(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】金属架橋性高分子組成物、金属架橋高分子材料、金属部材、ワイヤーハーネスならびに金属架橋高分子材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 13/00 20060101AFI20240327BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20240327BHJP
C08L 83/00 20060101ALI20240327BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240327BHJP
C08K 5/057 20060101ALI20240327BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20240327BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240327BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C08L13/00
C08L33/00
C08L83/00
C08K5/00
C08K5/057
C08K3/011
H01B7/00 301
H01B7/02 F
(21)【出願番号】P 2020058326
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
(72)【発明者】
【氏名】細川 武広
(72)【発明者】
【氏名】溝口 誠
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086281(JP,A)
【文献】特開2020-033429(JP,A)
【文献】特開2000-178456(JP,A)
【文献】特開2018-080327(JP,A)
【文献】特開2015-106141(JP,A)
【文献】特開2016-050288(JP,A)
【文献】特開2019-157209(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
H01B 7/00
H01B 7/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛(II)アセチルアセトナート、カルシウム(II)アセチルアセトナート、アルミニウム(III)アセチルアセトナート、アルミニウム(III)トリイソプロポキシド、カルシウム(II)メトキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシドより選択される、熱によって金属イオンが遊離するA成分と、
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、カルボキシル基導入液状ポリアクリレート、カルボキシル変性シリコーンオイルより選択される、前記A成分から遊離する金属イオンとイオン結合が可能な置換基を持つ有機高分子で構成され、1
50℃以下において液状であるB成分と、
を含
み、
有機高分子としては、前記B成分のみを含有し、
垂下可能な状態にある、金属架橋性高分子組成物。
【請求項2】
前記B成分は、
常温において液状である、請求項
1に記載の金属架橋性高分子組成物。
【請求項3】
前記B成分100質量部に対し、前記A成分が0.2質量部以上30質量部以下含まれる、請求項1
または請求項2に記載の金属架橋性高分子組成物。
【請求項4】
前記B成分100質量部に対する前記A成分の含有量が、5.0質量部以下である、請求項3に記載の金属架橋性高分子組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の金属架橋性高分子組成物
を架橋により硬化させた架橋体で構成される、金属架橋高分子材料。
【請求項6】
金属基材と、前記金属基材の表面を被覆する被覆材と、を有し、前記被覆材が、請求項
5に記載の金属架橋高分子材料で構成される、金属部材。
【請求項7】
請求項
5に記載の金属架橋高分子材料を含む、ワイヤーハーネス。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属架橋性高分子組成物に熱を加え、前記A成分から遊離した前記金属イオンによって前記B成分を架橋させることで、前記金属架橋性高分子組成物を硬化させて、金属架橋高分子材料を製造する、金属架橋高分子材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着材料、硬化成形材料として好適な金属架橋性高分子組成物および金属架橋高分子材料と、上記金属架橋性高分子組成物および金属架橋高分子材料が適用された金属部材ならびにワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
接着材料、硬化成形材料としては、光硬化性材料、湿気硬化性材料、嫌気硬化性材料、カチオン硬化性材料、アニオン硬化性材料、熱硬化性材料など、種々の硬化形態のものが知られている。熱硬化性材料としては、例えばエポキシ硬化材料などが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
湿気硬化性材料、カチオン硬化性材料、アニオン硬化性材料、熱硬化性材料は、硬化に時間がかかる問題点がある。嫌気硬化性材料は、硬化の際に酸素を遮断することが必要である。光硬化性材料は、硬化速度は比較的速いが、光が当たりにくい箇所の硬化が進みにくい。接着材料、硬化成形材料には、タクトタイムの削減、汚染の削減などの観点から、速硬化性が求められる。一方で、使用前には硬化せず、常温等での保存中の品質変化が抑えられるといった保存安定性も必要である。
【0005】
本開示の解決しようとする課題は、硬化速度に優れるとともに、保存安定性に優れる金属架橋性高分子組成物および金属架橋高分子材料と、上記金属架橋性高分子組成物および金属架橋高分子材料が適用された金属部材ならびにワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、熱によって金属イオンが遊離するA成分と、前記A成分から遊離する金属イオンとイオン結合が可能な置換基を持つ有機高分子で構成されるB成分と、を含むものである。
【0007】
そして、本開示に係る金属架橋高分子材料は、本開示に係る金属架橋性高分子組成物の架橋体で構成されるものである。
【0008】
そして、本開示に係る金属部材は、金属基材と、前記金属基材の表面を被覆する被覆材と、を有し、前記被覆材が、本開示に係る金属架橋高分子材料で構成されるものである。
【0009】
そして、本開示に係るワイヤーハーネスは、本開示に係る金属架橋高分子材料を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る金属架橋性高分子組成物によれば、硬化速度に優れるとともに、保存安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る金属部材の断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るワイヤーハーネスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、熱によって金属イオンが遊離するA成分と、前記A成分から遊離する金属イオンとイオン結合が可能な置換基を持つ有機高分子で構成されるB成分と、を含む。このため、硬化速度に優れるとともに、保存安定性に優れる。
【0014】
(2)前記A成分は、50℃以上200℃以下に分解点または相転移点を有するとよい。前記金属架橋性高分子組成物の調製時や前記金属架橋性高分子組成物の使用前には、前記A成分からの金属イオンの遊離が抑えられやすく、前記金属架橋性高分子組成物の硬化が抑えられ、常温等での前記金属架橋性高分子組成物の保存中の品質変化が抑えられるといった保存安定性に優れるからである。また、適度な温度で前記A成分が分解または相転移することによって前記A成分から金属イオンが遊離しやすく、前記金属架橋性高分子組成物の使用時には、硬化速度に優れるからである。
【0015】
(3)前記A成分は、金属錯体であるとよい。配位子による金属イオンの安定化の効果に優れ、前記金属架橋性高分子組成物の調製時や前記金属架橋性高分子組成物の使用前において、前記A成分からの金属イオンの遊離が抑えられるとともに、前記金属架橋性高分子組成物の使用時には、熱によって前記A成分から金属イオンが遊離しやすいからである。
【0016】
(4)前記A成分は、多座配位子または架橋配位子を含む金属錯体であるとよい。多座配位子または架橋配位子による配位は、単座配位子による非架橋型の配位よりも配位子による金属イオンの安定化の効果に優れるため、前記金属架橋性高分子組成物の調製時や前記金属架橋性高分子組成物の使用前において、前記A成分からの金属イオンの遊離がより抑えられるからである。
【0017】
(5)前記A成分は、β-ジケトナト配位子またはアルコキシド配位子を含む金属錯体であるとよい。β-ジケトナト配位子またはアルコキシド配位子は、多座配位または架橋配位を形成しやすく、単座配位子による非架橋型の配位よりも配位子による金属イオンの安定化の効果に優れ、前記金属架橋性高分子組成物の調製時や前記金属架橋性高分子組成物の使用前において、前記A成分からの金属イオンの遊離がより抑えられるからである。
【0018】
(6)前記A成分から遊離する金属イオンの金属は、アルカリ土類金属、亜鉛、チタン、アルミニウムのうちの少なくとも1種であるとよい。2価以上の価数となり、前記金属架橋性高分子組成物の架橋体で構成される金属架橋高分子材料の安定性に優れるからである。
【0019】
(7)前記B成分の前記置換基は、電子求引性基であるとよい。前記A成分から遊離する金属イオンとイオン結合を形成しやすいからである。
【0020】
(8)前記B成分の前記置換基は、カルボン酸基、酸無水物基、リン酸基、スルホン酸基のうちの少なくとも1種であるよい。前記A成分から遊離する金属イオンとイオン結合を形成しやすいからである。
【0021】
(9)前記B成分は、150℃以下において液状であるとよい。比較的低温にて前記金属架橋性高分子組成物を金属表面などに塗布することができるからである。
【0022】
(10)前記B成分100質量部に対し、前記A成分が0.2質量部以上30質量部以下含まれるとよい。前記金属架橋性高分子組成物の硬化速度に優れるとともに、保存安定性に優れるからである。
【0023】
(11)そして、本開示の金属架橋高分子材料は、本開示の金属架橋性高分子組成物の架橋体で構成される。このため、硬化速度に優れるとともに、保存安定性に優れる。
【0024】
(12)そして、本開示の金属部材は、金属基材と、前記金属基材の表面を被覆する被覆材と、を有し、前記被覆材が、本開示の金属架橋高分子材料で構成される。このため、防食効果に優れる。
【0025】
(13)そして、本開示のワイヤーハーネスは、本開示の金属架橋高分子材料を含む。このため、防食効果に優れる。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の金属架橋性高分子組成物、金属架橋高分子材料、金属部材ならびにワイヤーハーネスの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではない。
【0027】
本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、熱によって金属イオンが遊離するA成分と、前記A成分から遊離する金属イオンとイオン結合が可能な置換基を持つ有機高分子で構成されるB成分と、を含む。
【0028】
A成分は、熱によって金属イオンが遊離する成分である。熱によってとは、加熱することを想定したものであり、常温よりも高い温度を想定している。金属イオンが遊離するとは、A成分が分解あるいは相転移することでA成分から金属イオンが遊離することをいう。
【0029】
A成分は、50℃以上200℃以下に分解点または相転移点を有することが好ましい。金属架橋性高分子組成物の調製時や金属架橋性高分子組成物の使用前には、A成分からの金属イオンの遊離が抑えられやすく、金属架橋性高分子組成物の硬化が抑えられ、常温等での金属架橋性高分子組成物の保存中の品質変化が抑えられるといった保存安定性に優れるからである。また、適度な温度でA成分が分解または相転移することによってA成分から金属イオンが遊離しやすく、金属架橋性高分子組成物の使用時には、硬化速度に優れるからである。また、A成分は、上記観点から、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上に分解点または相転移点を有することが好ましい。また、A成分は、上記観点から、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下に分解点または相転移点を有することが好ましい。A成分の分解点または相転移点は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)(測定温度範囲:25℃~200℃、大気中測定)によるベースライン変化開始温度で表される。なお、上記相転移点は、融点を含まないものであり、上記相転移は、融解を含まないものである。
【0030】
A成分から遊離する金属イオンの金属としては、アルカリ土類金属、亜鉛、チタン、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、ジルコニウムなどが挙げられる。上記金属イオンの金属は、これらの金属のうちの少なくとも1種である。上記金属イオンの金属は、これらの金属のうちの1種のみで構成されていてもよいし、2種以上で構成されていてもよい。上記金属イオンの金属としては、好ましくは、アルカリ土類金属、亜鉛、チタン、アルミニウムのうちの少なくとも1種である。これらの金属の金属イオンは2価以上の価数となり、架橋しやすく、金属架橋性高分子組成物の架橋体で構成される金属架橋高分子材料の安定性に優れるからである。そして、上記好ましい金属種のうちでも亜鉛が特に好ましい。金属架橋性高分子組成物の架橋体で構成される金属架橋高分子材料の安定性に特に優れるからである。
【0031】
A成分としては、金属錯体などが挙げられる。金属錯体は、中心となる金属イオンに非共有電子対を持つ配位子が配位結合するもので構成される。A成分は、金属錯体であることが好ましい。配位子による金属イオンの安定化の効果に優れ、金属架橋性高分子組成物の調製時や金属架橋性高分子組成物の使用前において、A成分からの金属イオンの遊離が抑えられるとともに、金属架橋性高分子組成物の使用時には、熱によってA成分から金属イオンが遊離しやすいからである。
【0032】
金属錯体の配位子は、孤立電子対を持つ基を有しており、この基が金属イオンと配位結合することで金属錯体が形成される。配位子としては、配位部位が1か所である単座配位子、配位部位が2か所以上である多座配位子が挙げられる。多座配位子によって生成する金属錯体は、キレート効果により、単座配位子によって生成する金属錯体よりも安定性に優れる。また、配位子としては、1つの配位子が1つの金属イオンに配位する非架橋配位子、1つの配位子が2つ以上の金属イオンに配位する架橋配位子がある。架橋配位子は、単座配位子で構成される場合もあり、多座配位子で構成される場合もある。
【0033】
A成分は、多座配位子または架橋配位子を含む金属錯体であることが好ましい。多座配位子または架橋配位子による配位は、単座配位子による非架橋型の配位よりも配位子による金属イオンの安定化の効果に優れるため、金属架橋性高分子組成物の調製時や金属架橋性高分子組成物の使用前において、A成分からの金属イオンの遊離がより抑えられるからである。
【0034】
金属錯体の配位子としては、β-ジケトナト配位子(1,3-ジケトナト配位子)、アルコキシド配位子などが挙げられる。β-ジケトナト配位子は、下記の一般式(1)で表される。アルコキシド配位子は、下記の一般式(2)で表される。β-ジケトナト配位子としては、アセチルアセトナト配位子(acac)、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト配位子(dpm)、3-メチル-2,4-ペンタジオナト配位子、3-エチル-2,4-ペンタジオナト配位子、3,5-ヘプタンジオナト配位子、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト配位子、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト配位子などが挙げられる。アルコキシド配位子としては、メトキシド配位子、エトキシド配位子、イソプロポキシド配位子、n-プロポキシド配位子、n-ブトキシド配位子などが挙げられる。
【0035】
【化1】
式(1)において、R
1,R
2,R
3は、炭化水素基を表す。R
1,R
2,R
3は、互いに同じ構造の炭化水素基であってもよいし、互いに異なる構造の炭化水素基であってもよい。R
1,R
2,R
3は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香環を含む炭化水素基であってもよい。R
1,R
2,R
3は、炭素数1以上10以下の炭化水素基であるとよい。R
3は水素であってもよい。
【化2】
式(2)において、R
4は、炭化水素基を表す。R
4は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香環を含む炭化水素基であってもよい。R
4は、炭素数1以上10以下の炭化水素基であるとよい。
【0036】
A成分は、β-ジケトナト配位子またはアルコキシド配位子を含む金属錯体であるとよい。β-ジケトナト配位子またはアルコキシド配位子は、多座配位または架橋配位を形成しやすく、単座配位子による非架橋型の配位よりも配位子による金属イオンの安定化の効果に優れ、金属架橋性高分子組成物の調製時や金属架橋性高分子組成物の使用前において、A成分からの金属イオンの遊離がより抑えられるからである。
【0037】
B成分は、A成分から遊離する金属イオンとイオン結合が可能な置換基を持つ有機高分子で構成される成分である。金属イオンとイオン結合が可能な置換基としては、カルボン酸基、酸無水物基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられる。上記置換基には、水酸基は含まれない。上記置換基は、例示する置換基のうちの1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。上記置換基は、例示する置換基のうちの少なくとも1種であるとよい。A成分から遊離する金属イオンとイオン結合を形成しやすいからである。また、上記置換基は、電子求引性基であるとよい。A成分から遊離する金属イオンとイオン結合を形成しやすいからである。
【0038】
B成分における上記置換基の含有量は、特に限定されるものではないが、架橋による物性確保などの観点から、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上3質量%以下である。
B成分における上記置換基の含有量は、赤外分光スペクトルの置換基特有ピークの大きさを、含有量既知材料スペクトルピークの大きさと比較することにより求めることができる。
【0039】
B成分の有機高分子は、樹脂、ゴム、エラストマーなどの有機重合体である。B成分は、常温において液状であってもよいし、常温において固形状であってもよいが、150℃以下において液状であることが好ましい。比較的低温にて金属架橋性高分子組成物を金属表面などに塗布することができるからである。また、B成分は、常温において液状であるとよい。常温で金属架橋性高分子組成物を金属表面などに塗布することができるからである。また、金属架橋性高分子組成物の調製が容易となるからである。また、B成分は、分子量1000以上であることが好ましい。常温において液状であっても、架橋によって容易に硬化するからである。一方で、常温において液状となりやすいなどの観点から、B成分は、分子量100000以下であることが好ましい。より好ましくは分子量50000以下である。B成分の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析による数平均分子量(Mn)で表される。
【0040】
B成分の有機高分子としては、ポリオレフィン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、オルガノポリシロキサン(シリコーン)などが挙げられる。B成分の置換基は、有機高分子の主鎖に導入されたものであってもよいし、側鎖に導入されたものであってもよい。B成分の有機高分子としては、常温における流動性などの観点から、ポリブタジエン、ポリイソプレンが特に好ましい。
【0041】
金属架橋性高分子組成物においては、B成分100質量部に対し、A成分が0.2質量部以上30質量部以下含まれるとよい。金属架橋性高分子組成物の硬化速度に優れるとともに、保存安定性に優れるからである。また、この観点から、A成分の含有量の下限値は、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上である。そして、A成分の含有量の上限値は、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下、特に好ましくは10質量部以下、5.0質量部以下である。
【0042】
本開示の金属架橋性高分子組成物は、材料の機能を妨げない範囲においては、希釈剤、分散剤、着色剤などの添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0043】
金属架橋性高分子組成物は、A成分とB成分を混合することにより、容易に調製することができる。金属架橋性高分子組成物の調製に際し、必要に応じて加熱をしてもよい。
【0044】
以上の構成の本開示に係る金属架橋性高分子組成物によれば、熱によってA成分から金属イオンが遊離し、遊離した金属イオンがB成分の置換基とイオン結合し、イオン結合を介してB成分の有機高分子が架橋する。イオン結合の形成速度は共有結合の形成速度よりも速く、このため、本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、硬化速度に優れる。また、A成分は熱によって金属イオンが遊離するものであり、金属イオンが遊離する温度まではA成分から金属イオンが遊離せず、イオン結合によるB成分の有機高分子の架橋は進行しない。したがって、本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、保存安定性にも優れる。また、本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、イオン結合を介してB成分の有機高分子が架橋するものであり、結合力はファンデルワールス力よりも強く、強靭な架橋体を形成する。また、本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、イオン結合を介してB成分の有機高分子が架橋するものであるから、耐熱性、耐薬品性に優れる。
【0045】
本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、熱によって容易に架橋・硬化する。本開示に係る金属架橋高分子材料は、本開示に係る金属架橋性高分子組成物の架橋体で構成される。
【0046】
本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、接着材料、硬化成形材料として好適に用いることができる。また、防食用途などに用いることができる。例えば、表面保護対象の金属基材の表面に密着させて金属基材を覆って金属腐食を防止する防食用として用いることができる。また、防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0047】
次に、本開示に係る金属部材について説明する。
図1には、一実施形態に係る金属部材の断面図を示している。
【0048】
金属部材10は、金属基材12と、金属基材12の表面を被覆する被覆材14と、を有し、被覆材14が、本開示に係る金属架橋高分子材料で構成される。本開示に係る金属部材10は、被覆材14が本開示の金属架橋高分子材料で構成されるため、防食効果に優れる。
【0049】
次に、本開示に係るワイヤーハーネスについて説明する。本開示に係るワイヤーハーネスは、本開示に係る金属架橋高分子材料を含むものである。具体的には、例えば、ワイヤーハーネスにおける端子付き被覆電線の端子金具と電線導体の電気接続部を覆う防食剤や、部品を固定するモールド材料、接着材料などに、本開示に係る金属架橋高分子材料を用いる形態などが挙げられる。
【0050】
次に、本開示に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0051】
本開示に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本開示に係る金属架橋高分子材料(本開示に係る金属架橋性高分子組成物の硬化物)により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0052】
図2は、本開示の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、
図3は
図2におけるA-A線縦断面図である。
図2、
図3に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0053】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0054】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0055】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本開示に係る金属架橋性高分子組成物の硬化物7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、硬化物7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように硬化物7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように硬化物7で覆われる。そして、
図3に示すように、端子金具5の側面5bも硬化物7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは硬化物7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。硬化物7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0056】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が硬化物7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は硬化物7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は硬化物7により完全に覆われる。硬化物7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、硬化物7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、硬化物7の周端で硬化物7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0057】
硬化物7を形成する本開示に係る金属架橋性高分子組成物は、所定の範囲に塗布される。硬化物7を形成する本開示に係る金属架橋性高分子組成物の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。
【0058】
硬化物7は、所定の厚みで所定の範囲に形成される。その厚みは、0.1mm以下が好ましい。硬化物7が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。
【0059】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0060】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0061】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0062】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0063】
なお、
図2に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本開示を説明するが、本開示は、実施例により限定されるものではない。
【0065】
<金属架橋性高分子組成物の調製>
(実施例1~11)
表1に記載の配合組成(質量部)で、常温にてA成分とB成分をメノウ乳鉢で5分間混合し、金属架橋性高分子組成物を調製した。
【0066】
(比較例1)
A成分を配合しないでB成分のみを用いた。
【0067】
(比較例2~3)
B成分に代えて他の有機高分子を用いた。
【0068】
(比較例4~8)
A成分に代えて他の含金属化合物を用いた。
【0069】
(比較例9)
エポキシ樹脂を用いた。
【0070】
用いた材料は以下の通りである。
(A成分:熱によって金属イオンが遊離する成分)
・Zn-AA:亜鉛(II)アセチルアセトナート(分解開始点:105℃)
・Ca-AA:カルシウム(II)アセチルアセトナート(相転移開始点:110℃)
・Al-AA:アルミニウム(III)アセチルアセトナート(相転移開始点:112℃)
・Al-IP:アルミニウム(III)トリイソプロポキシド(相転移開始点:94℃)
・Ca-Met:カルシウム(II)メトキシド(相転移開始点:101℃)
・Ti-IP:チタン(IV)テトライソプロポキシド(分解開始点:85℃)
なお、A成分の分解点または相転移点は、各成分について示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)(測定温度範囲:25℃~200℃、大気中測定)を行ったときのベースライン変化開始温度である。
(他の含金属化合物)
・ZnO:酸化亜鉛(II)
・Zn-St:ステアリン酸亜鉛(II)
・Ca-St:ステアリン酸カルシウム(II)
・Al-St:ステアリン酸アルミニウム(III)
・Ca(OH)2:水酸化カルシウム(II)
なお、上記他の含金属化合物は、上記測定温度範囲内において、分解点または相転移点についてのベースライン変化は観測されなかった。
(B成分:イオン結合可能な置換基を持つ有機高分子)
・MA5:無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン(CRAY VALLEY製)、数平均分子量4700、置換基当量2350g/mol
・MA13:無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン(CRAY VALLEY製)、数平均分子量2900、置換基当量730g/mol
・UC3510:カルボキシル基導入液状ポリアクリレート(東亞合成製)、数平均分子量2000、置換基当量801g/mol
・X-22-3701E:カルボキシル変性シリコーンオイル(信越化学工業製)、置換基当量4000g/mol
(他の有機高分子)
・R134:液状ポリブタジエン(CRAY VALLEY製)、数平均分子量8000、イオン結合可能な置換基なし
・EPOL:水酸基末端液状ポリオレフィン(出光昭和シェル製)、数平均分子量3300、置換基当量1650g/mol
・エポキシ樹脂:三菱ケミカル製「jER828」(エポキシ当量184以上194以下)、硬化剤三菱ケミカル製「ST12」(アミン当量345以上385以下KOHmg/g)、エポキシ樹脂/硬化剤=67/33(質量部)
【0071】
<評価>
(保存安定性)
各組成物の調製時(常温下、混合5分間)に、硬化が進行するか否かにより、保存安定性を評価した。調製時に組成物の硬化が進行すると、粘度の上昇によりメノウ乳鉢での混合が困難になる。保存安定性に優れるものを「E」、保存安定性に優れないものを「N」とした。
【0072】
(硬化時間)
50mm×50mm×0.5mm厚の銅板を予め120℃に加熱しておき、その上に調製した各組成物を0.1g垂らした。各組成物を加熱した銅板上に垂らした時点を0s(0秒)とし、垂らした組成物が硬化するまでの時間を硬化時間とした。組成物が硬化するまでの時間は、垂らした組成物の表面にスパーテルを当てて引き上げたときに組成物が糸を引かなくなった時点とした。60s以内に硬化が確認されたものは、硬化速度に優れる(硬化が速い)。
【0073】
【0074】
比較例1は、組成物がA成分を含まないため、組成物を加熱しても金属イオンは遊離せず、組成物は無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンのままであり、組成物は加熱時間が600sを超えても硬化しなかった。比較例2は、B成分に代えて、イオン結合可能な置換基を有していない液状ポリブタジエンを用いているため、組成物はA成分を含んでいるが、加熱時間600sを超えても硬化しなかった。比較例3は、B成分に代えて、水酸基を持つ液状ポリオレフィンを用いている。水酸基は金属イオンとイオン結合しないため、組成物はA成分を含んでいるが、加熱時間600sを超えても硬化しなかった。
【0075】
比較例4は、A成分に代えて酸化亜鉛を用いている。酸化亜鉛は加熱しても金属イオンを遊離しないため、組成物はB成分を含んでいるが、加熱時間600sを超えても硬化しなかった。比較例5~7は、A成分に代えて脂肪酸金属塩を用いている。脂肪酸金属塩を加熱しても熱分解によって金属酸化物が形成されるだけであり、組成物を加熱しても金属イオンは遊離せず、組成物はB成分を含んでいるが、加熱時間600sを超えても硬化しなかった。比較例8は、A成分に代えて水酸化カルシウムを用いている。水酸化カルシウムは、常温下でも金属イオンが遊離するため、組成物の調製時において組成物の硬化が起こり、保存安定性に劣る。比較例9は、市販の常温硬化型の2液型エポキシ樹脂を用いており、加熱により硬化速度は速くなっているが、硬化までに300s以上を要した。
【0076】
一方、実施例1~11は、組成物が、熱によって金属イオンが遊離するA成分と、金属イオンとイオン結合が可能な置換基を持つ有機高分子で構成されるB成分と、を含むもので構成されており、保存安定性に優れるとともに、加熱時間60s以内でいずれも硬化しており、硬化速度に優れる。
【0077】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
2a 被覆電線の先端
3 電線導体
3a 素線
4 絶縁被覆(絶縁体)
5 端子金具
5a 端子金具の先端
5b 端子金具の側面
5c 端子金具の裏面
51 接続部
52 ワイヤバレル
53 インシュレーションバレル
54 電線固定部
6 電気接続部
7 硬化物