(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】プロセス用離型フィルム、その用途、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/68 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
B29C33/68
(21)【出願番号】P 2020197012
(22)【出願日】2020-11-27
(62)【分割の表示】P 2015236639の分割
【原出願日】2015-12-03
【審査請求日】2020-12-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 勝
(72)【発明者】
【氏名】志摩 健二
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】井口 猶二
【審判官】河原 正
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-88351(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から170℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して測定した、23℃時のサンプル長及び170℃時のサンプル長から算出した、前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下であり、
前記離型層Aは結晶性成分を含み、JISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量が15J/g以上、60J/g以下であ
り、
半導体封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、又はプラスチックレンズ成形プロセスにおいて、金型内に樹脂を注入成形する際に、該金型内面に配置して使用される、
上記プロセス用離型フィルム。
【請求項2】
前記金型内に注入成形する樹脂が、熱硬化性樹脂である、請求項
1に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項3】
0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から170℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して測定した、23℃時のサンプル長及び170℃時のサンプル長から算出した、前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が7%以下である、請求項1
又は2に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項4】
0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から120℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して測定した、23℃時のサンプル長及び120℃時のサンプル長から算出した、前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、請求項1から
3のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項5】
0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から120℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して測定した、23℃時のサンプル長及び120℃時のサンプル長から算出した、前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、請求項
4に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項6】
0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から170℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して測定した、23℃時のサンプル長及び170℃時のサンプル長から算出した、前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3%以下である、請求項1から
3のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項7】
0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から170℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して測定した、23℃時のサンプル長及び170℃時のサンプル長から算出した、前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が4%以下である、請求項
6に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項8】
前記離型層Aが、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項9】
前記耐熱樹脂層Bが、延伸フィルムを含んでなる、請求項1から
8のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項10】
前記延伸フィルムが、延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリアミドフィルム、及び延伸ポリプロピレンフィルムからなる群より選ばれる、請求項
9に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項11】
前記耐熱樹脂層BのJISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量が20J/g以上、100J/g以下である、請求項1から
10のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項12】
前記積層フィルムが、更に離型層A’を有し、かつ、該離型層Aと、前記耐熱樹脂層Bと、前記離型層A’と、をこの順で含み、
該離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°である、請求項1から
11のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項13】
前記離型層A及び前記離型層A’の少なくとも一方が、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、請求項
12に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項14】
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、請求項1から
13のいずれか一項に記載の半導体封止プロセス用離型フィルムを、前記離型層Aが前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記半導体封止プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。
【請求項15】
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、請求項
12又は
13に記載の半導体封止プロセス用離型フィルムを、前記離型層A’が前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記半導体封止プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス用離型フィルム、好適には半導体封止プロセス用離型フィルムに関し、特に金型内に半導体チップ等を配置して樹脂を注入成形する際に、半導体チップ等と金型内面との間に配置されるプロセス用離型フィルム、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体パッケージ等の小型軽量化に伴い、封止樹脂の使用量を減らすことが検討されている。そして、封止樹脂の使用量を減らしても、半導体チップ等と樹脂との界面を強固に接着できるようにするため、封止樹脂に含まれる離型剤の量を減らすことが望まれている。このため、硬化成形後の封止樹脂と金型との離型性を得る方法として、金型内面と半導体チップ等との間に離型フィルムを配置する方法が採られている。
【0003】
このような離型フィルムとして、離型性および耐熱性に優れる、フッ素系樹脂フィルム(例えば、特許文献1~2)、ポリ4-メチル-1-ペンテン樹脂フィルム(例えば、特許文献3)等が提案されている。しかしながら、これらの離型フィルムは、金型内面に装着された際に皺が発生し易く、この皺が成形品の表面に転写されて外観不良を生じるという問題があった。
【0004】
これに対して、離型層と、耐熱層とを有する積層離型フィルムが提案されている。これらの離型フィルムは、離型層で離型性を得るとともに、耐熱層で皺を抑制しようとするものである。これらの提案の代表的なものは、離型層と、耐熱層との貯蔵弾性率の関係に着目したものである(例えば、特許文献4及び5ご参照。)。例えば、特許文献4には、離型層の貯蔵弾性率が比較的低く、耐熱層の貯蔵弾性率が比較的高い構成の積層離型フィルム、より具体的には、離型層の175℃における貯蔵弾性率E’が、45MPa以上105MPa以下であり、耐熱層の175℃における貯蔵弾性率E’が100MPa以上250MPa以下である、半導体封止プロセス用離型フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-310336号公報
【文献】特開2002-110722号公報
【文献】特開2002-361643号公報
【文献】特開2010-208104号公報
【文献】国際公開第2015/133631 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、当該技術分野の発展に伴い半導体封止プロセス用離型フィルム等のプロセス用離型フィルムに対する要求水準は年々高まっており、より過酷なプロセス条件においても皺の発生が抑制されたプロセス用離型フィルムが求められており、特に、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が更に高いレベルでバランスしたプロセス用離型フィルムが強く求められている。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるプロセス用離型フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、プロセス用離型フィルムの特定の温度における熱寸法変化率、とりわけプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムのTD方向(フィルムの面内であって、フィルムの製造時の長手方向に対して直行する方向。以下、「横方向」ともいう。)の熱寸法変化率を適切に制御することが、金型内面に装着された際の皺の抑制に重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明及びその各態様は、下記[1]から[19]に記載のとおりである。
【0009】
[1]
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角(以下、「水に対する接触角」を「水接触角」と表記することがある。)が、90°から130°であり、
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、上記プロセス用離型フィルム。
[2]
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、[1]に記載のプロセス用離型フィルム。
[3]
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含むを含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下である、上記プロセス用離型フィルム。
[4]
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が7%以下である、[3]に記載のプロセス用離型フィルム。
[5]
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、[1]から[4]のいずれかに記載のプロセス用離型フィルム。
[6]
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、[5]に記載のプロセス用離型フィルム。
[7]
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3%以下である、[1]から[4]のいずれかに記載のプロセス用離型フィルム。
[8]
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が4%以下である、[7]に記載のプロセス用離型フィルム。
[9]
前記離型層Aが、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、[1]から[8]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[10]
前記耐熱樹脂層Bが、延伸フィルムを含んでなる、[1]から[9]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[11]
前記延伸フィルムが、延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリアミドフィルム、及び延伸ポリプロピレンフィルムからなる群より選ばれる、[10]に記載のプロセス用離型フィルム。
[12]
前記耐熱樹脂層BのJISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量が15J/g以上、60J/g以下である、[1]から[11]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[13]
前記積層フィルムが、更に離型層A’を有し、かつ、該離型層Aと、前記耐熱樹脂層Bと、前記離型層A’と、をこの順で含み、
該離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°である、[1]から[12]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[14]
前記離型層A及び前記離型層A’の少なくとも一方が、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、[13]に記載のプロセス用離型フィルム。
[15]
熱硬化性樹脂による封止プロセスに用いる、[1]から[14]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム
[16]
半導体封止プロセスに用いる、[1]から[15]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[17]
繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる、[1]から[15]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[18]
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、[1]から[14]のいずれか一項に記載の半導体封止プロセス用離型フィルムを、前記離型層Aが前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記半導体封止プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。
[19]
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、[13]又は[14]に記載の半導体封止プロセス用離型フィルムを、前記離型層A’が前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記半導体封止プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプロセス用離型フィルムは、従来技術では実現できなかった高いレベルの離型性、皺の抑制、及び金型追従性を兼ね備えるので、これを用いることで、半導体チップ等を樹脂封止等して得られる成形品を容易に離型できるとともに、皺や欠けなどの外観不良のない成形品を、高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のプロセス用離型フィルムの一例を示す模式図である。
【
図2】本発明のプロセス用離型フィルムの他の例を示す模式図である。
【
図3】本発明のプロセス用離型フィルムを用いた樹脂封止半導体の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図4A】本発明のプロセス用離型フィルムを用いた樹脂封止半導体の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図4B】本発明のプロセス用離型フィルムを用いた樹脂封止半導体の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図5】
図4Aおよび
図4Bの樹脂封止半導体の製造方法で得られた樹脂封止半導体の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
プロセス用離型フィルム
本発明のプロセス用離型フィルムは、以下の4態様を含む。
(第1態様)
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、上記プロセス用離型フィルム。
(第2態様)
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下である、上記プロセス用離型フィルム。
(第3態様)
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’と、をこの順で含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層A、及び前記離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、上記プロセス用離型フィルム。
(第4態様)
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’と、をこの順で含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層A、及び前記離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下である、上記プロセス用離型フィルム。
【0013】
上記各態様から明らかな様に、本発明のプロセス用離型フィルム(以下、単に「離型フィルム」ともいう)は、成形品や金型に対する離型性を有する離型層A、及び所望により離型層A’、並びに該離型層を支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムである。
【0014】
本発明のプロセス用離型フィルムは、成形金型の内部で半導体素子等を樹脂封止するときに、成形金型の内面に配置される。このとき、離型フィルムの離型層A(離型層A’が存在する場合には離型層A’であってもよい)を、樹脂封止される半導体素子等(成形品)側に配置することが好ましい。本発明の離型フィルムを配置することで、樹脂封止された半導体素子等を、金型から容易に離型することができる。
離型層Aの水に対する接触角は、90°から130°であり、この様な接触角を有することにより離型層Aは濡れ性が低く、硬化した封止樹脂や金型表面に固着することなく、成形品を容易に離型することができる。
離型層Aの水に対する接触角は、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。
【0015】
前記の通り、離型層A(場合によっては離型層A’)は成形品側に配置されるので、樹脂封止工程における離型層A(場合によっては離型層A’)での皺の発生を抑制することが好ましい。発生した皺が成形品に転写されて、成形品の外観不良が生じる可能性が高いためである。
【0016】
本発明においては、上記目的を達成するために、プロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムとして、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに該離型層を支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムであって、その横(TD)方向の熱寸法変化率が特定の値を示す積層フィルムを用いる。
すなわち、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに該離型層を支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であるか、又は、そのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下である。さらに、前記積層フィルムは、TD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であってかつTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下であることがより好ましい。
上記積層フィルムのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であるか、又は、そのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下であることにより、樹脂封止工程等における離型層の皺の発生を有効に抑制することができる。プロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムとして横(TD)方向の熱寸法変化率が上記の特定の値を示すもの用いることで、離型層の皺の発生が抑制されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、比較的熱膨張/収縮の小さい積層フィルムを用いることにより、プロセス時の加熱/冷却による離型層A(又は離型層A’)の熱膨張/収縮が抑制されることと関連があるものと推測される。
【0017】
本発明のプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が2.5%以下であることが好ましく、2.0%以下であることより好ましく、1.5%以下であることが更に好ましくい。一方、積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が-5.0%以上であることが好ましい。
本発明のプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3.5%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、2.0%以下であることが更に好ましくい。一方、積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が-5.0%以上であることが好ましい。
【0018】
耐熱樹脂層Bとして、横(TD)方向の熱寸法変化率が上記の特定の値を示す樹脂層を用いることで、より効果的に離型層の皺の発生が抑制されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、比較的熱膨張/収縮の小さい耐熱樹脂層Bを用いることにより、プロセス時の加熱/冷却による離型層A(又は離型層A’)の熱膨張/収縮が抑制されることと関連があるものと推測される。
【0019】
離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに該離型層を支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムである本発明のプロセス用離型フィルムは、そのTD方向(横方向)の熱寸法変化率とMD方向(フィルムの製造時の長手方向。以下、「縦方向」ともいう)の熱寸法変化率の和が特定の値以下であることが好ましい。
すなわち、上記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和は、6%以下であることが好ましく、一方、前記積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が-5.0%以上であることが好ましい。
離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下であることにより、金型内面に装着された際の皺の発生を一層有効に抑制することができる。
【0020】
また、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和は、7%以下であることが好ましく、一方、前記積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が-5.0%以上であることが好ましい。
上記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率の和が7%以下であることにより、金型内面に装着された際の皺の発生を更に有効に抑制することができる。
【0021】
離型層A
本発明のプロセス用離型フィルムを構成する離型層Aは、水に対する接触角が、90°から130°であり、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。成形品の離型性に優れること、入手の容易さなどから、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
離型層Aに用いることができるフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位を含む樹脂であってもよい。テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよいが、他のオレフィンとの共重合体であってもよい。他のオレフィンの例には、エチレンが含まれる。モノマー構成単位としてテトラフルオロエチレンとエチレンとを含む共重合体は好ましい一例であり、この様な共重合体においては、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位の割合が55~100質量%であり、エチレンに由来する構成単位の割合が0~45質量%であることが好ましい。
【0023】
離型層Aに用いることができる4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であってもよく、また4-メチル-1-ペンテンと、それ以外の炭素原子数2~20のオレフィン(以下「炭素原子数2~20のオレフィン」という)との共重合体であってもよい。
【0024】
4-メチル-1-ペンテンと、炭素原子数2~20のオレフィンとの共重合体の場合、4-メチル-1-ペンテンと共重合される炭素原子数2~20のオレフィンは、4-メ
チル-1-ペンテンに可とう性を付与し得る。炭素原子数2~20のオレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が含まれる。これらのオレフィンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0025】
4-メチル-1-ペンテンと、炭素原子数2~20のオレフィンとの共重合体の場合、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位の割合が96~99質量%であり、それ以外の炭素原子数2~20のオレフィンに由来する構成単位の割合が1~4質量%であることが好ましい。炭素原子数2~20のオレフィン由来の構成単位の含有量が少なくすることで、共重合体を硬く、すなわち貯蔵弾性率E’が高くすることができ、封止工程等における皺が発生の抑制に有利である。一方、炭素原子数2~20のオレフィン由来の構成単位の含有量が多くすることで、共重合体を軟らかく、すなわち貯蔵弾性率E’を低くすることができ、金型追従性を向上させるのに有利である。
【0026】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、当業者において公知の方法で製造されうる。例えば、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン系触媒等の公知の触媒を用いた方法により製造されうる。4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、結晶性の高い(共)重合体であることが好ましい。結晶性の共重合体としては、アイソタクチック構造を有する共重合体、シンジオタクチック構造を有する共重合体のいずれであってもよいが、特にアイソタクチック構造を有する共重合体であることが物性の点からも好ましく、また入手も容易である。さらに、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、フィルム状に成形でき、金型成形時の温度や圧力等に耐える強度を有していれば、立体規則性や分子量も、特に制限されない。4-メチル-1-ペンテン共重合体は、例えば、三井化学株式会社製TPX(登録商標)等、市販の共重合体であってもよい。
【0027】
離型層Aに用いることができるポリスチレン系樹脂には、スチレンの単独重合体及び共重合体が包含され、その重合体中に含まれるスチレン由来の構造単位は少なくとも60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上である。
ポリスチレン系樹脂は、アイソタクチックポリスチレンであってもシンジオタクチックポリスチレンであってもよいが、透明性、入手の容易さなどの観点からはアイソタクチックポリスチレンが好ましく、離型性、耐熱性などの観点からは、シンジオタクチックポリスチレンが好ましい。ポリスチレンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
離型層Aは、成形時の金型の温度(典型的には120~180℃)に絶え得る耐熱性を有することが好ましい。かかる観点から、離型層Aとしては、結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましく、当該結晶性樹脂の融点は190℃以上であることが好ましく、200℃以上300℃以下がより好ましい。
離型層Aに結晶性をもたらすため、例えばフッ素樹脂においてはテトラフルオロエチレンから導かれる構成単位を少なくとも含むことが好ましく、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体においては4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を少なくとも含むことが好ましく、ポリスチレン系樹脂においてはシンジオタクチックポリスチレンを少なくとも含むことが好ましい。離型層Aを構成する樹脂に結晶成分が含まれることにより、樹脂封止工程等において皺が発生し難く、皺が成形品に転写されて外観不良を生じることを抑制するのに好適である。
【0029】
離型層Aを構成する上記結晶性成分を含む樹脂は、JISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量が15J/g以上、60J/g以下であることが好ましく、20J/g以上、50J/g以下であることがより好ましい。15J/g以上であると、樹脂封止工程等での熱プレス成形に耐え得る耐熱性及び離型性をより効果的に発現することが可能であることに加え、寸法変化率も抑制することができるため、皺の発生も防止することができる。一方、前記結晶融解熱量が60J/g以下であると、離型層Aが適切な硬度となるため、樹脂封止工程等においてフィルムの金型への十分な追随性を得ることができるため、フィルムの破損のおそれもない。
【0030】
離型層Aは、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン共重合体、及び/又はポリスチレン系樹脂の他に、さらに他の樹脂を含んでもよい。この場合、他の樹脂の硬度が比較的高いことが好ましい。他の樹脂の例には、ポリアミド-6、ポリアミド-66、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートが含まれる。このように、離型層Aが、例えば柔らかい樹脂を多く含む場合(例えば、4-メチル-1-ペンテン共重合体において炭素原子数2~20のオレフィンを多く含む場合)でも、硬度の比較的高い樹脂をさらに含むことで、離型層Aを硬くすることができ、封止工程等における皺が発生の抑制に有利である。
【0031】
これらの他の樹脂の含有量は、離型層Aを構成する樹脂成分に対して例えば3~30質量%であることが好ましい。他の樹脂の含有量を3質量以上とすることで、添加による効果を実質的なものとすることができ、30質量%以下とすることで、金型や成形品に対する離型性を維持することができる。
【0032】
また離型層Aは、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及び/又はポリスチレン系樹脂に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、耐熱安定剤、耐候安定剤、発錆防止剤、耐銅害安定剤、帯電防止剤等、フィルム用樹脂に一般的に配合される公知の添加剤を含んでもよい。これらの添加剤の含有量は、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン共重合体、及び/又はポリスチレン系樹脂100重量部に対して、例えば0.0001~10重量部とすることができる。
【0033】
離型層Aの厚みは、成形品に対する離型性が十分であれば、特に制限はないが、通常1~50μmであり、好ましくは5~30μmである。
【0034】
離型層Aの表面は、必要に応じて凹凸形状を有していてもよく、それにより離型性を向
上させることができる。離型層Aの表面に凹凸を付与する方法は、特に制限はないが、エ
ンボス加工等の一般的な方法が採用できる。
【0035】
離型層A’
本発明のプロセス用離型フィルムは、離型層A及び耐熱樹脂層Bに加えて、更に離型層A’を有していてもよい。すなわち、本発明のプロセス用離型フィルムは、離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’とをこの順で含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであってもよい。
本発明のプロセス用離型フィルムを構成してもよい離型層A’の水に対する接触角は、90°から130°であり、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。そして、離型層A’の好ましい材質、構成、物性等は、上記において離型層Aについて説明したものと同様である。
【0036】
プロセス用離型フィルムが、離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’とをこの順で含む積層フィルムである場合の離型層Aと離型層A’とは同一の構成の層であってもよいし、異なる構成の層であってもよい。
反りの防止や、いずれの面も同様の離型性を有することによる取り扱いの容易さ等の観点からは、離型層Aと離型層A’とは同一または略同一の構成であることが好ましく、離型層Aと離型層A’とを使用するプロセスとの関係でそれぞれ最適に設計する観点、例えば、離型層Aを金型からの離型性に優れたものとし、離型層A’を成形物からの剥離性に優れたものとする等の観点からは、離型層Aと離型層A’とを異なる構成のものとすることが好ましい。
離型層Aと離型層A’とを異なる構成のものとする場合には、離型層Aと離型層A’とを同一の材料であって厚み等の構成が異なるものとしてもよいし、材料もそれ以外の構成も異なるものとしてもよい。
【0037】
耐熱樹脂層B
本発明のプロセス用離型フィルムを構成する耐熱樹脂層Bは、離型層A(及び場合により離型層A’)を支持し、かつ金型温度等による皺発生を抑制する機能を有する。
本発明のプロセス用離型フィルムにおいては、耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であるか、又は耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3%以下であることが好ましい。さらに、耐熱樹脂層Bは、その横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であってかつ横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3%以下であることがより好ましい。
耐熱樹脂層Bには、無延伸フィルムも含め任意の樹脂層を用いることができるが、延伸フィルムを含んでなることが特に好ましい。
延伸フィルムは、製造のプロセスにおける延伸の影響で、熱膨張率が低いか又は負となる傾向があり、横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であるか、又は耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率が3%以下であるという特性を実現することが比較的容易であるので、耐熱樹脂層Bとして好適に使用することができる。
耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、一方、-10%以上であることが好ましい。
耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から170℃までの熱寸法変化率は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、一方、-10%以上であることが好ましい。
【0038】
上記延伸フィルムは、一軸延伸フィルムであってもよく、二軸延伸フィルムであってもよい。一軸延伸フィルムである場合には、縦延伸、横延伸のいずれであっても良いが、少なくとも横(TD)方向に延伸が行われたものであることが望ましい。
上記延伸フィルムを得るための方法、装置にも特に限定は無く、当業界において公知の方法で延伸を行えばよい。例えば、加熱ロールやテンター式延伸機で延伸することができる。
【0039】
上記延伸フィルムとしては、延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリアミドフィルム、及び延伸ポリプロピレンフィルムからなる群より選ばれる延伸フィルムを使用することが好ましい。これらの延伸フィルムは、延伸により、横(TD)方向の熱膨張率を低下させ、又は負とすることが比較的容易であり、機械的物性が本発明の用途に適したものであり、また低コストで入手が比較的容易であるため、耐熱樹脂層Bにおける延伸フィルムとして特に好適である。
【0040】
延伸ポリエステルフィルムとしては、延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルムが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが特に好ましい。
延伸ポリアミドフィルムを構成するポリアミドには特に限定は無いが、ポリアミド-6、ポリアミド-66等を好ましく用いることができる。
延伸ポリプロピレンフィルムとしては、一軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等を好ましく用いることができる。
延伸倍率には特に限定はなく、熱寸法変化率を適切に制御し、好適な機械的性質を実現するために適切な値を適宜設定すれば良いが、例えば延伸ポリエステルフィルムの場合は、縦方向、横方向ともに2.7~8.0倍の範囲であることが好ましく、延伸ポリアミドフィルムの場合は、縦方向、横方向ともに2.7~5.0倍の範囲であることが好ましく、延伸ポリプロピレンフィルムの場合は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの場合は、縦方向、横方向ともに5.0~10.0倍の範囲であることが好ましく、一軸延伸ポリプロピレンフィルムの場合は、縦方向に1.5~10.0倍の範囲であることが好ましい。
【0041】
耐熱樹脂層Bは、フィルムの強度や、その熱寸法変化率を適切な範囲に制御する観点から、成形時の金型の温度(典型的には120~180℃)に絶え得る耐熱性を有することが好ましい。かかる観点から、耐熱樹脂層Bは、結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましく、当該結晶性樹脂の融点は125℃以上であることが好ましく、融点が155℃以上300℃以下であることがより好ましく、185以上210℃以下であることが更に好ましく、185以上205℃以下であることが特に好ましい。
【0042】
上述の様に、耐熱樹脂層Bは結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましい。耐熱樹脂層Bに含有させる結晶性樹脂として、例えばポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂等の結晶性樹脂をその一部または全部に用いることができる。具体的にはポリエステル樹脂においてはポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂においてはポリアミド6やポリアミド66、ポリプロピレン樹脂においてはアイソタクチックポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0043】
耐熱樹脂層Bに前記結晶性樹脂の結晶成分を含ませることにより、樹脂封止工程等において皺が発生し難く、皺が成形品に転写されて外観不良を生じることを抑制するのにより有利となる。
耐熱樹脂層Bを構成する樹脂は、JISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量が20J/g以上、100J/g以下であることが好ましく、25J/g以上、65J/g以下であることがより好ましく、25J/g以上、55J/g以下であることがより好ましく、28J/g以上、50J/g以下であることがより好ましく、28J/g以上、40J/g以下であることがより好ましく、28J/g以上、35J/g以下であることがさらに好ましい。20J/g以上であると、樹脂封止工程等での熱プレス成形に耐え得る耐熱性及び離型性を効果的に発現させることができ、また寸法変化率も僅少に抑制することができるため、皺の発生も防止することができる。一方、前記結晶融解熱量が100J/g以下であることにより、耐熱樹脂層Bに適度な硬度を付与することができるため樹脂封止工程等においてフィルムの十分な金型への追随性が確保することができることに加えフィルムが破損しやすくなるおそれもない。なお、本実施形態において、結晶融解熱量とは、JISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)による測定での第1回昇温工程で得られた縦軸の熱量(J/g)と横軸の温度(℃)との関係を示すチャート図において、120℃以上でピークを有するピーク面積の和によって求められる数値をいう。
耐熱樹脂層Bの結晶融解熱量は、フィルム製造時の加熱、冷却の条件や、延伸の条件を適宜設定することで調節することができる。
【0044】
耐熱樹脂層Bの厚みは、フィルム強度を確保できれば、特に制限はないが、通常1~1
00μm、好ましくは5~50μmである。
【0045】
それ以外の層
本発明のプロセス用離型フィルムは、本発明の目的に反しない限りにおいて、離型層A、耐熱樹脂層B及び離型層A’以外の層を有していてもよい。例えば、離型層A(又は離型層A’)と耐熱樹脂層Bとの間に、必要に応じて接着層を有してもよい。接着層に用いる材料は、離型層Aと耐熱樹脂層Bとを強固に接着でき、樹脂封止工程や離型工程においても剥離しないものであれば、特に制限されない。
【0046】
例えば、離型層A(又は離型層A’)が4-メチル-1-ペンテン共重合体を含む場合は、接着層は、不飽和カルボン酸等によりグラフト変性された変性4-メチル-1-ペンテン系共重合体樹脂、4-メチル-1-ペンテン系共重合体とα-オレフィン系共重合体とからなるオレフィン系接着樹脂等であることが好ましい。離型層A(又は離型層A’)がフッ素樹脂を含む場合は、接着層は、ポリエステル系、アクリル系、フッ素ゴム系等の粘着剤であることが好ましい。接着層の厚みは、離型層A(又は離型層A’)と耐熱樹脂層Bとの接着性を向上できれば、特に制限はないが、例えば0.5~10μmである。
【0047】
本発明のプロセス用離型フィルムの総厚みには特に制限は無いが、例えば10~300μmであることが好ましく、30~150μmであることがより好ましい。離型フィルムの総厚みが上記範囲にあると、巻物として使用する際のハンドリング性が良好であるとともに、フィルムの廃棄量が少ないため好ましい。
【0048】
以下、本発明のプロセス用離型フィルムの好ましい実施形態について更に具体的に説明する。
図1は、3層構造のプロセス用離型フィルムの一例を示す模式図である。
図1に示されるように、離型フィルム10は、耐熱樹脂層12と、その片面に接着層14を介して形成された離型層16とを有する。
【0049】
離型層16は前述の離型層Aであり、耐熱樹脂層12は前述の耐熱樹脂層Bであり、接着層14は前述の接着層である。離型層16は、封止プロセスにおいて封止樹脂と接する側に配置されることが好ましく;耐熱樹脂層12は、封止プロセスにおいて金型の内面と接する側に配置されることが好ましい。
【0050】
図2は、5層構造のプロセス用離型フィルムの一例を示す模式図である。
図1と同一の機能を有する部材には同一の符号を付する。
図2に示されるように、離型フィルム20は、耐熱性樹脂層12と、その両面に接着層14を介して形成された離型層16Aおよび離型層16Bとを有する。離型層16Aは前述の離型層Aであり、耐熱樹脂層12は前述の耐熱樹脂層Bであり、離型層16Bは前述の離型層A’であり、接着層14はそれぞれ前述の接着層である。
【0051】
離型層16Aおよび16Bの組成は、互いに同一でも異なってもよい。離型層16Aおよび16Bの厚みも、互いに同一でも異なってもよい。ただし、離型層16Aおよび16Bが互いに同一の組成および厚みを有すると、対称な構造となり、離型フィルム自体の反りが生じ難くなるため好ましい。特に、本発明の離型フィルムには、封止プロセスにおける加熱により応力が生じることがあるので、反りを抑制することが好ましい。このように、離型層16Aおよび16Bが、耐熱樹脂層12の両面に形成されていると、成形品および金型内面のいずれおいても、良好な離型性が得られるため好ましい。
【0052】
プロセス用離型フィルムの製造方法
本発明のプロセス用離型フィルムは、任意の方法で製造されうる。例えば、1)離型層Aと耐熱樹脂層Bを共押出成形して積層することにより、プロセス用離型フィルムを製造する方法(共押出し形成法)、2)耐熱樹脂層Bとなるフィルム上に、離型層Aや接着層となる樹脂の溶融樹脂を塗布・乾燥したり、または離型層Aや接着層となる樹脂を溶剤に溶解させた樹脂溶液を塗布・乾燥したりして、プロセス用離型フィルムを製造する方法(塗布法)、3)予め離型層Aとなるフィルムと、耐熱樹脂層Bとなるフィルムとを製造しておき、これらのフィルムを積層(ラミネート)することにより、プロセス用離型フィルムを製造する方法(ラミネート法)などがある。
【0053】
3)の方法において、各樹脂フィルムを積層する方法としては、公知の種々のラミネート方法が採用でき、例えば押出ラミネート法、ドライラミネート法、熱ラミネート法等が挙げられる。
ドライラミネート法では、接着剤を用いて各樹脂フィルムを積層する。接着剤としては、ドライラミネート用の接着剤として公知のものを使用できる。例えばポリ酢酸ビニル系接着剤;アクリル酸エステル(アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルエステル等)の単独重合体もしくは共重合体、またはアクリル酸エステルと他の単量体(メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等)との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤;シアノアクリレ-ト系接着剤;エチレンと他の単量体(酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等)との共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤;セルロ-ス系接着剤;ポリエステル系接着剤;ポリアミド系接着剤;ポリイミド系接着剤;尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤;フェノ-ル樹脂系接着剤;エポキシ系接着剤;ポリオール(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等)とイソシアネートおよび/またはイソシアヌレートと架橋させるポリウレタン系接着剤;反応型(メタ)アクリル系接着剤;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤;シリコーン系接着剤;アルカリ金属シリケ-ト、低融点ガラス等からなる無機系接着剤;その他等の接着剤を使用できる。3)の方法で積層する樹脂フィルムは、市販のものを用いてもよく、公
知の製造方法により製造したものを用いてもよい。樹脂フィルムには、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、プライマー塗工処理等の表面処理が施されてもよい。樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法を利用できる。
【0054】
1)共押出し成形法は、離型層Aとなる樹脂層と耐熱樹脂層Bとなる樹脂層との間に、異物が噛み込む等による欠陥や、離型フィルムの反りが生じ難い点で好ましい。3)ラミネート法は、耐熱樹脂層Bに延伸フィルムを用いる場合に好適な製造方法である。この場合は、必要に応じてフィルム同士の界面に適切な接着層を形成することが好ましい。フィルム同士の接着性を高める上で、フィルム同士の界面に、必要に応じてコロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。
【0055】
プロセス用離型フィルムは、必要に応じて1軸または2軸延伸されていてもよく、それによりフィルムの膜強度を高めることができる。
【0056】
上記2)塗布法における塗布手段は、特に限定されないが、例えばロールコータ、ダイコータ、スプレーコータ等の各種コータが用いられる。溶融押出手段は、特に限定されないが、例えばT型ダイやインフレーション型ダイを有する押出機などが用いられる。
【0057】
製造プロセス
本発明のプロセス用離型フィルムは、金型内に半導体チップ等を配置して樹脂を注入成形する際に、半導体チップ等と金型内面との間に配置して使用することができる。本発明のプロセス用離型フィルムを用いることで、金型からの離型不良、バリの発生等を効果的に防止することができる。
上記製造プロセスに用いる樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、当該技術分野においては熱硬化性樹脂が広く用いられており、特にエポキシ系の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
上記製造プロセスとしては、半導体チップの封止が最も代表的であるが、これに限定されるものではなく、本発明は、繊維強化プラスチック成形プロセス、プラスチックレンズ成形プロセス等にも適用することができる。
【0058】
図3、
図4Aおよび
図4Bは、本発明の離型フィルムを用いた樹脂封止半導体の製造方法の一例を示す模式図である。
図3aに示すように、本発明の離型フィルム1を、ロール状の巻物からロール1-2およびロール1-3により、成形金型2内に供給する。次いで、離型フィルム1を上型2の内面に配置する。必要に応じて、上型2内面を真空引きして、離型フィルム1を上型2内面に密着させてもよい。モールディング成形装置の下金型5に、基板上に配置した半導体チップ6が配置されており、その半導体チップ6上に封止樹脂を配するか、又は半導体チップ6を覆うように液状封止樹脂を注入することで、排気吸引され密着された離型フィルム1を配置した上金型2と下金5型との間に封止樹脂4が収容される。次に
図3bに示すように、上金型2と下金型5とを、本発明の離型フィルム1を介して型閉じし、封止樹脂4を硬化させる。
【0059】
型閉め硬化により、
図3cに示すように封止樹脂4 が金型内に流動化し、封止樹脂4 が空間部に流入し半導体チップ6の側面周囲を囲むようにして充填され、封止された半導体チップ6を上金型2と下金型5とが型開きして取り出す。型開きし、成形品を取り出した後、離型フィルム1を複数回繰り返して利用するか、新たな離型フィルムを供給し、次の、樹脂モールディング成形に付される。
【0060】
本発明の離型フィルムを上金型に密着させ、金型と封止樹脂との間に介在させ、樹脂モ
ールドすることにより金型への樹脂の付着を防ぎ、金型の樹脂モールド面を汚さず、かつ
成形品を容易に離型させることができる。
なお、離型フィルムは一回の樹脂モールド操作ごとに新たに供給して樹脂モールドする
こともできるし複数回の樹脂モールド操作ごとに新たに供給して樹脂モールドすることも
できる。
【0061】
封止樹脂としては、液状樹脂であっても、常温で固体状の樹脂であってもよいが、樹脂封止時液状となるものなどの封止材を適宜採用できる。封止樹脂材料として、具体的には、主としてエポキシ系(ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールエポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)が用いられ、エポキシ樹脂以外の封止樹脂として、ポリイミド系樹脂(ビスマレイミド系)、シリコーン系樹脂(熱硬化付加型)など封止樹脂として通常使用されているものを用いることができる。また、樹脂封止条件としては、使用する封止樹脂により異なるが、例えば硬化温度120℃~180℃、成形圧力10~50kg/cm2、硬化時間1~60分の範囲で適宜設定することができる。
【0062】
離型フィルム1を成形金型8の内面に配置する工程と、半導体チップ6を成形金型8内に配置する工程の前後は、特に限定されず、同時に行ってもよいし、半導体チップ6を配置した後、離型フィルム1を配置してもよいし、離型フィルム1を配置した後、半導体チップ6を配置してもよい。
【0063】
このように、離型フィルム1は、離型性の高い離型層A(及び所望により離型層A’)を有するため、半導体パッケージ4-2を容易に離型することができる。また、離型フィルム1は、適度な柔軟性を有するので、金型形状に対する追従性に優れながらも、成形金型8の熱によって皺になり難い。このため、封止された半導体パッケージ4-2の樹脂封止面に皺が転写されたり、樹脂が充填されない部分(樹脂欠け)が生じたりすることなく、外観の良好な封止された半導体パッケージ4-2を得ることができる。
【0064】
また、
図3で示したような、固体の封止樹脂材料4を加圧加熱する圧縮成型法に限らず、後述の様に流動状態の封止樹脂材料を注入するトランスファーモールド法を採用してもよい。
【0065】
図4Aおよび
図4Bは、本発明の離型フィルムを用いた樹脂封止半導体の製造方法の一例であるトランスファーモールド法を示す模式図である。
【0066】
図4Aに示されるように、本発明の離型フィルム22を、ロール状の巻物からロール24およびロール26により、成形金型28内に供給する(工程a)。次いで、離型フィルム22を上型30の内面30Aに配置する(工程b)。必要に応じて、上型内面30Aを真空引きして、離型フィルム22を上型内面30Aに密着させてもよい。次いで、成形金型28内に、樹脂封止すべき半導体チップ34(基板34Aに固定された半導体チップ34)を配置するとともに、封止樹脂材料36をセットし(工程c)、型締めする(工程d)。
【0067】
次いで、
図4Bに示されるように、所定の加熱および加圧条件下、成形金型28内に封止樹脂材料36を注入する(工程e)。このときの成形金型28の温度(成形温度)は、例えば165~185℃であり、成形圧力は、例えば7~12MPaであり、成形時間は、例えば90秒程度である。そして、一定時間保持した後、上型30と下型32を開き、樹脂封止された半導体パッケージ40や離型フィルム22、を同時にまたは順次離型する(工程f)。
【0068】
そして、
図5に示されるように、得られた半導体パッケージ40のうち、余分な樹脂部分42を除去することで、所望の半導体パッケージ44を得ることができる。離型フィルム22は、そのまま他の半導体チップの樹脂封止に使用してもよいが、成形が1回終了するごとにロールを操作してフィルムを送り、新たに離型フィルム22を成形金型28に供給することが好ましい。
【0069】
離型フィルム22を成形金型28の内面に配置する工程と、半導体チップ34を成形金型28内に配置する工程の前後は、特に限定されず、同時に行ってもよいし、半導体チップ34を配置した後、離型フィルム22を配置してもよいし、離型フィルム22を配置した後、半導体チップ34を配置してもよい。
【0070】
このように、離型フィルム22は、離型性の高い離型層A(及び所望により離型層A’)を有するため、半導体パッケージ40を容易に離型することができる。また、離型フィルム22は、適度な柔軟性を有するので、金型形状に対する追従性に優れながらも、成形金型28の熱によって皺になり難い。このため、半導体パッケージ40の樹脂封止面に皺が転写されたり、樹脂が充填されない部分(樹脂欠け)が生じたりすることなく、外観の良好な半導体パッケージ40を得ることができる。
【0071】
本発明の離型フィルムは、半導体素子を樹脂封止する工程に限らず、成型金型を用いて
各種成形品を成形および離型する工程、例えば繊維強化プラスチック成形および離型工程、プラスチックレンズ成形および離型工程等においても好ましく使用できる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定
されるものではない。
【0073】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(熱寸法変化率)
フィルムサンプルをフィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ長さ20mm、幅4mmに切り出し、TAインスツルメンツ社製TMA(熱機械分析装置、製品名:Q400)を用い、チャック間距離8mmにて0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から120℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させ、それぞれの方向の寸法変化を測定し、下記式(1)により寸法変化率を算出した。
熱寸法変化率(%)(23→120℃) = {[(L2-L1)/L1]×100}
・・・(1)
L1:23℃時のサンプル長(mm)
L2:120℃時のサンプル長(mm)
同様に、23℃から170℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させ、それぞれの方向の寸法変化を測定し、下記式(2)により寸法変化率を算出した。
熱寸法変化率(%)(23→170℃) = {[(L3-L1)/L1]×100}
・・・(2)
L1:23℃時のサンプル長(mm)
L3:170℃時のサンプル長(mm)
【0074】
水に対する接触角(水接触角)
JIS R 3 2 5 7 に準拠して、接触角測定器(Kyowa Inter face Science社製、FACECA-W)を用いて離型層Aの表面の水接触角を測定した。
【0075】
(融点(Tm)、結晶融解熱量)
示差走査熱量計(DSC)としてティー・エイ・インスツルメント社製Q100を用い、重合体試料約5mgを精秤し、JISK7121に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、25℃から加熱速度:10℃/分で280℃まで昇温して熱融解曲線を測定し、得られた熱融解曲線から、試料の融点(Tm)及び結晶融解熱量を求めた。
【0076】
(離型性)
各実施例/比較例で作製したプロセス用離型フィルムを、
図3に示されるように、上型と下型との間に10Nの張力を印加した状態で配置した後、上型のパーティング面に真空吸着させた。次いで、半導体チップを覆うように基板上に封止樹脂を充填後、基板に固定された半導体チップを下型に配置し、型締めした。このとき、成形金型の温度(成形温度)を120℃、成形圧力を10MPa、成形時間を400秒とした。そして、
図3cに示されるように、半導体チップを封止樹脂で封止した後、樹脂封止された半導体チップ(半導体パッケージ)を離型フィルムから離型した。
離型フィルムの離型性を、以下の基準で評価した。
○:離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる。
△:離型フィルムは自然には剥がれないが、手で引っ張ると(張力を加えると)簡単に剥がれる。
×:離型フィルムが、半導体パッケージの樹脂封止面に密着しており、手では剥がせない。
【0077】
(皺)
上記工程で離型を行った後の、離型フィルム、および半導体パッケージの樹脂封止面の皺の状態を、以下の基準で評価した。
○:離型フィルムおよび半導体パッケージのいずれにも皺が全くない。
△:離型フィルムにはわずかに皺があるが、半導体パッケージへの皺の転写はない。
×:離型フィルムはもちろん、半導体パッケージにも多数の皺あり。
【0078】
(金型追従性)
上記工程で離型を行った際の離型フィルムの金型追従性を、以下の基準で評価した。
○:半導体パッケージに、樹脂欠け(樹脂が充填されない部分)が全くない。
△:半導体パッケージの端部に、樹脂欠けが僅かにある(ただし皺による欠けは除く) ×:半導体パッケージの端部に、樹脂欠けが多くある(ただし皺による欠けは除く)
【0079】
[実施例1]
耐熱樹脂層Bとして、膜厚16μmの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、製品名:ルミラーF865)を使用した。当該二軸延伸PETフィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で-1.6%、横(TD)方向で-1.2%であった。また、当該二軸延伸PETフィルムの融点は、187℃であり、結晶融解熱量は、30.6J/gであった。
【0080】
離型層A及びA’として、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムを使用した。具体的には、三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022)」を270℃で溶融押出して、T型ダイのスリット幅を調整することにより、厚み15μmの無延伸フィルムを成膜したものを使用した。
無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムは、一方のフィルム表面が、JIS R3257に基づく水接触角が30°以上の場合、30以下となるように、接着剤による接着性向上の観点からコロナ処理を施した。
当該4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で6.5%、横(TD)方向で3.1%であった。
【0081】
(接着剤)
各フィルムを貼り合せるドライラミ工程で使用する接着剤としては、以下のウレタン系接着剤Aを用いた。
[ウレタン系接着剤A]
主剤:タケラックA-616(三井化学社製)。硬化剤:タケネートA-65(三井化学社製)。主剤と硬化剤とを、質量比(主剤:硬化剤)が16:1となるように混合し、希釈剤として酢酸エチルを用いた。
【0082】
(離型フィルムの製造)
二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの一方の面に、グラビアコートでウレタン系接着剤Aを1.5g/m2で塗工し、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムのコロナ処理面をドライラミネートにて貼り合わせ後、続いてこのラミネートフィルムの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム面の側に、ウレタン系接着剤Aを1.5g/m2で塗工し、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムのコロナ処理面をドライラミネートにて貼り合わせて、5層構造(離型層A/接着層/耐熱樹脂層B/接着層/離型層A’)のプロセス用離型フィルムを得た。
ドライラミネート条件は、基材幅900mm、搬送速度30m/分、乾燥温度50~60℃、ラミネートロール温度50℃、ロール圧力3.0MPaとした。
【0083】
当該プロセス用離型フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で2.1%、横(TD)方向で1.5%であった。
離型性、皺、及び金型追従性の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、離型フィルムおよび半導体パッケージのいずれにも皺が全くなく、すなわち皺が十分に抑制され、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追従性を示した。すなわち、実施例1のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好なプロセス用離型フィルムであった。
【0084】
[実施例2~12]
表1に示す組み合わせで表1記載の各フィルムを離型層A及びA’並びに耐熱樹脂層Bとして用いた他は、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。結果を表1に示す。
一部に皺の抑制、又は金型追従性が実施例1には及ばないものもあったが、いずれの実施例も離型性、皺の抑制、及び金型追従性が高いレベルでバランスした良好なプロセス用離型フィルムであった
【0085】
なお、表に記載の各フィルムの詳細は、以下のとおりである。
(A1)無延伸4MP-1(TPX)フィルム
三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022)を用いて厚み15μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:229℃、結晶融解熱量:21.7J/g)
(A2)無延伸4MP-1(TPX)フィルム
三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:DX818)を用いて厚み15μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:235℃、結晶融解熱量:28.1J/g)
(A3)無延伸4MP-1(TPX)フィルム
三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022)を用いて厚み50μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:229℃、結晶融解熱量:21.7J/g)
(A4)無延伸4MP-1(TPX)フィルム
三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:DX818)を用いて厚み50μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:235℃、結晶融解熱量:28.1J/g)
(A5)フッ素樹脂フィルム
膜厚25μmのETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)フィルム(旭硝子株式会社製、製品名:アフレックス25N)(融点:256℃、結晶融解熱量:33.7J/g)
(A6)ポリスチレン系樹脂フィルム
膜厚50μmのポリスチレン系フィルム(倉敷紡績株式会社製、製品名:オイディスCA-F)(融点:253℃、結晶融解熱量:19.2J/g)
(B1)2軸延伸PETフィルム
膜厚16μmの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、製品名:ルミラーF865)(融点:187℃、結晶融解熱量:30.6J/g)
(B2)2軸延伸PETフィルム
膜厚12μmの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、製品名:ルミラーS10)(融点:258℃、結晶融解熱量:39.4J/g)
(B3)2軸延伸ナイロンフィルム
膜厚15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、製品名:ボニールRX)(融点:212℃、結晶融解熱量:53.1J/g)
(B4)2軸延伸ナイロンフィルム
膜厚15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(出光ユニテック株式会社製、製品名:ユニロンS330)(融点:221℃、結晶融解熱量:60.3J/g)
(B5)2軸延伸ポリプロピレンフィルム
膜厚20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、製品名:U-2)(融点:160℃、結晶融解熱量:93.3J/g)
(B6)無延伸ナイロンフィルム
膜厚20μmの無延伸ナイロンフィルム(三菱樹脂株式会社製、製品名:ダイナミロンC)(融点:220℃、結晶融解熱量:39.4J/g)
(B7)2軸延伸PETフィルム
膜厚25μmの2軸延伸PETフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、製品名:FT3PE)(融点:214℃、結晶融解熱量:40.3J/g)
(B8)無延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム
三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂(銘柄名:5020)を用いて厚み20μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:223℃、結晶融解熱量:49.8J/g)
(B9)無延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム
三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂(銘柄名:5505S)を用いて厚み20μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:219℃、結晶融解熱量:48.3J/g)
(B10)無延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム
三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂(銘柄名:5020)を用いて厚み50μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:223℃、結晶融解熱量:49.8J/g)
(B11)無延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム
三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂(銘柄名:5505S)を用いて厚み50μmの無延伸フィルムを成膜したもの。(融点:219℃、結晶融解熱量:48.3J/g)
【0086】
[比較例1~4]
表1に示すフィルムA3、A4、B10、及びB11を、それぞれ単独でプロセス用離型フィルムとして使用して、実施例1と同様にして封止、離型を行い、プロセス用離型フィルムの特性を評価した。
いずれの比較例も、総合的に実施例には及ばない性能に留まり、特に皺の発生を抑制することができなかった。
【0087】
【0088】
[実施例13~20]
表2に示す組み合わせで表2記載の各フィルムを離型層A及びA’並びに耐熱樹脂層Bとした離型フィルムを用いて、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。
図4に示されるように、離型フィルムを上型と下型との間に20Nの張力を印加した状態で配置した後、上型のパーティング面に真空吸着させた。次いで、半導体チップを覆うように基板上に封止樹脂を充填後、基板に固定された半導体チップを下型に配置し、型締めした。このとき、成形金型の温度(成形温度)を170℃、成形圧力を10MPa、成形時間を100秒とした。そして、
図3cに示されるように、半導体チップを封止樹脂で封止した後、樹脂封止された半導体チップ(半導体パッケージ)を離型フィルムから離型した。結果を表2に示す。
一部に金型追従性が実施例1には及ばないものもあったが、いずれの実施例も離型性、皺の抑制、及び金型追従性が高いレベルでバランスした良好なプロセス用離型フィルムであり、特に実施例11、及び実施例13から15は、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好なプロセス用離型フィルムであった。
【0089】
[比較例5~7]
表2に示す組み合わせで表2記載の各フィルムを離型層A及びA’並びに耐熱樹脂層Bとして用いたこと以外は、実施例11から16と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。結果を表2に示す。
離型性、及び金型追従性は実施例と同様に良好であったが、皺の発生を抑制することができなかった。
【0090】
[比較例8~11]
表2に示すフィルムA1、A2、B10、及びB11を、それぞれ単独でプロセス用離型フィルムとして使用して、実施例11から16と同様にして封止、離型を行い、プロセス用離型フィルムの特性を評価した。
いずれの比較例も、総合的に各実施例には及ばない性能に留まり、特に皺の発生を抑制することができなかった。
【0091】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のプロセス用離型フィルムは、従来技術では実現できなかった高いレベルの離型性、皺の抑制、及び金型追従性を兼ね備えるので、これを用いることで、半導体チップ等を樹脂封止等して得られる成形品を容易に離型できるとともに、皺や欠けなどの外観不良のない成形品を、高い生産性で製造することができるという実用上高い価値を有する技術的効果をもたらすものであり、半導体プロセス産業をはじめとする産業の各分野において、高い利用可能性を有する。
また、本発明のプロセス用離型フィルムは、半導体パッケージに限らず、繊維強化プラスチック成形プロセス、プラスチックレンズ成形プロセス等における種々の金型成形にも用いることができるので、半導体産業以外の金型成形を行う産業の各分野においても、高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0093】
1、1-2、1-3: 離型フィルム
2: 上金型
3: 吸引口
4: 封止樹脂
4-2:半導体パッケージ
5: 下金型
6: 半導体チップ
7: 基板
8: 成形金型
10、20、22: 離型フィルム
12: 耐熱樹脂層B
14: 接着層
16、16A:離型層A
16B: 離型層A´
24、26: ロール
28: 成形金型
30: 上型
32: 下型
34: 半導体チップ
34A: 基板
36: 封止樹脂
40、44: 半導体パッケージ