(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】永久磁石同期電動機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240327BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20240327BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K1/22 A
H02K15/02 K
(21)【出願番号】P 2020202798
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】民谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 隼人
(72)【発明者】
【氏名】里 水里
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-017065(JP,A)
【文献】特開2013-153592(JP,A)
【文献】特開2019-161850(JP,A)
【文献】特開2012-115057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 1/22
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、ロータコアの周方向に配置された複数の挿入孔に永久磁石が挿入された永久磁石埋込型の回転子と、前記回転子が固定されたシャフトとを備えた永久磁石同期電動機において、
前記ロータコアの両端において前記永久磁石の両端面を抑える一対の端板を備え、
前記一対の端板の一方は、前記複数の挿入孔に対して連通している1つの貫通孔である第1貫通孔を備え、
前記第1貫通孔及び前記複数の挿入孔が樹脂で充填されていることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対の端板の他方は平面であることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項3】
請求項2において、
前記複数の挿入孔のうち、第1貫通孔に連通している複数の挿入孔には、同じ磁極の永久磁石が挿入されていることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項4】
請求項3において、
前記複数の挿入孔のうち、前記第1貫通孔は、磁極中心線が通る位置にあることことを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項5】
請求項4において、
前記複数の貫通孔は、前記複数の挿入孔に連通している第1貫通孔よりもサイズが小さな第2貫通孔を含むことを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記複数の挿入孔短辺は永久磁石との間に隙間を備え、
前記第1貫通孔は隙間の一部に連通していることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項7】
請求項6において、
前記複数の挿入孔は隣接する挿入孔に向かって長い形状をしており、
前記ロータコアは同じ磁極内において隣接する挿入孔短辺の間のコアである第1ブリッジ部を備え、
前記第1貫通孔は、前記第1ブリッジ部と前記永久磁石との隙間に連通していることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1ブリッジ部は磁極中心線上にあることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記ロータコアは、異なる磁極の隣接する挿入孔の短辺間のコアである第2ブリッジ部を備え、
前記複数の貫通孔は、前記第2ブリッジ部と前記永久磁石との隙間の1つにのみ連通している貫通孔である第2貫通孔を備えることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項10】
請求項1または2において、
前記一対の端板を挟み込む一対のクランプを備えることを特徴とする永久磁石同期電動機。
【請求項11】
第1クランプ、貫通孔を備えた第1端板、ロータコア、永久磁石、第2端板、第2クランプを順次位置決めしながら積上げ、回転軸に焼嵌めする第1工程と、
前記貫通孔をガイドとしてシリンジを挿入して、接着剤である樹脂を注入する第2工程とを備え、
前記第1工程において、
前記第1端板として、永久磁石挿入孔と連通する貫通孔を備えた端板を用い、
前記第2端板として
、永久磁石挿入孔と連通する貫通孔を備えていない端板を用い、
前記位置決めとして、前記永久磁石と前記永久磁石挿入孔との間に生じる2つの隙間に対して、前記第1端板の1つの貫通孔である第1貫通孔を連通させ、
前記第2工程として、前記第1貫通孔をガイドとしてシリン
ジを挿入して樹脂を注入し、第1の貫通孔ではない他の貫通孔から空気を抜くことを特徴とする永久磁石同期電動機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期電動機及びその製造方法に係り、特に、各磁極に永久磁石の挿入孔が複数設けられた永久磁石同期電動機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各磁極に永久磁石の挿入孔が複数設けられた永久磁石同期電動機が特許文献1に、永久磁石同期電動機のロータコアに永久磁石を固定する方法が特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1の
図16には、固定子と、コアに埋め込まれた永久磁石でN極とS極が構成された永久磁石埋込型の回転子と、回転子が固定されたシャフトとを備えた永久磁石同期電動機において、コアは第1コアと第1コアの外周にある第2コアとを有し、コアの各磁極は第1コアと第2コアとを接続するブリッジと、第1コア、第2コア及びブリッジで囲まれ、永久磁石が挿入された複数の挿入孔と、を有し、永久磁石はブリッジとの間に挿入孔の隙間を有する永久磁石同期電動機が開示されている。
【0004】
特許文献2の
図7には、ロータコアに永久磁石を挿入し、端板をロータコア両サイドに結合した後に、端板の樹脂注入部から樹脂を注入することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-75923公報
【文献】特開2012-120422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、各磁極に永久磁石の挿入孔が複数あることは開示されているが、接着剤の樹脂注入及び端板の固定については開示されていない。
【0007】
特許文献2では、各磁極に永久磁石の挿入孔が複数あることは開示されておらず、特許文献1の構造について、効率的な樹脂注入作業をどのようになすべきかの知見は開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、各磁極に永久磁石の挿入孔が複数ある永久磁石同期電動機において、永久磁石を固定する樹脂注入作業を改善可能とする永久磁石同期電動機及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明の永久磁石同期電動機及びその製造方法は、特許請求の範囲に記載のように構成したものである。
具体的には、永久磁石同期電動機は、例えば、固定子と、ロータコアの周方向に配置された複数の挿入孔に永久磁石が挿入された永久磁石埋込型の回転子と、回転子が固定されたシャフトとを備えた永久磁石同期電動機において、ロータコアの両端において永久磁石の両端面を抑える一対の端板を備え、一対の端板の一方は複数の挿入孔に対して連通している1つの貫通孔である第1貫通孔を備え、第1貫通孔及び複数の挿入孔が樹脂で充填されていることを特徴とする。
【0010】
また、永久磁石同期電動機の製造方法は、例えば、第1クランプ、第1端板、ロータコア、永久磁石、第2端板、第2クランプを順次位置決めしながら積上げ、回転軸に焼嵌めする第1工程と、前記貫通孔をガイドとしてシリンジを挿入して、接着剤である樹脂を注入する第2工程とを備え、前記第1工程において、前記第1端板として、永久磁石挿入孔と連通する貫通孔を備えた端板を用い、前記第2端板として、永久磁石挿入孔と連通する貫通孔を備えていない端板を用い、前記位置決めとして、前記永久磁石と前記挿入孔との間に生じる2つの隙間に対して、前記第1端板の1つの貫通孔である第1貫通孔を連通させ、前記第2工程として、前記第1貫通孔をガイドとしてシリンジを挿入して樹脂を注入し、第1の貫通孔ではない他の貫通孔から空気を抜くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各磁極に永久磁石の挿入孔が複数ある永久磁石同期電動機において、永久磁石を固定する樹脂注入作業を効率よく行うことができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】永久磁石同期電動機(PMSM)の回転軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
本実施例1の回転電機は、永久磁石が回転子に埋め込まれた永久磁石同期電動機(PMSM)である。
図1は永久磁石同期電動機(PMSM)の回転軸方向断面図、
図2は回転子の分解斜視図、
図3は回転子端面を示す図である。
[基本構成]
このPMSMは、回転軸SFT、固定子ST、回転子RT、筐体CASEを備えている。
【0014】
筐体CASEは、円筒形状で、内径面に固定子STが格納、固定されている。
【0015】
固定子STは、円筒形状で、ステータコアSCに対して、ステータコイルCLが挿入されている。
【0016】
回転子RTは、円筒形状のロータコアRCに対して、永久磁石PM(PM1,PM2)が外周に周方向に埋め込まれている。本実施例の場合、挿入孔HL1,HL2に永久磁石PM1,PM2を同じ向きに挿入し、隣接する挿入孔HL1,HL2に逆極性の永久磁石PM1,PM2を挿入し、N極、S極を交互に発現させる。このN極中心線はNC、S極中心線はSCとなる。
【0017】
回転軸SFTは、回転子RTが回転軸SFTに焼き嵌めされており、筐体CASEまたは図示していないブラケットに固定された軸受(図示せず)で支持されている。
[回転子]
回転子RTは、所定角度の磁極中心線NC,SCに対して左右に、一対の挿入孔HL1,HL2が設けられている。本実施例で挿入孔HL1,HL2は、隣接する挿入孔に向かって長い形状をしており、短軸が磁極中心線NC,SCとほぼ平行になる配置とした。
【0018】
各挿入孔HL1,HL2には、軸方向に複数の永久磁石PM1,PM2が挿入され、永久磁石PMの短軸が磁極中心線NC,SCとほぼ平行になる配置とした。なお、本実施例では、各磁極の永久磁石PMは一対の合計2か所(PM1,PM2)としたが、磁極中心線NC,SCに対して対称配置が可能であれば、3か所以上にすることも可能である。
【0019】
また、ロータコアRCは、挿入孔HL1,HL2の内側である第1コアRC1、同外側である第2コアRC2、隣の磁極の挿入孔同士(N極の挿入孔HL1と隣接するS極の挿入孔HL2)を仕切る広めの第1ブリッジOBR、同じ磁極内の挿入孔同士(N極の挿入孔HL1と同じN極内の挿入孔HL2)を仕切る第2ブリッジIBRを備えている。なお、本実施例の第1ブリッジOBRは第1ブリッジOBRより第2ブリッジIBRの方が狭くなっており、第2ブリッジIBRは磁極中心線NC,SCが通る位置に配置されている。
[隙間]
永久磁石PM1,PM2と第1ブリッジOBR、第2ブリッジIBRとの間にはそれぞれ隙間がある。本実施例の場合、第1ブリッジOBRと永久磁石PM1,PM2との隙間LLG、RRGは、第2ブリッジIBRと永久磁石PM1,PM2との隙間LRG、RLGよりも広くしてある(図示せず)。このことで、空気の抜けがよくなるため、短時間で注入が可能で、充填された樹脂の接着能力を高くできる。
[端板]
図1に示すように、回転子RTの右端面(特に、挿入孔HL1,HL2)はドーナツ形状の端板EP1で覆われ、回転子RTの左端面(特に、挿入孔HL1,HL2)はドーナツ形状の端板EP2で覆われている。
【0020】
端板EP1は、ロータコアRCの挿入孔HL1、HL2に対応した位置に貫通孔OHL、IHLの2種類の貫通孔を備えている。特に、貫通孔OHLは第1ブリッジOBRと永久磁石PM1,PM2との隙間LLG、RRGのそれぞれに少なくとも一部が連通し、貫通孔IHLは1つの貫通孔で、第2ブリッジIBRと永久磁石PM1,PM2との隙間LRG、RLGの両方に少なくとも一部が連通している。本実施例の場合、貫通孔IHLは貫通孔OHL1,OHL2よりもサイズ(径など)を大きくした。
【0021】
端板EP2は、ロータコアRCの挿入孔HL1,HL2に対向する位置が平面で、これらの挿入孔HL1,HL2を閉じている。
[回転子組み立て工程]
次に、本実施例の回転子の組み立て工程を説明する。まず、クランプCP2、端板EP2、ロータコアRC、永久磁石PMを位置決めしながら積上げする。次に、端板EP1とCP1を位置決めしながら積上げする。クランプCP1,CP2、端板EP1,EP2、ロータコアRC、
及び永久磁石PMをシャフトSFTに焼嵌めし固定する。次に、端板EP1の貫通孔IHLをガイドとしてシリンジを挿入して、接着剤である樹脂を注入することで、隙間LRG,RLGに樹脂を充填する。
[樹脂注入工程]
次に、
図4の樹脂注入工程説明図を用いて、本実施例の回転子構造において樹脂注入効率が高まる原理を説明する。なお、図は回転子RTの1極分の磁石挿入口部の回転軸方向部分断面図である。
【0022】
樹脂注入工程では、回転子RTは回転軸SFTを鉛直方向、端板EP1が上面となるように設置される。
【0023】
図4に示すとおり、本実施例では樹脂の注入はロータコアRCの二つの隙間LRG,RLGに連通している1つの貫通孔IHLに、樹脂を注入するシリンジ口を挿入することでシリンジを安定させることができる。1つの貫通孔IHLから注入された樹脂は、ロータコアRCの隙間LRG、RLGに注入され、鉛直方向に端部(端板EP2の内面)まで重力の作用により注入される。ロータコアRCの鉛直方向端部(端板EP2の内面)まで樹脂が注入されると、端板EP2の内面が平坦であるので、永久磁石PMとロータコアRCの隙間LRG、RLGを介して樹脂は水平方向(周方向)に広がり、永久磁石PMの逆側のブリッジOBRとの隙間LLG,RRGにも注入され、永久磁石PMとロータコアRCの隙間全体LLG,LRG,RLG,RRGに樹脂が浸透する。このとき、隙間内の空気は樹脂注入に使用しなかった端板EP1の貫通孔OHLより抜けていくため、樹脂が素早く隙間内を充填するとともに、樹脂内に空気が残留しにくくなる。
【0024】
また、本実施例の貫通孔IHLは2つの隙間LRG,RLGの両方に少なくとも一部が連通するように配置されているので、2つの隙間LRG,RLGの両方のガイドとして機能し、一回のシリンジ挿入動作で、同時に樹脂を注入することができる。そのため、樹脂注入効率が向上する。
【0025】
なお、貫通孔IHL,OHLから樹脂が見える量の樹脂を注入すれば、樹脂充填済の回転子RTであることが目視で確認できる。樹脂注入前に端板ET1,ET2やクランプCP1,CP2を先に取り付ける工程を採用したことで、樹脂注入(永久磁石PMの固定)が完了しているかどうかわかりにくくなるが、貫通孔IHL,OHLから樹脂が目視確認できれば、後工程に不良品を流すことを防ぐことができる。
【実施例2】
【0026】
実施例1では、永久磁石PMの短軸が磁極中心線NC,SCと略平行な配置であるが、実施例2では、
図5に示すように、永久磁石PMや
挿入孔HL1,HL2の短軸が磁極中心線に向かう配置である。つまり、隣接する隙間のうち、第1ブリッジOBRを介して隣接する隙間LLG,RRGを内径側に、第2ブリッ
ジIBRを介して隣接する隙間LRG,RLGを外径側に配置し、端板EP1の貫通孔OHL1,OHL2を内径側に、端板EP1の貫通孔IHLを外径側に配置した構造である。他の構造、回転子組み立て工程、注入方法は全て同じである
【0027】
実施例1と同様に、隙間LRG,RLGを端板EP1の1つの貫通孔IHLに繋がる配置にしたことから、1つの貫通孔IHLが2つの隙間LRG,RLGの両方のガイドとして機能し、一回のシリンジ挿入動作で、同時に樹脂を注入することができる。そのため、樹脂注入効率が向上する。
【0028】
実施例1と同様に、隙間内の空気は樹脂注入に使用しなかった端板EP1の貫通孔OHLより抜けていくため、樹脂が素早く隙間内を充填するとともに、樹脂内に空気が残留しにくくなる。
【0029】
以上の実施例1,2では、第1ブリッジOBRを挟む隙間RRG,LLGはそれぞれ貫通孔OHL1,OHL2に対して1対1で連通させているが、貫通孔OHL1,OHL2を1つの貫通孔とすることも本発明に含まれる。
【0030】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
SFT…回転軸、ST…固定子、RT…回転子、CASE…筐体、SC…ステータコア、CL…ステータコイル、RC…ロータコア、PM(PM1,PM2)…永久磁石、HL(HL1,HL2)…挿入孔、NC…N極中心線、SC…S極中心線、OBR…第1ブリッジ、IBR…第2ブリッジ、LLG,RRG, LRG,RLG…隙間、OHL(OHL1,OHL2)…貫通孔、CP(CP1,CP2)…クランプ。