(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂付銅箔
(51)【国際特許分類】
C08G 59/42 20060101AFI20240327BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240327BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240327BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20240327BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C08G59/42
C08L63/00 A
C08L33/04
B32B15/082 Z
B32B17/10
(21)【出願番号】P 2021508919
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009319
(87)【国際公開番号】W WO2020195661
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019063436
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】大澤 和弘
(72)【発明者】
【氏名】牧野 遥
(72)【発明者】
【氏名】小川 国春
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-286391(JP,A)
【文献】特開2018-182275(JP,A)
【文献】特開2012-128360(JP,A)
【文献】特開2012-097283(JP,A)
【文献】特開2020-037652(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138379(WO,A1)
【文献】特開2018-021163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
C08L 101/00-101/16
C08L 33/00-33/26
B32B 15/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分:
(a)JIS K7161-1:2014に準拠して測定される引張弾性率が200MPa以下であるアクリルポリマーと、
(b)
前記(a)成分とは異なる化合物であり、カルボキシル基を有するアクリル樹脂である、25℃で固形の樹脂と、
(c)前記(a)成分及び前記(b)成分の少なくとも1つと架橋可能な、
エポキシ化合物、イソシアネート化合物及びジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である、25℃で液状の樹脂と、
(d)重合開始剤と、
を含む樹脂組成物であって、前記(a)成分、前記(b)成分及び前記(c)成分の総量100重量部に対して、前記(a)成分の含有量が35重量部以上93重量部以下であり、前記(b)成分の含有量が3重量部以上60重量部以下であり、前記(c)成分の含有量が1重量部以上25重量部以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)成分の前記(b)成分に対する重量比a/bが、0.6以上18以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)成分の前記(d)成分に対する重量比c/dが、50以上5000以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(a)成分又は前記(b)成分の少なくとも1つがカルボキシル基を有し、かつ、前記(c)成分が液状脂環式エポキシ化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
硬化後における、前記樹脂組成物のJIS K7161-1:2014に準拠して測定される破断伸び率が200%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
平滑面を備えた銅箔と、
前記平滑面に設けられる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、
を備えた樹脂付銅箔。
【請求項7】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の少なくとも一方の面に設けられる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、
を備えた複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂付銅箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ及び電子ペーパーといったフラットパネルディスプレイ、並びにそれらに用いられるカラーフィルタには、ガラス基板が用いられている。かかるガラス基板に適用される樹脂組成物には、赤(R)、緑(G)、青(B)等の各色光を透過させる必要があるため、透明性が求められる。
【0003】
一方、透明性を有する樹脂組成物として、光導波路のクラッド層形成用の樹脂組成物が知られている。例えば、特許文献1(国際公開第2009/093679号公報)には、(A)重量平均分子量が10万超である(メタ)アクリルポリマー、(B)ウレタン(メタ)アクリレート、及び(D)ラジカル重合開始剤を含有する樹脂組成物が開示されており、上記(A)成分が、エポキシ基含有(メタ)アクリルポリマーでありうることが記載されている。特許文献2(特開2009-175456号公報)には、(A)反応性官能基を有し、かつ重量平均分子量が10万以上である(メタ)アクリルポリマー、(B)脂環式エポキシ樹脂、及び(C)カチオン重合開始剤を含有する樹脂組成物であって、上記(B)成分が、室温で液状のものを50質量%以上含む、樹脂組成物が開示されている。特許文献3(特開2012-42829号公報)には、(A)カルボキシル基を有するポリマー、(B)ウレタン(メタ)アクリレート、(C)分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物、及び(D)ラジカル重合開始剤を含む樹脂組成物が開示されており、上記(C)成分が、多官能脂環式アルコールグリシジルエーテルや多官能複素環式エポキシ樹脂でありうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/093679号公報
【文献】特開2009-175456号公報
【文献】特開2012-42829号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、透明な樹脂組成物の用途の一つとして、フラットパネルディスプレイやカラーフィルタの製造に用いられるガラス基板に、透明なプライマー層(接着層)として貼り付けられるものを検討してきた。そして、この樹脂組成物の層は樹脂付銅箔の形態で提供され、この銅箔は回路形成用銅箔として使用されうる。しかしながら、かかる樹脂組成物層をガラス基板に貼り付けた場合、ガラス基板に反りが生じやすい。したがって、そのような反りを低減できる樹脂組成物が望まれる。また、上記用途向けの樹脂組成物には、ガラス基板との密着性、銅箔との密着性、及び加工性(例えば破断しにくいこと)も望まれる。このように、ガラス基板に適用される樹脂組成物には様々な特性が求められる。
【0006】
本発明者らは、今般、(a)所定のアクリルポリマー、(b)25℃で固形の樹脂、(c)25℃で液状の樹脂及び(d)重合開始剤を所定の配合比で含む樹脂組成物を、ガラス基板に樹脂層として貼り付けた場合に、ガラス基板に発生する反りを低減でき、しかも優れた透明性、ガラス基板や銅箔との優れた密着性、及び優れた加工性をも呈するとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ガラス基板に樹脂層として貼り付けた場合に、ガラス基板に発生する反りを低減でき、しかも優れた透明性、ガラス基板や銅箔との優れた密着性、及び優れた加工性をも呈する樹脂組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、
(a)JIS K7161-1:2014に準拠して測定される引張弾性率が200MPa以下であるアクリルポリマーと、
(b)25℃で固形の樹脂と、
(c)前記(a)成分及び前記(b)成分の少なくとも1つと架橋可能な、25℃で液状の樹脂と、
(d)重合開始剤と、
を含む樹脂組成物であって、前記(a)成分、前記(b)成分及び前記(c)成分の総量100重量部に対して、前記(a)成分の含有量が35重量部以上93重量部以下であり、前記(b)成分の含有量が3重量部以上60重量部以下であり、前記(c)成分の含有量が1重量部以上25重量部以下である、樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、
平滑面を備えた銅箔と、
前記平滑面に設けられる前記樹脂組成物と、
を備えた樹脂付銅箔が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、
ガラス基板と、
前記ガラス基板の少なくとも一方の面に設けられる、前記樹脂組成物と、
を備えた複合材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、アクリルポリマー(以下(a)成分という)と、25℃で固形の樹脂(以下(b)成分という)と、25℃で液状の樹脂(以下(c)成分という)と、重合開始剤(以下(d)成分という)とを含む。(a)成分は、JIS K7161-1に準拠して測定される引張弾性率が200MPa以下のアクリルポリマーである。(c)成分は(a)成分及び(b)成分の少なくとも1つと架橋可能な、25℃で液状の樹脂である。(a)成分、(b)成分及び(c)成分の総量100重量部に対して、(a)成分の含有量は35重量部以上93重量部以下である。また、(b)成分の含有量は3重量部以上60重量部以下であり、(c)成分の含有量は1重量部以上25重量部以下である。このように、(a)所定のアクリルポリマー、(b)25℃で固形の樹脂、(c)25℃で液状の樹脂及び(d)重合開始剤を所定の配合比で含む樹脂組成物を、ガラス基板に樹脂層として貼り付けた場合に、ガラス基板に発生する反りを低減でき、しかも優れた透明性、ガラス基板や銅箔との優れた密着性、及び優れた加工性をも呈する。
【0012】
前述のとおり、本発明者らは、透明な樹脂組成物の用途の一つとして、フラットパネルディスプレイやカラーフィルタの製造に用いられるガラス基板に、透明なプライマー層(接着剤層)として貼り付けられるものを検討してきた。しかしながら、かかる樹脂組成物層をガラス基板に貼り付けた場合、ガラス基板に反りが生じやすい。したがって、そのような反りを低減できる樹脂組成物が望まれる。また、上記用途向けの樹脂組成物には、ガラス基板との密着性、銅箔との密着性、及び加工性(例えば破断しにくいこと)も望まれる。特に、フラットパネルディスプレイやカラーフィルタに用いられるガラス基板は高い透明性が要求されるが故に、非常に低い表面粗度となっており、本来的にはガラス基板と樹脂層との密着性が低下しやすい。同様に、樹脂層の透明性を阻害させないために、回路形成用の樹脂付銅箔には、非常に低い表面粗度の銅箔(例えば無粗化銅箔)が用いられ、やはり本来的には樹脂層と銅箔との密着性も低下しやすい。それ故、これらの密着性の問題にも対処可能な樹脂組成物が望まれる。また、上記用途における加工性に関しても、樹脂付銅箔とした際に、過度な粘着性が無くロール・トゥ・ロールで巻き取りがしやすいこと、シート状に切断しやすいこと、さらには切断時の割れ又は粉砕が生じにくいことといった特性も望まれる。このように、ガラス基板に適用される樹脂組成物には様々な特性が求められる。この点、本発明の樹脂組成物によれば、上記様々な特性をバランス良く実現することができる。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、硬化後において、JIS K7161-1:2014に準拠して測定される破断伸び率が200%以上であることが好ましく、より好ましくは500%以上、さらに好ましくは700%以上である。上記のように高い破断伸び率であると、ガラス基板に樹脂層として貼り付けた場合に、ガラス基板に発生する反りをより効果的に低減できるとともに、ガラス基板や銅箔との優れた密着性、及び加工性も向上できる。破断伸び率の上限値は特に限定されないが、典型的には1200%以下、より典型的には900%以下である。また、本発明の樹脂組成物は、フラットパネルディスプレイやカラーフィルタに用いる観点から、硬化後において、透明性を有することが好ましい。
【0014】
(a)アクリルポリマー
(a)成分は引張弾性率が200MPa以下であるアクリルポリマーである。引張弾性率はJIS K7161-1:2014に準拠して測定される。(a)成分は、樹脂組成物の柔軟性の向上、ガラス基板と貼り合わせた際の反りの低減、及び剥離強度の向上に寄与する。
【0015】
(a)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の総量100重量部に対して、35重量部以上93重量部以下であり、好ましくは35重量部以上80重量部以下、より好ましくは40重量部以上70重量部以下、さらに好ましくは40重量部以上60重量部以下、特に好ましくは45重量部以上55重量部以下である。これらの範囲内であることにより、上述した諸特性をより効果的に実現できる。
【0016】
(a)成分は、引張弾性率が200MPa以下であるアクリルポリマーであれば特に限定されない。そのようなアクリルポリマーの例としては、デュポン株式会社製のVamac(R)シリーズ、ナガセケムテックス株式会社製のテイサンレジン(R)シリーズ、株式会社クラレ製のクラリティ(R)等が挙げられる。樹脂の強度を確保する為に各成分は化学的に結合し、架橋構造を形成することが好ましい。架橋をするためには反応性官能基が必要であるが、反応性官能基の種類は特に限定されるものではない。例えば、(c)成分がエポキシ樹脂である場合は、ガラスとの密着性や汎用性の観点から、エポキシ基と反応可能な官能基が好ましい。エポキシ基と反応可能な官能基としては、無色という観点から、カルボキシル基が好ましく、(a)成分及び(b)成分の少なくとも1つはカルボキシル基を有していることが好ましい。なお、エポキシ基と反応可能な官能基として、アミン等の窒素を含む官能基を用いた場合は、硬化後の樹脂組成物が有色となり易い。カルボキシル基を有する(a)成分の好ましい例としては、デュポン株式会社製のVamac(R)シリーズ Gグレード、GXFグレード、Ultra LSグレード、Ultra HTグレード、Ultra HT-ORグレード及びVMX4017グレードや、ナガセケムテックス株式会社製のテイサンレジン(R)シリーズ WS-023、SG-280TEM、及びSG-70L等が挙げられ、特に好ましくはデュポン株式会社製のVamac(R)シリーズ Ultra HT-ORグレードである。
【0017】
(b)25℃で固形の樹脂
(b)成分は常温(具体的には25℃)で固形の樹脂である。(b)成分は、(a)成分とは異なる化合物であり、樹脂組成物の粘着性を低下させて樹脂層が過度に粘着性を呈するのを防止し、樹脂組成物に優れた加工性をもたらす。例えば、樹脂付銅箔とした際に、過度な粘着による樹脂層/銅箔間のブロッキングが無くロール・トゥ・ロールで巻き取りがしやすくなる。25℃で固形の樹脂は、JIS K 7095:2012に準拠してDMAにより測定されるガラス転移温度Tgが、25℃以上であれば特に限定はされないが、典型的には30℃以上、より典型的には40℃以上である。ガラス転移温度Tgの上限も特に限定されないが、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0018】
(b)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の総量100重量部に対して、3重量部以上60重量部以下であり、好ましくは15重量部以上60重量部以下、より好ましくは25重量部以上55重量部以下、さらに好ましくは35重量部以上50重量部以下、特に好ましくは40重量部以上50重量部以下である。また、(a)成分の(b)成分に対する重量比a/bが、0.6以上18以下であることが好ましく、より好ましくは0.6以上6.0以下、さらに好ましくは0.7以上3.0以下、特に好ましくは0.9以上1.5以下、最も好ましくは1.0以上1.4以下である。これらの範囲内であることにより、上述した本発明の諸特性をより効果的に実現できる。
【0019】
(b)成分は25℃で固形の樹脂であれば特に限定されないが、そのような樹脂の例としては、クレイバレー社製SMA(R)レジン、東亞合成株式会社製ARUFON(R)等が挙げられる。化学密着性、無色性(望ましくは無色透明性)及び架橋性の観点から(a)成分及び(b)成分の少なくとも1つがカルボキシル基を有していることが好ましい。カルボキシル基を有する(b)成分の好ましい例としては、東亞合成株式会社製のARUFON(R)UC-3000シリーズが挙げられ、特に好ましくは、東亞合成株式会社製のARUFON(R)UC-3900である。
【0020】
(c)25℃で液状の樹脂
(c)成分は常温(具体的には25℃)で液状の樹脂である。(c)成分は、(a)成分及び(b)成分の少なくとも1つと架橋可能な化合物であり、典型的にはモノマー又はオリゴマーである。(c)成分は、樹脂組成物のガラス基材や銅箔に対する接着力(密着性)を向上させ、剥離強度の向上に寄与する。(c)成分は、(a)成分とは異なる化合物であり、かつ、25℃で液状の樹脂であれば特に限定されない。25℃で液状の樹脂は、JIS K 7095:2012に準拠してDMAにより測定されるガラス転移温度Tgが25℃未満であれば特に限定されないが、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。ガラス転移温度Tgの下限値は特に限定されないが、典型的には-100℃以上、より典型的には-70℃以上である。
【0021】
(c)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の総量100重量部に対して、1重量部以上25重量部以下であり、好ましくは1重量部以上20重量部以下、より好ましくは3重量部以上15重量部以下、さらに好ましくは4重量部以上12重量部以下、特に好ましくは5重量部以上10重量部以下である。これらの範囲内であることにより、上述した本発明の諸特性をより効果的に実現できる。
【0022】
(c)成分は(a)成分及び/又は(b)成分と架橋可能な25℃で液状の樹脂であれば特に限定されないが、そのような樹脂の例としては、DIC株式会社製EPICLON850S、株式会社ADEKA製アデカレジンEP-4000、新日鉄住金化学株式会社製YDF-170、株式会社ダイセル有機合成カンパニー製エポリードPB4700、及びセロキサイド2021P等の液状エポキシ化合物や、東ソー株式会社製ミリオネートMTL等のイソシアネート化合物や、CLARIANT社製GENAMIN(R)D01/2000等のジアミン化合物が挙げられ、好ましくは株式会社ダイセル有機合成カンパニー製セロキサイド2021P等の液状脂環式エポキシ化合物である。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、(a)成分又は(b)成分の少なくとも1つがカルボキシル基を有し、かつ、(c)成分が液状脂環式エポキシ化合物である。かかる構成によれば、樹脂組成物の硬化物は無色透明性及び強靭性を有し、フラットパネルディスプレイやカラーフィルタの製造に用いられるガラス基板に樹脂組成物層を貼り付けた場合に低反り性、密着性及び加工性を発現するとの利点がある。
【0024】
(d)重合開始剤
(d)成分は重合開始剤であり、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を含む樹脂成分の架橋促進に寄与する。重合開始剤は、上記樹脂成分の架橋に寄与するものであれば特に限定されない。また、(c)成分の(d)成分に対する重量比c/dは、50以上5000以下が好ましく、より好ましくは100以上4000以下、さらに好ましくは500以上3000以下、特に好ましくは700以上1500以下、最も好ましくは800以上1200以下である。
【0025】
重合開始剤は(a)成分及び/又は(b)成分と(c)成分との反応を促進できるものであれば特に限定はされない。好ましい例としては、イミダゾール類、アゾ化合物、過酸化物といったラジカル重合開始剤が挙げられるが、添加量が少なくても効果があり、透明性を阻害しにくいとの観点から三新化学工業株式会社製サンエイドSI-B5に代表されるボレート系重合開始剤がより好ましい。
【0026】
樹脂付銅箔
本発明の樹脂組成物は樹脂付銅箔の樹脂として用いられるのが好ましい。予め樹脂付銅箔の形態とすることで、樹脂層を別途形成することなく、ディスプレイやカラーフィルタ等の部材の製造を効率良く行うことができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、平滑面を備えた銅箔と、平滑面に設けられる樹脂組成物とを備えた樹脂付銅箔が提供される。典型的には、樹脂組成物は樹脂層の形態であって、樹脂組成物を、銅箔に乾燥後の樹脂層の厚さが所定の値となるようにグラビアコート方式を用いて塗工し乾燥させ、樹脂付銅箔を得る。この塗工の方式については任意であるが、グラビアコート方式の他、ダイコート方式、ナイフコート方式等を採用することができる。その他、ドクターブレードやバーコータ等を使用して塗工することも可能である。
【0027】
樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは2μm以上20μm以下、特に好ましくは3μm以上10μm以下、最も好ましくは4μm以上8μm以下である。これらの範囲内であることにより、上述した本発明の諸特性をより効果的に実現でき、樹脂組成物の塗布により樹脂層の形成がしやすい。さらにハンドリング性も向上する。
【0028】
銅箔は、電解製箔又は圧延製箔されたままの金属箔(いわゆる生箔)であってもよいし、少なくともいずれか一方の面に表面処理が施された表面処理箔の形態であってもよい。表面処理は、金属箔の表面において何らかの性質(例えば防錆性、耐湿性、耐薬品性、耐酸性、耐熱性、及び基板との密着性)を向上ないし付与するために行われる各種の表面処理でありうる。表面処理は金属箔の少なくとも片面に行われてもよいし、金属箔の両面に行われてもよい。銅箔に対して行われる表面処理の例としては、防錆処理、シラン処理、粗化処理、バリア形成処理等が挙げられる。
【0029】
銅箔の樹脂層側の表面における、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisが0.5μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.4μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2μm以下である。このような範囲内、すなわち銅箔の樹脂層側の表面が平滑な無粗化銅箔であることにより、ヘイズ値を下げることができるので、樹脂層の高い透明性を維持しつつ、銅箔と樹脂層との密着性を確保でき、樹脂層の厚さをより薄くすることができる。銅箔の樹脂層側の表面における十点平均粗さRzjisの下限値は特に限定されないが、樹脂層との密着性向上の観点からRzjisは0.005μm以上が好ましく、より好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上である。
【0030】
銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.5μm以上70μm以下、さらに好ましくは1μm以上50μm以下、特に好ましくは1.5μm以上20μm以下、最も好ましくは2μm以上5μm以下である。これらの範囲内の厚さであると、視認性を阻害しない微細な回路形成が可能との利点がある。もっとも、銅箔の厚さが例えば10μm以下となる場合などは、本発明の樹脂付銅箔は、ハンドリング性向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔の銅箔表面に樹脂層を形成したものであってもよい。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0032】
例1~14
(1)樹脂ワニスの調製
まず、樹脂ワニス用原料成分として、以下に示される(a)成分~(d)成分を用意した。また、比較のため、(a’)成分として、(a)成分の要件を満たさないアクリルポリマーも用意した。
‐(a)成分(アクリルポリマー):カルボキシル基を有するエチレンアクリルゴム(デュポン株式会社製、Vamac(R)、品番:HT-OR)(JIS K7161-1:2014に準拠して測定される引張弾性率:3.5MPa)
‐(a’)成分(アクリルポリマー):アクリル系ブロック重合体(株式会社クラレ製、製品名:クラリティ(R)、品番:LA4285)(JIS K7161-1:2014に準拠して測定される引張弾性率:380MPa)
‐(b)成分(25℃で固形の樹脂):カルボキシル基を有するアクリル樹脂(東亞合成株式会社製、ARUFON(R)、品番:UC-3900)
‐(c)成分(25℃で液状の樹脂):液状脂環式エポキシ樹脂(株式会社ダイセル有機合成カンパニー製、セロキサイド、品番:2021P)
‐(d)成分(重合開始剤):ラジカル重合開始剤(三新化学工業株式会社製、サンエイド、品番:SI-B5)
【0033】
表1に示される配合比(重量比)で上記樹脂ワニス用原料成分を丸型フラスコに測り取り、樹脂ワニス用原料成分濃度が25重量%となるように混合溶媒を加えた。この混合溶媒は、80重量%のトルエン、15重量%のメチルエチルケトン、及び5重量%のジメチルアセトアミドで構成される。樹脂ワニス用原料成分と混合溶媒を入れた丸型フラスコに、マントルヒーター、撹拌羽及び還流冷却管付フラスコ蓋を設置し、撹拌をしながら60℃まで昇温した後、60℃で1時間撹拌を継続して樹脂ワニス用原料成分を溶解させた。撹拌後得られた混合溶液を放冷して、樹脂ワニスを得た。
【0034】
(2)樹脂フィルムの作製
得られた樹脂ワニスを銅箔(三井金属鉱業株式会社製「MT18-G」)の表面にコンマ塗工機を用いて、乾燥後の樹脂の厚みが50μmとなるように塗付し、150℃、5分間オーブンにて乾燥させ、樹脂付銅箔を得た。得られた樹脂付銅箔2枚をそれらの樹脂同士が当接するように貼り合せ、180℃、90分間、3kgf/cm2の加熱加圧条件下で熱間真空プレス成形を施して両面銅張積層板を作製した。得られた両面銅張積層板の両面の銅を全てエッチングにより除去して、厚み100μmの樹脂フィルムを得た。
【0035】
(3)ガラス積層板の作製
得られた樹脂ワニスを銅箔(三井金属鉱業株式会社製「MT18-G」)の表面にグラビア塗工機を用いて、乾燥後の樹脂の厚さが5μmとなるように塗布し、150℃、3分間オーブンにて乾燥させて、樹脂付銅箔を得た。得られた樹脂付銅箔を100mm×100mmのサイズに切り出し、100mm×100mmサイズの厚さ0.5mmのガラスに、樹脂がガラスに当接するように貼り合せた。得られた積層体に150℃、1分間の加熱条件下で真空ラミネート成形を施してガラス積層板を得た。
【0036】
(4)各種評価
作製したガラス積層板について以下の評価を行った。
【0037】
<評価1:剥離強度>
作製したガラス積層板に配線幅10mm、配線厚み20μmの銅配線をMSAP(モディファイド・セミアディティブ・プロセス)工法により形成し、JIS C 6481に準拠して剥離強度を測定した。測定は5回実施し、その平均値を剥離強度の値とし、以下の基準に従い評価した。なお、ここで測定される剥離強度は、ガラス/樹脂間の界面剥離、樹脂内の凝集破壊、及び樹脂/銅箔間の界面剥離の3つの破壊モードが反映された値であり、その値が高いほどガラスへの密着性、樹脂層の強度、及び低粗度箔への密着性に優れることを意味している。結果は表1に示されるとおりであった。
‐評価A:0.8kgf/cm以上
‐評価B:0.3kgf/cm以上でかつ0.8kgf/cm未満
‐評価C:0.3kgf/cm未満
【0038】
<評価2:反り>
上記(3)で得られたガラス積層板を3D加熱表面形状測定装置(akrometrix社製、サーモレイPS200S)を用いて基板の反り量を測定した。反り量はガラス積層板のZ座標の最大値と最小値との差から算出した。測定は27℃雰囲気で5回行い、得られた測定値の平均値を反りとし、以下の基準に従い評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
‐評価A:700μm未満
‐評価B:700μm以上でかつ900μm未満
‐評価C:900μm以上
【0039】
<評価3:破断伸び率>
上記(2)で得られた樹脂フィルムを10mm×150mmのサイズに切り出し、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて、JISK7161-1:2014に準拠して破断伸び率(%)を測定した。このとき、オートグラフのチャック間隔は50mmとし、引張速度は50mm/minとした。測定は5回行い、得られた測定値の平均値を破断伸び率とし、以下の基準に従い評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
‐評価A:500%以上
‐評価B:200%以上でかつ500%未満
‐評価C:200%未満
【0040】
<評価4:透明性>
上記(2)で得られた樹脂フィルムを目視観察して、透明性を以下の基準に従い評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
‐評価A:樹脂フィルムが濁りなく透明に見える
‐評価C:樹脂フィルムが濁って不透明に見える
【0041】