(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】積層フィルム、包装材、および包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240327BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020015772
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】原 務
(72)【発明者】
【氏名】中山 勉伸
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-241152(JP,A)
【文献】国際公開第2018/223358(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/225282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材層と、(b)離型層とがこの順に積層された積層フィルムであって、
当該積層フィルムの(b)離型層側の面に、脂肪酸アミドが偏析して
おり、
当該積層フィルムの(a)基材層側の面の表面自由エネルギー(Ea)と、当該積層フィルムの(b)離型層側の面の表面自由エネルギー(Eb)との比(Ea/Eb)が、0.9~1.3であり、
(b)離型層の厚みが、0.01μm以上、1.0μm以下(ただし、1.0μmを除く)である、積層フィルム。
【請求項2】
(a)基材層が、脂肪酸アミドを含む、請求項
1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記脂肪酸アミドが、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、および不飽和脂肪酸ビスアミドの中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1
または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
(b)離型層が、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体を含む、請求項1乃至
3いずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
当該積層フィルムの(b)離型層側の面の表面自由エネルギー(Eb)が、25~45mJ/m
2である、請求項1乃至
4いずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
(a)基材層が、ポリオレフィンフィルムである、請求項1乃至
5いずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
食品包装用である、請求項1乃至
6いずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の積層フィルムを用いた包装材。
【請求項9】
請求項
8に記載の包装材を用いて物品を包装した包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、包装材、および包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、電子部品など、経時変化や保存性が問題となる物品を包装することを意図した包装材の開発が様々に行われている。なかでも、饅頭の表層やケーキ等のスポンジ生地などの食品は、柔らかく崩れやすいものであったり、また含まれる水分や砂糖等により表面が粘性を有するため、包装材に付着しやすく、包装材から取り出す際に型崩れや破損が生じてしまう。そのため、これらを包装する包装材としては、被包装物に対する高い離型性、身離れの良さが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、被包装体に対する離型性を得るため、ヒートシール可能な基材フィルムと、被覆層とで構成された包装フィルムであって、かかる被覆層が少なくともショ糖脂肪酸エステルを含む多価アルコール脂肪酸エステルを含むことで、多価アルコール脂肪酸エステルが被包装体に転移させ、被包装体が包装フィルムに付着することを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、包装材については様々な検討がなされてきている。しかしながら、本発明者による検討の結果、特許文献1に開示されるような従来の包装材においては、被包装物に対する離型性の点で改善の余地があることが判明した。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。つまり、本発明は、被包装物に対する良好な離型性が得られる積層フィルムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の発明をなし、上記課題を達成できることを見出した。
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
(a)基材層と、(b)離型層とがこの順に積層された積層フィルムであって、
当該積層フィルムの(b)離型層側の面に、脂肪酸アミドが偏析している、積層フィルム。
[2]
当該積層フィルムの(a)基材層側の面表面自由エネルギー(Ea)と、当該積層フィルムの(b)離型層側の面の表面自由エネルギー(Eb)との比(Ea/Eb)が、0.9~1.3である、[1]に記載の積層フィルム。
[3]
(a)基材層が、脂肪酸アミドを含む、[1]または2に記載の積層フィルム。
[4]
上記脂肪酸アミドが、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、および不飽和脂肪酸ビスアミドの中から選ばれる1種または2種以上である、[1]乃至[3]いずれか一つに記載の積層フィルム。
[5]
(b)離型層が、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体を含む、[1]乃至[4]いずれか一つに記載の積層フィルム。
[6]
当該積層フィルムの(b)離型層側の面の表面自由エネルギー(Eb)が、25~45mJ/m2である、[1]乃至[5]いずれか一つに記載の積層フィルム。
[7]
(a)基材層が、ポリオレフィンフィルムである、[1]乃至[6]いずれか一つに記載の積層フィルム。
[8]
(b)離型層の厚みが、0.01μm以上、1.0μm以下である、[1]乃至[7]いずれか一つに記載の積層フィルム。
[9]
食品包装用である、[1]乃至[8]いずれか一つに記載の積層フィルム。
[10]
[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の積層フィルムを用いた包装材。
[11]
[10]に記載の包装材を用いて物品を包装した包装体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被包装物に対する良好な離型性が得られる積層フィルムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る積層フィルムを用いて包装する手順を示すための模式的図である。
【
図3】実施例の積層フィルムの断面のTEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタアクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0013】
<積層フィルム>
図1は、本実施形態に係る積層フィルム100を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、積層フィルム100は、基材層120と、離型層110とがこの順に積層されている。積層フィルム100において、離型層110側の面11が被包装物側となり、基材層120側の面12が外側となる。
なお、本実施形態において積層フィルム100による離型性とは、積層フィルム100を用いて被包装物を包装したのち、包装状態を安定化させた後においても、積層フィルム100に被包装物の少なくとも一部が付着することを抑制し、離型性(身離れ性)が良好であることを意図する。
【0014】
本実施形態において、積層フィルム100の離型層110側の面11に、脂肪酸アミドが偏析している。すなわち、脂肪酸アミドがブリードアウトしている。
本発明者は、種々の検討に基づき、本実施形態の積層フィルム100を設計したところ、意外にも、積層フィルム100の離型層110側の面11に、脂肪酸アミドが偏析することが、被包装物への離型性をもたらすことができることを見いだした。
【0015】
脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミドおよびベヘニン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミドおよびエルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;エチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミドおよびN,N′-ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸ビスアミドの中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
なかでも、良好な離型性を得る観点から、不飽和脂肪酸アミドであることが好ましく、炭素数が15以上の脂肪酸であることがより好ましく、エルカ酸アミドであることがさらに好ましい。
【0016】
なお、積層フィルム100の面11に脂肪酸アミドが偏析していることは、積層フィルム100の面11を洗浄した洗浄液について、ガスクロマトグラフィーを用いて定量分析することで確認できる。
また、積層フィルム100の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察することによっても確認できる。
【0017】
本実施形態の積層フィルム100は、後述の基材層120および離型層110の少なくとも一方が脂肪酸アミドを含むものであればよく、基材層120の原料として脂肪酸アミドが含まれていてもよい。
【0018】
[表面自由エネルギー]
本実施形態において、積層フィルム100の基材層120側の面12の表面自由エネルギー(Ea)と、積層フィルム100の離型層110側の面11の表面自由エネルギー(Eb)との比(Ea/Eb)が、0.9~1.3であることが好ましく、0.95~1.1であることがより好ましい。
ここで、一般に、表面自由エネルギーを小さくすると、水分が付着しにくくなり、水分を含むものに対する離型性が高くなることが知られている。
比(Ea/Eb)が小さいほど、面12と面11の表面自由エネルギーの差が小さいことを意味し、いいかえると、脂肪酸アミドが面12と面11に同程度偏析し、積層フィルム100全体として、脂肪酸アミドが基材層120と離型層110を介して偏在しているといえる。これにより、本実施形態の積層フィルム100においては、良好な離型性が得られる。その理由の詳細は明らかではないものの、脂肪酸アミドと被包装物の親和性が低い場合は、脂肪酸アミドと被包装物の層間での離型性が向上したと推測される。また、脂肪酸アミドと被包装物の親和性が高い場合は、偏在した脂肪酸アミドと離型層との密着性が小さい故に、脂肪酸アミドと離型層との層関での離型性が向上、もしくは、偏在した脂肪酸アミド間での凝集剥離による離型性が向上したと推測される。
なお、本実施形態において、積層フィルム100の基材層120側の面12とは、基材層120の非塗工面である。また、基材層120の塗工面とは、本実施形態の離型フィルム100の製造過程において、コロナ処理が施され、その後、離型層120が積層される面であり、非塗工面とは、かかる塗工面と反対側の面をしめす。
【0019】
本実施形態において、積層フィルム100の基材層120側の面12の表面自由エネルギー(Ea)は、25~45mJ/m2であることが好ましく、30~40mJ/m2であることがより好ましい。
表面自由エネルギー(Ea)を上記下限値以上とすることにより、離型性を保持しつつ、ヒートシール性や製膜性を良好にできる。一方、表面自由エネルギー(Ea)を上記上限値以下とすることにより、離型性を向上できる。
【0020】
本実施形態において、積層フィルム100の離型層110側の面11の表面自由エネルギー(Eb)は、25~45mJ/m2であることが好ましく、30~40mJ/m2であることがより好ましい。
表面自由エネルギー(Eb)を上記下限値以上とすることにより、離型性を保持しつつ、ヒートシール性や製膜性を良好にできる。一方、表面自由エネルギー(Eb)を上記上限値以下とすることにより、離型性を向上できる。
【0021】
表面自由エネルギーは、接触角計、例えば、協和界面科学株式会社製の「Drop Maste DM701」を用いて測定された接触角に基づいて、算出することができる。詳細は後述する。
【0022】
また、表面自由エネルギーは、積層フィルム100に表面処理を施したり、基材層120および離型層110の原料および厚みを調整する等して、制御することができる。
【0023】
[ヒートシール強度]
本実施形態の積層フィルム100は、積層フィルム100の基材層120側の面12と、積層フィルム100の離型層110側の面11とを140℃でヒートシールしたときのヒートシール強度aが1.0N/15mm以上であることが好ましく、1.2N/15mm以上であることがより好ましい。一方、ヒートシール強度aの上限値は特に限定されないが、良好な離型性を保持する観点から、20N/15mm以下が好ましく、10N/15mm以下がより好ましい。
積層フィルム100の面11と面12、いいかえると包装材としたときの表面と裏面(内側面と外側面)において良好なヒートシール性が得られるため、包装材の表面と裏面が重なり合うような包装を行うことができる。例えば、積層フィルム100で饅頭を上から覆うようにして包み、饅頭の下側で綴じる場合、下側の面では、積層フィルム100の表面と裏面とが区別されることなくランダムに折り畳まれる。そのため、かかる折り畳まれた面をヒートシールすることにより、積層フィルム100の表面と裏面とが重なった領域を密着させることができる。
【0024】
本実施形態の積層フィルム100は、積層フィルム100の離型層110側の面11同士を140℃でヒートシールしたときのヒートシール強度bが0.3N/15mm以上であることが好ましく、0.5N/15mm以上であることがより好ましい。一方、ヒートシール強度bの上限値は特に限定されないが、良好な離型性を保持する観点から、20N/15mm以下が好ましく、10N/15mm以下がより好ましい。
積層フィルム100の面11同士、いいかえると包装材としたときの裏面(内側面)同士において良好なヒートシール性が得られるため、包装材の裏面が重なり合うような包装を行えたり、包装材を製造する際の多様性を広げて様々な形状の袋を製造できたり、多様な包装方法に広く対応することができる。
例えば、積層フィルム100を用いて袋状の包装材を製造する際、離型層110側の面11が内側となるように積層フィルム100を筒状にし、両側端部をヒートシールした後、上下の一方の開口部を面11を張り合わせるようにしてヒートシールすることで、袋状とすることができる。
【0025】
また、本実施形態の積層フィルム100は、積層フィルム100の基材層120側の面12同士を140℃でヒートシールしたときのヒートシール強度cが5.0N/15mm以上であることが好ましく、10N/15mm以上であることがより好ましい。一方、ヒートシール強度cの上限値は特に限定されないが、良好な離型性を保持する観点から、20N/15mm以下が好ましく、10N/15mm以下がより好ましい。
積層フィルム100の面12同士、いいかえると包装材としたときの表面(外側面)同士において良好なヒートシール性が得られるため、包装材の表面が重なり合うような包装を行えたり、包装材を製造する際の多様性を広げて様々な形状の袋を製造できたり、多様な包装方法に広く対応することができる。
うことができる。
【0026】
本実施形態の積層フィルム100は、上記のような良好なヒートシール強度a~cを有するため、各面のヒートシール性を組み合わせることで、様々な態様の包装に対応することができる。
また、積層フィルム100のヒートシール強度a~cは、後述する基材層120および離型層110の原料の選択とその組み合わせ、および各層の厚み等を制御することによって調整できる。
【0027】
[ヘイズ]
本実施形態の積層フィルム100は、積層フィルム100を4枚積層した時のヘイズ値が20%以下であることが好ましく、16%以下であることがより好ましく、13%以下であることがさらに好ましい。
これにより形成された包装物の視認性を向上することができる。積層フィルム100のヘイズ値は、基材層120の延伸倍率や各層の厚み等により調整することができる。
なお、ヘイズ値は、JIS K-7136に準拠して測定することができる。
【0028】
以下、積層フィルム100の各層について、詳細を説明する。
【0029】
[基材層120]
本実施形態の構成する基材層120は、種々公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル・1-ペンテン、ポリ1-ブテン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの混合物等からなるフィルムである。
これら熱可塑性樹脂の中でも、包装材の透明性を良好とする観点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンからなるフィルムが好ましく、ポリオレフィンからなるフィルムより好ましい。
【0030】
基材層120は、無延伸フィルムであっても、一軸あるいは二軸延伸フィルムであってもよく、一層でも二層以上の多層であってもよい。
【0031】
基材層120としては、良好な離型性を得る観点から、無延伸のポリエチレン、およびポリプロピレンからなるフィルムであることがより好ましい。これにより、離型性が向上するとともに、基材層120および離型層110に対する良好なヒートシール性が得られる。
【0032】
また、基材層120は、脂肪酸アミドを含むことが好ましい。これにより、脂肪酸アミドが、積層フィルム100の面11に偏析しやすくなるとともに、離型層110を介するように積層フィルム100中に偏在し、離型性をより高めることができる。
【0033】
なお、基材層120は、後述の離型層110との接着性を改良するために、その表面(塗工面)を、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、アンダーコート処理、プライマーコート処理、フレーム処理等の表面活性化処理を行っておいてもよい。
【0034】
基材層120の厚みとしては、特に限定されないが、良好な包装性、離型性を得る観点から、好ましくは10~200μm、より好ましくは12~100μm、さらに好ましくは15~50μmの範囲にある。
【0035】
[離型層110]
離型層110は、被包装物側となる面となり、被包装物が積層フィルム100に付着し、離型性が低下することを抑制するために用いられる。
【0036】
離型層110の材料としては、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体を含むことが好ましい。これにより、離型性が向上するとともに、基材層120および離型層110に対する良好なヒートシール性が得られる。
エチレン・α-オレフィンランダム共重合体の上記のα-オレフィンとしては、炭素数3以上のα-オレフィンが好ましく、炭素数3~10のα-オレフィンがより好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、および1-デセンであることがさらに好ましい。
【0037】
エチレン・α‐オレフィンランダム共重合体の密度は、好ましくは850~950kg/m3、より好ましくは860~900g/m3である。エチレン・α‐オレフィンランダム共重合体の密度をかかる数値範囲とすることにより、基材層120との密着性を得つつ、良好な離型性が得られやすくなる。
【0038】
また、エチレン・α‐オレフィンランダム共重合体の融点(Tm)は、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは55~85℃以下であり、さらに好ましくは60~80℃である。
融点(Tm)を、上記下限値以上とすることで、包装工程を含む製造過程において、積層フィルム100が曝される温度よりも積層フィルム100の融点を高くすることができ、これにより、被包装物への付着を抑制し、良好な離型性が得られやすくなる。
一方、融点(Tm)を、上記上限値以下とすることにより、取扱性、生産性を良好にしつつ、良好な離型性を保持できる。
【0039】
本実施形態において、エチレン・α‐オレフィンランダム共重合体は、密度及び融点(Tm)が上記範囲にある限り、エチレン含有量は特に限定はされないが、通常、70~92モル%の範囲にある。
【0040】
本実施形態において、エチレン・α‐オレフィンランダム共重合体は、MFR(荷重:2160g、温度:190℃)が、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは0.2~20g/10分の範囲である。
【0041】
本実施形態において、エチレン・α‐オレフィンランダム共重合体のデュロメータA硬度は、好ましくは50~150であり、より好ましくは65~100の範囲である。デュロメータA硬度を上記数値範囲とすることで、適度な柔軟性が得られ、被包装物にかかる応力を低減する等して、被包装物への過度な密着を抑制し、良好な離型性が得られやすくなる。
【0042】
本実施形態のエチレン・α‐オレフィンランダム共重合体は、種々公知の製造方法を用いて製造しうる。具体的には、バナジウム触媒、あるいはメタロセン触媒を用いて、エチレンとα-オレフィンとをランダム共重合させる方法が挙げられる。
【0043】
離型層110の厚みは、好ましくは0.01~1.0μm以下、より好ましくは0.02~0.09μm、さらに好ましくは0.03~0.08μmの範囲にある。
離型層110の厚みを、上記下限値以上とすることにより、良好な離型性を維持しつつ、基材層120への密着性が良好になる。一方、離型層110の厚みを、上記上限値以下とすることにより、離型性を向上しやすくなるとともに、積層フィルム100全体の厚みを薄くでき、適度な柔軟性が得られ包装性を良好にできる。
【0044】
<積層フィルムの製造方法>
積層フィルム100は、予め得られた基材層120の片面に、離型層110を構成する材料を溶解した溶液を塗布・乾燥して離型層110を形成し、製造することができる。
エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(A)の溶液を調整するために用いる溶媒は、特に限定されないがn-デカン、n-ヘプタン、n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどのなどの芳香族炭化水素、デカリン、テトラリンなどの脂環族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0045】
基材層120に離型層110を構成する材料を溶解した溶液を塗布する方法としては、当該溶液を基材層120表面に塗工する方法、当該溶液に基材層120を浸漬する方法、当該溶液を基材層120表面に噴霧する方法等種々公知の方法を採り得る。
【0046】
上記の塗工する方法としては、例えば、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター等種々公知の塗工機を用いる方法が挙げられる。
【0047】
溶液の塗布温度は、通常、常温、例えば、10~40℃、好ましくは15~30℃の温度範囲で行い得るが、離型層110を構成する材料が、常温で、前記溶媒に溶解し難い場合は、用いる溶媒にもよるが、沸点未満の温度に加温してもよい。
【0048】
また、塗布した溶液は、通常、60~120℃、好ましくは80~100℃の温度で、通常、1~30秒、好ましくは2~10秒、乾燥する。
【0049】
[用途]
積層フィルム100は、包装材との離型性が問題となる物に広く適用することができるが、なかでも、食品包装用として好適である。食品としては、表面に水分(自由水)を比較的多く含むものが挙げられ、具体的には、例えば、カステラ、ケーキ、お饅頭、スイートポテト、桜餅、表面に薄くチョコレートを被膜したビスケットやクッキー、細切りまたは粉末チーズ片を付着させた冷凍ピザ用生地等である。また食品の水分活性値の観点からは、例えば、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上であってもよい。なお、水分活性値とは、食品に含まれる自由水の多さを示す数値であり、1を最大値とする。水分活性値が高いほど、食品中の食塩や砂糖等と結合していない自由水が多いことを示す。
【0050】
なお、包装の形態は、饅頭類などにみられる個別包装であってもよい。また、包装には、積層フィルム100と被包装物とが少なくとも接触する種々の態様が含まれる。例えば、包装には、被包装物の下敷きとして積層フィルム100を用いる態様、被包装物の側面又は上面のみを積層フィルム100で被覆する態様なども含まれる。
【0051】
<包装材、包装体>
積層フィルム100を用いた包装材としては、包装形態に合わせて適宜設計することができる。例えば、積層フィルム100を所望の大きさにカットして、被包装物を覆い、積層フィルム100をヒートシールして密封するためのもの、積層フィルム100を用いて袋を作成し、袋の内部に被包装物を収容するものなどが挙げられる。包装材は、良好な離型性を得る観点から、積層フィルム100の離型層110が被包装物側となることが好適である。
【0052】
包装体は、上記の包装材を用いて物品を包装したものである。本実施形態の包装体は、これを開封し、物品を取り出す際に、物品と包装材との良好な離型性が得られる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0055】
<実施例1>
まず、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体A(密度885kg/m3,融点66℃,MFR18(190℃),A硬度86)のペレットを混合溶媒(トルエン:ヘキサン:MEK=5:5:1,重量比)に固形分が0.8wt%となるよう秤量し、80℃,30minでペレットを溶解し、塗工液を作成した。
つぎに、コロナ処理を塗工面側に施した無延伸ポリプロピレンフィルム(厚み18μm:引張弾性率(MD方向およびTD方向)(JISK7161(2014年)に準拠して測定)665MPa、引張伸度(JISK7127(1999年)に準拠して測定)MD方向:255%、TD方向:775%、エルカ酸アミドを含有)を40℃で1日エージングした基材層に上記の塗工液を乾燥後の塗工量が0.05g/m2となるようバーコートで塗工し、90℃,5sec乾燥して離型層を形成し、40℃で1日エージング期間を設け、積層構造の離型フィルムを得た。
【0056】
<実施例2>
エチレン・α-オレフィンランダム共重合体Aの代わりに、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体B(密度893kg/m3,融点77℃,MFR3.6(190℃),A硬度92)を用いた以外は、実施例1と同様にして、離型フィルムを得た。
【0057】
<実施例3>
エチレン・α-オレフィンランダム共重合体Aの代わりに、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体C(密度885kg/m3,融点66℃,MFR3.6(190℃),A硬度86)を用いた以外は、実施例1と同様にして、離型フィルムを得た。
【0058】
<比較例1>
実施例1の基材層のみを用い、離型フィルムを得た。なお、評価面はコロナ処理面とした。
【0059】
得られた各離型フィルムを用いて、以下の測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[測定]
・エルカ酸アミドの定量(ブリードアウト量)
離型フィルムの離型層側の面、および基材層のコロナ処理面(塗工面)をそれぞれジクロロメタンで洗浄し、その洗浄した液を回収して、ガスクロマトグラフィー(FID検出器)に供し、定量分析を絶対検量線法にて行い、脂肪酸アミド量[μg/cm2]を算出した。
【0061】
・ヒートシール強度a(離型層/基材層)
離型フィルムを、幅70mm×長さ70mmの短冊状に切断したものを2枚試験片として準備した。次に、準備した2枚の試験片を、離型層と基材層が対向するように重ね合わせた後、ヒートシールテスター(テスター産業株式会社製,TP-701-B)を用いて、上部温度(ヒートシール温度)140℃、下部温度25 ℃、シール幅10mm、シール圧力0.2MPa、及びシール時間1秒の条件で、ヒートシールを行った。
次に、試験機から、熱融着したフィルムを取り出し、幅15mmに切断した。この幅15mmの熱融着したフィルムを、テンシロン万能試験機(株式会社オリエンテック製、RTC-1225)を用いて、引張速度300mm/min、及び温度23℃の条件で、剥離強度の最大値を測定した。そして、この最大値をヒートシール強度a(単位:N/15mm)とした。なお、ヒートシール強度は、3個の試験片について測定し、平均値を算出した。
【0062】
・ヒートシール強度b(離型層/離型層)
離型層と離型層が対向するように重ね合わせた以外は、上記ヒートシール強度(離型層/基材層)と同様にして、ヒートシール強度b(単位:N/15mm)を算出した。
【0063】
・ヒートシール強度c(基材層/基材層)
基材層と基材層が対向するように重ね合わせた以外は、上記ヒートシール強度(離型層/基材層)と同様にして、ヒートシール強度c(単位:N/15mm)を算出した。
【0064】
・表面自由エネルギー
まず、協和界面科学社製DM-701を用い、23℃、50%RH環境下で、溶媒(水、ジヨードメタン、1-ブロモナフタレン)の液滴(2μl程度)をシリンジから離型フィルムの各面(離型層側の面および基材層側の面)上にそれぞれ乗せ、液滴端部の接線と各面とがなす角度(θ)を測定した。
次いで、以下の北崎・畑理論により、表面自由エネルギーを算出した。
表面自由エネルギーが、分散成分γd、極性成分γp、水素結合成分γhからなると仮定する。この時、表面自由エネルギーγは、下記式(1)で表される。
γ=γd+γp+γh (1)
また、液体の表面自由エネルギーγL、固体の表面自由エネルギーγS,接触角θの関係は、下記式(2)で表される。
γL(1+cosθ)=2(γSdγLd)1/2+2(γSpγLp)1/2+2(γShγLh)1/2 (2)
ここで、γLの成分が既知の液体を3種類用いてそれぞれの接触角θを測定し、γSd、γSp,γShに関する連立方程式を解くことによりγSが求められる。
【0065】
・ヘイズ
離型フィルムを4つ折りにし、JIS K7136に記載された方法に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製,NDH5000)を用いて測定した。
【0066】
・テープ剥離力
各離型フィルムを水平台の上に離型層を上にして載置し、離型層面にアクリル系粘着剤層を有するポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製、品番No.31B)のアクリル系粘着剤層を貼り付けて200mm×50mmの大きさにカットし、さらにそのポリエステル粘着テープの上から20g/cm2となるように荷重を載せ、40℃で20時間エージングした。
エージング後、引張試験機にて引張速度300m/minで180°剥離を行い、剥離が安定した領域における平均剥離荷重をポリエステル粘着テープ幅で除した値をテープ剥離力[N/50mm]として求めた。
【0067】
[評価]
・離型性(剥離性)評価
透明なフィルムで個別に包装された黒糖まんじゅう(市販品、山崎製パン株式会社製)を準備し、黒糖まんじゅうの薄皮に傷なきよう、包装フィルムを剥離した。次に、黒糖まんじゅうの表面温度が50℃となるよう、パナソニック株式会社製オーブンレンジNE-MS232で加熱を行った。表面温度は、トラスコ中山株式会社製放射温度計TDH-330を用いて測定した。
次に、
図2に示すようにして、黒糖まんじゅうを包装した。上記で得られた加熱した黒糖まんじゅう10を、あらかじめ準備した180mm四方の離型フィルム100の離型層120が黒糖まんじゅう10と接するように包装し、黒糖まんじゅうの下側の面で離型フィルム100を綴じた(
図2(a)、(b))。その後、黒糖まんじゅう10の自重で包装形態を維持するように水平台に置き、25℃環境下で1日保管した(
図2(c))。
1日保管後、離型フィルムを黒糖まんじゅうから剥離し、離型フィルム側に黒糖まんじゅうの曲面部と接した離型層に対して薄皮が残らない場合を〇、薄皮が残るが、黒糖まんじゅうの薄皮残存率が95%を超える場合は△、薄皮が残り、黒糖まんじゅうの薄皮残存率が95%以下の場合は×とした。なお、薄皮とは、黒糖まんじゅうの裏面(下面)を除く領域であって、曲面部を覆う表面の層とした。
【0068】
・TEM観察
表面保護のため、金属コートを施したサンプルをエポキシ樹脂で包埋し、四酸化ルテニウムにより染色を行ったのち、ウルトラミクロトームで約100nmの厚みの切片を作成し、透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製,H-7650)で離型フィルムの断面観察像を得た。結果を
図3に示す。
なお、
図3において、灰色が強い領域は離型層(剥離層)を示し、灰色が薄い領域は基材層を示し、離型層の上部にみられる線状の黒色は、金属コート層を示している。
図3より、離型層は、上下方向において濃淡が異なる領域があり、二層構造となっていることが推定される。
【0069】
【符号の説明】
【0070】
100 積層フィルム
110 離型層
120 基材層