(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】パルス型カソードアーク堆積
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20240327BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240327BHJP
H05H 1/50 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C23C14/32 Z
C23C14/24 F
H05H1/50
(21)【出願番号】P 2021551587
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2020000040
(87)【国際公開番号】W WO2020173598
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-24
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コレフマイネン,ユッカ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-162084(JP,A)
【文献】特開2004-211127(JP,A)
【文献】特開2008-248347(JP,A)
【文献】特開2005-029855(JP,A)
【文献】特開平04-354864(JP,A)
【文献】特開昭63-195262(JP,A)
【文献】特開平06-280001(JP,A)
【文献】特表2010-511788(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0226504(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0020138(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H05H 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品上への材料のカソードアーク堆積のためのアセンブリであって、前記アセンブリは、
コーティング対象となる物品を受容するためのチャンバであって、大気圧未満の圧力に排気されている前記チャンバと、
前記チャンバ内に設けられる回転可能なターゲットであって、プラズマ材料が放出される表面と、回転軸とを有する前記回転可能なターゲットと、
前記チャンバに設けられ、前記回転可能なターゲットの前記表面から第1距離に配置されるアノードリングであって、前記アノードリングを通って延在する開口を有し、前記開口の中心軸は、前記回転可能なターゲットの前記回転軸に平行に配置され、前記回転可能なターゲットの前記回転軸から第2の距離にオフセットされる、前記アノードリングと、
前記回転可能なターゲットの前記表面上にアークを生成するために前記チャンバに設けられるスパーク装置と、を備え、
前記アセンブリは、前記回転可能なターゲットの前記表面から放出される荷電粒子の流れを前記アノードリングの前記開口を通って前記コーティング対象となる物品へ方向付けるように構成される、アセンブリ。
【請求項2】
前記スパーク装置は、前記アノードリングの前記開口と前記回転可能なターゲットの前記表面との間に設けられる遠位端を有する、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記アノードリングの前記中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフォーカスコイルであって、前記回転可能なターゲットの前記表面から第3距離に第1端を有する前記フォーカスコイルと、
前記アノードリングの前記中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフィルタコイルであって、前記フォーカスコイルの前記第1端から軸方向に離間される前記フィルタコイルと、
前記アノードリングの前記中心軸に垂直な方向に延在するリミッタであって、前記フォーカスコイルの前記第1端と前記フィルタコイルとの間に配置され、前記アノードリングの前記中心軸と軸方向に位置合わせされる開口を有する前記リミッタと、をさらに備える、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記フォーカスコイルが前記チャンバの外面上に設けられる、請求項3に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記チャンバの開放端に取り付けられるフィルタダクトをさらに備え、前記フィルタコイルは前記フィルタダクトの外面上に設けられる、請求項3に記載のアセンブリ。
【請求項6】
カソードアーク堆積アセンブリを用いて物品をコーティングする方法であって、前記カソードアーク堆積アセンブリは、排気されたチャンバ内に設けられるターゲットであって、プラズマ材料が放出される表面と、回転軸とを有する前記ターゲットと、前記排気されたチャンバに設けられ、前記ターゲットの前記表面から第1距離に配置されるアノードリングであって、前記アノードリングを通って延在する開口を有し、前記開口の中心軸は、前記ターゲットの前記回転軸に平行に配置され、前記ターゲットの前記回転軸から第2距離にオフセットされる、前記アノードリングと、前記ターゲットの前記表面上にアークを生成するために前記排気されたチャンバに設けられるスパーク装置とを備え、前記方法は、
前記ターゲットの前記回転軸の周りに前記ターゲットを回転させるステップと、
プラズマを前記ターゲットの前記表面から放出させ、前記アノードリングの前記開口を通って前記物品へ方向付けるために、前記ターゲットおよび前記アノードに電圧を印加するステップとを含む、方法。
【請求項7】
前記スパーク装置は、前記アノードリングの前記開口と回転可能な前記ターゲットの前記表面との間に設けられる遠位端を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ターゲットおよび前記アノードに印加される前記電圧は、一連のプラズマパルスを生成するためにパルス化される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記カソードアーク堆積アセンブリは、
前記アノードリングの前記中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフォーカスコイルであって、前記ターゲットの前記表面から第3距離に第1端を有する前記フォーカスコイルと、
前記アノードリングの前記中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフィルタコイルであって、前記フォーカスコイルの前記第1端から軸方向に離間される前記フィルタコイルと、
前記アノードリングの前記中心軸に垂直な方向に延在するリミッタであって、前記フォーカスコイルの前記第1端と前記フィルタコイルとの間に配置され、前記アノードリングの前記中心軸と軸方向に位置合わせされる開口を有する前記リミッタと、をさらに備え、
前記電圧を印加するステップに先立って、
前記ターゲットの前記表面から放出される前記プラズマをフィルタリングするための均一な磁場を生成するために、前記フィルタコイルに電圧を印加するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ターゲットおよび前記アノードに印加される前記電圧、前記フィルタコイルに印加される前記電圧、ならびに前記フォーカスコイルに印加される電圧は、一連のプラズマパルスを生成するためにパルス化される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
なし
本発明の分野
この出願は、概して、物理蒸着のための機器、より具体的には、コーティングチャンバにおけるカソードアーク堆積のための機器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
従来、カソードアーク堆積は、カソード(陰極)として作用する金属材料源(すなわち、ターゲット)とアノード(陽極)との間に電圧が印加される、既知の物理蒸着法である。カソードおよびアノード、ならびにコーティング対象となる基板は、コーティングチャンバに配置される。基板上にコーティングを堆積するのに先立って、コーティングチャンバは排気される。ターゲット表面から材料を蒸発させるために、電子アークが用いられる。電子アークは、ターゲットの表面から電子を引き離し、それらをアノードへ案内する。電子アークの点火は、典型的には、ターゲット表面と接触する点火フィンガによって達成される。電子がターゲット表面から離れる場所(「スポット」と呼ばれる)において、表面は非常に素早く高温まで熱せられる。この迅速加熱および高温が、ターゲットの材料を、蒸発させ、その後コーティング対象となる基板の表面上で凝結させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
堆積プロセスの間、スポットは、ターゲットの表面上で、多かれ少なかれランダムに動くまたは「ダンスする(dance)」傾向にある。理想的には、これが、ターゲットの材料をかなり均質に除去させる。
【0004】
既知の堆積プロセスにおける1つの課題は、何らかの理由でスポットがターゲットの表面上の同じ位置にとどまる場合、ターゲットには穴が焼き付けられ得るということである。これは、ターゲットを使用できなくする。一般に、ターゲットの表面から不均質に材料を除去することは問題となる。これは、基板上に化学化合物コーティングを形成するために反応性ガスが用いられる場合に特に問題となる。化学化合物は、ターゲットの表面上にも形成し得る。これらの化学化合物が電気伝導性に乏しい場合(たとえば、多くの金属酸化物化合物など)、スポットは化学化合物が形成されてないターゲットの表面における場所に制限され得る。このような「ターゲット被毒(target poisoning)」は、材料を不均質に除去させ、最終的にはターゲットを使えなくする。
【0005】
本発明は、カソードアーク堆積プロセスにおけるターゲットからの材料の均質な除去を向上させるための機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の概要
1つの局面によれば、物品上への材料のカソードアーク堆積のためのアセンブリが提供される。アセンブリは、コーティング対象となる物品を受容するためのチャンバを含む。チャンバは、大気圧未満の圧力に排気される。チャンバ内には、回転可能なターゲットが設けられる。回転可能なターゲットは、プラズマ材料が放出される表面と、回転軸とを有する。チャンバにはアノードリングが設けられ、アノードリングは、回転可能なターゲットの表面から第1距離に配置される。アノードリングは、アノードリングを通って延在する開口を有する。開口の中心軸は、回転可能なターゲットの回転軸に平行に配置され、回転可能なターゲットの回転軸から第2距離にオフセットされる。回転可能なターゲットの表面上にアークを生成するために、チャンバにはスパーク装置が設けられる。システムは、回転可能なターゲットの表面から放出される荷電粒子の流れをアノードリングの開口を通ってコーティング対象となる物品へ方向付けるように構成され得る。
【0007】
固定アセンブリは、スパーク装置がアノードリングの開口と回転可能なターゲットの表面との間に設けられる遠位端を有するように構成され得る。
【0008】
固定アセンブリは、アノードリングの中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフォーカスコイルをさらに含むように構成され得る。フォーカスコイルは、回転可能なターゲットの表面から第3距離に第1端を有する。アセンブリは、アノードリングの中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフィルタコイルも含み得る。フィルタコイルは、フォーカスコイルの第1端から軸方向に離間される。アノードリングの中心軸に垂直な方向に、リミッタが延在し得る。リミッタは、フォーカスコイルの第1端とフィルタコイルとの間に配置され、アノードリングの中心軸と軸方向に位置合わせされる開口を有する。
【0009】
固定アセンブリは、フォーカスコイルがチャンバの外面上に設けられるように構成され得る。
【0010】
固定アセンブリは、チャンバの開放端に取り付けられるフィルタダクトをさらに含むように構成されてもよく、フィルタコイルはフィルタダクトの外面上に設けられる。
【0011】
別の実施形態によれば、カソードアーク堆積アセンブリを用いて物品をコーティングする方法が提供される。アセンブリは、排気されたチャンバ内に設けられるターゲットを含む。ターゲットは、プラズマ材料が放出される表面と、回転軸とを有する。チャンバにはアノードリングが設けられ、アノードリングは、ターゲットの表面から第1距離に配置される。アノードリングは、アノードリングを通って延在する開口を有する。開口の中心軸は、ターゲットの回転軸に平行に配置され、ターゲットの回転軸から第2距離にオフセットされる。ターゲットの表面上にアークを生成するために、チャンバにはスパーク装置が設けられる。方法は、ターゲットの回転軸の周りにターゲットを回転させるステップと、ターゲットの表面から放出されてアノードリングの開口を通ってコーティング対象となる物品へ方向付けられるプラズマパルスを生成するために、ターゲットおよびアノードにパルス電圧を印加するステップとを含む。
【0012】
方法は、スパーク装置がアノードリングの開口とターゲットの表面との間に設けられる遠位端を有するように構成され得る。
【0013】
方法は、ターゲットおよびアノードに印加される電圧が、一連のプラズマパルスを生成するためにパルス化される(pulsed)ように構成され得る。
【0014】
方法は、カソードアーク堆積アセンブリが、アノードリングの中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するフォーカスコイルをさらに含むように構成され得る。フォーカスコイルは、ターゲットの表面から第3距離に第1端を有する。アノードリングの中心軸と位置合わせされる軸を備えるらせん形状を有するように、フィルタコイルが提供される。フィルタコイルは、フォーカスコイルの第1端から軸方向に離間される。アノードリングの中心軸に垂直な方向に、リミッタが延在する。リミッタは、フォーカスコイルの第1端とフィルタコイルとの間に配置され、アノードリングの中心軸と軸方向に位置合わせされる開口を有する。電圧を印加するステップに先立って、ターゲットの表面から放出されるプラズマをフィルタリングするための均一な磁場を生成するために、フィルタコイルに電圧を印加するステップがある。
【0015】
方法は、ターゲットおよびアノードに印加される電圧、フィルタコイルに印加される電圧、ならびにフォーカスコイルに印加される電圧がすべて、一連のプラズマパルスを生成するためにパルス化されるように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る、カソードアーク堆積アセンブリの側面断面図であって、回転するターゲットの表面の上方かつ誘導コイルに隣接して配置される閉込めアノードを示し、コントローラと電源が概略的に示される図である。
【
図2】
図1の閉込めアノードの拡大端部図であって、点火器および回転するターゲットの表面に対して配置される閉込めアノードを示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る、炭素プラズマの1つのパルスを図示するダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
例示の実施形態の説明
ここで図面を参照すると、
図1は、コーティング対象となる1つ以上の物品10上にコーティングを堆積するためのカソードアーク堆積アセンブリ50を示す。カソードアーク堆積アセンブリ50は、一般に、チャンバ52と、閉込めアノードアセンブリ60と、ターゲットアセンブリ70と、点火器アセンブリ80と、フィルタダクト90と、堆積チャンバ110とを含む。
【0018】
図1は、チャンバ52の側面断面図である。チャンバ52は、閉込めアノードアセンブリ60、ターゲットアセンブリ70および点火器アセンブリ80を受容するためのキャビティ53を規定する。示される実施形態において、チャンバ52は、概ね円筒形状である。チャンバ52は、閉込めアノードアセンブリ60、ターゲットアセンブリ70および点火器アセンブリ80を受容するのに十分な大きさの直径D
1を有し得ることが考えられる。
【0019】
閉込めアノードアセンブリ60は、スタンド68に取り付けられる基部64を有するリング形状アノード62を含む。
図2に示されるように、アノード62の基部64をスタンド68の上端に固定するために、固定具63が提供される。スタンド68の反対側の端部は、チャンバ52の端壁52aに固定される。
【0020】
開口66はアノード62を通って延在する。開口66はアノード62の軸Aを規定する。示される実施形態においては、開口66の外周の周りにおけるアノード62の部分は面取りされている。開口66の直径DAは、以下に詳細に記載されるように、ターゲット74の表面74aの半径に関連して寸法決めされてもよいことが考えられる。示される実施形態において、開口66の直径DAは34mmである。アノード62は、以下に詳細に説明されるように、電源14の陽端子に電気的に接続される。
【0021】
ターゲットアセンブリ70は、ターゲットアセンブリ70が閉込めアノードアセンブリ60とチャンバの端壁52aとの間にあるように、閉込めアノードアセンブリ60に隣接してチャンバ52の端壁52aに取り付けられる。ターゲットアセンブリ70は、ターゲット74を保持するためのホルダ72を含む。ターゲット74の一端は、ホルダ72の開放端の外へ延在する。ターゲット74のこの端部は、以下に詳細に記載されるように配置される表面74aを有する。ターゲット74の反対側の端部には、シャフト76が取り付けられる。シャフト76は、端壁52aを通って延在し、シャフト76およびターゲット74に回転運動を与えるモータ78に取り付けられる。シャフト76は、シャフト76の軸に沿ってターゲット74を長手方向に動かすようにも構成される。シャフト76の軸に沿ってターゲット74を長手方向に動かすために、アクチュエータ77が提供されてもよいことが考えられる。ターゲット74は直径DTを有する。示される実施形態において、直径DTは60mmであり、ターゲット74の長さは60mmである。以下に詳細に説明されるように、制御線18bがターゲット74を電源14の陰端子に電気的に接続する。
【0022】
点火器アセンブリ80は、チャンバ52の端壁52aに取り付けられる。点火器アセンブリ80は、スパーク装置82、たとえばセラミック点火フィンガと、スタンド84とを含む。スパーク装置82は、ターゲット74の表面74aに沿ってスパークを形成するように構成される。スパーク装置82の一端はスタンド84に接続され、スタンド84はチャンバ52の端壁52aに固定される。スタンド84は、1つ以上の固定方法、たとえばスクリュ、溶接、スレッドなどを用いて端壁52aに取り付けられてもよいことが考えられる。
【0023】
図1を参照すると、閉込めアノードアセンブリ60は、アノード62の下面とターゲット74の表面74aとの間に距離「H」があるように、ターゲットアセンブリ70に対して配置される。
図2を参照すると、閉込めアノードアセンブリ60は、また、アノード62の中心軸Aが距離d
Oでターゲット74の中心軸Bからオフセットされるように、ターゲットアセンブリ70に対して配置される。点火器アセンブリ80は、スパーク装置82の遠位端がアノード62の開口66とターゲット74の表面74aとの間に設けられるように配置される。示される実施形態において、距離Hは4~10mmの間であり、距離d
Oは55mmである。アノード62の直径D
Aは、ターゲット74の直径D
Tの半分であり得ることが考えられる。示される実施形態において、直径D
Aは34mmであり、直径D
Tは60mmである、すなわち直径D
Aは直径D
Tの57%である。
【0024】
図1に戻って参照すると、チャンバ52の外側円筒壁の周りには、フォーカスコイル88が巻き付けられる。示される実施形態において、フォーカスコイル88は、らせん形状であり、銅管で作製される。フォーカスコイル88は、冷却流体、たとえば水をその中に流して動作中にチャンバ52を所望の温度に維持するのを助けるように構成される。示される実施形態では、フォーカスコイル88は、160mmの直径、170mmの長さおよび36.5マイクロヘンリー(μH)のインダクタンスを有する。チャンバ52の外壁の周りにフォーカスコイル88が巻き付けられているため、チャンバ52の直径D
1は160mmより小さく適切に選択され得る。
【0025】
フィルタダクト90は、チャンバ52の開放端に取り付けられる第1端90aを含む。フィルタダクト90は、概ね円筒形状であり、2つのリミッタ92a,92bおよび2つのフィルタコイル96a,96bがフィルタダクト90に取り付けられる。
【0026】
リミッタ92a,92bは、アノード62の軸Aに垂直な方向においてフィルタダクト90のキャビティにわたって延在する、板状要素である。各リミッタ92a,92bは、アノード62の軸Aと軸方向に位置合わせされるそれぞれの開口94a,94bを含む。第1リミッタ92aは、フィルタダクトの第1端90aに配置される。第2リミッタ92bは、フィルタダクト92の第1端90aと第2端90bとの間の中ほどに配置される。
【0027】
フィルタダクト90の外側円筒面の周りには、第1フィルタコイル96aおよび第2フィルタコイル96bが巻き付けられる。第1フィルタコイル96aは、リミッタ92a,92b間に配置される。第2フィルタコイル96bは、第2リミッタ92bとフィルタダクト90の第2端90bとの間に配置される。示される実施形態において、フィルタダクト90の直径D2は220mmであり、フィルタダクト90の長さは188mmである。
【0028】
堆積チャンバ110は、フィルタダクト90の第2端90bに取り付けられる。堆積チャンバ110は、コーティング対象となる物品10を受容するように寸法決めされるキャビティ112を規定する。示される実施形態において、堆積チャンバ110は、フィルタダクト90の直径D2より大きい直径D3を有する。
【0029】
上述されたように、閉込めアノードアセンブリ、60、ターゲットアセンブリ70および点火器アセンブリ80はすべて、チャンバ52の端壁52aに取り付けられる。(上記に詳細に記載されるような)アノード62、ターゲット74およびスパーク装置82の相対位置が維持される限り、上記のアセンブリの1つ以上は、チャンバ52の他の部分に、互いに、またはチャンバ52における別の構造に取り付けられてもよいことが考えられる。特に、上記に詳細に記載されるように、アノード62は、ターゲット74の表面74aから距離Hにあり、ターゲット74の軸Bから距離dOにオフセットされ、スパーク装置82は、アノード62の開口66とターゲット74の表面74aとの間に配置される。
【0030】
カソードアーク堆積アセンブリ50の様々な構成部品の動作を制御するために、コントローラ16が提供される。様々な制御線18a~18gがコントローラ16から構成部品まで延在しており、すなわち、制御線18aはコントローラ16をアノード62に接続し、制御線18bはコントローラ16をターゲット74に接続し、制御線18cはコントローラ16をスパーク装置82に接続し、制御線18dはコントローラ16をモータ78に接続し、制御線18e,18fはコントローラ16を第1フィルタコイル96aおよび第2フィルタコイル96bにそれぞれ接続し、制御線18gはコントローラ16をフォーカスコイル88に接続し、制御線18hはコントローラ16をアクチュエータ77に接続する。制御線18a~18hは、それぞれの構成部品とコントローラ16との間で電力および/または信号を送るように構成されてもよいことが考えられる。制御線18a~18hは、限定ではないが、ハードワイヤ、WiFii、ethernetなど、およびその組み合わせを含む、コントローラ16とカソードアーク堆積アセンブリ50の様々な構成部品との間における、他の一般に知られたタイプの有線および/または無線通信を表し得ることも考えられる。
【0031】
ここで、カソードアーク堆積アセンブリ50がその動作に関して説明される。カソードアーク堆積アセンブリ50の動作の間、アノード62およびターゲット74には電圧が供給される。上記は、ターゲット74の表面74aにおけるスパークの生成およびコーティング対象となる物品10へのターゲット74から放出される炭素プラズマ120の流れをもたらす。アノード62およびターゲット74に印加される電圧は、炭素プラズマ120のパルスを生成するためにパルス化され得ることが考えられる。
【0032】
フォーカスコイル88は、炭素プラズマ120をアノード62の開口66を通ってコーティング対象となる物品10へ方向付けるまたは集中させるように構成されてもよいことも考えられる。アノード62およびターゲット74への電圧がパルス化される実施形態において、フォーカスコイル88およびフィルタコイル96a,96bは、パルス回路(図示せず)の一部であってもよく、フォーカスコイル88およびフィルタコイル96a,96bの誘導性によって、それらはカソードアーク堆積アセンブリ50のパルス効果に寄与する。このように、カソードアーク堆積アセンブリ50は、複雑なパルス生成器の必要性を回避する。
【0033】
ここで、炭素プラズマ120の1つのパルスを図解した
図3を特に参照して、カソードアーク堆積アセンブリ50の動作が説明される。上で述べたように、コントローラ16は、カソードアーク堆積アセンブリ50の様々な構成部品の動作を制御するように構成され得る。時間t
1において、すなわちスパーク装置82におけるスパークの点火に先立って、コントローラ16は、フィルタコイル96a,96bを通して電流を印加させ得る(点P
1)。一実施形態において、60アンペアの電流が0.6ミリ秒(ms)の遅延時間(t
D)の間、印加される。上記の電流は、以下に詳細に説明されるように、ターゲット74の表面74aから出される炭素プラズマ120をフィルタリングするための、パルス時間(t
P)の残りの時間を持続させる均一な磁場(U
MF)を形成する。示される実施形態において、パルス時間(t
P)は3ミリ秒(ms)である。
【0034】
遅延時間(tD)の後、コントローラ16は、スパークパルス(SP)を生成するために、スパークパルス時間(tSP)の間、スパーク装置82に高電圧パルスを印加させ得る。示される実施形態において、高電圧パルスは10~800ボルトであり、スパークパルス時間(tSP)は30マイクロ秒(μs)である。高電圧パルスは、ターゲット74の表面74a上にパルスアークを点火するように構成される。このとき、ターゲット74は、あるスピードで回転している。示される実施形態において、ターゲット74は3RPMで回転する。スパークパルス(SP)は、炭素プラズマ(CP)のパルスをターゲット74の表面74aから放出させる。
【0035】
電源14は、フォーカスコイル88を介してアノード62に接続される。示される実施形態において、電源14は、100~250ボルトの電圧を有する9ミリファラド(mF)のキャパシタバンクである。アノード62とターゲット74との間には1.5~1.8キロアンペア(kA)のアーク電流が形成され、アーク電流はフォーカスコイル88を通って流れ、軸Aに対して高軸方向双極子モーメントを生成する。磁束密度は0.5~1テスラのピーク値に達し、アノード62とターゲット74との間におけるプラズマシースポテンシャルを上昇させて、炭素プラズマ120の運動エネルギを50~100エレクトロンボルト(eV)まで増加させる。高軸方向双極子モーメントは、フィルタコイル96a,96bの中心線(アノード62の軸Aと位置合わせされる)に沿って炭素プラズマ120を集中させる。フォーカスコイル88は、また、アークの電流を安定させ、アークのパルスの長さを2.5msまで低減させる。
【0036】
炭素プラズマ120は、その後、フィルタダクト90に流れる。フィルタコイル96a,96bは、炭素プラズマ120の閉込めを維持するために、および炭素プラズマ120からのマクロ粒子のフィルタリングのために、50~100ミリテスラ(mT)の磁束密度を形成する。リミッタ92a,92bは、炭素プラズマ120から散乱するマクロ粒子を回収するように構成される。特に、炭素プラズマ120は、軸Aに垂直な方向において円軌道に押し込まれる荷電粒子で作られるが、マクロ粒子は、上記軌道に押し込められない非荷電粒子である。リミッタ92a,92bおよびフィルタコイル96a,96bはともに動作して、非荷電マクロ粒子がコーティング対象となる物品10に向かって移動することを阻止する。
【0037】
本発明は、スパーク装置82によって生成されたアークが均一にターゲット74の表面74aの周りに移動するように、ターゲット74を回転させる。
【0038】
上記は、カソードアーク堆積アセンブリ50の単一のパルスについて説明している。上記のステップは、物品10をコーティングするための炭素プラズマ120の複数のパルスを生成するために、必要に応じて繰り返される。上記に詳細に記載されたように、各スパークパルス(SP)に先立って、ターゲット74の表面74aから放出された炭素プラズマ120のパルスをフィルタリングするための均一な磁場を生成するために、電圧がフィルタコイルに印加される。
【0039】
本発明は、上記に記載された例示の実施形態に関して説明された。この明細書を読解および理解する際、修正および変更が起こり得る。本発明の1つ以上の局面を組み込む例示の実施形態は、それらが添付の請求項およびそれらの等価物の範囲内にある限り、このような修正および変更のすべてを含むことが意図される。