IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧

特許7461134減速機の軸支持構造及びステアリング装置
<>
  • 特許-減速機の軸支持構造及びステアリング装置 図1
  • 特許-減速機の軸支持構造及びステアリング装置 図2
  • 特許-減速機の軸支持構造及びステアリング装置 図3
  • 特許-減速機の軸支持構造及びステアリング装置 図4
  • 特許-減速機の軸支持構造及びステアリング装置 図5
  • 特許-減速機の軸支持構造及びステアリング装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】減速機の軸支持構造及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/022 20120101AFI20240327BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240327BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20240327BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240327BHJP
   F16C 25/08 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F16H57/022
B62D5/04
F16H1/16 Z
F16C19/06
F16C25/08 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019219757
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021089035
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 貴也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117648(JP,A)
【文献】特開2015-182597(JP,A)
【文献】特開2016-003760(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0140011(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/022
B62D 5/04
F16H 1/16
F16C 19/06
F16C 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に連結された駆動歯車軸と、前記駆動歯車軸に噛み合う従動歯車とを備えた減速機の軸支持構造であって、
前記駆動歯車軸の基端側を回転自在に支持する第1軸受と、
前記駆動歯車軸の先端側を回転自在に支持する第2軸受と、
前記第2軸受を介して、前記駆動歯車軸を前記従動歯車へ向けて付勢する付勢部材と、を備え、
前記第1軸受は、
内側軌道溝を有する内輪と、
外側軌道溝を有する外輪と、
前記内側軌道溝と前記外側軌道溝との間に配置される複数の転動体と、を有し、
前記軸支持構造は、前記外輪の一部を前記駆動歯車軸の軸方向へ押圧する押圧手段をさらに備え、
前記押圧手段は、前記第1軸受を中心として前記駆動歯車軸が前記従動歯車に向かって揺動する揺動方向と、前記駆動歯車軸の軸方向と、のそれぞれに直交する直交方向の180度離間した位置それぞれで、前記外輪を前記駆動歯車軸の軸方向へ押圧することを特徴とする減速機の軸支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機の軸支持構造であって、
前記押圧手段は、前記駆動歯車軸の軸方向の両側から前記外輪を押圧することを特徴とする減速機の軸支持構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の減速機の軸支持構造であって、
前記押圧手段は、前記外輪に対して前記駆動歯車軸の軸方向に押し付けられる突起が形成された環状部材を有することを特徴とする減速機の軸支持構造。
【請求項4】
駆動源に連結された駆動歯車軸と、前記駆動歯車軸に噛み合う従動歯車とを備えた減速機の軸支持構造であって、
前記駆動歯車軸の基端側を回転自在に支持する第1軸受と、
前記駆動歯車軸の先端側を回転自在に支持する第2軸受と、
前記第2軸受を介して、前記駆動歯車軸を前記従動歯車へ向けて付勢する付勢部材と、を備え、
前記第1軸受は、
内側軌道溝を有する内輪と、
外側軌道溝を有する外輪と、
前記内側軌道溝と前記外側軌道溝との間に配置される複数の転動体と、を有し、
前記軸支持構造は、前記外輪の一部を前記駆動歯車軸の軸方向へ押圧する押圧手段をさらに備え、
前記押圧手段は、前記外輪に形成され前記駆動歯車軸の軸方向に外力を受ける突起を有することを特徴とする減速機の軸支持構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の減速機の軸支持構造、前記軸支持構造によって支持される前記駆動歯車軸、及び、前記駆動歯車軸に噛み合う前記従動歯車を有する前記減速機と、
前記駆動源としての電動モータと、を備え、
前記従動歯車は、車輪を転舵するラック軸に前記電動モータの回転力を伝達する出力軸に設けられ、
前記減速機は、前記駆動歯車軸の回転を減速して、前記従動歯車に伝達する
ことを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機の軸支持構造及びステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウォーム減速機を備えたステアリング装置が知られている(特許文献1参照)。ウォーム減速機は、電動モータ等の駆動源により回転駆動されるウォーム軸と、ウォーム軸と噛み合うウォームホイールと、を備える。ウォーム軸は、両端部が軸受によって回転可能に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-3760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなウォーム減速機では、ウォーム軸の基端部が電動モータの回転軸に対して揺動可能に連結され、ウォーム軸の先端部が付勢部材によってウォームホイール側に付勢されている。なお、ウォーム軸の基端部を支持する軸受には、内輪が外輪に対して揺動できるように、内部隙間が設けられている。このように、軸受に内部隙間が設けられているので、ウォーム軸に軸方向の力が作用したときに、ウォーム軸とともに内輪が軸方向にわずかに移動することにより、転動体(玉)が外輪または内輪と衝突して騒音(衝突音)が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、減速機の騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、減速機の軸支持構造であって、駆動歯車軸の基端側を回転自在に支持する第1軸受と、駆動歯車軸の先端側を回転自在に支持する第2軸受と、第2軸受を介して、駆動歯車軸を従動歯車へ向けて付勢する付勢部材と、を備え、第1軸受は、内側軌道溝を有する内輪と、外側軌道溝を有する外輪と、内側軌道溝と外側軌道溝との間に配置される複数の転動体と、を有し、軸支持構造は、外輪の一部を駆動歯車軸の軸方向へ押圧する押圧手段をさらに備え、押圧手段は、第1軸受を中心として駆動歯車軸が従動歯車に向かって揺動する揺動方向と、駆動歯車軸の軸方向と、のそれぞれに直交する直交方向の180度離間した位置それぞれで、外輪を駆動歯車軸の軸方向へ押圧することを特徴とする。
【0007】
この発明では、駆動歯車軸の基端側を支持する第1軸受の外輪の一部が押圧手段によって駆動歯車軸の軸方向へ押圧されることにより、駆動歯車軸が従動歯車に向かう揺動方向における第1軸受の内部隙間を確保しつつ、駆動歯車軸の軸方向における第1軸受の内部隙間を部分的に小さくすることができる。これにより、駆動歯車軸が従動歯車に向かう揺動を許容しつつ、駆動歯車軸に軸方向の力が作用したときに、駆動歯車軸とともに第1軸受の内輪が軸方向に移動することを抑制できる。さらに、一点のみを押圧する場合と比較して内輪が傾きやすい方向を制御することができ、駆動歯車軸が揺動方向ではない意図しない方向に揺動することを防止できる。
【0010】
本発明は、押圧手段は、駆動歯車軸の軸方向の両側から外輪を押圧することを特徴とする。
【0011】
この発明では、外輪は第1軸受の軸方向の両側から押圧されるため、外輪の変形量が軸方向の両側で均一となり、第1軸受の回転不良が防止される。
【0012】
本発明は、押圧手段は、外輪に対して駆動歯車軸の軸方向に押し付けられる突起が形成された環状部材を有することを特徴とする。
【0013】
この発明では、環状部材の突起により、外輪の所望の位置を押圧できる。
【0014】
本発明は、減速機の軸支持構造であって、駆動歯車軸の基端側を回転自在に支持する第1軸受と、駆動歯車軸の先端側を回転自在に支持する第2軸受と、第2軸受を介して、駆動歯車軸を従動歯車へ向けて付勢する付勢部材と、を備え、第1軸受は、内側軌道溝を有する内輪と、外側軌道溝を有する外輪と、内側軌道溝と外側軌道溝との間に配置される複数の転動体と、を有し、軸支持構造は、外輪の一部を駆動歯車軸の軸方向へ押圧する押圧手段をさらに備え、押圧手段は、外輪に形成され駆動歯車軸の軸方向に外力を受ける突起を有することを特徴とする。
【0015】
この発明では、駆動歯車軸の基端側を支持する第1軸受の外輪の一部が押圧手段によって駆動歯車軸の軸方向へ押圧されることにより、駆動歯車軸が従動歯車に向かう揺動方向における第1軸受の内部隙間を確保しつつ、駆動歯車軸の軸方向における第1軸受の内部隙間を部分的に小さくすることができる。これにより、駆動歯車軸が従動歯車に向かう揺動を許容しつつ、駆動歯車軸に軸方向の力が作用したときに、駆動歯車軸とともに第1軸受の内輪が軸方向に移動することを抑制できる。さらに、押圧手段としての突起が外輪に形成されるため、部品点数を削減できる。
【0016】
本発明は、ステアリング装置であって、上記減速機の軸支持構造、軸支持構造によって支持される駆動歯車軸、及び、駆動歯車軸に噛み合う従動歯車を有する減速機と、駆動源としての電動モータと、を備え、従動歯車は、車輪を転舵するラック軸に電動モータの回転力を伝達する出力軸に設けられ、減速機は、駆動歯車軸の回転を減速して、従動歯車に伝達することを特徴とする。
【0017】
この発明では、騒音の小さい減速機を備えたステアリング装置を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、減速機の騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るステアリング装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るステアリング装置の断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るステアリング装置の第1軸受の断面模式図であり、(a)は内輪が外輪に対して傾いていない状態を示し、(b)は内輪が外輪に対して傾いている状態を示す。
図4】本発明の実施形態に係るステアリング装置の第1軸受の外輪,座金,及びロックナットの斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係るステアリング装置の第1軸受の中心軸を通り揺動方向と垂直な断面の模式図であり、座金及びロックナットが第1軸受の外輪を押圧した状態を示す。
図6】本発明の実施形態の変形例に係る第1軸受の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る減速機を備えたステアリング装置について説明する。本実施形態では、ステアリング装置として、車両に搭載されドライバーが操舵ハンドルに加える操舵力を補助するパワーステアリング装置10について説明する。
【0021】
図1,2に示すように、パワーステアリング装置10は、減速機100と、駆動源としての電動モータ7と、を備える。減速機100は、電動モータ7の出力シャフト7aに連結され電動モータ7の駆動に伴って回転する駆動歯車軸としてのウォーム軸2と、ウォーム軸2に形成された駆動歯車としてのウォーム2aに噛み合う従動歯車としてのウォームホイール1と、ウォーム軸2及びウォームホイール1を収容するギヤケース3と、ウォーム軸2を支持する軸支持構造101と、を備える。ウォーム軸2と電動モータ7の出力シャフト7aとは、軸ずれを許容する軸連結器19によって連結される。
【0022】
操舵ハンドル16にはステアリングシャフト20が連結され、ステアリングシャフト20は操舵ハンドル16の回転に伴って回転する。ステアリングシャフト20は、操舵ハンドル16に連係する入力軸21と、ラック軸8に連係する出力軸22と、入力軸21と出力軸22を連結するトーションバー23と、を備える。ウォームホイール1は出力軸22に設けられる。
【0023】
パワーステアリング装置10は、運転者によるステアリング操作に伴う入力軸21と出力軸22との相対回転によってトーションバー23に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサ24と、トルクセンサ24にて検出された操舵トルクに基づいて電動モータ7の駆動を制御するコントローラ25と、をさらに備える。電動モータ7から出力されたトルクは、ウォーム軸2からウォームホイール1に伝達されて出力軸22にアシストトルクとして付与される。このように、パワーステアリング装置10は、トルクセンサ24の検出結果に基づいて電動モータ7の駆動をコントローラ25にて制御して運転者のステアリング操作を補助する。
【0024】
減速機100は、電動モータ7の駆動に伴ってウォーム軸2が回転すると、ウォーム軸2の回転を減速してウォームホイール1に伝達する。これにより、ウォームホイール1が設けられる出力軸22が回転し、車輪6を転舵するラック軸8に電動モータ7の回転力が伝達される。
【0025】
図2に示すように、ウォーム軸2は金属製のギヤケース3に収容され、電動モータ7はギヤケース3に取り付けられる。ウォーム2aには、ウォームホイール1の歯部1aと噛み合う歯部2eが形成される。ギヤケース3には歯部2eに対応する位置に開口部3cが形成され、その開口部3cを通じてウォーム2aの歯部2eとウォームホイール1の歯部1aとが噛み合う。
【0026】
減速機100の軸支持構造101は、ウォーム軸2の基端側(電動モータ7側)を回転自在に支持する第1軸受4と、ウォーム軸2の先端側(電動モータ7側とは反対側)を回転自在に支持する第2軸受11と、第2軸受11を介して、ウォーム軸2をウォームホイール1へ向けて付勢する付勢部材としてのコイルスプリング12と、を備える。ウォーム軸2は、ギヤケース3内において、一対の軸受(第1軸受4及び第2軸受11)によって回転自在に支持される。ウォーム軸2の軸方向(中心軸方向)は、単に軸方向(D3)とも記す。
【0027】
第1軸受4は、環状の外輪141と内輪142の間に転動体としてのボール(玉)143が介在される深溝玉軸受である。第1軸受4は、ギヤケース3に設けられる収容孔130内に収容される。第1軸受4の外輪141は、ギヤケース3に形成された段部3aとギヤケース3内に締結されたロックナット32との間で、座金31を介して、軸方向(D3)に挟持される。座金31及びロックナット32の詳細については後述する。第1軸受4の内輪142は、ウォーム軸2に圧入されることにより固定される。内輪142は、ウォーム軸2の段部2bとウォーム軸2の端部に圧入される軸連結器19のウォーム側ジョイント9との間で軸方向(D3)に挟持される。
【0028】
第1軸受4は、ウォームホイール1に向かうウォーム軸2の揺動を許容するための内部隙間144(図3参照)を有する。ウォーム軸2が第1軸受4を中心に揺動する方向は、揺動方向(D1)と記す。第1軸受4の詳細については後述する。
【0029】
第2軸受11は、環状の外輪と内輪の間に転動体としてのボール(玉)が介在される深溝玉軸受である。第2軸受11は、ギヤケース3の底部に収容される。第2軸受11の内輪はウォーム軸2の先端部付近に形成された段部2cに係止される。
【0030】
ギヤケース3の外周面には、フランジ部17が突出して形成される。フランジ部17には、第2軸受11の外周面に臨んで開口する貫通孔13が形成される。フランジ部17の端面17aに開口する貫通孔13の開口部は、蓋部材14によって閉塞される。
【0031】
コイルスプリング12は、蓋部材14の先端面と第2軸受11の外周面との間で圧縮された状態で貫通孔13内に収容される。コイルスプリング12は、ウォーム2aの歯部2eとウォームホイール1の歯部1aとの隙間が小さくなる方向に、つまりウォーム2aがウォームホイール1に噛み合う方向に、第2軸受11を付勢する。
【0032】
ギヤケース3における第2軸受11の外周面を囲う内周面3bは、第2軸受11がコイルスプリング12の付勢力によってウォームホイール1に向けて移動できるように、互いに平行な一対の平面部を有する長穴形状に形成される。なお、内周面3bは、第2軸受11が内周面3bの内側で移動できる限り、どのような形状であってもよい。例えば、内周面3bは、その内径が第2軸受11の外径よりも大きい丸穴形状であってもよく、互いに平行な一対の平面部が形成されている必要はない。
【0033】
ギヤケース3内へのウォーム軸2の組み付けが完了した初期時点では、第2軸受11は、コイルスプリング12の付勢力によってウォームホイール1側に付勢され、ウォーム2aとウォームホイール1との間のバックラッシ(隙間)がない状態となる。この状態では、ウォーム軸2は、コイルスプリング12の付勢力によって第1軸受4を支点として傾く。
【0034】
パワーステアリング装置10の駆動に伴ってウォーム2aとウォームホイール1の歯部1a,2eの摩耗が進むと、コイルスプリング12の付勢力によって第2軸受11がギヤケース3の長穴内を移動し、ウォーム軸2とウォームホイール1との歯部1a,2eのバックラッシが低減する。したがって、バックラッシが安定して低減されるためには、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かってスムーズに揺動することが必要となる。
【0035】
図3(a),3(b)に示すように、第1軸受4には、ウォーム軸2に固定される内輪142が、ギヤケース3に固定される外輪141に対して揺動できるように、内部隙間144が設けられる。なお、図3(a),3(b)において、第1軸受4の内輪142の内径は、図2に示すものに比べて小さく記載され、内部隙間144は、誇張して大きく記載されている。
【0036】
仮に、第1軸受4の全周に亘って内部隙間144が設けられる場合、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用すると、ウォーム軸2とともに内輪142が軸方向(D3)にわずかに移動することがある。このため、例えば、切り返し操舵時に電動モータ7からウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用した場合に、ボール143が外輪141または内輪142と衝突して、騒音(衝突音)が発生するおそれがある。また、路面から車輪6、ラック軸8、出力軸22等を介してウォームホイール1からウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用した場合に、同様に騒音(衝突音)が発生するおそれもある。
【0037】
そこで、本実施形態では、ウォーム軸2のスムーズな揺動を許容するとともにボール143が外輪141または内輪142と衝突することに起因した衝突音の発生を防止するために、第1軸受4の外輪141を部分的に変形させることにより、第1軸受4の内部隙間144の大きさが周方向で異なるようにした。本実施形態では、第1軸受4の揺動方向(D1)の位置では、揺動方向(D1)に所定長さX(図3参照)の内部隙間144が確保されるようにした。一方、図5に示すように、第1軸受4の揺動方向(D1)及びウォーム軸2の軸方向(D3)のそれぞれに直交する直交方向(D2)の位置では、内部隙間144が小さくなるようにした。具体的には、ウォーム軸2の軸方向(D3)において、内部隙間144が0あるいはほぼ0となるようにした。このように、第1軸受4の周方向で、内部隙間144が部分的に小さくなるようにした。これにより、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かう揺動を許容しつつ、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用したときには、ウォーム軸2とともに第1軸受4の内輪142が軸方向(D3)に移動することを抑制できる。
【0038】
図2~5を参照して、第1軸受4の支持構造について詳しく説明する。図4は、第1軸受4,座金31,及びロックナット32の斜視図である。図5は、ロックナット32が座金31を介して第1軸受4の外輪141を押圧した状態における、第1軸受4の中心軸を通り揺動方向(D1)と垂直な断面の模式図である。
【0039】
図2,4に示すように、減速機100の軸支持構造101は、第1軸受4の外輪141の一部をウォーム軸2の軸方向(D3)へ押圧する押圧手段として座金31及びロックナット32をさらに備える。座金31は、外輪141と同心円状に形成される環状部材である。座金31の端面には、180度離間した位置それぞれに外輪141を押圧可能な押圧突起31aが形成され、座金31の外周面には、ギヤケース3に対する座金31の周方向の位置を決めるための位置決め突起31bが形成される。座金31は、押圧突起31aが外輪141の端面に対向し揺動方向(D1)及びウォーム軸2の軸方向(D3)のそれぞれに直交する直交方向(D2)に位置する状態で、第1軸受4とロックナット32とに挟持されてギヤケース3の収容孔130内に収容される。この際、位置決め突起31bをギヤケース3に設けられた切り欠き(図示無し)に収容させることで、ギヤケース3に対する座金31の周方向の位置決めがされる。
【0040】
座金31は、収容孔130内に収容され、ロックナット32を収容孔130の内周面にねじ締結して固定することにより、ロックナット32から軸力を受けて第1軸受4の外輪141に対してウォーム軸2の軸方向(D3)に押し付けられる。これにより、座金31の押圧突起31aは、第1軸受4の外輪141をウォーム軸2の軸方向(D3)に押圧する。押圧突起31aは、揺動方向(D1)及びウォーム軸2の軸方向(D3)のそれぞれに直交する直交方向(D2)の180度離間した位置それぞれで、外輪141をウォーム軸2の軸方向(D3)に押圧する。以下では、外輪141における座金31の押圧突起31aによって押圧される位置を被押圧位置と記し、揺動方向(D1)及びウォーム軸2の軸方向(D3)のそれぞれに直交する直交方向(D2)を単に直交方向と記す。
【0041】
外輪141は、被押圧位置近傍において、図5の鎖線で示す元の形状から図5の実線で示すようにウォーム軸2の軸方向(D3)に圧縮され変形する(図5において、外輪141の変形量は誇張して大きく記載されている)。このように外輪141が変形すると、ウォーム軸2の軸方向(D3)における内部隙間144が元の形状より小さくなり、ウォーム軸2の軸方向(D3)において外輪141とボール143とが接触する。これにより、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用したときには、ウォーム軸2とともに内輪142が軸方向(D3)に移動することを抑制できる。したがって、ボール143が外輪141または内輪142と衝突することに起因した衝突音の発生を防止することができる。押圧突起31aの形状は特に限定されないが、外輪141の変形を促進するように、例えば、断面が半円状や三角形状であることが好ましい。
【0042】
一方で、被押圧位置近傍では、外輪141の径方向においても外輪141とボール143とが接触する。これにより、被押圧位置近傍では、内輪142が外輪141に対して径方向側に傾くことが妨げられる。したがって、座金31の押圧突起31aによって、揺動方向(D1)やその近傍で外輪141を押圧すると、内輪142が揺動方向(D1)側に傾きにくくなり、ウォーム軸2のウォームホイール1側への揺動を妨げてしまう。
【0043】
しかし、本実施形態では、座金31の押圧突起31aは、外輪141における揺動方向(D1)に沿った位置ではなく、揺動方向(D1)から離れた直交方向(D2)の位置で外輪141を押圧する。そのため、図3(a)に示すように、第1軸受4の揺動方向(D1)上では、揺動方向(D1)における内部隙間144の長さXが確保される。よって、図3(b)に示すように、第1軸受4の内輪142が外輪141に対して揺動方向(D1)側に傾きやすく、ウォーム軸2のウォームホイール1への揺動を妨げることがない。このように、座金31の押圧突起31aにより第1軸受4の外輪141の一部が押圧され、第1軸受4の周方向で内部隙間144が部分的に小さくなることにより、ウォーム軸2の揺動を許容しつつ、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用したときには、ウォーム軸2とともに内輪142が軸方向(D3)に移動することを抑制できる。その結果、ボール143が外輪141または内輪142と衝突することに起因した衝突音を低減することができ、減速機100の騒音を低減することができる。
【0044】
また、座金31の押圧突起31a及びロックナット32は、直交方向(D2)の180度離間した位置それぞれで外輪141を押圧するため、一点のみを押圧する場合と比較して内輪142が傾きやすい方向を制御することができる。よって、ウォーム軸2が揺動方向(D1)ではない意図しない方向に揺動することを防止できる。
【0045】
なお、座金31の押圧突起31aは、直交方向(D2)上で外輪141を押圧する形態に限らず、第1軸受4を支点とするウォーム軸2のウォームホイール1への揺動を妨げないように外輪141を押圧すればよい。つまり、第1軸受4を支点とするウォーム軸2のウォームホイール1へのバックラッシ低減のための必要傾き量を確保可能なように外輪141を押圧できれば、直交方向(D2)からずれてもよい。
【0046】
また、座金31には位置決め突起31bが形成されなくてもよい。その場合には、押圧突起31aが所望の位置となるように、座金31をギヤケース3の収容孔130内に収容すればよい。
【0047】
また、座金31の押圧突起31a及びロックナット32は、180度離間した位置それぞれで外輪141を押圧することが好ましいが、これに限らず、一箇所のみを押圧してもよく、三箇所以上を押圧してもよい。また、座金31は、外輪141よりも硬度が高いことが望ましい。これにより、外輪141を押圧する際に押圧突起31aの座屈が防止され、外輪141を安定して変形させることができる。
【0048】
以上の本実施形態によれば、以下に示す作用を奏する。
【0049】
ウォーム軸2の基端側を支持する第1軸受4の外輪141の一部が座金31及びロックナット32によってウォーム軸2の軸方向(D3)へ押圧されることにより、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かう揺動方向(D1)における第1軸受4の内部隙間144を確保しつつ、ウォーム軸2の軸方向(D3)における第1軸受4の内部隙間144を小さくすることができる。これにより、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かう揺動を許容しつつ、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用したときには、ウォーム軸2とともに第1軸受4の内輪142が軸方向(D3)に移動することを抑制できる。したがって、ボール143が外輪141または内輪142と衝突することに起因した衝突音を低減することができる。
【0050】
また、座金31の押圧突起31a及びロックナット32は、第1軸受4を支点とするウォーム軸2のウォームホイール1への揺動を妨げないように外輪141を押圧することにより、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かうことによるバックラッシの低減を妨げることなく、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用したときに、ウォーム軸2とともに第1軸受4の内輪142が軸方向(D3)に移動することを抑制できる。したがって、ボール143が外輪141または内輪142と衝突することに起因した衝突音を低減することができる。
【0051】
また、座金31の押圧突起31a及びロックナット32は、直交方向(D2)の180度離間した位置それぞれで外輪141を押圧するため、一点のみを押圧する場合と比較して内輪142が傾きやすい方向を制御することができ、ウォーム軸2が揺動方向(D1)ではない意図しない方向に揺動することを防止できる。
【0052】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0053】
<変形例1>
第1軸受4がウォーム軸2の軸方向(D3)の両側から座金31に挟持されてギヤケース3の収容孔130内に収容されてもよい。つまり、第1軸受4の両側に座金31を配置し、ウォーム軸2の軸方向(D3)の両側から第1軸受4の外輪141を押圧してもよい。この変形例では、外輪141が第1軸受4の軸方向の両側から押圧されて変形するため、外輪141の変形量が軸方向の両側で均一となり、第1軸受4の回転不良が防止される。
【0054】
<変形例2>
押圧手段として、図6に示すように、第1軸受4の外輪141の端面に突起141bを形成してもよい。第1軸受4は、突起141bがギヤケース3に対向してギヤケース3の収容孔130内に収容される。第1軸受4はロックナット32から軸力を受けると、突起141bがウォーム軸2の軸方向(D3)に外輪141を押圧する。この変形例では、突起141bが外輪141に形成されるため、座金31が不要となり、減速機100の部品点数を削減できる。また、外輪141の外周面に、ギヤケース3に対する第1軸受4の周方向の位置を決めるための位置決め突起を形成してもよい。
【0055】
<変形例3>
上記実施形態では、駆動歯車としてのウォーム2aと、従動歯車としてのウォームホイール1と、を有するウォームギヤを減速機100として用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。駆動歯車としてのハイポイドピニオンと、従動歯車としてのハイポイドホイールと、を有するハイポイドギヤを減速機として用いてもよい。また、ベベルギヤを減速機として用いてもよい。
【0056】
<変形例4>
上記実施形態では、パワーステアリング装置10の減速機100に本発明を適用する例について説明したが、コンベア、ウィンチ、工作機械、建設機械等、種々の機械の減速機に本発明を適用することができる。
【0057】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0058】
減速機100の軸支持構造101は、電動モータ7に連結されたウォーム軸2と、ウォーム軸2に噛み合うウォームホイール1とを備えた減速機の軸支持構造であって、ウォーム軸2の基端側を回転自在に支持する第1軸受4と、ウォーム軸2の先端側を回転自在に支持する第2軸受11と、第2軸受11を介して、ウォーム軸2をウォームホイール1へ向けて付勢するコイルスプリング12と、を備え、第1軸受4は、内側軌道溝142aを有する内輪142と、外側軌道溝141aを有する外輪141と、内側軌道溝142aと外側軌道溝141aとの間に配置される複数のボール143と、を有し、軸支持構造101は、外輪141の一部をウォーム軸2の軸方向へ押圧する押圧手段をさらに備える。
【0059】
この構成では、ウォーム軸2の基端側を支持する第1軸受4の外輪141の一部が押圧手段によってウォーム軸2の軸方向(D3)へ押圧されることにより、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かう揺動方向(D1)における第1軸受4の内部隙間144を確保しつつ、ウォーム軸2の軸方向(D3)における第1軸受4の内部隙間144を小さくすることができる。これにより、ウォーム軸2がウォームホイール1に向かう揺動を許容しつつ、ウォーム軸2に軸方向(D3)の力が作用したときには、ウォーム軸2とともに第1軸受4の内輪142が軸方向(D3)に移動することを抑制できる。
【0060】
減速機100の軸支持構造101は、押圧手段は、180度離間した位置それぞれで外輪141を押圧する。
【0061】
この構成では、一点のみを押圧する場合と比較して内輪142が傾きやすい方向を制御することができ、ウォーム軸2が揺動方向(D1)ではない意図しない方向に揺動することを防止できる。
【0062】
減速機100の軸支持構造101は、押圧手段は、ウォーム軸2の軸方向(D3)の両側から外輪141を押圧する。
【0063】
この構成では、外輪141は第1軸受4の軸方向の両側から押圧されるため、外輪141の変形量が軸方向の両側で均一となり、第1軸受4の回転不良が防止される。
【0064】
減速機100の軸支持構造101は、押圧手段は、外輪141に対してウォーム軸2の軸方向に押し付けられる押圧突起31aが形成された座金31を有する。
【0065】
この構成では、座金31の押圧突起31aにより、外輪141の所望の位置を押圧できる。
【0066】
減速機100の軸支持構造101は、押圧手段は、外輪141に形成されウォーム軸2の軸方向に外力を受ける突起141bを有する。
【0067】
この構成では、押圧手段としての突起141bが外輪141に形成されるため、部品点数を削減できる。
【0068】
パワーステアリング装置10は、上記減速機100の軸支持構造101、軸支持構造101によって支持されるウォーム軸2、及び、ウォーム軸2に噛み合うウォームホイール1を有する減速機100と、駆動源としての電動モータ7と、を備え、ウォームホイール1は、車輪6を転舵するラック軸8に電動モータ7の回転力を伝達する出力軸22に設けられ、減速機100は、ウォーム軸2の回転を減速して、ウォームホイール1に伝達する。
【0069】
この構成では、騒音の小さい上記減速機100を備えたパワーステアリング装置10を提供できる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0071】
なお、本明細書に記載の垂直、平行、及び直交とは、必ずしも厳密な垂直、平行、及び直交を意味するものではなく、厳密な垂直、平行、及び直交から多少ずれた状態も含む。
【符号の説明】
【0072】
1・・・ウォームホイール(従動歯車)、2・・・ウォーム軸(駆動歯車軸)、2a・・・ウォーム(駆動歯車)、4・・・第1軸受、6・・・車輪、7・・・電動モータ(駆動源)、8・・・ラック軸、10・・・ステアリング装置、11・・・第2軸受、12・・・コイルスプリング(付勢部材)、22・・・出力軸、31・・・座金(押圧手段,環状部材)、31a・・・押圧突起(押圧手段)、32・・・ロックナット(押圧手段)、100・・・減速機、101・・・軸支持構造、141・・・外輪、141a・・・外側軌道溝、141b・・・突起(押圧手段)、142・・・内輪、142a・・・内側軌道溝、143・・・ボール(転動体)、D1・・・揺動方向、D2・・・直交方向、D3・・・ウォーム軸の軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6