(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】医療用充填基材
(51)【国際特許分類】
A61L 27/58 20060101AFI20240327BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240327BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240327BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61L27/58
A61L27/50
A61L27/40
A61L27/20
(21)【出願番号】P 2019218947
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃
(72)【発明者】
【氏名】石川 美枝子
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-010552(JP,A)
【文献】特表2014-506807(JP,A)
【文献】国際公開第2010/013717(WO,A1)
【文献】特開2012-100912(JP,A)
【文献】特開2011-206095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00 ~ 27/60
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内の瘻孔又は管腔の閉鎖術に用いられる医療用充填基材であって、
前記医療用充填基材は、生体吸収性材料からなる
綿状の不織布と、前
記不織布
を包む閉じた構造の生体吸収性材料からなる補強材
とを有
し、
前記補強材は、生体吸収性の糸からなる籠状体である
医療用充填基材。
【請求項2】
生体吸収性材料からなる
綿状の不織布を構成する生体吸収性材料がポリグリコリドである請求項
1記載の医療用充填基材。
【請求項3】
生体吸収性の糸を構成する生体吸収性材料がポリグリコリドである請求項
1記載の医療用充填基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内の瘻孔又は管腔の閉鎖術において、患部に容易に充填でき、負荷がかかった場合であっても形状を維持できるとともに組織を再生することができる医療用充填基材に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術においては、疾患により生じた隙間や患部の切除によって生じる隙間を充填材によって埋めることがある。例えば、難治性の瘻孔の閉鎖術や難治性の気胸に対する気管支充填術においては、患部の隙間や空間を充填材によって埋める処置が行われている。また、乳がんの切除によって生じた空間を埋めるためにも充填材が用いられている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年このような充填材として、生体吸収性材料からなる不織布を用いる方法が提案されている。生体吸収性材料からなる不織布を隙間に詰めることで、時間とともに生体吸収性材料からなる不織布が体内へ吸収される一方で、生体吸収性材料からなる不織布の繊維間に細胞が侵入、増殖することで、組織を再生することができる。
【0005】
しかしながら、生体吸収性材料からなる不織布を充填材として用いた場合、体内の水分によって生体吸収性材料からなる不織布が軟化してしまい、目的の部位に充填材を詰めることが困難となったり、充填剤を詰めても形状を維持できなかったりする場合があった。
【0006】
本発明は、体内の瘻孔又は管腔の閉鎖術において、患部に容易に充填でき、負荷がかかった場合であっても形状を維持できるとともに組織を再生することができる医療用充填基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、体内の瘻孔又は管腔の閉鎖術に用いられる医療用充填基材であって、生体吸収性材料からなる不織布と、前記生体吸収性材料からなる不織布を包む閉じた構造の生体吸収性材料からなる補強材からなる医療用充填基材である。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生体吸収性材料からなる不織布を生体吸収性材料からなる補強材で包むことによって、容易に患部に充填でき、組織が再生するまでの間形状を維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の医療用充填基材(以下、単に基材ともいう)は、生体吸収性材料からなる不織布(以下、単に不織布ともいう)を有する。
上記不織布は、外部から侵入した細胞の足場になるとともに、細胞が増殖するにつれて体内へ吸収されていくことで、不織布の部分の組織を再生させる役割を有する。従来の不織布のみを患部に充填する方法では、体内の水分や負荷によって不織布が変形してしまうことから、目的の場所に基材を充填することが難しく、また、充填後に形状を維持することも困難であった。本発明では後述する補強材によって、負荷がかかっても不織布が潰れ難くなるため、取り扱い性が向上し、基材を容易に充填することができる。また、基材の強度が高まることから、充填後も形状を維持することができ、より正常な組織を再生することができる。
【0010】
上記生体吸収性材料からなる不織布を構成する生体吸収性材料は特に限定されず、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。なかでも、適度な体内分解速度を有していることからポリグリコリドであることが好ましい。なお、本明細書においてラクチドは、L-ラクチド、D-ラクチド、D,L-ラクチド(ラセミ体)のいずれをも含むが、好ましくはL-ラクチドである。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記生体吸収性の糸を構成する生体吸収性材料がポリグリコリドである場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は600000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が上記範囲であることで、得られる籠状体の強度をより高めながらも異物反応が起きない程度の吸収速度とすることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は400000である。
【0012】
上記不織布は、密度が40mg/cm3以上450mg/cm3以下であることが好ましい。上記不織布の密度が上記範囲であることにより、細胞をより侵入しやすくすることができる。上記不織布の目付は3g/m2以上であることがより好ましく、100g/m2以下であることがより好ましい。
【0013】
上記不織布の平均繊維径は特に限定されないが、好ましい下限は6デニール、好ましい上限は120デニールである。上記不織布の平均繊維径が上記範囲であることにより、細胞の侵入及び増殖をより促進することができる。上記不織布層を構成する不織布の平均繊維径のより好ましい下限は20デニール、より好ましい上限は60デニールである。
【0014】
上記不織布は、布状で用いる必要はなく適宜様々な形状に成形して用いることができる。上記不織布の形状としては、例えば、角柱状、球状、綿状等が挙げられる。なかでも、細胞が侵入しやすく、また、増殖するための足場としやすい密度とすることができることから綿状が好ましい。
【0015】
上記不織布を調製する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0016】
本発明の医療用充填基材は、上記生体吸収性材料からなる不織布を包む閉じた構造の生体吸収性材料からなる補強材(以下、単に補強材ともいう)を有する。
上記補強材は、上記不織布を補強して、基材を患部に充填しやすくするとともに、上記不織布が細胞へ置換するまでの間形状を維持する役割を有する。上記補強材が生体吸収性であることで、上記不織布が細胞へ置換するまでの間形状を維持した後は、体内へ吸収されるため、取り出しのための再手術が不要となる。
【0017】
上記補強材を構成する生体吸収性材料は特に限定されず、上記不織布と同様のものを用いることができる。なかでも、適度な体内分解速度を有することからポリグリコリドであることが好ましい。なお、これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記補強材は上記不織布を包む閉じた構造である。
補強材がこのような構造を有していることで、内部に存在する不織布が補強材の外部へ飛び出さなくなることから、患部へ基材を充填しやすくすることができる。また、強度も高まるため、負荷がかかった場合であっても形状を維持することができ、より正常な組織を再生することができる。なおここで、不織布を包む閉じた構造とは、不織布を完全に覆い、不織布が補強材の外部へ容易に抜け出してしまうような大きさの隙間を有さない構造のことを指す。
【0019】
上記補強材は、生体吸収性の糸からなる籠状体であることが好ましい。
補強材を生体吸収性の糸を編んで形成することにより、製造をより容易とでき、不織布をより確実に補強することができる。また、網目を大きくすることで、不織布への細胞の侵入を妨げ難くすることができる。上記生体吸収性の糸を構成する生体吸収性材料は上記不織布と同様のものを用いることができる。なかでもポリグリコリドであることが好ましい。
【0020】
上記生体吸収性の糸はモノフィラメントでもマルチフィラメントであってもよいが、強度と柔軟性のバランスの観点からマルチフィラメントの糸であることが好ましい。上記生体吸収性の糸がマルチフィラメントである場合、上記生体吸収性の糸は、4本以上の単糸から構成されるマルチフィラメント糸であることが好ましく、12本以上の単糸から構成されるマルチフィラメント糸であることがより好ましい。上記マルチフィラメント糸を構成する単糸の数は特に限定されないが、取り扱い性の観点から40本以下であることが好ましい。
【0021】
上記生体吸収性の糸の太さは特に限定されないが、直径が100~800μmであることが好ましい。上記生体吸収性の糸の直径が上記範囲であることで、細胞が増殖するまでの間より確実に基材の形状を維持することができる。上記生体吸収性の糸の直径のより好ましい下限は250μm、より好ましい上限は600μmである。
【0022】
上記生体吸収性の糸からなる籠状体としては、例えば、横編地、縦編地、織地、組紐、ステント編み体、不織布等が挙げられる。なかでも、細胞の侵入を妨げず、細胞が侵入、増殖するまでの間より確実に基材の形状を維持することができることから、ステント編み体であることが好ましい。なお、上記籠状体は、1本の糸によって構成されていてもよく、複数の糸によって構成されていてもよい。
【0023】
上記籠状体は、周方向の糸の交点間距離が5μm以上2000μm以下であることが好ましい。上記籠状体の周方向の糸の交点間距離、つまり網目の大きさが上記範囲を満たすことで、細胞が不織布へ侵入することを妨げず、細胞の増殖を促進することができるとともに、強度も確保することができる。上記籠状体の周方向の糸の交点間距離のより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は1500μmである。
【0024】
上記籠状体の直径は特に限定されず、患部の隙間や空間の大きさに合わせて適宜調節することができ、例えば、5mm~30mm等が挙げられる。
【0025】
ここで、本発明の医療用充填基材の模式図を
図1に示した。
図1では、生体吸収性材料からなる不織布として綿状の生体吸収性材料からなる不織布を、生体吸収性材料からなる補強材として生体吸収性の糸をステント編みによって筒状とし、その両端を生体吸収性の糸よって縫い合わせることで籠状体としたものを用いた例を示している。
図1に示すように本発明の医療用充填基材は生体吸収性材料からなる不織布2を生体吸収性材料からなる補強材1が包みこむような構造となっている。生体吸収性材料からなる補強材1を有することで、基材が体内の水分によって変形し難くなることから、患部へ基材を容易に充填することができる。また、基材に負荷がかかった場合であっても潰れ難くなることから、細胞が侵入、増殖するまでの間形状を維持することができ、より正常な組織を再生することができる。また、
図1の生体吸収性材料からなる補強材1は網目を有しているため、外部から生体吸収性材料からなる不織布2へ侵入する細胞を妨げることがなく、生体吸収性材料からなる不織布2単独の場合と比べても細胞の増殖速度を大きく減少させることはない。
【0026】
本発明の医療用充填基材を製造する方法は特に限定されず、例えば上記方法で製造した生体吸収性材料からなる不織布を所望の形状としたものを所望の形状とした上記補強材で覆うことで製造することができる。
【0027】
本発明の医療用充填基材は、難治性の瘻孔の閉鎖又は難治性の気胸に対する気管支充填術において充填材として用いられる。本発明の医療用充填基材を用いることで、患部の隙間に基材を容易に充填することができ、より正常な組織を再生することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、体内の瘻孔又は管腔の閉鎖術において、患部に容易に充填でき、負荷がかかった場合であっても形状を維持できるとともに組織を再生することができる医療用充填基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
生体吸収性材料としてポリグリコリドを用い、これを紡糸して得た平均繊維径が30デニールの糸からなる布をニードルパンチ法により不織布化する方法により、平均繊維径が約20μm、厚さが約300μmの不織布を得た。得られた不織布を丸めて綿状の生体吸収性材料からなる不織布とした。
一方、ポリグリコリドからなる、1号のマルチフィラメントの縫合糸(単糸の繊度:30~32デニール、単糸の本数:16本)をステント編みすることで、生体吸収性の糸からなる筒状体(ステント編み体)を形成した。次いで、得られた綿状の生体吸収性材料からなる不織布を筒状体の中へ入れた。その後、ポリグリコリドからなる、1号のマルチフィラメントの縫合糸(単糸の繊度:30~32デニール、単糸の本数:16本)を用い、筒状体の両端の開口部をそれぞれ縫い合わせることで、医療用充填基材を得た。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、体内の瘻孔又は管腔の閉鎖術において、患部に容易に充填でき、負荷がかかった場合であっても形状を維持できるとともに組織を再生することができる医療用充填基材を提供することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 生体吸収性材料からなる補強材
2 生体吸収性材料からなる不織布