(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】処理装置、および算出システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/389 20190101AFI20240327BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240327BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240327BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20240327BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R31/392
G01R31/367
G01R19/00 A
G01R19/00 L
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2022010206
(22)【出願日】2022-01-26
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 泰輔
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118642(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112180265(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0363530(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370976(US,A1)
【文献】特開2005-164295(JP,A)
【文献】特開昭61-046113(JP,A)
【文献】特開2008-157911(JP,A)
【文献】特開2017-83379(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218373(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/123904(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0306504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/389
G01R 31/392
G01R 31/367
G01R 19/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な電池に充放電される
電流を示すアナログ電流信号および該電池の
電圧を示すアナログ電圧信号のうちの少なくとも一方である
アナログ電池信号
を変換用サンプリング周波数でサンプリングすることによりデジタル電池信号に変換する第1AD変換部と、
前記デジタル電池信号から第1周波数
帯域の信号を抽出することにより第1信号を生成する第1フィルタ部と、
第1正弦波信号を生成する生成部と、
前記第1信号に前記第1正弦波信号を乗算することにより第1乗算信号を生成する第1乗算部と、
前記第1乗算信号から第2周波数
帯域の信号を抽出することにより第2信号を生成する第2フィルタ部と、
前記第2信号を第1サンプリング周波数でサンプリングする第1サンプリング部とを備え、
前記第1周波数帯域は、前記第1サンプリング周波数を2で除算した値よりも大きく、前記変換用サンプリング周波数を2で除算した値よりも小さく、
前記第2周波数帯域は、前記第1サンプリング周波数を2で除算した値よりも小さい、処理装置。
【請求項2】
前記
アナログ電池信号は、前記
アナログ電流信号および前記
アナログ電圧信号を含み、
前記第1AD変換部は、前記アナログ電圧信号を前記変換用サンプリング周波数でサンプリングすることによりデジタル電圧信号に変換し、
前記第1フィルタ部は、前記
デジタル電圧信号から前記第1周波数
帯域の信号を抽出することにより前記第1信号を生成し、
前記生成部は、第2正弦波信号を生成し、
前記処理装置は、さらに、
前記アナログ電流信号を前記変換用サンプリング周波数でサンプリングすることによりデジタル電流信号に変換する第2AD変換部と、
前記
デジタル電流信号から第3周波数
帯域の信号を抽出することにより第3信号を生成する第3フィルタ部と、
前記第3信号に前記第2正弦波信号を乗算することにより第2乗算信号を生成する第2乗算部と、
前記第2乗算信号から第4周波数
帯域の信号を抽出することにより第4信号を生成する第4フィルタ部と、
前記第4信号を
前記第1サンプリング周波数でサンプリングする第2サンプリング部とを備え、
前記第3周波数帯域は、前記第1サンプリング周波数を2で除算した値よりも大きく、前記変換用サンプリング周波数を2で除算した値よりも小さく、
前記第4周波数帯域は、前記第1サンプリング周波数を2で除算した値よりも小さい、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記第1正弦波信号と前記第2正弦波信号とは同一である、請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の前記処理装置と、
前記電池のインピーダンスを算出する第1算出部と、
前記電池の劣化度を算出する第2算出部とを備え、
前記処理装置は、さらに、
前記
デジタル電圧信号から第5周波数
帯域の信号を抽出することにより第5信号を生成する第5フィルタ部と、
前記
デジタル電流信号から第6周波数
帯域の信号を抽出することにより第6信号を生成する第6フィルタ部と、
前記第2信号、前記第4信号、前記第5信号、および前記第6信号を前記第1算出部に対して送信する通信部とを備え、
前記第1算出部は、
前記第5信号および前記第6信号に基づいて前記電池の低周波側の第1インピーダンスを算出し、
前記第2信号および前記第4信号に基づいて前記電池の高周波側の第2インピーダンスを算出し、
前記第2算出部は、前記第1インピーダンスおよび前記第2インピーダンスに基づいて前記電池の劣化度を推定
し、
前記第5周波数帯域は、前記第1サンプリング周波数を2で除算した値よりも小さく、
前記第6周波数帯域は、前記第1サンプリング周波数を2で除算した値よりも小さい、算出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理装置、および算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2021-12065号公報(特許文献1)には、電池のインピーダンスを算出する電池監視装置が開示されている。この電池監視装置は、電池のインピーダンスを算出するために、所定のサンプリング周波数でサンプリングすることにより電圧または電流のデジタル信号を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電流信号および電圧信号のうちの少なくとも一方である電池信号の高周波信号を取得する場合において、サンプリング周波数の1/2以上の周波数の成分が残存したまま、該電池信号に対してサンプリング処理が実行されると、エイリアシングの影響が生じてしまう。そこで、エイリアシングの影響が生じないように、サンプリング周波数を増加させることが考えられる。しかしながら、サンプリング周波数を大きくすると、装置のコストが高くなるなどの支障が生じる。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、サンプリング周波数を大きくすることなく、電池信号の高周波信号を取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による処理装置は、第1フィルタ部と、生成部と、第1乗算部と、第2フィルタ部と、第1サンプリング部とを備える。第1フィルタ部は、充放電可能な電池に充放電される電流信号および該電池の電圧信号のうちの少なくとも一方である電池信号から第1周波数成分の信号を抽出することにより第1信号を生成する。生成部は、第1正弦波信号を生成する。第1乗算部は、第1信号に第1正弦波信号を乗算することにより第1乗算信号を生成する。第2フィルタ部は、第1乗算信号から第2周波数成分の信号を抽出することにより第2信号を生成する。第1サンプリング部は、第2信号を第1サンプリング周波数でサンプリングする。第1信号は、第1サンプリング周波数の1/2より大きい第1特定周波数の信号を含む。第2信号は、第1特定周波数より小さい周波数の信号を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、サンプリング周波数を大きくすることなく、電池信号の高周波信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態の車両の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図4】比較例の処理部で生成される信号などを示す図である。
【
図5】本実施の形態の処理部の構成例を示す図である。
【
図6】本実施の形態の処理部の原理を説明するための図である。
【
図7】本実施の形態の処理部の原理を説明するための図である。
【
図8】本実施の形態の処理部の原理を説明するための図である。
【
図9】インピーダンス算出部の機能ブロック図である。
【
図11】BMUの処理を示すフローチャートである。
【
図13】変形例の処理部の原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0010】
[車両の構成]
図1は、本実施の形態による状態算出装置を備えた車両1の構成の一例を模式的に示す図である。車両1は、駆動輪2と、駆動輪2に機械的に連結されたモータジェネレータ3と、電力制御装置(PCU:Power Control Unit)4と、電池5と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)6と、電池監視装置(BMU:Battery Management Unit)100とを備える。BMU100は、本開示の「算出システム」に対応する。
【0011】
車両1は、モータジェネレータ3の動力を用いて走行する電動車両である。なお、車両1に、モータジェネレータ3以外の動力源(たとえばエンジン)が備えられていてもよい。
【0012】
モータジェネレータ3は、たとえば、三相交流回転電機である。モータジェネレータ3は、電池5からPCU4を経由して供給される電力によって駆動される。また、モータジェネレータ3は、駆動輪2から伝達される動力を用いて回生発電を行ない、発電した電力をPCU4を経由して電池5に供給することもできる。
【0013】
電池5は、たとえばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池のような、二次電池(充放電可能な電池)を含んで構成される。二次電池は、単電池であってもよいし、組電池であってもよい。
【0014】
PCU4は、ECU6からの指示に応じて作動するインバータ41および昇降圧コンバータなどを含んで構成される。PCU4は、ECU6からの指示に応じて、電池5から供給される電力をモータジェネレータ3を駆動可能な電力に変換してモータジェネレータ3に供給する。また、PCU4は、モータジェネレータ3が発電した電力を電池5を充電可能な電力に変換して電池5に供給する。
【0015】
図示していないが、車両1には、運転者によるアクセルペダル操作量、ブレーキペダル操作量、車速など、車両1を制御するために必要なさまざまな物理量を検出するための複数のセンサが設けられる。これらのセンサは、検出結果をECU6に送信する。
【0016】
BMU100は、電池5の電圧、電流、温度を検出する。また、後述するように、BMU100は、電池5のインピーダンスおよび抵抗劣化度を算出する機能も有する。BMU100は、算出結果および検出結果をECU6に出力する。
【0017】
BMU100は、プロセッサ181と、メモリ182と、通信I/F183とを有する。プロセッサ181は、所定の演算処理を実行するように構成されている。メモリ182は、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。ROMは、プロセッサ181にて実行されるプログラムを格納する。RAMは、プロセッサ181におけるプログラムの実行により生成されるデータなどを一時的に格納する。RAMは、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能できる。通信I/F183は、外部の装置(ECU100など)と通信するように構成されている。
【0018】
ECU6は、各センサおよびBMU100からの情報およびメモリに記憶された情報に基づいて所定の演算処理を実行し、演算結果に基づいてPCU4を制御する。
【0019】
図2は、BMU100の機能ブロック図である。BMU100は、測定部15と、電流測定部10と、電圧測定部20と、処理部30と、インピーダンス算出部50と、劣化度算出部80と、基準インピーダンス記憶部70とを備える。測定部15は、電流測定部10と、電圧測定部20とを有する。なお、電流測定部10は「第1測定部」に対応し、電圧測定部20は「第2測定部」に対応し、インピーダンス算出部50は「第1算出部」に対応し、劣化度算出部80は「第2算出部」に対応し、基準インピーダンス記憶部70は、「記憶部」に対応する。また、処理部30が、本開示の「処理装置」に対応する。
【0020】
また、処理部30と、インピーダンス算出部50とは基準電位が異なる。したがって、処理部30と、インピーダンス算出部50とは、そのままの信号の送受信を行うことが困難である。本実施の形態においては、処理部30と、インピーダンス算出部50とは絶縁通信により信号の送受信を行う。また、処理部30、およびインピーダンス算出部50との各々が、上述のプロセッサ181と、メモリ182と、通信I/F183とを有する。
【0021】
電流測定部10は、電池5に充放電される電流を測定して処理部30に出力する。「電池5に充放電される電流」とは、電池5に充電される電流、または、電池5から放電される電流を示す。電圧測定部20は、電流測定部10による電流測定中における電池5の電圧を測定して処理部30に出力する。
【0022】
[比較例]
図3は、比較例の処理部の構成を説明するための図である。
図3の例では、測定部86と、LPF(ローパスフィルタ:Low Pass Filter)81と、アナログデジタル変換部(以下、「ADC82」とも称される。)と、LPF83と、通信部84とを有する。
図3の例では、測定部86は、電池5を測定することにより電圧信号を出力する。通信部84は、該電圧信号に対してLPF81と、ADC82と、LPF83とにより所定の処理が施された信号を算出部85に出力する。
【0023】
図3の例では、ADC82は、該ADC82に入力したアナログ信号をサンプリング周波数fs1でサンプリングすることにより、該アナログ信号をデジタル信号に変換する。また、通信部84は、該通信部84に入力したデジタル信号をサンプリング周波数fs2でサンプリングして、算出部85に出力する。また、
図3の例では、fs1>fs2である。
【0024】
ここで、ADC82のサンプリング周波数fs1のナイキスト周波数は、(fs1)/2となり、通信部84のサンプリング周波数fs2のナイキスト周波数は、(fs2)/2となる。
【0025】
一般的に、サンプリング処理において、ナイキスト周波数を越える周波数をサンプリングした場合には、エイリアシングの影響が発生する。たとえば、ADC82によるサンプリング前の信号の周波数が11Hzあり、サンプリング周波数が10Hzである場合を説明する。この場合には、ナイキスト周波数は、5Hzとなることから、11Hz>5Hzとなる。そして、実際は11Hzであるにもかかわらず、1Hzの信号に変換されてしまうというエイリアシングの影響が生じてしまう。
【0026】
そこで、サンプリング周波数を大きくすることが考えられる。たとえば、上記の例では、サンプリング周波数を22Hz以上にすることが考えられる。しかしながら、このように、サンプリング周波数を大きくすると、サンプリング処理のコストが増大するという問題が生じる。
【0027】
図3の例では、このようなエイリアシングを低減するために、サンプリング処理の前にLPF81およびLPF82が配置される。LPF81およびLPF82は、アンチエイリアシングフィルタである。
【0028】
LPF81は、(fs1)/2以上の周波数成分(高周波成分)の信号を除去する。また、LPF83は、(fs2)/2以上の周波数成分(高周波成分)の信号を除去する。このように高周波成分の信号が除去される。
【0029】
図4は、該除去された信号を示す図である。
図4の横軸は周波数を示す。
図4に示すように、比較例の処理部では、エイリアシングを除去するために、(fs1)/2以上の周波数成分(高周波成分)が除去されてしまう。よって、通信部84は、高周波成分が除去された電圧信号をインピーダンス算出部に出力してしまい、正確なインピーダンスを算出することができない。また、
図3および
図4では、特に図示しないが、測定部86は、電流信号も測定する。比較例の処理部では、上記と同様の理由で、高周波成分が除去された電圧信号をインピーダンス算出部に出力してしまう。
【0030】
そこで、本実施の形態の処理部30は、エイリアシングの影響を抑制し、サンプリング周波数を増加させずに、かつ除去された高周波成分の信号を補填するように構成される。
【0031】
[処理部の構成]
図5は、処理部30の構成例を示す図である。下記の説明において、「Xより大きい」は、「X以上である」と代替されてもよい。また、「X未満である」は、「Xより小さい」と代替されてもよい。
【0032】
処理部30は、アナログ回路120と、ADC109と、ADC110と、集積回路122と、生成部113とを有する。集積回路122は、たとえば、ASIC(application specific integrated circuit)により構成される。
【0033】
アナログ回路120は、LPFである第7フィルタ部107と、LPFである第8フィルタ部108とを有する。第7フィルタ部107と、第8フィルタ部108とは共にアナログ回路で構成される。
【0034】
集積回路122は、BPF(バンドパスフィルタ:Band Pass Filter)である第1フィルタ部101と、LPFである第2フィルタ部102と、BPFである第3フィルタ部103と、LPFである第4フィルタ部104と、LPFである第5フィルタ部105と、LPFである第6フィルタ部106と、第1乗算部111と、第2乗算部112と、生成部113との機能を有する。
【0035】
また、
図5に示されるLPF(第2フィルタ部102、第4フィルタ部104、第5フィルタ部105、第6フィルタ部106、第7フィルタ部107、第8フィルタ部108)は、アンチエイリアシングフィルタである。
【0036】
また、電圧信号用のADC109は、サンプリング周波数fs1で電圧信号をサンプリングする。電流信号用のADC110は、サンプリング周波数fs1で電流信号をサンプリングする。ADC109とADC110とのサンプリング周波数は同一である。また、通信部114は、該通信部114に入力された信号をサンプリング周波数fs2でサンプリングする。サンプリング周波数fs2は、通信部114の通信周期に対応する。また、通信部114は、本開示の「第1サンプリング部」および「第2サンプリング部」に対応する。また、サンプリング周波数fs2は、本開示の「第1サンプリング周波数」および「第2サンプリング周波数」に対応する。「第1サンプリング部」および「第2サンプリング部」は別の構成としてもよい。
【0037】
まず、電圧信号の流れを説明する。電圧測定部20で測定された電圧信号は、第7フィルタ部107に入力される。第7フィルタ部107は、第7周波数成分の信号を抽出することにより第7信号を生成する。第7信号は、アナログ信号である。第7周波数成分は、(fs1)/2未満の周波数成分である。つまり、第7信号は、(fs1)/2以上の周波数成分が削除された電圧信号である。第7信号は、ADC109に入力される。第7信号は、ADC109により、サンプリング周波数fs1によりサンプリングされる。
【0038】
ADC109によりサンプリングされた電圧信号は、第1フィルタ部101と、第5フィルタ部105とに入力される。該サンプリングされた信号は、本開示の「電池信号」に対応する。
【0039】
第1フィルタ部101は、該サンプリングされた信号から第1周波数成分の信号を抽出することにより第1信号を生成する。ここで、第1周波数成分は、(fs2)/2より大きく、(fs1)/2未満となる周波数帯である。第1信号は、第1乗算部111に入力される。また、生成部113は、正弦波信号を生成し、該正弦波信号を第1乗算部111と第2乗算部112とに出力する。本実施形態においては、第1乗算部111と第2乗算部112とに入力される正弦波信号は同一である。該同一の正弦波信号は、本開示の第1正弦波信号および第2正弦波信号に対応する。なお、変形例として、第1正弦波信号と第2正弦波信号とは異なっていてもよい。
【0040】
第1乗算部111は、第1信号に正弦波信号(第1正弦波信号)を乗算することにより第1乗算信号を生成する。第1乗算信号は、第2フィルタ部102に出力される。第2フィルタ部102は、第1乗算信号から第2周波数成分の信号を抽出することにより第2信号を生成する。ここで、第2周波数成分は、(fs2)/2未満の周波数成分である。つまり、第2信号は、(fs2)/2以上の周波数成分が削除された電圧信号である。第2信号は、通信部114に入力される。また、後述するように、第2信号は、電圧の高周波信号VHである。
【0041】
また、第5フィルタ部105は、ADC109からの信号から第5周波数成分の信号を抽出することにより第5信号を生成する。第5信号は、通信部114に入力される。また、後述するように、第5信号は、電圧の低周波信号VLである。第5周波数成分の周波数および後述の第6周波数成分の周波数は、(fs2)/2よりも小さい。
【0042】
次に、電流信号の流れを説明する。電流測定部10で測定された電流信号は、第8フィルタ部108に入力される。第8フィルタ部108は、第8周波数成分の信号を抽出することにより第8信号を生成する。第8周波数成分は、(fs1)/2未満の周波数成分である。つまり、第8信号は、(fs1)/2以上の周波数成分が削除された電流信号である。第8信号は、ADC110に入力される。第8信号は、ADC110により、サンプリング周波数fs1によりサンプリングされる。
【0043】
ADC110によりサンプリングされた電流信号は、第3フィルタ部103と、第6フィルタ部106とに入力される。該サンプリングされた電流信号は、本開示の「電池信号」に対応する。
【0044】
第3フィルタ部103は、該サンプリングされた信号から第3周波数成分の信号を抽出することにより第3信号を生成する。ここで、第3周波数成分は、(fs2)/2より大きく、(fs1)/2未満となる周波数帯である。第3信号は、第2乗算部112に入力される。
【0045】
第2乗算部112は、第3信号に正弦波信号(第2正弦波信号)を乗算することにより第2乗算信号を生成する。第2乗算信号は、第4フィルタ部104に出力される。第4フィルタ部104は、第2乗算信号から第4周波数成分の信号を抽出することにより第4信号を生成する。ここで、第4周波数成分は、(fs2)/2未満の周波数成分である。つまり、第4信号は、(fs2)/2以上の周波数成分が削除された電流信号である。第4信号は、通信部114に入力される。また、後述するように、第4信号は、電流の高周波信号IHである。
【0046】
また、第6フィルタ部106は、ADC110からの信号から第6周波数成分の信号を抽出することにより第6信号を生成する。第6信号は、通信部114に入力される。また、後述するように、第6信号は、電流の低周波信号ILである。
【0047】
通信部は、第2信号、第4信号、第5信号、および第6信号をサンプリング周波数fs2でサンプリングし、該サンプリングした信号をインピーダンス算出部50に出力する。
【0048】
[原理]
次に、処理部30により、サンプリング周波数を増加させずにかつ除去された高周波成分の信号を補填できる原理を説明する。
図6は、この原理を説明するための図である。
図6(A)、
図6(B)、および
図6(C)においては横軸は周波数を示し、縦軸は強度を示す。また、
図6(A)~
図6(C)は、それぞれ、第1フィルタ部101、第1乗算部111、および第2フィルタ部102により抽出される信号の成分が示されている。
【0049】
図6(A)においては、第1信号の成分201と、周波数fLoの正弦波信号の成分202との成分が示されている。ここで、第1信号の成分201は、第1フィルタ部101により抽出された成分である。また、BFPである第1フィルタ部101の中心周波数fAは、(fs2)/2より大きい。また、正弦波信号の周波数は、fLoである。正弦波信号の成分202は、生成部113により生成された成分である。また、
図6(A)においては、fA-fLoという差分が示されている。
【0050】
成分201(第1信号)は、(fs2)/2より大きい高周波(第1特定周波数)である高周波成分である。このように、第1信号は、第1サンプリング周波数fs2の1/2より大きい第1特定周波数の信号を含む信号である。一方、第5フィルタ部105では、(fs2)/2以上の成分は削除される。したがって、第5フィルタ部105からの信号には、成分201は含まれない。
【0051】
図6(B)は、第1乗算部111が、第1信号の成分201に対して、正弦波信号の成分202との成分を乗算した結果の成分を示す図である。
図6(B)の例では、第1信号の成分201は、低周波成分203と高周波成分204とに分割される。このように、第1乗算信号は、低周波成分203と高周波成分204とにより構成される。低周波成分203の周波数帯域は、fLo-fAとなり、高周波成分204の周波数帯域は、fLo+fAとなる。低周波成分203の周波数帯域は、第2周波数成分f2、第5周波数成分f5、および(fs2)/2のいずれよりも小さい。また、高周波成分204の周波数帯域は、第2周波数成分f2、第5周波数成分f5、および(fs2)/2のいずれよりも大きく、かつ、(fs1)/2よりも小さい。低周波成分203および高周波成分204の強度は、成分201の強度よりも小さい。
【0052】
図6(C)は、第1乗算信号(低周波成分203と高周波成分204)のうちの高周波成分204が、LPFである第2フィルタ部102により削除されたことを示す図である。したがって、(fs2)/2よりも高周波である成分201の低周波成分203が抽出されることになる。この低周波成分203が、第2信号に対応する。
【0053】
このように、第1フィルタ部101の第1周波数成分の中心周波数fAは、(fs2)/2より大きい。また、中心周波数fAは、(fs1)/2未満である。さらに、正弦波信号の周波数fLoについては、以下の式(A)が成り立つように設定される。
fLo-fA<(fs2)/2 (A)
また、電流成分についても同様に、第6フィルタ部106により、(fs2/2)未満の成分(低周波成分203に対応する成分)が第6信号として抽出される。また、
図6と同様の原理により、低周波成分203に対応する成分が、第4信号として通信部114に入力される。また、第6フィルタ部106では、(fs2)/2以上の成分は削除される。
【0054】
図7は、第1フィルタ部101により抽出された後の信号に、後発的にノイズ成分fNが含まれた場合を示す図である。
図7の例でのノイズ成分210の周波数fNは、(fs2)/2未満の帯域に含まれている。
【0055】
この場合には、第1乗算部111は正弦波信号をノイズ成分210に乗算することにより、ノイズ成分210は、低周波ノイズ成分211と、高周波ノイズ成分212とに分割される。
図7に示すように、低周波ノイズ成分211の周波数は、fLo-fNとなり、高周波ノイズ成分212の周波数は、fLo+fNとなる。fLo-fNおよびfLo+fNは、(fs2)/2よりも大きい。
【0056】
次に、第2フィルタ部102は、(fs2)/2より大きい周波数成分を除外することから、高周波成分204のみならず、低周波ノイズ成分211、および高周波ノイズ成分212も削除できる。したがって、処理部30は、第1フィルタ部101から出力された信号にノイズ成分210が含まれてしまった場合であっても、該ノイズ成分を削除できる。また、同様の理由で、処理部30は、第3フィルタ部103から出力された信号にノイズ成分210が含まれてしまった場合であっても、該ノイズ成分を削除できる。
【0057】
図8は、第1フィルタ部101の中心周波数fAが、50Hzであり、かつ、正弦波信号の周波数が52Hzである場合の、第1フィルタ部101、第1乗算部111、および第2フィルタ部102の処理を説明するための図である。
【0058】
図8(A)は、中心周波数が50Hzである第1フィルタ部101からの第1信号の一例である。
図8(B)は、第1乗算信号の一例である。第1乗算信号は、この第1信号に対して第1乗算部111が周波数fLoが52Hzである正弦波信号を乗算することにより得られる信号である。
図8(B)の例の第1乗算信号は、2Hz(=fLo-fA)の信号と、102Hz(=fLo+fA)の信号との合成信号となる。
【0059】
図8(C)は、第2フィルタ部102により、生成された第2信号の一例である。
図8(C)の例では、第2信号は、2Hz(=fLo-fA)となる。
図8(D)は、通信部114によりサンプリングされた信号である。つまり、
図8(D)は、インピーダンス算出部50に送信される信号である。
【0060】
[インピーダンス算出部]
図9は、インピーダンス算出部50の機能ブロック図である。インピーダンス算出部50は、第9フィルタ部51と、第10フィルタ部52と、第11フィルタ部58と、第12フィルタ部59と、位相部53と、逆数部54,55と、乗算部56,57と、第11フィルタ部58と、第12フィルタ部59とを備える。
【0061】
以下では、処理部30から送信された電流(第4信号および第6信号)は、I(t)とも称される。また、処理部30から送信された電圧(第2信号および第5信号)は、V(t)とも称される。ただし、「t」は、時間の変数である。
【0062】
第9フィルタ部51には、電流I(t)が入力される。第9フィルタ部51は、電流I(t)の周波数帯の成分を抽出して位相部53と逆数部54とに出力する。以下では、第9フィルタ部51によって抽出された電流の周波数帯の成分は「抽出電流成分」または「電流成分」とも称される。電流成分は、Iω(t)と称される。また、周波数帯は、予め定められた周波数帯としてもよく、所定の手法により算出されてもよい。
【0063】
逆数部54は、電流成分Iω(t)の逆数である1/Iω(t)を算出する。逆数部54が算出した逆数1/Iω(t)は、乗算部56に出力される。
【0064】
位相部53は、電流成分Iω(t)の位相をπ/2ずらす演算を実行する。ここで、「位相をπ/2ずらす演算」とは、位相をπ/2早める演算としてもよく、位相をπ/2遅らせる演算としてもよい。π/2ずらす演算は、本開示の「第1演算」に対応する。本実施の形態においては、第1演算は、電流成分Iω(t)の位相をπ/2遅らせる演算である。
【0065】
なお、後述するように、位相部53は、電流成分の位相および電圧成分の位相の少なくとも一方を相対的にπ/2ずらせば良く、位相部53は第9フィルタ部51ではなく、第10フィルタ部52に接続されてもよい。
【0066】
第1演算が実行された(位相がπ/2ずらされた)電流成分は、「電流成分Iωd(t)」とも称される。位相部53が算出した電流成分Iωd(t)は、逆数部55に出力される。逆数部55は、電流成分Iωd(t)の逆数である1/Iωd(t)を算出する。逆数部54が算出した逆数1/Iωd(t)は、乗算部56に出力される。
【0067】
第10フィルタ部52には、電圧V(t)が入力される。第10フィルタ部52は、電圧Vの周波数帯の成分を抽出して乗算部56および乗算部57に対して出力する。以下では、第10フィルタ部52によって抽出された電圧の周波数帯の成分は、「電圧成分Vω(t)」とも称される。また、第9フィルタ部51で使用される周波数帯と、第10フィルタ部52で使用される周波数帯とは同一である。第10フィルタ部52で抽出された電圧成分Vω(t)は、乗算部56および乗算部57に出力される。
【0068】
乗算部56は、逆数部54からの1/Iω(t)と、第10フィルタ部52からのVω(t)とを乗算する。つまり、乗算部56は、Vω(t)/Iω(t)を算出する。このように、インピーダンス算出部50は、第10フィルタ部52からのVω(t)を逆数部54からのIω(t)で除算する。このように、第1演算の実行後の電流成分および電圧成分において、該電圧成分を該電流成分で除算する演算は、本開示の「第2演算」に対応する。また、Vω(t)/Iω(t)は、本開示の「第1値」に対応する。
【0069】
乗算部57は、逆数部55からの1/Iωd(t)と、第10フィルタ部52からのVω(t)とを乗算する。つまり、乗算部56は、Vω(t)/Iωd(t)を算出する。換言すれば、インピーダンス算出部50は、1/Iωd(t)と、Vω(t)との第2演算を実行することにより、Vω(t)/Iωd(t)を算出する。Vω(t)/Iωd(t)は、本開示の「第2値」に対応する。
【0070】
以上のように、位相部53は、上記の第1演算を実行する第1演算部とも称される。また、逆数部54,55と、乗算部56,57とはまとめて、上述の第2演算を実行する第2演算部とも称される。
【0071】
乗算部56からのVω(t)/Iω(t)は、第11フィルタ部58に出力される。第11フィルタ部58は、Vω(t)/Iω(t)(第1値)の時間変動成分を削除することにより、電池5のインピーダンスの実部Zreを算出する。時間変動成分は、時間とともに変動する成分であり、詳細は後述する。
【0072】
乗算部57からのVω(t)/Iωd(t)は、第12フィルタ部59に出力される。第12フィルタ部59は、Vω(t)/Iωd(t)(第2値)の時間変動成分を削除することにより、電池5のインピーダンスの虚部Zimを算出する。
【0073】
統合部60は、第11フィルタ部58からの実部Zreと、第12フィルタ部59からの虚部Zimとを統合することにより、インピーダンスZを算出する。
【0074】
本実施の形態においては、第5信号(VL)を電圧V(t)とし、第6信号(IL)を電流I(t)とする。インピーダンス算出部50は、第5信号および第6信号に基づいて、低周波成分のインピーダンスZL(第1インピーダンス)を算出する。また、第2信号(VH)を電圧V(t)とし、第4信号(IL)を電流I(t)とする。インピーダンス算出部50は、第2信号および第4信号に基づいて高周波成分のインピーダンスZH(第2インピーダンス)を算出する。インピーダンス算出部50は、インピーダンスZLおよびインピーダンスZHを劣化度算出部80に送信する。
【0075】
インピーダンス算出部50は、低周波成分のインピーダンスZLおよび高周波成分のインピーダンスZHを並行して算出するようにしてもよい。また、インピーダンス算出部50は、低周波成分のインピーダンスZLおよび高周波成分のインピーダンスZHのいずれかのうち一方を算出した後に他方を算出するようにしてもよい。
【0076】
[インピーダンスプロット]
図10は、劣化度算出部80により生成されるインピーダンスプロットの一例である。
図10の例では、上述の低周波成分のインピーダンスZLと、上述の高周波成分のインピーダンスZH(以下、「2個のインピーダンス」とも称される。)がプロットされたインピーダンスプロットの一例が示されている。
図10において、横軸が実部Zreを示し、縦軸が虚部-Zimを示す。また、
図10の例では、インピーダンスプロットにより円弧が描かれている。
【0077】
図10(A)は、劣化度算出部80により生成されるインピーダンスプロットの一例である。また、
図10(A)では、電池5が劣化していないときに生成されるインピーダンスプロット(以下、「基準インピーダンスプロット」とも称される。)の一例でもある。基準インピーダンスプロットは、基準インピーダンス記憶部70に記憶されている。
【0078】
また、
図10(A)の例では、直線Mが示されている。基準線Mは、高周波側インピーダンスと低周波側インピーダンスとの基準を示す線である。
図10(A)の例では、横軸の実部Zreにおいて、基準線Mより大きい方の領域A1のインピーダンスプロットが、低周波側のインピーダンスZLにより算出される。また、横軸の実部Zreにおいて、基準線Mより小さい方の領域A2のインピーダンスプロットが、高周波側のインピーダンスZHにより算出される。
【0079】
図10(B)は、電池5がハイレート劣化している状態において、インピーダンス算出部50により算出された2個のインピーダンスがプロットされたインピーダンスプロットの一例を示す図である。
図10(C)は、電池5が経年劣化している状態において、インピーダンス算出部50により算出された2個のインピーダンスがプロットされたインピーダンスプロットの一例を示す図である。
【0080】
図10(A)に示すように、電池5が劣化していない状態(たとえば、電池5が製造された直後の初期状態)においては、円弧の始点Xは、直流抵抗Rの初期値(以下、初期直流抵抗R0とも称される)を表す。円弧と直線との接続点Yと、円弧の始点Xとの実数成分の差は、反応抵抗Rctの初期値(以下、初期反応抵抗Rct0とも称される)を表す。
【0081】
図10(B)に示すように、電池5のハイレート劣化が進行すると、直流抵抗Rが増加する。これにより、
図10(B)中に矢印で示すように、円弧の始点が
図10(B)中において右方向にシフトする。
図10(B)において、円弧の始点RB(RB>R0)が示されている。
【0082】
一方で、電池5の経年劣化が比較的進行していない場合には、円弧の大きさRctBは、初期状態における円弧の大きさRct0からあまり変化しない。つまり、RB≒R0となる。
【0083】
その後、電池5の経年劣化が進行すると、
図10(C)に示すように、経年劣化の進行前と比べて、円弧の大きさがΔRct増加する。
図10(C)では、RC≒RB>R0となる。なお、
図10(C)に示す例では、
図10(B)に示した状態から電流が制限(大電流での充放電が抑制)されることにより、ハイレート劣化の進行が抑制されている。このため、円弧の始点のシフトはほとんど生じていない。つまり、RC≒RBである。
【0084】
劣化度算出部80は、第1インピーダンスと第2インピーダンスとに基づいてインピーダンスプロットを作成する。そして、劣化度算出部80は、作成したインピーダンスプロットと、基準インピーダンス記憶部70に記憶されている基準インピーダンスプロットとを比較することにより、電池5の劣化度を算出する(電池5の劣化度を推定する)。
【0085】
[フローチャート]
図11は、BMU100の主に処理部30の処理を示すフローチャートである。ステップS2において、BMU100の測定部15は、電池5に充放電される電流を検出する。また、ステップS2において、BMU100の測定部15は、該電流の測定中における電池5の電圧も検出する。
【0086】
次に、ステップS4~ステップS18の処理を説明する。ステップS4~ステップS18の処理は、処理部30による処理である。まず、電圧成分の信号について説明する。ステップS4において、処理部30は、第5フィルタ部105により第5信号を生成する。また、ステップS4と並行して、ステップS6において、処理部30は、第1フィルタ部101により第1信号を生成する。次に、ステップS8において、処理部30は、第1信号に対して正弦波信号を乗算することにより、第1乗算信号を生成する。次に、ステップS10において、処理部30は、第2フィルタ部102により第2信号を生成する。
【0087】
次に電流成分の信号について説明する。ステップS12において、処理部30は、第6フィルタ部106により第6信号を生成する。また、ステップS12と並行して、ステップS14において、処理部30は、第3フィルタ部103により第3信号を生成する。次に、ステップS16において、処理部30は、第3信号に対して正弦波信号を乗算することにより、第2乗算信号を生成する。次に、ステップS18において、処理部30は、第2フィルタ部102により第4信号を生成する。
【0088】
[総括]
一般的に、サンプリング対象の信号においてサンプリング周波数の1/2以上の周波数の成分が残存したまま、サンプリング処理が実行されると、エイリアシングの影響が生じてしまう。そこで、エイリアシングの影響が生じないように、サンプリング周波数を増加させることが考えられる。しかしながら、サンプリング周波数を大きくすると、装置のコストが高くなるなどの支障が生じる。電池5における単電池ごとに電圧が測定される。サンプリング周波数が大きくなると、サンプリング後の信号のデータ量が増加し、さらに単電池が増加すると、より大きく該信号のデータ量が増加してしまう。また、たとえば、ADC109またはADC110によるサンプリング周波数を大きくすることか考えられる。しかしながら、該サンプリング周波数は、通信部114でのサンプリング周波数は定まっていることから、律速されてしまう。
【0089】
そこで、本開示においては、第1フィルタ部101は、サンプリング周波数fs2の1/2以上の第1特定周波数の信号を含む第1信号を生成する。第2フィルタ部102は、該第1信号に含まれる信号であって第1特定周波数より小さい周波数の信号を含む第2信号(
図6の低周波成分203)を生成する。したがって、処理部30は、サンプリング周波数(fs2)の1/2以上の第1特定周波数の信号を、サンプリング周波数を増加させることなく取得することができる。
【0090】
また、本開示においては、第2フィルタ部102は、電圧信号について、サンプリング周波数fs2の1/2以上の第1特定周波数の信号の低周波成分を第2信号を生成できる。また、第4フィルタ部104は、電流信号について、サンプリング周波数fs2の1/2以上の第2特定周波数の信号の低周波成分を第4信号を生成できる。したがって、処理部30は、電流または電圧のいずれにおいても、サンプリング周波数の1/2以上の第1特定周波数の信号を、サンプリング周波数を増加させることなく取得することができる。
【0091】
また、第1乗算部111で用いられる第1正弦波信号と第2乗算部と用いられる第2正弦波信号とは、同一の周波数および同一の位相である正弦波信号である。したがって、第1正弦波信号と第2正弦波信号とが別である場合と比較して、処理負担を軽減できる。
【0092】
また、インピーダンス算出部50は、第5信号および第6信号に基づいて電池5の低周波側の第1インピーダンスZLを算出する。また、インピーダンス算出部50は、第2信号および第4信号に基づいて電池5の高周波側の第2インピーダンスZHを算出する。また、インピーダンス算出部50は、第1インピーダンスZLおよび第2インピーダンスZHに基づいてインピーダンスプロットを生成する。そして、前記電池の劣化度を算出する。そして、劣化度算出部80は、該インピーダンスプロットに基づいて電池5の劣化度を算出する。
【0093】
図3の比較例の構成であれば、第1特定周波数の信号(高周波側の信号)が削除されることから、高周波側の第2インピーダンスZHを算出できない。本実施形態においては、第1特定周波数の信号を取得できることから、第2インピーダンスZHを算出できる。したがって、BMU100は、電池5の劣化度をより正確に算出できる。
【0094】
また、第9フィルタ部51は、第6信号(IL)の第9周波数成分の信号を第9信号(IL)を抽出する。第10フィルタ部52は、第5信号(VL)の第10周波数成分の信号を第10信号(VL)を抽出する。そして、インピーダンス算出部50は、第9信号の位相および第10信号の位相の少なくとも一方を相対的にπ/2ずらす第1演算を実行する。また、インピーダンス算出部50は、第1演算の実行後の第9信号および第10信号を用いた第2演算を実行することにより、第1値および第2値(
図9参照)を算出する。そして、インピーダンス算出部50は、第1値および第2値から時間変動成分を削除することにより電池5の低周波側の第1インピーダンスZLを算出する。
【0095】
また、第9フィルタ部51は、第4信号(IH)の第9周波数成分の信号を第9信号(IH)を抽出する。第10フィルタ部52は、第2信号(VH)の第10周波数成分の信号を第10信号(VH)を抽出する。そして、インピーダンス算出部50は、第9信号の位相および第10信号の位相の少なくとも一方を相対的にπ/2ずらす第1演算を実行する。また、インピーダンス算出部50は、第1演算の実行後の第9信号(IH)および第10信号(VH)を用いた第2演算を実行することにより、第3値および第4値(
図9参照)を算出する。そして、インピーダンス算出部50は、第3値および第4値から時間変動成分を削除することにより電池5の高周波側の第2インピーダンスZHを算出する。
【0096】
たとえば、特開2021-12065号公報に記載のインピーダンスの算出であれば、ンピーダンスを算出するために正弦波電流を印可する必要がある。よって、無駄な電力を消費するという問題が生じ得る。本開示のインピーダンス算出部50であれば、無駄な電力の消費を低減して、電池のインピーダンスを算出することができる。
【0097】
また、上記の第2演算は、第1演算の実行後の第9信号(電流信号)および第10信号(電圧信号)において、第10信号の成分を第9信号の成分で除算する演算である。したがって、比較的簡単な演算で第2演算を実行できる。
【0098】
また、インピーダンス算出部50は、第1値から時間変動成分を削除することにより、第1インピーダンスの実部を算出し、第2値から時間変動成分を削除することにより、第1インピーダンスの虚部を算出し、実部と虚部とを統合することにより、第1インピーダンスを算出する。また、インピーダンス算出部50は、第3値から時間変動成分を削除することにより、第2インピーダンスの実部を算出し、第4値から時間変動成分を削除することにより、第2インピーダンスの虚部を算出し、実部と虚部とを統合することにより、第2インピーダンスを算出する。したがって、比較的、簡単な演算で第1インピーダンスおよび第2インピーダンスを算出できる。
【0099】
[数式による原理]
次に、第1フィルタ部101、第1乗算部111、第2フィルタ部102、第3フィルタ部103,第2乗算部112、第4フィルタ部104の処理の原理を数式を用いて説明する。
【0100】
電池5のインピーダンスである複素インピーダンスを実部と虚部とに分けて表す。そして、Z=V/Iとすると、第3信号は、以下の式(1)により表される。
【0101】
電池5のインピーダンスの複素インピーダンスを「Z」で示すと、複素インピーダンスZは、以下の式(1)により表される。
【0102】
Z=│Z│・ejφ (1)
ここで、式(1)の右辺の「e」は、自然対数の底を示し、「j」は虚数を示し、「φ」は、位相を示し、│Z│は、複素数インピーダンスの絶対値を示す。なお、│Z│およびφは周波数によって変化する。また、第3信号(電流信号)は、以下の式(2)で表すことができる。
第3信号=Isin(ωAt+φI) (2)
ここで、式(2)の「I」は振幅であり、「ωA」は角速度を表し、tは時間の変数を表し、φIは「位相」を示す。
【0103】
また、第1信号(電圧信号)は、以下の式(3)および式(4)で表すことができる。
第1信号=Vsin(ωAt+φI+φz) (3)
=Vsin(ωAt+φV) (4)
式(3)の「φz」は、電流と電圧との位相差を示す。また、式(4)のφVは、φIとφzとの和である。また、第1乗算信号は以下の式(5)で表される。
【0104】
第1乗算信号=Vsin(ωAt+φV)・cos(ωLt+φL)
=(V/2)・{sin((ωL+ωA)t+φV+φL)+sin(-((ωL-ωA)t-φV+φL))} (5)
ここで、式(5)および後述の式(6)において、cos(ωLt+φL)は、生成部113から出力される正弦波信号を示す。
【0105】
また、sin((ωL+ωA)t+φV+φL))が、電圧信号の高周波成分204(
図6参照)を示し、sin(-((ωL-ωA)t-φV+φL))が、電圧信号の低周波成分203を示す。また、第2乗算信号は以下の式(6)で表される。
【0106】
第2乗算信号=Isin(ωAt+φV)・cos(ωLt+φL)
=(I/2)・{sin((ωL+ωA)t+φI+φL)+sin(-((ωL-ωA)t-φI+φL))} (6)
また、sin((ωL+ωA)t+φI+φL))が、電流信号の高周波成分204を示し、sin(-((ωL-ωA)t-φI+φL))が、電流信号の低周波成分203を示す。
【0107】
そして、φI=φLとし、φV=φL+φzとすると、電圧信号の低周波成分(つまり、第2信号)および電流信号の低周波成分(つまり、第4信号)については、以下の式(7)および(8)で表すことができる。
【0108】
電圧信号の低周波成分(第2信号)
=-(V/2){sin((ωL-ωA)t-φz) (7)
電流信号の低周波成分(第4信号)
=-(V/2){sin((ωL-ωA)t) (8)
式(7)および式(8)に示すように、電圧信号と電流信号とにおいては、位相差φzが生じる。式(7)の電圧信号および式(8)の電流信号がインピーダンス算出部50に入力される。
【0109】
次に、インピーダンス算出部50による演算で電池5のインピーダンスが算出される原理を説明する。以下では、式(7)の電流信号をI(t)とし、式(8)の電圧信号をV(t)とする。複素インピーダンスZは、上記式(1)の他に、以下の式(2A)でも表される。
【0110】
Z=Zre+jZim (2A)
ここで、式(2A)の右辺の「Zre」は、インピーダンスの実部を示し、「Zim」はインピーダンスの虚部を示す。また、電流I(t)は、以下の式(3A)により表される。
【0111】
I(t)=I0+I1・ejω1t+I2・ejω2t+…In・ejωnt…
(3A)
ここで、式(3A)の右辺の「ωn」は、電流I(t)の角周波数を示し、「t」は、時間を示す。また、nは1以上の整数であり、電流I(t)に含まれるそれぞれの周波数成分を表す。また、I0は直流成分である。
【0112】
電流測定部10で測定される電流I(t)が式(3A)である場合には、電圧V(t)は、以下の式(4A)により表される。
【0113】
V(t)=I0・│Z0│+I1・│Z1│・ej(ω1t+φ1)
+I2・│Z2│・ej(ω2t+φ2)+…In・│Zn│・ej(ωnt+φn)…
(4A)
式(4A)に示すように、電流と、電圧とで、ωnの周波性成分については位相φnのズレが生じる。この位相φnが、式(7)で示した位相差φzに対応する。
【0114】
第9フィルタ部51が、式(3A)のI(t)から任意の角周波数ωの成分(上述の電流成分の一部)を抽出する。該抽出された電流成分Iω(t)を以下の式(5A)で表す。なお、以下の式では、計算の簡易化のために指数関数から三角関数に変換している。
【0115】
Iω(t)=Isinωt (5A)
抽出電流成分が式(5A)の場合には、抽出電圧成分Vω(t)は、以下の式(6A)により表すことができる。抽出電圧成分Vω(t)は、第10フィルタ部52が抽出する電圧成分である。
【0116】
Vω(t)=I・│Z│・sin(ωt+φ)
=I・│Z│・(cosφ・sinωt+sinφ・cosωt)
(6A)
また、乗算部56の演算は、以下の式(7A)となる。
【0117】
Vω(t)/Iω(t)
=│Z│・(cosφ・sinωt+sinφ・cosωt)/(sinωt)
=(│Z│・cosφ)+(│Z│・(sinφ)・(1/tanωt)) (7A)
ここで式(7A)の右辺の「│Z│・(sinφ)・(1/tanωt)」については、時間tで表されている。つまり、「│Z│・(sinφ)・(1/tanωt)」は、時間で変動する成分であり、上述の時間変動成分である。第11フィルタ部58は、この時間変動成分を削除する。そうすると、Vω(t)/Iω(t)は、以下の式(8A)により表される。
【0118】
Vω(t)/Iω(t)
=│Z│・cosφ
=Zre (8A)
このように、第11フィルタ部58による時間変動成分の削除により、電池5の複素インピーダンスの実部が算出される。
【0119】
また、位相部53により電流の位相がπ/2遅らされた電流成分Iωd(t)は、式(5A)が用いられて、以下の式(9A)により表される。
【0120】
Iωd(t)=Isin(ωt+(π/2))
=Icosωt (9A)
また、乗算部57の演算は、以下の式(10A)となる。
【0121】
Vω(t)/Iωd(t)
=│Z│・(cosφ・sinωt+sinφ・cosωt)/(cosωt)
=(│Z│・cosφ・tanωt)+(│Z│・sisφ) (10A)
ここで式(10A)の右辺の「│Z│・cosφ・tanωt」については、時間tで表されている。つまり、「│Z│・cosφ・tanωt」は、時間で変動する成分であり、上記時間変動成分である。なお、上記式(7A)では、Vω(t)をIω(t)で除算するが、Vω(t)をゼロで除算することを防止するために、Iω(t)が0でないときに該除算は実行される。また、上記式(10A)も同様に、Vω(t)をIωd(t)で除算するが、Vω(t)をゼロで除算することを防止するために、Iωd(t)が0でないときに該除算は実行される。
【0122】
第12フィルタ部59は、この時間変動成分を削除する。そうすると、Vω(t)/Iω(t)は、以下の式(11A)により表される。
【0123】
Vω(t)/Iωd(t)
=│Z│・sinφ
=Zim (11A)
このように、第12フィルタ部59による時間変動成分の削除により、電池5の複素インピーダンスの虚部が算出される。そして、統合部60は、上記の式(2A)に示すように、インピーダンスの実部と虚部とを統合することにより、複素インピーダンスを算出する。このように、
図3のインピーダンス算出部50の処理により、電池5の複素インピーダンスの実部および虚部が算出される。
[変形例]
(1)
図5の例では、第1フィルタ部101、第2フィルタ部102、および第5フィルタ部105については、集積回路122により構成される、つまり、デジタル処理(ソフトウェア処理)により実現される構成を説明した。しかしながら、第1フィルタ部101、第2フィルタ部102、および第5フィルタ部105により実行される処理は、アナログ回路120Aにより実現される構成が採用されてもよい。
図12は、該構成が採用された処理部30Aの構成例である。また、本変形例では、ADC109が、本開示の「第1サンプリング部」に対応する。ADC109のサンプリング周波数は、fs1である。
【0124】
アナログ回路120Aは、LPFである第7フィルタ部107と、BPFである第13フィルタ部153と、第1乗算部111と、生成部113と、LPFである第14フィルタ部154とを有する。
図13は、アナログ回路120Aにより生成される成分などを示す図である。
【0125】
図13に示すように、電圧信号Vに対して第13フィルタ部153により第13周波数成分の信号を抽出することにより、第1信号の成分201を抽出する。また、第13フィルタ部153の中心周波数fAは、(fs1)/2以上の周波数である。つまり、第1信号は、(fs1)/2以上の第1特定周波数の信号を含む。
図13(B)および
図13(C)は、
図6(B)と
図6(C)と同様である。
【0126】
また、ADC109によりサンプリングされた信号は、第5フィルタ部105に入力される。第5フィルタ部105は、該信号から(fs2)/2以上の信号を削除して出力する。
【0127】
なお、
図12の例では、電圧信号に対する処理を説明したが、電流信号についても同様の処理が実行されてもよい。
図12のような処理部30Aであっても、本実施の形態と同様の効果を奏する。
【0128】
(2) 上記の実施の形態においては、処理部30が出力した出力信号は、インピーダンスの算出、および劣化度の算出に用いられる構成が説明された。しかしながら、該出力信号は、他の用途に用いられてもよい。たとえば、処理部30の外部に判定装置が備えられてもよい。判定装置は、処理部30からの出力信号に基づいて、ノイズを検出するようにしてもよい。該ノイズは、たとえば、インバータ41で生じる高周波ノイズである。たとえば、インバータ41のノイズが発生している場合には、
図6の第2信号(成分203)の強度が大きくなる傾向にある。そこで、判定装置は、第2信号(成分203)の強度が、予め定められた閾値以上であれば、該ノイズが発生していると判断する。一方、判定装置は、第2信号(成分203)の強度が閾値未満であれば、該ノイズが発生していないと判断する。また、判定装置は、電流信号および電圧信号の少なくとも1つの第2信号の強度に基づいて、ノイズの有無を検出する。
【0129】
(3) インピーダンス算出部50の算出手法は、
図9に限らず他の手法であってもよい。たとえば、インピーダンス算出部50は、電圧信号を電流信号で除算することにより、インピーダンスを算出するようにしてもよい。
【0130】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0131】
1 車両、2 駆動輪、3 モータジェネレータ、5 電池、10 電流測定部、15 測定部、20 電圧測定部、30 処理部、41 インバータ、50 インピーダンス算出部、51 第9フィルタ部、52 第10フィルタ部、53 位相部、58 第11フィルタ部、59 第12フィルタ部、60 統合部、70 基準インピーダンス記憶部、80 劣化度算出部、114 通信部、101 第1フィルタ部、102 第2フィルタ部、103 第3フィルタ部、104 第4フィルタ部、105 第5フィルタ部、106 第6フィルタ部、107 第7フィルタ部、108 第8フィルタ部、111 第1乗算部、112 第2乗算部、113 生成部、120,120A アナログ回路、122 集積回路、153 第13フィルタ部、154 第14フィルタ部、181 プロセッサ、182 メモリ。