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特許7461340ガス吸着体、ガス吸着装置及びガスセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ガス吸着体、ガス吸着装置及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240327BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 M
G01N27/04 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021509595
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013692
(87)【国際公開番号】W WO2020196762
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019065101
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超高感度有害低分子センシングシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守法 篤
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-049149(JP,A)
【文献】特開2000-055853(JP,A)
【文献】特開2016-105112(JP,A)
【文献】米国特許第07189360(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0025876(US,A1)
【文献】特開2010-078609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吸着粒子を備え、前記吸着粒子が集合して多孔質構造を構成し、
前記吸着粒子の各々は、絶縁性粒子と、前記絶縁性粒子の表面に付着している導電性粒子及び有機材料とを備える、
ガス吸着体。
【請求項2】
前記絶縁性粒子の平均粒径は、前記導電性粒子の平均粒径よりも大きい、
請求項1記載のガス吸着体。
【請求項3】
前記絶縁性粒子の平均粒径は、前記導電性粒子の平均粒径の3倍以上である、
請求項2に記載のガス吸着体。
【請求項4】
前記多孔質構造における空隙の径は、前記導電性粒子の平均粒径よりも大きい、
請求項1から3のいずれか一項に記載のガス吸着体。
【請求項5】
前記導電性粒子及び前記有機材料が、前記絶縁性粒子の表面に、膜状に付着している、
請求項1から4のいずれか一項に記載のガス吸着体。
【請求項6】
前記有機材料は、ポリマーを含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載のガス吸着体。
【請求項7】
前記導電性粒子は、炭素材料を含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載のガス吸着体。
【請求項8】
前記導電性粒子の平均粒径は10nm以上30nm以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のガス吸着体。
【請求項9】
前記絶縁性粒子の平均粒径は100nm以上1500nm未満である、
請求項1から8のいずれか一項に記載のガス吸着体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のガス吸着体と、基材とを備え、
前記ガス吸着体における前記吸着粒子は、
前記絶縁性粒子と、
前記導電性粒子からなる、前記絶縁性粒子の表面を連続的に被覆する第一の被覆層と、
前記有機材料からなる、前記第一の被覆層の表面を連続的に被覆する第二の被覆層とを備え、
前記多孔質構造は、前記吸着粒子同士が連続的に繋がり、かつ前記吸着粒子で囲まれた空隙が形成されることで構成され、
前記ガス吸着体は、前記基材に、前記第一の被覆層と前記第二の被覆層とのうち少なくとも一方で接触している、
ガス吸着装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載のガス吸着体又は請求項10に記載のガス吸着装置と、
前記ガス吸着体に電気的に接続する電極とを備える、
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス吸着体、ガス吸着装置及びガスセンサに関し、詳しくは有機材料と導電性粒子とを含むガス吸着体、ガス吸着体を備えるガス吸着装置、並びにガス吸着体又はガス吸着装置を備えるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス吸着性の有機材料と、有機材料中に分散する導電性粒子とを含むガスセンサが、提供されている。例えば特許文献1には、並行するように円形状に配置された一対の導電線を含む電気絶縁性基材と、前記一対の導電線に接触する化学感受性ポリマーと、この化学感受性ポリマー中に分散する炭素粒子とを含むケミレジスタが、開示されている。このケミレジスタにおいては、化学感受性ポリマーがガス中の揮発性有機化合物などを吸着すると、電気抵抗値の変化が生じる。このケミレジスタを用いると、ケミレジスタの電気抵抗値の変化に基づいて、ガス中の揮発性有機化合物などを検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第7189360号明細書
【発明の概要】
【0004】
本開示の課題は、有機材料と導電性粒子とを含み、ガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすいガス吸着体、ガス吸着体を備えるガス吸着装置、並びにガス吸着体又はガス吸着装置を備えるガスセンサを、提供することである。
【0005】
本開示の一態様に係るガス吸着体は、複数の吸着粒子を備える。前記吸着粒子が集合して多孔質構造を構成する。前記吸着粒子の各々は、絶縁性粒子と、絶縁性粒子の表面に付着している導電性粒子及び有機材料とを備える。
【0006】
本開示の一態様に係るガス吸着装置は、前記ガス吸着体と、基材とを備える。前記ガス吸着体における前記吸着粒子は、前記絶縁性粒子と、前記導電性粒子からなる、前記絶縁性粒子の表面を連続的に被覆する第一の被覆層と、前記有機材料からなる、前記第一の被覆層の表面を連続的に被覆する第二の被覆層とを備える。前記多孔質構造は、前記吸着粒子同士が連続的に繋がり、かつ前記吸着粒子で囲まれた空隙が形成されることで構成される。前記ガス吸着体は、前記基材に、前記第一の被覆層と前記第二の被覆層とのうち少なくとも一方で接触している。
【0007】
本開示の一態様に係るガスセンサは、前記ガス吸着体又は前記ガス吸着装置と、前記ガス吸着体に電気的に接続する電極とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本開示の一実施形態におけるガス吸着体、ガス吸着装置及びガスセンサの模式的な断面図である。
図2図2は、実施例で使用した試験用のガスセンサの模式的な平面図である。
図3図3は、実施例におけるサンプル1、サンプル2及びサンプル3の、ノナナールを吸着した場合の電気抵抗値の変化率を測定した結果を示すグラフである。
図4図4A図4B及び図4Cは、それぞれ実施例におけるサンプル7、サンプル8及びサンプル3の、断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5A図5B及び図5Cは、それぞれ実施例におけるサンプル7、サンプル8及びサンプル3の、表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図6図6は、実施例におけるサンプル3~8の、ベンズアルデヒドを吸着したことによる電気抵抗値の変化率の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例におけるサンプル3~8の、ベンズアルデヒドを吸着したことによる電気抵抗値の変化率を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本開示の完成に至った経緯の概略を説明する。
【0010】
有機材料と、有機材料中に分散する導電性粒子とを含むガス吸着体を、ガスに曝露して、ガス中の化学物質を吸着させた場合は、ガス吸着体に電気抵抗値の変化が生じる。電気抵抗値の変化の一因は、有機材料が化学物質を吸着して膨張することでガス吸着体中の導電性粒子間の距離が変化することにあると、推察される。このガス吸着体の電気抵抗値の変化を利用して、ガス中の化学物質を検出できる。すなわち、ガス吸着体を備えるガスセンサを用いて、ガス中の化学物質を検出できる。
【0011】
ガス吸着体をガスに曝露させた場合の、ガス吸着体の電気抵抗値の変化の程度が大きいほど、及び電気抵抗値の変化が速やかに生じるほど、化学物質を速やかにかつ正確に検出できる。
【0012】
しかし、有機材料及び導電性粒子の選択などによるガス吸着体の性能向上には限界があった。
【0013】
そこで、発明者らは、化学物質を含むガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすいガス吸着体を開発すべく、鋭意研究の結果、本開示の完成に至った。
【0014】
次に、本開示の一実施形態について、図1を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係るガス吸着体1は、複数の吸着粒子12を備える。吸着粒子12は、ガス吸着性を有する粒子である。ガス吸着性とは、ガスに曝露された場合にガス中に含まれる化学物質を吸着する性質のことをいう。化学物質の例は、揮発性有機化合物及び無機化合物を含む。揮発性有機化合物の例は、ケトン類、アミン類、アルコール類、芳香族炭化水素類、アルデヒド類、エステル類、有機酸、メチルメルカプタン、及びジスルフィドを含む。無機化合物の例は、硫化水素、二酸化硫黄、及び二硫化炭素を含む。吸着粒子12は、少なくとも一種の化学物質を吸着する性質を有することが好ましい。吸着粒子12がガス吸着性を有することは、技術常識に基づいて判断されうる。例えば、吸着粒子12をガスに曝露してから、吸着粒子12をガスクロマトグラフ質量分析計で分析すると、ガス由来の化学物質が検出される場合には、吸着粒子12はガス吸着性を有すると判断される。吸着粒子12は、少なくとも一種の揮発性有機化合物を吸着する性質を有することが好ましい。
【0016】
吸着粒子12が集合して多孔質構造を構成している。吸着粒子12の各々は、絶縁性粒子3と、絶縁性粒子3の表面に付着している導電性粒子21及び有機材料22とを備える。
【0017】
ガス吸着体1は、絶縁性粒子3と、吸着部2とを有するともいえる。この場合、吸着部2は、導電性粒子21と有機材料22とを含む。吸着部2においては、例えば有機材料22中に導電性粒子21が分散している。ガス吸着体1においては、表面に吸着部2が付着した絶縁性粒子3が集合して、多孔質構造を構成している。
【0018】
具体的には、例えば吸着粒子12は、絶縁性粒子3と、導電性粒子21からなる、絶縁性粒子3の表面を連続的に被覆する第一の被覆層23と、有機材料22からなる、第一の被覆層23の表面を連続的に被覆する第二の被覆層24とを備える。ガス吸着体1における多孔質構造は、吸着粒子12同士又が連続的に繋がり、かつ吸着粒子12で囲まれた空隙11が形成されることで、構成される。すなわち、多孔質構造における空隙11は、吸着粒子12で囲まれている。この場合、吸着部2は、吸着粒子12が集合することで吸着粒子12同士の第一の被覆層23及び第二の被覆層24が一体化することにより構成される。
【0019】
本実施形態に係るガス吸着装置20は、ガス吸着体1と、基材6とを備える。例えばガス吸着体1は、基材6に、第一の被覆層23と第二の被覆層24とのうち少なくとも一方で接触している。
【0020】
具体的には、例えば導電性粒子21及び有機材料22が、絶縁性粒子3の表面に、膜状に付着している。吸着部2は膜状であって、絶縁性粒子3の表面に付着して絶縁性粒子3を覆っているともいえる。この場合、導電性粒子21及び有機材料22(吸着部2)は、絶縁性粒子3の全体を覆っていてもよく、一部のみを覆っていてもよい。ガス吸着体1内では、隣り合う絶縁性粒子3同士の間隔が小さく又は絶縁性粒子3同士が接している場合には、絶縁性粒子3に付着している導電性粒子21及び有機材料22(吸着部2)同士が接合して一体化しやすく、隣り合う絶縁性粒子3同士の間隔が大きい場合には、空隙11が形成されやすい。これにより、表面に導電性粒子21及び有機材料22(吸着部2)が付着した絶縁性粒子3が集合して、多孔質構造を構成する。なお、実際に間隔がどの程度小さければ吸着部2同士が接合しやすく、どの程度大きければ空隙11が形成されやすいのかは、個別の事情によって異なり、具体的には規定しがたい。
【0021】
本実施形態に係るガス吸着体1がガスに曝露されると、有機材料22がガス中の化学物質を吸着し、それに伴ってガス吸着体1の電気抵抗値が変化する。
【0022】
本実施形態によれば、ガス吸着体1がガスに曝露された際の電気抵抗値の変化が速やかに生じやすい。すなわち、ガス吸着体1の応答性が向上しやすい。その一因は、ガス吸着体1が多孔質であることで、ガス吸着体1内の空隙11にガスが入り込みやすくなり、すなわちガス吸着体1のガスの透過性が向上し、その結果、ガス吸着体1がガス中の化学物質を効率良く吸着できることにあると、推察される。
【0023】
有機材料22は、ガス吸着性を有することが好ましい。ガス吸着性とは、ガスに曝露された場合にガス中に含まれる化学物質を吸着する性質のことをいう。化学物質の例は、揮発性有機化合物及び無機化合物を含む。揮発性有機化合物の例は、ケトン類、アミン類、アルコール類、芳香族炭化水素類、アルデヒド類、エステル類、有機酸、メチルメルカプタン、及びジスルフィドを含む。無機化合物の例は、硫化水素、二酸化硫黄、及び二硫化炭素を含む。有機材料22は、少なくとも一種の化学物質を吸着する性質を有することが好ましい。有機材料22がガス吸着性を有することは、技術常識に基づいて判断されうる。例えば、有機材料22をガスに曝露してから、有機材料22をガスクロマトグラフ質量分析計で分析すると、ガス由来の化学物質が検出される場合には、有機材料22はガス吸着性を有すると判断される。有機材料22は、少なくとも一種の揮発性有機化合物を吸着する性質を有することが好ましい。
【0024】
有機材料22は、ガス吸着体1が吸着すべき化学物質の種類、ガス吸着体1中の導電性粒子21の種類などに応じて、選択される。有機材料22は、例えば、ポリマー及び低分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。有機材料22は、特にポリマーを含むことが好ましい。有機材料22がポリマーを含むと、ガス吸着体1は耐熱性を有することができる。
【0025】
有機材料22の好ましい例は、ガスクロマトグラフにおけるカラムの固定相として市販されている材料を含む。より具体的には、有機材料22は、例えば、ポリアルキレングリコール類、ポリエステル類、シリコーン類、グリセロール類、ニトリル類、ジカルボン酸モノエステル類及び脂肪族アミン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。この場合、有機材料22は、ガス中の化学物質、特に揮発性有機化合物を、容易に吸着できる。
【0026】
ポリアルキレングリコール類は、例えば、ポリエチレングリコール(耐熱温度170℃)を含む。ポリエステル類は、例えば、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)及びポリ(エチレンサクシネート)からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。シリコーン類は、例えば、ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン及びシアノシリコーン(耐熱温度275℃)からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。グリセロール類は、例えば、ジグリセロール(耐熱温度150℃)を含む。ニトリル類は、例えば、N,N-ビス(2-シアノエチル)ホルムアミド(耐熱温度125℃)及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン(耐熱温度150℃)からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。ジカルボン酸モノエステル類は、例えば、ニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコール(耐熱温度275℃)及びジエチレングリコールサクシネート(耐熱温度225℃)からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。脂肪族アミン類は、例えば、テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン(耐熱温度125℃)を含む。
【0027】
導電性粒子21は、例えば、炭素材料、導電性ポリマー、金属、金属酸化物、半導体、超伝導体及び錯化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。炭素材料は、例えばカーボンブラック、グラファイト、コークス、カーボンナノチューブ、グラフェン及びフラーレンからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。導電性ポリマーは、例えばポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアセチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。金属は、例えば、銀、金、銅、白金及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。金属酸化物は、例えば酸化インジウム、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。半導体は、例えば、ケイ素、ガリウムヒ素、リン化インジウム及び硫化モリブデンからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。超伝導体は、例えば、YBa2Cu37及びTl2Ba2Ca2Cu310からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。錯化合物は、例えば、テトラメチルパラフェニレンジアミンとクロラニルとの錯化合物、テトラシアノキノジメタンとアルカリ金属との錯化合物、テトラチアフルバレンとハロゲンとの錯化合物、イリジウムとハロカルボニル化合物との錯化合物、及びテトラシアノ白金からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を含む。
【0028】
導電性粒子21は、炭素材料を含むことが好ましい。導電性粒子21がカーボンブラックを含むことが特に好ましい。導電性粒子21が炭素材料、特にカーボンブラックを含むと、ガスに曝露された場合にガス吸着体1の電気抵抗値の変化が特に生じやすい。
【0029】
導電性粒子21の平均粒径は、50nmよりも小さいことが好ましく、44nm以下であればより好ましく、30nm以下であれば更に好ましい。平均粒径が25nm以下であることも好ましく、20nm以下であることも好ましく、15nm以下であれば特に好ましい。導電性粒子21の平均粒径が小さいほど、化学物質を吸着した場合のガス吸着体1の抵抗値の変化率が大きくなる。すなわちガス吸着体1の感度が向上する。
【0030】
本実施形態では、たとえ導電性粒子21の平均粒径が上記のように小さくとも、絶縁性粒子3を利用することで、ガス吸着体1の多孔質構造を実現しやすい。すなわち、導電性粒子21の平均粒径が小さいことで空隙11が生じにくい場合であっても、絶縁性粒子3の粒径を調整することで、空隙11を生じさせて、多孔質構造を実現できる。
【0031】
吸着部2内の導電性粒子21の平均粒径の下限は特に規定されない。ただし、導電性粒子21を凝集しにくくしてガス吸着体1の均質性を高めるためには、平均粒径は5nm以上であることが好ましく、10nm以上であればより好ましい。
【0032】
なお、導電性粒子21の平均粒径は、導電性粒子21の電子顕微鏡写真から求めた粒径の個数基準の算術平均値である。具体的には、電子顕微鏡写真を画像処理して電子顕微鏡写真に現れる導電性粒子21の各々の面積を導出し、この導電性粒子21の面積から、導電性粒子21の各々の真円換算の直径を算出し、この直径の平均値を求めることにより、平均粒径が得られる。
【0033】
なお、導電性粒子21の形状に制限はなく、球状でも、楕円球状でも、破砕状でも、鱗片状でもよい。
【0034】
絶縁性粒子3は、例えば電気絶縁性を有する樹脂材料と、電気絶縁性を有する無機材料とのうち、少なくとも一方を含む。絶縁性粒子3は、電気絶縁性を有する樹脂材料は、例えば、シリコーン、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ乳酸樹脂、エチルセルロース樹脂、及びポリエーテルスルホン樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種の材料を含む。電気絶縁性を有する無機材料は、例えばシリカ、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化銅、酸化タングステン、酸化鉄ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化イットリウ、チタン酸バリウム、ヒドロキシアパタイト、炭化チタン、及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の材料を含む。
【0035】
なお、絶縁性粒子3の形状に制限はなく、球状でも、楕円球状でも、破砕状でも、鱗片状でもよい。
【0036】
絶縁性粒子3の平均粒径は50nm以上2000nm以下であることが好ましい。この場合、ガス吸着体1内にガスの透過に適したサイズの空隙11が形成されやすくなるため、ガス吸着体1の応答性が特に向上しやすい。絶縁性粒子3の平均粒径は100nm以上であればより好ましい。また、絶縁性粒子3の平均粒径は1500nm未満であることがより好ましい。この場合、ガス吸着体1の感度が向上しやすい。これは、平均粒径が1500nm未満であると空隙11のサイズが大きくなりすぎず、そのことが空隙11の比表面積を大きくするためであると、推察される。
【0037】
なお、絶縁性粒子3の平均粒径は、動的光散乱法を用いて求められた粒子径分布より算出された数値である。平均粒径を測定するための測定装置としては、例えばマルバーン社製ゼータサイザーナノZS90を使用できる。
【0038】
絶縁性粒子3の平均粒径は、導電性粒子21の平均粒径よりも大きいことが好ましい。この場合、絶縁性粒子3の表面に導電性粒子21が付着しやすく、またそのため第一の被覆層23が形成されやすい。このため、空隙11を有する多孔質構造が形成されやすい。
【0039】
特に絶縁性粒子3の平均粒径は、導電性粒子21の平均粒径の3倍以上であることが好ましい。この場合、空隙11が形成されやすく、かつ空隙11がガスが通過するのに適したサイズを有しやすい。絶縁性粒子3の平均粒径は、導電性粒子21の平均粒径の5倍以上であればより好ましい。導電性粒子21の平均粒径に対する絶縁性粒子3の平均粒径の比率の上限は特に制限されないが、例えば100以下である。
【0040】
多孔質構造における空隙11の径は、導電性粒子21の平均粒径よりも大きいことが好ましい。この場合、ガス吸着体1の多孔質構造が実現されやすく、かつガス吸着体1内にガス透過に適したサイズの空隙11が形成されやすい。空隙11の径は次の方法で特定される。ガス吸着体1を切断し、それにより生じた断面を研磨する。この断面を電子顕微鏡で観察して画像を得る。この画像に現れる各空隙11の輪郭に内接する最大の内接円の径の値を測定する。10個の空隙11について内接円の径の値を測定し、そのうち上位2つの値と下位2つの値を除いた6つの値の平均を、空隙11の径とする。
【0041】
ガス吸着体1を構成する有機化合物、導電性粒子21及び絶縁性粒子3の量は、導電性粒子21の粒径、絶縁性粒子3の粒径などに応じて、本実施形態に係るガス吸着体1の多孔質構造が実現できるように適宜設定される。特に絶縁性粒子3と、導電性粒子21と、有機材料22との質量比が、1:1:1に近いことが好ましい。この場合、ガス吸着体1の多孔質構造が実現されやすく、かつガス吸着体1内にガス透過に適したサイズの空隙11が形成されやすい。
【0042】
ガス吸着体1は、膜状であることが好ましい。すなわち、ガス吸着体1は、多孔質な膜であることが好ましい。この場合、ガス吸着体1の比表面積が大きくなることで、ガス吸着体1がガス中の化学物質を吸着しやすくなる。ガス吸着体1の厚みは、例えば0.1μm以上10μm以下である。
【0043】
ガス吸着体1又はガス吸着装置20を備えるガスセンサ10について説明する。ガスセンサ10は、ガス吸着体1又はガス吸着装置20と、ガス吸着体1に電気的に接続する電極5とを備える。このガスセンサ10を用いると、ガス吸着体1が化学物質を含むガスに曝露された場合に、ガス吸着体1が化学物質を吸着することで、ガス吸着体1の電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化に基づいて、化学物質を検出できる。本実施形態では、上記のとおり、ガス吸着体1がガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすい。このため、ガスセンサ10を用いることで、ガス中の化学物質を精度良く検出できる。
【0044】
ガスセンサ10の一具体例を、図1を参照して説明する。ガスセンサ10は、ガス吸着体1及び電極5を備える。電極5は、第一電極51及び第二電極52を含む。ガスセンサ10は、更に基材6を備える。すなわち、この具体例におけるガスセンサ10は、ガス吸着装置20と基材6とを備える。
【0045】
基材6は電気絶縁性を有する。基材6は一つの面(以下、支持面61という)を有し、支持面61上に、第一電極51、第二電極52及びガス吸着体1が配置されている。基材6は、例えば、支持面61と直交する方向の厚みを有する板の形状を有する。第一電極51及び第二電極52は、支持面61の向く方向と直交する方向に間隔をあけて配置されている。
【0046】
ガス吸着体1は、基材6の支持面61上に配置されている。ガス吸着体1は、例えば上記のとおり、基材6に、第一の被覆層23と第二の被覆層24とのうち少なくとも一方で接触している。ガス吸着体1は、第一電極51及び第二電極52を覆っている。これにより、ガス吸着体1と第一電極51及び第二電極52の各々とが接触している。なお、ガス吸着体1と第一電極51及び第二電極52の各々との電気的接続は、いかなる構造によって達成されてもよい。例えばガス吸着体1は、第一電極51の全体に接触していてもよく、一部に接触していてもよい。またガス吸着体1は、第二電極52の全体に接触していてもよく、一部に接触していてもよい。
【0047】
このガスセンサ10の第一電極51と第二電極52との間に電圧が印加されると、ガス吸着体1に、電圧及びガス吸着体1の電気抵抗値に応じた電流が流れる。このため、ガス吸着体1の電気抵抗値を測定できる。この電気抵抗値の値から化学物質を検出できる。なお、第一電極51と第二電極52との間に定電圧を印加した状態での第一電極51と第二電極52との間に流れる電流の値から化学物質を検出してもよい。ガス吸着体1に定電流を流した状態での第一電極51と第二電極52との間の電圧降下量から化学物質を検出してもよい。すなわち、ガス吸着体1の電気抵抗値の変化に応じて変化する指標に基づいて化学物質を検出すればよい。
【0048】
このガスセンサ10を製造する場合は、例えば基材6の支持面61上に第一電極51及び第二電極52を設けてから、支持面61上にガス吸着体1を作製する。
【0049】
本実施形態に係るガス吸着体1の製造方法について説明する。
【0050】
有機材料22と、導電性粒子21と、絶縁性粒子3と、溶剤とを含有する混合液を準備し、混合液から成形体を形成し、成形体中の溶剤を揮発させることで、ガス吸着体1を製造できる。
【0051】
製造方法について、より具体的に説明する。まず、有機材料22と、導電性粒子21と、絶縁性粒子3と、溶剤とを含有する混合液を準備する。
【0052】
有機材料22、導電性粒子21、及び絶縁性粒子3については、既に説明したとおりである。
【0053】
溶剤は、有機材料22を溶解させ又は分散させることができ、かつ導電性粒子21及び絶縁性粒子3を分散させることができ、更に成形体から揮発しうるのであれば、制限はない。溶剤は、例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、トルエン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、及び酢酸ブチルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0054】
次に、混合液から成形体を形成する。成形体は、膜状であることが好ましい。この場合、膜状のガス吸着体1を製造できる。なお、膜には、フィルム、シート、及び層などが、含まれうる。成形体の形成方法に制限はない。例えば混合液をインクジェット法、ディスペンス法といった方法で塗布することで、成形体を形成できる。成形体の厚みは例えば0.1μm以上10μm以下である。
【0055】
次に、成形体中の溶剤を揮発させる。溶剤を揮発させる方法に制限はない。例えば成形体に熱処理を施すことで、成形体から溶剤を揮発させることができる。成形体を減圧下に配置することで、成形体から溶剤を揮発させることもできる。成形体に減圧下で熱処理を施すことで、成形体から溶剤を揮発させることもできる。熱処理の温度は、溶剤の種類に応じ、溶剤の揮発を促進できるように適宜設定される。熱処理の温度は、例えば30℃以上90℃以下である。また、熱処理の温度は、有機材料22が熱分解せず、又は熱分解が進行しにくいように、設計されることが好ましい。そのために、例えば熱処理の温度は、有機材料22の耐熱温度より30℃低い温度未満であることが好ましい。熱処理の時間は、熱処理によって成形体中の溶剤の全て又は殆どが揮発するように、設計されることが好ましい。熱処理の時間は、例えば10分以上60分以下である。
【実施例
【0056】
以下、本実施形態に関する試験方法及び試験結果を提示する。なお、下記の試験方法及び試験結果は、本実施形態の構成を制限するものではない。
【0057】
1.導電性粒子の粒径の影響の確認
導電性粒子21として平均粒径50nmのカーボンブラックを準備した。溶剤として、ジメチルホルムアミドを準備した。有機材料22として、ポリエチレングリコールを準備した。
【0058】
溶媒に導電性粒子21及び有機材料22を加えて撹拌することで、導電性粒子21を10mg/mlの濃度で含み、かつ有機材料22を10mg/mlの濃度で含む混合液を調製した。
【0059】
混合液をインクジェット法で塗布することで、膜状の成形体を形成した。この成形体に50℃で20分間熱処理を施すことで、成形体から溶媒を揮発させた。
【0060】
これにより、絶縁性粒子3を含有しないガス吸着体1であるサンプル1を得た。また、カーボンブラックの平均粒径を44nmに変更した以外はサンプル1の場合と同じ方法で、ガス吸着体1であるサンプル2を得た。また、カーボンブラックの平均粒径を15nmに変更した以外はサンプル1の場合と同じ方法で、ガス吸着体1であるサンプル3を得た。
【0061】
サンプル1~3の各々を用いて、試験用のガスセンサ10を作製した。試験用のガスセンサ10の構造の概略は図2に示すとおりである。このガスセンサ10には、電気絶縁性の基材6の上に、第一電極51と第二電極52とを、くし形電極系を構成するように設けた。くし形電極系の、くし形の歯に沿った方向の寸法L1は520μm、くし形の歯に直交する方向の寸法L2は500μmである。さらに、基材6の上に第一電極51及び第二電極52を覆うように電気絶縁性の膜(絶縁膜9)を設けた。絶縁膜9には、図2中に示す幅5μmの帯状の開口70を、第一電極51及び第二電極52に重なるように設けた。図2中に示す開口70の中心間の寸法L3は60μmである。さらに、基材6の上に、絶縁膜9を覆うように、ガス吸着体1である各サンプルを、1μmの厚みを有するように設けた。そのためガス吸着体1は、開口70を通じて第一電極51及び第二電極52に接触する。ガス吸着体1の図2に示す径D3の寸法は900μmである。また、ガスセンサ10には、第一電極51の一端から延びてガス吸着体1の外側の突出する第一端子81と、第二電極52の一端から延びてガス吸着体1の外側に突出する第二端子82とを、設けた。
【0062】
第一端子81と第二端子82との間に定電圧を印加した状態で、ガスセンサ10を窒素気流中に配置してから、気流中にノナナールを1体積ppmの濃度で混入した。これにより、各サンプルの電気抵抗値が殆ど変化しなくなるまで、各サンプルをノナナールを含む気流中に暴露した。各サンプルの電気抵抗値は、第一端子81と第二端子82との間に流れる電流を測定した結果から算出した。
【0063】
図3に、窒素気流中での電気抵抗値を基準とした、各サンプル電気抵抗値の変化率を示す。この結果から明らかなように、平均粒径50nmのサンプル1と比べて、平均粒径44nmのサンプル2では電気抵抗値の変化率が大きく上昇し、平均粒径15nmのサンプル3では電気抵抗値の変化利率が著しく上昇した。
【0064】
これにより、導電性粒子21の粒径が感度に与える影響が確認できた。
【0065】
2.サンプルの作製
絶縁性粒子3として平均粒径10nmのシリカ粒子を用意した。導電性粒子21として平均粒径15nmのカーボンブラックを準備した。溶剤として、ジメチルホルムアミドを準備した。有機材料22として、ポリエチレングリコールを準備した。
【0066】
溶媒に絶縁性粒子3、導電性粒子21及び有機材料22を加えて撹拌することで、絶縁性粒子3を10mg/mlの濃度で含み、導電性粒子21を10mg/mlの濃度で含み、かつ有機材料22を10mg/mlの濃度で含む混合液を調製した。
【0067】
混合液をインクジェット法で塗布することで、膜状の成形体を形成した。この成形体に50℃で20分間熱処理を施すことで、成形体から溶媒を揮発させた。
【0068】
これにより、ガス吸着体1であるサンプル4を得た。また、シリカ粒子の平均粒径を30nmに変更した以外はサンプル4の場合と同じ方法で、ガス吸着体1であるサンプル5を得た。また、シリカ粒子の平均粒径を100nmに変更した以外はサンプル4の場合と同じ方法で、ガス吸着体1であるサンプル6を得た。また、シリカ粒子の平均粒径を500nmに変更したこと以外はサンプル4の場合と同じ方法で、ガス吸着体1であるサンプル7を得た。また、シリカ粒子の平均粒径を1500nmに変更したこと以外はサンプル4の場合と同じ方法で、ガス吸着体1であるサンプル8を得た。
【0069】
3.評価試験
上記のサンプル4~8、並びに導電性粒子21の粒径の影響の確認のために作製したサンプル3について、次の評価試験を行った。
【0070】
3-1.画像観察
各サンプルの表面、並びに各サンプルを厚み方向に切断した切断面を、走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、絶縁性粒子3を含まないサンプル3、並びに絶縁性粒子3の平均粒径がそれぞれ10nm及び30nmであるサンプル4及び5では、空隙11は認められなかった。これに対して、絶縁性粒子3の平均粒径が100nm以上であるサンプル6~8では、空隙11が認められた。
【0071】
参考までに、サンプル7(絶縁性粒子3の平均粒径500nm)、サンプル8(絶縁性粒子3の平均粒径1500nm)及びサンプル3(絶縁性粒子3なし)の、断面写真を図4A図4B、及び図4Cにそれぞれ示し、表面写真を図5A図5B、及び図5Cにそれぞれ示す。これらに示されるように、サンプル3では空隙11が認められないのに対して、サンプル7及び8では、絶縁性粒子3に吸着部2が付着し、かつ空隙11が生じて多孔質構造が形成されている様子が観察された。なお、図4Aに示されるサンプル7の断面写真では、断面に剥離が生じてしまったため、図4Bに示されるサンプル8ほどはっきりはしないが、空隙11の存在が認められる。
【0072】
サンプル7、8について、空隙11の径を測定した。具体的には、サンプル7及び8の各々を切断し、それにより生じた断面を研磨した。この断面を電子顕微鏡で観察して画像を得た。この画像に現れる各空隙11の輪郭に内接する最大の内接円の径の値を測定した。10個の空隙11について内接円の径の値を測定し、そのうち上位2つの値と下位2つの値を除いた6つの値の平均を、空隙11の径とした。その結果、空隙11の径は、サンプル7では191nm、サンプル8では684nmであった。
【0073】
3-2.センサ特性の評価
各サンプルのセンサ特性を、上記の「1.導電性粒子の粒径の影響の確認」の場合と同じ構成のガスセンサ10を用いて、下記の方法で確認した。
【0074】
センサの第一端子81と第二端子82との間に定電圧を印加した状態で、ガスセンサ10を窒素気流中に配置してから、気流中にベンズアルデヒドを1体積ppmの濃度で約5秒間混入した。この過程での、第一端子81と第二端子82との間に流れる電流を測定し、その結果からガス吸着体1である各サンプルの電気抵抗値を算出した。
【0075】
図6に、各サンプルの電気抵抗値の経時変化を示す。横軸は経過時間を示し、横軸の目盛りで30秒過ぎの時点から35秒過ぎの時点までの間、気流中にベンズアルデヒドを混入した。また、縦軸は、各サンプルの規格化された電気抵抗値を示す。なお、規格化された電気抵抗値は、事前に各サンプルの電気抵抗値を窒素気流中で測定した結果を1として規定した。また、図7に、この試験を3回行った場合の、気流中へのベンズアルデヒドの混入開始から5秒経過時の、各サンプルの規格化された電気抵抗値の平均値を示す。
【0076】
図6に示す結果によると、いずれのサンプルの場合でも、電気抵抗値は気流中にベンズアルデヒドが混入された時点で上昇し、気流中からベンズアルデヒドがなくなったら低下した。
【0077】
これらのサンプルのうち、絶縁性粒子3の平均粒径がそれぞれ10nm及び30nmであって空隙11が認められないサンプル4及び5では、絶縁性粒子3を含まないサンプル3と比べても、電気抵抗値が上昇しにくく、すなわち応答性が低かった。
【0078】
一方、絶縁性粒子3の平均粒径が100nm以上であるサンプル6~8では、気流中にベンズアルデヒドが混入するとサンプル3よりも速やかに電気抵抗値が上昇した。特に絶縁性粒子3の平均粒径が100nmであるサンプル6及び500nmであるサンプル7、特にサンプル7では、図6及び7に示すように、5秒経過時の電気抵抗値の変化率が、他のサンプルよりも高く、サンプル6及び7が高い感度を有することが確認できた。
【0079】
以上の実施形態及び実施例から明らかなように、本開示の第1の態様に係るガス吸着体(1)は、絶縁性粒子(3)と、導電性粒子(21)と、有機材料(22)とを備える。絶縁性粒子(3)の表面に、導電性粒子(21)及び有機材料(22)が付着して吸着粒子(12)を構成する。吸着粒子(12)が集合して多孔質構造を構成している。
【0080】
第1の態様によれば、有機材料(22)と導電性粒子(21)とを含み、ガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすいガス吸着体(1)が得られる。
【0081】
本開示の第2の態様に係るガス吸着体(1)では、第1の態様において、絶縁性粒子(3)の平均粒径は、導電性粒子(21)の平均粒径よりも大きい。
【0082】
第2の態様によると、ガス吸着体(1)の多孔質構造が実現されやすい。
【0083】
本開示の第3の態様に係るガス吸着体(1)では、第1又は第2の態様において、絶縁性粒子(3)の平均粒径は、導電性粒子(21)の平均粒径の3倍以上である。
【0084】
第3の態様によると、ガス吸着体(1)の多孔質構造が実現されやすい。
【0085】
本開示の第4の態様に係るガス吸着体(1)では、第1から第3のいずれか一の態様において、多孔質構造における空隙(11)の径は、導電性粒子(21)の平均粒径よりも大きい。
【0086】
第4の態様によると、ガス吸着体(1)の多孔質構造が実現されやすい。
【0087】
本開示の第5の態様に係るガス吸着体(1)では、第1から第4のいずれか一の態様において、導電性粒子(21)及び有機材料(22)が、絶縁性粒子(3)の表面に、膜状に付着している。
【0088】
第5の態様によれば、ガス吸着体(1)にガスが特に吸着しやすい。
【0089】
本開示の第6の態様に係るガス吸着体(1)では、第1から第5のいずれか一の態様において、有機材料(22)は、ポリマーを含有する。
【0090】
第6の態様によれば、ガス吸着体(1)は耐熱性を有することができる。
【0091】
本開示の第7の態様に係るガス吸着体(1)では、第1から第6のいずれか一の態様において、導電性粒子(21)は、炭素材料を含む。
【0092】
第7の態様によると、ガスに曝露された場合にガス吸着体(1)の電気抵抗値の変化が特に生じやすい。
【0093】
本開示の第8の態様に係るガス吸着体(1)では、第1から第7のいずれか一の態様において、導電性粒子(21)の平均粒径は10nm以上30nm以下である。
【0094】
第8の態様によると、ガス吸着体(1)が化学物質を吸着した場合のガス吸着体(1)の感度が向上しやすい。
【0095】
本開示の第9の態様に係るガス吸着体(1)は、第1から第8のいずれか一の態様において、絶縁性粒子(3)の平均粒径は100nm以上1500nm未満である。
【0096】
第9の態様によると、ガス吸着体(1)が化学物質を吸着した場合のガス吸着体(1)の応答性が向上しやすい。
【0097】
本開示の第10の態様に係るガス吸着装置(20)は、第1から第9のいずれか一の態様に係るガス吸着体(1)と、基材(6)とを備える。ガス吸着体(1)における吸着粒子(12)は、絶縁性粒子(3)と、導電性粒子(21)からなる、絶縁性粒子(3)の表面を連続的に被覆する第一の被覆層(23)と、有機材料(22)からなる、第一の被覆層(23)の表面を連続的に被覆する第二の被覆層(24)とを備える。多孔質構造は、吸着粒子(12)同士が連続的に繋がり、かつ吸着粒子(12)で囲まれた空隙(11)が形成されることで構成される。ガス吸着体(1)は、基材(6)に、第一の被覆層(23)と第二の被覆層(24)とのうち少なくとも一方で接触している。
【0098】
第10の態様によれば、有機材料(22)と導電性粒子(21)とを含み、ガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすいガス吸着体(1)を備えるガス吸着装置(20)が得られる。
【0099】
本開示の第11の態様に係るガスセンサ(10)は、第1から第9のいずれか一の態様に係るガス吸着体(1)又は第10の態様に係るガス吸着装置(20)と、ガス吸着体(1)に電気的に接続する電極(5)とを備える。
【0100】
第11の態様によれば、有機材料(22)と導電性粒子(21)とを含み、ガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすいガス吸着体(1)を備えるガスセンサ(10)が得られる。
【0101】
本開示の第12の態様に係るガス吸着体(1)の製造方法では、有機材料(22)と、導電性粒子(21)と、絶縁性粒子(3)と、溶剤とを含有する混合液を準備し、混合液から成形体を形成し、成形体中の溶剤を揮発させる。
【0102】
第12の態様によれば、有機材料(22)と導電性粒子(21)とを含み、ガスに曝露された場合に電気抵抗値の変化が生じやすいガス吸着体(1)を製造できる。
【0103】
本開示の第13の態様に係るガス吸着体(1)の製造方法では、第12の態様において、成形体を膜状に形成することで、ガス吸着体(1)を膜状に形成する。
【0104】
第13の態様によれば、ガス吸着体(1)の比表面積を大きくして、ガス吸着体(1)がガス中の化学物質を吸着しやすくできる。
【符号の説明】
【0105】
1 ガス吸着体
11 空隙
12 吸着粒子
2 吸着部
21 導電性粒子
22 有機材料
23 第一の被覆層
24 第二の被覆層
3 絶縁性粒子
5 電極
10 ガスセンサ
20 ガス吸着装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7