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特許7461372ジイミンビスサリチレート骨組みを含む金属-有機骨格物質及びそれらを製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ジイミンビスサリチレート骨組みを含む金属-有機骨格物質及びそれらを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 251/24 20060101AFI20240327BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240327BHJP
   C07F 3/02 20060101ALI20240327BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20240327BHJP
   C07F 15/04 20060101ALI20240327BHJP
   C07F 15/06 20060101ALI20240327BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240327BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C07C251/24 CSP
B01J31/22 M
C07F3/02 Z
C07F3/06
C07F15/04
C07F15/06
B01J20/22 A
B01J20/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021558809
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 US2020025656
(87)【国際公開番号】W WO2020205702
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】62/964,251
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/827,443
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523025539
【氏名又は名称】エクソンモービル テクノロジー アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】ファルコフスキー,ジョセフ エム
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥルカリム,メアリー エス
(72)【発明者】
【氏名】アブニー,カーター ダブリュー
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-198456(JP,A)
【文献】特開昭46-005511(JP,A)
【文献】特表2012-530722(JP,A)
【文献】特表2019-508500(JP,A)
【文献】特表2015-531790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属-有機骨格物質であって、
複数の金属中心;及び
多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、前記複数の金属中心に配位された多座配位の有機配位子;
を含み、
前記多座配位の有機配位子が、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位を含み、前記多座配位の有機配位子が、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)である
金属-有機骨格物質。
【請求項2】
前記複数の金属中心の少なくとも一部が、二価の金属を含む、請求項に記載の金属-有機骨格物質。
【請求項3】
前記二価の金属が、マグネシウムである、請求項に記載の金属-有機骨格物質。
【請求項4】
方法であって、
金属源を、多座配位の有機配位子と組み合わせる工程であって、前記多座配位の有機配位子には、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位が含まれている、工程;及び
前記金属源を、前記多座配位の有機配位子と、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質を形成させるのに効果的な条件下で反応させる工程であって、金属中心は、少なくとも前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位に配位されており、前記第一の結合部位及び第二の結合部位に配位された前記金属中心がそれぞれ第一の金属を含むか、又は前記第一の結合部位に配位された前記金属中心が前記第一の金属を含み、前記第二の結合部位に配位された前記金属中心が第二の金属を含む、工
み、
前記多座配位の有機配位子が、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)である、
方法。
【請求項5】
前記複数の金属中心の少なくとも一部が、二価の金属を含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記二価の金属が、マグネシウムである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
方法であって、
多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含み、前記複数の金属中心の少なくとも一部が二価の金属を含む、金属-有機骨格物質を備える工程;
前記金属-有機骨格物質を、二酸化炭素を含む流体と接触させる工程;及び
前記二酸化炭素の少なくとも一部を前記流体から前記金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程、
を含む方法。
【請求項8】
前記二価の金属が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、及びニッケルの1種又は複数である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
方法であって、
多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含み、前記複数の金属中心の少なくとも一部が二価の金属を含む、金属-有機骨格物質を備える工程;
前記金属-有機骨格物質を、1種又は複数の炭化水素を含む流体と接触させる工程;及び
前記1種又は複数の炭化水素の少なくとも一部を前記流体から前記金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程、
を含む方法。
【請求項10】
前記二価の金属が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、及びニッケルの1種又は複数である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記1種又は複数の炭化水素が、2種以上の異なった炭化水素を含み、第一の炭化水素が、第二の炭化水素よりは優先的に、前記金属-有機骨格物質の中に封鎖される、請求項又は請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジイミン残基を含む多座配位の有機配位子から形成される金属-有機骨格物質に関する。
【背景技術】
【0002】
金属-有機骨格物質(metal-organic framework=MOF)は、とりわけ、気体の貯蔵、気体と液体の分離、異性体の分離及び分割、廃棄物の処理、並びに触媒作用など、広い分野での応用可能性を有する、比較的新しいタイプの高多孔性の網目状物質である。本質的に無機物質であるゼオライトとは対照的に、MOFには、多座配位の有機配位子が含まれており、それが、拡張された配位網目構造(たとえば、配位ポリマーとして)の中で、金属原子又は金属原子のクラスターを共に橋架けする「支柱(strut)」として機能している。ゼオライトと同様に、MOFは微孔質であって、多座配位の有機配位子及びその形成で使用される金属源を選択することによって、細孔の形状及び/又はサイズを調節することが可能であることも含めて、広い範囲の構造を示す。
【0003】
有機配位子を修正することが容易に可能であるので、MOFは、ゼオライトにおいて見出されるよりも、はるかに広い、構造の多様性を示す。実際のところ、固有のゼオライト構造物がわずか数百種であるのに比較して、数万種のMOF構造物が今や公知である。MOFの構造に影響を及ぼす可能性がある因子としては、たとえば以下の一つ又は複数が挙げられる:配位子の混み具合(denticity)、網目構造内の結合部位(配位基)のサイズ及びタイプ、網目構造内の結合部位の遠方又は近傍での追加の置換、配位子のサイズ及び形状、配位子の疎水性又は親水性、配位子の柔軟性、合成の間使用される金属及び/又は金属源の選択、溶媒の選択、並びに反応条件たとえば、温度、濃度など。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多座配位の有機配位子として利用可能な構造的多様性は、ほぼ無制限に存在するものの、ある多座配位の有機配位子を特定の金属源と組み合わせたときに、MOFが必ず形成されると決まっている訳ではない。多座配位の有機配位子の中の複数の結合部位は、構造の形成に役立つかもしれないし、或いは本質的に構造を形成しないかもしれない。構造的結合部位には、網目構造そのものの内部(すなわち、配位ポリマーの主鎖の内部)に、金属ノードが含まれる。非構造的(二次)結合部位は、網目構造のペンダント基として存在する、配位された金属を特徴とし得る。場合によっては、MOFの内部の非構造結合部位の少なくとも一部は、網目構造が形成された後でも、占有されることなく、残っている可能性がある。MOF中で非構造結合部位を形成することが潜在的に可能である多座配位の有機配位子は、網目構造の結晶化を実現させることが極めて困難である。具体的には、非構造結合部位が、構造結合部位に配位された金属中心と相互作用して、それにより、核形成、及びMOFを規定するのに必要とされる網目構造の成長を妨害する可能性がある。その結果として、MOFの合成に採用された多座配位の有機配位子は、多くの場合、構造的な剛直性を配慮して、結合部位を所定の形状に維持して、望ましくない部位の間の相互作用を妨害できるように設計される。別なアプローチ方法としては、非構造結合部位が結晶成長に関与するのを防止する方法、構造結合部位と非構造結合部位とでハード配位子とソフト配位子を単離させる方法、MOFを形成させた後で合成後の官能化によって非構造結合部位を導入する方法、又は非構造結合部位をまったく排除する方法などが挙げられる。したがって、アクセスできるMOF網目構造の範囲が、他の方法で合成した場合よりも、制限される。それに加えて、MOF、特に非構造結合部位を有するものを形成させるのに潜在的に適しているいくつかの多座配位の有機配位子は、合成するのが困難か、及び/又は高コストである可能性があり、それによって、たとえば触媒作用及び汚染性の封鎖作用などの特定の用途で使用するための設計された構造を、潜在的に有しているMOFへの実務的なアクセスが制限される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施態様において、本開示は、複数の金属中心、並びに多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、その複数の金属中心に配位された多座配位の有機配位子を含む、金属-有機骨格物質を提供する。その多座配位の有機配位子には、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物が含まれるが、その多座配位の有機配位子には、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位が含まれ、その第一及び第二の結合部位は、それぞれ、サリチレート残基を含み、そしてその第三の結合部位はジイミン残基を含んでいる。
【0006】
いくつか又は他の実施態様においては、本開示は、金属-有機骨格物質を作製するための方法を提供する。その方法には、以下の工程が含まれる:金属源を、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物を含む多座配位の有機配位子と組み合わせる工程(その多座配位の有機配位子は、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位を含み、その第一及び第二の結合部位はそれぞれ、サリチレート残基を含み、そしてその第三の結合部位はジイミン残基を含む);並びに、その金属源を、その多座配位の有機配位子と、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、そして複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質を形成させるのに効果的な条件下で、反応させる工程。金属中心は、少なくとも第一の結合部位及び第二の結合部位に配位され、そして第一の結合部位及び第二の結合部位に配位された金属中心はそれぞれ、第一の金属を含むか、又は第一の結合部位に配位された金属中心が第一の金属を含み、そして、第二の結合部位に配位された金属中心が、第二の金属を含む。
【0007】
他の実施態様においては、本開示には、二酸化炭素を封鎖するための方法が含まれる。その方法に含まれるのは、以下の工程である:多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含み、その複数の金属中心の少なくとも一部が二価の金属を含む、金属-有機骨格物質を備える工程;その金属-有機骨格物質を、二酸化炭素を含む流体と接触させる工程;並びに二酸化炭素の少なくとも一部をその流体から金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程。
【0008】
さらに他の実施態様においては、本開示には、炭化水素を封鎖するための方法が含まれる。その方法に含まれるのは、以下の工程である:多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含み、その複数の金属中心の少なくとも一部が二価の金属を含む、金属-有機骨格物質を備える工程;その金属-有機骨格物質を、1種又は複数の炭化水素を含む流体と接触させる工程;並びに1種又は複数の炭化水素の少なくとも一部をその流体から金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程。
【0009】
以下の図は、本開示のある種の態様を説明するために含まれているが、排他的な実施態様と見なしてはならない。ここに開示されている主題は、形式及び機能において、当業熟練者が思いつくような、かなりの修正、変更、組合せ、及び等価化が可能であり、本開示の有益性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)の、説明のためのH NMRスペクトルである。
図2】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)の、説明のための13C NMRスペクトルである。
図3】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウム及び5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)亜鉛の、説明のための粉末X線回折パターンである。
図4】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウムの説明のための、77Kでの窒素ガス吸着等温線である。
図5】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウムの、30℃での、説明のためのエタン及びエチレンの吸着等温線である。
図6】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)亜鉛の説明のための、77Kでの窒素ガス吸着等温線である。
図7】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)コバルトの説明のための、77Kでの窒素ガス吸着等温線である。
図8】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)コバルトの、30℃での、説明のためのエタン及びエチレンの吸着等温線である。
図9】室温で形成させた、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)コバルト及び5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)亜鉛の、説明のための粉末X線回折パターンである。
図10】5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウム、及びニッケル交換をした5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウムの、説明のためのUV-Visスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、一般的には、金属-有機骨格物質、より詳しくは、ジイミン残基及び複数のサリチレート残基を含む多座配位の有機配位子から形成される金属-有機骨格物質、並びに、それらを製造及び使用するための方法に関する。
【0012】
上で簡単に説明したように、金属-有機骨格物質(MOF)は、多座配位の有機配位子を適切な金属源と反応させて、多数の内部細孔を有する、結晶性又は部分的に結晶性の網目構造を形成させることにより、合成することができる。その網目構造は、場合によっては、配位ポリマーで構成されていてもよい。広く各種の多座配位の有機配位子を合成的に作製することが可能ではあるが、いくつかの場合においては、その合成を実施することが、困難であったり、高コストであったりするので、実務的に有用な量で、それに相当する金属-有機骨格物質に到達するには限度がある。さらには、ある種のタイプの多座配位の有機配位子では、金属源に曝露させたときに、金属-有機骨格物質を規定する結晶性の網目構造が容易には形成されない。金属-有機骨格物質は、構造的(一次)結合部位でのものに加えて、非構造的(二次)結合部位として存在している、直交(異なったタイプの)供与体原子又は基を含む多座配位の有機配位子と使用する場合には、製造するのが特に難しい可能性がある。すなわち、非構造結合部位が、構造結合部位に配位された金属原子と影響しあって、そのため、金属-有機骨格物質の、生成、成長、及び/又は結晶化が妨げられる可能性がある。
【0013】
本開示は、金属源の配列と容易に反応して、一連の構造的及び形態的性質を有する少なくとも部分的に結晶性の金属-有機骨格物質を与えることが可能な、直交供与体原子を有する多座配位の有機配位子を提供する。その多座配位の有機配位子は、二つのサリチレート残基を特徴とし、それらがジイミン残基で結合されている。そのサリチレート残基は、金属源と反応して、構造結合部位を形成することが可能であり、そしてそのジイミン残基は、非構造結合部位として存在することが可能であり、それは、金属中心で全面的又は部分的に占有されていてもよいし、或いは金属中心で占有されていなくてもよい。非構造結合部位に(存在しているならば)存在する金属中心は、網目構造を形成させるために使用されたのと同じ金属源を用いて導入されてよいし、或いは、異なった金属源を、非構造結合部位を金属化させるのに使用してもよい。場合によっては、第一及び第二の結合部位によって得られる構造結合部位に、異なった複数の金属が存在していてもよい。
【0014】
有利なことには、本明細書において開示された多座配位の有機配位子は、構造鈍感合成(facile syntheses)を介して容易に接近して直交結合部位を与え、しかもMOF合成を起こさせることも可能である。具体的には、本明細書に記載された多座配位子は、アミノサリチル酸化合物を、ビシナルジカルボニル化合物、たとえば、グリオキサール、α-ケトアルデヒド、又はジケトンと反応させることによって、形成させることができる。アミノサリチル酸の内部、又はα-ジケトアルデヒド若しくはジケトンの内部における幅広い構造的多様性に対応して、サリチレート残基によって規定される結合部位及び/又はジイミン残基によって規定される結合部位に構造的多様性を導入することが可能となる。さらには、有利なことには、本明細書に記載されたMOFの中に非構造結合部位が充填されていても、されていなくてもよく、そして、構造結合部位に存在しているのとは異なった金属を、場合によっては、導入することが可能であって、それにより、構造的(サリチレート)結合部位と非構造的(ジイミン)結合部位とで異なった金属を有する、混合-金属MOFへ容易に到達することが可能となる。そのため、本明細書における開示を適用することで、注文通りの性質と組成を有する、広く各種のMOFを実現することが可能となる。
【0015】
本明細書において開示された多座配位の有機配位子は、ビシナルジカルボニル化合物を、アミン基を担持する有機シントン、特には、アミン置換されたサリチル酸化合物と反応させることによって、容易に合成することができる。ビシナルジカルボニル化合物が反応して、2個のサリチレート残基の間に、ジイミン残基の橋架けを形成する。本明細書においてさらに説明するように、それらの多座配位の有機配位子は、各種の金属源、特に二価の金属源と反応して、構造結合部位と非構造結合部位とで異なった金属を含む、さらには、場合によっては、構造結合部位に異なった金属を含むMOFを含めて、構造的及び組成的に広い多様性を有する金属-有機骨格物質を形成することができる。この特徴のために、構造結合部位に配位された第一及び/又は第二の金属、さらには、非構造結合部位に配位されたまた別の金属を含むMOFを、容易に合成できるようになる。そのような混合-金属MOFは、非構造結合部位での金属が高価であるか、及び/又は、構造結合部位に配位されたときに、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を形成しないような場合には、特に望ましいものとなりうる。たとえば、本明細書における開示に従って、安価な二価の金属、たとえばマグネシウムのようなアルカリ土類金属を、MOFの形成を促進させるために使用し、そして別の金属、たとえば、触媒作用又はまた別のタイプの反応性結合を促進することができる金属を、たとえば、非構造結合部位に導入することもできる。さらに、それに異なった金属を導入する過程で、金属交換プロセスを使用して、非構造結合部位の少なくとも一部から金属を置き換えることも可能である。多くの場合において、非構造結合部位を金属化させたり、非構造結合部位で金属を交換させたりしても、最小限の構造的な再構成しか起きない。
【0016】
本開示の各種の実施態様をさらに詳しく説明する前に、本開示をよりよく理解する一助として、以下に用語を列挙する。
【0017】
本明細書における詳細な説明及び請求項の中の数値はすべて、表記された数値に関連して「およそ」(「about」又は「approximately」)とみなされるべきであって、当業者によって想定されるであろう実験誤差及び変形形態を考慮に入れるものとする。特に断らない限り、「室温」は約25℃である。
【0018】
本開示及び請求項で使用される場合、文脈上明白にそうではないと宣言されていない限り、単数形の「a」、「an」、及び「the」には、複数形も含まれる。
【0019】
本明細書において、「A及び/又はB」のような文言で使用されている「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、及び「B」を含むものとする。
【0020】
本開示の目的においては、周期律表の族については、新しい番号付与方式が使用されている。前記番号付与方式においては、族(列)が、左から右に、1から18までの順で番号が割り当てられるが、ただし、f-ブロック元素(ランタニド及びアクチニド)は、別である。
【0021】
「ヒドロカルビル」及び「ヒドロカルビル基」という用語は、本明細書においては、相互に言い換え可能に使用される。「ヒドロカルビル基」という用語は、親化合物から派生した、少なくとも一つの空の原子価位置を担持する、各種のC~C100炭化水素基を指している。適切な「ヒドロカルビル」及び「ヒドロカルビル基」は、場合によっては、置換されていてもよい。「1個~約100個の炭素原子を有するヒドロカルビル基」という用語は、直鎖状若しくは分岐状のC~C100アルキル、C~C100シクロアルキル、C~C100アリール、C~C100ヘテロアリール、C~C100アルキルアリール、C~C100アリールアルキル、及びそれらの各種組合せから選択される、場合によっては置換された、残基を指している。
【0022】
「置換された」という用語は、炭化水素又はヒドロカルビル基の少なくとも1個の水素原子又は炭素原子の、ヘテロ原子又はヘテロ原子官能基を用いた置換を指している。ヘテロ原子としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:B、O、N、S、P、F、Cl、Br、I、Si、Pb、Ge、Sn、As、Sb、Se、及びTe。置換された炭化水素又はヒドロカルビル基の中に存在しうるヘテロ原子官能基としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:官能基たとえば、O、S、S=O、S(=O)、NO、F、Cl、Br、I、NR、OR、SeR、TeR、PR、AsR、SbR、SR、BR、SiR、GeR、SnR、PbR(ここで、Rは、ヒドロカルビル基又はHである)。適切なヒドロカルビルR基としては、以下のものが挙げられる:アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリルなど(これらのいずれもが、場合によっては、置換されていてもよい)。
【0023】
「環状」又は「環状炭化水素」という用語は、閉じた炭素環を有する炭化水素又はヒドロカルビル基を指していて、その環は、場合によっては、置換されていてもよい。
【0024】
本明細書で使用するとき、「多座配位(multidentate)」という用語は、金属中心を配位させる能力のある部位を2個以上有する化合物を指している。従って、「多座配位」という用語には、二座、三座、四座、及びより多くの座数の配位子が包含される。
【0025】
「金属中心」という用語は、それに対して配位子が、ある結合部位で配位的に結合される、単一の金属原子若しくは金属イオン、又は複数の金属原子若しくは金属イオンの群(クラスター)を指している。
【0026】
「ジイミン」という用語は、単純に相互に結合された2個の炭素原子を担持し、それぞれの炭素原子が、窒素原子に対して二重結合されている化学成分を指している。その2個の炭素原子は、独立して、H及び/又はヒドロカルビル基で置換されていてもよいが、その場合、それぞれの炭素原子の上での置換が、同じであっても、或いは異なっていてもよい。
【0027】
「少なくとも部分的に結晶性の(at least partially crystalline)」という用語は、物質がX線粉末回折パターンを示すということを意味している。
【0028】
「結合部位」という用語は、金属-配位子結合によって、金属又は金属クラスターに配位することが可能な化学成分を指している。
【0029】
したがって、本開示の金属-有機骨格物質には、複数の金属中心、並びに多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するその複数の金属中心に少なくとも二つの結合部位を介して配位された多座配位の有機配位子を含むことができる。多座配位の有機配位子には、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物が含まれる。多座配位の有機配位子には、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位が含まれる。第一及び第二の結合部位にはそれぞれサリチレート残基が含まれ、そして第三の結合部位には、ジイミン残基が含まれる。
【0030】
網目構造の存在及びその結晶化度の測定は、特定の網目構造が、また別の網目構造と関連しているかどうか、又は親近構造であるかどうかの測定も含めて、X線粉末回折により実施することが可能であるが、これについては、本明細書においてさらに説明する。
【0031】
適切なアミン置換されたサリチル酸には、フェニル環の上にヒドロキシル基及びカルボン酸基の1,2-配置が含まれ、アミン基が、環の空の位置のどこかに存在している。したがって、適切なアミン置換されたサリチル酸は、フェニル環の3、4、5、又は6位のいずれかにあるアミン基を特徴とし得る(IUPACの付番規則に基づいて、フェニル環の上でカルボン酸基が、1位に割り当てられている)。アミン置換されたサリチル酸のフェニル環の上には、アミン基に加えて、追加のヒドロカルビル又はヘテロ原子の置換基が存在していてもよい。
【0032】
本開示の多座配位の有機配位子は、ビシナルジカルボニル化合物を、適切なアミン置換されたサリチル酸と反応させることにより、合成することができる。そのビシナルジカルボニル化合物が、グリオキサール、α-ジケトン、又はα-ケトアルデヒドであってよい。使用されるジカルボニル化合物に応じて、その多座配位の有機配位子が、第三の結合部位を規定するジイミン残基の上に、1個又は複数のヒドロカルビル置換基を担持していてもよい。多座配位の有機配位子を形成させるのに、たとえば、グリオキサールを使用する場合には、ジイミン残基が2個の水素残基で置換され、その一方で、ビシナルジケトン又はビシナルケトアルデヒドがそれぞれ、2個又は1個のヒドロカルビル基と置換する。本開示の特定の実施態様においては、1,2-エタンジカルボクスアルデヒド(グリオキサール)と5-アミノサリチル酸とを反応させ5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)を形成させることにより、適切な多座配位の有機配位子を合成することができる。
【0033】
本開示による金属-有機骨格物質を形成させるのに適した多座配位の有機配位子は、次の式1で表される構造を有しているのがよい。
【化1】
式1を参照すると、それぞれのRは、Hであるか、或いは場合によっては、置換されたヒドロカルビル基であるが、ここで、それぞれ出現するRは、同じであっても、或いは異なっていてもよい。Rのために選択することが可能な適切なヒドロカルビル基としては以下のものが挙げられる:C~C30アルキル基、C~C30アルケニル若しくはアルキニル基、C~C30シクロアルキル基、C~C10芳香族若しくはヘテロ芳香族基など(これらはすべて、場合によっては、置換されていてもよい)。場合によっては、式1におけるそれぞれのRが合体して、環状構造を有するジイミンを形成してもよい。そのジカルボニル化合物がビシナルケトアルデヒドである場合には、出現する1個のRがHであってよく、そして出現する1個のRが、場合によっては置換された、ヒドロカルビル基であってよい。そのジカルボニル化合物がビシナルジケトンである場合には、出現する両方のRが、場合によっては置換された、ヒドロカルビル基であるが、ここでその出現するRは、対称ジケトンの場合なら同一であるし、又は、非対称ジケトンの場合なら、異なっていてよい。R及びR、R及びR、R及びR、又はR及びRが、1個のカルボン酸基と1個のヒドロキシル基を含んでいてよく、そしてカルボン酸基又はヒドロキシル基ではないR~Rのいずれもが、水素、ヒドロカルビル基、又はヘテロ原子官能基であってよい。本明細書における開示において使用するのに適しているであろう多座配位の有機配位子の具体的な実施例は、次の式2A~2Dで表される構造を有していてよい。
【化2】
【0034】
より具体的な実施例においては、適切な多座配位の有機配位子は、式2Aで表される構造を有していてよいが、そこでは、それぞれ出現するR、R、R、及びRがHであり、それぞれ出現するRがOHであり、そしてそれぞれ出現するRが、カルボン酸(COH)である。
【0035】
本開示の金属-有機骨格物質には、先に述べたように、少なくとも多座配位の有機配位子のサリチレート残基を介してその複数の金属中心に配位され、それによって、その少なくとも部分的に結晶性の網目構造の内部で、金属配位のための第一の結合部位及び第二の結合部位が規定される、多座配位の有機配位子が含まれる。その第一の結合部位及び第二の結合部位に配位された金属中心には、少なくとも部分的に結晶性の網目構造の構造結合部位に、構造的ノードが含まれていてよい。第一及び第二の結合部位での金属中心は、同一の金属又は異なった金属であってよく、たとえば、同じであるか、或いは異なっている二価の金属であってよい。一般的には、構造的ノードでの金属中心は、少なくとも部分的に結晶性の網目構造が形成された後では、他の金属との交換反応ができないようになっている。ジイミン残基もまた第三の結合部位を規定するが、本明細書に開示された金属-有機骨格物質の中の金属中心に、配位されていても、又は配位されていなくてもよい。少なくとも部分的に結晶性の網目構造の内部の第三の結合部位は、金属中心を用いて、充填されていなくても、或いは充填されていても、或いは部分的に充填されていてもよく、それらは、構造的ノードのところに位置している金属中心と、同じであっても、或いは異なっていてもよい。それに加えて、ジイミン残基に配位された金属中心は、第三の結合部位に対して、元々存在していたのとは異なる金属を導入する、交換反応をすることもできる。別な方法として、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を適切な金属源たとえば金属塩の溶液と接触させて、未充填の第三の結合部位を充填することが可能であるが、この場合もまた、第三の結合部位に配位された金属中心が、第一及び第二の結合部位に配位された金属中心と同じであっても、又は異なっていてもよく、第一及び第二の結合部位での金属中心もまた、同一又は異なったタイプの金属中心であってよい。
【0036】
本明細書において開示された金属-有機骨格物質の中のサリチレート残基に配位されることが可能な金属中心の素性には、特段の制限はないと考えられるが、その理由は、サリチレート残基が、いくつかの酸化状態をとって、広い範囲の金属と結合することが可能であるからである。二価の金属が、サリチレート配位子に対して高い親和性を有しているので、サリチレート残基に配位させるには、二価の金属が特に望ましい。三価の金属もまた、単独、又は1種又は複数の二価の金属と組み合わせて、好適に含ませることができる。本明細書において開示された金属-有機骨格物質の中に存在しうる適切な二価の金属としては、たとえば以下のものが挙げられる:アルカリ土類金属(たとえば、非限定的な例として、マグネシウム、カルシウム、又はそれらの各種組合せ)、及び/又は二価の遷移金属(たとえば、非限定的な例として、亜鉛、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、鉄、又はそれらの各種組合せ)。金属中心に位置する金属は、先に開示されたようにして、適切な金属源を多座配位子と反応させるときに、或いは、少なくとも部分的に結晶性の網目構造が形成された後に、金属中心の中の金属の一部を交換して、特に第三の結合部位に配位された金属の交換又は導入の際に、導入することができる。金属中心は、離散された金属カチオン、金属クラスター、金属鎖、又はそれらの各種組合せなどの形態で、存在させてよい(これらに限定される訳ではない)。
【0037】
本明細書における開示に従ったサリチレート残基への結合を介して、金属-有機骨格物質を形成させるために使用することが可能な適切な金属塩には、以下のような金属イオンが含まれる(これらに限定される訳ではない):Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Y3+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V4+、V3+、V2+、Nb3+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Mn2+、Re3+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os3+、Os2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh、Ir2+、Ir、Ni2+、Ni、Pd2+、Pd、Pt2+、Pt、Cu2+、Cu、Ag、Au、Cd2+、Hg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Ti3+、Si4+、Si2+、Ge4+、Ge2+、Sn4+、Sn2+、Pb4+、Pb2+、As5+、As3+、As、Sb5+、Sb3+、Sb、Bi5+、Bi3+、及びBi。これらの金属イオンのまた別な酸化状態もまた、場合によっては、好適であることができる。その多座配位の有機配位子の素性及びその金属-有機骨格物質が形成された条件に依存して、それらの金属イオンに対する適切な対イオンの形態としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、酸化物、酢酸イオン、ギ酸イオン、酸化物、水酸化物、安息香酸イオン、アルコキシド、炭酸イオン、アセチルアセトネート、炭酸水素イオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオンなど。
【0038】
第三の結合部位の、ジイミン残基もまた、金属、特に二価の金属に結合されてよいが、その金属は、少なくとも部分的に結晶性の網目構造の構造的ノードで、サリチレート残基に結合されている金属と同じであっても、或いは異なっていてもよい。その金属-有機骨格物質の中のジイミン残基の、一部又は全部が金属に結合されていてもよいし、或いはまったく結合されていなくてもよい。第三の結合部位に配位される金属は、適切な金属源を多座配位の有機配位子と反応させて少なくとも部分的に結晶性の網目構造を形成させるときに導入してもよいし、或いは、少なくとも部分的に結晶性の網目構造が形成された後に、それを適切な金属源と接触させることによって導入してもよい。金属源を少なくとも部分的に結晶性の網目構造と接触させることには、未充填のジイミン結合部位に対して金属を配位すること、及び/又はジイミン結合部位に既に配位されている金属を別の金属に交換することが含まれ得る。非限定的に例を挙げれば、二価の遷移金属を、ジイミン残基で規定される第三の結合部位に導入し、その一方で、二価の金属源を、サリチレート残基で規定される第一及び第二の結合部位と反応させて、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を形成させてもよい。この場合においては、その第三の結合部位に配位された金属は、第一及び第二の結合部位に配位された金属と同じであってもよいものの、それに続けて、第三の結合部位にある金属を交換させるのがよい。また別の非限定的な例においては、アルカリ土類金属を、第一及び第二の結合部位にあるサリチレート残基に配位させ、それによって、ジイミン残基の少なくとも一部を結合しないままに残してもよい(理由:ジイミン配位子に対するアルカリ土類金属の親和性が低いため)。ジイミン残基に対してうまく配位できなかったアルカリ土類金属又は二価の遷移金属を含む、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を形成させた後で、別の金属を、その金属-有機骨格物質と接触させて、第三の結合部位にあるジイミン残基の少なくとも一部に対して、異なった金属を配位させてもよい。各種の実施態様において、ジイミン残基に配位される金属は、触媒性の金属たとえば、コバルト、ニッケル、銅、鉄、又は貴金属たとえば、パラジウム、白金、金、銀、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、又はそれらの各種組合せなどであってよいが、これらに限定される訳ではない。ジイミン残基に対して金属を導入するのに適した金属としては、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を形成させるのに適していると、先に列挙したものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0039】
本開示の金属-有機骨格物質における金属対配位子のモル比は、金属に依存して変化し得るが、全部のジイミン残基が空である場合の、多座配位の有機配位子の1モルあたり2モルの金属原子から、全部のジイミン残基が、金属に配位されている場合の、多座配位の有機配位子の1モルあたり3モルの金属原子までの範囲とするのがよい。
【0040】
本明細書において開示された金属-有機骨格物質は、それらのX線粉末回折パターンから、特性解析することができる。それに加えて、本明細書における開示に従って形成された金属-有機骨格物質は、それらの内部多孔度の点から、特性解析することができる。本開示の金属-有機骨格物質は、ミクロ細孔、メソ細孔、マクロ細孔、及びそれらの各種組合せを含むことができる。ミクロ細孔は、本明細書においては、約2nm以下の細孔サイズを有すると定義され、そしてメソ細孔は、本明細書においては、約2nm~約50nmの細孔サイズを有すると定義される。ミクロ多孔性及び/又はメソ多孔性の測定は、77Kでの窒素吸着等温線を解析することによって求めることができるが、これは、当業熟練者には、理解されるであろう。金属-有機骨格物質の内部細孔容積及びその他のモルホロジー的特徴も同様に、窒素吸着等温線から求めることが可能で、これもまた、当業熟練者には理解されるであろう。本明細書における開示に従って、最高約3000m/gまでの表面積が得られたが、活性化条件が、得られる表面積を支配する。細孔容積は、約0.09mL/g~約2.1mL/gの範囲であるが、場合によっては、それが、多層窒素吸着を与えることができる。
【0041】
本開示の金属-有機骨格物質を合成するための方法もまた、本明細書に記載されている。本開示のそのような合成方法には、金属源を、多座配位の有機配位子、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物を含む多座配位の有機配位子と組み合わせて、その多座配位の有機配位子が、第一の結合部位及び第二の結合部位を含むようにすることが含まれ、それぞれの結合部位が、ジイミン残基を含む第三の結合部位に橋架けされたサリチレート残基を含んでいる。多座配位の有機配位子と金属源とは、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、そして複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質を形成させるのに効果的な条件下で反応させてもよいが、ここで、金属中心は、少なくとも第一の結合部位及び第二の結合部位に配位されている。上で式1、2A、2B、2C、又は2Dで特定された多座配位の有機配位子のいずれもが、本明細書に開示された方法による金属-有機骨格物質の合成に使用することができる。適切な金属源の例としては、先に開示されたような金属塩、特には二価の金属塩が挙げられる。第一と第二の結合部位がそれぞれ、第一の金属を含んでいてもよいし、或いは、第一の結合部位に配位された金属中心が第一の金属を含み、そして第二の結合部位に配位された金属中心が第二の金属を含んでいてもよいが、その第二の金属は、第一の金属と同じであっても、或いは異なっていてもよい。
【0042】
さらにより詳しくは、本開示の方法には、以下の工程が含まれていてよい:金属源を、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)と組み合わせる工程、並びにその金属源を、その5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)と反応させて、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、そしてそれに配位された複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質を形成させる工程。
【0043】
本開示の方法にはさらに、金属を、少なくとも部分的に結晶性の網目構造に対して、第三の結合部位で導入する工程が含まれ得るが、その第三の結合部位に配位される金属は、結合された第一の金属、及び/又は第一の結合部位及び第二の部位に配位された第二の金属とは異なっている。第三の結合部位に金属を導入することには、少なくとも部分的に結晶性の網目構造の内部の空の第三の結合部位を充填することを含み得る。いくつか又は他の本開示の方法には、本開示の合成したままの金属有機骨格物質の中の、複数の金属中心の少なくとも一部を交換することが含まれる。たとえば、第三の結合部位のところでジイミン残基に配位された金属の一部を、第二の金属たとえば、コバルト、ニッケル、銅、鉄、又は貴金属たとえば、パラジウム、白金、金、銀、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、又はそれらの各種組合せの1種又は複数と交換することができる。金属の交換は、たとえば、その金属-有機骨格物質を金属塩の溶液と接触させることにより、実施することが可能である。
【0044】
本開示のある種の金属-有機骨格物質が、それ自体で、或いは適切な活性化剤の存在下で活性化させた後でのいずれかで、触媒的な性質を有していてもよい。触媒金属-有機骨格物質の一つの具体的な実施例としては、少なくとも部分的に結晶性の網目構造の中のジイミン残基の少なくとも一部に結合された、たとえば下記のような触媒活性を有する金属が挙げられる(これらに限定される訳ではない):コバルト、ニッケル、銅、鉄、又は貴金属たとえば、パラジウム、白金、金、銀、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、又はそれらの各種組合せ。触媒活性を有する金属は、金属-有機骨格物質合成中に導入することもできるし、或いは生成させた後に、金属交換によるか、及び/又はジイミン残基を含む、空の結合部位に充填するかによっても導入することができる。
【0045】
本開示の金属-有機骨格物質は、その少なくとも部分的に結晶性の網目構造の中に、二酸化炭素を吸着させるに適した性質を有し得る。したがって、本開示はさらに、二酸化炭素(CO)を捕捉又は封鎖する方法も提供するが、それには、以下の工程が含まれる:CO含有流体を、少なくとも二つの結合部位を介して、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物である多座配位の有機配位子に配位された、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、そして複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質と、二酸化炭素の少なくとも一部を、その流体から、少なくとも部分的に結晶性の網目構造に封鎖するのに有効な条件下で、接触させる工程。その方法には、二酸化炭素をその中に封鎖した後で、その流体から金属-有機骨格物質を除去し、それによって、その流体の中に含まれていた二酸化炭素の濃度を低下させる工程がさらに含まれていてもよい。
【0046】
本開示で使用されているように、「流体」という用語は、ガス、液体、又はそれらの各種組合せを指している。二酸化炭素を含む流体には、以下のようなガスがさらに含まれていてもよい(これらに限定される訳ではない):窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気、水素、一酸化炭素、メタン、エタン、硫化水素、窒素酸化物(たとえば、酸化窒素、亜酸化窒素、二酸化窒素)、二酸化硫黄など。
【0047】
いくつかの実施態様において、そのCO含有流体が、金属-有機骨格物質と、約-20℃~約100℃、又は約-10℃~約80℃、又は約0℃~約60℃、又は約10℃~約40℃、又は約20℃~約30℃、又は約25℃の温度で接触されるのがよい。それに加えて、CO含有流体を金属-有機骨格物質と、以下の圧力で接触させるのがよい:約0.5bar(50KPa)~約10bar(100KPa)、又は約0.6bar(60KPa)~約8bar(800KPa)、又は約0.7bar(70KPa)~約6bar(600KPa)、又は約0.8bar(80KPa)~約4bar(400KPa)、又は約0.9bar(90KPa)~約2bar(200KPa)、又は約1bar(100KPa)。
【0048】
CO含有流体は、上流の加工ユニット(たとえば、メタノール製造ユニット、水蒸気発電プラント、蒸気発生器、燃焼器、オキシ-燃料燃焼器、イオン輸送膜など)から、回収されることができる(又は、直接供給されることができる)。CO含有流体の温度及び/又は圧力が、上述の操作温度及び圧力の範囲から外れているような場合においては、そのCO含有流体の温度及び圧力を、前記操作温度及び圧力の範囲内に入るよう調節してから、そのCO含有流体を金属-有機骨格物質と接触させるのがよい。
【0049】
CO含有流体の中の二酸化炭素を、少なくとも部分的に金属イオン封鎖した後で、COを低下させた(CO-depleted)流体を得ることができる。COを低下させた流体の組成は、CO含有流体の組成、及びそれと接触させる金属-有機骨格物質の素性とに依存して、変化する可能性がある。いくつかの実施態様において、そのCOを低下させた流体には、元のCO含有流体に比較して、少ない量の二酸化炭素が含まれると共に、1種又は複数の以下のようなガスも含まれる可能性がある(これらに限定される訳ではない):窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気、水素、一酸化炭素、メタン、エタン、硫化水素、窒素酸化物(たとえば、酸化窒素、亜酸化窒素、二酸化窒素)、又は二酸化硫黄。そのCOを低下させた流体の中での、二酸化炭素対気体物質(1種又は複数)の容積比は、(1:100)~(1:1)の範囲で変化する可能性がある。また別の実施態様においては、そのCOを低下させた流体には、二酸化炭素を含まないかもしれない。さらにまた別の実施態様においては、そのCOを低下させた流体には、実質的に二酸化炭素を含まないかもしれず、それには、約100ppm未満、約10ppm未満、約1ppm、又は約1ppb未満の二酸化炭素というCO含量を有しているかもしれない。
【0050】
CO含有流体を、金属-有機骨格物質の上又は中(たとえば、固定層カラム又はカートリッジの中)を通して流して、CO含有流体を、金属-有機骨格物質と接触させるのがよい。別な方法として、そのCO含有流体を、金属-有機骨格物質の上に、留め置いて(stay stagnant)もよい。
【0051】
二酸化炭素を封鎖した後で、少なくとも部分的に、金属-有機骨格物質から二酸化炭素を脱着させるのがよい。たとえばその金属-有機骨格物質を、約50℃~約250℃、又は約50℃~約250℃、又は約80℃~約200℃、又は約100℃~150℃の温度にまで加熱することによって、脱着を実施することが可能であるが、この場合、その脱着させた二酸化炭素は、CO気流として捕集するのがよい。別な方法として、その金属-有機骨格物質を取り巻く大気の圧力を、たとえば約0.05bar(5KPa)~約0.9bar(90KPa)又は約0.1bar(10KPa)~0.5bar(50KPa)の範囲内に下げることによって、二酸化炭素を、少なくとも部分的に脱着させてもよい。さらにまた別の代替え方法においては、その金属-有機骨格物質の上又は中にフラッシングガスを流して、金属-有機骨格物質の中の二酸化炭素の少なくとも一部を、フラッシングガスの分子で置き換えることにより、二酸化炭素を、少なくとも部分的に脱着させてもよい。
【0052】
そのCO気流には、二酸化炭素を含んでいてよく、また、たとえば以下のような1種又は複数の気体物質をさらに含んでいてもよい(これらに限定される訳ではない):窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気、水素、一酸化炭素、メタン、エタン、硫化水素、窒素酸化物(たとえば、酸化窒素、亜酸化窒素、二酸化窒素)、又は二酸化硫黄。さらには、CO気流を地質学的な層に注入してもよいし、或いは、CO気流を、当業者公知の他の手段により捕捉してもよい。そのCO気流は、超臨界抽出系で使用することもまた可能である。別な方法として、そのCO気流を使用して、ガスの気流を希釈してもよいし、或いは、低/中/高圧CO気流が必要とされるプロセスで使用してもよい。たとえば、一つの実施態様においては、そのCO気流を、燃料又は酸素気流と混合した後で燃焼器にフィードしてもよい。また別の実施態様においては、そのCO気流を、酸素冨化気流と混合してから、イオン輸送膜に送り込んでもよい。
【0053】
二酸化炭素の金属イオン封鎖に使用する場合、その金属-有機骨格物質には、吸着剤のマトリックス、たとえば1種又は複数の塩基性金属炭酸塩及び金属酸化物を含んでいてもよく、そして場合によってはさらに、他の吸着剤物質、たとえばゼオライト、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイトフレーク、乾燥剤などを含んでいてもよい(これらに限定される訳ではない)。さらには、同様に、その金属-有機骨格物質を、ポリマーバインダーとの組合せで存在させてもよい。
【0054】
二酸化炭素の金属イオン封鎖に加えて、本明細書において開示された金属-有機骨格物質は、他のタイプの吸着分離でも有用となり得る。非限定的な例においては、炭化水素、特には、少なくとも1種の炭化水素を含む、より特には少なくとも1種のオレフィンを含む炭化水素気流を、本明細書に開示された金属-有機骨格物質を用いて分離させることができる。オレフィンの結合は、構造結合部位に対して起こすことができる。具体的には、その1種又は複数の炭化水素が、2種以上の異なった炭化水素を含んでいてよく、そして第一の炭化水素が、第二の炭化水素よりは優先的に、その金属-有機骨格物質の中に封鎖されるのがよい。たとえば、アルキレンたとえばエチレンを、アルカンたとえばエタンよりも優先的に封鎖することができる。
【0055】
本明細書において開示された実施態様には、以下のものが含まれる。
【0056】
A.金属-有機骨格物質
その金属-有機骨格物質には、以下のものが含まれる:複数の金属中心;及び、多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、複数の金属中心に配位された多座配位の有機配位子;(ここで、その多座配位の有機配位子には、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物が含まれ、その多座配位の有機配位子には、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位が含まれ、その第一及び第二の結合部位にはそれぞれ、サリチレート残基が含まれ、そしてその第三の結合部位には、ジイミン残基が含まれる)。
【0057】
B.金属-有機骨格物質を作製するための方法
その方法には、以下の工程が含まれる:金属源を、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物が含まれる多座配位の有機配位子と組み合わせる工程であって、その多座配位の有機配位子には、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位が含まれ、その第一及び第二の結合部位にはそれぞれ、サリチレート残基が含まれ、そしてその第三の結合部位には、ジイミン残基が含まれる工程;及び
その金属源を、その多座配位の有機配位子と、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、そして複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質を形成させるのに効果的な条件下で反応させる工程であって、金属中心は、少なくとも第一の結合部位及び第二の結合部位に配位されており、その第一の結合部位及び第二の結合部位に配位された金属中心がそれぞれ第一の金属を含むか、又はその第一の結合部位に配位された金属中心が、第一の金属を含み、そしてその第二の結合部位に配位された金属中心が第二の金属を含む、工程。
【0058】
C.金属-有機骨格物質を使用する、炭素を金属イオン封鎖する方法
その方法に含まれるのは、以下の工程である:多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質、二価の金属を含む複数の金属中心の少なくとも一部を備える工程;その金属-有機骨格物質を、二酸化炭素を含む流体と接触させる工程;及び、二酸化炭素の少なくとも一部をその流体から金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程。
【0059】
D.金属-有機骨格物質を使用する、炭化水素を金属イオン封鎖する方法
その方法に含まれるのは、以下の工程である:多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質、二価の金属を含む複数の金属中心の少なくとも一部を備える工程;その金属-有機骨格物質を、1種又は複数の炭化水素を含む流体と接触させる工程;及び、1種又は複数の炭化水素の少なくとも一部をその流体から金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程。
【0060】
実施態様A~Dには、各種の組合せにおいて、以下の要素の一つ又は複数が含まれていてよい。
【0061】
要素1:前記アミン置換されたサリチル酸が、5-アミノサリチル酸である。
【0062】
要素2:前記ビシナルジカルボニル化合物が、グリオキサールである。
【0063】
要素3:前記多座配位の有機配位子が、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)である。
【0064】
要素4:前記複数の金属中心の少なくとも一部が、二価の金属を含む。
【0065】
要素5:前記第一の結合部位が、第一の二価の金属中心に配位され、そして前記第二の結合部位が、第二の二価の金属中心に配位され、前記第一の二価の金属中心及び前記第二の二価の金属中心が、同一の二価の金属を含む。
【0066】
要素6:前記二価の金属が、アルカリ土類金属である。
【0067】
要素7:前記二価の金属が、マグネシウムである。
【0068】
要素8:少なくとも前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位が、少なくとも部分的に結晶性の網目構造で規定される金属中心に配位されている。
【0069】
要素9:前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位が、少なくとも一つのタイプの金属中心に配位され、そして前記第三の結合部位が、第二のタイプの金属中心に配位されている。
【0070】
要素10:前記少なくとも一つのタイプの金属中心が、二価の金属を含む。
【0071】
要素11:前記第二のタイプの金属中心が、前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位に配位された前記少なくとも一つのタイプの金属中心とは異なる、二価の金属を含む。
【0072】
要素12:前記第一の結合部位が、第一のタイプの金属中心に配位され、そして前記第二の結合部位が、第二のタイプの金属中心に配位され、前記第一のタイプの金属中心と前記第二のタイプの金属中心とが同じである。
【0073】
要素13:前記第一の結合部位が、第一のタイプの金属中心に配位され、そして前記第二の結合部位が、第二のタイプの金属中心に配位され、前記第一のタイプの金属中心と前記第二のタイプの金属中心とが異なっている。
【0074】
要素14:前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を有さないか、又は、前記第三の結合部位で、金属中心で不完全に占有されている。
【0075】
要素15:前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を含む。
【0076】
要素16:前記第一のタイプの金属中心及び前記第二のタイプの金属中心が、二価の金属を含む。
【0077】
要素17:前記第一の結合部位、前記第二の結合部位、及び前記第三の結合部位が、同じタイプの金属中心に配位されている。
【0078】
要素18:前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を有さないか、又は、前記第三の結合部位で、金属中心で不完全に占有されている。
【0079】
要素19:前記複数の金属中心の少なくとも一部が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、又はそれらの各種組合せを含む。
【0080】
要素20:前記第一の結合部位が、第一の二価の金属中心に配位され、そして前記第二の結合部位が、第二の二価の金属中心に配位され、前記第一の二価の金属中心及び前記第二の二価の金属中心が、異なった二価の金属を含む。
【0081】
要素21:前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を有さないか、又は、前記第三の結合部位で、金属中心で不完全に占有されている。
【0082】
要素22:前記方法が、以下の工程をさらに含む:前記第三の結合部位で、金属中心を、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造に導入する工程であって、前記第三の結合部位での前記金属中心が、前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位に配位された前記第一の金属とは異なるか、又は、前記第三の結合部位での前記金属中心が、前記第一の結合部位に配位された前記第一の金属及び前記第二の結合部位に配位された前記第二の金属とは異なる、工程。
【0083】
要素23:前記金属中心を、前記第三の結合部位で、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造に導入することが、前記第三の結合部位に配位された第一の金属又は第二の金属を、他の金属と交換することを含む。
【0084】
要素24:前記金属中心を、前記第三の結合部位で、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造に導入することが、空の前記第三の結合部位に異なった金属を充填することを含む。
【0085】
要素25:前記金属源が、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、及びロジウム、の1種又は複数を含む。
【0086】
要素26:前記二価の金属が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、及びニッケル、の1種又は複数である。
【0087】
要素27:前記1種又は複数の炭化水素が、2種以上の異なった炭化水素を含み、そして第一の炭化水素が、第二の炭化水素よりは優先的に、前記金属-有機骨格物質の中に封鎖される。
【0088】
非限定的に例を挙げるが、Aに適用可能な組合せの例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:1及び2;3及び4;3及び5;3~5;3、4及び6;3、4及び7;3及び8;3、4及び8;3、4、6及び8;3及び9;3、9及び10;3、9及び11;3、9、10及び12;3及び12;3及び13;3及び14;3及び15;3及び16;3及び17;3及び18;3及び19;4及び5;4及び6;4、6及び7;8及び9、8及び10;8~10;8及び12;8及び13;8及び14;8及び15;8及び16;8及び17;8及び19;9及び10;9及び11;9及び12;9及び13;11及び12;11及び13;11及び14;11及び15;11及び16;17及び19;並びに18及び19。Bに適用可能な組合せの例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:3及び4;3及び5;3及び6;3及び7;3及び20;3及び21;3及び22;3、22及び23;3、22及び24;3及び25;4及び5;4及び6;4及び7;4及び20;4及び21;2及び22;4、22及び23;4、22及び24;4及び25;5及び6;5~7;5及び20;5及び21;5及び22;5、22及び23;5、22及び24;5及び25;21及び22;21~23;22及び23;22及び24;並びに22及び25。C及びDに適用可能な組合せの例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:4及び5;4及び6;4及び7;4及び8;4及び9;4及び12;4及び13;4及び14;4及び15;4及び17;4及び18;5及び6;5及び7;5及び12;5及び13;5及び14;5及び15;8及び9;8~10;8及び11;8及び12;8及び13;8及び14;8及び16;8及び17;8及び18;9及び11;9及び12;並びに9及び13。それらのいずれもが、C及びDでは、26と組み合わせることが可能であり、Dでは、27と、さらに組み合わせることが可能である。
【0089】
本開示をよりよく理解できるように、以下の、好ましい又は代表的実施態様の実施例を提供する。以下の実施例が本開示の範囲を制限したり、規定したりすると読み取るようなことは、決してあってはならない。
【実施例
【0090】
以下の実施例におけるX線粉末回折パターンは、Cu K-α線を使用して得た。以下の実施例におけるBET表面積は、77Kで得られたN吸着等温線から求めた。N吸着等温線は、Autosorb IQ3 analyzer(Quantachrom)を使用し、77Kで測定した。測定の前に、サンプルを、150℃で、4時間かけて、10-5torrの一定圧力になるまで、脱気させた。次いで、その表面積を、サンプルの表面に吸着されたNの量から測定した。次いで、そのデータに回帰分析をあてはめて、等温線を得た。その等温線をさらに解析して、ミクロ細孔容積及びその他の定量値を計算した。
【0091】
実施例1:配位子の合成
75グラムの4-アミノサリチル酸、15mLのギ酸、及び53.2グラムのグリオキサール(40重量%溶液)を、1400mLの加熱エタノール(50℃)に加えた。その反応混合物を、50℃で一夜加熱したが、その間に、混合してから約1時間以内に、オレンジ色の形成が始まった。その反応混合物を濾過して固形物を単離し、エタノールを用いて、濾液が透明になるまで、それを洗浄した。次いでその固形物を、200mLの1MのHClを用いてさらに洗浄し、600mLの1MのHClの中に懸濁させ、3時間撹拌した。その懸濁液を濾過し、次いでその濾過ケークを、エタノールを用いて、濾液が一旦着色し、次いでそれが再び透明になるまで、洗浄した。次いでその固形物を、オーブン中、空気雰囲気下、115℃で数時間かけて乾燥させると、オレンジ色の固形物が得られ、そのものは、H NMR及び13C NMRから、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)と同定された。H NMRの例示スペクトルを図1に示す。13C NMRの例示スペクトルを図2に示す。
【0092】
実施例2:Mg金属-有機骨格の合成
820mLのDMF/水の溶液(重量で約0%~20%の水)を、予熱して60℃とした。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)(3.2グラム、実施例1)をその溶媒に添加し、数分間撹拌した。次いで、その反応混合物に酢酸マグネシウム四水和物(3.3グラム)を添加し、次いである期間(約5分から約18時間)かけて、撹拌した。濾過により固形物を得て、次いでそれを、DMF/水溶液(重量で約0%~約90%の水)を用いて洗浄した。次いで、その固形物を、エタノールを用いて洗浄し、濾紙の上で、軽く乾燥させた。貯蔵するためには、その固形物を、そのまま粗固形物として貯蔵してもよいし、或いは、特に特性解析のためには、120℃でさらに乾燥させてもよい。
【0093】
その生成物を、X線粉末回折及びN吸着により特性解析した。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウムについての、説明のためのX線粉末回折パターンを図3の下側の線に示した。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウムの説明のための、77KでのN吸着等温線を図4に示す。加熱により活性化させた後で、N吸着等温線を測定した。0.05の値より低いP/Pポイントの解析から求めて、相当表面積は、2593m/gであった。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)マグネシウムの、30℃での、説明のためのエタン及びエチレンの吸着等温線を示すが、エチレンが選択的に吸着されたことを、図5は示している。
【0094】
実施例3:Zn金属-有機骨格の合成
400mLのDMF/水溶液(重量で約0%~40%の水)を、予熱して60℃とした。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)(2グラム、実施例1)をその溶媒に添加し、数分間撹拌した。次いで、その反応混合物に酢酸亜鉛二水和物(2.88グラム)を添加し、次いである期間(約5分から約18時間)かけて、撹拌した。場合によっては、その反応温度を、最初は約60℃とし得、反応の進行にともなって、下げていった。濾過により固形物を得て、次いでそれを、DMF/水溶液(重量で0%~約90%の水)を用いて洗浄した。次いで、その固形物を、エタノールを用いて洗浄し、濾紙の上で、軽く乾燥させた。貯蔵するためには、その固形物を、そのまま粗固形物として貯蔵してもよいし、或いは、特に特性解析のためには、120℃でさらに乾燥させてもよい。
【0095】
その反応生成物を、X線粉末回折及びN吸着により特性解析した。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)亜鉛についての、説明のためのX線粉末回折パターンを図3の上側の線に示した。それに見られるように、Mg及びZnの金属-有機骨格物質は、相互に親近構造であった。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)亜鉛の説明のための、77KでのN吸着等温線を図6に示す。そのN吸着等温線は、150℃で活性化させてから、測定した。その等温線から求めた相当表面積は、960m/gであり、そして全細孔容積は、0.99cm/gである。
【0096】
実施例4:Co金属-有機骨格の合成
400mLのDMF/水溶液(重量で約0%~40%の水)を、予熱して60℃とした。その溶媒に、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)(0.5グラム、実施例1)、次いで無水酢酸コバルト(500ミリグラム)を添加した。その反応混合物を、ある期間(約5分から約18時間)かけて撹拌した。場合によっては、その反応温度を、最初は約60℃とし得、反応の進行にともなって、下げていった。濾過により固形物を得て、次いでそれを、DMF/水溶液(重量で0%~約90%の水)を用いて洗浄した。次いで、その固形物を、エタノールを用いて洗浄し、濾紙の上で、軽く乾燥させた。貯蔵するためには、その固形物を、そのまま粗固形物として貯蔵してもよいし、或いは、特に特性解析のためには、120℃でさらに乾燥させてもよい。
【0097】
その反応生成物を、N吸着法により特性解析した。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)コバルトの説明のための、77KでのN吸着等温線を図7に示す。それに見られるように、Mg、Zn、及びCo金属-有機骨格物質のそれぞれで、N吸着等温線の形状が極めて似ていた。5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)コバルトの、30℃での、説明のためのエタン及びエチレンの吸着等温線を示すが、エチレンが選択的に吸着されたことを、図8は示している。
【0098】
実施例5:Ni金属-有機骨格の合成
100mLのDMF/水溶液(重量で0%~40%の水)を、予熱して60℃とした。その溶媒に、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)(0.5グラム、実施例1)、次いで酢酸ニッケル四水和物(0.815グラム)を添加した。その反応混合物を、ある期間(約5分から約18時間)かけて撹拌した。濾過により固形物を得て、次いでそれを、DMF/水溶液(重量で約0%~約90%の水)を用いて洗浄した。次いで、その固形物を、エタノールを用いて洗浄し、濾紙の上で、軽く乾燥させた。貯蔵するためには、その固形物を、そのまま粗固形物として貯蔵してもよいし、或いは、特に特性解析のためには、120℃でさらに乾燥させてもよい。
【0099】
実施例6:Zn金属-有機骨格及びCo金属-有機骨格の室温合成
56mgの5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)(実施例1)を、15mLのDMF及び3.75mLの水と組み合わせた。その反応混合物に、90mgの酢酸亜鉛二水和物を添加し、次いで、周囲温度で一夜撹拌した。濾過により固形物を単離し、次いでそれを、DMF、次いでエタノールを用いて洗浄した。洗浄の後、その固形物を、オーブン中、空気雰囲気下、115℃で乾燥させた。60mgの無水酢酸コバルト、14mLのDMF、及び6mLの水を使用して、同様にして、相当するコバルト金属-有機骨格も合成した。
【0100】
それらの反応生成物を、X線粉末回折により、特性解析した。図9は、室温で形成させた、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)亜鉛(上側の線)、及び5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)コバルト(下側の線)のX線粉末回折パターンを示している。それに見られるように、Co及びZnの類似体は、相互に親近構造であった。図9に示したZn類似体についてのX線粉末回折パターンと、図3に示したものとの違いは、反応を室温で実施した時間では、金属-有機骨格の網目構造の形成が不完全であった結果であると考えられる。亜鉛類似体の回折パターンにおける、2θ値ほぼ6.5度でのピークは、アモルファス相が生成した結果と考えられるが、それは、水分に過剰に曝露された結果の可能性がある。同様にして、図9に示したコバルト類似体での弱い回折パターンは、網目構造の形成が不完全であった結果と考えられる。
【0101】
実施例7:Mg金属-有機骨格の金属交換
実施例2からの粗製固形物の2グラム(乾燥固形物として約200mg)を、20mLのDMFの中に懸濁させた。200mgの無水臭化ニッケルを、別の20mLのDMFの中に溶解させ、完全に溶解させるために超音波を使用した。次いで、そのニッケル溶液を、Mg金属-有機骨格懸濁液に添加すると、ニッケル溶液の添加につれて直ちに、色が、黄色/オレンジ色から赤色に変化した。その反応混合物を約6時間撹拌してから、濾過した。そのようにして得られた固形物を、DMF、次いでエタノールを用いて洗浄した。貯蔵するためには、その固形物を、そのまま粗固形物として貯蔵してもよいし、或いは、窒素雰囲気下、150℃で乾燥させてもよい。
【0102】
配位子(実施例1)、相当するMg金属-有機骨格(実施例2)及びニッケル交換させたMg金属-有機骨格(実施例7)についてのUV-Visスペクトルを測定し、図10に示した。すべてのサンプルを、希釈剤としてのガンマアルミナの中に分散させ、純ガンマアルミナのバックグラウンドと比較した。見られるように、ニッケルに交換させることによって、UV-Visスペクトルに変化が生じた。Mg金属-有機骨格は、配位子のみに関連した電子項遷移を示したが、それに対して、ニッケル交換した金属-有機骨格は、配位子及びニッケルに関する両方のバンドを示した。
【0103】
本明細書に記載されたすべての文書は、この文書と矛盾しない程度で、各種の優先文書及び/又は試験手順も含め、そのような実施が許容されるあらゆる権限の目的で、本明細書において参照することにより組みこまれたものとする。これまでの一般的な記述及び特定の実施態様から明らかなように、本開示の形態を説明し、記述してきたが、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、各種の修正を実施することが可能である。したがって、本開示が、それによって限定されることは意図されていない。たとえば、本明細書に記載された組成物は、本明細書に、明瞭に引用又は開示されていない、いかなる成分又は組成物を含んでいなくてもよい。いかなる方法も、本明細書に引用又は開示されていない、いかなるステップに欠けていてもよい。同様に、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」という用語と、同義語であると考えられる。方法、組成物、要素、又は要素の群に、移行句の「含む(comprising)」が先行している場合は常に、組成物、要素、又は複数の要素の記述に先行する、移行句の「から実質的になる(consisting essentially of)」、「からなる(consisting of)」、「からなる群より選択される(selected from the group of consisting of)」、又は「である(is)」を用いて、同じ組成物又は要素の群をも考慮に入れている(逆も同様である)ということを理解されたい。
【0104】
特に断らない限り、本明細書及び関連の請求項で使用される、成分、物性たとえば、分子量、反応条件などの量を表すすべての数字は、すべての場合において、「約(about)」で修飾されていると理解されたい。したがって、そうではないと示されていない限り、明細書及び添付の請求項で記述されている数値パラメーターは、近似値であって、本発明の実施態様によって得られることが期待されている所望の性質に合わせて、変化させることも可能である。控えめに言って、且つ特許請求項の範囲に対する均等論の適用を制限するつもりはないが、それぞれの数値パラメーターは、少なくとも、報告された有効数字の数を考慮し、通常の丸め方を当てはめて、解釈するべきである。
【0105】
下限及び上限を有する数値範囲が開示されている場合には常に、その範囲の内部に入るすべての数字及びすべての含まれる範囲が、限定して開示されている。具体的には、本明細書において開示されたすべての数値範囲(「約aから約bまで(from about a to about b)」、又は同様の意味合いで、「ほぼaからb(from approximately a to b)」、又は同様の意味合いで、「ほぼa~b(approximately a-b)」の形)は、より広い数値範囲の中に包含される、すべての数値及び範囲に言及していると理解するべきである。さらに、請求項における用語は、特許権者によって、別なものであると明示的且つ明白に定義されている以外は、それらの平明且つ通常の意味合いを有している。さらに、請求項において使用されている、不定冠詞の「a」又は「an」は、本明細書においては、それが導入している要素の、一つ、又は一つ以上を意味していると定義される。
【0106】
本明細書において、一つ以上の説明用の実施態様が提供されている。曖昧さを排除するために言えば、本出願における物理的実施態様の全部の側面のすべてが、記述されたり、示されたりしている訳ではない。本開示の物理的実施態様の開発において、その開発者のゴール、たとえば、システム関連、ビジネス関連、規制関連、及びその他の制約(これらは、実施態様に応じて、且つ時々刻々変化する)とのコンプライアンスを達成するために、実施態様に即した数々の決定をしなければならないということは、理解されたい。開発者の努力には、時間がかかるであろうが、それにも関わらず、そのような努力は、当業熟練者にとっては、日常的な業務であり、本開示が有益性を有している。
【0107】
したがって、本開示は、上述の、さらにはそれらにおいて固有の、目標及びメリットを達成するために、十分に適応させられる。先に開示されたような具体的な実施態様は、単に説明のためであるが、その理由は、本開示は、当業熟練者にとっては明らかな、異なってはいるが等価の方法で、修正及び実施をすることが可能であり、そして本明細書における教示の有益性を有しているからである。さらには、以下の請求項で記載されるのとは別の、本明細書において示された構成又は設計の詳細に対しては、何の制限を意図されていない。したがって、明らかに、先に開示されたような特定の説明用の実施態様は、変更したり、組み合わせたり、或いは修正したりすることが可能であって、そのような変動はすべて、本開示の範囲及び精神の内であると考えることができる。本明細書において説明的に開示された実施態様は、本明細書で具体的に開示されていない各種の要素、及び/又は本明細書に開示された各種の任意の要素が存在しなくても、好適に実施することができる。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
金属-有機骨格物質であって、
複数の金属中心;及び
多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、前記複数の金属中心に配位された多座配位の有機配位子;
を含み、
前記多座配位の有機配位子が、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物を含み、前記多座配位の有機配位子が、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位を含み、前記第一及び第二の結合部位が、それぞれ、サリチレート残基を含み、前記第三の結合部位がジイミン残基を含む、金属-有機骨格物質。
(態様2)
前記アミン置換されたサリチル酸が、5-アミノサリチル酸である、態様1に記載の金属-有機骨格物質。
(態様3)
前記ビシナルジカルボニル化合物が、グリオキサールである、態様1又は態様2に記載の金属-有機骨格物質。
(態様4)
前記多座配位の有機配位子が、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス-(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)である、態様1~3のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様5)
前記複数の金属中心の少なくとも一部が、二価の金属を含む、態様1~4のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様6)
前記第一の結合部位が、第一の二価の金属中心に配位され、前記第二の結合部位が、第二の二価の金属中心に配位され、前記第一の二価の金属中心及び前記第二の二価の金属中心が、同一の二価の金属を含む、態様1~5のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様7)
前記二価の金属が、アルカリ土類金属である、態様5又は態様6に記載の金属-有機骨格物質。
(態様8)
前記二価の金属が、マグネシウムである、態様5~7のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様9)
少なくとも前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位が、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造で規定される金属中心に配位されている、態様1~8のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様10)
前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位が、少なくとも一つのタイプの金属中心に配位され、前記第三の結合部位が、第二のタイプの金属中心に配位されている、態様1~9のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様11)
前記少なくとも一つのタイプの金属中心が、二価の金属を含む、態様10に記載の金属-有機骨格物質。
(態様12)
前記第二のタイプの金属中心が、前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位に配位された前記少なくとも一つのタイプの金属中心とは異なる二価の金属を含む、態様11に記載の金属-有機骨格物質。
(態様13)
前記第一の結合部位が、第一のタイプの金属中心に配位され、前記第二の結合部位が、第二のタイプの金属中心に配位され、前記第一のタイプの金属中心と前記第二のタイプの金属中心とが同じである、態様1~4のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様14)
前記第一の結合部位が、第一のタイプの金属中心に配位され、前記第二の結合部位が、第二のタイプの金属中心に配位され、前記第一のタイプの金属中心と前記第二のタイプの金属中心とが異なっている、態様1~4のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様15)
前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を有さないか、又は、前記第三の結合部位で、金属中心で不完全に占有されている、態様13又は態様14に記載の金属-有機骨格物質。
(態様16)
前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を含む、態様13又は態様14に記載の金属-有機骨格物質。
(態様17)
前記第一のタイプの金属中心及び前記第二のタイプの金属中心が、二価の金属を含む、態様13~16のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様18)
前記第一の結合部位、前記第二の結合部位、及び前記第三の結合部位が、同じタイプの金属中心に配位されている、態様1~11のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様19)
前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を有さないか、又は、前記第三の結合部位で、金属中心で不完全に占有されている、態様1~12のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様20)
前記複数の金属中心の少なくとも一部が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、又はそれらの各種組合せを含む、態様1~19のいずれか1項に記載の金属-有機骨格物質。
(態様21)
方法であって、
金属源を、ビシナルジカルボニル化合物とアミン置換されたサリチル酸との反応生成物が含まれる多座配位の有機配位子と組み合わせる工程であって、前記多座配位の有機配位子には、第三の結合部位に橋架けされた第一の結合部位及び第二の結合部位が含まれ、前記第一及び第二の結合部位には、それぞれ、サリチレート残基が含まれ、前記第三の結合部位にはジイミン残基が含まれている、工程;及び
前記金属源を、前記多座配位の有機配位子と、その中に画定される多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を有し、複数の金属中心を含む金属-有機骨格物質を形成させるのに効果的な条件下で反応させる工程であって、金属中心は、少なくとも前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位に配位されており、前記第一の結合部位及び第二の結合部位に配位された前記金属中心がそれぞれ第一の金属を含むか、又は前記第一の結合部位に配位された前記金属中心が前記第一の金属を含み、前記第二の結合部位に配位された前記金属中心が第二の金属を含む、工程。
を含む方法。
(態様22)
前記多座配位の有機配位子が、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)である、態様21に記載の方法。
(態様23)
前記複数の金属中心の少なくとも一部が、二価の金属を含む、態様21又は態様22に記載の方法。
(態様24)
前記第一の結合部位が、第一の二価の金属中心に配位され、前記第二の結合部位が、第二の二価の金属中心に配位され、前記第一の二価の金属中心及び前記第二の二価の金属中心が、同一の二価の金属を含む、態様21~23のいずれか1項に記載の方法。
(態様25)
前記第一の結合部位が、第一の二価の金属中心に配位され、前記第二の結合部位が、第二の二価の金属中心に配位され、前記第一の二価の金属中心及び前記第二の二価の金属中心が、異なった二価の金属を含む、態様21~23のいずれか1項に記載の方法。
(態様26)
前記二価の金属が、アルカリ土類金属である、態様23~25のいずれか1項に記載の方法。
(態様27)
前記二価の金属が、マグネシウムである、態様23又は態様24に記載の方法。
(態様28)
前記金属-有機骨格物質が、前記第三の結合部位に金属中心を有さないか、又は、前記第三の結合部位で、金属中心で不完全に占有されている、態様21~27のいずれか1項に記載の方法。
(態様29)
前記第三の結合部位で、金属中心を、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造に導入する工程であって、前記第三の結合部位での前記金属中心が、前記第一の結合部位及び前記第二の結合部位に配位された前記第一の金属とは異なるか、又は、前記第三の結合部位での前記金属中心が、前記第一の結合部位に配位された前記第一の金属及び前記第二の結合部位に配位された前記第二の金属とは異なる、工程
をさらに含む、態様21~28のいずれか1項に記載の方法。
(態様30)
前記金属中心を、前記第三の結合部位で、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造に導入することが、前記第三の結合部位に配位された第一の金属又は第二の金属を、他の金属と交換することを含む、態様29に記載の方法。
(態様31)
前記金属中心を、前記第三の結合部位で、前記少なくとも部分的に結晶性の網目構造に導入することが、空の第三の結合部位に異なった金属を充填することを含む、態様29に記載の方法。
(態様32)
前記金属源が、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、及びロジウムの1種又は複数を含む、態様21~31のいずれか1項に記載の方法。
(態様33)
方法であって、
多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含み、前記複数の金属中心の少なくとも一部が二価の金属を含む、金属-有機骨格物質を備える工程;
前記金属-有機骨格物質を、二酸化炭素を含む流体と接触させる工程;及び
前記二酸化炭素の少なくとも一部を前記流体から前記金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程、
を含む方法。
(態様34)
前記二価の金属が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、及びニッケルの1種又は複数である、態様33に記載の方法。
(態様35)
方法であって、
多数の内部細孔を有する、少なくとも部分的に結晶性の網目構造を規定するための、少なくとも二つの結合部位を介して、5,5’-(((1E,2E)-エタン-1,2-ジイリデン)ビス(アザネイルイリデン))-ビス(2-ヒドロキシ安息香酸)に配位された複数の金属中心を含み、前記複数の金属中心の少なくとも一部が二価の金属を含む、金属-有機骨格物質を備える工程;
前記金属-有機骨格物質を、1種又は複数の炭化水素を含む流体と接触させる工程;及び
前記1種又は複数の炭化水素の少なくとも一部を前記流体から前記金属-有機骨格物質の中へ封鎖する工程、
を含む方法。
(態様36)
前記二価の金属が、マグネシウム、マンガン、クロム、鉄、銅、コバルト、及びニッケルの1種又は複数である、態様35に記載の方法。
(態様37)
前記1種又は複数の炭化水素が、2種以上の異なった炭化水素を含み、第一の炭化水素が、第二の炭化水素よりは優先的に、前記金属-有機骨格物質の中に封鎖される、態様35又は態様36に記載の方法。
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