(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】紙幣取扱装置
(51)【国際特許分類】
G07D 11/16 20190101AFI20240327BHJP
【FI】
G07D11/16
(21)【出願番号】P 2021184299
(22)【出願日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504373093
【氏名又は名称】日立チャネルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 正康
(72)【発明者】
【氏名】勝田 洸紀
【審査官】永安 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-203667(JP,A)
【文献】特開2017-126171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 11/00 - 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が投入した紙幣を搬送路へ一枚ずつ繰り出す紙幣入出金口ユニットであって、
複数枚の紙幣を収納する収納部と、
収納された紙幣に接触して操出方向に回転するピックアップローラと、
操出方向に回転するフィードローラ
、フィードローラ軸及びフィードローラ軸受を含むフィードローラユニットと、
前記フィードローラと対向配置され、
軸方向において径方向の面の一部分が前記フィードローラの径方向の面の一部分と重なっ
た閉状態になり、操出方向には回転しないゲートローラ
、ゲートローラ軸及びゲートローラ軸受を含むゲートローラユニットと、
前記ゲートローラを有する第1フレーム
であって、前記ゲートローラ軸を左右で支持する前記第1フレームと、
前記ピックアップローラ及び前記フィードローラを有する第2フレーム
であって、前記フィードローラ軸を左右で支持し、紙幣の操出方向側に設けた支点を軸として、前記第1フレームと操出方向反対側が離間するように回動する前記第2フレームと、
前記第1フレーム及び前記第2フレームのそれぞれの左右に形成された支点穴に挿通される回転軸を含み、前記回転軸を軸に前記第2フレームを回動させることにより、前記閉状態から軸方向において前記フィードローラの一部分と前記ゲートローラの一部分とが重ならない開状態になるまで、前記フィードローラユニットを動かすことにより、前記フィードローラと前記ゲートローラとの間を開放し、前記回転軸を軸に前記第2フレームを回動させることにより、前記開状態から前記閉状態になるまで前記フィードローラユニットを動かすことにより、前記フィードローラと前記ゲートローラとの間を閉じることが可能な開閉機構と、
前記ゲートローラ軸受と係合する係合部を有し、前記フィードローラ軸受を支持する軸受穴が形成され、前記係合部が、前記ゲートローラ軸受と係合することにより前記閉状態を固定し、前記係合部の所定位置と前記軸受穴の所定位置との間の間隔により、前記軸方向において前記フィードローラの径方向の面の一部分と前記ゲートローラの径方向の面の一部分とが重なるオーバーラップ量を規定するピッチプレートと、
を備えた、
紙幣入出金ユニット。
【請求項2】
請求項
1に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記ピッチプレートの前記軸受穴は、前記フィードローラ軸受を挿通可能であり、且つ、前記ピッチプレートの長手方向における前記軸受穴の幅が前記フィードローラ軸受の径方向の面の径より大きい形状を有し、
前記ゲートローラ及び前記フィードローラは、
前記軸受穴の中心軸より一方の側及び他方の側のうち、前記係合部に遠い側の前記軸受穴の穴形成面の一部に、前記フィードローラ軸受の一部が接触する第1固定状態、及び、
前記軸受穴の中心軸より一方の側及び他方の側のうち、前記係合部に近い側の前記軸受穴の穴形成面の一部に、前記フィードローラ軸受の一部が接触する第2固定状態のうちの、
何れかの状態で固定され、
前記オーバーラップ量が、前記第1固定状態に応じた量及び前記第2固定状態に応じた量の何れかに調整される、
紙幣入出金ユニット。
【請求項3】
請求項
2に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記ゲートローラ及び前記フィードローラは、前記軸受穴内で前記フィードローラ軸受が移動することにより、固定状態を前記第1固定状態から前記第2固定状態、又は、前記第2固定状態から前記第1固定状態に変更可能である、
紙幣入出金ユニット。
【請求項4】
請求項
2に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記ゲートローラ及び前記フィードローラが前記第1固定状態で固定されている場合、前記オーバーラップ量を規定する前記係合部の所定位置と前記軸受穴との所定位置との間の前記間隔は、前記係合部の所定位置と、前記ピッチプレートの前記長手方向における、前記軸受穴の穴形成面の一端及び他端のうちの、前記係合部に遠い側の前記一端の位置である第1位置と、の間の前記長手方向の間隔である第1ピッチであり、
前記ゲートローラ及び前記フィードローラが前記第2固定状態で固定されている場合、前記オーバーラップ量を規定する前記係合部の所定位置と前記軸受穴との所定位置との間の前記間隔は、前記係合部の所定位置と、前記軸受穴の穴形成面の前記係合部に近い側の前記他端の位置である第2位置と、の間の前記長手方向の間隔である第2ピッチであり、
前記第1ピッチと前記オーバーラップ量が所望の量となるように設定された第1設計値との絶対値の差が所定の値以下となるように、前記係合部及び前記軸受穴が形成され、
前記第2ピッチと前記オーバーラップ量が所望の量となるように設定された第2設計値との絶対値の差が所定の値以下となるように、前記係合部及び前記軸受穴が形成された、
紙幣入出金ユニット。
【請求項5】
請求項
2に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記ピッチプレートに形成された前記軸受穴は、長軸が前記ピッチプレートの前記長手方向に沿った長円形状を有する、
紙幣入出金ユニット。
【請求項6】
請求項
1に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記第2フレームに形成された前記支点穴の少なくとも一つは、前記回転軸が挿通可能であり、且つ、前記閉状態における前記ピッチプレートの長手方向における前記支点穴の幅が前記回転軸の径方向の面の径より大きい特定形状を有する、
紙幣入出金ユニット。
【請求項7】
請求項
6に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記特定形状は、長軸が前記閉状態における前記ピッチプレートの前記長手方向に沿った長円形状である、
紙幣入出金ユニット。
【請求項8】
請求項
1に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記閉状態で、前記ピッチプレートの前記係合部と、前記ゲートローラ軸受との間に隙間が形成される、
紙幣入出金ユニット。
【請求項9】
請求項
8に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記ピッチプレートの前記係合部の形状は、かぎ爪形状である、
紙幣入出金ユニット。
【請求項10】
請求項
2に記載の紙幣入出金ユニットにおいて、
前記ピッチプレートは、前記第2フレームと前記ピッチプレートとの間に配置されたブラケットを更に備え、
前記第2フレーム及び前記ブラケットには、ネジ締結用のネジ締結穴が形成され、前記ピッチプレートがネジ締結によって、前記ピッチプレートと共に前記第2フレームに固定され、
前記ネジ締結穴は、前記ピッチプレートの前記長手方向における幅が、前記フィードローラ軸受が前記軸受穴内を前記長手方向に沿って移動可能な幅より、長くなるように形成されている、
紙幣入出金ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙幣取扱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現金自動取引装置等の紙幣処理装置では、多様な物性(素材、印刷、流通度合い、しわ、折れ)を持つ紙幣等の媒体(以下、「紙幣」と総称する。)の取扱が求められている。その紙幣処理装置に含まれる紙幣取扱装置には、複数枚の紙幣束から紙幣を一枚ずつ繰出すための分離繰出機構が備わっている。この分離繰出機構は、一般的に、フィードローラ及びゲートローラと呼ばれるローラが、互いに入れ子状にオーバーラップするように配置されているオーバーラップ分離方式を採用している。なお、両ローラのラップ量は、「オーバーラップ量」と称呼される。
【0003】
このオーバーラップ分離方式では、紙幣を分離繰出しする際に、紙幣を上述のフィードローラとゲートローラとの間で微小変形させる。ここで、フィードローラはモータ等で回転する一方、ゲートローラは繰出し方向に固定されており回転しない。そのため、最上部の紙幣は、フィードローラから搬送力を受けるため、その回転方向へ繰り出されるが、後続の紙幣は、ゲートローラの突入抵抗力が作用するため繰り出されない。この結果、オーバーラップ分離方式では、紙幣を1枚だけ通し、2枚以上通過することを防止することが可能となっている。
【0004】
オーバーラップ分離方式では、上記フィードローラによる搬送力及びゲートローラによる抵抗力が、上述の微小変形の状態に応じて変化する。このため、オーバーラップ分離方式では、オーバーラップ量が紙幣の分離性能を決定するので、オーバーラップ量の管理が非常に重要となる。そこで、例えば、特許文献1の紙幣取扱装置(媒体処理装置)では、現金自動取引装置の運用時の不具合等でフィードローラとゲートローラとの間のオーバーラップ量に調整が必要な場合でも、作業員が操作を誤ることなく調整作業を実施可能な工夫がなされている(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オーバーラップ分離方式を採用する紙幣取扱装置では、オーバーラップ量を適切な量に管理することが、求められている。更に、オーバーラップ分離方式を採用する紙幣取扱装置では、その運用時に不具合等でフィードローラとゲートローラとの間に紙幣が詰まる場合がある。なお、このように紙幣が詰まることは、「ジャム」とも称呼され、詰まった状態の紙幣は、「ジャム紙幣」とも称呼される場合がある。
【0007】
フィードローラとゲートローラとの間に詰まった紙幣を取り除くために、詰まった状態の紙幣を引っ張ると、紙幣とフィードローラとゲートローラとの間で摩擦が発生する。そのため、紙幣を取り除く際に、紙幣に引張方向の力が加わるため、紙幣の除去が難しくなってしまう。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、オーバーラップ量を適切に管理することができると共にフィードローラとゲートローラとの間に紙幣が詰まった場合に、詰まった状態の紙幣の除去を簡単に行うことができる紙幣取扱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の紙幣取扱装置は、複数枚の紙幣を収納する収納部と、前記収納部に収納されている前記紙幣を前記収納部外に繰出すフィードローラ、フィードローラ軸及びフィードローラ軸受を含むフィードローラユニットと、前記フィードローラと対向配置され、軸方向において径方向の面の一部分が前記フィードローラの径方向の面の一部分と重なった閉状態で、繰出し対象外の前記紙幣を連れ出し防止するゲートローラ、ゲートローラ軸及びゲートローラ軸受を含むゲートローラユニットと、前記ゲートローラ軸を左右で支持する第1フレームと、前記フィードローラ軸を左右で支持する第2フレームと、前記第1フレーム及び前記第2フレームのそれぞれの左右に形成された支点穴に挿通される回転軸を含み、前記回転軸を軸に前記第2フレームを回動させることにより、前記閉状態から軸方向において前記フィードローラの一部分と前記ゲートローラの一部分とが重ならない開状態になるまで、前記フィードローラユニットを動かすことにより、前記フィードローラと前記ゲートローラとの間を開放し、前記回転軸を軸に前記第2フレームを回動させることにより、前記開状態から前記閉状態になるまで前記フィードローラユニットを動かすことにより、前記フィードローラと前記ゲートローラとの間を閉じることが可能な開閉機構と、前記ゲートローラ軸受と係合する係合部を有し、前記フィードローラ軸受を支持する軸受穴が形成され、前記係合部が、前記ゲートローラ軸受と係合することにより前記閉状態を固定し、前記係合部の所定位置と前記軸受穴の所定位置との間の間隔により、前記軸方向において前記フィードローラの径方向の面の一部分と前記ゲートローラの径方向の面の一部分とが重なるオーバーラップ量を規定するピッチプレートと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オーバーラップ量を適切に管理することができると共にフィードローラとゲートローラとの間に紙幣が詰まった場合に、詰まった状態の紙幣の除去を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係る紙幣取扱装置を含む現金自動取引機の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態に係る紙幣取扱装置の側面図である。
【
図3】
図3は分離繰出機構の構成例を示す側面部分断面図である。
【
図4】
図4は関連する集積分離機構の構成図(上面図)である。
【
図5】
図5は関連する集積分離機構の構成図(側面図)である。
【
図6A】
図6Aはピッチプレートの形状の一例を示す側面図である。
【
図6B】
図6Bはフィードローラブラケットに固定された状態のピッチプレートを示す側面図である。
【
図7A】
図7Aはオーバーラップ量δの調整方法の一例を説明するための側面図である。
【
図7B】
図7Bはオーバーラップ量δの調整方法の一例を説明するための側面図である。
【
図8A】
図8Aはフィードローラとゲートローラとの間を開閉する開閉機構を説明するための概略図である。
【
図8B】
図8Bはフィードローラとゲートローラとの間を開閉する開閉機構を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る紙幣取扱装置101を含む現金自動取引装置の一例を、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は現金自動取引機の一例の外観を示す斜視図である。
図1に示すように、現金自動取引機100は、その内部に、紙幣取扱装置101と、カード・明細票処理装置102と、通帳処理装置103と、利用者操作部104と、本体制御部105とを備えている。
【0014】
紙幣取扱装置101は、利用者から紙幣が投入(入金)されると共に、利用者へ紙幣を放出(出金)する。カード・明細票処理装置102は、利用者が挿入したカードを処理し、取引明細票を印字して放出する。通帳処理装置103は、利用者が挿入した通帳に取引内容を記帳する。利用者操作部104は、利用者に操作案内を表示し、利用者からの指示の入力を受け付ける。本体制御部105は、これら各装置を監視制御する。ここで、紙幣は、紙葉類の一例である。
【0015】
以下、紙幣を取り扱う紙幣取扱装置101について説明する。
図2は紙幣取扱装置101の側面図である。
図2に示すように、紙幣取扱装置101は、入出金口70と、紙幣判別部71と、一時保管庫72と、リジェクトボックス73と、リサイクル庫74と、「搬送路」の一例としての紙幣搬送路75と、制御部76とを備えている。入出金口70、紙幣判別部71、一時保管庫72、リジェクトボックス73、リサイクル庫74及び紙幣搬送路75のそれぞれは、「ユニット」とも称呼される場合がある。
【0016】
入出金口70は、後述する紙幣集積分離機構1(
図3)を備えており、利用者が投入した紙幣を紙幣搬送路75へ1枚ずつ繰り出すと共に、紙幣搬送路75を介して搬送される紙幣を集積して利用者へ放出する(利用者が取り出せるように紙幣を出す。)。
【0017】
紙幣判別部71は、紙幣の光学的磁気的特徴を測定し、紙幣の金種及び真偽を判別する。一時保管庫72は、取引が成立するまで紙幣を一時格納する。一時保管庫72は、入出金口70の紙幣集積分離機構1と同様の紙幣集積分離機構を備えている。一時保管庫72は、例えば、利用者が入金した紙幣を一時保管し、利用者が取引を認めた場合、リサイクル庫74に紙幣を収納し、利用者が取引を認めない場合は、入出金口70に紙幣を搬送して利用者へ現品を返却する。
【0018】
リジェクトボックス73は、入金時取引が成立した紙幣を格納する金庫である。リジェクトボックス73は、入金だけの紙幣と、紙幣取扱装置101による取扱いに適さない紙幣とを格納する。紙幣取扱装置101による取扱いに適さない紙幣とは、切れ及び折れを有する紙幣及び斜行されて搬送された紙幣である。
【0019】
リサイクル庫74は、入出金兼用の紙幣集積分離機構を有する。紙幣集積分離機構は、利用者によって投入された紙幣を格納すると共に、格納された紙幣を取引に応じて紙幣搬送路75へ繰り出して利用者へ出金する。尚、
図2の紙幣取扱装置101は、リジェクトボックス73を1つ、リサイクル庫74を3つ実装している例である。しかし、これらのリジェクトボックス73とリサイクル庫74との組み合わせは自由であり、実装数も自由に設定できる。例えば、紙幣取扱装置101は、リジェクトボックス73を2つ、リサイクル庫74を2つ備えてもよい。
【0020】
紙幣搬送路75は、各ユニットに紙幣を搬送する。したがって、紙幣は、取引動作ごとに、紙幣判別部71を双方向に通過し、入出金口70、一時保管庫72、リジェクトボックス73及びリサイクル庫74それぞれの間を双方向に搬送される。
【0021】
制御部76は、各ユニットを監視制御する。制御部76は、現金自動取引機100の本体制御部105と電気接続されている。制御部76は、本体制御部105からの指令により紙幣取扱装置101を制御すると共に、紙幣取扱装置101の状態を本体制御部105へ報告する。
【0022】
図3は入出金口70の構成例を示す側面部分断面図である。
図3に示すように、入出金口70には、セットされた紙幣BNを一枚ずつ分離繰出すための分離繰出機構である紙幣集積分離機構1が設けられている。紙幣集積分離機構1は、オーバーラップ分離方式を採用しており、ゲートローラ10、フィードローラ11及びピックローラ12を含む。ゲートローラ10及びフィードローラ11は、互いに入れ子状にオーバーラップする(径方向の面がオーバーラップする(即ち、径方向の面が軸方向に部分的に重なる部分を有する))ように配置されている。換言すると、ゲートローラ10及びフィードローラ11は、互いに離隔され且つ軸方向に位置をずらして対向配置され、軸方向において、ゲートローラ10の一部分とフィードローラ11の一部分とが重なった状態になるように配置されている。なお、この状態は、ゲートローラ10及びフィードローラ11との間を閉じているので、「閉状態」とも称呼される場合がある。ここで、ゲートローラ10の一部分とフィードローラ11の一部分とが重なるオーバーラップ量は、「オーバーラップ量δ」又は「δ」とも表記される。そして、セットされた紙幣BNは、ピックローラ12と接触する位置に収納される。
【0023】
上述のようにセットされた紙幣BNは、ピックローラ12に接触した状態でフィードローラ11及びピックローラ12が回転することにより、図示の破線の矢印a1で示す方向の紙幣搬送路75(
図2を参照。)に搬送される。この時、フィードローラ11はモータ等で回転する一方、ゲートローラ10は繰出し方向に固定されており回転しない(ゲートローラ10は、回転せず停止している。)。そのため、突入時に紙幣BNは、ゲートローラ10から突入抵抗力を受けるため、複数枚の紙幣BNが同時に繰出されることが無く、一枚ずつ紙幣BNを繰出すことが可能となっている。この紙幣BNが受ける抵抗力は、フィードローラ11とゲートローラ10とのオーバーラップ量δによって変化する。このオーバーラップ量δの最適値は、取扱紙幣の厚さや剛性によって異なるため、オーバーラップ量δのずれは、紙幣BNの繰出し性能を左右する。従って、オーバーラップ量δは、適切な量に管理されることが求められる。
【0024】
図4及び
図5は入出金口70内に搭載される紙幣集積分離機構1の概略構成図である。
図4に示すように、紙幣集積分離機構1では、ゲートローラ軸13にゲートローラ10とゲートローラ軸受21が取付けられ、フィードローラ軸14にフィードローラ11とフィードローラ軸受22が取付けられている。なお、ゲートローラ10、ゲートローラ軸13及びゲートローラ軸受21は、「ゲートローラユニット」とも称呼される場合がある。フィードローラ11、フィードローラ軸14及びフィードローラ軸受22は、「フィードローラユニット」とも称呼される場合がある。
【0025】
フレーム19A及びフレーム19Bは、ゲートローラ軸13とフィードローラ軸14とを図示しない軸受等によって左右で抱えており(支持しており)、ゲートローラ軸13及びフィードローラ軸14は回転が可能となっている。なお、フレーム19Aは、便宜上、「第1フレーム」とも称呼される場合がある。フレーム19Bは、便宜上、「第2フレーム」とも称呼される場合がある。
【0026】
フレーム19Aには、回転軸18が挿通される穴(支点穴)が形成されている。フレーム19Bには、回転軸18が挿通される支点穴18Lが形成されている。フレーム19Bは、回転軸18を軸(中心)として、
図5の破線矢印b1が示す方向に回動可能である。
【0027】
フレーム19Bの支点穴18Lは、回転軸18が挿通可能な形状であり、且つ、閉状態で、ピッチプレート16の長手方向において、その長さが回転軸18の径より大きい形状(例えば、長円形状)となっている。より具体的に述べると、フレーム19Bの支点穴18Lは、回転軸18の径方向の面より大きく、且つ、閉状態でピッチプレート16の長手方向に沿った長軸を有し、且つ、長軸の長さは、回転軸18の径より長い長円形状となっている。従って、閉状態で回転軸18が回転可能且つ支点穴18L内を移動可能な状態で、フレーム19Bの支点穴18Lに挿通されている。回転軸18は、回転軸18を軸としてフレーム19Bが回動するときに、フレーム19Bの回動に連動して回転軸18自体が回動しても、回動しなくてもよい。具体的に述べると、例えば、回転軸18は、フレーム19Bが回転軸18を軸として回動した場合に、回転軸18自体が回転しない固定軸であってもよい。更に、フレーム19Bが回動するときに、フレーム19Bが回転軸18に固定されて、回転軸18の回転と完全に連動して回転するような構成であってもよい。
【0028】
フィードローラブラケット15は、フレーム19Bを囲うように、フィードローラ軸14と取り付いており、フィードローラ軸14を軸として、
図5の実線矢印b2が示す方向に回動可能である。
【0029】
ピッチプレート16は、フィードローラ11の位置と、ゲートローラ10の位置とを固定することにより、オーバーラップ量δを固定する(規定する)役割を担っている。ピッチプレート16は、フィードローラブラケット15に、固定ネジ17によって取り付いている。
【0030】
ピッチプレート16のゲートローラ軸受21との係合部であるかぎ爪先端部16gとゲートローラ軸受21とが係合し、且つ、ピッチプレート16の軸受穴16aの穴形成面16a1の一部とフィードローラ軸受22の一部とが接触した状態(より具体的に述べると、ピッチプレート16の軸受穴16aの穴形成面16a1を、その長手方向の中心において2分割する中心軸CL1に対して、右側の軸受穴16aの最右端点RP1を含む穴形成面16a1の一部と、フィードローラ軸受22の一部とが接触した状態)で、ピッチプレート16が、フィードローラ11及びゲートローラ10に組付けられている(取り付けられている。)。これにより、フィードローラ11及びゲートローラ10が、これらの間を閉じる閉状態で固定され、更に、ゲートローラ軸13の位置とフィードローラ軸14の位置とオーバーラップ量δとが、かぎ爪先端部16gの内側の面16g1の所定位置と軸受穴16aの最右端点RP1との間のピッチA(間隔)に応じた量で固定されている。
【0031】
更に、フィードローラブラケット15とフレーム19Bとは、図示しないバネ等によって取り付いており、フィードローラブラケット15に取り付いているピッチプレート16はゲートローラ軸受21に接触する方向に力が働いている。
【0032】
更に、フレーム19Bの回転軸18が回転する、フレーム19Bに形成された2つの支点穴18Lは、それらの少なくとも一方が、上述した長円形状となっている(本例においては両方。)。即ち、フレーム19Bの左側の端部に形成された支点穴18L及びフレーム19Bの右側の端部に形成された支点穴18Lの両方が長円形状となっている。なお、2つの支点穴18Lの一方のみが長円形状になっていてもよい。
【0033】
フレーム19Bの回転支点部の支点穴18Lを長円穴の形状にすると、回転軸18は、水平方向(即ち、閉状態でピッチプレート16の長手方向に沿った方向)に移動することが可能となる。
【0034】
紙幣分離時に、紙幣BNがゲートローラ10とフィードローラ11との間に噛みこむと、各ローラの外側に広がる力が加わるフィードローラ軸14を抱えているピッチプレート16とフレーム19Bにも力が加わる。そのため、仮に、フレーム19Bがひずむ(変形する)ことによってフィードローラ軸14がゲートローラ軸13に対して斜めに取り付けられた状態になった場合であっても、支点穴18L内で、回転軸18が移動することによって、紙幣分離時には、左右どちらのピッチプレート16のかぎ爪先端部16gも、ゲートローラ軸受21に突き当たり、オーバーラップ量は所望の値(設計値)を確保することができる。
【0035】
なお、仮に、回転軸18が水平方向に動かない場合に、フレーム19Bがひずむ(変形する)ことによってフィードローラ軸14がゲートローラ軸13に対して斜めに取り付けられた状態になってしまうと、片側のピッチプレート16のかぎ爪先端部16gはゲートローラ軸受21に突き当たるが、反対側のピッチプレート16のかぎ爪先端部16gはゲートローラ軸受21に突き当たらなくなり、左右でオーバーラップ量δが異なってしまう可能性がある。
【0036】
次に、ピッチプレート16の形状について説明する。
図6A及び
図6Bはピッチプレート16の形状の一例を説明するための側面図である。ピッチプレート16は、ピッチプレート16の長手方向の所定位置(長手方向の内側の切り欠き開始位置PS1)において、ピッチプレート16を長手方向に2分割する想像線Ln1より左側のかぎ爪先端部16gと想像線Ln1より右側の矩形部16hとを含む。かぎ爪先端部16gは、矩形の平面形状の一部分を切り欠くことにより形成されたかぎ爪形状を有する。
【0037】
矩形部16hは矩形の外形を有し、矩形部16hには、フィードローラ軸受22を支持する軸受穴16aと、軸受穴16aの右側に位置する固定ネジ17を通す締結用穴16bとが形成されている。
【0038】
ピッチプレート16のフィードローラ軸受22の軸受穴16aは、ピッチプレート16の長手方向に沿った長軸を有する長円形状となるように形成されている。これにより、オーバーラップ量δを2パターンのオーバーラップ量に調整することができる。即ち、これにより、かぎ爪先端部16gの所定位置(長手方向において、かぎ爪先端部16gの内側の最先端の位置(軸受穴16aに対して最も離れた位置))と軸受穴16aの所定位置(右側の頂点(かぎ爪先端部16gに遠い側の頂点(長手方向において、かぎ爪先端部16gに最も遠い位置)))との間のピッチAにより規定されるオーバーラップ量と、かぎ爪先端部16gの所定位置(長手方向において、かぎ爪先端部16gの内側の最先端の位置)と軸受穴16aの所定位置(かぎ爪先端部16gに近い側の頂点(長手方向において、かぎ爪先端部16gに最も近い位置))との間のピッチBにより規定されるオーバーラップ量との2パターンのオーバーラップ量に調整できる。なお、ピッチAは、便宜上、「第1ピッチ」とも称呼される場合がある。ピッチBは、便宜上、「第2ピッチ」とも称呼される場合がある。
【0039】
上述のように、オーバーラップ量δは、紙幣BNの繰出し性能に関わる重要な値であるため、ピッチプレート16のかぎ爪先端部16gの所定位置とピッチプレート16の軸受穴16aの所定位置との間のピッチの加工精度は、オーバーラップ量δの精度を担保する。そのために、ピッチプレート16のピッチの加工精度は、所定位置から軸受穴16aの所定位置までピッチ距離(間隔)である、ピッチA及びピッチBのそれぞれを高精度で加工している。即ち、ピッチプレート16は、ピッチAと第1設計値との絶対値の差が、所定の値(例えば、0.03mm)以下となるように加工され、ピッチBと第2設計値との絶対値の差が、所定の値(例えば、0.03mm)以下となるように加工されている。換言すると、ピッチプレート16は、ピッチAと第1設計値との絶対値の差が、所定の値(例えば、0.03mm)以下となるように、かぎ爪先端部16g及び軸受穴16aが形成され、ピッチBと第2設計値との絶対値の差が、所定の値(例えば、0.03mm)以下となるように、かぎ爪先端部16g及び軸受穴16aが形成されている。
【0040】
なお、第1設計値は、初期の状態(紙幣取扱装置101の未使用状態)における後述の第1固定状態で、オーバーラップ量δが所望のオーバーラップ量δ1となるように設定された値であり、第2設定値は、初期の状態(紙幣取扱装置101の未使用状態)における後述の第2固定状態で、オーバーラップ量δがオーバーラップ量δ1より大きい(長い)所望のオーバーラップ量δ2となるように設定された値である、
更に、
図6Bに示すように、ピッチプレート16は、ゲートローラ10とフィードローラ11との間の開閉動作を容易にするために、隙間SP1及び隙間SP2が設けられている。隙間SP1及び隙間SP2は、ゲートローラ軸受21とかぎ爪先端部16gとの間の隙間である。この隙間によるオーバーラップ量への影響はない。なぜならば、上述のように、紙幣BNがゲートローラ10とフィードローラ11に噛みこむと、図示黒矢印のように、ゲートローラ10とフィードローラ11が外側に広がる方向に力が加わる。そのためゲートローラ軸13はピッチプレート16のかぎ爪先端部16gの内側部分の一部(エッジ部)に突き当たり、ピッチプレート16とそれに取り付いているフィードローラ軸14、フィードローラブラケット15には白矢印の方向に力が加わる。よって設計されたオーバーラップ量より小さくなる方向である、ピッチプレート16に設けた隙間SP1及びSP2が存在する方向にゲートローラ軸13が振れることはなく、オーバーラップ量δは、設計値(所望の値)を確保することができる。
【0041】
上述したように、紙幣取扱装置101は、オーバーラップ量δを2パターンで調整することができる。以下、オーバーラップ量δの調整方法を説明する。
図7A及び
図7Bはオーバーラップ量δの調整方法を説明するための側面図である。
図7A(
図7B)に示すように、ピッチプレート16のフィードローラ軸受22の軸受穴16aの形状は、フィードローラ軸受22が挿通可能であり、且つ、長手方向においてフィードローラ軸受22の径より大きい幅を有する形状(本例において、長手方向に沿った長軸を有する長円形状)とすることで、オーバーラップ量δを2パターンで調整することができる。
【0042】
即ち、
図7Aに示すように、かぎ爪先端部16gがゲートローラ軸受21と係合し、且つ、ピッチプレート16の軸受穴16aをピッチプレート16の長手方向において2分割する中心軸CL1より右側(かぎ爪先端部16gに遠い側)の穴形成面(穴形成部)の少なくとも一部が、フィードローラ軸受22をフィードローラブラケット15に対しA方向に押し付けた状態で固定ネジ17が締結される。
【0043】
この状態でゲートローラ軸受21及びフィードローラ軸受22が固定されることにより、オーバーラップ量δが、この固定状態(「第1固定状態」とも称呼される。)に応じたオーバーラップ量δ1に固定される。
【0044】
図7Bに示すように、かぎ爪先端部16gがゲートローラ軸受21と係合し、且つ、ピッチプレート16の軸受穴16aの上記中心軸CL1より左側(かぎ爪先端部16gに近い側)の穴形成面(穴形成部)の少なくとも一部が、フィードローラ軸受22をB方向に押し付けた状態で固定ネジ17を締結し、この状態でゲートローラ軸受21及びフィードローラ軸受22が固定されることにより、オーバーラップ量δが、この固定状態(「第2固定状態」とも称呼される。)に応じたオーバーラップ量δ2に固定される。
【0045】
例えば、第1固定状態で所望のオーバーラップ量δ(=δ1)に調整されていた紙幣取扱装置101では、長年の使用により、オーバーラップ量δ1が所望のオーバーラップ量δよりずれる(小さくなってしまう)場合がある。この場合、第2固定状態にすることにより、第1固定状態に比べて、フィードローラ軸受22がゲートローラ軸受21に近くなる位置で固定されるので、所望のオーバーラップ量δからのずれを簡単に調整する(オーバーラップ量δ1から増大する)ことができる(即ち、所望のオーバーラップ量δ(=δ2)に調整できる。)
なお、軸受穴16aは、長円形状になっているので、穴形成面16a1及びフィードローラ軸受22との間の摩擦が低減されることによって、穴形成面16a1及びフィードローラ軸受22の摩耗を少なくすることができる。締結用穴16bは、ピッチプレート16の長手方向に沿った長軸を有する長円形状となるように形成されている。なお、締結用穴16bの長手方向の幅は、フィードローラ軸受22が軸受穴16a内を長手方向に沿って移動可能な幅より長くなるように形成されていることが好ましい。これにより、オーバーラップ量δを調整するためにフィードローラ軸受22をスライドしたときに、フィードローラ軸受22が穴形成面16a1の少なくとも一部に突き当たる前に、締結用穴16bに突き当たってしまうことを回避し易くできる。
【0046】
次に、ジャム紙幣の除去作業のため手順を説明する。
図8A及び
図8Bは、ジャム紙幣の除去作業を簡単にするために設けられた、フィードローラ11とゲートローラ10との間を開閉する開閉機構を示す概略図である。
【0047】
フィードローラブラケット15は、図示しないバネ等が取り付いており、ピッチプレート16は、かぎ爪先端部16gとゲートローラ軸受21とが係合し、且つ、その軸受穴16aの穴形成面16a1の一部がフィードローラ軸受22に押し付けられた状態で、フィードローラ軸受22に接触している。
【0048】
図8Aに示すように、フィードローラブラケット15を、実線矢印d1が示す方向に、回転させることにより、ゲートローラ軸13及びフィードローラ軸14の位置を固定しているピッチプレート16も回転する。従って、フィードローラブラケット15を回転させることにより、かぎ爪先端部16gとゲートローラ軸受21との係合が解除されて、ピッチプレート16によるゲートローラ軸13とフィードローラ軸14の位置の固定が解除される。
【0049】
よって、
図8Bに示すように、フレーム19Bは、回転軸18を軸として、破線矢印d2が示す回転方向(フィードローラ11がゲートローラ10に対して離れる回転方向)に回転可能となる。フレーム19Bが回転することにより、フレーム19Bに取り付いているフィードローラ軸14及びフィードローラ軸受22も同方向に回転し、ゲートローラ10の一部分とフィードローラ11の一部分とが軸方向において重複しない状態(「開状態」とも称呼される。)となって、ゲートローラ10とフィードローラ11との間に隙間Xが生まれる。この隙間Xが生じることにより、ゲートローラ10とフィードローラ11との間で発生したジャム紙幣が簡単に除去されるようになり、ジャム紙幣が破損されずに除去される可能性を向上できる。
<効果>
以上説明したように、本発明の実施形態に係る紙幣取扱装置101は、オーバーラップ量δを適切に管理することができると共にゲートローラ10とフィードローラ11の間に紙幣BNが詰まった場合に、詰まった状態の紙幣BNの除去を簡単に行うことができる。更に、紙幣取扱装置101は、詰まった状態の紙幣BNを除去する際に紙幣BNが破損する可能性を低下できる。
<変形例>
本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。上記実施形態において挙げた形状及び数値は、あくまでも例に過ぎず、本発明の範囲内において、必要に応じてこれらと異なる形状及び数値を用いてもよい。例えば、上記実施形態において、軸受穴16aの形状は、フィードローラ軸受22が挿通可能であり、且つ、長手方向の幅がフィードローラ軸受22の径方向の面の径より大きい形状であれば、長円形状以外の形状であってもよい。例えば、上記実施形態において、支点穴18Lは、回転軸18が挿通可能であり、且つ、長手方向の幅が回転軸18の径方向の面の径より大きい形状であれば、長円形状以外の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…紙幣集積分離機構、10…ゲートローラ、11…フィードローラ、12…ピックローラ、13…ゲートローラ軸、14…フィードローラ軸、15…フィードローラブラケット、16…ピッチプレート、17…固定ネジ、18…回転軸、19A,19B…フレーム、21…ゲートローラ軸受、22…フィードローラ軸受、70…入出金口、71…紙幣判別部、72…一時保管庫、73…リジェクトボックス、74…リサイクル庫、75…紙幣搬送路、76…制御部、100…現金自動取引機、101…紙幣取扱装置、102…カード・明細票処理装置、103…通帳処理装置、104…利用者操作部、105…本体制御部、BN…紙幣