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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】熱電モジュール及び光モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20240327BHJP
   H10N 10/817 20230101ALI20240327BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20240327BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/817
H01S5/022
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019229191
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021097186
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】590000835
【氏名又は名称】株式会社KELK
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 崇明
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲史
(72)【発明者】
【氏名】松並 博之
(72)【発明者】
【氏名】是枝 晴華
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179544(WO,A1)
【文献】特開2003-332644(JP,A)
【文献】特開2015-079839(JP,A)
【文献】特開2010-192764(JP,A)
【文献】特開2009-164498(JP,A)
【文献】特開2007-294864(JP,A)
【文献】特開2004-228293(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163105(WO,A1)
【文献】特開2015-018853(JP,A)
【文献】特開2001-119076(JP,A)
【文献】特開2007-123530(JP,A)
【文献】特開平09-321355(JP,A)
【文献】特表2013-538451(JP,A)
【文献】特開2003-273413(JP,A)
【文献】特開2019-216175(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181660(WO,A1)
【文献】特開2003-197982(JP,A)
【文献】特開2005-303183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/817
H01S 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
熱電素子と、
前記基板と前記熱電素子とを接合する電極を含む接合部と、
前記接合部の表面を覆う有機材料膜と、
前記有機材料膜を覆い、防湿性を有する無機材料膜と、
ポスト電極が設置されるポストと、を備え
前記ポストは、第2の接合部を介して前記基板に接合され、
前記ポストと前記基板との間の前記第2の接合部の表面は、前記有機材料膜及び前記無機材料膜で覆われ、
前記有機材料膜の表面粗さは、前記接合部の表面粗及び前記熱電素子の表面粗さよりも小さく、
前記無機材料膜の厚さは、前記有機材料膜の厚さよりも薄く、0.01[μm]以上1.10[μm]以下である、
熱電モジュール。
【請求項2】
前記有機材料膜は、ポリパラキシリレンを含み、
前記無機材料膜は、二酸化ケイ素を含む、
請求項1に記載の熱電モジュール。
【請求項3】
前記接合部は、ニッケルによって形成される拡散防止層を含む、
請求項1又は請求項2に記載の熱電モジュール。
【請求項4】
前記無機材料膜の厚さは、前記有機材料膜の厚さよりも薄い、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱電モジュール。
【請求項5】
前記熱電素子の表面は、前記有機材料膜で覆われ、
前記熱電素子の表面を覆う前記有機材料膜は、前記無機材料膜で覆われる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱電モジュール。
【請求項6】
前記ポストの表面は、前記有機材料膜及び前記無機材料膜で覆われる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱電モジュール。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の熱電モジュールと、
前記熱電モジュールにより温度調整される発光素子と、を備える、
光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電モジュール及び光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ペルチェ効果により吸熱又は発熱する熱電モジュールが知られている。熱電モジュールの熱電素子が通電されることにより、熱電モジュールは吸熱又は発熱する。熱電モジュールが結露した状態で通電されると、エレクトロケミカルマイグレーションが発生し、金属の移動に起因する電気的短絡又は断線が発生する可能性がある。特許文献1には、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)を用いて、熱電素子を覆うように気密バリア層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2014-504331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱電素子を無機材料膜で覆うことにより、熱電素子の結露を抑制できる可能性がある。しかし、無機材料膜は脆いため、無機材料膜を設ける対象物の表面に凹凸が存在すると、無機材料膜にクラックが発生する可能性が高くなる。無機材料膜にクラックが発生すると、熱電素子の結露を十分に抑制することが困難となり、エレクトロケミカルマイグレーションが発生する可能性がある。
【0005】
本開示は、電気的短絡又は断線の発生を抑制できる熱電モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従えば、基板と、熱電素子と、前記基板と前記熱電素子とを接合する電極を含む接合部と、前記接合部の表面を覆う有機材料膜と、前記有機材料膜を覆う無機材料膜と、を備える、熱電モジュールが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電気的短絡又は断線の発生を抑制できる熱電モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る光モジュールを示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係る熱電モジュールを示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係る熱電モジュールの一部を示す拡大断面図である。
図4図4は、実施形態に係る熱電モジュールの製造方法を示すフローチャートである。
図5図5は、熱電モジュールの性能試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本開示はこれに限定されない。以下で説明する複数の実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向、所定面内においてX軸と直交するY軸と平行な方向をY軸方向、所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。X軸とY軸とZ軸とは直交する。また、X軸及びY軸を含む平面をXY平面、Y軸及びZ軸を含む平面をYZ平面、Z軸及びX軸を含む平面をXZ平面とする。XY平面は所定面と平行である。XY平面とYZ平面とXZ平面とは直交する。
【0011】
[光モジュール]
図1は、実施形態に係る光モジュール100を示す断面図である。光モジュール100は、例えば光通信に使用される。図1に示すように、光モジュール100は、熱電モジュール1と、発光素子101と、ヒートシンク102と、第1ヘッダ103と、受光素子104と、第2ヘッダ105と、温度センサ106と、金属板107と、レンズ108と、レンズホルダ109と、第1端子110と、第2端子111と、ワイヤ112と、ハウジング113とを備える。
【0012】
また、光モジュール100は、光アイソレータ115と、光フェルール116と、光ファイバ117と、スリーブ118とを有する。
【0013】
熱電モジュール1は、ペルチェ効果により吸熱又は発熱する。熱電モジュール1は、一対の基板2と、一対の基板2の間に配置される熱電素子3とを有する。
【0014】
発光素子101は、光を射出する。発光素子101は、例えばレーザ光を射出するレーザダイオードを含む。ヒートシンク102は、発光素子101を支持する。ヒートシンク102は、発光素子101で発生した熱を放散する。第1ヘッダ103は、ヒートシンク102を支持する。ヒートシンク102は、第1ヘッダ103に固定される。
【0015】
受光素子104は、発光素子101から発生した光を検出する。受光素子104は、例えばフォトダイオードを含む。第2ヘッダ105は、受光素子104を支持する。受光素子104は、第2ヘッダ105に固定される。
【0016】
温度センサ106は、金属板107の温度を検出する。温度センサ106は、例えばサーミスタを含む。
【0017】
金属板107は、第1ヘッダ103、第2ヘッダ105、及び温度センサ106を支持する。第1ヘッダ103、第2ヘッダ105、及び温度センサ106は、半田により金属板107に固定される。
【0018】
レンズ108は、発光素子101から射出された光を集める。レンズホルダ109は、レンズ108を保持する。
【0019】
第1端子110は、第1ヘッダ103、第2ヘッダ105、及び温度センサ106と接続される。第2端子111は、熱電モジュール1に接続される。第1端子110と第2端子111とは、ワイヤ112を介して接続される。
【0020】
ハウジング113は、熱電モジュール1、発光素子101、ヒートシンク102、第1ヘッダ103、受光素子104、第2ヘッダ105、温度センサ106、金属板107、レンズ108、レンズホルダ109、第1端子110、第2端子111、及びワイヤ112を収容する。ハウジング113は、発光素子101から射出された光が通過する開口部114を有する。
【0021】
光アイソレータ115は、ハウジング113の外側において開口部114を塞ぐように配置される。光アイソレータ115は、一方向に進行する光を通過させ、逆方向に進行する光を遮断する。発光素子101から射出されレンズ108を通過した光は、開口部114を介して光アイソレータ115に入射する。光アイソレータ115に入射した光は、光アイソレータ115を通過する。
【0022】
光フェルール116は、光アイソレータ115から射出された光を光ファイバ117に導く。スリーブ118は、光フェルール116を支持する。
【0023】
次に、光モジュール100の動作について説明する。発光素子101から射出された光は、レンズ108により集められた後、開口部114を介して光アイソレータ115に入射する。光アイソレータ115に入射した光は、光アイソレータ115を通過した後、光フェルール116を介して光ファイバ117の端面に入射する。
【0024】
発光素子101から発生した光の少なくとも一部は、受光素子104に向かって射出される。受光素子104は、発光素子101から射出された光を受ける。受光素子104により、発光素子101の発光状態がモニタされる。
【0025】
発光素子101から発生した熱は、ヒートシンク102及び第1ヘッダ103を介して金属板107に伝達される。温度センサ106は、金属板107の温度を検出する。金属板107の温度が規定温度に達したことを温度センサ106が検出した場合、熱電モジュール1に電流が供給される。熱電モジュール1の熱電素子3が通電されることにより、熱電モジュール1は、ペルチェ効果により吸熱する。これにより、発光素子101が冷却される。発光素子101は、熱電モジュール1により温度調整される。
【0026】
[熱電モジュール]
図2は、実施形態に係る熱電モジュール1を示す断面図である。図3は、本実施形態に係る熱電モジュール1の一部を示す拡大断面図である。図3は、図2のA部分を拡大した図に相当する。
【0027】
熱電モジュール1は、一対の基板2と、一対の基板2の間に配置される熱電素子3と、基板2と熱電素子3とを接合する接合部7と、接合部7の表面を覆う有機材料膜8と、有機材料膜8を覆う無機材料膜9とを備える。一方の基板2は、吸熱側基板である。他方の基板2は、放熱側基板である。
【0028】
熱電モジュール1は、Z軸方向において実質的に対称な構造である。以下の説明においては、図2に示す対称線CLよりも+Z側の構造について主に説明する。
【0029】
基板2は、電気絶縁材料で形成される。実施形態において、基板2は、セラミック基板である。基板2は、酸化物セラミック又は窒化物セラミックによって形成される。酸化物セラミックとして、酸化アルミニウム(Al)又は酸化ジルコニウム(ZrO)が例示される。窒化物セラミックとして、窒化珪素(Si)又は窒化アルミニウム(AlN)が例示される。
【0030】
基板2は、第1面2Aと、第2面2Bとを有する。第1面2Aは、一対の基板2の間の空間に面する。すなわち、第1面2Aは、熱電素子3が存在する空間に面する。第2面2Bは、第1面2Aの逆方向を向く。第1面2A及び第2面2Bのそれぞれは、XY平面と実質的に平行である。
【0031】
熱電素子3は、例えばビスマステルル系化合物(Bi-Te)のような熱電材料によって形成される。熱電素子3は、n型熱電半導体素子である第1熱電素子3Nと、p型熱電半導体素子である第2熱電素子3Pとを含む。第1熱電素子3N及び第2熱電素子3Pのそれぞれは、XY平面内に複数配置される。X軸方向において、第1熱電素子3Nと第2熱電素子3Pとは交互に配置される。Y軸方向において、第1熱電素子3Nと第2熱電素子3Pとは交互に配置される。
【0032】
熱電素子3を形成する熱電材料として、ビスマス(Bi)、ビスマステルル系化合物(Bi-Te)、ビスマスアンチモン系化合物(Bi-Sb)、鉛テルル系化合物(Pb-Te)、コバルトアンチモン系化合物(Co-Sb)、イリジウムアンチモン系化合物(Ir-Sb)、コバルト砒素系化合物(Co-As)、シリコンゲルマニウム系化合物(Si-Ge)、銅セレン系化合物(Cu-Se)、ガドリウムセレン系化合物(Gd-Se)、炭化ホウ素系化合物、テルル系ペロブスカイト酸化物、希土類硫化物、TAGS系化合物(GeTe-AgSbTe)、ホイスラー型TiNiSn、FeNbSb、TiCoSb系物質等が例示される。
【0033】
接合部7は、基板2の第1面2Aと熱電素子3の端面とを接合する。接合部7は、金属を含む金属接合部である。接合部7は、電極4と、接合層5と、拡散防止層6とを含む。実施形態において、電極4は、基板2の第1面2Aに接触するように配置される。拡散防止層6は、電極4と熱電素子3との間に配置される。実施形態において、拡散防止層6は、熱電素子3の端面に接触するように配置される。接合層5は、電極4と拡散防止層6との間に配置される。
【0034】
電極4は、熱電素子3に電力を与える。電極4は、第1面2Aに複数設けられる。電極4は、隣接する一対の第1熱電素子3N及び第2熱電素子3Pのそれぞれに接続される。電極4は、接合層5及び拡散防止層6を介して、熱電素子3に接続される。
【0035】
電極4は、第1面2Aに接触する第1電極層4Aと、第1電極層4Aを覆う第2電極層4Bと、第2電極層4Bを覆う第3電極層4Cとを含む。
【0036】
第1電極層4Aは、銅(Cu)によって形成される。第2電極層4Bは、ニッケル(Ni)によって形成される。第3電極層4Cは、金(Au)によって形成される。なお、第2電極層4Bと第3電極層4Cとの間に中間電極層が配置されてもよい。中間電極層を形成する材料として、パラジウム(Pd)が例示される。
【0037】
接合層5は、電極4と拡散防止層6とを接合する。接合層5を形成する材料として、錫(Sn)を主成分とする鉛フリー半田が例示される。鉛フリー半田とは、鉛分が0.10質量%以下である半田をいう。接合層5を形成する半田の材料として、錫(Sn)とアンチモン(Sb)との金属間化合物である錫アンチモン合金系(Sn-Sb系)半田、金(Au)と錫(Sn)との金属間化合物である金錫合金系(Au-Sn系)半田、及び銅(Cu)と錫(Sn)との金属間化合物である銅錫合金系(Cu-Sn系)半田が例示される。
【0038】
すなわち、本実施形態において、電極4と拡散防止層6とは、半田により接合される。拡散防止層6は、接合層5を介して電極4と接続される。拡散防止層6は、接合層5と接触する。電極4は、接合層5と接触する。実施形態において、電極4の第3電極層4Cが接合層5と接触する。
【0039】
拡散防止層6は、接合層5に含まれる元素が熱電素子3に拡散することを抑制する。実施形態において、拡散防止層6は、ニッケル(Ni)によって形成される。接合層5に含まれる元素が熱電素子3に拡散することが抑制されることにより、熱電素子3の性能の低下が抑制される。
【0040】
第3電極層4Cは、半田である接合層5により拡散防止層6と接合される。第3電極層4Cは、半田により拡散防止層6と接合し易い金(Au)によって形成される。第2電極層4Bは、第1電極層4Aに含まれる元素が第3電極層4Cに拡散することを抑制する拡散防止層として機能する。第2電極層4Bは、第1電極層4Aを覆うように設けられる。第1電極層4Aに含まれる元素が第3電極層4Cに拡散することが抑制されることにより、第3電極層4Cと拡散防止層6とは接合層5を介して十分に接続される。
【0041】
有機材料膜8は、有機材料からなる膜である。実施形態において、有機材料膜8は、ポリパラキシリレン製である。なお、有機材料膜8は、ポリパラキシリレンを主成分とする膜でもよい。有機材料膜8は、ポリパラキシリレンと他の有機材料との混合材料製でもよい。
【0042】
有機材料膜8は、接合部7の表面を覆うように配置される。実施形態において、有機材料膜8は、接合部7の表面のみならず、熱電素子3の表面も覆うように配置される。また、有機材料膜8は、基板2の第1面2Aを覆うように配置される。
【0043】
実施形態において、接合部7の表面と有機材料膜8との間に、シランカップリング剤からなる密着層が配置される。有機材料膜8は、密着層を介して、接合部7の表面に配置される。密着層により、有機材料膜8は、接合部7の表面に強固に接着する。同様に、熱電素子3の表面と有機材料膜8との間、及び基板2の第1面2Aと有機材料膜8との間に、シランカップリング剤からなる密着層が配置される。
【0044】
有機材料膜8は、平滑化膜である。有機材料膜8の表面は、接合部7の表面よりも平滑である。すなわち、有機材料膜8の表面粗さは、接合部7の表面粗さよりも小さい。有機材料膜8の表面は、熱電素子3の表面よりも平滑である。すなわち、有機材料膜8の表面粗さは、熱電素子3の表面粗さよりも小さい。有機材料膜8の表面は、基板2の第1面2Aよりも平滑である。すなわち、有機材料膜8の表面粗さは、基板2の表面粗さよりも小さい。
【0045】
なお、有機材料膜8は、水蒸気バリア性(防湿性)を有してもよい。すなわち、有機材料膜8は、接合部7及び熱電素子3の結露を抑制する機能を有してもよい。
【0046】
無機材料膜9は、無機材料からなる膜である。実施形態において、無機材料膜9は、二酸化ケイ素(SiO)製である。なお、無機材料膜9は、二酸化ケイ素を主成分とする膜でもよい。無機材料膜9は、二酸化ケイ素と他の無機材料との混合材料製でもよい。
【0047】
無機材料膜9は、有機材料膜8の表面を覆うように配置される。無機材料膜9は、接合部7の表面を覆った有機材料膜8を覆うように配置される。実施形態において、無機材料膜9は、接合部7の表面を覆った有機材料膜8のみならず、熱電素子3の表面を覆った有機材料膜8を覆うように配置される。また、無機材料膜9は、基板2の第1面2Aを覆った有機材料膜8を覆うように配置される。
【0048】
無機材料膜9は、水蒸気バリア性(防湿性)を有する水蒸気バリア膜(防湿膜)である。無機材料膜9は、接合部7の結露を抑制する。実施形態において、無機材料膜9は、接合部7のみならず、熱電素子3の結露も抑制する。
【0049】
上述のように、有機材料膜8の表面は、平滑である。そのため、無機材料膜9は、有機材料膜8の表面に安定して形成される。
【0050】
無機材料膜9の厚さは、有機材料膜8の厚さよりも薄い。実施形態において、有機材料膜8の厚さは、約10[μm]である。無機材料膜9の厚さは、約0.01[μm]以上1.10[μm]以下である。無機材料膜9の厚さが厚いほど、無機材料膜9の水蒸気バリア性は向上する。無機材料膜9の厚さが厚すぎると、無機材料膜9にクラックが発生する可能性が高くなる。そのため、要求される水蒸気バリア性及び耐クラック性に基づいて、無機材料膜9の厚さが設定される。
【0051】
図2に示すように、熱電モジュール1は、ポスト電極11が設置されるポスト10を備える。ポスト10は、柱状である。ポスト10の材質は、ニッケル(Ni)である。ポスト電極11の材質は、金(Au)である。ポスト10は、接合部70(第2の接合部)を介して基板2に接合される。接合部70は、電極4と接合層5とにより構成される。接合部70は、拡散防止層6を含まない。
【0052】
ポスト10と基板2との間の接合部70の表面は、有機材料膜8及び無機材料膜9で覆われる。有機材料膜8は、ポスト10と基板2との間の接合部70の表面を覆う。無機材料膜9は、ポスト10と基板2との間の接合部70の表面を覆う有機材料膜8を覆う。
【0053】
ポスト10の表面は、有機材料膜8及び無機材料膜9で覆われる。有機材料膜8は、ポスト10の表面を覆う。無機材料膜9は、ポスト10の表面を覆う有機材料膜8を覆う。
【0054】
図2に示す例において、ポスト10は、一対の基板2のうち-Z側の基板2の第1面2Aに接合部70を介して接合される。
【0055】
ポスト電極11は、ポスト10の+Z側の端部に配置される。
【0056】
ポスト10は、間隔をあけて複数設けられる。ポスト10は、例えば2つ設けられる。
【0057】
[熱電モジュールの製造方法]
図4は、実施形態に係る熱電モジュール1の製造方法を示すフローチャートである。基板2として、例えば窒化アルミニウム(AlN)製又は酸化アルミニウム(Al)製の基板を使用可能である。基板2の第1面2Aに、銅(Cu)からなる第1電極層4Aが形成される。例えばメッキ処理により、第1電極層4Aが形成される(ステップSA1)。
【0058】
次に、第1電極層4Aを覆うように、ニッケル(Ni)からなる第2電極層4Bが形成される。例えばメッキ処理により、第2電極層4Bが形成される(ステップSA2)。
【0059】
次に、第2電極層4Bを覆うように、金(Au)からなる第3電極層4Cが形成される。例えばメッキ処理により、第3電極層4Cが形成される(ステップSA3)。
【0060】
なお、上述したように、第2電極層4Bと第3電極層4Cとの間に、パラジウム(Pd)からなる中間電極層が形成されてもよい。
【0061】
熱電素子3の端面に、ニッケル(Ni)からなる拡散防止層6が形成される。熱電素子3として、例えばビスマステルル系化合物(Bi-Te)からなる熱電素子3を使用可能である。例えばスパッタ法により、拡散防止層6が形成される(ステップSB)。
【0062】
ステップSA3の処理が終了した基板2の第3電極層4Cと、ステップSBの処理が終了した熱電素子3の拡散防止層6とが、半田である接合層5により接合される(ステップSC)。
【0063】
接合層5として、例えば金錫合金系(Au-Sn系)半田を使用可能である。ステップSCの処理により、基板2と熱電素子3とが接合部7により接合される。接合部7は、電極4と接合層5と拡散防止層6とを含む。
【0064】
次に、接合部7の表面及び熱電素子3の表面に、シランカップリング剤が塗布される。シランカップリング剤により、密着層が形成される(ステップSD)。
【0065】
シランカップリング剤として、例えば日本パリレン合同会社製「AdPro Poly」を使用可能である。
【0066】
次に、接合部7の表面及び熱電素子3の表面を覆うように有機材料膜8が形成される(ステップSE)。
【0067】
例えば気相蒸着重合法により、有機材料膜8が形成される。有機材料膜8を形成するポリパラキシリレンとして、例えば日本パリレン合同会社製「パリレンHT」を使用可能である。有機材料膜8の厚さは、例えば10[μm]である。
【0068】
次に、有機材料膜8の表面を覆うように無機材料膜9が形成される(ステップSF)。
【0069】
例えば原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)により、無機材料膜9が形成される。無機材料膜9の厚さは、例えば0.04[μm]である。なお、無機材料膜9の厚さは、0.09[μm]でもよいし、0.14[μm]でもよい。
【0070】
なお、無機材料膜9の成膜方法は、原子層堆積法でなくてもよく、例えばスパッタ法でもよいし、蒸着法でもよいし、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)でもよい。なお、無機材料膜9の成膜方法は、原子層堆積法又は化学気相成長法が好ましい。原子層堆積法又は化学気相成長法によれば、被膜対象物の表面形状が複雑でも、膜を十分に形成することができる。なお、原子層堆積法は、化学気相成長法に比べて、低温成膜が可能であり、膜厚均一性及びカバレッジ性(段差被覆性)に優れている。そのため、無機材料膜9の成膜方法は、原子層堆積法が好ましい。また、原子層堆積法の中でも、室温原子層堆積法(室温ALD)が好ましい。室温ALDは、室温での成膜が可能であり、熱電モジュール1に熱によるダメージを与えないため好ましい。
【0071】
なお、基板2の第2面2Bに膜が形成される可能性がある。第2面2Bに形成された膜は不要であるため、第2面2Bに形成された膜を除去する処理が実施されてもよい。実施形態においては、レーザアブレーションにより、不要な膜を除去した。レーザアブレーションに使用するレーザ光は、KrFエキシマレーザ光(波長248[nm])であり、アシストガスとして酸素(O)を使用した。
【0072】
[効果]
以上説明したように、実施形態によれば、金属製の接合部7の表面が有機材料膜8で覆われ、有機材料膜8が無機材料膜9で覆われる。有機材料膜8の表面は、接合部7の表面よりも平滑である。有機材料膜8の平滑な表面に無機材料膜9が形成されることにより、無機材料膜9にクラックが発生することが抑制される。クラックの発生が抑制された無機材料膜9で接合部7が覆われることにより、接合部7の結露が抑制される。したがって、接合部7が通電されても、エレクトロケミカルマイグレーションの発生が抑制される。そのため、接合部7の金属の移動に起因する電気的短絡又は断線の発生が抑制される。また、熱電素子3の劣化が抑制される。したがって、熱電モジュール1の性能は長期間維持される。
【0073】
熱電モジュール1による温調温度が周囲の環境雰囲気の露点を下回った場合、熱電モジュール1が結露する可能性が高い。そのため、エレクトロケミカルマイグレーションの発生を防止するために、ハウジング(113)の気密性を高め、且つハウジングの内部空間を不活性ガスで満たす必要がある。ハウジングの気密性を高め、且つハウジングの内部空間を不活性ガスで満たす構成では、コストが上昇する。実施形態においては、接合部7の表面が有機材料膜8で覆われ、有機材料膜8の表面が無機材料膜9で覆われる。そのため、ハウジング113の気密性が低くても、接合部7の結露は十分に抑制され、エレクトロケミカルマイグレーションの発生が抑制される。したがって、コストが抑制された熱電モジュール1及び光モジュール100を提供することができる。
【0074】
実施形態において、有機材料膜8は、ポリパラキシリレンを含む。ポリパラキシリレンを使用することにより、有機材料膜8の表面は、十分に平滑化される。また、ポリパラキシリレンは、水蒸気バリア性(防湿性)を有する。そのため、接合部7の結露が十分に抑制される。
【0075】
実施形態において、無機材料膜9は、二酸化ケイ素を含む。二酸化ケイ素を使用することにより、無機材料膜9は、高い水蒸気バリア性(防湿性)を有することができる。また、二酸化ケイ素の熱伝導率は低いため、一方の基板2と他方の基板2との温度差が小さくなることが抑制される。そのため、熱電モジュール1のペルチェ効果が損なわれることが抑制される。したがって、熱電モジュール1の性能の低下が抑制される。
【0076】
無機材料膜9の厚さは、有機材料膜8の厚さよりも薄い。そのため、無機材料膜9の熱伝導性が過度に上昇することが抑制される。したがって、一方の基板2と他方の基板2との温度差が小さくなることが抑制される。そのため、熱電モジュール1のペルチェ効果が損なわれることが抑制される。したがって、熱電モジュール1の性能の低下が抑制される。
【0077】
実施形態においては、接合部7の表面のみならず、熱電素子3の表面も有機材料膜8で覆われる。また、接合部7の表面を覆う有機材料膜8のみならず、熱電素子3の表面を覆う有機材料膜8も無機材料膜9で覆われる。これにより、熱電モジュール1の結露が十分に抑制され、熱電素子3の劣化が抑制される。
【0078】
[実施例]
図5は、熱電モジュールの性能試験結果を示す図である。上述の製造方法で製造した実施例に係る熱電モジュール1と、有機材料膜8及び無機材料膜9の両方が設けられていない比較例1に係る熱電モジュールと、有機材料膜8が設けられ無機材料膜9が設けられていない比較例2に係る熱電モジュールとのそれぞれについて、性能試験を実施した。
【0079】
性能試験は、高温高湿環境(温度85[℃]、湿度85[%RH])において、比較例1、比較例2、及び実施例のそれぞれに係る熱電モジュールに所定電流を連続通電させ、熱電モジュール1の劣化を特徴づける物理量である電気抵抗変化率(ΔR)が5[%]を超えるまでに要する時間Tを計測した。
【0080】
図5に示すように、比較例1に係る時間Tは1時間、比較例2に係る時間Tは100時間であるのに対し、実施例に係る時間Tは2000時間以上であった。この性能試験により、実施例に係る熱電モジュール1は、長時間性能を維持できることを確認できた。
【0081】
[その他の実施形態]
上述の実施形態においては、有機材料膜8及び無機材料膜9が基板2の第1面2Aに設けられることとした。基板2の第1面2Aに有機材料膜8及び無機材料膜9は設けられなくてもよい。
【0082】
上述の実施形態においては、有機材料膜8及び無機材料膜9が熱電素子3の表面に設けられることとした。熱電素子3の表面に有機材料膜8及び無機材料膜9は設けられなくてもよい。熱電モジュール1においては、結露により接合部7の劣化が最も進行する可能性が高い。そのため、接合部7の表面が有機材料膜8及び無機材料膜9で覆われることにより、接合部7の劣化の進行を抑制することができる。
【0083】
上述の実施形態においては、有機材料膜8及び無機材料膜9のそれぞれが1層ずつ設けられることとした。有機材料膜8及び無機材料膜9の少なくとも一方が3層以上設けられてもよい。有機材料膜8及び無機材料膜9の少なくとも一方が複数層設けられることにより、熱電モジュール1の結露による金属材料のエレクトロケミカルマイグレーションが抑制され、結露による熱電素子3の劣化が抑制される。
【0084】
上述の実施形態においては、有機材料膜8は、ポリパラキシリレン製であることとした。有機材料膜8は、例えばポリイミド樹脂製でもよいし、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:polytetrafluoroethylene)製でもよい。
【0085】
上述の実施形態においては、無機材料膜9は、二酸化ケイ素製であることとした。無機材料膜9は、酸化アルミニウム(AL)製でもよいし、五酸化ニオブ(Nb)製でもよいし、窒化ケイ素(Si)製でもよいし、酸化チタン(TiO)製でもよいし、酸化ハフニウム(HfO)製でもよい。特に、酸化アルミニウムは、防湿性(水蒸気バリア性)に優れている。
【0086】
上述の実施形態においては、熱電モジュール1は、ペルチェ効果により吸熱又は発熱することとした。熱電モジュール1は、ゼーベック効果により発電してもよい。熱電モジュール1の一対の基板2に温度差が与えられることにより、熱電モジュール1は、ゼーベック効果により発電することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…熱電モジュール、2…基板、2A…第1面、2B…第2面、3…熱電素子、3N…第1熱電素子、3P…第2熱電素子、4…電極、4A…第1電極層、4B…第2電極層、4C…第3電極層、5…接合層、6…拡散防止層、7…接合部、8…有機材料膜、9…無機材料膜、10…ポスト、11…ポスト電極、70…接合部(第2の接合部)、100…光モジュール、101…発光素子、102…ヒートシンク、103…第1ヘッダ、104…受光素子、105…第2ヘッダ、106…温度センサ、107…金属板、108…レンズ、109…レンズホルダ、110…第1端子、111…第2端子、112…ワイヤ、113…ハウジング、114…開口部、115…光アイソレータ、116…光フェルール、117…光ファイバ、118…スリーブ、CL…対称線。
図1
図2
図3
図4
図5