(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】無機塗工層架橋セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20240327BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240327BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240327BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240327BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240327BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240327BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M10/0566
H01M10/052
H01G11/52
H01M50/443 B
(21)【出願番号】P 2021570121
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000586
(87)【国際公開番号】W WO2021141132
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2020001619
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020071854
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100190137
【氏名又は名称】大谷 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
(72)【発明者】
【氏名】森谷 晋次
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230796(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0131761(KR,A)
【文献】国際公開第2012/073996(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/240475(WO,A1)
【文献】特開2017-203145(JP,A)
【文献】特開2014-112480(JP,A)
【文献】国際公開第2012/099264(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0056492(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0044996(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜と、前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された無機多孔質層とを含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、シラングラフト変性ポリオレフィンを含み、
溶剤中浸漬試験において、前記無機多孔質層が前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜から剥がれる面積が、前記試験前の前記無機多孔質層の面積を基準として0~35%であ
り、
前記蓄電デバイス用セパレータが電解液と接触すると、前記シラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始される蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記無機多孔質層は、(i)無機粒子間の共有結合、(ii)樹脂バインダ間の共有結合、及び(iii)無機粒子と樹脂バインダの間の共有結合から成る群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記無機多孔質層は、前記共有結合(i)~(iii)から成る群から選択される少なくとも1種により形成される架橋構造を含む、請求項2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記電解液が、非水系であり、かつフッ素(F)含有リチウム塩を含む、請求項
1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、前記シラングラフト変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記無機多孔質層において、前記架橋構造が、求核置換反応、求核付加反応、求電子付加反応、及びシランカップリング反応から成る群から選択される少なくとも1つにより形成される、請求項3に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記樹脂バインダは、エマルション、懸濁液、又はコロイドの形態である、請求項2、3、
6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
前記樹脂バインダは、求核置換又は求核付加反応性官能基を有する、請求項2、3、
6、
7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
前記樹脂バインダの求核置換又は求核付加反応性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシ基、及びアミノ基から成る群から選択される少なくとも1つである、請求項2、3、
6~
8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
前記無機多孔質層は、無機粒子を含み、そして前記無機粒子の表面に極性官能基がある、請求項1~
9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
前記無機多孔質層は、無機粒子を含み、そして前記無機粒子の表面にケイ素含有官能基がある、請求項1~
10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項12】
ケイ素含有官能基は、アルコキシシリル基、ハロゲン置換シリル基、及びシラザン基から成る群から選択される少なくとも1つである、請求項11に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項13】
前記無機多孔質層は、架橋剤を含む、請求項1~
12のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項14】
前記架橋剤は、求核置換反応性官能基、及び/又は求電子付加反応性官能基を有する、請求項
13に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項15】
前記架橋剤は、求核置換反応性官能基、及び求電子付加反応性官能基を有する、請求項
13又は
14に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項16】
前記架橋剤の求核置換反応性官能基は、オキサゾリン基、及び/又はエポキシ基である、請求項
14又は
15に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項17】
前記架橋剤の求電子付加反応性官能基は、イソシアネート基、チオイソシアネート基、カルボジイミド基、アレン基、オキシム基、及びカルボニル基から成る群から選択される少なくとも1つである、請求項
14又は
15に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項18】
前記無機多孔質層において、無機粒子と樹脂バインダが含まれ、前記無機粒子の表面に極性官能基があり、前記極性官能基と前記樹脂バインダの間に前記架橋剤があり、かつ前記極性官能基と前記架橋剤と前記樹脂バインダの間の共有結合により架橋構造が形成される、請求項
13~
17のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項19】
前記架橋剤は、エマルション、懸濁液又はコロイドの形態である、請求項
13~
18のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項20】
電極と、電解液と、請求項1~
19のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを含む蓄電デバイス。
【請求項21】
電極と、電解液と、請求項1~
19のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータに関し、より詳細には、架橋構造を形成する無機塗工層(無機多孔質層)を含む、蓄電デバイス用セパレータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離又は選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用、コンデンサー用セパレータ、又は機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、蓄電デバイス用セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話又はデジタルカメラ等に広く搭載されるリチウムイオン二次電池(LIB)用セパレータ又はその構成材料等として好適に用いられている。
【0003】
ここで、耐熱性の向上等を目的として、微多孔膜の表面に架橋型コーティング層(例えば、無機粒子と樹脂バインダとを含む無機多孔質層)を備えたセパレータが提案されている(特許文献1~5参照)。また、電池の安全性を確保するために、紫外線、電子線などの照射によるノルボルネンの開環によって、微多孔膜内に架橋構造を形成することも提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6187464号公報
【文献】国際公開第2013/080938号
【文献】特開2015-211006号公報
【文献】特開2008-287888号公報
【文献】特開2014-179321号公報
【文献】特開2011-071128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、LIBの高密度化、及び高エネルギー密度化が進んでいるため、LIBには、サイクル特性、及び安全性(例えば、電池破壊試験により評価される安全性)等の一層の向上が期待されており、そしてLIB用セパレータに対しても更なる改良が期待されている。しかしながら、特許文献1~5に記載のセパレータでは、LIBの上記の性能の向上を図る観点で未だ改良の余地があった。また、特許文献6に記載される光照射により微多孔膜内に架橋構造を形成すると、光の照射が不均一になり、架橋構造が不均質になることがある。これは、微多孔膜を構成する樹脂の結晶部周辺が光により架橋され易いためであると考えられる。不均質な架橋構造を有する微多孔膜をLIB用セパレータとして使用すると、加温時にLIBが変形することがある。このような問題は、LIB用のセパレータに限られず、LIBに代表される蓄電デバイス用のセパレータにも同様に存在する。
【0006】
上記の問題に鑑みて、本発明は、蓄電デバイスの性能(例えば、サイクル特性、及びデバイス破壊又は加温試験により評価される安全性)の一層の向上を図ることができる、蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的とする。また、本発明は、かかる蓄電デバイス用セパレータを含む、二次電池、及び蓄電デバイス等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シラングラフト変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂製微多孔膜と、その少なくとも一方の表面に配置された架橋型の無機多孔質層とを蓄電デバイス用セパレータに含有させることにより、かつ/又はポリオレフィン樹脂製微多孔膜に無機多孔質層を配置して、溶剤中浸漬試験におけるポリオレフィン樹脂微多孔膜からの該無機多孔質層の剥がれ割合を所定範囲内に制御することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜と、前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された無機多孔質層とを含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記無機多孔質層は、(i)無機粒子間の共有結合、(ii)樹脂バインダ間の共有結合、及び(iii)無機粒子と樹脂バインダの間の共有結合から成る群から選択される少なくとも1種を有し、
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、シラングラフト変性ポリオレフィンを含み、そして前記蓄電デバイス用セパレータが電解液と接触すると、前記シラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始される、蓄電デバイス用セパレータ。
(2)
前記電解液が、非水系であり、かつフッ素(F)含有リチウム塩を含む、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(3)
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、前記シラングラフト変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを含む、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(4)
前記無機多孔質層は、架橋構造を含む、項目1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(5)
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜と、前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された無機多孔質層とを含む蓄電デバイス用セパレータであって、
溶剤中浸漬試験において、前記無機多孔質層が前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜から剥がれる面積が、前記試験前の前記無機多孔質層の面積を基準として0~35%である蓄電デバイス用セパレータ。
(6)
前記無機多孔質層は、(i)無機粒子間の共有結合、(ii)樹脂バインダ間の共有結合、及び(iii)無機粒子と樹脂バインダの間の共有結合から成る群から選択される少なくとも1種を有する、項目5に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(7)
前記無機多孔質層は、前記共有結合(i)~(iii)から成る群から選択される少なくとも1種により形成される架橋構造を含む、項目6に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(8)
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、シラングラフト変性ポリオレフィンを含む、項目5~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(9)
前記蓄電デバイス用セパレータが電解液と接触すると、前記シラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始される、項目8に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(10)
前記電解液が、非水系であり、かつフッ素(F)含有リチウム塩を含む、項目9に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(11)
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、前記シラングラフト変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを含む、項目8~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(12)
前記ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の、前記無機多孔質層に対向する領域の表面粗さは0.2~3.0μmである、項目5~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(13)
前記無機多孔質層において、前記架橋構造が、求核置換反応、求核付加反応、求電子付加反応、及びシランカップリング反応から成る群から選択される少なくとも1つにより形成される、項目4又は7に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(14)
前記樹脂バインダは、エマルション、懸濁液、又はコロイドの形態である、項目1~4、6、7、13のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(15)
前記樹脂バインダは、求核置換又は求核付加反応性官能基を有する、項目1~4、6、7、13、14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(16)
前記樹脂バインダの求核置換又は求核付加反応性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシ基、及びアミノ基から成る群から選択される少なくとも1つである、項目1~4、6、7、13~15のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(17)
前記無機多孔質層は、無機粒子を含み、そして前記無機粒子の表面に極性官能基がある、項目1~16のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(18)
前記無機多孔質層は、無機粒子を含み、そして前記無機粒子の表面にケイ素含有官能基がある、項目1~17のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(19)
ケイ素含有官能基は、アルコキシシリル基、ハロゲン置換シリル基、及びシラザン基から成る群から選択される少なくとも1つである、項目18に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(20)
前記無機多孔質層は、架橋剤を含む、項目1~19のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(21)
前記架橋剤は、求核置換反応性官能基、及び/又は求電子付加反応性官能基を有する、項目20に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(22)
前記架橋剤は、求核置換反応性官能基、及び求電子付加反応性官能基を有する、項目20又は21に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(23)
前記架橋剤の求核置換反応性官能基は、オキサゾリン基、及び/又はエポキシ基である、項目21又は22に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(24)
前記架橋剤の求電子付加反応性官能基は、イソシアネート基、チオイソシアネート基、カルボジイミド基、アレン基、オキシム基、及びカルボニル基から成る群から選択される少なくとも1つである、項目21又は22に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(25)
前記無機多孔質層において、無機粒子と樹脂バインダが含まれ、前記無機粒子の表面に極性官能基があり、前記極性官能基と前記樹脂バインダの間に前記架橋剤があり、かつ前記極性官能基と前記架橋剤と前記樹脂バインダの間の共有結合により架橋構造が形成される、項目20~24のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(26)
前記架橋剤は、エマルション、懸濁液又はコロイドの形態である、項目20~25のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(27)
電極と、電解液と、項目1~26のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを含む蓄電デバイス。
(28)
電極と、電解液と、項目1~26のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを含む二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蓄電デバイスの性能(例えば、サイクル特性、及びデバイス破壊又は加温試験により評価される安全性)の一層の向上を図ることができる、蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。また、本発明によれば、かかるセパレータを備えた、二次電池、及び蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様に係る、剥がれ面積の割合(%)を導出するのに用いられるヒストグラムの一例を示す図。
【
図2】本発明の一態様に係る、剥がれ面積の割合(%)を導出するのに用いられるヒストグラムの他の例を示す図。
【
図3】本発明の一態様に係る、モノクロ画像の一例を示す図。
【
図4】本発明の一態様に係る、二値化画像の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(「本実施形態」という)を説明するが、本発明は本実施形態のみに限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。また、本明細書において、数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、用語「蓄電デバイス用セパレータ」は、以下、略して「セパレータ」という場合がある。
【0011】
<蓄電デバイス用セパレータ>
蓄電デバイス用セパレータは、蓄電デバイスにおいて使用されることができ、例えば、蓄電デバイスの正負極間に配置されることができる。
【0012】
<実施形態1>
実施形態1に係る蓄電デバイス用セパレータは、シラングラフト変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂製微多孔膜と、その少なくとも一方の表面に配置された無機多孔質層とを含み、所望により、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜及び無機多孔質層以外の層をさらに含んでよい。ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の両面に無機多孔質層を配置したり、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の片面に無機多孔質層を配置し、かつポリオレフィン樹脂製微多孔膜の他方の面に、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜及び無機多孔質層以外の層を配置したりすることができる。
【0013】
実施形態1に係るセパレータの無機多孔質層は、(i)無機粒子間の共有結合、(ii)樹脂バインダ間の共有結合、及び(iii)無機粒子と樹脂バインダの間の共有結合から成る群から選択される少なくとも1種を有し、そして実施形態1に係るセパレータが電解液と接触すると、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜に含まれるシラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が、開始される。
【0014】
実施形態1に係る無機多孔質層は、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置される。従って、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の一方の表面のみに無機多孔質層が配置される態様と、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の両面に無機多孔質層が配置される態様とのいずれも、実施形態1の範囲に含まれる。ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の両面に無機多孔質層が配置される場合、同一構成の無機多孔質層が配置されてもよく、互いに異なる構成の無機多孔質層が配置されてもよい。
【0015】
実施形態1に係る無機多孔質層は、無機粒子、及び/又は樹脂バインダを含むことができる。
【0016】
実施形態1に係る無機多孔質層は、共有結合(i)~(iii)のいずれかにより、架橋構造を形成するか、又は架橋構造を含むことができる。
上記の記載は、無機粒子間で必ず架橋構造が形成されるという趣旨ではない。例えば、無機粒子と樹脂バインダの間で架橋構造が形成されていれば、無機粒子間で架橋構造が形成されなくてもよい。同様に、上記の記載は、樹脂バインダ間で必ず架橋構造が形成されるという趣旨ではない。例えば、無機粒子と樹脂バインダの間で架橋構造が形成されていれば、樹脂バインダ間で架橋構造が形成されなくてもよい。
つまり、無機多孔質層において上記の架橋構造の少なくとも1つが形成されればよい。ただし、本発明の作用効果を発揮させ易くする観点から、共有結合(i)~(iii)の全てにおいて架橋構造が形成されることが好ましい。
なお、実施形態1でいう、無機粒子間の共有結合、樹脂バインダ間の共有結合、及び無機粒子と樹脂バインダの共有結合とは、必要により架橋剤が介在するものを含む。
【0017】
実施形態1に係るポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂として、シラングラフト変性ポリオレフィンを含み、所望により、シラングラフト変性ポリオレフィン以外のポリオレフィン、追加成分などを含んでよい。実施形態1に係るセパレータを電解液と接触させると、シラングラフト変性ポリオレフィンの架橋を行うことができるので、シラン架橋反応のタイミングを制御することができ、それにより、例えば、セパレータ製造プロセスにおいて架橋反応を行わず、蓄電デバイス製造プロセスにおいて、又はセパレータを蓄電デバイス内に配置して、架橋反応を行うことが可能となり、セパレータの生産不良を回避して蓄電デバイスの安全性(例えば、デバイス破壊又は加温試験により評価される安全性)と向上されたサイクル特性と高出力化を達成することができる。シラン架橋反応の観点から、シラングラフト変性ポリオレフィンと接触する電解液は、非水系であることが好ましく、かつ/又はフッ素(F)含有リチウム塩を含むことが好ましい。
【0018】
<実施形態2>
実施形態2に係る蓄電デバイス用セパレータは、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜と、その少なくとも一方の表面に配置された無機多孔質層とを含み、所望により、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜及び無機多孔質層以外の層をさらに含んでよい。ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の両面に無機多孔質層を配置したり、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の片面に無機多孔質層を配置し、かつポリオレフィン樹脂製微多孔膜の他方の面に、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜及び無機多孔質層以外の層を配置したりすることができる。
【0019】
実施形態2に係るセパレータの溶剤中浸漬試験において、無機多孔質層がポリオレフィン微多孔膜から剥がれる面積は、その試験前の無機多孔質層の面積を基準として0~35%である。この面積を35%以下とすることで、電解液中でポリオレフィン微多孔膜から剥がれた無機多孔質層が蓄電デバイスの充放電反応又は信頼性に悪影響を及ぼすことを抑制でき、その結果、蓄電デバイスの性能(例えば、サイクル特性、及び電池などのデバイスの破壊試験又は加温試験により評価される安全性)を一層向上させることが可能なセパレータを提供できる。この面積は、実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0020】
実施例に記載の溶剤中浸漬試験の意義は、以下のとおりである。
一般的に、電池に用いられる電解液は、プロピレンカーボネート等の環状アルカンカーボネートと、エチルメチルカーボネート等の直鎖状アルカンカーボネートとの混合液体である。また、各電池製造業者において、電池設計に応じてそれらの官能基又は配合を調整することが都度行われている。それに伴って、電解液のSP値(溶解パラメータ:Solubility Parameter)が変化するため、無機多孔質層への電解液の浸入、無機多孔質層の膨潤、及び無機多孔質層の構造破壊による剥がれを、一概に評価できない。そこで、上記の面積を好適に評価するため、実施例に記載の溶媒中浸漬試験を行うことができる。例えばアセトンは、各種電解液より低分子量であり、非プロトン性極性官能基を有する溶剤である。このため、溶媒中浸漬試験において、比較的低分子量の溶剤(アセトン等)を用いることで、無機多孔質層へ溶剤を浸入させて、容易に無機多孔質層を膨潤させ、無機多孔質層の構造破壊による剥がれを起こさせることができることが実験的に分かった。よって、実施例に記載の溶剤中浸漬試験において良好な評価結果が得られる場合であれば、他の各種電解液中においても、安定と判断することが可能になる。
【0021】
無機多孔質層がポリオレフィン微多孔膜から剥がれる面積を制御する要素の1つとして、無機多孔質層における架橋構造の制御が挙げられる。具体的には、実施例における表3~6に記載の、無機多孔質層に関わる項目を制御することで、この面積を制御することができる。
【0022】
無機多孔質層において架橋構造が形成されないと、無機多孔質層中の樹脂バインダが電解液によって膨潤し、その膨潤した樹脂バインダが無機多孔質層から電解液中に脱落する可能性が高くなる。一方、無機多孔質層において架橋構造が過度に形成されると、無機多孔質層の柔軟性が低下し易くなり、その結果、樹脂バインダが無機多孔質層から電解液中に脱落する可能性が高くなる。つまり、無機多孔質層において架橋構造が好適に形成されることで、電解液による樹脂バインダの膨潤を抑制でき、かつ、無機多孔質層の適度な柔軟性を確保できる。これにより、樹脂バインダの電解液中への脱落を防止でき、ひいては、無機多孔質層がポリオレフィン微多孔膜から剥がれる面積を0~35%に制御できると期待される。電池などの蓄電デバイス内での、長期使用時におけるセパレータの形状安定性の視点から見て、無機多孔質層がポリオレフィン樹脂製微多孔膜から剥がれる面積は、0~30%が好ましく、0~15%がより好ましく、0~8%がさらに好ましい。
【0023】
実施形態2に係る無機多孔質層は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置される。従って、ポリオレフィン微多孔膜の一方の表面のみに無機多孔質層が配置される態様と、ポリオレフィン微多孔膜の両面に無機多孔質層が配置される態様とのいずれも、実施形態2の範囲に含まれる。ポリオレフィン微多孔膜の両面に無機多孔質層が配置される場合、同一構成の無機多孔質層が配置されてもよく、互いに異なる構成の無機多孔質層が配置されてもよい。
【0024】
実施形態2に係る無機多孔質層は、蓄電デバイスの性能、無機多孔質層における架橋構造の制御などの観点から、無機粒子、及び/又は樹脂バインダを含むことが好ましい。
【0025】
実施形態2に係る無機多孔質層は、蓄電デバイスの性能、無機多孔質層における架橋構造の制御などの観点から、(i)無機粒子間の共有結合、(ii)樹脂バインダ間の共有結合、及び(iii)無機粒子と樹脂バインダの間の共有結合から成る群から選択される少なくとも1種を有することが好ましく、共有結合(i)~(iii)のいずれかにより、架橋構造を形成するか、又は架橋構造を含むことがより好ましい。
上記の記載は、無機粒子間で必ず架橋構造が形成されるという趣旨ではない。例えば、無機粒子と樹脂バインダの間で架橋構造が形成されていれば、無機粒子間で架橋構造が形成されなくてもよい。同様に、上記の記載は、樹脂バインダ間で必ず架橋構造が形成されるという趣旨ではない。例えば、無機粒子と樹脂バインダの間で架橋構造が形成されていれば、樹脂バインダ間で架橋構造が形成されなくてもよい。
つまり、無機多孔質層において上記の架橋構造の少なくとも1つが形成されればよい。ただし、本発明の作用効果を発揮させ易くする観点から、共有結合(i)~(iii)の全てにおいて架橋構造が形成されることがさらに好ましい。
なお、実施形態2でいう、無機粒子間の共有結合、樹脂バインダ間の共有結合、及び無機粒子と樹脂バインダの共有結合とは、必要により架橋剤が介在するものを含む。
【0026】
実施形態2に係るポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、蓄電デバイスの性能を一層向上させるという観点から、ポリオレフィン樹脂として、シラングラフト変性ポリオレフィンを含むことが好ましく、シラングラフト変性ポリオレフィンに加えて、シラングラフト変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンも含むことがより好ましい。所望により、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂以外の追加成分を含んでよい。
【0027】
実施形態2に係るセパレータが電解液と接触すると、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜に含まれるシラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が、開始されることが好ましい。実施形態2に係るセパレータを電解液と接触させると、シラングラフト変性ポリオレフィンの架橋を行うことができるので、シラン架橋反応のタイミングを制御することができ、それにより、例えば、セパレータ製造プロセスにおいて架橋反応を行わず、蓄電デバイス製造プロセスにおいて、又は蓄電デバイス内に配置して、架橋反応を行うことが可能となり、セパレータの生産不良を回避して蓄電デバイスの安全性(例えば、デバイス破壊又は加温試験により評価される安全性)と向上されたサイクル特性と高出力化とを達成することができる。シラン架橋反応の観点から、シラングラフト変性ポリオレフィンと接触する電解液は、非水系であることがより好ましく、かつ/又はフッ素(F)含有リチウム塩を含むことがより好ましい。
【0028】
実施形態2では、ポリオレフィン微多孔膜の、無機多孔質層に対向する領域の表面粗さを所定範囲に制御することで、無機多孔質層からの樹脂バインダの脱落をより防止し易くなる。実施形態2では、無機多孔質層において架橋構造が好適に形成され、これにより、無機多孔質層とポリオレフィン微多孔膜との間に所望の結着性が確保されるからこそ、ポリオレフィン微多孔膜の表面粗さの制御による影響を無機多孔質層が受け易くなる。そして、ポリオレフィン微多孔膜の表面粗さを制御することで、電解液による樹脂バインダの膨潤を更に抑制し易くなり、その結果、無機多孔質層がポリオレフィン微多孔膜から剥がれる面積を0~35%に制御できると期待される。
逆に言えば、無機多孔質層において架橋構造が形成されない場合又は無機多孔質層において架橋構造が過度に形成される場合には、ポリオレフィン微多孔膜の表面粗さの制御による影響を無機多孔質層がほとんど受けないため、ポリオレフィン微多孔膜の表面粗さを制御する着想は得られない。
【0029】
従って、ポリオレフィン微多孔膜の、無機多孔質層に対向する領域の表面粗さとしては、本発明の作用効果を発揮し易くする観点から、好ましくは0.2~3.0μmである。
具体的に、表面粗さとしては、好ましくは0.20μm以上、より好ましくは0.21μm以上、更に好ましくは0.220μm以上である。一方、この表面粗さは、好ましくは3.00μm以下、より好ましくは2.80μm以下、更に好ましくは0.80μm以下である。この表面粗さは、実施例に記載の方法に準じて測定され、そして、ポリオレフィン微多孔膜の各種の構成又は各種の製造条件の変更等により制御可能である。
【0030】
実施形態1と実施形態2に共通する構成要素、及び両実施形態にとって好ましい構成要素について、以下に説明する。
【0031】
<ポリオレフィン樹脂製微多孔膜>
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜(以下、「ポリオレフィン微多孔膜」と称することがある)は、それ自体が従来においてセパレータとして用いられていたものでもよい。ポリオレフィン微多孔膜は、単層に限られず、複数の層を含むことができる。従って、例えば、異なるポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン微多孔膜を複数層に亘って積層した積層体も、実施形態1又は2に係るポリオレフィン微多孔膜に含まれる。
【0032】
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜中のポリオレフィン樹脂の含有量は、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の全質量に対して、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、そして100質量%であってもよい。
【0033】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エチレン若しくはプロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つのモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。この中でも、孔が閉塞せずに、より高温で熱固定(「HS」と略記することがある)が行えるという観点から、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)、又は低密度ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)がより好ましい。ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンに加えて又はポリエチレンに代えて、ポリエチレン以外のポリオレフィン樹脂を含んでもよい。ポリエチレン以外のポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔質構造の観点から、シラングラフト変性ポリオレフィンと超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の両方を含むことが好ましい。一般に、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の重量平均分子量は、1,000,000以上であることが知られている。より好ましくは、セパレータにおいて、シラングラフト変性ポリオレフィンと超高分子量ポリエチレンの質量比(シラングラフト変性ポリオレフィンの質量/超高分子量ポリエチレンの質量)が、0.05/0.95~0.40/0.60である。
【0035】
また、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、重量平均分子量が1,200,000未満のポリオレフィンを含むことが好ましい。重量平均分子量が1,200,000未満のポリオレフィンを用いることにより、蓄電デバイスの加熱試験等において早期にポリマーの収縮の緩和が起き、特に加熱安全性試験において安全性を保ち易い傾向にある。同様の観点から、ポリオレフィンの重量平均分子量は、1,000,000未満であることがより好ましく、さらに好ましくは100,000以上1,000,000以下、特に好ましくは150,000以上800,000以下である。なお、重量平均分子量が1,000,000未満のポリオレフィンを用いる場合を、1,000,000以上のポリオレフィンを用いる場合と比較すると、得られる微多孔膜の厚み方向の弾性率が小さくなる傾向にあるため、比較的にコアの凹凸が転写され易い微多孔膜が得られる。このような範囲の重量平均分子量を有するポリオレフィンを、ポリオレフィン微多孔膜が有するポリオレフィン樹脂の全質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは80質量%以上の割合で含むことができる。
【0036】
(シラングラフト変性ポリオレフィン)
シラングラフト変性ポリオレフィンは、主鎖がポリオレフィンであり、その主鎖にアルコキシシリルをグラフトするという構造で構成されている。なお、アルコキシシリルに置換したアルコキシドとしては、特に限定されていないが、例えば、メトキシド、エトキシド、ブトキシドなどが挙げられる。また、主鎖とグラフト間は共有結合で繋いでおり、アルキル、エーテル、グリコール又はエステルなどの構造が挙げられる。実施形態1又は2に係るセパレータの製造プロセスを考慮すると、シラングラフト変性ポリオレフィンは、後述される架橋処理工程の前の段階では、シラノールを含むユニットが主鎖の全エチレンユニットに対して、変性量として10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下であり、さらに好ましくは2モル%以下である。
【0037】
好ましいシラングラフト変性ポリオレフィンは、密度が0.90~0.96g/cm3であり、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が、0.2~5g/分である。
【0038】
シラングラフト変性ポリオレフィンは、例えば、上記で説明されたポリオレフィン樹脂のうち、シラングラフト非変性ポリオレフィンの主鎖にアルコキシシリルをグラフトとすることにより得られることができる。なお、本明細書では、シラングラフト変性ポリオレフィンを含まないポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、デカリン溶液中の160℃での加熱前後の固形分の変化率(以下「ゲル化度」という)が10%以下である。なお、ゲル化度の測定時に、固形分は、樹脂のみを意味し、無機物などの他の材料を含まないものとする。
【0039】
シラングラフト変性ポリオレフィンを含まないポリオレフィン樹脂製微多孔膜は、例えば、ポリエチレン(PE)(X、粘度平均分子量10万~40万)、第一の超高分子量PE(Y、粘度平均分子量40万~80万)及び第二の超高分子量PE(Z、粘度平均分子量80万~900万)から成る群から選択される任意の一種類、又はX、Y及びZから成る群から選択される2種類若しくは3種類を用いて、任意の割合で混合した組成で製造されることができる。なお、低密度ポリエチエレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の炭化水素骨格のみで構成したポリオレフィンを混合組成物に添加してもよい。
他方、シラン架橋構造などの架橋構造を有するポリオレフィン樹脂製微多孔膜のゲル化度は、好ましくは30%以上、より好ましくは70%以上である。
【0040】
(ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の物性)
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜全体の重量平均分子量は、好ましくは100,000以上1,200,000以下であり、より好ましくは150,000以上800,000以下である。
【0041】
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の気孔率としては、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは32%以上又は35%以上である。気孔率が20%以上であることで、リチウムイオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。一方、この気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは50%以下である。気孔率が90%以下であることで、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。この気孔率は、実施例に記載の方法により測定でき、そして、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0042】
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の透気度としては、好ましくは1sec/100cm3以上、より好ましくは50sec/100cm3以上、更に好ましくは55sec/100cm3以上、より更に好ましくは70sec/100cm3以上、90sec/100cm3以上又は110sec/100cm3以上である。透気度が1sec/100cm3以上であることで、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。一方、透気度は、好ましくは400sec/100cm3以下、より好ましくは300sec以下/100cm3、更に好ましくは270sec/100cm3以下である。この透気度が400sec/100cm3以下であることで、イオン透過性がより向上する傾向にある。この透気度は、実施例に記載の方法により測定でき、そして、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0043】
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、更に好ましくは3.0μm以上、4.0μm以上又は5.5μm以上である。膜厚が1.0μm以上であることで、膜強度がより向上する傾向にある。一方、膜厚は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下、22μm以下又は19μm以下である。この膜厚が500μm以下であることで、イオン透過性がより向上する傾向にある。この膜厚は実施例に記載の方法により測定でき、そしてポリオレフィン樹脂製微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0044】
LIB用セパレータの構成材料としてポリオレフィン樹脂製微多孔膜が用いられる場合、そのポリオレフィン樹脂製微多孔膜の膜厚は、好ましくは25μm以下、より好ましくは22μm以下又は20μm以下、更に好ましくは18μm以下、特に好ましくは16μm以下である。この膜厚が25μm以下であることで、透過性がより向上する傾向にある。この場合、膜厚の下限値は、1.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上又は5.5μm以上でよい。
【0045】
<無機多孔質層>
無機多孔質層の膜厚としては、特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは1.0μm以上である。一方、膜厚は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。膜厚を0.01μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好ましい。一方、この膜厚を15μm以下とすることは、蓄電デバイスにおけるセパレータの占有体積が減るため、その蓄電デバイスの高容量化の観点において有利となる傾向があるので好ましい。また、無機多孔質層の15μm以下の膜厚は、セパレータの透気度の過度な上昇を防止する観点からも好ましい。この膜厚は、実施例に記載の方法に準じて測定され、そして、無機多孔質層を形成するためのスラリー(無機多孔質層用スラリー)の、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜への塗布量の変更等により制御可能である。
【0046】
無機多孔質層の透気度としては、セパレータの透気度を過度に上昇させない程度の値であればよい。無機多孔質層の透気度は、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜に無機多孔質層を形成したことによる、セパレータの透気度の上昇量に相当する。この上昇量は、好ましくは200sec/100cm3以下、より好ましくは150sec/100cm3以下、更に好ましくは130sec/100cm3以下である。この上昇量を200sec/100cm3以下とすることは、蓄電デバイスの充放電時に非水電解液(以下、単に「電解液」ともいう)中でイオンを好適に透過させる観点から好ましい。この上昇量は、実施例に記載の方法に準じて測定され、そして、無機多孔質層の各種の構成又は各種の製造条件の変更等により制御可能である。
【0047】
<架橋構造>
無機多孔質層において、架橋構造は、求核置換反応、求核付加反応、求電子付加反応、及びシランカップリング反応から成る群から選択される少なくとも1つにより形成されることが好ましい。このような架橋構造が無機多孔質層にあることで、本発明の作用効果を発揮し易くなる。同様の観点から、無機多孔質層が架橋剤を含む場合には、無機多孔質層において、無機粒子の表面に極性官能基があり、極性官能基と樹脂バインダの間に架橋剤があり、かつ極性官能基と架橋剤と樹脂バインダの間の共有結合により架橋構造が形成されることが好ましい。
この種の架橋構造は、(i)製膜プロセス中又はその直後に形成するようにしてもよいし、(ii)蓄電デバイスへ収納された後に周囲の環境又は蓄電デバイス内部の化学物質を利用して形成するようにしてもよい。無機多孔質層の製膜プロセス中又はその直後における上記の架橋反応(i)の進行度、無機多孔質層が収容される蓄電デバイス内の環境、無機多孔質層が積層される微多孔膜の構成、かかる微多孔膜が架橋性を有する場合の架橋タイミング等によっては、無機多孔質層を含むセパレータが蓄電デバイス内に収容された後に、無機多孔質層における架橋反応が更に進行する可能性がある。したがって、無機多孔質層は、上記の架橋反応(i)及び/又は(ii)を進行させられるように構成されることが好ましい。
【0048】
なお、無機多孔質層とポリオレフィン樹脂製微多孔膜との間に、両者のいずれにも該当しない層(他の層)が介在してもよいが、このような他の層が介在しないことが好ましい。つまり、無機多孔質層は、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の直上に配置されることが好ましい。これによれば、無機多孔質層の構成又は特性等を、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の構成(例えば、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の、無機多孔質層に対向する領域の表面粗さ等)によって制御し易くなる。
【0049】
共有結合による架橋構造(架橋反応)としては、例えば下記反応(I)又は(II):
(I)複数の異種官能基間の反応
(II)官能基と架橋剤の連鎖縮合反応
から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0050】
反応(I)に基づく共有結合により架橋構造を形成する官能基又は反応物の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、
ヒドロキシル基とカルボキシル基(エステル化);
カルボニル基とアルキル基(アルドール縮合);
ハロゲンとカルボキシル基(分子内縮合);
アルコキシ基とアルキル基(クライゼン縮合)
カルボニル基と酸無水物(パーキン反応);
アミノ基とハロゲン;
イソシアネート基とヒドロキシ基(ウレタン結合の形成);及び
オキサゾリン基とヒドロキシ基;
等が好ましい。
【0051】
反応(II)に基づく共有結合により架橋構造を形成する官能基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、無機粒子、及び/又は樹脂バインダと架橋剤との反応(開環反応を含む)が好ましい。無機粒子、及び/又は樹脂バインダが、架橋剤を介して架橋される場合、かかる架橋剤は、2つ以上の作用基を有することが好ましい。複数の作用基は、無機粒子、及び/又は樹脂バインダと架橋反応を起こすことができる限り、任意の構造又は基でよく、置換又は非置換でよく、ヘテロ原子又は無機物を含んでよく、そして互いに同一でも異なってもよい。
【0052】
(無機粒子)
本実施形態に係る無機粒子は、他の無機粒子との間の共有結合により、及び/又は樹脂バインダとの間の共有結合により、架橋構造を形成する。このような無機粒子として利用可能な材料は、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄等の無機酸化物(酸化物系セラミックス);窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の無機窒化物(窒化物系セラミックス);シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
無機多孔質層中の無機粒子の質量比(100×無機粒子の質量/無機多孔質層の質量)は、耐熱性を確保する観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。一方、その質量比は、無機多孔質層中にバインダを含有せしめる余地を確保する観点から、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、さらに好ましくは98質量%以下である。
【0054】
無機粒子の形状としては、例えば、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、及び塊状(ブロック状)が挙げられる。これらの形状を有する無機粒子の複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
無機粒子の数平均粒子径は、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上又は0.3μm以上である。また、この数平均粒子径は、10.0μm以下、9.0μm以下又は6.0μm以下である。この粒径を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用いて無機粒子を粉砕して粒径を小さくする方法が挙げられる。
【0056】
ここで、無機粒子の表面に極性官能基があることが好ましい。すなわち、無機粒子は、その表面に極性官能基を有することが好ましい。これによれば、他の化合物(樹脂バインダ、他の無機粒子、及び必要により含まれる架橋剤等)に対する反応性を高めることができる。よって、無機粒子と樹脂バインダの共有結合により、また、無機粒子が複数の場合には複数の無機粒子間の共有結合により、好適な架橋構造を形成し易くなる。同様の観点から、この極性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及びアミノ基から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0057】
また、無機粒子の表面にケイ素含有官能基があることも好ましい。すなわち、無機粒子は、その表面にケイ素含有官能基を有することも好ましい。これによれば、他の化合物(樹脂バインダ、他の無機粒子、及び必要により含まれる架橋剤等)に対する反応性を高めることができる。よって、無機粒子と樹脂バインダの共有結合により、また、無機粒子が複数の場合には複数の無機粒子間の共有結合により、好適な架橋構造を形成し易くなる。同様の観点から、このケイ素含有官能基は、アルコキシシリル基、ハロゲン置換シリル基、及びシラザン基から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0058】
(樹脂バインダ)
樹脂バインダは、他の樹脂バインダとの間の共有結合により、及び/又は無機粒子との間の共有結合により、架橋構造を形成する。このような樹脂バインダとして利用可能な材料は、特に限定されないが、例えば、LIBに代表される蓄電デバイスの電解液に対して不溶であり、かつ蓄電デバイスの使用範囲において電気化学的に安定な樹脂を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
樹脂バインダとして利用可能な材料の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;並びにポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル等の、融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
樹脂バインダの具体例としては、以下の1)~7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、及びポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、PVdF、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース;並びに
7)融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂、又は融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル。
【0061】
この種の樹脂バインダは、所望の単量体を原料として公知の乳化重合又は溶液重合等の製造方法に沿って得ることができる。重合においては、重合温度、重合時の圧力、単量体の添加方法、使用する添加剤(重合開始剤、分子量調整剤、及びpH調整剤等)は特に限定されない。
【0062】
上記の樹脂バインダ、及び/又は後述する架橋剤は、エマルション、懸濁液又はコロイドの形態であることが好ましい。このうち、エマルションについては、所定の粒子からなるコア部と、該コア部の周囲に所定の高分子化合物を含有するシェル部とで形成されていることが、成膜性、及び得られる無機多孔質層の強度等の観点から好ましい。コア部を形成する粒子は有機高分子化合物であってもよいし、無機微粒子であってもよいが、最終的に得られる無機多孔質層により柔軟性を付与する観点からは、有機高分子化合物がより好ましい。懸濁液とは、例えば、溶媒中に固体粒子が顕微鏡で見える程度に分散したものを指し、コロイドとは、肉眼で確認できる程度の巨大分子が分散したものを指す。
【0063】
樹脂バインダは、上記の無機粒子の表面に存在する、極性官能基、及び/又はケイ素含有官能基との間で、求核置換反応を起こす官能基(求核置換反応性官能基)又は求核付加反応を起こす官能基(求核付加反応性官能基)を有することが好ましい。これによれば、他の化合物(例えば、無機粒子、樹脂バインダ、及び必要に含まれる架橋剤)との間の反応性を高めることができる。よって、無機粒子と樹脂バインダの共有結合により、また、樹脂バインダが複数の場合には複数の樹脂バインダ間の共有結合により、好適な架橋構造を形成し易くなる。同様の観点から、樹脂バインダの求核置換反応性官能基又は求核付加反応性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシ基、及びアミノ基から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0064】
無機多孔質層中の樹脂バインダの質量比(100×樹脂バインダの質量/無機多孔質層の質量)は、耐熱性を確保する観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。一方、この質量比は、無機多孔質層中に無機粒子を含有せしめる余地を確保する観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0065】
(架橋剤)
無機多孔質層は、上記の無機粒子、及び上記の樹脂バインダに加えて、架橋剤を含むことが好ましい。これによれば、無機多孔質層において、好適な架橋構造を更に形成し易くなる。無機多孔質層中の架橋剤の質量比(100×架橋剤の質量/無機多孔質層の質量)は、例えば、0.01質量%~5質量%の範囲で適宜選択される。無機多孔質層中の架橋剤の質量比は、0.1質量%~5質量%がより好ましく、0.1質量%~3質量%が更に好ましい。
【0066】
架橋剤は、上記の無機粒子、及び/又は上記の樹脂バインダと反応性を有する作用基を含むことが好ましい。例えば、架橋剤は、上記の無機粒子、及び/又は上記の樹脂バインダとの間で、求核置換反応を起こす官能基(求核置換反応性官能基)、及び/又は求電子付加反応を起こす官能基(求電子付加反応性官能基)を有することが好ましい。特に、架橋剤は、求核置換反応性官能基、及び求電子付加反応性官能基を有することが好ましい。これらによれば、無機多孔質層において好適な架橋構造が更に形成され易くなる。中でも、架橋剤の求核置換反応性官能基としては、オキサゾリン基、及び/又はエポキシ基であることが好ましい。また、中でも、架橋剤の求電子付加反応性官能基としては、イソシアネート基、チオイソシアネート基、カルボジイミド基、アレン基、オキシム基、及びカルボニル基から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
使用可能な架橋剤としては、例えば、オキサゾリン系架橋剤としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズ(K-2010E、K-2020E、K-2030、WS-300、WS-500、WS-700)、カルボジイミド系架橋剤としては、日清紡ケミカル社製のカルボジライトシリーズ(V-02、V-02-L2、SV-02、V-04、V-10、SW-12G、E-02、E-03A)、イソシアネート系架橋剤としては旭化成株式会社製のデュラネートシリーズ(WB40-100、WB40-80D、WT20-100、WT30-100、WL70-100、WR80-70P、WE50-100)、エポキシ系架橋剤としてはナガセケムテックス社製のデナコールシリーズ(EX-61B、EX-313、FCA-678など)、アルコキシシランは信越化学社製トリエトキシシラン(X-12-1273ES)、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランなど、多種官能基含有アルコキシシラン類化合物の架橋剤としては信越化学社製(KBMシラーズ(3-アミノプロピルトリメトキシシランKBM-903等)、KBEシリーズ)等が挙げられる。
【0067】
架橋剤は、例えば、シランカップリング剤としても用いられるものでもよい。シランカップリング剤は、加水分解性作用基を有する有機シリコン化合物であり、加水分解後に、シリカ等を有する無機粒子と結合できる作用基である。
【0068】
<その他の添加物>
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜、及び/又は無機多孔質層は、任意の添加剤を含むことができる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系、リン系、及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;並びに着色顔料等が挙げられる。
【0069】
<セパレータの製造方法>
(ポリオレフィン樹脂製微多孔膜の製造方法)
ポリオレフィン樹脂製微多孔膜を製造する方法は、既知の製造方法を採用することができ、例えば、湿式多孔化法と乾式多孔化法とのいずれを採用してもよい。湿式多孔化法による例を挙げると、例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法;ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;及びポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法が挙げられる。
【0070】
以下、ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤、及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練する。
【0071】
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、及びステアリルアルコール等の高級アルコールが挙げられる。これらの中で、流動パラフィンが好ましい。
【0072】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であればよい。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。可塑剤の質量分率をこの範囲とすることにより、溶融成形時のメルトテンションと、均一かつ微細な孔構造の形成性とが両立する観点で好ましい。
【0073】
次に、上記のようにして加熱溶融、及び混練して得られた溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤自体が挙げられるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この場合、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で溶融混練物を挟み込むと、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するため、より好ましい。Tダイよりシート状に押し出すときのダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることが更に好ましい。
【0074】
このようにして得たシート状成形体を、次いで延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができる。得られる微多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られるポリオレフィン微多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、及び多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
【0075】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることが更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍以下、TDに4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上8倍以下、TDに5倍以上8倍以下の範囲であることが更に好ましい。延伸倍率をこの範囲の倍率とすることにより、より十分な強度を付与することができると共に、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる点で好ましい。
なお、MDとは、例えばポリオレフィン微多孔膜を連続成形するときの機械方向を意味し、TDとは、MDを90°の角度で横切る方向を意味する。
【0076】
上記のようにして得られたシート状成形体を、更に圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延により、特にシート状成形体の表層部分の配向を増大させることができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。この範囲の圧延倍率とすることにより、最終的に得られるポリオレフィン微多孔膜の膜強度が増加し、かつ、膜厚方向により均一な多孔構造を形成することができる点で好ましい。
【0077】
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去してポリオレフィン微多孔膜を得る。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。ポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜中の可塑剤の残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0078】
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、及びシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、及び1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;並びにアセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0079】
ポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制するため、延伸工程後又はポリオレフィン微多孔膜の形成後に、熱固定又は熱緩和等の熱処理を行ってもよい。ポリオレフィン微多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0080】
(シラングラフト変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂製微多孔膜の製造方法)
シラングラフト変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂製微多孔膜の製造方法として、微多孔膜(平膜)の場合について以下に説明するが、平膜以外の形態を除く意図ではない。シラングラフト変性ポリオレフィンを含む微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(1)シート成形工程;
(2)延伸工程;
(3)多孔体形成工程;及び
(4)熱処理工程;
を含む。シラングラフト変性ポリオレフィンを含む微多孔膜の製造方法は、所望により、シート成形工程(1)前の混錬工程、及び/又は熱処理工程(3)後の捲回・スリット工程を含んでよいが、電解液と接触するときまでシラン架橋性を維持するという観点からは、シラン架橋処理工程を含まないことが好ましい。シラン架橋処理工程は、一般に、シラングラフト変性ポリオレフィンを含む被処理物を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行ってオリゴシロキサン結合を形成する工程である。
【0081】
有機金属含有触媒の金属は、例えば、スガンジウム、チタン、バナジウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ及び鉛から成る群から選択される少なくとも1つでよい。有機金属含有触媒は、ジ-ブチルスズ-ジ-ラウレート、ジ-ブチルスズ-ジ-アセテート、ジ-ブチルスズ-ジ-オクトエートなどとして挙げられ、Weijら(F. W. van. der. Weij: Macromol. Chem., 181, 2541, 1980.)によって提唱された反応機構で反応速度を圧倒的に促進できることが知られている。また、近年では、有機スズによる環境、人体への健康被害を避けるために、銅又はチタンのキレート錯体のルイス機能を利用して、有機塩基と組み合わせることによって、有機スズ錯体と同様にアルコキシシリル基同士のシロキサン結合を形成する反応を促進できることが知られている。
【0082】
塩基溶液は、pHが7を超え、例えば、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アンモニア、アミン化合物などを含んでよい。これらの中でも、蓄電デバイスの安全性とシラン架橋性の観点から、水酸化アルカリ金属類又は水酸化アルカリ土類金属類が好ましく、水酸化アルカリ金属類がより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
【0083】
酸溶液は、pHが7未満であり、例えば、無機酸、有機酸などを含んでよい。好ましい酸は、塩酸、硫酸、カルボン酸類、又はリン酸類である。
【0084】
混練工程では、混錬機を用いて、シラングラフト変性ポリオレフィンと、所望により、可塑剤又は無機材とその他のポリオレフィンとを混錬することができる。製造プロセスにおいて樹脂凝集物の発生を抑制し、かつ電解液と接触するときまでシラン架橋性を維持するという観点から、脱水縮合触媒を含有するマスターバッチ樹脂を混錬物に加えないことが好ましい。
【0085】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。可塑剤の割合は特に限定されないが、ポリオレフィンとシラングラフト変性ポリオレフィンの割合は、得られる微多孔膜の気孔率の観点から、必要に応じて、微多孔膜の合計質量に対して20質量%以上が好ましく、溶融混練時の粘度の観点から90質量%以下が好ましい。
【0086】
シート成形工程は、得られた混練物、又はシラングラフト変性ポリオレフィンと超高分子量ポリオレフィンと可塑剤の混合物を押出し、冷却固化させ、シート状に成型加工してシートを得る工程である。シート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融混練し押出された溶融物を、圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。冷却方法としては、冷風、冷却水等の冷却媒体に溶融物を直接接触させる方法、冷媒で冷却したロール又はプレス機に溶融物を接触させる方法等が挙げられ、中でも、冷媒で冷却したロール又はプレス機に接触させる方法が、膜厚制御性が優れる点で好ましい。
【0087】
微多孔膜中の樹脂凝集物又は内部最大発熱速度の観点から、シート成形工程ではシラングラフト変性ポリオレフィンと超高分子量ポリエチレンの質量比(シラングラフト変性ポリオレフィンの質量/超高分子量ポリエチレンの質量)が、0.05/0.95~0.4/0.6であることが好ましく、より好ましくは0.06/0.94~0.38/0.62である。
【0088】
セパレータの150℃以下の低温シャットダウン性と、180℃以上の高温での耐破膜性とを有しながら蓄電デバイス破壊時の熱暴走を抑制して安全性を向上させるという観点から、シート成形工程では、シラングラフト変性ポリオレフィンは、そのシラングラフト変性ポリオレフィンを架橋する脱水縮合触媒をシート成形工程前から含有するマスターバッチ樹脂ではないことが好ましい。耐破膜性は、好ましくは、190℃以上、200℃以上、210℃以上、220℃以上、230℃以上、240℃以上、又は250℃以上で確保されることができる。なお、セパレータの破膜温度の上限は、限定されるものではなく、本技術分野では、250℃より高温でさえも同様に膜破断現象が起こり得ることが理解される。
【0089】
延伸工程は、得られたシートから、必要に応じて可塑剤又は無機材を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する工程である。シートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、若しくはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンター若しくはインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。より均一な膜を得るという観点からは、同時二軸延伸であることが好ましい。トータルの面倍率は、膜厚の均一性、引張伸度と気孔率と平均孔径のバランスの観点から、好ましくは8倍以上であり、より好ましくは15倍以上であり、さらに好ましくは20倍以上又は30倍以上である。トータルの面倍率が8倍以上であることにより、高強度かつ良好な厚み分布の膜が得られ易くなる傾向にある。また、この面倍率は、破断防止などの観点から、250倍以下でよい。
【0090】
多孔体形成工程は、延伸工程後の延伸物から可塑剤を抽出して、延伸物を多孔化する工程である。可塑剤の抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、延伸物を抽出溶媒に浸漬する方法、延伸物に抽出溶媒をシャワーする方法等が挙げられる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ、可塑剤又は無機材に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン、フルオロカーボン系等ハロゲン化炭化水素類;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;アルカリ水等が挙げられる。抽出溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0091】
熱処理工程は、延伸工程の後、必要に応じてシートから可塑剤を抽出し、更に熱処理を行い、微多孔膜を得る工程である。熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、テンター又はロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜の機械方向(MD)及び/又は幅方向(TD)へ、所定の温度及び緩和率で行う縮小操作のことをいう。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値、又は緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、又はMDとTD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。また、捲回工程では、得られた微多孔膜を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回することができる。
【0092】
(無機多孔質層の製造方法)
無機多孔質層を製造する方法としては、特に限定されず、既知の製造方法を採用することができ、例えば、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜がシラングラフト変性ポリオレフィン樹脂を含むかどうかによらず、無機粒子と樹脂バインダとを含有する塗布液(無機多孔質層用スラリー)をポリオレフィン樹脂製微多孔膜に塗布する方法が挙げられる。所望により、無機多孔質層用スラリーは、架橋剤を含んでよい。無機粒子と樹脂バインダとを含む原料と、ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン樹脂製微多孔膜の原料とを共押出法により積層して押し出してもよいし、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜と無機多孔質層(膜)とを個別に作製した後に、それらを貼り合せてもよい。
【0093】
塗布液の溶媒としては、無機粒子と樹脂バインダとを均一かつ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
【0094】
塗布液には、上記の架橋剤を加えてもよい。また、塗布液には、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0095】
無機粒子と樹脂バインダとを、塗布液の媒体に分散又は溶解させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、及び撹拌羽根等による機械撹拌が挙げられる。
【0096】
塗布液をポリオレフィン樹脂製微多孔膜に塗布する方法については、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、及びスプレー塗布法が挙げられる。
【0097】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜を固定しながらポリオレフィン樹脂製微多孔膜を構成する材料の融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、樹脂バインダに対する貧溶媒に浸漬して樹脂バインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法が挙げられる。また、デバイス特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させてもよい。
【0098】
<蓄電デバイス>
実施形態1及び2に係るセパレータは、蓄電デバイスにおいて使用されることができる。蓄電デバイスは、正極と、負極と、正負極間に配置された実施形態1又は2に係るセパレータと、電解液とを備える。蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池(LIB)、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、LIB、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はLIBがより好ましい。
【0099】
電池中の電解液は、水分を含んでよく、そして電池作製後の系内に含まれる水分は、電解液に含有される水分、又は電極若しくはセパレータ等の部材に含まれた持ち込み水分であってもよい。電解液は、非水系溶媒を含むことができる。本実施形態の非水系溶媒に含まれる溶媒として、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非水系溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましい。
【0100】
非プロトン性溶媒としては、例えば、環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ラクトン、硫黄原子を有する有機化合物、鎖状フッ素化カーボネート、環状エーテル、モノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、ジニトリル、環状ニトリル、短鎖脂肪酸エステル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、ケトン、上記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0101】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0102】
フルオロエチレンカーボネートとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン等が挙げられる。
【0103】
ラクトンとしては、例えば、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0104】
硫黄原子を有する有機化合物としては、例えば、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイト等が挙げられる。
【0105】
鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0106】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサン等が挙げられる。
【0107】
モノニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリル等が挙げられる。
【0108】
アルコキシ基置換ニトリルとしては、例えば、メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリル等が挙げられる。
【0109】
ジニトリルとしては、例えば、マロノニトリル、スクシノニトリル、メチルスクシノニトリル、グルタロニトリル、2-メチルグルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル等が挙げられる。
【0110】
環状ニトリルとしては、例えば、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0111】
短鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸メチル、イソ吉草酸メチル、吉草酸メチル、ピバル酸メチル、ヒドロアンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、ピバル酸エチル、ヒドロアンゲリカ酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸プロピル、イソ酪酸プロピル、酪酸プロピル、イソ吉草酸プロピル、吉草酸プロピル、ピバル酸プロピル、ヒドロアンゲリカ酸プロピル、カプロン酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソ酪酸イソプロピル、酪酸イソプロピル、イソ吉草酸イソプロピル、吉草酸イソプロピル、ピバル酸イソプロピル、ヒドロアンゲリカ酸イソプロピル、カプロン酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、吉草酸ブチル、ピバル酸ブチル、ヒドロアンゲリカ酸ブチル、カプロン酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸イソブチル、イソ吉草酸イソブチル、吉草酸イソブチル、ピバル酸イソブチル、ヒドロアンゲリカ酸イソブチル、カプロン酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ吉草酸tert-ブチル、吉草酸tert-ブチル、ピバル酸tert-ブチル、ヒドロアンゲリカ酸tert-ブチル、及びカプロン酸tert-ブチル等が挙げられる。
【0112】
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライム等が挙げられる。
フッ素化エーテルとしては、例えば、一般式Rfaa-ORbb(式中、Rfaaは、フッ素原子を含有するアルキル基であり、かつRbbは、フッ素原子を含有してよい有機基である)で表される化合物等が挙げられる。
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0113】
上記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物としては、例えば、ハロゲン原子がフッ素である化合物等を挙げることができる。
【0114】
ここで、鎖状カーボネートのフッ素化物としては、例えば、メチルトリフルオロエチルカーボネート、トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネートが挙げられる。上記のフッ素化鎖状カーボネートは、下記の一般式:
Rcc-O-C(O)O-Rdd
{式中、Rcc及びRddは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及び式CH2Rfee(式中、Rfeeは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基である)で表される基から成る群より選択される少なくとも一つであり、そしてRcc及び/又はRddは、少なくとも1つのフッ素原子を含有する。}
で表すことができる。
【0115】
また、短鎖脂肪酸エステルのフッ素化物としては、例えば、酢酸2,2-ジフルオロエチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、酢酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルに代表されるフッ素化短鎖脂肪酸エステルが挙げられる。フッ素化短鎖脂肪酸エステルは、下記の一般式:
Rff-C(O)O-Rgg
{式中、Rffは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、CF3CF2H、CFH2、CF2H、CF2Rfhh、CFHRfhh、及びCH2Rfiiから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rggは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rfiiから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rfhhは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換されてよい炭素数1~3のアルキル基であり、Rfiiは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてRff及び/又はRggは、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、RffがCF2Hである場合、RggはCH3ではない}で表すことができる。
【0116】
蓄電デバイスの代表例であるLIBは、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物、負極として、グラファイト等の炭素材料、そして電解液としてLiPF6等のフッ素含有リチウム塩を含む非水系の有機溶媒を使用した蓄電池である。LIBの充電・放電の時には、イオン化したLi(リチウム)が電極間を往復する。また、電極間の接触を抑制しながら、そのイオン化したLiが、電極間の移動を比較的高速に行う必要があるため、電極間にセパレータが配置される。
【0117】
<蓄電デバイスの製造方法>
セパレータを用いて蓄電デバイスを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法を例示することができる。まず、幅10~500mm(好ましくは80~500mm)、長さ200~4000m(好ましくは1000~4000m)の縦長形状のセパレータを製造する。次いで、正極-セパレータ-負極-セパレータ又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順で積層し、円又は扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得る。その捲回体をデバイス缶(例えば電池缶)内に収納し、更に電解液を注入することにより、製造することができる。代替的には、電極、及びセパレータを折り畳んで捲回体としたものを、デバイス容器(例えばアルミニウム製のフィルム)に入れて電解液を注液する方法によって製造してもよい。
【0118】
このとき、捲回体に対して、プレスを行うことができる。具体的には、セパレータと、集電体、及びその集電体の少なくとも片面に形成された活物質層を有する電極とを重ね合わせてプレスを行う方法を例示することができる。
【0119】
プレス温度は、効果的に接着性を発現できる温度として例えば20℃以上が好ましい。また熱プレスによるセパレータにおける孔の目詰まり又は熱収縮を抑える点で、プレス温度はポリオレフィン樹脂製微多孔膜に含まれる材料の融点よりも低いことが好ましく、120℃以下が更に好ましい。プレス圧力はセパレータにおける孔の目詰まりを抑える観点から20MPa以下が好ましい。プレス時間については、ロールプレスを用いたときに1秒以下でもよく、数時間の面プレスでもよいが、生産性の観点から2時間以下が好ましい。実施形態1又は2の蓄電デバイス用セパレータを用いて、上記の製造工程を経ると、電極、及びセパレータから成る捲回体をプレス成形したときのプレスバックを抑制できる。従って、デバイス組立工程における歩留まり低下を抑制し、生産工程時間を短縮することができ、好ましい。
【0120】
上記のようにして製造された蓄電デバイス、特にLIBは、実施形態1又は2に係るセパレータを備えるため、その性能(例えば、サイクル特性、及びデバイス破壊又は加温試験により評価される安全性)の一層の向上を図ることができる。
【0121】
製造された蓄電デバイスにおいて、シラングラフト変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂製微多孔膜のシラン架橋反応を確実に実行するという観点からは、蓄電デバイスの少なくとも一対の電極にリード端子を接続して電源と接続する工程と、少なくとも1サイクルの充放電を行う工程とを行うことが好ましい。充放電サイクルによって、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、電解液中又は電極表面に生成し、それによりシラン架橋反応が達成される。
【0122】
理論に拘束されることを望まないが、メトキシシラングラフト部は蓄電デバイス内に含まれるわずかな水分(電極、セパレータ、電解液などの部材に含まれる水分)で、シラノールへ変換され、架橋反応し、シロキサン結合へ変化すると推定されている。また、電解質又は電解液が電極と接触すると、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、電解液中又は電極表面に生成し、それらが電解液に溶け込み、シラン変性グラフト部が存在するポリオレフィン中の非晶部へ均一に膨潤、拡散されることで、セパレータ含有積層体又は捲回体の架橋反応を均一に促進することが考えられる。シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質は、酸溶液又は膜の形態でよく、電解質がヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を含む場合には、LiPF6と水分が反応し、発生したフッ化水素(HF)、又はフッ化水素(HF)に由来するフッ素含有有機物であることができる。
【0123】
実施形態1又は2に係る蓄電デバイス用セパレータは、蓄電デバイスに組み込まれると、ポリオレフィン樹脂製微多孔膜中のシラングラフト変性ポリオレフィンが架橋し、かつ/又は無機多孔質層中の複数の成分間の共有結合により架橋構造が形成されるため、従来の蓄電デバイスの製造プロセスに適合しながら、蓄電デバイスのサイクル特性及び/又は安全性を向上させることが考えられる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例、及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び比較例に限定されない。実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0125】
(セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンの検出方法)
セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンが架橋した状態では、有機溶剤に対して、不溶であるか、又は溶解度が不足するため、セパレータから直接的にシラン変性ポリオレフィンの含有を測定することが困難な場合がある。その場合、サンプルの前処理として、副反応が起こらないオルトギ酸メチルを用いて、シロキサン結合をメトキシシラノールへ分解した後、溶液NMR測定を行うことによって、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンを検出したり、そのGPC測定を行なったりすることができる。前処理の実験は、特許第3529854号公報及び特許第3529858号公報を参照して行われることができる。
【0126】
具体的には、セパレータ製造に用いる原料としてのシラン変性ポリオレフィンの1H又は13CのNMRの同定を、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンの検出方法に活用することができる。1H及び13CのNMRの測定手法の一例を以下に説明する。
【0127】
(1HのNMR測定)
試料をo-ジクロロベンゼン-d4に140℃で溶解し、プロトン共鳴周波数が600MHzの1H-NMRスペクトルを得る。1H-NMRの測定条件は、下記のとおりである。
装置:Bruker社製 AVANCE NEO 600
試料管直径:5mmφ
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
測定温度:130℃
パルス角:30°
パルス待ち時間:1sec
積算回数:1000回以上
試料濃度:1 wt/vol%
【0128】
(13CのNMR測定)
試料をo-ジクロロベンゼン-d4に140℃で溶解し、13C-NMRスペクトルを得る。13C-NMRの測定条件は下記のとおりである。
装置:Bruker社製 AVANCE NEO 600
試料管直径:5mmφ
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
測定温度:130℃
パルス角:30°
パルス待ち時間:5sec
積算回数:10000回以上
試料濃度:10 wt/vol%
【0129】
1H及び/又は13CのNMR測定により、ポリオレフィン原料においては、シラン変性ポリオレフィン中のシランユニット変性量、ポリオレフィンのアルキル基変性量などを確認することができ、そしてセパレータ中では、シラン変性ポリオレフィンの含有の同定(-CH2-Si:1H,0.69ppm,t;13C,6.11ppm,s)が可能である。
【0130】
(1)重量平均分子量
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラムを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量を算出した。
カラム :東ソー製 GMH6-HT(商標)2本+GMH6-HTL(商標)2本
移動相 :o-ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度 :0.1wt%
(ポリエチレンの重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量を算出した。
(樹脂組成物の重量平均分子量)
最も質量分率の大きいポリオレフィンのQファクター値を用い、その他はポリエチレンの場合と同様にして重量平均分子量を算出した。
【0131】
(2)粘度平均分子量(Mv)
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η]を求めた。ポリエチレンのMvを次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
【0132】
(3)メルトマスフローレイト(MFR)(g/10min)
東洋精機製メルトマスフローレイト測定機(メルトインデックサF-F01)を用いて、190℃、及び加重2.16kgの条件下、10分間で押出された樹脂物の重量をMFR値として定めた。
【0133】
(4)微多孔膜、及び無機多孔質層の膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて、室温23±2℃、及び相対湿度60%で微多孔膜の膜厚を測定した。具体的には、TD方向全幅に亘って、ほぼ等間隔に5点の膜厚を測定し、それらの平均値を得た。
また、同様の手法により、セパレータの膜厚を測定した。そして、セパレータの膜厚から微多孔膜の膜厚を減算し、得られた値を無機多孔質層の膜厚とした。
【0134】
(5)微多孔膜の気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。なお、混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。例えばポリエチレンから成るポリオレフィン微多孔膜の場合、混合組成物の密度は、0.95(g/cm3)と仮定して計算することができる。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0135】
(6)微多孔膜の透気度、及び透気度上昇量(sec/100cm3)
JIS P-8117(2009年)に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G-B2(商標)により微多孔膜の透気度を測定した。
また、同様の手法により、セパレータの透気度を測定した。そして、微多孔膜の透気度からセパレータの透気度を減算し、得られた値を透気度上昇量とした。
【0136】
(7)微多孔膜の表面粗さ(μm)
JIS B0671-2002に準拠し、キーエンス社製VK-X200により、測定モードは表面形状、測定ピッチは0.2μm、表面粗度算出面積216μm×287μm(観測倍率 50倍)の条件のもとで、微多孔膜の表面粗さ(μm)を算出した。
【0137】
(8)電池の破壊に対する安全性試験1(電池破壊試験1)
安全性試験は、4.5Vまで充電した電池に鉄釘を20mm/secの速度で打ち込み、貫通させて、内部短絡を起こす試験である。本試験は、内部短絡による電池の電圧低下の時間変化挙動、及び内部短絡による電池表面温度上昇挙動を測定することで、内部短絡時の現象を明らかにできる。また、内部短絡時にセパレータの不十分なシャットダウン機能又は低温での破膜により、電池の急激な発熱が生じる場合があり、それに伴い、電解液が発火し、電池が発煙、及び/又は爆発することがある。
【0138】
(安全性試験に用いられる電池の作製)
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、及び樹脂バインダとしてPVdF3.2質量%をNMP中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m2、活物質嵩密度は3.00g/cm3になるように調整した。
【0139】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及び樹脂バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m2、活物質嵩密度は1.35g/cm3になるように調整した。
【0140】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
【0141】
d.電池組立
セパレータを横(TD)方向60mm、縦(MD)方向1000mmに切出し、セパレータに対して、九十九折し、正極と負極を交互にセパレータ間(正極12枚、負極13枚)に重ねる。なお、正極は30mm×50mm、負極は32mm×52mmの面積の物を使用した。この九十九折した積層体をラミネート袋へ入れた後、上記c.で得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0142】
(最大発熱速度)
得られた電池へ鉄釘を20mm/secの速度で打ち込み、貫通させた後、電池表面温度は熱電対を用いて、300秒間に亘って測定した温度変化グラフから、1sec当たりに昇温変化が最も大きかった時の速度を最大発熱速度と定めた。
【0143】
(電圧低下時間)
得られた電池へ鉄釘を20mm/secの速度で打ち込み、貫通させた後、4.5Vから3Vまでの電圧低下に要した時間を電圧低下時間(3V低下時間)として定めた。
【0144】
(9)サイクル特性1(電池サイクル安定性1)評価、及びその電池の作製方法
上記の項目「(8)電池破壊試験1」に用いられる電池の作製方法のa.~c.と同じ方法に従って、ただし組立は下記d.によりサイクル特性評価用電池を作製した。
得られた電池の充放電は、60℃雰囲気下で100サイクル実施した。充電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電した。放電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。100サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率(%)を算出した。電池サイクル安定性における容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
d.電池組立
セパレータを直径18mm、正極、及び負極を直径16mmの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、正極、セパレータ、負極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と接していた。この容器内に、上記の項目「(8)電池破壊試験1」のc.で得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0145】
(10)シャットダウン&破膜温度の測定1
(ヒューズ/メルトダウン(F/MD)特性1)
直径200mmの円形状に正極、セパレータ、及び負極を切出し、重なり合わせて得られた積層体に、電解液を加え、全体に染みわたした。直径600mmの円形状アルミヒーターの中心部に積層体を挟み、油圧ジャッキでアルミヒーターを上下から0.5MPaに加圧し、測定の準備を完了とした。昇温速度を2℃/minの速度で、アルミヒーターで積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定した。セパレータのヒューズともに電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えた時の温度をヒューズ温度(シャットダウン温度)とした。また、さらに加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がる時の温度をメルトダウン温度(破膜温度)とした。なお、測定においては、上記「(8)電池破壊試験」の項目「a.正極の作製」により作製された正極のアルミニウム箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させたものを用いた。また、測定においては、上記「(8)電池破壊試験」の項目「b.負極の作製」により作製された負極の銅箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させたものを用いた。さらに、測定においては、上記「(8)電池破壊試験」の項目「c.非水電解液の調製」により調製された電解液をF/MD特性試験にも使用した。
【0146】
(11)溶剤中浸漬試験
無機多孔質層が形成された微多孔膜を5.0×5.0cmの正方形に切出し、ガラス製サンプル缶中で25℃アセトン中に浸漬させ、超音波洗浄機を用いてガラス製サンプル缶全体に周波数40Hzで10分間に亘って振動を与えた。
その後、無機多孔質層が形成された微多孔膜をアセトン中から取り出し、風乾した後、EPSON社製スキャナーを用いて、無機多孔質層が形成された面側を、濃淡階調8bit、解像度600dpiの条件で、モノクロ画像として取り込んだ(
図3参照)。
取り込んだ画像を、下記の手法(I)~(IV)に従って画像処理を行い、剥がれ部の面積の割合(剥がれ面積(%))を導出した。
【0147】
(I)取り込んだ画像を評価画像Pとし、その評価画像Pの一辺の長さをXとYとした。XとYは、切出された微多孔膜の一辺の長さに相当させることができる。従って、ここではX=5cm、Y=5cmとした。
【0148】
(II)評価画像Pにおいて、X辺に沿う方向をX軸、Y辺に沿う方向をY軸としたとき、その評価画像Pを構成する座標位置(x,y)の画素の濃淡値をP(x,y)とした。そして、評価画像Pに含まれるXp×Yp個の全ての濃淡値P(x,y)について、ヒストグラムを作成した。
実施例15に対する評価により得られたヒストグラムの一例を
図1に示す。
図1中、縦軸(対数表示)は頻度値を示し、横軸は濃淡値を示している。
図1からは、明部を示すピーク(濃淡値が小さい側のピーク)と、暗部を示すピーク(濃淡値が大きい側のピーク)との各々が確認された。そして、明部を示すピークの頂点に対応する濃淡値を、明部での濃淡値Pbとして決定し、暗部を示すピークの頂点に対応する濃淡値を、暗部での濃淡値Pdとして決定した。
図1中、明部での濃淡値Pbを与える頻度値と、暗部での濃淡値Pdを与える頻度値とがそれぞれ「×」マークにより表されている。
【0149】
明部に相当する画素数と、暗部に相当する画素数とのうち、いずれか一方の画素数が比較的少ないと、その画素数が少ない方のピークが明確に確認されない場合がある。この場合であっても、得られるヒストグラムの形状に応じて、以下のように、明部での濃淡値Pbと暗部での濃淡値Pdとを決定することが可能である。
【0150】
(II-1)
ヒストグラムの他の例を
図2に示す。縦軸と横軸は
図1の例と同様である。暗部に相当する画素数が比較的少ないと、
図2に示すように、明部を示すピークは確認されるものの、暗部を示すピークが明確に確認されない場合がある。この場合、明度に相当するピークよりも濃淡値が大きい範囲において、ヒストグラム上で略一定の頻度値を保っていたものの、濃淡値が大きくなるにつれてその頻度値が急に低下し始める部分(ヒストグラムの右肩に相当する部分)の濃淡値を、暗部での濃淡値Pdとして決定することができる。
図2中、明部での濃淡値Pbを与える頻度値と、暗部での濃淡値Pdを与える頻度値とがそれぞれ「×」マークにより表されている。
【0151】
(II-2)
明部に相当する画素数が比較的少ないとき、図示しないものの、暗部を示すピークは確認されるものの、明部を示すピークが明確に確認されない場合がある。この場合、暗部に相当するピークよりも濃淡値が小さい範囲において、ヒストグラム上で略一定の頻度値を保っていたものの、濃淡値が小さくなるにつれてその頻度値が急に低下し始める部分(ヒストグラムの左肩の部分)の濃淡値を、明部での濃淡値Pbとして決定することができる。
【0152】
(III)上記のようにして決定した、明部での濃淡値Pbと暗部での濃淡値Pdとを用いて、その平均値を下記式により算出し、得られた値を閾値Psとして決定した。
図1、及び
図2中、閾値Psを与える頻度値が「×」マークにより表されている。
閾値Ps=(明部での濃淡値Pb+暗部での濃淡値Pd)/2
【0153】
(IV)評価画像Pと同じ大きさの二値化画像として、配列BW(x,y)を準備した。評価画像P中、閾値Psより大きい濃淡値を持つ画素P(x,y)については、その画素P(x,y)に対応するBW(x,y)に1を代入し、明部として処理した。閾値Psと等しいか小さい濃淡値を持つP(x,y)については、その画素P(x,y)に対応するBW(x,y)に0を代入し、暗部として処理した。このようにして、評価画像Pにおける明部と暗部とが区別された二値化画像BWを得た(
図4参照)。
【0154】
(V)二値化画像BWのうち、1の値を持つBW(x,y)の個数を、明部画素数Brとして決定した。同様に、二値化画像BWのうち、0の値を持つBW(x,y)の個数を暗部画素数Dkとして決定した。Br、Dk、Xp、及びYpの間には、Br+Dk=Xp×Ypの式が成立する。
【0155】
(VI)明部の割合BrpをBrp=Br/(Xp×Yp)の式により求め、暗部の割合DkpをDkp=Dk/(Xp×Yp)の式により求めた。得られた明部の割合Brpを、剥がれ部の面積の割合(%)として決定し、得られた暗部の割合Dkpを、正常部の面積の割合(%)として決定した。
【0156】
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製造例]
粘度平均分子量20,000のポリエチレンを原料ポリエチレンとし、原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させた。また、同時に反応系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制した。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除いた。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1500ppm以下であった。
上記のようにトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを用いる変性反応によって、MFR(190℃)が0.24g/分のシラングラフトポリエチレン(表1、2、5又は6において「シラン変性ポリエチレン(B)」として示す)を得た。
【0157】
[実施例1]
(シラン架橋性ポリオレフィン微多孔膜の製造)
重量平均分子量が700,000のホモポリマーのポリエチレン(表1、2、5又は6では「ポリエチレン(A)」として示される)79.2質量%に、上記で得られたシラン変性ポリエチレン(B)19.8質量%を合わせて、ポリエチレン(A)と(B)の樹脂組成がそれぞれ0.8及び0.2である樹脂配合物を形成し、その配合物へ酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1100μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.2倍、二軸延伸温度120℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度133℃、延伸倍率2.1倍でHSを行い、その後、TD方向2.0倍までの緩和操作を行った。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用微多孔膜として使用した。
得られた評価用微多孔膜について膜厚、透気度、気孔率、表面粗さなどを測定し、表1に示した。
【0158】
(無機多孔質層の製造)
(アクリルラテックスの製法)
樹脂バインダとして用いられるアクリルラテックスは以下の方法で製造される。
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)0.5質量部とを投入した。次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を7.5質量部添加し、初期混合物を得た。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、乳化液を滴下槽から反応容器に150分掛けて滴下した。
なお、上記乳化液は:ブチルアクリレート70質量部;メタクリル酸メチル29質量部;メタクリル酸1質量部;乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部と「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部;過硫酸アンモニウムの2%水溶液7.5質量部;及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンを、25%の水酸化アンモニウム水溶液でpH=8.0に調整し、少量の水を加えて固形分40%のアクリルラテックスを得た。得られたアクリルラテックスは数平均粒子径145nm、ガラス転移温度-23℃であった。
【0159】
(無機多孔質層の形成)
無機粒子として94.6質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、樹脂バインダとして2.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、ガラス転移温度-23℃、構成モノマー:ブチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸)を添加した。その後に架橋剤として、日本触媒社製エポクロスK-2010Eを3.0質量部(固形分換算)を添加することによって無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0160】
[実施例2-14、比較例1-18]
実施例1と同様の手法により、例外的には、表1又は2に示すとおりにシラン変性ポリエチレン(B)の有無、各種の原料組成、HS倍率、延伸温度などを調整することで、各種物性のセパレータを作製した。なお、実施例2、3、11-14、比較例1-3の架橋剤は日本触媒社製エポクロスK-2010E、実施例4の架橋剤は日清紡ケミカル社製のカルボジライトV-02、実施例5の架橋剤は旭化成株式会社製のデュラネートWB40-100、実施例6の架橋剤はエポキシ系架橋剤としてナガセケムテックス社製のデナコールEX-61B、を使用した。実施例7、9、10は信越化学社製テトラエトキシシラン、実施例8は信越化学社製3-アミノプロピルトリメトキシシランKBM-903、比較例9,14は旭化成株式会社製ハードナー12A、比較例10、12、15、17はSIGAM-ALDRICH社製エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、比較例11、13、16、18はSIGAM-ALDRICH社製1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)を使用した。
【0161】
上記の実施例、及び上記の比較例で得られたセパレータを用いて、上記の各種の測定又は試験を行った。試験結果を表1~2に示す。
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
[実施例15]
(ポリオレフィン微多孔膜の製造)
重量平均分子量が70万のホモポリマーのポリエチレン(PE(A))を99質量%、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が70質量%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度230℃であり、スクリュー回転数240rpm、吐出量18kg/hで行った。
【0171】
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシートを得た。次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃であった。次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。次に、熱固定(「HS」と略記することがある)を行なうべくTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、1.2倍まで緩和操作を行った。その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し幅1100mm、長さ5000mのマザーロールとして巻き取り、微多孔膜を得た。得られた膜について膜厚、透気度、気孔率、及び表面粗さを測定し、表3に示した。
【0172】
(無機多孔質層の製造)
(アクリルラテックスの製法)
樹脂バインダとして用いられるアクリルラテックスは以下の方法で製造される。
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)0.5質量部とを投入した。次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を7.5質量部添加し、初期混合物を得た。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、乳化液を滴下槽から反応容器に150分掛けて滴下した。
なお、上記乳化液は:ブチルアクリレート70質量部;メタクリル酸メチル29質量部;メタクリル酸1質量部;乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部と「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部;過硫酸アンモニウムの2%水溶液7.5質量部;及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルションを、25%の水酸化アンモニウム水溶液でpH=8.0に調整し、少量の水を加えて固形分40%のアクリルラテックスを得た。得られたアクリルラテックスは数平均粒子径145nm、ガラス転移温度-23℃であった。
【0173】
(無機多孔質層の形成)
無機粒子として94.6質量%の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.40質量%(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量%の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、樹脂バインダとして2.0質量%(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、ガラス転移温度-23℃、構成モノマー:ブチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸)を添加した。その後に架橋剤として、日本触媒社製エポクロスK-2010Eを3.0質量%(固形分換算)を添加することによって無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0174】
[実施例16-27、比較例19-29]
実施例15と同様の手法により、HS倍率、延伸温度を調整することで、各種物性のセパレータを作製した。なお、実施例16、24-27、比較例19-21の架橋剤は日本触媒社製エポクロスK-2010E、実施例17の架橋剤は日清紡ケミカル社製のカルボジライトV-02、実施例18の架橋剤は旭化成株式会社製のデュラネートWB40-100、実施例19の架橋剤はエポキシ系架橋剤としてナガセケムテックス社製のデナコールEX-61B、を使用した。実施例20、22、23は信越化学社製アルコキシオリゴマー(KR-500)、実施例21は信越化学社製3-アミノプロピルトリメトキシシランKBM-903、比較例25は旭化成株式会社製ハードナー12A、比較例26、28はSIGAM-ALDRICH社製エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、比較例27、29はSIGAM-ALDRICH社製1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)を使用した。
【0175】
上記の実施例、及び上記の比較例で得られたセパレータを用いて、上記の各種の試験を行った。試験結果を表3~4に示す。表中、単位「質量%」は「wt%」と表記している。
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
[実施例28]
(シラン架橋性ポリオレフィン微多孔膜の製造)
重量平均分子量が800,000のホモポリマーのポリエチレン(A)79.2質量%に、上記で得られたシラン変性ポリエチレン(B)19.8質量%を合わせて、ポリエチレン(A)と(B)の樹脂組成がそれぞれ0.8及び0.2である樹脂配合物を形成し、その配合物へ酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数300rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1150μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.7倍、二軸延伸温度119℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度132℃、延伸倍率2.1倍でHSを行い、その後、TD方向1.7倍までの緩和操作を行った。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用微多孔膜として使用した。
得られた評価用微多孔膜について膜厚、表面粗さ、透気度、気孔率などを測定し、表5に示した。
【0181】
(無機多孔質層の製造)
(アクリルラテックスの製法)
樹脂バインダとして用いられるアクリルラテックスは以下の方法で製造される。
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)0.5質量部とを投入した。次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を7.5質量部添加し、初期混合物を得た。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、乳化液を滴下槽から反応容器に150分掛けて滴下した。
なお、上記乳化液は:ブチルアクリレート70質量部;メタクリル酸メチル29質量部;メタクリル酸1質量部;乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部と「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部;過硫酸アンモニウムの2%水溶液7.5質量部;及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンを、25%の水酸化アンモニウム水溶液でpH=8.0に調整し、少量の水を加えて固形分40%のアクリルラテックスを得た。得られたアクリルラテックスは数平均粒子径145nm、ガラス転移温度-20℃であった。
【0182】
(無機多孔質層の形成)
無機粒子として94.60質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.40質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=0.8μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、樹脂バインダとして2質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、ガラス転移温度-20℃、構成モノマー:ブチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸)を添加した。その後に架橋剤として、日本触媒社製エポクロスK-2010Eを3質量部(固形分換算)を添加することによって無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0183】
[実施例29-41、比較例30-44]
実施例28と同様の手法により、例外的には、表5又は表6に示すとおりにシラン変性ポリエチレン(B)の有無、各種の原料組成、HS倍率、延伸温度などを調整することで、各種物性のセパレータを作製した。なお、実施例29,30,38-41の架橋剤は日本触媒社製エポクロスK-2010E、実施例31の架橋剤は日清紡ケミカル社製のカルボジライトV-02、実施例32の架橋剤は旭化成株式会社製のデュラネートWB40-100、実施例33の架橋剤はエポキシ系架橋剤としてナガセケムテックス社製のデナコールEX-61B、を使用した。実施例34,36,37は信越化学社製テトラエトキシシラン、実施例35は信越化学社製3-アミノプロピルトリメトキシシランKBM-903、比較例35,40は旭化成社製ハードナー12A、比較例36,38,41,43はSIGAM-ALDRICH社製エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、比較例37,39,42,44はSIGAM-ALDRICH社製1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)を使用した。
【0184】
上記の実施例、及び上記の比較例で得られたセパレータを用いて、上記の各種の測定又は試験、特に、溶剤中浸漬試験、F/MD測定、塗工後透気度上昇の測定、電池サイクル試験、電池破壊試験などを行った。試験結果を表5~6に示す。なお、実施例28-41と比較例30-44では、次に示すように、正極活物質をLiCoO2よりも熱安定性の悪いLiNi3/5Mn1/5Co1/5O2に変更し、かつ電池への鉄釘の打ち込み速度を20mm/secから30mm/secに変更したため、上記「電池サイクル安定性1」及び「電池破壊試験1」よりも厳しい評価系になったので、表5~表6では、「電池サイクル安定性2」及び「電池破壊試験2」として表示した。
【0185】
(12)電池サイクル安定性2(サイクル試験2),電池破壊試験2(釘刺試験2)
a.正極の作製
正極活物質としてLiNi3/5Mn1/5Co1/5O2と、導電助剤としてカーボンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン溶液とを、91:5:4の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面にアルミニウム箔の一部が露出するように塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量を175g/m2とした。更に正極合剤部分の密度が2.8g/cm3となるようにロールプレスで圧延した。その後、塗布部が30mm×50mmで、かつアルミニウム箔露出部を含むように裁断し、正極を得た。
【0186】
b.負極の作製
負極活物質として人造黒鉛、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、96.4:1.9:1.7の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分50質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ10μmの銅箔の片面に銅箔の一部が露出するように塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量を86g/m2とした。更に負極合剤部分の密度が1.45g/cm3となるようにロールプレスで圧延した。その後、塗布部が32mm×52mmで、かつ銅箔露出部を含むように裁断し、負極を得た。
【0187】
c.非水系電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させ、更にビニレンカーボネートを1.0重量%となるように添加し、非水系電解液を調製した。
【0188】
d.電池組立
セパレータから60mm×40mm角を切り取り試料とした。
正極と負極の活物質面が対向するように、かつ正極と負極との間に介在するように、幅55mmの長尺のセパレータをつづら折りしながら、両面負極15枚、両面正極14枚からなる積層体とした。この時、試料の無機多孔質層が正極に対向するように配置した。この積層体の14枚の正極アルミニウム箔の露出部に、シーラント付きのアルミニウム製リード片を溶接し、15枚の負極銅箔の露出部に、シーラント付きのニッケル製リード片を溶接した後、アルミニウムラミネート外装体内に挿入し、正・負極リード片が露出する辺とその他2辺との計3辺をラミネートシールした。次に上記非水系電解液を外装体内に注入し、その後開口部を封止して、28対向のラミネート型電池を作製した。得られた電池を室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、330mA(0.3C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するように定電圧充電を行うという方法で、合計8時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、330mA(0.3C)の電流値で電池電圧3.0Vまで電池を放電した。
【0189】
電池サイクル安定性2の評価
上記「d.電池組立」で得られた電池の充放電は、25℃雰囲気下で1000サイクル実施した。充電については、1A(1.0C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するように定電圧充電を行うという方法で、合計3時間電池を充電した。放電については、1A(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで電池を放電した。1000サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率を算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
【0190】
電池の破壊に対する安全性試験2(電池破壊試験2)
安全性試験は、4.5Vまで充電した電池に鉄釘を30mm/secの速度で打ち込み、貫通させて、内部短絡を起こす試験である。本試験は、内部短絡による電池の電圧低下の時間変化挙動、及び内部短絡による電池表面温度上昇挙動を測定することで、内部短絡時の現象を明らかにできる。また、内部短絡時にセパレータの不十分なシャットダウン機能又は低温での破膜により、電池の急激な発熱が生じる場合があり、それに伴い、電解液が発火し、電池が発煙、及び/又は爆発することがある。
【0191】
(13)シャットダウン&破膜温度の測定2
(ヒューズ/メルトダウン(F/MD)特性2)
実施例28-41と比較例30-44では、F/MD特性を次のように測定した。
直径200mmの円形状に正極、セパレータ、及び負極を切出し、重なり合わせて得られた積層体に、電解液を加え、全体に染みわたした。直径600mmの円形状アルミヒーターの中心部に積層体を挟み、油圧ジャッキでアルミヒーターを上下から0.5MPaに加圧し、測定の準備を完了とした。昇温速度を2℃/minの速度で、アルミヒーターで積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定した。セパレータのヒューズともに電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えた時の温度をヒューズ温度(シャットダウン温度)とした。また、さらに加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がる時の温度をメルトダウン温度(破膜温度)とした。なお、測定においては、上記(12)の項目「a.正極の作製」により作製された正極のアルミニウム箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させたものを用いた。また、測定においては、上記(12)の項目「b.負極の作製」により作製された負極の銅箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させたものを用いた。さらに、測定においては、上記(12)の項目「c.非水電解液の調製」により調製された電解液をF/MD特性試験にも使用した。
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】