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特許7461184インクジェットヘッド及びインクジェットプリンタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20240327BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B41J2/16 201
B41J2/14 501
B41J2/16 503
B41J2/16 401
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020047159
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021146551
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】關 雅志
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203476(JP,A)
【文献】特開平05-116327(JP,A)
【文献】特開2013-022794(JP,A)
【文献】特開2019-202459(JP,A)
【文献】特開2007-076009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隙間を隔てて厚さ方向に並んだ複数のチャネル壁を含み、前記チャネル壁間の前記隙間を、インクを保持する圧力室として有する圧電部材と、
一方の主面が前記複数のチャネル壁の端面と向き合うように設置されたノズルプレート基材であって、前記圧力室と連通し、前記インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレート基材と、
前記主面のうち前記圧力室に隣接した領域上に設けられた第1撥液膜と、
前記主面と前記複数のチャネル壁の前記端面との間に介在した接着層と
を備え
前記ノズルの側壁では前記ノズルプレート基材の材料が露出しているインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1撥液膜は、前記ノズルプレート基材と結合した結合部位と、末端パーフルオロアルキル基とを含んだ化合物からなる請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレート基材の他方の主面上に設けられた第2撥液膜を更に備えた請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至の何れか1項に記載のインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドと向き合うように記録媒体を保持する媒体保持機構と
を備えたインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッド及びインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電部材のせん断変形を利用してノズルからインク滴を吐出させる、所謂、せん断モード型インクジェットヘッド構造を有するインクジェットプリンタが知られている。このような構造では、例えば、ノズルが設けられたノズルプレートと、インクを保持する圧力室を形成する圧電部材とを、ノズルと圧力室とが連通するように接合する。これら微細部品の接合には、例えば、接着剤が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-223173号公報
【文献】特開2006-192669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、圧電部材とノズルプレートとの間から接着剤がはみ出すことに起因したノズルの閉塞を生じ難くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、隙間を隔てて厚さ方向に並んだ複数のチャネル壁を含み、前記チャネル壁間の前記隙間を、インクを保持する圧力室として有する圧電部材と、一方の主面が前記複数のチャネル壁の端面と向き合うように設置されたノズルプレート基材であって、前記圧力室と連通し、前記インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレート基材と、前記主面のうち前記圧力室に隣接した領域上に設けられた第1撥液膜と、前記主面と前記複数のチャネル壁の前記端面との間に介在した接着層とを備え、前記ノズルの側壁では前記ノズルプレート基材の材料が露出しているインクジェットヘッドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図である。
図2図2は、実施形態に係るインクジェットヘッドを構成するアクチュエータ板、フレーム及びノズルプレートを示す分解斜視図である。
図3図3は、実施形態に係るインクジェットヘッドの部分切断上面図である。
図4図4は、図3に示すインクジェットヘッドの一部の、Y軸に垂直な平面に沿った断面図である。
図5図5は、撥液膜の一例を示す模式図である。
図6図6は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第1工程を示す断面図である。
図7図7は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第2工程を示す断面図である。
図8図8は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第3工程を示す断面図である。
図9図9は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第4工程を示す断面図である。
図10図10は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第5工程を示す断面図である。
図11図11は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第5工程を示す下面図である。
図12図12は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第6工程を示す断面図である。
図13図13は、実施形態に係るインクジェットプリンタを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
1.インクジェットヘッド
1-1.構成
実施形態に係るインクジェットヘッドは、
隙間を隔てて厚さ方向に並んだ複数のチャネル壁を含み、前記チャネル壁間の前記隙間を、インクを保持する圧力室として有する圧電部材と、
一方の主面が前記複数のチャネル壁の端面と向き合うように設置されたノズルプレート基材であって、前記圧力室と連通し、前記インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレート基材と、
前記主面のうち前記圧力室に隣接した領域上に設けられた第1撥液膜と、
前記主面と前記複数のチャネル壁の前記端面との間に介在した接着層と
を備えている。
【0009】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
図1は、実施形態に係る、インクジェットプリンタのヘッドキャリッジに搭載して使用するオンデマンド型のインクジェットヘッド1を示す斜視図である。以下の説明では、X軸、Y軸、Z軸からなる直交座標系を用いる。図中の矢印の指し示す方向を便宜上プラス方向とする。X軸方向は印刷幅方向に対応する。Y軸方向は記録媒体が搬送される方向に対応する。Z軸プラス方向は記録媒体に対向する方向である。
【0010】
図1を参照して概略的に説明すると、インクジェットヘッド1は、インクマニホールド10、アクチュエータ板20、フレーム40及びノズルプレート50を備えている。
【0011】
アクチュエータ板20は、X軸方向を長手方向とする矩形をなしている。アクチュエータ板20の材料としては、例えばアルミナ(Al)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)及びチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O)等が挙げられる。
【0012】
アクチュエータ板20は、インクマニホールド10の開口端を塞ぐようにインクマニホールド10の上に重ねられている。インクマニホールド10は、インク供給管11及びインク戻し管12を介してインクカートリッジに接続される。
【0013】
アクチュエータ板20上には、フレーム40が取り付けられている。フレーム40上には、ノズルプレート50が取り付けられている。ノズルプレート50には、X軸方向に各々が延び、Y軸方向に配列した2つの列を形成するように、複数のノズルNが所定の間隔をあけて設けられている。
【0014】
図2は、実施形態に係るインクジェットヘッドを構成するアクチュエータ板20、フレーム40及びノズルプレート50の分解斜視図である。図3は、実施形態に係るインクジェットヘッドの部分切断上面図である。図4は、図3に示すインクジェットヘッドの一部の、Y軸に垂直な平面に沿った断面図である。
このインクジェットヘッド1は、所謂、せん断モードシェアードウォールのサイドシュータ型である。なお、ここで説明する技術は、エンドシュータ型のインクジェットヘッドに適用することも可能である。
【0015】
図2及び図3に示すように、アクチュエータ板20には、Y軸方向の中央部で列を形成するように、複数のインク供給口21がX軸方向に沿って間隔をあけて設けられている。また、アクチュエータ板20には、インク供給口21の列に対してY軸プラス方向及びY軸マイナス方向に離間した位置においてそれぞれ列を形成するように、複数のインク排出口22がX軸方向に沿って間隔をあけて設けられている。
【0016】
中央のインク供給口21の列と一方のインク排出口22の列との間には、複数の圧電部材30が設けられている。これら圧電部材30は、X軸方向に延びた列を形成している。また、中央のインク供給口21の列と他方のインク排出口22の列との間にも、複数の圧電部材30が設けられている。これら圧電部材30も、X軸方向に延びた列を形成している。
【0017】
複数の圧電部材30からなる列の各々は、図4に示すように、アクチュエータ板20上に積層された第1圧電体301及び第2圧電体302で構成されている。第1圧電体301及び第2圧電体302の材料としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)等が挙げられる。第1圧電体301及び第2圧電体302は、厚さ方向に沿って互いに逆向きに分極されている。
【0018】
第1圧電体301及び第2圧電体302からなる積層体には、Y軸方向に各々が延び、X軸方向に配列した複数の溝が設けられている。これら溝は、第2圧電体302側で開口しており、第2圧電体302の厚さよりも大きな深さを有している。以下、この積層体のうち、隣り合った溝に挟まれた部分は、チャネル壁Wである。これらチャネル壁Wは、隙間を隔てて厚さ方向に並んでいる。ここでは、これらチャネル壁Wは、Y軸方向に各々が延び、X軸方向に配列している。
【0019】
圧電部材30は、後述するノズルNと連通する位置に圧力室32を形成し、圧力室32内の圧力を変化させて圧力室32内のインクを吐出させる。なお、インクが流通する圧力室32は、隣り合った2つのチャネル壁Wの間の隙間、即ち溝内の空間である。圧力室32の幅、ここでは、圧力室32のX軸方向に沿った寸法は、好ましくは20μm以上100μm以下の範囲内にあり、より好ましくは、50μm以上80μm以下の範囲内にある。
【0020】
圧力室32を取り囲む側壁及び底には、電極33が形成されている。即ち、圧電部材30のうち、圧力室32と隣接した部分には、電極33が形成されている。これら電極33は、Y軸方向に沿って延びた配線パターン31に接続されている。電極33は、圧電部材30に駆動パルスを印加する。
【0021】
後述するフレキシブルプリント基板との接続部を除き、電極33及び配線パターン31を含むアクチュエータ板20の表面には、電極保護膜34が形成されている。電極保護膜34は、絶縁性を有する。電極保護膜34は、例えば、複数層の無機絶縁膜及び有機絶縁膜を含む。電極保護膜34は、例えば、後述する第1撥液膜503と比較して撥液性が低い。換言すれば、インクは、第1撥液膜503と比較して、電極保護膜34に対してより高い親和性を示す。電極保護膜34は省略してもよい。
【0022】
ノズルプレート50は、図4に示すように、ノズルプレート基材501と、第1撥液膜503と、第2撥液膜502とを含んでいる。
【0023】
ノズルプレート基材501は、例えば、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムからなる。
ノズルプレート基材501は、第1主面と、その裏面である第2主面とを有している。第1主面は、圧電部材30と向き合う面である。第2主面は、記録媒体と向き合う媒体対向面、即ち、ノズルNからインクを吐出する吐出面である。ここでは、第1及び第2主面は平滑な面である。ノズルプレート基材501は、第1主面がチャネル壁Wの端面と向き合うように設置されている。後述するように、第1主面は、ノズルNの一方の開口が位置した第1領域と、第1領域を取り囲んだ第2領域と、第2領域を間に挟んで第1領域と隣り合った第3領域とを含んでいる。
【0024】
第1撥液膜503は、第2領域上に設けられている。第1撥液膜503は、第1及び第3領域上には設けられていない。第1撥液膜503は、例えば、フッ素化合物を含む膜である。このフッ素化合物については、後で詳述する。
【0025】
第2撥液膜502は、第2主面上に設けられている。第2撥液膜502は、例えば、フッ素化合物を含む膜である。第2撥液膜502の材料は、第1撥液膜503の材料と同一であってもよく、異なっていてもよい。第2撥液膜502は、省略することができる。但し、第2撥液膜502を設けると、ノズルプレート50の媒体対向面へのインクの付着を生じ難くすることができる。
【0026】
ノズルNの側壁では、ノズルプレート基材501の材料が露出していることが好ましい。ノズルNの側壁が撥液膜で覆われると、適正なメニスカスを生じさせることが難しくなり、吐出が不安定になる可能性がある。
【0027】
フレーム40は、図2及び図3に示すように、開口部を有している。この開口部は、アクチュエータ板20よりも小さく、且つ、アクチュエータ板20のうち、インク供給口21、圧電部材30、及びインク排出口22が設けられた領域よりも大きい。フレーム40は、例えばセラミックスからなる。フレーム40は、図示しない接着層によりアクチュエータ板20に接合されている。フレーム40は省略してもよい。
【0028】
ノズルプレート50は、フレーム40の開口部よりも大きい。ノズルプレート50は、図示しない接着層によりフレーム40に接合されている。
【0029】
ノズルプレート50(又はノズルプレート基材501)には、記録媒体へ向けてインクを吐出する複数のノズルNが設けられている。これらノズルNは、圧力室32に対応して2つの列を形成している。ノズルNは、媒体対向面から圧力室32の方向に進むに従って径が大きくなっている。ノズルNの寸法は、インクの吐出量に応じて所定の値に設定される。ノズルNは、例えば、エキシマレーザを用いたレーザ加工を施すことによって形成することができる。
【0030】
アクチュエータ板20、フレーム40及びノズルプレート50は、図1に示すように一体化されており、中空構造を形成している。アクチュエータ板20、フレーム40及びノズルプレート50によって囲まれた領域は、インク流通室である。インクは、インクマニホールド10からインク供給口21を通してインク流通室に供給され、圧力室32を通過し、余剰のインクがインク排出口22からインクマニホールド10へ戻るように循環する。インクの一部は、圧力室32を流れる間にノズルNから吐出されて印刷に用いられる。
【0031】
配線パターン31には、アクチュエータ板20上であってフレーム40の外側の位置でフレキシブルプリント基板60が接続されている。フレキシブルプリント基板60には、圧電部材30を駆動する駆動回路61が搭載されている。
【0032】
ノズルプレート50のノズルプレート基材501は、接着層70を介して圧電部材30と接合されている。接着層70は、圧電部材30とノズルプレート基材501との間に介在している。接着層70は、チャネル壁Wの端面3021とノズルプレート基材501の第3領域との間に位置している。
【0033】
接着層70は、エポキシ系接着剤などの接着剤からなる。接着層70は、フッ素化合物を含んでいない。
【0034】
1-2.撥液膜
上記のインクジェットヘッド1では、第1撥液膜503及び第2撥液膜502にフッ素化合物を使用することができる。フッ素化合物は、以下に説明する構造を有していることが好ましい。
【0035】
図5は、第1撥液膜の一例を示す模式図である。
図5に示す第1撥液膜503は、フッ素化合物の単分子層である。このフッ素化合物は、結合部位5031とスペーサ連結基5032とパーフルオロアルキル基5033とを含んでいる。このフッ素化合物は、一方の末端に結合部位5031を有し、他方の末端にパーフルオロアルキル基(末端パーフルオロアルキル基)5033を有し、それらの間にスペーサ連結基5032を有している直鎖状分子である。
【0036】
結合部位5031は、例えば、ノズルプレート基材501の表面に存在している官能基との反応によってノズルプレート基材501と結合した部位である。
【0037】
第1撥液膜503の原料としてのフッ素化合物は、例えば、結合部位5031に相当する部位に反応性官能基を含んでいる。この場合、反応性官能基がノズルプレート基材501の表面に存在している官能基と反応することによって、結合部位5031はノズルプレート基材501と結合する。反応性官能基は、例えば、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、ビニル基などの不飽和炭化水素基、又はメルカプト基である。ノズルプレート基材501の表面に存在している官能基は、例えば、ヒドロキシ基、エステル結合、アミノ基、又はチオール基である。
【0038】
或いは、第1撥液膜503の原料としてのフッ素化合物は、結合部位5031に相当する部位がアルコキシシリル基を含んでいる。この場合、アルコキシシリル基の加水分解によって生じたシラノール基が、ノズルプレート基材501の表面に存在しているヒドロキシ基などの官能基と反応することによって、結合部位5031はノズルプレート基材501と結合することができる。
【0039】
或いは、第1撥液膜503の原料としてのフッ素化合物は、結合部位5031に相当する部位が、アルコキシシリル基と他の反応性官能基とを含んでいる。ここで、他の反応性官能基は、例えば、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、ビニル基などの不飽和炭化水素基、又はメルカプト基である。この場合、例えば、他の反応性官能基をノズルプレート基材501の表面に存在している官能基と反応させることによって、結合部位5031をノズルプレート基材501と結合させることができる。また、アルコキシシリル基の加水分解によって生じたシラノール基を脱水縮合させることにより、フッ素化合物に分子間結合を生じさせることができる。
【0040】
ノズルプレート基材501上で隣り合ったフッ素化合物は、結合部位5031が相互に結合している。一例によれば、結合部位5031は、反応性官能基とスペーサ連結基5032との間に1以上のシリコン原子を更に含み、ノズルプレート基材501上で隣り合ったフッ素化合物は、結合部位5031がシロキサン結合(Si-O-Si)によって相互に結合している。
【0041】
末端パーフルオロアルキル基5033は、例えば、直鎖状のパーフルオロアルキル基である。末端パーフルオロアルキル基5033の炭素数は、例えば、3乃至7(C3乃至C7)の範囲内で選択することができる。末端パーフルオロアルキル基5033は、ノズルプレート基材501の垂線方向に沿って直立していることが好ましい。
【0042】
スペーサ連結基5032は、結合部位5031に末端パーフルオロアルキル基5033を連結している。スペーサ連結基5032が存在すると、末端パーフルオロアルキル基5033がノズルプレート基材501の垂線方向に沿って直立した構造をとるのに有利になる。スペーサ連結基5032は、例えば、パーフルオロポリエーテル基である。
【0043】
このような第1撥液膜503の原料としては、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表されるフッ素化合物を使用することができる。
【0044】
【化1】
【0045】
【化2】
【0046】
一般式(1)及び(2)において、pは1乃至50の自然数であり、nは1乃至10の自然数である。
このような第1撥液膜503は、例えば、10nm程度の厚さを有する。
【0047】
図5に示す第1撥液膜503は、例えば、以下のようにして得られる。なお、ここでは、一例として、第1撥液膜503の原料としてのフッ素化合物は、結合部位に相当する部位にアルコキシシリル基を含んでいるとする。
【0048】
ノズルプレート基材501は、上述したように、例えば、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムからなる。この場合、ノズルプレート基材501は、その表面にフッ素化合物との結合に必要なヒドロキシ基を殆ど有していない。そのため、第1撥液膜503の形成に先立ち、ノズルプレート基材501に以下のような前処理を行うことが好ましい。
【0049】
例えば、ノズルプレート基材501の第1主面に対して、アルゴン-酸素混合ガス中でイオンプラズマ処理を施し、表面の改質を行う。イオンプラズマ処理は、例えば、以下のように行なう。即ち、ノズルプレート基材501を真空チャンバ内に設置し、チャンバ内の空気を真空引きする。そして、ノズルプレート基材501を取り巻く雰囲気をアルゴン-酸素混合ガスへと切替え、その後、プラズマを発生させる。
【0050】
酸素を含んだ雰囲気中でイオンプラズマ処理を行なうことで、ノズルプレート基材501の表面を、ヒドロキシ基で修飾する。これに加えて、アルゴンを含んだ雰囲気中でイオンプラズマ処理を行なうことで、ノズルプレート基材501の表面に付着しているゴミを除去する。
【0051】
イオンプラズマ処理は、好ましくは、酸素濃度が50体積%以下のアルゴン-酸素混合ガス中で行い、より好ましくは、酸素濃度が20乃至50体積%の範囲内にあるアルゴン-酸素混合ガス中で行う。なお、酸素濃度が大きすぎる場合、ノズルプレート基材501の表面が損傷し、表面荒れを生じる虞がある。ノズルプレート基材501に表面荒れが生じた場合、第1撥液膜503との結合が不十分となる虞がある。
【0052】
イオンプラズマ処理は、100秒以上行なうことが好ましく、200秒以上行うことがより好ましい。プラズマ照射時間が短すぎる場合、ノズルプレート基材501への表面修飾が十分に行われない虞がある。
【0053】
次に、上述したフッ素化合物をノズルプレート基材501の表面に供給する。この供給は、例えば、真空蒸着法などの気相堆積法によって行う。
【0054】
次いで、ノズルプレート基材501の表面へと供給したフッ素化合物のアルコキシシリル基を加水分解させる。
フッ素化合物のアルコキシシリル基が加水分解すると、シラノール基が生成する。このシラノール基と、ノズルプレート基材501の第1主面に存在しているヒドロキシ基とは、脱水縮合を起こす。こうして、ノズルプレート基材501とフッ素化合物とが、結合部位5031が含んでいるシリコン原子によるシロキシ基(Si-O-)を介して結合する。また、隣り合ったフッ素化合物は、結合部位5031のシリコン原子同士がシロキサン結合(Si-O-Si)によって相互に結合する。
【0055】
結合部位5031のシリコン原子には、スペーサ連結基5032であるパーフルオロポリエーテル基を介して末端パーフルオロアルキル基5033が結合している。スペーサ連結基5032は、上記の通り、末端パーフルオロアルキル基5033をノズルプレート基材501の垂線方向に沿って直立させる機能を有する。
従って、以上のようにして、図5に示す第1撥液膜503が得られる。
【0056】
或いは、第1撥液膜503の原料として、例えば、下記一般式(3)で表されるように、結合部位5031となるべき部位が、アルコキシシリル基とヒドロキシ基などの反応性官能基とを有しているフッ素化合物、好ましくは、結合部位5031となるべき部位が複数のアルコキシシリル基と1つの反応性官能基と有しているフッ素化合物を使用することもできる。
【0057】
【化3】
【0058】
一般式(3)において、pは1乃至50の自然数であり、nは1乃至10の自然数である。
このような第1撥液膜503も、例えば、10nm程度の厚さを有する。
【0059】
結合部位5031となるべき部位がアルコキシシリル基とヒドロキシ基とを有しているフッ素化合物を使用した場合、図5に示す第1撥液膜503は、例えば、以下のようにして得られる。
【0060】
先ず、上述したのと同様の方法により、ノズルプレート基材501に前処理を行う。上記のフッ素化合物を、上述したのと同様の方法により、ノズルプレート基材501の表面に供給する。
【0061】
次いで、ノズルプレート基材501の表面に存在しているヒドロキシ基とフッ素化合物のヒドロキシ基との脱水縮合を生じさせる。これにより、フッ素化合物をノズルプレート基材501に結合させる。
【0062】
その後、フッ素化合物のアルコキシシリル基を加水分解させる。そして、隣り合ったフッ素化合物間で、シラノール基の脱水縮合を生じさせる。これにより、フッ素化合物の分子間結合を形成する。
以上のようにして、図5に示す第1撥液膜503を得る。
【0063】
この方法では、フッ素化合物の分子間結合の形成に先立って、フッ素化合物をノズルプレート基材501へ結合させる。それ故、この方法は、末端パーフルオロアルキル基5033がノズルプレート基材501の垂線方向に沿って直立した構造を得るうえで有利である。
【0064】
この第1撥液膜503では、末端パーフルオロアルキル基5033が主として撥液性を発揮する。そして、図5に示す構造では、末端パーフルオロアルキル基5033がノズルプレート基材501の垂線方向に沿って直立している。CF基は、CF基よりも撥液性への寄与が大きい。また、アルゴン-酸素混合ガス中でイオンプラズマ処理を施されたノズルプレート基材501の表面には、フッ素化合物が高い密度で結合している。即ち、第1撥液膜503の表面には、CF基よりも撥液性への寄与が大きいCF基が、高い密度で存在している。従って、第1撥液膜503は、高い撥液性を発揮する。
【0065】
また、このような第1撥液膜503では、隣り合ったフッ素化合物は、結合部位5031同士が結合している。それ故、第1撥液膜503は、その表面を繰り返し擦っても、膜の破壊や剥離を生じ難い。そして、このような第1撥液膜503は、その表面を繰り返し擦っても、末端パーフルオロアルキル基5033は横方向に揺れるだけで、撥液膜503の表面からなくなることはない。従って、第1撥液膜503は、その表面を繰り返し擦ったとしても、撥液性の劣化を招くことがない。
【0066】
更に、上述したフッ素化合物から得られる膜は、紫外線照射により、照射部においてフッ素化合物の分解を生じさせることができる。一例によれば、上述したフッ素化合物から得られた膜に紫外線を照射すると、その照射部において、フッ素化合物の酸素原子を含んだ結合、例えばC-O結合が切断される。それ故、照射部において、フッ素の量を低減することができる。例えば、照射部において、フッ素の量をほぼゼロにすることができる。その結果、照射部では、撥液性が大幅に低下する。従って、第1撥液膜503は、例えば、上述したフッ素化合物から得られる膜を連続膜として形成し、その後、この膜を紫外線でパターン露光することにより得ることができる。
【0067】
なお、撥液膜が上記の構造を有しているか否かの判断には、X線光電子分光分析(XPS)法による分析を利用することができる。
【0068】
上記の第1撥液膜503を、XPS法によって分析すると、CF基のピーク、CF基のピーク及びCF基よりも結合エネルギーが高いCF3+δ基のピークが検出される。
【0069】
XPSの原理は、以下の通りである。
物質に数keV程度の軟X線を照射すると、原子軌道の電子が光エネルギーを吸収し、光電子として外にたたき出される。束縛電子の結合エネルギーEと、光電子の運動エネルギーEとの間には、下記の関係がある。
=hν-E-ψsp
ここで、hνは入射X線のエネルギー、ψspは分光器の仕事関数である。
【0070】
このため、X線のエネルギーが一定(即ち単一波長)であれば、光電子の運動エネルギーEに基づいて電子の結合エネルギーEを求めることができる。電子の結合エネルギーEは元素によって固有なので、元素分析を行うことができる。また、結合エネルギーのシフトは、その元素の化学結合状態や価電子状態(酸化数など)を反映しているため、構成元素の化学結合状態を調べることができる。
【0071】
なお、「CF3+δ基」のピークとは、隣接する末端パーフルオロアルキル基のCF基が重なり合うことでCF基よりも大きな結合エネルギーを有しているかの如く検出されるピークである。即ち、CF3+δのピークの出現は、フッ素化合物が高い密度でノズルプレート基材501に結合していること、特には、撥液膜の表面近傍にCF基が高い密度で存在していることを意味している。
【0072】
CF基のピーク面積を1としたとき、CF基のピーク面積の比率は、例えば0.1乃至0.3である。この比率は、末端パーフルオロアルキル基5033の炭素原子数が3である場合には約0.3である。また、この比率は、末端パーフルオロアルキル基5033の炭素原子数が7に近づくほど、0.1に近くなる。
【0073】
1-3.インクの吐出
以下、図3及び図4を参照しながら圧電部材30の動作を説明する。ここでは、中央の圧力室32の両隣にも、圧力室32が形成されているものとして動作を説明する。なお、隣り合う3つの圧力室32に対応する電極33をそれぞれ電極A、B及びCとし、中央の圧力室32に対応した電極33は、電極Bであるとする。
【0074】
ノズルNからインクを吐出させるには、先ず、例えば、中央の電極Bに、両隣の電極A及びCの電位よりも高い電位の電圧パルスを印加して、チャネル壁Wに直交する方向に電界を生じさせる。こうして、チャネル壁Wをせん断モードで駆動させ、中央の圧力室32を挟む一対のチャネル壁Wを、中央の圧力室32が拡張するように変形させる。
【0075】
次に、両隣の電極A及びCに、中央の電極Bの電位よりも高い電位の電圧パルスを印加して、チャネル壁Wに直交する方向に電界を生じさせる。こうして、チャネル壁Wをせん断モードで駆動させ、中央の圧力室32を挟む1対のチャネル壁Wを、中央の圧力室32が縮小するように変形させる。この動作により、中央の圧力室32内のインクに圧力を加え、この圧力室32に対応するノズルNからインクを吐出させて記録媒体に着弾させる。このように、このインクジェットヘッド1では、圧電部材30をアクチュエータとして利用して、ノズルNからインクを吐出させる。
【0076】
このインクジェットヘッド1を用いた印刷プロセスでは、例えば、全てのノズルNを3つの群に分けて、上述した駆動操作を時分割制御して3サイクル行い、記録媒体への印刷を行う。
【0077】
1-4.製造方法
実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法は、
隙間を隔てて厚さ方向に並んだ複数のチャネル壁を含み、前記チャネル壁間の前記隙間を、インクを保持する圧力室として有する圧電部材を準備することと、
前記複数のチャネル壁の端面が接合されるべきノズルプレート基材の一方の主面上に第1撥液膜を形成することと、
前記撥液膜のうち前記複数のチャネル壁の前記端面に対応した部分へ向けて紫外線を照射して、前記紫外線を照射した領域で撥液性を低下させることと、
前記領域に接着剤を供給することと、
前記圧力室に対応した位置で前記ノズルプレート基材にノズルを形成することと、
前記領域に前記接着剤を介して前記複数のチャネル壁の前記端面を接合させることと
を含む。
【0078】
この方法において、前記第1撥液膜は、例えば、前記ノズルプレート基材と結合した結合部位と、末端パーフルオロアルキル基とを含んだ化合物からなる。
【0079】
この方法は、ノズルプレート基材の他方の主面上に第2撥液膜を形成することを更に含むことができる。前記第2撥液膜は、例えば、前記部分への紫外線の照射後に形成する。
【0080】
前記ノズルは、例えば、第1撥液膜を形成した後に行う。前記第2撥液膜を形成する場合、前記ノズルは、例えば、前記第1撥液膜及び前記第2撥液膜を形成した後に行う。
【0081】
以下に、図1乃至図4に示すインクジェットヘッド1の製造方法を説明する。
先ず、図2及び図3に示すようにアクチュエータ板20上に圧電部材30などが設けられた構造を、従来公知の方法によって形成する。次に、図2に示すフレーム40を、アクチュエータ板20の上面に接着層を介して取り付ける。
【0082】
その一方で、図1乃至図4に示すノズルプレート50を準備する。そして、ノズルプレート50を、図2に示すフレーム40の上面及び図2乃至図4に示す圧電部材30の上面に、図4に示す接着層70を介して取り付ける。
【0083】
ノズルプレート50の製造並びにそのフレーム40及び圧電部材30への取り付けは、例えば、図6乃至図12を参照しながら以下に説明する方法により行う。
【0084】
図6乃至図10は、それぞれ、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第1乃至第5工程を示す断面図である。図11は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第5工程を示す下面図である。図12は、図1乃至図4に示すノズルヘッドの製造における第6工程を示す断面図である。
【0085】
この方法では、先ず、図6に示すように、ノズルNが設けられていないノズルプレート基材501を準備する。そして、ノズルプレート基材501の第1主面に、上述した方法により、連続膜としての第1撥液膜503を形成する。
【0086】
次に、図7に示すように、第1撥液膜503の上方に、フォトマスク90を設置する。フォトマスク90のうち、第3領域に対応した部分は紫外線を透過させ、他の部分は紫外線を遮る。
【0087】
フォトマスク90は、第1撥液膜503から離間させてもよく、第1撥液膜503と接触させてもよい。上記の通り、第1撥液膜503は耐擦過性に優れている。従って、フォトマスク90を第1撥液膜503と接触させても、第1撥液膜503の損傷は生じない。
【0088】
次いで、フォトマスク90を介して、第1撥液膜503を紫外線で露光する。紫外線としては、例えば、波長が200nm以下のものを使用する。ここで使用する紫外線は、波長が172乃至185nmの範囲内にあることが好ましい。また、この紫外線露光は、照射部の露光量が10乃至100mW/mの範囲内になるように行うことが好ましい。
【0089】
上記の通り、照射部では、フッ素化合物の分解を生じ、フッ素の量が減少する。例えば、照射部では、フッ素の量はほぼゼロになる。その結果、図8に示すように、照射部の位置で開口した第1撥液膜503が得られる。なお、一例によれば、照射部には、フッ素化合物の分解生成物は残留しない。他の例によれば、照射部には、フッ素化合物の分解生成物、例えば、シリコンを含有した化合物が残留する。
【0090】
照射部でフッ素の量が減少すると、照射部と非照射部との間で撥液性に相違を生じる。一例によれば、非照射部での純水の接触角は110°であったのに対し、照射部での純水の接触角は80°であった。
【0091】
次に、図9に示すように、ノズルプレート基材501の第2主面に、連続膜としての第2撥液膜502を形成する。そのような第2撥液膜502は、例えば、連続膜としての第1撥液膜503について上述したのと同様の方法により形成することができる。
【0092】
次いで、ノズルプレート基材501に対してレーザ加工を施して、ノズルNを形成する。ノズルプレート基材501に対してレーザ加工に伴い、ノズルプレート基材501に貫通孔が形成されるのに加え、その貫通孔の位置で、第1撥液膜503及び第2撥液膜502も開口する。以上のようにして、図10及び図11に示すノズルプレート50を得る。
【0093】
なお、図10及び図11において、第1領域AAは、ノズルプレート基材501の第1主面のうち、ノズルNの一方の開口が位置した領域である。また、第2領域ABは、ノズルプレート基材501の第1主面のうち、第1領域AAを取り囲んだ領域である。そして、第3領域ACは、ノズルプレート基材501の第1主面のうち、第2領域ABを間に挟んで第1領域AAと隣り合った領域である。
【0094】
第1領域AAは、第1撥液膜503によって覆われていない。第1領域AAは、ノズルNの第1主面における開口と略相似した形状を有している。また、第1領域AAは、ノズルNの第1主面における開口以上の寸法、例えば、ノズルNの第1主面における開口よりも大きな寸法を有している。
【0095】
第2領域ABは、第1撥液膜503よって覆われている。第2領域ABは、一方向、ここではY軸方向に伸びた形状を有している。第2領域ABは、ノズルNの位置で開口している。第2領域ABの幅は、図4に示す圧力室32の幅とほぼ等しい。
【0096】
第3領域ACは、第1撥液膜503によって覆われていない。第3領域ACは、第2領域ABの長さ方向に伸びた形状を有している。第3領域ACの幅は、隣り合った圧力室32間の距離とほぼ等しい。
【0097】
その後、図12に示すように、ノズルプレート50に、液状の接着剤701を塗布する。例えば、液状の接着剤を第3領域ACに印刷する。液状の接着剤701は、第1撥液膜503によって弾かれるため、第1領域AAまで広がることはない。
【0098】
液状の接着剤701は、ノズルプレート50の第1撥液膜503側の面全体に、例えばスピンコートにより塗布してもよい。この場合、ノズルNへ接着剤701が供給されるのを防ぐために、ノズルNを形成するためのレーザ加工は、接着剤701の塗布後に行ってもよい。
【0099】
次いで、ノズルプレート50とフレーム40と圧電部材30とを、第1撥液膜503が圧電部材30の電極保護膜34が設けられた面と向き合い、フレーム40がノズルプレート50と圧電部材30との間に介在し、ノズルNと圧力室32とが連通するように重ね合わせる。次いで、これを、厚さ方向に加圧した状態で加熱する。これにより、接着剤701が硬化してなる接着層70を形成する。そして、これとともに、接着層70を介して、ノズルプレート50とフレーム40及び圧電部材30とを接合する。以上のようにして、図1乃至図4に示すインクジェットヘッド1を得る。
【0100】
上記の通り、ノズルプレート50は第1撥液膜503を含んでいる。第1撥液膜503は、ノズルプレート50と第2圧電体302との間から接着剤701がはみ出た場合に、このはみ出た接着剤701を弾く。それ故、はみ出た接着剤701がノズルNにまで到達することに起因したノズルNの閉塞は生じ難い。
【0101】
2.インクジェットプリンタ
2-1.構成
図13に、実施形態に係るインクジェットプリンタの模式図を示す。
図13に示すインクジェットプリンタ100は、インクジェットヘッド1151乃至1154と、インクジェットヘッド1151乃至1154に対向して記録媒体を保持する媒体保持機構110とを備えている。インクジェットヘッド1151乃至1154の各々は、図1及び図2などを参照しながら説明したインクジェットヘッド1である。
【0102】
インクジェットプリンタ100は、排紙トレイ118が設けられた筐体を含んでいる。筐体内には、カセット1011及び1012、給紙ローラ102及び103、搬送ローラ対104及び105、レジストローラ対106、搬送ベルト107、ファン119、負圧チャンバ111、搬送ローラ対112乃至114、インクジェットヘッド1151乃至1154、インクカートリッジ1161乃至1164、並びに、チューブ1171乃至1174が設置されている。
【0103】
カセット1011及び1012は、サイズの異なる記録媒体Pを収容している。給紙ローラ102又は103は、選択された記録媒体のサイズに対応した記録媒体Pをカセット1011又は1012から取り出し、搬送ローラ対104及び105並びにレジストローラ対106へ搬送する。
【0104】
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107の表面には、所定間隔で穴が設けられている。搬送ベルト107の内側には、記録媒体Pを搬送ベルト107に吸着させるための、ファン119に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の搬送方向下流には、搬送ローラ対112乃至114が設置されている。なお、搬送ベルト107から排紙トレイ118までの搬送経路には、記録媒体P上に形成された印刷層を加熱するヒータを設置することができる。
【0105】
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを記録媒体Pに吐出する4つのインクジェットヘッドが配置されている。具体的には、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド1151、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド1152、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド1153、及びブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド1154が、上流側からこの順に配置されている。
【0106】
インクジェットヘッド1151、1152、1153及び1154の上方には、これらに対応したインクをそれぞれ収容した、シアン(C)インクカートリッジ1161、マゼンタ(M)インクカートリッジ1162、イエロー(Y)インクカートリッジ1163、及びブラック(Bk)インクカートリッジ1164が設置されている。これらインクカートリッジ1161、1162、1163及び1164は、それぞれ、チューブ1171、1172、1173及び1174によって、インクジェットヘッド1151、1152、1153及び1154に連結されている。
【0107】
2-2.画像形成
次に、このインクジェットプリンタ100の画像形成動作について説明する。
先ず、画像処理手段(図示しない)が、記録のための画像処理を開始し、画像データに対応した画像信号を生成するとともに、各種ローラや負圧チャンバ111などの動作を制御する制御信号を生成する。
【0108】
給紙ローラ102又は103は、画像処理手段による制御のもと、カセット1011又は1012から、選択されたサイズの記録媒体Pを1枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104及び105並びにレジストローラ対106へ搬送する。レジストローラ対106は、記録媒体Pのスキューを補正し、所定のタイミングで記録媒体Pを搬送する。
【0109】
負圧チャンバ111は、搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいる。従って、記録媒体Pは、搬送ベルト107に吸着された状態で、搬送ベルト107の移動に伴い、インクジェットヘッド1151乃至1154の下方の位置へと順次搬送される。
【0110】
インクジェットヘッド1151乃至1154は、画像処理手段による制御のもと、記録媒体Pが搬送されるタイミングに同期してインクを吐出する。これにより、記録媒体Pの所望の位置に、カラー画像が形成される。
【0111】
その後、搬送ローラ対112乃至114は、画像が形成された記録媒体Pを排紙トレイ118へ排紙する。搬送ベルト107から排紙トレイ118までの搬送経路にヒータを設置した場合、記録媒体P上に形成された印刷層をヒータによって加熱してもよい。ヒータによる加熱を行うと、特に、記録媒体Pが非浸透性である場合に、記録媒体Pに対する印刷層の密着性を高めることができる。
【0112】
3.効果
上記の通り、第1撥液膜503は、ノズルプレート50とフレーム40及び圧電部材30とを接合する際に、ノズルプレート50と第2圧電体302との間からはみ出た接着剤701がノズルNにまで到達することを抑制する。従って、圧電部材30とノズルプレート50との間から接着剤701がはみ出すことに起因したノズルNの閉塞は生じ難い。
【0113】
また、第1撥液膜503は、液状の接着剤701を塗布する際に、接着剤701が第1領域AAまで広がるのを抑制する。従って、塗布した液状の接着剤701が第1領域AAまで広がることに起因したノズルNの閉塞も生じ難い。
【0114】
それ故、高精細化のために圧力室32の幅を狭めた場合であっても、接着剤701によるノズルNの閉塞は生じ難い。即ち、高精細化のために圧力室32の幅を狭めた場合であっても、高い歩留まりを達成できる。
【0115】
また、第1撥液膜503は、圧力室32内であってノズルプレート50の近傍におけるインクの流れを促進する。更に、第1撥液膜503は、ノズルプレート50へのゴミや気泡の付着を生じ難くする。従って、上記のインクジェットヘッド1は、インク吐出の安定性に優れている。
【0116】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合、組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
隙間を隔てて厚さ方向に並んだ複数のチャネル壁を含み、前記チャネル壁間の前記隙間を、インクを保持する圧力室として有する圧電部材と、
一方の主面が前記複数のチャネル壁の端面と向き合うように設置されたノズルプレート基材であって、前記圧力室と連通し、前記インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレート基材と、
前記主面のうち前記圧力室に隣接した領域上に設けられた第1撥液膜と、
前記主面と前記複数のチャネル壁の前記端面との間に介在した接着層と
を備えたインクジェットヘッド。
[2]
前記第1撥液膜は、前記ノズルプレート基材と結合した結合部位と、末端パーフルオロアルキル基とを含んだ化合物からなる項1に記載のインクジェットヘッド。
[3]
前記ノズルプレート基材の他方の主面上に設けられた第2撥液膜を更に備えた項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
[4]
前記ノズルの側壁では前記ノズルプレート基材の材料が露出している項1乃至3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
[5]
項1乃至4の何れか1項に記載のインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドと向き合うように記録媒体を保持する媒体保持機構と
を備えたインクジェットプリンタ。
【符号の説明】
【0117】
1…インクジェットヘッド、10…インクマニホールド、11…インク供給管、12…インク戻し管、20…アクチュエータ板、21…インク供給口、22…インク排出口、30…圧電部材、31…配線パターン、32…圧力室、33…電極、34…電極保護膜、40…フレーム、50…ノズルプレート、60…フレキシブルプリント基板、61…駆動回路、70…接着層、90…フォトマスク、100…インクジェットプリンタ、102…給紙ローラ、103…給紙ローラ、104…搬送ローラ対、105…搬送ローラ対、106…レジストローラ対、107…搬送ベルト、108…駆動ローラ、109…従動ローラ、110…媒体保持機構、111…負圧チャンバ、112…搬送ローラ対、113…搬送ローラ対、114…搬送ローラ対、118…排紙トレイ、119…ファン、301…第1圧電体、302…第2圧電体、501…ノズルプレート基材、502…第2撥液膜、503…第1撥液膜、701…接着剤、1011…カセット、1012…カセット、1151…インクジェットヘッド、1152…インクジェットヘッド、1153…インクジェットヘッド、1154…インクジェットヘッド、1161…インクカートリッジ、1162…インクカートリッジ、1163…インクカートリッジ、1164…インクカートリッジ、1171…チューブ、1172…チューブ、1173…チューブ、1174…チューブ、3021…端面、5031…結合部位、5032…スペーサ連結基、5033…パーフルオロアルキル基、AA…第1領域、AB…第2領域、AC…第3領域、N…ノズル、P…記録媒体、W…チャネル壁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13