(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20240327BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240327BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240327BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B27/30 A
G02B1/14
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2020136844
(22)【出願日】2020-08-13
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】辻本 桂
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035298(JP,A)
【文献】特開2020-069749(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225636(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/105083(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/070480(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0108735(US,A1)
【文献】米国特許第05527602(US,A)
【文献】特開2009-18577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
G02B1/10-1/18
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに密着して積層された表層と下地層との積層構造を含み、
前記表層が熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる層であり、
前記下地層がメタクリル系樹脂組成物からなる層であり、
前記メタクリル系樹脂組成物中のメタクリル系樹脂は、前記メタクリル系樹脂100質量%に対するメタクリル酸エステル単量体単位の質量割合が94~99.8質量%であり、
前記メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は85,000以上300,000以下であ
り、
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%に対し、熱可塑性ポリウレタンを45質量%以上99.9質量%以下、重量平均分子量(Mw)85,000以上300,000以下のメタクリル系樹脂を0.1~55質量%含む、
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量部に対して熱可塑性ポリウレタンが50~100質量部含有される、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリウレタンが芳香族環を含まない熱可塑性ポリウレタンである、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタンが脂環を1つ有するイソシアネート由来の構造単位を有する熱可塑性ポリウレタンである、請求項2又は3に記載の積層体。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリウレタンが、熱可塑性ポリウレタンに含まれる全イソシアネート由来の構造単位を100質量%とした時、脂環を1つ有するイソシアネート由来の構造単位が70質量%以上である、請求項2~4いずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
押出成形体、2色成形体、インサート成形体、及びフィルムインサート成形体からなる群から選ばれるいずれかの成形体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
センサーカバー、自動車灯具用カバー、自動車内装用部材、及び自動車外装用部材からなる群から選ばれるいずれかである、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%中の前記熱可塑性ポリウレタンと前記メタクリル系樹脂との合計質量割合が90質量%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
車間距離検知用装置、運転者の顔向き検知用居眠り防止装置、ナイトビジョン、バックソナー等の安全運転支援システム製品には、赤外線レーザーレーダーが使用されている。また特に最近は自動運転技術の内、条件付き自動運転であるレベル3や、ドライバーによる運転を前提としないレベル4~5では、高速道路や一般道路を安全に自律走行する機能が必要となる。そのため、センサーカバーにおいてはセンサーの動作に悪影響を与えないために優れた耐傷付き性と透明性が長期にわたって維持されることが望まれている。
その状況の中で、メタクリル系樹脂は優れた透明性と優れた表面硬度に由来して耐傷付き性の優れる樹脂ではあるが、より高いレベルでの傷付き性が求められている。
【0003】
従来、メタクリル系樹脂の表面の耐傷付き性の改良方法として、例えば特許文献1のようにメタクリル系樹脂の表面に硬化被膜を設ける行う方法があるが、この場合、メタクリル系樹脂の吸水等による寸法変化に対し、硬化被膜が追従できず、微小な空隙を生み出す。長期的に使用を続けると微小な空隙が拡大し、白化して見えてしまうため優れた耐候性が損なわれる。また、硬化被膜の作製には実用レベルでは大規模な設備が必要になる上、環境負荷も大きく、歩留まりも良好ではない。
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂の耐摩耗性、耐傷付き性の向上を目的とし、熱可塑性エラストマー層をポリカーボネート樹脂表層に設ける検討がなされているが、自動車用途の部材等屋外で長期に使用される製品としては耐候性が不十分であり、また、センサーカバーとして用いるときにセンサーの作動に影響する光線透過率も改善の余地があった(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-198454号公報
【文献】特開2020-069749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の状況の中、本発明では、優れた耐傷付き性を有し、また、長期的な使用にも好適な良好な耐候性を有する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、表層に熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を用い、下地層にメタクリル系樹脂組成物を使用することで、上述の従来技術における課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
互いに密着して積層された表層と下地層との積層構造を含み、
前記表層が熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる層であり、
前記下地層がメタクリル系樹脂組成物からなる層であり、
前記メタクリル系樹脂組成物中のメタクリル系樹脂は、前記メタクリル系樹脂100質量%に対するメタクリル酸エステル単量体単位の質量割合が94~99.8質量%であり、
前記メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は85,000以上300,000以下であり、
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%に対し、熱可塑性ポリウレタンを45質量%以上99.9質量%以下、重量平均分子量(Mw)85,000以上300,000以下のメタクリル系樹脂を0.1~55質量%含む、
ことを特徴とする積層体。
[2]
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量部に対して熱可塑性ポリウレタンが50~100質量部含有される、[1]に記載の積層体。
[3]
前記熱可塑性ポリウレタンが芳香族環を含まない熱可塑性ポリウレタンである、[2]に記載の積層体。
[4]
前記熱可塑性ポリウレタンが脂環を1つ有するイソシアネート由来の構造単位を有する熱可塑性ポリウレタンである、[2]又は[3]に記載の積層体。
[5]
前記熱可塑性ポリウレタンが、熱可塑性ポリウレタンに含まれる全イソシアネート由来の構造単位を100質量%とした時、脂環を1つ有するイソシアネート由来の構造単位が70質量%以上である、[2]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]
押出成形体、2色成形体、インサート成形体、及びフィルムインサート成形体からなる群から選ばれるいずれかの成形体である、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]
センサーカバー、自動車灯具用カバー、自動車内装用部材、及び自動車外装用部材からなる群から選ばれるいずれかである、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%中の前記熱可塑性ポリウレタンと前記メタクリル系樹脂との合計質量割合が90質量%以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐傷付き性と耐候性を有する積層体を生産性良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
なお、本明細書において、重合前のモノマー成分のことを「~単量体」といい、「単量体」を省略することもある。また、重合体を構成する構成単位のことを「~単量体単位」といい、単に「~単位」と表記することもある。
本実施形態の積層体は表層に熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を用い、下地層にメタクリル系樹脂組成物を用いる。以下、本実施形態の積層体を構成する各成分について説明する。
【0011】
[積層体]
本実施形態の積層体は、少なくとも表層と下地層とが、互いに密着して積層された積層構造を有する。上記表層と上記下地層とは、全面で密着してもよいし、一部密着していない箇所があってもよい。中でも、密着性の観点から、全面で密着していることが好ましい。本実施形態の積層体において、上記表層は一方の表面層であることが好ましい。上記下地層は、積層体の他方の表面層であってもよいし、上記積層構造と接する他の部材と密着する積層体の内部の層であってもよい。本実施形態の積層体は、上記積層構造のみからなることが好ましい。
上記表層は、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物のみからなる層である。また、上記下地層は、メタクリル系樹脂組成物のみからなる層である。
【0012】
<メタクリル系樹脂組成物>
上記下地層にはメタクリル系樹脂組成物が必要である。積層体の剛性、耐熱変形性、耐候性を良好なものとするためにメタクリル系樹脂組成物100質量部中にメタクリル系樹脂が70質量部以上含有されていることが好ましい。メタクリル系樹脂の質量割合は80質量部以上がより好ましく、85質量部以上がさらに好ましく、90質量部以上がさらにより好ましい。また、100質量部以下が好ましく、より好ましくは100質量部未満、さらに好ましくは99.9質量部以下、さらに好ましくは99.8質量部以下、さらに好ましくは99.5質量部以下、さらに好ましくは97質量部以下、特に好ましくは95質量部以下である。
上記メタクリル系樹脂組成物は、さらに他の成分を含んでいてもよい。上記メタクリル系樹脂組成物中に含まれる樹脂成分は、メタクリル系樹脂のみであることが好ましい。
【0013】
(メタクリル系樹脂)
上記メタクリル系樹脂は少なくとも一種のメタクリル系樹脂を含めばよく、一種単独のメタクリル系樹脂を用いてもよいし、二種以上のメタクリル系樹脂を併用してもよい。
メタクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体単位のみからなる単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル単量体単位と、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体単位(例えば、メタクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体単位)との共重合体であってもよい。中でも、共重合体であることが好ましく、剛性に一層優れる観点から、ランダム重合体であることが好ましい。
なお、本明細書において、メタクリル系樹脂(A)とはメタクリル酸エステル単量体単位を主な構成単位とする樹脂といい、好ましくはメタクリル系樹脂(A)100質量%中メタクリル酸エステル単量体単位の質量割合が50質量%超(より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上)の樹脂である。
【0014】
上記メタクリル系樹脂としては、メタクリル系樹脂100質量%に対して、メタクリル酸エステル単量体単位80~99.9質量%と、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体からなるビニル単量体単位0.1~20質量%とを含むことが好ましい。
上記メタクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体のみから構成され、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体からなるビニル単量体単位を含んでいなくてもよいし、メタクリル系樹脂100質量%に対して0質量%超含んでいてもよい。
【0015】
上記メタクリル系樹脂に含まれるメタクリル酸エステル単量体単位を構成するメタクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。中でも、入手のしやすさ、価格の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましい。
上記メタクリル酸エステル単量体は、一種のみを単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0016】
メタクリル系樹脂100質量%に対するメタクリル酸エステル単量体単位の質量割合は、85~100質量%であることが好ましく、85~99.9質量%であることがより好ましく、94~99.8質量%であることがさらに好ましく、95~99.5質量%であることがさらにより好ましく、一層高い透過率と同時に一層低いヘイズが得られる観点から、96~98.5質量%であることが特に好ましい。メタクリル酸エステル単量体単位の質量割合が99.9質量%以下であることにより、成形時における樹脂の分解を防止でき、揮発成分であるメタクリル酸エステル単量体の発生やシルバーと呼ばれる成形不良を効果的に防止できる。また、メタクリル酸エステル単量体単位の質量割合が85質量%以上であることにより、剛性及び強度に優れる成形品とすることができる。
【0017】
メタクリル系樹脂に含まれる上記他の単量体としては、上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体が挙げられる。上記他の単量体は、メタクリレート基を有していない単量体としてよい。
上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリレート基を1つ有するアクリル酸エステル単量体;アクリレート基を2つ以上有する、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジアクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸でエステル化したもの;等のアクリル酸エステル単量体が挙げられる。
特に、アクリレート基を1つ有するアクリル酸エステル単量体が好ましく、入手のしやすさの観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルが好ましく、より好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルである。
上記他の単量体(好ましくはメタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体、より好ましくはアクリル酸エステル単量体)は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0018】
上記メタクリル系樹脂100質量%中の上記他の単量体単位(好ましくはメタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体からなるビニル単量体単位、より好ましくはアクリル酸エステル単量体単位)の質量割合は、高い透過率と同時に低いヘイズが得られる観点から、0~15質量%であることが好ましく、0質量%超15質量%以下であることがより好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましく、0.2~5質量%であることがさらに好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。0.1質量%以上であることにより、成形時におけるメタクリル系樹脂の分解を予防でき、揮発成分の発生による成形不良の発生を効果的に防止できる。また、15質量%以下であることにより、高い透過率と同時に低いヘイズだけでなく良好な耐熱性、剛性が得られる。
また、上記他の単量体単位の質量割合は、上記メタクリル系樹脂(100質量%)に対して、特にアクリレート基を2つ有する単量体を使用する場合には0.4質量%以下での使用が、アクリレート基を3つ有する単量体を使用する場合には0.25質量%以下での使用が、アクリレート基を4つ以上有する単量体を使用する場合には0.15質量%以下での使用が、射出成形時の流動性の確保や、透明性維持の観点から好ましい。
【0019】
また、上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、アクリル酸エステル単量体以外の他のビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)等のスチレン系単量体;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;マレイミドや、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド等;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー;等が挙げられる。
【0020】
なお、上記メタクリル系樹脂においては、耐熱性、成形加工性等の特性を向上させる目的で、上記例示したビニル単量体以外のビニル系単量体を適宜添加して共重合させてもよい。上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なアクリル酸エステル単量体や、上記例示したアクリル酸エステル単量体以外のビニル系単量体は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
上記メタクリル系樹脂100質量%中の、上記メタクリル酸エステル単量体単位とアクリル酸エステル単量体単位との合計質量割合としては、透明性とヘイズとが一層優れた成形体が得られる観点から、88質量%以上であることが好ましく、より好ましくは94質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0022】
-重量平均分子量-
上記メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)について説明する。
メタクリル系樹脂は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量(Mw)が、メタクリル系樹脂組成物としたときに良好な機械的強度及び耐溶剤性を得るためには、メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)の下限は、50,000以上が好ましく、70,000以上がより好ましく、85,000以上がさらに好ましい。
また、メタクリル系樹脂組成物が良好な成形加工性を示すためには、メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限は、300,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、180,000以下がさらに好ましく、146,000以下がさらにより好ましい。
上記メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が50,000~250,000の範囲であることにより、メタクリル系樹脂組成物としたときに流動性、耐溶剤性及び良好な成形加工性のバランスを図ることができる。
【0023】
-分子量分布-
上記メタクリル系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~6.0であることが好ましく、1.0~5.5であることがより好ましく、1.0~5.0であることがさらに好ましく、成形性が一層向上する観点から、1.01~4.3であることが特に好ましい。メタクリル系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が1.0~6.0であることにより、メタクリル系樹脂が発現する物性が安定する。
ここで、Mwは重量平均分子量を表し、Mnは数平均分子量を表す。
メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、GPCで測定することができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
具体的には、あらかじめ単分散の重量平均分子量が既知で試薬として入手可能な標準メタクリル系樹脂と、高分子量成分を先に溶出する分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておく。続いて得られた検量線を元に、所定の測定対象のメタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めることができ、これらにより分子量分布(Mw/Mn)を算出することができる。数平均分子量(Mn)とは、単純な分子1本あたりの分子量の平均であり、系の全重量/系中の分子数で定義される。重量平均分子量(Mw)とは、重量分率による分子量の平均で定義される。
【0024】
-不飽和二重結合末端量-
上記メタクリル系樹脂の不飽和二重結合末端量は、0.012モル%以下が好ましい。より好ましくは0.01モル%以下、さらに好ましくは0.009モル%以下である。
メタクリル系樹脂の不飽和二重結合末端量が上記範囲であると、メタクリル系樹脂の分解によって発生する単量体由来のシルバー不良等の成形不良を効果的に防止でき、メタクリル系樹脂組成物とした時にメタクリル系樹脂の分解によって発生するラジカルによる成形体の黄変や外観不良を効果的に予防できる。不飽和二重結合末端量は重合温度の制御や連鎖移動剤の利用によって制御することができる。
なお、不飽和二重結合末端量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
-メタクリル系樹脂の製造方法-
上記メタクリル系樹脂は、溶液重合法、塊状重合法、キャスト重合法、懸濁重合法等により製造できるが、これらの方法に限定されるものではない。好ましくは、塊状重合、溶液重合、懸濁重合法である。
【0026】
重合温度は、重合方法に応じて適宜最適の重合温度を選択すればよいが、好ましくは50℃以上200℃以下であり、より好ましくは60℃以上180℃以下である。重合温度を200℃以下にすることで不飽和二重結合末端量を低減することができ、メタクリル系樹脂の分解によって発生した単量体やラジカル由来のメタクリル系樹脂組成物の黄変や成形不良を効果的に予防することができる。また、50℃以上とすることで生産性良くメタクリル系樹脂を製造することができる。
【0027】
メタクリル系樹脂を製造する際には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、以下に限定されるものではないが、ラジカル重合を行う場合は、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤;が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのラジカル重合開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
これらのラジカル重合開始剤及び/又はレドックス系開始剤は、メタクリル系樹脂の重合の際に使用する全単量体の総量100質量部に対して、0質量部超1質量部以下の範囲で用いるのが一般的であり、重合を行う温度と重合開始剤の半減期を考慮して適宜選択することができる。
【0028】
メタクリル系樹脂の重合方法として、塊状重合法、キャスト重合法、又は懸濁重合法を選択する場合には、メタクリル系樹脂の着色を防止する観点から、過酸化系重合開始剤を用いて重合することが好ましい。
上記過酸化系重合開始剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられ、ラウロイルパーオキサイドがより好ましい。
【0029】
また、メタクリル系樹脂を、90℃以上の高温下で溶液重合法により重合する場合には、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等を重合開始剤として用いることが好ましい。
上記過酸化物、アゾビス開始剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等が挙げられる。
【0030】
メタクリル系樹脂を製造する際には、本発明の目的を損なわない範囲で、メタクリル系樹脂の分子量の制御を行ってもよい。メタクリル系樹脂の分子量を制御する方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキルメルカプタン類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤、ジチオカルバメート類、トリフェニルメチルアゾベンゼン、テトラフェニルエタン誘導体等のイニファータ等を用いることによって分子量の制御を行う方法が挙げられる。また、これらの添加量を調整することにより、分子量を調整することも可能である。
上記連鎖移動剤としては、取扱性や安定性の観点から、アルキルメルカプタン類が好ましく、当該アルキルメルカプタン類としては、以下に限定されるものではないが、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が挙げられる。
これらは、目的とするメタクリル系樹脂の分子量に応じて適宜添加することができるが、一般的には、メタクリル系樹脂の重合の際に使用する全単量体の総量100質量部に対して0.001質量部~5質量部の範囲で用いられる。
また、その他の分子量制御方法としては、重合方法を変える方法、重合開始剤、上述した連鎖移動剤やイニファータ等の量を調整する方法、重合温度等の各種重合条件を変更する方法等が挙げられる。
これらの分子量制御方法は、一種の方法のみを用いてもよく、二種以上の方法を併用してもよい。
【0031】
<熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物>
上記表層は熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる。熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物には、積層体の耐傷付き性、耐候性、生産性を良好なものにするために、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量部中に熱可塑性ポリウレタンは20質量部以上含有されていることが好ましく、より好ましくは45質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、透明性、耐傷付き性をさらに良好なものとするために、60質量部以上がさらに好ましく、70質量部以上が特に好ましい。また、下地層との密着性や生産性を良好にするために熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量部中に熱可塑性ポリウレタンの含有量は、100質量部未満が好ましく、より好ましくは99.9質量部以下、さらに好ましくは99.8質量部以下、さらに好ましくは98質量部以下、さらに好ましくは95質量部以下、さらに好ましくは93質量部以下、特に好ましくは90質量部以下である。
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物は、さらに、メタクリル系樹脂、他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
(熱可塑性ポリウレタン)
熱可塑性ポリウレタンは、少なくとも一種の熱可塑性ポリウレタンであればよく、一種単独の熱可塑性ポリウレタンを用いてもよいし、二種以上の熱可塑性ポリウレタンを組み合わせて用いてもよい。
上記熱可塑性ポリウレタンは積層体表層の耐候性を良好なものとするために芳香族環を含まないことが好ましい。また、上記熱可塑性ポリウレタンは、積層体表層の剛性、透明性を良好するため、また、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物としたときの透明性を良好なものにするために、脂環を1つ有するイソシアネート由来の構造単位を有することが好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物としたときの透明性をより良好なものにするために、熱可塑性ポリウレタンに含まれる全イソシアネート由来の構造単位を100質量%とした時、脂環を1つ有するイソシアネート由来の構造単位が、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0033】
熱可塑性ポリウレタンは、通常、以下の成分:(a)イソシアネート、(b)イソシアネートに対して反応性を有する化合物、並びに、任意に、少なくとも一種の(c)触媒及び/又は(d)従来の助剤及び/若しくは添加剤の存在下で反応することによって製造される。以下の成分:(a)イソシアネート及び(b)イソシアネートに対して反応性を有する化合物は、構造成分と呼ばれる。これら構造成分を同定する方法としては、従来公知の方法、例えば、以下に限定されるものではないが、日本接着学会誌 Vol.40 No.6(2004)に記載の方法が挙げられる。
【0034】
熱可塑性ポリウレタンに含まれる(a)イソシアネートとしては、従来公知の成分を用いることができる。以下に限定されるわけではないが、例えば、2,6-トルエンジイソシアネート、4,4’-メチレンジ(フェニルイソシアネート)、4,4’-メチレンジシクロヘキシルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。耐候性の観点から、不飽和炭素結合、芳香族環を持たない脂肪族、脂環式イソシアネートが好ましく、熱可塑性ポリウレタンの透明性の観点から脂環式イソシアネートがより好ましく、剛性、生産性の観点から、1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートといったイソシアネート単量体構造中に脂環を1つ有するイソシアネートがさらに好ましい。熱可塑性ポリウレタンの製造時に用いるイソシアネートは、本発明の効果を損ねない範囲で、イソシアネート中に5質量%以下の混在物又は添加物を有するイソシアネートでも良い。
(a)イソシアネートは、熱可塑性樹脂組成物の透明性(例えば、高い全光線透過率及び低いヘイズ)、耐傷付性の観点から、構造中に脂環を1つ有するイソシアネートを用いることが好ましく、芳香族環を持たず脂環を1つ有するイソシアネートがより好ましい。
【0035】
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いる上記(a)イソシアネートは、構造中に脂環を1つ有するイソシアネートのみであってもよいし、さらに他のイソシアネートを含んでいてもよい。上記他のイソシアネートとしては、脂環数が2個以上のイソシアネートを用いてもよい。上記(a)イソシアネート中にイソシアネートが複数種含まれる場合、(a)イソシアネートに含まれる化合物のうち最も脂環数の小さい化合物の脂環数が1であることが好ましく、また、(a)イソシアネートに含まれる化合物のうち最も脂環数の大きい化合物の脂環数が1であることが好ましい。
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いる、上記(a)イソシアネート全量100質量%中の、脂環数が1個のイソシアネートの質量割合としては、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0036】
(b)イソシアネートに対して反応性を有する化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。中でもポリエステルポリオールを用いることで、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物としたときの透明性が良好となるため好ましい。なお、上記ポリエステルポリオールには、ポリカーボネートジオールが含まれる。
【0037】
上記熱可塑性ポリウレタン中に含まれるポリオールに由来する構成単位100質量%中の、ポリエステルポリオールに由来する構成単位の質量割合としては、80~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90~100質量%、さらに好ましくは95~100質量%である。
上記熱可塑性ポリウレタン中に含まれるポリオールに由来する構成単位100質量%中の、ポリエーテルに由来する構成単位の質量割合は、5質量%未満であることが好ましく、より好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満であり、含まないことが特に好ましい。
【0038】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、2個から12個の炭素原子を有する有機ジカルボン酸(好ましくは8個~12個の炭素原子を有する芳香族ジカルボン酸)、及び多価アルコール(好ましくは2個から12個の炭素原子を有するジオール、より好ましくは2個から6個の炭素原子を有するジオール)から製造されるポリエステルポリオール等が挙げられる。
上記有機ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸の異性体である。ジカルボン酸は、単体又は他のジカルボン酸との混合物のいずれかで使用される。有機ジカルボン酸の代わりに、対応するジカルボン酸誘導体、例えば、1個~4個の炭素原子を有するアルコールのジカルボン酸エステル、又はジカルボン酸無水物も使用することができる。
上記多価アルコールとしては、ジオールが好ましい。上記ジオールとしては、エタンジオール、ジエチレングリコール、1,2-又は1,3-プロパンジオール、メチル-1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、グリセロール、トリメチルオールプロパンが挙げられ、好ましくは、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール又は1,6-ヘキサンジオールである。上記多価アルコールとしては、ラクトン(例えば、ε-カプロラクトン)から製造されるポリエステルジオール、ヒドロキシカルボン酸(例えば、ω-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸)を用いてもよい。
【0039】
ポリエステルポリオールの製造において、有機ジカルボン酸とポリアルコールの反応条件は、製造されるポリエステルポリオールが遊離酸基を有さないような方法で選択してよい。製造されるポリエステルポリオールの実際の官能基数は、1.9~2.1が好ましく、より好ましくは2.0である。
【0040】
ポリエステルポリオールの製造において、有機ジカルボン酸及びポリアルコールの混合物を、触媒の存在下又は非存在下で縮重合してよい。中でも、触媒存在下の反応が好ましく、エステル化触媒の存在下の反応がより好ましい。
また、ポリエステルポリオールの製造において、有機ジカルボン酸及びポリアルコールの混合物を、不活性ガス(例えば、窒素、一酸化炭素、ヘリウム、又はアルゴン等)の雰囲気下で縮重合してよい。
有機ジカルボン酸とポリアルコールとの縮重合時の温度としては、150~250℃が好ましく、より好ましくは180~220℃である。上記縮重合は、任意に減圧下で行うことができる。
上記縮重合は、通常、望ましい酸価(例えば、10未満の酸価、好ましくは2未満の酸価)に到達するまで連続される。
上記縮重合に用いる、有機ジカルボン酸とポリアルコールのモル比としては、1:1~1.8が好ましく、より好ましくは1:1.05~1.2である。
【0041】
特に、ε-カプロラクトンから製造されるポリエステルポリオールに由来する構造単位、並びに/又はアジピン酸若しくはセバシン酸と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも一種の多価アルコールとの縮合物由来の構造単位、が熱可塑性ポリウレタンに含まれていることが好ましい。
【0042】
使用されるポリエステルポリオールの数平均分子量Mnは、500~4,000であることが好ましく、より好ましくは650~3,500、さらに好ましくは800~3,000である。
なお、数平均分子量Mnは、GPC法により測定することができる。
【0043】
(b)イソシアネートに対して反応性を有する化合物として、ポリエステルポリオール以外には、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールの中でも、エチレン-1,2-ジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-ジメタノールシクロヘキサン、及びネオペンチルグリコールからなる群から選択される少なくとも一種の多価アルコールが好ましい。エチレン-1,2-ジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される多価アルコールがより好ましい。多価アルコールは鎖延長剤として機能する。
上記熱可塑性ポリウレタンにおいては、ポリオールとして、エチレン-1,2-ジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも一種の多価アルコール由来の構造単位が熱可塑性ポリウレタンに含有されていることが好ましい。
【0044】
上記(c)触媒としては、(a)イソシアネートのNCO基と、(b)イソシアネートに対して反応性を有する化合物のヒドロキシ基との間の反応を速くする(c)触媒であることが好ましい。上記(c)触媒としては、第三級アミンが挙げられ、トリエチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N,N’-ジメチルピペラジン、2-(ジメチルアミノエトキシ)エタノール又はジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが好ましい。また、上記(c)触媒は、有機金属化合物(例えば、チタン酸エステル、鉄化合物(好ましくは鉄(III)アセチルアセトネート)、スズ化合物(好ましくは、スズジアセテート、スズジオクトエート、スズジラウレート)又は脂肪族カルボン酸のジアルキルスズ塩(好ましくはジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート)、ビスマスが好ましくは2又は3、特に3の酸化状態で存在するビスマス塩)が好ましい。
【0045】
上記(c)触媒としては、好ましくは、カルボン酸の塩である。上記カルボン酸としては、好ましくは6個から14個の炭化水素、特に好ましくは8個~12個の炭化水素を有するカルボン酸である。カルボン酸の塩としてはビスマス塩が好ましく、好適なビスマス塩の例は、ビスマス(III)ネオデカノエート、ビスマス2-エチルヘキサノエート及びビスマスオクタノエートである。
【0046】
熱可塑性ポリウレタンの製造時に使用される触媒の質量割合としては、(b)イソシアネートに対して反応性を有する化合物100質量部に対して0.0001~0.1質量部が好ましい。上記(c)触媒としては、スズ触媒、特にスズジオクトエートを使用することが好ましい。
【0047】
熱可塑性ポリウレタンを製造する際の、構造成分(a)、(b)の割合は、構造成分(b)のヒドロキシ基の合計に対する(a)イソシアネートのNCO基の当量比が0.9~1.1:1であることが好ましく、より好ましくは0.95~1.05:1、さらに好ましくは0.96~1.0:1である。熱可塑性ポリウレタンの製造は、(c)触媒、任意に(d)助剤及び/又は添加剤の存在下で反応することが好ましい。
【0048】
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂としては、上述のメタクリル系樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂と同様のものが挙げられる。表層と下地層の密着性に一層優れる観点から、上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物は、上記メタクリル系樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂と同様の上述の好ましい組成範囲を持つメタクリル系樹脂を含むことが好ましい。
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、成形性に一層優れる観点から、熱可塑性ポリウレタンとメタクリル系樹脂であることが好ましい。
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%中の、上記メタクリル系樹脂の質量割合は、0質量%超80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1~55質量%、耐傷付き性の観点からさらに好ましくは0.2~40質量%、成形性の観点から特に好ましくは10~30質量%である。
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%中の熱可塑性ポリウレタンとメタクリル系樹脂との合計質量割合は、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物中の熱可塑性ポリウレタンとメタクリル系樹脂との合計質量100質量部に対する熱可塑性ポリウレタンの質量割合としては、透明性、耐傷付き性、成形性の観点から、20質量部以上100質量部未満であることが好ましく、耐傷付き性、成形性に一層優れる観点から、60~85質量部である。
【0049】
<他の成分>
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物及びメタクリル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記メタクリル系樹脂及び上記熱可塑性ポリウレタン以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、従来公知のその他の樹脂を混合することができる。
当該その他の樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が好適に使用される。
熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シンジオタクテックポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、AS系樹脂、BAAS系樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂、生分解性樹脂、ポリカーボネート-ABS樹脂のアロイ、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアミンやポリアミドオリゴマー等のポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂、等が挙げられる。
特に、AS樹脂、BAAS樹脂は、流動性を向上させるために好ましく、ABS樹脂、MBS樹脂は耐衝撃性を向上させるために好ましく、また、ポリエステル樹脂は耐薬品性を向上させるために好ましく、ポリアミド系樹脂は表層と下地層の密着性強化のために好ましい。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等は、難燃性を向上させる効果が得られる。
また、硬化性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、オキセタン樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコン樹脂、合成ゴム、等が挙げられる。
これらの樹脂は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
他の成分の添加量は、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物又はメタクリル系樹脂組成物100質量部に対し、それぞれの特性を発現するために、0.01質量%以上添加することが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、0.5質量%以上が特に好ましい。耐候性、剛性維持の観点からメタクリル系樹脂以外を用いるときは10質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0050】
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物及び/又は上記メタクリル系樹脂組成物には、剛性や寸法安定性等の所定の各種特性を付与するため、本発明の効果を損なわない範囲で、上記他の成分として各種の添加剤を混合してもよい。
添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系等の可塑剤;高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸のモノ、ジ、又はトリグリセリド系等の離型剤;ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等の帯電防止剤;ホスフィン系安定剤、光安定剤、熱安定剤等の安定剤;難燃剤;難燃助剤;硬化剤;硬化促進剤;導電性付与剤;応力緩和剤;結晶化促進剤;染料;加水分解抑制剤;潤滑剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;耐衝撃性付与剤;摺動性改良剤;相溶化剤;核剤;強化剤;補強剤;流動調整剤;増感材;着色用顔料;ゴム質重合体;増粘剤;沈降防止剤;タレ防止剤;充填剤;消泡剤;カップリング剤;防錆剤;抗菌・防黴剤;防汚剤;導電性高分子;カーボンブラック;等が挙げられる。
特に染料、着色顔料、紫外線吸収剤が好ましい。染料を用いる場合は、例えば赤外線センサーカバーとして積層体を用いるときにセンサー部を見えなくしつつ、赤外線を通すような可視光遮蔽性と赤外透過性を持つことが好ましい。
【0051】
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物又は上記メタクリル系樹脂組成物100質量%に対し、紫外線吸収剤を0.005~4質量%含有していることが好ましい。紫外線吸収剤を含有することで耐候性が良好になり、成形したときに長期使用に好適な成形体が得られるだけでなく、光源に含まれる紫外領域の波長の光に曝された時の変色を効果的に防止することができる。紫外線吸収剤の性能を十分に発揮するために、上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物又は上記メタクリル系樹脂組成物100質量%に対し、紫外線吸収剤は0.005質量%以上含有されていることが好ましく、0.012質量%以上がより好ましく、0.015質量%以上がさらに好ましく、0.02質量%以上がさらにより好ましい。特に表層の熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物及び下地層のメタクリル系樹脂組成物に紫外線吸収剤が含有されていることが耐候性の観点から好ましい。また、成形時の紫外線吸収剤の析出による、金型の汚染や金属ロールへの樹脂の張り付き、密着性の低下を予防するために、下地層に紫外線吸収剤を添加する場合はメタクリル系樹脂組成物100質量%に対し、紫外線吸収剤は4質量%以下含有されていることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。
表層に紫外線吸収剤を添加する場合は熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物100質量%に対し、紫外線吸収剤は成形時の紫外線吸収剤の析出による、金型の汚染や金属ロールへの樹脂の張り付きを予防するために4質量%以下含有されていることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下さらにより好ましくは0.2質量%以下である。
【0052】
紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられ、好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。
これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、紫外線吸収剤を添加する場合、成形加工性の観点から、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10-4Pa以下であるものが好ましく、より好ましくは1.0×10-6Pa以下であり、さらに好ましくは1.0×10-8Pa以下である。
成形加工性に優れるとは、例えば射出成形時に、金型表面への紫外線吸収剤の付着が少ないことや、フィルム成形時に、紫外線吸収剤のロールへの付着が少ないこと等を示す。
ロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるおそれがあるため、成形体を光学用材料として使用する場合は好ましくない。
また、紫外線吸収剤の融点(Tm)は80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。融点が80℃以上であると、紫外線吸収剤が成形時に揮発することを抑制でき、性能を十分に発揮させることができる。また、揮発した紫外線吸収剤における金型への汚染を効果的に予防できる。
上記紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、さらにより好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは5%以下である。
【0053】
本実施形態の積層体は、全光線透過率が、89%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。
上記全光線透過率は、例えば、表層の熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物と下地層のメタクリル系樹脂組成物として上述の好適例のものを用いる、それぞれの層の厚みを好適な範囲とすることで調整することができる。
なお、上記全光線透過率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0054】
本実施形態の積層体は、ヘイズが10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下である。
上記ヘイズは、例えば、表層の熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物と下地層のメタクリル系樹脂組成物として上述の好適例のものを用いる、それぞれの層の厚みを好適な範囲とすることで調整することができる。
なお、上記ヘイズは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0055】
(熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物、メタクリル系樹脂組成物の製造方法)
熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物、メタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂や熱可塑性ポリウレタンと、必要に応じて、上述した種々の添加剤、他の成分とを混合し、混練することにより得られる。
例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより製造できる。
特に押出機による混練が、生産性の観点から好ましい。
混練温度(即ち、メタクリル系樹脂や熱可塑性ポリウレタンを配合する際の温度)は、生産性の観点から、170℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、メタクリル系樹脂や熱可塑性ポリウレタンの劣化、各種添加剤の揮発防止の観点から、290℃以下が好ましく、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。本実施形態における混錬温度とは、押出機を用いた場合、シリンダー中央部の設定温度のことを指す。
【0056】
<積層体の製造方法>
本実施形態の積層体は、公知の成形方法によって製造できる。公知の成形方法とは、以下に限定されるわけではないが、例えば、2色射出成形、共押出成形、インサート成形、フィルムインサート成形、カレンダー成形、インフレーション成形等が挙げられる。2色射出成形、共押出成形、インサート成形、フィルムインサート成形が、生産性の観点から好ましく、2色射出成形がより好ましい。
成形温度は、生産性の観点から、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、メタクリル系樹脂や熱可塑性ポリウレタンの劣化、各種添加剤の揮発防止の観点から、290℃以下が好ましく、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。
また、成形時のシリンダー温度としては、生産性の観点から、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、メタクリル系樹脂や熱可塑性ポリウレタンの劣化、各種添加剤の揮発防止の観点から、290℃以下が好ましく、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。
【0057】
(積層体及び各層の厚み)
積層体及び各層の厚みは、その成形方法によって好適な厚みが異なる。
2色射出成形で成形する場合は、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる表層の厚みt1は、好適な成形温度の中で流動末端まで良好に充填するために0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.35mm以上がさらに好ましい。また、積層体の剛性を良好なものとするために1.5mm以下が好ましく、1.2mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましく、0.8mm以下が特に好ましい。
また、メタクリル系樹脂組成物からなる下地層の厚みt2は積層体の剛性、耐熱変形性を確保するために1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましく、2.2mm以上が特に好ましい。積層体のヒケ等の成形不良防止の観点から、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、4mm以下がさらに好ましく、3mm以下が特に好ましい。
この時、各層の厚みの比t1/t2は成形体の耐熱変形性、剛性を良好とするために0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.3以下が特に好ましい。
積層体の厚みは7mm以下が好ましく、6mm以下がより好ましく、4mm以下がさらに好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。
【0058】
共押出成形で成形する場合は、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる表層の厚みt1は、押出時に良好に厚みを安定させるために0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましい。また、積層体とした時の剛性、耐熱変形性を良好なものとするために4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。
また、メタクリル系樹脂組成物からなる下地層の厚みt2は押出時に良好に厚みを安定させつつ積層体の剛性、耐熱変形性を確保するために0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.2mm以上がさらに好ましく、1mm以上が特に好ましい。成形不良防止の観点から、15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、4mm以下が特に好ましい。
この時、各層の厚みの比t1/t2は成形体の剛性を良好とするために1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.2以下が特に好ましい。
積層体の厚みは積層板とする場合には17mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、8mm以下がさらに好ましく、5mm以下が特に好ましい。積層フィルムとする場合には0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0.2mm以下がさらに好ましい。
【0059】
インサート成形する場合には熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる表層の厚みt1は、好適な成形温度の中で流動末端まで良好に充填するために0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.35mm以上がさらに好ましい。また、積層体の剛性を良好なものとしつつ、積層体の形状を安定させるために1.5mm以下が好ましく、1.2mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。
また、メタクリル系樹脂組成物からなる下地層の厚みt2は積層体の剛性を維持しながら形状を安定させるために1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましい。積層体のヒケ等の成形不良防止の観点から、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、4mm以下がさらに好ましく、3mm以下が特に好ましい。
この時、各層の厚みの比t1/t2は成形体の耐熱変形性、剛性を良好とするために0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
積層体の厚みは11mm以下が好ましく、6mm以下がより好ましく、4mm以下がさらに好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。
【0060】
フィルムインサート成形する場合には熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる表層の厚みt1は、良好な傷付き性を維持するために0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.15mm以上がさらに好ましい。また、積層体の剛性を良好なものとしつつ、積層体の形状を安定させるために0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下がさらに好ましい。
また、メタクリル系樹脂組成物からなる下地層の厚みt2は積層体の剛性を維持と耐熱変形性の観点から1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましい。積層体のヒケ等の成形不良防止の観点から、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、4mm以下がさらに好ましく、3mm以下が特に好ましい。
この時、各層の厚みの比t1/t2は成形体の耐熱変形性、剛性を良好とするために0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。
積層体の厚みは11mm以下が好ましく、6mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。
なお、本発明における厚みとは成形体の中の他材との取り付け部を除く最も薄い部分の肉厚のことを指す。
【0061】
(積層体の用途)
本実施形態の積層体は、耐候性、耐傷付性、透明性が良好であるため、ビニルハウス用フィルム、液晶保護フィルム、建築用部材、車両用部材、電気電子用部材、照明用部材等に好適に用いることが出来る。具体的には、建造物、自動車、列車又はバスに使用される屋根材や、照明や看板、高速道路に設置される遮音板、メーターに使用される保護材、車輌灯具用部材、フロントグリル、リアグリル、ピラーといった車輌外装用部材、表示パネル、ウインドウパネル、シフトレバーパネルといった車輌内装用部材、船舶の灯具用部材、ビニルハウス用フィルム、液晶保護フィルム、電池用保護カバー、センサーカバーである。センサーカバー、車輌灯具用部材、車輌内外装用部材として用いられることが好ましく、センサーカバー、自動車灯具用カバー、自動車内装用部材、及び自動車外装用部材からなる群から選ばれるいずれかがより好ましい。
【0062】
本発明の他の実施形態は、特許請求の範囲及び実施例で知ることができる。本発明に係る物品、製法、使用方法の上述の特徴及び以下に説明される特徴は、当然、それぞれ記載された組み合わせだけではなく、本発明の範囲を超えない限り、他の組み合わせでも使用することができる。したがって、例えば、本発明はまた、組み合わせが明示的に記載されていなくても、暗に、好ましい特徴と、特に好ましい特徴との組み合わせ又は、詳しく特徴付けられていない特徴と、特に好ましい特徴と組み合わせること等も含む。
【実施例】
【0063】
本発明の実施例を以下に示すが、これは本発明を限定するものではない。特に、本発明はまた、それらの組み合わせから生じる実施形態も含む。
【0064】
[実施例及び比較例において用いた原料]
<メタクリル系樹脂の原料>
メタクリル系樹脂組成物の製造に用いたメタクリル系樹脂の原料は、下記のとおりである。
・メタクリル酸メチル(MMA):旭化成製(重合禁止剤として中外貿易製2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノールを2.5質量ppm添加されているもの)
・アクリル酸メチル(MA):三菱ケミカル製(重合禁止剤として川口化学工業製4-メトキシフェノール(4-methoxyphenol)が14質量ppm添加されているもの)
・n-オクチルメルカプタン:アルケマ製
・ラウロイルパーオキサイド:日油製
・第三リン酸カルシウム:日本化学工業製、懸濁剤として使用
・炭酸カルシウム:白石工業製、懸濁剤として使用
・ラウリル硫酸ナトリウム:和光純薬工業製、懸濁助剤として使用
【0065】
<熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物>
フィルムインサート成形
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物1:エラストランNY998(BASF製)からなる厚み150μmのフィルム
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物2:エラストランNY585(BASF製)からなる厚み150μmのフィルム
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物3:エラストランNY585(BASF製)からなる厚み300μmのフィルム
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物4:エラストランNY5685N00A(エフ・シー・アイ製)
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物5:エラストランXCT-A1095(エフ・シー・アイ製)
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物6:エラストランXET-T1490(エフ・シー・アイ製)
・熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物A~E
熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物5と、後述のメタクリル系樹脂組成物1と、カルコール8098 0.1質量部と、チヌビンP 0.05質量部とを表2に示す質量割合で混合し、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物A~Eを得た。
【0066】
【0067】
【0068】
<ポリカーボネート樹脂>
・ユーピロンS-3000UR:三菱エンジニアリングプラスチックス製品
【0069】
<添加剤>
・チヌビンP:BASF製 融点128℃
・ステアリルアルコール:花王製 カルコール8098
【0070】
[測定、評価方法]
<I.メタクリル系樹脂の分子量測定>
メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)(Mnは数平均分子量)を下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本を順に直列接続して使用した。本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gのメタクリル系樹脂のテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min、内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加した。
検量線用標準サンプルとして、単分散のピーク分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymer Laboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
なお、検量線用標準サンプルに用いた標準試料のポリメタクリル酸メチルは、それぞれ単ピークのものであるため、それぞれに対応するピークを重量ピーク分子量Mpと表記した。この点、一試料についてピークが複数ある場合に算出されるピークトップ分子量と区別した。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準資料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂の溶出時間に対するRI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、3次近似式の検量線とを基に、メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0071】
<II.メタクリル系樹脂構造単位の解析>
1H-NMR測定により構造単位を同定し、その存在量(質量%)を算出した。
1H-NMR測定の測定条件は、以下のとおりである。
装置:JEOL-ECA500
溶媒:CDCl3-d1(重水素化クロロホルム)
試料:メタクリル樹脂1gをアセトン10mlに溶解させ、メタノール20mlを滴下しろ過。不溶分を40℃で15時間真空乾燥したもの15mgをCDCl3-d1 0.75mLに溶解し、測定用サンプルとした。
【0072】
<III.メタクリル系樹脂の不飽和二重結合末端量>
1H-NMR測定により構造単位を同定し、メタクリル系樹脂中の存在量(モル%)を算出した。
不飽和二重結合末端ピークの積分値(5.4~5.6ppm)とメタクリル系樹脂のエステル基の酸素原子に結合しているメチル基のピーク積分値(3.6ppm)から不飽和二重結合末端量を算出した。
1H-NMR測定の測定条件は、以下のとおりである。
装置:JEOL-ECA500
スキャン数:5000回
測定温度:室温
観測核:1H(500MHz)
溶媒:CDCl3-d1(重水素化クロロホルム)
試料:メタクリル樹脂1gをクロロホルム10mlに溶解させ、メタノール20mlを滴下しろ過。ろ過後の不溶分について、再度クロロホルム10mlに溶解させ、メタノール20mlを滴下しろ過を2度繰り返す。最終的に残った不溶分を40℃で15時間真空乾燥したもの75mgをCDCl3-d1 0.75mLに溶解し、測定用サンプルとした。最終ろ過後の不溶分が75mgに満たなかった場合は、75mgになるまで上記操作を繰り返した。
【0073】
<全光線透過率>
後述する方法で得られた積層体の全光線透過率は日本電色製NDH7000を用いてJIS K7361に準じて測定した。全光線透過率は、91%以上で「◎」(特に優れている)、90%以上で「〇」(良好)、89%以上で「△」(実用上問題ないレベル)89%未満で「×」(不良)とした。
【0074】
<ヘイズ、耐傷付き性>
後述する方法で得られた積層体を学振摺動試験機に設置し、面積1cm2の圧子先端にスチールウール(#0000)を固定したものを相手材とし、加重200gf、試験速度100mm/秒の条件で5往復摺動を表層に対し行った。
試験前後のヘイズを、日本電色製NDH7000を用いてJIS K7136に準じて測定し、その変化値を求め耐傷付性を評価した。
耐傷付性の判定は、ヘイズの変化量が4%以下で「◎」(特に優れている)10%以下で「○」(良好)、10%を超え17%以下であれば「△」(実用上十分なレベル)、17%を超える場合は「×」(不良)とした。なお、ヘイズの変化量は下記式に従って算出した。
(ヘイズの変化量(%))=(試験後のヘイズ(%))-(試験前のヘイズ(%))
また、ヘイズの判定として、後述する方法で得られた積層体の試験前のヘイズを各例のヘイズとした。
【0075】
<金型脱離時間>
後述する方法によって得られた積層体において、金型での冷却時間のみを80秒から5秒刻みで短くしていき、金型の4隅に設置されたエジェクターピンによって金型から取り出す際に金型への張り付きが見られる冷却時間を調べた。冷却時間が30秒以下であった場合「◎」(優れている)、30秒を超え45秒以下であった場合「〇」(良好)、45秒を超え80秒以内であった場合「△」(実用上問題ない)、80秒以上であった場合「×」(不良)とした。金型脱離時間は短いほど、射出成形においては成形のハイサイクル化に対応でき、良好な生産性となる。
【0076】
<耐候性>
後述する方法によって得られた積層体において、スガ試験機製サンシャインウェザーメーターでブラックパネル温度63℃、120分中18分間降雨の条件で光源に表層を向け設置した状態で1000時間試験し、試験前後の色差を東京電色製TC8600-Aを用いてC光源2度視野透過モードで測定し、色差ΔEを求めた。ΔEはJISZ8730に準じて試験前後のL*,a*,b*から算出した。ΔEが1.3以下であれば「〇」(良好)、1.3を超えていた場合「×」(不良)とした。
【0077】
後述する実施例及び比較例で、積層体の構成成分として用いた熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物、メタクリル系樹脂組成物について、以下記載する。
【0078】
<メタクリル系樹脂組成物>
(製造例1(メタクリル系樹脂組成物1、2の製造))
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(a)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(a)、メタクリル酸メチル:19.3kg、アクリル酸メチル:0.6kg、ラウロイルパーオキサイド:35g、及びn-オクチルメルカプタン:54gを投入した。
その後、約80℃に昇温し、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温し、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子1を得た。このポリマー微粒子1を240℃に設定したφ26mmの2軸押出機によってペレタイズを行い、「メタクリル系樹脂組成物1」を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は10.3万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.85、構造単位はMMA/MA=98/3(質量%)、不飽和二重結合末端量は0.008モル%であった。
また、ポリマー微粒子1 100質量部とカルコール8098 0.05質量部とチヌビンP 0.04質量部とを混合し、240℃に設定したφ26mmの2軸押出機によってペレタイズを行い、メタクリル系樹脂組成物2を得た。
【0079】
(製造例2(メタクリル系樹脂組成物3の製造))
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:42g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(b)を得た。
次いで、60Lの反応器にイオン交換水:26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(b)、メタクリル酸メチル:20.6kg、アクリル酸メチル:1.32kg、ラウロイルパーオキサイド:38g、及びn-オクチルメルカプタン:29.2gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温した。
その後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子2を得た。このポリマー微粒子2 100質量部とチヌビンP 0.02質量部とを混合し、250℃に設定したφ26mmの2軸押出機によってペレタイズを行い、メタクリル系樹脂組成物3を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は18.5万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.88、構造単位はMMA/MA=94/6(質量%)、不飽和二重結合末端量は0.008モル%であった。
【0080】
[実施例1~3][比較例1、2]
表3に記載のように、表層のフィルム(100mm×100mm×厚み)を金型内に静置し、下地層であるメタクリル系樹脂組成物又はポリカーボネート樹脂を射出成形することでフィルムインサート成形し、積層体(100mm×100mm×厚み)を作製した。比較例2においては、表層となるフィルムを用いず、メタクリル系樹脂組成物2を射出成形した。なお、金型は、金型表面(金型キャビティ内面)が8000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。
また、この積層体の成形条件は、下記のように設定した。
射出成形機:東芝機械製EC-100SX
成形温度(シリンダー温度):240℃(比較例1は300℃)
射出速度:20mm/秒
金型温度:65℃
保圧:70MPa
フィルムインサート成形においては、表層の熱可塑性ポリウレタン系組成物が溶融状態で金型と接する機会がないため金型脱離時間の評価は行わなかった。
【0081】
[実施例4~9]
表3に記載のように、下地層となるメタクリル系樹脂組成物を射出成形することで100mm×100mm×厚さ2mmの平板を成形し、次いで、得られた下地層を金型内に静置し、表層となる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を射出成形し、インサート成形された積層体(100mm×100mm×3mm)を作製した。なお、金型は、金型表面(金型キャビティ内面)が8000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。
また、この積層体の成形条件は、下記のように設定した。
射出成形機:東芝機械製EC-100SX
<下地層>
成形温度(シリンダー温度):250℃
射出速度:20mm/秒
金型温度:65℃
保圧:70MPa
<表層>
成形温度(シリンダー温度):230℃
射出速度:20mm/秒
金型温度:40℃
保圧:70MPa
保圧時間:20秒
冷却時間:80秒
【0082】
[実施例10~15]
表3に記載のようにメタクリル系樹脂組成物と熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物のペレットを二色射出成形機に投入し、二色成形体(100mm×100mm×3mm(表層:0.6mm、下地層:2.4mm))に成形し、積層体を得た。表層のゲートは、幅100mmの中央部にサイドゲート1点で設置した。下地層のゲートは、幅100mmの中央部にサイドゲート1点を設置した。なお、金型は、金型表面(金型キャビティ内面)が8000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。また、2色成形体の成形条件は、下記のように設定した。
射出成形機:住友重機械工業製SE-280D-CI(二色成形)
射出条件
成形温度(シリンダー温度):メタクリル系樹脂組成物は260℃。熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物は240℃。
金型温度:40℃
充填速度:20mm/s
保圧:70MPa
保圧時間:20秒
冷却時間:80秒
【0083】
【0084】
表3に示すように実施例1~3、7、8、11~14において優れた透明性(高い全光線透過率と低いヘイズ)と耐傷付性、耐候性を兼ね備えた積層体を生産性良く作製することが出来た。
比較例1においては、下地層にポリカーボネート樹脂を用いたため、耐傷付性は良好であったが、実施例に比べると全光線透過率の点で透明性に劣っており、また、耐候性が良好ではなかった。比較例2は表層に熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を用いなかったため、実施例に比べ耐傷付き性が劣っていた。
実施例4においては、実施例1~3、7、8、11~14に比べ、実用上十分なレベルであるもののイソシアネート構造体単位中の脂環数が2であるイソシアネートを用いた熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を表層に用いたための、金型脱着に必要な時間が長く、生産性が若干劣っていた。実施例5、6、10においては、実施例1~3、7、8、11~14に比べ、表層における熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の含有量が少なかったため、耐傷付き性が若干劣っていた。実施例9、15においては、実施例1~3、7、8、11~14に比べ、実用上十分なレベルであるものの金型脱着に必要な時間が長く、生産性が若干劣っていた。
【0085】
本発明の積層体によれば、透明性、耐候性が良好で、また、耐傷付性に優れる積層体が得られるため、例えば、ビニルハウス用フィルム、液晶保護フィルム、建築用部材、車両用部材、電気電子用部材、照明用部材等として産業上利用の可能性を有している。具体的には、例えば、建造物、自動車、列車又はバスに使用される屋根材や、照明や看板、高速道路に設置される遮音板、メーターに使用される保護材、車輌灯具用部材、フロントグリル、リアグリル、ピラーといった車輌外装用部材、表示パネル、ウインドウパネル、シフトレバーパネルといった車輌内装用部材、船舶の灯具用部材、ビニルハウス用フィルム、液晶保護フィルム、電池用保護カバー、センサーカバーとして産業上利用の可能性を有している。中でも特にセンサーカバー、車輌灯具用部材、車輌内外装用部材として用いられることが特に好ましい。