IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本無線株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図1
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図2
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図3
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図4
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図5
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図6
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図7
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図8
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図9
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図10
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図11
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図12
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図13
  • 特許-振幅モノパルスアンテナ 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】振幅モノパルスアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 25/02 20060101AFI20240327BHJP
   H01Q 19/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H01Q25/02
H01Q19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020106508
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022002367
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 康人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 庸平
(72)【発明者】
【氏名】西山 瞳子
(72)【発明者】
【氏名】森永 涼太
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03594811(US,A)
【文献】特開2003-215231(JP,A)
【文献】特開2005-189095(JP,A)
【文献】米国特許第05600326(US,A)
【文献】特開2017-173330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 25/02
H01Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振幅モノパルス方式の和ビームの形成時に同相で給電され、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に逆相で給電される第1及び第2の前面アンテナ配列と、
振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に給電され、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の背面に配置され、前記第1及び第2の前面アンテナ配列を合わせた全体の前面アンテナ配列の中心からオフセットした位置に配置される背面アンテナ素子と、
を備えることを特徴とする振幅モノパルスアンテナ。
【請求項2】
前記背面アンテナ素子は、前記全体の前面アンテナ配列の中心から、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の配列方向と平行方向にオフセットした位置に配置される
ことを特徴とする、請求項1に記載の振幅モノパルスアンテナ。
【請求項3】
前記背面アンテナ素子は、正面方向及びその近傍でのみ、振幅モノパルス方式の和ビームの利得が、振幅モノパルス方式の差ビームの利得より大きくなるように、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の給電位相と所定の位相差で給電される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の振幅モノパルスアンテナ。
【請求項4】
前記背面アンテナ素子は、前記全体の前面アンテナ配列の中心から、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の配列方向と垂直方向にオフセットした位置に配置される
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の振幅モノパルスアンテナ。
【請求項5】
前記第1及び第2の前面アンテナ配列は、前面基板上の平面パッチアンテナであり、
前記背面アンテナ素子は、背面基板上の平面パッチアンテナである
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の振幅モノパルスアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角する技術が、特許文献1、2等に開示されている。従来技術の振幅モノパルスアンテナの構成を図1に示す。振幅モノパルスアンテナ1は、第1の前面アンテナ配列11-1、第2の前面アンテナ配列11-2、背面アンテナ素子12、和ビーム形成部13及び差ビーム形成部14を備える。第1及び第2の前面アンテナ配列11-1、11-2は、互いに水平方向に配置され、ダイポールアンテナ等である。背面アンテナ素子12も、ダイポールアンテナ等である。
【0003】
第1及び第2の前面アンテナ配列11-1、11-2は、振幅モノパルス方式の和ビームの形成時に、電源及び和ビーム形成部13を用いて同相で給電され、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に、電源及び差ビーム形成部14を用いて逆相で給電される。
【0004】
すると、原則として、メインローブ方向では、和ビームの利得は差ビームの利得より大きく、サイドローブ方向では、和ビームの利得は差ビームの利得より小さい。よって、メインビーム方向の物標を検知することができ、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができる。そして、振幅モノパルスアンテナ1を回転させることにより、その物標の方向を測角することができる。ただし、例外として、サイドローブ方向でも、両ビームの利得の大小が反転して、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることがある。よって、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができないことがある。
【0005】
背面アンテナ素子12は、第1及び第2の前面アンテナ配列11-1、11-2の背面に配置され、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に、電源及び差ビーム形成部14を用いて給電され、振幅モノパルス方式の和ビームの形成時に、給電されない。
【0006】
すると、原則として、サイドローブ方向でも、両ビームの利得の大小が反転して、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることが少なくなる。よって、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができないことが少なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第3594811号明細書
【文献】米国特許第4283729号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を図2に示す。第1の前面アンテナ配列11-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子12の給電位相差が、-60°、0°及び120°であるときには、メインローブ方向では、和ビームの利得は差ビームの利得より大きく、サイドローブ方向では、和ビームの利得は差ビームの利得より小さい。
【0009】
第1の前面アンテナ配列11-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子12の給電位相差が、-120°及び60°であるときには、メインローブ方向では、和ビームの利得は差ビームの利得より大きく、サイドローブ方向では、両ビームの利得の大小が反転して、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることが残っている。
【0010】
第1の前面アンテナ配列11-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子12の給電位相差が、上記のいずれの位相差であるときでも、メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができない。
【0011】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、(1)サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくするとともに、(2)メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来技術では、背面アンテナ素子は、第1及び第2の前面アンテナ配列を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心に対応した位置」に配置されるため、前記課題を解決することができない。本開示では、背面アンテナ素子は、第1及び第2の前面アンテナ配列を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心からオフセットした位置」に配置されるため、前記課題を解決することができる。これらの理由については、すぐ後に説明する。
【0013】
具体的には、本開示は、振幅モノパルス方式の和ビームの形成時に同相で給電され、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に逆相で給電される第1及び第2の前面アンテナ配列と、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に給電され、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の背面に配置され、前記第1及び第2の前面アンテナ配列を合わせた全体の前面アンテナ配列の中心からオフセットした位置に配置される背面アンテナ素子と、を備えることを特徴とする振幅モノパルスアンテナである。
【0014】
この構成によれば、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、(1)サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくするとともに、(2)メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。この理由については、すぐ後に説明する。
【0015】
また、本開示は、前記背面アンテナ素子は、前記全体の前面アンテナ配列の中心から、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の配列方向と平行方向にオフセットした位置に配置されることを特徴とする振幅モノパルスアンテナである。
【0016】
従来技術では、差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界強度と、背面アンテナ素子による電界強度と、が等振幅となるサイドローブ方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界位相と、背面アンテナ素子による電界位相と、が逆相となることがある。本開示では、差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界強度と、背面アンテナ素子による電界強度と、が等振幅となるサイドローブ方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界位相と、背面アンテナ素子による電界位相と、が逆相となることが少なくなる。よって、この構成によれば、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくすることができる。
【0017】
また、本開示は、前記背面アンテナ素子は、正面方向及びその近傍でのみ、振幅モノパルス方式の和ビームの利得が、振幅モノパルス方式の差ビームの利得より大きくなるように、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の給電位相と所定の位相差で給電されることを特徴とする振幅モノパルスアンテナである。
【0018】
この構成によれば、メインローブ方向でのみ、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなるような、第1及び第2の前面アンテナ配列の給電位相に対する、背面アンテナ素子の給電位相差として、広範囲の給電位相差を確保することができる。そして、第1及び第2の前面アンテナ配列の給電位相に対する、背面アンテナ素子の給電位相差として、この範囲内の給電位相差を選択することにより、サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくすることができる。
【0019】
また、本開示は、前記背面アンテナ素子は、前記全体の前面アンテナ配列の中心から、前記第1及び第2の前面アンテナ配列の配列方向と垂直方向にオフセットした位置に配置されることを特徴とする振幅モノパルスアンテナである。
【0020】
従来技術では、差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界強度と、背面アンテナ素子による電界強度と、がほぼ等振幅となるメインローブ方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界位相と、背面アンテナ素子による電界位相と、が同相となってしまう。本開示では、差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界強度と、背面アンテナ素子による電界強度と、がほぼ等振幅となるメインローブ方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列による電界位相と、背面アンテナ素子による電界位相と、が逆相に近付けられる。よって、この構成によれば、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。
【0021】
また、本開示は、前記第1及び第2の前面アンテナ配列は、前面基板上の平面パッチアンテナであり、前記背面アンテナ素子は、背面基板上の平面パッチアンテナであることを特徴とする振幅モノパルスアンテナである。
【0022】
この構成によれば、振幅モノパルスアンテナを薄くすることができ、ケーブルの引き回しを短くすることができ、給電位置又は給電方向に応じて給電位相を調整することができるため、移相器による給電位相の調整量を低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本開示は、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、(1)サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくするとともに、(2)メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来技術の振幅モノパルスアンテナの構成を示す図である。
図2】従来技術の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を示す図である。
図3】本開示の振幅モノパルスアンテナの構成を示す図である。
図4】本開示の振幅モノパルスアンテナの構成を示す図である。
図5】比較例の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を示す図である。
図6】比較例の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を示す図である。
図7】本開示の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を示す図である。
図8】本開示の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を示す図である。
図9】本開示及び比較例の振幅モノパルスアンテナの背面方向特性を示す図である。
図10】比較例の振幅モノパルスアンテナの垂直指向性を示す図である。
図11】本開示の振幅モノパルスアンテナの垂直指向性を示す図である。
図12】本開示及び比較例の振幅モノパルスアンテナの正面方向特性を示す図である。
図13】本開示の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を示す図である。
図14】本開示の振幅モノパルスアンテナの垂直指向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0026】
(振幅モノパルスアンテナの概要)
本開示の振幅モノパルスアンテナの構成を図3、4に示す。振幅モノパルスアンテナ2は、第1の前面アンテナ配列21-1、第2の前面アンテナ配列21-2、第1の分配回路22-1、第2の分配回路22-2、前面基板23、背面アンテナ素子24、移相器25、和差ビーム形成部26、和ビームポート27、差ビームポート28、背面基板29、アルミ板30及び芯線31を備える。第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2は、互いに水平方向に配置され、前面基板23上の平面パッチアンテナである。背面アンテナ素子24は、背面基板29上の平面パッチアンテナである。
【0027】
第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2は、振幅モノパルス方式の和ビームの形成時に、電源、和ビームポート27、和差ビーム形成部26、芯線31並びに第1及び第2の分配回路22-1、22-2を用いて同相で給電され、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に、電源、差ビームポート28、和差ビーム形成部26、芯線31並びに第1及び第2の分配回路22-1、22-2を用いて逆相で給電される。
【0028】
背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2の背面に配置され、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心からオフセットした位置」に配置され、振幅モノパルス方式の差ビームの形成時に、電源、差ビームポート28及び移相器25を用いて給電され、振幅モノパルス方式の和ビームの形成時に、和差ビーム形成部26を用いて給電されない。
【0029】
前面基板23及び背面基板29にレドームを配置してもよく、レドームをフレームで固定してもよい。第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2として、水平方向6枚×垂直方向2枚の前面アンテナ素子を配置することにより、前面アンテナ利得を所望仕様に適合させている。第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2に対して、非励振素子を配置することにより、前面アンテナ帯域を所望仕様に適合させてもよい。背面アンテナ素子24に対して、非励振素子を配置することにより、背面アンテナ帯域を所望仕様に適合させてもよい。前面基板23と背面基板29との間にアルミ板30を配置したうえで、アルミ板30と芯線31との間にテフロン(登録商標)被覆等を確保している。
【0030】
すると、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、(1)サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくするとともに、(2)メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。よって、メインビーム方向の物標を検知することができ、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができないことが少なくなる。そして、振幅モノパルスアンテナ2を回転させることにより、その物標の方向を測角することができる。さらに、振幅モノパルスアンテナ2を薄くすることができ、ケーブルの引き回しを短くすることができ、給電位置又は給電方向に応じて給電位相を調整することができるため、移相器25による給電位相の調整量を低減することができる。
【0031】
(振幅モノパルスアンテナの水平指向性)
比較例の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を図5、6に示す。比較例では、背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心に対応した位置」に配置される。
【0032】
図5では、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差は、-120°である。図5の第2段では、差ビームの指向性利得の水平方向依存性を示す。図5の第3段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、の水平方向依存性を示す。図5の第4段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、の水平方向依存性を示す。
【0033】
サイドローブ方向約120°では、両ビームの利得の大小が反転して、和ビームの利得が差ビームの利得より大きい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相となるためである。
【0034】
サイドローブ方向約-120°では、両ビームの利得の大小が反転せず、和ビームの利得が差ビームの利得より小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が同相となるためである。
【0035】
図6では、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差は、60°である。図6の第2段では、差ビームの指向性利得の水平方向依存性を示す。図6の第3段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、の水平方向依存性を示す。図6の第4段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、の水平方向依存性を示す。
【0036】
サイドローブ方向約-120°では、両ビームの利得の大小が反転して、和ビームの利得が差ビームの利得より大きい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相となるためである。
【0037】
サイドローブ方向約120°では、両ビームの利得の大小が反転せず、和ビームの利得が差ビームの利得より小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が同相となるためである。
【0038】
図5及び図6では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相は、差ビーム形成時の逆相給電のため左右方向で180°異なり、背面アンテナ素子24による電界位相は、背面アンテナ素子24の対称配置のため左右方向で対称である。よって、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差が、互いに180°離れた-120°及び60°であるときには、互いに左右対称なサイドローブ方向約±120°において、両ビームの利得の大小が反転する。
【0039】
本開示の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を図7、8に示す。本開示では、背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心から水平方向にオフセットした位置」に配置される。具体的には、オフセット幅は、振幅モノパルスアンテナ2の使用波長の1/4である。
【0040】
図7では、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差は、-120°である。図7の第2段では、差ビームの指向性利得の水平方向依存性を示す。図7の第3段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、の水平方向依存性を示す。図7の第4段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、の水平方向依存性を示す。
【0041】
サイドローブ方向約120°では、両ビームの利得の大小が反転せず、和ビームの利得が差ビームの利得より小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相とならないためである。
【0042】
サイドローブ方向約-120°でも、両ビームの利得の大小が反転せず、和ビームの利得が差ビームの利得より小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相とならないためである。
【0043】
図8では、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差は、60°である。図8の第2段では、差ビームの指向性利得の水平方向依存性を示す。図8の第3段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、の水平方向依存性を示す。図8の第4段では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、の水平方向依存性を示す。
【0044】
サイドローブ方向約-120°では、両ビームの利得の大小が反転せず、和ビームの利得が差ビームの利得より小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相とならないためである。
【0045】
サイドローブ方向約120°でも、両ビームの利得の大小が反転せず、和ビームの利得が差ビームの利得より小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、が等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相とならないためである。
【0046】
図7及び図8では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相は、差ビーム形成時の逆相給電のため左右方向で180°異なり、背面アンテナ素子24による電界位相は、背面アンテナ素子24の非対称配置のため左右方向で非対称である。よって、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差が、互いに180°離れた-120°及び60°であるときでも、大よそ左右対称なサイドローブ方向約±120°において、両ビームの利得の大小が反転しない。
【0047】
図5~8で説明したように、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくすることができる。よって、メインビーム方向の物標を検知することができ、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができないことが少なくなる。
【0048】
本開示及び比較例の振幅モノパルスアンテナの背面方向特性を図9に示す。具体的には、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の最小値(サイドローブ方向の利得反転の有無の目安。所望仕様は0dB。)について、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する背面アンテナ素子24の給電位相差に対して、どのように依存するかを、振幅モノパルスアンテナ2の異なる使用周波数f及びfにおいて示す。
【0049】
背面アンテナ素子24が、「中心に対応した位置」に配置されるときには、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する背面アンテナ素子24の給電位相差が、-120°及び60°の周辺であれば、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の最小値は、ヌル点を示す(特に、使用周波数f。)。よって、メインローブ方向でのみ、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなるような、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差として、広範囲の給電位相差を確保することができない。なお、背面アンテナ素子24が、「中心から垂直方向にオフセットした位置」に配置されるときでも、同様な結果を示す。
【0050】
背面アンテナ素子24が、「中心から水平方向にオフセットした位置」に配置されるときには、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する背面アンテナ素子24の給電位相差が、-120°及び60°の周辺であっても、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の最小値は、ヌル点を示さない(いずれの使用周波数においても。)。よって、メインローブ方向でのみ、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなるような、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差として、広範囲の給電位相差を確保することができる(使用周波数fでは、240°の広範囲の給電位相差。使用周波数fでは、180°の広範囲の給電位相差。)。なお、背面アンテナ素子24が、「中心から水平方向及び垂直方向にオフセットした位置」に配置されるときでも、同様な結果を示す。
【0051】
そこで、背面アンテナ素子24は、正面方向及びその近傍でのみ、振幅モノパルス方式の和ビームの利得が、振幅モノパルス方式の差ビームの利得より大きくなるように、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2の給電位相と所定の位相差で給電されるようにする。つまり、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2の給電位相に対する、背面アンテナ素子24の給電位相差として、上記の広い範囲内の給電位相差を選択することにより、サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくすることができる。よって、メインビーム方向の物標を検知することができ、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができないことが少なくなる。
【0052】
なお、背面アンテナ素子24が、「中心から水平方向にオフセットした位置」に配置されるときでも、オフセット幅によっては、サイドローブ方向でも、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることがあり得ることに留意することが望ましい。
【0053】
(振幅モノパルスアンテナの垂直指向性)
比較例の振幅モノパルスアンテナの垂直指向性を図10に示す。比較例では、背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心に対応した位置」に配置される。
【0054】
図10の第2段では、差ビームの指向性利得の水平方向依存性を参考のために示す。図10の第3段では、差ビームの指向性利得の垂直方向依存性を示す。
【0055】
メインローブ方向約0°では、差ビームの利得/和ビームの利得が比較的大きい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、がほぼ等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が同相となるためである。具体的には、第1の前面アンテナ配列21-1に対する背面アンテナ素子24による影響と、第2の前面アンテナ配列21-2に対する背面アンテナ素子24による影響と、が同相で強め合うためである。
【0056】
本開示の振幅モノパルスアンテナの垂直指向性を図11に示す。本開示では、背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心から垂直方向にオフセットした位置」に配置される。
【0057】
図11の第2段では、差ビームの指向性利得の水平方向依存性を参考のために示す。図11の第3段では、差ビームの指向性利得の垂直方向依存性を示す。
【0058】
メインローブ方向約0°では、差ビームの利得/和ビームの利得が比較的小さい。差ビームの形成時に、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界強度と、背面アンテナ素子24による電界強度と、がほぼ等振幅となるこの方向において、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2による電界位相と、背面アンテナ素子24による電界位相と、が逆相となるためである。具体的には、第1の前面アンテナ配列21-1に対する背面アンテナ素子24による影響と、第2の前面アンテナ配列21-2に対する背面アンテナ素子24による影響と、が逆相で弱め合うためである。
【0059】
本開示及び比較例の振幅モノパルスアンテナの正面方向特性を図12に示す。具体的には、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の正面値(メインローブ方向の測角精度の目安。所望仕様は-30dB。)について、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する背面アンテナ素子24の給電位相差に対して、どのように依存するかを、振幅モノパルスアンテナ2の異なる使用周波数f及びfにおいて示す。
【0060】
背面アンテナ素子24が、「中心に対応した位置」に配置されるときには、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する背面アンテナ素子24の給電位相差が、どのような給電位相差であっても、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の正面値は、約-40dB~約-50dBを示す(いずれの使用周波数においても。)。よって、メインローブ方向では、所望仕様を満たすとはいえ、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができない。なお、背面アンテナ素子24が、「中心から水平方向にオフセットした位置」に配置されるときでも、同様な結果を示す。
【0061】
背面アンテナ素子24が、「中心から垂直方向にオフセットした位置」に配置されるときには、第1の前面アンテナ配列21-1の給電位相に対する背面アンテナ素子24の給電位相差が、どのような給電位相差であっても、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の正面値は、約-50dB~約-70dBを示す(いずれの使用周波数においても。)。よって、メインローブ方向では、所望仕様を満たすとともに、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。なお、背面アンテナ素子24が、「中心から垂直方向及び水平方向にオフセットした位置」に配置されるときでも、同様な結果を示す。特に、使用周波数fにおいては、給電位相差によっては、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の正面値は、-70dBより小さい。
【0062】
図10~12で説明したように、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角するにあたり、メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。よって、メインビーム方向の物標を検知することができ、サイドローブ方向のスプリアスを除去することができないことが少なくなる。
【0063】
なお、背面アンテナ素子24が、「中心から垂直方向にオフセットした位置」に配置されるときでも、オフセット幅によっては、メインローブ方向でも、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きくならないことがあり得ることに留意することが望ましい。
【0064】
(振幅モノパルスアンテナのまとめ)
図5~9で説明したように、背面アンテナ素子24が、「中心から水平方向にオフセットした位置」に配置されることにより、サイドローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より大きくなることを少なくすることができる。図10~12で説明したように、背面アンテナ素子24が、「中心から垂直方向にオフセットした位置」に配置されることにより、メインローブ方向では、和ビームの利得が差ビームの利得より圧倒的に大きい状況を作り出すことができる。よって、背面アンテナ素子24が、「中心から水平方向及び垂直方向にオフセットした位置」に配置されることにより、両効果を有することができる。
【0065】
本開示の振幅モノパルスアンテナの水平指向性を、振幅モノパルスアンテナ2の異なる使用周波数f及びfにおいて図13に示す。図13では、背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心から水平方向及び垂直方向にオフセットした位置」に配置される。具体的には、オフセット幅は、振幅モノパルスアンテナ2の使用波長の1/4である。
【0066】
使用周波数fにおいては、サイドローブ方向約130°では、差ビームの利得が極小値を有するが、和ビームの利得が差ビームの利得より小さくなる。使用周波数fにおいては、サイドローブ方向約-80°では、差ビームの利得が極小値を有するが、和ビームの利得が差ビームの利得より小さくなる。
【0067】
本開示の振幅モノパルスアンテナの垂直指向性を、振幅モノパルスアンテナ2の異なる使用周波数f及びfにおいて図14に示す。図14では、背面アンテナ素子24は、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2を合わせた全体の前面アンテナ配列の「中心から水平方向及び垂直方向にオフセットした位置」に配置される。具体的には、オフセット幅は、振幅モノパルスアンテナ2の使用波長の1/4である。
【0068】
使用周波数fにおいては、メインローブ方向約0°では、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の正面値が約-40dB程度にまで小さくなる。使用周波数fにおいては、メインローブ方向約0°では、差ビームの指向性利得/和ビームの指向性利得の正面値が約-50dB程度にまで小さくなる。
【0069】
本実施形態では、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2として、水平方向6枚×垂直方向2枚の前面アンテナ素子を配置している。第1の変形例として、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2として、最小限度の素子枚数に抑えて、水平方向2枚×垂直方向1枚の前面アンテナ素子を配置してもよい。第2の変形例として、第1及び第2の前面アンテナ配列21-1、21-2として、水平方向と垂直方向とを換えて、水平方向1枚×垂直方向2枚の前面アンテナ素子を配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の振幅モノパルスアンテナは、振幅モノパルス方式を用いて物標の方向を測角する、航空管制レーダ、物標識別レーダ及び二次レーダ等に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1:振幅モノパルスアンテナ
11-1:第1の前面アンテナ配列
11-2:第2の前面アンテナ配列
12:背面アンテナ素子
13:和ビーム形成部
14:差ビーム形成部
2:振幅モノパルスアンテナ
21-1:第1の前面アンテナ配列
21-2:第2の前面アンテナ配列
22-1:第1の分配回路
22-2:第2の分配回路
23:前面基板
24:背面アンテナ素子
25:移相器
26:和差ビーム形成部
27:和ビームポート
28:差ビームポート
29:背面基板
30:アルミ板
31:芯線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14