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特許7461364セリウム元素及びジルコニウム元素を含有する複合酸化物の粉末、及びこれを使用した排ガス浄化用触媒組成物、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】セリウム元素及びジルコニウム元素を含有する複合酸化物の粉末、及びこれを使用した排ガス浄化用触媒組成物、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20240327BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240327BHJP
   B01J 23/56 20060101ALI20240327BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C01G25/02 ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J23/56 A
F01N3/10 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021545568
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034100
(87)【国際公開番号】W WO2021049525
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019164776
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 覚史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆広
(72)【発明者】
【氏名】稲村 昌晃
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 大典
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-170775(JP,A)
【文献】特開平11-138001(JP,A)
【文献】特開2013-014458(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム元素及びジルコニウム元素を含有する複合酸化物の粉末であって、
大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の10~100nm区間細孔容積が、0.35mL/g以上であり、
昇温脱離法により測定される、前記熱処理後の二酸化炭素脱離量が、80μmol/g以上である、前記粉末。
【請求項2】
平均粒径D50が、30μm以下である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
平均粒径D90が、60μm以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
嵩密度が、0.40g/mL以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
前記複合酸化物が、セリウム元素以外の1種又は2種以上の希土類元素を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
前記セリウム元素以外の1種又は2種以上の希土類元素の酸化物換算の合計含有量が、前記粉末の質量を基準として、0.1質量%以上40質量%以下である、請求項5に記載の粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末と、貴金属元素とを含む、排ガス浄化用触媒組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末と、前記粉末に担持された貴金属元素とを含む、排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末を製造する方法であって、下記工程:
(a)セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により得られるスラリーから、第1のケーキを得る工程;
(b)前記第1のケーキをアルコール含有液で処理し、アルコール濃度が60vol%以上である第2のケーキを得る工程;及び
(c)前記第2のケーキを600~900℃の温度で焼成する工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム元素(Ce)及びジルコニウム元素(Zr)を含有する複合酸化物(以下「CeO-ZrO系複合酸化物」という。)の粉末、該粉末と貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒組成物、該粉末と該粉末に担持された貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒、並びに、該粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、バイク等の内燃機関から排出される排ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。これらの有害成分を浄化して無害化する排ガス浄化用触媒として、HC及びCOを酸化して水及び二酸化炭素に変換するとともに、NOxを還元して窒素に変換する触媒活性を有する三元触媒が使用されている。
【0003】
排ガス中の酸素濃度の変動を緩和してHC、CO、NOx等を効率よく浄化するために、三元触媒の構成材料として、酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する材料、例えば、CeO-ZrO系複合酸化物の粉末が使用されている。
【0004】
CeO-ZrO系複合酸化物の粉末の製造方法としては、セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により共沈物(沈殿物)を生成させ、得られた共沈物を焼成する方法が知られている。なお、原料液の溶媒としては、通常、水が使用される。
【0005】
例えば、特許文献1には、硝酸セリウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ネオジム及び硝酸ランタンを含有する水溶液から共沈法により共沈物を生成させ、得られた共沈物を大気中1000℃で3時間焼成してCeO-ZrO系複合酸化物の粉末を製造する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ランタン及び硝酸イットリウムを含有する水溶液から共沈法により共沈物を生成させ、得られた共沈物を大気中800℃で5時間焼成してCeO-ZrO系複合酸化物の粉末を製造する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリー、硝酸セリウム、硝酸ランタン及び硝酸ネオジムを含有する水溶液から共沈法により共沈物を生成させ、得られた共沈物を大気中600℃で5時間焼成してCeO-ZrO系複合酸化物の粉末を製造する方法が記載されている。特許文献3において、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーは、オキシ塩化ジルコニウム水溶液をオートクレーブに入れ、圧力を2×10Paとし、温度を120℃とした後、硫酸塩化剤(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等)を添加することにより製造されている。特許文献3には、硫酸塩化剤による硫酸塩化反応を進行させるために、オキシ塩化ジルコニウム水溶液の温度を100℃以上とすることが必須であることが記載されている。
【0008】
近年、排ガス規制が厳しくなっており、内燃機関の排ガス浄化用触媒については、触媒が十分に暖まっている高温(例えば、高速定常運転時の温度)における浄化性能とともに、触媒が十分に暖まっていない低温~中温(例えば、運転開始初期の温度)における浄化性能が強く求められている。
【0009】
CeO-ZrO系複合酸化物の粉末における細孔容積が増加すれば、CeO-ZrO系複合酸化物の粉末における排ガス拡散性が向上し、低温~中温における排ガス浄化用触媒の浄化性能も向上すると考えられる。しかしながら、CeO-ZrO系複合酸化物の粉末における細孔容積が、高温に曝露された後も維持されること、すなわち、細孔容積の耐熱性が必要である。
【0010】
CeO-ZrO系複合酸化物の粉末における細孔容積の耐熱性は、例えば、特許文献3で検討されている。特許文献3では、貴金属が直径10~100nmの細孔に分散性よく担持されることを考慮して、大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の直径10~100nmの細孔の合計容積の耐熱性が検討されている。そして、特許文献3には、酸化ジルコニウム72重量%、酸化セリウム21重量%、酸化ランタン2重量%及び酸化ネオジム5重量%からなり、熱処理後の直径10~100nmの細孔の合計容積が0.47mL/g(全細孔容積:0.82mL/g,直径10~100nmの細孔容積率:57%)であるCeO-ZrO系複合酸化物、並びに、酸化ジルコニウム45重量%、酸化セリウム45重量%、酸化ランタン3重量%及び酸化プラセオジム7重量%からなり、熱処理後の直径10~100nmの細孔の合計容積が0.26mL/g(全細孔容積:0.79mL/g,直径10~100nmの細孔容積率:33%)であるCeO-ZrO系複合酸化物が記載されている。
【0011】
一方、CeO-ZrO系複合酸化物は、固体塩基触媒であり、その触媒活性(例えば、NOxを還元して窒素に変換する浄化性能)には塩基点が関与している。固体塩基触媒の塩基点の量又は強度を調べるための一般的なキャラクタリゼーションとして、昇温脱離法(TPD:Temperature Programed Desorption)が行われている。昇温脱離法は、固体試料にプローブ分子(例えば、二酸化炭素)を吸着させた後、温度を連続的に上昇させることによって生じる脱離ガスを測定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2010-227739号公報
【文献】特開2015-112553号公報
【文献】特開2008-081392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低温~中温における排ガス浄化用触媒の浄化性能の向上を実現可能なCeO-ZrO系複合酸化物の粉末、該粉末と貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒組成物、該粉末と該粉末に担持された貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒、並びに、該粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により得られるスラリーから、第1のケーキを得、第1のケーキをアルコール含有液で処理し、アルコール濃度が調整された第2のケーキを得、第2のケーキを焼成してCeO-ZrO系複合酸化物の粉末を製造することにより、大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の10~100nm区間細孔容積及び昇温脱離法により測定される同熱処理後の二酸化炭素脱離量を調整できることを見出した。
【0015】
具体的には、本発明者らは、セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により得られるスラリーから、第1のケーキを得、第1のケーキをアルコール含有液で処理し、アルコール濃度が60vol%以上である第2のケーキを得、第2のケーキを焼成することにより、大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の10~100nm区間細孔容積が0.35mL/g以上であり、かつ、昇温脱離法により測定される同熱処理後の二酸化炭素脱離量が80μmol/g以上であるCeO-ZrO系複合酸化物を製造できることを見出した。
【0016】
また、本発明者らは、大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の10~100nm区間細孔容積が0.35mL/g以上であり、かつ、昇温脱離法により測定される同熱処理後の二酸化炭素脱離量が80μmol/g以上であるCeO-ZrO系複合酸化物の粉末を使用することにより、低温~中温(例えば、200~600℃)における排ガス浄化用触媒の浄化性能を向上させることができることを見出した。
【0017】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
[1]セリウム元素及びジルコニウム元素を含有する複合酸化物の粉末であって、大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の10~100nm区間細孔容積が、0.35mL/g以上であり、昇温脱離法により測定される、前記熱処理後の二酸化炭素脱離量が、80μmol/g以上である、前記粉末。
[2]平均粒径D50が、30μm以下である、[1]に記載の粉末。
[3]平均粒径D90が、60μm以下である、[1]又は[2]に記載の粉末。
[4]嵩密度が、0.40g/mL以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の粉末。
[5]前記複合酸化物が、セリウム元素以外の1種又は2種以上の希土類元素を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の粉末。
[6]前記セリウム元素以外の1種又は2種以上の希土類元素の酸化物換算の合計含有量が、前記粉末の質量を基準として、0.1質量%以上40質量%以下である、[5]に記載の粉末。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の粉末と、貴金属元素とを含む、排ガス浄化用触媒組成物。
[8][1]~[6]のいずれかに記載の粉末と、前記粉末に担持された貴金属元素とを含む、排ガス浄化用触媒。
[9][1]~[6]のいずれかに記載の粉末を製造する方法であって、下記工程:
(a)セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により得られるスラリーから、第1のケーキを得る工程;
(b)前記第1のケーキをアルコール含有液で処理し、アルコール濃度が60vol%以上である第2のケーキを得る工程;及び
(c)前記第2のケーキを600~900℃の温度で焼成する工程
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、大気中、1000℃で3時間行われる熱処理後の10~100nm区間細孔容積が0.35mL/g以上であり、かつ、昇温脱離法により測定される同熱処理後の二酸化炭素脱離量が80μmol/g以上であるCeO-ZrO系複合酸化物の粉末、該粉末と貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒組成物、該粉末と該粉末に担持された貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒、並びに、該粉末の製造方法が提供される。本発明の粉末を使用することにより、低温~中温(例えば、200~600℃)における排ガス浄化用触媒の浄化性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明において、「数値A~数値B」という表現は、別段規定される場合を除き、数値A以上数値B以下を意味する。
【0020】
≪粉末の組成≫
本発明の粉末は、セリウム元素(Ce)及びジルコニウム元素(Zr)を含有する複合酸化物(以下「CeO-ZrO系複合酸化物」という。)で形成されている。すなわち、本発明の粉末を構成する複数の粒子は、それぞれ、CeO-ZrO系複合酸化物で形成されている。本発明の粉末に含まれるある粒子と別の粒子とは、同一組成のCeO-ZrO系複合酸化物で形成されていてもよいし、異なる組成のCeO-ZrO系複合酸化物で形成されていてもよい。
【0021】
CeO-ZrO系複合酸化物において、酸化セリウム(CeO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)が、固溶体相を形成していることが好ましい。酸化セリウム及び酸化ジルコニウムは、それぞれ、固溶体相に加えて、単独相(酸化セリウム単独相又は酸化ジルコニウム単独相)を形成していてもよい。
【0022】
セリウム元素の酸化セリウム換算の含有量及びジルコニウム元素の酸化ジルコニウム換算の含有量は、本発明の粉末に求められる特性(例えば、酸素貯蔵能(酸素吸放出能)、熱処理後の10~100nm区間細孔容積、熱処理後の二酸化炭素脱離量、平均粒径D50、平均粒径D90、嵩密度等)を考慮して調整される。
【0023】
セリウム元素の酸化セリウム換算の含有量は、CeO-ZrO系複合酸化物の酸素貯蔵能をより向上させることができるという観点から、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは5.0質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上80質量%以下、さらに一層好ましくは10質量%以上70質量%以下である。
【0024】
ジルコニウム元素の酸化ジルコニウム換算の含有量は、CeO-ZrO系複合酸化物の耐熱性をより向上させることができるという観点から、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは5.0質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上80質量%以下、さらに一層好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに一層好ましくは30質量%以上80質量%以下、さらに一層好ましくは40重量%以上60重量%以下、さらに一層好ましくは42重量%以上58重量%以下、さらに一層好ましくは45重量%以上55重量%以下である。
【0025】
ジルコニウム元素の酸化ジルコニウム換算の含有量の、セリウム元素の酸化セリウム換算の含有量に対する比率(ジルコニウム元素の酸化ジルコニウム換算の含有量/セリウム元素の酸化セリウム換算の含有量)は、CeO-ZrO系複合酸化物の酸素貯蔵能及び耐熱性を高度にバランスさせることができるという観点から、好ましくは0.5以上10以下、さらに好ましくは0.8以上8.0以下、さらに一層好ましくは1.0以上5.0以下である。
【0026】
CeO-ZrO系複合酸化物は、セリウム元素及びジルコニウム元素以外の1種又は2種以上の金属元素を含有してもよいし、含有しなくてもよいが、含有することが好ましい。セリウム元素及びジルコニウム元素以外の1種又は2種以上の金属元素又はその酸化物は、酸化セリウム及び/又は酸化ジルコニウムとともに固溶体相を形成していてもよいし、単独相を形成していてもよい。
【0027】
セリウム元素及びジルコニウム元素以外の1種又は2種以上の金属元素の酸化物換算の合計含有量は、本発明の粉末に求められる特性(例えば、酸素貯蔵能(酸素吸放出能)、熱処理後の10~100nm区間細孔容積、熱処理後の二酸化炭素脱離量、平均粒径D50、平均粒径D90、嵩密度等)を考慮して調整される。
【0028】
セリウム元素及びジルコニウム元素以外の1種又は2種以上の金属元素は、例えば、セリウム元素以外の希土類元素及びアルカリ土類金属元素から選択される。セリウム元素及びジルコニウム元素以外の1種又は2種以上の金属元素は、好ましくは、セリウム元素以外の希土類元素から選択される。
【0029】
セリウム元素以外の希土類元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物換算の合計含有量は、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは1.0質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは5.0質量%以上20質量%以下である。
【0030】
アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物換算の合計含有量は、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上15質量%以下、さらに一層好ましくは1.0質量%以上10質量%以下である。
【0031】
セリウム元素以外の希土類元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物換算の含有量と、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物換算の含有量との合計は、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは1.0質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは5.0質量%以上20質量%以下である。
【0032】
セリウム元素以外の希土類元素としては、例えば、イットリウム元素(Y)、プラセオジム元素(Pr)、スカンジウム元素(Sc)、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、サマリウム元素(Sm)、ユーロピウム元素(Eu)、ガドリニウム元素(Gd)、テルビウム元素(Tb)、ジスプロシウム元素(Dy)、ホルミウム元素(Ho)、エルビウム元素(Er)、ツリウム元素(Tm)、イッテルビウム元素(Yb)、ルテチウム元素(Lu)等が挙げられるが、これらのうち、ランタン元素、ネオジム元素、プラセオジム元素、イットリウム元素、スカンジウム元素、イッテルビウム元素等が好ましく、ランタン元素、ネオジム元素、プラセオジム元素、イットリウム元素等がさらに好ましい。希土類元素の酸化物は、プラセオジム元素及びテルビウム元素を除いてセスキ酸化物(Re、Reは希土類元素)である。酸化プラセオジムは通常Pr11であり、酸化テルビウムは通常Tbである。希土類元素又はその酸化物は、酸化セリウム及び/又は酸化ジルコニウムとともに固溶体相を形成していてもよいし、単独相を形成していてもよい。
【0033】
ランタン元素の酸化ランタン換算の含有量は、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは1.0質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは1.0質量%以上20質量%以下である。
【0034】
ネオジム元素の酸化ネオジム換算の含有量は、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは1.0質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは1.0質量%以上20質量%以下である。
【0035】
プラセオジム元素の酸化プラセオジム換算の含有量は、本発明の粉末の質量を基準として、好ましくは1.0質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは1.0質量%以上20質量%以下である。
【0036】
アルカリ土類金属元素としては、例えば、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)、ラジウム元素(Ra)等が挙げられる。これらのうち、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素等が好ましく、カルシウム元素、ストロンチウム元素等がさらに好ましい。
【0037】
CeO-ZrO系複合酸化物は、酸素元素と、セリウム元素及びジルコニウム元素を含む2種以上の金属元素と、不可避的不純物(例えば、ジルコニウム源として用いる材料に含まれる微量のハフニウム等)とで構成されている。CeO-ZrO系複合酸化物の質量及び金属酸化物の含有量は、CeO-ZrO系複合酸化物をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中の元素量を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)等の常法により測定し、測定された元素量から算出することができる。
【0038】
≪熱処理後の粉末の特性≫
以下、本発明の粉末の特性のうち、熱処理後の特性について説明する。本発明の粉末は、以下の特性を有することができる。なお、本発明の粉末に対する熱処理は、大気中、1000℃で3時間行われる。
【0039】
<熱処理後の10~100nm区間細孔容積>
熱処理後の10~100nm区間細孔容積(mL/g)は、熱処理後の粉末1gあたりの、直径10~100nmの細孔の合計容積(mL)である。熱処理後の10~100nm区間細孔容積は、本発明の粉末に対して熱処理を行った後、実施例に記載の方法に従って測定される。
【0040】
熱処理後の10~100nm区間細孔容積は、0.35mL/g以上である。したがって、本発明の粉末は、高温に曝露された後も優れた排ガス拡散性を有し、本発明の粉末と、本発明の粉末に担持された貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒は、低温~中温(例えば、200~600℃)において、優れた浄化性能を発揮することができる。
【0041】
熱処理後の10~100nm区間細孔容積は、好ましくは0.40mL/g以上、さらに好ましくは0.45mL/g以上である。熱処理後の10~100nm区間細孔容積が大きいほど、高温に曝露された後の排ガス拡散性が大きくなり、低温~中温における排ガス浄化用触媒の浄化性能が向上する。
【0042】
熱処理後の10~100nm区間細孔容積の上限値は特に限定されないが、通常1.0mL/g、好ましくは0.7mL/gである。
【0043】
後述する本発明の粉末の製造方法において、第2のケーキのアルコール濃度を調整することにより、熱処理後の10~100nm区間細孔容積を調整することができる。例えば、第2のケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、熱処理後の10~100nm区間細孔容積を0.35mL/g以上に調整することができる。なお、熱処理後の10~100nm区間細孔容積は、第2のケーキのアルコール濃度の増加に伴って増加する傾向がある。
【0044】
<熱処理後の二酸化炭素脱離量>
熱処理後の二酸化炭素脱離量(μmol/g)は、熱処理後の粉末1gあたりの、二酸化炭素脱離量(μmol)である。熱処理後の二酸化炭素脱離量は、本発明の粉末に対して熱処理を行った後、実施例に記載の方法(昇温脱離法(TPD:Temperature Programed Desorption))により測定される。昇温脱離法は、固体試料にプローブ分子(本発明では二酸化炭素)を吸着させた後、温度を連続的に上昇させることによって生じる脱離ガスを測定する方法であり、固体塩基触媒の塩基点の量又は強度を調べるために実施される一般的なキャラクタリゼーションである。
【0045】
熱処理後の二酸化炭素脱離量は、80μmol/g以上である。したがって、本発明の粉末は、高温に曝露された後も塩基点の量又は強度が十分であり、本発明の粉末と、本発明の粉末に担持された貴金属元素とを含む排ガス浄化用触媒は、低温~中温(例えば、200~600℃)において、優れた浄化性能を発揮することができる。
【0046】
熱処理後の二酸化炭素脱離量は、好ましくは85μmol/g以上、さらに好ましくは90μmol/g以上、さらに一層好ましくは95μmol/g以上である。二酸化炭素脱離量が大きいほど、塩基点の量又は強度が大きくなり、NOxを還元して窒素に変換する浄化性能が大きくなる。
【0047】
但し、塩基点の量又は強度が大きくなりすぎると、硫黄等の酸性物質が吸着しやすくなり、触媒毒による影響を受けやすくなる。したがって、熱処理後の二酸化炭素脱離量の上限値は、好ましくは150μmol/g、さらに好ましくは130μmol/g、さらに一層好ましくは120μmol/gである。
【0048】
後述する本発明の粉末の製造方法において、第2のケーキのアルコール濃度を調整することにより、熱処理後の二酸化炭素脱離量を調整することができる。例えば、第2のケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、熱処理後の二酸化炭素脱離量を80μmol/g以上に調整することができる。なお、熱処理後の二酸化炭素脱離量は、第2のケーキのアルコール濃度の増加に伴って増加する傾向がある。
【0049】
≪熱処理前の粉末の特性≫
以下、本発明の粉末の特性のうち、熱処理前の特性について説明する。本発明の粉末は、以下の特性のうち2種以上の特性を有することができる。なお、熱処理後の特性については、熱処理後の特性であることを明記するが、熱処理前の特性については、熱処理前の特性であることを明記しない場合がある。
【0050】
<平均粒径D50>
平均粒径D50(μm)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法によって得られた体積基準の粒度分布において、累積体積が50%となる粒径である。レーザー回折・散乱式粒度分布測定法は、実施例に記載の条件に従って実施される。
【0051】
平均粒径D50は、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下、さらに一層好ましくは15μm以下である。
【0052】
平均粒径D50の下限値は特に限定されないが、通常0.01μm、好ましくは0.1μmである。
【0053】
後述する本発明の粉末の製造方法において、第2のケーキのアルコール濃度を調整することにより、平均粒径D50を調整することができる。例えば、第2のケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、平均粒径D50を30μm以下に調整することができる。なお、平均粒径D50は、第2のケーキのアルコール濃度の増加に伴って減少する傾向がある。
【0054】
<平均粒径D90>
平均粒径D90(μm)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法によって得られた体積基準の粒度分布において、累積体積が90%となる粒径を意味する。レーザー回折・散乱式粒度分布測定法は、実施例に記載の条件に従って実施される。
【0055】
平均粒径D90は、好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下、さらに一層好ましくは40μm以下である。
【0056】
平均粒径D90の下限値は特に限定されないが、通常0.1μm、好ましくは1.0μmである。
【0057】
後述する本発明の粉末の製造方法において、第2のケーキのアルコール濃度を調整することにより、平均粒径D90を調整することができる。例えば、第2のケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、平均粒径D90を60μm以下に調整することができる。なお、平均粒径D90は、第2のケーキのアルコール濃度の増加に伴って減少する傾向がある。
【0058】
<嵩密度>
嵩密度(g/mL)は、JIS K-5101-12-2:2004に準拠して測定される、単位体積(1mL)あたりの質量(g)である。
【0059】
嵩密度は、好ましくは0.40g/mL以下、さらに好ましくは0.35g/mL以下、さらに一層好ましくは0.30g/mL以下である。
【0060】
嵩密度の下限値は特に限定されないが、通常0.1g/mL、好ましくは0.2g/mL以上である。
【0061】
後述する本発明の粉末の製造方法において、第2のケーキのアルコール濃度を調整することにより、嵩密度を調整することができる。例えば、第2のケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、嵩密度を0.40g/mL以下に調整することができる。第2のケーキのアルコール濃度を調整した後、第2のケーキを焼成することにより、平均粒径が小さくなり、解砕しやすくなるので、嵩密度を調整しやすくなる。なお、嵩密度は、第2のケーキのアルコール濃度の増加に伴って減少する傾向がある。
【0062】
<タップ密度>
タップ密度(g/mL)は、実施例に記載の方法に従って測定される、単位体積(1mL)あたりの質量(g)である。
【0063】
タップ密度は、好ましくは0.4g/mL以下、さらに好ましくは0.38g/mL以下、さらに一層好ましくは0.35g/mL以下である。
【0064】
タップ密度の下限値は特に限定されないが、通常0.1g/mL、好ましくは0.2g/mL以上である。
【0065】
後述する本発明の粉末の製造方法において、第2のケーキのアルコール濃度を調整することにより、タップ密度を調整することができる。例えば、第2のケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、タップ密度を0.4g/mL以下に調整することができる。第2のケーキのアルコール濃度を調整した後、第2のケーキを焼成することにより、平均粒径が小さくなり、解砕しやすくなるので、タップ密度を調整しやすくなる。なお、タップ密度は、第2のケーキのアルコール濃度の増加に伴って減少する傾向がある。
【0066】
タップ密度と嵩密度との間には相関関係があるので、タップ密度を嵩密度に代えて指標することができる。タップ密度は、嵩密度よりも簡便に測定できる点で好ましい。
【0067】
≪排ガス浄化用触媒組成物≫
本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、本発明の粉末と、1種又は2種以上の貴金属元素とを含む。
【0068】
貴金属元素としては、例えば、パラジウム元素(Pd)、白金元素(Pt)、ロジウム元素(Rh)等が挙げられる。一実施形態において、本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、貴金属元素を、貴金属元素の供給源である貴金属元素の塩の形態で含有する。貴金属元素の塩としては、例えば、硝酸塩、アンミン錯体塩、塩化物等が挙げられる。
【0069】
本発明の排ガス浄化用触媒組成物における貴金属元素の含有量は、本発明の粉末と貴金属元素との合計質量を基準として、好ましくは0.1質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは0.1質量%以上20質量%以下である。貴金属元素の量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)等の常法を使用して測定することができる。
【0070】
本発明の排ガス浄化用触媒組成物の形態は、本発明の粉末と貴金属元素とを含む限り特に限定されない。一実施形態において、本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、液体の形態、例えば、本発明の粉末と貴金属元素の塩とを含有する分散液の形態である。この実施形態において、貴金属元素の塩(貴金属元素の塩の電離により生じた貴金属イオンを含む)は、本発明の粉末を構成する粒子に含浸していることが好ましい。
【0071】
分散液は、本発明の粉末の含有量に応じて種々の粘度を有し、粘度に応じて、インク、スラリー、ペースト等の種々の形態をとる。分散液の形態は、好ましくはスラリーである。分散液がスラリーである場合、分散液における本発明の粉末の含有量は、分散液の総質量を基準として、好ましくは0.1質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上60質量%以下、さらに一層好ましくは3.0質量%以上40質量%以下である。
【0072】
分散液に含有される分散媒としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。分散媒は、1種の溶媒であってもよいし、2種以上の溶媒の混合物であってもよい。2種以上の溶媒の混合物としては、例えば、水と1種又は2種以上の有機溶媒との混合物、2種以上の有機溶媒の混合物等が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0073】
本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、担体成分を含んでいてもよい。担体成分は、好ましくは、多孔質体である。担体成分としては、例えば、Al、ZrO、SiO、TiO、La等の希土類金属の酸化物(Re)、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、MgO、ZnO、SnO等をベースとした酸化物等が挙げられる。好ましい担体成分としては、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、アルミノ-シリケート類、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-クロミア、アルミナ-セリア等が挙げられる。
【0074】
本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、安定剤を含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、アルカリ土類金属化合物等が挙げられる。アルカリ土類金属元素としては、例えば、Sr(ストロンチウム元素)、Ba(バリウム元素)等が挙げられるが、これらのうち、PdOが還元される温度が一番高い、すなわち還元されにくいという観点から、Baが好ましい。アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の硝酸塩、炭酸塩、酸化物等が挙げられる。
【0075】
本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、バインダー成分を含んでいてもよい。バインダー成分としては、例えば、アルミナゾル等の無機系バインダーが挙げられる。
【0076】
本発明の排ガス浄化用触媒組成物は、本発明の粉末と、本発明の粉末に担持された貴金属元素とを含有する排ガス浄化用触媒を製造するための材料として使用することができる。
【0077】
≪排ガス浄化用触媒≫
本発明の排ガス浄化用触媒は、本発明の粉末と、本発明の粉末に担持された1種又は2種以上の貴金属元素とを含む。貴金属元素としては、例えば、パラジウム元素(Pd)、白金元素(Pt)、ロジウム元素(Rh)等が挙げられる。貴金属元素は、触媒活性成分として機能し得る形態、例えば、貴金属、貴金属元素を含む合金、貴金属元素を含む化合物(例えば、貴金属元素の酸化物)等の形態で本発明の粉体に担持される。触媒活性成分は、排ガス浄化性能を高める観点から、粒子状であることが好ましい。貴金属元素の担持量は、本発明の粉末と、本発明の粉末に担持された貴金属元素との合計質量を基準として、好ましくは0.1質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、さらに一層好ましくは0.1質量%以上20質量%以下である。貴金属元素の担持量は、触媒をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中の貴金属元素の質量を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)等の常法を使用して測定することにより測定することができる。なお、貴金属元素の質量は、貴金属換算の質量である。
【0078】
「担持」は、貴金属元素が本発明の粉末を構成する粒子の外表面又は細孔内表面に物理的又は化学的に吸着又は保持されている状態を意味する。貴金属元素が本発明の粉末に担持されていることは、例えば、本発明の排ガス浄化用触媒の断面をEDS(エネルギー分散型分光器)で分析して得られた元素マッピングにおいて、本発明の粉末と貴金属元素とが同じ領域に存在することにより確認することができる。
【0079】
本発明の排ガス浄化用触媒は、本発明の粉末及び貴金属元素以外の成分(以下「その他の成分」という。)を含んでいてもよい。その他の成分は、本発明の排ガス浄化用触媒組成物と同様であり、例えば、担体成分、安定剤、バインダー成分等が挙げられる。その他の成分に関する説明は、上記と同様であるので、省略する。
【0080】
一実施形態において、本発明の排ガス浄化用触媒は、ペレット状等の形状を有する成形体である。この実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、例えば、本発明の粉末と貴金属塩含有溶液とを混合した後、乾燥し、焼成することにより製造することができる。混合により、貴金属塩含有溶液は、本発明の粉末を構成する粒子に含浸する。貴金属塩としては、例えば、硝酸塩、アンミン錯体塩、塩化物等が挙げられる。貴金属含有溶液の溶媒は、通常、水(例えば、イオン交換水等)である。貴金属含有溶液は、水以外の1種又は2種以上の溶媒を含有してもよい。水以外の溶媒としては、例えば、アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。乾燥温度は、通常50℃以上200℃以下、好ましくは90℃以上150℃以下であり、乾燥時間は、通常1時間以上100時間以下、好ましくは3時間以上48時間以下である。焼成温度は、通常300℃以上900℃以下、好ましくは400℃以上700℃以下であり、焼成時間は、通常1時間以上24時間以下、好ましくは1.5時間以上10時間以下である。焼成は、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。
【0081】
別の実施形態において、本発明の排ガス浄化用触媒は、基材と、該基材上に形成された触媒層とを備え、該触媒層は、本発明の粉末と、本発明の粉末に担持された貴金属元素とを含む。
【0082】
基材は、公知の排ガス浄化用触媒において使用されている基材の中から適宜選択することができる。基材の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al-2SiO)、コージェライト(2MgO-2Al-5SiO)、チタン酸アルミニウム(AlTiO)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックス、ステンレス等の金属材料等が挙げられる。基材の形状としては、例えば、ハニカム状、ペレット状、球状等が挙げられる。ハニカム状の基材を使用する場合、例えば、基材内部を流体が流通するように、基材内部に平行で微細な気体流通路、すなわち、チャンネルを多数有するモノリス型基材を使用することができる。
【0083】
触媒層は、本発明の排ガス浄化用触媒組成物を基材表面に塗布した後、乾燥し、焼成することにより形成することができる。例えば、モノリス型基材を使用する場合、モノリス型基材の各チャンネル内壁表面に、本発明の排ガス浄化用触媒組成物を塗布した後、乾燥し、焼成することにより、モノリス型基材の各チャンネル内壁表面に触媒層を形成することができる。触媒層は、本発明の排ガス浄化用触媒組成物を基材表面に塗布した後、乾燥し、焼成することにより得られた層に対して、貴金属塩含有溶液を含浸させ、乾燥し、焼成する方法によっても製造することができる。乾燥温度は、通常50℃以上200℃以下、好ましくは90℃以上120℃以下であり、乾燥時間は、通常0.1時間以上3.0時間以下、好ましくは0.1時間以上2.0時間以下である。焼成時間は、通常300℃以上900℃以下、好ましくは400℃以上700℃以下であり、焼成時間は、通常1時間以上24時間以下、好ましくは1.5時間以上10時間以下である。焼成は、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。
【0084】
本発明の排ガス浄化用触媒は、本発明の粉末が触媒用担体として使用されているため、低温~中温において、優れた浄化性能を発揮する。低温~中温における浄化性能は、ライトオフ温度T50に基づいて評価することができる。ライトオフ温度T50は、浄化率が50%に達する温度であり、実施例に記載の条件に従って測定される。本発明の排ガス浄化用触媒のライトオフ温度T50は、COの浄化率に関しては、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは240℃以下、さらに一層好ましくは230℃以下であり、炭化水素(HC)の浄化率に関しては、好ましくは265℃以下、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは255℃以下、さらに一層好ましくは250℃以下であり、NOxの浄化率に関しては、好ましくは280℃以下、さらに好ましくは270℃以下、さらに一層好ましくは260℃以下である。なお、ライトオフ温度T50の下限値は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上である。
【0085】
≪粉末の製造方法≫
本発明の粉末の製造方法は、以下の工程:
(a)セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により得られるスラリーから、第1のケーキを得る工程;
(b)第1のケーキをアルコール含有液で処理し、アルコール濃度が60vol%以上である第2のケーキを得る工程;及び
(c)第2のケーキを600~900℃の温度で焼成する工程
を含む。以下、各工程について説明する。
【0086】
<工程(a)>
工程(a)は、セリウム塩及びジルコニウム塩を含有する原料液から共沈法により得られるスラリーから、第1のケーキを得る工程である。
【0087】
セリウム塩は、水溶性塩であってもよいし、水難溶性塩であってもよいが、好ましくは、水溶性塩である。セリウムの水溶性塩としては、例えば、硝酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム等が挙げられるが、これらのうち、塩化セリウムが好ましい。セリウム塩として水難溶性塩が使用される場合、ジルコニウム塩として水溶性塩が使用されることが好ましい。セリウムの水難溶性塩としては、例えば、水酸化セリウム、酸化セリウム、炭酸セリウム等が挙げられる。セリウム塩の濃度は、CeO-ZrO系複合酸化物におけるセリウム元素の酸化セリウム換算の含有量が所望の範囲になるように調整される。
【0088】
ジルコニウム塩は、水溶性塩であってもよいし、水難溶性塩であってもよいが、好ましくは、水溶性塩である。ジルコニウムの水溶性塩としては、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム等が挙げられるが、これらのうち、オキシ塩化ジルコニウム及び塩化ジルコニウムが好ましく、オキシ塩化ジルコニウムがさらに好ましい。ジルコニウム塩として水難溶性塩が使用される場合、セリウム塩として水溶性塩が使用されることが好ましい。ジルコニウムの水難溶性塩としては、例えば、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム等が挙げられる。ジルコニウム塩の濃度は、CeO-ZrO系複合酸化物におけるジルコニウム元素の酸化ジルコニウム換算の含有量が所望の範囲になるように調整される。
【0089】
原料液は、CeO-ZrO系複合酸化物の組成に応じて、セリウム元素及びジルコニウム元素以外の金属元素(例えば、セリウム元素以外の希土類元素及びアルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上の金属元素)の水溶性塩を含有することができる。セリウム元素及びジルコニウム元素以外の金属元素の水溶性塩としては、例えば、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられるが、これらのうち、塩化物が好ましい。セリウム元素及びジルコニウム元素以外の金属元素の水溶性塩の濃度は、CeO-ZrO系複合酸化物におけるセリウム元素及びジルコニウム元素以外の金属元素の酸化物換算の含有量が所望の範囲になるように調整される。
【0090】
原料液は、溶媒を含有する。溶媒は、通常、水(例えば、イオン交換水等)である。原料液は、水以外の1種又は2種以上の溶媒を含有してもよい。水以外の溶媒は、例えば、アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒から選択することができる。アルコールの具体例は、後述するアルコール含有液と同様である。水以外の1種又は2種以上の溶媒の合計含有量は、原料液の体積を基準として、好ましくは30vol%以下、さらに好ましくは10vol%以下である。
【0091】
共沈法は、常法に従って行うことができる。共沈法では、原料液に沈殿剤が添加されることにより、セリウム元素と、ジルコニウム元素と、場合によりその他の金属元素(例えば、セリウム元素以外の希土類元素及びアルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上の金属元素)とを含有する沈殿物(共沈物)が形成される。共沈法で使用される沈殿剤は、原料液に含有される塩の種類等に応じて、公知の沈殿剤の中から適宜選択することができる。沈殿剤としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリが挙げられるが、これらのうち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等がさらに好ましい。沈殿剤の添加量は、原料液に含有される塩の種類、沈殿剤の種類等に応じて適宜調整することができる。例えば、沈殿剤として水酸化ナトリウムを使用する場合、水酸化ナトリウムは、水酸化ナトリウム添加後の原料液のpHが、通常9.0以上14.0以下、好ましくは10.0以上14.0以下となる量で添加することができる。
【0092】
共沈法により得られるスラリーは、共沈物及び溶媒を含有する。スラリー中の溶媒は、原料液中の溶媒に由来するものである。共沈物は、例えば、セリウムの水難溶性塩と、ジルコニウムの水難溶性塩と、場合によりセリウム元素及びジルコニウム元素以外の金属元素(例えば、セリウム元素以外の希土類元素及びアルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上の金属元素)の水難溶性塩とを含有する。水難溶性塩の種類は、原料液に含有される塩の種類、共沈法で使用される沈殿剤の種類等に応じて、適宜決定される。水難溶性塩としては、例えば、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、酸化物等が挙げられる。例えば、沈殿剤として水酸化ナトリウムを使用する場合、共沈物に含有されるセリウムの水難溶性塩及びジルコニウムの水難溶性塩は、水酸化セリウム及び水酸化ジルコニウムである。
【0093】
第1のケーキは、スラリーを固液分離することにより得られる。固液分離法としては、例えば、濾過、遠心分離、デカンテーション等が挙げられるが、これらのうち、濾過が好ましい。固液分離により溶媒が除去され、第1のケーキが得られるが、溶媒は完全には除去されないので、第1のケーキには溶媒が残存する。
【0094】
第1のケーキを工程(b)に供する前に、第1のケーキを洗浄液で洗浄することが好ましい。洗浄液としては、水(例えば、イオン交換水等)を使用することが好ましい。第1のケーキを洗浄液で洗浄することにより、第1のケーキ中の溶媒の一部又は全部が洗浄液で置換される。
【0095】
<工程(b)>
工程(b)は、第1のケーキをアルコール含有液で処理し、アルコール濃度が60vol%以上である第2のケーキを得る工程である。
【0096】
アルコール含有液は、1種又は2種以上のアルコールを含有する。アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、へキシルアルコール等が挙げられるが、これらのうち、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、2-プロパノール、1-プロパノール等が好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール等がさらに好ましい。アルコール含有液が1種のアルコールを含有する場合、当該1種のアルコールはエチルアルコールであることが好ましく、アルコール含有液が2種以上のアルコールを含有する場合、当該2種以上のアルコールは、エチルアルコールと、その他の1種以上のアルコールであることが好ましい。
【0097】
アルコール含有液のアルコール濃度は、実現すべき第2のケーキのアルコール濃度に応じて適宜調整される。アルコール含有液のアルコール濃度は、実現すべき第2のケーキのアルコール濃度以上であればよい。したがって、アルコール含有液のアルコール濃度は、実現すべき第2のケーキのアルコール濃度と同一であってもよいし、実現すべき第2のケーキのアルコール濃度を超えていてもよい。アルコール含有液のアルコール濃度の上限値は特に限定されない。なお、アルコール含有液が2種以上のアルコールを含有する場合、アルコール含有液のアルコール濃度は、当該2種以上のアルコールの合計濃度である。
【0098】
アルコール含有液がエチルアルコールを含有する場合、エチルアルコール濃度は、アルコール含有液の体積を基準として、好ましくは51vol%以上、さらに好ましくは65vol%以上、さらに一層好ましくは90vol%以上である。エチルアルコール濃度の上限値は特に限定されないが、通常100vol%である。
【0099】
アルコール含有液は、アルコール以外の1種又は2種以上の成分を含有してもよい。アルコール以外の成分としては、例えば、水分、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘプタノン、ジエチルケトン等)、エーテル類(1,4-ジオキサン、ジオキソラン、ジイソプロピルエーテルジオキサン、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が挙げられる。
【0100】
アルコール含有液としては、例えば、市販の変性アルコール(工業用アルコール)をそのまま又はイオン交換水等の水で希釈して使用することができる。
【0101】
アルコール含有液による第1のケーキの処理は、第1のケーキとアルコール含有液とを接触させ、第1のケーキ中の液体(例えば、原料液の溶媒、洗浄液等)をアルコール含有液で置換することができる限り特に限定されず、例えば、第1のケーキをアルコール含有液に浸漬する方法、第1のケーキとアルコール含有液とを混合する方法等が挙げられる。第2のケーキは、第1のケーキとアルコール含有液とを接触させた後(例えば、第1のケーキをアルコール含有液に浸漬した後、又は、第1のケーキとアルコール含有液とを混合した後)、固液分離することにより得られる。固液分離法としては、例えば、濾過、遠心分離、デカンテーション等が挙げられるが、これらのうち、濾過が好ましい。固液分離法によりアルコール含有液が除去され、第2のケーキが得られるが、アルコール含有液は完全には除去されないので、第2のケーキにはアルコール含有液が残存する。アルコール含有液による第1のケーキの処理を繰り返すことにより、第2のケーキのアルコール濃度は、アルコール含有液のアルコール濃度に近づき、最終的には一致する。したがって、アルコール含有液のアルコール濃度が、実現すべき第2のケーキのアルコール濃度と同一である場合、アルコール含有液による第1のケーキの処理は、第2のケーキのアルコール濃度がアルコール含有液のアルコール濃度と一致するまで繰り返される。一方、アルコール含有液のアルコール濃度が、実現すべき第2のケーキのアルコール濃度を超える場合、アルコール含有液による第1のケーキの処理は、第2のケーキのアルコール濃度が目的のアルコール濃度に達するまで繰り返される。
【0102】
第2のケーキのアルコール濃度は60vol%以上である。第2のケーキのアルコール濃度は、好ましくは70vol%以上、さらに好ましくは80vol%以上、さらに一層好ましくは88vol%以上である。第2のケーキのアルコール濃度は、本発明の粉末に求められる特性(例えば、酸素貯蔵能(酸素吸放出能)、熱処理後の10~100nm区間細孔容積、熱処理後の二酸化炭素脱離量、平均粒径D50、平均粒径D90、嵩密度等)を考慮して調整される。
【0103】
第2のケーキのアルコール濃度は、第1のケーキの処理に使用された後のアルコール含有液のアルコール濃度によって定義される。すなわち、第1のケーキとアルコール含有液とを接触させた後(例えば、第1のケーキをアルコール含有液に浸漬した後、又は、第1のケーキとアルコール含有液とを混合した後)、固液分離により得られた濾液又は排液のアルコール濃度を測定し、測定された濾液又は排液のアルコール濃度を、第2のケーキのアルコール濃度とする。
【0104】
アルコール濃度は、常法に従って測定することができる。例えば、アルコール含有液のアルコール濃度と、アルコール含有液の比重との換算表を予め作成しておき、アルコール含有液の比重を測定し、測定された比重に基づいて、アルコール含有液のアルコール濃度を算出することができる。アルコール含有液の比重は、例えば、浮ひょう型比重計により測定することができる。比重を測定する際のアルコール含有液の温度は、例えば、15℃である。比重の測定及び比重のアルコール濃度への換算に関しては、JIS B 7548:2009(酒精度浮ひょう)附属書A(規定)「国際アルコール表」を参考にすることができる。
【0105】
第2のケーキを工程(c)に供する前に、第2のケーキを乾燥することが好ましい。乾燥は常法に従って行うことができる。乾燥温度は、通常60℃以上200℃以下、好ましくは80℃以上130℃以下であり、乾燥時間は、通常1時間以上24時間以下、好ましくは2時間以上12時間以下である。
【0106】
<工程(c)>
工程(c)は、第2のケーキを600~900℃の温度で焼成する工程である。
【0107】
第2のケーキの焼成は、常法に従って行うことができる。第2のケーキの焼成は、例えば、大気雰囲気下で行われる。焼成温度は、600℃以上900℃以下、好ましくは600℃以上800℃以下である。焼成時間は、通常1時間以上12時間以下、好ましくは1時間以上6時間以下である。
【0108】
工程(c)で得られるCeO-ZrO系複合酸化物は、必要に応じて粉砕される。粉砕は、常法に従って行うことができる。粉砕は、例えば、乳鉢、ハンマーミル、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ローラーミル等を使用して、乾式又は湿式にて行うことができる。
【実施例
【0109】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0110】
〔アルコール含有液の調製〕
変性アルコール(中国精油株式会社製CSソルブ NM-85)及びイオン交換水を使用して、アルコール濃度(体積パーセント濃度)が47vol%、72vol%、86vol%、91vol%及び95vol%のアルコール含有液を調製した。各アルコール含有液の比重(15/15℃)を浮ひょう型比重計により測定し、比重(15/15℃)とアルコール濃度(vol%)との換算表を作成した。なお、使用した変性アルコールの組成は、エチルアルコール85.5wt%、メチルアルコール5wt%、n-プロピルアルコール9.5wt%である。
【0111】
〔実施例1〕
(1)CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製
オキシ塩化ジルコニウム水溶液97.9g(ZrO換算Zr量20g)、塩化セリウム水溶液74.6g(CeO換算Ce量16g)、塩化ランタン水溶液3.3g(La換算La量0.8g)、塩化ネオジム水溶液6.8g(Nd換算Nd量1.6g)、塩化プラセオジム水溶液9.1g(Pr11換算Pr量1.6g)をイオン交換水330mLに溶解し、1Lビーカーで均一に混合し、原料液を得た。原料液に対して、24wt%水酸化ナトリウム水溶液200gを80分かけて加え、中和処理し、原料液から共沈法により共沈物(沈殿物)を生成させ、スラリーを得た。スラリーを濾過し、得られたケーキをイオン交換水で濾過洗浄した。洗浄後、ケーキを、アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液で処理し、ケーキのアルコール濃度を調整した。具体的には、ケーキを、アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液に浸漬し、ケーキ中の水分を、アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液で置換した。浸漬後、濾過によりケーキと濾液とを分離し、濾液の比重(15℃/15℃)を浮ひょう型比重計により測定した。比重(15℃/15℃)とアルコール濃度(vol%)との換算表を使用して、濾液の比重から濾液のアルコール濃度を算出した。濾液のアルコール濃度を、ケーキのアルコール濃度と定義した。濾液のアルコール濃度(すなわち、ケーキのアルコール濃度)が91vol%に達するまで、アルコール含有液による処理を繰り返した。濾液のアルコール濃度(すなわち、ケーキのアルコール濃度)が91vol%に達した後、ケーキを90℃で一晩乾燥し、マッフル炉にて600℃で3時間焼成した。焼成後、ハンドミキサー(大阪ケミカル株式会社製フォースミルFM-1)で焼成物を粉砕し、100メッシュで篩掛けを行った。以上の工程によりCeO-ZrO系複合酸化物粉末を作製した。
【0112】
(2)CeO-ZrO系複合酸化物粉末の特性測定
CeO-ZrO系複合酸化物粉末の特性として、平均粒径D50(μm)、平均粒径D90(μm)、嵩密度(g/mL)、タップ密度(g/mL)、全細孔容積(mL/g)、10~100nm区間細孔容積(mL/g)及びCO脱離量(μmol/g)を測定した。平均粒径D50(μm)、平均粒径D90(μm)、嵩密度(g/mL)及びタップ密度(g/mL)は、CeO-ZrO系複合酸化物粉末に対する熱処理の実施前に測定し、全細孔容積(mL/g)、10~100nm区間細孔容積(mL/g)及びCO脱離量(μmol/g)は、CeO-ZrO系複合酸化物粉末に対する熱処理の実施後に測定した。CeO-ZrO系複合酸化物粉末に対する熱処理は、CeO-ZrO系複合酸化物粉末を大気中、1000℃で3時間、加熱することにより実施した。各特性の測定方法は、以下の通りであり、各特性の測定結果は、表1に示す通りである。
【0113】
<D50及びD90>
レーザー回折粒度分布測定装置用自動試料供給機(日機装株式会社製「Microtorac SDC」)を使用して、粉末サンプルを水溶性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定装置「マイクロトラックMT3300II」を使用して、体積基準の粒度分布を測定し、体積基準の粒度分布から、累積体積が50%及び90%となる粒径(μm)を測定した。測定を2回行い、累積体積が50%となる粒径(μm)の平均値を平均粒径D50(μm)とし、累積体積が90%となる粒径(μm)の平均値を平均粒径D50(μm)とした。測定条件は、粒子屈折率1.5、粒子形状真球形、溶媒屈折率1.3、セットゼロ30秒、測定時間30秒とした。
【0114】
<嵩密度>
JIS K-5101―12-2:2004に準拠して、ロート台にロートを取り付け、ロート上に篩を載せ、受器を受器台に正しく載せた。1さじ量の粉末サンプルを篩の上に載せ、ハケで0.5mm目の篩の全面を一様に軽く掃いて、粉末サンプルを分散落下させ、篩を経て30mLの受器に受けた。粉末サンプルが受器に山盛りになるまでこの操作を繰り返し、一辺が直線のへらで山盛りの部分を削り取った後、受器の内容物の重さを量り、式:E=F/30(Eは、嵩密度(g/mL)を表し、Fは、受器内の粉末サンプルの重量(g)を表す)に基づいて、嵩密度(g/mL)を算出した。
【0115】
<タップ密度>
粉末サンプルを、予め重量を測定しておいた50mLのメスシリンダーに流し入れ、メスシリンダーの底面を10回タップすることで衝撃を与え、粉末サンプルの上面の水平化及び粉末サンプルの充填化を行った。メスシリンダーの目盛から粉末サンプルの体積(mL)を測定するとともに、秤を使用して粉末サンプルの重量(g)を測定し、タップ密度(粉末サンプルの重量(g)/粉末サンプルの体積(mL))を算出した。
【0116】
<全細孔容積及び10~100nm区間細孔容積>
粉末サンプルを熱処理した後、細孔分布測定装置(島津製作所製オートポアIV MIC-9500)を使用して、水銀圧入法により、全細孔容積(測定範囲:直径10nm~100μm)を測定した。具体的には、セル容量に対して1/3程度になるように粉末サンプルを詰めて蓋をし、低圧(0~30psia)側の測定を行った後、セルを高圧(大気圧~33,000psia 228MPa)側に移動させて測定を行った。全細孔容積の測定結果から直径10~100nmの細孔の合計容積(10~100nm区間細孔容積)を求めた。
【0117】
<CO脱離量>
粉末サンプルを熱処理した後、粉末サンプルを成形器で整粒し、サンプルフォルダーに整粒済みサンプル0.1g入れて、昇温脱離法(TPD)によるCO脱離量の測定(CO-TPD)を行った。整粒条件は10MPaで30秒間とした。CO-TPDは、以下の通り行った。Heを50mL/分で導入した雰囲気下、600℃まで昇温させた後、30分間保持し、He気流中で50℃まで冷却した。その後、100%COを50mL/分で30分間導入してCOをサンプル表面に吸着させた。Heを50mL/分で40分間パージした後、Heを50mL/分で導入した雰囲気下、600℃まで10℃/分昇温させ、その時の質量数44のMassスペクトルをマイクロトラック・ベル製の吸着破過曲線測定装置であるBELCAT(BELCAT-A-SPM2)で分析した。CO-TPD検量線用のサンプルは、CaCOとアルミナとを物理混合して調製した。CaCO含有率が0%、2.5%及び5%のサンプルを用意し、Heを50mL/分を導入した雰囲気下、800℃まで10℃/分で昇温させ、その時の質量数44のMassスペクトルの面積値から検量線を作成した。
【0118】
(3)触媒の作製
熱処理していないCeO-ZrO系複合酸化物粉末を、硝酸パラジウム水溶液に添加して加熱攪拌した後、大気中、600℃で3時間焼成することにより、Pd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末を得た。Pd担持量は、CeO-ZrO系複合酸化物粉末の質量とPdの質量との合計質量を基準として、2質量%に調整した。
【0119】
(4)触媒の特性測定
Pd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末を熱処理した後、固定床流通型反応装置を使用して、ライトオフ温度T50を測定した。ライトオフ温度T50は、触媒による浄化率が50%に達する温度である。Pd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末に対する熱処理は、Pd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末を大気中、1000℃で3時間、加熱することにより実施した。ライトオフ温度T50の測定方法は、以下の通りであり、ライトオフ温度T50の測定結果は、表1に示す通りである。
【0120】
<ライトオフ温度T50>
Pd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末のサンプルは、蒸発乾固法により調製した。サンプルを成形器で整粒し、サンプル管に整粒済みサンプル0.1gを入れ、ガス流れを良くするためにアルミナボールを上下に挟んでセットした。整粒条件は、10MPaで30秒間とした。
【0121】
炭化水素(HC)に関しては、島津製作所製FID式VOC分析計(VMS-1000F)、NO/CO/Oに関しては、堀場製作所製ポーダブルガス分析計(PG-240)を使用して、出口ガス濃度を分析した。評価ガス条件は、ストイキ条件(空気過剰率λ=1)とし、CO:0.39%、NO:0.05%、C:1200ppm、CO:0.4%、H:0.1%、HO:10%、N:残部とした。
【0122】
測定条件はNガスでゼロ→スパン校正後に上記評価ガスを流して一度600℃まで10℃/分で昇温させて前処理を行った後、100℃まで冷却させ、次いで、600℃まで10℃/分で昇温し、出口ガス濃度から浄化率を算出した。COの浄化率が50%に達する温度を、COの浄化率に関するライトオフ温度T50と、HCの浄化率が50%に達する温度を、HCの浄化率に関するライトオフ温度T50と、NOxの浄化率が50%に達する温度を、NOxの浄化率に関するライトオフ温度T50と定義した。COの浄化率、HCの浄化率及びNOxの浄化率に関するライトオフ温度T50は、それぞれ、表1に示す通りである。なお、HCの浄化率及びNOxの浄化率に関するライトオフ温度T50は、実施例1、実施例2及び比較例1では測定したが、その他の実施例及び比較例では測定しなかった。
【0123】
〔実施例2〕
アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液に代えて、アルコール濃度が95vol%のアルコール含有液を使用した点を除き、実施例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物粉末及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性測定を行った。結果を表1に示す。
【0124】
〔実施例3〕
アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液に代えて、アルコール濃度が72vol%のアルコール含有液を使用した点を除き、実施例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物粉末及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性測定を行った。結果を表2に示す。
【0125】
〔実施例4〕
アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液に代えて、アルコール濃度が86vol%のアルコール含有液を使用した点を除き、実施例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性測定を行った。結果を表2に示す。
【0126】
〔実施例5〕
オキシ硝酸ジルコニウム35.6g(ZrO換算Zr量20g)、硝酸セリウム六水和物41.2g(CeO換算Ce量16g)、硝酸ランタン水溶液3.8g(La換算La量0.8g)、硝酸ネオジム水溶液8.1g(Nd換算Nd量1.6g)、硝酸プラセオジム水溶液7.0g(Pr11換算Pr量1.6g)をイオン交換水330mLに溶解し、1Lビーカーで均一混合し、原料液を得た。この原料液を使用した点及びアルコール濃度が95vol%のアルコール含有液を使用した点を除き、実施例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物粉末及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0127】
〔比較例1〕
オキシ塩化ジルコニウム水溶液97.9g(ZrO換算Zr量20g)とイオン交換水269gとを1Lビーカーで均一に混合し、85℃に昇温した後、硫酸アンモニウム10.7gをイオン交換水32.2gに溶解して得られた溶解液を滴下した。得られた懸濁液を耐圧容器に入れ、密閉下、140℃で1時間加熱処理を行い、硫酸アンモニウム(硫酸塩化剤)による硫酸塩化反応を進行させ、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーを生成させた(特許文献3参照)。耐圧容器からスラリーを取り出し、硝酸セリウム六水和物41.2g(CeO換算Ce量16g)、硝酸ランタン水溶液3.8g(La換算La量0.8g)、硝酸ネオジム水溶液8.1g(Nd換算Nd量1.6g)及び硝酸プラセオジム水溶液7.0g(Pr11換算Pr量1.6g)の混合液を加えた。混合液を加えたスラリー中の各成分の割合は、ZrO換算Zr量=50質量%、CeO換算Ce量=40質量%、La換算La量=2質量%、Nd換算Nd量=4質量%、Pr11換算Pr量=4質量%であった。40℃に昇温し、24%水酸化ナトリウム水溶液200gを80分かけて加え、中和処理した。その後、2時間熟成し、35%過酸化水素水7.9gを添加し、40℃に保持したまま、8時間、攪拌熟成させた。得られたスラリーをヌッチェで濾過した後、40~50℃のイオン交換水でNaイオン濃度が0ppm、かつ、導電率が1mS/m以下になるまで濾過洗浄した。得られたケーキを90℃で一晩乾燥した後、マッフル炉にて600℃で3時間焼成した。焼成後、ハンドミキサー(大阪ケミカル株式会社製フォースミルFM-1)で粉砕し、次いで、100メッシュで篩掛けを行った。以上の工程によりCeO-ZrO系複合酸化物粉末を作製した点を除き、実施例1と同様にして、CeO-Zr2系複合酸化物粉末の特性評価、並びに、Pd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
〔比較例2〕
ケーキをアルコール含有液で処理しなかった点(ケーキのアルコール濃度を調整しなかった点)を除き、実施例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物粉末及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性測定を行った。結果を表2に示す。
【0129】
〔比較例3〕
アルコール濃度が91vol%のアルコール含有液に代えて、アルコール濃度が47vol%のアルコール含有液を使用した点を除き、実施例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物粉末及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性測定を行った。結果を表2に示す。
【0130】
〔参考例〕
スラリーに加えられる混合液に硝酸プラセオジム水溶液を配合しなかった点、及び、混合液を加えたスラリー中の各成分の割合が、ZrO換算Zr量=72質量%、CeO換算Ce量=21質量%、La換算La量=2質量%、Nd換算Nd量=5質量%となるように各成分の配合量を変更した点を除き、比較例1と同様にして、CeO-ZrO系複合酸化物粉末及びPd担持CeO-ZrO系複合酸化物粉末の作製及び特性測定を行った。結果を表2に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
表1及び2に示すように、ケーキのアルコール濃度を調整することにより、CeO-ZrO系複合酸化物粉末の特性、すなわち、平均粒径D50(μm)、平均粒径D90(μm)、嵩密度(g/mL)、タップ密度(g/mL)、処理後の10~100nm区間細孔容積(mL/g)、熱処理後のCO脱離量(μmol/g)及び触媒のライトオフ温度T50を調整することができた。
【0134】
具体的には、ケーキのアルコール濃度を60vol%以上に調整することにより、平均粒径D50を30μm以下に、平均粒径D90を60μm以下に、嵩密度を0.40g/mL以下に、タップ密度を0.4g/mL以下に、熱処理後の10nm~100nm区間細孔容積を0.35mL/g以上に、熱処理後のCO脱離量を80μmol/g以上に、触媒のCOの浄化率に関するライトオフ温度T50を250℃以下に、触媒のHCの浄化率に関するライトオフ温度T50を265℃以下に、触媒のNOxの浄化率に関するライトオフ温度T50を280℃以下に調整することができた。
【0135】
平均粒径D50、平均粒径D90、嵩密度及びタップ密度は、ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴って低下する傾向が認められた。また、嵩密度とタップ密度との間には相関関係が認められた。
【0136】
熱処理後の全細孔容積及び10nm~100nm区間細孔容積は、ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴って増加する傾向が認められた。ケーキ中のアルコール濃度が増加するほど、ケーキ中の固形分の凝集抑制効果が大きくなり、メソ及びマクロ細孔が潰れずに維持されることが、その理由として考えられる。なお、参考例については、熱処理後の全細孔容積及び10nm~100nm区間細孔容積を測定していないが、比較例1と同様の方法で製造したものであり、ケーキ中のアルコール濃度が0vol%であることから、全細孔容積及び10nm~100nm区間細孔容積は、比較例1と同等であると考えられる。
【0137】
熱処理後のCO脱離量(すなわち、CeO-ZrO系複合酸化物粉末の表面の塩基量)は、ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴って増加する傾向が認められた。ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴ってケーキ中の固形分の表面改質効果が大きくなり、新たな塩基点が発現することが、その理由として考えられる。
【0138】
触媒のライトオフ温度T50は、ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴って低下する傾向が認められた。ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴って触媒表面の塩基点の量が増加すること、並びに、ケーキ中のアルコール濃度の増加に伴って10nm~100nm区間細孔容積が増加し、ガス拡散性が向上することが、その理由として考えられる。