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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】既存屋根の改修構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 3/00 20060101AFI20240327BHJP
   E04D 13/158 20060101ALI20240327BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240327BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
E04D3/00 V
E04D13/158
E04G23/02 H
E04G23/03
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020127402
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024681
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 智弘
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-312085(JP,A)
【文献】特許第6606624(JP,B1)
【文献】特開平06-185160(JP,A)
【文献】実開平05-087118(JP,U)
【文献】実公平07-044655(JP,Y2)
【文献】実公平05-020823(JP,Y2)
【文献】米国特許出願公開第2003/0121217(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/00- 3/40
E04D 13/00-15/07
E04G 23/02-23/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存屋根のけらばに固定された既存けらば部材を覆う改修けらば部材を用いた既存屋根の改修構造であって、
既存屋根に葺設された既存屋根材は改修手段として改修屋根材を用いて改修され、
記既存けらば部材の上片の屋根側端部が、下方に空間を確保した状態で前記既存屋根材のけらば側端部を覆っており、前記改修手段は、当該空間を残したまま前記既存屋根材を改修する構造を備え、
前記改修けらば部材は、前記既存けらば部材を、当該既存けらば部材の上片を屋根側端部から覆うとともに、当該既存けらば部材の垂下片を連続して覆うように設けられる断面略L字状の構造を備えており、
前記改修けらば部材の上カバー片の開放端に形成された折返し片が、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部に係止されて配置されてなることを特徴とする、既存屋根の改修構造。
【請求項2】
既存屋根のけらばに固定された既存けらば部材を覆う改修けらば部材を用いた既存屋根の改修構造であって、
既存屋根に葺設された既存屋根材は改修手段を用いて改修され、
前記改修手段として、前記既存屋根材の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を被覆される既存屋根材と当該既存屋根材の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材との間に差し込んで設けられる断面略J字状の改修屋根材が採用され、前記J字の曲線折り返し側が軒側であって直線側が棟側であって、
前記改修けらば部材は、前記既存けらば部材を、当該既存けらば部材の上片を屋根側端部から覆うとともに、当該既存けらば部材の垂下片を連続して覆うように設けられる断面略L字状の構造を備えており、
けらばに至る前記改修屋根材の側端部が前記既存けらば部材の上片の屋根側端部の下方に差し込み配置され、
前記改修けらば部材の上カバー片の開放端に形成された折返し片が、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部に係止されて配置されてなることを特徴とする、既存屋根の改修構造。
【請求項3】
前記改修けらば部材が、上カバー片、前記上カバー片の開放端に形成された折返し片、垂下カバー片、および、前記垂下カバー片の開放端に形成された折返し片を備えてなり、前記上カバー片と前記垂下カバー片との連結部を基準として対称に形成されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の既存屋根の改修構造。
【請求項4】
前記改修けらば部材の上カバー片の折返し片を、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部と、当該屋根側端部の下方の空間に配置された改修手段の側端部との間に差し込んで係止配置し、当該折返し片の反発力により上カバー片が上方に湾曲するように前記改修けらば部材が配置されてなることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれかに記載の既存屋根の改修構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存屋根の改修構造に関し、特に、施工された既存けらば部材も既存屋根材も取り去る(取り外す)ことなくけらばを含めて屋根を良好な施工性で改修する改修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、けらばを含む屋根の改修時には、既存屋根材および既存けらば部材を全部取り去り、その下地上に必要によりアスファルトルーフィング等の防水シートを施設し、そのシート上に新規(改修)けらば部材や新規(改修)屋根材を施工していくものであった。しかしながら、既存屋根材および既存けらば部材を取り去るには、多大の費用および時間がかかるとともに、残材が多量に出るものであって、さらに近年は労働力不足が大きな問題となってきており今後は労働力不足を考慮することなく屋根を改修することは困難となってきている。
【0003】
このような問題に対して、既存屋根材および既存けらば部材を除去することなく新規(改修)屋根材を施工することにより工期を短縮することのできる、けらば改修構造が知られている。たとえば、特開平8-049365号公報(特許文献1)は、既存屋根の妻側部分を2部材のけらばと段葺き状の屋根材とを用いて改修するための改修構造を開示する。
【0004】
この特許文献1に開示されたけらば改修構造は、既存の新生瓦屋根のけらば部分を改修する構造において、既存屋根に、ボード状の裏打材を用いて段葺状に屋根材を形成するとともに、水平な固定片と該固定片の途中を上方に突出させた突出片と前記固定片の端に略U字状に形成した係合溝と、該係合溝の先端を下方に垂下させた垂下片とから略断面L字状に形成した係止下地とを既存屋根の側端に当接して固定し、既存屋根のけらば端面に接触させて固定片を釘等の固定具によって既存屋根に固定し、また裏打材の端部を前記突出片に略当接しながら屋根材を葺成し、かつ、該屋根材の化粧面端縁は突出片より係合溝側に突出しており、この屋根材の端縁を、少なくとも屋根材の化粧面と略同一形状の化粧面部と、該化粧面部の幅方向の一端縁を下方へ突出するとともに、先端にはぜ状の舌片を設けた側面カバー片と、化粧面部の幅方向の途中を下方へ突出し下端に係合突起を有する差込縁とからなる化粧キャップを、前記係止下地の係止溝に差込縁を嵌合、係止するとともに、化粧面部で屋根材の化粧面を被覆したことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-049365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたけらば改修構造は、構造的に対称構造ではなく(左右非対称であって)、かつ、部品点数が多いために、施工性が好ましくないという問題点を有しており、労働力不足が大きな問題となってきている昨今では施工性のさらなる向上が求められる。
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、既存屋根の改修構造であって、施工された既存けらば部材も既存屋根材も取り去る(取り外す)ことなくけらばを含めて屋根を良好な施工性で改修する改修構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る改修構造は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明のある局面に係る改修構造は、既存屋根のけらばに固定された既存けらば部材を覆う改修けらば部材を用いた既存屋根の改修構造であって、既存屋根に葺設された既存屋根材は改修手段を用いて改修され、前記改修手段は、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部が、下方に空間を確保した状態で前記既存屋根材のけらば側端部を覆って
おり、当該空間を残したまま前記既存屋根材を改修する構造を備え、前記改修けらば部材は、前記既存けらば部材を、当該既存けらば部材の上片を屋根側端部から覆うとともに、当該既存けらば部材の垂下片を連続して覆うように設けられる断面略L字状の構造を備えており、前記改修けらば部材の上カバー片の開放端に形成された折返し片が、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部に係止されて配置されてなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の別の局面に係る改修構造は、既存屋根のけらばに固定された既存けらば部材を覆う改修けらば部材を用いた既存屋根の改修構造であって、既存屋根に葺設された既存屋根材は改修手段を用いて改修され、前記改修手段として、前記既存屋根材の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される既存屋根材と当該既存屋根材の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材との間に差し込んで設けられる断面略J字状の改修用屋根材が採用され、前記J字の曲線折り返し側が軒側であって直線側が棟側であって、前記改修けらば部材は、前記既存けらば部材を、当該既存けらば部材の上片を屋根側端部から覆うとともに、当該既存けらば部材の垂下片を連続して覆うように設けられる断面略L字状の構造を備えており、けらばに至る前記改修屋根材の側端部が前記既存けらば部材の上片の屋根側端部の下方に差し込み配置され、前記改修けらば部材の上カバー片の開放端に形成された折返し片が、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部に係止されて配置されてなることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記改修けらば部材が、上カバー片、前記上カバー片の開放端に形成された折返し片、垂下カバー片、および、前記垂下カバー片の開放端に形成された折返し片を備えてなり、前記上カバー片と前記垂下カバー片との連結部を基準として対称に形成されてなるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記改修けらば部材の上カバー片の折返し片を、前記既存けらば部材の上片の屋根側端部と、当該屋根側端部の下方の空間に配置された改修手段の側端部との間に差し込んで係止配置し、当該折返し片の反発力により上カバー片が上方に湾曲するように前記改修けらば部材が配置されてなるように構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、既存屋根の改修構造であって、施工された既存けらば部材も既存屋根材も取り去る(取り外す)ことなくけらばを含めて屋根を良好な施工性で改修する改修構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る改修構造が適用される屋根の改修箇所を示す斜視図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る改修けらば部材100および(改修手段の一例である)改修屋根材1100を用いて改修される切妻屋根の斜視図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る改修けらば部材100の2面図である。
図4図2に示す方向の切断面で切断した屋根(けらばを含む位置)を立体白抜き矢示で示す方向から見た改修施工前の断面図である。
図5図2に示す方向の切断面で切断した屋根(けらばを含む位置)を立体白抜き矢示で示す方向から見た改修施工後の断面図(その1)であって、改修けらば部材100および(改修手段の一例である)改修屋根材1100を用いた場合の断面図である。
図6図4に示す改修施工前の状態から図5に示す改修施工後の状態への施工手順である屋根改修施工方法を説明するための図である。
図7図2に示す方向の切断面で切断した屋根(けらばを含む位置)を立体白抜き矢示で示す方向から見た改修施工後の断面図(その2)である。
図8図2に示す方向の切断面で切断した屋根(けらばを含む位置)を立体白抜き矢示で示す方向から見た改修施工後の断面図(その3)である。
図9図2に示す方向の切断面で切断した屋根(けらばを含む位置)を立体白抜き矢示で示す方向から見た改修施工後の断面図であって、第1の実施の形態の変形例として説明する改修けらば部材100および(改修手段の一例である)改修屋根材1110を用いた場合の断面図である。
図10】本発明の第2の実施の形態に係る改修棟カバー200を用いて改修される寄棟屋根の斜視図である。
図11】本発明の第2の実施の形態に係る改修棟カバー200を用いて改修される既存棟カバー2000の平面図である。
図12】本発明の第2の実施の形態に係る改修棟カバー200の2面図である。
図13】本発明の第2の実施の形態に係る改修棟カバー200を用いて改修された既存棟カバー2000および改修棟カバー200の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る改修構造を、図面に基づき詳しく説明する。
なお、図1に示すように、切妻屋根へ適用される改修けらば部材を用いた改修構造を第1の実施の形態として、寄棟屋根へ適用される改修棟カバーを用いた改修構造を第2の実施の形態として説明する。また、第1の実施の形態において、改修手段として改修屋根材1100を採用して既存屋根材1200を改修する場合について説明した後に、第1の実施の形態の変形例として、改修手段として改修屋根材1110を採用して既存屋根材1210を改修する場合について説明する。この変形例は、たとえば本願出願人により出願された特開2020-084420号公報の図2に示されるように、改修手段として平面状の建築板(スレート瓦)を採用して平面状の既設屋根板(スレート瓦)を改修するものである。
【0013】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る改修けらば部材100および改修手段としての改修屋根材1100を用いた改修構造について、その改修対象の切妻屋根を斜視図で示した図2、改修けらば部材100の2面図を示す図3図2に示す切断面で切断した屋根(けらばを含む)を立体白抜き矢示で示す方向から見た改修施工前の断面図を示す図4、同じ方向から見た改修施工後の断面図を示す図5図8を参照して、詳しく説明する。なお、図6は改修施工前の状態から改修施工後の状態への施工手順である屋根改修施工方法を説明するための図であって、図6(B)に示す切断線が図2に示す切断面に対応しており、図2に示す立体白抜き矢示は図6(B)に示す白抜き矢示に対応している。
【0014】
まず、この改修けらば部材100および改修手段としての改修屋根材1100を用いて改修される切妻屋根の一例について説明する。改修屋根材1100を用いて改修される既存屋根材1200はたとえば、化粧スレートであって、建築物(構築物を含む)の屋根に用いられている屋根材であって、屋根の下地(詳しくは後述する下地材である野地板1370、下葺材1360等)の上に施工された屋根材である。ここで、これらの図2図8においては、本発明と直接的には関係しないために、屋根の施工構造に関係する全ての部材について記載しているわけではない。なお、これらの図2図8において、垂木1300、化粧破風板1310、のぼり木1320、下葺材増張り1330、のぼり木固定釘1340、および、役物固定釘1350については、本発明との関連が低く、かつ、屋根の施工構造についての一般的なものであるために、詳しく説明しない。
【0015】
なお、改修手段としての改修屋根材1100を用いる改修の施工手順について少し説明する。改修屋根材1100は、既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される既存屋根材1200と当該既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材1200との間に差し込んで設けられる断面略J字状に形成されている。当該改修屋根材1100は、棟側から軒側に順次施工するのが望ましい。先ず、大棟(棟)部において、改修屋根材1100は、既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、必要に応じて切断した棟側端縁を当該被覆される既存屋根材1200と既存棟包との間に差し込んで設けられる。なお、その際、改修屋根材1100の水平方向の隣接部分の裏面側に捨て板を設けてもよい。次に、1段軒側の改修屋根材1100は、1段軒側の既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される1段軒側の既存屋根材1200と当該1段軒側の既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材1200(改修屋根材1100で被覆されている)との間に差し込んで設けられる。更に、2段軒側の改修屋根材1100は、2段軒側の既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される2段
軒側の既存屋根材1200と当該2段軒側の既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材1200(改修屋根材1100で被覆されている)との間に差し込んで設けられる。以後、同様の施工を水平方向一段ずつ繰り返し行い、軒先の既存屋根材1200まで被覆した後、改修けらば部材100が取り付けられる。改修屋根材1100および改修けらば部材100は、接着剤を用いて固定することが望ましい。
【0016】
この既存屋根材1200の一例である化粧スレートは、図6(B)に示すように、大略的には、複数の化粧スレートが軒棟方向において階段状に重ねられて施工されたものである。このように複数の化粧スレートが軒棟方向(軒棟方向については軒側から棟側へ順次)および桁方向(桁方向についてはいずれか一方端から他方端へ順次)に施工されて既存屋根の施工構造が完成されている。
【0017】
改修施工前である既存屋根においては、図4に示すように化粧スレートがその一例として挙げられる既存屋根材1200および既存けらば部材1000とを含んで構成されており、本発明は、これらの既存屋根材1200および既存けらば部材1000を取り外すことなく、既存屋根材1200に対して改修手段の一例である改修屋根材1100を用いて、既存けらば部材1000に対して改修けらば部材100を用いて、それぞれ改修するものである。すなわち、改修前の図4と改修後の図5とを比較すると容易に理解できるように、既存屋根材1200(ここでは化粧スレート)を本実施の形態に係る改修屋根材1100により覆うように(カバーするように)施工して、かつ、既存けらば部材1000を本実施の形態に係る改修けらば部材100により覆うように(カバーするように)施工して、改修構造が完成する。
【0018】
なお、屋根の施工構造において一般的に用いられている、軒側、棟側、軒棟方向、桁方向等を図2に示す。
本実施の形態に係る改修構造は、上述したように、既存屋根のけらばに固定された既存けらば部材1000を覆う改修けらば部材100を用いた既存屋根の改修構造である。改修対象である既存屋根に葺設された既存屋根材1200は改修手段を用いて改修される。その改修手段の一例として採用される改修屋根材1100は、既存けらば部材1000の上片1002の屋根側端部1001が、図5に示すように下方に空間Sを確保した状態で既存屋根材1200のけらば側端部を覆っており、この空間Sを残したまま既存屋根材1200を改修する構造を備える。なお、図5に示す改修屋根材1100は、図6(C)に示す断面形状(断面略J字状)を備えなくても構わないが(例えば後述する第1の実施の形態の変形例における改修屋根材1110)、上述した空間Sを残したまま既存屋根材1200を改修する構造を備える必要がある。
【0019】
さらに限定的には、改修手段として図6(C)に示される形状を備えた改修屋根材1100であっても構わない。この図6(C)に示される改修屋根材1100は、既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁をこの被覆される既存屋根材1200とこの既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側の既存屋根材1200との間に差し込んで設けられる(図6(D)に示されるように)断面略J字状を備える。この断面略J字状におけるJ字の曲線折り返し側が軒側であって直線側が棟側である。
【0020】
そして、改修けらば部材100は、図3(B)、図4および図5に示すように、既存けらば部材1000の上片1002を屋根側端部から上カバー片110により覆うとともに、この既存けらば部材1000の垂下片1004を垂下カバー片140により覆う。この場合において、それぞれ連続して、既存けらば部材1000を覆うように設けられるように、改修けらば部材100は、断面略L字状の構造を備えている。そして、改修けらば部材100の上カバー片110の開放端に形成された折返し片120が、既存けらば部材1000の上片1002の屋根側端部1001に係止されて配置される。
【0021】
なお、図6(C)に示される改修屋根材1100が採用される場合には、図5の配置状態を示す領域Tに示されるように、けらばに至る改修屋根材100の側端部が既存けらば部材1000の上片1002の屋根側端部1001の下方に差し込み配置される。
図3(A)および図3(B)に示すように、改修けらば部材100は、上カバー片110、上カバー片110の開放端に形成された折返し片120、垂下カバー片140、およ
び、垂下カバー片140の開放端に形成された折返し片150を備えてなり、上カバー片110と垂下カバー片140との連結部130を基準として(図3(B)に一点鎖線で示す対称軸を軸として)対称に形成されている。このため、θ(1)=θ(2)、θ(3)=90deg、W=Hである。ここで、限定されるものではないが、L=1800mm程度、W=H=76mm程度、θ(1)=θ(2)=30deg程度、折り返し片120および折り返し片150の長さ=10mm程度である。このように改修けらば部材100を対称形状とすることにより、上カバー片110と垂下カバー片140とを区別して施工する必要がなくなり、施工性が向上する。
【0022】
図5および図6に示すように、改修けらば部材100の上カバー片110の折返し片120を、既存けらば部材1000の上片1002の屋根側端部1001と、この屋根側端部1001の下方の空間に配置された改修手段(ここでは改修屋根材1100)の側端部との間に差し込んで係止配置し、改修けらば部材100が配置されている。
より詳しくは、図6(A)に示すように、改修けらば部材100の上カバー片110の折返し片120を、既存けらば部材1000の上片1002の屋根側端部1001と、この屋根側端部1001の下方の空間に配置された改修屋根材1100の側端部との間に差し込んで係止させてから、白抜き矢示R(1)方向に、改修けらば部材100を回転させて、この既存けらば部材1000の垂下片1004を垂下カバー片140により覆う。改修けらば部材100は、接着剤を用いて固定してもよく、また、図5に示すように、側方および/または上方から固定釘1400によりのぼり木に固定してもよく、接着剤と固定釘1400とを併用してもよい。
【0023】
また、空間Sのサイズや折返し片120の角度を調整して既存けらば部材1000に改修けらば部材100を設けることにより、図7に示すように、折り返し片120による(図7に白抜き両矢示で示すように)反発力が発生して、かつ、連結部130は既存けらば部材1000の直角部1003により(図7にハッチング矢示で示すように)拘束されているために改修けらば部材100の上カバー片110をわずかに上方へ(図7に黒塗り矢示で示すように)湾曲させることができる。図7においては、この湾曲の度合いを強調してR(2)で示している。このように改修けらば部材100の上カバー片110をわずかに上方へ湾曲させることにより、改修けらば部材100の上カバー片110に雨水が溜まりにくくすることができる。
さらに、図8に示すように、改修けらば部材100の垂下カバー片140の折り返し片150を、既存けらば部材1000の垂下片の下端部1005に係止させて(引っ掛けて)施工することも好ましい。このように施工すると、強風時における改修けらば部材100のバタつきを抑制することができる。
【0024】
さらに、図8に示すように、改修けらば部材100の垂下カバー片140の折り返し片 ここで、これらの改修けらば部材100および改修屋根材1100は、金属製薄板(略薄板状の部材)を、上述した形状に折り曲げて形成されている。この場合において、たとえば、ロール状に巻かれた金属製薄板を繰り出して、所定の長さで切断した後に所定の形状に折り曲げられて製造される。また、これらの改修けらば部材100および改修屋根材1100は、限定されるものではないが、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス、チタン、アルミ・亜鉛合金メッキ鋼板、ホーロー鋼板、クラッド鋼板、ラミネート鋼板(塩ビ鋼板等)、サンドイッチ鋼板(制振鋼板等)等(これらを各種色調に塗装した金属製カラー板を含む)の一種、または、合成樹脂製板材、たとえば塩化ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂等(これらを各種色調に塗装した合成樹脂製カラー板を含む)の一種、が採用される。これらの中でも、金属製薄板材(厚さ0.3mm~0.4mm程度)が好ましく採用され、さらに、たとえば、アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板またはこのアルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板にマグネシウムにより防錆効果を付与した鋼板がさらに好ましく採用され、ロール成形、プレス成形、押出成形、切り欠き加工等によって各種形状に成形したものである。
以上のようにして、本発明の実施の形態に係る改修構造によると、既存屋根の改修構造であって、施工された既存けらば部材も既存屋根材も取り去る(取り外す)ことなくけらばを含めて屋根を良好な施工性で改修する改修構造を提供することができる。
【0025】
<第1の実施の形態:変形例>
第1の実施の形態の変形例に係る改修構造について、図9を参照して説明する。この変形例は、上述したように、本願出願人により出願された特開2020-084420号公報の図2に示されるように、改修手段として平面状の建築板(スレート瓦)を採用して平面状の既設屋根板(スレート瓦)を改修するものである。そして、それらについての説明は、上述した説明と重複するために、以下においては繰り返して説明しない。
【0026】
本変形例に係る改修構造においても、上述した第1の実施の形態と同じく、既存屋根のけらばに固定された既存けらば部材1000を覆う改修けらば部材100を用いた既存屋根の改修構造である。改修対象である既存屋根に葺設された既存屋根材1210は改修手段を用いて改修される。その改修手段の一例として採用される改修屋根材1110は、既存けらば部材1000の上片1002の屋根側端部1001が、図9に示すように下方に空間Sを確保した状態で既存屋根材1210のけらば側端部を覆っており、この空間Sを残したまま既存屋根材1210を改修する構造を備える。なお、この図9の断面図は、特開2020-084420号公報の図2の符号533付近を通る垂線が切断線としたものである。
以上のようにして、本変形例に係る改修構造によっても、改修手段として図6(C)に示される形状を備えた改修屋根材1100に限定されることなく、施工された既存けらば部材も既存屋根材も取り去る(取り外す)ことなくけらばを含めて屋根を良好な施工性で改修する改修構造を提供することができる。
【0027】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る屋根の改修構造であって、寄棟屋根へ適用される改修棟カバーを用いた改修構造について、本実施の形態の改修構造に用いられる改修棟カバー200を用いて改修される寄棟屋根の斜視図を示す図10、改修棟カバー200を用いて改修される既存棟カバー2000の平面図を示す図11、改修棟カバー200の2面図を示す図12、および、改修棟カバー200を用いて改修された既存棟カバー2000および改修棟カバー200の平面図を示す図13を参照して、以下に詳しく説明する。なお、図11においては既存棟カバー2000の平面図のみを示して側面図を示していないが、側面視において既存棟カバー2000は図12(B)の傾斜角θ(4)を備えるものである。なお、改修棟カバー200の大略的な製造方法および材質については、上述した改修けらば部材100と同様であるため、ここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0028】
図10に示すように、この改修棟カバー200は、寄棟屋根に施工された既存棟カバー2000に被せるようにして施工される。このため、施工された既存棟カバー2000を取り去る(取り外す)ことなく棟カバーを改修する改修構造を提供することができる。ここで、改修手段としての改修屋根材1100を用いる改修の施工手順について少し説明する。改修屋根材1100は、既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される既存屋根材1200と当該既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材1200との間に差し込んで設けられる断面略J字状に形成されている。当該改修屋根材1100は、棟側から軒側に順次施工するのが望ましい。先ず、大棟(棟)部において、改修屋根材1100は、既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、必要に応じて切断した棟側端縁を当該被覆される既存屋根材1200と既存棟包との間に差し込んで設けられる。また、隅棟(降棟)部において、改修屋根材1100は、所定長さに切断され、隅棟(降棟)側端部を既存棟カバー2000に重ねて設けられる。次に、隅棟(降棟)を介して隣り合う屋根面において、同様に改修屋根材1100が設けられる。次に、改修棟カバー200は、改修屋根材1100の隅棟(降棟)側端部、および既存棟カバー2000を覆うよう必要に応じて棟側端部を切断した棟側端縁を当該被覆される改修屋根材1100の隅棟(降棟)側端部、および既存棟カバー2000と既存棟包との間に差し込んで設けられる。次に、1段軒側の改修屋根材1100は、1段軒側の既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される1段軒側の既存屋根材1200と当該1段軒側の既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材1200(改修屋根材1100で被覆されている)と
の間に差し込んで設けられる。また、隅棟(降棟)部において、1段軒側の改修屋根材1100は、所定長さに切断され、隅棟(降棟)側端部を1段軒側の既存棟カバー2000に重ねて設けられる。次に、隅棟(降棟)を介して隣り合う屋根面において、同様に1段軒側の既存屋根材1200に1段軒側の改修屋根材1100が設けられる。次に、1段軒側の改修棟カバー200は、1段軒側の改修屋根材1100の隅棟(降棟)側端部、および1段軒側の既存棟カバー2000を覆うよう棟側端縁を当該被覆される1段軒側の改修屋根材1100の隅棟(降棟)側端部、および1段軒側の既存棟カバー2000と棟側の既存屋根材1200との間に差し込んで設けられる。次に、2段軒側の改修屋根材1100は、2段軒側の既存屋根材1200の軒側先端部から表面を覆うとともに、棟側端縁を当該被覆される2段軒側既存屋根材1200と当該2段軒側の既存屋根材1200の棟側に重ねて葺設される棟側既存屋根材1200(改修屋根材1100で被覆されている)との間に差し込んで設けられる。また、隅棟(降棟)部において、2段軒側の改修屋根材1100は、所定長さに切断され、隅棟(降棟)側端部を2段軒側の既存棟カバー2000に重ねて設けられる。次に、隅棟(降棟)を介して隣り合う屋根面において、同様に2段軒側の既存屋根材1200に2段軒側の改修屋根材1100が設けられる。次に、2段軒側の改修棟カバー200は、2段軒側の改修屋根材1100の隅棟(降棟)側端部、および2段軒側の既存棟カバー2000を覆うよう棟側端縁を当該被覆される2段軒側の改修屋根材1100の隅棟(降棟)側端部、および2段軒側の既存棟カバー2000と棟側の既存屋根材1200との間に差し込んで設けられる。以後、同様の施工を繰り返し行い、軒先の既存屋根材1200および軒先の既存棟カバー2000まで、改修屋根材1100および改修棟カバー200で被覆される。改修屋根材1100および改修棟カバー200は、接着剤を用いて固定することが望ましい。
【0029】
より詳しくは、図11に示すように、既存棟カバー2000は、寄棟の傾斜に対応させた傾斜角θ(4)(図12(B)と同様)で折り曲げられた2つの斜面2010を備え、それらの斜面により稜線2020が形成されている。また、既存棟カバー2000は、その軒側端部2050は平面視でくの字状に形成され、その棟側端部2060は平面視で直線状に形成されている。また、軒側端部2050には、隣り合う屋根面のそれぞれに葺設された既存屋根材1200の隅棟(降棟)側端部を挿入可能に裏面側に折返し片が形成されている。なお、この既存棟カバー2000の軒棟方向の長さL(1)とする。
【0030】
次に、図12に示すように、改修棟カバー200は、寄棟の傾斜に対応させた傾斜角θ(4)で折り曲げられた2つの斜面210を備え、それらの斜面により稜線220が形成されている。また、改修棟カバー200は、その軒側端部250も棟側端部260も平面視でくの字状に形成されている。また、軒側端部250には、隣り合う屋根面のそれぞれに葺設された既存屋根材1200の隅棟(降棟)側端部、既存棟カバー2000の軒側端部2050、および改修屋根材1100を挿入可能に裏面側に折返し片が形成されている。なお、この改修棟カバー200の軒棟方向の長さL(2)とする。
【0031】
図11に示す既存棟カバー2000に図12に示す改修棟カバー200を図10に示すように(既存棟カバー2000の軒側端部2050に改修棟カバー200の軒側端部250が一致するように)被せると、図13に示す平面図で表される状態になる。このとき、既存棟カバー2000の固定位置2030(通常、棟側端部付近を釘等の固定具を用いて固定している。)が改修棟カバー200により塞がれていない。このように、同じ縮尺で表された図11図12においてL(1)>L(2)であって、かつ、既存棟カバー2000の軒側端部2050に改修棟カバー200の軒側端部250が一致するように被せたときに既存棟カバー2000の固定位置2030が改修棟カバー200により塞がれていない。ここで、限定されるものではないが、この改修棟カバー200は、改修屋根材1100とともに棟側から軒側へ順次施工(既存棟カバー2000に被せるようにして施工)され、その場合において、棟側の改修棟カバー200の軒側端部250の下側に軒側の改修棟カバー200の棟側端部260が差し込まれるとともに、必要に応じて接着剤を用いて施工される。
【0032】
このため、固定位置2030に位置する既存カバー2000の固定釘に干渉されること
なく、改修棟カバー200を用いて(既存棟カバー2000を取り外す(取り去る)ことなく)寄棟屋根を改修することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、既存屋根の部材(既存けらば部材、既存屋根材、棟カバー)を取り外すことなく既存屋根を改修することのできる改修構造に好ましく、施工された既存けらば部材も既存屋根材も棟カバーも取り去る(取り外す)ことなく、けらば部材、および/または、棟カバーを含めて屋根を改修することができる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0034】
100 改修けらば部材
200 改修棟カバー
1000 既存けらば部材
1100 改修屋根材
1110 改修屋根材(変形例)
1200 既存屋根材
1210 既存屋根材(変形例)
2000 既存棟カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
図11
図12
図13