(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】超音波探触子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
A61B8/00
(21)【出願番号】P 2020135441
(22)【出願日】2020-08-08
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】込山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】若林 孝
(72)【発明者】
【氏名】那珂 洋二
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 恭伸
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-277105(JP,A)
【文献】特表2001-521404(JP,A)
【文献】特開昭64-006859(JP,A)
【文献】特開2004-024464(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065310(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0005552(US,A1)
【文献】特開平01-006859(JP,A)
【文献】米国特許第05083568(US,A)
【文献】特開平10-014916(JP,A)
【文献】特開平07-218620(JP,A)
【文献】特開2005-278918(JP,A)
【文献】特表2019-505270(JP,A)
【文献】特開2010-005374(JP,A)
【文献】特開平01-242041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1探触子群としてのリニアアレイ探触子と、互いは離れて配置された2個以上の
個別探触子から成る少なくとも1組の第2探触子群と、
前記第1探触子群の各探触子の焦点を調整する第1焦点調整部、及び、前記2個以上の個別探触子が共通の監視位置を持つよう焦点を調整する第2焦点調整部を有した音響レンズと、を備える超音波探触子に
おいて、
前記第1探触子群を構成する各探触子の送受信面と、前記第2探触子群を構成する各探触子の送受信面とは、面一となっており、
前記音響レンズは、前記第1探触子群及び前記第2探触子群と対向する第1面側に、前記第1探触子群及び第2探触子群を内包する凹部を有し、
該凹部の底面の前記第1探触子群と対向する領域に、前記各探触子が並ぶ方向に沿って長尺でかつ前記並ぶ方向と直交する方向において中央付近が前記第1面とは反対側である第2面側に円弧状に湾曲している凹状部を有し、かつ、
前記凹部の前記第2探触子群と対向する領域に、前記凹部の側面から前記第2面に向かって下っている傾斜面を有し、
前記円弧状に湾曲している凹状部によって前記第1焦点調整部を構成してあり、前記傾斜面によって前記第2焦点調整部を構成してあること
を特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記第2探触子群は、前記リニアアレイの各探触子の並ぶ方向の両端の少なくとも一端に、前記並ぶ方向と直交する方向に沿って配置した2個の個別探触子で、構成してあることを特徴とする請求項
1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記第2探触子群は、前記
リニアアレイの各探触子の並ぶ方向の両端各々に、前記並ぶ方向と直交する方向に沿って配置した2個ずつ合計4個の個別探触子で、構成してあり、かつ、前記両端の一方の端の2個の探触子で1組目の第2探触子群を構成し、前記両端の他方の端の2個の探触子で2組目の第2探触子群を構成してあることを特徴とする請求項
1に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記第2探触子群の個別探触子は、前記リニアアレイに対し、前記リニアアレイの各探触子の並ぶ方向両側に配置してあり、
前記第2焦点調整部の前記傾斜面は、前記並ぶ方向両側に配置した各探触子に対向する領域に設けられ、かつ、前記第2面に向かうに従い近接していることを特徴とする請求項1項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記第2探触子群の各探触子は、第1探触子群の各探触子の配列ピッチと同じピッチで配列された探触子を配線で接続して1つの探触子に再構成したものであることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記音響レンズが、樹脂製レンズであることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
第1探触子群としてのリニアアレイ探触子と、互いは離れて配置された2個以上の探触子から成る少なくとも1組の第2探触子群と、前記第1探触子群及び前記第2探触子群の焦点調整のための音響レンズと、を備える超音波探触子を製造するに当たり、
基台に、超音波探触子用の第1電極形成用の第1金属層、圧電体層及び第2電極形成用の第2金属層をこの順に有する構造体を用意する工程と、
前記構造体を、前記第1探触子群の各探触子および前記第2探触子群の各探触子に区分けする分割工程と、
前記第1探触子群及び前記第2探触子群と対向する第1面側に、前記第1探触子群の各探触子の焦点を調整する第1焦点調整部と、前記第2探触子群の2個以上の探触子が共通の監視位置を持つよう焦点を調整する第2焦点調整部とを有する音響レンズを、用意する工程と、
前記分割工程が済んだ構造体に、前記用意した音響レンズの前記第1面を対向させて両者を組み立てる工程と
を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1探触子群としてのリニアアレイ探触子とその近傍に配置された第2探触子群とを備え、しかも製造が容易な構造を有する超音波探触子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子が、種々の分野で必要とされており、特に医療分野では、人体の内部疾患の診断に必須のものとなっている。超音波探触子の移動速度や移動量等の情報を超音波診断装置の表示画面等に表示できれば、超音波探触子の使い易さが向上するので、好ましい。
例えば特許文献1には、第1の超音波トランスデューサアレイ、及び、生体に接触する接触面との間に間隔を置いた内部に配置された、該接触面に対し超音波を斜めに送受信する1つ以上の第2の超音波トランスデューサ、並びに、送受信手段、断層像生成手段、表示手段、ドプラ偏移検出手段、移動算出手段を備えた超音波診断装置が、開示されている(特許請求の範囲)。
【0003】
特許文献1に開示された超音波診断装置によれば、第2トランスデューサの送受信信号を利用して、超音波探触子の生体に対する相対的な移動速度あるいは移動量を求めている(特許請求の範囲)。しかも、第1の超音波トランスデューサアレイと第2のトランスデューサとが、一体となっているため、被診断物が動いてしまった場合の影響を受けにくいため、上記移動速度や移動量を正確に求めることができるという(例えば段落8等)。
さらに、第2の超音波トランスデューサを複数の位置に備えると、各ペアにおける相対移動を検出することができ、超音波探触子の平行移動のみでなく、回転移動も知り得るという(段落10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された超音波診断装置では、第2の超音波トランスデューサは、生体に接触する接触面との間に間隔を置いた状態で、かつ、超音波探触子内部に配置されていた。しかも、第2の超音波トランスデューサは、上記接触面に対し超音波を斜めに送受信するように配置されていた。
従って、第1の超音波トランスデューサアレイと第2のトランスデューサとを含む超音波探触子部分を作成することが大変であるという問題点がある。
この発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、従って、本出願の目的は、リニアアレイ探触子とその近傍に配置された第2探触子群とを備える超音波探触子であって、構造が簡易で製造が容易な超音波探触子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この出願の第1発明は、第1探触子群としてのリニアアレイ探触子と、互いは離れて配置された2個以上の探触子から成る少なくとも1組の第2探触子群と、前記第1探触子群及び前記第2探触子群の焦点調整のための音響レンズと、を備える超音波探触子であって、
前記第1探触子群を構成する各探触子の送受信面と、前記第2探触子群を構成する各探触子の送受信面とが、面一となっている超音波探触子である。
この超音波探触子の発明を実施するに当たり、前記音響レンズは、前記第1探触子群及び前記第2探触子群と対向する第1面側に、前記第1探触子群の各探触子の焦点を調整する第1焦点調整部と、前記第2探触子群の2個以上の探触子が共通の監視位置を持つよう焦点を調整する第2焦点調整部と、を有したものとすることが好ましい。
【0007】
また、この出願の第2発明は、第1探触子群としてのリニアアレイ探触子と、互いは離れて配置された2個以上の探触子から成る少なくとも1組の第2探触子群と、前記第1探触子群及び前記第2探触子群の焦点調整のための音響レンズと、を備える超音波探触子を製造するに当たり、
基台に、超音波探触子用の第1電極形成用の第1金属層、圧電体層及び第2電極形成用の第2金属層をこの順に有する構造体を用意する工程と、
前記構造体を、前記第1探触子群の各探触子および前記第2探触子群の各探触子に区分けする分割工程と、
前記第1探触子群及び前記第2探触子群と対向する第1面側に、前記第1探触子群の各探触子の焦点を調整する第1焦点調整部と、前記第2探触子群の2個以上の探触子が共通の監視位置を持つよう焦点を調整する第2焦点調整部とを有する音響レンズを、用意する工程と、
前記分割工程が済んだ構造体に、前記用意した音響レンズの前記第1面を対向させて両者を組み立てる工程と
を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
この出願の超音波探触子によれば、第1探触子群を構成する各探触子の送受信面と、第2探触子群を構成する各探触子の送受信面とが、面一となっているため、第2超音波トランスデューサを生体に接触する接触面との間に間隔を置いた状態で、かつ、前記接触面に対し超音波を斜めに送受信するよう配置する従来技術に比べて、構造が簡易な超音波探触子を実現できる。
また、この出願の超音波探触子の好適例によれば、第1探触子群及び第2探触子群各々の超音波の焦点調整は、第1焦点調整部と及び第2焦点調整部を有した所定の音響レンズによって行う。このような音響レンズは、切削加工や成形によって製造できるので、このような音響レンズを用いるといえど、生体に接触する接触面に間隔を置いて探触子を設け、超音波を斜めに送受信する従来技術に比べ、構造が簡易な超音波探触子を実現できる
【0009】
また、この出願の超音波探触子の製造方法によれば、基台上に超音波探触子用の第1金属層、圧電体層及び第2金属層をこの順に有する構造体を用意し、この構造体を、第1探触子群の各探触子および第2探触子群の各探触子に区分けすることで、第1探触子群および第2探触子群を形成するので、目的とする超音波探触子の主要部を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(A)~(C)は、第1の実施形態の超音波探触子10を説明する図である。
【
図2】
図2(A)~(D)は、第1の実施形態の超音波探触子10の特に音響レンズ30を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明を適用した超音波探触子の実製品の一例を示した斜視図である。
【
図4】
図4(A)~(D)は、他の実施形態の超音波探触子を説明する図であって、特に第2探触子群の配置の他の例を説明する図である。
【
図5】
図5(A)、(B)は、製造方法の発明の実施形態を説明する要部工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの出願の各発明の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれら発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の実施形態中で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
1. 超音波探触子の第1の実施形態
図1は第1の実施形態の超音波探触子10を説明する図であり、特に
図1(A)は、探触子部分20と音響レンズ30とを分離して示した斜視図、
図1(B)は探触子部分20の特に超音波探触子の要部21の概略構造を示した斜視図、
図1(C)は
図1(B)中のI-I線に沿った探触子部分20の断面図である。
なお、探触子部分20は、超音波探触子の要部21と、いわゆるバッキング層23と、音響整合層25と、を含むものである。ただし、音響整合層25は、単層でも、2層等複数層でも、設計に応じた構成とできる。以下、具体的に説明する。
【0013】
超音波探触子の要部21は、第1探触子群としてのリニアアレイ探触子21aと、2組の第2探触子群21b、21cと、を備えている。
なお、説明の都合上、2組の第2探触子群の一方を、1組目の第2探触子群21bと称し、他方を2組目の第2探触子群21cと称する。また、
図1等では、リニアアレイ探触子21aの各探触子21aaが並ぶ方向すなわち長軸方向を、X方向と示し、これに直交する方向すなわち短軸方向を、Y方向と示してある。
【0014】
第1探触子群21aは、多数の探触子21aa(
図1(B)参照)を所定のピッチPで直線状に配置したものである。
一方、1組目の第2探触子群21bは、互いは離れて配置された2個以上の探触子、ここでは2個の探触子21ba、21bbで構成してある。2組目の第2探触子群21cは、互いは離れて配置された2個以上の探触子、ここでは2個の探触子21ca、21cbで構成してある。
【0015】
1組目の第2探触子群21bは、リニアアレイ探触子21aの長軸方向であるX方向の両端の一方端に設けてあり、かつ、2個の探触子21ba、21bbは、Y方向に沿って、然も、間隔ΔYだけ離して設けてある。
2組目の第2探触子群21cは、リニアアレイ探触子21aの長軸方向であるX方向の両端の他方端に設けてあり、かつ、2個の探触子21ca、21cbは、Y方向に沿って、然も、間隔ΔY離して設けてある。
従って、第2探触子群21b、21cを構成している4個の探触子21ba,21bb、21ca、21cbは、リニアアレイ探触子21aの周囲の4つの角部に近接した位置に配置されている。
なお、上記の間隔ΔYは、リニアアレイ21aのY軸方向の寸法と同じ寸法とすることが好ましい。詳細は後述するが、超音波探触子10の製造が容易になる等の利点が得られるからである。
【0016】
また、リニアアレイ探触子21aの各探触子の送受信面と、第2探触子群の4つの探触子21ba,21bb,21ca、21cb各々の送受信面とは、面一となっている。すなわち、リニアアレイ探触子21aの各探触子の送受信面と、第2探触子群の4つの探触子21ba,21bb,21ca、21cbの送受信面とは、X-Y面に面一となるように配置してある。
なお、リニアアレイ探触子21aの各探触子と、第2探触子群21b、21cの各探触子は、いずれも、
図1(C)に示したように、圧電体21dとしての例えばPZTと、この圧電体21dの上下面に設けた電極21eとで構成してある。
【0017】
次に、音響レンズ30について説明する。この説明を、
図1、
図2を参照して行う。ここで、
図2(A)は、探触子部分20を音響レンズ30に実装した状態を示した斜視図、
図2(B)~(D)は、それぞれ、
図2(A)中のI-I線、II-II線、III-III線に沿った音響レンズ30及び探触子部分20の断面図である。
この実施形態の音響レンズ30は、
図1(A)に示したように、超音波探触子の要部21(すなわち、第1探触子群21a及び第2探触子群21b、21c)と対向する第1面31側に、探触子部分20を内包できる凹部30aを有している。そして、第1面31側、より具体的には、凹部30aの底面及び側面を利用して、第1焦点調整部33と第2焦点調整部35とを備えている。以下、各構成成分について具体的に説明する。
【0018】
図2(A)に示したように、音響レンズ30の凹部30a内に、探触子部分20を、空間を残して組み込んであり、かつ、この空間に接着剤30bを充填して、探触子部分20と音響レンズ30とを接続してある。なお、接着剤30bとして、第1焦点調整部33、第2焦点調整部35の構成材料より音速の遅い物性を持つ接着剤を用いる。
また、音響レンズ30の第1面31とは反対面である第2面37は、平坦面としてある。ここで平坦面とは、まさに平坦面はもちろん、当該超音波探触子10で診断する人体等の診断面に当該超音波探触子10を接触させる際に問題となる凹凸が生じていない実質的な平坦面も含む趣旨である。
【0019】
第1焦点調整部33は、第1探触子群21aであるリニアアレイ21aの各探触子21aaの焦点を調整するものである。具体的には、第1の焦点調整部33は、リニアアレイ探触子21aの下方のX方向に沿う略直線上の領域F(
図2(A)参照)に沿って、各探触子21aaの焦点を結ぶためのものである。そのため、この実施形態の場合、第1の焦点調整部33は、音響レンズ30の底部に形成した、X方向に沿って長尺で、かつ、Y方向において中央付近が第2面37側に円弧状に湾曲した凹状部で、構成してある。
【0020】
一方、第2焦点調整部35は、第2探触子群の2個以上の探触子が共通の監視位置を持つよう焦点を調整するものである。具体的には、1組目の第2超音波探触子群21bについては、探触子21baと探触子21bbとが、共通の監視位置(
図2(A)、(C)中のF2)を持つように、2個の探触子21ba、21bbの焦点を調整するものである。2組目の第2超音波探触子群21cについては、探触子21caと探触子21cbとが、共通の監視位置(
図2(A)、(C)中のF3)を持つように、2個の探触子21ca、21cbの焦点を調整するものである。以下、1組目の第2探触子群21b用の焦点調整部を焦点調整部35aと称し、2組目の第2探触子群21c用の焦点調整部を焦点調整部35bと称することもある。
この実施形態では、2個の焦点調整部35a、35b各々は、音響レンズ30の凹部30aの、X方向の両端にそれぞれ設けた、Y方向で互いに向かい合い、かつ、第2面37側に向かうに従い近接している傾斜部35cによって、構成してある。すなわち、凹部30aのX方向に沿う2つの側壁のX方向の両端に当たる領域に上記の傾斜部35cを設けた構造としてある。
【0021】
この音響レンズ30は、音速が人体のそれより速い材料で構成するが、さらに樹脂製レンズで構成することが好ましい。音響レンズ30を樹脂製レンズで構成すると、凹部30a、第1焦点調整部33及び2個の第2焦点調整部35a、35bを、成形や切削によって比較的容易に形成できるという効果が得られる。また、音響レンズ30をシリコン製レンズで構成した場合、第2探触子群用の焦点調整部に相当する部分が被診断面側に凸になり、被診断面側を平坦にできないが、音響レンズ30を樹脂製レンズで構成すると、当該超音波探触子10の被診断面側を平坦にできるという効果も得られる。用いる樹脂は、任意好適なもので良いが、例えばポリメチルペンテンが好ましい。これについては、本出願の出願人に係る特開2019-62496号に記載されているので、説明は省略する。
【0022】
この発明の超音波探触子10によれば、第1探触子群であるリニアアレイ探触子21aと、第2探触子群21b、21c各々の送受信面を面一としてあり、これら探触子群の探触子の焦点を所定の音響レンズ30によって所定通りに結ばせることができる。従って、実施形態の超音波探触子10によれば、特許文献1に記載されているドプラ偏移に基づく原理(特許文献1の段落16~22に記載された原理)により、探触子の生体に対する相対的な移動速度あるいは移動量を求めることができる。その上、リニアアレイ探触子21aと、第2探触子群21b、21c各々の送受信面が面一であるということに起因する、構造が簡易で製造が容易な超音波探触子が実現できる、という効果が得られる。
【0023】
この発明に係る超音波探触子10は、実際は、例えば
図3に示すような形態で使用される。すなわち、超音波探触子10は、フレキシブルプリント配線基板40の所定位置に実装される。フレキシブルプリント配線基板40の他の箇所にコネクタ40aが設けられている。超音波探触子10の第1探触子群、第2探触子群の各探触子の第1電極及び第2電極それぞれは、フレキシブルプリント配線基板40に設けられた配線パターン40bにそれぞれ接続してあり、従って、最終的にコネクタ40bに接続されている。
超音波探触子10を実装したフレキシブルプリント配線基板40は、超音波探触子用の筐体50内に、適切な形状に曲げられて、実装されている。
【0024】
2. 超音波探触子の他の実施形態
上記した第1の実施形態の超音波探触子10の場合、第2探触子群を2組の第2探触子群21b、21cで構成し、かつ、各探触子21ba、21bb、21ca、21cbを第1探触子群の周囲の4角に設けていたが、第2探触子群の数や配置は他のものでも良い。以下、
図4(A)~(D)を参照していくつかの他の例を説明する。なお、
図4(A)~(D)は、いずれも1組の第2探触子群21bの配置例であって、1組の第2探触子群21bに着目した概略図である。ただし、
図4(A)~(C)では、第2探触子群21b付近を上から見た図(破線の丸で囲った図)も示してある。
【0025】
図4(A)に示した例は、1組の第2探触子群21bを、リニアアレイ探触子21aの長軸方向であるX方向の両端の一方端のみに設けた例である。
図4(B)に示した例は、1組の第2探触子群21bを、リニアアレイ探触子21aの長軸方向であるX方向の両端の一方端付近に設けた例であるが、1組の第2探触子群21bを構成する2つの探触子を、Y方向に対し斜めの方向に配置した例である。
図4(C)に示した例は、1組の第2探触子群21bを、リニアアレイ探触子21aの長軸方向であるX方向の両端の一方端付近に設けた例であるが、1組の第2探触子群21bを3つの探触子で構成すると共に、3つの探触子が平面的に見て三角形の頂点の位置になるように、配置した例である。
図4(D)に示した例は、1組の第2探触子群21bを、リニアアレイ探触子21aの短軸方向であるY方向の両端の一方端に設けた例である。すなわち、2つの探触子をX軸方向に沿ってΔX離れて配置した例である。
図4(D)の例では、ΔXの寸法は、第1探触子群であるリニアアレイ探触子21aのX方向の寸法としてあるが、ΔXは設計に応じて変更でき、リニアアレイ探触子21aのX方向の寸法弟より狭い寸法であってももちろん良い。
【0026】
ここで、
図4(A)~(D)に示した第2探触子群の配置例に対応する第2焦点調整部であるが、音響レンズ30の凹部30a(
図1(A)等参照)の底面や側面である第1面31を、
図4(A)~(D)に示した第2探触子群のそれぞれの配置例に応じた超音波進路が形成されるように加工することによって実現できる。
なお、上記においては、第2探触子群の組数として、1組又は2組の例を挙げたが、第2探触子群の組数は必要に応じ3組以上でも良い。また、第2探触子群を構成する探触子の数も4以上の場合があっても良い。
図4(A)~(D)に例示したものを含め、第2探触子群の各探触子の配置を種々に変えることによって、第2探触子群を用いた超音波探触子自体の移動速度や移動量の検出処理の効率や精度の向上が期待できる。
【0027】
3. 超音波探触子の製造方法の実施形態
次に、第2発明である製造方法の実施形態について
図5を参照して説明する。
先ず、基台61を用意する。基台61は、例えばバッキング層用の基板や、後に行う分割工程を考慮したダイシング用の下地板、又はフレキシブル配線基板等、任意好適なものである。
また、超音波探触子用の第1電極形成用の第1金属層63、圧電体層65及び第2電極形成用の第2金属層67を有する構造体69を用意する。この構造体69は、圧電体65の上下面に所定形状の第1金属層63及び第2金属層67を予め形成したものであり、具体的には、圧電体65に第1金属層63及び第2金属層67用のメッキを施したもの、または、圧電体65に第1金属層63及び第2金属層67用の金属ペーストを印刷して焼結させたもの、または、圧電体65に第1金属層63及び第2金属層67用の金属膜をスパッタや蒸着等の成膜法で形成したもの等である。
次に、基台61上に、構造体69を置く、典型的には、基台61に構造体を接合させる(
図5(A))。
【0028】
次に、構造体69を、上記した第1探触子群の各探触子および第2探触子群の各探触子に区分けする分割工程を実施する(
図5(B))。これは、典型的には、ダイシングソー(図示せず)によって、第1探触子群の探触子の短軸であるY方向に沿って切断することを、X方向に沿ってピッチPで繰り返し行うことで、実施する。なお、第1金属層63は、各探触子の共通電極となるもののため、典型的には、分割を行わない。ただし、設計によっては、第1金属層63も分割しても良い。
なお、この分割工程においては、第2探触子群の各探触子の領域も、すなわち
図5中で例えば21baを付した領域も、第1探触子群の探触子のピッチPで区分けされるが、この探触子21baの領域の切断分割された各部分は、後に配線処理によって互いに接続するか、あるいは、切断予定の部分の端同士を予め接続によって接続しておいて分割することによって、これら切断部分を第2探触子群の1つの探触子として再構成すれば良いので、問題ではない。
また、第2探触子群の各探触子の領域を、すなわち
図5中で例えば21baを付した領域等を、第1探触子群の探触子のピッチPで区分けすると、第2探触子群の各探触子の振動モードを、第1探触子群の各探触子と振動モードと同じにできるため、第1探触子群及び第2探触子群に対し音響整合層30b等を共通化できるという効果も得られる。
【0029】
また、上記の各工程とは別に、上記したような所定の音響レンズ30を用意する。すなわち、
図1、
図2に示したような凹部30a、第1焦点調整部33、第2焦点調整部35a、35bを有した音響レンズ30を用意する。これは、例えば、樹脂の無垢材を切削加工するとか、樹脂を成形するなどによって行える。
【0030】
そして、上記の分割工程で得られた構造体に、上記の用意した音響レンズの第1面を対向させて両者を組み立てることで、超音波探触子10を得ることができる。ただし、この組み立て工程の前に、探触子の電極の処理工程や、マッチング層の形成工程等、種々の工程が実施される。
この製造方法の発明によれば、
図5(A)に示した積層工程と、
図5(B)に示した分割工程とによって、第1探触子群と第2探触子群の各探触子を簡易に製造でき、かつ、これら探触子の面が面一となった構造を簡易に形成できるので、超音波探触子を簡易に製造できるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0031】
10:第1の実施形態の超音波探触子 20:探触子部分
21:超音波探触子の要部
21a:第1探触子群 21b:1組目の第2探触子群
21c:2組目の第2探触子群 21d:圧電体
21e:電極
21aa、21ba、21bb、21ca、21cb:探触子(個別の探触子)
23:バッキング層 25:音響整合層
30:音響レンズ 30a:凹部
30b:接着剤 31:音響レンズの第1面
33:第1焦点調整部 35,35a、35b:第2焦点調整部
37:音響レンズの第2面 61:基台
63:第1金属層 65:圧電体層
67:第2金属層 69:構造体