(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ポリエチレンパウダー
(51)【国際特許分類】
C08F 10/02 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
C08F10/02
(21)【出願番号】P 2021501981
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006060
(87)【国際公開番号】W WO2020171017
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019028209
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】浜田 至亮
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】藤井 勲
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-161425(JP,A)
【文献】特開2009-091439(JP,A)
【文献】特開2018-016772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00- 10/14
C08L 23/00- 23/36
C08J 5/00- 5/24
C08J 3/00- 5/24
B29C 43/00- 43/58
B29C 48/00- 48/96
B29C 55/00- 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D50)が30μm以上150μm以下であり、以下の方法で規定するパウダー広がりパラメーターが1.5以上2.1以下である、ポリエチレンパウダー;
(方法)JIS K6720-2に記載のかさ比重測定装置の下部開口部にダンパーを有する漏斗を用いて、高さ55mmの位置から30gのポリエチレンパウダーを厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを敷いた鉄板上に自然落下させた際のパウダー塊の直径をAとし、前記30gのポリエチレンパウダーを自然落下させたパウダー塊を1MPaの圧力で圧縮した後のパウダー塊の直径をBとしたときのBとAとの比(B/A)をパウダー広がりパラメーターとする。
【請求項2】
粘度平均分子量が10万以上1,000万以下である、請求項1に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項3】
見掛け密度が0.30g/mL以上0.60g/mL以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項4】
スパチュラ角が30度以上60度未満であり、かつ、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)が10度以上25度未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項5】
パウダー広がりパラメーターが1.7以上2.0以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項6】
誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)により測定した、マグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量が20ppm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項7】
圧縮度が20%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項8】
圧縮成型体用である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項9】
押出成型体用である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項10】
延伸成型体用である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項11】
微多孔膜用である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項12】
繊維用である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンパウダー、及び、それよりなる成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンパウダー、特に超高分子量ポリエチレンパウダーは、汎用のポリエチレンに比べ、分子量が高いため、延伸加工性に優れ、強度が高く、化学的安定性が高く、長期信頼性に優れている。これらの理由から、ポリエチレンパウダー、特に超高分子量ポリエチレンパウダーは、鉛蓄電池やリチウムイオン電池に代表される二次電池のセパレータ用微多孔膜及び繊維などの成型体の原料として使用されている。
【0003】
また、ポリエチレンパウダー、特に超高分子量ポリエチレンパウダーは、汎用のポリエチレンに比べ、耐衝撃性、耐摩耗性、摺動性、低温特性、耐薬品性などの種々の特性に優れている。そのため、ポリエチレンパウダー、特に超高分子量ポリエチレンパウダーは、ホッパー、シュートなどのライニング材、軸受け、歯車、ローラーガイドレール、あるいは、骨代用材、骨伝導性材及び骨誘導材などの成型体の原料としても使用されている。
【0004】
これら超高分子量ポリエチレンパウダーは、分子量が高いゆえに、樹脂単体での押出成型加工が困難であるため、圧縮成型(プレス成型)やラム押出機などの特殊な押出機によって成型することも多い。これらに共通して、耐衝撃性と耐摩耗性とを両立させることが重要である。これらの特性を両立させる方法例が例えば、特許文献1から3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-23171号公報
【文献】特許第4173444号公報
【文献】特開2015-157905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上述したようなポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体の生産性を向上させることに対する要求が高まっている。
【0007】
具体的には、例えば、圧縮成型体生産時にポリエチレンパウダーの充填が不足した場合に、成型体のエッジ部分の厚み低下、欠点発生などが起こり、エッジ部分の強度が低下してしまい、成型体の収率低下につながってしまう。一方で、上記課題を解決するために、予め大量のポリエチレンパウダーを充填する方法もあるが、例えば圧縮成型体の場合、金型からポリエチレンパウダーがはみ出してしまい、その分のポリエチレンパウダーをロスしてしまい非経済的であるだけでなく、はみ出た部分の清掃作業に時間を要してしまい、結局生産性を悪化させてしまうことにつながる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体の生産性を向上させるために、上述した成型体のエッジ部分の充填不良を改善するとともに、過剰なポリエチレンパウダー充填により非経済性及び生産性悪化の改善を同時に達成できるポリエチレンパウダー、及び、それよりなる成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことに、特定のポリエチレンパウダーを用いることで、前記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
平均粒子径(D50)が30μm以上150μm以下であり、以下の方法で規定するパウダー広がりパラメーターが1.5以上2.1以下である、ポリエチレンパウダー;
(方法)JIS K6720-2に記載のかさ比重測定装置の下部開口部にダンパーを有する漏斗を用いて、高さ55mmの位置から30gのポリエチレンパウダーを厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを敷いた鉄板上に自然落下させた際のパウダー塊の直径をAとし、前記30gのポリエチレンパウダーを自然落下させたパウダー塊を1MPaの圧力で圧縮した後のパウダー塊の直径をBとしたときのBとAとの比(B/A)をパウダー広がりパラメーターとする。
[2]
粘度平均分子量が10万以上1,000万以下である、[1]に記載のポリエチレンパウダー。
[3]
見掛け密度が0.30g/mL以上0.60g/mL以下である、[1]又は[2]に記載のポリエチレンパウダー。
[4]
スパチュラ角が30度以上60度未満であり、かつ、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)が10度以上25度未満である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
[5]
パウダー広がりパラメーターが1.7以上2.0以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
[6]
誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)により測定した、マグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量が20ppm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
[7]
圧縮度が20%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリエチレンパウダーを成型してなる圧縮成型体。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリエチレンパウダーを成型してなる押出成型体。
[10]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリエチレンパウダーを成型してなる延伸成型体。
[11]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリエチレンパウダーを成型してなる微多孔膜。
[12]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリエチレンパウダーを成型してなる繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体のエッジ部分の充填不良を改善するとともに、過剰なポリエチレンパウダー充填により非経済性及び生産性悪化の改善を同時に達成できるポリエチレンパウダー、及び、それよりなる成型体を提供することができ、ポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体の生産性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく。その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
〔ポリエチレンパウダー〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、平均粒子径(D50)が30μm以上150μm以下であり、以下の方法で規定するパウダー広がりパラメーターが1.5以上2.1以下である。本実施形態のポリエチレンパウダーは、当該特性を満たすことにより、ポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体の生産性を向上させることが可能となる。
【0014】
(方法) JIS K6720-2に記載のかさ比重測定装置の下部開口部にダンパーを有する漏斗を用いて、高さ55mmの位置から30gのポリエチレンパウダーを厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを敷いた鉄板上に自然落下させた際のパウダー塊の直径をAとし、前記30gのポリエチレンパウダーを自然落下させたパウダー塊を1MPaの圧力で圧縮した後のパウダー塊の直径をBとしたときのBとAとの比(B/A)をパウダー広がりパラメーターとする。
具体的には、例えば、以下の方法でパウダー広がりパラメーターを求めることができる。
JIS K6720-2に記載のかさ比重測定装置の下部開口部にダンパーを有する漏斗を使用し、下部開口部が厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを上に敷いた300mm四方の鉄板の上55mmになるように鉛直に保持する。漏斗の下部開口部のダンパーを閉じ、その中にポリエチレンパウダー30gを入れる。速やかにダンパーを引き抜き、前記ポリエチレンパウダー30gを厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを上に敷いた鉄板上に自然落下させる。自然落下させて得たポリエチレンパウダーの最も大きい塊(当該塊と接触していないパウダーは含まない)の直径(mm)を3箇所測定し、その平均値を直径Aとする。前記塊の上に厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを静かに乗せ、さらに300mm四方の鉄板を乗せる。前記塊の入った鉄板を静かにプレス機に入れ、1MPaの圧力で5分間圧縮する。鉄板ごと静かに取り出し、前記塊の上に乗った鉄板及びポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムを静かに外し、得られた圧縮後の塊の直径(mm)を3箇所測定し、その平均値を直径Bとする。なお、本測定における周囲の環境は温度23℃、湿度50RH%とする。以上により得られた直径Aと直径Bとの比(B/A)をパウダー広がりパラメータとする(ただし、有効数字は2桁とする)。
なお、当該測定に用いるポリエチレンテレフタレート製フィルムの厚さは100μm±5μmであってよい。
【0015】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、該平均粒子径(D50)が30μm以上150μm以下である。該平均粒子径(D50)はレーザー回折粒子系分布測定装置などにより測定が可能である。具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。該平均粒子径(D50)は好ましくは、40μm以上140μm以下、さらに好ましくは、50μm以上130μm以下である。また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、該パウダー広がりパラメーターが1.5以上2.1以下であり、好ましくは、1.6以上2.1以下であり、さらに好ましくは、1.7以上2.0以下である。該パウダー広がりパラメーターは、圧縮成型における圧縮等の外力を加えられた際のポリエチレンパウダーの流動性の指標であると考えられる。本実施形態のポリエチレンパウダーは、これらの特性が前記範囲内であることにより、例えば、圧縮成型時にポリエチレンパウダーが金型の端まで広がるため、成型体のエッジ部分の充填不足が解消され、過剰にポリエチレンパウダーを充填する必要がなくなることで、金型からのはみ出しが減ることから、成型体の生産性を向上することができる。このように、本実施形態のポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体の生産性を向上させることが可能となる。
【0016】
該平均粒子径(D50)及び該パウダー広がりパラメーターが上記範囲を満たすためには、例えば、ポリエチレンパウダー同士の摩擦を低減させることが考えられる。ポリエチレンパウダー同士の摩擦を低減させる方法としては、例えば、ポリエチレンパウダーを製造する際の熱処理に工夫する方法が挙げられる。具体的には、例えば、二段階の熱処理を施し、一段目は機械的攪拌を施し、熱処理温度は一段階目より二段階目を高くする方法、もしくは、熱処理は一段階で行うが、熱処理後に水冷させながら機械的粉砕工程を経ることが挙げられる。
【0017】
本実施形態のポリエチレンパウダーを構成する単位としては、エチレン単位、及び/又は、エチレン単位と炭素数3以上8以下のα-オレフィン単位とを構成単位としていれば特に限定されない。エチレンと共重合可能な炭素数3以上8以下のα-オレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、直鎖、分岐、又は環状α-オレフィン、式CH2=CHR1(ここで、R1は炭素数1~6のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数4~7の、直鎖状、分岐状又は環状のジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンが挙げられる。この中でも、α-オレフィンとしては、成型体の耐摩耗性や耐熱性及び強度の観点から、プロピレン及び1-ブテンが好ましい。
【0018】
本明細書中において、重合体を構成する各単量体単位の命名は、単量体単位が由来する単量体の命名に従う。例えば、「エチレン単位」とは、単量体であるエチレンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、エチレンの二つの炭素が重合体主鎖となっている分子構造である。また、「α-オレフィン単位」とは、単量体であるα-オレフィンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、α-オレフィンに由来するオレフィンの二つの炭素が重合体主鎖となっている分子構造である。
【0019】
〔粘度平均分子量〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は、10万以上1,000万以下であることが好ましく、より好ましくは15万以上950万以下、さらに好ましくは20万以上900万以下である。本実施形態のポリエチレンパウダーは、粘度平均分子量がこの範囲内であることにより、ポリエチレンパウダーを原料とした成型体の強度と成型加工性とを両立することができる。
【0020】
ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)は、デカヒドロナフタレン溶液中にポリエチレンパウダーを異なる濃度で溶解させ、135℃で求めた還元粘度を濃度0に外挿して求めた極限粘度[η](dL/g)から、以下の数式Aにより算出することができる。より詳細には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0021】
Mv=(5.34×104)×[η]1.49 ・・・数式A
【0022】
〔見掛け密度〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの見掛け密度は、好ましくは0.30g/mL以上0.60g/mL以下であり、より好ましくは0.33g/mL以上0.57g/mL以下であり、さらに好ましくは0.35g/mL以上0.55g/mL以下である。本実施形態のポリエチレンパウダーは、見掛け密度がこの範囲であることにより、取り扱い性が向上するため、金型からのはみ出しが少なくなり、生産性悪化を改善できる傾向にある。
【0023】
一般的には、見掛け密度は、使用する触媒によって異なるが、単位触媒あたりのポリエチレンパウダーの生産性により制御することが可能である。ポリエチレンパウダーの見掛け密度は、ポリエチレンパウダーを重合する際の重合温度によって制御することが可能であり、重合温度を高くすることによりその見掛け密度を低下させることが可能である。また、ポリエチレンパウダーの見掛け密度は重合器内のスラリー濃度によって制御することも可能であり、スラリー濃度を高くすることによりその見掛け密度を増加させることが可能である。なお、ポリエチレンパウダーの見掛け密度は後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0024】
〔スパチュラ角〕
本実施形態のポリエチレンパウダーのスパチュラ角は、30度以上60度未満、かつ、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)が10度以上25度未満であることが好ましい。また、より好ましくは、スパチュラ角が32度以上58度未満、かつ、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)が11度以上23度未満であり、さらに好ましくは、スパチュラ角が35度以上55度未満、かつ、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)が12度以上21度未満である。本実施形態のポリエチレンパウダーは、スパチュラ角、及び、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)がこの範囲であることにより、取り扱い性が向上するため、金型からのはみ出しが少なくなり、生産性悪化を改善できる傾向にある。ポリエチレンパウダーのスパチュラ角及び崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)を前記範囲に制御する方法としては、例えば、ポリエチレンパウダーの熱処理に工夫する方法が挙げられる。具体的には、例えば、二段階の熱処理を施し、一段目は機械的攪拌を施し、熱処理温度は一段階目より二段階目を高くする方法、若しくは、熱処理は一段階で行うが、熱処理後に水冷させながら機械的粉砕工程を経る方法が挙げられる。なお、ポリエチレンパウダーのスパチュラ角は後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0025】
〔マグネシウム、チタン、アルミニウム元素含有量の総量〕
本実施形態のポリエチレンパウダーにおいて、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)により測定した、マグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量は20ppm以下であることが好ましく、より好ましくは18ppm以下であり、さらに好ましくは15ppm以下である。本実施形態のポリエチレンパウダーにおいて、マグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1ppmである。本実施形態のポリエチレンパウダーは、マグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量がこの範囲であることにより、ポリエチレンパウダーを原料とした各種成型体の外観が向上することで、外観由来のロス率低下につながり、生産性を向上させることができる。ポリエチレンパウダーのマグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量を前記範囲に制御する方法としては、例えば、単位触媒あたりのポリエチレンパウダーの生産性により制御が可能であり、生産性を上げることにより含有量を少なくすることが可能である。なお、ポリエチレンパウダーのマグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量は後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0026】
〔圧縮度〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの圧縮度は20%以下であることが好ましく、より好ましくは19%以下であり、さらに好ましくは18%以下である。本実施形態のポリエチレンパウダーの圧縮度の下限は、特に限定されないが、例えば、5%である。本実施形態のポリエチレンパウダーは、圧縮度がこの範囲であることにより、圧縮成型体生産時に充填の度合いが向上するため、金型からのはみ出しが少なくなり、生産性悪化を改善できる傾向にある。生産効率を向上させることができる。ポリエチレンパウダーの圧縮度は重合器内のスラリー濃度によって制御することも可能であり、スラリー濃度を高くすることによりその圧縮度を増加させることが可能である。なお、ポリエチレンパウダーの圧縮度は後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0027】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、そのまま各種成型機にて成型加工しても構わないし、ポリエチレンパウダーに有機過酸化物と混合した後、各種成型加工機にて成型加工しても構わない。
【0028】
〔有機過酸化物〕
本実施形態のポリエチレンパウダーを成型する際に用いる、有機過酸化物(有機過酸化物架橋剤)としては、上記エチレン系重合体の架橋に寄与し、分子内に原子団-O-O-を有する有機物であれば特に限定されないが、例えば、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド等の有機ペルオキシド;アルキルペルエステル等の有機ペルエステル;ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。上記有機過酸化物としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、α、α’-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。これらの中では、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名「パーヘキサ25B」日本油脂(株)製)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルオキシ)ヘキシン-3(商品名「パーヘキシン25B」日本油脂(株)製)、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが好ましい。
【0029】
〔その他の成分〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、必要に応じて公知の各種添加剤と組み合わせて用いてもよい。熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤;又はビス(2,2’,6,6’-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、2-(2-ヒドロキシ-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等の耐候安定剤等が挙げられる。また、滑剤や塩化水素吸収剤等として公知であるステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩も、好適な添加剤として挙げることができる。
【0030】
〔ポリエチレンパウダーの成型方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの成型方法としては、特に限定されないが、例えば、圧縮成型(プレス成型)、押出し成型が挙げられる。圧縮成型は、金型に原料のポリエチレンパウダーを均一に散布し、加熱・加圧して成型した後、冷却して取り出す方法である。板状の成型体はそのまま製品として、ブロックを作り、切削加工などにより最終製品に仕上げることも可能である。一方、押出し成型では、スクリュー押出機や、ピストンを前後させて押出すラム押出機が用いられる。押出し機の出口の形状を変えることにより、シート、平板、異形品、パイプなど様々な形状の物が得られる。
【0031】
〔ポリエチレンパウダーの製造方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法は、特に限定されず、例えば、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を用いて製造する方法が挙げられる。中でもチーグラー・ナッタ触媒を用いて製造する方法が好ましい。チーグラー・ナッタ触媒については、前述の特許文献3の[0032]から[0068]に開示されている。
【0032】
固体触媒成分、及び、有機金属化合物成分(以下、「触媒」と省略する場合がある)をエチレン系重合条件下である重合系内に添加する際には、両者を別々に重合系内に添加してもよいし、予め両者を混合させた後に重合系内に添加してもよい。また、組み合わせる両者の比率は、特に限定されないが、固体触媒成分1gに対し有機金属化合物成分は0.01mmol以上1,000mmol以下が好ましく、0.1mmol以上500mmol以下がより好ましく、1mmol以上100mmol以下がさらに好ましい。両者を混合させる他の目的としては、保存タンクや配管等に静電付着を防止することも挙げられる。
【0033】
ポリエチレンパウダーの製造方法における重合法は、特に限定されないが、例えば、懸濁重合法により、エチレン又はエチレンと炭素数3以上8以下のα-オレフィンを含む単量体を(共)重合させる方法が挙げられる。懸濁重合法で重合すれば、重合熱を効率的に除熱することができる点で好ましい。懸濁重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0034】
上記不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;又はこれらの混合物等を挙げることができる。
【0035】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合温度は、通常、20℃以上100℃以下が好ましく、30℃以上95℃以下がより好ましく、40℃以上90℃以下がさらに好ましい。重合温度が20℃以上であることにより、工業的に効率的な製造が可能である。一方、重合温度が100℃以下であることにより、連続的に安定運転が可能である。
【0036】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合圧力は、通常、常圧以上15MPa以下が好ましく、0.1MPa以上14MPa以下がより好ましく、0.2MPa以上13MPa以下がさらに好ましい。重合圧力が常圧以上であることにより、総金属量及び全塩素量の高いポリエチレンパウダーが得られる傾向にあり、重合圧力が13MPa以下であることにより、総金属量及び全塩素量の低いポリエチレンパウダーを安定的に生産できる傾向にある。
【0037】
また、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なうことも可能である。さらに、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、得られるポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させることによって調節することもできる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、分子量を適切な範囲で制御することが可能である。重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、0.01mol%以上30mol%以下が好ましく、0.01mol%以上25mol%以下がより好ましく、0.01mol%以上20mol%以下がさらに好ましい。なお、本実施形態では、上記のような各成分以外にもポリエチレンパウダーの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。
【0038】
一般的にポリエチレンパウダーを重合する際には、重合反応器へのポリマーの静電気付着を抑制するため、The Associated Octel Company社製(代理店丸和物産)のSTATSAFE3000等の静電気防止剤を使用することも可能である。STATSAFE3000は、不活性炭化水素媒体に希釈したものをポンプ等により重合反応器に添加することもできる。この際の添加量は、単位時間当たりのポリエチレンパウダーの生産量に対して、0.1ppm以上50ppm以下が好ましく、20ppm以上50ppm以下がより好ましい。
【0039】
上記範囲のポリエチレンパウダーを得るための、重合後の乾燥方法としては、(i)二段階の熱処理を施し、一段階目は機械的攪拌を施し、熱処理温度は一段階目より二段階目を高くする方法、もしくは、(ii)熱処理は一段階で行うが、熱処理後に水冷させながら機械的粉砕工程を経る方法が好ましい。前記(i)の二段階の熱処理を行う方法の場合、一段階目の熱処理の温度としては50℃以上110℃以下が好ましく、二段階目の温度が一段階目よりも5℃以上高いことが好ましい。その際の一段階目の機械的攪拌を伴う熱処理に使用する乾燥機は、特に限定されないが、攪拌機能を有する乾燥機が好ましく、例えばパドルドライヤー等が挙げられる。パドルドライヤーのパドル羽根回転速度は50rpm以上150rpm以下であることが好ましい。二段階目の熱処理に使用する乾燥機の方式は、特に限定されないが、ロータリーキルン方式、パドル方式、ドラム方式、流動乾燥機等が好ましい。二段階の熱処理の時間は、一段階目は1時間以上3時間以下が好ましく、二段階目は3時間以上5時間以下が好ましい。前記(ii)の熱処理を一段階で行う方法の場合、熱処理の温度としては50℃以上110℃以下が好ましく、乾燥機の形式はロータリーキルン方式、パドル方式、ドラム式、流動乾燥機等が好ましく、熱処理時間は3時間以上6時間以下が好ましい。熱処理後、水冷させながら機械的粉砕を行う際は、特に限定されないが25℃以下の水冷ジャケットを施したヘンシェルミキサーを使用することが好ましく、撹拌翼先端の線速は15m/秒以上25m/秒以下が好ましく、攪拌時間は5分以上20分以下が好ましい。また乾燥機に窒素等の不活性ガスを導入し乾燥を促進することも効果的である。
上記乾燥により、ポリエチレンパウダー同士の摩擦を調整することができる。
【0040】
〔用途〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、高度な加工性と高い連続加工生産性とを有することができ、種々の加工方法により加工することができる。また、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いた成型体は、種々の用途に応用されることができる。主な用途として、微多孔膜(例えば、リチウムイオン二次電池や鉛蓄電池などの二次電池用セパレータ)や、繊維、非粘着性、低摩擦係数でホッパー、シュートなどのライニング材、また自己潤滑性、低摩擦係数で耐摩耗性が要求される、軸受け、歯車、ローラーガイドレール、骨代用材、骨伝導性材又は骨誘導材などに好適に使用される。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
〔測定方法及び条件〕
(1)平均粒子径(D50)
ポリエチレンパウダーの平均粒子径(D50)は、レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300((株)島津製作所製)を使用して測定した。分散媒としてはメタノールを用い、また、分散装置として超音波バスを使用した。
【0043】
(2)パウダー広がりパラメーター
ポリエチレンパウダーのパウダー広がりパラメーターは、以下に示す方法により求めた。JIS K6720-2に記載のかさ比重測定装置の下部開口部にダンパーを有する漏斗を使用し、下部開口部が厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを上に敷いた300mm四方の鉄板の上55mmになるように鉛直に保持した。漏斗の下部開口部のダンパーを閉じ、その中にポリエチレンパウダー30gを入れた。速やかにダンパーを引き抜き、ポリエチレンパウダー30gを厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを上に敷いた鉄板上に自然落下させた。自然落下させて得たポリエチレンパウダーの最も大きい塊(当該塊と接触していないパウダーは含まない)の直径(mm)を3箇所測定し、その平均値を直径Aとした。前記塊の上に厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを静かに乗せ、さらに300mm四方の鉄板を乗せた。前記塊の入った鉄板を静かにプレス機に入れ、1MPaの圧力で5分間圧縮した。鉄板ごと静かに取り出し、前記塊の上に乗った鉄板及びポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムを静かに外し、得られた圧縮後の塊の直径(mm)を3箇所測定し、その平均値を直径Bとした。なお、本測定における周囲の環境は温度23℃、湿度50RH%とした。以上により得られた直径Aと直径Bとの比(B/A)をパウダー広がりパラメータとした(ただし、有効数字は2桁とする)。
【0044】
(3)粘度平均分子量(Mv)
ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は、ISO1628-3(2010)に準じて、以下に示す方法によって求めた。まず、溶融管にポリエチレンパウダー20mgを秤量し、溶融管を窒素置換した後、20mLのデカヒドロナフタレン(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールを1g/L加えたもの)を加え、150℃で2時間攪拌してポリエチレンパウダーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、キャノン-フェンスケの粘度計(柴田科学器械工業社製:製品番号-100)を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、ポリエチレンパウダーを10mg、5mg、2.5mgと変えたサンプルついても同様に標線間の落下時間(ts)を測定した。ブランクとしてポリエチレンパウダーを入れていない、デカヒドロナフタレンのみの落下時間(tb)を測定した。以下数式Aに従って求めたポリエチレンパウダーの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とポリエチレンパウダーの還元粘度(ηsp/C)との直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
【0045】
ηsp/C=(ts/tb-1)/0.1 (単位:dL/g)・・・数式A
【0046】
次に、下記数式Bに従って、上記極限粘度[η]の値を用い、粘度平均分子量(Mv)を算出した。
【0047】
Mv=(5.34×104)×[η]1.49 ・・・数式B
【0048】
(4)見掛け密度(嵩密度)
ポリエチレンパウダーの見掛け密度は、JIS K-6722法に従い測定した。
【0049】
(5)スパチュラ角、及び、崩壊前後のスパチュラ角の差(崩壊前-崩壊後)
ポリエチレンパウダーのスパチュラ角、及び、崩壊前後のスパチュラ角は、パウダーテスター(型式PT-X、ホソカワミクロン社製)を用い測定した。
【0050】
(6)マグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量
ポリエチレンパウダーのマグネシウム、チタン及びアルミニウム元素含有量の総量は、以下のとおり算出した。ポリエチレンパウダーをマイクロウェーブ分解装置(型式ETHOS TC、マイルストーンゼネラル社製)を用い加圧分解し、内部標準法にて、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、型式Xシリーズ X7、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、ポリエチレンパウダー中の金属としてマグネシウム、チタン及びアルミニウム夫々の元素濃度を測定し、その和を算出した。
【0051】
(7)圧縮度
ポリエチレンパウダーの圧縮度は、パウダーテスター(型式PT-X、ホソカワミクロン社製)を用い測定した。
【0052】
(8)成型品の不良率
ポリエチレンパウダー28kgを、加熱プレス成型機内の、1m角、高さ3cmの金型に自然落下状態で投入し、設定温度210℃で10MPaのゲージ圧で12時間圧縮成型後、圧力を保った状態で加熱を止める冷却過程を経ることにより成型品を得た。得られた成型品を20cm角にカットし、1m角の中央部に位置する20cm角カット成型体の重さ(a)と、各エッジ部に位置する20cm各カット成型体4体の重さの平均値(b)とを比較した。なお、判定基準は以下のとおりである。
【0053】
○・・・b/aが0.98以上
△・・・b/aが0.95以上0.98未満
×・・・b/aが0.95未満
【0054】
(9)成型品の外観
上記の方法で得られた20cm角にカットされた成型体の表面状態を目視評価した。なお、判定基準は以下のとおりである。
【0055】
○・・・5倍の拡大鏡で、異物は確認できない
△・・・5倍の拡大鏡で、異物が確認できるが、肉眼で、異物が確認できない
×・・・肉眼で、異物が確認できる
【0056】
(10)金型からの成型体のはみ出し
(8)と同様の方法で成型体を得た際に、金型からはみ出した成型体の重量を測定した。なお、判断基準は以下のとおりである。
【0057】
○・・・重量が100g未満
△・・・重量が100g以上150g未満
×・・・重量が150g以上
【0058】
〔触媒合成例1:固体触媒成分[A]の調製〕
(1)(A-1)担体の合成
充分に窒素置換された、8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg5(C4H9)11(OC4H9)2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄して固体を得た。この固体((A-1)担体)を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
【0059】
(2)固体触媒成分[A]の調製
上記(A-1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg5(C4H9)11(OSiH)2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[A]を調製した。この固体触媒成分[A]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
【0060】
〔ポリエチレンパウダーの製造〕
表1~3に示す条件で、ヘキサン、エチレン、α-オレフィン、水素、触媒、STATSAFE3000(The Associated Octel Company社製)を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給して以下のとおりポリエチレンパウダーを製造した。
【0061】
(実施例1:PE-1)
エチレンを重合反応器に連続供給して以下のとおり重合することによりポリエチレンパウダーを製造した。重合温度はジャケット冷却により74℃に保った。ヘキサンは55L/時間で重合反応器に供給した。触媒としては、助触媒成分であるトリイソブチルアルミニウム及びジイソブチルアルミニウムハイドライドの混合物と、固体触媒成分[A]とを使用した。固体触媒成分[A]は0.7g/時間の速度で重合反応器に添加し、トリイソブチルアルミニウム及びジイソブチルアルミニウムハイドライドの混合物は9mmol/時間の速度で重合反応器に添加した。なお、固体触媒成分[A]、並びに、トリイソブチルアルミニウム及びジイソブチルアルミニウムハイドライドの混合物を5L/時間の速度になるように等量ずつ重合反応器に添加した。同じくSTATSAFE3000をポリエチレンパウダーに対する濃度が25ppmになるように重合反応器に添加した。水素は気相エチレン濃度に対して0.2mol%となるように連続的に重合反応器に添加した。重合圧力はエチレンを重合反応器に連続供給することにより0.4MPaに保った。これらの条件で重合反応器内が均一になるように十分撹拌を行った。ポリエチレンパウダーの製造速度は10kg/時間であった。触媒活性は30,000g-PE/g-固体触媒成分[A]であった。
次にポリエチレンパウダーの重合スラリーを以下のとおり熱処理(熱処理条件A)した。ポリエチレンパウダーの重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPaのフラッシュドラムに抜き、その後、パドルドライヤーに移送し、パドル羽根回転速度100rpm、ジャケット温度60℃で1.5時間乾燥させた後、ドラムドライヤーでパドル等の攪拌装置を設けずにドラム回転数5rpm、ジャケット温度70℃で4時間乾燥させ、ポリエチレンパウダーを得た。
得られたポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去した。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-1)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0062】
(実施例2)
目開き425μmの篩で分級する前に、ヘンシェルミキサーを用いて、攪拌翼先端の線速18m/秒で10分間、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)をポリエチレンパウダーに対して3,000ppmの濃度になるように混合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-2)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0063】
(実施例3)
α-オレフィンとして1-ブテンを気相エチレン濃度に対して0.4mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-3)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0064】
(実施例4)
目開き425μmの篩で分級する前に、ヘンシェルミキサーを用いて、攪拌翼先端の線速18m/秒で10分間、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)をポリエチレンパウダーに対して3,000ppmの濃度になるように混合したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-4)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0065】
(実施例5)
重合温度を80℃に保ったこと、水素を気相エチレン濃度に対して0.05mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと、重合圧力を0.6MPaに保ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-5)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0066】
(実施例6)
重合温度を67℃に保ったこと、水素を気相エチレン濃度に対して0.25mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと、重合圧力を0.3MPaに保ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-6)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0067】
(実施例7)
重合温度を93℃に保ったこと、水素を気相エチレン濃度に対して11mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと、重合圧力を0.6MPaに保ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-7)を上記方法で評価を行なった結果を表1に示す。
【0068】
(実施例8)
重合温度を95℃に保ったこと、水素を気相エチレン濃度に対して11.5mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと以外は、実施例7と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-8)を上記方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0069】
(実施例9)
重合温度を43℃に保ったこと、水素を添加しなかったこと、重合圧力を0.28MPaに保ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-9)を上記方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0070】
(実施例10)
重合温度を40℃に保ったこと以外は、実施例9と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-10)を上記方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0071】
(実施例11)
重合圧力を0.22MPaに保ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-11)を上記方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0072】
(実施例12)
ポリエチレンパウダーの重合スラリーの熱処理条件について、ポリエチレンパウダーの重合スラリーをフラッシュドラムに抜き、その後、パドルドライヤーに移送し、パドル羽根回転速度100rpm、ジャケット温度60℃で5.5時間乾燥させた後、20℃の水冷ジャケットを施したヘンシェルミキサーを用いて、攪拌翼先端の線速18m/秒で10分間攪拌するという条件(熱処理条件B)としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-12)を上記方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0073】
(実施例13)
ヘンシェルミキサーを用いて攪拌する際に、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)をポリエチレンパウダーに対して3,000ppmの濃度になるように混合したこと以外は、実施例12と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-13)を上記方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0074】
(比較例1)
ポリエチレンパウダーの重合スラリーの熱処理条件について、ポリエチレンパウダーの重合スラリーをフラッシュドラムに抜き、パドルドライヤーに移送せずに、ドラムドライヤーでパドル等の攪拌装置を設けずにドラム回転数5rpm、ジャケット温度70℃で5.5時間乾燥させるという条件(熱処理条件C)としたこと、重合温度を73℃にして、水素を連続的に重合反応器に添加する際の濃度(水素気相濃度)を気相エチレン濃度に対して0.18mol%にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-14)を上記方法で評価を行なった結果を表3に示す。
【0075】
(比較例2)
目開き425μmの篩で分級する前に、ヘンシェルミキサーを用いて、攪拌翼先端の線速18m/秒で10分間、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)をポリエチレンパウダーに対して3,000ppmの濃度になるように混合したこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-15)を上記方法で評価を行なった結果を表3に示す。
【0076】
(比較例3)
α-オレフィンとして1-ブテンを気相エチレン濃度に対して0.4mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと以外は比較例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-16)を上記方法で評価を行なった結果を表3に示す。
【0077】
(比較例4)
目開き425μmの篩で分級する前に、ヘンシェルミキサーを用いて、攪拌翼先端の線速18m/秒で10分間、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)をポリエチレンパウダーに対して3,000ppmの濃度になるように混合したこと以外は、比較例3と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-17)を上記方法で評価を行なった結果を表3に示す。
【0078】
(比較例5)
重合温度を80℃に保ったこと、水素気相濃度を気相エチレン濃度に対して0.06mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと、重合圧力を0.64MPaに保ったこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-18)を上記方法で評価を行なった結果を表3に示す。
【0079】
(比較例6)
重合温度を63℃に保ったこと、水素気相濃度を気相エチレン濃度に対して0.22mol%となるように連続的に重合反応器に添加したこと、重合圧力を0.15MPaに保ったこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。こうして得られたポリエチレンパウダー(PE-19)を上記方法で評価を行なった結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表1~3に示す評価結果から、実施例のポリエチレンパウダーは、成型体のエッジ部分の充填不良を改善するとともに、過剰なポリエチレンパウダー充填により非経済性及び生産性悪化の改善を同時に達成でき、外観の良好な成型体を提供することが可能となることがわかった。
本出願は、2019年2月20日出願の日本特許出願(特願2019-028209号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリエチレンパウダーは、非粘着性、低摩擦係数でホッパー、シュートなどのライニング材、また自己潤滑性、低摩擦係数で耐摩耗性が要求される、軸受け、歯車、ローラーガイドレール、骨代用材、骨伝導性材又は骨誘導材や、リチウムイオン二次電池や鉛蓄電池などの二次電池用セパレータや、繊維、などに好適に使用される。