(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240327BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D3/10 101
(21)【出願番号】P 2020085918
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】井出 雄介
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-098540(JP,A)
【文献】特開2014-012980(JP,A)
【文献】特開2005-016232(JP,A)
【文献】特開2013-127189(JP,A)
【文献】特許第5728747(JP,B1)
【文献】特開昭62-242006(JP,A)
【文献】特開2014-084555(JP,A)
【文献】特開2006-299600(JP,A)
【文献】特許第5728694(JP,B1)
【文献】特開2013-241812(JP,A)
【文献】特開2005-232742(JP,A)
【文献】特開2013-241810(JP,A)
【文献】特開2009-203678(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0116562(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 1/00-3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土の下方の地盤を改良する地盤改良工法であって、
前記盛土の下方の地盤を囲むように
、内外二重の固化体による止水壁を
薬液注入工法により形成し、
前記止水壁と、前記止水壁の底部を閉じる遮水層とにより囲まれた地盤改良範囲で揚水を行った後、
薬液を前記地盤改良範囲内で流下させ、前記薬液を前記地盤改良範囲の全平面に下方から順に充填して薬液水位を上昇させてゆ
き、この際、
前記盛土の上面から前記地盤改良範囲に注入管を挿入し、前記注入管の下端から前記薬液を前記地盤改良範囲内へと流下させ、
薬液水位を上昇させるに当たって、薬液水位が前記注入管の下端に達したところで前記注入管を引き上げる作業を繰り返すことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記薬液は緩結性の薬液であることを特徴とする請求項
1記載の地盤改良工法。
【請求項3】
前記盛土の上に鉄道の軌道または道路が設けられることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の鉄道盛土の支持地盤が地震時に液状化すると、盛土による上載圧で液状化地盤が側方流動し、盛土に大きな沈下が発生する。
【0003】
このような沈下を防ぐための液状化対策としては様々な工法があるものの、営業線の鉄道盛土の支持地盤に適用できる工法は、現地制約条件などにもよるが現状ほぼ薬液注入に限られている。特許文献1には、盛土等の直下にある地盤の半楕円状の範囲を、薬液注入等により地盤改良することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常の薬液注入工法により地盤改良を行う場合、地盤中の間隙水を薬液に置換するため大きな注入圧をかけて薬液を注入する必要があり、注入圧により盛土上の軌道が隆起する恐れがある。上がってしまった軌道設備を下げる作業は、下がってしまった軌道設備を上げる作業に比べてかなり大変なものとなる。
【0006】
その他、通常の薬液注入工法により地盤改良を行う場合、地盤改良範囲の全面改良を行うには大きなコストがかかるという課題もある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、好適に地盤改良を行うことのできる地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための本発明は、盛土の下方の地盤を改良する地盤改良工法であって、前記盛土の下方の地盤を囲むように、内外二重の固化体による止水壁を薬液注入工法により形成し、前記止水壁と、前記止水壁の底部を閉じる遮水層とにより囲まれた地盤改良範囲で揚水を行った後、薬液を前記地盤改良範囲内で流下させ、前記薬液を前記地盤改良範囲の全平面に下方から順に充填して薬液水位を上昇させてゆき、この際、前記盛土の上面から前記地盤改良範囲に注入管を挿入し、前記注入管の下端から前記薬液を前記地盤改良範囲内へと流下させ、薬液水位を上昇させるに当たって、薬液水位が前記注入管の下端に達したところで前記注入管を引き上げる作業を繰り返すことを特徴とする地盤改良工法である。
【0009】
本発明では、地盤改良範囲の側方に止水壁を設け、止水壁と遮水層に囲まれた地盤改良範囲について揚水を行った後、薬液注入を行うので、薬液は地盤改良範囲内を自然流下して下方から充填される。従って、薬液注入時の注入圧を低減または無くすことができ、注入圧による盛土上の軌道等の隆起を無くすことができる。また揚水後の地盤改良範囲に薬液を注入するので薬液の流動性も高く、地盤改良範囲の全面改良をより確実に行うことができ、且つ薬液注入のための注入管等を設ける箇所も少なくて済むのでコスト低減、工期短縮につながる。
【0010】
前記遮水層は、例えば地盤の不透水層であり、前記止水壁は前記不透水層に下端が達するように設けられる。
適当な深さの位置に不透水層が存在する場合、止水壁をその下端が不透水層に達するように設け、不透水層を前記の遮水層として利用することができる。
【0011】
前記薬液は、例えば緩結性の薬液である。
薬液としてゲルタイム(固化時間)を長くした緩結性の薬液を用いることで薬液が流下中に固化することがなく、また薬液自体の流動性も高まるので、薬液を地盤改良範囲に好適に充填することができる。
【0012】
前記盛土の上には、例えば鉄道の軌道または道路が設けられる。
本発明の地盤改良工法は、注入管等を設ける箇所が少なくて済むことから、盛土上を鉄道の軌道や道路として供用しながら工事を行うのに適している。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、好適に地盤改良を行うことのできる地盤改良工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】止水壁10を構築する工程について説明する図。
【
図4】地盤改良範囲Aの揚水を行う工程について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係る地盤改良工法を実施する地盤2を示す図である。地盤2では、砂質土層などの透水層21の直下に粘性土層などの不透水層22が存在する。
【0017】
地盤2の上には盛土1が存在する。盛土1は台形状であり、その上には例えば鉄道の軌道100が設けられる。ただし、盛土1の上に道路が設けられる場合もあり、その他の施設や設備、例えば河川堤防等が設けられる場合もある。また盛土1の形状も台形に限らない。
【0018】
本実施形態の地盤改良工法では、盛土1の下方の透水層21の地盤改良を行うものとし、まず
図2に示すように、透水層21の地盤改良範囲Aの側方に止水壁10を構築する。止水壁10は、その下端が不透水層22に達するように構築される。
【0019】
止水壁10は通常の薬液注入工法により構築できる。すなわち、透水層21に挿入したロッド(不図示)の孔からシリカ等の固化材による薬液を透水層21に注入して球状の固化体11を形成する。固化体11は鉛直方向に複数形成し、これら複数の固化体11を上下にラップさせる。本実施形態では止水性を確保するため内外二重に固化体11を形成し、内外の固化体11もラップさせることで止水壁10を構築する。
【0020】
図3は止水壁10の配置を平面において示した図であり、本実施形態では止水壁10が平面において地盤改良範囲Aを囲むように構築される。地盤改良範囲Aは、止水壁10とその底部を閉じる不透水層22(遮水層)により箱型に囲まれることとなる。
【0021】
本実施形態では、次に、
図4(a)に示すように、止水壁10と不透水層22で囲まれた地盤改良範囲Aを盛土1から削孔して地盤改良範囲Aに揚水管20を挿入し、この揚水管20を介して
図4(b)に示すように地盤改良範囲Aの地下水を揚水する。これにより、地盤改良範囲Aを不飽和地盤とする。
【0022】
そして、
図5に示すように地盤改良範囲Aに注入管30を挿入し、注入管30を介して薬液4を地盤改良範囲Aに注入する。地盤改良範囲Aは揚水により不飽和地盤となっているので、注入圧をかけずとも薬液4は地盤改良範囲A内を自然に流下し、地盤改良範囲Aの下方から順に薬液4が充填されてゆく。
【0023】
なお、薬液4には止水壁10と同様、シリカ等の固化材が用いられるが、この固化材はゲルタイム(固化時間)を例えば1日以上と長くした緩結性のものとする。ゲルタイムの増減は、シリカ等に混合する硫酸量の増減により実現できる。
【0024】
地盤改良範囲Aは止水壁10と不透水層22で囲まれているので、薬液水位は徐々に上がってくる。本実施形態では
図6(a)に示すように薬液水位が注入管30の下端に達したところで
図6(b)に示すように注入管30を引き上げて薬液4の注入を続行し、以下これを繰り返すことで
図7に示すように地盤改良範囲Aの上部まで薬液4が充填されれば作業を終了する。地盤改良範囲Aの上部まで薬液4が充填されたことは、例えば地盤改良範囲Aに別途設けた観測孔(不図示)を用いて確認することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態では、地盤改良範囲Aの側方に止水壁10を設け、止水壁10と不透水層22に囲まれた地盤改良範囲Aについて揚水を行った後、薬液注入を行うので、薬液4は地盤改良範囲A内を自然流下して下方から充填される。従って、薬液注入時の注入圧を低減または無くすことができ、注入圧による盛土1上の軌道100の隆起を無くすことができる。
【0026】
また本実施形態では揚水後の地盤改良範囲Aに薬液4を注入するので薬液4の流動性も高く、地盤改良範囲Aの全面改良をより確実に行うことができ、且つ地盤2等を削孔して注入管30等を設ける箇所も少なくて済むのでコスト低減、工期短縮につながる。また注入管30等を設ける箇所が少なくて済むことから、盛土1上を鉄道の軌道100や道路として供用しながら工事を行うのに適している。
【0027】
さらに、薬液4としてゲルタイムを長くした緩結性の薬液4を用いることで、薬液4が地盤改良範囲Aの流下中に固化することがなく、また薬液4自体の流動性も高まるので、薬液4を地盤改良範囲Aに好適に充填することができる。
【0028】
しかしながら、本発明の地盤改良工法は上記の実施形態に限ることはない。例えば本実施形態では地盤改良範囲Aが止水壁10と不透水層22に囲まれているが、不透水層22が深い位置にある場合などでは、
図8に示すように、固化体11による遮水層10aを止水壁10の底部を閉じるように設け、止水壁10と遮水層10aで地盤改良範囲Aが囲まれるようにしてもよい。
【0029】
一方、適当な深さの位置に不透水層22が存在する場合、前記の実施形態のように、止水壁10をその下端が不透水層22に達するように設けるだけで、地盤改良範囲Aを止水壁10と不透水層22で囲うことができ、施工が簡単になる。
【0030】
また、本実施形態では止水壁10を固化体11により構築したが、止水壁10は固化体11によるものに限らない。例えばシートパイルなどの壁材を透水層21に挿入して止水壁として用いてもよい。止水壁10の平面形状なども地盤改良範囲Aに応じて定められ、特に限定されない。
【0031】
また揚水管20や注入管30の配置、本数なども特に限定されない。例えば
図5の例では、1本の注入管30を、盛土1の幅方向(
図5の左右方向に対応する)の中間部分に設けているが、注入管30は盛土1の幅方向に間隔を空けて複数本設けてもよく、また軌道100等の状況によっては注入管30を鉛直方向から傾斜させて設けることも考えられる。その他、注入管30を軌道方向(
図5の紙面法線方向に対応する)に設ける本数なども、上記と同様に適宜定められる。これらは揚水管20についても同様である。
【0032】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0033】
1:盛土
2:地盤
4:薬液
10:止水壁
10a:遮水層
11:固化体
20:揚水管
21:透水層
22:不透水層
30:注入管
100:軌道
A:地盤改良範囲