(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240327BHJP
F01L 1/356 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F01L1/356 D
(21)【出願番号】P 2020114254
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】天野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】甲木 省悟
(72)【発明者】
【氏名】中井 敬野
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】鴨山 剛之
(72)【発明者】
【氏名】弘田 徹
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-257249(JP,A)
【文献】特開2016-142182(JP,A)
【文献】特開2020-079581(JP,A)
【文献】特開2010-031661(JP,A)
【文献】特開2019-100189(JP,A)
【文献】特開2017-075539(JP,A)
【文献】特開2010-229980(JP,A)
【文献】特開2008-069719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御する電動モータと、前記電動モータに供給する電流を制御するモータ制御部と、前記電動モータに流れた電流を検出する電流センサと、前記相対回転位相の進角側と遅角側との機械的な限界である規制位相を決める規制部と、を備え、
前記電動モータで前記相対回転位相を制御する際に、前記規制部により変化が停止する前記相対回転位相に到達し、且つ、前記電流センサで検出される電流値の上昇に基づいて前記規制位相を検出する規制位相検出部を備え
、
前記規制位相検出部は、前記電流センサで検出された上昇した電流値、並びに、前記内燃機関の回転数と、前記電動モータの回転数との偏差に基づいて前記規制位相を検出する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記規制位相検出部で、前記相対回転位相が前記規制位相に到達したことを検出した後に、規制維持電流を設定し、この規制維持電流を前記電動モータに供給することにより、前記相対回転位相を前記規制位相に維持する規制位相維持部を備えている請求項
1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記規制維持電流は、前記電動モータの逆起電力に基づいて設定される請求項
2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御する電動モータと、前記電動モータに供給する電流を制御するモータ制御部と、前記電動モータに流れた電流を検出する電流センサと、前記相対回転位相の進角側と遅角側との機械的な限界である規制位相を決める規制部と、を備え、
前記電動モータで前記相対回転位相を制御する際に、前記規制部により変化が停止する前記相対回転位相に到達し、且つ、前記電流センサで検出される電流値の上昇に基づいて前記規制位相を検出する規制位相検出部を備え、
前記規制位相検出部で、前記相対回転位相が前記規制位相に到達したことを検出した後に、規制維持電流を設定し、この規制維持電流を前記電動モータに供給することにより、前記相対回転位相を前記規制位相に維持する規制位相維持部を備え、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とに供給される潤滑油の油温を検出する油温センサを備え、前記規制維持電流は、前記油温センサで検出された潤滑油の油温に基づいて設定される弁開閉時期制御装置。
【請求項5】
回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御する電動モータと、前記電動モータに供給する電流を制御するモータ制御部と、前記電動モータに流れた電流を検出する電流センサと、前記相対回転位相の進角側と遅角側との機械的な限界である規制位相を決める規制部と、を備え、
前記電動モータで前記相対回転位相を制御する際に、前記規制部により変化が停止する前記相対回転位相に到達し、且つ、前記電流センサで検出される電流値の上昇に基づいて前記規制位相を検出する規制位相検出部を備え、
前記規制位相検出部で、前記相対回転位相が前記規制位相に到達したことを検出した後に、規制維持電流を設定し、この規制維持電流を前記電動モータに供給することにより、前記相対回転位相を前記規制位相に維持する規制位相維持部を備え、
前記モータ制御部が、前記電動モータに供給される電流の制御時における制御基板の温度を検出する温度センサを備え、
前記規制位相維持部は、前記規制維持電流を供給する制御において、前記温度センサが第1設定温度を超える温度を検出した際に、前記相対回転位相を、前記規制位相に達する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御を行う弁開閉時期制御装置。
【請求項6】
前記規制位相維持部は、前記温度センサで、前記第1設定温度より高温に設定された第2設定温度を超える温度を検出した際に、前記電動モータに対する電流の供給を停止する請求項
5に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(以下「エンジン」とも称する)運転状況に応じて吸気バルブあるいは排気バルブの開閉時期を変更する弁開閉時期制御装置が実用化されている。この弁開閉時期制御装置は、クランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、カムシャフトに連結する従動側回転体との相対回転位相を、アクチュエータで制御することでバルブの開閉時期を制御している。例えば、内燃機関の制御時には、開閉時期を最遅角位相あるいは、最進角位相に設定する制御も必要とされる。このような制御に係る技術として特許文献1に記載されるものがあり、相対回転位相を制御する電動モータの温度上昇に基づいて機器の保護を図る技術が特許文献2に記載されている。
【0003】
特許文献1には、バルブタイミング可変機構がストッパにより制限される限界位置に押し付けられた状態か否かを判定するストッパ判定手段が記載されている。この特許文献1では、位相角フィードバック制御においてアクチュエータ操作量が予め設定された操作量の監視値より大きい状態が所定時間継続した場合に、ストッパにより制限される限界位置に押し付けられた状態と判定するように構成されている。
【0004】
特許文献2は、電動モータで開閉時期(文献では、バルブタイミング)が制御される弁開閉時期制御装置(文献では、可変バルブタイミング装置)において、電動モータの加熱を、運転状態に応じて検出することにより、電動モータおよび駆動装置の保護を図り、開閉時期の制御性能の低下を防止する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-229980号公報
【文献】特開2008-69719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジンの始動時に各気筒での圧縮比を低下させ、低負荷でのクランキングを可能にするため、吸気バルブの開閉時期を最遅角位相に設定する制御が従来から行われている。また、エンジンで高出力を得るため、吸気バルブの開閉時期を最進角位相に設定する制御も従来から行われている。
【0007】
しかしながら、最遅角位相は、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相のうち、遅角側の機械的限界であり、最進角位相は、進角側の機械的限界である。また、弁開閉時期制御装置の相対回転位相を任意の位相に設定する際には、相対回転位相をセンサでフィードバックする制御が行われるもののセンサの検出結果には誤差を含むものである。
【0008】
従って、相対回転位相を最遅角位相に設定する制御時において、相対回転位相が最遅角位相に達しない状況でも、最遅角位相に達したと誤検出し制御を停止することや、相対回転位相が最遅角位相に達した状態でも最遅角位相に達していないと誤検出し、電動モータを遅角側に駆動し続ける不都合を招くこともあった。
【0009】
このような理由から、最進角位相と最遅角位相とを適正に検出できる弁開閉時期制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御する電動モータと、前記電動モータに供給する電流を制御するモータ制御部と、前記電動モータに流れた電流を検出する電流センサと、前記相対回転位相の進角側と遅角側との機械的な限界である規制位相を決める規制部と、備え、前記電動モータで前記相対回転位相を制御する際に、前記規制部により変化が停止する前記相対回転位相に到達し、且つ、前記電流センサで検出される電流値の上昇に基づいて前記規制位相を検出する規制位相検出部を備え、前記規制位相検出部は、前記電流センサで検出された上昇した電流値、並びに、前記内燃機関の回転数と、前記電動モータの回転数との偏差に基づいて前記規制位相を検出する点にある。
【0011】
この特徴構成によると、電動モータの駆動力によって相対回転位相を、例えば、進角側に変化させ、この変化が規制部により停止する相対回転位相が最進角位相であった場合に、このように相対回転位相の変化が停止するタイミングでは負荷の増大に伴い電動モータに流れる電流は増大する。これと同様に、電動モータの駆動力により相対回転位相が最遅角位相に達した場合にも電動モータに流れる電流は増大する。このような現象を利用することにより、電流センサで検出される電流に基づいて最進角位相と最遅角位相とを判定することが可能となる。
従って、最進角位相と最遅角位相とを適正に検出できる弁開閉時期制御装置が構成された。また、これによると、電動モータの駆動により相対回転位相が規制位相に到達した場合には、電動モータに作用する負荷の増大に伴い電動モータに供給される電流が増大し、これと同時に電動モータの回転数が低下し、内燃機関の回転数との偏差が縮小する。従って、電流値の増大、偏差の縮小に基づいて検出するため規制位相の検出精度が向上する。
【0016】
上記構成に加えた構成として、前記規制位相検出部で、前記相対回転位相が前記規制位相に到達したことを検出した後に、規制維持電流を設定し、この規制維持電流を前記電動モータに供給することにより、前記相対回転位相を前記規制位相に維持する規制位相維持部を備えても良い。
【0017】
これによると、相対回転位相が規制位相にある状態で規制維持電流を電動モータに供給することにより、規制状態を維持することが可能となる。この規制維持電流として、例えば、規制部における機械的限界を維持するに必要な規制維持電流の値を設定することにより、電力の無駄な消費を低減し、電動モータの寿命を長くする。
【0018】
上記構成に加えた構成として、前記規制維持電流は、前記電動モータの逆起電力に基づいて設定されても良い。
【0019】
電動モータのロータの回転に伴い発生する逆起電力の電圧が電源の電圧の印加方向と逆方向に作用するため、この逆起電力を考慮した値の電流を供給することにより、必要とする規制維持電流を電動モータ供給し、相対回転位相を規制位相に維持できる。
【0020】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御する電動モータと、前記電動モータに供給する電流を制御するモータ制御部と、前記電動モータに流れた電流を検出する電流センサと、前記相対回転位相の進角側と遅角側との機械的な限界である規制位相を決める規制部と、を備え、前記電動モータで前記相対回転位相を制御する際に、前記規制部により変化が停止する前記相対回転位相に到達し、且つ、前記電流センサで検出される電流値の上昇に基づいて前記規制位相を検出する規制位相検出部を備え、前記規制位相検出部で、前記相対回転位相が前記規制位相に到達したことを検出した後に、規制維持電流を設定し、この規制維持電流を前記電動モータに供給することにより、前記相対回転位相を前記規制位相に維持する規制位相維持部を備え、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とに供給される潤滑油の油温を検出する油温センサを備え、前記規制維持電流は、前記油温センサで検出された潤滑油の油温に基づいて設定される点にある。
【0021】
この特徴構成によると、電動モータの駆動力によって相対回転位相を、例えば、進角側に変化させ、この変化が規制部により停止する相対回転位相が最進角位相であった場合に、このように相対回転位相の変化が停止するタイミングでは負荷の増大に伴い電動モータに流れる電流は増大する。これと同様に、電動モータの駆動力により相対回転位相が最遅角位相に達した場合にも電動モータに流れる電流は増大する。このような現象を利用することにより、電流センサで検出される電流に基づいて最進角位相と最遅角位相とを判定することが可能となる。
従って、最進角位相と最遅角位相とを適正に検出できる弁開閉時期制御装置が構成された。
また、潤滑油は、温度低下に伴い粘性が高まるものであり、電動モータに設定された値の規制維持電流を供給した場合でも、潤滑油の粘性により規制部において相対回転位相を維持するために必要とする力を得られないこともある。このような理由から、油温センサで検出される油温に基づき、潤滑油の粘性を考慮した規制維持電流を供給することにより、相対回転位相を規制位相に維持できる。
【0022】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御する電動モータと、前記電動モータに供給する電流を制御するモータ制御部と、前記電動モータに流れた電流を検出する電流センサと、前記相対回転位相の進角側と遅角側との機械的な限界である規制位相を決める規制部と、を備え、前記電動モータで前記相対回転位相を制御する際に、前記規制部により変化が停止する前記相対回転位相に到達し、且つ、前記電流センサで検出される電流値の上昇に基づいて前記規制位相を検出する規制位相検出部を備え、前記規制位相検出部で、前記相対回転位相が前記規制位相に到達したことを検出した後に、規制維持電流を設定し、この規制維持電流を前記電動モータに供給することにより、前記相対回転位相を前記規制位相に維持する規制位相維持部を備え、前記モータ制御部が、前記電動モータに供給される電流の制御時における制御基板の温度を検出する温度センサを備え、前記規制位相維持部は、前記規制維持電流を供給する制御において、前記温度センサが第1設定温度を超える温度を検出した際に、前記相対回転位相を、前記規制位相に達する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御を行う点にある。
【0023】
この特徴構成によると、電動モータの駆動力によって相対回転位相を、例えば、進角側に変化させ、この変化が規制部により停止する相対回転位相が最進角位相であった場合に、このように相対回転位相の変化が停止するタイミングでは負荷の増大に伴い電動モータに流れる電流は増大する。これと同様に、電動モータの駆動力により相対回転位相が最遅角位相に達した場合にも電動モータに流れる電流は増大する。このような現象を利用することにより、電流センサで検出される電流に基づいて最進角位相と最遅角位相とを判定することが可能となる。
従って、最進角位相と最遅角位相とを適正に検出できる弁開閉時期制御装置が構成された。
また、これによると、相対回転位相が規制位相にある状態で規制維持電流を電動モータに供給することにより、規制状態を維持することが可能となる。また、このように規制状態を維持する制御が継続する際に、温度センサが第1設定温度を超える温度を検出した場合に、相対回転位相を、規制位相に達する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御を行うことにより、電動モータの過剰な電流が供給される不都合を解消でき、電力の無駄を低減し、電動モータの寿命を長くする。
【0024】
上記構成に加えた構成として、前記規制位相維持部は、前記温度センサで、前記第1設定温度より高温に設定された第2設定温度を超える温度を検出した際に、前記電動モータに対する電流の供給を停止しても良い。
【0025】
これによると、電動モータに過剰な電流が供給される不都合を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】エンジンの断面および制御装置を示す図である。
【
図2】弁開閉時期制御装置の作動本体の断面図である。
【
図7】電流変化と回転数変化と相対回転位相変化を示すタイミングチャートである。
【
図8】温度変化と制御との関係を示すグラフである。
【
図9】別実施形態(a)の規制位相維持制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、内燃機関としてのエンジンEは、吸気バルブVaと、排気バルブVbとを備え、吸気バルブVaのバルブタイミング(開閉時期)を設定する弁開閉時期制御装置Aを備えている。このエンジンE(内燃機関の一例)は、乗用車等の走行駆動力を得るために車両に備えられたものを示している。
【0028】
エンジンEは、エンジン制御装置40によって制御され、エンジンEの吸気バルブVaのバルブタイミングは、弁開閉時期制御装置Aで制御される。特に、弁開閉時期制御装置Aは、位相制御モータM(電動モータの一例)の駆動力により吸気バルブVaのバルブタイミングを決めるハードウエアで成る作動本体Aaと、位相制御モータMを制御するためエンジン制御装置40のソフトウエアを含む制御ユニットAbとで構成されている。
【0029】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaは、駆動ケース21(駆動側回転体)と、内部ロータ22(従動側回転体)とを有し、位相制御モータM(電動モータの一例)の駆動力により、駆動ケース21と内部ロータ22との相対回転位相(これ以降の説明では単に「相対回転位相」と記載することもある)を変化させる位相調節機構Gを有している。また、
図1に示す制御ユニットAbは、エンジン制御装置40のうち、位相センサPS等の信号に基づいて位相制御モータMを制御することで吸気バルブVaのバルブタイミングを制御するソフトウエアを備えている。
【0030】
図1に示すように、位相センサPSは、クランク角センサ16とカム角センサ17とで構成されている。クランク角センサ16は、クランクシャフト1の回転角を検出する機能も有している。
【0031】
駆動ケース21と内部ロータ22との相対回転位相は、駆動ケース21と内部ロータ22との回転軸芯Xを中心とする相対的な角度である。また、相対回転位相を変化させることで吸気バルブVaのバルブタイミング(開閉時期)が変化する。
【0032】
図1に示すように、エンジンEは、クランクシャフト1を支持するシリンダブロック2の上部にシリンダヘッド3を連結し、シリンダブロック2に形成された複数のシリンダボアにピストン4を往復作動自在に収容し、ピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結して4サイクル型に構成されている。
【0033】
シリンダヘッド3には吸気バルブVaと、排気バルブVbとが備えられ、シリンダヘッド3の上部に吸気バルブVaを制御する吸気カムシャフト7(弁開閉用のカムシャフトの一例)と、排気バルブVbを制御する排気カムシャフト8とが備えられている。また、クランクシャフト1の出力プーリ1Sと、作動本体Aaの駆動プーリ21Sおよび排気バルブVbの排気プーリVbSとに亘ってタイミングベルト6が巻回されている。
【0034】
シリンダヘッド3には、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ9と点火プラグ10とが備えられている。シリンダヘッド3には、吸気バルブVaを介して燃焼室に空気を供給するインテークマニホールド11と、排気バルブVbを介して燃焼室からの燃焼ガスを送り出すエキゾーストマニホールド12とが連結している。
【0035】
図1、
図2に示すように、クランクシャフト1の近傍位置には回転角の検出が可能なクランク角センサ16を備え、吸気カムシャフト7の近傍には、吸気カムシャフト7の回転角の検出が可能なカム角センサ17を備えている。
【0036】
前述したようにクランク角センサ16とカム角センサ17とで位相センサPSが構成され、クランク角センサ16とカム角センサ17とは、回転に伴い間歇的にパルス信号を出力するピックアップ型に構成されている。クランク角センサ16は、クランクシャフト1の回転時にクランクシャフト1の回転基準からのパルス信号をカウントすることで回転基準からの回転角を取得する。これと同様に、カム角センサ17は、吸気カムシャフト7の回転時に吸気カムシャフト7の回転基準からパルス信号をカウントすることで回転基準からの回転角を取得する。
【0037】
このような構成から、例えば、駆動ケース21と内部ロータ22とが所定の基準位相(例えば、中間位相)にある状態でのクランク角センサ16のカウント値と、カム角センサ17のカウント値とを記憶しておくことにより、相対回転位相が、基準位相から進角側と遅角側との何れに変化しても2種のカウント値の比較により相対回転位相を取得できるように構成されている。
【0038】
エンジン制御装置40は、エンジンEを制御するECUとして制御ユニットAbを構成するものであり、位相制御部41と、規制位相検出部42とを備えており、位相制御部41は、通常位相制御モジュール41aと、規制位相維持制御モジュール41b(規制位相維持部の一例)とで構成されている。このエンジン制御装置40の制御の詳細は後述する。
【0039】
〔弁開閉時期制御装置:作動本体〕
図2に示すように作動本体Aaは、駆動ケース21(駆動側回転体)と、内部ロータ22(従動側回転体)とを、吸気カムシャフト7の回転軸芯Xと同軸芯に配置しており、これらの相対回転位相を位相制御モータMの駆動力により設定する位相調節機構Gを備えている。
【0040】
駆動ケース21は、外周に駆動プーリ21Sが形成されている。内部ロータ22は、駆動ケース21に内包され、連結ボルト23により吸気カムシャフト7に連結固定されている。この構成により、内部ロータ22が吸気カムシャフト7に連結状態で支持され、この内部ロータ22の外周部位に駆動ケース21が相対回転自在に支持される。
【0041】
駆動ケース21と内部ロータ22との間に位相調節機構Gが配置され、駆動ケース21の開口部分を覆う位置に、複数の締結ボルト25によりフロントプレート24が締結されている。これにより、位相調節機構Gと内部ロータ22との回転軸芯Xに沿う方向での変位がフロントプレート24によって規制される。
【0042】
この作動本体Aaは、
図1に示すように、タイミングベルト6からの駆動力により全体が駆動回転方向Sに回転する。また、位相制御モータMの駆動力が位相調節機構Gを介して内部ロータ22に伝えられることで駆動ケース21に対する内部ロータ22の相対回転位相が変化する。この変化のうち駆動回転方向Sと同方向へ向かう変化方向を進角方向Saと称し、この逆方向を遅角方向Sbと称する。
【0043】
特に、この作動本体Aaでは、
図3に示すように、相対回転位相が進角方向Saの機械的な限界となる最進角位相Pa(規制位相の一例)と、遅角方向Sbの機械的な限界となる最遅角位相Pb(規制位相の一例)とを設定する規制部35を備えている。
【0044】
規制部35は、駆動ケース21のうち回転軸芯Xに直交する姿勢の壁部21wの開口の内周に対し、回転軸芯Xを中心とする円周方向で離間する位置に形成された一対の規制壁35aと、内部ロータ22のうち駆動ケース21の壁部21wの開口に挿通する位置に配置され、相対回転位相が最進角位相Paに達した際に一方の規制壁35aに当接し、相対回転位相が最遅角位相Pbに達した際に他方の規制壁35aに当接する規制突起35bとで構成されている。
【0045】
〔弁開閉時期制御装置:位相調節機構〕
図2に示すように、位相調節機構Gは、内部ロータ22の内周に回転軸芯Xと同軸芯に形成したリングギヤ26と、内部ロータ22の内周側に偏心軸芯Yと同軸芯で回転自在に配置されるインナギヤ27と、インナギヤ27の内周側に配置される偏心カム体28と、フロントプレート24と、継手部Jとを備えている。偏心軸芯Yは、回転軸芯Xと平行する姿勢で形成されている。
【0046】
リングギヤ26は複数の内歯部26Tを有し、インナギヤ27は複数の外歯部27Tを有しており、外歯部27Tの一部がリングギヤ26の内歯部26Tに咬合している。この位相調節機構Gは、リングギヤ26の内歯部26Tの歯数と比較して、インナギヤ27の外歯部27Tの歯数が1歯だけ少ない内接型遊星ギヤ減速機として構成されている。
【0047】
継手部Jは、駆動ケース21に対してインナギヤ27が偏心する位置関係を維持しつつ、インナギヤ27と駆動ケース21とを一体的に回転させるオルダム継手型に構成されている。
【0048】
偏心カム体28は、全体に筒状であり、内周に対し一対の係合溝28Bが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。偏心カム体28は、回転軸芯Xと同軸芯で回転するようにフロントプレート24に対し第1軸受31によって支持され、この支持位置より吸気カムシャフト7の側の部位の外周に偏心カム面28Aが形成されている。
【0049】
偏心カム面28Aは、回転軸芯Xに平行する姿勢の偏心軸芯Yを中心とする円形(断面形状が円形)に形成されている。この偏心カム面28Aに対して第2軸受32を介してインナギヤ27が回転自在に支持されている。また、偏心カム面28Aに形成した凹部にバネ体29を嵌め込み、このバネ体29の付勢力を、第2軸受32を介してインナギヤ27に作用させるように構成されている。このような構成から、リングギヤ26の内歯部26Tの一部にインナギヤ27の外歯部27Tの一部が咬合し、バネ体29の付勢力により咬合状態が維持される。
【0050】
位相制御モータMは、エンジンEに支持され、出力軸MSに形成された係合ピン34を偏心カム体28の内周の係合溝28Bに嵌め込んでいる。詳細を図示していないが、位相制御モータMは、永久磁石を有するロータと、このロータを取り囲む位置に配置される複数の界磁コイルを有するステータと、ロータの回転が伝達される出力軸MSとを備えることで三相モータとして構成されている。
【0051】
また、エンジンEが停止する状況で説明すると位相調節機構Gは、位相制御モータMの駆動により出力軸MSの回転に伴い偏心カム体28が、回転軸芯Xを中心に回転した際には、インナギヤ27が1回転する毎に、歯数差に対応する角度だけ、インナギヤ27とリングギヤ26とを相対回転させる。尚、相対回転の方向は出力軸MSの回転方向と逆方向となる。その結果、インナギヤ27に対し継手部Jを介して一体回転する駆動ケース21と、リングギヤ26に連結ボルト23により連結する吸気カムシャフト7とを相対回転させ、バルブタイミングの調節を実現する。
【0052】
この弁開閉時期制御装置Aでは、エンジンEの稼動時には、吸気カムシャフト7と等しい速度で、出力軸MSを駆動回転方向Sに駆動回転することにより、弁開閉時期制御装置Aの相対回転位相を維持する。位相調節機構Gは、出力軸MSの回転方向と逆方向に相対回転位相を変化させるため、相対回転位相を進角方向Saに変化させる場合には出力軸MSの回転速度を減じ、相対回転位相を遅角方向Sbに変化させる場合には出力軸MSの回転速度を増加する制御が行われる。
【0053】
〔制御構成〕
図1に示すように、エンジン制御装置40は、クランク角センサ16と、カム角センサ17と、電流センサ45と、温度センサ46と、油温センサ47からの検出信号が入力する。エンジン制御装置40は、補正テーブル48の補正情報の取得が可能であり、位相制御モータMを制御する制御基板44(モータ制御部の一例)に制御信号を出力する。
【0054】
電流センサ45は、位相制御モータMに供給されている電流を検出し、温度センサ46は、制御基板44の温度を検出する。制御基板44は位相制御モータMにコイルに供給する電流を制御する電力制御素子を備えており、温度センサ46は位相制御モータMに供給する電流の増大に伴う熱による制御基板44の周囲の雰囲気の温度上昇を検出する。
【0055】
油温センサ47は、エンジンEの潤滑油の油温を検出し、補正テーブル48は、EEPROMのように不揮発性のストレージで構成され、後述する規制維持電流を供給する際に、油温と、供給すべき規制維持電流との関係を決める補正情報をテーブル化して記憶している。前述したように位相制御モータMは三相モータとして構成されるため、制御基板44は三相交流を生成するものであり、デューティ比の設定により供給電流を任意に設定できるように構成されている。
【0056】
弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaの内部にエンジンEの潤滑油が供給されるように構成され、油温が低温である場合には潤滑油の粘性が高く、位相制御を行う際に位相制御モータMに供給する電流を高め、油温の上昇に伴い位相制御モータMに供給される電流を低減する補正を必要とする。このような理由から油温センサ47で検出された検出油温に基づいて位相制御モータMに供給する規制維持電流を適正にするように補正テーブルが構成されている。
【0057】
特に、電流センサ45で検出された電流値を「検出電流」と称し、位相センサPSで検出された相対回転位相を「実位相」と称する。
【0058】
位相制御部41の通常位相制御モジュール41aは、位相センサPS(クランク角センサ16、カム角センサ17)で検出された実位相が目標位相に一致するように位相制御モータMを駆動する。この制御は、位相センサPSで検出された実位相と目標位相との偏差に基づいて相対回転位相の変化速度を設定し、変化速度が低下した場合に位相制御モータMに供給する電流を増大して、位相制御モータMを高速駆動する制御(
図4の#103ステップ)を実現する。
【0059】
また、位相制御部41の規制位相維持制御モジュール41bは、相対回転位相を最進角位相Paと、最遅角位相Pbとの何れかに設定する場合でも、位相制御モータMの駆動力を用いることにより、規制部35が相対回転位相の変化を規制する位相に維持する制御(
図4の#200ステップ、及び、
図5に示す規制位相維持制御)を実現する。
【0060】
規制位相検出部42は、
図3に示すように、相対回転位相が最進角位相Paに達した状態(規制部35によって規制される進角方向Saの限界)と、相対回転位相が最遅角位相Pbに達した状態(規制部35によって規制される遅角方向Sbの限界)とを検出する。
【0061】
前述した位相制御部41と、規制位相検出部42とは、ソフトウエアとして構成されるものであるが、各々の一部をハードウエアで構成することも可能である。
【0062】
〔制御形態〕
エンジン制御装置40による弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaの位相制御の制御形態を
図4のフローチャートに示し、この制御時の検出電流(電流センサ45で検出される電流値)と、位相制御モータMの回転数と、位相センサPSで検出される相対回転位相とを
図7のタイミングチャートに示している。
【0063】
図4のフローチャートに示す位相制御では、目標位相を取得した場合に、目標位相が最進角位相Paまたは最遅角位相Pbでない場合(#102ステップのYes)は通常制御であるため、位相センサPSで検出した実位相が目標位相と一致するように位相制御モータMを制御する(#101~#103ステップ)。
【0064】
これとは逆に、目標位相が最進角位相Paまたは最遅角位相Pbである場合(#102ステップのNo)には、位相制御モータMの駆動力により規制部35の規制壁35aに規制突起35bを押し当てる規制位相維持制御(#200ステップ)を実行する。
【0065】
この規制位相維持制御(#200ステップ)を開始するタイミングが、
図7の制御開始タイミングTaとなる。尚、この規制位相維持制御(#200ステップ)は、サブルーチンとして設定され、本実施形態では、相対回転位相を最遅角位相Pb(フローチャートでは目標規制位相として説明)に維持する際の具体的な制御形態を示している。
【0066】
規制位相維持制御(#200ステップ)は、
図5のフローチャートに示すように、
図7に示す制御開始タイミングTaの以降、目標規制位相の方向に位相制御モータMを駆動し、検出電流(電流センサ45で検出された電流値)を取得し、実位相(位相センサPSで検出された相対回転位相)を取得し、検出電流が電流閾値Itを超え、実位相が目標規制位相(最遅角)に達しているか否かを判定する(#201~#204ステップ)。
【0067】
この#201~#204ステップでの制御は規制位相検出部42での制御であり、この規制位相検出部42は、検出電流が上昇したタイミングにおける実位相を規制位相とするように基本的な制御形態が設定されている。この制御では、規制位相が目標規制位相となる。
【0068】
尚、この弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaでは、位相制御モータMの増速と減速との選択により相対位相の変更を行っており、この制御では、位相制御部41が実位相と目標位相との偏差に基づいて位相制御モータMの目標速度が設定される。最遅角位相Pbと最進角位相Paと何れを検出する場合にも同様の制御が行われ、特に、最進角位相Paを検出するため位相制御モータMを減速した場合には、規制位相に達した後にも、偏差が低減しないため位相制御モータMは減速を継続し、その後逆方向への回転を開始してそのまま増速する。これにより、最遅角位相Pbを検出する場合と同様に、規制部35の規制壁35aに規制突起35bを押し当てた際の検出電流が増大し、この検出電流の増大に基づいて最進角移動Paの検出を実現している。
【0069】
つまり、
図7に示すように、制御開始タイミングTaで位相制御モータMを始動したタイミングにおいて、検出電流が、電流閾値Itに達することもあるものの、実位相が変化し続けているため(
図5のフローチャートの#204ステップのNo)、検出電流が一時的に上昇しても、この上昇のタイミングを規制位相と判定することがない。
【0070】
この後に、規制壁35aに規制突起35bが押し当たる押当タイミングTbに達した場合には、実位相が変化することなく(#204ステップのYes)、位相制御モータMに作用する負荷の増大に伴い、検出電流(電流センサ45で検出される電流値)が、電流閾値Itを超える状態となる。尚、
図7に示すように、制御開始タイミングTaから相対回転位相が最遅角位相Pbに達するまで位相制御モータMの回転数が変化するものの、制御開始タイミングTaに達する以前と、最遅角位相Pbに達した後とにおいて、位相制御モータMの回転数は、エンジンEの回転数と同期する速度(エンジンEの回転数の1/2の回転数)で回転することになる。
【0071】
この状態に達した時点で、実位相が、目標規制位相(最遅角位相Pb)に達していることを判定できるため、所定時間が経過した電流低減タイミングTcで電流の低減を開始し、電流維持タイミングTdにおいて規制維持電流を位相制御モータMに供給する(
図5のフローチャートの#205ステップ)。電流維持タイミングTdで供給される規制維持電流は、油温センサ47で検出した検出油温に基づいて補正テーブル48を参照することで設定され、この後に、電流制限制御(#300ステップ)を実行する。
【0072】
#205ステップでは、規制維持電流を位相制御モータMに供給することで規制壁35aに規制突起35bを適度の圧力で押し当て、最遅角位相Pbの維持を実現する。規制維持電流を供給する際には、位相制御モータMの逆起電力を考慮することにより精度の高い値の規制維持電流を供給できる。また、電流制限制御(#300ステップ)は、サブルーチンとして設定され、規制維持電流を供給する状態において温度センサ46で検出される検出温度C(
図8を参照)が上昇した場合には、電流の供給を制限することで制御基板44、位相制御モータMを保護するように機能する。
【0073】
電流制限制御(#300ステップ)の制御形態を、
図8に示すグラフのように現れる検出温度Cに対応して説明できる。
図8のグラフでは温度センサ46の検出温度Cを縦軸に取り、時間経過を横軸に取っている。
【0074】
つまり、電流制限制御では、復帰閾値TH0、解除閾値TH1(第1設定温度の一例)、停止閾値TH2(第2設定温度の一例)が設定され、
図8のグラフに示すように検出温度Cが変化した場合に、判定タイミングD1~D7のタイミングで制御を設定し、この制御の切り換わりを経過時間T1~T4で示している。
【0075】
図6のフローチャートに示すように、電流制限制御(#300ステップ)では、温度センサ46で検出温度Cを取得し、検出温度Cが解除閾値TH1(
図8を参照)より高温となる高温状態が経過時間T1の間継続した場合(#302ステップのYes)には、相対回転位相を、規制壁35aと規制突起35bが当接する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御に移行する(#301~#303ステップ)。
【0076】
このように隣接位相制御を行うことで、規制壁35aに規制突起35bが押し当たる状態を解除することも可能となる。また、#302ステップで高温状態が継続しないことを判定した場合(#302ステップNo)には、この電流制限制御(#300ステップ)の制御を抜け出してリターンする。
【0077】
#301~#303ステップの制御を
図8で参照すると、判定タイミングD0で検出温度Cが解除閾値TH1より高温となり、この高温状態が経過時間T1だけ経過したタイミングD1で、相対回転位相を、規制壁35aと規制突起35bが当接する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御に移行する。これにより、規制壁35aに規制突起35bが押し当たる状態を解除することも可能な状態となる。その結果、最遅角位相Pbを維持しながら位相制御モータMに作用する負荷を軽減し、制御基板44や位相制御モータMの温度低下を可能にしている。
【0078】
次に、隣接位相制御が行われている状況で、検出温度Cが停止閾値TH2(
図8を参照)より高温となる高温状態が経過時間T2の間継続した場合(#304ステップのYes)には、位相制御モータMに供給される電流を停止して位相制御モータMを停止する(#304、#305ステップ)。また、#304ステップで検出温度Cが停止閾値TH2より高温でない場合、あるいは、検出温度Cが停止閾値TH2より高温であっても高温状態が継続しない場合(#304ステップNo)には、#307ステップに制御が移行する。この#307ステップは、前述した#303ステップと同様に隣接位相制御が行われる。
【0079】
#304、#305ステップの制御で
図8を参照すると、判定タイミングD2において検出温度Cが停止閾値TH2より高温となり、この高温の状態が経過時間T2だけ経過した判定タイミングD3で位相制御モータMに供給される電流が停止される。また、検出温度Cが停止閾値TH2より高温となる状況では、位相制御モータMに作用する負荷が大きく、制御基板44の温度が上昇しているため、位相制御モータMを完全に停止させることで、制御基板44や位相制御モータMの放熱を促進させることになる。このとき、規制壁35aに規制突起35bを押し付ける力が作用しないので、相対回転位相(実位相)は最遅角位相Pbから進角方向Saに変化し得る。
【0080】
次に、検出温度Cが解除閾値TH1(
図8を参照)より低温となる低温状態が経過時間T3の間継続した場合(#306ステップのYes)には、相対回転位相を、規制壁35aと規制突起35bが当接する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御に移行する(#306、#307ステップ)。また、#306ステップで検出温度Cが解除閾値TH1より低温でない場合や、検出温度Cが解除閾値TH1より低温であっても低温状態が継続しない場合(#306ステップのNo)には、#305ステップの制御に移行する。これにより、相対回転位相(実位相)が最遅角位相Pbから進角方向Saに変化していたとしても、再度最遅角位相Pbに変化する。
【0081】
#306、#307ステップの制御で
図8を参照すると、判定タイミングD4において検出温度Cが解除閾値TH1より低温となり、この低温の状態が経過時間T3だけ経過した判定タイミングD5において、相対回転位相を、規制壁35aと規制突起35bが当接する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御に移行し、相対回転位相が最遅角位相Pbに維持される。
【0082】
次に、検出温度Cが復帰閾値TH0(
図8を参照)より低温となる低温状態が経過時間T4の間継続した場合(#308ステップのYes)には、位相制御モータMに対し、規制維持ルーチン(#200ステップ)の#205ステップで設定される規制維持電流と同じ値の規制維持電流を供給する(#309ステップ)。また、#308ステップで復帰閾値TH0より低温でない場合、あるいは、復帰閾値TH0より低温であっても低温状態が継続しない場合(#308ステップNo)には、#307ステップの制御が継続される。
【0083】
尚、規制維持電流を供給する場合には#205ステップにおいて既に説明したように油温センサ47で検出した検出油温に基づいて補正テーブル48を参照することで設定される規制維持電流が供給される。
【0084】
この#308、#309ステップの制御で
図8を参照すると、判定タイミングD6において検出温度Cが復帰閾値TH0より低温となる低温状態が経過時間T4だけ経過した判定タイミングD7で規制維持電流が供給される。このように規制維持電流を供給することにより、規制壁35aに規制突起35bを適度の圧力で押し当て、最遅角位相Pbを維持する状態に復帰する。
【0085】
この制御の概要としては、
図8に示すように検出温度Cが変化する場合には、#300ステップの制御開始から判定タイミングD1までの領域で、位相制御モータMに規制維持電流を供給する正常な制御が実行され、判定タイミングD1~D3の領域で相対回転位相を、規制壁35aと規制突起35bが当接する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御が実行される。
【0086】
この後に、判定タイミングD3~D5の領域で位相制御モータMを停止する停止制御が実行され、判定タイミングD5~D7の領域で、相対回転位相を、規制壁35aと規制突起35bが当接する直前の隣接位相に維持する隣接位相制御が実行される。そして、判定タイミングD7の後の領域で、位相制御モータMに規制維持電流が供給される正常な制御が実行される。
【0087】
〔実施形態の作用効果〕
このように、弁開閉時期制御装置Aを最進角位相Paと最遅角位相Pbとの何れの規制位相に設定する場合でも、規制部35の規制壁35aと規制突起35bとが当接し、検出電流が電流閾値Itを超えて上昇するタイミングを、規制位相検出部42が、規制位相(最進角位相Pa、最遅角位相Pb)に達したと正確に判定できる。
【0088】
また、最進角位相Paと、最遅角位相Pbとを正確に判定した後には位相制御モータMに供給される電流を規制維持電流まで低減することにより、位相制御モータMに無駄に電流を供給することなく、規制壁35aと規制突起35bとを押し付ける状態で最進角位相Paと最遅角位相Pbとの何れの位相も維持できる。
【0089】
また、規制位相維持制御では、位相制御モータMの駆動力によって、規制部35の規制壁35aと規制突起35bと当接させる状態を維持するために、位相制御モータMを、弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaの回転速度より僅かに高速で回転させることになり、制御基板44や位相制御モータMの温度上昇を招くことがあるものの、電流制限制御によって位相制御モータMに供給する電流値の制御により温度上昇を抑制し、位相制御モータMの寿命を長くする。
【0090】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0091】
(a)規制位相維持制御(#4のフローチャートの#200ステップ)を
図9の#401~#405ステップのように構成する。つまり、制御開始タイミングTa(
図7を参照)の以降、目標規制位相の方向に位相制御モータMを駆動し、検出電流(電流センサ45で検出された電流)を取得し、エンジンEの単位時間あたりの回転数をエンジン回転数として取得し、位相制御モータMの単位時間あたりの回転数をモータ回転数として取得し、検出電流が電流閾値It(
図7を参照)を超え、エンジン回転数とモータ回転数の偏差が、設定値を超えて縮小したか否かを判定する(#401~#404ステップ)。
【0092】
この#401~#404ステップでの制御が、規制位相検出部42での制御であり、この規制位相検出部42は、#404ステップのYesを判定したタイミングにおける実位相を規制位相とする。このように設定した規制維持電流を位相制御モータMに供給する制御に移行し(#405ステップ)、
図6に示す電流制限制御(#300ステップ)を実行する。
【0093】
この別実施形態(a)では、 #405ステップのように、規制維持電流を位相制御モータMに供給することで規制壁35aに規制突起35bを適度の圧力で押し当て、最遅角位相Pb又は最進角位相Paの何れかの位相に維持を実現する。このように規制維持電流を供給する際には、位相制御モータMの逆起電力を考慮することにより精度の高い値の規制維持電流を供給できる。
【0094】
(b)例えば、弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaが最進角位相Paと最遅角位相Pbとに設定された際の位相センサPSの検出値を学習し、記憶しておくことにより、この学習、記憶の後には、最進角位相Paと最遅角位相Pbとの範囲内で相対回転位相を設定する場合に、位相制御モータMを無駄に駆動することがなく、電流を無駄に消費することもない。
【0095】
この別実施形態(b)のように学習し、記憶することにより、弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaの製造誤差により、最進角位相Paと最遅角位相Pbとの位相にバラツキがあっても、最進角位相Paと最遅角位相Pbとの位相を正確に学習、記憶して無駄のない制御を可能にする。
【0096】
(c)電流制限制御の制御形態は、実施形態で説明したものに限るものではなく、例えば、温度センサ46の検出温度が予め設定された閾値に達したタイミングで位相制御モータMに供給する電力を遮断するように構成しても良い。これと同様に、温度センサ46の検出温度が上昇するほど、位相制御モータMに供給する電流を低減するように、検出温度と電流とが反比例するように制御形態を設定することも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、電動モータで開閉時期を制御する弁開閉時期制御装置に利用できる。
【符号の説明】
【0098】
1 クランクシャフト
7 吸気カムシャフト(カムシャフト)
21 駆動ケース(駆動側回転体)
22 内部ロータ(従動側回転体)
35 規制部
41b 規制位相維持制御モジュール(規制位相維持部)
42 規制位相検出部
44 制御基板(モータ制御部)
45 電流センサ
46 温度センサ
47 油温センサ
E エンジン(内燃機関)
M 位相制御モータ(電動モータ)
TH1 解除閾値(第1設定温度)
TH2 停止閾値(第2設定温度)
X 回転軸芯
Pa 最進角位相(規制位相)
Pb 最遅角位相(規制位相)
PS 位相センサ