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特許7461376静止した景色の赤外線画像の残留像を除去する方法及びデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】静止した景色の赤外線画像の残留像を除去する方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/70 20240101AFI20240327BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20240327BHJP
   G01J 1/42 20060101ALI20240327BHJP
   G01J 1/44 20060101ALI20240327BHJP
   G06T 5/50 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G06T5/70
H04N23/60 500
G01J1/42 B
G01J1/44 D
G06T5/50
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021564564
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2020061811
(87)【国際公開番号】W WO2020221774
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】1904563
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520342828
【氏名又は名称】リンレッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】デュラン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ハラント,オリヴィエ
【審査官】渡部 幸和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-088192(JP,A)
【文献】特開2011-153994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00-7/90
H04N 23/00
G01J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線撮像デバイスによって取り込まれた一連の画像内の画像(fn)から残留アーチファクトを画像処理デバイス(112) によって除去する方法であって、
- 前記画像(fn)の画素値と前記一連の画像内の前の画像(fn-1)の画素値との差に基づき、前記画像(fn)の少なくとも一部の画素の残留測定値(ω* n,x)を生成し、
- 前記残留測定値(ω* n,x)と、前記少なくとも一部の画素の一又は複数の前の残留推定値と、残留指数関数的減衰のモデル(W) とに基づき夫々生成された残留推定値(μω,n,x)に基づき、前記少なくとも一部の画素毎に、前記画像(fn)の少なくとも一部の画素から残留アーチファクトを除去する、方法。
【請求項2】
前記残留推定値は、前記少なくとも一部の画素毎の瞬間平均残留推定値に相当する平均残留推定値(μω,n,x)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記画像(fn)の少なくとも一部の画素の残留測定値(ω*n,x)を生成する際に、
ω*n,x=fn,x-fn-1,x
を計算し、
fnは前記画像であり、fn-1は前記前の画像である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
カルマンフィルタリングを適用することにより、前記少なくとも一部の画素毎に前記残留推定値(μω,n,x)を生成する、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
カルマンフィルタリングを適用することにより、前記残留推定値(μω,n,x)を生成する際に、
- 前記少なくとも一部の画素の各々の前の補正された残留推定値と、前記残留指数関数的減衰のモデル(W) とに基づき、前記画像(fn)の少なくとも一部の画素の各々の残留値を事前に推定し、
前記画像(fn)の少なくとも一部の画素毎に、対応する残留測定値(ω* n,x)に基づき、推定された残留値を補正し、事後推定値を得る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記画像(fn)から残留アーチファクトを除去する前に、一連の画像が静止した景色に対応することを検出する、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
画像処理デバイス(112) のプロセッサによって実行されると、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法を実行させるコンピュータ命令を記憶する、非一時的な記憶媒体。
【請求項8】
赤外線撮像デバイスによって取り込まれた一連の画像内の画像(fn)、及び前記一連の画像内の少なくとも1つの前の画像の一又は複数の残留測定値(ω*n,x)を記憶する少なくとも1つのメモリ(206) と、
一又は複数のプロセッサ(202) と
を備えており、
前記プロセッサは、
- 前記画像(fn)の画素値と前記一連の画像内の前の画像(fn-1)の画素値との差に基づき、前記画像(fn)の少なくとも一部の画素の残留推定値(μω,n,x)を生成し、
- 前記残留推定値(μω,n,x)と、前記少なくとも一部の画素の一又は複数の前の残留推定値と、残留指数関数的減衰のモデル(W) とに基づき生成された残留推定値に基づき、前記画像(fn)の少なくとも一部の画素から残留アーチファクトを除去する
ことにより、前記画像(fn)から残留アーチファクトを除去するように構成されている、画像処理デバイス。
【請求項9】
前記残留推定値は、前記少なくとも一部の画素毎の瞬間平均残留推定値に相当する平均残留推定値(μω,n,x)である、請求項8に記載の画像処理デバイス。
【請求項10】
マイクロボロメータアレイ(102) と、
請求項8又は9に記載の画像処理デバイス(112) と
を備えている、赤外線撮像デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の赤外線撮像デバイスを備えている、赤外線カメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、赤外線撮像の分野に関し、特に赤外線画像から残留像を除去する方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロボロメータは、景色の画像の熱画像を取り込むために使用される非冷却赤外線(IR)カメラの一種である。このような赤外線カメラは一般に、画素アレイを形成するIR感知検出器のアレイを備えている。画素アレイの各画素は、画素で測定された温度を対応する電気信号、一般に電圧に変換し、次に電気信号、一般に電圧は、ADC (アナログ/デジタル変換器)によってデジタル出力信号に変換される。
【0003】
マイクロボロメータの各画素は、基板の上で懸架されている膜を有している。膜は、画素に当たる赤外光からエネルギーを吸収する吸収層を有しており、赤外光の強度に応じて吸収層の温度が上昇する。膜は、例えば熱層を更に有しており、熱層は、この温度上昇によって抵抗が変化するという特性を有するため、吸収層に熱的に結合しているこの熱層の抵抗変化を検出することにより、画素を読み取ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロボロメータなどの非冷却IRセンサは、画素アレイが高温フラックスを受けると発生する、残留像として知られている撮像アーチファクトの影響を受け得る。例えば、このような高温フラックスは、太陽又は別の強い熱源によって生じる場合があり、その結果、該当する画素の抵抗率が変化する。これらの画素の抵抗は、画素の温度が低下した後に通常レベルに戻るまでに時間がかかり、フラックスレベルに応じて画質の低下を引き起こし、画質の低下は数分間又は最大数日間持続し得る。
【0005】
メカニカルシャッタを備えたカメラの場合、残留アーチファクトを除去するアルゴリズムは比較的単純である。しかしながら、シャッタが設けられていない非冷却IRセンサによって取り込まれた画像から残留アーチファクトを除去するのには技術的な問題がある。
【0006】
本開示の実施形態の目的は、先行技術における一又は複数の問題に少なくとも部分的に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、赤外線撮像デバイスによって取り込まれた一連の画像内の画像から残留アーチファクトを画像処理デバイスによって除去する方法であって、画像の残留ゾーンにインペインティング処理を行って、インペインティング処理が行われた画像を生成し、インペインティング処理が行われた画像に基づき、前記画像の少なくとも一部の画素に関して残留測定値を生成し、前記一連の画像内の複数の画像の残留測定値に基づき夫々生成された残留推定値に基づき、前記少なくとも一部の画素毎に、前記画像の少なくとも一部の画素から残留アーチファクトを除去する、方法を提供する。
【0008】
一実施形態によれば、前記残留推定値は平均残留推定値である。例えば、前記平均残留推定値は、前記少なくとも一部の画素毎の瞬間平均残留推定値に相当する。
【0009】
一実施形態によれば、前記画像の少なくとも一部の画素に関して残留測定値を生成する際に、前記画像の少なくとも一部の画素の各画素値から、インペインティング処理が行われた画像の対応する画素の画素値を減算する。
【0010】
一実施形態によれば、前記方法では、前記画像の残留ゾーンを検出する。
【0011】
一実施形態によれば、前記残留ゾーンは、前記画像の75%未満の画素を含む。
【0012】
一実施形態によれば、前記方法では、前記画像及び前記一連の画像内の少なくとも1つの前の画像の残留測定値の移動平均を計算することにより、前記少なくとも一部の画素毎に前記残留推定値を計算する。
【0013】
一実施形態によれば、前記移動平均は、前記一連の画像内のm個の画像のスライディングウィンドウに基づいており、mは20~150 の範囲内である。
【0014】
一実施形態によれば、前記方法では、カルマンフィルタリングを適用することにより、前記少なくとも一部の画素毎に前記残留推定値を計算する。
【0015】
一実施形態によれば、カルマンフィルタリングを適用することにより、前記残留推定値を計算する際に、前記少なくとも一部の画素の各々の前の補正された残留推定値と残留指数関数的減衰のモデルとに基づいて、前記画像の少なくとも一部の画素の各々の残留値を事前に推定し、前記画像の少なくとも一部の画素毎に、対応する残留測定値に基づき、推定された残留値を補正し、事後推定値を得る。
【0016】
一実施形態によれば、前記方法では、前記画像から残留アーチファクトを除去する前に、前記一連の画像が変わる景色に対応することを検出する。
【0017】
更なる態様によれば、画像処理デバイスのプロセッサによって実行されると、上記の方法を実行させるコンピュータ命令を記憶する、非一時的な記憶媒体を提供する。
【0018】
更なる態様によれば、赤外線撮像デバイスによって取り込まれた一連の画像内の画像、及び前記一連の画像内の少なくとも1つの前の画像の一又は複数の残留測定値を記憶する少なくとも1つのメモリと、一又は複数のプロセッサとを備えており、前記プロセッサは、前記画像の残留ゾーンにインペインティング処理を行って、インペインティング処理が行われた画像を生成し、インペインティング処理が行われた画像に基づき、前記画像の少なくとも一部の画素に関して残留測定値を生成し、前記一連の画像内の複数の画像の残留測定値に基づき夫々生成された残留推定値に基づき、前記少なくとも一部の画素毎に、前記画像の少なくとも一部の画素から残留アーチファクトを除去することにより、前記画像から残留アーチファクトを除去するように構成されている、画像処理デバイスを提供する。
【0019】
一実施形態によれば、前記残留推定値は平均残留推定値である。例えば、前記平均残留推定値は、前記少なくとも一部の画素毎の瞬間平均残留推定値に相当する。
【0020】
更なる態様によれば、マイクロボロメータアレイと、上記の画像処理デバイスとを備えている、赤外線撮像デバイスを提供する。
【0021】
更なる態様によれば、上記の赤外線撮像デバイスを備えている、赤外線カメラを提供する。
【0022】
別の更なる態様によれば、赤外線撮像デバイスによって取り込まれた一連の画像内の画像から残留アーチファクトを画像処理デバイスによって除去する方法であって、前記画像の画素値と前記一連の画像内の前の画像の画素値との差に基づき、前記画像の少なくとも一部の画素の残留測定値を生成し、前記残留測定値と、前記少なくとも一部の画素の一又は複数の前の残留推定値と、残留指数関数的減衰のモデルとに基づき夫々生成された残留推定値に基づき、前記少なくとも一部の画素毎に、前記画像の少なくとも一部の画素から残留アーチファクトを除去する、方法を提供する。
【0023】
一実施形態によれば、前記残留推定値は平均残留推定値である。例えば、前記平均残留推定値は、前記少なくとも一部の画素毎の瞬間平均残留推定値に相当する。
【0024】
一実施形態によれば、前記画像の少なくとも一部の画素xの残留測定値を生成する際に、
ω*n,x=fn,x-fn-1,x [式1]
を計算し、
fnは前記画像であり、fn-1は前記前の画像である。
【0025】
一実施形態によれば、前記方法では、カルマンフィルタリングを適用することにより、前記少なくとも一部の画素毎に前記残留推定値を生成する。
【0026】
一実施形態によれば、カルマンフィルタリングを適用することにより、前記残留推定値を生成する際に、前記少なくとも一部の画素の各々の前の補正された残留推定値と、前記残留指数関数的減衰のモデルとに基づき、前記画像の少なくとも一部の画素の各々の残留値を事前に推定し、前記画像の少なくとも一部の画素毎に、対応する残留測定値に基づき、推定された残留値を補正し、事後推定値を得る。
【0027】
一実施形態によれば、前記方法では、前記画像から残留アーチファクトを除去する前に、一連の画像が静止した景色に対応することを検出する。
【0028】
別の更なる態様によれば、画像処理デバイスのプロセッサによって実行されると、上記の方法を実行させるコンピュータ命令を記憶する、非一時的な記憶媒体を提供する。
【0029】
別の更なる態様によれば、赤外線撮像デバイスによって取り込まれた一連の画像内の画像、及び前記一連の画像内の少なくとも1つの前の画像の一又は複数の残留測定値を記憶する少なくとも1つのメモリと、一又は複数のプロセッサとを備えており、前記プロセッサは、前記画像の画素値と前記一連の画像内の前の画像の画素値との差に基づき、前記画像の少なくとも一部の画素の残留推定値を生成し、前記残留推定値と、前記少なくとも一部の画素の一又は複数の前の残留推定値と、残留指数関数的減衰のモデルとに基づき生成された残留推定値に基づき、前記画像の少なくとも一部の画素から残留アーチファクトを除去することにより、前記画像から残留アーチファクトを除去するように構成されている、画像処理デバイスを提供する。
【0030】
一実施形態によれば、前記残留推定値は平均残留推定値である。例えば、前記平均残留推定値は、前記少なくとも一部の画素毎の瞬間平均残留推定値に相当する。
【0031】
別の更なる態様によれば、マイクロボロメータアレイと上記の画像処理デバイスとを備えている、赤外線撮像デバイスを提供する。
【0032】
別の更なる態様によれば、上記の赤外線撮像デバイスを備えている、赤外線カメラを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
前述及び他の特徴及び利点は、添付図面を参照して本発明を限定するものではない実例として与えられる以下の特定の実施形態に詳細に記載されている。
【0034】
図1】本開示の例示的な実施形態に係るIR撮像デバイスを概略的に示す図である。
図2】例示的な実施形態に係る、より詳細な図1の画像処理回路を概略的に示す図である。
図3】残留アーチファクトを含む画像を示す図である。
図4】画素の残留値の指数関数的減衰を示す図表である。
図5】本開示の例示的な実施形態に係る、画像から残留像を除去する方法のステップを示す一般的なフローチャートである。
図6】一連の300 の画像に亘って残留像の影響を受ける画素xのシミュレートされた画素値の例を示す図表である。
図7】残留領域Kを有する、マイクロボロメータアレイ全体のシミュレートされた画素値の例を示す図表である。
図8】マイクロボロメータアレイ全体のシミュレートされた画素値の更なる例を示す図表である。
図9】残留推定値と残留平均値との差の分布を示す図表である。
図10】一連のn=1000の連続した画像に沿って1つの画素の残留推定値と様々な方法を使用した残留推定値とを示す図表である。
図11】本開示の例示的な実施形態に従って残留推定値を生成するためにカルマンフィルタリングを行う方法のステップを示すフローチャートである。
図12】カルマンフィルタを適用するための有効な時系列の潜在構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
同様の特徴が、様々な図面で同様の参照符号によって示されている。特に、様々な実施形態で共通の構造的特徴及び/又は機能的特徴は同一の参照符号を有する場合があり、同一の構造特性、寸法特性及び材料特性を有する場合がある。
【0036】
特に示されていない場合、共に接続された2つの要素を参照するとき、これは、導体以外のいかなる中間要素も無しの直接接続を表し、共に結合又は連結された2つの要素を参照するとき、これは、これら2つの要素が接続され得るか、又は一若しくは複数の他の要素を介して結合又は連結され得ることを表す。
【0037】
以下の開示では、特に示されていない場合、「前」、「後ろ」、「最上部」、「底部」、「左」、「右」などの絶対位置、若しくは「上方」、「下方」、「高」、「低」などの相対位置を限定する文言、又は「水平」、「垂直」などの向きを限定する文言を参照するとき、この文言は、図面の向き又は通常の使用中のマイクロボロメータの向きを指す。
【0038】
特に指定されていない場合、「約」、「略」、「実質的に」及び「程度」という表現は、該当する値の10%の範囲内、好ましくは5%の範囲内を表す。
【0039】
図1は、赤外光を感知可能な画素アレイ102 を備えたIR撮像デバイス100 を示す。IR撮像デバイス100 は、例えばIRカメラの一部を形成している。ある実施形態では、画素アレイ102 は、7~16μm又はそれ以上の範囲内の波長の光などの長波赤外光を感知可能である。
【0040】
図1の例では、画素アレイ102 は、12行及び12列に配置された144 のマイクロボロメータ画素104 を有している。代替的な実施形態では、画素アレイ102 は、あらゆる数の行及び列の画素を有し得る。典型的には、画素アレイ102 は、例えば640 ×480 のマイクロボロメータ画素、又は1024×768 のマイクロボロメータ画素を有する。
【0041】
図1の例では、画素アレイ102 の画素の各列は対応する参照構造体106 に関連付けられている。この参照構造体は、機能的には画像素子ではないが、撮像(又はアクティブ)マイクロボロメータ画素104 との構造的類似性によって本明細書では「参照画素」と称される。更に、出力ブロック(出力)108 が、画素アレイ102 の各列及び参照画素106 の各々に連結されており、参照画素106 と共に画素アレイ102 によって取り込まれた信号又は読み取り値を含む生画像RAW を与える。
【0042】
ボロメータタイプの画素アレイの例が、例えば、本出願人に譲渡されている米国特許第7700919 号明細書により詳細に記載されており、その内容が、特許法によって認められる程度まで参照によって本明細書に組み込まれる。
【0043】
制御回路(CTRL)110 が、例えば画素アレイ102 、参照画素106 及び出力ブロック108 に制御信号を与える。
【0044】
生画像RAW は、例えば画像処理回路(画像処理)112 に与えられ、画像処理回路112 は、例えば、画像の画素に2点画像補正、更に残留補正を適用して補正画像Sを生成する。
【0045】
画素アレイ102 の読取ステップ中、画素の行を例えば一度に1つずつ読み取る。
【0046】
図2は、例示的な実施形態に係る、より詳細な図1の画像処理回路112 を示す。
【0047】
画像処理回路112 の機能は例えばソフトウェアで実行され、画像処理回路112 は、命令メモリ204 に記憶された命令の制御下で一又は複数のプロセッサを有する処理デバイス202 を有している。代替的な実施形態では、画像処理回路112 の機能は、専用ハードウェアによって少なくとも部分的に実行され得る。このような場合、処理デバイス202 は例えばASIC(特定用途向け集積回路)又はFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)を有しており、命令メモリ204 は省略されてもよい。
【0048】
処理デバイス202 は生入力画像RAW を受けて補正画像Sを生成し、補正画像は、例えば撮像デバイスのディスプレイ(不図示)に与えられる。
【0049】
処理デバイス202 は、例えば、2点画像補正を実行するために使用されるオフセット値(オフセット)208 及びゲイン値(ゲイン)210 を記憶するデータメモリ(メモリ)206 に更に連結されている。
【0050】
ある実施形態では、シャッタが設けられていない画像補正を実行する。例えば、オフセット値は、構造的な列分散を表すベクトルVCOL、及び画素アレイ102 によって導入される構造的な二次元非列分散を表す行列OFFDISPの形態である。列分散は例えば、行の列参照画素が一般に完全には均一ではないにも関わらず、各列の参照画素106 を使用することによって主に生じる。例えば、二次元非列分散は、例えば技術的な処理分散によって生じる画素アレイのアクティブボロメータ間の局所的な物理的差及び/又は構造的差によって主に生じる。
【0051】
シャッタが設けられていない画像補正技術、特にベクトルVCOL及び行列OFFDISPの生成、並びにこのベクトル及び行列に基づく画素値の補正の例が、2015年4月24日に出願されて本出願人に譲渡されている米国特許出願第14/695539号により詳細に記載されており、その内容が特許法によって認められる程度まで参照によって本明細書に組み込まれる。
【0052】
代替的な実施形態では、シャッタの使用を伴う解決策を含む様々なタイプの2点画像補正を実行することができる。
【0053】
メモリ206 は、例えば、以下により詳細に記載されるように、一又は複数の予め取り込まれた画像の画素に関して計算された一又は複数の残留推定値212 を更に記憶している。ある実施形態では、メモリ206 は、以下により詳細に記載されるように、残留減衰を表すモデルWを更に記憶している。
【0054】
図3は、残留アーチファクト302 が存在する画像300 を示す。例えば、この画像は、マイクロボロメータアレイによって取り込まれて、マイクロボロメータアレイがアクティブである間に、グレア、特に比較的強い熱のフラックスをマイクロボロメータアレイが受けた。マイクロボロメータアレイの各画素の熱層の抵抗は、温度に応じて変化すべきであり、温度が高くなると抵抗が低くなる。画像300 では、読み易さのために、階調が反転されており、高温はより暗い画素で表されている。比較的高い熱のフラックスは、該当する画素の抵抗を著しく持続的に低下させ、マイクロボロメータアレイ全体のフラックスの経路に対応する暗い跡302 を画像300 に生じさせる。太陽の熱に起因する場合、このようなアーチファクトはサンバーンと称されることが多い。
【0055】
図4は、例示的な実施形態に係る、時間に応じた、図1のアレイ102 などのマイクロボロメータアレイの画素xの残留値ωの例を示す図表である。残留値ωxは、以下の式によってモデル化され得る指数関数的減衰を有する。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、t0は、グレアが画素に当たった瞬間の後に画素が通常の温度に戻る時間であり、x=(行,列)は画素の座標ベクトルであり、α、β及びτはパラメータである。
【0058】
【数2】
【0059】
は特性関数である。図4の例では、τは10であり、αは1であり、βは0.5 である。
【0060】
残留像は付加的な障害である。従って、残留像の影響を受ける画像の画素値fx(t) は、以下のようにモデル化され得る。
fx(t)=ωx(t-t0;τ,α,β)+Gωx(t-t0)Sx(t) [式4]
ここで、Sx(t) はグレア無しの画像であり、Gωxはグレアによるゲイン変化行列であり、fx(t) は、例えば上述したような2点画像補正に対応する。ゲイン変化行列に基づき補正を行う方法が、仏国特許発明第2987210 号明細書により詳細に記載されており、その内容が、特許法によって認められる程度まで参照によって本明細書に組み込まれる。しかしながら、項Gωx(t-t0)Sx(t)によって表される画素の感度の変化は、ωxに対して小さいとみなすことができ、以下では、その寄与は、Gωを1とみなして無視される。
【0061】
図1のデバイス100 などのIR撮像デバイスを使用してIR画像を取り込む場合、識別され得る複数の異なる使用事例がある。
【0062】
IRカメラが動いているため、及び/又は景色が変わっているため、画素アレイの視野内の画像が変化しているとみなされ得る動的状況(以下、事例1)を検討することができる。このタイプの動的状況では、残留像ωx(t)及び画像Sx(t) の両方が経時的に変化しているので、上記のモデルが適切である。
fx(t)=ωx(t)+Sx(t) [式5]
【0063】
別の状況(以下、事例2)は、画素アレイの視野内の画像が実質的に一定である場合に対応する。従って、残留像のみが経時的に変わっている。このような事例では、残留像の影響を受ける画像の画素値fx(t) は、以下のようにモデル化され得る。
fx(t)=ωx(t)+Sx [式6]
ここで、グレア無しの画像Sxは一定であると仮定され得る。
【0064】
事例1及び事例2の両方で、画像の流れが、例えば取り込まれて、映像ファイルを形成すべく記憶される、及び/又はIRカメラの画像ディスプレイに略リアルタイムで中継される。
【0065】
第3の状況(以下、事例3)は、IRカメラの視野内の画像及び残留像の両方が経時的に一定とみなされ得る程に十分にゆっくりと変わっている場合、言い換えれば、時間減衰が評価の時間枠内で測定され得ない程遅い場合に対応する。この事例の画像の画素値fxは、以下のようにモデル化され得る。
fx=ωx+Sx [式7]
【0066】
事例1及び事例2に関して残留像によって生じたアーチファクトを少なくとも部分的に除去する方法について、より詳細に説明する。失われた画素情報に関する追加の時間情報が含まれない1つの画像の画像レタッチに相当する事例3は、本開示では扱われない。
【0067】
以下、t=n及びt+δt=n+1を示すことによって、時間をサンプリングする。従って、時間t及び画素xの行列Mの値は、M(t,x)ではなくMn,xと示される。
【0068】
一般的概要
図5は、本開示の例示的な実施形態に係る一連の画像で残留像を補正する方法500 のステップを示す一般的なフローチャートである。この方法は、例えば図1及び図2の画像処理回路112 によって実行される。或いは、この方法は、IRカメラの一部を形成しても又は形成しなくてもよい別のタイプの処理デバイスによって実行され得る。
【0069】
画像の取込
ステップ501 で、画像fnを取り込むときに本方法が開始する。この画像は、例えば、前述した2点画像補正などの画像補正が適用された生画像RAWnに相当する。
【0070】
変化の検出
ステップ501 の後、例えば、画像fn及び予め取り込まれた画像fn-1に基づき、変わる景色の存在を検出するステップ502 を実行する。ステップ502 の後、例えば現在の画像nの各画素xにおける現在の残留平均値μω,n,xの推定を含む、残留推定法503 を実行する。ステップ502 における変わる景色の検出結果を使用して、残留推定ステップ503 を実行する二者択一の方法504 及び方法505 のいずれかを選択する。特に、変わる景色がステップ502 で検出された場合、その後の残留推定法503 で、図5の方法504 に相当する事例1の方法を適用する。逆に、静止した景色が検出された場合、その後の残留推定法503 で、図5の方法505 に相当する事例2の方法を適用する。
【0071】
例えば、ステップ502 で、時間的変化を、時間的ノイズレベルより上に設定された閾値、例えば時間的ノイズレベルの2倍又は3倍に設定された閾値と比較することにより、景色の動態を検出することができる。このような評価を、平均的な時間的変化などに基づいて画像に関して全体的に行うことができ、この場合、画像の全ての画素を、例えば同一の方法(事例1の方法504 又は事例2の方法505 )に従って処理する。或いは、画像の個々の画素又は個々のサブ領域での時間的変化に基づいて、局所的な評価を行うことができ、事例1の方法504 又は事例2の方法505 のいずれを適用するかの選択を、画素単位又はサブ領域単位で行うことができる。
【0072】
方法504 については、事例1と題したサブセクションで以下に更に詳細に説明し、方法505 については、事例2と題したサブセクションで以下に更に詳細に説明する。
【0073】
図5は、方法504 及び方法505 の両方の実行を含む方法を示しているが、これらの方法の選択を、景色の変化の検出結果に基づいてフレーム毎に行って、代替的な実施形態では、方法504 又は方法505 のみを行うことができる。
【0074】
残留補正
ステップ503 の後、例えば、残留推定値に基づく画像の補正を含むステップ506 を実行する。例えば、画像Snを生成すべく、画像fnの画素x毎に以下の式を適用して、画像を補正する。
Sn,x=fn,x-μω,n,x [式8]
【0075】
ステップ506 の後、nが増加し、その後の画像nを取り込んだ後、ステップ501 ~ステップ506 を、例えば繰り返す。
【0076】
事例1
残留ゾーンの検出
事例1では、方法503 で、ステップ510 ~ステップ513 を含む図5の方法504 を適用する。
【0077】
ステップ510 では、一又は複数の残留ゾーンを更新する。
【0078】
例えば、残留ゾーンを示す画像fn毎にマスクを生成する。これらの残留ゾーンは、画素が残留像によって影響を受ける実際のゾーンより大きくなり得る。しかしながら、ある実施形態では、残留ゾーンは、画像の多くとも75%の画素に相当する。例えば太陽の軌道を追跡して、画素値が周囲の領域より著しく高いゾーンを検出することにより、マスクを、例えば生成することができるが、エッジ検出に基づく技術を含む他の技術を更に使用することもできる。
【0079】
インペインティング処理
次に、ステップ511 で、画像内のこれらの残留ゾーンにインペインティング処理を適用する。インペインティング処理は、本技術分野で知られている画像再構築技術であり、目標とするゾーンの外側からの画像情報に基づいて目標とするゾーン内の画素値を補正することを含む。例として、インペインティング処理の方法が、C. Guillemot及びO. Le Meur著の「Image inpainting: Overview and recent advances」という題名の2014年の刊行物(IEEE signal processing magazine, 31(1), 127-144)により詳細に記載されており、その内容が、特許法によって認められる程度まで参照によって本明細書に組み込まれる。
【0080】
残留測定
ステップ512 で、画像fnの画素xにおけるノイズの多い残留測定値ω*n,xを、インペインティング処理が行われた画像に基づいて画素毎に処理する。例えば、このノイズの多い残留測定値を、画素単位で以下の減算を実行することにより計算する。
ω*n,x=fn,x-S*n,x [式9]
ここで、S*n,x は画素xでn番目のインペインティング処理が行われた画像である。
【0081】
残留推定
ステップ513 で、残留推定ステップ530 を適用することにより、残留値を推定する。例えば、残留推定値は、画素x毎の瞬間平均残留推定値μω,n,xを含む。残留推定ステップ530 で、例えば、現在の残留測定値ω*n,xと前の残留推定値ωn-1,x との加重和として現在の残留推定値ωn,xを画素x毎に生成する。ある実施形態では、残留推定ステップ530 で、単に前のm個の画像の残留測定値の平均値{ω*k,x}k=n-M:nとして推定値ωn,xを生成する。代替的な実施形態では、残留推定ステップ530 で、残留時間的減衰のモデルを考慮したカルマンフィルタに基づいて推定値ωn,xを生成する。例えば、指数モデルWを使用してもよい。カルマンフィルタを使用すると、ωn,xの推定量は、例えばωn,xを完全に特徴付ける平均μω,n,x及び分散σ2 ω,n,xである。
【0082】
方法504 により、画素アレイの視野内の画像が変わっているとき、画素値の時間的変化がμω,n,xを中心とする正規分布を有するノイズとみなされ得るという本発明者らによる観測結果に基づき、残留像を除去することが可能である。
【0083】
図6は、例えば毎秒25フレームの画像取込率で取り込まれた一連の300 の画像nに亘って残留像の影響を受ける画素xのシミュレートされた画素値の例を示す図表である。図6のドットは300 の画素値を表し、連続曲線602 は残留推定平均値を経時的に表す。図6の破線曲線604 は、指数関数的減衰を有する真の残留値ωxを表す。所与の画像に関してこの真の残留値ωxの適度に正確な推定値を得ることにより、景色の画像を表す基礎となる画素情報を与えるべく、推定値を画素値から減算することができる。
【0084】
実際、画素アレイの視野内の画像が経時的に変わっていることを考慮すると、景色は、以下のように定められる定常ノイズとみなされ得る。
Sn,x~N(μS2 S) [式10]
ここで、「~」は、「に応じて分散している」を表し、N(μ,σ2)は、ここでは時間及び空間に亘って一定である平均値μ及び分散σ2を有する正規分布である。
【0085】
しかしながら、残留像は、経時的に減衰する平均値を有するため、非定常ノイズである。
ωn,x~N(μω,n,x,σ2 ω) [式11]
【0086】
従って、画像fnの画素xでの観測される画像は、2つの独立した確率変数の合計である。
fn,x=Sn,x+ωn,x~N(μS+μω,n,x,σ2 +σ2 ω) [式12]
【0087】
図7は、マイクロボロメータアレイ全体の0~Pの画素(画素x)のシミュレートされた画素値を示す図表であり、ゾーンKの画素がサンバーンの経路にあると仮定されている。
【0088】
図7は、破線曲線704 によって表される景色の画像の平均値μS,n 及び連続曲線706 によって表される残留平均値μω,n,xの合計である観測された画像fn,xの例を連続曲線702 によって示す。従って、景色の画像の平均値μS,n,x を推定することにより、以下の式を計算してμω,n,xを得ることが可能である。
μω,n,x=fn,x-μS,n,x [式13]
【0089】
図5の方法504 のステップ513 では、本発明者らは、図8を参照してより詳細に記載されるインペインティング処理を使用して、景色の画像の平均値μS,n の推定値を得ることを提案している。
【0090】
図8は、マイクロボロメータアレイ全体の0~Pの画素(画素x)の画素値を示す図表であり、図7の例と同様に、ゾーンKの画素がサンバーンの経路にあると仮定されている。
【0091】
図8の連続曲線802 は、観測された画像fnの線を表し、破線曲線804 は、この線にインペインティング処理が行われて以下の通り表現され得るS*nと示される線を表す。
【0092】
【数3】
【0093】
ここで、KバーはサンバーンゾーンKの外側のゾーンである。言い換えれば、サンバーンゾーンの外側のゾーンからの画素情報を使用して、ゾーンKのインペインティング処理を行う。
【0094】
図8の曲線806 は、Sの連続したサンプルを表す。これらの曲線は、インペインティング曲線804 が偏っていないことを示す。
E[S*]=μS [式15]
ここで、E[ ]は期待値である。
【0095】
破線曲線808 は残留値ωnを表し、連続曲線810 は、減算fn-S*n の結果を表す。
【0096】
画像のインペインティング処理が行われた部分が景色の画像の平均値μS の不偏推定値を与えると仮定され得る。
S*n~N(μS,σ2 S) [式16]
従って、μω,n,xの不偏測定値は以下の通りである。
ω*n,x=fn,x-S*n,x~N(μω,n,x,σ2 S+σ2 ω) [式17]
【0097】
図9は、残留測定値ω*n,xと正規分布に対応する残留平均値μω,n,xとの差の大きさの分布を示す図表である。実際、あらゆる瞬間に、
ω*n=fn-S*n [式18]
に相当するω*nの測定値は、残留期待値E[ω*n,x]=μω,n,xの不偏ノイズ測定値を与える。
【0098】
この値は経時的に変わるので、本発明者らは、図10を参照してより詳細に記載されるように、現在の測定値ω*nと前の推定値μω,n-1との加重和に基づき、新たな画像fn毎にこの値を推定することを提案している。
【0099】
図10は、一連のn=1000の連続したフレームに沿って1つの画素xの残留推定値znを示す図表である。各連続曲線は、図5のステップ530 で値μω,n,xを推定する異なる方法に対応している。ドットは、生の残留測定値ω*n,xに対応する。線1002は、以下のように表現され得る、これらの生の残留測定値ω*n,xの平均値を表す。
【0100】
【数4】
【0101】
図10の破線曲線1004は、画素xの真の残留減衰を表す。
【0102】
図10の連続曲線1006は、以下のように表現され得る、10の画像のウィンドウに基づく移動平均を表す。
【0103】
【数5】
【0104】
連続曲線1006は高速収束を与えるが、比較的ノイズが多い。
【0105】
図10の曲線1008は、以下のように表現され得る、100 の画像のウィンドウに基づく移動平均を表す。
【0106】
【数6】
【0107】
曲線1008は、比較的速い収束を依然として与えて、連続曲線1006よりもノイズが少ない。しかしながら、この曲線は偏っており、このように偏ったリスクが最終的な補正画像に現れる。
【0108】
ある実施形態では、収束速度とノイズとの間で適切な妥協策を得るために、m個の画像のスライディングウィンドウに基づいて、移動平均を使用することができる。ここで、mは20~150 の範囲内であり、例えば20~80の範囲内である。ある実施形態では、画像の数mは経時的に可変であり、例えば、一連の画像が進むにつれて経時的に増加する。ある実施形態では、例えば結果が依然としてある程度偏る場合、及び、スライディングウィンドウのサイズを較正する必要がある場合、スライディングウィンドウに基づくこの手法に欠点がある場合がある。
【0109】
図10の曲線1010はカルマンフィルタの適用に対応し、カルマンフィルタは、移動平均と比較して比較的遅い収束を有するが、曲線1004によって表される真の残留減衰に比較的高い精度で収束する。カルマンフィルタは、一連の画像内の複数の画像の残留測定値、更に残留指数関数的減衰のモデルWを考慮する。ステップ530 でのカルマンフィルタの使用を、図11及び図12を参照してより詳細に説明する。
【0110】
カルマンフィルタリング
図11は、図5のステップ513 でカルマンフィルタを使用して残留平均値μω,n,xを推定する方法のステップを示すフローチャートである。この方法は、例えば図1及び図2の画像処理回路112 によって実行される。或いは、この方法は、IRカメラの一部を形成しても又は形成しなくてもよい別のタイプの処理デバイスによって実行され得る。
【0111】
カルマンフィルタは、ノイズが多い(観測された)測定値ωn *を使用して複数のハイパーパラメータを知ることにより、線形-ガウス動的時系列の各ステップnで潜在(隠れ)状態ベクトルωnを推定するのによく適している。このような時系列は、マルコフ連鎖の一種であり、以下の簡単な手順で完全に記述され得る。
ωn =Aωn-1+v
ω*n=Hωn+η [式22]
ω0 =μω,0+u
ここで、Aは遷移行列であり、Hは測定行列であり、パラメータv,u,ηは夫々、共分散行列Γ,Σω,0,Rの複数のゼロ平均の通常の付加ノイズである。
【0112】
図12は、このような時系列の例を示し、(この例では大きさ1の)隠れ状態ベクトルは円であり、観測された測定値はドットである。時間(t-δt)からの入力が、前の補正された残留推定値ω(t-δt)であり、遷移行列Aは、時間(t-δt)での前の推定値を時間tでの新たな推定値に関連付ける。この時系列では全てがガウスであるので、状態ベクトルは、決定される未知の値である平均ベクトルμω及び共分散行列Σωによって完全に特徴付けられる。
【0113】
各ステップnで、(時定数)ハイパーパラメータΓ,R,U,A,H,μ0 を知ることにより、潜在状態ωn を、以下の式を使用して推定してもよいことが、[Murphy, Machine Learning, a probabilistic perspective, 2012 p.638]に示されている。
μ ω,n,x=Aωn-1,x
Σ ω,n,x=AΣω,n-1,xT+Γ
μω,n,x=μ ω,n,x+Kn,x(ω*n,x-Hμ ω,n,x
Σω,n,x=(I-Kn,xH)Σ ω,n,x [式23]
ここで、
n,x=Σ ω,n,x(HΣ ω,n,x+R)-1 [式24]
は、カルマンゲインであり、Iは単位行列である。
【0114】
言い換えれば、各ステップnで、測定値ωn *及び事前推定値(μ- ω,n,x,Σ- ω,n,x)から新たな事後推定値(μω,n,x,Σω,n,x)を推定する。
【0115】
残留フィルタリングへの適用
共分散行列
本開示では、隠れ変数ωは各画素の残留値であり、スカラーである。従って、共分散行列Γ,R,Σω,0,Σωは、γ,r,σω,0 ,σω と夫々示される分散のみである。
【0116】
遷移行列A
本開示では、隠れ状態はスカラーであり、遷移行列Aは更にaと示されるスカラーであり、残留値のモデルWに直接関連付けられている。図4に関連して上述されているように、以下のように表現される。
【0117】
【数7】
【0118】
本例では、パラメータβは1と仮定され、以下のようにω(t+δt)のモデルをもたらす。
ω(t+δt)=aω(t) [式27]
ここで、a=1-(δt/τ)
【0119】
遷移行列aは、例えばアレイの全ての画素に共通である。或いは、画素毎に異なる遷移行列axを記憶することができる。
【0120】
測定行列H
上述したように、測定値ωn *は更に、測定行列Hを使用して隠れ状態に直接関連する実際のスカラ値である。
ω* n,x=Hωn,x+η [式28]
ここで、Hは1である。
【0121】
初期化
図11の方法530 のステップ1101で、カルマンフィルタの隠れ状態を初期化することによって、カルマンパラメータを初期化する。例えば、以下の通り、全ての画素xに関して初期平均値μω,0及び分散値σω,0 を初期化してもよい。
【0122】
【数8】
【0123】
事前推定
ステップ1102で、ノイズの多い残留測定値とカルマンパラメータ及びカルマンハイパーパラメータとに基づき、残留平均値に関して新たな事前推定値を生成する。例えば、新たな事前推定値を、残留平均値に関して時間n+1で生成する。
μ ω,n,x=aμω,n-1,x
σ ω,n,x =aσ ω,n-1,x+γ [式31]
ここで、γはモデルの分散であり、例えばユーザ定義である。
【0124】
事後推定
ステップ1103で、残留値の前の新しい平均値及び分散値を、カルマンパラメータ、カルマンハイパーパラメータ、及びインペインティング処理が行われた画像に基づき決定された現在の残留測定値ωn,x *に基づき補正する。
μω,n,x=(1-Kn,x)μ ω,n,x+Kn,xω* n,x
σ2 ω,n,x=(1-Kn,x)σ ω,n,x 2 [式32]
ここで、
Kn,x=σ ω,n,x 2(σ ω,n,x +γ)-1 [式33]
は、カルマンゲインである。
【0125】
言い換えれば、残留事後推定値を、前の推定値と測定値とのバランスとして生成し、バランスをカルマンゲインKによって調整する。
【0126】
手順
図11を再度参照して、ステップ1103後、カルマンパラメータを、例えば更新する。その後、図5に示されているように、次の画像n+1に関して、更新されたカルマンパラメータに基づきステップ1102及びステップ1103を繰り返して、方法530 を繰り返してもよい。実際、パラメータ初期化ステップ1101を、例えば図5の方法の第1の反復のみで行う。
【0127】
事例2
事例2では、図5のステップ503 は、本開示の更なる例示的な実施形態に従って、一連の画像の残留像を補正する方法に相当する方法505 を含む。この方法を、例えば図1及び図2の画像処理回路112 によって実行する。或いは、この方法を、IRカメラの一部を形成しても又は形成しなくてもよい別のタイプの処理デバイスによって実行することができる。
【0128】
方法505 は、ステップ520 及びステップ521 を含む。
【0129】
ステップ520 で、前の画像fn-1に基づき画素毎に画像fnの残留測定値を計算する。例えば、以下の減算を行うことにより、画像の画素x毎に残留測定値ω*n,xを計算する。
ω*n,x=fn,x-fn-1,x [式34]
【0130】
ステップ521 で、各画素の残留値ωn,xを、残留測定値及び指数関数的減衰モデルWに基づき推定する。例えば、残留推定値は、画素x毎の瞬間平均残留推定値μω,n,xを含む。ある実施形態では、図11に関連して上述したように、カルマンフィルタを使用して、残留値の平均μω,n,x及び分散σ2 ω,n,xを推定する。しかしながら、静止した景色の場合、測定値ω* は非常にノイズが多く、従って、事例2では、遷移行列aは、一般に事例1より正確であるべきである。従って、ある実施形態では、残留指数関数的減衰の局所的な遷移行列a=1-δt/τを、画素x毎にメモリ206 に記憶する。これらの遷移行列を、例えば、τxを推定するために残留像の発生直後に第1のフレームの2以上に関して指数関数的減衰を回帰することを含む前処理中に推定する。更に、事例2では、遷移行列は、以下の通りである。
x =1-exp(δt/τ) [式35]
【0131】
本明細書に記載されている実施形態の利点は、残留像が、変わる景色(事例1)又は静止した景色(事例2)の場合に連続する画像で比較的簡単且つ効果的に補正され得るということである。
【0132】
様々な実施形態及び変形例が記載されている。当業者は、これらの実施形態のある特徴を組み合わせることができると理解し、他の変形例が当業者に容易に想起される。例えば、全ての画素に関して共通の指数関数的減衰モデルWを与えるか、又は画素x毎に異なるモデルを与えるかの選択は、必要な精度及びIR画素アレイの特性に応じて決められることは、当業者に明らかである。
【0133】
本特許出願は、内容が参照によって本明細書に組み込まれている2019年4月30日に出願されて出願番号第FR1904563号が割り当てられている仏国特許出願の優先権を主張している。
図1
図2
図3
図4
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図7
図8
図9
図10
図11
図12