(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】付加製造等の用途のための多成分アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20240327BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240327BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240327BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240327BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240327BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240327BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
C22C21/00 N
B22F1/00 N
B22F9/08 A
B33Y70/00
B33Y10/00
C22F1/04 A
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 630G
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 630B
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692
C22F1/00 650A
C22F1/00 625
(21)【出願番号】P 2020529360
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(86)【国際出願番号】 US2018062761
(87)【国際公開番号】W WO2019108596
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-22
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515057827
【氏名又は名称】クエステック イノベーションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ゴン ジャドン
(72)【発明者】
【氏名】オルソン グレゴリー ビー
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー ディヴィッド アール
(72)【発明者】
【氏名】コズメル ザ セカンド トーマス エス
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/041006(WO,A1)
【文献】特表2005-528530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0263266(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143177(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0226817(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
B22F 1/00,10/00-12/90
B22F 3/105
B22F 3/16
B33Y 70/00
B33Y 10/00
C22F 1/00、1/04-1/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金を含む製造物品であって、
前記合金が、質量パーセントで:
1%~4.2%のニッケル;
0.5%~2.6%のエルビウム;
0.1%~1.5%のジルコニウム;
0.05%~0.3%のイットリウム;
0.1%~1.2%のイッテルビウム;
0.5%以下の不純物
;及び
質量%による残部
からなり、
前記残部がアルミニウムであり、
前記合金は、Al
3X組成を有するL1
2析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである、製造物品。
【請求項2】
前記合金がスカンジウムを含まない、請求項1に記載の製造物品。
【請求項3】
22℃で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有する、請求項1に記載の製造物品。
【請求項4】
250℃で少なくとも207Mpa(30ksi)の降伏強さを有する、請求項1に記載の製造物品。
【請求項5】
L1
2相の割合が体積分率で0.5%~6%である、請求項1に記載の製造物品。
【請求項6】
前記製造物品は、破壊なく疲労試験に合格することができ、前記疲労試験は、103Mpa(15ksi)の応力振幅、50Hzの周波数、-1のR比、及び10,000,000のサイクル数を含む、請求項1に記載の製造物品。
【請求項7】
250℃で少なくとも138Mpa(20ksi)の極限引張強さを有する、請求項1に記載の製造物品。
【請求項8】
少なくとも120HVの平均硬度を有する、請求項1に記載の製造物品。
【請求項9】
前記合金が、質量パーセントで:
2%~3%のニッケル;
1.0%~1.5%のエルビウム;
0.5%~1.15%のジルコニウム;
0.10%~0.25%のイットリウム;
0.5%~0.8%のイッテルビウム;
質量%による残部;及び
0.5%以下の不純物
からなり
前記残部がアルミニウムである、
請求項1に記載の製造物品。
【請求項10】
付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末であって、
前記アトマイズ合金粉末は
合金粒子からなり、
前記合金粒子が、質量パーセントで:
1%~4.2%のニッケル;
0.5%~2.6%のエルビウム;
0.1%~1.5%のジルコニウム;
0.05%~0.3%のイットリウム;
0.1%~1.2%のイッテルビウム;
0.5%以下の不純物;及び
質量%による残部
からなり、
前記残部がアルミニウムであり、
前記合金粒子は、Al
3X組成を有するL1
2析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである、
アトマイズ合金粉末。
【請求項11】
スカンジウムを含まない、請求項10に記載のアトマイズ合金粉末。
【請求項12】
付加製造におけるアトマイズ合金粉末の使用方法であって、
合金粒子
からなる前記アトマイズ合金粉末を受け取るステップであって、前記合金粒子は、質量パーセントで:
1%~4.2%のニッケル;
0.5%~2.6%のエルビウム;
0.1%~1.5%のジルコニウム;
0.05%~0.3%のイットリウム;
0.1%~1.2%のイッテルビウム;
0.5%以下の不純物;及び
質量%による残部
からなり、
前記残部がアルミニウムであり、
前記合金粒子は、Al
3X組成を有するL1
2析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである、受け取るステップ;
前記アトマイズ合金粉末を用いた付加製造を実施して製造物品を生成するステップ;及び
前記製造物品を、加熱された容器内で、ある時間にわたってエージングするステップ
を含む、使用方法。
【請求項13】
前記製造物品を350℃の温度で24時間エージングした後、前記製造製品のL1
2相の割合が、350℃における体積分率で0.5%~6%である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記製造物品をエージングした後、前記製造製品が、300℃で少なくとも172Mpa(25ksi)の極限引張強さを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記製造物品を400℃の温度で2時間エージングした後、前記製造製品が、周囲温度で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記製造物品をエージングした後、前記製造製品が、250℃で少なくとも207Mpa(30ksi)の降伏強さを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記製造物品を350℃の温度で24時間エージングした後、前記製造物品が、少なくとも120HVの平均硬度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記製造物品を前記加熱された容器から取り出すステップ;及び
前記製造物品を室温で冷却して、エージングされた製造物品を得るステップ、
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記エージングされた製造物品は、22℃で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有し;
前記エージングされた製造物品は、破壊なく疲労試験に合格することができ、前記疲労試験は、103Mpa(15ksi)の応力振幅、50Hzの周波数、-1のR比、及び10,000,000のサイクル数を含み;かつ
前記エージングされた製造物品は、250℃で少なくとも138Mpa(20ksi)の極限引張強さを有する、
請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年11月28日に出願された米国特許仮出願第62/591,515号の優先権を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
(政府の権益)
本開示の態様は、米国海軍研究事務所によって与えられた契約番号N00014-15-C-0158に基づき、政府の支援によってなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、多成分合金を製造するための材料、方法及び技術に関する。本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金は、付加製造(additive manufacturing)用途に特に適している。
【背景技術】
【0003】
付加製造は、3-Dプリンティングとしても知られ、連続層生成を利用して製造物品を生産する製作技術である。典型的には、付加製造法は、粉末、ワイヤ、又は液体のベースを用いて、CAD(コンピュータ支援設計)データの指示により層を生成する。付加製造工程の例としては、ステレオリソグラフィ、選択的レーザー焼結法(SLS)、直接金属レーザー焼結法(DMLS)、電子ビーム溶解法(EBM)、及びレーザー粉末堆積法(LPD)が挙げられる。
この工程は、金型又は機械加工を用いずに非常に複雑な幾何形状のネットシェイプ製作を可能にすることによって、材料使用量、エネルギー消費、部材のコスト、及び製造時間の削減の可能性を与える。付加製造は、迅速な部材の製造、入手困難な部品の一度限りの製造、及び従来手段による製造が困難な部品(機械加工又は鋳造ができない複雑な幾何形状等)の製造を可能にする。結果として、付加製造は、特注部品又は交換部品を入手するエンドユーザーだけでなく、OEM業者(相手先ブランド名製造業者)にも、部品製造における融通性をもたらし得る。
【発明の概要】
【0004】
本明細書で開示及び企図される材料、方法及び技術は、多成分アルミニウム合金に関する。一般に、多成分アルミニウム合金は、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、及び希土類元素を含み、Al3X組成を有するL12析出物を含む。本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金に使用される希土類元素としては、エルビウム(Er)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びイッテルビウム(Yb)が挙げられる。
【0005】
一態様において、合金が開示される。合金は、質量パーセントで、1%~4.2%のニッケル;0.5%~2.6%のエルビウム;0.1%~1.5%のジルコニウム;0.05%~0.3%のイットリウム;0.1%~1.2%のイッテルビウムを含み;質量%による残部がアルミニウム並びに偶発元素(incidental elements)及び不純物を含む。合金は、Al3X組成を有するL12析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである。
【0006】
別の態様において、付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末が開示される。アトマイズ合金粉末は合金粒子を含む。合金粒子は、質量パーセントで、1%~4.2%のニッケル;0.5%~2.6%のエルビウム;0.1%~1.5%のジルコニウム;0.05%~0.3%のイットリウム;0.1%~1.2%のイッテルビウムを含み;質量%による残部がアルミニウム並びに偶発元素及び不純物を含む。合金粒子は、Al3X組成を有するL12析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである。
【0007】
別の態様において、付加製造においてアトマイズ合金粉末を使用する方法が開示される。方法は、合金粒子を含むアトマイズ合金粉末を受け取るステップ、アトマイズ合金粉末を用いて付加製造を実施して製造物品を作製するステップ、及び製造物品を加熱容器内である時間にわたってエージングするステップを含む。アトマイズ合金粉末は合金粒子を含む。合金粒子は、質量パーセントで、1%~4.2%のニッケル;0.5%~2.6%のエルビウム;0.1%~1.5%のジルコニウム;0.05%~0.3%のイットリウム;0.1%~1.2%のイッテルビウムを含み;質量%による残部がアルミニウム並びに偶発元素及び不純物を含む。合金粒子は、Al3X組成を有するL12析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである。
【0008】
本開示によるいくつかの利益を得るために、多成分アルミニウム合金に関する材料、技術又は方法が本明細書で特徴付けられる詳細の全てを含むことは特に要求されない。従って、本明細書で特徴付けられる特定の実施例は、記載された技術の例示的応用であることが意図され、別の方法が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】付加製造におけるアトマイズ合金粉末の例示の使用方法の図を示す。
【
図2】既存合金と比較した例示の多成分合金の実験的極限引張強さ試験データを示す。
【
図3】既存合金と比較した例示の多成分合金の実験的降伏強さ試験データを示す。
【
図4】既存合金と比較した例示の多成分合金の実験的伸び試験データを示す。
【
図5】例示の多成分合金の実験的応力緩和試験データを示す。
【
図6A】原子プローブ断層撮影法を用いて得た、例示の多成分合金の等値面を可視化した図である。
【
図6B】原子プローブ断層撮影法を用いて得た、例示の多成分合金の等値面を可視化した図である。
【
図6C】原子プローブ断層撮影法を用いて得た、例示の多成分合金の等値面を可視化した図である。
【
図9A】例示の多成分合金の実験的硬度試験データを示す。
【
図9B】
図9Aに示すデータとは異なる試験温度における例示の多成分合金の実験的硬度試験データを示す。
【
図10A】as-built(積層まま)状態における
図9A及び
図9Bに示す例示の多成分合金の表面の顕微鏡写真である。
【
図10B】封入容器内で加熱及び冷却した後の、
図10Aに示す例示の多成分合金の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で開示及び企図される材料、方法及び技術は、多成分アルミニウム合金に関する。例示の多成分アルミニウム合金としては、ニッケル(Ni)、エルビウム(Er)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びイッテルビウム(Yb)のうちの1つ以上を含むアルミニウム系合金が挙げられる。例示の多成分アルミニウム合金は、Al3X構造を有するL12析出物を含むことができ、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである。
【0011】
本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金は、付加製造用途に十分に適している。例えば、付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末は、本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金を含む合金粒子を含み得る。
場合によっては、本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、過酷な環境において、例えば既存のアルミニウム合金と比較したときに、改善された加工性、強度及び/又は耐腐食性を示すことができる。本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金の例示の用途としては、航空宇宙、自動車、エネルギー産業、並びに材料が極度の温度及び/又は負荷条件におかれ得るその他の用途が挙げられる。本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金の例示の用途としては、高い強度を有すること及び/又は耐腐食性であることが要求される用途も挙げられる。上記産業及び上記用途向けのものを含め、様々な製造物品を、本明細書に開示の多成分アルミニウム合金を使用して製造できる。
【0012】
I.例示の多成分アルミニウム合金
例示の多成分アルミニウム合金は、熱間亀裂抵抗性(hot tear resistance)及び強度を併せ持つことができ、このため該合金は、高い強度を要する物品(例えば、航空機部材)を製造するための付加製造に適している。例示の多成分アルミニウム合金を、例示の成分及び量、相及びナノ構造、物理的特性、製造方法、例示の製造物品、及び例示の使用方法に関して以下に記載する。
【0013】
A.例示の成分及び量
本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金は、様々な成分を様々な量で含む。例えば、例示の多成分アルミニウム合金は、アルミニウムと、ニッケル(Ni)、エルビウム(Er)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びイッテルビウム(Yb)のうちの1つ以上とを含む。一般に、本明細書で使用するとき、「多成分アルミニウム合金」は、アルミニウム、ニッケル、及び1種以上の「希土類」元素(例えば、エルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及び/又はイッテルビウム)を含む合金を意味する。
【0014】
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、ニッケル(Ni)を含む。様々な実施において、多成分アルミニウム合金は、1~4質量パ―セント(「質量%」)のNi;1質量%~3質量%のNi;1質量%~2質量%のNi;2質量%~4質量%のNi;又は2質量%~3質量%のNiを含む。様々な実施において、多成分アルミニウム合金は、1~4.2質量%のNiを含む。様々な実施において、例示の多成分アルミニウム合金は、4質量%以下のNi;3質量%以下のNi;又は2質量%以下のNiを含む。
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、エルビウム(Er)を含む。様々な実施において、多成分アルミニウム合金は、0.5質量%~2.6質量%のEr;0.8質量%~2.4質量%のEr;1.0質量%~2.2質量%のEr;1.2質量%~1.8質量%のEr;0.6質量%~1.6質量%のEr;0.8質量%~1.4質量%のEr;1.2質量%~2.3質量%のEr;1.0質量%~1.4質量%のEr;1.0質量%~1.6質量%のErを含む。
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、ジルコニウム(Zr)を含む。様々な実施において、多成分アルミニウム合金は、0.1質量%~1.5質量%のZr;0.3質量%~1.3質量%のZr;0.5質量%~1.0質量%のZr;0.3質量%~0.8質量%のZr;0.5質量%~1.3質量%のZr;0.7質量%~1.1質量%のZr;又は0.9質量%~1.2質量%のZrを含む。
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、イットリウム(Y)を含む。様々な実施において、多成分アルミニウム合金は、0.05質量%~0.3質量%のY;0.1質量%~0.2質量%のY;0.08質量%~0.2質量%のY;0.1質量%~0.25質量%のY;0.2質量%~0.3質量%のY;0.15質量%~0.25質量%のY;又は0.09質量%~0.3質量%のYを含む。
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、イッテルビウム(Yb)を含む。様々な実施において、多成分アルミニウム合金は、0.1質量%~1.2質量%のYb;0.3質量%~1.0質量%のYb;0.5質量%~0.8質量%のYb;0.3質量%~0.8質量%のYb;0.5質量%~1.0質量%のYb;0.7質量%~1.1質量%のYb;又は0.9質量%~1.2質量%のYbを含む。
【0015】
典型的には、本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、スカンジウムの使用を大幅に低減する、又は排除する。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、添加されたスカンジウムを有さない。
【0016】
例示の多成分アルミニウム合金は、上に開示した量及び範囲のニッケル、エルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウム、並びに質量%による残部のアルミニウムを含み得る。様々な実施において、例示の多成分アルミニウム合金は、1質量%~4質量%のNi;0.6質量%~1.6質量%のEr;0.1質量%~1.2質量%のZr;0.05質量%~0.3質量%のY;0.1質量%~1.2質量%のYb、及び残部のアルミニウムを含む。様々な実施において、例示の多成分アルミニウム合金は、2質量%~3質量%のNi;1.0質量%~1.4質量%のEr;0.5質量%~1.2質量%のZr;0.10質量%~0.3質量%のY;及び0.5質量%~1.0質量%のYb、並びに残部のアルミニウムを含む。他の範囲及び量が想到される。
開示される多成分アルミニウム合金中の偶発元素及び不純物としては、ケイ素、鉄、原材料に付着している元素、又はこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。偶発元素及び不純物は、本明細書に開示される合金中に、合計で0.5質量%以下、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下の量で存在し得る。
【0017】
本明細書に記載される合金は、上記の構成成分のみからなってもよく、このような構成成分から本質的になってもよく、又は他の実施形態においては、追加の構成成分を含んでもよい。
【0018】
B.例示の相及びナノ構造特性
本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金は、様々な相及びナノ構造特性を有する。例えば、例示の多成分アルミニウム合金は、安定なAl3Ni共晶相を含み得る。例示の多成分アルミニウム合金内の結晶粒構造は、結晶粒ピン止め分散を酸素ゲッタリング相(oxygen gettering phases)と併用して維持できる。これらの結晶粒構造は、ビルド処理及び任意によるポストビルド熱処理の間に微細粒径の維持を助けることができる。
【0019】
例示の多成分アルミニウム合金は、Al3Ni共晶相に加えて、L12析出相を含むことができる。概して、L12析出相は、付加製造中、例えば、DMLS加工中に見られる急速固化の間、溶液中に保持され得る高温安定相である。L12析出相は、鍛造合金製造中に一般的に用いられる溶体化及び/又は焼入れ(クエンチ)を必要とすることなく、ビルド後応力緩和の間に直接析出し得る。概して、L12析出相は、付加製造中に使用されるアトマイズ合金粉末の加工性を改善できる。加えて、L12析出相は、製造物品に追加の強度をもたらすことができる。
場合によっては、本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金は、1つ以上の所望の特性を有するL12析出相を含むことができる。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、競合相よりも安定なL12析出相を含む。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、L12析出相と面心立方(FCC)マトリックスとの間の格子不整が低減又は最小化されている。格子不整を最小にすることで、熱安定性を最大にすることができる。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、L12析出相粗大化率が最小である。粗大化率を最小にすることで、付加製造された物品におけるL12析出相の微細分散を得ることができる。粗大化率を最小にすることで、ポストビルド応力緩和工程中に、300℃~425℃の温度でのエージング等の直接エージングも可能になる。
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、L12析出相の割合が堆積分率又は原子分率で0.5%~6%である。場合によっては、L12析出相の割合は、350℃で0.5%~6%;350℃で1%~3%;350℃で1.5%~2.5%;又は350℃で2.5%~4.5%であり得る。
本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金中に存在する例示のL12析出相は、Al3X構造を有し、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである。一般的に言えば、Al3X組成物は反応速度が遅く、これは溶液及び焼入れ処理を必要としない析出物強化の可能性を与える。Al3X組成物は、アルミニウムへの溶解度が低く、高温安定性及び粗大化抵抗性を有し、かつアルミニウムマトリックスとの格子不整が低い。
【0020】
特定の理論に束縛されるものではないが、Zrを、例示の多成分アルミニウム合金に使用して、析出強化及び結晶粒接種(grain inoculation)のために多成分Al3XL12相を安定化することができる。特定の理論に束縛されるものではないが、エルビウム及び/又はイッテルビウムは、L12相結晶構造を安定化することができ、これは析出強化応答を改善する。
【0021】
C.例示の物理的特性
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、1つ以上の望ましい物理的特性を有することができる。例えば、例示の多成分アルミニウム合金は、付加製造工程の間に熱間亀裂抵抗性を有する場合があり、得られる合金は高い強度を有し得る。以下の節では、例示の多成分アルミニウム合金の特定の物理的特性を、極限引張強さ、降伏強さ、疲労試験性能、硬度、及び破壊靭性を含めて記載する。
【0022】
一般に、極限引張強さは、材料が引張伸びを経験しながら耐えることができる最大応力である。例示の多成分アルミニウム合金に実施した引張強さ試験は、ASTM E8に従って室温で行った。例示の多成分アルミニウム合金に実施した引張強さ試験は、ASTM E21に従って高温で行った。
一例として、多成分アルミニウム合金は、付加製造工程を施された後及び300℃~425℃でのエージングの後、22℃で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有する。別の例として、多成分アルミニウム合金は、付加製造工程を施された後及び375℃~425℃でエージングしてエージング合金を製造した後、エージング合金は、250℃で少なくとも138Mpa(20ksi)の極限引張強さを有する。別の例として、例示のアトマイズ合金粉末に付加製造工程を施して合金製品を生成した後、この合金製品は、300℃で少なくとも172Mpa(25ksi)の極限引張強さを有する。その他の例示の値を
図2に示し、以下により詳細に記載する。
【0023】
本明細書で使用するとき、「周囲温度」又は「室温」という用語は、本開示のシステム及び/又は工程が操作される場所における外部環境の温度を指す。一例として、特定の環境において、周囲温度又は室温は約22℃である。
【0024】
降伏強さは、引張強さ試験の間に得られるデータの評価によって決定できる。一般に、降伏強さは、引張強さ試験中の材料の降伏点に関連し、この降伏点を超えると、負荷を取り除いたときに材料の変形が回復不可能となる。言い換えれば、降伏強さは、塑性変形が始まる応力レベルである。一例として、多成分アルミニウム合金は、付加製造工程を施された後、250℃で少なくとも207Mpa(30ksi)の降伏強さを有する。
一般に、応力腐食試験は、腐食環境で引張応力下にあるときの材料の性能を評価する。応力腐食試験を、例示の多成分アルミニウム合金で、ASTM G47及びASTM G49に従って実施した。応力腐食試験に供されたときの例示の多成分合金の実験的性能は、下記のII.D.節に記載されている。
一般に、疲労試験は、材料が比較的大きなサイクル数で直接応力を受けたときに疲労に耐える能力を評価できる。一定の力に対する疲労試験を、ASTM E466に従って実施した。一例として、多成分合金は、付加製造工程を施された後及び300℃~425℃でのエージングの後、破壊なく疲労試験に合格することができ、疲労試験は、103Mpa(15ksi)の応力振幅、50Hzの周波数、-1のR比、及び10,000,000のサイクル数を含む。
一般に、破壊靭性KIcは、応力及び引張の制約下、鋭利な亀裂が存在する材料の破壊への耐性を示す特性である。破壊靭性試験は、ASTM E399に従って実施した。
硬さは、ASTM E384に従って測定し得る。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、合金を350℃の温度で24時間エージングした後、少なくとも120HVの硬度を有する。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、合金を400℃の温度で2時間エージングした後、少なくとも125HVの硬度を有する。いくつかの実施では、例示の多成分アルミニウム合金は、少なくとも130HVの硬度を有する。
【0025】
D.例示の製造方法
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、対象とする付加製造システムに関連する、様々な供給原料形態に二次加工することができる。例えば、本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金を、不活性ガス噴霧等の利用可能なアトマイズ技術を使用して、アトマイズ合金粉末に二次加工することができる。得られるアトマイズ合金粉末は、粉末床溶融又は指向性エネルギー堆積システムに使用できる。
アトマイズ合金粉末の例示の製造方法は、元素金属供給原料又は所望の化学品が製造されるように予め合金化した供給原料を融解するステップを含む。上に開示した元素のいくつかの組み合わせでは、所望の化学品の温度が融解物中に固体材料部分がない温度以上に達すると、アトマイズ工程が起こる必要がある。
典型的には、融解は、供給原料元素の均質分布である。供給原料中の例示の成分が本明細書に記載されており、例えば、ニッケル、エルビウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム、及びアルミニウム等が、本明細書で開示及び企図される量で含まれる。偶発元素及び不純物等の、原料中の追加成分が企図される。
次いで、融解物はノズルを通過し、直ちに高速の不活性ガス(アルゴン等)に曝露される。高速の不活性ガスは、融解物の流れを破断し、球形粉末を生成する。この球形粉末は、次いで、冷えて噴霧塔に入る。この例示の方法は、所望の流動特性及び高い化学的純度を有する球形粉末を製造できる。
【0026】
例示のアトマイズ合金粉末は、特定の用途及び/又は製造システムに合わせたサイズの粒子を有し得る。いくつかの実施形態では、例示のアトマイズ合金粉末は、20μm~63μmの直径を有する粒子を含む。
【0027】
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、従来のインゴット冶金及びワイヤ引抜き技術によって、ワイヤベースの付加製造システムにおいて使用するためのワイヤ形状に加工することもできる。
【0028】
E.例示の付加製造方法
本明細書で開示及び企図される例示の多成分アルミニウム合金は、付加製造システムにおいて使用できる。付加製造法は、コンピュータ制御されたエネルギー源(例えば、レーザー、電子ビーム、溶接トーチ等)を用いて金属を選択的に融解することにより、部品を層状に構築する工程である。付加製造は、ASTM F2792-12a「Standard Terminology for Additively Manufacturing Technologies」にも定義されている。
例示の付加層製造工程は、以下のものを含む:正確に制御された位置において、粉末媒体を焼結するのにレーザーが使用される、選択的レーザー焼結法;ワイヤ状供給原料がレーザーによって溶融され、次いで製品を構築するために正確な位置に堆積され、かつ凝固される、レーザーワイヤ堆積法;電子ビーム溶解法;レーザー加工ネットシェイピング;及び直接金属堆積法。一般的に、付加製造技術は、幾何学的制約のない自由形状造形における融通性、迅速な材料加工時間及び革新的な接合技術を与える。好適な付加製造システムとしては、EOS GmbH(Robert-Stirling-Ring 1,82152 Krailling/Munich(ドイツ))から入手可能な、EOSINT M280直接金属レーザー焼結(DMLS)付加製造システムが挙げられる。
【0029】
いくつかの実施において、直接金属レーザー焼結法(DMLS)を使用して、開示及び企図された例示の多成分アルミニウム合金を含む物品が製造される。例示の工程の間に、アトマイズ合金粉末を床状に拡げてもよく、レーザーを使用して該床の領域を選択的に融解しかつ融合する。製造物品は、複数の粉末層を連続的に展開しかつ融合することにより、交互積層(layer-by-layer)様式で構築できる。
DMLSを利用する実施において、製造物品に関して、多孔度を最小にし、伸び及び断面減少率(RA%)を最大にし、適切な強度特性をもたらすように、レーザー設定を選択することができる。1つの可能性のある実施における例示のDMLSレーザーパラメータは以下を含む:レーザー出力370W、スキャン速度1300mm/s、スキャン間隔0.17mm、及び積層厚30μm。
【0030】
ビルド工程の後で、様々な後処理操作を実施できる。場合によっては、後処理操作は「as-built」製造物品の1つ以上の特性を改善する。場合によっては、ビルド工程の後、特定の物品は「as-built」で使用できない原因となる欠陥を含み得る。例えば、特定の物品は、許容できない多孔度、化学的不均質性、又は不均等を含み得る。後処理操作は、かかる欠陥を排除すること又は最小限に抑えることができる。
【0031】
後処理操作は、様々な熱処理を含み得る。製造物品は、付加製造システムから加熱されたエンクロージャ(例えば、炉)内へ直接移送され、最初に物品の溶体化(固溶化熱処理とも呼ばれる)を必要としない場合がある。製造物品に適用されるこれらの熱処理は、本明細書で「エージング」工程と呼ばれる。熱処理のいくつかの実施では、加熱されたエンクロージャを加圧して、材料の熱間等方圧加圧を実施し、多孔度を低下させる場合がある。
【0032】
後処理の熱処理は、アルミニウム合金物品の一部又は複数部分を応力緩和及び/又は強化し得る。例えば、熱処理は、アルミニウム合金部品の一部又は複数部分の析出物硬化をもたらし得る。エージングは、as-built物品を、ある温度の加熱環境に所与の時間にわたって置くことを含むことができる。場合によっては、エージングは、2つの異なる温度において2つの異なる時間にわたって行うことができる。
例えば、後処理の熱処理は、300℃~425℃の温度で起こり得る。いくつかの実施では、熱処理は、325℃~400℃;350℃~375℃;300℃~400℃;325℃~425℃;300℃~350℃;350℃~425℃;及び375℃~425℃の温度で起こり得る。いくつかの実施では、熱処理は、175℃~250℃の温度で1時間~4時間起こり得る。例として、限定するものではないが、熱処理は、200℃で1時間、375℃で2時間、及び400℃で2時間起こり得る。
【0033】
図1は、付加製造におけるアトマイズ合金粉末の使用の例示の方法100を示す。例示の方法100は、アトマイズ合金粉末を受け取るステップで始まる(操作102)。アトマイズ合金粉末は、本明細書で開示及び企図される例示のアトマイズ合金粉末であり得る。いくつかの実施では、アトマイズ合金粉末は、質量パーセントで:1%~4.2%のニッケル;0.5%~2.6%のエルビウム;0.1%~1.5%のジルコニウム;0.05%~0.3%のイットリウム;0.1%~1.2%のイッテルビウムを含み;原子パーセントによる残部がアルミニウム並びに偶発元素及び不純物を含む。合金粒子は、Al
3X構造を有するL1
2析出物を含むことができ、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである。
次に、アトマイズ合金粉末を用いて付加製造が実施される(操作104)。付加製造を実施するステップ(操作104)は、所望の製造物品を製造するように付加製造システムを操作することを含む。例示の機器及びレーザーパラメータは上に記述されているが、異なる機器及びこれらのパラメータへの変更が企図され、本開示の範囲内である。製造物品中のアルミニウム合金は、付加製造加工中の耐熱間亀裂性(resistance to hot tearing)を改善するために、約10%の非平衡(可溶性)共晶成分がある状態で凝固できる。
【0034】
付加製造(操作104)実施後に、熱処理(操作106)が実施される。熱処理(操作106)は、本明細書で開示及び企図される後処理エージング操作を含むことができる。一般に、熱処理(操作106)は、製造物品を、炉等の加熱された容器内に、1つ又は複数の温度で、所定の時間にわたって置くことを含む。この工程は、本明細書でエージング工程とも呼ばれる。熱処理(操作106)の間に、共晶構成成分を溶解して単一相のアルミニウムマトリックスを復元することができ、該マトリックスは熱間亀裂抵抗性を提供する粗粒共晶構成成分を含まない可能性がある。
熱処理完了時に、製造物品は加熱された容器から取り除かれて、冷却される。冷却は、製造物品を、室温において非空気循環環境に置くことを含み得る。
【0035】
F.例示の製造物品
開示されたアルミニウム合金は、様々な物品を製造するために使用できる。代表的な物品としては、ギアボックスハウジング(例えば、ヘリコプターギアボックスハウジング)及び航空宇宙産業用構造部材が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
II.実験例
本明細書で開示及び企図される多成分アルミニウム合金の実験例を作製し、試験した。場合によっては、アトマイズ合金粉末の実験例を作製し、付加製造工程に使用した。アトマイズ合金粉末を付加製造に使用して製造された物品を、場合によっては、既存の市販合金と比較した。
【0037】
A.実験組成物
実験的多成分アルミニウム合金は、出願人が所有権を有するソフトウェアを用いてQuesTekに設計した。これらの実験的合金及びその元素成分を、下の表1に詳細に示す。
【0038】
【0039】
試験合金#1及び試験合金#2から、付加製造操作用に設計したアトマイズ合金粉末を製造した。試験合金#1及び試験合金#2を含む粒子を含有するアトマイズ合金粉末から、実験試験用の物品を製造した。試験合金#1のアトマイズ粉末で製造した次の2種類の物品を評価した:エージングしていない「as-built」物品、及び400℃で2時間エージングした「直接エージング」物品。試験合金#2で製造した次の1種類の物品を評価した:200℃で1時間及び375℃で2時間エージングした物品。
【0040】
以下の様々な実験的試験において、試験合金#1物品及び試験合金#2物品を、市販の合金と比較した。具体的には、2618-T6、A356、AlSi10Mg、及びScalmalloyを評価した。合金2618-T6は、溶液熱処理された後、人工的にエージングされた鍛錬用合金である。合金A356は鋳造合金である。合金AlSi10Mgは付加製造合金である。Scalmalloyは、スカンジウム(Sc)を有する付加製造合金である。合金AlSi10Mgは、実験的に評価した唯一の市販合金であった。2618-T6、A356、及びScalmalloyの実験データは、文献、ハンドブック、又はデータシート等の公開されている情報源から入手した。各々の成分を、下の表2に詳細に示す。
【0041】
【0042】
B.実験的引張強さ及び降伏強さ試験
試験合金#1(as-built及び直接エージングの両方)、試験合金#2、及び合金AlSi10Mgを用いて製造した物品を、引張強さ試験に供した。例示の多成分アルミニウム合金に実施した引張強さ試験は、ASTM E8に従って室温で行った。例示の多成分アルミニウム合金に実施した引張強さ試験は、ASTM E21に従って高温で行った。
図2は、上に列挙した合金の各々を用いて製造した物品について、次の試験温度における極限引張強さ(ksi)を示す:22℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、及び350℃。
図2に示すように、特に温度が150℃を超えて上昇すると、試験合金#1(as-built及び直接エージングの両方)及び試験合金#2は、その強度特性を市販合金よりもよく維持する。
引張強さ試験結果を降伏強さについて評価した。
図3は、様々な合金で製造した物品について、次の試験温度における降伏強さ(ksi)を示す:22℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、及び350℃。
図3に示すように、特に温度が150℃を超えて上昇すると、試験合金#1(as-built及び直接エージングの両方)及び試験合金#2は、その強度特性を市販合金よりもよく維持する。
引張強さ試験結果を、伸びについても評価した。
図4は、様々な合金で製造した物品について、次の試験温度における伸び(%)を示す:22℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、及び350℃。試験合金#1の伸びは、22℃の試験温度において、他の全ての合金を上回る。試験合金#1及び#2は、実用的用途の高温(例えば150~200℃)において、市販の合金を上回る伸びを有する。2618及びAlSi10Mgは、250℃超でかなり高い伸びを有するが、この温度を超えるとその強度レベルは試験合金#1及び#2よりも低くなる。
【0043】
C.実験的疲労試験
試験合金#1を用いて製造した物品を直接エージングし、疲労試験に供した。具体的には、一定の力に対する疲労試験を、ASTM E466に従って実施した。R比が-1、応力振幅が103Mpa(15ksi)、かつ周波数が50Hzの場合に、4つの試料物品を評価した。4つの試料物品の各々について、10,000,000サイクル後に試験を停止した。言い換えれば、4つの試料は全て、最大サイクル数で破壊しなかった。各試料物品は、少なくとも103Mpa(15ksi)の疲れ限度を示した。
【0044】
D.実験的応力腐食試験
試験合金#1で製造した物品(as-built及び直接エージングの両方)をASTM G47及びASTM G49に従って応力腐食試験に供した。as-built及び直接エージングの試料を、3連で試験した。試料を、3.5%NaCl交互浸漬法を用いて、75%UTSで10日間試験した。as-built及び直接エージングのいずれも、試料の各々は10日間の試験期間を完了し、「軽度~中度」の孔食性と評価された。言い換えれば、試料は、応力腐食試験条件下で軽度~中度の孔食を示した。
【0045】
E.実験的応力緩和試験
as-built状態の試験合金#1を用いて製造した物品を、232℃に加熱し、その降伏応力(約228Mpa(約33ksi)及び歪み(約0.55%)まで引っ張った。次いで、歪みを、約0.55%の一定値に176時間保持した。この時間中、応力は172Mpa(25ksi)以上に維持した。
図5は、この試験中の試料の応力(ksi)の時間に対するプロットを示す。試料は破損せず、試験後に負荷が取り除かれた。これらの試験結果は、as-built状態の試験合金#1はこれらの負荷条件下で熱機械的に安定であることを示す。
【0046】
F.L12相の実験的評価-原子プローブ
試験合金#2を用いて製造、400℃で8時間エージングした物品を、原子プローブ断層撮影法を用いて評価した。一般に、原子プローブ断層撮影の間、試料は、電解研磨によって、又は集束イオンビームで、数十ナノメートルのオーダーの半径を有する先端部を作成して調製される。この先端部に電圧がかけられ、パルスレーザーにより、原子の層を一度に蒸発させる。蒸発した電子は検出器を通過し、検出器は質量対電荷比を測定するとともに、その位置を電圧及び実験時間に対して記録する。原子プローブ断層撮影法は、原子ごとに元素及び同位体レベルの3次元画像を、サブナノメートルの空間分解能及び一般的に100nm×100nm×100nmのサンプリング体積で作成する。
【0047】
図6A、
図6B、及び
図6Cは、等値面の可視化を示す。
図6Aは、9パーセント(原子パーセント、「at%」)のニッケル、12at%のZr、及び5at%のErを示す。
図6Bはジルコニウム画分を示し、
図6Cはエルビウム画分を示す。
図7は、5at% Er等値面の組成分析を示し、表面積の大きい6つの等値面を除外している。
原子プローブ試験中に得られたデータを評価すると、
図6A~6Cは、Er対Zrの比が1:1、及びAl
3X(ここで、X=Er及びZr)の公称比率における非常に微細な隔離領域を示す。これらのデータは、合金がL1
2相を有することを裏付ける。更に、実験データは、粒子がナノスケールであることを示す。
図8Aは別の等値面を示す。これはAl、Ni、Er、及びZr成分を考慮し、サンプリング領域の縁部における原子比約3:1の粒子の再構成を強調する。
図8Bは、
図8Aに示したデータの組成分析を示す。
図8A及び
図8Bは、Al
3Ni共晶相の存在を実証する。
【0048】
G.DMLSレーザーパラメータの実験的評価
異なる9つのビルド条件の2つの試料を、DMLS付加製造システムを用いて印刷した。各試料に、as-built状態(すなわち、エージングなし)で引張試験を実施した。下の表3は様々なレーザーパラメータを示し、表4及び表5は、9つのビルド条件について試験結果を示す。400℃において、試験合金#1は、2時間後に少なくとも120HVの硬度を達成し、試験中及び24時間で試験が終了するまで、少なくとも120HVの硬度を維持した。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
上記の試験データに基づき、例示のDMLSレーザーパラメータは次のとおりと考えられる:レーザー出力=370W、スキャン速度=1300mm/s、スキャン間隔=0.17mm、積層厚=30μm。上記パラメータの選択は、最小の多孔度、最大の伸び及び断面減少率(RA%)並びに良好な強度レベルに基づく。
【0053】
H.エージング応答及び硬度の実験的評価
試験合金#1で製造した物品をエージングし、エージング中にその硬度を測定した。
図9Aは、試験合金#1について、350℃における平均硬度(HV)のエージング時間(時間)に対するプロットを示す。
図9Bは、試験合金#1について、400℃における平均硬度(HV)のエージング時間(時間)に対するプロットを示す。試料の硬度は、ビッカース硬さ試験に従って評価した。350℃において、試験合金#1は、24時間のエージングの後に少なくとも120HVの硬度を達成し、その硬度を少なくとも240時間のエージングまで維持した。400℃において、試験合金#1は、試験中及び24時間で試験が終了するまで、少なくとも120HVの硬度を維持した。
【0054】
図10Aは、試験合金#1で製造したas-built物品の顕微鏡写真を示す。
図10Bは、350℃で72時間のエージング後の、同じ物品の表面を示す。
図10A及び
図10Bは、同じ縮尺である。
【0055】
本明細書における数値範囲の記述に関して、該数値範囲の間に介在する各数値は、同一の正確度で企図されている。各数値範囲は、端点を含む。例えば、6~9という範囲に対して、数値7及び8が、6及び9に加えて企図されており、また6.0~7.0という範囲に対して、数値6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9及び7.0が明示的に企図される。
【0056】
上記詳細な説明及び付随する実施例は、単に例示的なものであり、本開示の範囲の制限として解釈されるべきではないことは理解される。上記開示された態様に対する様々な変更及び修正は、当業者にとっては明らかであろう。このような変更及び修正は、化学構造、置換基、誘導体、中間体、合成、組成、処方、又は使用方法に関連するものを含むがこれらに限定されることなく、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく実施されてもよい。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕質量パーセントで:
1%~4.2%のニッケル;
0.5%~2.6%のエルビウム;
0.1%~1.5%のジルコニウム;
0.05%~0.3%のイットリウム;
0.1%~1.2%のイッテルビウム;を含み、かつ
質量%による残部がアルミニウム並びに偶発元素及び不純物を含む、
合金であって、
前記合金は、Al
3
X組成を有するL1
2
析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つである、
合金。
〔2〕質量パーセントで0.5%以下の偶発元素及び不純物を含む、前記〔1〕に記載の合金。
〔3〕スカンジウムを含まない、前記〔1〕に記載の合金。
〔4〕付加製造工程を施された後及び300℃~425℃でのエージングの後、22℃で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有する、前記〔1〕に記載の合金。
〔5〕付加製造工程を施された後、250℃で少なくとも207Mpa(30ksi)の降伏強さを有する、前記〔1〕に記載の合金。
〔6〕L1
2
相の割合が体積分率で0.5%~6%である、前記〔1〕に記載の合金。
〔7〕前記合金は、付加製造工程を施された後及び300℃~425℃でのエージングの後、破壊なく疲労試験に合格することができ、前記疲労試験は、103Mpa(15ksi)の応力振幅、50Hzの周波数、-1のR比、及び10,000,000のサイクル数を含む、前記〔1〕に記載の合金。
〔8〕前記合金に付加製造工程を施した後及び375℃~425℃でエージングしてエージング合金を製造した後、前記エージング合金は、250℃で少なくとも138Mpa(20ksi)の極限引張強さを有する、前記〔1〕に記載の合金。
〔9〕前記合金に付加製造工程を施した後及び前記合金を350℃の温度で24時間エージングしてエージング合金を製造した後、前記エージング合金は、少なくとも120HVの平均硬度を有する、前記〔1〕に記載の合金。
〔10〕質量パーセントで:
2%~3%のニッケル;
1.0%~1.5%のエルビウム;
0.5%~1.15%のジルコニウム;
0.10%~0.25%のイットリウム;及び
0.5%~0.8%のイッテルビウム;を含み、かつ
質量%による残部がアルミニウム並びに0.5質量%以下の偶発元素及び不純物を含む、
前記〔1〕に記載の合金。
〔11〕付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末であって、前記アトマイズ合金粉末は、質量パーセントで:
1%~4.2%のニッケル;
0.5%~2.6%のエルビウム;
0.1%~1.5%のジルコニウム;
0.05%~0.3%のイットリウム;
0.1%~1.2%のイッテルビウム;を含み、かつ
質量%による残部がアルミニウム並びに偶発元素及び不純物を含む、合金粒子を含み、
前記合金粒子は、Al
3
X組成を有するL1
2
析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つを含む、
アトマイズ合金粉末。
〔12〕質量パーセントで0.5%以下の偶発元素及び不純物を含み、かつ
スカンジウムを含まない、前記〔11〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔13〕前記アトマイズ合金粉末に付加製造工程を施した後及び350℃の温度で24時間エージングしてエージング合金製品を製造した後、前記エージング合金製品は、L1
2
相の割合が350℃で体積分率で0.5%~6%である、前記〔11〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔14〕前記アトマイズ合金粉末に付加製造工程を施して合金製品を生成した後、前記合金製品は、300℃で少なくとも172Mpa(25ksi)の極限引張強さを有する、前記〔11〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔15〕前記アトマイズ合金粉末に付加製造工程を施した後及び400℃の温度で2時間エージングしてエージング合金製品を製造した後、前記エージング合金製品は、周囲温度で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有する、前記〔11〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔16〕前記アトマイズ合金粉末に付加製造工程を施して合金製品を生成した後、前記合金製品は、250℃で少なくとも207Mpa(30ksi)の降伏強さを有する、前記〔11〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔17〕前記合金に付加製造工程を施した後及び前記合金を350℃の温度で24時間エージングしてエージング合金製品を製造した後、前記エージング合金製品は、少なくとも120HVの平均硬度を有する、前記〔11〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔18〕付加製造におけるアトマイズ合金粉末の使用方法であって、
合金粒子を含む前記アトマイズ合金粉末を受け取るステップであって、前記合金粒子は、質量パーセントで:
1%~4.2%のニッケル;
0.5%~2.6%のエルビウム;
0.1%~1.5%のジルコニウム;
0.05%~0.3%のイットリウム;
0.1%~1.2%のイッテルビウム;を含み、かつ
質量%による残部がアルミニウム並びに偶発元素及び不純物を含み、
前記合金粒子は、Al
3
X組成を有するL1
2
析出物も含み、ここでXはエルビウム、ジルコニウム、イットリウム、及びイッテルビウムのうちの少なくとも1つを含む、受け取るステップ;
前記アトマイズ合金粉末を用いた付加製造を実施して製造物品を生成するステップ;及び
前記製造物品を、加熱された容器内で、ある時間にわたってエージングするステップ
を含む、使用方法。
〔19〕前記製造物品を前記加熱された容器から取り出すステップ;及び
前記製造物品を室温で冷却して、エージングされた製造物品を得るステップ、
を更に含む、前記〔18〕に記載の方法。
〔20〕前記エージングされた製造物品は、22℃で少なくとも379Mpa(55ksi)の極限引張強さを有し;
前記エージングされた製造物品は、破壊なく疲労試験に合格することができ、前記疲労試験は、103Mpa(15ksi)の応力振幅、50Hzの周波数、-1のR比、及び10,000,000のサイクル数を含み;かつ
前記エージングされた製造物品は、250℃で少なくとも138Mpa(20ksi)の極限引張強さを有する、
前記〔18〕に記載の方法。