(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】セメント質硬化体の表面における白華の発生可能性の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240327BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20240327BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2020069979
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】七尾 舞
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013021(JP,A)
【文献】特開平07-048186(JP,A)
【文献】特開2006-292501(JP,A)
【文献】米国特許第05430291(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 23/046
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質硬化体の表面における白華の発生の可能性を評価するための方法であって、
上記セメント質硬化体に対してX線CT法を適用して、上記セメント質硬化体の内部における密度の分布を示す画像を
、白色度が大きいほど上記密度が相対的に大きいものである画像として得る画像取得工程と、
上記画像を分析して、上記画像中で
上記密度が相対的に大きい部分を、
白色度がより大きく、白華の発生の可能性が
より高い部分として評価する画像分析工程、
を含むことを特徴とするセメント質硬化体の表面における白華の発生可能性の評価方法。
【請求項2】
上記セメント質硬化体が、舗装面を有する表層部分と、基層部分とが積層されてなるインターロッキングブロックである請求項1に記載の白華の発生可能性の評価方法。
【請求項3】
上記画像取得工程における上記画像の取得が、以下の(a)~(c)の中の一つ以上によって行われる
請求項2に記載の白華の発生可能性の評価方法。
(a) 上記インターロッキングブロックの上記表層部分における厚さ方向の任意に定めた地点に対して、上記舗装面と平行な断面の画像が得られるように、上記X線CT法を適用すること
(b) 上記インターロッキングブロックの上記基層部分における厚さ方向の任意に定めた地点に対して、上記舗装面と平行な断面の画像が得られるように、上記X線CT法を適用すること
(c) 上記インターロッキングブロックの上記表層部分の上記舗装面の長さ方向または幅方向における任意に定めた地点に対して、上記舗装面と垂直な断面の画像が得られるように、上記X線CT法を適用すること
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質硬化体の表面(例えば、インターロッキングブロックの舗装面)における白華の発生可能性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント質硬化体(具体的には、コンクリート、モルタルまたはセメントペーストからなる硬化体)の表面に、白華と呼ばれる現象が生じうることが、知られている。
白華は、セメント、水等を含むセメント含有組成物(コンクリート等)中の可溶性成分を含む水分が、該セメント含有組成物の成形体の内部から表面に移動し、該可溶性成分が空気中の炭酸ガスと反応して、白色の物質からなる部分を当該表面に形成させる現象である。白華は、セメント質硬化体からなる製品の美観を損ねるので、好ましくない。
【0003】
従来、コンクリートの表面における白華の発生を予測する方法や、コンクリートの表面における白華の程度(度合)を評価するための方法が知られている。
一例として、特許文献1に、即時脱型コンクリートブロックから蒸発する水の量を測定する工程と、即時脱型コンクリートブロックから溶出するカルシウムイオン量を測定し、溶出カルシウムイオン積算値が特定の値を超えているか否かを確認する工程と、即時脱型コンクリートブロックのブロック充填率を測定し、ブロック充填率が特定の値を超えているか否かを確認する工程と、を含む即時脱型コンクリートブロックにおける白華の発生を予測する方法が、記載されている。
【0004】
他の例として、特許文献2に、コンクリート試験体の白華発生前と白華発生後の画像を撮影し、それぞれの画像データから得られる光の三原色であるR(赤)G(青)B(緑)の平均値を算出し、R(赤)G(青)B(緑)の平均値の合計をRGB合計値とし、白華発生後のRGB合計値から白華発生前のRGB合計値を差し引くことにより、RGB変化量値を算出し、かかるRGB変化量値により、コンクリートの白華発生度合を評価することを特徴とする、コンクリートの白華発生度合評価方法が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-13021号公報
【文献】特開2014-41027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、セメント質硬化体の表面(例えば、インターロッキングブロックの舗装面)における白華の発生の可能性の高低を評価することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、セメント質硬化体に対してX線CT法を適用して、セメント質硬化体の内部における密度の分布を示す画像を得た後、この画像を分析して、画像中で密度が相対的に大きい部分を、白華の発生の可能性が高い部分として評価するという方法によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] セメント質硬化体の表面における白華の発生の可能性を評価するための方法であって、上記セメント質硬化体に対してX線CT法を適用して、上記セメント質硬化体の内部における密度の分布を示す画像を、白色度が大きいほど上記密度が相対的に大きいものである画像として得る画像取得工程と、上記画像を分析して、上記画像中で上記密度が相対的に大きい部分を、白色度がより大きく、白華の発生の可能性がより高い部分として評価する画像分析工程、を含むことを特徴とするセメント質硬化体の表面における白華の発生可能性の評価方法。
[2] 上記セメント質硬化体が、舗装面を有する表層部分と、基層部分とが積層されてなるインターロッキングブロックである、上記[1]に記載の白華の発生可能性の評価方法。
[3] 上記画像取得工程における上記画像の取得が、以下の(a)~(c)の中の一つ以上によって行われる、上記[2]に記載の白華の発生可能性の評価方法。
(a) 上記インターロッキングブロックの上記表層部分における厚さ方向の任意に定めた地点に対して、上記舗装面と平行な断面の画像が得られるように、上記X線CT法を適用すること
(b) 上記インターロッキングブロックの上記基層部分における厚さ方向の任意に定めた地点に対して、上記舗装面と平行な断面の画像が得られるように、上記X線CT法を適用すること
(c) 上記インターロッキングブロックの上記表層部分の上記舗装面の長さ方向または幅方向における任意に定めた地点に対して、上記舗装面と垂直な断面の画像が得られるように、上記X線CT法を適用すること
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、セメント質硬化体の表面における白華の発生の可能性の高低を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】インターロッキングブロックの一例を示す斜視図である。
【
図2】実施例1で用いたインターロッキングブロックの舗装面における白華の発生状況を示す写真である。
【
図3】実施例1で用いたインターロッキングブロックの表層部分における水平方向に延びる断面のX線CT画像である。
【
図4】実施例1で用いたインターロッキングブロックの基層部分における水平方向に延びる断面のX線CT画像である。
【
図5】実施例1で用いたインターロッキングブロックにおける幅方向の中央で鉛直方向に延びる断面のX線CT画像である。
【
図6】
図5に示すX線CT画像を2値化して、明暗を強調した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、セメント質硬化体の表面における白華の発生の可能性を評価するための方法であって、セメント質硬化体に対してX線CT法を適用して、セメント質硬化体の内部における密度の分布を示す画像を得る画像取得工程と、得られた画像を分析して、この画像中で密度が相対的に大きい部分を、白華の発生の可能性が高い部分として評価する画像分析工程、を含む方法である。
以下、セメント質硬化体がインターロッキングブロックである場合について、工程毎に詳しく説明する。
【0012】
図1中、インターロッキングブロック1は、舗装面4を有する表層部分2と、基層部分3とが積層されてなるものである。
ここで、舗装面とは、施工現場において、複数のインターロッキングブロックを敷き詰めて、舗装構造体(通常、インターロッキングブロック、及び、インターロッキングブロック間に介在する目地砂を含むもの)を形成させた場合における当該舗装構造体の上面(歩行者等が通行するための路面)をいう。
インターロッキングブロック1としては、非透水性または透水性のものを用いることができる。中でも、空隙を有しないために、X線CT法による画像中における密度の高低を、空隙の影響を受けずに評価しうる点で、非透水性のものが、本発明において、好ましく用いられる。
【0013】
非透水性のインターロッキングブロック1の一例は、表層部分2がセメント、細骨材(例えば、珪砂)、及び、水からなり、かつ、基層部分3がセメント、細骨材(例えば、山砂)、粗骨材(例えば、粒径が13mm以下の砕石)、及び、水からなるものである。
この場合、表層部分2における水セメント比(水/セメントの質量比×100%)は、好ましくは25~35%である。基層部分3における水セメント比は、好ましくは22~32%である。
本発明において、セメント質硬化体の他の例としては、インターロッキングブロック以外の即時脱型コンクリート製品(例えば、コンクリート平板)や、即時脱型以外の方法によるコンクリート製品(例えば、所定の養生後に脱型して製造されるもの)が挙げられる。
インターロッキングブロック1の寸法は、特に限定されないが、例えば、長さが150~300mm、幅(長さと同等以下の寸法)が50~200mm、厚さが50~200mmである。この場合、表層部分2の厚さは、3~10mmである。
【0014】
[画像取得工程]
画像取得工程は、インターロッキングブロック1に対してX線CT法を適用して、インターロッキングブロック1の内部における密度の分布を示す画像を得る工程である。
画像の取得は、以下の(a)~(c)の中の一つ以上によって行われる。
(a) インターロッキングブロック1の表層部分2における厚さ方向の任意に定めた地点に対して、舗装面4と平行な断面の画像が得られるように、X線CT法を適用すること
(b) インターロッキングブロック1の基層部分3における厚さ方向の任意に定めた地点に対して、舗装面4と平行な断面の画像が得られるように、X線CT法を適用すること
(c) インターロッキングブロック1の表層部分2の舗装面4の長さ方向または幅方向における任意に定めた地点に対して、舗装面4と垂直な断面の画像が得られるように、X線CT法を適用すること
【0015】
本発明において、X線CT法とは、セメント質硬化体(インターロッキングブロック1)中の画像取得の対象面である断面を横断するX線の吸収に関する情報を、コンピュータに記憶させ、この情報に基いて、当該断面の画像を得る方法をいう。
なお、X線CT法における「CT」とは、コンピュータ断層撮影(computed tomography)を意味する。
上記(a)~(c)の中で、上記(a)の方法は、表層部分2の内部の断面を画像化するものであり、上記(c)とは異なり、舗装面4の全体に亘る領域に関する情報を得ることができ、また、上記(b)とは異なり、粗骨材の影響を受けない点で、最も好ましい。
【0016】
[画像分析工程]
画像分析工程は、画像取得工程で得られた画像を分析して、該画像中で密度が相対的に大きい部分を、白華の発生の可能性が高い部分として評価する工程である。
画像の分析は、目視でもよいし、人工知能(AI)等の適用でもよい。
画像中、密度が相対的に大きい部分は、例えば、白色度が、より大きい部分として表される。
画像中、密度が相対的に大きい部分は、画像を2値化して、明暗を強調することによって、より明瞭に、密度が相対的に小さい部分との差異を目視で認識し易いように表すことができる。
【0017】
製品として製造された多数のインターロッキングブロックに対して、本発明の方法を適用することによって、例えば、製品として出荷可能なもの(優良品)と、白華の発生の可能性が高い部分を有するもの(不良品)を各々、選別することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(A)使用した材料
(1)セメント:普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3)
(2)基層用の細骨材:山砂(FM:2.68、表乾密度:2.58g/cm3)
(3)基層用の粗骨材:6号砕石(硬質砂岩、FM:6.05)
(4)表層用の細骨材:5号珪砂(FM:2.21、表乾密度:2.60g/cm3)
(5)水:上水道水
【0019】
(B)インターロッキングブロックの製造
表1に示す材料及び配合量で、
図1に示す2層のブロックとして、200mm(長さ)×100mm(幅)×100mm(厚さ)の寸法を有するインターロッキングブロック1を作製した。表層部分2の厚さは5mmであり、基層部分3の厚さは95mmであった。
作製から14日後に、インターロッキングブロック1に白華の発生が認められた。
この白華を有するインターロッキングブロック1を上方から撮影した写真を、
図2に示す。
図2中、楕円の実線で囲んだ白色の部分は、舗装面4に表れた白華を示す。
【0020】
【0021】
(C)X線CT法の適用
次に、インターロッキングブロック1に対して、X線CT法を適用して、以下の画像を得た。
X線CT法は、X線CT装置である「マイクロフォーカスX線CTシステム」(島津製作所社製;商品名「inspeXio SMX-225CT」)を用いて行った。
図3に示す画像は、舗装面4から1mmの距離にある表層部分2の断面(舗装面4と平行な、水平方向に延びる断面)の画像である。
図3中、楕円の点線で囲んだ部分は、他の部分よりも白色度が高い領域を示す。白色度が高いことは、密度が大きいことを示す。
図4に示す画像は、舗装面4から30mmの距離にある基層部分3の断面(舗装面4と平行な、水平方向に延びる断面)の画像である。
図4中、楕円の点線で囲んだ部分は、当該部分の左方に位置する部分よりも白色度が高い領域を示す。
【0022】
図5に示す画像は、舗装面4における幅方向の中央で鉛直方向に延びる断面(舗装面4と垂直な断面)の画像である。
図5中、黒色の点線の上方に位置する部分は、他の部分よりも白色度が高い領域を示す。
図6に示す画像は、
図5に示す画像を2値化して、明暗(白色の部分と黒色の部分の差異)を強調した画像である。
図3~
図6から、X線CT法で得た画像の中で白色度が高い部分(密度が大きい部分)は、
図2に示す白華が発生した領域と一致していることがわかる。
したがって、白華が発生する前であっても、製造したインターロッキングブロックについて、X線CT法を適用して、画像を見れば、その画像の中で白色度が高い部分(密度が大きい部分)を、白華の発生の可能性が高い部分として評価することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 インターロッキングブロック
2 表層部分
3 基層部分
4 舗装面