(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ポンプの診断方法、ポンプゲートの診断方法、およびポンプ診断装置
(51)【国際特許分類】
F04B 51/00 20060101AFI20240327BHJP
F04B 49/02 20060101ALI20240327BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20240327BHJP
F04D 15/00 20060101ALI20240327BHJP
F04D 29/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F04B51/00
F04B49/02 311
F04B49/06 311
F04D15/00 B
F04D15/00 J
F04D29/00 B
(21)【出願番号】P 2020162724
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】野口 真
(72)【発明者】
【氏名】浦野 健司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 靖志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤弥
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-137406(JP,A)
【文献】特開2016-194287(JP,A)
【文献】特開2008-280921(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0090975(US,A1)
【文献】特開2006-274704(JP,A)
【文献】特開2019-070361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 51/00
F04B 49/02、49/06.49/10
F04D 15/00
F04D 29/00
E02B 7/20
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプが停止した状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第一電流値を計測する第一計測運転工程と、
前記ポンプの運転中に前記ポンプへの電力供給を停止し、所定期間にわたって前記ポンプを惰性運転させる停止工程と、
前記ポンプが前記惰性運転している状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって前記ポンプに流れる電流の値である第二電流値を計測する第二計測運転工程と、
前記第一電流値に基づいて、前記第一計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第一安定化時間を算出するとともに、前記第二電流値に基づいて、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第二安定化時間を算出する算出工程と、
前記第一安定化時間および前記第二安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定工程と、を有するポンプの診断方法。
【請求項2】
前記判定工程において、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比に基づいて前記ポンプの状態を判定する請求項1に記載のポンプの診断方法。
【請求項3】
前記判定工程において、前記ポンプの定格回転速度、および、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比、に基づいて、前記ポンプの摺動トルクを算出し、当該摺動トルクをさらなる判断材料として前記ポンプの状態を判定する請求項2に記載のポンプの診断方法。
【請求項4】
前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比と、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動するときに前記惰性運転している前記ポンプの回転速度と、の関係は、あらかじめ明らかにされており、
前記判定工程において、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比と、あらかじめ明らかにされている前記関係と、に基づいて、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動するときに前記惰性運転している前記ポンプの回転速度を算出し、当該回転速度をさらなる判断材料として前記ポンプの状態を判定する請求項2または3に記載のポンプの診断方法。
【請求項5】
ポンプの運転中に前記ポンプへの電力供給を停止し、所定期間にわたって前記ポンプを惰性運転させる停止工程と、
前記ポンプが前記惰性運転している状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって前記ポンプに流れる電流の値である電流値を計測する計測運転工程と、
前記電流値に基づいて、前記計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである安定化時間を算出する算出工程と、
前記所定期間および前記安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定工程と、を有するポンプの診断方法。
【請求項6】
液体が流通する流路を閉塞可能な扉体と、
前記扉体に設けられ、前記扉体によって前記流路を閉塞した状態において前記流路の上流側から下流側に前記液体を付勢可能なポンプと、
前記扉体を上下動させることができる駆動装置と、を備えるポンプゲートの診断方法であって、
前記ポンプが停止した状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第一電流値を計測する第一計測運転工程と、
前記ポンプの運転中に前記ポンプへの電力供給を停止し、所定期間にわたって前記ポンプを惰性運転させる停止工程と、
前記ポンプが前記惰性運転している状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって前記ポンプに流れる電流の値である第二電流値を計測する第二計測運転工程と、
前記第一電流値に基づいて、前記第一計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第一安定化時間を算出するとともに、前記第二電流値に基づいて、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第二安定化時間を算出する算出工程と、
前記第一安定化時間および前記第二安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定工程と、を有し、
前記第一計測運転工程および前記第二計測運転工程を、前記ポンプを前記
液体の液面より上に配置した状態で実施するポンプゲートの診断方法。
【請求項7】
ポンプに流れる電流の値を計測可能な計測装置と、演算装置と、を備え、
前記演算装置は、
前記ポンプに対する電力供給を、前記ポンプが停止した状態において前記ポンプに電力を供給する第一電力供給、前記ポンプへの電力供給を停止する電力供給停止、および、前記ポンプが惰性運転している状態において前記ポンプに電力を供給する第二電力供給、がこの順で行われるように制御する制御機能と、
前記第一電力供給の実施時に、前記ポンプを起動した後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第一電流値を、前記計測装置によって計測して取得する第一計測機能と、
前記第二電力供給の実施時に、前記ポンプを起動した後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第二電流値を、前記計測装置によって計測して取得する第二計測機能と、
前記第一電流値に基づいて、前記第一電力供給の実施時に前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第一安定化時間を算出するとともに、前記第二電流値に基づいて、前記第二電力供給の実施時に前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第二安定化時間を算出する算出機能と、
前記第一安定化時間および前記第二安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定機能と、
を実行可能に構成されているポンプ診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの診断方法、ポンプゲートの診断方法、およびポンプ診断装置に関する。
【0002】
近年、本川に合流する支川のような比較的少水量な水路において、上流側水路と下流側水路との境界部に備えられた既存の樋門に加えてまたは替えて、ポンプゲートが設置される例が増えている。ポンプゲートは、水路に開閉自在に設置される扉体に、上流側水路の水を下流側水路へと排水するための水中ポンプが設けられた構造を有する。ポンプゲートは、既存の水路内に直接設置可能であるので、従来型の排水機場のようなバイパス水路や機場スペースなどが不要であるため、設置用地土木構造物を著しく減少でき、トータルコストの大幅な縮減が可能である点において優れている。
【0003】
ポンプゲートは、たとえば集中豪雨時のように、下流側水路の水位が高くなったときに閉鎖され、下流側水路から上流側水路への逆流を防止する。またこのとき、水中ポンプを稼働させ、上流側水路内の水を下流側水路へ強制的に排水する。逆に、晴天時のように下流側水位が低くなったときは、上記のような逆流のおそれがないため、扉体を開放し上流側水路の内水を下流側水路へ自然流下させる。
【背景技術】
【0004】
上記のような性質上、ポンプゲートは、その運転が集中豪雨などの緊急時に限られる一方で、その運転には確実性が求められる。すなわち、平常時の運転状態に基づいて故障またはその兆候を検知する機会が乏しいにもかかわらず、故障を確実に防止することが求められる。そこで、設置済みのポンプゲートについて定期的な管理運転(診断)が行われることが好ましい。そのような管理運転の方法として、ポンプゲートのポンプについて、回転機器に係る公知の管理運転方法(たとえば、特開2019-23473号公報(特許文献1)、特許第3525736号公報(特許文献2)など)を適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-23473号公報
【文献】特許第3525736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポンプゲートのポンプは本来水中において駆動する装置であるので、管理運転時にポンプを水中に配置して管理運転を行うことが望ましい。しかし、当該ポンプを水中に配置するためには扉体を閉鎖して上流側水路の水位を確保する必要があり、一時的に水路の流通を妨げることになるが、設置場所の用水計画によってはたとえ短期間の閉鎖であっても実施が難しい場合がある。また、流水量が少ないときは、扉体を閉鎖したとしてもポンプを水中に配置するのに十分な水量が確保できない場合がある。そこで、ポンプを水面より上に配置した状態、すなわちポンプの本来の運転状態とは異なる状態にあっても、有効な管理運転を実施できる技術の実現が求められるが、本来の運転条件に近い状態で実施することを前提とする特許文献1および2のような技術では不十分だった。
【0007】
そこで、ポンプを水面より上に配置した状態にあっても有効な診断を実施できるポンプの診断方法、ポンプゲートの診断方法、およびポンプ診断装置の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第一のポンプの診断方法は、ポンプが停止した状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第一電流値を計測する第一計測運転工程と、前記ポンプの運転中に前記ポンプへの電力供給を停止し、所定期間にわたって前記ポンプを惰性運転させる停止工程と、前記ポンプが前記惰性運転している状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって前記ポンプに流れる電流の値である第二電流値を計測する第二計測運転工程と、前記第一電流値に基づいて、前記第一計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第一安定化時間を算出するとともに、前記第二電流値に基づいて、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第二安定化時間を算出する算出工程と、前記第一安定化時間および前記第二安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るポンプゲートの診断方法は、液体が流通する流路を閉塞可能な扉体と、前記扉体に設けられ、前記扉体によって前記流路を閉塞した状態において前記流路の上流側から下流側に前記液体を付勢可能なポンプと、前記扉体を上下動させることができる駆動装置と、を備えるポンプゲートの診断方法であって、前記ポンプが停止した状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第一電流値を計測する第一計測運転工程と、前記ポンプの運転中に前記ポンプへの電力供給を停止し、所定期間にわたって前記ポンプを惰性運転させる停止工程と、前記ポンプが前記惰性運転している状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって前記ポンプに流れる電流の値である第二電流値を計測する第二計測運転工程と、前記第一電流値に基づいて、前記第一計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第一安定化時間を算出するとともに、前記第二電流値に基づいて、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第二安定化時間を算出する算出工程と、前記第一安定化時間および前記第二安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定工程と、を有し、前記第一計測運転工程および前記第二計測運転工程を、前記ポンプを前記液体の液面より上に配置した状態で実施することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るポンプ診断装置は、ポンプに流れる電流の値を計測可能な計測装置と、演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記ポンプに対する電力供給を、前記ポンプが停止した状態において前記ポンプに電力を供給する第一電力供給、前記ポンプへの電力供給を停止する電力供給停止、および、前記ポンプが惰性運転している状態において前記ポンプに電力を供給する第二電力供給、がこの順で行われるように制御する制御機能と、前記第一電力供給の実施時に、前記ポンプを起動した後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第一電流値を、前記計測装置によって計測して取得する第一計測機能と、前記第二電力供給の実施時に、前記ポンプを起動した後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流の値である第二電流値を、前記計測装置によって計測して取得する第二計測機能と、前記第一電流値に基づいて、前記第一電力供給の実施時に前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第一安定化時間を算出するとともに、前記第二電流値に基づいて、前記第二電力供給の実施時に前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである第二安定化時間を算出する算出機能と、前記第一安定化時間および前記第二安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定機能と、を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
これらの構成によれば、ポンプを水面より上に配置した状態にあっても有効な診断を実施できる。これは、第一計測運転工程と第二計測運転工程とを設けることによって、診断時の運転がポンプの本来の運転状態とは異なる状態で行われることによる影響を、二回の計測運転において得られた測定値間で相殺しうることによる。
【0012】
本発明に係る第二のポンプの診断方法は、ポンプの運転中に前記ポンプへの電力供給を停止し、所定期間にわたって前記ポンプを惰性運転させる停止工程と、前記ポンプが前記惰性運転している状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって前記ポンプに流れる電流の値である電流値を計測する計測運転工程と、前記電流値に基づいて、前記計測運転工程において前記ポンプを起動してから当該ポンプの運転が安定するまでに要した時間の長さである安定化時間を算出する算出工程と、前記所定期間および前記安定化時間を判断材料として前記ポンプの状態を判定する判定工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ポンプを水面より上に配置した状態にあっても有効な診断を実施できる。これは、所定期間と安定化時間との関係が、診断時の運転がポンプの本来の運転状態とは異なる状態で行われることによる影響を受けにくいためである。
【0014】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0015】
本発明に係るポンプの診断方法は、一態様として、前記判定工程において、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比に基づいて前記ポンプの状態を判定することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、診断時の運転がポンプの本来の運転状態とは異なる状態で行われることによる影響を、明確に相殺できる。
【0017】
本発明に係るポンプの診断方法は、一態様として、前記判定工程において、前記ポンプの定格回転速度、および、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比、に基づいて、前記ポンプの摺動トルクを算出し、当該摺動トルクをさらなる判断材料として前記ポンプの状態を判定することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、たとえば、ポンプの摺動不良を摺動トルクの増大という直接的な因子を通じて捉えうるので、使用者がポンプの状態を把握しやすい。
【0019】
本発明に係るポンプの診断方法は、一態様として、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比と、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動するときに前記惰性運転している前記ポンプの回転速度と、の関係は、あらかじめ明らかにされており、前記判定工程において、前記第一安定化時間と前記第二安定化時間との比と、あらかじめ明らかにされている前記関係と、に基づいて、前記第二計測運転工程において前記ポンプを起動するときに前記惰性運転している前記ポンプの回転速度を算出し、当該回転速度をさらなる判断材料として前記ポンプの状態を判定することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、たとえば、ポンプの摺動不良を回転速度の低下という直接的な因子を通じて捉えうるので、使用者がポンプの状態を把握しやすい。
【0021】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係るポンプゲートの開放状態の概要図である。
【
図2】本実施形態に係るポンプゲートの閉鎖状態の概要図である。
【
図3】本実施形態に係るポンプゲートの構成図である。
【
図4】本実施形態に係るポンプの診断方法のフロー図である。
【
図5】本実施形態に係るポンプの診断方法において計測される電流の推移の例である。
【
図6】算出工程における演算処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るポンプの診断方法、ポンプゲートの診断方法、およびポンプ診断装置の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係るポンプの診断方法を、流水路100(流路の例)に設置されたポンプゲート1のポンプ3の診断に適用し、本発明に係るポンプゲートの診断方法をポンプゲート1の診断に適用した例について説明する。なお、以下では、ポンプの診断方法およびポンプゲートの診断方法を、まとめて「診断方法」という場合がある。
【0024】
〔ポンプゲートの概要〕
まず、本実施形態に係る診断方法において診断対象とするポンプゲート1の概要について説明する。ポンプゲート1は、扉体2と、扉体に設けられたポンプ3と、扉体2を上下動させることができる駆動装置4と、を備える(
図1)。ポンプゲート1は、河川の本流と支流とが合流する地点において、流水路100に設置されている。流水路100は、支流側流水路101(流路の上流側の例)と本流側流水路102(流路の下流側の例)とを有する。
【0025】
平常時は、
図1に示すように、流水路100を流通する水(
液体の例)の水面103(液面の例)より上に扉体2を配置し、ポンプ3の運転を停止している。水は、支流側流水路101から本流側流水路102に向かって自然流下する。
【0026】
集中豪雨などにより増水すると、本流が増水し、本流側流水路102の水位が上昇する場合がある。このような場合、本流側流水路102から支流側流水路101に向かって水が逆流することを防ぐために、扉体2を下降させ、流水路100を閉塞する(
図2)。このとき、ポンプ3は、水面103より下に配置される。ここで、ポンプ3を運転すると、支流側流水路101から本流側流水路102へと水を付勢し、これを強制的に排出できる。
【0027】
なお、ポンプ3および駆動装置4への給電は、分電盤5を通じて行われる。分電盤5には、ポンプ3および駆動装置4の運転を制御するとともに、流水路100の各部に設けられた水位計(不図示)や扉体2の上下位置を検出する位置センサ(不図示)などの各種の計器からの信号を受信する制御装置51、ならびに、制御装置51により制御または取得される機器の運転状態や計測情報などをサーバ装置6に送出可能な通信装置52、が設けられている(
図3)。
【0028】
サーバ装置6には、ポンプゲート1において収集された運転状態および計測情報が蓄積される(
図3)。ポンプゲート1の管理者などは、サーバ装置6に蓄積された情報を、手元のユーザ端末7(コンピュータ、タブレット端末、スマートフォンなど)から閲覧でき、ポンプゲート1の運転状態を遠隔監視できる。また、当該端末を通じて、ポンプ3および駆動装置4の運転および停止を遠隔操作することも可能である。
【0029】
〔ポンプゲートの診断〕
ポンプゲート1の性質上、ポンプ3は、平常時は運転されず、集中豪雨などの場合のみに運転される。一方で、ポンプ3の運転が必要な場合は、緊急の排水が必要な場合であるので、ポンプ3が確実に運転できることが求められる。すなわち、平常時の運転状態に基づいて故障またはその兆候を検知する機会が乏しいにもかかわらず、故障を確実に防止することが求められる。そのような要求に鑑みて、ポンプ3について定期的な診断が行われ、故障およびその兆候の有無が検査される。本実施形態に係る診断方法は、予備運転工程S10、第一計測運転工程S20、停止工程S30、第二計測運転工程S40、算出工程S50、および判定工程S60を有する(
図4)。以下では、各工程の内容について説明する。
【0030】
診断を行う前に、分電盤5にポンプ診断装置8を取り付ける(
図3)。ポンプ診断装置8は電流計81(計測装置の例)とコンピュータ82(演算装置の例)とを有し、電流計81のプローブ81aを、ポンプ3に給電する給電線に設置する態様で取り付ける。また、電流計81により計測された電流の値は、コンピュータ82に入力され、コンピュータ82上における解析処理に電流の値を用いることができる。本実施形態では、電流計81を用いた計測値の取得が、少なくとも第一計測運転工程S20、停止工程S30、および第二計測運転工程S40にわたって連続的に行われる。
【0031】
上記の電流計81およびコンピュータ82は、ハードウエアとしては公知のものを使用できる。したがってコンピュータ82は、いずれも公知の、入力装置(キーボード、マウスなど)、出力装置(ディスプレイ、スピーカーなど)、演算素子(CPUなど)、記憶装置(ハードディスクドライブなど)、通信装置(有線通信インターフェース、無線通信インターフェースなど)を備える。
【0032】
予備運転工程S10は、本実施形態に係る診断方法の最初の工程として行われる。第一計測運転工程S20および第二計測運転工程S40ではポンプ3を運転することになるが、ポンプ3に固着などの異常が生じている場合、ポンプ3を無理に起動しようとするとポンプ3を損傷してしまうおそれがある。そこで、予備運転工程S10では、短時間(たとえば3秒間)にわたってポンプ3の運転を行ったのちに、ポンプ3を停止する。その後、ポンプ3の惰性運転が完全に停止したら、以降の工程に進む。
【0033】
第一計測運転工程S20は、ポンプ3が完全に停止した状態からポンプ3を起動し、このときにポンプ3に流れる電流の値を計測する工程である。前述のように、予備運転工程S10を実施した後に、ポンプ3の惰性運転が完全に停止してから次の工程に進むため、第一計測運転工程S20を開始する時点においてポンプ3は完全に停止した状態にある。
【0034】
第一計測運転工程S20は、平常時におけるポンプゲート1の状態、すなわち、流水路100を流通する水の水面103より上に扉体2を配置し、したがってポンプ3を水面103より上に配置した状態(
図1)で実施する。これは、流水路100の状態(たとえば水量)の影響を受けてポンプ3の運転負荷が変動する可能性があるため、ポンプ3を水面103より下に配置した状態で第一計測運転工程S20を実施すると、計測条件を一定に保つことが難しいためである。なお、水量が少なく、扉体2を下降させて流水路100を閉塞してもポンプ3が水面103より上に配置される状況においては、扉体2を下降させた状態で第一計測運転工程S20を実施してもよい。以降の説明では、ポンプ3を水面103より上に配置した状態で運転することを、「空運転」という。
【0035】
第一計測運転工程S20では、ポンプ3を起動して空運転を行う(第一電力供給の例)。より詳細には、ポンプ3を起動する操作を行ったのち、所定の計測期間ののちに、ポンプ3を停止する操作を行う。なお、ポンプ3に流れる電流は交流電流であり、その電流の計測値は正負に振動する。また、
図5に示すように、第一計測運転工程S20の実施中にポンプ3を流れる電流の値(以下、第一電流値I1という。)について、ポンプ3を起動した直後に比較的大きな電流が流れ、その後、比較的小さな電流に収束するという挙動が見られる。以降の説明では、電流の値が収束した状態を定常状態という。
【0036】
続く停止工程S30は、第一計測運転工程S20の最後にポンプ3への給電を停止する操作を行ったときから、第二計測運転工程S40の最初にポンプ3を起動するときまでの間の、ポンプ3への電力供給を行わない工程(電力供給停止の例)である。停止工程S30はポンプ3を停止する操作を行った後かつ起動する前の工程であるので、停止工程S30においてはポンプ3には電流が流れていない。しかし、ポンプ3のモータおよび羽根車は、慣性により依然回転している惰性運転の状態となる。
【0037】
その後の第二計測運転工程S40では、ポンプ3を再び起動する(第二電力供給の例)。ここでも、第一計測運転工程S20と同様に、ポンプ3を起動する操作を行ったのち、所定の計測期間ののちに、ポンプ3を停止する操作を行う。ポンプ3を起動する操作を行うタイミングは、停止工程S30の継続時間があらかじめ定められた所定期間になるように選択する。これは、ポンプゲート1に対する複数回の診断の間で、停止工程S30の継続時間を所定期間に実質的に揃えるためである。なお、第二計測運転工程S40は、第一計測運転工程S20と同様に、ポンプ3を水面103より上に配置した状態(
図1)で実施する。その理由は、第一計測運転工程S20と同様である。
【0038】
第二計測運転工程S40においても、第一計測運転工程S20と同様に、第二計測運転工程S40の実施中にポンプ3を流れる電流の値(以下、第二電流値I2という。)について、ポンプ3を起動した直後に比較的大きな電流が流れ、その後、比較的小さな電流に収束するという挙動が見られる。ここで、第二計測運転工程S40において定常状態に達したと判断する基準は、第一計測運転工程S20と同様である。
【0039】
算出工程S50は、コンピュータ82より実行される演算処理として実施される。前述のように、電流計81を用いた計測値の取得が、少なくとも第一計測運転工程S20、停止工程S30、および第二計測運転工程S40にわたって連続的に行われており、当該計測値は取得時刻とともにコンピュータ82に記録されている。算出工程S50では、係る計測値(第一電流値I1、第二電流値I2)の経時変化に基づいて、第一計測運転工程S20および第二計測運転工程S40のそれぞれにおいて、ポンプ3を起動してからポンプ3の運転が安定するまでに要した時間の長さである安定化時間(第一安定化時間Ts1、第二安定化時間Ts2)を算出する工程である。以下では、
図6を参照して、第一安定化時間Ts1を算出する方法を例として説明するが、第二安定化時間Ts2を算出する方法についても同様である。
【0040】
第一に、コンピュータ82は、第一電流値I1を絶対値Ia1に変換する処理を実行する。ポンプ3に流れる電流は交流電流であるので、電流の値に基づいてポンプ3の挙動を解析するためには、正負双方の値を含む第一電流値I1そのものではなく、第一電流値I1の絶対値Ia1に基づくことが妥当であるためである。
【0041】
第二に、コンピュータ82は、第一安定化時間Ts1に対応する区間P1の始点P1aを特定する。具体的には、第一電流値I1の絶対値Ia1が所定の閾値を超えた瞬間を始点P1aであると特定する。すなわち、ポンプ3の起動時に生じる突入電流が生じた時刻を始点P1aとして特定している。
【0042】
第三に、コンピュータ82は、始点P1a以後について、第一電流値I1の絶対値Ia1の包絡線E1を算出する。包絡線E1は、たとえば、第一電流値I1の絶対値Ia1の波形の、各周期において絶対値Ia1が最大値をとる点を順に接続して得られる。
【0043】
第四に、コンピュータ82は、包絡線E1の定常値Es1を算出する。前述の通り、ポンプ3を起動すると、起動直後に比較的大きな電流が流れ、その後、比較的小さな電流に収束するという挙動が見られるので、第一電流値I1は、ポンプ3の起動後しばらくすると一定の値に収束する。したがって、第一電流値I1の絶対値Ia1およびその包絡線E1も収束する。包絡線E1の定常値Es1は、たとえば、始点P1aから所定の時間が経過した時点における包絡線E1の値として求められる。なお、ここでいう「所定の時間」とは、第一電流値I1の収束が確実にみられる時間であればよく、モータの運転が安定化するまでに要する時間として当業者が通常考える時間よりも長い時間(たとえば10秒以上)に設定してもよいし、ポンプ3の製造時などに試運転を行って特定した時間に設定してもよい。
【0044】
第五に、コンピュータ82は、定常値Es1を1.0として包絡線E1を正規化し、正規化包絡線En1を算出する。
【0045】
第六に、コンピュータ82は、第一安定化時間Ts1に対応する区間P1の終点P1bを特定する。具体的には、始点P1a以後において、正規化包絡線En1が所定の値(たとえば1.5)を初めて下回った点を、終点P1bとして特定する。
【0046】
第七に、コンピュータ82は、始点P1aから終点P1bまでに経過した時間の長さとして、第一安定化時間Ts1を算出する。
【0047】
以上のように第一安定化時間Ts1を算出できるが、前述したように、上記と同様の方法によって、第二電流値I2の経時変化に基づいて第二安定化時間Ts2を算出できる。このとき、第二安定化時間Ts2に対応する区間P2、ならびに区間P2の始点P2aおよび終点P2bも特定される。
【0048】
また、算出工程S50においてコンピュータ82は、第一安定化時間Ts1および第二安定化時間Ts2に加えて、停止工程S30の継続時間である停止時間tを算出する。停止時間tに対応する区間P3は、終点P1bの後に第一電流値I1が所定の閾値を下回った点を始点P3aとし、区間P2の始点P2aを終点とする区間である。したがってコンピュータ82は、始点P3aから始点P2aまでに経過した時間の長さとして停止時間tを算出する。
【0049】
判定工程S60は、算出工程S50と同様に、コンピュータ82よって実行される演算処理として実施される。判定工程S60は、コンピュータ82が、第一安定化時間Ts1および第二安定化時間Ts2を判断材料としてポンプ3の状態を判定する工程である。
【0050】
コンピュータ82は、第一安定化時間Ts1に対する第二安定化時間Ts2の比である起動時間比Rを算出する。起動時間比Rは下式(1)で与えられる。
R=Ts2/Ts1 (1)
【0051】
起動時間比Rと、第二計測運転工程S40を開始する時点において惰性回転しているポンプ3の回転速度と、の間には、負の相関関係がある。これは、惰性回転の回転速度が大きいほど、第二計測運転工程S40においてポンプ3を再起動してから定常状態に到達するまでに要する時間が短くなる(第二安定化時間Ts2が小さくなる)ためである。
【0052】
本発明者らは、上記の相関関係を簡単な直線により近似できることを見出した。再起動時の回転速度N(min-1)は、ポンプ3の定格回転速度Nr(min-1)と起動時間比Rとを用いて、以下の式(2)で近似される。
N=Nr(1-R) (2)
【0053】
式(2)において、ポンプ3の定格回転速度Nrは、ポンプ3の型式などから一意に定まる定数である。したがって、式(2)を用いることによって、回転速度自体を実測することなく、回転速度Nを算出できる。また、式(2)を決定するにあたり、種々の起動時間比Rに対して回転速度Nを実測するなどの予備実験を要さない。
【0054】
また、ポンプ3の摺動トルクT(N・m)は、以下の式(3)で表される。
T=(2πI/60t)(Nr-N) (3)
ここで、I(kg・m2)はポンプ3のロータの慣性モーメントであり、定数である。また、t(秒)は、上述の停止時間である。ポンプゲート1に対して実施される複数回の診断において停止時間tが実質的に同一になるように診断の各工程が実施されるので、停止時間tは実質的に定数である。
【0055】
摺動トルクTと、ポンプ3を設置した当初における摺動トルクである初期摺動トルクTiとの比である摺動トルク比Ktは、以下の式(4)で表される。
Kt=T/Ti (4)
【0056】
ここで、式(4)に式(3)を代入して右辺を整理すると、式(5)が得られる。なお、ポンプ3を設置した当初における再起動時の回転速度をNiとした。
Kt=(Nr-N)/(Nr-Ni) (5)
【0057】
さらに、式(2)を用いて式(5)の右辺を変形すると、式(6)が得られる。なお、ポンプ3を設置した当初における起動時間比をRiとした。
Kt=R/Ri (6)
【0058】
式(6)において起動時間比Riは定数であるから、摺動トルク比Ktは、起動時間比Rを変数とする関数で表される。コンピュータ82は、起動時間比Riをあらかじめ記憶しており、起動時間比Rに基づいて摺動トルク比Ktを算出できる。
【0059】
ポンプ3の摺動トルクTは、回転軸の歪みおよび摩耗、ならびに異物の介在、などの要因により上昇しうる。すなわち、摺動トルクTが上昇している場合、ポンプ3に何らかの異常が生じている可能性がある。式(4)において初期摺動トルクTiは定数であるので、摺動トルクTが上昇するとき、摺動トルク比Ktも上昇する。したがって、式(6)により得られる摺動トルク比Ktが上昇している場合、これは摺動トルクTの上昇を意味し、すなわちポンプ3に何らかの異常が生じている可能性を示している。すなわち、起動時間比Rを算出することによって、摺動トルクTに変化が生じているか否かを推定できる。
【0060】
このことは、次のようにも理解できる。摺動トルクTが上昇すると、ポンプ3の回転抵抗が大きくなるため、惰性運転中の回転速度の減衰速度が大きくなる。そのため、第二計測運転工程S40の開始時における惰性回転の回転速度が小さくなり、第二安定化時間Tsが大きくなる。したがってこのとき、起動時間比Rは大きくなる。このように、起動時間比Rの上昇は摺動トルクTが上昇している場合に見られる現象であるので、起動時間比Rの上昇がみられる場合は、摺動トルクTが上昇している可能性がある。
【0061】
続いて、コンピュータ82は、摺動トルク比Ktと所定の基準とを比較して、ポンプ3の状態を判定する。摺動トルク比Ktが1.3以下の場合、コンピュータ82は、ポンプ3が「正常」の状態にあると判定する。
【0062】
摺動トルク比Ktが1.3を超えて1.7以下の場合、コンピュータ82は、ポンプ3が「要経過観察」の状態にあると判定する。「要経過観察」と判定されたポンプ3は、整備を行わなくても使用できる可能性が高いが、より安定した運転を行うためには整備を行うことが望ましい状態にある。
【0063】
摺動トルク比Ktが1.7を超える場合、コンピュータ82は、ポンプ3が「要経過観察」の状態にあると判定する。「要整備」と判定されたポンプ3は、整備を行わないと使用できない可能性が高い状態にある。
【0064】
判定工程S60において判定されたポンプ3の状態は、コンピュータ82が備える出力装置を介して、使用者に通知される。なお、判定された状態の区分に応じて、出力態様を変更してもよい。たとえば、「要整備」と判定されたときにアラーム音を鳴らすなどして、使用者が判定結果を速やかに確認することを促してもよい。また、判定工程S60において算出した摺動トルク比Kt、起動時間比Rなどの数値や、算出工程S50において算出した第一安定化時間Ts1、第二安定化時間Ts2、および停止時間tなどの数値などを、ポンプ3の状態とともに表示するようにしてもよい。
【0065】
〔変形例〕
以下では、本発明に係るポンプの診断方法の変形例について説明する。本変形例では、算出工程S50および判定工程S60が上記の実施形態と異なる。なお、本変形例における第二計測運転工程S40は、計測運転工程の例である。
【0066】
上述の式(1)、式(2)、および式(3)より、以下の式(7)が得られる。
T=(2πI/60t)Nr(Ts2/Ts1) (7)
【0067】
ここで、慣性モーメントIおよびポンプ3の定格回転速度Nrは定数であるから、摺動トルクTは、停止時間t、第一安定化時間Ts1、および第二安定化時間Ts2を変数とする関数で表される。ここで、第一安定化時間Ts1はポンプ3の状態が変化してもほとんど変化しないため、第一安定化時間Ts1を定数として取り扱うことにすると、摺動トルクTは、停止時間t(所定期間)および第二安定化時間Ts2(安定化時間)を変数とする関数として取り扱われることになる。
【0068】
判定工程S60の変形例は、具体的には以下の手順になる。まず、たとえばポンプ3を設置した当初の試運転において第一安定化時間Ts1を決定し、以後の診断では当該第一安定化時間Ts1を定数として用いるようにする。各回の診断において、コンピュータ82は、上記に説明した方法により算出された停止時間tおよび第二安定化時間Ts2を用いて、式(7)に従って摺動トルクTを算出する。そして、コンピュータ82は、摺動トルクTの値に基づいて、ポンプ3の状態を判定する。さらには、判定の結果を、一連の計測データとともに、コンピュータ82の通信装置を介してサーバ装置6およびユーザ端末7に送信してもよい。
【0069】
また、この変形例における算出工程S50では、第一安定化時間Ts1の算出を省略しうる。
【0070】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係るポンプの診断方法、ポンプゲートの診断方法、およびポンプ診断装置のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0071】
上記の実施形態では、本発明に係る診断方法をポンプゲート1(ポンプ3)の診断に適用した構成を例として説明した。しかし、本発明に係るポンプの診断方法は、排水機場ポンプ、マンホールポンプ、陸上ポンプなどのポンプの診断にも適用できる。
【0072】
上記の実施形態では、診断を行う前にポンプ診断装置8の電流計81を分電盤5に設置する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る診断方法において、ポンプに流れる電流の値を計測可能な電流計を常設しておき、当該電流計の計測値を利用する方法を採用しうる。
【0073】
上記の実施形態では、予備運転工程S10を含む手順を例として説明した。しかし、本発明に係るポンプの診断方法において、予備運転工程を実施しなくてもよい。
【0074】
上記の実施形態では、算出工程S50において、第一電流値I1および第二電流値I2の絶対値を求めた後に、当該絶対値の包絡線を求め、当該包絡線を正規化した正規化包絡線に基づいて第一安定化時間および第二安定化時間を算出する構成を例として説明した。しかし、本発明に係るポンプの診断方法において、第一安定化時間および第二安定化時間を算出するための算出方法は特に限定されず、たとえば、電流実効値があらかじめ設定した値になった時点を安定化した時点とみなして第一安定化時間および第二安定化時間を決定してもよい。
【0075】
上記の実施形態では、判定工程S60において、ポンプ3の摺動トルク比Ktを算出し、摺動トルク比Ktと所定の基準とを比較してポンプ3の状態を判定する構成を例として説明した。しかし、本発明に係るポンプの診断方法において、ポンプの状態を判定する方法は特に限定されず、たとえば、算出された起動時間比を所定の基準と比較する方法などを用いうる。
【0076】
上記の実施形態では、判定工程S60において、再起動時の回転速度N(min-1)を、ポンプ3の定格回転速度Nr(min-1)と起動時間比Rとを用いて近似する式(2)を用いる構成を例として説明した。
N=Nr(1-R) (2)
しかし、本発明に係るポンプの診断方法において、予備実験を通じて再起動時の回転速度と起動時間比との関係をあらかじめ明らかにしておき、実際の診断時には上記のあらかじめ明らかにしてある関係を用いて、起動時間比から再起動時の回転速度を求めてもよい。
【0077】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、たとえば流水路に設置されたポンプゲートなどのポンプを診断する方法として利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 :ポンプゲート
2 :扉体
3 :ポンプ
4 :駆動装置
5 :分電盤
51 :制御装置
52 :通信装置
6 :サーバ装置
7 :ユーザ端末
8 :ポンプ診断装置
81 :電流計
81a :プローブ
82 :コンピュータ
100 :流水路
101 :支流側流水路
102 :本流側流水路
103 :水面
E1 :包絡線
En1 :正規化包絡線
Es1 :定常値
I1 :第一電流値
I2 :第二電流値
Ia1 :絶対値
Kt :摺動トルク比
N :回転速度
Nr :定格回転速度
P1 :区間
P1a :区間P1の始点
P1b :区間P1の終点
P2 :区間
P2a :区間P2の始点
P2b :区間P2の終点
P3 :区間
P3a :区間P3の始点
R :起動時間比
Ri :起動時間比
Ts :第二安定化時間
Ts1 :第一安定化時間
Ts2 :第二安定化時間
t :停止時間
S10 :予備運転工程
S20 :第一計測運転工程
S30 :停止工程
S40 :第二計測運転工程
S50 :算出工程
S60 :判定工程