(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】コンクリートまたはモルタルに使用される白華抑制剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/08 20060101AFI20240327BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20240327BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240327BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C04B24/08
C04B22/16 Z
C04B24/12 A
C04B24/16
(21)【出願番号】P 2020086482
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019096077
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 匠平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-021740(JP,A)
【文献】特開平07-291768(JP,A)
【文献】特開2006-183446(JP,A)
【文献】特開2005-306683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0054056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートまたはモルタルに使用される白華抑制剤であって、
以下の(1)~(3)の化合物:
(1)アルキル基の炭素数が9以上であるPOEアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩
(2)重合度が
5以上の縮合リン酸またはその塩
(3)前記化合物(2)以外のリン系キレート剤
のうちの1種または2種以上を含むとともに、
前記化合物(2)における塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩のうちのいずれかであ
り、
前記化合物(3)のリン系キレート剤は、アミノホスフェートおよびアミノホスホン酸、C-OH基を含むジホスホン酸、ホスホノトリカルボン酸のうちの少なくともいずれかである、
白華抑制剤。
【請求項2】
さらに、POE脂肪酸アミドまたはジアルキルスルホコハク酸塩を含む、請求項1記載の白華抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートまたはモルタルに使用される白華抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリートまたはモルタルの白華現象が知られている。ここで、「白華現象」とは、コンクリートブロックなどの表面に白色の結晶が生じる現象である。具体的には、コンクリートの原料であるセメントと水が反応することで、副生物として水酸化カルシウムが生成し、この水酸化カルシウムがコンクリート内部の水に溶解し、カルシウムイオンとして表面に移行することで、大気中の二酸化炭素と反応して難溶性の炭酸カルシウムが生成され、白華として確認される。
【0003】
白華現象は、外観の点においてコンクリートの商品価値を損なうという問題がある。特に、近年では意匠性を付与したコンクリートブロックなどの商品価値が上昇傾向にあることから、コンクリートの白華現象を抑制する技術が求められている。
【0004】
コンクリートの白華現象の抑制に関する技術としては、例えば、特許文献1~4が知られている。
【0005】
特許文献1には、コンクリート混和剤に水溶性アミノ酸樹脂と高級脂肪酸金属塩を配合することが記載されている。特許文献2には、ポリオキシアルキレン変性シリコーンと、所定の水溶性ビニル共重合体からなるセメント分散剤を用いることが記載されている。特許文献3には、水酸基を有する無機イオン交換性物質を使用することが記載されている。特許文献4には、アルカリ金属リン酸塩及び/又はアルカリ金属リン酸水素塩を有効成分とする混和材が記載されている。
【0006】
一方、コンクリート混和剤に関連する技術としては、例えば、特許文献5、6が知られている。
【0007】
特許文献5には、所定のリン酸エステルまたはその塩の1種以上からなる、水硬性組成物硬化体の黒ずみ防止用添加剤が記載されている。特許文献6には、有機リン酸エステルが配合されているコンクリート用水硬性組成物によってコンクリートの空気連行性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平02-160647号公報
【文献】特開平07-267712号公報
【文献】特開昭62-292661号公報
【文献】特開2012-140269号公報
【文献】特開2005-213082号公報
【文献】特開2006-008456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~4の白華抑制剤の場合、例えばコンクリート細孔内の水分移動を抑制したり、白華の原料となる水酸化カルシウムを消費することによって、白華現象の原因となる炭酸塩の発生を抑制することに着目した技術であるが、その白華抑制効果は未だ十分ではない。
【0010】
また、特許文献5、6のコンクリート混和剤は、黒ずみの発生防止やコンクリートの空気連行性の向上を目的とするものであり、白華現象の抑制という観点からの検討は全くなされていない。
【0011】
本発明は、炭酸塩の発生を抑制するのではなく、炭酸塩の結晶成長を抑制するという新しい着想に基づいてなされたものであり、発生する炭酸塩の粒子径を小さくすることで、コンクリートまたはモルタルの白華現象を抑制することができる白華抑制剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明は、コンクリートまたはモルタルに使用される白華抑制剤であって、以下の(1)~(3)の化合物:
(1)アルキル基の炭素数が9以上であるPOEアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩
(2)重合度が3以上の縮合リン酸またはその塩
(3)前記化合物(2)以外のリン系キレート剤
のうちの1種または2種以上を含むとともに、
前記化合物(2)における塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩のうちのいずれかであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の白華抑制剤によれば、白華現象の原因となる炭酸塩の結晶成長を抑制し、発生する炭酸塩の粒子径を小さくすることで、コンクリートまたはモルタルの白華現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の化合物を添加した場合における炭酸塩の結晶の状態を示した外観写真である。
【
図2】比較例12(ブランク)の場合における炭酸塩の結晶の状態を示した外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の白華抑制剤の一実施形態について説明する。
【0016】
本発明の白華抑制剤は、調製後固まっていないコンクリートまたはモルタル(セメント水性組成物)に配合することで、コンクリートまたはモルタルの白華現象を抑制するものである。
【0017】
本発明のコンクリートまたはモルタルに使用される白華抑制剤は、以下の(1)~(3)の化合物:
(1)アルキル基の炭素数が9以上であるPOEアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩
(2)重合度が3以上の縮合リン酸またはその塩
(3)前記化合物(2)以外のリン系キレート剤
のうちの1種または2種以上を含む。
【0018】
(POEアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩)
ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステルとは、下記化学式(1)で示されるリン酸モノエステルまたは下記化学式(2)で示されるリン酸ジエステルからなる化合物である。
【0019】
【0020】
【0021】
(式中、R1は、アルキル基(CmH2m+1-)であり、nはそれぞれ2~10の整数である。) 前記化学式(1)および(2)中のR1を構成するアルキル基は、炭素数が9以上(m≧9)であり、白華抑制効果の観点から、炭素数がm=10~18であることがより好ましく、m=12~16であることが特に好ましい。nはそれぞれ2~10の整数であるが、白華抑制効果の観点から、n=2~6であることが好ましく、n=2~3であることが特に好ましい。
【0022】
また、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステルは、互いに異なるアルキル基を有する化合物の混合物であってもよく、この場合、上記アルキル基の炭素数は、平均炭素数である。なお、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステルには、n-、sec-、tert-、多分岐型(iso-)等の各種異性体も含まれる。
【0023】
ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステル塩としては、前記化学式(1)または(2)で示されるポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステルのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩などを例示することができる。
【0024】
本発明の白華抑制剤におけるポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩の含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0025】
また、上記化学式(1)で示されるリン酸モノエステルと、上記化学式(2)で示されるリン酸ジエステルの比率は、白華抑制効果の観点から、リン酸モノエステル:リン酸ジエステル=20:80~100:0であることが好ましく、リン酸モノエステル:リン酸ジエステル=35:70~80:20であることがより好ましい。
【0026】
(縮合リン酸またはその塩)
縮合リン酸またはその塩は、重合度が3以上であり、例えば、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、トリメタリン酸、ヘキサメタリン酸、五酸化二リンなどを例示することができる。これらの中でも、本発明においては、白華抑制効果の観点から、好ましくは重合度が5以上の縮合リン酸又はその塩が好ましく、より好ましくは重合度が6以上の縮合リン酸又はその塩が好ましく、特にヘキサメタリン酸やヘキサメタリン酸塩が好ましい。
【0027】
白華抑制効果の観点から、縮合リン酸の塩は、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩である。例えば、縮合リン酸のアルミニウム塩などは、炭酸塩の結晶成長抑制効果が小さく、白華抑制効果が低いことが確認されている。
【0028】
なお、縮合リン酸またはその塩は、種々の重合度をもつ重合体の混合物である場合は、平均の重合度である。
【0029】
本発明の白華抑制剤における縮合リン酸またはその塩の含有量は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0030】
(リン系キレート剤)
化合物(2)以外のリン系キレート剤は、特に限定されないが、例えば、(A)アミノホスフェートおよびアミノホスホン酸、(B)リン酸塩、ピロリン酸塩、(C)C-OH基を含むジホスホン酸、(D)ホスホノトリカルボン酸および(E)ポリオールリン酸エステルなどのリン系キレート剤を例示することができる。
【0031】
具体的には、アミノホスフェートおよびアミノホスホン酸を含むファミリ(A)から選択されるリン系キレート剤が使用される場合には、好ましい例には、ATMP(アミノトリメチレンホスホン酸)、EDTMP(エチレンジアミノテトラメチレンホスホン酸)、DTPMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、HMDTMPA(ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)、ニトリロトリ(メチレンホスホン酸)NTMP、イミノジ(メチレンホスホン酸)(IDMP)が含まれる。また、例えばナトリウムまたはカリウム塩、またはアンモニウムまたは置換されたアンモニウム塩などのこれらのキレート剤の塩をまた使用してもよい。
【0032】
リン酸塩、ピロリン酸塩を含むファミリ(B)から選択されるリン系キレート剤が使用される場合には、好ましい例には、TSPP(ピロリン酸四ナトリウム)が含まれる。また、これらの種のカリウム塩、またはアンモニウムまたは置換されたアンモニウム塩をまた使用してもよい。
【0033】
C-OH基を含むジホスホン酸のファミリ(C)から選択されるリン系キレート剤が使用される場合には、好ましい例には、1-ヒドロキシエタン1,1-ジホスホン酸(HEDP)が含まれる。また、例えばナトリウムまたはカリウム塩、またはアンモニウムまたは置換されたアンモニウム塩などのこれらのキレート剤の塩をまた使用してもよい。
【0034】
ホスホノトリカルボン酸のファミリ(D)から選択されるリン系キレート剤が使用される場合には、好ましい例には、ホスホノブタン-トリカルボン酸(PBTC)が含まれる。上記で定義されたとおり、例えばナトリウムまたはカリウム塩、またはアンモニウムまたは置換されたアンモニウム塩などのこれらのキレート剤の塩をまた使用してもよい。
【0035】
ポリオールリン酸エステルのファミリ(E)から選択されるリン系キレート剤が使用される場合には、好ましい例には、多価アルコールリン酸エステル(PAPE)が含まれる。
【0036】
本発明の白華抑制剤におけるリン系キレート剤の含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0037】
(POE脂肪酸アミドまたはジアルキルスルホコハク酸塩)
本発明の白華抑制剤は、ポリオキシエチレン(POE)脂肪酸アミドまたはジアルキルスルホコハク酸塩を含むことが好ましい。これらは炭酸塩の結晶成長抑制効果を持たないが、請求項1に記載される化合物と併用することで、その結晶成長抑制効果を損なうことなく、硬化前のコンクリートまたはモルタルの流動性を改善し、作業効率の向上と充填率を向上することができる。特に、本発明の白華抑制剤に、上述したポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩が含まれる場合は、ポリオキシエチレン(POE)脂肪酸アミドまたはジアルキルスルホコハク酸塩を含むことで、撥水効果、結晶成長抑制効果、充填率の向上により白華抑制効果を一層高めることができる。
【0038】
(その他の成分)
本発明の白華抑制剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で、界面活性剤、アルコール、リン系以外のキレート剤等を配合しても良い。
【0039】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等)、ポリオキシエチレンアルキルアミン(例えば、脂肪族一級アミン(炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐状)のエチレンオキシド2~20モル付加体等)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、ヒマシ油脂肪酸エステル、硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ポリエチレングリコール脂肪酸モノエタノールアミド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ラウリン酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油ピログルタミン酸脂肪酸ジエステル、ピログルタミン酸脂肪酸グリセリル、ポリオキシエチレングリセリルピログルタミン酸脂肪酸ジエステル、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0041】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、スルホン酸塩型、上記リン酸エステル以外のリン酸エステル塩型、硫酸エステル塩型、カルボン酸塩型等が挙げられる。スルホン酸塩型の陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アシルイセチオン酸塩、アルキルグリシジルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-アシルメチルタウリン塩、ホルマリン縮合系スルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、アルキルアミドスルホン酸塩、アルケニルアミドスルホン酸塩、アルキルグリセリルエーテルスルホン酸塩、アルキルアリールエーテルスルホン酸塩等が挙げられる。リン酸エステル塩型の陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルリン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、脂肪酸アミドエーテルリン酸塩等が挙げられる。硫酸エステル塩型の陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、ポリオキシアルキレン脂肪族アミドエーテル硫酸塩、アルキルグリセリルエーテル硫酸塩、硫酸化脂肪酸アルキルエステル等が挙げられる。カルボン酸塩型の陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸塩、アシル乳酸塩、N-アシルグルタミン酸塩、N-アシルアラニン塩、N-アシルサルコシン塩、N-アシル-ω-アミノ酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルケニルスルホ酢酸塩、アルケニルコハク酸塩、ロジン酸塩、ナフテン酸塩等が挙げられる。
【0042】
陽イオン界面活性剤としては、例えば、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、N,N-ジアルキロイルオキシエチル-N-メチル,N-ヒドロキシエチルアンモニウム塩、ステアリルジメチルベンジルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩や、アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
【0043】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、レシチン、水添レシチン、アルキルオキシヒドロキシプロピルアルギニン塩酸塩、ラウリルヒドロキシスルタイン、ラウリミノジプロピオン酸、ウンデシルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム、ラウリルアミノジ酢酸ナトリウム、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、N-[3-アルキルオキシ-2-ヒドロキシプロピル]-L-アルギニン塩酸塩、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルアミノジプロピオン酸ナトリウム、ジヒドロキシアルキルメチルグリシン、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム等が挙げられる。
【0044】
アルコールとしては、炭素数1~8の1価、2価、または3価アルコール、および炭素数2~8のアルコキシアルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールが好ましい。
【0045】
炭素数1~8の1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、ヘキサノール、メチルペンタノール、ジメチルブタノール、2-エチルブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0046】
炭素数1~8の2価アルコールとしては、例えば、メタンジオール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0047】
炭素数1~8の3価アルコールとしては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
【0048】
炭素数2~8のアルコキシアルコールとしては、例えば、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(n-プロポキシ)エタノール、2-イソプロポキシ-1-エタノール、3-(n-プロポキシ)エタノール、2-(n-ブトキシ)エタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、4-メトキシ-1-ブタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ブチルジグリコール等が挙げられる。
【0049】
上記に例示したアルコールの中でも、少ない量でハンドリング性の効果を発揮する点では炭素数2~8のアルコキシアルコール、炭素数1~8の1価アルコールが好ましく、少ない量でハンドリング性と低温安定性の効果を発揮する点では炭素数4~6のアルコキシアルコール、炭素数1~3の1価アルコールが好ましく、その中でも作業環境上や安全性の面から炭素数4~6のアルコキシアルコールがより好ましい。
【0050】
本発明の白華防止剤を水で希釈して1液の剤とする場合、例えば、本発明の白華防止剤としてPOE脂肪酸アミドまたはジアルキルスルホコハク酸塩を配合したものを水に混合、溶解すると、増粘もしくはゲル化してハンドリング性を損なう場合がある。これに対し、本発明の白華防止剤にアルコールを配合すると、これらを抑制する状態調整剤として機能し、ハンドリング性が向上する。また低温安定性が向上し、冬場のような低温下でも白濁したり、固化や分離したりすることが抑制される。このようなアルコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、リン系以外のキレート剤は、特に限定されないが、アミノカルボン酸系キレート剤が好ましい。アミノカルボン酸系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩、ニトリロ三酢酸三ナトリウム塩、ジエチレントリアミノ五酢酸五ナトリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム塩等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明の白華抑制剤が使用されるコンクリートやモルタルの種類は特に限定されず、流し込み工法に使用されるもの等であってもよい。
【0053】
(セメント水性組成物)
本発明の白華抑制剤は、水、セメント、骨材などを含むセメント水性組成物と混合して使用することができる。それぞれの材料の配合量は、用途などに応じて適宜設定することができるが、例えば、本発明の白華抑制剤の配合量は、セメント水性組成物全体に対して0.001~3.0質量%の範囲を例示することができる。
【0054】
また、材料の混合方法は特に限定されず、例えば、ミキサーなどを用いて、本発明の白華抑制剤と他の材料を混練することができる。
【0055】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメントなどを例示することができる。
【0056】
モルタル用のセメント水性組成物の場合、例えば、セメント、細骨材、水および本発明の白華抑制剤を混合することができる。細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材などを例示することができる。
【0057】
コンクリート用のセメント水性組成物は、さらに粗骨材を混合することができる。粗骨材としては、川砂利、砕石、軽量骨材などを例示することができる。
【0058】
さらに、セメント水性組成物は、本発明の白華抑制剤とともに、公知の空気連行剤(空気連行成分)、消泡剤(消泡成分、制泡成分)、起泡剤、減水剤(標準形、遅延形、促進形)、高性能AE減水剤(標準形、遅延形)、高性能減水剤、AE減水剤、保水剤、防水剤、撥水剤、硬化促進剤、流動化剤(標準形、遅延形)、収縮低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、防凍剤、耐寒促進剤、付着モルタル安定剤、黒ずみ抑制剤、増粘剤、分離低減剤、防錆剤、顔料、セルフレベリング材、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカ粉末、石膏、膨張材などを必要に応じて併用することができる。
【0059】
本発明の白華抑制剤は、以上の実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例により本発明の白華抑制剤について詳しく説明するが、本発明の白華抑制剤はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
1.炭酸塩の結晶成長抑制効果
(材料)
<1>アルキル基の炭素数が9以上であるPOEアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩として、表1に示した化合物1~9を使用した(実施例1~9)。
<2>重合度が3以上の縮合リン酸またはその塩として、表1に示した化合物10~12を使用した(実施例10~12)。
<3>リン系キレート剤として、表1に示した化合物13~16(実施例13~16)を使用した。
【0062】
また、前記<1>~<3>以外の化合物として、表1に示した化合物17~28(化合物28は無添加)を使用した(比較例1~12)。
【0063】
(試料の調製および評価方法)
普通ポルトランドセメント112.5g(太平洋セメント製)にイオン交換水を450g加え、撹拌して得たセメント懸濁液を濾過することでろ液を回収した。ろ液に、実施例1~16および比較例の化合物を1000ppm添加し、これに炭酸ガスを吹き込むことでCaCO3を生成させた。
【0064】
CaCO3生成とともに液のpHが低下するため、適宜液を採取し、各pHにおけるCaCO3の粒子径変化を粒度分布計(島津レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2300:株式会社島津製作所社製)によって測定し、評価した。また、規定のpHで採取した液を黒色ろ紙でろ過し、結晶の外観を目視で評価した。
【0065】
(評価基準:粒子径)
pH12.4の粒子径から以下の基準で評価した。
5: 0.5μm未満
4: 0.5μm以上1.0μm未満
3: 1.0μm以上10.0μm未満
2: 10.0μm以上20.0μm未満
1: 20.0μm以上
【0066】
(評価基準:外観)
黒ろ紙で回収した結晶の外観を目視で評価し、ブランク(比較例12)より白色が軽減されるものを「○」、ブランク(比較例12)より白色が目立つまたは略同等のものを「×」と評価した。
【0067】
【0068】
表1に示したように、化合物1~16を添加した実施例1~16は、CaCO
3の粒子径が比較例1~12と比較して小さく、炭酸塩の結晶成長抑制効果に優れていることが確認された。また、化合物1~16を添加した実施例1~16は白色が軽減され、外観も良好であることが確認された。なお、
図1は、実施例1の化合物を添加した場合における炭酸塩の結晶の状態を示した外観写真である。
【0069】
一方、比較例1~12は、CaCO
3の粒子径が大きいとともに外観も白色が目立ち、炭酸塩の結晶成長抑制効果が低いことが確認された。なお、
図2は、比較例12(ブランク)の場合における炭酸塩の結晶の状態を示した外観写真である。
【0070】
2.吸水率および白華抑制効果
(試料の調製)
表2に示したように、実施例1~3、5~7の化合物を使用した。
【0071】
具体的には、普通ポルトランドセメント450g(太平洋セメント製)、標準砂1,350g(セメント協会製)、水道水157.5g(実施例1~3、5~7の化合物0.2wt%対セメントを含む)を用い、(水/セメント比=35%、砂/セメント=3)、品川式万能混練機(三英製作所製)によりJIS R 5201(2015)に準拠しモルタルを作成した。このモルタルをテーブルバイブレーターにより型枠に充填し、70℃、3時間蒸気養生を行った(実施例17~23)。
【0072】
(吸水率の評価方法)
次の手順で評価を行った。モルタル試料全体を1分間水中に沈め、以下の計算式により吸水率を算出した。
【0073】
吸水率(%)=(吸水後のモルタル重量[g]-吸水前のモルタル重量[g])/吸水前のモルタル重量[g]×100
【0074】
(吸水率の評価基準)
吸水率を指標として、以下の5段階で評価した。浸漬前の重量を100%とし、1分間水中浸漬後の重量変化を吸水率として評価した。
5: 1%未満
4: 1%以上3%未満
3: 3%以上5%未満
2: 5%以上10%未満
1: 10%以上
【0075】
(白華抑制効果の評価方法および基準)
上記のモルタル試料を屋外に3ヶ月間放置し、白華の状態を目視で観察した。白華の状態について、以下の5段階で評価した。
5: 非常に良好
4: 良好
3: やや良好
2: やや不良
1: 不良
【0076】
【0077】
表2に示したように、実施例17~23は、撥水効果が確認され、なおかつ白華の抑制効果も確認された。上述したように、白華現象はコンクリートまたはモルタル内部の水分移動により生じることから、撥水効果が付与されることで、雨水などの白華現象を促進させる外的要因を軽減することができ、白華抑制効果を向上させることができる。
【0078】
また、実施例29~31では、モノエステルとジエステルの比率(「モノ:ジ」と記載)において、ジエステル比率の増加に伴い吸水率は低い値となり、これに伴い白華抑制効果も向上することが認められた。また、実施例30、32、33では、POE数が小さいほど吸水率は低い値となっていることから、撥水性の向上により白華抑制効果も向上することが確認された。
【0079】
3.充填率
(白華抑制剤の調製)
表3に示した配合で、白華抑制剤を調製した。
【0080】
具体的には、実施例24~27では、アルキル基の炭素数が9以上であるPOEアルキルエーテルリン酸の塩として、POE(2)ラウリルエーテルリン酸エステルK塩を使用した。
【0081】
また、実施例24~26では、POE脂肪酸アミドとして、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドを使用し、実施例27では、ジアルキルスルホコハク酸塩として、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸Na塩を使用した。
【0082】
その他、実施例24~27では、3-メトキシ-3-メチル-1―ブタノール、キレスト400(EDTA・4Na・4H2O:キレスト株式会社製)、水を表3の割合で配合した。
【0083】
(充填率の評価)
上記2.と同様の方法でモルタルを作製し、次の手順で評価を行った。作製したモルタルをソノモールドミニ(容積192ml)に2層に分けて充填した後、モルタル重量を測定し、以下計算式により充填率を算出した。
【0084】
充填率(%)={(モルタル重量[g]/2.634)/192[ml]}×100
(前記2.634の数値は、モルタル配合比から算出した平均比重(C(セメント比重)=3.16、S(標準砂比重)=2.65、W(水比重)=1.0として算出)である。)
充填率について、以下の4段階で評価した。
4: 80%以上
3: 75%以上80%未満
2: 70%以上75%未満
1: 70%未満
【0085】
【0086】
表3に示したように、実施例24~27では、いずれも高い充填率であることが確認された。充填率の向上は、硬化前のコンクリートまたはモルタルの流動性の改善によるものであるが、流動性が改善されることで作業効率が向上するだけではなく、セメント水性組成物の空隙が減ることによって水の浸入を防ぐことや、白華の発生箇所である比表面積を減少することができ、白華抑制効果を向上することができる。実施例24~27より、撥水効果、結晶成長抑制効果、充填率の向上により白華抑制効果を一層高めることができることが確認された。