ジ・トリ・ポリエステル45%)、三菱ケミカルフーズ株式会社製)、水(イオン交換水)、ソルビトール(商品名:ソルビトール(固形分70%)、花王株式会社製)、糖アルコール(商品名:スイートOL(固形分70%,原料DE45)、還元水飴、物産フードサイエンス社製)、精製グリセリン(商品名:グリセリン、花王株式会社製)、エタノール(商品名:トレーサブル95、日本アルコール産業社製)、微結晶セルロース(商品名:セオラスRC-N30、旭化成株式会社製)、キサンタンガム(商品名:ビストップD-3000、三栄源エフ・エフ・アイ社製)、を下記表1に示す割合で混合し、80℃に調温した後、パドル120rpm、ホモミキサー1500rpmの条件で5分間攪拌溶解することで水相を形成するための水溶液を得た。
なお、表1の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
【0050】
上記水溶液に上記油脂組成物を徐々に添加しながらアジホモミキサー(プライミクス社製、2M-03型社製)を用いて80℃、パドル120rpm、ホモミキサー1500rpmの条件で10分間攪拌乳化し、水中油型乳化組成物(本発明品1~9、比較品1~13)を得た。得られた各乳化組成物を20℃まで冷却した後、後述する試験例に用いた。
表1には、各乳化組成物中の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール(成分A)、炭素数6以上の糖アルコール(成分B)、ショ糖脂肪酸エステル(成分C)、水(成分D)、グリセリン(成分E)、油脂(成分F)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(成分G)、脂肪酸(成分H)の各含有量(単位:質量%)を併せて示し、さらに成分Bの含有量と成分Eの含有量の合計値、成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比率(C/A、質量比)、及び成分Bの含有量に対する成分Eの含有量の比率(E/B、質量比)も併せて示した。
【0051】
[試験例1 起泡性試験]
卵(生鶏卵)200gに上白糖180gを加え、卓上ミキサー(HOBART社製N-50、ホイッパー:N-5D)を用いて低速で攪拌しながら20℃まで加温した。上記調製例1にて作製した乳化組成物(本発明品1~9、又は比較品1~13)30g、及び水50gを加え中速で1分間攪拌した。薄力粉(日清製粉社製)200gを加え、低速で1分間撹拌した後に、中速で9分間攪拌し、ケーキ生地を得た。得られたケーキ生地を108mlカップに移して速やかに計量し、ケーキ生地の比重(かさ比重、単位:g/cm)を算出して、起泡性を評価した。この比重が小さいほど、撹拌後のケーキ生地の膨らみが大きいことを意味し、起泡性が高いことを意味する。
なお、上記乳化組成物は、製造直後(1~3日後)のもの、次に、製造後20℃で30日間(30d)保存したもの、最後に、製造後40℃で40日間(40d)保存したものを使用し、ケーキ生地の比重が0.43g/cmを上回った場合、次の試験を行わないものとした。
結果を下記表1に示す。
【0052】
【表1-1】
【0053】
【表1-2】
【0054】
上記表1から明らかなように、比較品を用いてケーキ生地を撹拌した場合、比較品8~13では製造直後から起泡性が悪く(かさ比重が0.43g/cmを越える)、比較品2~7は20℃で30日間保存することで起泡性が損なわれ(かさ比重が0.43g/cmを越え)、さらに比較品1は40℃で40日間保存することで、起泡性が損なわれる(かさ比重が0.43g/cmを越える)ことがわかった。一方で、本発明品を用いてケーキ生地を調製した場合、起泡性に優れたケーキ生地を得ることができ、さらに本発明品を20℃で30日間、又は40℃で40日間保存した後に使用しても、起泡性に優れることが明らかとなった(本発明品1~9)。
【0055】
[調製例2 水中油型乳化組成物の調製]
飽和モノアシルグリセロール(商品名:エキセルVS-95、花王株式会社製)、ソルビタン脂肪酸エステル(商品名:エマゾールS-10VHL、花王株式会社製)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(商品名:グリンステッドPGMB、Danisco製)、脂肪酸(商品名:ルナックBA、花王株式会社製)、レシチン(商品名:Yelkin TS、ADM社製)、リポ蛋白質、及び菜種油(商品名:ナタネ白絞油、日清オイリオグループ株式会社製)を、下記表2に示す割合で混合し、80℃に加熱して攪拌溶解することで油相成分を調製した。
なお、表2の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
【0056】
ショ糖脂肪酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルS-1170S、三菱ケミカルフーズ株式会社製)、水(イオン交換水)、ソルビトール(商品名:ソルビトール(固形分70%)、花王株式会社製)、液糖(商品名:ハイマルトースMC-45、糖分70質量%、グルコースとマルトースを主成分とするシラップ、日本食品化工株式会社製)、異性化糖(商品名:ハイスイートLI(固形分76%)、大日本明治製糖株式会社製)、精製グリセリン(商品名:グリセリン、花王株式会社製)、エタノール(商品名:トレーサブル95、日本アルコール産業社製)、微結晶セルロース(商品名:セオラスRC-N30、旭化成株式会社製)、キサンタンガム(商品名:ビストップD-3000、三栄源エフ・エフ・アイ社製)、を下記表2に示す割合で混合し、80℃に調温した後、パドル120rpm、ホモミキサー1500rpmの条件で5分間攪拌溶解することで水相成分を得た。
なお、表2の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
【0057】
上記水相成分を上記油相成分に徐々に添加しながらアジホモミキサー(プライミクス社製、2M-03型社製)を用いて80℃、パドル120rpm、ホモミキサー1,500rpmの条件で10分間攪拌乳化し、水中油型乳化組成物(本発明品10、及び比較品14)を得た。得られた各乳化組成物(本発明品10、及び比較品14)と、上記調製例1で得られた乳化組成物(比較品12及び13)を20℃まで冷却した後、後述する試験例に用いた。
表2には、各乳化組成物中の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール(成分A)、炭素数6以上の糖アルコール(成分B)、ショ糖脂肪酸エステル(成分C)、水(成分D)、グリセリン(成分E)、油脂(成分F)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(成分G)、脂肪酸(成分H)の各含有量(単位:質量%)を併せて示し、さらに成分Bの含有量と成分Eの含有量の合計値、成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比率(C/A、質量比)、及び成分Bの含有量に対する成分Eの含有量の比率(E/B、質量比)も併せて示した。
【0058】
[試験例2 起泡性試験]
卵(生鶏卵)260gに上白糖210gを加え、卓上ミキサー(HOBART社製N-50、ホイッパー:N-5D)で攪拌しながら20℃まで加温した。上記調製例1及び2にて作製した乳化組成物(本発明品10、又は比較品12~14)10g、及び水100gを加え中速で1分間攪拌した。薄力粉(日清製粉社製)200g、及び菜種油を20g加え、中速で9分間攪拌し、その後ケーキ生地を108mlカップに移して速やかに計量して比重を計算し、起泡性を評価した。
なお、上記乳化組成物は、製造直後(1~3日後)のもの、製造後40℃で40日間(40d)保存したもの、製造後40℃で2ヶ月間(2M)保存したもの、及び製造後40℃で3ヶ月間(3M)保存したものを使用した。
結果を下記表2に示す。
【0059】
[試験例3 乳化組成物の変色試験]
上記調製例1及び2で調製した乳化組成物(本発明品10、及び比較品12~14)について、製造直後と製造後40℃で3ヶ月間保存したときの色調を、色差計(NIPPON DENSHOKU Color Meter ZE2000)を用いてCIE表色系(L、a、b)で計測した。なお、試験には視感明度(L)の値を用い、Lの値が0に近いほど明度が低い(黒色が強い)ことを意味し、Lの値が100に近いほど明度が高い(白色が強い)ことを意味する。また、保存前後の乳化組成物の外観について目視により観察した。
結果を下記表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2から明らかなように、製造直後、40℃で40日間保存後、40℃で2ヶ月間保存後、又は40℃で3ヵ月間保存後の比較品14を用いてケーキ生地を撹拌した場合、起泡性に劣り、また40℃での保存期間が長くなるにつれ、撹拌後のケーキ生地の比重が大きくなり、起泡性が損なわれることがわかった。また、比較品12及び13では、製造直後のものを用いた場合であっても起泡性が顕著に劣ることがわかった。さらに、40℃保存前後における比較品14の色味を計測したところ、40℃保存前が63.6であったのに対し、保存後は59.0であり、その差は4.6であった。このことは、40℃3ヵ月間の保存により、比較品の色味が褐変したことを示している。さらに、40℃保存前後における比較品14の色味を目視により比較したところ、比較品は40℃で3ヵ月間保存することによりメイラード反応等が進行して褐変することが明らかとなった。
一方で本発明品(本発明品10)を用いてケーキ生地を撹拌した場合は、製造直後、40℃で40日間保存後、40℃で2ヶ月間保存後、又は40℃で3ヵ月間保存後のものを使用しても、撹拌後のケーキ生地の比重に差が見られず、全て起泡性に優れていた。さらに、40℃保存前後における本発明品(本発明品10)の色味を計測したところ、40℃保存前が59.1であったのに対し、保存後は59.7と、保存前後でほとんど色味が変化しなかった。さらに、40℃保存前後における本発明品(本発明品10)の色味を目視により比較したところ、本発明品は40℃で3ヵ月間保存しても外観が変化しなかった。
【0062】
[調製例3 水中油型乳化組成物の調製]
上記調製例2と同様の方法により、本発明品11、12、及び比較品15を下記表3に示す割合で調製した。なお、表3の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
また、表3には、各乳化組成物中の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール(成分A)、炭素数6以上の糖アルコール(成分B)、ショ糖脂肪酸エステル(成分C)、水(成分D)、グリセリン(成分E)、油脂(成分F)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(成分G)、脂肪酸(成分H)の各含有量(単位:質量%)を併せて示し、さらに成分Bの含有量と成分Eの含有量の合計値、成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比率(C/A、質量比)、及び成分Bの含有量に対する成分Eの含有量の比率(E/B、質量比)も併せて示した。
【0063】
[試験例3 起泡性試験]
卵(生鶏卵)260gに上白糖210gを加え、卓上ミキサー(HOBART社製N-50、ホイッパー:N-5D)で攪拌しながら20℃まで加温した。上記調製例1にて作製した乳化組成物(本発明品1、3、4、7)、上記調製例2にて作製した乳化組成物(本発明品10)、又は上記調製例3にて作製した乳化組成物(本発明品11、12、比較品15)10g、及び水100gを加え中速で1分間攪拌した。薄力粉(日清製粉社製)200g、及び菜種油を20g加え、中速で5、7、又は9分間攪拌し、ケーキ生地を得た。得られたケーキ生地を108mlカップに移して速やかに計量し、ケーキ生地の比重(かさ比重、単位:g/cm)を算出して、起泡性を評価した。
なお、上記乳化組成物は、製造直後(1~3日後)のものを使用した。
【0064】
[試験例4 乳化組成物の製剤物性試験]
上記調製例1にて作製した乳化組成物(本発明品1、3、4、7)、上記調製例2にて作製した乳化組成物(本発明品10)、又は上記調製例3にて作製した乳化組成物(本発明品11、12、比較品15)を、容器(底面φ45mm/上面61mm/高さ47mmの逆円錐台状カップ)に隙間が出来ないように入れてヘラで表面を平らにした。PENETROMETER RPM-101(離合社製)を用い、金属円すい(種別1/1A、重さ102.5g)を乳化組成物表面に接触するように合わせ、コーンを乳化組成物中に5秒間侵入させ、乳化組成物表面から侵入したコーンの先端までの深さを測定した。侵入した深さ[mm]の10倍値をちょう度とした。
結果を上記試験例3の結果と併せて下記表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
上記表3に示されるように、本発明の規定を満たす乳化組成物は、グリセリンを含有する形態(本発明品3、4、7、及び10~12)とすることにより、ちょう度を高めることができた。そして、グリセリンを含有する本発明の乳化組成物を用いてケーキ生地を撹拌した場合、調製したケーキ生地は、起泡性に優れていた。
他方、本発明の規定を満たさない乳化組成物(比較品15)は、グリセリンを含有していてもちょう度を高めることができず、硬い物性となった。さらに、グリセリンを含有する該乳化組成物(比較品15)を用いてケーキ生地を調製しても、得られる生地の比重は大きく、起泡性にも劣っていた。
【0067】
[試験例4 ケーキの焼成試験]
卵(生鶏卵)200gに上白糖180gを加え、卓上ミキサー(HOBART社製N-50、ホイッパー:N-5D)で攪拌しながら20℃まで加温した。上記調製例1にて作製した乳化組成物(本発明品3)、又は上記調製例3にて作製した乳化組成物(比較品15)30g、及び水50gを加え中速で1分間攪拌した。薄力粉(日清製粉社製)200gを加え、低速で1分間撹拌した後に、中速で比重が0.36~0.37となるまで攪拌した。その後得られたケーキ生地300gを、丸型スチール型(型6号)に流し入れ、上火175℃、下火180℃のオーブンで30分焼成してケーキを製造し、20℃で一晩放冷した。
得られたケーキについては専門パネラー5名にて、食感を下記評価基準により評価した。専門パネラー間で評価がバラついた際には、評価数値を協議により決定した。
【0068】
-食感の評価基準-
3:バラケが良く、ネトつきなく口溶け良好
2:バラケが良いが、ネトつきがあってやや呑み込みにくい
1:バラケが悪く、強いネトつきがあって呑み込みにくい
結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
表4から明らかなように、比較品15の乳化組成物を用いてケーキ生地を調製した場合、生地比重が0.36~0.37となるまで撹拌するのに約9分の時間を要した。さらに、該ケーキ生地を焼成して得られたケーキは、バラケが良いが、ネトつきがあってやや呑み込みにくい結果となった。一方で本発明の乳化組成物(本発明品3)を用いてケーキ生地を調製した場合、生地比重が0.36~0.37となるまで撹拌するのに要した時間は約5分であり、速やかに起泡性を発揮することが明らかとなった。さらに、本発明の乳化組成物を用いてケーキ生地を調製し、それを焼成して得られたケーキは、バラケが良く、ネトつきがなく口溶けも良好であった。
【0071】
以上のように、本発明の乳化組成物を用いることにより、速やかに起泡し、さらに起泡性にも優れたケーキ生地を得ることができる。また本発明の乳化組成物は、長期保存しても起泡性が損なわれず、変色もせず、長期に亘り安定した起泡作用ないし品質を維持することができる。さらに本発明の乳化組成物を用いてケーキを製造することで、ケーキをバラケが良く、口どけ良好な食感とすることができる。