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特許7461343複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240327BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20240327BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C33/12
B29C45/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021516084
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016939
(87)【国際公開番号】W WO2020218210
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019080574
(32)【優先日】2019-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019138023
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲
(72)【発明者】
【氏名】本澤 進一
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴史
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-277300(JP,A)
【文献】実開昭57-053322(JP,U)
【文献】特開平09-029751(JP,A)
【文献】特開平08-303589(JP,A)
【文献】特開2002-086489(JP,A)
【文献】特表2014-529537(JP,A)
【文献】特開2005-161539(JP,A)
【文献】特開2017-140767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型を用いた、多孔質板材と樹脂成形部とが一体化した複合部材の製造方法であって、
前記成形型は、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接可能な基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記一方の型は、前記基端部と当接することによって前記可動ピンの後退を停止可能な当接部を有し、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記製造方法は、
前記先端部が前記他方の型側へ向けて突き出した状態とされた前記可動ピンを用いて、前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めし、
前記一方の型および前記他方の型を型締めして前記多孔質板材を押圧し、また、前記他方の型により前記可動ピンの先端部を押圧して前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンを後退させ、
前記キャビティ内に合成樹脂原料を注入し、その流れを前記可動ピンの前記先端部に作用させて前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンをさらに後退させ、前記可動ピンの前記先端部の後退したスペースまで前記合成樹脂原料を入り込ませた状態で前記合成樹脂原料を硬化させて樹脂成形部を形成することにより、前記多孔質板材と前記樹脂成形部とが一体化した前記複合部材を製造する、複合部材の製造方法。
【請求項2】
成形型を用いた、多孔質板材と樹脂成形部とが一体化した複合部材の製造方法であって、
前記成形型は、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接可能な基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記多孔質板材には貫通孔が設けられており、
前記製造方法は、
前記先端部が前記他方の型側へ向けて突き出した状態とされた前記可動ピンを用いて、前記貫通孔に前記可動ピンを挿通することにより前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めし、
前記一方の型および前記他方の型を型締めして前記多孔質板材を押圧し、また、前記他方の型により前記可動ピンの先端部を押圧して前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンを後退させ、
前記キャビティ内に合成樹脂原料を注入し、その流れを前記可動ピンの前記先端部に作用させて前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンをさらに後退させ、前記可動ピンの前記先端部の後退したスペースまで前記合成樹脂原料を入り込ませた状態で前記合成樹脂原料を硬化させて樹脂成形部を形成することにより、前記多孔質板材と前記樹脂成形部とが一体化した前記複合部材を製造する、複合部材の製造方法。
【請求項3】
成形型を用いた、多孔質板材と樹脂成形部とが一体化した複合部材の製造方法であって、
前記多孔質板材は発泡体又は樹脂製不織布であり、
前記成形型は、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接可能な基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記製造方法は、
前記先端部が前記他方の型側へ向けて突き出した状態とされた前記可動ピンを用いて、前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めし、
前記一方の型および前記他方の型を型締めして前記多孔質板材を押圧し、また、前記他方の型により前記可動ピンの先端部を押圧して前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンを後退させ、
前記キャビティ内に合成樹脂原料を注入し、その流れを前記可動ピンの前記先端部に作用させて前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンをさらに後退させ、前記可動ピンの前記先端部の後退したスペースまで前記合成樹脂原料を入り込ませた状態で前記合成樹脂原料を硬化させて樹脂成形部を形成することにより、前記多孔質板材と前記樹脂成形部とが一体化した前記複合部材を製造する、複合部材の製造方法。
【請求項4】
多孔質板材と樹脂成形部とが一体化し、少なくとも枠部と、前記枠部の中を横断するように設けられる桟部を有する複合部材の、成形型を用いた製造方法であって、
前記成形型は、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接可能な基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記一方の型は、前記他方の型側へ延びる食い込み用突起を有し、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記キャビティは、
前記多孔質板材が配置される多孔質板材用キャビティ部分と、
前記多孔質板材用キャビティ部分を囲み、前記枠部を形成する枠部用キャビティ部分と、
前記桟部を形成する桟部用キャビティ部分と、を有し、
前記製造方法は、
前記先端部が前記他方の型側へ向けて突き出した状態とされた前記可動ピンを用いて、前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めし、
前記一方の型および前記他方の型を型締めして前記多孔質板材を押圧し、また、前記他方の型により前記可動ピンの先端部を押圧して前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンを後退させ、
前記キャビティ内に合成樹脂原料を注入し、その流れを前記可動ピンの前記先端部に作用させて前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンをさらに後退させ、前記可動ピンの前記先端部の後退したスペースまで前記合成樹脂原料を入り込ませた状態で前記合成樹脂原料を硬化させて樹脂成形部を形成することにより、前記多孔質板材と前記樹脂成形部とが一体化した前記複合部材を製造し、
前記食い込み用突起は前記多孔質板材を高密度で圧縮し、シール跡を形成する、複合部材の製造方法。
【請求項5】
孔質板材と樹脂成形部とが一体化し、少なくとも枠部と、前記枠部の中を横断するように設けられる桟部を有する複合部材を製造するための成形型であって、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接可能な基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記一方の型は、前記他方の型に向かって延びる食い込み用突起を有し、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する前記他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記可動ピンの前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記キャビティは、
前記多孔質板材が配置される多孔質板材用キャビティ部分と、
前記多孔質板材用キャビティ部分を囲み、前記枠部を形成する枠部用キャビティ部分と、
前記枠部用キャビティ部分の内部に設けられる桟部用キャビティ部分を有し、
前記弾性体の弾性係数は、前記キャビティに注入される合成樹脂原料の流れによって前記可動ピンの前記先端部が前記他方の型のキャビティ面から後退するように調整されている、成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にはエンジンのアンダーカバーやインストルメントパネルのアンダーカバーなどの車両用部材が設けられている。これらの車両用部材を、多孔質シートと樹脂成形部からなる複合部材として形成して軽量化を図る試みが知られている。また例えば特許文献1、2などに、このように複合材料で形成した車両用部材に吸音性能を付与しようとする開発も進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開平10-296786号公報
【文献】日本国特開2017-213727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1が提案する成形機では、製品の意匠面に位置決めピンの痕跡である孔が空いてしまうので、見栄えが悪い。また孔が開くことによって遮音性能が低下する。
特許文献2が提案する手法では、得るべき複合部材の寸法よりも長い複合部材を成形した後に、余長部分をカットする後加工工程が必要になる。このため、後加工工程によってコストが嵩む。
【0005】
本発明は、意匠面に孔が設けられることのない複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、
成形型を用いた、多孔質板材と樹脂成形部とが一体化した複合部材の製造方法であって、
前記成形型は、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接した基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記製造方法は、
前記先端部が前記他方の型側へ向けて突き出した状態とされた前記可動ピンを用いて、前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めし、
前記一方の型および前記他方の型を型締めして前記多孔質板材を押圧し、また、前記他方の型により前記可動ピンの先端部を押圧して前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンを後退させ、
前記キャビティ内に合成樹脂原料を注入し、その流れを前記可動ピンの前記先端部に作用させて前記弾性体の弾性復元力に抗して前記可動ピンをさらに後退させ、前記可動ピンの前記先端部の後退したスペースまで前記合成樹脂原料を入り込ませた状態で前記合成樹脂原料を硬化させて樹脂成形部を形成することにより、前記多孔質板材と前記樹脂成形部とが一体化した前記複合部材を製造する、複合部材の製造方法が提供される。
【0007】
上述した製造方法において、
前記多孔質板材の外周側面を前記可動ピンに支持することにより、前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めしてもよい。
【0008】
上述した製造方法において、
前記多孔質板材には貫通孔が設けられており、
前記貫通孔に前記可動ピンを挿通することにより、前記多孔質板材を前記一方の型に位置決めしてもよい。
【0009】
上述した製造方法において、
前記多孔質板材を吸音性多孔質構造が保たれた状態で前記多孔質板材を押圧してもよい。
【0010】
上述した製造方法において、
前記多孔質板材が発泡体又は不織布であってもよい。
【0011】
上述した製造方法において、
前記複合部材は、枠部と、前記枠部の中を横断するように設けられる桟部を有し、
前記キャビティは、
前記多孔質板材が配置される多孔質板材用キャビティ部分と、
前記多孔質板材用キャビティ部分を囲み、前記枠部を形成する枠部用キャビティ部分と、
前記桟部を形成する桟部用キャビティ部分を有してもよい。
【0012】
上述した製造方法において、
前記弾性体がバネであってもよい。
【0013】
本発明の一側面によれば、
多孔質板材と樹脂成形部とが一体化した複合部材を製造するための成形型であって、
一方の型と、
前記一方の型に対向し、型締めによって該一方の型とともにキャビティを形成する他方の型と、
弾性体を介して前記一方の型と当接した基端部を備える複数の可動ピンを備え、
前記可動ピンは、前記一方の型のキャビティ面から対向する前記他方の型側へ先端部が突き出した状態から、前記弾性体を撓ませることで型締め時の前記他方の型のキャビティ面より後退した位置まで前記先端部が後退可能であり、
前記可動ピンの前記先端部は、その対向部位にあたる前記他方の型のキャビティ面に対して傾斜する斜面部分が形成されており、
前記弾性体の弾性係数は、前記キャビティに注入される合成樹脂原料の流れによって前記可動ピンの前記先端部が前記他方の型のキャビティ面から後退するように調整されている、成形型が提供される。
【0014】
上述した成形型において、
前記弾性体がバネであってもよい。
【0015】
上述した成形型において、
前記一方の型及び他方の型は相対的に水平方向に移動して型締めされる成形型であってもよい。
【0016】
上述した成形型において、
複数の前記可動ピンは、前記多孔質板材の下縁を支える位置に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、意匠面に孔が設けられることのない複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る製造方法で製造される複合部材の裏面を示す斜視図である。
図2図1に示した複合部材において、多孔質シートを除去して樹脂成形部だけを示す斜視図である。
図3A】押圧して変形させる前の多孔質シートの斜視図である。
図3B】押圧して変形させた後の多孔質シートの斜視図である。
図4】成形型の断面図である。
図5】可動型(一方の型)へ多孔質シートをセットする様子を示す断面図である。
図6】可動型(一方の型)に多孔質シートをセットした様子を示す断面図である。
図7】型締めした成形型の断面図である。
図8A図7の部分拡大図である。
図8B図8Aの状態から樹脂原料の注入によって可動ピンが後退した様子を示す部分拡大図である。
図9】射出成形を終えた様子を示す断面図である。
図10】脱型された複合部材を示す部分拡大図である。
図11A】第一変形例の可動ピンの先端部の正面図である。
図11B図11Aの可動ピンの裏面図である。
図11C】第二変形例の可動ピンの先端部の正面図である。
図11D図11Cの可動ピンの先端部の裏面図である。
図12A】第三変形例の成形型の断面図である。
図12B】第三変形例の成形型の断面図である。
図13A】第四変形例の成形型の断面図である。
図13B】第四変形例の成形型の断面図である。
図14】本発明の製造方法によって製造されるバッテリーの冷却用ダクトの斜視図である。
図15】本発明の第二実施形態に係る製造方法で製造される複合部材の裏面を示す斜視図である。
図16図15に示した複合部材において、多孔質シートを除去して樹脂成形部だけを示す斜視図である。
図17A】押圧して変形させる前の多孔質シートの斜視図である。
図17B】押圧して変形させた後の多孔質シートの斜視図である。
図18】成形型の断面図である。
図19A】可動型(一方の型)に多孔質シートをセットした状態の成形型の断面図である。
図19B図19Aの部分拡大図である。
図20】型締めした様子を示す成形型の断面図である。
図21A図20の部分拡大図である。
図21B図21Aの状態から可動ピンが後退した様子を示す部分拡大図である。
図22】樹脂原料を注入し、射出成形を終えた様子を示す成形型の断面図である。
図23】脱型時の成形型の断面図である。
図24図23の脱型製品の拡大断面図である。
図25A】第五変形例に係る可動ピンの先端部を示す正面図である。
図25B図25Aの可動ピンの先端部の裏面図である。
図25C】第六変形例に係る可動ピンの先端部を示す正面図である。
図25D図25Cの可動ピンの先端部の裏面図である。
図26】第二実施形態の変形例に係る成形型の図18と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る複合部材の製造方法及びそれに用いる成形型について詳述する。
【0020】
<第一実施形態>
複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型
複合部材Pは、例えば自動車等の車両用製品である。複合部材Pは、多孔質シート6(多孔質板材)から構成されたパネル部7と、樹脂から構成された枠部85等の樹脂成形部8とが一体化している。本実施形態の複合部材Pは、図1ごとくのエンジンのアンダーカバーに適用される。
図4のような成形型1を用いて、複合部材Pが製造される。長い多孔質の板材から必要な大きさに裁断して多孔質シート6を得て、この多孔質シート6を一方の型3にセットする。次いで型締めして多孔質シート6を所望の形状のパネル部7に変形させる。その型締め下で、該パネル部7と一体化する樹脂成形部8を射出成形して複合部材Pを造る(図5図9)。
【0021】
複合部材の製造方法に先立ち、多孔質シート6と成形型1を準備する。
多孔質シート6は、図3Aに示すように、発泡体や不織布、フェルト等の吸音用多孔質構造を有する板状の部材である。多孔質シート6は、厚い板状の部材と、薄いシート状の部材の両方を意味する。本発明に係る多孔質シート6は、型締めによって押圧されて圧縮され、当初の厚みt1から厚みt2(t2<t1)に薄くなっても、吸音用多孔質構造を保つ。多孔質シート6としては、連続気泡フォームのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、軟質ポリウレタン等の発泡板や、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン等の熱可塑性樹脂製不織布が適宜用いられる。本実施形態の多孔質シート6は、発泡体又は不織布であり、型へ立った状態でセットできる10mm~30mmほどの板厚を有する。
【0022】
多孔質シート6として、例えば低融点素材と高融点素材とが混ざり合った二成分複合型の不織布を用いることができる。二成分複合型の不織布は、一本一本の繊維が高融点素材の芯と低融点素材の鞘を有することが好ましい。二成分複合型の不織布からなる多孔質シート6を加熱し鞘部を軟化させた後、一方の型3にセットし、型締めすれば、軟化した鞘部同士を接着させ、軟化していない芯部で所定形状に押圧した形状を維持させることができる。
【0023】
成形型1は、一方の型3(ここでは可動型)と他方の型2(ここでは固定型)とを備え、型締めにより型3,2によりキャビティCが形成される。
本実施形態のキャビティCは、図4に示したように、多孔質シート6が配置される多孔質シート用キャビティ部分C6と、樹脂成形部用キャビティ部分C8とを有している。樹脂成形部用キャビティ部分C8は、多孔質シート用キャビティ部分C6の周りを取り囲む枠部用キャビティ部分C85及び桟部用キャビティ部分C87を有している。
桟部用キャビティ部分C87は、枠部用キャビティ部分C85の内部に設けられている。
桟部用キャビティ部分C87は、パネル部7の骨組みとして機能する桟部を形成する部位である。図5に示したように、桟部用キャビティ部分C87の桟形成用キャビティ面37には、幅方向を起立させた溝が掘り込まれている。この溝は、多孔質シート6のキャビティ面33上で格子状に交差するように形成されている。桟部用キャビティ部分C87は、その両端域で枠部用キャビティ部分C85と導通する。図7に示すように、多孔質シート6が配置される多孔質シート用キャビティ部分C6は、成形型1にセットする前の多孔質シート6の厚みt1よりもキャビティ幅Wが小さい。多孔質シート用キャビティ部分C6は、多孔質シート6に所望の形状を与えるための空洞を形成している。
符号35fは枠部形成の食い込み用突起、符号37fは桟部形成の食い込み用突起であり、図4ではそれぞれが紙面垂直方向に延在する。型締め後、キャビティCへの合成樹脂原料g(以下、単に「樹脂原料」ともいう。)の注入で、枠部用キャビティ部分C85と桟部用キャビティ部分C87から多孔質シート6内へ樹脂原料gが不必要に浸入することが食い込み用突起35f,37fによって防がれている。
【0024】
可動型3では、可動ピン4と弾性体52とが対をなしている。可動型3には、この可動ピン4と弾性体52からなる対が複数設けられている。また可動型3には各弾性体52を収容するための収容部38が設けられる。弾性体52に可動ピン4の基端部41を当接させると、可動ピン4には(可動型3のキャビティ面から)突出する方向に向かう弾性復元力が作用し、可動ピン4は枠部形成用キャビティ面35からキャビティC側へ突出する。そして、突出した可動ピン4の先端部42には、先端部42の対向部位にあたる固定型2の枠部形成用キャビティ面25に対して傾斜した斜面部分42aが形成されている(図6,図7)。
【0025】
具体的には、図4および図5のごとく可動ピン4の基端部41には鍔411が形成されている。可動型3の型本体3Aには型の厚み方向に、各可動ピン4のピン径よりわずかに大きい小孔部381と、鍔411よりわずかに大きい大孔部382とが並んで設けられている。これら小孔部381と大孔部382とにより型本体3Aを貫通する孔が形成されている。この貫通する孔が向かい合う補助盤3Bの面には弾性体52を収容する凹穴385が設けられている。型本体3Aと補助盤3Bとを合わせると、小孔部381と大孔部382と凹穴385とによって可動ピン4を収容する収容部38が形成されている。鍔411は大孔部382内を移動可能に設けられている。鍔411は大孔部382内で可動ピン4のピン軸方向に向けて移動可能である。
凹穴385の穴底385aにバネ52Aからなる弾性体52の一端を係止し、他端を可動ピン4の基端面でもある鍔411の底面に当接させて、バネ52Aを収容部38に収める。バネ52Aに負荷をかけなくてもよいが、本実施形態では多少圧縮させた状態で収容部38に設けられている。尚、本実施形態の弾性体52は、弾性付勢力の微調整のし易さや使い勝手の良さからバネ52Aが採用されているが、ゴムや発泡体等を採用してもよい。
弾性体52の弾性復元力を受けた可動ピン4は、先端部42が図5のように枠部形成用キャビティ面35から突き出す。このように先端部42が突き出た複数の可動ピン4が成形型1に設けられている。多孔質シート6の外周縁61を可動ピン4に当てることにより、多孔質シート6が可動型3側の多孔質シート6用のキャビティ面33に位置決めされる。
【0026】
図4に示した成形型1は、横型タイプの射出成形機によって可動型3が固定型2に対して水平方向に移動して型締めされる。多孔質シート6は10mm~30mmの板厚を有するので、図5および図6に示したように多孔質シート6を可動ピン4に載せると多孔質シート6は可動ピン4の上で立つことができ、この状態で多孔質シート6を成形型1に位置決めできる。つまり、多孔質シート6の下縁を可動ピン4で支えるように当て、この状態で多孔質シート6が可動型3に位置決めされる。多孔質シート6の上縁にも可動ピン4を当てるように構成するとより好ましい。また、可動ピン4が設けられた上縁と下縁との間の距離よりも多孔質シート6を少し大きめに設定すると、多孔質シート6が可動ピン4に強固に保持され、簡単に立たせることができる。多孔質シート6の両方の側縁にも当たるように更なる可動ピンを設けると(図示省略)、多孔質シート6をより一層立たせやすくなる。
図3に示したように略矩形の多孔質シート6を用いることが好ましい。多孔質シート6の矩形状の輪郭に沿って配置された複数の可動ピン4によって、多孔質シート6を確実に保持することができ、成形型1内に確実に位置決めできる。
【0027】
多孔質シート6が可動型3のキャビティ面31へ位置決めされると、型締めされる。型締めにより、可動ピン4が固定型2の枠部形成用キャビティ面25に突き当ってバネ52Aが撓み可動ピン4が後退すると、多孔質シート6がパネル部7の形状に変形する(図7)。
さらに、既述のごとく、可動ピン4の先端部42には、突き当たった部位の枠部形成用キャビティ面に対して傾斜する斜面部分42aが形成されている。本実施形態は、可動ピン4のピン軸心に対し径方向の外方へ均等に広がる円錐状のテーパ面422の斜面部分42aが先端部42に形成されている。キャビティCへの合成樹脂原料gの流れが斜面部分42aに作用し、可動ピン4が固定型2の枠部形成用キャビティ面25から離れて後退する(図8B)。可動ピン4の先端部42近傍を流れる樹脂原料gの流れが斜面部分42aに作用すると、斜面部分42aに鉛直方向の力Fが作用する。この鉛直方向の力Fは斜面部分42aによって水平方向の分力F1を生じさせる。この分力F1が可動ピン4を後退させる。
【0028】
枠部用キャビティ部分C85および桟部用キャビティ部分C87へ樹脂原料gが浸入し、その射出圧により可動ピン4が固定型2のキャビティ面21から離れる。すると、可動ピン4が後退した後の空きスペースC850に樹脂原料gが進入して、枠部85および桟部87の樹脂成形部8が成形される。
本実施形態の成形型1は、多孔質シート6をパネル部7の形状に変形させ、枠部85および桟部87を成形する。さらに成形型1は、枠部開口850の周縁部851に相当するパネル部7の外周部分75に、多孔質シート6に樹脂原料gが浸入してできる樹脂侵入硬化部84を形成することができる。また、成形型1は、桟部87の付け根部分においても多孔質シート6に樹脂原料gが侵入してできる樹脂侵入硬化部875を形成することができる。この樹脂侵入硬化部84、875によって、パネル部7に樹脂成形部8が強固に結合された複合部材Pを形成することができる。
【0029】
複合部材Pは、上記した成形型1及び多孔質シート6を用いて、例えば次のように製造される。
まず、成形型1を型開状態にする。この状態において、可動ピン4の基端部41がバネ52Aに当たって、複合部材Pの裏面を形成する可動型3の枠部形成用キャビティ面35から可動ピン4の先端部42が突き出している(図5)。小孔部381から大孔部382に広がる拡径内壁383にバネ52Aの弾性復元力が作用した鍔411が当たって停止しており、可動ピン4の先端部42がキャビティ面31から突き出している。
【0030】
斯かる状態下、多孔質シート6を所定温度に適宜加熱(プリヒート)して軟らかくし、これを可動型3にセットする。
多孔質シート6は、予めパネル部7に対応する大きさに裁断されている。複数の可動ピン4が多孔質シート6の外周縁61に沿って配列されている。可動ピン4は、可動型3のキャビティ面31から略水平に突き出ている。これら可動ピン4に多孔質シート6の外周縁61を当てて、可動型3に多孔質シート6を位置決めする(図6)。ここでは、可動型3の上段に二本の可動ピン4が設けられ、下段に三本の可動ピン4が設けられている。上段に設けられた可動ピン4は互いに等しい間隔で隔てられている。下段に設けられた可動ピン4は互いに等しい間隔で隔てられている。多孔質シート6の下縁を下段の可動ピン4の上に載せる。さらに上段の可動ピン4と下段の可動ピン4とで挟むようにして多孔質シート6を可動型3に位置決めする。多孔質シート6の外周縁61を囲むように複数の可動ピン4が設けられているので、多孔質シート6が立った状態の可動ピン4を強固に保持でき、多孔質シート6が可動ピン4から脱落することなく多孔質シート6を可動型3にセットすることができる。
ちなみに、固定型2に対して可動型3が水平方向に移動する横型タイプの射出成形機が広く用いられている。横型タイプの射出成形機に用いられる成形型は鉛直方向に延びるキャビティ面を有することから、多孔質シート6を支える部材や部位がなく、多孔質シート6を成形型にセットすることが難しい。しかしながら本実施形態の成形型1は、可動ピン4によって多孔質シート6を立った状態で簡単に成形型1に位置決めすることができる。
【0031】
次いで、成形型1を型締めし、可動ピン4を固定型2の枠部形成用キャビティ面25に突き当てた状態で、バネ52Aの弾性復元力に抗して可動ピン4を後退させ、多孔質シート6をパネル部7の形状に変形させる(図7)。
型締めの進行に伴い、可動型3のキャビティ面31から突き出た可動ピン4は、固定型2の枠部形成用キャビティ面25に突き当たる。その後、型締めによってバネ52Aが圧縮され、先端421が図6の地点から型締め完結時の図7の地点にまで押し戻され、後退する。可動ピン4は、可動型3に設けられた小孔部381に移動可能に設けられているので、その先端421が固定型2のキャビティ面21(詳しくは枠部形成用キャビティ面25)に当たった図7の状態で停止する。
またこの型締めにより、多孔質シート6はキャビティ面31とキャビティ面21とによって挟まれ圧縮される。当初厚みt1の多孔質シート6が厚み方向に圧縮され、多孔質シート用キャビティ部分C6内では図3Bに示す略厚みt2になって、吸音用多孔質構造を保ったパネル部7の形状に変形させる。
【0032】
本実施形態では、吸音機能を有する図3Aの多孔質シート6が用いられている。この多孔質シート6を圧縮させても、吸音機能を失わずに、例えば図3Bのような斜面77を挟んで上段面78と下段面79を有するパネル部7の形状に変形させることができる。しかしながら、圧縮されて強度が高められたパネル部7であっても、パネル部7に吸音用多孔質構造が保たれているため、頑強とは言い難く、複合部材Pに要求される剛性や機械的強度が不足する場合がある。しかし本実施形態では、上記強度不足を解消すべく、パネル部7の形状を保つための枠部85及び桟部87がパネル部7と一体に形成される(図9)。このため、複合部材Pに剛性や機械的強度が不足するといった事態が生じにくい。
【0033】
また、そのままでは製品の意匠面に可動ピン4による孔が現れてしまう不具合を、本実施形態では、先端部42に斜面部分42aが設けられた可動ピン4を採用して解決している。可動ピン4が斜面部分42aを備えているため、樹脂原料gの射出注入圧によって可動ピン4の先端421が固定型2の枠部形成用キャビティ面25から後退し、意匠面に可動ピン4による孔が生じない。
【0034】
より詳しく説明する。型締めの後、樹脂原料gを射出注入すると、その流れに押されて可動ピン4が固定型2の枠部形成用キャビティ面25から離れて後退する。この可動ピン4が後退してできた空きスペースC850を含めた枠部用キャビティ部分C85及び桟部用キャビティ部分C87さらにパネル部7の外周部分75に樹脂原料gが浸入し、樹脂成形部8が形成される(図9)。
型締め下、射出成形機のノズルから図示しないランナ、ゲートを通って枠部用キャビティ部分C85へ樹脂原料gが射出注入される。ここでは樹脂原料gとしてポリプロピレン樹脂原料が用いられている。
可動ピン4の先端部42には斜面部分42aが設けられているので、キャビティC内では、斜面部分42aは先端421を除いて固定型2の枠部形成用キャビティ面25から離れている。よって、可動ピン4の斜面部分42aが、キャビティ面21に沿って流れる樹脂原料gから力を受ける。
【0035】
ここでは、可動ピン4は丸棒を加工して形成されている。本実施形態において、斜面部分42aは可動ピン4の軸心に対して点対称の円錐曲面状のテーパ面422である。円錐曲面状のテーパ面422が先端421から径方向の外方へ均等に広がっているので、可動ピン4は分力F1で軸心方向に対して後方へ押されて後退する。分力F1に押されると、可動ピン4の先端421がキャビティ面21から離れた位置にまで可動ピン4が後退する。すると、キャビティ面21と可動ピン4の先端421との間に空きスペースC850ができる(図8B)。
本実施形態は、可動ピン4を後方へ押す分力F1がバネ52Aの弾性復元力よりもまだ打ち勝っている位置で、鍔411が出っ張り面387に当たって停止する。可動ピン4に設けるテーパ面422に関しては、図8Bのように先端421から角度θで尖った形に形成するのが好ましい。角度θは、分力F1を大きくするため、鋭角よりも鈍角に設定するのがより好ましい。
【0036】
可動ピン4が固定型2のキャビティ面21から離れた後、キャビティCへの樹脂原料gの射出注入がさらに進む。樹脂原料gが枠部用キャビティ部分C85、さらに桟部用キャビティ部分C87へと浸入する。これに加え、多孔質構造が保たれたパネル部7の外周部分75の多孔質シート6に樹脂原料gが浸入して樹脂侵入硬化部84を有する樹脂成形部8が形成される。
なお樹脂原料gはパネル部7の外周部分75から多孔質構造に保たれているパネル部7の本体へも浸入しようとするが、枠部形成の食い込み用突起35fに阻まれる。樹脂原料gが桟部用キャビティ部分C87の付け根部分からパネル部7の本体へも浸入しようとするが、桟形成の食い込み用突起37fに阻まれる。すなわち、型締めによって突起35f,37fがその周りのキャビティ面31よりもパネル部7に食い込み、多孔質構造のパネル部7の部分をさらに圧縮して高密度にし、該部分への樹脂原料gの浸透を困難にしている。つまり、突起35f,37fは、突起35f,37fが設けられた位置よりもパネル部7の本体側に、樹脂原料gが進入することを防ぎ、吸音性能が低下することが防止されている。
【0037】
一方、枠部形成の食い込み用突起35fがパネル部7の外周よりも一回り小さく形成されているので、パネル部7の外周部分75の領域にのみ、該領域の多孔質構造内に樹脂原料gが浸入して硬化した樹脂侵入硬化部84が成形される。これにより、樹脂侵入硬化部84とパネル部7の外周部分75とが一体化し合体域P78が形成される。また、桟部用キャビティ部分C87では、桟部87の付け根部分からパネル部7内へ浸入してなる樹脂侵入硬化部875が形成される。
かくのごとくして、パネル部7の外周部分75に形成された樹脂侵入硬化部84、枠部85、桟部87、桟部87の付け根部分に形成された樹脂侵入硬化部875を有する樹脂成形部8と、パネル部7とが一体化された複合部材Pが形成される。枠部85には可動ピン4の凹み跡8510が残るが(図10)、複合部材Pの意匠面8a側でなく裏面8b側であって問題とならない。
【0038】
前記樹脂成形部8の成形後、脱型すれば、パネル部7の形状を保持する樹脂成形部8がパネル部7と一体化された複合部材Pが得られる。
符号85aは枠強化形成部分、符号85e,87eは食い込み用突起35f,37fが残したシール跡(図1,図2では図示せず。)、符号871は桟の端部分、符号891は相手部材への取付口、符号892は相手部材への取付片、符号893は別部品用開口を示す。
【0039】
図11Aおよび図11Bは、第一変形例の可動ピン4の先端部42を示す。図11Cおよび図11Dは、第二変形例の可動ピン4の先端部42を示す。可動ピン4の先端部42は、固定型2(他方の型)における該可動ピン4の先端部42が対応するキャビティ面21に対して傾斜した斜面部分42aを有していればよい。
例えば可動ピン4の先端部42は、図11Aおよび図11Bに示したように、マイナスドライバの先端のような形状としてもよい。この形状は例えば、丸棒形状の部材の先端の中央部分を平坦な先端421として残し、この先端421の両側面を斜めにカットすることにより得られる。両側面には、斜面部分423が形成される。
あるいは、可動ピン4の先端部42は、図11Cおよび図11Dに示した形状とすることができる。図11Cおよび図11Dに示した形状は、例えば、丸棒形状の部材の周面を任意の地点で斜めにカットすることで得られる。これにより、丸棒形状の部材の先端に平面状の斜面部分423が形成される。
図11Aおよび図11Bに示した形状、または、図11Cおよび図11Dに示した形状のいずれも、固定型2のキャビティ面21に可動ピン4が当たると斜面部分42aがキャビティ面21から離れた状態になるので、樹脂原料gから力を受け、可動ピン4を可動型3側へ後退させることができる。
【0040】
また、上述した実施形態とは異なり、一方の型を固定型2にし、この固定型2に可動ピン4、弾性体52、収容部38などを設けてもよい(図示省略)。すなわち、固定型2は、弾性体52を介して可動ピン4の基端部が固定型2に当接するように構成してあってもよい。尚、この場合は他方の型が可動型になる。図4でいえば、紙面右側の可動型3に在る可動ピン4、弾性体52、収容部38が左側の固定型2へ移る。この場合型開時に、多孔質シート6の外周縁61を可動ピン4へ当てて、固定型2に多孔質シート6を位置決めする。
【0041】
図12Aおよび図12Bは本発明の第三変形例に係る成形型を示す。可動型が固定型に対して鉛直方向に移動する縦型タイプの射出成形機に本発明を適用してもよい。一方の型3を図12Aおよび図12Bのような下型にして、該下型3に可動ピン4、弾性体52、収容部38を設けてもよい。本変形例において他方の型2が上型となる。下型3に可動ピン4が設けられ、これに多孔質シート6の外周縁61が当たるように下型3に多孔質シート6を載せることにより、多孔質シート6が下型に位置決めされる。横型タイプの射出成形機においては、多孔質シート6が薄すぎて立った状態で型に位置決めすることが難しいという問題が生じることもあるが、縦型タイプの射出成形機ではこのような問題が生じない。
【0042】
図13Aおよび図13Bは本発明の第四変形例に係る成形型を示す。図13Aおよび図13Bに示すように、可動型(一方の型)は分割型としてもよい。図示した例では、可動型は第一型3と第二型3Sを有する。第二型3Sに可動ピン4、弾性体52、収容部38を設けることができる。他方の型2は固定型とする。第一型3は水平方向に移動し、第二型3Sは鉛直方向に移動する。この場合も、第二型3Sのキャビティ面31上に多孔質シート6を載せてセットするので、薄い多孔質シート6を用いることができる。
なお図12Aから図13Bにおいて、他の構成は本実施形態と同様であるので、本実施形態と同一の構成には同一符号を付し、その説明を省く。
【0043】
(効果)
このように構成した複合部材Pの製造方法及びこれに用いる成形型1によれば、出来上がった製品は軽量の多孔質シート6を含んでいるので軽量である。そして、パネル部7に多孔質構造が保たれているので、複合部材Pは吸音特性を備えている。
【0044】
そして、本発明は多孔質シート6の外周縁61に可動ピン4を当てて成形型1に多孔質シート6をセットできるので、特許文献1のように孔に可動ピンを挿通させるといった難しい作業を要しない。また、孔が開くことによる遮音性能、吸音性能の低下も生じない。
【0045】
また、多孔質シート6の外周縁61に可動ピン4を当てて位置決めするので、必要以上の大きさの多孔質シートではなく、必要な大きさの多孔質シート6を採用できる。脱型すると、そのまま製品になる複合部材Pを取り出せる。つまり特許文献2のように、複合部材に余長部分が生じず、型開きした後に余長部分をカットするといった後工程が不要である。
【0046】
また、可動ピン4の先端部42に、これと対向する他方の型2に係る枠部形成用キャビティ面25に対し傾斜した斜面部分42aが形成されている。このため、斜面部分42aが合成樹脂原料gの流れを受けて、可動ピン4が他方の型2に係る枠部形成用キャビティ面25から離れ、後退する。樹脂原料gがこの可動ピン4の後退後の空きスペースC850を含む枠部用キャビティ部分C85へ浸入し、多孔質シート6と一体化した樹脂成形部8を成形できる。また、樹脂成形部8の意匠面8aに可動ピン4の抜け孔が存在しない。このため、特許文献1のように、位置決めピンが通った抜け跡孔が製品に残らず、見栄えを悪くならない。
【0047】
さらに、可動ピン4の先端部42に斜面部分42aが設けられている。このため、キャビティへの樹脂原料gの流れによって、可動ピン4を他方の型の枠部形成用キャビティ面25から簡便に後退させることができる。つまり、本実施形態の成形型1によれば、枠部形成用キャビティ面25から可動ピン4を後退させるために、新たな装置を必要としない。
また後退後の空きスペースC850に樹脂原料gが浸入して枠部85が形成されるので、意匠面8aに可動ピン4の抜け跡孔がない複合部材Pが形成される。製品に孔を残さないので、見栄えを悪くしたり遮音性能や吸音性能を低下させたりすることがない。孔を後加工で塞ぐ手間も不要である。可動ピン4の凹み跡8510が残っても、製品の意匠面に現れないので問題にならない。
【0048】
さらにいえば、脱型時に可動型に製品を残すようにすることが一般的である。このため、固定型に製品の抜き勾配を設ける必要がある。図4で、可動型3でなく固定型2に可動ピン4、弾性体52、収容部38を設けると、弾性体52の弾性復元力により、脱型時に可動ピン4が製品を可動型に残すようにアシストする。これにより固定型の抜き勾配を小さくでき、製品の意匠面のデザイン上の制約を緩和できる。
また、多孔質シート6を、低融点素材と高融点素材とが混ざり合った不織布にすると、該不織布を加熱した後、型締めし、高融点の繊維素材でパネル部7の形に変形させ、その形を低融点繊維素材の接着性で簡単に維持できる。芯鞘構造繊維の不織布が用いられると、鞘部分を低融点繊維にして熱接着を担わせて、吸音用多孔質構造のパネル部7へと円滑に加工できる。
【0049】
尚、本発明は前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。成形型1、一方の型3、他方の型2、可動ピン4、弾性体52、多孔質シート6、パネル部7、樹脂成形部8等の形状、大きさ、個数、材質等は用途に合わせて適宜選択できる。本実施形態の複合部材Pは、エンジンアンダーカバーとしたが、インストルメントパネルのアンダーカバーにも適用でき、さらに例えば図14のバッテリーの冷却用ダクト等にも勿論適用できる。図14は符号80がダクト接続口で、その他、実施形態と同一符号はそのものと同一又は相当部分を示す。なお実施形態では、多孔質シート6を可動型3にセットする前に所定温度に加熱(プリヒート)を行ったが、加熱を行わなくてもよい。多孔質シート6の材質や賦形する形状によっては、加熱(プリヒート)を行う必要はない。
【0050】
<第二実施形態>
複合部材の製造方法及びそれに用いる成形型
本実施形態の複合部材Pは、インストルメントパネルのアンダーカバーといった自動車等の車両用製品である。複合部材Pは、立体形状とした多孔質シート106からなるパネル部107と、枠部185と桟部187とを含む樹脂成形部108を含んでいる。多孔質シート106は樹脂成形部108でその立体形状が維持されている。
【0051】
図18のような成形型101を用いて、複合部材Pが製造される。長い多孔質の板材から必要な大きさに裁断して多孔質シート106(多孔質板材)を得て、この多孔質シート106を一方の型103(ここでは可動型)にセットする。次いで型締めして多孔質シート106を立体形状に押圧して変形させる。その型締め状態下で樹脂成形部108を射出成形して多孔質シート106と樹脂成形部108が一体化された複合部材Pを造る。なお、本発明では、多孔質シート106を押圧して、ある形状に多孔質シートを変形させることを賦形と呼ぶことがある。
【0052】
複合部材Pの製造に先立ち、多孔質シート106と成形型101を準備する。
多孔質シート106は、図17Aに示すように、不織布や発泡体等の吸音用多孔質構造を有するシート状体である。多孔質シート106は、薄いシート状の部材と、厚い板状の部材の両方を意味する。図19Aおよび図20に示すように、多孔質シート106は、型締めによって押圧されて圧縮され、当初の厚みt1から厚みt2(t2<t1)に薄くなっても、吸音用多孔質構造を保つ。多孔質シート106としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)等の熱可塑性樹脂製不織布を用いることができる。
【0053】
多孔質シート106として、例えば低融点素材と高融点素材とが混ざり合った二成分複合型の不織布を用いることができる。二成分複合型の不織布は、一本一本の繊維が高融点素材の芯と低融点素材の鞘を有することが好ましい。二成分複合型の不織布からなる多孔質シート106を加熱し鞘部を軟化させた後、一方の型103にセットし、型締めすれば、軟化した鞘部同士を接着させ、軟化していない芯部で所定形状に押圧した形状を維持させることができる。
【0054】
本実施形態において、可動ピン104Aに挿通させる透孔160が多孔質シート106の外周部に六個(複数)設けられている。多孔質シート106の上縁及び下縁に沿ってそれぞれ離間させて三個ずつ設けられている。各透孔160に成形型101の可動ピン104Aを挿通させると、多孔質シート106を成形型101に位置決めできる。
【0055】
成形型101は、一方の型103(ここでは可動型)側に、キャビティ面131から複合部材Pを突き出す複数の突出ピン104Bを有している。図19Aおよび図19Bに示すように、これらの突出ピン104Bのうちのいくつかが、多孔質シート106をキャビティに位置決め機能を有する可動ピン104Aである。本成形型101に関していえば、十数個ある突出ピン104Bのうち、六個の透孔160に対応する場所に配置される六個の突出ピン104Bが位置決め機能を有する可動ピン104Aである。
可動ピン104Aは、先端部142と基端部141を有する。図18に示したように、可動ピン104Aの基端部141が弾性体152を介してエジェクタプレート151に取付けられている。弾性体152の弾性復元力によって可動ピン104Aの先端部142が可動型103のキャビティ面131から突出すると、可動ピン104Aは位置決め機能を発揮する。
可動ピン104Aの先端部142には、先端部142が向かい合う他方の型102(ここでは固定型)のキャビティ面131に対して傾斜した斜面部分を有している。先端部142には、先端1421から可動ピン104Aの軸心に対して径方向の外方へ均等に広がる円錐状のテーパ面1422が設けられている。
【0056】
詳しくは、図18から図19Bのごとく可動ピン104Aの基端部141に鍔1411が形成されている。上エジェクタプレート151Aには、可動ピン104Aのピン径とほぼ等しい内径の小孔部1511と、鍔1411の外形とほぼ等しい内径の大孔部1512とが設けられている。これら小孔部1511と大孔部1512が板厚方向に並んで設けられ、上エジェクタプレート151Aを貫通している。
この小孔部1511と大孔部1512からなる孔と向かい合う、下エジェクタプレート151Bの部位には弾性体152を収容する凹穴1515が設けられている。上エジェクタプレート151Aと下エジェクタプレート151Bとを合わせると形成される大孔部1512に、鍔1411が可動ピン104Aの軸心方向に移動可能に配設されている。
該凹穴1515の穴底1515aにバネ152Aからなる弾性体152の一端が係止され、他端を可動ピン104Aの基端面でもある鍔1411の底面1411aに当接させて、バネ152Aが圧縮状態とされている。該バネ152Aの弾性復元力により弾性付勢を受けた可動ピン104Aは、先端部142が可動型103のキャビティ面131から図19Aおよび図19Bのように突き出す。
この突き出した可動ピン104Aを多孔質シート106の透孔160へ挿通させると、可動型103のキャビティ面131に多孔質シート106が位置決めセットされる。型締めすると、可動ピン104Aは固定型102のキャビティ面121に突き当ってバネ152Aが撓んでいき、図20に示すように多孔質シート106が押圧される。
尚、本実施形態の弾性体152は、弾性復元力の微調整のし易さや使い勝手の良さからバネ152Aを採用するが、ゴムや発泡体等とすることもできる。
【0057】
図18から図20に示すように、成形型101の型締めにより形成されるキャビティCは、多孔質シート106が配置される多孔質シート用キャビティ部分C106と、樹脂成形部用キャビティ部分C108と、を備えている。樹脂成形部用キャビティ部分C108は、多孔質シート用キャビティ部分C106を取り囲む枠部用キャビティ部分C185と、桟部用キャビティ部分C187を備えている。
図23に示したように、桟部用キャビティ部分C187を構成する桟形成用キャビティ面137は、可動型103のキャビティ面131に対して、溝状に掘り込まれた形状に設けられている。この溝は、多孔質シート106の裏面を形成するキャビティ面131上で格子状に交差するように形成されている。桟部用キャビティ部分C187は、その両端で枠部用キャビティ部分C185と接続されている。多孔質シート用キャビティ部分C106は、成形型101にセットする前の多孔質シートの厚みt1よりもキャビティ幅Wが小さい。
符号135fは枠部形成の食い込み用突起、符号137fは桟部形成の食い込み用突起で、図18ではそれぞれが紙面垂直方向に延在する。型締め後のキャビティCへの合成樹脂原料g(以下、単に「樹脂原料」ともいう。)の注入で、枠部用キャビティ部分C185および桟部用キャビティ部分C187から多孔質シート106の内部へ樹脂原料gが不必要に浸入することを防いでいる。
【0058】
かくして、成形型101によって、多孔質シート106を所定形状に変形させた後、樹脂原料gを枠部用キャビティ部分C185および桟部用キャビティ部分C187へ浸入させる。また、キャビティCへの樹脂原料gの流れによって、可動ピン104Aの先端1421が図21Aの固定型102のキャビティ面121に突き当たった状態から、図21Bの状態へ後退する。可動ピン104Aがキャビティ面121から後退した後に形成される空きスペースC169を含めた透孔160や多孔質シート106の外周部に、樹脂原料gが浸入して樹脂浸入硬化部184を有する樹脂成形部108が成形される。成形型101は、多孔質シート106を押圧して変形させ、枠部185と桟部187を成形するだけではない。枠部開口1850の周縁部に相当する多孔質シート106の外周部に樹脂原料gが浸入してできる樹脂浸入硬化部184、さらにいえば桟部187の付け根部分にできる樹脂侵入硬化部よって、樹脂成形部108と多孔質シート106とが一体化される。
【0059】
複合部材Pは、成形型101を用いて、例えば次のように製造される。
まず、型開状態下、バネ152Aの弾性付勢を受けた鍔1411が、可動型103のキャビティ面131側へ動く。小孔部1511から大孔部1512に広がる拡径内壁1513に鍔1411が当たって停止し、可動ピン104Aの先端部142がキャビティ面131から突き出す(図19B)。図17Aの多孔質シート106に設けた各透孔160に応じて、複合部材Pの裏面側を形成するキャビティ面131から位置決め機能を有する可動ピン104Aが突き出している。
【0060】
斯かる状態下、所定温度に適宜加熱して軟らかくした多孔質シート106を、可動ピン104Aに差し込み、多孔質シート106を可動型103にセットする。
多孔質シート106は、予めパネル部107に対応する大きさに裁断されている。また、多孔質シート106をキャビティCにセットしたときに、可動ピン104Aが接触する位置に透孔160が設けられている。ここでは、多孔質シート106の上部に3本、下部に3本、それぞれ間隔を隔てて透孔160が設けられている。可動ピン104Aに各透孔160を通し、可動型103に多孔質シート106を当接させると、多孔質シート106が自律的にキャビティ面131に位置決めされ、保持される。
ちなみに、射出成形機は、可動型が固定型に対して水平方向に移動する横型タイプの成形機が広く用いられている。これに対して可動型が固定型に対して鉛直方向に移動する縦型タイプの射出成形機であれば、下型の上面(キャビティ面)に多孔質シートを載せればよいので、多孔質シートのセットは容易である。ところが、本実施形態のように横型タイプの射出成形機においては、図18に示したように、成形型101のキャビティ面121,131が垂直面になるので、多孔質シート106のセットが難しい。しかし本実施形態によれば、横型タイプの射出成形機であっても、可動ピン104Aを多孔質シート106の透孔160に挿通しさえすれば、垂直面のキャビティ面121,131であっても、多孔質シート106を楽にセットできる。
【0061】
次いで、図20および図21Aに示すように、型締めして、複合部材Pの意匠面を形成する固定型102のキャビティ面121に突き当った前記可動ピン104Aをバネ152Aの弾性付勢に抗して後退させると共に、多孔質シート106を所望の形状に変形させる。
型締めの進行に伴い、可動型103のキャビティ面131から突き出た可動ピン104Aは、固定型102のキャビティ面121に突き当たる。さらに、該キャビティ面121に先端1421が突き当たったままの状態で、バネ152Aの弾性付勢に勝る型締め圧によって、バネ152Aが圧縮されて、可動ピン104Aの先端1421が図19Aの地点から型締め完結時の図20の地点にまで後退する。可動型103に設けた通孔130内を移動可能に設けられている可動ピン104Aは、先端1421が固定型102のキャビティ面121に当たった図20の状態で止まる。
また型締めにより、可動型103のキャビティ面131と固定型102のキャビティ面121との間に多孔質シート106が挟まれ、圧縮される。当初厚みt1の多孔質シート106が厚み方向に圧縮され、キャビティC内では全体が図17Bに示す厚みt2の立体形状に変形し、吸音用多孔質構造を保った形状に変形される。
【0062】
本発明は、吸音機能を有する図17Aの多孔質シート106を用い、該多孔質シート106を圧縮させて、例えば図17Bのような斜面177を挟んで上段面178と下段面179を有する立体形状に変形させるだけでなく、変形後も吸音機能を保持する。しかるに、厚みt1から厚みt2に圧縮して強度アップさせた多孔質シート106にしても、吸音用多孔質構造が保たれた立体形状では、変形させた形状を維持しにくい。そこで多孔質シート106の強度を補うために、図23に示すように枠部185及び桟部187が設けられている。
【0063】
また、そのままでは製品意匠面に可動ピン104Aによる孔が現れてしまう不具合を、先端部142に、その対向部位にあたる固定型102のキャビティ面121に対して傾斜した斜面部分142aを有する可動ピン104Aを採用して解決している。可動ピン104Aが斜面部分142aの先端部142を備えることにより、樹脂原料gの射出注入圧をうまく利用し、可動ピン104Aが後退することにより、かかる不具合が解決されている。
【0064】
詳しくは、図21Aから図22に示したように、型締めの後、樹脂原料gを射出注入し、その流れで可動ピン104Aを固定型102のキャビティ面121から後退させ、この後退してできた空きスペースC169を含めた透孔160に樹脂原料gを浸入させて樹脂成形部108を成形する。可動ピン104Aの先端部142近傍を流れる樹脂原料gが斜面部分142aに作用すると、斜面部分142aに鉛直方向の力Fが作用する。この鉛直方向の力Fは斜面部分142aによって水平方向の分力F1を生じさせる。この分力F1が可動ピン104Aを後退させる。
型締め下、射出成形機のノズルから図示しないランナおよびゲートを通ってキャビティCへ樹脂原料gが射出注入される。樹脂原料gとして、例えばポリプロピレン樹脂原料を用いることができる。図21Aのように可動ピン104Aに射出圧の力Fが加わる。可動ピン104Aの先端部142に斜面部分142aとなる円錐状のテーパ面1422が設けられているので、該テーパ面1422は、キャビティ内で先端1421を除いてキャビティ面121から浮き上がって離れた状態になる。
丸棒加工品からなる可動ピン104Aの軸心に対し、点対称の円錐曲面状のテーパ面1422が先端部142から径外方へ均等に広がっているので、可動ピン104Aは分力F1でピン軸後方へ押され後退する。分力F1に押された可動ピン104Aの先端1421がキャビティ面121から離れた位置にまで後退する。テーパ面1422が受けて基端部141へ押す分力F1と、バネ152Aの弾性復元力とが均衡して、図21Bで示す位置で可動ピン104Aが停止する。固定型102のキャビティ面121と先端1421との間に空きスペースC169ができる。
ここで、可動ピン104Aに設けるテーパ面1422は、図19Bのように可動ピン104Aの先端1421から角度θで尖った形に形成するのが好ましい。角度θは、分力F1を大きくするため、鋭角よりも鈍角に設定するのがより好ましい。
【0065】
可動ピン104Aが固定型102のキャビティ面121から離れ、後退した状態のもとで、キャビティCへの樹脂原料gの射出注入が進む。樹脂原料gが枠部用キャビティ部分C185、桟部用キャビティ部分C187へ浸入する。これに加え、多孔質構造が保たれた多孔質シート106の外周部、さらに空きスペースC169を含めた透孔160に樹脂原料gが浸入して、樹脂浸入硬化部184を有する樹脂成形部108を成形する。透孔160にも樹脂原料gが侵入して透孔埋め部分1841が形成される。
【0066】
樹脂原料gは多孔質シート106の外周部から多孔質構造に保たれている多孔質シート106の内部深くへと浸入しようとするが、枠部形成の食い込み用突起135fに阻まれる。樹脂原料gが桟部用キャビティ部分C187の付け根部分から多孔質シート106の内部奥深くへと浸入しようとするが、桟形成の食い込み用突起137fに阻まれる。すなわち、前記型締めで、突起135f,137fが、その周りのキャビティ面131よりも多孔質シート106側へ突出する分だけ多孔質シート106に食い込み、多孔質シート106の多孔質構造を一段と圧縮し高密度にして、樹脂原料gの浸透を困難にしている。多孔質シート106の内部深くへと樹脂原料gが入り込んでしまうと多孔質シート106の吸音性能が低下してしまうが、突起135f,137fがこのような樹脂原料gの浸入を防いでいる。
【0067】
枠部形成の食い込み用突起135fが多孔質シート106の外周よりも一回り小さく形成されているので、多孔質シート106の外周部の領域内の網目構造内にのみ、樹脂浸入硬化部184が成形されている。これにより、該樹脂浸入硬化部184と多孔質シート106の外周部とが一体化した合体域P78ができる。
【0068】
このようにして、空きスペースC169を含めた透孔160及び多孔質シート106の外周部に樹脂原料gが浸入する。これにより、透孔埋め部分1841を含む樹脂浸入硬化部184を有する樹脂成形部108と、多孔質シート106とが一体化した複合部材Pが成形される。型締めで多孔質シート106を変形させ、変形させた多孔質シート106をキャビティCに入れた状態でキャビティCへ樹脂原料gを注入し、枠部185と桟部187と樹脂浸入硬化部184と、を有する樹脂成形部108が形成される。図24に示したように、透孔160を埋めた透孔埋め部分1841には可動ピン104Aの凹み跡18411が残るが、凹み跡18411は樹脂成形部108の意匠面108aではなく裏面108bに形成されるので製品の美観に問題が生じない。
【0069】
前記樹脂成形部108を成形した後、成形型101から脱型すれば、多孔質構造が保たれた多孔質シート106と樹脂成形部108とが一体化された複合部材Pが得られる。
【0070】
図23に示したように、エジェクタロッド154の進出により、突出ピン104Bと可動ピン104Aとで複合部材Pを突出させ、バネ152Aの付勢力で可動ピン104Aをさらに進出させることにより、複合部材Pが成形型101から脱型される。先端をキャビティ面131に一致させていた突出ピン104Bとともに、可動ピン104AをキャビティC側に突出させて、複合部材Pを脱型する。
符号185aは枠強化形成部分、符号185e,187eは食い込み用突起135f,137fが残したシール跡(図15,図16では図示せず。)、符号1891は相手部材への取付口、符号1892は相手部材への取付片、符号1893は別部品用開口を示す。
【0071】
(効果)
このように構成した複合部材Pの製造方法及びそれに用いる成形型101によれば、出来上がった複合部材Pは、軽量の多孔質シート106を含んでいるので軽量である。さらに多孔質シート106が不織布であると、多孔質シート106を多孔質構造が保たれた状態で変形させることが容易であり、吸音特性を備えた複合部材Pに容易に作製できる。
【0072】
また、可動ピン104Aの先端部142に、固定型102のキャビティ面121に対して傾斜したテーパ面1422が形成されているので、型締め後のキャビティCへの合成樹脂原料gの流れによって、可動ピン104Aがキャビティ面121から後退する。本実施形態のように、先端部142に円錐状のテーパ面1422が設けられていると、可動ピン104Aがスムーズに後退する。この後退後の空きスペースC169に樹脂原料gが浸入する。
また多孔質シート106が多孔質構造を保っているので、その外周部を経由して、樹脂原料gが空きスペースC169を含む透孔160に浸入し、透孔埋め部分1841が成形される。透孔埋め部分1841を含む樹脂浸入硬化部184が形成され、多孔質シート106と一体化した樹脂成形部108が成形される。よって、複合部材Pの意匠面側に可動ピン104Aの抜け孔が形成されない。特許文献1のように、位置決めピンが抜けた後の孔が残らず、見栄えが悪くなることがない。また、孔による吸音性能の低下も生じない。
【0073】
多孔質シート106の透孔160に可動ピン104Aを挿通させて、該多孔質シート106を一方の型103に位置決めセットするので、特許文献2のように必要以上の大きさの多孔質シート106を用いる必要がない。このため、特許文献2のように余長部分をカットする後工程を必要としない。
【0074】
また本実施形態の可動ピン104Aは、多孔質シート106をキャビティCに位置決めする機能と、形成した複合部材PをキャビティCから外すための突出しピンとしての機能の二つの機能を有している。
また弾性体152としてバネ152Aを採用すると、可動型103から複合部材Pを突き出す動作や、キャビティCから後退する動作を、低コストで実現できる。
【0075】
さらに、テーパ状の先端部142を有する可動ピン104Aが採用されているため、キャビティCへの樹脂原料gの流れを使って、可動ピン104Aを固定型102のキャビティ面121から効率よく後退させることができる。このため、キャビティ面121から可動ピン104Aを後退させるための新たな機構を成形型101に組み込む必要が無い。
本実施形態によれば、透孔160に樹脂の透孔埋め部分1841が成形され、製品に孔が残らないので、見栄えが悪くなったり吸音効果が低下したりすることがない。また透孔160の貫通孔を塞ぐ後加工も不要である。なお可動ピン104Aの凹み跡8511は意匠面ではない面に残るので、製品の見栄えが問題にならない。
【0076】
さらにいえば、多孔質シート106として、繊維の鞘部分が低融点素材、芯部が高融点素材で構成されている不織布を採用することが好ましい。該不織布を加熱した後に型締めすると、高融点の繊維素材で多孔質シート106を変形させ、その形状を低融点繊維素材同士の接着で簡単に維持できる。
【0077】
尚、本発明は前記実施形態に示すものに限られず、目的や用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。成形型101、固定型102、可動型103、可動ピン104A、弾性体152、多孔質シート106、樹脂成形部108等の形状、大きさ、個数、材質等は用途に合わせて適宜選択できる。
【0078】
本実施形態の複合部材Pは、インストルメントパネルのアンダーカバーや、エンジンアンダーカバー等に適用できる。複合部材Pの形状によっては、多孔質シート106の形状は型締めにより可動型103のキャビティ面131と固定型102のキャビティ面121との間に挟んで圧縮されれば、立体形状に成形されなくてもよい。
【0079】
本実施形態は、テーパ状の先端部142を有する可動ピン104Aを採用したが、これに限られない。可動ピン104Aの先端部142は、他方の型における可動ピン104Aの先端部142が対応するキャビティ面に対して傾斜した斜面部分142aを有していればよい。
【0080】
可動ピン104Aの先端部は、上述した円錐状のテーパ面1422の他に、図25Aおよび図25Bに示したようにマイナスドライバの形状としてもよい。図示した先端部142は、丸棒部材から中央に平坦な先端1421を残し、その先端1421の両サイドを斜めにカットして形成された斜面部分1423を有する。
あるいは、可動ピン104Aの先端部142は、図25Cおよび図25Dに示したように、また先端部142の斜面部分は、丸棒部材を斜めにカットして形成された平面状斜面部分1423としてもよい。いずれも、固定型102のキャビティ面121に可動ピン104Aが当った場合、該キャビティ面121から斜面部分が離れた状態になるので、樹脂原料gによる分力F1の働きかけができ、可動ピン104Aを固定型102のキャビティ面121から可動型103側へ後退させることができる。
【0081】
上述した実施形態では、可動ピン104Aと突出ピン104Bの両方を可動型103に設けた例を説明したが、図26に示すように可動ピン114Aと突出しピン114Bとを互いに異なる型に設けてもよい。図示した例では、可動ピン114Aを固定型102に設け、突出しピン114Bを可動型103に設けている。
このような構成によれば、樹脂原料gを硬化させた後に可動型103側に張り付いている複合部材Pを突出しピン114Bを使って可動型103から取り外す工程と同時に、固定型102へ可動ピン114Aを使って多孔質シート106を位置決めする工程ができる。つまり多孔質シート106を位置決めする工程と複合部材Pを脱型する工程とを同時に行うことができ、製造時間を短縮することができる。なお図示の例とは異なり可動ピン114Aを可動型に設け、突出ピン114Bを固定型に設けてもよい。
【0082】
本出願は、2019年4月20日出願の日本特許出願(特願2019-080574)および2019年7月26日出願の日本特許出願(特願2019-138023)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、意匠面に孔が設けられることのない複合部材の製造方法及びこれに用いる成形型が提供される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19A
図19B
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25A
図25B
図25C
図25D
図26